説明

ゴム組成物及びそれを用いた空気入りタイヤ

【課題】氷雪路面上での引掻き効果を確実に発揮でき、スタッドレス効果を発揮しながら、過度なグリップを抑えてタイヤの燃費を向上させることができるゴム組成物及びこれを用いた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴムからなるゴム成分(A)に対して、無機充填剤(B)と、分子内に、窒素原子及びケイ素原子を含む環状構造と、一つ以上の硫黄原子とを有し、且つ立体障害の小さな基が一つ以上ケイ素原子に結合している部位を有する有機ケイ素化合物(C)と、金属酸化物、金属炭酸塩及び金属を含有する粘土鉱物よりなる群から選択される少なくとも一種の微粒子と親水性樹脂とからなる微粒子含有繊維(D)及び発泡剤(E)とを含有することを特徴とするゴム組成物及び上記ゴム組成物をタイヤトレッド部に用いた空気入りタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物及びそれを用いた空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、スタッドレス効果を発揮しながら、過度なグリップを抑えてタイヤの燃費を向上させることができる空気入りタイヤ用に好適なゴム組成物及びそれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
スパイクタイヤが規制されて以来、氷雪路面上でのタイヤの制動性や駆動性(氷上性能)を向上させるため、特に、タイヤのトレッド部について種々の検討がなされている。
例えば、タイヤのトレッドゴム中に中空繊維を配合することにより、氷雪路面上の水を該中空繊維の中空部分で排除し、タイヤの氷上性能を向上させることが行われている。しかしながら、この場合、トレッドゴム成形時における圧力、ゴム流れ、温度等により、中空繊維は中空形状を保つことができず、タイヤの氷上性能が充分に得られないという問題があった。
【0003】
この問題に対して、1)発泡剤含有繊維を含むゴム組成物をトレッド部に用いたタイヤにおいて、トレッド部にミクロな排水溝を形成することで、タイヤの排水性を向上させ、氷上性能を向上させる技術(例えば、特許文献1、2参照)、2)微粒子含有有機繊維を含むゴム組成物をトレッド部に用いたタイヤにおいて、有機繊維中に含まれる微粒子の含有量を増加させることにより、トレッドの水膜除去能に加えて、引掻き効果が向上し、氷上性能を更に向上できる技術(例えば、特許文献3参照)が知られている。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1〜3に記載の各技術では、タイヤの氷上性能を更に改良しようとすると、グリップが向上する分、耐摩耗性が悪くなり、また、過度なグリップが生じるゆえ、タイヤが前に運びにくくなるため、燃費性が悪くなるなどの課題があり、更なる改善が必要となっている。
また、氷上性能を向上させる他のアプローチとして、繊維に微粒子を含有させる方法が知られているが、微粒子の量を多くすると、氷上性能は高くなるものの、微粒子の含有量には限界がある。例えば、上記特許文献3に記載の微粒子含有有機繊維は、繊維の製造工程における樹脂を高温で引き伸ばす紡糸・延伸の段階で、樹脂中に混入する微粒子が繊維の切断を誘発することがあるため、該微粒子を増加させると、繊維の製造が著しく困難になるという課題がある。
【0005】
一方、空気入りタイヤに用いられる補強性充填材となる無機充填剤成分としては、カーボンブラック及びシリカが主に用いられ、氷上性能及び低燃費性の改良が可能な充填材としてシリカが用いられている。このシリカを用いる場合、充填剤としての補強性、ゴム成分中への分散性を確保するためには、通常、シランカップリング剤と併用されている。
しかしながら、氷上性能、耐摩耗性を向上させるためには補強性充填材を増量させることが考えられるが、単なる配合量の増加では、氷上性能の低下や作業性の低下を招くなどの課題があるのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−60770号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献2】特開2001−2832号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献3】特開2001−233993号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の課題等について、これを解消しようとするものであり、微粒子含有繊維、並びに、シリカ等の無機充填剤を含有するゴム組成物において、氷雪路面上での引掻き効果を確実に発揮でき、スタッドレス効果を発揮しながら、過度なグリップを抑えてタイヤの燃費を向上させることができるゴム組成物及びこれを用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記従来技術の課題等に鑑み、鋭意検討した結果、分子内に窒素原子(N)とケイ素原子(Si)を含む環状構造を有し、かつ、一つ以上の硫黄原子(S)を有し、かつ、立体障害の小さな基が一つ以上ケイ素原子(Si)に結合している部位を有する有機ケイ素化合物は、シリカ等の無機充填剤との反応速度が高いため、該有機ケイ素化合物を無機充填剤と共にゴム成分に配合することで、カップリング反応の効率が向上して、ゴム組成物のヒステリシスロスを大幅に低下させつつ、耐摩耗性を向上させられる上、特定の官能基を有する親水性樹脂に特定の微粒子を組み合わせ微粒子含有繊維を含有することにより、氷雪路面上での排水効果、引掻き効果を確実に発揮できる上記目的のゴム組成物及びこれを用いた空気入りタイヤが得られることを見出し、本発明を完成させるに至ったのである。
【0009】
すなわち、本発明は、次の(1)〜(15)に存する。
(1) 天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴムからなるゴム成分(A)に対して、無機充填剤(B)と、分子内に、窒素原子及びケイ素原子を含む環状構造と、一つ以上の硫黄原子とを有し、且つ立体障害の小さな基が一つ以上ケイ素原子に結合している部位を有する有機ケイ素化合物(C)と、金属酸化物、金属炭酸塩及び金属を含有する粘土鉱物よりなる群から選択される少なくとも一種の微粒子と親水性樹脂とからなる微粒子含有繊維(D)及び発泡剤(E)とを含有することを特徴とするゴム組成物。
(2) 有機ケイ素化合物(C)の立体障害の小さな基が、水素原子、メチル基及びヒドロキシル基からなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする上記(1)に記載の有機ケイ素化合物。
(3) 有機ケイ素化合物(C)が下記一般式(I)で表わされることを特徴とする上記(1)に記載のゴム組成物。
【化1】

〔式(I)中、Aは硫黄原子を含み且つゴム成分と反応する基であり、Wは−NR−、
−O−又は−CR−(ここで、Rは−R又は−C2m−Rであり、但し、Rは−NR、−NR−NR又は−N=NRであり、Rは−C2n+1で、Rは−C2q+1で、m、n及びqはそれぞれ独立して0〜10である)で表わされ、
及びRは、それぞれ独立して−M−C2l−(ここで、Mは−O−又は−CH−で、lは0〜10である)で表わされ、但し、R及びRの一つ以上は、Mが−O−であり、Rは水素原子、メチル基又はヒドロキシル基である。〕
(4) 前記一般式(I)中におけるAが、ポリサルファイド基、チオエステル基、チオール基、ジチオカーボネート基、ジチオアセタール基、ヘミチオアセタール基、ビニルチオ基、α−チオカルボニル基、β−チオカルボニル基、S−CO−CH−O部分、S−CO−CO部分、及びS−CH−Si部分からなる群から選択される少なくとも一種を含むことを特徴とする上記(3)に記載のゴム組成物。
(5) 前記一般式(I)中のAが、下記一般式(II)又は式(III)で表わされることを特徴とする上記(3)に記載のゴム組成物。
【化2】

〔式(II)中のW、R、R及びRは上記と同義であり、式(II)及び式(III)中のRは、下記一般式(IV)又は式(V):
【化3】

(式中、M、l及びmは上記と同義であり、X及びYはそれぞれ独立して−O−、−NR−又は−CH−で、R10は−OR、−NR又は−Rで、R11は−NR−、−N
−NR−又は−N=N−であり、但し、R及びRは上記と同義である)或いは−M−C2l−(ここで、M及びlは上記と同義である)で表わされ、
式(III)中のRは下記一般式(VI)又は式(VII):
【化4】

(式中、M、X、Y、R10、R、l及びmは上記と同義である)或いは−C2l−R12(ここで、R12は−NR、−NR−NR、−N=NR又は−M−C2m+1或いは炭素数6〜20の芳香族炭化水素基であり、但し、R、R、M、l及びmは上記と同義である)で表わされ、式(II)及び式(III)中のxは1〜10である。〕
(6) 前記微粒子含有繊維(D)の親水性樹脂が、カルボキシル基、水酸基、エステル基、エーテル基及びカルボニル基よりなる群から選択される少なくとも一種の官能基を含む樹脂であること特徴とする上記(1)に記載のゴム組成物。
(7) 前記微粒子含有繊維(D)の金属酸化物が、酸化チタン、酸化アルミニウム、セラミックス及びゼオライト(アルミノケイ酸塩)から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする上記(1)又は(6)に記載のゴム組成物。
(8) 前記微粒子含有繊維(D)の金属炭酸塩が炭酸カルシウムであることを特徴とする上記(1)に記載のゴム組成物。
(9) 前記微粒子含有繊維(D)の金属を含有する粘土鉱物がモンモリロナイトであることを特徴とする上記(1)に記載のゴム組成物。
(10) 前記微粒子含有繊維(D)は、平均径が1〜100μmであり、平均長さが0.1〜20mmであることを特徴とする上記(1)に記載のゴム組成物。
(11) 前記微粒子含有繊維(D)が、親水性樹脂100質量部に対し、微粒子を0.5〜200質量部含有することを特徴とする上記(1)に記載のゴム組成物。
(12) 前記無機充填剤(B)がシリカ又は水酸化アルミニウムであることを特徴とする上記(1)に記載のゴム組成物。
(13) 前記シリカのBET表面積が40〜350m/gであることを特徴とする上記(12)に記載のゴム組成物。
(14) ゴム成分(A)100質量部に対して、前記無機充填剤(B)5〜140質量部、前記有機ケイ素化合物(C)を、前記無機充填剤(B)の含有量の1〜20質量%含み、前記微粒子含有繊維(D)が0.5〜30質量部であることを特徴とする上記(1)〜(12)の何れか一つに記載のゴム組成物。
(15) 上記(1)〜(14)の何れか一つに記載のゴム組成物をタイヤトレッド部に用いたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、氷雪路面上での排水効果、引掻き効果を確実に発揮でき、スタッドレス効果を発揮しながら、過度なグリップを抑えてタイヤの燃費を向上させることができるゴム組成物及びこれを用いた空気入りタイヤが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のゴム組成物により得られる加硫ゴムの一例を示す断面図である。
【図2】本発明の空気入りタイヤの一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態を発明ごとに詳しく説明する。
本発明のゴム組成物は、天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴムからなるゴム成分(A)に対して、無機充填剤(B)と、分子内に、窒素原子及びケイ素原子を含む環状構造と、一つ以上の硫黄原子とを有し、且つ立体障害の小さな基が一つ以上ケイ素原子に結合している部位を有する有機ケイ素化合物(C)と、金属酸化物、金属炭酸塩及び金属を含有する粘土鉱物よりなる群から選択される少なくとも一種の微粒子と親水性樹脂とからなる微粒子含有繊維(D)及び発泡剤(E)とを含有することを特徴とするものである。
【0013】
本発明のゴム組成物に用いるゴム成分(A)は、天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴムからなる。ここで、ジエン系合成ゴムとしては、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン-プロピレン共重合体等が挙げられる。なお、該ゴム成分(A)は、有機ケイ素化合物(C)と反応するために、分子内に炭素−炭素二重結合を有することが好ましい。これらのゴム成分(A)は、一種単独で用いても、二種以上をブレンドして用いてもよい。
【0014】
本発明のゴム組成物に用いる無機充填剤(B)としては、シリカ、水酸化アルミニウム、アルミナ、クレー、炭酸カルシウム等が挙げられ、これらの中でも、補強性の観点から、シリカ及び水酸化アルミニウムが好ましく、シリカが特に好ましい。
用いる無機充填剤(B)がシリカの場合は、後述する有機ケイ素化合物(C)は、シリカ表面のシラノール基との親和力の高い官能基及び/又はケイ素原子(Si)との親和性が高い官能基を有するため、カップリング効率が大幅に向上して、ゴム組成物のヒステリシスロスを低下させ、耐摩耗性を向上させる効果が一層顕著になる。なお、用いることができるシリカとしては、特に制限はなく、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)等を使用することができ、一方、水酸化アルミニウムとしては、ハイジライト(登録商標、昭和電工製)を用いることが好ましい。
【0015】
用いることができるシリカは、BET表面積が40〜350m/gであることが好ましい。シリカのBET表面積が40m/g未満の場合、該シリカの粒子径が大きすぎるために耐摩耗性が大きく低下してしまい、また、シリカのBET表面積が350m/gを越える場合、該シリカの粒子径が小さすぎるためにヒステリシスロスが大きく増加してしまうこととなる。
【0016】
これらの無機充填剤(B)の含有量は、上記ゴム成分(A)100質量部に対して5〜140質量部の範囲とすることが望ましい。
無機充填剤(B)の含有量が上記ゴム成分(A)100質量部に対して5質量部未満では、ヒステリシスを低下させる効果が不十分であり、一方、140質量部を超えると、作業性が著しく悪化するためである。
【0017】
<有機ケイ素化合物>
本発明のゴム組成物に用いる有機ケイ素化合物(C)は、分子内に、窒素原子(N)及びケイ素原子(Si)を含む環状構造と、一つ以上の硫黄原子(S)とを有し、且つ立体障害の小さな基が一つ以上ケイ素原子(Si)に結合している部位を有することを特徴とする。
用いる有機ケイ素化合物(C)は、窒素原子(N)とケイ素原子(Si)とを含む環状構造を有し、該環状構造は、ケイ素−酸素結合(Si−O)を含む場合であっても、安定である。そのため、ケイ素−酸素結合(Si−O)が加水分解してアルコール成分が発生することがなく、使用中の揮発性有機化合物(VOC)ガスを低減できる。
【0018】
また、用いる有機ケイ素化合物(C)は、シリカ等の無機充填剤の表面との親和性が高いアミノ基、イミノ基、置換アミノ基、置換イミノ基等の含窒素官能基を含むため、窒素原子の非共有電子対が、有機ケイ素化合物と無機充填剤の反応に関与でき、カップリング反応の速度が速く、シランカップリング剤として機能する。但し、窒素原子(N)とケイ素原子(Si)とを含む環状構造が二環性の構造の場合、ケイ素原子(Si)周辺の立体障害が大きいため、無機充填剤との反応性が低く、カップリング効率が大幅に低下してしまう。これに対して、本発明に用いる有機ケイ素化合物(C)は、立体障害の小さな基が一つ以上ケイ素原子に結合している部位を有するため、シリカ等の無機充填剤との反応性が高い。そのため、従来のシランカップリング剤に代えて、本発明に用いる有機ケイ素化合物(C)を無機充填剤(B)配合ゴム組成物に添加することで、カップリング効率が向上し、その結果として、ゴム組成物のヒステリシスロスを大幅に低下させつつ、耐摩耗性を大幅に向上させることが可能となる。また、本発明に用いる有機ケイ素化合物(C)は、添加効率が高いため、少量でも高い効果が得られ、配合コストの低減にも寄与する。
【0019】
用いる有機ケイ素化合物(C)において、立体障害の小さな基としては、水素原子(−H)、メチル基(−CH3)及びヒドロキシル基(−OH)が好ましい。水素原子、メチル基又はヒドロキシル基がケイ素原子(Si)に結合している場合、有機ケイ素化合物と無機充填剤との反応性が特に高く、カップリング効率を大幅に向上させることができる。また、本発明の有機ケイ素化合物は、ケイ素−酸素結合(Si−O)を1〜6個有することが好ましい。有機ケイ素化合物がケイ素−酸素結合(Si−O)を1〜6個有する場合、シリカ等の無機充填剤との反応性が高く、カップリング効率が更に向上する。
【0020】
用いる有機ケイ素化合物(C)として、より具体的には、下記一般式(I)で表わされる化合物が好ましい。該有機ケイ素化合物は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【化5】

【0021】
<式(I)の化合物>
上記一般式(I)において、Aは、硫黄原子(S)を含み且つゴム成分と反応する基である。上記式 (I)で表わされる有機ケイ素化合物は、環状構造部分がシリカ等の無機充填剤と反応するため、分子内に更にゴム成分と反応する基を有することで、ゴム成分と無機充填剤とのカップリング能力を有することとなる。ここで、硫黄原子(S)を含み且つゴム成分と反応する基は、ポリサルファイド基、チオエステル基、チオール基、ジチオカーボネート基、ジチオアセタール基、ヘミチオアセタール基、ビニルチオ基、α−チオカルボニル基、β−チオカルボニル基、S−CO−CH2−O部分、S−CO−CO部分(チオジケトン基)、及びS−CH2−Si部分からなる群から選択される少なくとも一種を含むことが好ましく、ポリサルファイド基及びチオエステル基の少なくとも一方を含むことが特に好ましい。
【0022】
上記一般式(I)において、Wは、−NR4−、−O−又は−CR45−で表わされ、ここで、R5は−R6又は−Cm2m−R7であり、但し、R7は−NR46、−NR4−NR46又は−N=NR4であり、R4は−Cn2n+1で、R6は−Cq2q+1で、m、n及びqはそれぞれ独立して0〜10である。なお、−Cm2m−は、mが0〜10であるため、単結合又は炭素数1〜10のアルキレン基である。ここで、炭素数1〜10のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基等が挙げられ、該アルキレン基は、直鎖状でも分岐状でもよい。また、−Cn2n+1及び−Cq2q+1は、n及びqが0〜10であるため、水素又は炭素数1〜10のアルキル基である。ここで、炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基等が挙げられ、該アルキル基は、直鎖状でも、分岐状でもよい。
【0023】
上記一般式(I)において、R1及びR2はそれぞれ独立して−M−Cl2l−で表わされ、ここで、Mは−O−又は−CH2−であり、lは0〜10である。但し、R1及びR2の一つ以上は、Mが−O−である。なお、−Cl2l−は、lが0〜10であるため、単結合又は炭素数1〜10のアルキレン基であり、ここで、炭素数1〜10のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基等が挙げられ、該アルキレン基は、直鎖状でも分岐状でもよい。
【0024】
上記一般式(I)において、R3は、水素原子、メチル基又はヒドロキシル基である。該R3は、立体障害が小さいため、ゴム成分と無機充填剤とのカップリング反応の向上に大きく寄与する。
【0025】
上記一般式(I)中のAは、下記一般式(II)又は式(III)で表わされことが好ましい。
【化6】

ここで、式(II)中のW、R1、R2及びR3は上記と同義であり、式(II)及び式(III)中のR8は、下記一般式(IV)又は式(V)或いは−M−Cl2l−で表わされ、式(III)中のR9は、下記一般式(VI)又は式(VII)或いは−Cl2l−R12で表わされ、式(II)及び式(III)中のxは1〜10であり、好ましくは2〜4である。ここで、Mは−O−又は−CH2−であり、lは0〜10である。なお、−Cl2l−については、上述のとおりである。
【化7】

【化8】

【0026】
上記式(IV)及び(V)において、Mは−O−又は−CH2−であり、l及びmは0〜10である。また、上記式(IV)において、X及びYはそれぞれ独立して−O−、−NR4−又は−CH2−であり、R10は−OR4、−NR46又は−R4であり、ここで、R4は−Cn2n+1で、R6は−Cq2q+1である。更に、上記式(V)において、R11は、−NR4−、−NR4−NR4−又は−N=N−であり、ここで、R4は−Cn2n+1である。なお、−Cn2n+1及び−Cq2q+1については、上述のとおりである。
【0027】
また、上記式(III)中のR9は、上記一般式(VI)又は式(VII)、或いは−Cl2l−R12で表わされ、特には−Cl2l+1で表わされることが好ましく、但し、M、X、Y、R10、R7、l及びmは上記と同義である。ここで、R12は、−NR46、−NR4−NR46、−N=NR4又は−M−Cm2m+1或いは炭素数6〜20の芳香族炭化水素基であり、但し、R4、R6、M、l及びmは上記と同義である。なお、−Cl2l−については、上述のとおりであり、また、−Cm2m+1は、mが0〜10であるため、水素又は炭素数1〜10のアルキル基であり、ここで、炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基等が挙げられ、該アルキル基は、直鎖状でも、分岐状でもよい。また、炭素数6〜20の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、クメニル基、ナフチレン基、トリレン基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基が挙げられる。
【0028】
上記式(I)の化合物において、Mは−O−(酸素)であることが好ましい。この場合、Mが−CH2−である化合物と比べてシリカ等の無機充填剤との反応性が高い。
【0029】
また、上記Wが−NR4−で表わされる場合、上記R1及びR2はそれぞれ独立して−O−Cl2l−で表わされることが好ましく、上記R3は水素原子、メチル基又はヒドロキシル基であり、上記R8は−Cl2l−で表わされることが好ましく、上記R9は−Cl2l+1で表わされる直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又は炭素数6〜20の芳香族炭化水素基であることが好ましい。
【0030】
一方、上記Wが−O−又は−CR46−で表わされる場合、上記R1及びR2はそれぞれ独立して−O−Cl2l−で表わされることが好ましく、上記R3は水素原子、メチル基又はヒドロキシル基であり、上記R8は−Cl2l−で表わされることが好ましく、上記R9は−Cl2l+1で表わされることが好ましい。
【0031】
<有機ケイ素化合物(C)の合成方法>
用いる有機ケイ素化合物(C)は、例えば、(Cl2l+1O)23Si−A[式中、l、R3及びAは上記と同義である]で表わされる化合物に対し、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン等のアミン化合物を加え、更に触媒としてp-トルエンスルホン酸、塩酸等の酸や、チタンテトラn-ブトキシド等チタンアルコキシドを添加し、加熱して、2つのCl2l+1O−を−R1−W−R2−で表わされる二価の基で置換することで合成することができる。
【0032】
<有機ケイ素化合物(C)の具体例>
本発明に用いる有機ケイ素化合物(C)として、具体的には、3-オクタノイルチオ-プロピル(メチル)1,3-ジオキサ-6-メチルアザ-2-シラシクロオクタン、ビス(3-(メチル)1,3-ジオキサ-6-メチルアザ-2-シラシクロオクチル-プロピル)ジスルフィド、3-オクタノイルチオ-プロピル(ヒドロキシ)1,3-ジオキサ-6-メチルアザ-2-シラシクロオクタン、ビス(3-(ヒドロキシ)1,3-ジオキサ-6-メチルアザ-2-シラシクロオクチル-プロピル)ジスルフィド、3-オクタノイルチオ-プロピル(ヒドロ)1,3-ジオキサ-6-メチルアザ-2-シラシクロオクタン、ビス(3-(ヒドロ)1,3-ジオキサ-6-メチルアザ-2-シラシクロオクチル-プロピル)ジスルフィド、3-オクタノイルチオ-プロピル(メチル)1,3-ジオキサ-6-ブチルアザ-2-シラシクロオクタン、ビス(3-(メチル)1,3-ジオキサ-6-ブチルアザ-2-シラシクロオクチル-プロピル)ジスルフィド等が挙げられる。
本発明のゴム組成物は、天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴムからなるゴム成分(A)に対して、無機充填剤(B)と上述の有機ケイ素化合物(C)、微粒子含有繊維(D)及び発泡剤(D)とを含有してなることを特徴とし、好ましくは、天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴムからなるゴム成分(A)100質量部に対して、無機充填剤(B)5〜140質量部を含有し、更に、上述の有機ケイ素化合物(C)を、前記無機充填剤(B)の含有の1〜20質量%とすることが望ましい。
【0033】
ここで、有機ケイ素化合物(C)の含有量が無機充填剤(B)の含有量の1質量%未満では、ゴム組成物のヒステリシスロスを低下させる効果、並びに耐摩耗性を向上させる効果が不十分であり、一方、20質量%を超えると、効果が飽和してしまうこととなる。
【0034】
本発明のゴム組成物に用いる微粒子含有繊維(D)は、金属酸化物、金属炭酸塩及び金属を含有する粘土鉱物よりなる群から選択される少なくとも一種の微粒子と、親水性樹脂とから構成されるものである。
本発明のゴム組成物に微粒子含有繊維(D)を含有することにより、長尺状気泡を親水性の樹脂で被覆することができる。なお、ゴム組成物中に繊維を含有することにより、ミクロな排水溝として機能する長尺状気泡が形成されるのであり、樹脂を直接含有するだけでは、形成されないものである。
【0035】
上記微粒子含有繊維(D)を構成する親水性樹脂は、例えば、カルボキシル基、水酸基、エステル基、エーテル基、カルボニル基等の官能基を含む樹脂が挙げられる。
用いることができる親水性樹脂としては、例えば、アイオノマー樹脂(官能基:カルボキシル基)などを挙げることができる。上記親水性樹脂としては、水酸基又はカルボキシル基を含む樹脂が特に好ましい。
【0036】
上記微粒子含有繊維(D)を構成する親水性樹脂は、融点又は軟化点が、ゴム組成物の加硫時における該ゴム組成物が達する最高温度、具体的には、加硫最高温度未満であることが好ましい。
後述する発泡剤(E)を含有するゴム組成物中に微粒子含有繊維(D)が含有されている場合、該微粒子含有繊維(D)を構成する親水性樹脂は加硫中に溶融又は軟化し、一方、ゴムマトリクス中で加硫中に発泡剤(E)から発生したガスは、加硫反応が進行したゴムマトリクスに比べ、繊維を構成していた溶融又は軟化した親水性樹脂の内部に留まる傾向がある。ここで、上記親水性樹脂の融点又は軟化点が加硫最高温度未満であれば、ゴム組成物の加硫時に該樹脂が速やかに溶融又は軟化し、長尺状気泡を効率的に形成することができる。一方、上記親水性樹脂の融点又は軟化点が加硫最高温度に近くなり過ぎると、加硫初期に速やかに親水性樹脂が溶融(軟化を含む)せず、加硫終期に親水性樹脂が溶融する。加硫終期では、発泡剤(E)から発生したガスが加硫したゴムマトリクス中に分散乃至取り込まれてしまっており、溶融した樹脂内には十分な量のガスが保持されないこととなる。
【0037】
上記親水性樹脂の融点又は軟化点の上限は、以上の点を考慮して選択するのが好ましく、一般的には、ゴム組成物の加硫最高温度よりも、10℃以上低いことが好ましく、20℃以上低いことが更に好ましい。ゴム組成物の工業的な加硫温度は、一般的には最高で約190℃程度であるが、例えば、加硫最高温度が190℃に設定されている場合には、親水性樹脂の融点又は軟化点としては、通常190℃以下の範囲で選択され、180℃以下が好ましく、170℃以下が更に好ましい。
【0038】
上記微粒子含有繊維(D)を構成する微粒子は、親水性樹脂と接着作用を示す。上記微粒子としては、例えば、酸化チタン(チタニア)、酸化アルミニウム(アルミナ)等の金属酸化物の微粒子、炭酸カルシウム等の金属炭酸塩の微粒子、モンモリロナイト等の粘土鉱物の微粒子等が挙げられ、これらの中でも、金属イオンが存在する理由から粘土鉱物の微粒子が特に好ましい。これら微粒子は、一種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。なお、上記金属酸化物をセラミックス又はゼオライト(アルミノケイ酸塩)として用いてもよい。
【0039】
本発明において、上記微粒子含有繊維(D)を構成する微粒子は、製造容易性の観点から、その粒径が0.1〜500μmであることが望ましい。該粒径が0.1μm未満では、氷雪路面上での引掻き効果が十分に得られず、一方、500μmを超えると、繊維製造時(溶融紡糸時)に糸が切断するため、細径化が困難となる。
【0040】
用いる微粒子含有繊維(D)において、親水性樹脂100質量部に対し、微粒子を0.5〜200質量部、更に好ましくは、1〜100質量部含有することが望ましい。該微粒子の含有量が0.5質量部未満では、氷雪路面上での引掻き効果が十分に得られず、一方、200質量部を超えると、紡糸操業性に劣り糸切れが生じるおそれがある。
【0041】
本発明のゴム組成物において、上記微粒子含有繊維(D)の含有量は、ゴム成分100質量部に対し、0.5〜30質量部であることが好ましい。該微粒子含有繊維の含有量が0.5質量部未満では、加硫ゴムに占める長尺状の空隙の体積比率が小さいため、氷上性能を十分に得られないおそれがあり、一方、30質量部を超えると、ゴム組成物中での微粒子含有繊維の分散性が低下し、ゴム組成物の加工性が低下するおそれがある。
【0042】
用いる微粒子含有繊維(D)は、平均径が1〜100μmであることが好ましく、10〜100μmであることが更に好ましい。この場合、繊維を構成していた親水性樹脂で覆われる長尺状気泡がミクロな排水溝として効率的に機能することができる。また、微粒子含有繊維の平均径が1μm未満では、親水性樹脂と微粒子から紡糸することができないおそれがあり、一方、100μmを超えると、微粒子含有繊維の重量が増加し、ゴム組成物中の配合部数が高くなり過ぎるおそれがある。
【0043】
また、用いる微粒子含有繊維は、平均長さが0.1〜20mmであることが好ましく、0.5〜20mmであることが更に好ましく、1〜10mmであることが一層好ましい。この場合、繊維を構成していた親水性樹脂で覆われる長尺状気泡がミクロな排水溝として効率的に機能することができる。また、微粒子含有繊維の平均長さが0.1mm未満では、長尺状気泡が形成され難い。一方、微粒子含有繊維の平均長さが20mmを超えると、繊維の硬度が高くなり過ぎ、十分に混練りすることができず、また、トレッドのサイプが通常20mm程度であり、繊維の平均長さが20mmを超えても、氷上性能の効果が得難い。
【0044】
用いる微粒子含有繊維(D)は、常法により製造することができ、該繊維の製造方法としては、溶融紡糸法、ゲル紡糸法、溶液紡糸法等が挙げられる。例えば、溶融紡糸法では、押出機中で原料樹脂を加熱・溶融した後、微粒子を分散させ、次いで紡糸ノズルより押し出された繊維の束を紡糸筒内で引き伸ばしつつ空気流により冷却して固化させ、その後、油剤を付与して1本にまとめ、巻き取ることにより、微粒子含有繊維を製造することができる。一方、溶液紡糸法では、原料樹脂を溶解したポリマー溶液に微粒子を分散させ、これを紡糸ノズルより押し出し、脱溶媒等を行うことにより繊維化し、繊維を製造することができる。
【0045】
本発明のゴム組成物に用いる発泡剤(E)としては、例えば、アゾジカルボンアミド(ADCA)、ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)、ジニトロソペンタスチレンテトラミンやベンゼンスルホニルヒドラジド誘導体、p,p'-オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、二酸化炭素を発生する重炭酸アンモニウム、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、窒素を発生するニトロソスルホニルアゾ化合物、N,N'-ジメチル-N,N'-ジニトロソフタルアミド、トルエンスルホニルヒドラジド、p-トルエンスルホニルセミカルバジド、p,p'-オキシビスベンゼンスルホニルセミカルバジド等が挙げられる。これら発泡剤の中でも、製造加工性の観点から、アゾジカルボンアミド(ADCA)、ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)が好ましく、特にアゾジカルボンアミド(ADCA)が好ましい。これら発泡剤は、一種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。また、該発泡剤の配合量は、特に限定されるものではないが、ゴム成分100質量部に対して、0.1〜10質量部の範囲が好ましい。
【0046】
また、上記発泡剤(E)には、発泡助剤として尿素、ステアリン酸亜鉛、ベンゼンスルフィン酸亜鉛や亜鉛華等を併用することが好ましい。これらは、一種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。発泡助剤を適宜量併用することにより、発泡反応を促進して反応の完結度を高め、経時的に不要な劣化を抑制することができる。
【0047】
本発明のゴム組成物は、上記ゴム成分(A)に、無機充填剤(B)、有機ケイ素化合物(C)、微粒子含有繊維(D)、発泡剤(E)、必要に応じて発泡助剤と共に、ゴム工業界で通常使用される配合剤、例えば、カーボンブラック等の充填剤、軟化剤、ステアリン酸、老化防止剤、亜鉛華、加硫促進剤、加硫剤等を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して含有して、混練り、熱入れ、押出等することにより製造することができる。
【0048】
次に、図面を参照しながら本発明のゴム組成物により得られる加硫ゴムを説明する。図1は、本発明のゴム組成物により得られる加硫ゴムの一例を示す断面図である。この加硫ゴムは、上記のゴム組成物を加硫することにより得られるが、図1に示すとおり、加硫ゴム1は、長尺状気泡2を有し、該長尺状気泡2が被膜3で囲まれており、該長尺状気泡2を囲む被膜3が上記微粒子含有繊維を構成していた親水性樹脂3aと微粒子3bからなるものである。ここで、被膜3を構成する微粒子3bにより氷雪路面上での引掻き効果を高めつつ、親水性樹脂3aにより氷雪路面上の水を効率的に集め、ミクロな排水溝として作用する長尺状気泡2により排水することにより、タイヤの氷上性能を大幅に向上させることができる。
【0049】
図1に示す長尺状気泡2は、一定方向に配向しているが、この長尺状気泡の配向を揃える手法としては、未加硫ゴム組成物中に分散している微粒子含有繊維を一定方向に配列させればよく、例えば、流路断面積が出口に向かって低減する押出機を用いて、微粒子含有繊維(D)を含むゴム組成物を押し出す方法が挙げられる。
【0050】
本発明(実施例を含む)において、ゴム組成物により得られる加硫ゴムの発泡率(Vs)は、3〜50%が好ましく、3〜40%が更に好ましく、特に好ましくは、5〜35%が一層望ましい。
この発泡率が3%未満では、氷雪路面上の水を除去することができる長尺状気泡の体積が小さ過ぎ、排水性能が低下するおそれがあり、一方、50%を超えると、長尺状気泡の数が多過ぎ、タイヤの耐久性が低下する。なお、上記発泡率(Vs)は、長尺状気泡と、微粒子含有繊維を構成していた親水性樹脂の内部に留まらずに形成された気泡との合計の発泡率である。
【0051】
上記発泡率(Vs)(%)は、下記式:
Vs =(ρ0/ρ1−1)×100
[式中、ρは加硫ゴムの密度(g/cm)、ρは加硫ゴムにおける固相部の密度(g/cm)である]により算出できる。
【0052】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物をタイヤトレッド部に用いたことを特徴とするものである。本発明の空気入りタイヤを図面を参照しながら更に詳細に説明する。
図2は、本発明の空気入りタイヤの一例の断面図である。図2に示す空気入りタイヤは、左右一対のビード部4及び一対のサイドウォール部5と、両サイドウォール部5に連なるタイヤトレッド部6とを有し、前記一対のビード部4間にトロイド状に延在して、これら各部4,5,6を補強するカーカス7と、該カーカス7のクラウン部のタイヤ半径方向外側に配置されたベルト8とを備える。
【0053】
ここで、本発明の空気入りタイヤは、タイヤ部材となるタイヤトレッド部6に上述したゴム組成物(加硫ゴム)を適用することを特徴とする。
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物より得た加硫ゴムをトレッド部に備えることで、少なくとも接地部分に長尺状気泡が形成されており、優れた氷上性能を発揮することができ、しかも、分子内に窒素原子(N)とケイ素原子(Si)を含む環状構造を有し、かつ、一つ以上の硫黄原子(S)を有し、かつ、立体障害の小さな基が一つ以上ケイ素原子(Si)に結合している部位を有する有機ケイ素化合物(C)を含有するので、含有するシリカ等の無機充填剤(B)との反応速度が高いため、該有機ケイ素化合物(C)を無機充填剤(B)と共にゴム成分に含有することで、カップリング反応の効率が向上して、ゴム組成物のヒステリシスロスを大幅に低下させつつ、耐摩耗性を向上させられる上、微粒子含有繊維(D)を含有することにより微粒子により氷雪路面上での引掻き効果を高めつつ、親水性樹脂により氷雪路面上の水を効率的に集め、ミクロな排水溝として作用する長尺状気泡により排水することにより、タイヤの氷上性能を大幅に向上させることができるのでスタッドレス効果を発揮しながら、過度なグリップを抑えてタイヤの燃費を向上させることができ、低グリップによる摩耗ライフも向上するものとなる。
【0054】
図2に示す空気入りタイヤのカーカス7は、一枚のカーカスプライから構成されており、また、上記ビード部4内に夫々埋設した一対のビードコア9間にトロイド状に延在する本体部と、各ビードコア9の周りでタイヤ幅方向の内側から外側に向けて半径方向外方に巻上げた折り返し部とからなるが、本発明の空気入りタイヤにおいて、カーカス7のプライ数及び構造は、これに限られるものではない。
また、図2に示す空気入りタイヤのベルト8は、二枚のベルト層から構成されており、各ベルト層は、通常、タイヤ赤道面に対して傾斜して延びるコードのゴム引き層、好ましくは、スチールコードのゴム引き層からなり、更に、二枚のベルト層が、該ベルト層を構成するコードが互いにタイヤ赤道面を挟んで交差するように積層されてベルト8を構成している。なお、図中のベルト8は、二枚のベルト層からなるが、本発明の空気入りタイヤにおいて、ベルト8を構成するベルト層の枚数は、これに限られるものではない。
【0055】
また、本発明の空気入りタイヤにおいては、上記ゴム組成物を用いて未加硫トレッドゴムを形成し、常法に従って、該未加硫トレッドゴムをトレッド部に備える生タイヤを形成し、該生タイヤを加硫することで、微粒子含有繊維を構成していた親水性樹脂で覆われた長尺状気泡をトレッド部に形成させることができる。
【0056】
更に、本発明の空気入りタイヤは、排水性を向上させる観点から、上記長尺状気泡がタイヤ周方向に配向されていることが好ましい。この場合、上述の方法により得た、繊維が一定方向に配列しているゴム組成物を用いて未加硫トレッドゴムを形成し、ゴム組成物中の繊維の配向方向がタイヤ周方向と一致するように該未加硫トレッドゴムを配設すればよい。なお、本発明の空気入りタイヤにおいて、タイヤ内に充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を変えた空気、又は窒素等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0057】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0058】
用いる有機ケイ素化合物(C)、微粒子含有繊維(D)は、下記各製造法により得たものを使用した。
<有機ケイ素化合物(C)の製造例1>
500mLの4ツ口フラスコに、3−オクタノイルチオ−プロピルジエトキシメチルシラン60g、N−メチルジエタノールアミン20g(1.02eq)、チタンテトラ−n−ブトキシド0.8g、トルエン220mLを計量する。メカニカルスターラーで攪拌しながら、乾燥窒素を流しつつ(0.2L/min)フラスコをオイルバスで過熱し、ジムロートコンデンサーを取り付け、11時間還流を行った。その後、20hPa/40℃にてロータリーエバポレーターにより溶媒を除去、続いて、ロータリーポンプ(10Pa)とコールドトラップ(ドライアイス+エタノール)にて残存する揮発分を除去し、70gの黄色透明の液体[有機ケイ素化合物(C−1)]を得た。ガスクロマトグラフィー(GC)による分析結果で得られた液体は10%の原料と90%の目的物からなることを確認した。また、得られた液体をH−NMRで分析したところ、H−NMR(CDCl,700MHz,δ;ppm)=3.8(m;4H),2.8(t;2H),2.5(m;6H),2.4(m;3H),1.6(m;4H),1.3(m;8H),0.8(t;3H),0.7(t;2H),0.1(s;3H)であり、式(I)で表わされ、Aが式(III)であり、Wが−N(CH)−で、Rが−O−CHCH−で(但し、O側がSiに連結)、Rが−O−CHCH−で(但し、O側がSiに連結)、Rが−CHで、Rが−CHCHCH−で、Rが−C15であり、xが1である化合物[即ち、3−オクタノイルチオ−プロピル(メチル)1,3−ジオキサ−6−メチルアザ−2−シラシクロオクタン]であることが分かった。
【0059】
<有機ケイ素化合物(C)の製造例2>
500mLの4ツ口フラスコに、ビス(3−ジエトキシメチルシリルプロピル)ジスルフィド40g、N−メチルジエタノールアミン20g(1.02eq)、チタンテトラ−n−ブトキシド0.8g、トルエン220mLを計量する。メカニカルスターラーで攪拌しながら、乾燥窒素を流しつつ(0.2L/min)フラスコをオイルバスで過熱し、ジムロートコンデンサーを取り付け、11時間還流を行った。その後、20hPa/40℃にてロータリーエバポレーターにより溶媒を除去、続いて、ロータリーポンプ(10Pa)とコールドトラップ(ドライアイス+エタノール)にて残存する揮発分を除去し、50gの黄色透明の液体[有機ケイ素化合物(C−2)]を得た。ガスクロマトグラフィー(GC)による分析結果で得られた液体は10%の原料と90%の目的物からなることを確認した。また、得られた液体をH−NMRで分析したところ、H−NMR(CDCl,700MHz,δ;ppm)=3.8(m;8H),2.7(t;4H),2.5(m;8H),2.4(m;6H),1.8(m;4H),0.7(t;4H),0.1(s;6H)であり、式(I)で表わされ、Aが式(II)であり、Wが−N(CH)−で、Rが−O−CHCH−で(但し、O側がSiに連結)、Rが−O−CHCH−で(但し、O側がSiに連結)、Rが−CHで、Rが−CHCHCH−で、xが2である化合物[即ち、ビス(3−(メチル)1,3−ジオキサ−6−メチルアザ−2−シラシクロオクチル−プロピル)ジスルフィド]であることが分かった。
【0060】
<微粒子含有繊維(D)の製造例、繊維A〜F>
下記表1に示す配合処方の親水性樹脂及び微粒子を用い、通常の溶融紡糸法に従って微粒子含有繊維を製造した。なお、該繊維の平均径及び平均長さを下記の方法で測定した。これらの結果を下記表1に示す。
【0061】
(1)平均径及び平均長さ
得られた微粒子含有繊維を無作為に20箇所選択し、光学顕微鏡を用いて直径(μm)及び長さ(mm)を測定し、その平均値を求めた。
【0062】
【表1】

【0063】
(実施例1〜11及び比較例1〜15)
下記表2に示す配合処方に従い、配合した微粒子含有繊維(D)〔繊維A〜F〕が一定方向に配列しているゴム組成物を調製した。得られた各ゴム組成物を用いてトレッドゴムを作製し、ゴム組成物中の微粒子含有繊維(D)がタイヤ周方向に配向するように、該トレッドゴムを配設して生タイヤを作製した。
次に、得られた生タイヤを加硫し、サイズ185/70R13の乗用車用ラジアルタイヤを作製した。なお、各ゴム組成物の加硫中の加硫最高温度は、いずれも200℃であった。
【0064】
得られたタイヤについて、発泡率(Vs)を上述の式で算出し、動的粘弾性(転がり抵抗)、耐摩耗性、氷上性能を下記の方法で評価した。
これらの結果を表2に示す。
【0065】
(動的粘弾性の測定方法)
上島製作所製スペクトロメーター(動的粘弾性測定試験機)を用い、周波数52 Hz、初期歪10%、測定温度60℃、動歪1%で、加硫ゴムのtanδを測定し、比較例1のtanδの値を100として指数表示した。指数値が小さい程、tanδが低く、ゴム組成物が低発熱性であることを示す。
(耐摩耗性試験)
JIS K 6264−2:2005に準拠し、ランボーン型摩耗試験機を用いて、室温、スリップ率25%の条件で試験を行い、比較例1の摩耗量の逆数を100として指数表示した。指数値が大きい程、摩耗量が少なく、耐摩耗性に優れることを示す。
【0066】
(氷上性能)
トレッド部の摩耗率が20%のタイヤを装着した乗用車にて、氷上平坦路を走行させ、時速20km/hの時点でブレーキをかけてタイヤをロックさせ、停止状態になるまでの制動距離を測定した。比較例1のタイヤの制動距離の逆数を100として指数表示した。指数値が大きい程、氷上での制動性に優れることを示す。なお、トレッド部の摩耗率は、下記式により算出された。
摩耗率(%)=(1−摩耗後の溝深さ/新品時の溝深さ)×100
【0067】
【表2】

【0068】
上記表2から明らかなように、本発明範囲となる実施例1〜11の空気入りタイヤは、本発明の範囲外となる比較例1〜15に較べて、耐摩耗性、転がり抵抗、タイヤの氷上性能を大幅に向上させることができることが判明した。
【符号の説明】
【0069】
1 加硫ゴム
2 長尺状気泡
3 被膜
3a 親水性樹脂
3b 微粒子
4 ビード部
5 サイドウォール部
6 トレッド部
7 カーカス
8 ベルト
9 ビードコア
【産業上の利用可能性】
【0070】
スタッドレス効果を発揮しながら、過度なグリップを抑えてタイヤの燃費を向上させることができる空気入りタイヤに好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴムからなるゴム成分(A)に対して、無機充填剤(B)と、分子内に、窒素原子及びケイ素原子を含む環状構造と、一つ以上の硫黄原子とを有し、且つ立体障害の小さな基が一つ以上ケイ素原子に結合している部位を有する有機ケイ素化合物(C)と、金属酸化物、金属炭酸塩及び金属を含有する粘土鉱物よりなる群から選択される少なくとも一種の微粒子と親水性樹脂とからなる微粒子含有繊維(D)及び発泡剤(E)とを含有することを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
有機ケイ素化合物(C)の立体障害の小さな基が、水素原子、メチル基及びヒドロキシル基からなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載の有機ケイ素化合物。
【請求項3】
有機ケイ素化合物(C)が下記一般式(I)で表わされることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【化1】

〔式(I)中、Aは硫黄原子を含み且つゴム成分と反応する基であり、Wは−NR−、
−O−又は−CR−(ここで、Rは−R又は−C2m−Rであり、但し、Rは−NR、−NR−NR又は−N=NRであり、Rは−C2n+1で、Rは−C2q+1で、m、n及びqはそれぞれ独立して0〜10である)で表わされ、
及びRは、それぞれ独立して−M−C2l−(ここで、Mは−O−又は−CH−で、lは0〜10である)で表わされ、但し、R及びRの一つ以上は、Mが−O−であり、Rは水素原子、メチル基又はヒドロキシル基である。〕
【請求項4】
前記一般式(I)中におけるAが、ポリサルファイド基、チオエステル基、チオール基、ジチオカーボネート基、ジチオアセタール基、ヘミチオアセタール基、ビニルチオ基、α−チオカルボニル基、β−チオカルボニル基、S−CO−CH−O部分、S−CO−CO部分、及びS−CH−Si部分からなる群から選択される少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項3に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記一般式(I)中のAが、下記一般式(II)又は式(III)で表わされることを特徴とする請求項3に記載のゴム組成物。
【化2】

〔式(II)中のW、R、R及びRは上記と同義であり、式(II)及び式(III)中のRは、下記一般式(IV)又は式(V):
【化3】

(式中、M、l及びmは上記と同義であり、X及びYはそれぞれ独立して−O−、−NR−又は−CH−で、R10は−OR、−NR又は−Rで、R11は−NR−、−N
−NR−又は−N=N−であり、但し、R及びRは上記と同義である)或いは−M−C2l−(ここで、M及びlは上記と同義である)で表わされ、
式(III)中のRは下記一般式(VI)又は式(VII):
【化4】

(式中、M、X、Y、R10、R、l及びmは上記と同義である)或いは−C2l−R12(ここで、R12は−NR、−NR−NR、−N=NR又は−M−C2m+1或いは炭素数6〜20の芳香族炭化水素基であり、但し、R、R、M、l及びmは上記と同義である)で表わされ、式(II)及び式(III)中のxは1〜10である。〕
【請求項6】
前記微粒子含有繊維(D)の親水性樹脂が、カルボキシル基、水酸基、エステル基、エーテル基及びカルボニル基よりなる群から選択される少なくとも一種の官能基を含む樹脂であること特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項7】
前記微粒子含有繊維(D)の金属酸化物が、酸化チタン、酸化アルミニウム、セラミックス及びゼオライト(アルミノケイ酸塩)から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項1又は6に記載のゴム組成物。
【請求項8】
前記微粒子含有繊維(D)の金属炭酸塩が炭酸カルシウムであることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項9】
前記微粒子含有繊維(D)の金属を含有する粘土鉱物がモンモリロナイトであることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項10】
前記微粒子含有繊維(D)は、平均径が1〜100μmであり、平均長さが0.1〜20mmであることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項11】
前記微粒子含有繊維(D)が、親水性樹脂100質量部に対し、微粒子を0.5〜200質量部含有することを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項12】
前記無機充填剤(B)がシリカ又は水酸化アルミニウムであることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項13】
前記シリカのBET表面積が40〜350m/gであることを特徴とする請求項12に記載のゴム組成物。
【請求項14】
ゴム成分(A)100質量部に対して、前記無機充填剤(B)5〜140質量部、前記有機ケイ素化合物(C)を、前記無機充填剤(B)の含有量の1〜20質量%含み、前記微粒子含有繊維(D)が0.5〜30質量部であることを特徴とする請求項1〜12の何れか一つに記載のゴム組成物。
【請求項15】
請求項1〜11の何れか一つに記載のゴム組成物をタイヤトレッド部に用いたことを特徴とする空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−102255(P2012−102255A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252735(P2010−252735)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】