説明

ゴム補強材、タイヤコードおよびタイヤ

【課題】タイヤコードにおいて、高温雰囲気下での耐久性を高める。
【解決手段】このタイヤコードは、液晶ポリエステル繊維を含むゴム補強材から構成される。この液晶ポリエステル繊維は、以下の式(1)、(2)および(3)で表される構造単位を有する液晶ポリエステルであって、全構造単位の合計含有量に対して、2,6−ナフタレンジイル基を含む構造単位の含有量が40モル%以上である液晶ポリエステルから構成される。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−O−Ar3 −O−
(式中、Ar1 は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基または4,4’−ビフェニレン基を表す。Ar2 およびAr3 は、それぞれ独立に、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基または4,4’−ビフェニレン基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に自動車のタイヤを構成するタイヤコードに使用されるゴム補強材に関するものである。ここで、タイヤは、チューブレスタイヤであってもチューブタイヤであってもよく、また、ラジアルタイヤであってもバイアスタイヤであっても構わない。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のタイヤは、ゴム本体にタイヤコードが埋設された構成を有している。このタイヤコードとしては、乗用車用ラジアルタイヤの高速耐久性および操縦安定性の改善を目的として、主に液晶ポリエステルから構成されるゴム補強材を使用する技術が提案されていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−270832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1で提案された技術においても、自動車の走行に伴い、タイヤが高温雰囲気下で長時間にわたって使用された場合に、タイヤコードの機能が低下するという課題が残されており、この点の改良が望まれていた。
【0005】
そこで、本発明は、このような事情に鑑み、高温雰囲気下での耐久性に優れたタイヤコードとして用いることが可能なゴム補強材を提供することを第1の目的とする。また、このようなゴム補強材を含む高耐久性のタイヤコードを提供することを第2の目的とする。さらに、このようなタイヤコードを有する高品質なタイヤを提供することを第3の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するため、本発明者は、鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、液晶ポリエステル繊維を含むゴム補強材であって、前記液晶ポリエステル繊維が、以下の式(1)で表される構造単位、以下の式(2)で表される構造単位および以下の式(3)で表される構造単位を有する液晶ポリエステルであって、全構造単位の合計含有量に対して、2,6−ナフタレンジイル基を含む構造単位の含有量が40モル%以上である液晶ポリエステルから構成されるゴム補強材を提供する。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−O−Ar3 −O−
(式中、Ar1 は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基または4,4’−ビフェニレン基を表す。Ar2 およびAr3 は、それぞれ独立に、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基または4,4’−ビフェニレン基を表す。Ar1 、Ar2 またはAr3 で表される基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基で置換されていてもよい。)
【0008】
また、本発明は、前記液晶ポリエステル繊維を含む不織布からなるゴム補強材を提供する。
【0009】
また、本発明は、前記液晶ポリエステル繊維は、表面処理が施された繊維であるゴム補強材を提供する。
【0010】
また、本発明は、上記のいずれかのゴム補強材を含むタイヤコードを提供する。
【0011】
さらに、本発明は、上記タイヤコードを有するタイヤを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、特定の骨格を有する液晶ポリエステル繊維をゴム補強材の材料として採用したことから、高温雰囲気下での耐久性に優れたタイヤコードとして用いることが可能なゴム補強材を提供することができる。
【0013】
また、このようなゴム補強材を含む高耐久性のタイヤコードを提供することが可能となる。
【0014】
さらに、このような高耐久性のタイヤコードを用いてタイヤを構成することにより、タイヤの品質を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態1に係るタイヤの断面図(端面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[発明の実施の形態1]
【0017】
図1には、本発明の実施の形態1を示す。
【0018】
この実施の形態1に係るタイヤ1は、チューブレスラジアルタイヤの一例であり、図1に示すように、C字断面リング状のゴム本体2を備えている。ゴム本体2は、トレッド部2aを有しており、トレッド部2aの両側にはそれぞれサイドウォール部2b、2cが一体に連設されている。さらに、これらのサイドウォール部2b、2cの先端にはそれぞれビード部2d、2eが、自動車(図示せず)の円環状のホイールリム5に嵌合しうる形で一体に連設されている。また、ゴム本体2には、そのトレッド部2aの強度を増すと同時に、釘などの異物の貫通によるパンクの発生を未然に防止するため、トレッド部2aの近傍にブレーカーコード3がタイヤコードとして埋設されている。さらに、ゴム本体2には、その構造を保持するため、一方のビード部2dから一方のサイドウォール部2b、トレッド部2a、他方のサイドウォール部2cを経て他方のビード部2eに至る部位に、カーカスコード4がタイヤコードとして埋設されている。
【0019】
ここで、ブレーカーコード3およびカーカスコード4は、いずれもゴム補強材から形成されており、このゴム補強材は、特定の液晶ポリエステルから構成される繊維(つまり、液晶ポリエステル繊維)を含む不織布からなる。この液晶ポリエステルは、溶融状態で光学異方性を示し、以下の式(1)で表される構造単位(以下、「式(1)構造単位」と呼ぶことがある。)、以下の式(2)で表される構造単位(以下、「式(2)構造単位」と呼ぶことがある。)および以下の式(3)で表される構造単位(以下、「式(3)構造単位」と呼ぶことがある。)を有し、全構造単位の合計含有量(すなわち、液晶ポリエステルを構成する各構造単位の質量を各構造単位の式量で割ることにより求められる各構造単位の含有量に相当する量(モル)として求め、それらを合計した値)に対して、2,6−ナフタレンジイル基を含む構造単位の含有量が40モル%以上である。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−O−Ar3 −O−
(式中、Ar1 は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基または4,4’−ビフェニレン基を表す。Ar2 およびAr3 は、それぞれ独立に、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基または4,4’−ビフェニレン基を表す。Ar1 、Ar2 またはAr3 で表される基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基で置換されていてもよい。)
【0020】
なお、この液晶ポリエステルは、流動開始温度が280℃以上であると好ましく、流動開始温度が280〜320℃であるとより好ましく、302〜318℃であるとさらに好ましい。また、この液晶ポリエステルは、流動開始温度より高い温度で測定されるメルトテンション(溶融張力)の最大値が0.0098N以上であると好ましい。
【0021】
なお、一般に、液晶ポリエステルとは、450℃以下の温度で、溶融状態で光学的異方性を示すポリエステルを意味する。このような液晶ポリエステルは、当該液晶ポリエステル中、2,6−ナフタレンジイル基を含む構造単位の含有量が40モル%以上になるように、2,6−ナフタレンジイル基を含むモノマーと、それ以外の芳香環を有するモノマーとを(その種類と使用量とについて)適宜選択して重合させることで得ることができる。
【0022】
ここで、流動開始温度とは、内径1mm、長さ10mmのダイスを取り付けた毛細管型レオメーターを用い、9.8MPa(100kg/cm2 )の荷重をかけた状態で、昇温速度4℃/分で液晶ポリエステルをノズルから押し出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポアズ)を示す温度を意味する。この流動開始温度は、例えば、(株)島津製作所製の流動特性評価装置「フローテスターCFT−500D」を用いて測定することができる。なお、流動開始温度は、液晶ポリエステルの分子量の指標となる値である(例えば、小出直之編「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」第95〜105頁、(株)シーエムシー出版、1987年6月5日発行を参照)。
【0023】
このように、タイヤ1のブレーカーコード3およびカーカスコード4は、上述した特定の骨格を有する液晶ポリエステル繊維を含む不織布からなるゴム補強材から形成されているので、高温雰囲気下での耐久性に優れる。これは、2,6−ナフタレンジイル基が骨格に多く含まれることでエステル結合が安定化されているという理由によるものである。
【0024】
したがって、タイヤ1は、そのブレーカーコード3およびカーカスコード4が高耐久性である点で高品質なものとなる。
【0025】
本発明に用いられる液晶ポリエステルにおいては、全構造単位の合計含有量に対して、2,6−ナフタレンジイル基を含む構造単位の含有量が、50モル%以上であることが好ましく、65モル%以上であることがさらに好ましく、70モル%以上であることが特に好ましい。このように、2,6−ナフタレンジイル基をより多く含む液晶ポリエステルは、タイヤコードを構成するゴム補強材の材料として用いると、タイヤコードの高温雰囲気下での耐久性をさらに向上させることができる。
【0026】
また、本発明の液晶ポリエステルを構成する全構造単位の合計含有量に対して、式(1)で表される芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位の含有量が30〜80モル%、式(2)で表される芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位の含有量が10〜35モル%、式(3)で表される芳香族ジオールに由来する構造単位の含有量が10〜35モル%であることが好ましく、式(2)で表される構造単位の含有量と式(3)で表される構造単位の含有量とは、実質的に等しいことが好ましい。
【0027】
また、本発明に用いられる液晶ポリエステルは、全芳香族液晶ポリエステルであると好ましい。ここで、全芳香族液晶ポリエステルとは、式(1)構造単位、式(2)構造単位および式(3)構造単位の如き芳香族モノマーに由来する構造単位のみを有する液晶ポリエステルである。この全芳香族液晶ポリエステルは、耐熱性にも優れるため、タイヤコードを構成するゴム補強材の材料として好適に用いることができる。
【0028】
ここで、前記芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位、前記芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位および前記芳香族ジオールに由来する構造単位の含有量の全構造単位の合計含有量に対する比率(モル%)がそれぞれ前記の範囲にあると、液晶ポリエステルが高度の液晶性を発現することに加えて、溶融加工性に優れるものとなる点で好ましい。
【0029】
なお、前記芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位の全構造単位合計含有量に対する比率は、40〜70モル%であると、より好ましく、45〜65モル%であると、とりわけ好ましい。一方、前記芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位および前記芳香族ジオールに由来する構造単位の全構造単位合計含有量に対する比率は、それぞれ、15〜30モル%であると、より好ましく、17.5〜27.5モル%であると、とりわけ好ましい。
【0030】
式(1)構造単位を形成するモノマーとしては、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、p−ヒドロキシ安息香酸または4−(4−ヒドロキシフェニル)安息香酸が挙げられ、さらに、これらのベンゼン環またはナフタレン環の水素原子が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基またはアリール基で置換されているモノマーも挙げられる。ここで、本発明の2,6−ナフタレンジイル基を含む構造単位を形成するモノマーとしては、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸であり、さらに2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸のナフタレン環の水素原子が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。さらに、後述のエステル形成性誘導体にして用いてもよい。
【0031】
式(2)構造単位を形成するモノマーとしては、2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸またはビフェニル−4,4’−ジカルボン酸が挙げられ、さらに、これらのベンゼン環またはナフタレン環の水素原子が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基またはアリール基で置換されているモノマーも挙げられる。ここで、本発明の2,6−ナフタレンジイル基を含む構造単位を形成するモノマーとしては、2,6−ナフタレンジカルボン酸であり、さらに2,6−ナフタレンジカルボン酸のナフタレン環の水素原子が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。さらに、後述のエステル形成性誘導体にして用いてもよい。
【0032】
式(3)構造単位を形成するモノマーとしては、2,6−ナフトール、ハイドロキノン、レゾルシンまたは4,4’−ジヒドロキシビフェニルが挙げられ、さらに、これらのベンゼン環またはナフタレン環の水素原子が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基またはアリール基で置換されているモノマーも挙げられる。ここで、本発明の2,6−ナフタレンジイル基を含む構造単位を形成するモノマーとしては、2,6−ナフトールであり、さらに2,6−ナフトールのナフタレン環の水素原子が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。さらに、後述のエステル形成性誘導体にして用いてもよい。
【0033】
前述したように、式(1)構造単位、式(2)構造単位および式(3)構造単位は、いずれも、芳香環(ベンゼン環またはナフタレン環)に前記の置換基(ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、アリール基)を有していてもよい。これらの置換基を例示すると、ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。また、炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などで代表されるアルキル基であり、これらは直鎖でも分岐していもよく、脂環基でもよい。さらに、アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基などで代表される炭素数6〜20のアリール基が挙げられる。
【0034】
式(1)構造単位、式(2)構造単位または式(3)構造単位を形成するモノマーは、液晶ポリエステルを製造する過程で重合を容易にするため、エステル形成性誘導体を用いることが好ましい。このエステル形成性誘導体とは、エステル生成反応を促進するような基を有するモノマーを示し、具体的に例示すると、モノマー分子内のカルボキシル基をハロホルミル基やアシルオキシカルボニル基に転換したエステル形成性誘導体や、モノマー分子内のヒドロキシル基(水酸基)を低級カルボン酸エステル基にしたエステル形成性誘導体などの高反応性誘導体が挙げられる。
【0035】
本発明に用いられる液晶ポリエステルの好ましいモノマーの組み合わせとしては、特開2005−272810号公報に記載された液晶ポリエステルが、耐熱性とメルトテンションの向上という観点から好ましい。具体的には、全構造単位の合計含有量に対して、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸に由来する構造単位(I)の含有量が40〜75モル%、ハイドロキノンに由来する構造単位(II)の含有量が12.5〜30モル%、2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する構造単位(III)の含有量が12.5〜30モル%およびテレフタル酸に由来する構造単位(IV)の含有量が0.2〜15モル%であり、かつ(III)および(IV)で表される構造単位のモル比が(III)/{(III)+(IV)}≧0.5の関係を満たすものである。
【0036】
より好ましくは、全構造単位の合計含有量に対して、(I)の構造単位の含有量が40〜64.5モル%、(II)の構造単位の含有量が17.5〜30モル%、(III)の構造単位の含有量が17.5〜30モル%および(IV)の構造単位の含有量が0.5〜12モル%であり、かつ(III)および(IV)で表される構造単位のモル比が(III)/{(III)+(IV)}≧0.6を満足するものが挙げられる。
【0037】
さらに好ましくは、全構造単位の合計含有量に対して、(I)の構造単位の含有量が50〜58モル%、(II)の構造単位の含有量が20〜25モル%、(III)の構造単位の含有量が20〜25モル%および(IV)の構造単位の含有量が2〜10モル%であり、かつ(III)および(IV)で表される構造単位のモル比が(III)/{(III)+(IV)}≧0.6を満足するものが挙げられる。
【0038】
また、液晶ポリエステルの製造方法としては、公知の方法を採用することができるが、前記のエステル形成性誘導体として、モノマー分子内のヒドロキシル基を低級カルボン酸を用いてエステル基に転換した誘導体を用いて製造することが好ましく、ヒドロキシル基をアシル基に転換することが特に好ましい。アシル化は、通常、ヒドロキシル基を有するモノマーを無水酢酸と反応させることで達成できる。こうしたアシル化によるエステル形成性誘導体は、脱酢酸重縮合により重合することができ、容易にポリエステルを製造することができる。
【0039】
前記の液晶ポリエステル製造方法としては、公知の方法(例えば、特開2002−146003号公報に記載された方法など)を適用することができる。すなわち、式(1)構造単位、式(2)構造単位および式(3)構造単位に対応するモノマーを、2,6−ナフタレンジイル基を含む構造単位に対応するモノマーの含有量が、全モノマーの合計含有量に対して、40モル%以上になるように選択し、必要に応じてエステル形成性誘導体に転換した後、溶融重縮合を行い、比較的低分子量の液晶ポリエステル(以下、「プレポリマー」と略記する。)を得、次いで、このプレポリマーを粉末とし、加熱することにより、固相重合させる方法が挙げられる。このような固相重合を用いると、重合がより進行しやすく、高分子量化を図ることができる。
【0040】
溶融重縮合により得られたプレポリマーを粉末とするには、例えばプレポリマーを冷却固化した後に粉砕すればよい。粉末の粒子径は、平均で0.05mm以上3mm程度以下が好ましく、特に0.05mm以上1.5mm程度以下が、液晶ポリエステルの高重合度化が促進されることからより好ましく、0.1mm以上1mm程度以下であれば、粉末の粒子間のシンタリングを生じることなく液晶ポリエステルの高重合度化が促進されるため、さらに好ましい。
【0041】
この固相重合は、次のような条件(2段階昇温)で行うことが好ましい。すなわち、まず、第1段階の昇温として、室温からプレポリマーの流動開始温度よりも20℃以上低い温度まで昇温する。この際の昇温速度は、反応時間を短縮させる観点からは、1時間以内で反応が終了するように設定することが好ましい。
【0042】
次に、第2段階の昇温として、第1段階の昇温が完了した温度から260℃以上の温度となるまで、さらに昇温する。この際、昇温は、0.3℃/分以下の昇温速度で行うことが好ましく、0.05〜0.15℃/分の昇温速度で行うことがより好ましい。この段階での昇温速度が0.3℃/分以下であると、粉末の粒子間のシンタリングが生じ難くなり、より高重合度の液晶ポリエステルが得られやすくなる。
【0043】
第2段階の昇温が完了した後には、液晶ポリエステルの重合度をさらに高めるため、260℃以上の温度で加熱を行うことが好ましく、260〜320℃の温度範囲で30分以上の加熱を行うことがより好ましい。特に、液晶ポリエステルを好適な流動開始温度を有するようにして熱安定性を高める観点からは、270〜310℃で30分〜30時間加熱を行うことがさらに好ましく、270〜305℃で30分〜20時間加熱を行うことが一層好ましい。なお、このような加熱を行う場合の条件は、液晶ポリエステルの製造に用いたモノマーの種類等に応じて適宜設定することができる。
【0044】
このような固相重合における重合条件は、以下のような予備実験を行うことによって予め設定してもよい。すなわち、例えば、プレポリマー100g程度を用い、上記の第2段階の昇温での最終到達温度を変えて数点の予備実験を行う。この際、最終到達温度に到達してからの反応時間は、5時間程度とすることができる。そして、これら数点の予備実験で得られた液晶ポリエステルの流動開始温度をそれぞれ測定し、所望の範囲内(例えば280〜320℃)であるかどうかを確認して、この範囲の流動開始温度が得られた場合の最終到達温度を採用する。得られた流動開始温度がこの範囲を下回る場合には、最終到達温度を上げて、再び予備実験を行う。一方、流動開始温度がこの範囲を越える場合には、最終到達温度を低くして、再び予備実験を行う。このようにして、予備実験を行うことにより、流動開始温度280〜320℃の液晶ポリエステルを得るための固相重合の好適な重合条件を設定することができる。
【0045】
このような流動開始温度の測定に用いる液晶ポリエステルは、パウダー状であってもよく、ペレット状であっても構わない。ペレット化は、公知の方法により行うことができ、例えば、次の方法が挙げられる。すなわち、押出機として、例えば単軸または多軸押出機、好ましくは二軸押出機、バンパリー式混練機またはロール式混練機を用い、液晶ポリエステルの流動開始温度Tp(℃)を基準とし、Tp−10(℃)〜Tp+100(℃)の温度範囲で液晶ポリエステルを溶融させた状態とし、これをペレット形状に加工する。ここでいう流動開始温度としては、予め他の方法で測定した値や文献値等を用いることができる。
【0046】
なお、液晶ポリエステルの熱劣化を十分に防止する観点からは、ペレット化に際して、液晶ポリエステルは、Tp−10(℃)〜Tp+70(℃)の温度範囲で溶融させることがより好ましく、Tp−10(℃)〜Tp+50(℃)の温度範囲で溶融させることがさらに好ましい。
【0047】
本発明に用いられる液晶ポリエステルが、上記の好適な流動開始温度を有するためには、式(1)構造単位、式(2)構造単位および式(3)構造単位を有し、かつ好適な2,6−ナフタレンジイル基配合率を有するとともに、その製造過程において、上述した固相重合が行われたものであることが好ましい。固相重合により、液晶ポリエステルの分子量が適切に調整され、好ましい流動開始温度が得られやすくなる。
【0048】
本発明の液晶ポリエステル繊維は、上述した液晶ポリエステルから構成される繊維である。かかる繊維は、液晶ポリエステルを公知の方法(例えば、溶融紡糸など)によって繊維化することにより、得ることができる。
【0049】
液晶ポリエステルを溶融紡糸によって繊維化する場合は、液晶ポリエステルを加熱して溶融状態とし、この溶融状態の液晶ポリエステルを所定のノズルを通して押し出すことにより、液晶ポリエステルを引き伸ばしつつ冷却して再び固化させる。こうすることにより、液晶ポリエステルが細線化した繊維を得ることができる。
【0050】
この際、溶融紡糸によって引き伸ばされた液晶ポリエステルをそのまま巻き取れば、液晶ポリエステル繊維が得られる。一方、この液晶ポリエステルが完全に固化する前に、ノズル等を移動させつつ所定の基板の上に堆積させれば、液晶ポリエステル繊維からなる繊維布(不織布)を得ることができる。
【0051】
このような液晶ポリエステル繊維は、上述した本発明の液晶ポリエステルから構成されるものであることから、誘電損失が小さく、かつ高い耐熱性を有している。また、この液晶ポリエステルは、長時間溶融状態としても粘度の低下が小さいという高い熱安定性を有している。したがって、上述した溶融紡糸による繊維化が容易であるほか、低い粘性を維持できるため、細い繊維の形成も可能となる。
【0052】
このような液晶ポリエステル繊維は、必要に応じて、ゴム本体2や他基材との接着性を高めるため、表面処理を施してもよい。このとき、表面処理を施す液晶ポリエステル繊維の形態としては、繊維状の形態であっても布状の形態(例えば、繊維を織らずに絡み合わせたシート状のもの(不織布))であってもよい。この表面処理の方法としては、例えば、コロナ放電処理、火炎処理、スパッタリング処理、溶剤処理、UV処理、プラズマ処理などが挙げられる。
【0053】
また、こうした表面処理に代えて、接着剤を使用することも有効である。この接着剤としては、例えば、エポキシ化合物、イソシアネート化合物およびハロゲン化フェノール化合物などが挙げられる。
[発明のその他の実施の形態]
【0054】
なお、上述した実施の形態1では、タイヤコード(ブレーカーコード3、カーカスコード4)を構成するゴム補強材が、特定の液晶ポリエステル繊維を用いた不織布からなる場合について説明したが、この液晶ポリエステル繊維を用いた織布からゴム補強材を構成しても構わない。
【0055】
また、上述した実施の形態1では、ブレーカーコード3とカーカスコード4の両方が、特定の液晶ポリエステル繊維を用いた不織布からなるゴム補強材から形成される場合について説明したが、ブレーカーコード3とカーカスコード4のいずれか一方のみをこのゴム補強材から形成してもよい。
【0056】
また、上述した実施の形態1では、タイヤ1がチューブレスタイヤである場合について説明したが、チューブタイヤに本発明を同様に適用することも可能である。
【0057】
さらに、上述した実施の形態1では、タイヤ1がラジアルタイヤである場合について説明したが、バイアスタイヤに本発明を同様に適用することもできる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
<合成例1>
【0059】
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)、ヒドロキノン272.52g(2.475モル、0.225モル過剰仕込み)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、無水酢酸1226.87g(12.0モル)を加えるとともに、触媒として1−メチルイミダゾール0.17gを加え、室温で15分間攪拌した後、さらに攪拌しながら昇温した。反応器内の温度が137℃となった時点で昇温を止め、同温度(137℃)を保持したまま1時間攪拌させた。
【0060】
次いで、留出する副生酢酸および未反応の無水酢酸を留去しながら、反応器内の内容物を4時間50分で310℃まで昇温した。そして、同温度(310℃)で3時間保持して、液晶ポリエステル(プレポリマー)を得た。このプレポリマーを室温まで冷却し、これを粉砕機で粉砕して、粒子径が0.1〜1mmであるプレポリマーの粉末を得た。このプレポリマーの流動開始温度を測定したところ、270℃であった。
【0061】
こうして得られたプレポリマーの粉末を、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、さらに、同温度(250℃)から293℃まで7時間10分かけて昇温した後、同温度(293℃)で5時間保持して固相重合を生じさせた。固相重合後の粉末を冷却して、粉末状の液晶ポリエステルを得た。得られた液晶ポリエステルの2,6−ナフタレンジイル基配合率は、液晶ポリエステルの製造に用いた原料モノマー中の、2,6−ナフタレンジイル基を含む構造単位に誘導されるモノマー(2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸)の割合に基づいて算出した結果、72.5モル%であった。また、この液晶ポリエステルの流動開始温度を測定したところ、318℃であった。
【0062】
このようにして得られた液晶ポリエステルを液晶ポリエステル(A)−1とする。
<合成例2>
【0063】
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸911g(6.6モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル409g(2.2モル)、イソフタル酸91g(0.55モル)、テレフタル酸274g(1.65モル)および無水酢酸1235g(12.1モル)を仕込んで攪拌した。次いで、1−メチルイミダゾール0.17gを添加し、反応器内を窒素ガスで十分に置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、その温度(150℃)を保持して1時間還流させた。その後、1−メチルイミダゾールを1.7g添加した後、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。
【0064】
次いで、合成例1と同様にして、プレポリマーの粉末(粒子径0.1〜1mm程度)を得た。このプレポリマーの流動開始温度は257℃であった。
【0065】
こうして得られたプレポリマーの粉末を25℃から250℃まで1時間かけて昇温した後、同温度(250℃)から280℃まで3時間34分かけて昇温し、次いで、同温度(280℃)で5時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却し、液晶ポリエステルを粉末状で得た。この液晶ポリエステルの流動開始温度を測定したところ、330℃であった。
【0066】
このようにして得られた液晶ポリエステルを液晶ポリエステル(B)−1とする。
<実施例1>
【0067】
合成例1で得られた液晶ポリエステル(A)−1を紡糸工程にてペレット状(つまり、繊維化しやすい形状)に造粒加工した。次いで、(株)中部化学機械製作所製のマルチフィラメント紡糸装置「ポリマーメイトV」を用いて、ステンレス製のフィルターを通過させて350℃で溶融紡糸した。紡糸口金は、孔径0.3mm、孔数24個のものを用い、吐出量25g/分、紡速400m/分で巻き取った。この紡糸原糸を金属ボビンに巻き、330℃で12時間加熱処理した。こうして得られた熱処理糸(ゴム補強材の材料)の引張強度(初期強度)を測定したところ、その平均値として28.0cN/dtexを得た。
【0068】
次いで、この熱処理糸に対して高温高湿曝露試験を実施すべく、エスペック(株)製の高度加速寿命試験装置「EHS−221MD」を用いて、温度121℃、湿度100%の高温・高湿条件下で、熱処理糸の試験片5本を200時間保存した後、これらの試験片を取り出した。そして、これらの試験片5本についてそれぞれ、引張強度を測定したところ、その平均値として27.2cN/dtexを得た。
<比較例1>
【0069】
合成例2で得られた液晶ポリエステル(B)−1を紡糸工程にてペレット状に造粒加工した。次いで、(株)中部化学機械製作所製のマルチフィラメント紡糸装置「ポリマーメイトV」を用いて、ステンレス製のフィルターを通過させて350℃で溶融紡糸した。紡糸口金は、孔径0.3mm、孔数24個のものを用い、吐出量25g/分、紡速400m/分で巻き取った。この紡糸原糸を金属ボビンに巻き、320℃で12時間加熱処理した。こうして得られた熱処理糸の引張強度(初期強度)を測定したところ、その平均値として28.0cN/dtexを得た。
【0070】
次いで、この熱処理糸の試験片5本についてそれぞれ、実施例1と同様の手順により、高温高湿曝露試験を実施した後、引張強度を測定したところ、その平均値として15.1cN/dtexを得た。
<高温雰囲気下での耐久性の評価>
【0071】
これらの実施例1および比較例1についてそれぞれ、引張強度保持率(つまり、高温高湿曝露試験実施後の引張強度の平均値を初期強度の平均値で除した値)を算出したところ、実施例1では97%となり、比較例1では54%となった。
【0072】
このように、比較例1においては、高温高湿曝露試験によって引張強度がほぼ半減したのに対して、実施例1においては、高温高湿曝露試験を経ても引張強度がほとんど低下しなかった。したがって、比較例1の熱処理糸を含むゴム補強材からタイヤコードを構成した場合に比べて、実施例1の熱処理糸を含むゴム補強材からタイヤコードを構成した場合は、高温雰囲気下での耐久性を大幅に高めることができる。
<実施例2>
【0073】
実施例1で得た熱処理糸を用いて不織布を1枚作製した。この不織布の複数箇所に対してそれぞれ水滴を滴下し、その10秒後に、協和界面科学(株)製のFACE接触角計「CA−A型」を用いて水接触角(不織布に滴下する液体として水を用いた場合の接触角)を測定したところ、その平均値として100°を得た。また、この不織布に対して、ゴム本体との接着性を高める目的で、(株)日放電子製の平板用プラズマ表面処理装置「PCB2800」を用いて、CF4 /O2 混合ガス雰囲気下で60秒照射の条件にてプラズマ処理を施した。そして、このプラズマ処理済みの不織布について、水接触角を同様に測定したところ、すべての箇所で0°を得た。このように、実施例1で得た熱処理糸を用いて作製された不織布は、プラズマ処理により、水接触角が大幅に減少し、濡れ性(ゴム本体との接着性)が向上した。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、自動車(四輪自動車、三輪自動車、二輪自動車など)、地下鉄、モノレール、新交通システム、航空機、フォークリフト、建設機械、農耕機具その他、地上を移動する各種の輸送機器に装備されるタイヤを構成するタイヤコードのほか、ベルトコード、ホース補強材その他の用途に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1……タイヤ
2……ゴム本体
2a……トレッド部
2b、2c……サイドウォール部
2d、2e……ビード部
3……ブレーカーコード(タイヤコード)
4……カーカスコード(タイヤコード)
5……ホイールリム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリエステル繊維を含むゴム補強材であって、
前記液晶ポリエステル繊維が、以下の式(1)で表される構造単位、以下の式(2)で表される構造単位および以下の式(3)で表される構造単位を有する液晶ポリエステルであって、全構造単位の合計含有量に対して、2,6−ナフタレンジイル基を含む構造単位の含有量が40モル%以上である液晶ポリエステルから構成されることを特徴とするゴム補強材。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−O−Ar3 −O−
(式中、Ar1 は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基または4,4’−ビフェニレン基を表す。Ar2 およびAr3 は、それぞれ独立に、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基または4,4’−ビフェニレン基を表す。Ar1 、Ar2 またはAr3 で表される基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基で置換されていてもよい。)
【請求項2】
前記液晶ポリエステル繊維を含む不織布からなる請求項1に記載のゴム補強材。
【請求項3】
前記液晶ポリエステル繊維は、表面処理が施された繊維である請求項1または2に記載のゴム補強材。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のゴム補強材を含むタイヤコード。
【請求項5】
請求項4に記載のタイヤコードを有するタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2012−31556(P2012−31556A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141822(P2011−141822)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】