説明

ゴム組成物

【課題】補強充填剤としてシリカを配合したゴム組成物において、シラスをシリカの代替として使用する。
【解決手段】シラスをアルカリ土類金属の水酸化物または酸化物およびアルカリ金属の水酸化物で処理することによって得られたシラス処理物を含むゴム組成物である。シラス処理物の含有量は、ゴム100質量部に対して3〜90質量部とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴム組成物に関し、さらに詳しくはシラス処理物を配合したゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ジエン系ゴムにカーボンブラックやシリカなどを補強充填剤として配合してゴム物性を向上させる手法は良く知られている。特に近年自動車の高性能化、高機能化に伴い、タイヤへの要求性能は年々高度になってきている。その一つとして、湿潤路面でのグリップ力、即ちウェットグリップ力を維持しながらも、低燃費性も兼ね備えたタイヤの開発が強く望まれている。従来、タイヤトレッドに用いられてきた補強充填剤は、カーボンブラックであったが、最近では上記の要望からカーボンブラックと比較して良好な低ヒステリシスロス性とウェットスキッド性を有する超微粒子シリカが、タイヤトレッド用の補強充填剤として用いられ始めてきた(例えば特許文献1参照)。
【0003】
酸化ケイ素成分の含有率が30質量%以上であるパーミスをゴム組成物に配合するとともに、ゴム組成物のJIS−A硬度を一定範囲内とすることによって、タイヤと氷表面との間に存在する水を効果的に除去し、タイヤの氷表面に対するグリップ性を向上させる方法が提案されている(特許文献2)。パーミスは、シラスのような天然に産生する火山砕屑物のうち、極めて多孔質の発泡体である焼成体を指す。シラスは鹿児島県全域に存在し、その量は690億mと見積もられ、天然資源のタイヤ材料への応用として期待され、特にシリカの代替として期待される。
シラスを生石灰または消石灰とともにアルカリ水溶液中で処理することは知られている(特許文献3)。ただし、その処理は、トバモライトを製造するための第一工程である。
【0004】
【特許文献1】米国特許第5227425号明細書
【特許文献2】特開2005−15754号公報
【特許文献3】特開2001−58813号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
天然に産するシラスは、粉砕したものでも平均粒子径が大きく(約100μm)、またシラノール基がないためにシランカップリング剤によるゴムへの結合が困難であり、そのままでは、タイヤの補強充填剤としてのシリカの代替として使用することができない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、シラスをアルカリ土類金属の水酸化物または酸化物およびアルカリ金属の水酸化物で処理することによって得られたシラス処理物を含むゴム組成物である。
【0007】
ゴム組成物は、好ましくは、ゴム100質量部および前記シラス処理物3〜90質量部を含む。
ゴム組成物は、好ましくは、ゴム100質量部、シリカ10〜97質量部および前記シラス処理物3〜90質量部を含む。
ゴムは、好ましくは、ジエン系ゴムである。
前記シラス処理物は、好ましくは、0.01〜60μmの平均粒子径を有する。
前記処理は、好ましくは、アルカリ土類金属の水酸化物または酸化物およびアルカリ金属の水酸化物を含む水溶液での処理である。
【発明の効果】
【0008】
シラスをアルカリ土類金属の水酸化物または酸化物およびアルカリ金属の水酸化物で処理することにより、ゴム組成物の補強充填剤のシリカの代替として使用できるようになり、そのように処理したシラス処理物をシリカの代替として配合したゴム組成物は、未処理シラスを配合したものに比べ、摩耗を含む加硫ゴム物性に優れ、そして補強充填剤としてシリカのみを配合したゴム組成物の加硫ゴム物性に匹敵する。アルカリ土類金属の水酸化物または酸化物およびアルカリ金属の水酸化物で処理したシラス処理物がゴム組成物の補強充填剤のシリカの代替として使用できるようになる理由は定かでないが、処理により、粒子径が小さくなり、シラス表面にシラノールが導入されたためと思われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のゴム組成物は、シラス処理物を含む。本発明において、シラス処理物とは、シラスをアルカリ土類金属の水酸化物または酸化物およびアルカリ金属の水酸化物で処理することによって得られたものをいう。
【0010】
シラスは1000℃を越す温度で自然焼成された完全無機質粉状の物質である。内部に気泡を有し、その構成成分は典型的には珪酸70%、アルミナ14%、カルシウム3%、ナトリウム3%、磁鉄2%、カリウム2%、その他マグネシウム、チタン、マンガンなどからなる公知の材料であり、例えば清新産業株式会社製AS100(平均粒子径67μm)などとして市販されている。
【0011】
アルカリ土類金属の水酸化物としては、水酸化ベリリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムが挙げられるが、好ましくは、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウムであり、なかでも水酸化カルシウムが特に好ましい。アルカリ土類金属の酸化物としては、酸化ベリリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウムが挙げられるが、好ましくは、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウムであり、なかでも酸化カルシウムが特に好ましい。
【0012】
アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムが挙げられるが、好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムであり、なかでも水酸化カリウムが特に好ましい。
【0013】
シラスの処理は、シラスと、固体状または粉末状のアルカリ土類金属の水酸化物または酸化物およびアルカリ金属の水酸化物とを混合し、少量の水を加えて、混練する方法でもよいが、好ましくはアルカリ土類金属の水酸化物または酸化物およびアルカリ金属の水酸化物の水溶液でシラスを処理する。水溶液でシラスを処理するときは、大気開放型の容器を用いてもよいし、オートクレーブのような密閉容器を用いてもよい。
【0014】
シラスの処理に使用するアルカリ土類金属の水酸化物または酸化物の量は、シラス100質量部に対し1〜50質量部が好ましく、より好ましくは5〜30質量部である。シラスの処理に使用するアルカリ金属の水酸化物の量は、シラス100質量部に対し1〜50質量部が好ましく、より好ましくは5〜30質量部である。
【0015】
シラスの処理を水溶液で行う場合は、水溶液中のアルカリ土類金属の水酸化物または酸化物の濃度は、好ましくは10〜1000グラム/リットルであり、より好ましくは20〜300グラム/リットルである。水溶液中のアルカリ金属の水酸化物の濃度は、好ましくは10〜1000グラム/リットルであり、より好ましくは20〜300グラム/リットルである。
【0016】
シラスを処理するときの条件は、シラスの表面にシラノール基を形成することができ、かつ目的の平均粒子径が得られるならば、いかなる条件であってもよい。
シラスを処理するときの温度は、室温でもよいし、加熱してもよい。たとえば、50〜300℃であり、好ましくは70〜200℃である。
シラスを処理するときの圧力は、常圧でもよいし、加圧してもよい。たとえば、0.01〜10MPaであり、好ましくは0.1〜10MPaである。水溶液を用いオートクレーブ中で処理するときは、処理温度における水溶液の蒸気圧である。
シラスを処理するときの時間は、温度および圧力にもよるが、たとえば、1〜48時間であり、好ましくは1〜24時間である。
通常、水溶液でシラスを処理した後、酸で中和し、水洗、ろ過、乾燥する。中和に用いる酸としては、硫酸、塩酸、硝酸等が使用できるが、硫酸が好ましい。
【0017】
シラス処理物の配合量は、ゴム100質量部に対して、好ましくは3〜90質量部であり、より好ましくは5〜90質量部である。
【0018】
補強充填剤としてシリカを配合したゴム組成物において、シリカの一部をシラス処理物で代替する場合は、好ましくは、ゴム100質量部に対して、シリカが10〜97質量部、シラス処理物が3〜90質量部である。より好ましくは、ゴム100質量部に対して、シリカが10〜90質量部、シラス処理物が5〜90質量部である。ゴム組成物がシリカを含有する場合、シリカとしては、従来からタイヤその他用のゴム組成物に配合されている任意のシリカを使用することができる。シリカの配合量が少ないと強度と耐摩耗が不十分なだけでなく、シリカ配合によるウェット摩擦力と低発熱性の両立も不十分となるので好ましくなく、逆に多いと混合加工性の低下や発熱性の増加となるので好ましくない。
【0019】
シラス処理物の平均粒子径は、酸で中和する前の状態で、好ましくは0.01〜60μm、より好ましくは0.01〜50μmである。平均粒子径が大きすぎると、耐摩耗性が悪化する。逆に、平均粒子径が小さすぎると、シラス処理物の表面積が大きくなり、ゴム組成物の加工性が悪化する。なお、シラス処理物の平均粒子径は粒度分布測定沈降法によるX線透過型全自動粒度分布測定装置または紫外線半導体レーザ型粒度分布測定装置を用いて測定することができる。シラス処理物は、処理前のシラスに比べ、シラノール基が増加する。なお、シラス処理物には、処理に使用したアルカリ土類金属が残存してもよいし、残存しなくてもよい。たとえば、水酸化カルシウムおよび水酸化カリウムを含む水溶液で処理した後、硫酸で中和したときは、不溶性の硫酸カルシウムが生成し、硫酸カルシウムがシラス処理物に残存する。
【0020】
本発明のゴム組成物に使用するゴムは、特に限定されないが、好ましくはジエン系ゴムである。ジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、イソプレン−ブタジエン共重合体ゴムなどを挙げることができ、これらは単独または任意のブレンドで使用することができる。
【0021】
本発明のゴム組成物は、さらに硫黄含有シランカップリング剤を含んでもよい。使用することができる硫黄含有シランカップリング剤としては、これも従来からシリカと共に配合されるもののうち、好ましくは分子中に硫黄原子を含有する任意のものとすることができ、たとえば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどを用いることができる。これらは公知の化合物であり、数多くの市販品が利用できる。硫黄含有シランカップリング剤の配合量は、シラス処理物の量(シリカを含む場合は、シラス処理物とシリカの合計量)の3〜15質量%が好ましい。硫黄含有シランカップリング剤の配合量が少ないと、ゴム強度や耐摩耗性の低下が起こるおそれがある。逆に多いと加工中のヤケが発生するおそれがある。
【0022】
本発明のゴム組成物には、前記した成分に加えて、シラス処理物およびシリカ以外の補強充填剤(たとえばカーボンブラック)、加硫又は架橋剤、加硫又は架橋促進剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのタイヤ用、その他のゴム組成物用に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【実施例】
【0023】
[シラス処理物の調製]
処理物1
2リットルのガラス容器に、水1000g、シラス(清新産業株式会社製AS100)(平均粒子径67μm)100g、水酸化カルシウム30gおよび水酸化カリウム20gを入れ、冷却管を付け、水を循環させながら120℃で14時間処理した後、硫酸で中和(pH7.0)し、ろ過乾燥することにより、シラス処理物123gを得た。
処理物2
1リットルのオートクレーブ容器に、水500g、シラス(清新産業株式会社製AS100)(平均粒子径67μm)50g、水酸化カルシウム15gおよび水酸化カリウム10gを入れ、170℃、0.52MPaで15時間処理した。続いて、硫酸で中和(pH7.0)し、ろ過乾燥することにより、シラス処理物2(59g)を得た。
処理前のシラスおよび処理後のシラス処理物2(酸による中和前のもの)の走査電子顕微鏡写真(100倍)を図1および図2に示す。図1と図2の対比から、処理により、粒子径が小さくなっていることが分かる。処理後のシラス処理物2(酸による中和前のもの)の平均粒子径を、紫外線半導体レーザ型粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製SALD−7100)を用いて測定したところ、18.6μmであった。また、シラス処理物をエネルギー分散型X線分光法(SEM−EDX)で分析したところ、シラス表面にカルシウムが存在していることが確認された。
【0024】
[使用材料]
実施例で使用した材料は次のとおりである。
SBR:日本ゼオン株式会社製スチレン−ブタジエン共重合体ゴム NIPOL 1502
BR:日本ゼオン株式会社製ブタジエンゴム NIPOL BR1220
シリカ:デグッサ社製 ULTRASIL 7000GR
シラス:清新産業株式会社製AS100(平均粒子径67μm)
ステアリン酸:日油株式会社製
老化防止剤:FLEXSYS社製 SANTOFLEX 6PPD
亜鉛華:正同化学工業株式会社製
硫黄:鶴見化学工業株式会社製
加硫促進剤1:FLEXSYS社製 SANTOCURE CBS
加硫促進剤2:住友化学株式会社製 ソクシノール D−G
【0025】
[ゴム組成物の調製]
表1に示す配合で、加硫促進剤と硫黄を除く成分を1.5リットルの密閉型ミキサーで6分間混練し、150℃に達したときに放出してマスターバッチを得た。このマスターバッチに加硫促進剤と硫黄をオープンロールで混練し、ゴム組成物を得た。
次に、得られたゴム組成物を金型中で160℃で30分間加硫して加硫ゴムシートを調製し、以下に示す試験法で加硫ゴムの物性を測定した。結果を表1に示す。
【0026】
[試験法]
ムーニー粘度試験
株式会社島津製作所製ムーニービスコメーター(形式SMV−201)を用い、JIS K6300に準拠して、100℃で、ムーニー粘度を測定した。
【0027】
引張試験
上記で得られた各ゴム組成物について、160℃30分加硫した後、15cm×15cm×12cmの加硫シートを作成した。この加硫シートからJIS3号ダンベル形状の試験片を打ち抜き、JIS K6251に準拠して、100%伸びのときの応力M100、300%伸びのときの応力M300、切断時の応力Tおよび切断時の伸びEを測定した。
【0028】
tanδ(60℃)
上島製作所製粘弾性スペクトロメーターを使用してJIS K6394に準拠して測定した。測定条件は周波数20Hz、伸長変形ひずみ量10±2%。数値は小さいほど転がり抵抗性能が良いことを示す。
【0029】
耐摩耗性
ランボーン摩耗試験機を用いてJIS K6264に準拠し、荷重4.0kg(=39N)、スリップ率30%の条件にて、摩耗量を測定し、次式により指数化した。
耐摩耗性(%)=(対照例の摩耗量)/(試料の摩耗量)×100
この指数値が大きいほど耐摩耗性が良好であることを示す。
【0030】
【表1】

【0031】
対照例は補強充填剤としてシリカを配合したゴム組成物であって、シラスを含まない。比較例は、対照例のシリカ80gのうちの6gを未処理のシラスで代替したものである。実施例1は、対照例のシリカ80gのうちの6gをシラス処理物2で代替したものである。実施例2は、対照例のシリカ80gのうちの12gをシラス処理物2で代替したものである。シリカの一部を未処理のシラスで代替した比較例は、対照例に比べ、耐摩耗性が悪化するが、シリカの一部をシラス処理物で代替した実施例は、未加硫時のムーニー粘度が通常のシリカ配合より低くなり、加工性が向上する。シラスが小粒径となりかつシラノール基を導入できたためゴム中に均一に分散しゴム分子に結合したからであると考えられる。その他の物性は対照例(シリカ配合)と同等にすることができる(すなわち未処理のシラスを配合した際のような物性低下が起こらない)ので、シラス処理物がシリカの代替として使用できることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のゴム組成物は、タイヤ、ホース等の製造に使用することができ、特に空気入りタイヤのトレッドに使用するのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】処理前のシラスの走査電子顕微鏡写真である。
【図2】処理後のシラス処理物の走査電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シラスをアルカリ土類金属の水酸化物または酸化物およびアルカリ金属の水酸化物で処理することによって得られたシラス処理物を含むゴム組成物。
【請求項2】
ゴム100質量部および前記シラス処理物3〜90質量部を含む請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
ゴム100質量部、シリカ10〜97質量部および前記シラス処理物3〜90質量部を含む請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項4】
ゴムがジエン系ゴムであることを特徴とする請求項2または3に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記シラス処理物が0.01〜60μmの平均粒子径を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記処理が、アルカリ土類金属の水酸化物または酸化物およびアルカリ金属の水酸化物を含む水溶液での処理であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のゴム組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−116468(P2010−116468A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289909(P2008−289909)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】