説明

サイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強剤

【課題】 哺乳類のサイトカイン類やケモカイン類の産生を効果的に増強する手段を提供することを課題とする。
【解決手段】 配列表における配列番号1乃至3のいずれかで示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドか、又は配列表における配列番号1乃至3のいずれかで示されるアミノ酸配列において、生物活性を実質的に失わない範囲でアミノ酸の1個又は2個以上が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドを有効成分として含んでなるサイトカイン類及び/又はケモカイン産生増強剤を提供することによって上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強剤に関するものであり、より詳細には、配列表における配列番号1乃至3のいずれかで示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドか、又は配列表における配列番号1乃至3のいずれかで示されるアミノ酸配列において、生物活性を実質的に失わない範囲で、アミノ酸の1個又は2個以上が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドを有効成分として含んでなるサイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生体は外界からの物理的、化学的、生物学的侵襲に対して、様々なサイトカイン類やケモカイン類が関与する生体防御反応を示す。しかしながら、何らかの原因で生体が正常に機能できない状態、例えば、老化、癌、癌治療後の化学療法、感染による体力低下時などには、外部からこれらサイトカイン類やケモカイン類を補うことで生体反応を補助する試みがなされている。
【0003】
近年、問題となっている癌治療後の化学療法時における血小板減少に対する治療として、トロンボポエチン(TPO)の使用が期待されたものの、その効果は明確ではない(例えば、非特許文献1を参照)。炎症時に産生されることが知られているインターロイキン6(IL−6)は、血小板を増加させる作用と骨髄における巨核球を分化成熟させる作用を有していることが知られており、血小板減少患者において臨床的にも有用であると言われている。また、近年、単球・マクロファージの形成を刺激する因子として発見されたマクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)も血小板増加作用を有することが見出され、化学療法後の血小板増多剤として期待されている。さらに、インターロイキン1(IL−1)も造血能を賦活する作用が知られている(例えば、非特許文献2、非特許文献3などを参照)。従って、血小板のみならず、他の造血系にも作用する自己のIL−6、M−CSF及び/又はIL−1を、生体内若しくは生体外で効率よく産生させる方法があれば、遺伝子組換えなどの手法で工業的に製造されたIL−6や他の各種因子を投与するよりも、患者にとってより副作用が軽減された状態で、血小板を増加させることが可能となる。
【0004】
一方、形質転換成長因子β(TGF−β)、腫瘍壊死因子α(TNF−α)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)などのサイトカインは細胞の分化や増殖、組織の修復、血管新生などを誘導していることが知られており、コラーゲンやフィブロネクチンの産生を促進することから創傷時の組織回復や治療にその応用が期待されている(例えば、非特許文献3、非特許文献4などを参照)。
【0005】
さらに、近年の研究において、血球細胞を炎症局所に誘導する因子として発見されたケモカイン類が、細胞の遊走を刺激する以外にも新たな生物活性を有することが判明した。例えば、ストローマ細胞由来因子(stromal cell derived factor−1、SDF−1)は主に胎生期の造血、心臓形成、脳形成、胃腸管の血管形成など器官形成に関与する多機能サイトカインとしての活性を有し、また、インターロイキン8(IL−8)は繊維芽細胞内のサイトメガロウイルスを抑制する活性を有し、さらに、正常T細胞に発現する遺伝子産物(regulated upon activation, normal T−cell expressed and secreted、RANTES)やマクロファージ炎症蛋白(macrophage inflammatory protein、MIP)はヒト免疫不全ウィルス(Human immunodeficiency virus、HIV)の感染を抑制する活性を有することが見出された。また、マラリア原虫(Plasmodium vivax)感染抗原であるDuffy抗原はほとんどのケモカインと結合すること、さらにHIVはマクロファージやT細胞のケモカインレセプター(例えばSDF−1、RANTES、MIPなどのレセプター)を認識して感染することが判明し、ケモカイン自身が病原体の感染をレセプターレベルで阻害する可能性が示されつつある(例えば、非特許文献5などを参照)。従って、ケモカイン類を、生体内若しくは生体外で効率よく産生させることができれば、HIVやその他の病原体による感染を予防するなどの効果が期待できる。
【0006】
このような状況下、サイトカイン類やケモカイン類の生体内外での産生を増強する有効な方法が見出されれば、サイトカイン類やケモカイン類を製造する場合の誘導剤として有用であるばかりでなく、癌化学療法時の血小板減少の軽減や回復促進の強力な補助の手段、さらには生体の機能を利用した病原体の感染を未然に防ぐ感染防御の手段となり得ることから、サイトカイン類やケモカイン類の生体内外での産生を効率良く増強する手段が望まれている。
【0007】
【非特許文献1】『医学のあゆみ』、医歯薬出版(株)発行、1999年、第190巻、第10号、890頁乃至895頁
【非特許文献2】『サイトカイン療法−基礎・病態からのアプローチ−』、1992年、高久史麿編集、南江堂発行、74頁乃至79頁
【非特許文献3】『サイトカインのすべて』、臨床免疫(増刊)、1995年、科学評論社発行、第27巻、第16号、551頁乃至561頁
【非特許文献4】『実験医学』、1999年、羊土社発行、第17巻、第6号、721頁乃至726頁
【非特許文献5】『検証!ケモカイン』、細胞工学、1998年、秀潤社発行、第17巻、第7号、1082頁乃至1089頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
斯かる状況に鑑み、本発明の課題は、哺乳類のサイトカイン類やケモカイン類の産生を効果的に増強する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、本発明者が国際公開 WO 2004/042056号明細書において開示したヒト由来ポリペプチドAgK114−1a、すなわち、配列表における配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド、及び、マウス由来ポリペプチドmAgK114−1b及びmAgK114−1、すなわち、それぞれ配列表における配列番号2及び3で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドに着目し、これらのポリペプチドを生体外で哺乳類の間葉系細胞、上皮系細胞又はマクロファージ系細胞へ作用させると、これらの細胞におけるIL−6の産生を顕著に増強することを見出し、また、IL−6と同様に血小板を回復させるサイトカインであるM−CSF及びIL−1、及び、TNF−α、TGF−β、VEGFなどのサイトカイン類、さらには、SDF−1、RANTES、IL−8、MIPなどのケモカイン類の産生をも顕著に増強することを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、配列表における配列番号1乃至3のいずれかで示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドか、又は配列表における配列番号1乃至3のいずれかで示されるアミノ酸配列において、生物活性を実質的に失わない範囲でアミノ酸の1個又は2個以上が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドを有効成分として含んでなるサイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強剤を提供することによって上記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のサイトカイン類及び/又はケモカイン産生増強剤は、哺乳類の細胞においてIL−6、M−CSF及びIL−1の産生を顕著に増強することから、これらのサイトカインによる造血作用を増強することができる。したがって、医薬品分野において、癌などの化学療法や放射線療法、又は、骨髄移植により減少した血小板などの血液細胞の数を増加させる用途に有用であり、さらには、生体外で造血細胞を増幅させたのち、生体に投与することにも利用することができる。また、TNF−α、TGF−β、VEGFなどのサイトカイン類の産生をも増強することから、創傷組織の修復に有用である。さらに、本発明のサイトカイン類及び/又はケモカイン産生増強剤は、SDF−1、RANTES、IL−8、MIPなどのケモカイン類の産生をも増強することから、アトピー性皮膚炎などの症状の軽減剤や、細菌などの感染防御剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のサイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強剤は、本発明と同一の出願人が国際公開 WO 2004/042056号明細書において開示した、配列表における配列番号1乃至3のいずれかで示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドか、又は、配列表における配列番号1乃至3のいずれかで示されるアミノ酸配列において、生物活性を実質的に失わない範囲で、アミノ酸の1個又は2個以上が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドを有効成分として含んでなるものである。これらのポリペプチドは、それが上記したアミノ酸配列を有し、且つ、生体内外においてサイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強作用を発揮するものであるかぎり、その純度、由来、調製方法は問わない。なお、配列表における配列番号1乃至3のいずれかで示されるアミノ酸配列において、生物活性を実質的に失わない範囲で、アミノ酸の1個又は2個以上が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドとは、サイトカイン類及び/又はケモカイン類の産生を増強するという性質を実質的に失わない範囲で配列表における配列番号1乃至3のいずれかで示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換するか、1個乃至10個のアミノ酸を欠失させるか、若しくは、N末端、C末端又は内部に、1乃至60個のアミノ酸が付加又は挿入されてなるアミノ酸配列を有するものを意味し、例えば、1個又は複数個のアラニンをグリシンに置換したアミノ酸配列、1個又は複数個のアラニンが欠失又は付加したアミノ酸配列を有するポリペプチドが挙げられる。このようなアミノ酸配列が変異したポリペプチドは、部位特異的変異やランダム変異などのプロテインエンジニアリングの手法を用いて得ることができる。なお、哺乳類のサイトカイン類及び/又はケモカインの産生を増強する作用の有無は、例えば、ヒト新生児由来間葉系細胞(NHDF細胞)、マウス由来間葉系細胞(MEF細胞)又はマウスマクロファージ系細胞(J774A.1)を対象ポリペプチドの存在下又は非存在下で培養した後、それぞれの培養物上清中におけるサイトカイン類及び/又はケモカイン類の産生量を測定する方法によって判定することができる。
【0013】
本発明に用いるポリペプチドは、前記のアミノ酸配列を有しており、哺乳類のサイトカイン類及び/又はケモカイン類の産生を増強する限り、いかなるポリペプチドであろうと包含され、例えば、組換えDNA技術により創製されたポリペプチド、天然の給源由来のポリペプチド、又は化学的に合成されたポリペプチドなどのいずれであってもよく、さらには、当該ポリペプチドを、例えば、平均分子量5,000乃至10,000のデキストラン、プルラン、ポリエチレングリコール(PEG)などの水溶性の天然高分子若しくは合成高分子を結合させるなどして人為的に化学修飾したものも有利に用いることができる。
【0014】
これらのアミノ酸配列を有するポリペプチドは、それぞれをコードするDNAを用い、組換えDNA技術により斯かるポリペプチドの産生能を有する形質転換細胞や形質転換微生物を作製し、培養して細胞又は菌体内外に産生させ、製造することができる。本発明におけるDNAとは、前記本発明に用いるポリペプチドをコードしているDNAを意味する。本発明に用いるDNAの例としては、配列表における配列番号1乃至3のいずれかで示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする配列表における配列番号4乃至6のいずれかで表される塩基配列か、コードするアミノ酸配列を変えない範囲で配列表における配列番号4乃至6のいずれかで表される塩基配列の1個又は2個以上の塩基が他の塩基で置換された塩基配列、あるいはそれらに相補的な塩基配列を有するDNAが挙げられる。これらのDNAが天然に由来するものか人為的に合成されたものであるかは問わない。本発明に用いるDNAの天然の給源としては、例えば、ヒトの胎盤細胞及びマウスの皮膚細胞が挙げられ、それらの細胞からは国際公開 WO 2004/042056号明細書に開示された方法により得ることができる。
【0015】
また、本発明に用いるポリペプチドは、配列表における配列番号1乃至3のいずれかで示されるアミノ酸配列に従い化学的に合成することにより調製することもできる。ペプチド合成法としては斯界で一般に用いられるペプチド自動合成装置を用いて全合成する方法か、又は、予めペプチド断片をいくつかのブロックに分けて合成しておき、酵素的又は化学的に縮合させて目的とするポリペプチドを得る方法のいずれもが、必要に応じて、有利に実施できる。
【0016】
組換えDNA技術による調製、天然の給源からの調製、又はペプチド合成法による調製のいずれかによって得ることができる本発明に用いるポリペプチドの粗調製品は哺乳類のサイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強剤としてそのまま使用可能ではあるものの、通常は使用に先立ち精製して用いる。本発明に用いるポリペプチドの精製には、細胞又は菌体破砕物を除去した培養物に、例えば、濃縮、塩析、透析、分別沈澱、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、ゲル電気泳動、等電点電気泳動などの生理活性ポリペプチドを精製するための斯界における通常一般の方法が採用でき、必要に応じて、これら方法を適宜組合せればよい。そして、最終使用形態に応じて、精製したポリペプチドを濃縮・凍結乾燥して液状若しくは固状にすればよい。
【0017】
本発明でいうサイトカイン類とは、インターロイキン6(IL−6)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、インターロイキン1(IL−1)、腫瘍壊死因子α(TNF−α)、形質転換成長因子β(TGF−β)及び血管内皮細胞増殖因子(VEGF)から選ばれる1種又は2種以上のサイトカイン類を意味し、また、本発明でいうケモカイン類とは、ストローマ細胞由来因子(SDF−1)、正常T細胞に発現する遺伝子産物(RANTES)、インターロイキン8(IL−8)及びマクロファージ炎症蛋白(MIP)から選ばれる1種又は2種以上のケモカイン類を意味する。前述のとおり、本発明に用いるポリペプチドは、これら哺乳類のサイトカイン類及び/又はケモカインの産生を増強する作用を有することから、例えば、医薬品などの分野において斯かる作用を有する物質を必要とする用途において有利に利用できる。医薬品の分野においては、血小板増多因子として有用である。さらには、ケモカイン類の生産に有利に利用できることから、炎症の軽減剤として利用することができ、皮膚外用剤の形態として、アトピー性皮膚炎、接触性過敏症の軽減、又はそれに伴う皮膚の炎症を軽減することに利用できる。なお、本発明で用いるポリペプチドは本来哺乳類に由来するものであることから、毒性も極めて低く安全な物質である。
【0018】
本発明のサイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強剤は、有効成分であるポリペプチドの含量が高いほど著明なサイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強作用を示す。ポリペプチドは高度に精製したものであっても、また、部分精製したものであっても良いものの、顕著なサイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強作用を有する剤を得るためには、後記実施例で示すように、サイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強試験において、ポリペプチド濃度10μg/mlのポリペプチドを用いた場合、ポリペプチドを添加しない場合に比べてサイトカイン類又はケモカイン類の相対産生量を2倍以上増加させるレベルにまでポリペプチドの含量を高めるのが望ましい。
【0019】
本発明のサイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強剤の使用方法について説明すると、本発明のサイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強剤は、細胞培養法により各種サイトカイン又はケモカインを製造する際、培地中に加える誘導剤として用いることができる。すなわち、哺乳類の皮膚、口腔、骨髄、血液などから分離される間葉系細胞、繊維芽細胞、上皮細胞や血液系細胞、あるいは、例えば、MEF細胞、J774A.1細胞などの株化された細胞を、この発明のポリペプチドを1ml当り約0.1ng乃至100μg、望ましくは約1μg乃至50μg含む適宜の培養培地で培養する。必要に応じて、培養培地にマイトジェンなどの細胞刺激物質を加え、培養培地を温度約30乃至40℃、pH約5乃至8に保ちつつ、培養培地を適宜新鮮なものと取替えながら、通常一般の方法により約1乃至100時間培養する。斯くして得られる培養物を、生理活性物質を精製するための慣用の方法、すなわち、塩析、透析、濾過、濃縮、分別沈殿、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、ゲル電気泳動、等電点電気泳動などの1種又は2種以上を適宜組合せて適用することにより、各種サイトカインあるいはケモカインを採取することができる。
【0020】
また、本発明のサイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強剤は、生体に投与することにより、血小板減少症や生体組織障害における治療剤として、さらには外来微生物による感染を防御する予防剤として用いることができる。血小板減少症、組織障害、感染の治療・予防のためには、哺乳類の体内に本発明のサイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強剤を直接塗布又は投与すれば良い。本発明のサイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強剤の有効成分であるポリペプチドとしての有効な投与量は、対象とするヒトをはじめとする哺乳動物の種類、年齢、性別などによって異なるものの、具体的には、この発明のポリペプチドを投与に適した適宜剤型に調製後、哺乳類に経口又は経粘膜投与するか、例えば、皮内、皮下、筋肉内、静脈内又は腹腔内に注射投与する。本発明のサイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強剤は、有効成分であるポリペプチドとして、通常1乃至1000μg/回、望ましくは、10乃至500μg/回、1日1回または数回に分けて、症状、投与形態に応じて、連日または1日以上の間隔をおいて投与すればよい。本発明のサイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強剤を投与し得る哺乳類はヒトに限定されず、例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、サルなどの哺乳動物であってもよい。本発明の有効成分であるポリペプチドは毒性がきわめて低いことから、大量投与しても重篤な副作用を惹起することがない。したがって、本発明のサイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強剤は、使用に際して用量を厳密に管理しなくても、所望のサイトカインあるいはケモカインを迅速に誘導できる利点がある。
【0021】
本発明のサイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強剤を配合してなる組成物は、医薬品の形態としても有利に利用できる。本発明によるサイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強剤には、必要に応じてサイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強作用を有するポリペプチド以外のもの、すなわち、ヒトを含む哺乳類のための医薬品への適用が許容される成分として、個々の利用分野で通常使用される、例えば、水、アルコール、澱粉質、蛋白質、アミノ酸、線維質、糖質、脂質、脂肪酸、ビタミン、ミネラル、着香料、着色料、甘味料、調味料、香辛料、安定化剤、防腐剤、乳化剤、界面活性剤、賦形剤、増量剤、増粘剤、保存剤などの成分を1種または2種以上含有させることも有利に実施できる。これらの成分は、通常、本発明のサイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強剤の、各々の利用分野における必要性に応じて適宜選択される。以上のような成分を含む本発明のサイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強剤の形態には特に制限はなく、粉末、顆粒、錠剤、ペースト、ゼリー、乳液、溶液などの所望の形態で提供される。
【0022】
前記糖質としては、ブドウ糖、果糖、ラクトース、トレハロース、マルトース、蔗糖、ラクトスクロース、水飴などの糖類、サイクロデキストリン、環状四糖などの環状の糖類、エリスリトール、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、還元水飴などの糖アルコール類、プルラン、カラギーナン、などの天然多糖類、天然ガム類、カルボキシメチルセルロースなどの1種または2種以上を添加することにより、固状のものにあってはその賦形性に有利に利用できるだけでなく、本発明のサイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強剤の安定化などに有利に利用できる。
【0023】
本発明のサイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強剤を配合してなる組成物を製造するには、対象とする動物類やその投与方法などに応じて選ばれる適宜の組成にしたがって、本発明のサイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強剤と、以上に示したような、医薬品の分野において使用が認められている1種又は2種以上の成分とを、個々の含量に基づいて、目的に応じて混合し、希釈、濃縮、乾燥、濾過、遠心分離などの工程を適宜実施し、サイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強剤を配合してなる組成物を調製し、必要に応じて所望の形状に成形すればよい。各成分を配合する順序や、上記の工程を実施する時期は、サイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強剤の品質劣化をきたさないのであれば特に制限はなく、必要に応じて上記のいずれかの工程を適宜実施すればよい。
【0024】
望ましい医薬品の形態として用いる場合には、例えば、エキス剤、エリキシル剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、眼軟膏剤、口腔粘膜貼付剤、懸濁剤、乳剤、硬膏剤、座剤、散剤、酒精剤、錠剤、シロップ剤、注射剤、チンキ剤、点眼剤、点耳剤、点鼻剤、トローチ剤、軟膏剤、芳香水剤、鼻用噴霧剤、リモナーデ剤、リニメント剤、流エキス剤、ローション剤、湿布剤、噴霧剤、塗布剤、浴剤、貼付剤、パスタ剤、パップ剤などが挙げられる。以上のような形態の本発明のサイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強剤を配合してなる組成物を製造するには、目的とする製品を慣用の製造方法にしたがって製造する過程の適宜の時期に本発明のサイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強剤を添加すればよい。添加の時期に特に制限はないけれども、目的とする製品が加熱工程を経て製造されるものの場合には、加熱工程の後、常温、望ましくは、30℃以下に冷却した後に添加することにより、製造工程でのサイトカイン類及び/又はケモカイン産生増強作用の減衰を防ぐことができる。以上のような本発明の組成物は、本発明のサイトカイン類及び/又はケモカイン産生増強剤を、製品重量あたり、通常、0.01質量%以上、望ましくは、0.1乃至100質量%含有する。
【0025】
以上のように本発明のサイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強剤は、哺乳類の間葉系細胞、繊維芽細胞、上皮系細胞及び/又はマクロファージ系細胞を含む血液系細胞のサイトカイン類及び/又はケモカイン類の産生を増強するので、利用した生体においてサイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強作用が効果的に発揮され、重篤な副作用を惹起することなく、血小板の増多効果、病原体の感染防御効果、アレルギー抑制効果などが達成される。
【0026】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。しかしながら本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0027】
<マウス由来ポリペプチドmAgK114−1bのマウス胎児由来間葉系細胞及びマクロファージ系細胞におけるインターロイキン6(IL−6)の産生増強作用>
国際公開 WO 2004/042056号明細書の実施例10に開示された方法で調製及び精製して得たマウス由来ポリペプチドmAgK114−1b、すなわち、配列表における配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドを用い、マウス胎児由来間葉系細胞(MEF細胞)又はマウスマクロファージ系細胞(J774A.1細胞)におけるIL−6の産生増強作用を検討した。常法に従い、24穴マイクロプレートにMEF細胞又はJ774A.1細胞を約2×10個/mlの濃度で2mlの10%牛胎児血清D−MEM培地に播き込み、37℃、5%COガス存在下で1晩培養した。次いで、増殖したMEF細胞又はJ774A.1細胞に、mAgK114−1b精製標品を終濃度0.1μg/ml、1μg/ml若しくは10μg/mlになるよう調整した無血清ダルベッコ変法イーグル培地(D−MEM培地、日水製薬株式会社製)を2ml加え、37℃、5%COガス存在下でさらに2日間培養した。培養終了後、遠心分離により培養上清を回収し、培養液上清中のIL−6蛋白の量を酵素免疫測定法(ELISA)にて測定した。なお、mAgK114−1b精製標品を添加せず同様に培養して得た培養上清を対照として用いた。結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
表1の結果から明らかなように、マウス由来ポリペプチドmAgK114−1bは、J774A.1細胞では、無添加系(対照)に比べ1μg/mlの濃度で約1.3倍、10μg/mlの濃度で約4.8倍と、用量依存的にIL−6の産生を増強した。一方、MEF細胞においても、無添加系でIL−6の産生量はELISAの検出限界以下であったのに対し、10μg/mlの濃度で0.72ng/mlとIL−6の産生を増強した。本試験において、マウス由来ポリペプチドmAgK114−1bは用量依存的にMEF細胞又はJ774A.1細胞におけるIL−6の産生を顕著に増強することが判明した。本発明に用いるポリペプチドは、間葉系細胞及びマクロファージ系細胞のIL−6の産生を顕著に増強することから、血小板増多因子として用いることができる。
【実施例2】
【0030】
<ヒト由来ポリペプチドhAgK114−1aFLのヒト新生児由来間葉系細胞におけるインターロイキン6(IL−6)の産生増強作用>
国際公開 WO 2004/042056号明細書の実施例7に開示された方法で調製及び精製して得た、ヒト由来ポリペプチドhAgK114−1aFL、すなわち、配列表における配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドのC末端部位に配列表における配列番号7で示されるアミノ酸配列(FLAG配列)を有するペプチドが結合したアミノ酸配列を有するポリペプチドを用い、ヒト新生児由来間葉系細胞(NHDF細胞)におけるIL−6の産生増強作用を検討した。常法に従い、6穴マイクロプレートにNHDF細胞を約5×10個/mlの濃度で2mlの10%牛胎児血清D−MEM培地に播き込み、37℃、5%COガス存在下で1晩培養した。次いで、増殖したNHDF細胞に、hAgK114−1aFL精製標品を終濃度1μg/ml若しくは10μg/mlになるよう調整した無血清D−MEM培地に交換し、37℃、5%COガス存在下でさらに2日間培養した。培養終了後、遠心分離により培養上清を回収し、培養液上清中のIL−6蛋白の量を酵素免疫測定法(ELISA)にて測定した。なお、hAgK114−1aFL精製標品を添加せず同様に培養して得た培養上清を対照として用いた。結果を表2に示す。
【0031】
【表2】

【0032】
表2の結果から明らかなようにヒト由来ポリペプチドhAgK114−1aFLは、NHDF細胞において、1μg/mlの濃度で無添加系(対照)の約4倍、10μg/mlの濃度で約1.9倍と、IL−6の産生を増強した。本試験において、ヒト由来ポリペプチドhAgK114−1aFLはNHDF細胞におけるIL−6の産生を顕著に促進することが判明した。本発明に用いるポリペプチドは、間葉系細胞のIL−6の産生を顕著に促進することから、血小板増多因子として用いることができる。
【実施例3】
【0033】
<マウス由来ポリペプチドmAgK114−1bのマウス胎児由来間葉系細胞及びマクロファージ系細胞におけるマクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)産生増強作用>
実施例1の方法で得たMEF細胞及びJ774A.1細胞の培養上清を用い、培養液上清中のM−CSF蛋白の量を酵素免疫測定(EIA)キット(R&Dシステムズ社製)にて測定した。結果を表3示す。
【0034】
【表3】

【0035】
表3の結果から明らかなように、マウス由来ポリペプチドmAgK114−1bは、J774A.1細胞では、無添加系(対照)に比べ1μg/mlの濃度で約1.6倍、10μg/mlの濃度で約3.7倍と、用量依存的にM−CSFの産生を増強した。一方、MEF細胞においては、無添加系と産生量に差は認められなかった。本試験において、マウス由来ポリペプチドmAgK114−1bは用量依存的にJ774A.1細胞におけるM−CSFの産生を顕著に増強することが判明した。本発明に用いるポリペプチドは、マクロファージ系細胞におけるM−CSFの産生を顕著に増強することから、血小板増多剤として用いることができる。
【実施例4】
【0036】
<マウス由来ポリペプチドmAgK114−1bのマウス胎児由来間葉系細胞及びマクロファージ系細胞におけるインターロイキン1(IL−1)及び腫瘍壊死因子α(TNF−α)産生増強作用>
マウス由来ポリペプチドmAgK114−1b精製標品を10μg/mlの濃度でのみ用いた以外は実施例1と同様に操作し、培養液上清中のインターロイキン1α(IL−1α)及びインターロイキン1β(IL−1β)蛋白の量及び腫瘍壊死因子α(TNF−α)蛋白の量を酵素免疫測定(EIA)キット(R&Dシステムズ社製)にて測定した。なお、mAgK114−1b精製標品を添加せず同様に培養して得た培養上清を対照として用いた。結果をそれぞれ表4及び表5に示す。
【0037】
【表4】

【0038】
【表5】

【0039】
表4の結果から明らかなように、マウス由来ポリペプチドmAgK114−1bは、J774A.1細胞におけるIL−1α及びIL−1βの産生量を、無添加系(対照)に比べ、それぞれ約9倍及び約1.6倍に増強した。一方、MEF細胞においてはこれらの産生増強作用は認められなかった。また、表5の結果から明らかなように、マウス由来ポリペプチドmAgK114−1bは、J774A.1細胞におけるTNF−αの産生量を、無添加系(対照)に比べ、検出限界を考慮すると約470倍以上に増強した。一方、MEF細胞においてはこれらの産生増強作用は認められなかった。本発明に用いるポリペプチドは、IL−1及びTNF−αなどのサイトカイン類の産生を増強することから、血小板増多剤としてとして、または組織修復剤として医薬品分野で有用である。
【実施例5】
【0040】
<マウス由来ポリペプチドmAgK114−1bの間葉系細胞及びマクロファージ系細胞におけるケモカイン類産生増強作用>
実施例1の方法で得たMEF細胞及びJ774A.1細胞の培養上清を用い、培養液上清中のケモカイン類の産生量を酵素免疫測定(EIA)にて測定した。ケモカイン類としては、SDF−1、IL−8、RANTES及びMIPについて調べ、それぞれEIAキット(R&Dシステムズ社製)にて測定した。結果を表6、7、8及び9にそれぞれ示す。
【0041】
【表6】

【0042】
【表7】

【0043】
【表8】

【0044】
【表9】

【0045】
表6及び表7の結果から明らかなように、マウス由来ポリペプチドmAgK114−1bは、MEF細胞におけるSDF−1及びIL−8の産生量を、無添加系(対照)に比べ、10μg/mlの濃度でそれぞれ約2倍及び約210倍に増強した。一方、J774A.1細胞においてはこれらの産生増強作用は認められなかった。また、表8の結果から明らかなように、マウス由来ポリペプチドmAgK114−1bは、MEF細胞及びJ774A.1細胞におけるRANTESの産生量を、無添加系(対照)に比べ、10μg/mlの濃度でそれぞれ約160倍及び約32倍に増強した。さらに、表9の結果から明らかなように、マウス由来ポリペプチドmAgK114−1bは、MEF細胞においてMIPの産生量が無添加系(対照)で検出限界以下であったのに対し、10μg/mlの濃度で0.02ng/mlにまで増強し、J774A.1細胞においてはMIPの産生量を、無添加系(対照)に比べ、10μg/mlの濃度でそれぞれ約18倍に増強した。本発明に用いるポリペプチドは、SDF−1、インターロイキン8(IL−8)、RANTES、MIPなどケモカイン類の産生を増強することから、病原体の感染防御剤として医薬品分野で有用である。
【実施例6】
【0046】
<マウス由来膜結合型ポリペプチドmAgK114−1のマウス胎児由来間葉系細胞及びマクロファージ系細胞におけるインターロイキン6(IL−6)の産生増強作用>
配列表における配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド、すなわち、国際公開 WO 2004/042056号明細書に開示されたマウス由来膜結合型ポリペプチドmAgK114−1をCOS−1細胞の膜表面に発現させ、このCOS−1細胞をマウス胎児由来間葉系細胞及びマクロファージ系細胞と共培養することによりマウス由来膜結合型ポリペプチドmAgK114−1のIL−6の産生増強作用を検討した。比較を行う目的でマウス由来分泌型ポリペプチドmAgK114−1bについても同様に行った。
【0047】
<実施例6−1:マウス由来膜結合型ポリペプチドmAgK114−1及び分泌型ポリペプチドmAgK114−1bの発現用ベクターの構築>
発現ベクター構築用の膜結合型ポリペプチドmAgK114−1をコードするDNA及び分泌型ポリペプチドmAgK114−1bをコードするDNAは、国際公開 WO 2004/042056号明細書のそれぞれ実施例3及び実施例4に開示された組換えプラスミドpTB−mAgK114PCR13及びpTB−mAgK114PCR181をそれぞれ鋳型として用い作製した。それぞれのプラスミド10ngを鋳型とし、pTB−mAgK114PCR13に対しては、配列表における配列番号8で示される塩基配列を有する合成DNAを順鎖プライマーとし、配列表における配列番号9で示される塩基配列を有する合成DNAを相補鎖プライマーとしたPCRを行なった。一方、pTB−mAgK114PCR181に対しては配列表における配列番号10で示される塩基配列を有する合成DNAを順鎖プライマーとし、配列番号11で示される塩基配列を有する合成DNAを相補鎖プライマーとしたPCRを行なった。それぞれより得られた2種類の増幅断片は、それぞれポリエチレングリコール沈殿法により精製した後、プラスミドベクターpCR−Script CamSK(+)(株式会社ストラタジーン製)のSrf I部位にクローニングした。常法により増幅断片の塩基配列の確認を行なった結果、計画通り膜結合型ポリペプチドmAgK114−1をコードするDNAは配列表における配列番号6、分泌型ポリペプチドmAgK114−1bをコードするDNAは配列表における配列番号5で示される塩基配列の5´末端にXho I認識配列、及び3´末端にNot I認識配列がそれぞれ付加された塩基配列を有していた。このcDNAを含むXho I−Not I断片を再度切りだし、国際公開 WO 2004/042056号明細書の実施例5−1に開示した方法と同様に発現ベクターpCDM8(インビトロジェン株式会社製)のXho I−Not I部位に挿入することにより調製した膜結合型ポリペプチドmAgK114−1の発現ベクターをpCD/mAgK114と、分泌型ポリペプチドmAgK114−1bの発現ベクターをpCD/mAgK114bと命名した。
【0048】
<実施例6−2:COS−1細胞の形質転換とマウス由来膜結合型ポリペプチドmAgK114−1の発現>
実施例6−1で得た発現ベクターpCD/mAgK114又はpCD/mAgK114bを、リポフェクション用遺伝子導入剤(商品名「リポフェクトアミン2000」、インビトロジェン株式会社製)を用いて以下の様にCOS−1細胞に導入し細胞を形質転換した。まず、プラスミドDNA0.8μgをOpti−MEM培地(インビトロジェン株式会社製)で希釈して50μlとしたものと、リポフェクトアミン3μlをOpti−MEM培地で希釈して50μlとし、室温で5分間放置したものを合わせて室温で20分間反応させ、DNA−リポフェクトアミン複合体を形成させた。次いで24穴プレートに6×10個/ウェルの濃度で10%ウシ胎仔血清(FCS)を含むD−MEM培地でまきこみ、一晩培養しておいたCOS−1細胞の培養上清を取り除き、DNA−リポフェクトアミン複合体100μlと0.4ml無血清D−MEM培地を添加した。コントロールは発現ベクターpCDM8のみをトランスフェクションした。この細胞を37℃、5%CO存在下で5時間培養し、膜結合型ポリペプチドmAgK114−1が発現したCOS−1細胞及び分泌型ポリペプチドmAgK114−1bが発現したCOS−1細胞を得た。
【0049】
<実施例6−3:マウス由来膜結合型ポリペプチドmAgK114−1又は分泌型ポリペプチドmAgK114−1bが発現したCOS−1細胞とマウス胎児由来間葉系細胞及びマクロファージ系細胞との共培養におけるインターロイキン6(IL−6)の産生増強作用>
実施例6−2で得た膜結合型ポリペプチドmAgK114−1が発現したCOS−1細胞及び分泌型ポリペプチドmAgK114−1bが発現したCOS−1細胞の培養液より培養上清を取り除き、2mlの10%FCSを含むD−MEM培地にMEF細胞あるいはJ774A.1細胞をそれぞれ1×10個/ウェル、4×10個/ウェルとなるように調製し、培地交換と同時に共培養を開始した。培養3日後に培養上清を回収し、EIAで上清中に含まれるIL−6の濃度を測定した。なお、上記いずれのポリペプチドも発現していないCOS−1細胞についても同様な操作を行い対照とした。結果を表10に示す。
【0050】
【表10】

【0051】
表10の結果から明らかなように、膜結合型ポリペプチドmAgK114−1を発現したCOS−1細胞又は分泌型ポリペプチドmAgK114−1bを発現したCOS−1細胞のいずれも、共培養することによりMEF細胞及びJ774A.1細胞のいずれにおいてもIL−6の産生を増強することが判明した。MEF細胞におけるIL−6産生量は、対照に対し、膜結合型ポリペプチドmAgK114−1を発現したCOS−1細胞の場合約140倍と、また、分泌型ポリペプチドmAgK114−1bを発現したCOS−1細胞の場合約70倍と多量であった。一方、J774A.1細胞におけるIL−6の産生量は、対照に対し、膜結合型ポリペプチドmAgK114−1を発現したCOS−1細胞の場合約50倍、また、分泌型ポリペプチドmAgK114−1bを発現したCOS−1細胞の場合約30倍であった。配列表における配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するマウス由来膜結合型ポリペプチドmAgK114−1にもIL−6産生増強作用が確認された。
【実施例7】
【0052】
<マウス由来ポリペプチドmAgK114−1bのマウス皮膚創傷部位におけるサイトカイン類の産生増強作用>
6週齢の雌ICR/CD−1マウス16匹を麻酔し、背部皮膚を脱毛した後、それぞれの正中線に8mmの線状創を作成した。内8匹について国際公開 WO 2004/042056号明細書の実施例10に開示された方法で調製及び精製して得た配列表における配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド、すなわち、マウス由来ポリペプチドmAgK114−1bを、創傷直後、6、24、30時間後の計4回にわたり創傷1箇所当たり5μg/10μl−リン酸緩衝液ずつ投与した。また残り8匹についてはリン酸緩衝液をそれぞれ同様に投与して対照とした。創傷作成後、1日及び4日経過した時点でマウス4匹ずつより創傷部位の皮膚組織約500mgを切り出し、150mM食塩、1%界面活性剤(商品名「Nonidet P−40」、ナカライテスク株式会社製)、10mMEDTA、10%グリセロール、プロテアーゼ阻害剤(商品名「コンプリート」、ロシュ・ダイアグノスティクス株式会社製)を含む20mMトリス塩酸緩衝液1mlに懸濁した後、凍結融解を3回繰り返した後、ホモジナイザーを用いてホモジネートを調製した。ホモジネートの遠心分離上清中の形質転換成長因子β(TGF−β)及び血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の各サイトカイン量をそれぞれEIAキット(R&Dシステムズ社製)にて測定し、上清蛋白1mg当たりの蛋白量に換算した。結果を表11にそれぞれ示す。
【0053】
【表11】

【0054】
表11の結果から明らかなように、マウス由来ポリペプチドmAgK114−1bを投与した群においては、投与していない対照群に比べ、投与1日後でTGF−βが約3倍、VEGFが約5倍と、また投与4日後ではVEGFが約2倍と産生量が顕著に多く、マウス由来ポリペプチドmAgK114−1bによる産生増強効果が確認された。本発明に用いるポリペプチドは、TGF−β、VEGFなどサイトカイン類の産生を増強することから、創傷治療時の組織修復剤などとして医薬品分野で有用である。
【実施例8】
【0055】
<マウス由来ポリペプチドmAgK114−1bのアトピー性皮膚炎モデルマウスにおける細胞浸潤抑制作用>
常法に従い、ピクリルクロライド塗布によるアトピー性皮膚炎モデルマウスを作製した。すなわち、マウスの腹部の皮膚上皮に、150μlの5%ピクリルクロライドを含有するエタノール/アセトン(4:1)溶液を塗布した。その5日後から、マウスの背中に150μlの1%ピクリルクロライドを含有するオリーブオイルを塗布する操作を1週間間隔で8回行なうことで、アトピー性皮膚炎モデルマウスを作製した。国際公開 WO 2004/042056号明細書の実施例10に開示された方法で調製及び精製して得た配列表における配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド、すなわち、マウス由来ポリペプチドmAgK114−1bを、常法にしたがって軟膏に調製し、これを2.5mg/kgマウス体重の用量で、マウスの背中の皮膚上皮に、5%ピクリルクロライドを塗布してから17乃至55日後の間に週3回の頻度(合計17回)投与した。mAgK114−1bを最後に投与してから2日後に、皮膚切片を作成し顕微鏡観察により評価した。対照として、mAgK114−1bを含まない軟膏を塗布したアトピー性皮膚炎マウスの皮膚切片を用意した。その結果、対照のマウスの皮膚切片(図1)には、表皮内に浸潤した細胞(断面図上層部における黒い点)が観察されたが、mAgK114−1bを投与したマウスの皮膚切片(図2)にはそのような浸潤した細胞はまったく観察されなかった。この結果から、mAgK114−1bは、皮膚に投与されることにより、皮膚における細胞浸潤を抑制し、皮膚炎の軽減作用を発揮することが明らかとなった。
【実施例9】
【0056】
<マウス由来ポリペプチドmAgK114−1bのアトピー性皮膚炎モデルマウスにおけるIgE産生抑制作用>
1群5匹の8週齢BALB/cマウスに、mAgK114−1bを、マウス1匹当り1μg又は10μgの用量で週3回腹腔内投与した。対照として、マウス血清アルブミンを10μgの用量で同様にして投与した。第1週の3回目の投与後に、5%ピクリルクロライドを含むエタノールアセトン溶液(4:1)150μlをマウス背部に塗布し、さらに、再感作として、5日後(再感作1回目)、12日後(再感作2回目)、19日後(再感作3回目)及び26日後(再感作4回目)に、マウスの耳介に1%ピクリルクロライドを含むエタノールアセトン溶液(4:1)100μlを塗布した。再感作2回目、3回目及び4回目から6日後に、マウス尾静脈から血液を少量採血して、IgE量を常法のEIA法で測定した。結果を表12に示す。
【0057】
【表12】

【0058】
表12の結果から明らかなように、4回目のピクリルクロライドの再感作により、血中のIgE量は2.2μg/mlから16μg/mlに著しく増加するところ、マウス由来ポリペプチドmAgK114−1bは、IgE量の増加を、8.9又は11μg/mlまでに抑制した。この結果は、マウス由来ポリペプチドmAgK114−1bは、アトピー性皮膚炎における著しいIgEの産生亢進を抑制する効果を有し、アレルギーの緩和剤として有用であることを示している。
【実施例10】
【0059】
<液剤>
生理食塩水に実施例2で用いたヒト由来ポリペプチドhAgK114−1aFL精製標品を0.1質量%及びヒト血清アルブミンを0.1質量%になるよう溶解した後、溶液を常法に従って精密濾過により滅菌して液剤を得た。本品は、血小板増多剤として、また、病原体の感染防御剤として、アレルギー抑制剤として、医薬品分野で有用である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上、述べたように、本発明のサイトカイン類及び/又はケモカイン産生増強剤は、IL−6、M−CSF及びIL−1の産生を増強することから、癌などの化学療法や放射線療法、及び、骨髄移植などによって減少した血液細胞を増加させる用途で、また、生体外での造血細胞の増幅する用途などで、医薬品分野において血液および血小板増多剤として有用である。また、TNF−α、TGF−β、VEGFなどのサイトカイン類の産生を増強することから、創傷治療時の組織修復剤などとして有用である。さらに、本発明のサイトカイン類及び/又はケモカイン産生増強剤は、SDF−1、RANTES、IL−8、MIPなどのケモカイン類の産生をも増強することから、アトピー性皮膚炎などのアレルギーの軽減剤や細菌感染防御剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】対照のマウスの皮膚切片の顕微鏡写真のデジタル画像をディスプレー上に表示した中間調画像を示す図である。
【図2】mAgK114−1bを塗布したマウスの皮膚切片の顕微鏡写真のデジタル画像をディスプレー上に表示した中間調画像を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列表における配列番号1乃至3のいずれかで示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドを有効成分として含んでなるサイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強剤。
【請求項2】
配列表における配列番号1乃至3のいずれかで示されるアミノ酸配列において、生物活性を実質的に失わない範囲で、アミノ酸の1個又は2個以上が置換、欠失、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドを有効成分として含んでなるサイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強剤。
【請求項3】
ポリペプチドが、哺乳類の間葉系細胞、繊維芽細胞、上皮系細胞又はマクロファージ系細胞を含む血液系細胞においてサイトカイン類及び/又はケモカイン類の産生を増強するポリペプチドである請求項1又は2記載のサイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強剤。
【請求項4】
ポリペプチドが、配列表における配列番号4乃至6のいずれかで示される塩基配列、コードするアミノ酸配列を変えない範囲で配列表における配列番号配列番号4乃至6のいずれかで示される塩基配列における1個又は2個以上の塩基が他の塩基で置換された塩基配列、若しくはそれらの塩基配列に相補的な塩基配列を有するDNAを人為的に発現させることにより得られるポリペプチドである請求項1記載のサイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強剤。
【請求項5】
サイトカイン類が、インターロイキン6(IL−6)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、インターロイキン1(IL−1)、腫瘍壊死因子α(TNF−α)、形質転換成長因子β(TGF−β)及び血管内皮細胞増殖因子(VEGF)から選ばれる1種又は2種以上である請求項1乃至4のいずれかに記載のサイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強剤。
【請求項6】
ケモカイン類が、ストローマ細胞由来因子(SDF−1)、インターロイキン8(IL−8)、正常T細胞に発現する遺伝子産物(RANTES)及びマクロファージ炎症蛋白(MIP)から選ばれる1種又は2種以上である請求項1乃至5のいずれかに記載のサイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強剤。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載のサイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強剤を含有せしめた医薬品。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれかに記載のサイトカイン類及び/又はケモカイン類産生増強剤を有効成分とする血小板増多剤。
【請求項9】
配列表における配列番号1乃至3のいずれかで示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドを含んでなるアレルギー抑制剤。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−137747(P2006−137747A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−299571(P2005−299571)
【出願日】平成17年10月14日(2005.10.14)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【Fターム(参考)】