説明

ゴルフクラブ用シャフトの製造方法

【課題】ブレーディング製法にて基材繊維を編組して形成した先細筒状の積層体の表面を、硬化後に研磨しても、強度低下を抑制してシャフト折れを防止できるゴルフクラブ用シャフトの製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂材料を含浸させた基材繊維をシャフト軸方向に対して所定の配向角度で編組することにより形成した筒状の編組層2a〜2cを複数積層して、先細筒状の積層体2を成形した後、その積層体2の表面のうち少なくとも先端部に保護材4を被覆して、積層体2を加熱することにより含浸させた樹脂材料を硬化させるとともに、保護材4を硬化させて積層体2と一体化させ、次いで、塗装等の後処理工程を行なう前に、硬化させた積層体2の表面を研磨するに際して、保護材4で被覆された領域は実質的に保護材4のみを研磨して滑らかにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ゴルフクラブ用シャフトの製造方法に関し、さらに詳しくは、ブレーディング製法にて基材繊維を編組して形成した先細筒状の積層体の表面を、硬化後に研磨しても、強度低下を抑制してシャフト折れを防止できるゴルフクラブ用シャフトの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴルフクラブ用シャフトの製造方法として、シートワインディング製法およびブレーディング製法が知られている(例えば、特許文献1参照)。シートワインディング製法では、樹脂材料を含浸させた基材繊維を一方向に多数並列したプリプレグシートを、マンドレルに巻きつけて先細筒状の積層体を成形する。ブレーディング製法では、マンドレル上で基材繊維をシャフト軸方向に対して対称の配向角度で編組させて編組層を形成し、この編組層を複数積層させて先細筒状の積層体を成形する。
【0003】
両製法ともに、積層体を成形した後は、基材繊維に含浸させた樹脂材料を硬化させ、次いで、硬化した積層体の表面を、例えば、シャフトの振動数調整や塗装等の後処理工程のために研磨する。次いで、研磨した積層体の表面に、塗装等を施してシャフトが完成する。
【0004】
ところで、ブレーディング製法では、積層体の編組層が基材繊維を上下に編み込むようにして構成されているので、シートワインディング製法の積層体に比べて研磨量が少なくても、研磨によって基材繊維が断線し易いという問題があった。特に、積層体の中で相対的に細径である先端部は、相対的に強度が低いので、基材繊維の断線は、製造したシャフトの折れを引き起こす大きな要因になる。そのため、ブレーディング製法を用いた場合には、硬化させた先細筒状の積層体の表面を研磨しても、強度低下を抑制してシャフト折れを防止することができる方法が必要であった。
【特許文献1】特開2002−177424号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ブレーディング製法にて基材繊維を編組して形成した先細筒状の積層体の表面を、硬化後に研磨しても、強度低下を抑制してシャフト折れを防止できるゴルフクラブ用シャフトの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明のゴルフクラブ用シャフトの製造方法は、樹脂材料を含浸させた基材繊維をシャフト軸方向に対して所定の配向角度で編組することにより形成した筒状の編組層を複数積層して、先細筒状の積層体を成形した後、この積層体を加熱することにより含浸させた樹脂材料を硬化させ、次いで、硬化させた積層体の表面を研磨した後に、後処理工程を行なうゴルフクラブ用シャフトの製造方法において、前記先細筒状の積層体を成形した後に、その積層体の表面のうち少なくとも先端部の領域に対して保護材を被覆して、積層体を加熱する際に、この保護材を硬化させて積層体と一体化させ、積層体の表面を研磨する際には、保護材で被覆された領域は実質的に保護材のみを研磨して滑らかにすることを特徴とするものである。
【0007】
本発明の別のゴルフクラブ用シャフトの製造方法は、樹脂材料を含浸させた基材繊維をシャフト軸方向に対して所定の配向角度で編組することにより形成した筒状の編組層を複数積層して、先細筒状の積層体を成形した後、この積層体を加熱することにより含浸させた樹脂材料を硬化させ、次いで、硬化させた積層体の表面を研磨した後に、後処理工程を行なうゴルフクラブ用シャフトの製造方法において、前記先細筒状の積層体を成形する際に、積層体の少なくとも先端部の領域に対して、積層体の最外層の編組層と、最外層から一層内周側の編組層との間に保護材を介挿させ、積層体を加熱する際に、この保護材を硬化させて積層体と一体化させ、積層体の表面を研磨する際には、保護材を介挿させた領域は実質的に保護材までを研磨して滑らかにすることを特徴とするものである。
【0008】
本発明では、保護材を積層体の先端から300mmの範囲にのみ被覆することもできる。また、保護材として、樹脂材料を含浸させた基材繊維を一方向に多数並列したプリプレグシートを用いることもできる。保護材の厚さは、例えば、0.05mm以上1.0mm以下にする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、樹脂材料を含浸させた基材繊維をシャフト軸方向に対して所定の配向角度で編組することにより形成した筒状の編組層を複数積層して成形した先細筒状の積層体の少なくとも先端部の領域に対して、積層体の表面または、積層体の最外層の編組層よりも一層内周側に保護材を設け、塗装等の後処理工程を行なう前に、硬化させた積層体の表面を研磨するに際して、保護材で表面を被覆された領域は実質的に保護材のみを研磨して滑らかにする、または、保護材を介挿させた領域は実質的に保護材までを研磨して滑らかにするので、わずかな研磨量であっても強度が低下し易い編組構造の積層体において相対的に細径であり、強度が低い先端部は、保護材により保護される。これにより、積層体の先端部の強度は、研磨によって当初の積層体よりも低下することがなくなるため、折れが生じ難いシャフトを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のゴルフクラブ用シャフト(以下、シャフト1という)の製造方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0011】
まず、図1、図2に例示する積層体2を成形するには、編組装置を用いて、長手方向一方端から他方端に向かって拡径したマンドレルの外周面を覆うように、樹脂材料を含浸させた複数の基材繊維3を、製造するシャフト1のシャフト軸方向(即ち、マンドレルの軸方向)に対して所定の配向角度aで編組させて巻き付けることにより筒状の第1編組層2aを形成する。第1編組層2aの外周面には、同様に第2編組層2bを形成し、第2編組層2bの外周面には、同様に第3編組層2cを形成する。このように、複数の編組層2a〜2cをシャフト軸心CLを中心にして同軸上に積層することにより、先細筒状の積層体2を成形する。
【0012】
この実施形態では、第1編組層2a、第2編組層2b、第3編組層2cの3層を積層して円筒状の積層体2を形成しているが、仕様に応じて適切な積層数が設定される。また、基材繊維3についても同様に適切な本数が設定される。基材繊維3の配向角度aについても適切な角度が設定される。配向角度aは、例えば、10°〜45°程度である。
【0013】
基材繊維3としては、炭素繊維、アラミド繊維、金属繊維、ガラス繊維、ボロン繊維等を例示できる。基材繊維3に含浸させる樹脂材料としては、熱硬化性樹脂、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等を用いる。
【0014】
先細筒状の積層体2を成形した後は、図1〜図3に例示するように、積層体2の表面のうち少なくとも先端部に保護材4を被覆する。積層体2(編組層2a〜2c)は、基材繊維3を上下に編み込むようにして構成されているので、表面がある程度凹凸状になっている。
【0015】
次いで、積層体2を加熱することにより含浸させた樹脂材料を硬化させる。この積層体2を加熱する際に、保護材4を硬化させて積層体2と一体化させる。
【0016】
保護材4は、積層体2の全長表面に被覆することもできるが、コスト高や重くなる等のデメリットがあるので、積層体2の先端部の領域を必ず被覆するようにすればよい。積層体2の先端部とは、相対的に細径であって強度不足によりシャフト1になった場合に打球衝撃で折れが生じやすいが領域である。例えば、積層体2の先端から300mmの範囲が積層体2の先端部である。したがって、積層体2の先端から300mmの範囲の表面のみに保護材4を被覆することもできる。
【0017】
保護材4としては、樹脂材料を含浸させた基材繊維を一方向に多数並列したプリプレグシート等を例示できる。その他、保護材4としては、加熱により硬化して積層体2と一体化が可能な部材を用いることができる。保護材4は、後述するように研磨の際に、積層体2を保護して基材繊維3の断線を防止できればよいので、補強部材のように高い強度を有する必要はない。
【0018】
次いで、積層体2および保護材4が硬化して一体化した後は、例えば、振動数調整や塗装等の後処理工程のために、硬化した積層体2の凹凸状の表面を研磨する。この研磨の際に、保護材4で被覆された領域は、図4に例示するように、積層体2(基材繊維3)を研磨しないようにして実質的に保護材4のみを研磨して滑らかにする。図4において、点線は研磨前の積層体2および保護材4の表面を示している。したがって、保護材4で被覆された領域の積層体2の表面の凸部はそのまま残り、凹部は硬化した保護材4で埋められた状態になる。
【0019】
積層体2において、ある程度太径の領域(先端部以外の領域)は、積層体2(基材繊維3)を多少研磨して滑らかすることができる。このような相対的に太径の領域は、十分な強度を確保することができるので、製造したシャフト1の折れが生じることがないためである。
【0020】
積層体2の表面を研磨して滑らかにした後は、後処理工程を行なう。後処理工程としては、表面塗装等を例示できる。研磨した積層体2の表面に塗料を塗布することにより、図5に例示するような最外層を塗料層5で被覆したシャフト1を得ることができる。
【0021】
このように本発明では、わずかな研磨量であっても基材繊維3が断線して強度が低下し易い編組構造の積層体2において相対的に細径であり、強度が低い先端部は、保護材4により保護される。そのため、積層体2の先端部では研磨されても基材繊維3の断線が生じることがなく、当初の積層体2よりも強度が低下することがなくなる。それ故、ブレーディング製法を用いながらも、研磨による強度低下を抑制して折れが生じ難いシャフト1を得ることができる。
【0022】
保護材4は、上記実施形態のように積層体2の表面に設けるだけではなく、積層体2の最外層の編組層と、最外層から一層内周側の編組層との間に介挿させることもできる。この場合には、先細筒状の積層体2を成形する際に、積層体2の少なくとも先端部の領域に対して、積層体2の最外層の編組層と、最外層から一層内周側の編組層との間に保護材4を介挿させ、積層体2を加熱する際に、この保護材4を硬化させて積層体2と一体化させる。そして、積層体2の表面を研磨する際には、保護材4を介挿させた領域は実質的に保護材4までを研磨して滑らかにする。
【0023】
例えば、積層体2が第1編組層2a、第2編組層2b、第3編組層2cの3層構造の場合には、図6に例示するように、第3編組層2cと第2編組層2bとの間に保護材4を介挿させる。そして、積層体2の表面を研磨する際には、第3編組層2cだけ、或いは第3編組層2cおよび保護材4のみを研磨して、保護材4よりも内周側の編組層(第2編組層2b)までは研磨することなく表面を滑らかに仕上げる。
【0024】
積層体2の最外層の編組層(第3編組層2c)の凹凸が大きい場合などの場合には、このように、あえて、最外層の編組層を研磨しろとして用いることもできる。この場合においても、先の実施形態と同様に、表面研磨の際に積層体2の先端部は保護材4により保護される。そのため、積層体2の先端部では研磨されても基材繊維3の断線を最小限に抑えることができ、当初の積層体2に対して強度低下を抑えることができる。それ故、ブレーディング製法を用いながらも、研磨による強度低下を抑制して折れが生じ難いシャフト1を得ることができる。
【0025】
本発明では、積層体2の表面に被覆する際の保護材4の厚さは、0.05mm以上1.0mm以下に設定することが好ましい。保護材4の厚さが0.05mm未満では、凹凸状の積層体2の表面を研磨する際に、基材繊維3の断線を防止しつつ表面を滑らかにすることが困難になるためである。一方、保護材4の厚さが1.0mm超では、研磨量が増大して製造効率を低下させる要因になるためである。
【実施例】
【0026】
円筒状の編組層を5層積層してブレーディング製法により4種類のシャフト(実施例1、比較例1〜3)を作製した。それぞれのシャフトは、内周側から基材繊維の配向角度を45°(第1層)、45°(第2層)、20°(第3層)、20°(第4層)、20°(第5層)として、表1に示すように、最外層(第5層)に対して保護材の被覆の有無およびシャフト表面研磨の有無のみを異ならせた仕様にした。保護材としては、樹脂材料を含浸させた基材繊維一方向に多数並列したプリプレグシート(厚さ0.125mm)を用いた。保護材を被覆した位置は、シャフト先端から100mmの範囲である。
【0027】
即ち、実施例は、比較例1の表面を滑らかになるまで研磨したものであり、比較例2は、比較例3の表面を滑らかになるまで研磨したものである。
【0028】
これら4種類のシャフトについて、先端から40mmの範囲を固定治具によって片持ち状態で固定して、先端から190mmの位置に荷重を負荷して、曲げ長さを150mmにして曲げ試験を行なった。その結果を表1に示す。表1の曲げ強度の数値は、それぞれ試験サンプル3本(n=3)の平均値である。
【0029】
【表1】

【0030】
表1の結果から、最外層に保護材を被覆して表面を研磨した実施例は、表面を研磨していない比較例1に対して曲げ強度の低下はわずかであり、最外層に保護材を被覆せずに表面を研磨した比較例2は、表面を研磨していない比較例3に対して曲げ強度が大幅に低下することがわかる。これにより、シャフト表面に被覆した保護材が、表面研磨によるシャフトの曲げ強度の低下を防止するには非常に有効であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】保護材を表面に被覆した先細筒状の積層体を例示する正面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図1の先細筒状の積層体の先端部周辺を模式的に拡大して例示する縦半断面図である。
【図4】図3の積層体の表面を研磨した後の状態を模式的に拡大して例示する縦半断面図である。
【図5】図4の積層体の表面に塗装を施して完成したシャフトを模式的に拡大して例示する縦半断面図である。
【図6】保護材を介挿した先細筒状の積層体の先端部周辺を模式的に拡大して例示する縦半断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 シャフト
2 積層体
2a 第1編組層
2b 第2編組層
2c 第3編組層
3 基材繊維
4 保護材
5 塗料層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料を含浸させた基材繊維をシャフト軸方向に対して所定の配向角度で編組することにより形成した筒状の編組層を複数積層して、先細筒状の積層体を成形した後、この積層体を加熱することにより含浸させた樹脂材料を硬化させ、次いで、硬化させた積層体の表面を研磨した後に、後処理工程を行なうゴルフクラブ用シャフトの製造方法において、前記先細筒状の積層体を成形した後に、その積層体の表面のうち少なくとも先端部の領域に対して保護材を被覆して、積層体を加熱する際に、この保護材を硬化させて積層体と一体化させ、積層体の表面を研磨する際には、保護材で被覆された領域は実質的に保護材のみを研磨して滑らかにするゴルフクラブ用シャフトの製造方法。
【請求項2】
樹脂材料を含浸させた基材繊維をシャフト軸方向に対して所定の配向角度で編組することにより形成した筒状の編組層を複数積層して、先細筒状の積層体を成形した後、この積層体を加熱することにより含浸させた樹脂材料を硬化させ、次いで、硬化させた積層体の表面を研磨した後に、後処理工程を行なうゴルフクラブ用シャフトの製造方法において、前記先細筒状の積層体を成形する際に、積層体の少なくとも先端部の領域に対して、積層体の最外層の編組層と、最外層から一層内周側の編組層との間に保護材を介挿させ、積層体を加熱する際に、この保護材を硬化させて積層体と一体化させ、積層体の表面を研磨する際には、保護材を介挿させた領域は実質的に保護材までを研磨して滑らかにするゴルフクラブ用シャフトの製造方法。
【請求項3】
前記保護材を、積層体の先端から300mmの範囲にのみ被覆する請求項1または2に記載のゴルフクラブ用シャフトの製造方法。
【請求項4】
前記保護材が、樹脂材料を含浸させた基材繊維を一方向に多数並列したプリプレグシートである請求項1〜3のいずれかに記載のゴルフクラブ用シャフトの製造方法。
【請求項5】
前記保護材の厚さが、0.05mm以上1.0mm以下である請求項1〜4のいずれかに記載のゴルフクラブ用シャフトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−94297(P2010−94297A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−267908(P2008−267908)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】