説明

サイトカイン合成および放出の調節

【課題】好中球エラスターゼおよびIL-8の合成および放出を阻害し、そしてプラスミンの活性を阻害するための組織因子経路阻害剤の提供。
【解決手段】好中球エラスターゼの増大した合成および放出に関連した疾患を処置する方法であって、好中球エラスターゼの発現増大が関与する疾患の症状を示す患者に薬剤を投与する工程であって、該薬剤は凝固を阻害し得、かつさらに好中球エラスターゼの放出を阻害し得る工程を包含する、方法など。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、好中球エラスターゼおよびIL-8の合成および放出を阻害し、そしてプラスミンの活性を阻害するための組織因子経路阻害剤(Tissue Factor Pathway Inhibitor,(TFPI))の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
組織因子経路阻害剤(TFPI)は、少なくとも2つの方法で凝固カスケードを阻害する:第VIIa因子/組織因子複合体の形成を阻止すること、および第Xa因子の活性部位に結合することによる。cDNA配列から推定されたのTFPIの一次配列は、このタンパク質が3つのKunitz型酵素インヒビタードメインを含むことを示す。3つのドメインの1つめは、第VIIa因子/組織因子複合体の阻害に必要とされる。第二のKunitz型ドメインは、第Xa因子の阻害に必要とされる。第三のKunitz型ドメインの機能は、未知である。TFPIは、公知の酵素活性を有さず、そしてそのプロテアーゼの標的を、化学量論的様式で阻害すると考えられる;すなわち、1つのプロテアーゼ分子の活性部位への1つのTFPI Kunitz型ドメインの結合である。TFPIのカルボキシ末端は、ヘパリン結合を介する、およびリン脂質との相互作用による、細胞表面局在における役割を有すると考えられる。TFPIは、リポタンパク質結合凝固インヒビター(Lipoprotein Associated Coagulation Inhibitor(LACI))、組織因子インヒビター(Tissue Factor Inhibitor(TFI))、および外因性経路インヒビター(Extrinsic Pathway Inhibitor(EPI))としても知られる。
【0003】
成熟TFPIは、長さが276アミノ酸であり、負に荷電したアミノ末端および正に荷電したカルボキシ末端を有する。TFPIは、18個のシステイン残基を含み、そして正しく折り畳まれた場合には、9個のジスルフィド架橋を形成する。一次配列はまた、3つのAsn-X-Ser/Thr Nに関連したグリコシル化コンセンサス部位である、145、195、および256位に位置するアスパラギン残基を含む。成熟TFPIの炭水化物成分は、タンパク質の質量の約30%である。しかし、タンパク質分解マッピングからのデータおよび質量分析データは、炭水化物部分は不均一であることを示唆する。TFPIはまた、タンパク質の2位のセリン残基において、様々な程度にリン酸化されることが見出される。リン酸化は、TFPIの機能に影響を与えないようである。
【0004】
TFPIは、ヒト血漿、ならびにHepG2、Chang肝臓細胞、およびSKヘパトーム細胞を含むヒト組織培養細胞から単離されている。組換えTFPIは、マウスC127細胞、ベビーハムスター腎臓細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞、およびヒトSKヘパトーム細胞において発現されている。マウスC127細胞由来の組換えTFPIは、動物モデルにおいて、組織因子に誘導される凝固を阻害することが示されている。
【0005】
組換えTFPIの非グリコシル化形態は、米国特許第5,212,091号に開示されるように、Escherichia coli(E. coli)細胞から産生され、そして単離されている。この形態のTFPIは、ウシ第Xa因子の阻害、およびプ血漿中のヒト組織因子に誘導される凝固の阻害において活性であることが示されている。酵母細胞培養培地からのTFPIの精製方法もまた、例えば、Petersenら、J.Biol.Chem. 18:13344-13351(1993)に開示されている。
【0006】
最近、TFPIに高度な構造同一性を有する、別のタンパク質が同定されている。Sprecherら、Proc.Nat.Acad.Sci., USA 91:3353-3357(1994)。TFPI-2と呼ばれる、このタンパク質の予想される二次構造は、 TFPIに実質的に同一であり、3つのKunitz型ドメイン、9つのシステイン-システイン結合、酸性アミノ末端、および塩基性カルボキシ末端テールを有する。TFPI-2の3つのKunitz型ドメインは、43%、35%、および53%の一次構造同一性を、それぞれTFPI Kunitz型ドメイン1、2、および3に対して示す。組換えTFPI-2は、第VIIa因子/組織因子のアミド分解(amidolytic)活性を強く示す。対照的に、TFPI-2は、第Xa因子アミド分解活性の弱いインヒビターである。
【0007】
TFPIは、致死的なEscherichia coli(E.coli)敗血性ショックヒヒモデルにおいて、死亡を阻止することが示されている。Creaseyら、J.Clin.Invest. 91:2850-2860(1993)。致死用量のE.coliの注入のすぐ後の、6mg/kg体重でのTFPIの投与は、5体のTFPI処置動物のすべてが、5体のコントロール動物の平均生存時間の39.9時間に比較して、生存(life)の質が有意に改善されて生存をもたらした。TFPIの投与はまた、凝固応答の有意の減衰、様々な程度の細胞傷害の減衰およびE.coli敗血症標的器官(腎臓、副腎、および肺を含む)で通常観察される病状の有意な低減に至った。
【0008】
そのクロット阻害特性のために、TFPIはまた、微小血管手術の間の血栓症を予防するために用いられ得る。例えば、米国特許第5,276,015号は、微小血管吻合の血栓形成性を低減する方法におけるTFPIの使用を開示する。ここで、TFPIは、微小血管吻合の部位に、微小血管再構成と同時に投与される。
【0009】
好中球エラスターゼ放出は、ARDSおよび複数の器官不全を含む急性炎症性疾患に関連する。Idleら、(1985) Am. Rev.Respire.Ids.132:1098。Joshua, M.ら、(1994) Am.J.Respire.Crate.Care Med. 150:S123。ARDS、再灌流障害(肺再灌流障害を含む)、関節炎、および敗血症を含む、急性の炎症性反応はまた、IL-8のようなサイトカインの産生に関連する。IL-8は、炎症部位でのPMNの漸増および活性化において重要な役割を果たすと考えられる。
【0010】
現在、凝固の外因性経路の活性化に起因する血栓症、および好中球エラスターゼのような炎症性メディエーターの放出の両方を、効果的に阻害し得る薬剤は1つもない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明によって、以下が提供される:
(1)好中球エラスターゼの合成および放出の増大に関連した疾患を処置する方法であって、該方法は、好中球エラスターゼの発現増大が関与する疾患の症状を示す患者に薬剤を投与する工程であって、該薬剤は凝固を阻害し得、かつさらに好中球エラスターゼの放出を阻害し得る工程を包含する、方法。
(2)前記疾患が炎症性疾患である、請求項1に記載の方法。
(3)前記疾患が、(a)重篤な急性膵炎;(b)気腫;(c)慢性関節リウマチ;(d)複数の器官不全;(e)嚢胞性線維症;(f)敗血症および(g)ARDSからなる群より選択される、項目2に記載の方法。
(4)前記疾患がARDSである、項目3に記載の方法。
(5)前記薬剤がTFPIである、項目1に記載の方法。
(6)前記薬剤がTFPIのムテインである、項目1に記載の方法。
(7)前記薬剤がala−TFPIである、項目1に記載の方法。
(8)項目1に記載の方法であって、前記薬剤が凝固を阻害し得、かつさらに好中球エラスターゼの放出を阻害し得る、TFPIのフラグメントである、方法。
(9)好中球エラスターゼの増大した合成および放出に関連した疾患を予防する方法であって、好中球エラスターゼの発現増大が関与する疾患のを発症する危険性を有する患者に薬剤を投与する工程であって、該薬剤は凝固を阻害し得、かつさらに好中球エラスターゼの放出を阻害し得る工程を包含する、方法。
(10)前記疾患が炎症性疾患である、項目9に記載の方法。
(11)前記疾患が、(a)重篤な急性膵炎;(b)気腫;(c)慢性関節リウマチ;(d)複数の器官不全;(e)嚢胞性線維症;(f)敗血症および(g)ARDSからなる群より選択される、項目10に記載の方法。
(12)前記疾患がARDSである、項目11に記載の方法。
(13)前記薬剤がTFPIである、項目9に記載の方法。
(14)前記薬剤がTFPIのムテインである、項目9に記載の方法。
(15)前記薬剤がala−TFPIである、項目9に記載の方法。
(16)項目9に記載の方法であって、前記薬剤が凝固を阻害し得、かつさらに好中球エラスターゼの放出を阻害し得る、TFPIのフラグメントである、方法。
(17)IL−8の増大した合成および放出に関連した疾患を処置する方法であって、IL−8の発現増大が関与する疾患の症状を示す患者に薬剤を投与する工程であって、該薬剤は凝固を阻害し得、かつさらにIL−8の放出を阻害し得る工程を包含する、方法。
(18)前記疾患が炎症性疾患である、項目17に記載の方法、
(19)前記疾患が、(a)ARDS;(b)再灌流障害;(c)敗血症および(d)関節炎からなる群より選択される、方法。
(20)前記疾患がARDSである、項目19に記載の方法。
(21)前記薬剤がTFPIである、項目17に記載の方法。
(22)前記薬剤がTFPIのムテインである、項目17に記載の方法。
(23)前記薬剤がala−TFPIである、項目17に記載の方法。
(24)項目17に記載の方法であって、前記薬剤が凝固を阻害し得、かつさらにIL−8の放出を阻害し得る、TFPIのフラグメントである、方法。
(25)IL−8の増大した合成および放出に関連した疾患を予防する方法であって、IL−8の発現増大が関与する疾患を発症し得る危険性を有する患者に薬剤を投与する工程であって、該薬剤は凝固を阻害し得、かつさらにIL−8の放出を阻害し得る工程を包含する、方法。
(26)前記疾患が炎症性疾患である、項目25に記載の方法。
(27)前記疾患が、(a)ARDS;(b)再灌流障害;(c)敗血症および(d)関節炎からなる群より選択される、項目26に記載の方法。
(28)前記疾患がARDSである、項目27に記載の方法。
(29)前記薬剤がTFPIである、項目25に記載の方法。
(30)前記薬剤がTFPIのムテインである、項目26に記載の方法。
(31)前記薬剤がala−TFPIである、項目27に記載の方法。
(32)項目28に記載の方法であって、前記薬剤が凝固を阻害し得、かつさらにIL−8の放出を阻害し得る、TFPIのフラグメントである、方法。
(33)TFPIに対する患者の反応性およびTFPIの効力を測定するための方法であって、(a)TFPI効力のうち1以上の指標のレベルまたは活性を決定する工程であって、該1以上の指標が、好中球エラスターゼ、IL−8、およびプラスミンからなる群より選択される、工程を包含する、方法。
(34)前記1以上の指標が、好中球エラスターゼ、IL−8、およびプラスミンである、項目33に記載の方法。
(35)項目33に記載の方法であって、ここで、前記患者が、好中球エラスターゼの合成および放出の増大と関連する疾患のうち、(a)重篤な急性膵炎;(b)気腫;(c)慢性関節リウマチ;(d)複数の器官不全;(e)嚢胞性線維症;(f)敗血症および(g)ARDSのうち
1以上の疾患を有すると診断されている、方法。
(36)項目33に記載の方法であって、前記患者が、IL−8の合成および放出の増大と関連する疾患のうち、(a)ARDS;(b)再灌流障害;(c)敗血症および(d)関節炎のうち、1以上の疾患を有すると診断されている、方法。
(37)前記患者が、血栓症に関連する症候群を有すると診断された、項目33に記載の方法。
【0012】
発明の要旨
凝固活性化およびLPS(細菌のエンドトキシンの活性部分)がエラスターゼ放出に相乗作用すること、ならびにTFPIが、凝固活性化により、およびLPS存在下での凝固により誘導されるエラスターゼ放出を阻害することが現在見出されている。さらに、TFPIは、治療的に適切な用量において、プラスミン活性を阻害することが示されている。従って、TFPIは、エラスターゼ放出に起因する炎症に関する疾患状態に関連があり、そしてそこにおいて有用であることが示されている。従って、TFPIは、重篤な急性膵炎、気腫、慢性関節リウマチ、複数の器官不全、嚢胞性線維症、成人呼吸促進症候群(「ARDS」)、および敗血症のような臨床的指標を処置するために使用され得る。
【0013】
凝固活性化/クロッティングは、正常ヒト全血培養におけるIL-8産生を誘導することも見出されている。さらに、全血培養中に共存する凝固活性化/クロッティングおよびLPSは、増大したIL-8産生について相乗作用することが見出されている。TFPIは、両方の状況において誘導されるIL-8産生をブロックし得る。従って、TFPIは、 ARDS、再灌流障害(肺再灌流障害を含む)、敗血症、および関節炎のような臨床的指標を処置するために使用され得る。
【0014】
最後に、TFPIが、プラスミンの活性ならびに好中球エラスターゼおよびIL-8の合成および放出を阻害するという観察は、TFPIに対する患者の応答を決定するために用いられるプラスミン活性ならびにエラスターゼおよびIL-8についてのアッセイの使用を可能にすることが観察された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
発明の詳細な説明
A.定義
本明細書中で使用される「TFPI」は、成熟組織因子経路インヒビターをいう。上記のように、TFPIは当該分野において、リポタンパク質結合凝固インヒビター(LACI)、外因性経路インヒビター(EPI)および組織因子インヒビター(すなわちTFI)としても知られる。TFPIの生物学的活性を保持するTFPIの変異タンパク質は、この定義の中に含まれる。さらに、細菌細胞中での産生のためにわずかに改変されたTFPIもまた、この定義の中に含まれる。例えば、アラニン残基をTFPIポリぺプチドのアミノ末端に有するTFPIアナログは、Escherichia coli中で産生されてきた。米国特許第5,212,091号を参照のこと。TFPIおよびTFPI-2の一部を有するTFPIのアナログ、第一および第二のKunitz型ドメインを含むTFPIのフラグメント、ならびに第一および第二のKunitz型ドメインおよびヘパリン結合領域を含むTFPIのフラグメントは、全て本発明の方法において有用であり得る。このようなアナログおよびフラグメントは、米国特許第5,106,833号ならびに米国特許出願番号第08/286,521号に記載される。このようなフラグメントの1つは、成熟TFPIの最初の160アミノ酸を有するTFPI(1-160)である。
【0016】
本明細書中で使用される「薬学的に受容可能な組成物」は、処方されたTFPIの生物学的活性を失わせるかまたは低減させず、かつ処方されたTFPIが患者に投与されたときに、なんら有害な生物学的効果を有しない組成物をいう。
【0017】
本明細書中で用いられる「患者」は、ヒト患者および獣医学患者を包含する。
【0018】
B.一般的な方法
TFPIは、米国特許第5,212,091号(この開示は、本明細書中で参考として援用される)に開示されるように組換え法によって調製され得る。簡単に述べれば、TFPIを、Escherichia coli細胞中で発現し、TFPIを含む封入体を、残りの細胞物質から単離する。封入体を、亜硫酸分解(sulfitolysis)に供し、イオン交換クロマトグラフィーを用いて精製し、ジスルフィド交換反応によって再び折りたたみ、そしてこの再び折りたたまれた活性なTFPIを、陽イオン交換クロマトグラフィーによって精製する。TFPIはまた、同時係属中の米国特許出願番号第08/286,530号に開示されるように、酵母中で産生され得る。
全血培養
全血培養系は、以下のように行われ得る。血液を正常な供与者から抗凝固剤中に収集する。正常な健康な供与者からの静脈血を、臨床用ヘパリンまたはEDTA(K3)バキュテイナー(vacutainer)(Baxter)中へ直接収集した。あるいは、静脈血を無菌のポリプロピレンシリンジ中へ収集し、そしてすぐに以下を含む示された濃度の種々の添加物を含むマイクロタイターウェル中に移した:
a.20〜50U/mlヘパリン(等量の10×希釈で完全に抗凝固化された血液)
b.50〜60U/mlヒルジン(組換え酵母、American Diagnostica)
c.10μg/ml TFPI
d.1U/mlヘパリン(ESI)
e.10mM EDTA(単離された好中球用)
f.1ng/ml LPS(E.coli Rc)(Sigma, St.Louis, MO)
g.3.8%クエン酸(単離されたPBMC用)。
TFPIを2M尿素、20mMリン酸ナトリウム(pH7.2)、および0.14M NaCl中で11mg/mlで処方した。バキュテイナー中に収集した血液を、培養ウェル中に添加する前に、すばやくポリプロピレンチューブ中に移した。
【0019】
全血を、1ウェルあたり200μlの容量で、96ウェルマイクロタイタープレート(Corning)中で、37℃、5%CO2にて2〜48時間、加湿雰囲気中で培養した。この血液は、代表的には、RPMI 1640培地+0.1%「低エンドトキシン」ウシ胎児血清(FCS)(Hyclone, Logan, UT)中1:8〜1:10の最終希釈である。次いで、この培養物を、400×gで1分間、4℃でスピンダウンした。次いで、上清液を、可溶性メディエーターの分析のために種々の時点(代表的には2〜2.5時間)で取り出した。培養の間にクロッティングが起こった事象において、クロット化したウェルの内容物および比較群をポリプロピレン微量遠心チューブに移し、そして短時間スピンして上清を回収した。細胞およびフィブリンクロットをペレット化した後、ELISAまたは他のバイオアッセイにより、上清中の可溶性メディエーターを測定した。
【0020】
末梢血単核細胞(PBMC)培養
EDTAバキュテイナーへ回収された全血を、15mlポリスチレンチューブ中の5ml NIM培地上の7〜8ml血液の混合物で、フィコールグラジエント(NIM培地、Cardinal Assoc.)上に重層した。このチューブを500×gで30分間スピンし、そして単核細胞層をグラジエント中の一番上のバンドとして単離した。いくつかの実験において、PBMCをまた、クエン酸化Cell Preparation Tubes(Becton-Dickinson, Mountain View, CA)を用いて単離した。ここで、血液を回収し、そして同一チューブ中で分画した。同一の結果を、他のいずれかの方法で単離されたPBMCを利用して得た。滅菌生理食塩水洗浄に続いて、PBMCを、全血細胞培養について上記で記載したように、RPMI/0.1%FCS中で、1ウェルあたり約1×105細胞で培養した。
【0021】
可溶性メディエーターについてのアッセイ
エラスターゼ、IL-8、IL-6、およびTNFについてのELISAアッセイを以下のように行った。96ウェルマイクロタイタープレートを、適切な抗体で一晩コートした。プレートを洗浄し、そしてビオチン標識化抗体および血清とともにサンプルを各ウェルに添加した。次いで、このプレートをインキュベートし、そして洗浄した。次いで、ストレプトアビジン西洋ワサビペルオキシダーゼをウェルに添加し、そしてインキュベートさせた。このウェルを再び洗浄し、そしてTMB、酢酸ナトリウム、およびペルオキシドで発色させた。この反応を2Mの硫酸の添加により停止し、そしてプレートをO.D. 450 nmで読んだ。エラスターゼについてアッセイする場合、サンプルの添加とビオチン化抗エラスターゼ抗体の添加との間にインキュベーション期間が存在する。TNFについては、ポリストレプトアビジン西洋ワサビペルオキシダーゼおよびミルクをStrep-HRPおよび血清の代わりに用いる。
【0022】
Spectrozyme PlasminアッセイキットをAmerican Diagnosticaより入手した。Quantikine IL-1β ELISAキットをR&D Systemsから購入した。アッセイの完了において製造者の指示に従った。
【0023】
凝固活性化
凝固活性化程度の測定を、クロッティングの観察により定性的方法で、そして製造者のプロトコル(Diagnostica Stago, France)に従って、トロンビン:アンチトロンビン(TAT)複合体およびフィブリノペプチドAレベルの免疫検出を介して定量的に行った。上清をまた、上記の測定基準について相関させるため、ならびにプロトロンビン、α-トロンビン、および第Xa因子を含む単離されたPBMC培養物に添加された精製された因子の活性を確認するために、Spectrozyme XaおよびTH(トロンビン)(American Diagnostica)を含む種々の基質に対する発色活性について、ルーチンに分析した。
【0024】
C.実施例
実施例1
正常ヒト血液を利用する培養系(ここで、凝固活性化およびクロッティングは制御され得、そして炎症メディエーター応答はLPSの存在下または非存在下で評価され得る)を確立した。本質的に、血液を、例えば不可逆性のトロンビンインヒビターであるヒルジンのような抗凝固剤の濃縮物中に回収する。1:10の最終血液希釈で培養した場合、凝固活性化およびクロッティングが観察され得る。凝固活性化およびクロッティングの程度は、血液希釈の際の抗凝固剤の適切な添加により制御され得る。
【0025】
エラスターゼ放出の際の凝固活性化/クロッティングの効果のほとんどの試験は1:10で希釈した血液で行われているが、この現象は図1に示されたような希釈していない全血において観察された。インキュベーションを2時間行った。全血のクロッティングは、50 U/mlのヘパリンで処理した血液と比較して有意なエラスターゼ放出を上清中に生じた。希釈していない全血では、LPSの添加は、エラスターゼ産生において少しの増加を生じただけであった。これはおそらく、凝固シグナル自体が培養物中で非常に強いためであろう。t=0でのTFPI添加は凝固および凝固+LPSに誘導されるエラスターゼ放出を排除した。
【0026】
図2に示すように、トロンビンを介した凝固活性化/クロッティングが進行し得るように、ヒルジンの希釈は、低ヒルジン濃度(5および10 U/ml)で最も顕著であるエラスターゼ放出を伴う。ここで、クロッティングは回収時に観察され得る(t=2時間)。ヒルジン処理血液培養物(5 U/mlのヒルジン)への低濃度のTFPIの添加は、用量依存的な様式でエラスターゼ放出をブロックする(図3)。低ヒルジン培養物中のLPSの添加は、有意に多いエラスターゼ産生を生じる(図4)。それにもかかわらず、TFPIはエラスターゼ放出を顕著に阻害する。
【0027】
ヘパリン中に回収された抗凝固血液とは対照的に、TFPI中に回収された血液は、LPSを有する培養物で観察された相乗作用的エラスターゼ放出を示すことができない。さらに、ヘパリン抗凝固化血液中での凝固/LPS誘導エラスターゼ放出は、t=0での培養物へのTFPIの添加により阻害され得る(図4)。
【0028】
最終的に、プラスミンの合成および放出の際の培養物中のTFPIの存在の効果を決定した。図5は、増大する濃度のTFPIが、培養物中のプラスミン活性の減少した検出を生じることを示す。それゆえ、プラスミン活性に対するTFPIの阻害効果は、患者におけるTFPIの効力についてのマーカーとして働き得る。
【0029】
実施例2
上記の培養系を用いて、IL-8産生が凝固活性化/クロッティングの結果として増大することが見出されている。また、凝固活性化/クロッティングおよびLPSは、IL-8の合成および放出に相乗効果を有するようである。
【0030】
血液培養物中でのヒルジンの希釈は、有意な凝固活性化および観察可能なクロッティングを生じる凝固カスケードのトロンビン増幅を許容する。凝固活性化/クロッティングとの一致は、ELISAにより検出可能な培養上清中へのIL-8の産生である(図6)。TFPIは、用量依存的な様式での凝固活性化/クロッティング-誘導IL-8産生を阻害する(図6)。
【0031】
LPS(1ng/ml)がヒルジン処理血液培養物中に含まれる場合、有意な凝固活性化/クロッティングが生じる条件(すなわち、5〜10 U/mlのヒルジン)下で、IL-8産生の相乗的な増大が観察される(図7)。この応答は、完全な抗凝固条件下(50 U/mlのヒルジンまたは5 U/mlのヘパリン)で、凝固活性化/クロッティングが約350pg/mlのIL-8を生じ、そしてLPSが約450pg/mlのIL-8を誘導するが、凝固活性化/クロッティングとLPSとの組合せは、約2500pg/mlのIL-8産生を生じるので、相乗作用的である。図7に示すように、TFPIは、用量依存的な様式での相乗的なIL-8産生を阻害する。
【0032】
凝固活性化/クロッティングまたは凝固活性化/クロッティング+LPSの組合せにより誘導されるIL-8産生を排除するためのTFPIの能力は、サイトカイン産生の変化したキネティックによらない(図8および9)。TFPIは評価される全ての時点での誘導されたIL-8の産生を阻害する。
【0033】
凝固活性化/クロッティング+LPSの組合せに対する記載されたIL-8応答は、TNFα、IL-6、またはIL-1βの相乗的な産生を生じない組合せとしていくらか独特である(図10)。さらに、低ヒルジン+LPS培養物において誘導されるTNFαまたはIL-1βの産生は、10μg/mlまでのTFPI濃度の添加により有意に阻害されない。IL-6産生がTFPIによりわずかに阻害されるため、IL-8応答はTFPIにより最も有意に低減される。これらの培養物における誘導されたIL-8産生に対するTFPI効果についての機構は決定されていない。いかなる特定の理論にも縛られることなく、第Xa因子の直接阻害により凝固活性化を阻害するTFPIの能力およびXa依存様式における第VIIa/組織因子の阻害が存在し得る。しかし、TFPIはLPS活性を直接的に阻害する何らかの能力を有するかもしれない。
【0034】
実施例3
成人呼吸促進症候群(ARDS)は、好中球の蓄積および肺における水腫、ならびに進行性の低酸素血症により特徴付けられる、急性の炎症性プロセスである。Repine,(1992)Lancet 339:466-469。ARDSは、敗血症を含む多くの疾患における悪化要因として生じる炎症性疾患である。ARDSと診断された患者は、有効量のTFPIの投与により処置され得る。TFPIの投与量は、ARDSの経過(発症直後から後期段階までの疾患)、患者の大きさ、および当業者に既知のおよびより認識される他の要因を含む多くの要因に従って変化する。
【0035】
ARDSが発展する危険のある患者は、胸部X線により同定され得る。ラジオグラムの肺の領域が不明瞭であるのは、肺の中への好中球の移動を示し、そしてこれはARDSの容認された臨床診断顕著な特徴である。
【0036】
実施例4
好中球エラスターゼ、IL-8の合成および放出へのTFPIの阻害効果、およびプラスミンへのTFPIの阻害効果は、血栓症障害を有する患者、増大した好中球エラスターゼと関連する疾患を有する患者、および増大したIL-8と関連する疾患を有する患者における処置の効力を評価するために使用され得る。好中球エラスターゼ、IL-8、およびプラスミンのレベルが、TFPIに対する患者の応答性および予後の予測であり得ると考えられる。TFPIを受容した患者は、採血され、そして好中球エラスターゼレベルについて、IL-8レベルについて、プラスミン活性について、またはこれらの指標の任意の組合せについてアッセイされる。これらの指標の各々についてのレベルを、正常ヒトボランティアの集団のサンプリングにより決定されたような、確立された歴史的ベースラインと比較し得る。あるいは、1患者あたりの好中球エラスターゼ、IL-8、またはプラスミンのレベルを、TFPIの投与前および投与後に経時的に追跡し得る。試験された指標(単数または複数)のレベルが減少しなかった事象では、TFPIでのさらなる投与が必要とされ得る。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、以下に示す条件下での希釈されていない全血培養物中での好中球エラスターゼの産生を示す:コントロール(クロット);TFPI(10μg/ml);LPS(1ng/ml)(クロット);TFPI+LPSおよびヘパリン(50u/ml)。
【図2】図2は、種々の濃度のヒルジンを含む凝固している1:10全血培養物中での好中球エラスターゼの産生を示す。
【図3】図3は、種々の濃度のTFPIおよびヒルジンまたはヘパリンを含む希釈された(1:10)全血培養物中での好中球エラスターゼの産生を示す。
【図4】図4は、種々の濃度のTFPIおよびヒルジンまたはヘパリンに加えて、1ng/ml LPSを含む希釈された(1:10)全血培養物中での好中球エラスターゼの産生を示す。
【図5】図5は、TFPIが、プラスミン活性を阻害することを示す実験の結果を示す。
【図6】図6は、全血培養物中のIL-8レベルが、TFPIの存在下で、劇的に減少することを示す実験の結果を示す。
【図7】図7は、全血培養物中での凝固活性化/クロッティングおよびLPSの相乗効果をIL-8レベルで示す。
【図8】図8および図9は、LPSの非存在下(図8)および存在下(図9)での全血培養物中のIL-8レベルを測定する時間経過実験の結果を示す。
【図9】図8および図9は、LPSの非存在下(図8)および存在下(図9)での全血培養物中のIL-8レベルを測定する時間経過実験の結果を示す。
【図10】図10は、5U/mlヒルジンおよび1ng/ml LPSを含む全血培養物中のサイトカイン産生へのTFPIの効果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載されるような、サイトカイン合成および放出の調節方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−145870(P2007−145870A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−62668(P2007−62668)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【分割の表示】特願平9−501543の分割
【原出願日】平成8年6月5日(1996.6.5)
【出願人】(591076811)カイロン コーポレイション (265)
【Fターム(参考)】