説明

ゴム補強用スチールコード及びその製造方法

【課題】溶融亜鉛めっきを施したスチールコードのゴムとの経時的老化接着性を向上するようにしたゴム補強用スチールコード及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】溶融亜鉛めっき処理されたスチールコードであり、その溶融亜鉛めっき層の酸化亜鉛被膜の厚さを0.5〜8.0nmにしたゴム補強用亜鉛めっきスチールコードであり、また、原料のスチールワイヤを伸線した後、そのスチールワイヤを亜鉛の融点以上に加熱しながら表面に溶融亜鉛めっきを施し、引き続き、溶融亜鉛めっき直後のスチールワイヤに水冷または空冷処理を施して、前記溶融亜鉛層の表面の酸化亜鉛被膜層の厚さを0.5〜8.0nmに制御するゴム補強用亜鉛めっきスチールコードの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム補強用スチールコード及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、溶融亜鉛めっきを施したスチールコードのゴムとの経時老化接着性を向上するようにしたゴム補強用スチールコード及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンベヤベルトなどのゴム補強材として使用されるスチールコードは、ゴムとの接着性、耐腐食性を良くするために亜鉛めっきが施されている。この亜鉛めっきは、特に耐腐食性の点から厚めっきとするのが良いため、この厚めっきが容易な溶融めっき法(亜鉛の融点419.5℃以上でめっき処理をする)が主に採用されてきた(特許文献1など)。
【0003】
しかし、亜鉛は活性の高い金属であるため、めっき処理後の亜鉛めっき層の表面には厚い酸化亜鉛被膜が形成されやすく、その酸化亜鉛被膜層は内側の純亜鉛層に比べて密度が低いため、湿熱環境下にてゴム中の水分の影響を受けて成長し、層内破壊および下層に存在する純亜鉛層との境界面で破壊が起こり、その結果、ゴムとの接着性が経時老化により低下してしまい、ゴム補強材としての機能を発揮できなくなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−92837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上述した問題点を解消し、溶融亜鉛めっきを施したスチールコードのゴムとの経時的老化接着性を向上するようにしたゴム補強用スチールコード及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成する本発明のゴム補強用亜鉛めっきスチールコードは、以下の(1)の構成を有する。
(1)溶融亜鉛めっき処理されたスチールコードであり、その溶融亜鉛めっき層の酸化亜鉛被膜の厚さを0.5〜8.0nmにしたゴム補強用亜鉛めっきスチールコード。
【0007】
かかる本発明のゴム補強用亜鉛めっきスチールコードにおいて、好ましくは以下の(2)の構成とするのがよい。
(2)前記溶融亜鉛めっきのめっき厚さを1μm〜10μmとした上記(1)に記載のゴム補強用亜鉛めっきスチールコード。
【0008】
また、上述した目的を達成する本発明のゴム補強用亜鉛めっきスチールコードの製造方法は、以下の(3)の構成を有する。
(3)原料のスチールワイヤを伸線した後、そのスチールワイヤを亜鉛の融点以上に加熱しながら表面に溶融亜鉛めっきを施し、引き続き、溶融亜鉛めっき直後のスチールワイヤに水冷または空冷処理を施して、前記溶融亜鉛層の表面の酸化亜鉛被膜層の厚さを0.5〜8.0nmに制御するゴム補強用亜鉛めっきスチールコードの製造方法。
【0009】
かかる本発明のゴム補強用亜鉛めっきスチールコードの製造方法において、好ましくは以下の(4)の構成とするのがよい。
(4)前記空冷処理において不活性ガスを使用する上記(3)に記載のゴム補強用亜鉛めっきスチールコードの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、溶融亜鉛めっき層の表面の酸化亜鉛被膜層の厚さを0.5nm〜8nmと非常に薄くしたので、湿熱環境下における酸化亜鉛被膜層の成長を著しく小さいレベルに抑制する結果、酸化亜鉛被膜層内での破壊や下層の純亜鉛層との境界面での破壊の発生が少なくなるため、ゴムとの経時老化接着性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のゴム補強用スチールコードを構成するスチールワイヤの溶融亜鉛めっき層の断面図であり、(A)はゴム製品に使用する前、(B)は使用後をそれぞれ示す。
【図2】従来のゴム補強用スチールコードを構成するスチールワイヤの溶融亜鉛めっき層の断面図であり、(A)はゴム製品に使用する前、(B)は使用後をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のゴム補強用スチールコードについて、詳しく説明する。
【0013】
図1は、本発明のゴム補強用スチールコードの実施形態を示し、このうち(A)はゴム製品の補強材に使用する前の状態を示し、(B)はゴム製品に補強材に使用後の状態を示す。
【0014】
1は素線のスチールワイヤであり、その表面に溶融亜鉛めっき層2が形成されている。このように溶融亜鉛めっき層2が形成されたスチールコード1は、複数本が撚り合わされることにより撚り線のスチールコードに形成される。
【0015】
上記スチールワイヤ1表面の溶融亜鉛めっき層2は、純亜鉛層2aを中間に配置して、その両側のうちのスチールワイヤ1側に鉄/亜鉛合金層2bを形成し、反対の表面側に酸化亜鉛被膜層2cを形成するように構成されている。この溶融亜鉛めっき層2の構成おいて、ゴム製品の補強材に使用される前の図1(A)の状態においては、溶融亜鉛めっき層2の厚さは、良好な耐腐食性及びゴムとの接着性を得るために3μm〜6μm程度にしてある。
【0016】
さらに、酸化亜鉛被膜層2cの厚さtがゴム製品の補強用に使用される前の図1(A)の状態で、0.5〜8.0nm、好ましくは0.5〜4.0nm、更に好ましくは0.5〜3.0nmの極く薄い状態になるように設定されている。
【0017】
一方、図2(A)に示す従来のスチールコードでは、後述する本発明の製造方法により製造されていないため、酸化亜鉛被膜層2cの厚さtが10nm以上になっていた。そのため、溶融亜鉛めっき層2の表面にRFLなどのゴム接着反応層3を被覆処理した後にゴム製品の補強材として使用されると、10nm以上にも厚さの大きい酸化亜鉛被覆層2cは、図2(B)に示すように、湿熱環境下で吸湿により厚さが著しく成長してt’となり、その結果として、層内や純亜鉛層2aとの境界面にクラックCを発生し、経時的に接着性を低下させていく現象があった。
【0018】
本発明のスチールコードは、酸化亜鉛被膜層2cの厚さtが、ゴム製品の補強用に使用される前の図1(A)における状態で、前述したように8.0nm以下の極く薄い状態に設定しているため、図1(B)に示すように、ゴム製品の補強材として使用後の酸化亜鉛被膜層2cの厚さt’の成長が僅かな量になるように抑制される。その結果、ゴムとの経時的劣化接着性を向上することができる。
【0019】
本発明のスチールコードを製造するには、スチールワイヤの製造工程において、通常の方法により溶融めっき処理を行った後に、直ちに亜鉛の酸化を抑制する処理を行うことにより製造することができる。スチールワイヤからの製造工程としては、まず、原料のスチールワイヤを酸洗した後、原料伸線を行う。次いで伸線を施したスチールワイヤの表面に熱処理しながら溶融亜鉛めっきを行う。この溶融亜鉛めっきの直後に、上記亜鉛の酸化を抑制する処理を行う。その後、最終伸線工程、撚り線工程を行い、スチールコードにする。
【0020】
亜鉛の酸化を抑制する処理は、溶融亜鉛めっき処理をした後、直ちに、水冷もしくは空冷により冷却をする。また、空冷処理の場合は、窒素、アルゴンなどの不活性ガスを雰囲気中に混合して冷却するとよく、酸化の抑制を一層効果的に行うことができる。
このように溶融亜鉛の酸化を抑制することにより、酸化亜鉛被膜層2cの厚さを0.5〜8.0mmに抑制することができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により具体的に本発明の構成、効果について説明する。
【0022】
なお、本発明において酸化亜鉛被膜の厚さtは、以下の方法により求めたものである。
【0023】
また、実施例で採用した評価法は、以下の(2)のとおりである。
(1)酸化亜鉛被膜の厚さt
溶融亜鉛めっき処理をして、最終伸線処理をした後のスチールワイヤをAES(オージェ電子分光法)を用いた下記手法により分析して、酸化亜鉛被膜の厚さtを求める。
【0024】
Ar+イオンを用いて、スチールワイヤ表面を一定の処理速度、標準試料SiO2 換算で1nm/minの条件にてスパッタ処理して、そのスパッタ処理が、標準試料SiO2 換算で0.5nm進む毎に、同時に、ターゲット範囲を100μm〜200μm×100μm〜200μmとし、500eVのX線を照射した際に、試料から放出される二次電子のうち、亜鉛と酸化亜鉛のオージェ電子スペクトルにより、亜鉛と酸化亜鉛の濃度比率を求めていく。
【0025】
具体的には、亜鉛のオージェ電子スペクトロを495ev、酸化亜鉛のオージェ電子スペクトロを501eVとして、それぞれのピーク強度におけるカウント数(それぞれの濃度)を求め、めっき最表面からの深さ0.5nmごとの亜鉛と酸化亜鉛のそれぞれの濃度曲線を描く。その濃度曲線で示される亜鉛濃度が酸化亜鉛濃度を超える交差点位置の深さ(めっき最表面からの深さ)を酸化亜鉛被膜の厚さt(nm)とする。なお、濃度曲線は、隣接プロット点の中心と中心を直線で結ぶ折れ線として引くものである。
【0026】
(2)経時老化接着性
溶融亜鉛めっきスチールコード7x7構成、φ2.0mmで補強されたコンベヤベルト用ゴム構造体を製造し、雰囲気条件(50℃、95%RH)下に置いて1週間〜5週間後に取り出して、コード引き抜き試験を実施して、引抜力およびゴム付着率を求めた。
【0027】
3週間後にゴム付着率が60%未満を「不可」とし、60%以上を「可」とした。また5週間後にゴム付着率が60%以上を「優秀」の3段階で評価した。かかる評価基準について、表1ではそれぞれ「×」、「○」、「◎」と表記した。
【0028】
(3)湿熱老化性
溶融亜鉛めっきスチールコード7x7構成φ2.0mmで補強されたコンベヤベルト用ゴム構造体を製造し、雰囲気条件(50℃、95%RH)下に置いて1週間〜5週間後に取り出して、コード引き抜き試験を実施して、引抜力およびゴム付着率を求めた。
【0029】
ゴム付着率が0%以上30%未満を「不可」とし、30%以上60%未満を「不良」とした。また、60%以上80%未満を「可」、80%以上100%未満を「優」とし4段階で評価した。それら評価基準について、表1ではそれぞれ「×」、「△」、「○」、「◎」と表記した。
【0030】
(4)引抜力
引張り試験機を用いて、コンベヤベルト用ゴム構造体よりスチールコードを引き抜いて、その引き抜き力を測定した。
【0031】
(5)ゴム付着率
引き抜いた後のコード表面を目視にて観察して、ゴム付着率を求めた。
【0032】
実施例1〜3、比較例
スチールワイヤとして、溶融亜鉛めっきの直後に水冷処理を施すことにより、酸化亜鉛被膜層の厚さが2.5nm、3.5nm、7.5nmの溶融亜鉛めっき層を有するスチールコード(実施例1、2、3)と、溶融亜鉛めっき直後に水冷処理を十分に施さず、酸化亜鉛被膜層の厚さが10.5nmのスチールコード(比較例)とを製造した。
【0033】
これら4種の溶融亜鉛めっきスチールコードを用いて、それぞれ20mm×100mm×5mmのベルトサンプルを作り、これらの引抜力及びゴム付着率、並びに経時劣化接着性と湿熱老化性を評価した。その結果は表1のとおりであった。
【0034】
本発明によるものは、接着性とその接着性の経時老化性、湿熱老化性の点で比較例のものよりもバランス良く優れていることがわかる。
【0035】
【表1】

【符号の説明】
【0036】
1:スチールワイヤ
2:溶融亜鉛めっき層
2a:純亜鉛層
2b:鉄/亜鉛合金層
2c:酸化亜鉛被膜層
3:ゴム接着反応層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融亜鉛めっき処理されたスチールコードであり、その溶融亜鉛めっき層の酸化亜鉛被膜の厚さを0.5〜8.0nmにしたゴム補強用亜鉛めっきスチールコード。
【請求項2】
前記溶融亜鉛めっきのめっき厚さを1μm〜10μmとした請求項1に記載のゴム補強用亜鉛めっきスチールコード。
【請求項3】
原料のスチールワイヤを伸線した後、そのスチールワイヤを亜鉛の融点以上に加熱しながら表面に溶融亜鉛めっきを施し、引き続き、溶融亜鉛めっき直後のスチールワイヤに水冷または空冷処理を施して、前記溶融亜鉛層の表面の酸化亜鉛被膜層の厚さを0.5〜8.0nmに制御するゴム補強用亜鉛めっきスチールコードの製造方法。
【請求項4】
前記空冷処理において不活性ガスを使用する請求項3に記載のゴム補強用亜鉛めっきスチールコードの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−149130(P2011−149130A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12326(P2010−12326)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】