説明

ゴルフクラブ用シャフト

【課題】操作性が高く、軽量で強度に優れたゴルフクラブシャフトの提供。
【解決手段】シャフト6は、複数の層a1からa10を有している。上記層は、シャフト軸線に対する繊維の絶対角度θaが10°以上70°以下であるバイアス層と、上記角度θaが80°以上であるフープ層とを含んでいる。上記層が、シャフト軸方向の全体に配置される全長層と、シャフト軸方向において部分的に配置される部分層とを含んでいる。上記部分層は、後端補強バイアス層a4,a6と後端補強フープ層a5とを含んでいる。このシャフト6では、バット端から300mm隔てた地点における捻り剛性値GItが、3.5×10(kgf・mm/deg)以上5.0×10(kgf・mm/deg)以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフクラブ用シャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフクラブ用シャフトのスペックとして、調子が知られている。この調子として、手元調子、中調子及び先調子が知られている。
【0003】
手元調子のシャフトでは、シャフト先端部の不安定な動きが抑制されうる。手元調子のシャフトは、操作性に優れ、打球のバラツキが少ない。
【0004】
特開平9−234256号公報は、ねじり剛性分布特性線において、その特性線を直線状に描いた場合に比較してねじり剛性が高い領域を手元部分及び先端部分に有するとともに、その特性線を直線状に描いた場合に比較して曲げ剛性が高い領域を中央部分に有するシャフトを開示している。特開平10−43333号公報は、握り部よりも先端部側に設けられた捻り剛性急変化部を有するシャフトを開示する。特開2009−219681号公報は、ヘッド側の小径部とグリップ側の大径部との間にテーパの変化が大きい急テーパ部が設けられたシャフトを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−234256号公報
【特許文献2】特開平10−43333号公報
【特許文献3】特開2009−219681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
通常、シャフトは、テーパー形状を有する。シャフトは、ヘッド側において細く、グリップ側において太い。太い部分ほど、曲げ剛性が大きくなりやすい。テーパー形状のシャフトは、先調子となりやすい。テーパー形状のシャフトにおいて、手元調子のシャフトを作製するために、手元部分を薄くすることが考えられる。しかしこの構成では、手元部分の強度が低下しやすい。
【0007】
手元部分の強度低下を抑制するために、手元部分に低弾性の材料を用いて手元部分を厚くする構成が考えられる。だたしこの場合、シャフト重量が増加する。
【0008】
本発明の目的は、操作性が高く、軽量で強度に優れたゴルフクラブシャフトの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のシャフトは、複数の層を有している。上記層は、シャフト軸線に対する繊維の絶対角度θaが10°以上70°以下であるバイアス層と、上記角度θaが80°以上であるフープ層とを含んでいる。上記層は、シャフト軸方向の全体に配置される全長層と、シャフト軸方向において部分的に配置される部分層とを含んでいる。上記部分層は、後端補強バイアス層と後端補強フープ層とを含んでいる。バット端から300mm隔てた地点における捻り剛性値GItが、3.5×10(kgf・mm/deg)以上5.0×10(kgf・mm/deg)以下である。
【0010】
好ましくは、上記後端補強バイアス層の軸方向長さが、120mm以上350mm以下である。好ましくは、この後端補強バイアス層の後端は、バット端に位置している。好ましくは、上記後端補強フープ層の軸方向長さは、120mm以上350mm以下である。好ましくは、この後端補強フープ層の後端は、バット端に位置している。
【0011】
好ましくは、上記後端補強バイアス層における繊維の絶対角度θaは、20°以上45°以下である。
【0012】
好ましくは、上記シャフトは、第一の後端補強バイアスシートを用意する工程と、 第二の後端補強バイアスシートを用意する工程と、後端補強フープシートを用意する工程と、上記第一の上記後端補強バイアスシートと上記第二の上記後端補強バイアスシートとの間に、上記後端補強フープ層を挟み込んで貼り合わせて、合体シートを得る工程と、上記合体シートを巻き付ける工程と、を含む製造方法によって製造されている。
【0013】
好ましくは、上記後端補強バイアス層の樹脂含有率Rbは、15質量%以上24質量%未満である。好ましくは、上記後端補強バイアス層の厚みTbは、0.05mm以上0.15mm未満である。好ましくは、上記後端補強フープ層の樹脂含有率Rfが、24質量%以上40質量%以下である。好ましくは、上記後端補強フープ層の厚みTfは、0.02mm以上0.10mm未満である。
【発明の効果】
【0014】
手元部分の曲げ剛性が抑制されつつ、軽量で強度に優れたゴルフクラブシャフトが得られうる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るシャフトを備えたゴルフクラブを示す。
【図2】図2は、第1実施形態に係るシャフトの展開図である。図2は、実施例1の展開図でもある。
【図3】図3は、図1のシャフトに係る合体シートを示す。
【図4】図4は、実施例2の展開図である。
【図5】図5は、実施例3の展開図である。
【図6】図6は、比較例1の展開図である。
【図7】図7は、比較例2の展開図である。
【図8】図8は、三点曲げ強度の測定方法を示す。
【図9】図9(a)は順式フレックスの測定方法を示し、図9(b)は逆式フレックスの測定方法を示す。
【図10】図10は、捻り剛性値GItの測定方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0017】
なお本願では、「層」という文言と、「シート」という文言とが用いられる。「層」は、巻回された後における称呼であり、これに対して「シート」は、巻回される前における称呼である。「層」は、「シート」が巻回されることによって形成される。即ち、巻回された「シート」が、「層」を形成する。
【0018】
本願において「内側」とは、シャフト半径方向における内側を意味する。本願において「外側」とは、シャフト半径方向における外側を意味する。
【0019】
本願において、「軸方向」とは、シャフト軸方向を意味する。
【0020】
軸方向に対する繊維の角度に関して、本願では、角度Af及び絶対角度θaが用いられる。角度Afは、プラス及びマイナスを伴う角度である。絶対角度θaは、角度Afの絶対値である。換言すれば、絶対角度θaとは、軸方向と繊維方向との成す角度の絶対値である。例えば、「絶対角度θaが10°以下」とは、「角度Afが−10度以上+10度以下」であることを意味する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係るゴルフクラブシャフト6を備えたゴルフクラブ2を示す。ゴルフクラブ2は、ヘッド4と、シャフト6と、グリップ8とを備えている。シャフト6の先端部に、ヘッド4が設けられている。シャフト6の後端部に、グリップ8が設けられている。なおヘッド4及びグリップ8は限定されない。ヘッド4として、ウッド型ゴルフクラブヘッド、アイアン型ゴルフクラブヘッド、パターヘッド等が例示される。
【0022】
シャフト6は、繊維強化樹脂層の積層体からなる。シャフト6は、管状体である。シャフト6は中空構造を有する。図1が示すように、シャフト6は、チップ端Tpとバット端Btとを有する。チップ端Tpは、ヘッド4の内部に位置している。バット端Btは、グリップ8の内部に位置している。
【0023】
シャフト6は、いわゆるカーボンシャフトである。好ましくは、シャフト6は、プリプレグシートを硬化させてなる。このプリプレグシートでは、繊維は実質的に一方向に配向している。このように繊維が実質的に一方向に配向したプリプレグは、UDプリプレグとも称される。「UD」とは、ユニディレクションの略である。UDプリプレグ以外のプリプレグが用いられても良い。例えば、プリプレグシートに含まれる繊維が編まれていてもよい。
【0024】
プリプレグシートは、繊維と樹脂とを有している。この樹脂は、マトリクス樹脂とも称される。典型的には、この繊維は炭素繊維である。典型的には、このマトリクス樹脂は、熱硬化性樹脂である。
【0025】
シャフト6は、いわゆるシートワインディング製法により製造されている。プリプレグにおいて、マトリクス樹脂は、半硬化状態にある。シャフト6は、プリプレグシートが巻回され且つ硬化されてなる。この硬化とは、半硬化状態のマトリクス樹脂を硬化させることである。この硬化は、加熱により達成される。シャフト6の製造工程には、加熱工程が含まれる。この加熱工程により、プリプレグシートのマトリクス樹脂が硬化する。
【0026】
図2は、シャフト6を構成するプリプレグシートの展開図(シート構成図)である。シャフト6は、複数枚のシートにより構成されている。図2の実施形態では、シャフト6は、a1からa10までの10枚のシートにより構成されている。本願において、図2等で示される展開図は、シャフトを構成するシートを、シャフトの半径方向内側から順に示している。展開図において上側に位置しているシートから順に巻回される。本願の展開図において、図面の左右方向は、シャフト軸方向と一致する。本願の展開図において、図面の右側は、シャフトのチップ端Tp側である。本願の展開図において、図面の左側は、シャフトのバット端Bt側である。
【0027】
本願の展開図は、各シートの巻き付け順序のみならず、各シートのシャフト軸方向における配置をも示している。例えば図2において、シートa1の一端はチップ端Tpに位置している。
【0028】
シャフト6は、ストレート層とバイアス層と、フープ層とを有する。本願の展開図において、繊維の配向角度が記載されている。「0°」と記載されているシートが、ストレート層を構成している。ストレート層用のシートは、本願においてストレートシートとも称される。
【0029】
ストレート層は、繊維の配向がシャフトの長手方向(シャフト軸方向)に対して実質的に0°とされた層である。巻き付けの際の誤差等に起因して、繊維の配向はシャフト軸線方向に対して完全に0°とはならない場合がある。通常、ストレート層では、上記絶対角度θaが10°未満である。
【0030】
図2の実施形態において、ストレートシートは、シートa1、シートa7、シートa8、シートa9及びシートa10である。ストレート層は、シャフトの曲げ剛性及び曲げ強度との相関が高い。
【0031】
一方、バイアス層は、シャフトの捻れ剛性及び捻れ強度との相関が高い。バイアス層は、好ましくは、繊維の配向が互いに逆方向に傾斜した2枚のシートペアから構成されている。捻れ剛性の観点から、バイアス層の絶対角度θaは、10°以上が好ましく、15°以上がより好ましく、20°以上が更に好ましい。曲げ強度の観点から、バイアス層の絶対角度θaは、70°以下が好ましく、60°以下がより好ましい。
【0032】
シャフト6において、バイアス層を構成するシートは、シートa2、シートa3、シートa4及びシートa6である。図2には、シート毎に、上記角度Afが記載されている。角度Afにおけるプラス(+)及びマイナス(−)は、バイアスシートの繊維が互いに逆方向に傾斜していることを示している。本願において、バイアス層用のシートは、単にバイアスシートとも称される。
【0033】
なお、図2の実施形態では、シートa2が−45度であり且つシートa3が+45度であるが、逆にシートa2が+45度であり且つシートa3が−45度であってもよいことは当然である。
【0034】
シャフト6において、フープ層を構成するシートは、シートa5である。好ましくは、フープ層における上記絶対角度θaは、シャフト軸線に対して実質的に90°とされる。ただし、巻き付けの際の誤差等に起因して、繊維の配向はシャフト軸線方向に対して完全に90°とはならない場合がある。通常、フープ層では、上記絶対角度θaが80°以上90°以下である。本願において、フープ層用のプリプレグシートは、フープシートとも称される。
【0035】
フープ層は、シャフトのつぶし剛性及びつぶし強度を高めるのに寄与する。つぶし剛性とは、シャフトをその半径方向内側に向かって押し潰す力に対する剛性である。つぶし強度とは、シャフトをその半径方向内側に向かって押し潰す力に対する強度である。つぶし強度は、曲げ強度とも関連しうる。曲げ変形に連動してつぶし変形が生じうる。特に肉厚の薄い軽量シャフトにおいては、この連動性が大きい。つぶし強度の向上により、曲げ強度も向上しうる。
【0036】
図示しないが、使用される前のプリプレグシートは、カバーシートにより挟まれている。通常、カバーシートは、離型紙及び樹脂フィルムである。即ち、使用される前のプリプレグシートは、離型紙と樹脂フィルムとで挟まれている。プリプレグシートの一方の面には離型紙が貼られており、プリプレグシートの他方の面には樹脂フィルムが貼られている。以下において、離型紙が貼り付けられている面が「離型紙側の面」とも称され、樹脂フィルムが貼り付けられている面が「フィルム側の面」とも称される。
【0037】
本願の展開図は、フィルム側の面が表側とされた図である。即ち、本願の展開図において、図面の表側がフィルム側の面であり、図面の裏側が離型紙側の面である。例えば図2では、シートa2の繊維方向とシートa3の繊維方向とは同じであるが、後述される貼り合わせの際にシートa3が裏返される。この結果、シートa2の繊維方向とシートa3の繊維方向とは互いに逆となる。従って、巻回された後の状態では、シートa2の繊維方向とシートa3の繊維方向とが互いに逆となる。この点を考慮して、図2では、シートa2の繊維方向が「−45°」と表記され、シートa3の繊維方向が「+45°」と表記されている。
【0038】
プリプレグシートを巻回するには、先ず、樹脂フィルムが剥がされる。樹脂フィルムが剥がされることにより、フィルム側の面が露出する。この露出面は、タック性(粘着性)を有する。このタック性は、マトリクス樹脂に起因する。即ち、このマトリクス樹脂が半硬化状態であるため、粘着性が発現する。次に、この露出したフィルム側の面の縁部(巻き始め縁部ともいう)を、巻回対象物に貼り付ける。マトリクス樹脂の粘着性により、この巻き始め縁部の貼り付けが円滑になされうる。巻回対象物とは、マンドレル、又はマンドレルに他のプリプレグシートが巻き付けられてなる巻回物である。次に、離型紙が剥がされる。次に、巻回対象物が回転されて、プリプレグシートが巻回対象物に巻き付けられる。このように、先に樹脂フィルムが剥がされ、次に巻き始め端部が巻回対象物に貼り付けられ、次に離型紙が剥がされる。このように、先に樹脂フィルムが剥がされ、巻き始め縁部が巻回対象物に貼り付けられた後に、離型紙が剥がされる。この手順により、シートの皺や巻き付け不良が抑制される。これは、離型紙が貼り付けられたシートは、離型紙に支持されているため、皺となりにくいからである。離型紙は、樹脂フィルムと比較して、曲げ剛性が高い。
【0039】
図2の実施形態では、合体シートが用いられる。合体シートは、2枚以上のシートが貼り合わされることによって形成される。
【0040】
図2の実施形態では、二つの合体シートが形成される。第一の合体シートa23(図示されず)は、シートa2とシートa3とを貼り合わせることによって形成される。
【0041】
図示されないが、合体シートa23において、シートa2の端t2(図2参照)と、シートa3の端t3(図2参照)とは、半周分ズレている。即ち、巻回後のシャフト断面において、端部t2の周方向位置と、端部t3の周方向位置とは、180°(±15°)相違している。
【0042】
第二の合体シートa456は、シートa4、シートa5及びシートa6を貼り合わせることによって形成される。図3は、合体シートa456を示す。図3が示すように、合体シートa456において、シートa5は、シートa4とシートa6とに挟まれている。
【0043】
合体シートa456において、シートa4の端t4と、シートa5の端t5とは、半周分ずれている。巻回後において、端t4の周方向位置と、端t5の周方向位置とは、90°(±15°)相違する。ズレ距離d1(図3参照)により、この90°の相違が生じる。更に、合体シートa456において、シートa5の端t5と、シートa6の端t6とは、半周分ずれている。巻回後において、端t5の周方向位置と、端t6の周方向位置とは、90°(±15°)相違する。ズレ距離d1(図3参照)により、この90°の相違が生じる。
【0044】
巻回後において、端t4の周方向位置と、端t6の周方向位置とは、180°(±15°)相違する。
【0045】
端t4、t5及びt6の周方向位置をずらすことで、周方向におけるシャフトの均一性が向上する。なお、端t4、t5及びt6の周方向位置を一致させてもよい。
【0046】
本願では、繊維の配向角度によって、シート及び層が分類される。これに加えて本願では、シャフト軸方向の長さによって、シート及び層が分類される。
【0047】
本願において、シャフト軸方向の全体に配置される層が、全長層と称される。本願において、シャフト軸方向の全体に配置されるシートが、全長シートと称される。巻回された全長シートが、全長層を形成する。
【0048】
一方、本願において、シャフト軸方向において部分的に配置される層が、部分層と称される。本願において、シャフト軸方向において部分的に配置されるシートが、部分シートと称される。巻回された部分シートが、部分層を形成する。
【0049】
本願では、バイアス層である全長層が、全長バイアス層と称される。本願では、ストレート層である全長層が、全長ストレート層と称される。本願では、フープ層である全長層が、全長フープ層と称される。
【0050】
本願では、バイアス層である部分層が、部分バイアス層と称される。本願では、ストレート層である部分層が、部分ストレート層と称される。本願では、フープ層である部分層が、部分フープ層と称される。
【0051】
本願では、後端補強バイアス層との文言が用いられる。後端補強バイアス層は部分バイアス層である。好ましくは、後端補強バイアス層は、その全体がシャフト軸方向中央位置よりもバット側に位置する部分バイアス層である。後端補強バイアス層の後端は、シャフトのバット端Btに位置していなくてもよいし、シャフトのバット端Btに位置していてもよい。シャフトの後端を補強する観点から、好ましくは、後端補強バイアス層の後端は、シャフトのバット端Btに位置する。シャフトの後端部分を補強する観点から、好ましくは、この後端補強バイアス層の配置範囲が、シャフトのバット端Btから300mm隔てた位置P1(図1参照)を含む。
【0052】
本願では、後端補強フープ層との文言が用いられる。後端補強フープ層は部分フープ層である。好ましくは、後端補強フープ層は、その全体がシャフト軸方向中央位置よりもバット側に位置する部分フープ層である。後端補強フープ層の後端は、シャフトのバット端Btに位置していなくてもよいし、シャフトのバット端Btに位置していてもよい。シャフトの後端部分を補強する観点から、好ましくは、この後端補強フープ層の配置範囲が、シャフトのバット端Btから300mm隔てた位置P1を含む。
【0053】
図2に示されるシートを用いて、シートワインディング製法により、シャフト6が作製される。
【0054】
以下に、このシャフト6の製造工程の概略が説明される。
【0055】
[シャフト製造工程の概略]
【0056】
(1)裁断工程
裁断工程では、プリプレグシートが所望の形状に裁断される。この工程により、図2に示された各シートが切り出される。
【0057】
なお、裁断は、裁断機によりなされてもよいし、手作業でなされてもよい。手作業の場合、例えば、カッターナイフが用いられる。
【0058】
(2)貼り合わせ工程
貼り合わせ工程では、複数のシートが貼り合わされて、前述した合体シートa23及び合体シートa456が作製される。
【0059】
貼り合わせ工程では、加熱又はプレスが用いられてもよい。より好ましくは、加熱とプレスとが併用される。後述する巻回工程において、合体シートの巻き付け作業中に、シートのズレが生じうる。このズレは、巻き付け精度を低下させる。加熱及びプレスは、シート間の接着力を向上させる。加熱及びプレスは、巻回工程におけるシート間のズレを抑制する。
【0060】
シート同士の接着力を高める観点から、貼り合わせ工程における加熱温度は、30℃以上が好ましく、35℃以上がより好ましい。この加熱温度が高すぎる場合、マトリクス樹脂の硬化が進行し、シートの粘着性が低下することがある。この粘着性の低下は、合体シートと巻回対象物との接着性を低下させる。この接着性の低下は、皺の発生を許容することがあり、巻き付け位置のズレを生じさせうる。この観点から、貼り合わせ工程における加熱温度は、60℃以下が好ましく、50℃以下がより好ましく、40℃以下がより好ましい。
【0061】
シート同士の接着力を高める観点から、貼り合わせ工程における加熱時間は、20秒以上が好ましく、30秒以上がより好ましい。シートの粘着性の観点から、貼り合わせ工程における加熱時間は、300秒以下が好ましい。
【0062】
シート同士の接着力を高める観点から、貼り合わせ工程におけるプレスの圧力は、300g/cm以上が好ましく、350g/cm以上がより好ましい。プレスの圧力が過大である場合、プリプレグが押し潰される場合がある。この場合、プリプレグの厚みが設計値よりも薄くなる。プリプレグの厚み精度の観点から、貼り合わせ工程におけるプレスの圧力は、600g/cm以下が好ましく、500g/cm以下がより好ましい。
【0063】
シート同士の接着力を高める観点から、貼り合わせ工程におけるプレスの時間は、20秒以上が好ましく、30秒以上がより好ましい。プリプレグの厚み精度の観点から、貼り合わせ工程におけるプレスの時間は、300秒以下が好ましい。
【0064】
(3)巻回工程
巻回工程では、マンドレルが用意される。典型的なマンドレルは、金属製である。このマンドレルに、離型剤が塗布される。更に、このマンドレルに、粘着性を有する樹脂が塗布される。この樹脂は、タッキングレジンとも称される。このマンドレルに、裁断されたシートが巻回される。このタッキングレジンにより、シート端部をマンドレルに貼り付けることが容易とされている。
【0065】
貼り合せに係るシートに関しては、合体シートの状態で巻回される。
【0066】
この巻回工程により、巻回体が得られる。この巻回体は、マンドレルの外側にプリプレグシートが巻き付けられてなる。巻回は、例えば、平面上で巻回対象物を転がすことによりなされる。この巻回は、手作業によりなされてもよいし、機械によりなされてもよい。この機械は、ローリングマシンと称される。
【0067】
(4)テープラッピング工程
テープラッピング工程では、上記巻回体の外周面にテープが巻き付けられる。このテープは、ラッピングテープとも称される。このラッピングテープは、張力を付与されつつ巻き付けられる。このラッピングテープにより、巻回体に圧力が加えられる。この圧力はボイドを低減させる。
【0068】
(5)硬化工程
硬化工程では、テープラッピングがなされた後の巻回体が加熱される。この加熱により、マトリクス樹脂が硬化する。この硬化の課程で、マトリクス樹脂が一時的に流動化する。このマトリクス樹脂の流動化により、シート間又はシート内の空気が排出されうる。ラッピングテープの圧力(締め付け力)により、この空気の排出が促進されている。この硬化により、硬化積層体が得られる。
【0069】
(6)マンドレルの引き抜き工程及びラッピングテープの除去工程
硬化工程の後、マンドレルの引き抜き工程とラッピングテープの除去工程とがなされる。両者の順序は限定されないが、ラッピングテープの除去工程の能率を向上させる観点から、マンドレルの引き抜き工程の後にラッピングテープの除去工程がなされるのが好ましい。
【0070】
(7)両端カット工程
この工程では、硬化積層体の両端部がカットされる。このカットにより、チップ端Tpの端面及びバット端Btの端面が平坦とされる。
【0071】
(8)研磨工程
この工程では、硬化積層体の表面が研磨される。硬化積層体の表面には、ラッピングテープの跡として残された螺旋状の凹凸が存在する。研磨により、このラッピングテープの跡としての凹凸が消滅し、表面が平滑とされる。
【0072】
(9)塗装工程
研磨工程後の硬化積層体に塗装が施される。
【0073】
このような工程で、シャフト6が得られる。以下、このシャフト6の詳細が説明される。なお、本願では、層とシートとで同じ符号が用いられる。例えば、シートa1によって形成された層は、層a1とされる。
【0074】
シャフト6は、後端補強バイアス層a4、a6と、後端補強フープ層a5とを有する。後端補強ストレート層は存在しない。
【0075】
後端補強バイアス層a4、a6と後端補強フープ層a5との組み合わせにより、以下の(a)から(d)が達成されうる。
(a)シャフトのバット側における重量増加が抑制される。
(b)シャフトのバット側における曲げ剛性が過度に増加しない。
(c)シャフトのバット側における強度が向上する。
(d)シャフトのバット側における捻れ剛性が向上する。
【0076】
よって、シャフト6は、軽量で強度に優れる。またシャフト6は、上記(b)に起因して、調子率を小さくすることができる。調子率が小さいシャフトは、手元調子である。このシャフト6は、操作性に優れる。
【0077】
このシャフト6では、バット端Btから300mm隔てた地点P1における捻り剛性値GItが、3.5×10(kgf・mm/deg)以上5.0×10(kgf・mm/deg)以下である。地点P1は、グリップ8に近い位置である。この捻り剛性値GItが過度に小さい場合、操作性が低下する。この観点から、この捻り剛性値GItは、3.7×10(kgf・mm/deg)以上が好ましく、3.9×10(kgf・mm/deg)以上がより好ましい。
【0078】
この捻り剛性値GItを過度に大きくする場合、弾性率が高い繊維を有するプリプレグ(高弾性プリプレグ)が用いられる。弾性率が高い繊維の引張強度は比較的低い。よって、この高弾性プリプレグは、シャフトの強度を低下させうる。シャフト強度の観点から、この捻り剛性値GItは、4.9×10(kgf・mm/deg)以下が好ましく、4.8×10(kgf・mm/deg)以下がより好ましい。
【0079】
上記捻り剛性値GItを高める観点、及び、後端部の曲げ剛性を抑制する観点から、後端補強バイアス層a4、a6における繊維の絶対角度θaは、10°以上が好ましく、15°以上がより好ましく、20°以上が更に好ましく、30°以上が更に好ましい。シャフトのバット側の部分の曲げ剛性を過度に低下させない観点から、後端補強バイアス層a4、a6における繊維の絶対角度θaは、60°以下が好ましく、45°以下がより好ましい。
【0080】
図2において符号L1で示されるのは、後端補強バイアス層の軸方向長さである。スイング中に大きく変形するのは、グリップを持つ両手の位置よりもヘッド側の部分である。よってこの部分に後端補強バイアス層が配置されているのが好ましい。この観点から、長さL1は、120mm以上が好ましく、130mm以上がより好ましく、140mm以上が更に好ましい。重すぎるシャフトは振りにくい。シャフト重量を抑制する観点から、長さL1は、350mm以下が好ましく、340mm以下がより好ましく、330mm以下が更に好ましい。
【0081】
図2において符号L2で示されるのは、後端補強フープ層の軸方向長さである。スイング中に大きく変形するのは、グリップを持つ両手の位置よりもヘッド側の部分である。よってこの部分に後端補強フープ層が配置されているのが好ましい。この観点から、長さL2は、120mm以上が好ましく、130mm以上がより好ましく、140mm以上が更に好ましい。重すぎるシャフトは振りにくい。シャフト重量を抑制する観点から、長さL2は、350mm以下が好ましく、340mm以下がより好ましく、330mm以下が更に好ましい。
【0082】
図2の実施形態では、後端補強バイアス層a4,a6の後端t7が、バット端Btに位置している。更に、図2の実施形態では、後端補強フープ層a5の後端t8が、バット端Btに位置している。よって、シャフトの後端部が効果的に補強されている。
【0083】
前述の通り、シャフト6は、第一の後端補強バイアスシートa4を用意する工程と、 第二の後端補強バイアスシートa6を用意する工程と、後端補強フープシートa5を用意する工程と、第一の後端補強バイアスシートa4と上記第二の後端補強バイアスシートa6との間に、上記後端補強フープ層a5を挟み込んで貼り合わせて、合体シートa456を得る工程と、上記合体シートa456を巻き付ける工程と、を含む製造方法によって製造されている。合体シートa456を用いることで、巻回工程における巻き不良(皺の発生、繊維のズレ等)が抑制され、巻回精度が向上する。よって、後端補強バイアスシートと後端補強フープシートとを精度良く巻き付けることができる。また、巻回工程の作業性が向上する。
【0084】
後端補強フープシートa5の巻回数は2であり、第一の後端補強バイアスシートa4の巻回数も2であり、第二の後端補強バイアスシートa6の巻回数も2である。後端補強フープシートa5の巻回数と、第一の後端補強バイアスシートa4の巻回数と、第二の後端補強バイアスシートa6の巻回数とが一致している。
【0085】
合体シートa456において、後端補強フープシートa5の樹脂含有率は、後端補強バイアスシートa4、a6の樹脂含有率よりも大きいのが好ましい。樹脂含有率の大きなシートa5は、粘着力に優れる。よって、合体シートa456では、シートa4とシートa6とが、シートa5を介して強く貼り合わせられる。よって、合体シートa456の巻回において、シートの剥がれ及びズレが効果的に抑制される。したがって、後端補強バイアスシートと後端補強フープシートとを精度良く巻き付けることができる。
【0086】
後端補強バイアス層の樹脂含有率Rbが過度に小さい場合、シートの粘着性が低下し、巻回の精度が低下しやすい。巻回精度の観点から、樹脂含有率Rbは、15質量%以上が好ましく、17質量%以上がより好ましい。断面二次モーメントの観点から、シャフト外径が増加すると、曲げ剛性が増加する。曲げ剛性が増加すると、手元調子になりにくい。樹脂含有率Rbを小さくすることで、シャフト外径が抑制され、曲げ剛性が抑制される。曲げ剛性の抑制及びシャフト重量の抑制の観点から、樹脂含有率Rbは、24質量%未満が好ましく、22質量%以下がより好ましい。
【0087】
前述の通り、手元調子のシャフトを得るには、バット側におけるシャフト外径を抑制するのが好ましい。この観点から、後端補強バイアス層の厚みTbは、0.15mm未満が好ましく、0.13mm以下がより好ましい。捻れ剛性の観点から、厚みTbは、0.05mm以上が好ましく、0.06mm以上がより好ましい。
【0088】
巻回不良を抑制する観点から、後端補強フープ層の樹脂含有率Rfは、24質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましい。シャフト重量の抑制の観点から、樹脂含有率Rfは、40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましい。
【0089】
シャフト外径の抑制の観点から、後端補強フープ層の厚みTfは、0.10mm未満が好ましく、0.07mm以下がより好ましい。シャフト強度の観点から、厚みTfは、0.02mm以上が好ましく、0.03mm以上がより好ましい。
【0090】
シャフト外径の抑制の観点から、後端補強バイアス層の巻回数(プライ数)は、6以下が好ましく、4以下がより好ましい。捻り剛性の観点から、後端補強バイアス層の巻回数は2以上が好ましい。図2の実施形態では、シートa4の巻回数が2であり且つシートa6の巻回数が2であるので、後端補強バイアス層の巻回数は4である。
【0091】
シャフト外径の抑制の観点から、後端補強フープ層の巻回数(プライ数)は、3以下が好ましく、2以下がより好ましい。シャフト強度の観点から、後端補強フープ層の巻回数は1以上が好ましい。図2の実施形態では、シートa5の巻回数が2であるので、後端補強フープ層の巻回数は2である。
【0092】
本願において、シャフトの調子率は、次の式によって定義される。
C1=[F2/(F1+F2)]×100
ただし、F1は順式フレックス(mm)であり、F2は逆式フレックス(mm)である。
【0093】
前述したように、手元調子のシャフトには、操作性が高い等の利点がある。この観点から、調子率C1は、50%以下が好ましく、50%未満がより好ましく、49%以下がより好ましく、48%以下がより好ましい。逆式フレックスF2が過度に小さい(硬い)場合、シャフトの衝撃強度が低下する。この観点から、調子率C1は、20%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、35%以上が更に好ましい。
【0094】
上記の構成によれば、シャフトの重量が抑制されうる。この観点から、シャフト重量は、65g以下が好ましく、60g以下がより好ましく、55g以下が更に好ましい。シャフト強度の観点から、シャフト質量は、35g以上が好ましく、40g以上がより好ましい。
【0095】
シャフトが長い場合、本発明の効果はより顕著である。この観点から、シャフト長さは、40インチ以上が好ましく、45インチ以上がより好ましい。ゴルフルールへの適合性の観点から、シャフト長さは、48インチ以下が好ましい。
【0096】
プリプレグシートのマトリクス樹脂としては、エポキシ樹脂の他、エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂等も用いられ得る。シャフト強度の観点から、マトリクス樹脂は、エポキシ樹脂が好ましい。
【0097】
下記の表1は、本発明のシャフトに使用可能なプリプレグの例を示す。
【0098】
【表1】

【実施例】
【0099】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0100】
[実施例1]
上記シャフト6と同じ積層構成を有するシャフトが作製された。即ち、図2で示されるシート構成を有するシャフトが作製された。製造方法は、上記シャフト6と同じとされた。図3に示される合体シートa456が用いられた。
【0101】
実施例1において、各シートの製品名及び巻回数は、次の通りとされた。これらの製品の仕様は、前述の表1に示されている。
・シートa1 :TR350C−150S (2プライ)
・シートa2 :MR350C−100S (2プライ)
・シートa3 :MR350C−100S (2プライ)
・シートa4 :2256S−12 (2プライ)
・シートa5 :805S−3 (2プライ)
・シートa6 :2256S−12 (2プライ)
・シートa7 :MR350C−100S (2プライ)
・シートa8 :MR350C−100S (1プライ)
・シートa9 :TR350C−100S
・シートa10 :TR350C−100S
【0102】
得られたシャフトに、市販のドライバーヘッド(SRIスポーツ社製の新XXIO(2011年モデル):ロフト10.5°)及びグリップを装着して、実施例1に係るゴルフクラブを得た。
【0103】
[実施例2]
図4は、実施例2に係るシャフトの積層構成を示す。実施例2において、各シートの製品名及び巻回数は、次の通りとされた。
・シートa1 :TR350C−150S (2プライ)
・シートa2 :MR350C−100S (2プライ)
・シートa3 :MR350C−100S (2プライ)
・シートa4 :2256S−12 (2プライ)
・シートa5 :805S−3 (2プライ)
・シートa6 :2256S−12 (2プライ)
・シートa7 :MR350C−100S (2プライ)
・シートa8 :MR350C−100S (1プライ)
・シートa9 :TR350C−100S
・シートa10 :TR350C−100S
【0104】
その他は実施例1と同様にして、実施例2に係るシャフト及びゴルフクラブを得た。
【0105】
[実施例3]
図5は、実施例3に係るシャフトの積層構成を示す。実施例3において、各シートの製品名及び巻回数は、次の通りとされた。
・シートa1 :TR350C−150S (2プライ)
・シートa2 :MR350C−100S (2プライ)
・シートa3 :MR350C−100S (2プライ)
・シートa4 :2256S−12 (2プライ)
・シートa5 :805S−3 (2プライ)
・シートa6 :2256S−12 (2プライ)
・シートa7 :MR350C−100S (2プライ)
・シートa8 :MR350C−100S (1プライ)
・シートa9 :TR350C−100S
・シートa10 :TR350C−100S
【0106】
その他は実施例1と同様にして、実施例3に係るシャフト及びゴルフクラブを得た。
【0107】
[比較例1]
図6は、比較例1に係るシャフトの積層構成を示す。比較例1において、各シートの製品名及び巻回数は、次の通りとされた。
・シートa1 :TR350C−150S (2プライ)
・シートa2 :MR350C−100S (2プライ)
・シートa3 :MR350C−100S (2プライ)
・シートa4 :MR350C−100S (2プライ)
・シートa5 :MR350C−100S (2プライ)
・シートa6 :MR350C−100S (1プライ)
・シートa7 :TR350C−100S
・シートa8 :TR350C−100S
【0108】
比較例1では、後端補強バイアス層及び後端補強フープ層が用いられなかった。比較例1では、後端補強ストレート層が用いられた。この後端補強ストレート層は、シートa4であった。その他は実施例1と同様にして、比較例1に係るシャフト及びゴルフクラブを得た。
【0109】
[比較例2]
図7は、比較例2に係るシャフトの積層構成を示す。比較例2において、各シートの製品名及び巻回数は、次の通りとされた。
・シートa1 :TR350C−150S (2プライ)
・シートa2 :MR350C−100S (2プライ)
・シートa3 :MR350C−100S (2プライ)
・シートa4 :805S−3 (2プライ)
・シートa5 :MR350C−100S (2プライ)
・シートa6 :MR350C−100S (1プライ)
・シートa7 :TR350C−100S
・シートa8 :TR350C−100S
【0110】
比較例2では、後端補強バイアス層は用いられなかった。後端補強層としては、後端補強フープ層のみが用いられた。この後端補強フープ層は、シートa4であった。その他は実施例1と同様にして、比較例2に係るシャフト及びゴルフクラブを得た。
【0111】
これらのゴルフクラブの評価結果が、下記の表2に示される。
【0112】
【表2】

【0113】
[評価方法]

【0114】
[三点曲げ強度]
SG式三点曲げ強度試験が採用された。これは、製品安全協会が定める試験である。図8は、SG式三点曲げ強度試験の測定方法を示す。図8が示すように、2つの支持点e1、e2においてシャフト20を下方から支持しつつ、荷重点e3において上方から下方に向かって、圧子22が荷重Fを加える。荷重点e3の位置は、支持点e1と支持点e2とを二等分する位置である。圧子22の下降のスピードは、20mm/minである。圧子22の先端には、シリコーンラバー24が装着されている。荷重点e3が、測定点である。測定点は、C点とされた。C点は、バット端Btから175mmの点である。シャフト20が破損したときの荷重Fの値(ピーク値)が測定された。上記スパンSは、300mmとされた。このC点での測定結果が上記表2に示される。
【0115】
調子率C1を算出するために、順式フレックスF1及び逆式フレックスF2が測定された。調子率C1の算出式は前述の通りである。
【0116】
[順式フレックスF1]
図9(a)は、順式フレックスF1の測定方法を説明するための図である。図9(a)が示すように、バット端Btから75mmの位置に、第一支持点32を設定した。更に、バット端Btから215mmの位置に、第二支持点36を設定した。第一支持点32には、シャフト20をを上方から支持する支持体34を設けた。第二支持点36には、シャフト20を下方から支持する支持体38を設けた。荷重のない状態において、シャフト20のシャフト軸線は略水平とされた。バット端Btから1039mmである荷重点m1に、2.7kgの荷重を鉛直下向きに作用させた。荷重のない状態から、荷重をかけた状態までの荷重点m1の移動距離(mm)が、順式フレックスF1とされた。この移動距離は、鉛直方向に沿った移動距離である。
【0117】
なお、支持体34の、シャフトと当接する部分(以下、当接部分という)の断面形状は、次の通りである。シャフト軸方向に対して平行な断面において、支持体34の当接部分の断面形状は、凸状の丸みを有する。この丸みの曲率半径は、15mmである。シャフト軸方向に対して垂直な断面において、支持体34の当接部分の断面形状は、凹状の丸みを有する。この凹状の丸みの曲率半径は、40mmである。シャフト軸方向に対して垂直な断面において、支持体34の当接部分の水平方向長さ(図9における奥行き方向長さ)は、15mmである。支持体38の当接部分の断面形状は、支持体34のそれと同一である。荷重点m1において2.7kgの荷重を与える荷重圧子(図示省略)の当接部分の断面形状は、シャフト軸方向に対して平行な断面において、凸状の丸みを有する。この丸みの曲率半径は、10mmである。荷重点m1において2.7kgの荷重を与える荷重圧子(図示省略)の当接部分の断面形状は、シャフト軸方向に対して垂直な断面において、直線である。この直線の長さは、18mmである。このようにして、順式フレックスF1が測定された。
【0118】
[逆式フレックスF2]
逆式フレックスの測定方法が、図9(b)で示される。第一支持点32がチップ端Tpから12mm隔てた点とされ、第二支持点36がチップ端Tpから152mm隔てた点とされ、荷重点m2がチップ端Tpから932mm隔てた点とされ、荷重が1.3kgとされた以外は順式フレックスF1と同様にして、逆式フレックスF2が測定された。
【0119】
順式フレックスF1及び逆式フレックスF2に基づき調子率C1が算出された。この調子率C1が上記表2に示されている。
【0120】
[捻り剛性値GIt]
前述した地点P1の捻り剛性値GItが測定された。図10は、この捻り剛性値GItの測定方法を示している。第一位置が治具M1にて固定され、この治具M1から200mm隔てた第二位置が治具M2にて保持された。地点P1は、上記第一位置と上記第二位置との中点である。この治具M2に139(kgf・mm)〔136.3(N・cm)〕のトルクTrを与えたときのシャフトの捩れ角度A(°)が測定された。捻り剛性値GIttは次式にて算出された。
GIt(kgf・mm/deg)=M×Tr/A
ただし、Mは測定スパン(mm)であり、Trはトルク(kgf・mm)であり、Aは捩れ角度(degree)である。測定スパンMは200mmであり、トルクTrは139(kgf・mm)である。この捻り剛性値GItの値が上記表2に示される。
【0121】
[操作性]
5名のテスターが上記クラブを使って打球し、操作性を評価した。ボールには、SRIスポーツ社製の商品名「ゼクシオ SUPER XD」が用いられた。操作性が良好なクラブでは、ゴルファーが意図する打球結果が得られやすく、且つ振りやすい。評価は官能評価とされた。評価は1点から5点までの5段階評価とされた。点数が高いほど評価が高い。5名の評価点の平均が、上記表2に示される。
【0122】
[左右バラツキ]
5名の上記テスターが上記クラブを使って打球し、打球到達地点の左右方向のバラツキを評価した。評価は1点から5点までの5段階評価とされた。点数が高いほどバラツキが少ない。5名の評価点の平均が、上記表2に示される。
【0123】
[前後バラツキ]
5名の上記テスターが上記クラブを使って打球し、打球到達地点の前後方向のバラツキ(即ち、飛距離のバラツキ)を評価した。評価は1点から5点までの5段階評価とされた。点数が高いほどバラツキが少ない。5名の評価点の平均が、上記表2に示される。
【0124】
このように、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0125】
以上説明された方法は、ゴルフクラブシャフトに適用されうる。
【符号の説明】
【0126】
2・・・ゴルフクラブ
4・・・ヘッド
6・・・シャフト
8・・・グリップ
a1〜a10・・・シート(層)
20・・・シャフト
Tp・・・シャフトの先端
Bt・・・シャフトの後端


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の層を有しており、
上記層が、シャフト軸線に対する繊維の絶対角度θaが10°以上70°以下であるバイアス層と、上記角度θaが80°以上であるフープ層とを含んでおり、
上記層が、シャフト軸方向の全体に配置される全長層と、シャフト軸方向において部分的に配置される部分層とを含んでおり、
上記部分層が、後端補強バイアス層と後端補強フープ層とを含んでおり、
バット端から300mm隔てた地点における捻り剛性値GItが、3.5×10(kgf・mm/deg)以上5.0×10(kgf・mm/deg)以下であるゴルフクラブ用シャフト。
【請求項2】
上記後端補強バイアス層の軸方向長さが、120mm以上350mm以下であり、
この後端補強バイアス層の後端が、バット端に位置しており、
上記後端補強フープ層の軸方向長さが、120mm以上350mm以下であり、
この後端補強フープ層の後端が、バット端に位置している請求項1に記載のゴルフクラブ用シャフト。
【請求項3】
上記後端補強バイアス層における繊維の絶対角度θaが、20°以上45°以下である請求項1又は2に記載のゴルフクラブ用シャフト。
【請求項4】
第一の後端補強バイアスシートを用意する工程と、
第二の後端補強バイアスシートを用意する工程と
後端補強フープシートを用意する工程と、
上記第一の上記後端補強バイアスシートと上記第二の上記後端補強バイアスシートとの間に、上記後端補強フープ層を挟み込んで貼り合わせて、合体シートを得る工程と、
上記合体シートを巻き付ける工程と、
を含む製造方法によって製造されている、請求項1から3のいずれかに記載のゴルフクラブ用シャフト。
【請求項5】
上記後端補強バイアス層の樹脂含有率Rbが、15質量%以上24質量%未満であり、
上記後端補強バイアス層の厚みTbが、0.05mm以上0.15mm未満であり、
上記後端補強フープ層の樹脂含有率Rfが、24質量%以上40質量%以下であり、
上記後端補強フープ層の厚みTfが、0.02mm以上0.10mm未満である請求項1から4のいずれかに記載のゴルフクラブ用シャフト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−245309(P2012−245309A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121471(P2011−121471)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(504017809)ダンロップスポーツ株式会社 (701)
【Fターム(参考)】