説明

ゴム組成物の製造方法

【課題】タイヤの発熱性を改良し、よって低燃費性を向上させることができるゴム組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】ジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対して、カーボンブラック25質量部以上と、カーボンブラックを基準として0.1質量%を超える割合の次式(1)で表されるジカルボン酸化合物とを配合して、混合する工程を含む製造方法を用いる。
HOOC−(CH−S−(CH−COOH … (1)
但し、式(1)において、nは1〜6の数を示し、mは0〜6の数を示し、xは0〜6の数を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに用いられるゴム組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の低燃費化の要求は近年ますます高まり、タイヤについても低燃費化が強く求められている。タイヤの転がり抵抗は、ゴム組成物の発熱性と関係することが知られている。そのため、ゴム組成物のヒステリシスロスを低減すること、すなわち、損失係数(tanδ)を低く抑えることにより、発熱性を抑え、タイヤの低燃費性を向上させるために、様々な検討がなされている。
【0003】
かかる要求に応えるため、スチレンブタジエンゴムなどのジエン系合成ゴムにおいて、ポリマー製造時に変性基を添加して、末端変性ポリマーを作成することが知られている。末端変性ジエン系ゴムは、未変性のジエン系ゴムと比べて、カーボンブラック等の補強性フィラーとの相性が良いことから、発熱を抑えて低燃費性を向上させることができる。しかしながら、この手法は、アニオン重合下でしか実施することができないため、より簡易な方法で低発熱性を向上することが求められている。
【0004】
本発明者は、ある種のジカルボン酸化合物がカーボンの解凝集に寄与し、カーボンブラックの分散性を向上させることにより低発熱性に寄与することを見出し、この知見に基づき本発明を完成した。
【0005】
これに関し、特許文献1には、ジエン系ゴムを含むタイヤにおいて、ポリスルフィドジカルボン酸をシリカ配合時のカップリング剤として使用することが記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、ジエン系ゴム組成物において、カルボン酸基含有ジスルフィドのアルキルアミン塩を加硫促進剤として使用することが記載されている。
【0007】
さらに、特許文献3には、ジエン系ゴムに、硫黄と共に、アミノ基、カルボキシル基等を有するジスルフィド化合物を配合し、カーボンブラックを配合せずに予備混合したのちに、カーボンブラックを配合して混合するゴム組成物の製造方法が記載されている。
【0008】
しかしいずれの文献にも、ジカルボン酸化合物をカーボンブラックの分散性向上に使用することについては記載されていない。また、引用文献3には、第1の混合工程でカーボンブラックを配合すると、ジスルフィドを介してジエン系ゴムとカーボンブラックが結合してしまい、加工性・分散性が低下する旨記載されている(段落[0024])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−17205号公報
【特許文献2】特許第4156022号公報
【特許文献3】特開2010−18715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、カーボンブラックの分散性を向上させることにより得られるタイヤの発熱性を改良し、よって低燃費性を向上させることができるゴム組成物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のゴム組成物の製造方法は、上記の課題を解決するために、ジエン系ゴムからなるゴム成分とカーボンブラックとを含有し、シリカの含有量が前記カーボンブラックを基準として5.0質量%未満であるゴム組成物の製造方法であって、ゴム成分100質量部に対して、カーボンブラック25質量部以上と、このカーボンブラックを基準として0.1質量%を超える割合の次式(1)で表されるジカルボン酸化合物とを配合して混合する工程を含むものとする。
【0012】
HOOC−(CH−S−(CH−COOH … (1)
但し、式(1)において、nは1〜6の数を示し、mは0〜6の数を示し、xは0〜6の数を示す。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、式(1)で表されるジカルボン酸がゴム組成物中におけるカーボンの解凝集を助け、分散性を向上させることによって、低燃費性の改善されたタイヤを製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0015】
本発明の製造方法においては、ゴム成分100質量部に対して、カーボンブラック25質量部以上を配合し、好ましくは30〜150質量部の範囲で配合する。カーボンブラックの配合量が25質量部未満では配合により期待される補強効果が得難く、一方、150質量部を超えると、加工性・破断伸びなどが悪化するおそれがある。
【0016】
本発明の製造方法においては、上記カーボンブラックの解凝集効果を得るために、次式(1)で表されるジカルボン酸化合物をカーボンブラックの配合工程と同一工程において配合して混合する。
【0017】
HOOC−(CH−S−(CH−COOH … (1)
但し、式(1)において、nは1〜6の数を示し、mは0〜6の数を示し、xは0〜6の数を示す。
【0018】
カーボンブラックと同一工程で配合され、混合されたジカルボン酸化合物は、カーボン凝集体の隙間に入り込むことによってカーボンの解凝集に寄与し、カーボンブラックの分散性が向上する結果として低発熱性が向上し、ひいてはタイヤの低燃費性が改善すると考えられる。
【0019】
上記式(1)で表されるジカルボン酸化合物の具体例としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、ジチオジプロピオン酸、チオジプロピオン酸等が挙げられる。これらジカルボン酸化合物は市販されているものを使用することができ、公知の方法で製造することもできる。
【0020】
ジカルボン酸化合物の配合量は、カーボンブラックを基準として0.1質量%より大きく、5.0質量%未満であるのが好ましく、2.0質量%以下であるのがより好ましい。0.1質量%未満では、所望のカーボンブラックの解凝集効果、すなわち低燃費化効果が得られ難い。一方、2.0質量%を超える場合、低燃費化効果は低下しないが、配合量の増加に比例した効果が得られ難くなり、コスト面で不利になるため、通常は2.0質量%以下で使用するのが好ましい。
【0021】
本発明に係るゴム組成物の製造方法においては、上記ジカルボン酸化合物をカーボンブラックと同一工程で配合する以外は、従来のタイヤ用ジエン系ゴム組成物の製造方法に準じた組成及び工程を採用することができる。
【0022】
本発明で使用可能なジエン系ゴムとしては、各種天然ゴム(NR)、各種ポリイソプレンゴム(IR)、各種スチレンブタジエンゴム(SBR)、各種ポリブタジエンゴム(BR)等が挙げられ、これらはいずれか一種を用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。好ましくは、天然ゴム及び/又はイソプレンゴムを用いる。
【0023】
本発明の製造法では、シリカは使用しないか、使用する場合はカーボンブラックに対して5.0質量%未満で使用する。5.0質量%以上配合すると、ジカルボン酸がシリカと反応してしまい、目的とするカーボンブラックの解凝集効果が得られ難くなるためである。シリカを使用する場合、その例としては、湿式シリカ(含水ケイ酸),乾式シリカ(無水ケイ酸),ケイ酸カルシウム,ケイ酸アルミニウム等が挙げられる。
【0024】
本発明に係るゴム組成物には、上記の各成分の他に、亜鉛華、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、加硫剤、加硫促進剤など、タイヤ用ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。上記加硫剤としては、硫黄、硫黄含有化合物等が挙げられ、特に限定するものではないが、その配合量は上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。また、加硫促進剤の配合量としては、上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。該ゴム組成物は、通常のバンバリーミキサーやニーダーなどのゴム用混練機を用いて、常法に従い混練することで調製される。
【0025】
以上の製造方法により得られるゴム組成物はタイヤのトレッドゴムやサイドウォールゴムとして用いることができ、このゴム組成物を、常法に従い、例えば140〜180℃で加硫成形することにより、タイヤを形成することができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0027】
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従い、まず、第一混合段階で、硫黄と加硫促進剤を除く成分を添加混合し、次いで、得られた混合物に、最終混合段階で硫黄と加硫促進剤を添加混合してタイヤ用ゴム組成物を調製した。表1中の各配合物の詳細は以下の通りである。
【0028】
・NR:天然ゴム(RSS#3)
・カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シースト3」
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華3号」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS20」
・硫黄:鶴見化学工業(株)製「5%油処理粉末硫黄」
・加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーNS−G」
・ジチオプロピオン酸:SC有機化学(株)製
・チオジプロピオン酸:SC有機化学(株)製
・アジピン酸:ナカライテスク(株)製
・ジチオジグリコール酸二アンモニウム:東京化成(株)製(45%水溶液)
【0029】
得られた各ゴム組成物について、150℃で30分間加硫した所定形状の試験片を用いて、MHと損失係数tanδとを測定した。各測定方法は以下の通りである。
【0030】
・MH:150℃で45分間加硫したときの最大トルクを、比較例1の値を100とした指数で示した。数値が大きいほど加硫度が高いことを意味する。
【0031】
・損失係数tanδ:JIS K6394に準拠し、東洋精機(株)製の粘弾性試験機を使用し、周波数10Hz,静歪10%, 動歪2%, 温度70℃で損失係数tanδを測定し、比較例1の値を100とした指数で示した。数値が小さいほど、低発熱性に優れることを示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表1に示された結果から分かるように、本発明に係る実施例1〜6により得られたゴム組成物は、加硫度が実質的に上昇することなく、低燃費性が顕著に向上しているのが認められた。これは配合したジカルボン酸化合物が、加硫促進剤としては作用せず、カーボンの分散性向上に寄与したことを示している。これに対し、ジカルボン酸化合物の配合量が少ない比較例2では低燃費化効果が実質的に得られなかった。また、ジチオジグリコール酸二アンモニウムを使用した比較例3では、ある程度の低燃費化効果が得られたが、加硫度が大きく上昇し、ジカルボン酸化合物がむしろ加硫促進剤として作用したことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の製造方法により得られる組成物は、乗用車、ライトトラック、トラック・バス等の各種タイヤに用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴムからなるゴム成分とカーボンブラックとを含有し、シリカの含有量が前記カーボンブラックを基準として5.0質量%未満であるゴム組成物の製造方法であって、
ゴム成分100質量部に対して、カーボンブラック25質量部以上と、このカーボンブラックを基準として0.1質量%を超える割合の次式(1)で表されるジカルボン酸化合物とを配合して混合する工程を含む
ことを特徴とするゴム組成物の製造方法。
HOOC−(CH−S−(CH−COOH … (1)
但し、式(1)において、nは1〜6の数を示し、mは0〜6の数を示し、xは0〜6の数を示す。

【公開番号】特開2012−153776(P2012−153776A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12915(P2011−12915)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】