説明

ゴム配合用被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂

【課題】 あらかじめフェノール樹脂中にシリカ微粒子を分散させることにより、ゴム混練り中のシリカ凝集を抑制し、シリカの高い分散状態を保つことで、タイヤのウェットグリップ性能および低転がり抵抗性を高度に両立することに貢献するゴム配合用被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂を得ることを目的とする。
【解決手段】 ゴム配合用被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂であって、前記被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂が、フェノール樹脂(a)と、シリカ微粒子(b)をあらかじめ有機ケイ素化合物(c)により被覆した被覆シリカ微粒子(d)とを有し、前記シリカ微粒子(b)の含有量が、フェノール樹脂固形分に対して1〜500重量%であることを特徴とする、ゴム配合用被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム配合用被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂は、自動車や航空機用のタイヤへの配合をはじめ、土木・建築用材料、各種工業製品材料、汎用日用品など様々な種類の用途に用いられている。これらの中でも、自動車用タイヤなどに用いられるゴム材料には、原料ゴムに様々な添加剤を加えた複合材料が使用され、要求される耐摩耗性、耐クラック性、耐外傷性、低発熱性など種々の特性向上が試みられている。
例えば、タイヤの主原料であるゴムには、BR(ブタジエンゴム)、SBR(スチレン−ブタジエンゴム)などの各種合成ゴムや天然ゴムが用いられるが、これらのゴム材料に、タイヤ用途に適した耐摩耗性能や機械的強度を与えるためには、フェノール樹脂のような弾性率の高い熱硬化性樹脂を配合したり、硫黄、加硫促進剤、カーボンブラック等の配合剤を多量に配合したりする方法などが実施されている。
【0003】
また、近年、環境保護の観点から、タイヤの低転がり抵抗性は重要な性能となっている。一方で、安全面への配慮からウェットグリップ性能との高度な両立が求められている。これらの性能を両立させるための方策として、タイヤのトレッドゴム部にシリカを配合する手法が知られている(例えば特許文献1参照)。しかしながら、シリカ粒子はその表面のシラノール基同士の水素結合によって凝集しやすく、ゴム中での分散が不十分になるため、十分な効果が得られているとは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−204198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、あらかじめフェノール樹脂中にシリカ微粒子を分散させることにより、ゴム混練り中のシリカ凝集を抑制し、シリカの高い分散状態を保つことで、タイヤのウェットグリップ性能および低転がり抵抗性を高度に両立することに貢献するゴム配合用シリカ微粒子分散フェノール樹脂を得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、以下の本発明[1]〜[7]により達成される。
[1]ゴム配合用被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂であって、前記被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂が、フェノール樹脂(a)と、シリカ微粒子(b)をあらかじめ有機ケイ素化合物(c)により被覆した被覆シリカ微粒子(d)とを有し、前記シリカ微粒子(b)の含有量が、フェノール樹脂固形分に対して1〜500重量%であることを特徴とする、ゴム配合用被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂。
[2]前記被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂中における前記被覆シリカ微粒子(d)の平均粒子径は、5〜100nmである上記[1]に記載のゴム配合用被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂。
[3]前記被覆シリカ微粒子(d)は、予め前記シリカ微粒子(b)を有機溶媒に分散させたスラリー状溶液と、前記有機ケイ素化合物(c)とを混合して得られるものである上記[1]〜[2]のいずれかに記載のゴム配合用被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂。[4]前記フェノール樹脂(a)がノボラック型フェノール樹脂である上記[1]〜[3
]のいずれかに記載のゴム配合用被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂。
[5]前記有機ケイ素化合物(c)は、アルコキシシラン類を含むものである上記[1]〜[4]のいずれかに記載のゴム配合用被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂。
[6]前記有機ケイ素化合物(c)の含有量は、前記シリカ微粒子(b)全体に対して0.5〜100重量%である上記[1]〜[5]のいずれかに記載のゴム配合用被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂。
[7]トレッドゴム配合用である上記[1]〜[6]のいずれかに記載のゴム配合用被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂。
【発明の効果】
【0007】
本発明のゴム配合用シリカ微粒子分散フェノール樹脂をトレッドゴムに配合することにより、シリカ微粒子の凝集を抑制し、ウェットグリップ性能および低転がり抵抗性を高度に両立するタイヤを得ることに貢献することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、フェノール樹脂(a)と、シリカ微粒子(b)をあらかじめ有機ケイ素化合物(c)により被覆した被覆シリカ微粒子(d)とを含むゴム配合用被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂であり、前記のシリカ微粒子(b)の含有量がフェノール樹脂(a)に対し、1〜500重量%あることを特徴とする。前記有機ケイ素化合物(c)はアルコキシシラン類を含むことが好ましく、有機ケイ素化合物(c)の含有量は、前記シリカ微粒子(b)に対して0.5〜100重量%であることが好ましい。また被覆シリカ微粒子(d)の平均粒子径は、フェノール樹脂(a)中で5〜100nmであることが好ましい。本発明のゴム配合用被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂を用いることで、シリカ凝集を抑制し、ウェットグリップ性能および低転がり抵抗性を高度に両立するタイヤを得ることに貢献することができる。
【0009】
以下に本発明について詳細に説明する。
まず本発明のゴム配合用被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂を構成する各成分について述べる。
【0010】
本発明に用いるフェノール樹脂(a)は、フェノール類とアルデヒド類とを反応させて合成する。
【0011】
前記フェノール樹脂(a)を得るために用いるフェノール類としては、例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール等のクレゾール類、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール等のキシレノール類、o−エチルフェノール、m−エチルフェノール、p−エチルフェノール等のエチルフェノール類、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、p−tert−ブチルフェノール等のブチルフェノール類、p−tert−アミルフェノール、p−オクチルフェノール、p−ノニルフェノール、p−クミルフェノール等のアルキルフェノール類、フルオロフェノール、クロロフェノール、ブロモフェノール、ヨードフェノール等のハロゲン化フェノール類、p−フェニルフェノール、アミノフェノール、ニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール等の1価フェノール置換体、及び、1−ナフトール、2−ナフトール等の1価のフェノール類、レゾルシン、アルキルレゾルシン、ピロガロール、カテコール、アルキルカテコール、ハイドロキノン、アルキルハイドロキノン、フロログルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ジヒドロキシナフタリン等の多価フェノール類などが挙げられる。これらを単独あるいは2種以上を混合して使用することができる。
これらのフェノール類の中でも、ゴムとの相溶性がよいp−tert−アミルフェノー
ル、p−オクチルフェノール、p−ノニルフェノール、p−クミルフェノール等のアルキルフェノール類を用いることが好ましい。
【0012】
また、前記フェノール樹脂(a)に用いられるアルデヒド類としては、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ポリオキシメチレン、クロラール、ヘキサメチレンテトラミン、フルフラール、グリオキザール、n−ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、テトラオキシメチレン、フェニルアセトアルデヒド、o−トルアルデヒド、サリチルアルデヒド等が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0013】
前記フェノール樹脂(a)の合成方法としては、例えば、ノボラック型であれば、上述したフェノール類、及びアルデヒド類を、酸性触媒の存在下で反応させた後、脱水工程により水を除去して得ることができ、レゾール型であれば、上述したフェノール類、及びアルデヒド類を、アルカリ性触媒の存在下で反応させることによって得ることができる。
【0014】
ノボラック型フェノール樹脂を合成する際に用いる酸性触媒としては、蓚酸、塩酸、硫酸、ジエチル硫酸、パラトルエンスルホン酸等の酸類、酢酸亜鉛等の金属塩類を単独または2種類以上併用して使用できる。
前記酸性触媒の使用量としては、フェノール類1モルに対して、通常、0.001〜0.05モルとすることができる。
【0015】
レゾール型フェノール樹脂を合成する際に用いるアルカリ性触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、アンモニア水、トリエチルアミンなどの第3級アミン、カルシウム、マグネシウム、バリウムなどアルカリ土類金属の酸化物及び水酸化物、炭酸ナトリウム、ヘキサメチレンテトラミンなどのアルカリ性物質等を単独または2種類以上併用することができる。
前記アルカリ性触媒の使用量としては特に限定されないが、フェノール類1モルに対して、通常、0.01〜0.1モルとすることができる。
【0016】
本発明に用いるフェノール樹脂の合成において、フェノール類とアルデヒド類との反応モル比としては、フェノール類1モルに対して、アルデヒド類0.50〜3.00モルとすることが好ましい。さらに好ましくは、アルデヒド類0.55〜2.50モルであり、より好ましくは、アルデヒド類0.60〜2.10モルである。
【0017】
本発明に用いるフェノール樹脂は、レゾール型、ノボラック型のいずれも適用することができるが、ノボラック型を適用することがより好ましい。ノボラック型のフェノール樹脂は熱安定性が高いので、本発明のゴム配合用シリカ微粒子分散フェノール樹脂を調製する際の作業性を向上させることができる。
【0018】
前記シリカ微粒子(b)の平均粒子径は、1〜100nmが好ましく、更に好ましくは20〜80nmである。前記粒子径の下限よりも粒子径が小さい場合には、シリカ微粒子が凝集しやすく、また、前記粒子径上限よりも大きい場合には、ゴムに配合した場合に加工性が低下することがある。
【0019】
本発明のゴム配合用シリカ微粒子分散フェノール樹脂は、被覆シリカ微粒子(d)の含有量が、フェノール樹脂固形分に対して1〜500重量%であることを特徴とする。含有量を大幅に増加させても、シリカ微粒子が凝集することなく前記フェノール樹脂(a)中に分散させることができる。
【0020】
本発明のゴム配合用被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂に用いる有機ケイ素化合物(c)は、特に限定されないが、シリカ微粒子(b)と加水分解縮合物を形成でき、表面を被覆できるものであることが好ましい。シリカ微粒子(b)と加水分解縮合物を形成するものとしては特に限定されないが、アルコキシシラン類を含むものであることが好ましい。有機ケイ素化合物がシリカ微粒子と加水分解縮合物を形成することにより、シリカ微粒子表面を強固に被覆し、後述の被覆シリカ微粒子(d)をフェノール樹脂(a)に分散した場合、樹脂とシリカ微粒子表面の極性が近くなることから、なじみが高くなり、樹脂中における被覆シリカ微粒子(d)の分散性を向上させることができる。
【0021】
シリカ微粒子(b)と加水分解縮合物を形成する有機ケイ素化合物(c)としては、アルコキシシラン類とハロゲン化シラン類およびアミノシラン類があり、好ましくはアルコキシシラン類である。
アルコキシシラン類とは例えば、ビニルトリアルコキシシラン、2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリアルコキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリアルコキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジアルコキシシラン、p−スチリルトリアルコキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジアルコキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリアルコキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジアルコキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリアルコキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジアルコキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリアルコキシシラン、3−アミノプロピルトリアルコキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリアルコキシシラン、3−ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、3−クロロプロピルトリアルコキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジアルコキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリアルコキシシラン、テトラアルコキシシラン、メチルトリアルコキシシラン、ジメチルジアルコキシシラン、フェニルトリアルコキシシラン、ヘキシルトリアルコキシシラン、デシルトリアルコキシシラン、ジフェニルジアルコキシシラン、トリイソプロピルアルコキシシラン、などを用いることができ、アルコキシシラン類のアルコキシル基としては特に限定されないが、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピル基などが挙げられる。特に好ましくは、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシランなどである。これにより、シリカ微粒子との加水分解縮合物形成時のイオン性副生成物の生成を抑制することができるため、特に効率よくシリカ微粒子とフェノール樹脂との親和性を向上させることができる。なおハロゲン化シラン類としてビニルトリクロルシラン、トリイソプロピルシリルクロライド、アミノシラン類としてヘキサメチルジシラザン、3−トリエトキシシリル−N−(1、3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン等がある。
【0022】
本発明のゴム配合用被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂においては、予め、前記シリカ微粒子(b)と有機ケイ素化合物(c)とを混合させ、前記シリカ微粒子(b)の少なくとも一部に前記有機ケイ素化合物(c)が被覆した被覆シリカ微粒子(d)を含むことを特徴とする。
こうすることで、被覆シリカ微粒子(d)を凝集を起こすことなく、フェノール樹脂(a)に均一に分散することができる。
【0023】
前記有機ケイ素化合物(c)は、シリカ微粒子(b)表面の少なくとも一部に被覆することができる量であればよく、シリカ微粒子(b)全体に対して0.5〜100重量%添加することが好ましい。更に好ましくは1〜80重量%である。有機ケイ素化合物(c)の含有量を前記範囲とすることで、フェノール樹脂(a)との親和性に優れる被覆シリカ微粒子(d)を得ることができる。
【0024】
前記被覆シリカ微粒子(d)の表面被覆の方法は、特に限定されないが、予め、前記シリカ微粒子(b)を水及び/又は有機溶媒に分散させたスラリー状溶液と、前記有機ケイ素化合物(c)とを混合することが好ましい。前記方法は、前記シリカ微粒子(b)を水及び/又は有機溶媒に分散させたスラリー状溶液に有機ケイ素化合物(c)を直接添加しても良いし、有機ケイ素化合物(c)を水及び/又は有機溶媒で希釈してからシリカ微粒子(b)のスラリー状溶液に添加しても良い。これにより、シリカ微粒子(b)の乾燥による凝集を防ぎ、また、有機ケイ素化合物(c)による処理を迅速かつ確実に行うことができる。また、シリカ微粒子(b)や、有機ケイ素化合物(c)に応じて、pH調整等を行ってから添加してもかまわない。混合方法については特に限定されないが、たとえば、攪拌装置を備えたプラスチック容器、金属容器等でこれらを混合することにより、シリカ微粒子の表面を被覆することができる。必要に応じて、加熱、冷却等の処理を行っても良く、また、処理の最中にホモジナイザー等で剪断力をかけてもかまわない。
【0025】
前記被覆シリカ微粒子(d)のフェノール樹脂(a)への配合方法は特に限定されないが、予め、前記被覆シリカ微粒子(d)を水及び/又は有機溶媒に分散させたスラリー状溶液を、前記フェノール樹脂(a)中に分散させることが好ましい。更に好ましくはフェノール樹脂(a)を加熱して液状化、ないしは水、有機溶媒、水と有機溶媒の混合溶媒等に溶解させ液状化させた後、被覆シリカ微粒子(d)のスラリー状溶液を添加することが好ましい。また、表面処理を行ったシリカ微粒子スラリー状溶液を、液状化したフェノール樹脂へ添加しても良いし、シリカ微粒子スラリー状溶液へ液状化したフェノール樹脂を添加してもかまわない。こうすることで、均一に前記被覆シリカ微粒子(d)をフェノール樹脂(a)中に分散させることができる。
混合方法については特に限定されないが、たとえば、攪拌装置を備えたガラス容器、プラスチック容器、金属容器等でこれらを混合することにより、被覆シリカ微粒子(d)をフェノール樹脂(a)中に分散させることができる。必要に応じて、加熱、冷却等の処理を行っても良く、また、処理の最中にホモジナイザー等で剪断力をかけてもかまわない。
【0026】
前記有機溶媒としては特に限定されないが、フェノール樹脂(a)が可溶な有機溶媒であり、且つ有機ケイ素化合物(c)が可溶な親水性溶媒を用いることが好ましい。例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエーテルケトン、メチルイソブチルケトンのようなケトン類、アセトニトリル、エチレングリコールなどを用いることができる。
【0027】
本発明のゴム配合用被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂中の被覆シリカ微粒子(d)の平均粒子径は、5〜100nmであることが好ましい。更に好ましくは30〜70nmである。前記粒子径の下限よりも粒子径が小さい場合には、シリカ微粒子が凝集しやすく、また、前記粒子径上限よりも大きい場合には、ゴムに配合した場合に加工性が低下することがある。前記粒子径範囲にすることにより、多量のシリカ微粒子をフェノール樹脂中に凝集することなく分散させることができる。
【0028】
前記シリカ微粒子(b)及び被覆シリカ微粒子(d)の平均粒子径の測定方法としては、例えば、動的光散乱式粒度分布測定装置、レーザー回折/散乱式粒子径測定装置等により測定することができる。
市販の装置としては、例えば、平均粒子径1μm以下の粒子径測定には動的光散乱式粒度分布測定装置(Malvern社製「Zetasiser nano zs」)を、平均粒子径1μm以上の粒子径測定にはレーザー回折/散乱式粒子径測定装置(堀場製作所製「LA−920」)を使用することができる。
【0029】
前記シリカ微粒子(b)の平均粒子径は、メタノールないしは水に混合したシリカ微粒子(b)を添加した分散液、またはあらかじめ分散液である場合はその分散液のみでも測
定することができる。
前記分散フェノール樹脂中の被覆シリカ微粒子(d)の平均粒子径は、メタノールに混合した前記分散フェノール樹脂を添加し、溶解させることにより、測定することができる。
【0030】
本発明の被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂は、タイヤのトレッドゴム配合用に好適に用いることができるものである。これにより、ゴム配合組成物中におけるシリカ凝集を抑制し、ウェットグリップ性能および低転がり抵抗性を高度に両立するタイヤを得ることができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
ここに記載されている「部」は「重量部」を、「%」は「重量%」を示す。
【0032】
(樹脂合成例1)
攪拌機及び温度計を備えた三口フラスコ中に、フェノール1000部、37%ホルマリン100部、蓚酸7部を仕込み、この混合物を、100℃で3時間反応させた。その後、反応混合物の温度が140℃になるまで、常圧蒸留で脱水し、更に、0.9kPaまで、徐々に減圧しながら、反応混合物の温度が180℃になるまで減圧蒸留で脱水し、ノボラック型ストレートフェノール樹脂1010部を得た。
【0033】
(樹脂合成例2)
攪拌機及び温度計を備えた三口フラスコ中に、p−オクチルフェノール1000部、37%ホルマリン250部、蓚酸5部を仕込み、この混合物を、100℃で3時間反応させた。その後、反応混合物の温度が140℃になるまで、常圧蒸留で脱水し、更に、0.9kPaまで、徐々に減圧しながら、反応混合物の温度が160℃になるまで減圧蒸留で脱水し、ノボラック型p−オクチルフェノール樹脂1010部を得た。
【0034】
(実施例1)
攪拌機を備えたステンレス製の金属容器中で、有機ケイ素化合物(c)としてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(A−187、日本ユニカー株式会社)6部と、シリカ微粒子(b)としてシリカスラリー状溶液(IPA−ST−L、日産化学工業株式会社、シリカ含有率30%、粒子径50nm)100部(固形分で30部)とを混合し、被覆シリカ微粒子(d)のスラリー状溶液A106部を得た。
樹脂合成例1で得たストレートフェノール樹脂12部を、攪拌機及び温度計を備えた三口フラスコ中でメチルイソブチルケトン108部に溶解させ、ここに、上記で得られた被覆シリカ微粒子(d)のスラリー状溶液A106部をゆっくりと添加した。その後140℃まで昇温後、常圧蒸留で脱水、脱溶剤し、更に、0.9kPaまで、徐々に減圧しながら、温度が150℃になるまで減圧蒸留で脱水し、被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂42部を得た。この時、動的光散乱式粒度分布測定装置(Malvern社製「Zetasiser nano zs」)で樹脂中のシリカ粒子の粒子径を測定したところ60nmであった。
【0035】
(実施例2)
実施例1において、ストレートフェノール樹脂を樹脂合成例2で得たp−オクチルフェノール樹脂に変えた以外は、実施例1と同様に操作を行い、シリカ粒子の粒子径52nmの被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂42部を得た。
【0036】
(実施例3)
実施例1において、ストレートフェノール樹脂を樹脂合成例2で得たp−オクチルフェ
ノール樹脂に変え、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(A−187、日本ユニカー株式会社)6部を12部に、シリカスラリー状溶液(IPA−ST−L、日産化学工業株式会社、シリカ含有率30%、粒子径50nm)100部を200部に変えた以外は、実施例1と同様に操作を行い、シリカ粒子の粒子径73nmの被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂72部を得た。
【0037】
(実施例4)
実施例1において、ストレートフェノール樹脂を樹脂合成例2で得たp−オクチルフェノール樹脂に変え、シリカスラリー状溶液(IPA−ST−L、日産化学工業株式会社、シリカ含有率30%、粒子径50nm)をシリカスラリー状溶液(IPA−ST−ZL、日産化学工業株式会社、シリカ含有率30%、粒子径85nm)に変えた以外は、実施例1と同様に操作を行い、シリカ粒子の粒子径89nmの被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂42部を得た。
【0038】
(実施例5)
実施例1において、ストレートフェノール樹脂を樹脂合成例2で得たp−オクチルフェノール樹脂に変え、シリカスラリー状溶液(IPA−ST−L、日産化学工業株式会社、シリカ含有率30%、粒子径50nm)をシリカスラリー状溶液(IPA−ST、日産化学工業株式会社、シリカ含有率30%、粒子径15nm)に変えた以外は、実施例1と同様に操作を行い、シリカ粒子の粒子径65nmの被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂42部を得た。
【0039】
(比較例1)
樹脂合成例2で得たp−オクチルフェノール樹脂12部を、攪拌機及び温度計を備えた三口フラスコ中でメチルイソブチルケトン108部に溶解させ、ここに、シリカスラリー状溶液(IPA−ST−L、日産化学工業株式会社、シリカ含有率30%、粒子径50nm)100部(固形分で30部)をゆっくりと添加した。その後140℃まで昇温後、常圧蒸留で脱水、脱溶剤し、更に、0.9kPaまで、徐々に減圧しながら、温度が150℃になるまで減圧蒸留で脱水し、シリカ分散フェノール樹脂42部を得た。実施例1で用いたのと同じ動的光散乱式粒度分布測定装置で樹脂中のシリカ粒子の粒子径を測定したところ504nmであった。
【0040】
実施例1〜5の本発明の被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂と、比較例1のシリカ分散フェノール樹脂について、表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1の結果から明らかなように、シリカ微粒子をあらかじめ有機ケイ素化合物により被覆することで、フェノール樹脂中に分散することができた。有機ケイ素化合物を用いなかった比較例1については、シリカ微粒子が凝集し、フェノール樹脂中に均一に分散しなかった。
【0043】
<ゴム配合組成物の製造>
前記実施例、比較例で得られたシリカ微粒子分散フェノール樹脂の特性を確認するため、ゴム配合組成物を調製し物性の評価を行った。
【0044】
(実施例11)
実施例1で得られた被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂を用い、表2に示す配合(重量部)で100℃で加熱混練したゴム配合組成物を油圧プレス装置にて160℃、20分間加硫して、厚さ2mmの加硫ゴムシートを作製した。
【0045】
(実施例12)
実施例1で得られた被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂の代わりに、実施例2で得られた被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂を用いた以外は、実施例11と同様にして加硫ゴムシートを作製した。
【0046】
(実施例13)
実施例1で得られた被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂の代わりに、実施例3で得られた被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂を用いた以外は、実施例11と同様にして加硫ゴムシートを作製した。
【0047】
(実施例14)
実施例1で得られた被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂の代わりに、実施例4で得られた被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂を用いた以外は、実施例11と同様にして加硫ゴムシートを作製した。
【0048】
(実施例15)
実施例1で得られた被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂の代わりに、実施例5で得られた被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂を用いた以外は、実施例11と同様にして加硫ゴムシートを作製した。
【0049】
(比較例11)
実施例1で得られた被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂の代わりに、比較例1で得られたシリカ分散フェノール樹脂を用いた以外は、実施例11と同様にして加硫ゴムシートを作製した。
【0050】
(比較例12)
実施例1で得られた被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂の代わりに、樹脂合成例1で得られた樹脂と湿式シリカを用いた以外は、実施例11と同様にして加硫ゴムシートを作製した。
【0051】
(比較例13)
実施例1で得られた被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂の代わりに、樹脂合成例2で得られた樹脂と湿式シリカを用いた以外は、実施例11と同様にして加硫ゴムシートを作製した。
【0052】
<ゴムシートの評価>
(1)硬度(ショアA)/JIS K6253に準拠して、東洋精機社製デュロメーターを用いて測定した。
(2)25%引張りモジュラス/JIS K6251に準拠して、東洋精機社製ストログラフを用いて引張速度50mm/分で測定した。
(3)tanδ(0℃)(ウェットグリップ性能)/JIS K6394に準拠して、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製DMS6100を用い、測定条件は引張りで、10Hzで0℃において測定した。結果は、比較例12のtanδを100として指数表示した。指数の値が大きいほど、ウェットグリップ性能が良好である。
(4)tanδ(50℃)(低転がり抵抗)/JIS K6394に準拠して、エスアイ
アイ・ナノテクノロジー社製DMS6100を用い、測定条件は引張りで、10Hzで50℃において測定した。結果は、比較例12のtanδの逆数を100として指数表示した。指数の値が大きいほど低転がり抵抗性が良好である。
(5)破断伸び/JIS K6251に準拠して、東洋精機社製ストログラフを用い、引張速度50mm/分で測定した。
測定結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
表2の結果から明らかなように、実施例11〜15で得られた本発明の被覆シリカ微粒
子分散フェノール樹脂を配合したゴム組成物は、比較例12および13で得られたフェノール樹脂とシリカを別々に配合したゴム組成物と比較して、転がり抵抗を低減することができた。また、ウェットグリップ性能も損なわれておらず、低転がり抵抗性と高度に両立できていた。また、実施例11のストレートノボラック型フェノール樹脂よりも実施例12のパラオクチルフェノール樹脂を用いたものの方がより効果があることが分かった。硬度、モジュラス、破断伸びはほぼ同等の性能を維持していた。
比較例11で得られた、有機ケイ素化合物を用いなかった比較例1の樹脂を配合したゴム組成物については、ウェットグリップ性能、低転がり抵抗性ともに悪化した。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂は、タイヤのトレッドゴムに配合することで、シリカ凝集を抑制し、ウェットグリップ性能および低転がり抵抗性を高度に両立するタイヤを得ることに貢献することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム配合用被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂であって、前記被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂が、フェノール樹脂(a)と、シリカ微粒子(b)をあらかじめ有機ケイ素化合物(c)により被覆した被覆シリカ微粒子(d)とを有し、前記シリカ微粒子(b)の含有量が、フェノール樹脂固形分に対して1〜500重量%であることを特徴とする、ゴム配合用被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂。
【請求項2】
前記被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂中における前記被覆シリカ微粒子(d)の平均粒子径は、5〜100nmである請求項1に記載のゴム配合用被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂。
【請求項3】
前記被覆シリカ微粒子(d)は、予め前記シリカ微粒子(b)を有機溶媒に分散させたスラリー状溶液と、前記有機ケイ素化合物(c)とを混合して得られるものである請求項1〜2のいずれかに記載のゴム配合用被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂。
【請求項4】
前記フェノール樹脂(a)がノボラック型フェノール樹脂である請求項1〜3のいずれかに記載のゴム配合用被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂。
【請求項5】
前記有機ケイ素化合物(c)は、アルコキシシラン類を含むものである請求項1〜4のいずれかに記載のゴム配合用被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂。
【請求項6】
前記有機ケイ素化合物(c)の含有量は、前記シリカ微粒子(b)全体に対して0.5〜100重量%である請求項1〜5のいずれかに記載のゴム配合用被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂。
【請求項7】
トレッドゴム配合用である請求項1〜6のいずれかに記載のゴム配合用被覆シリカ微粒子分散フェノール樹脂。

【公開番号】特開2011−63732(P2011−63732A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216329(P2009−216329)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】