説明

サイトメガロウイルスエンハンサーおよびニワトリβ−アクチンプロモーターを含むハイブリッドプロモーターを利用したマイナス鎖RNAウイルスベクターの製造方法

【課題】遺伝子治療用のベクターとして、安全性の点から、ワクシニアウイルスを使用しないベクターを提供する。
【解決手段】マイナス鎖RNAウイルスベクターのゲノムRNAの転写、および該ゲノムRNAとリボヌクレオプロテインを形成するマイナス鎖RNAウイルス蛋白質の発現を、サイトメガロウイルスエンハンサーおよびニワトリβ-アクチンプロモーターを含むプロモーターにより誘導する、マイナス鎖RNAウイルスベクターの製造方法。安全性の高いマイナス鎖RNAウイルスベクター、特にエンベロープ構成蛋白質遺伝子を欠損するマイナス鎖RNAウイルスベクターを製造するために有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイナス鎖RNAウイルスベクターの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マイナス鎖RNAウイルスの回収は、主にT7 RNAポリメラーゼを発現する組み換えワクシニアウイルス (vTF7-3: Fuerst, T.R. et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83, 8122-8126(1986), MVA-T7: Sutter, G. et al., FEBS lett. 371: 9-12 (1995)) を使用して、T7プロモーター制御下にNP、P、L遺伝子とマイナス鎖RNAウイルスゲノムを発現するプラスミドが用いられてきた(Kolakofsky, et al., EMBO J. 14: 6087-6094 (1995); Kato, A. et al., Genes Cells 1: 569-579 (1996))。組み換えワクシニアウイルスで発現させたT7 RNAポリメラーゼの働きでNP、P、LとアンチゲノムのRNAが供給され、ワクシニアウイルスのキャッピング酵素の働きによりNP、P、L mRNAの5'末にキャップ構造が形成され、蛋白質が翻訳される。それらの蛋白質はアンチゲノムRNAに作用し、機能的なRNPを構成する。その後、アンチゲノムRNPからゲノムRNPが複製され、さらにウイルス由来蛋白質の転写が起き、感染サイクルが始まりウイルスが回収される。
【0003】
組み換えワクシニアウイルスを使用することによってマイナス鎖RNAウイルスベクターの回収はできるが、最終的なベクター標品の調製に際してワクシニアウイルスを除去する必要があり、コストと時間がかかる。遺伝子治療用のベクターとして利用する場合には、安全性の点からも、ワクシニアウイルスを使用しないベクターの回収が望まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Fuerst, T.R. et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83, 8122-8126 (1986)
【非特許文献2】Sutter G, et al, FEBS lett. 371: 9-12 (1995)
【非特許文献3】Kolakofsky et al., EMBO J. 14: 6087-6094 (1995)
【非特許文献4】Kato, A. et al., Genes Cells 1: 569-579 (1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、サイトメガロウイルスエンハンサーおよびニワトリβ-アクチンプロモーターを含むハイブリッドプロモーターを利用して、ワクシニアウイルスを用いずにマイナス鎖RNAウイルスベクターを製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
これまでに、組み換えワクシニアウイルスを使用しないでウイルスを回収する方法が幾つかのモノネガウイルスで開発されてきた。その1つは、T7 RNAポリメラーゼを恒常的に発現する哺乳動物細胞株を使用する方法である。この方法では、ワクシニアウイルスを使用した場合のようなキャッピング酵素がないため、NP、P、L蛋白質を発現させるために、キャッピング非依存的翻訳のできるIRES配列を持つ発現プラスミドを利用している。この方法を使用して、現在までにBovine respiratory syncytial virus (BRSV)(Ursula, et al., J. Virol. 73:251-259 (1999))、Ravies virus (Stefan, et al., J. Virol. 73:3818-3825 (1999))、Newcastle disease virus (NDV)(Romer-Oberdorfer, et al., J. General Virology 80:2987-2995 (1999))、Sendai virus (F. Iseni, et al., EMBO J. Vol.21:5141-5150 (2002))の回収が報告されている。SV5では、同様の細胞を使用してアンチゲノムをBSR-T7/5細胞を用いてT7 RNAポリメラーゼで発現させ、NP、P、L蛋白質を細胞由来のRNAポリメラーゼIIにより転写されるCAGプロモーターを持つpCAGGSで駆動する方法が報告されている(David L. Waning et al., J. Virol. 76:9284-9297 (2002))。
【0007】
2つ目の方法は、Rabies virusで報告された回収方法で、NP、P、L、ゲノムを全てサイトメガロウイルスプロモーターで駆動する方法である(K. Inoue, et al., J. Virological Method. 107:229-236 (2003))。この方法では、ゲノムの末端を正確に切り出すためにハンマーヘッドリボザイムがアンチゲノムの5'末端に付加されており、T7 RNAポリメラーゼ発現株を使用しなくてもウイルス回収ができる方法である。
【0008】
但し、これらの方法は全て伝播能を持つウイルスを再構成させる方法である。これまで、ワクシニアウイルスを用いないで、伝播能を欠損したウイルスを再構成した例はない。伝播能を欠損したウイルスを再構成するためには、エンベロープ構成蛋白質をコードする遺伝子をウイルスゲノムから欠損させ、ウイルス再構築の際に、エンベロープ構成蛋白質をトランスに供給して、感染性ウイルス粒子を形成させなければならない。従って、欠損型ウイルスを高効率で再構築するには、伝播型ウイルスの再構築よりもさらに効率の高いウイルス産生系が必要である。
【0009】
本発明者らは、より効率的にマイナス鎖RNAウイルスを生産・回収する方法を開発するため、ウイルス産生細胞においてウイルスゲノムの転写を駆動する方法の改良を行った。その結果、マイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAの転写、および該ゲノムRNAとリボヌクレオプロテインを形成するマイナス鎖RNAウイルス蛋白質の全ての発現を、サイトメガロウイルスエンハンサーおよびニワトリβ-アクチンプロモーターを含むハイブリッドプロモーター (CAプロモーターと称す) によって直接または間接に駆動することによって、効率的なウイルス産生を実現させることが可能であることを見出した。本発明においてゲノムRNAの転写は、CAプロモーターの制御下にマイナス鎖RNAウイルスゲノムRNAをコードするDNAを連結し、ゲノムRNAの転写をCAプロモーターにより直接誘導するか、あるいはゲノムRNAをコードするDNAの上流にバクテリオファージ由来RNAポリメラーゼのシグナル配列を連結しておき、CAプロモーターから該RNAポリメラーゼを発現させ、それによりゲノムRNAの転写を誘導する。これらの方法により、ワクシニアウイルスを使用することなく、高力価のウイルスを生産させることができた。
【0010】
そして本発明者らは、これらの方法を用いて、エンベロープ構成蛋白質の1つであるF蛋白質、M蛋白質、そしてFおよびM蛋白質の遺伝子を欠損する非伝播型のマイナス鎖RNAウイルスを、ワクシニアウイルスを用いずに初めて回収することに成功した。本発明の方法は、ワクシニアウイルスを全く使用することなく高力価のマイナス鎖RNAウイルスを調製することができるため、遺伝子治療等の安全性の高いウイルスの製造に有用である。
【0011】
すわなち本発明は、マイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAの転写および該ゲノムRNAとリボヌクレオプロテインを形成するマイナス鎖RNAウイルス蛋白質の発現をCAプロモーターにより誘導することを特徴とするマイナス鎖RNAウイルスの製造方法に関し、より具体的には、請求項の各項に記載の発明に関する。なお本発明は、請求項の各項に記載の発明の1つまたは複数(または全部)の所望の組み合わせからなる発明、特に、同一の独立項(他の項に記載の発明に包含されない発明に関する項)を引用する項(従属項)に記載の発明の1つまたは複数(または全部)の所望の組み合わせからなる発明にも関する。各独立項に記載の発明には、その従属項の任意の組み合わせからなる発明も意図されている。すなわち本発明は、
〔1〕 マイナス鎖RNAウイルスベクターの製造方法であって、ウイルス生産細胞における (i) 該マイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAまたはその相補鎖の転写および (ii) 該ゲノムRNAとリボヌクレオプロテインを形成するマイナス鎖RNAウイルス蛋白質の発現を、サイトメガロウイルスエンハンサーおよびニワトリβ-アクチンプロモーターを含むプロモーターにより誘導することを特徴とする方法、
〔2〕 該ウイルス生産細胞において、サイトメガロウイルスエンハンサーおよびニワトリβ-アクチンプロモーターを含むプロモーターの制御下にリボザイムとマイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAまたはその相補鎖とをコードするDNAが連結されたDNAを転写させる工程を含み、該リボザイムは、転写産物を該リボザイムとゲノムRNAまたはその相補鎖との間で切断する活性を有する、〔1〕に記載の方法、
〔3〕 該ウイルス生産細胞において、サイトメガロウイルスエンハンサーおよびニワトリβ-アクチンプロモーターを含むプロモーターの制御下にバクテリオファージのRNAポリメラーゼをコードするDNAが連結されたDNAを発現させる工程、および該RNAポリメラーゼにより、該RNAポリメラーゼの認識配列の制御下に連結されたマイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAまたはその相補鎖をコードするDNAを転写させる工程を含む、〔1〕に記載の方法、
〔4〕 該リボザイムがハンマーヘッドリボザイムである、〔2〕に記載の方法、
〔5〕 該RNAポリメラーゼをコードするDNAが連結されたDNAを、該ウイルス生産細胞においてエピソーマルに発現させる、〔3〕に記載の方法、
〔6〕 該RNAポリメラーゼをコードするDNAが連結されたDNAを、該ウイルス生産細胞の染色体から発現させる、〔3〕に記載の方法、
〔7〕 該バクテリオファージが、SP6ファージ、T3ファージ、およびT7ファージからなる群より選択される、〔3〕、〔5〕、または〔6〕に記載の方法、
〔8〕 該マイナス鎖RNAウイルスがセンダイウイルスである、〔1〕から〔7〕のいずれかに記載の方法、
〔9〕 該ゲノムRNAまたはその相補鎖が、エンベロープ構成蛋白質をコードする遺伝子の1つまたは複数を欠損しており、エンベロープ構成蛋白質をコードするDNAを、該細胞において発現させる工程をさらに含む、〔1〕から〔8〕のいずれかに記載の方法、
〔10〕 サイトメガロウイルスエンハンサーおよびニワトリβ-アクチンプロモーターとを含むプロモーターの制御下に、リボザイムとマイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAまたはその相補鎖とをコードするDNAが連結されたDNAであって、該リボザイムは、転写産物を該リボザイムとマイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAまたはその相補鎖との間で切断する活性を有する、DNA、
〔11〕 該ゲノムRNAまたはその相補鎖が、エンベロープ構成蛋白質をコードする遺伝子の1つまたは複数を欠損している、〔10〕に記載のDNA、
〔12〕 該マイナス鎖RNAウイルスがセンダイウイルスである、〔10〕または〔11〕に記載のDNA、
〔13〕 該リボザイムがハンマーヘッドリボザイムである、〔10〕から〔12〕のいずれかに記載のDNA、
〔14〕 リコンビナーゼにより発現誘導可能である、〔10〕から〔13〕のいずれかに記載のDNA、
〔15〕 該リコンビナーゼがCreまたはFlpである、〔14〕に記載のDNA、
〔16〕 サイトメガロウイルスエンハンサーおよびニワトリβ-アクチンプロモーターを含むプロモーターの制御下にバクテリオファージのRNAポリメラーゼをコードするDNAが連結されたDNA、
〔17〕 該バクテリオファージが、SP6ファージ、T3ファージ、およびT7ファージからなる群より選択される、〔16〕に記載のDNA、
〔18〕 リコンビナーゼにより発現誘導可能である、〔16〕または〔17〕に記載のDNA、
〔19〕 該リコンビナーゼがCreまたはFlpである、〔18〕に記載のDNA、
〔20〕 〔10〕から〔15〕のいずれかに記載のDNAを保持する哺乳動物細胞、
〔21〕 マイナス鎖RNAウイルス生産用細胞である、〔20〕に記載の哺乳動物細胞、
〔22〕 該ゲノムRNAまたはその相補鎖が、エンベロープ構成蛋白質をコードする遺伝子の1つまたは複数を欠損している、〔20〕または〔21〕に記載の哺乳動物細胞、
〔23〕 該マイナス鎖RNAウイルスがセンダイウイルスである、〔20〕から〔22〕のいずれかに記載の哺乳動物細胞、
〔24〕 〔16〕から〔19〕のいずれかに記載のDNAを保持する哺乳動物細胞、
〔25〕 マイナス鎖RNAウイルス生産用細胞である、〔24〕に記載の哺乳動物細胞、
〔26〕 該RNAポリメラーゼの認識配列の制御下に連結されたマイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAまたはその相補鎖をコードするDNAをさらに保持する、〔24〕または〔25〕に記載の哺乳動物細胞、
〔27〕 該ゲノムRNAまたはその相補鎖が、エンベロープ構成蛋白質をコードする遺伝子の1つまたは複数を欠損している、〔26〕に記載の哺乳動物細胞、
〔28〕 該マイナス鎖RNAウイルスがセンダイウイルスである、〔25〕から〔27〕のいずれかに記載の哺乳動物細胞、に関する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】pCAGGS(B type)およびpCAGGS(BSX)の構築手順を示す図である。
【図2】pCALNdLWE-zeo-NP(Z)の構築手順を示す図である。
【図3】pCAGGS-P4C(-)の構築手順を示す図である。
【図4】pCAGGS-L(TDK)の構築手順を示す図である。
【図5】pCAGGS-Fの構築手順を示す図である。
【図6】pCAGGS-F5Rの構築手順を示す図である。
【図7】pCAGGS-F5Rの構築手順を示す図である(図6から続く)。
【図8】pCAGGS-T7の構築手順を示す図である。
【図9】pCAGGS-SeVおよびpCAGGS-SeV/ΔF-GFPの構築手順を示す図である。
【図10】pCAGGS-SeVおよびpCAGGS-SeV/ΔF-GFPの構築手順を示す図である(図9から続く)。
【図11】pCAGGS-SeVの構築手順を示す図である(図10から続く)。
【図12】HamRbz法により回収した伝播型SeVベクターのHAアッセイの結果を示す写真である。
【図13】HamRbz法においてゲノムDNAの量を変化させた場合のSeV/ΔF-GFPの回収効率をCIUアッセイにより検討した結果を示す図である。2μg以上でほとんど変化はない。
【図14】HamRbz法によるSeV/ΔF-GFPの回収時におけるpCAGGS-FとpCAGGS-F5Rの回収効率の検討を行った結果を示す図である。pCAGGS-F5Rを使用した場合の方が、回収効率ははるかに向上した。
【図15】pCAGGS-T7法により回収した伝播型SeV(SeV(TDK)18+GFP)のHAアッセイの結果を示す写真である。BHK-21, BHK/T7, 293Tで希釈しないで鶏卵に接種した時のみHA活性が検出された。
【図16】pCAGGS-T7法においてゲノムDNAの量を変化させた場合のSeV/ΔF-GFPの回収効率をCIUアッセイにより検討した結果を示す図である。0.5〜5.0μgでほとんど変化はないが、5μgを使用した時に最も回収効率が良かった。
【図17】pCAGGS-T7法において導入試薬を変化させた場合のSeV18+GFP/ΔFの回収効率をCIUアッセイにより検討した結果を示す図である。リン酸カルシウムを使用した場合にはTransIT-LT-1を使用した場合と同等以上の回収効率を示した。
【図18】pCAGGS-T7法において細胞種を変化させた場合のSeV/ΔF-GFPの回収効率をCIUアッセイにより検討した結果を示す図である。試験した全ての細胞からウイルスが回収された。回収効率はBHK/T7>BHK-21>293T>LLC-MK2の順だった。(但し、BHK/T7を使用する場合はpCAGGS-T7は添加していない。)
【図19】HamRbz法とpCAGGS-T7法によるSeV/ΔF-GFPの回収効率の比較をCIUアッセイにより検討した結果を示す図である。pCAGGS-T7法はHamRbz法よりも再構成効率が良かった。
【図20】pCAGGS-T7法によるSeV/ΔM-GFPの再構成を示す図である。
【図21】pCAGGS-T7法によるSeV/ΔMΔF-GFPの再構成を示す図である。
【図22】CAプロモーターを用いたベクターの再構成とCMVプロモーターを用いたベクターの再構成を比較した結果を示す図である。CAプロモーターのベクター再構成の効率は圧倒的に高い。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、ウイルス生産細胞におけるマイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAの転写、および該ゲノムRNAとリボヌクレオプロテイン (RNP) を形成するマイナス鎖RNAウイルス蛋白質の全ての発現を、サイトメガロウイルスエンハンサーおよびニワトリβ-アクチンプロモーターを含むハイブリッドプロモーター (本発明においてこれをCAプロモーターと称す) により誘導することを特徴とするマイナス鎖RNAウイルスベクターの製造方法に関する。本発明の方法において、マイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAの転写は、CAプロモーターにより直接または間接に誘導する。マイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAの転写をCAプロモーターにより直接誘導するには、CAプロモーターの制御下にマイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNA(マイナス鎖)またはその相補鎖(プラス鎖)をコードするDNAを連結する。ここで制御下に連結するとは、プロモーター活性に応じて目的の遺伝子の転写が起こるように、該プロモーターの下流に該遺伝子をコードするDNAを連結することを言う。マイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAの転写をCAプロモーターにより間接的に誘導するには、例えばCAプロモーターの制御下にRNAポリメラーゼをコードするDNAを連結したDNAと、該RNAポリメラーゼの認識配列の制御下にマイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAまたはその相補鎖(すなわちプラス鎖でもマイナス鎖でもよい)をコードするDNAを連結したDNAとを構築し、これらを細胞に導入する。ここでRNAポリメラーゼの認識配列とは、該ポリメラーゼが転写を開始するシグナルとなるDNA配列である。該認識配列にマイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAまたはその相補鎖をコードするDNAを連結することにより、該ポリメラーゼによりゲノムRNA(またはアンチゲノムRNA)を転写させることができる。CAプロモーターによりRNAポリメラーゼの発現が誘導され、このRNAポリメラーゼがマイナス鎖RNAウイルスのゲノムの転写を誘導する。実施例に示すように、マイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAの転写をCAプロモーターにより直接誘導するよりも、RNAポリメラーゼの誘導を介して間接にマイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAの転写を誘導することで、より高い力価でのウイルス製造が可能になる。
【0014】
ゲノムRNAとRNPを構成するマイナス鎖RNAウイルス蛋白質とは、マイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAと複合体を形成し、ゲノムRNAの複製およびゲノムにコードされている遺伝子の発現に必要とされるウイルス蛋白質群をいい、これらの蛋白質を上記において発現させるためには、該蛋白質のコード配列がCAプロモーターの下流に単純に連結された発現ベクターを使用すればよい。これにより、該蛋白質群の発現はCAプロモーターにより直接誘導される。該蛋白質は、ウイルスのエンベロープを除くコアを形成する蛋白質であり、典型的には、N(ヌクレオキャプシド)、P(ホスホ)、およびL(ラージ)蛋白質である。ウイルス種によっては、表記は異なることもあるが、対応する蛋白質は当業者にとっては自明である (Anjeanette Robert et al., Virology 247:1-6 (1998))。例えばNはNPと表記されることもある。
【0015】
本発明のマイナス鎖RNAウイルスベクターの製造方法は、具体的には、
(a)哺乳動物細胞において、マイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAまたはその相補鎖の転写、および該マイナス鎖RNAウイルスのリボヌクレオプロテイン(RNP)を構成するウイルス蛋白質の発現を、CAプロモーターにより誘導する工程、および
(b)該細胞において生産されたマイナス鎖RNAウイルスまたはその増殖産物を回収する工程、を含む方法である。
マイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAまたはその相補鎖(アンチゲノムRNA)は、マイナス鎖RNAウイルスのRNPを構成するウイルス蛋白質と共にRNPを形成し、ゲノムにコードされるウイルス蛋白質が発現して細胞内でゲノムRNAおよびアンチゲノムRNAが増幅し、エンベロープ構成蛋白質が取り込まれてウイルス粒子が生成する。これを回収することによって、ウイルスを得ることができる。
【0016】
生成させたウイルスは、適宜増幅することができる。エンベロープ遺伝子を持つ伝播型のウイルスの場合は、哺乳動物細胞に感染させれば、通常のウイルス増殖サイクルに従ってウイルスが増殖する。エンベロープ構成蛋白質をコードする遺伝子を欠損する伝播能を持たないウイルスの場合は、エンベロープ構成蛋白質を発現する細胞(ヘルパー細胞)に導入することで、感染性ウイルスを増幅することができる。
【0017】
本発明においてサイトメガロウイルスエンハンサーおよびニワトリβ-アクチンプロモーターを含むプロモーター (CAプロモーター) とは、(i) サイトメガロウイルス(CMV)のIE (immediate early) 遺伝子のエンハンサー配列、および (ii) ニワトリβ-アクチン遺伝子プロモーター配列を含むプロモーターを言う。CMV IEエンハンサーとしては、所望のCMV株のimmediately early遺伝子のエンハンサーを用いることができるが、例えば配列番号:1の塩基配列を含むDNAを例示することができる。
【0018】
また、ニワトリβ-アクチンプロモーターとしては、ニワトリβ-アクチン遺伝子のゲノムDNAの転写開始部位を含むDNA断片であって、プロモーター活性を持つ断片を使用することができる。ニワトリβ-アクチン遺伝子プロモーターの塩基配列については、例えば T.A.Kostらによって報告されている (Nucl. Acids Res. 11, 8287-8286, 1983)。ニワトリのβ-アクチン遺伝子プロモーターは、G (グアニン) およびC (シトシン) 含量が比較的高く、TATAボックス (Ann. Rev. Biochem. 50, 349-383, 1981) およびCCAATボックス (Nucl. Acids Res. 8, 127-142, 1980) などプロモーターに特徴的な配列が備わっている遺伝子断片である。ニワトリのβ-アクチンプロモーターにおいては、本来のβ-アクチン構造遺伝子の翻訳開始コドン (ATG) の上流-909の位置のG (グアニン) から-7の位置のG (グアニン) までの領域はイントロンと考えられる。このイントロンには転写を促進する活性があるため、このイントロンの少なくとも一部までを含むゲノムDNA断片を用いることが好ましい。このようなニワトリβ-アクチンプロモーターとしては、具体的には、例えば配列番号:2の塩基配列を含むDNAを例示することができる。イントロンのアクセプター配列は、他の遺伝子のイントロンアクセプター配列を用いることが好ましく、例えばウサギβ-グロビンのスプライシングアクセプター配列を用いてよい。具体的には、ウサギβ-グロビンの開始コドンの直前にある第2イントロンのアクセプター部位を用いることができる。より具体的には、配列番号:3に記載の塩基配列を含むDNAを例示することができる。本発明においてCAプロモーターとしては、CMV IEエンハンサー配列の下流に、イントロンの一部までを含むニワトリβ-アクチンプロモーターを連結し、その下流に所望のイントロンアクセプター配列を付加したDNAが好適である。一例を配列番号:4に示した。蛋白質発現のためには、この配列の最後のATGを開始コドンとして、目的の蛋白質のコード配列を付加すればよい。また、マイナス鎖RNAウイルスゲノムを転写させるためには、上記のイントロンアクセプター配列の下流にマイナス鎖RNAウイルスゲノムまたはその相補鎖(プラス鎖またはマイナス鎖どちらでもよい)をコードするDNAを連結する。但し、後述のように、イントロンアクセプター配列とマイナス鎖RNAウイルスゲノムをコードするDNAとの間には、自己切断型のリボザイムをコードするDNAを挿入するのが好適である。
【0019】
ハイブリッドプロモーターに用いるCMVエンハンサー配列およびニワトリβ-アクチン遺伝子プロモーターは、単離株または単離個体によって配列に多様性があり得る。また、これらの配列は、制限酵素認識部位を追加または削除したり、リンカー配列を挿入したりするために、軽微に改変されてもよい。すわなち、これらの配列は、配列番号:4に例示したのと全く同一の配列でなくても、同等またはそれ以上(例えば70%以上、好ましくは80%以上、90%以上または100%以上)のプロモーター活性を有する限り、適宜使用することができる。塩基配列に変異を導入する方法は、当業者によく知られている (Molecular cloning: a laboratory manual., 3rd ed., Joseph Sambrook, David W. Russell., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001)。CMVエンハンサー配列およびニワトリβ-アクチン遺伝子プロモーター配列のバリアントとしては、例えば Genbank accession AF334827、AY237157、AJ575208、および X00182 等が挙げられ、これらに記載の配列を本発明において用いることができる。これらの配列からCAプロモーターの構築に必要な配列を特定するには、配列番号:1および2とアライメントを作成し、該当する領域を選択すればよい。また、CAプロモーターの構築には、pCAGGS(Niwa, H. et al. (1991) Gene. 108: 193-199、特開平3-168087)や pCALNdLw (Arai, T. et al. J. Virology 72, 1998, p1115-1121) からDNAを切り出して利用することができる。
【0020】
上記のようなCMV IEエンハンサー配列およびニワトリβ-アクチンプロモーターのバリアントとしては、配列番号:1に記載の CMV IEエンハンサー配列、および配列番号:2に例示されたニワトリβ-アクチンプロモーターにおいて、30%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下の塩基を置換、欠失、および/または挿入した塩基配列を含み、同等のプロモーター活性を示す配列が挙げられる。これらの配列は、それぞれ配列番号:1に記載の塩基配列、または配列番号:2に記載の塩基配列と高いホモロジーを示す。高いホモロジーとしては、例えば70%以上、より好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは96%以上の同一性を有する塩基配列である。塩基配列の同一性は、例えばBLASTプログラム(Altschul, S. F. et al., 1990, J. Mol. Biol. 215: 403-410)を用いて決定することができる。例えばNCBI(National Center for Biotechnology Information)のBLASTのウェブページにおいてLow complexityを含むフィルターは全てOFFにして、デフォルトのパラメータを用いて検索を行う(Altschul, S.F. et al. (1993) Nature Genet. 3:266-272; Madden, T.L. et al. (1996) Meth. Enzymol. 266:131-141; Altschul, S.F. et al. (1997) Nucleic Acids Res. 25:3389-3402; Zhang, J. & Madden, T.L. (1997) Genome Res. 7:649-656)。例えば2つの配列の比較を行うblast2sequencesプログラム(Tatiana A et al. (1999) FEMS Microbiol Lett. 174:247-250)により、2配列のアライメントを作成し、配列の同一性を決定することができる。ギャップはミスマッチと同様に扱い、例えば配列番号:1に記載の塩基配列全体または配列番号:2に記載の塩基配列全体に対する同一性の値を計算する。具体的には、アライメントにおける配列番号:1または2の総塩基数 (ギャップを含む) における一致する塩基数の割合を計算する。アライメントにおける配列番号:1または2の外側のギャップは計算から除外する。
【0021】
また、CMVエンハンサー配列およびニワトリβ-アクチンプロモーター配列は、CMVのゲノム核酸およびニワトリゲノムDNAからハイブリダイゼーションによって単離することができる。本発明において使用されるCMVエンハンサーおよびニワトリβ-アクチンプロモーターは、それぞれ配列番号:1に記載の塩基配列、または配列番号:2に記載の塩基配列あるいはその相補配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAであって、これらと同等のプロモーター活性を有するDNAであってもよい。ハイブリダイゼーションにおいては、例えば配列番号:1に記載の塩基配列、配列番号:2に記載の塩基配列、またはそれらの相補配列を含む核酸からプローブを調製、またはハイブリダイズの対象とするDNAからプローブを調製し、それが他方のDNAにハイブリダイズするかを検出することにより同定することができる。ストリンジェントなハイブリダイゼーションの条件は、例えば 5xSSC、7%(W/V) SDS、100 micro-g/ml 変性サケ精子DNA、5xデンハルト液(1xデンハルト溶液は0.2%ポリビニールピロリドン、0.2%牛血清アルブミン、および0.2%フィコールを含む)を含む溶液中、60℃、好ましくは65℃、より好ましくは68℃でハイブリダイゼーションを行い、その後ハイブリダイゼーションと同じ温度で2xSSC中、好ましくは1xSSC中、より好ましくは0.5xSSC中、より好ましくは0.1xSSC中で、振蘯しながら2時間洗浄する条件である。
【0022】
本発明のマイナス鎖RNAウイルスの製造方法の1つの態様は、ウイルス生産細胞において、CAプロモーターの制御下にリボザイムとマイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAまたはその相補鎖をコードするDNAが連結されたDNAを転写させる方法である。このDNAから転写される初期転写産物は、リボザイムとマイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNA(プラス鎖またはマイナス鎖)とを含んでいる。ここでリボザイムは、このリボザイムとマイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAとの間を切断する活性を持つように設計する。転写されたRNA中のリボザイムは、シスまたはトランスに作用して、リボザイムとマイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAとの間を切断し、正確なゲノム末端を持つマイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAが生成される(Inoue, K. et al. J. Virol. Methods 107, 2003, 229-236)。リボザイムを用いた方法は、DNAを転写させてRNAを生成させるだけで、正確な末端を持つマイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAが自己生成するため、ウイルスの製造方法が簡便であり、特別な細胞を必要としない点で優れている。
【0023】
特定の配列を切断するリボザイムは、公知の技術に基づいて設計することが可能である。例えばハンマーヘッドリボザイムは、天然においてはウイロイドなどから単離されており(J. M. Buzayan et al., Nature, 1986, 323: 349-353; G.A. Prody et al., Science, 1986, 231:1577-1580)、もともとは三つのループと三つのへリックスを持つ金槌構造を有し、シスに作用する他、触媒活性を有するRNA部分と標的RNAとを切り離すことによりトランスで作用させることもできる。このようなリボザイムは例えば一つのループとへリックスをもち、ターゲットとなる配列と擬似的にループをとる(Turner, P.C., The Biochemistry of the Hammerhead Ribozyme. In: Scanlon, KJ., and Kashani-Sabet, M. ed. Ribozymes in the Gene Tarapy of Cancer (Medical Intelligence UNIT4), R. G. Landes Company, 1998; 3-14)。ハンマーヘッドリボザイムは構造が十分明らかになっているリボザイムであり、タバコリングスポットウイルスのリボザイムは、NUH(N= A, G, C, または U; H= A, C, または U)の塩基配列の3'側を特異的に切断する(M. Koizumiら, FEBS Lett. 228:225, 1988)。従って、標的とする所望のRNA中のUC、UUまたはUAという配列を含む部位を特異的に切断するリボザイムを作出することが可能である(M. Koizumiら, FEBS Lett. 239:285, 1988; 小泉誠および大塚栄子, 蛋白質核酸酵素, 35: 2191, 1990; M. Koizumiら, Nucleic Acids Res. 17:7059, 1989)。
【0024】
また、ヘアピンリボザイムも本発明の目的のために有用である。ヘアピンリボザイムは、例えばタバコリングスポットウイルスのサテライトRNAのマイナス鎖に見出される(J. M. Buzayan, Nature 323:349, 1986)。このリボザイムも、標的特異的なRNA切断を起こすように設計できることが示されている(Y. Kikuchi および N. Sasaki, Nucleic Acids Res. 19:6751, 1992; 菊池洋, 化学と生物 30:112, 1992)。
【0025】
これらのリボザイムは、適宜改変することができる。In vitro進化系を用いて天然のリボザイムを改変し、活性の高い改変リボザイムを得る方法が知られている(Joyce.1992. Selective Amplification Techniques for Optimization of Ribozyme Function. in Antisense RNA and DNA pp. 353-372. Wiley-Liss Inc.)。またリボザイムは2量体で機能するものも利用できる。
【0026】
RNA切断活性を持つリボザイムは一般に、触媒活性に必須の配列と、標的RNAの認識に必要な標的認識配列を含んでいる。ハンマーヘッドリボザイムの触媒に必要な配列は、例えば 5'-1C2U3G4A5N6G7A8N9N10N11N12N13N14N15N16N17N18N19N20G21A22A23A24N-3'(配列番号:5)が挙げられるがこれに限定されない。ここでNはG, A, U, または Cであり、5'-8N9N10N11N-3' と 5'-16N17N18N19N-3' は互いに相補的な配列にして塩基対を形成できるようにする。例えば5'-8N9N10N11N-3'として5'-GUCC-3'、5'-16N17N18N19N-3'として5'-GGAC-3'が挙げられるがこれに制限されない。12N13N14N15Nの4塩基はループを形成させることが好ましい。ここは4塩基でなくとも、2〜7塩基(すなわちN2〜7)程度、例えば3〜5塩基(すなわちN3〜5)程度でもよい。23A24Nは標的認識配列と重なっており、24N は標的部位である上記のNUHのNと相補的な塩基にする。例示としては 5'-GUGA-3' があげられる。より具体的な配列は実施例に示されている。この両端に標的認識配列を付加する。標的認識配列としては、リボザイムとマイナス鎖RNAウイルスゲノムの間の配列と相補的な配列に設定する。
【0027】
本発明の方法の他の1つの態様は、ウイルス生産細胞において、CAプロモーターの制御下にバクテリオファージのRNAポリメラーゼをコードするDNAが連結されたDNAを発現させる方法である。ここで、このウイルス生産細胞は、該RNAポリメラーゼの認識配列の下流に連結されたマイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAまたはその相補鎖をコードするDNAを含むようにする。発現されたRNAポリメラーゼにより、RNAポリメラーゼの認識配列の下流に連結されたマイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAをコードするDNAが転写され、ウイルスゲノムRNAが生成する。用いられるRNAポリメラーゼとしては、特異的配列(RNAポリメラーゼの標的配列で、一般にプロモーター配列とも呼ばれる)を認識して転写を開始する所望のバクテリオファージ由来RNAポリメラーゼが用いられるが、具体的に例示すれば、大腸菌T3ファージおよびT7ファージ、およびサルモネラSP6ファージ等が挙げられる (Krieg, P.A. and Melton, D.A. 1987. In vitro RNA synthesis with SP6 RNA polymerase. Methods Enzymol. 155: 397-15; Milligan, J.F., Groebe, D.R., Witherell, G.W., and Uhlenbeck, O.C. 1987. Oligoribonucleotide synthesis using T7 RNA polymerase and synthetic DNA templates. Nucleic Acids Res. 15: 8783-798; Pokrovskaya, I.D. and Gurevich, V.V. 1994. In vitro transcription: Preparative RNA yields in analytical scale reactions. Anal.Biochem. 220: 420-23)。
【0028】
T3、T7、およびSP6の典型的な認識配列(プロモーター配列)を以下に示す。ここで「+1」は転写される最初の塩基を表す。

-17から-1までの領域は転写に必須であり、2本鎖であることが必要である。また、上記の+1から+6のうち、効率のよい転写を実現させるためには最初の2塩基(+1および+2)が GP (P=プリン (AまたはG)) であることが重要であり、その他の塩基は他の塩基に置換してもよい。好ましくは、上記の下線部に示した配列が用いられる。マイナス鎖RNAウイルスのゲノムcDNA(プラス鎖またはマイナス鎖)は、上記RNAポリメラーゼの認識配列の直下に結合される。効率の高いウイルスの製造のためには、プラス鎖を転写させるようにするとよい。
【0029】
以上に記載した、マイナス鎖RNAウイルスのゲノムの転写ベクターおよびファージRNAポリメラーゼの発現ベクターは、所望のDNAベクター、あるいは細胞に導入後にDNAに変換される、レトロウイルスのようなベクター等であってよいが、典型的にはプラスミドベクターが用いられる。ベクターは、細胞に導入後にエピソームとして存在して発現するベクターでもよく、あるいは細胞の染色体に組み込まれて発現する染色体組み込み型のベクターであってもよい。例えばプラスミドを用いる場合は、トランスフェクションにより一過的に発現させてもよく、あるいは染色体に組み込まれた安定導入株を選択してもよい。特にファージRNAポリメラーゼを安定発現する細胞株は、ウイルス製造の手順が簡略化でき、安定した高力価ウイルスの製造が可能になるので有用である(実施例2参照)。また、ベクターは、恒常的に発現するものであってもよいが、必要なときに発現を誘導できるような誘導発現型のベクターであってもよい。例えば、配列特異的リコンビナーゼ(組み換え酵素)を用いて、誘導的に発現させることが可能である(実施例2)。このために利用できるリコンビナーゼとしては、CreリコンビナーゼおよびFLPリコンビナーゼが挙げられる。リコンビナーゼ標的配列に挟まれたDNAを、CAプロモーターと該リボザイムまたはRNAポリメラーゼのコード配列との間に挿入することにより、リコンビナーゼに応答して発現を誘導することができる。
【0030】
CreはバクテリオファージP1が持つ約38 kDaのcyclizationリコンビナーゼであり、loxP部位の間を特異的に組み換える (Sauer B, Henderson N. 1988. Site-specific DNA recombination in mammalian cells by the Cre recombinase of bacteriophage P1. Proc Natl Acad Sci USA 85:5166-70; Sternberg N, Hamilton D. 1981. Bacteriophage P1 site-specific recombination. I. Recombination between loxP sites. J Mol Biol 150:467-86; Brian Sauer, Methods of Enzymology; 1993, Vol. 225, 890-900; Nagy A. 2000. Cre recombinase: the universal reagent for genome tailoring. Genesis 26:99-109)。loxPは、8 bpのスペーサーを持つ13 bpのアシンメトリックなインバーテッドリピート配列である (ATAACTTCGTATAATGTATGCTATACGAAGTTAT;下線部がインバーテッドリピート)(配列番号:9)。
【0031】
FLPリコンビナーゼは酵母Saccharomyces cerevisiaeの2 micronプラスミドに由来する約49 kDaのflippaseリコンビナーゼで、FLP recombinase target (FRT) 配列を標的として組み換えを起こす (Utomo AR, Nikitin AY, Lee WH. 1999. Temporal, spatial, and cell type-specific control of Cre-mediated DNA recombination in transgenic mice. Nat Biotechnol 17:1091-6; Broach, J. R., Guarascio, V. R. & Jayaram, M. (1982) Cell 29, 227-34; Cox, M. M. (1983) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80, 4223-227; Vetter, D., Andrews, B. J., Roberts-Beatty, L. & Sadowski, P. D. (1983) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80, 7284-288; Abremski, K. & Hoess, R. (1984) J. Biol. Chem. 259, 1509-514; Stark, W. M., Boocock, M. R. & Sherratt, D. J. (1992) Trends Genet. 8, 432-39; Kilby, N. J., Snaith, M. R. & Murray, J. A. H. (1993) Trends Genet. 9, 413-21)。loxPと同様に、FRT配列も8 bpのスペーサーを持つ13 bpのリピート配列からなる (GAAGTTCCTATTCTCTAGAAAGTATAGGAACTTC;配列番号:10) (Andrews, B. J. et al. (1985). The FLP Recombinase of the 2 Micron Circle DNA of Yeast: Interaction with its Target Sequences. Cell 40, 795-803)。また、標的特異的組み換えは、上記のloxP部位およびFRT部位の変異配列を利用して行うこともできる (Baszczynski, Christopher L. et al, US Patent Application 20040003435)。
【0032】
リコンビナーゼにより発現誘導可能なDNAを構築するには、一対のリコンビナーゼ標的配列に挟まれたDNAを、CAプロモーターとリボザイムまたはファージRNAポリメラーゼのコード配列との間に挿入する。この状態では、挿入されたDNA断片に妨げられ、CAプロモーターからはマイナス鎖RNAウイルスのゲノム(リボザイムが付加されている)またはファージRNAポリメラーゼは発現しない。しかし、リコンビナーゼを作用させると、標的配列で挟まれたDNAが切り出され、CAプロモーターからマイナス鎖RNAウイルスのゲノムまたはファージRNAポリメラーゼが発現するようになる。このように、リコンビナーゼにより、CAプロモーターからの発現を誘導することができる。リコンビナーゼの標的配列に挟まれたDNA中には、転写終結シグナルおよび/または終止コドンを含むようにしておき、リコンビナーゼを作用させない時に、下流に連結されたマイナス鎖RNAウイルスのゲノムまたはファージRNAポリメラーゼの遺伝子の発現を確実に遮断できるようにすることが好ましい。また、リコンビナーゼの標的配列に挟まれたDNA中には、適宜マーカー遺伝子を挿入しておくことができる。
【0033】
本明細書に記載したウイルス製造のためのDNAおよび細胞は、適宜組み合わせてウイルス製造のためのキットとすることができる。例えば本発明は、以下のようなキットに関する。
(1-1)CAプロモーターの制御下にバクテリオファージのRNAポリメラーゼをコードするDNAが連結されたDNA、および該RNAポリメラーゼの認識配列の制御下に連結されたマイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAまたはその相補鎖をコードするDNA、を含むマイナス鎖RNAウイルス製造キット。
(1-2)CAプロモーターの制御下に連結された、該ゲノムRNAとRNPを形成するマイナス鎖RNAウイルス蛋白質をコードするDNAをさらに含む、上記(1-1)に記載のキット。
(1-3)該ゲノムRNAまたはその相補鎖が、エンベロープ構成蛋白質をコードする遺伝子の1つまたは複数を欠損している、上記(1-1)または(1-2)に記載のキット。
(1-4)エンベロープ構成蛋白質をコードするDNAをさらに含む、上記(1-1)から(1-3)のいずれかに記載のキット。
(1-5)エンベロープ構成蛋白質をコードするDNAが、CAプロモーターの制御下に連結されている、上記(1-1)から(1-4)のいずれかに記載のキット。
(1-6)該マイナス鎖RNAウイルスがセンダイウイルスである、上記(1-1)から(1-5)のいずれかに記載のキット。
(1-7)該バクテリオファージが、SP6ファージ、T3ファージ、およびT7ファージからなる群より選択される、上記(1-1)から(1-6)のいずれかに記載のキット。
(1-8)該RNAポリメラーゼがリコンビナーゼにより発現誘導可能である、上記(1-1)から(1-7)のいずれかに記載のキット。
(1-9)該リコンビナーゼがCreまたはFlpである、上記(1-8)に記載のキット。
【0034】
(2-1)CAプロモーターの制御下にバクテリオファージのRNAポリメラーゼをコードするDNAが連結されたDNAを保持する哺乳動物細胞、および該RNAポリメラーゼの認識配列の制御下に連結されたマイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAまたはその相補鎖をコードするDNA、を含むマイナス鎖RNAウイルス製造キット。
(2-2)CAプロモーターの制御下に連結された、該ゲノムRNAとRNPを形成するマイナス鎖RNAウイルス蛋白質をコードするDNAをさらに含む、上記(2-1)に記載のキット。
(2-3)該ゲノムRNAまたはその相補鎖が、エンベロープ構成蛋白質をコードする遺伝子の1つまたは複数を欠損している、上記(2-1)または(2-2)に記載のキット。
(2-4)エンベロープ構成蛋白質をコードするDNAをさらに含む、上記(2-1)から(2-3)のいずれかに記載のキット。
(2-5)エンベロープ構成蛋白質をコードするDNAが、CAプロモーターの制御下に連結されている、上記(2-1)から(2-4)のいずれかに記載のキット。
(2-6)該マイナス鎖RNAウイルスがセンダイウイルスである、上記(2-1)から(2-5)のいずれかに記載のキット。
(2-7)該バクテリオファージが、SP6ファージ、T3ファージ、およびT7ファージからなる群より選択される、上記(2-1)から(2-6)のいずれかに記載のキット。
(2-8)該RNAポリメラーゼがリコンビナーゼにより発現誘導可能である、上記(2-1)から(2-7)のいずれかに記載のキット。
(2-9)該リコンビナーゼがCreまたはFlpである、上記(2-8)に記載のキット。
【0035】
(3-1)(i) CAプロモーターの制御下に、リボザイムとマイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAまたはその相補鎖とをコードするDNAが連結されたDNAであって、該リボザイムは、転写産物を該リボザイムとマイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAまたはその相補鎖との間で切断する活性を有するDNA、ならびに、(ii) CAプロモーターの制御下に連結された、該ゲノムRNAとRNPを形成するマイナス鎖RNAウイルス蛋白質をコードするDNA、を含む、マイナス鎖RNAウイルス製造キット。
(3-2)該ゲノムRNAまたはその相補鎖が、エンベロープ構成蛋白質をコードする遺伝子の1つまたは複数を欠損している、上記(3-1)に記載のキット。
(3-3)エンベロープ構成蛋白質をコードするDNAをさらに含む、上記(3-1)または(3-2)に記載のキット。
(3-4)エンベロープ構成蛋白質をコードするDNAが、CAプロモーターの制御下に連結されている、上記(3-1)から(3-3)のいずれかに記載のキット。
(3-5)該マイナス鎖RNAウイルスがセンダイウイルスである、上記(3-1)から(3-4)のいずれかに記載のキット。
(3-6)該バクテリオファージが、SP6ファージ、T3ファージ、およびT7ファージからなる群より選択される、上記(3-1)から(3-5)のいずれかに記載のキット。
(3-7)上記(i)および/または(ii)のDNAがリコンビナーゼにより発現誘導可能である、上記(3-1)から(3-6)のいずれかに記載のキット。
(3-8)該リコンビナーゼがCreまたはFlpである、上記(3-7)に記載のキット。
なおリコンビナーゼにより発現誘導可能とは、CAプロモーターとその下流のDNAとの間に該リコンビナーゼの認識配列に挟まれたDNAが挿入されており、該リコンビナーゼにより認識配列に挟まれたDNAが除去され、CAプロモーターの下流のDNAの発現が誘導されるようになっていることである。
【0036】
本発明においてマイナス鎖RNAウイルスとは、マイナス鎖(ウイルス蛋白質をセンスにコードする鎖と相補的なアンチセンス鎖)のRNAをゲノムとして含むウイルスのことである。マイナス鎖RNAはネガティブ鎖RNAとも呼ばれる。本発明において用いられるマイナス鎖RNAウイルスとしては、特に一本鎖マイナス鎖RNAウイルス(非分節型(non-segmented)マイナス鎖RNAウイルスとも言う)が挙げられる。「一本鎖ネガティブ鎖RNAウイルス」とは、一本鎖ネガティブ鎖[すなわちマイナス鎖]RNAをゲノムに有するウイルスを言う。このようなウイルスとしては、パラミクソウイルス(Paramyxoviridae; Paramyxovirus, Morbillivirus, Rubulavirus, および Pneumovirus属等を含む)、ラブドウイルス(Rhabdoviridae; Vesiculovirus, Lyssavirus, および Ephemerovirus属等を含む)、フィロウイルス(Filoviridae)、オルトミクソウイルス(Orthomyxoviridae; Infuluenza virus A, B, C, および Thogoto-like viruses 等を含む)、ブニヤウイルス(Bunyaviridae; Bunyavirus, Hantavirus, Nairovirus, および Phlebovirus属等を含む)、アレナウイルス(Arenaviridae)などの科に属するウイルスが含まれる。
【0037】
また、マイナス鎖RNAウイルスベクターとは、マイナス鎖RNAウイルスをベースとする感染力を持つウイルスであって、遺伝子を細胞に導入するための担体を言う。ここで「感染力」とは、マイナス鎖RNAウイルスベクターが細胞への接着能を保持しており、接着した細胞の内部にベクターに含まれる遺伝子を導入することのできる能力のことを言う。また「遺伝子」は、本発明において製造するマイナス鎖RNAウイルスベクターが有する任意の遺伝物質を指し外来遺伝子に限定されない。すなわちマイナス鎖RNAウイルスベクターは外来遺伝子を持っていても持たなくてもよい。本発明の方法は、伝播能を有するウイルスベクターの製造、および伝播能を有さない欠損型ベクターの製造の両方に適用することができる。特に、伝播能を有さない欠損型ベクターの効率的な製造を可能にする利点を有する。ここで「伝播能を有する」とは、ウイルスベクターが宿主細胞に感染した場合、該細胞においてウイルスが複製され、感染性ウイルス粒子が産生されることを指す。
【0038】
組み換えウイルスとは、組み換えポリヌクレオチドを介して生成したウイルス、またはそのウイルスの増幅産物を言う。組み換えポリヌクレオチドとは、両端または片端が自然の状態と同じようには結合していないポリヌクレオチドを言う。具体的には、組み換えポリヌクレオチドは、人為的にポリヌクレオチド鎖の結合が改変(切断および/または結合)されたポリヌクレオチドである。組み換えポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチド合成、ヌクレアーゼ処理、リガーゼ処理等を組み合わせて、公知の遺伝子組み換え方法により生成させることができる。組み換えウイルスは、遺伝子操作により構築されたウイルスゲノムをコードするポリヌクレオチドを発現させ、ウイルスを再構築することによって生成することができる。例えば、ウイルスゲノムをコードするcDNAから、ウイルス再構成する方法が知られている(Y. Nagai, A. Kato, Microbiol. Immunol., 43, 613-624 (1999))。
【0039】
本発明において遺伝子とは遺伝物質を指し、転写単位をコードする核酸を言う。遺伝子はRNAであってもDNAであってもよい。本発明において蛋白質をコードする核酸は、該蛋白質の遺伝子と呼ぶ。また一般に、遺伝子は蛋白質をコードしていなくてもよく、例えば遺伝子はリボザイムまたはアンチセンスRNAなどの機能的RNAをコードするものであってもよい。一般に、遺伝子は天然由来または人為的に設計された配列であり得る。また、本発明において「DNA」とは、一本鎖DNAおよび二本鎖DNAを含む。また蛋白質をコードするとは、ポリヌクレオチドが該蛋白質を適当な条件下で発現できるように、該蛋白質のアミノ酸配列をコードするORFをセンスまたはアンチセンスに含むことを言う。
【0040】
本発明において得に好適に用いられるマイナス鎖RNAウイルスとしては、例えばパラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)ウイルスのセンダイウイルス(Sendai virus)、ニューカッスル病ウイルス(Newcastle disease virus)、おたふくかぜウイルス(Mumps virus)、麻疹ウイルス(Measles virus)、RSウイルス(Respiratory syncytial virus)、牛疫ウイルス(rinderpest virus)、ジステンパーウイルス(distemper virus)、サルパラインフルエンザウイルス(SV5)、ヒトパラインフルエンザウイルス1,2,3型、オルトミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)のインフルエンザウイルス(Influenza virus)、ラブドウイルス科(Rhabdoviridae)の水疱性口内炎ウイルス(Vesicular stomatitis virus)、狂犬病ウイルス(Rabies virus)等が挙げられる。
【0041】
本発明において用いることができるウイルスをさらに例示すれば、例えば Sendai virus (SeV)、human parainfluenza virus-1 (HPIV-1)、human parainfluenza virus-3 (HPIV-3)、phocine distemper virus (PDV)、canine distemper virus (CDV)、dolphin molbillivirus (DMV)、peste-des-petits-ruminants virus (PDPR)、measles virus (MV)、rinderpest virus (RPV)、Hendra virus (Hendra)、Nipah virus (Nipah)、human parainfluenza virus-2 (HPIV-2)、simian parainfluenza virus 5 (SV5)、human parainfluenza virus-4a (HPIV-4a)、human parainfluenza virus-4b (HPIV-4b)、mumps virus (Mumps)、およびNewcastle disease virus (NDV) などが含まれる。より好ましくは、Sendai virus (SeV)、human parainfluenza virus-1 (HPIV-1)、human parainfluenza virus-3 (HPIV-3)、phocine distemper virus (PDV)、canine distemper virus (CDV)、dolphin molbillivirus (DMV)、peste-des-petits-ruminants virus (PDPR)、measles virus (MV)、rinderpest virus (RPV)、Hendra virus (Hendra)、および Nipah virus (Nipah) からなる群より選択されるウイルスが挙げられる。
【0042】
本発明において製造されるマイナス鎖RNAウイルスは、より好ましくは、パラミクソウイルス亜科(レスピロウイルス属、ルブラウイルス属、およびモルビリウイルス属を含む)に属するウイルスまたはその誘導体であり、より好ましくはレスピロウィルス属(genus Respirovirus)(パラミクソウィルス属(Paramyxovirus)とも言う)に属するウィルスまたはその誘導体である。誘導体には、ウイルスによる遺伝子導入能を損なわないように、ウイルス遺伝子が改変されたウイルス、および化学修飾されたウイルス等が含まれる。本発明を適用可能なレスピロウィルス属ウィルスとしては、例えばヒトパラインフルエンザウィルス1型(HPIV-1)、ヒトパラインフルエンザウィルス3型(HPIV-3)、ウシパラインフルエンザウィルス3型(BPIV-3)、センダイウィルス(Sendai virus; マウスパラインフルエンザウィルス1型とも呼ばれる)、およびサルパラインフルエンザウィルス10型(SPIV-10)などが含まれる。本発明においてパラミクソウィルスは、最も好ましくはセンダイウィルスである。これらのウィルスは、天然株、野生株、変異株、ラボ継代株、および人為的に構築された株などに由来してもよい。
【0043】
マイナス鎖RNAウイルスベクターはウイルスゲノムRNAに搭載遺伝子をアンチセンスにコードしている。ウイルスゲノムRNAとは、マイナス鎖RNAウイルスのウイルス蛋白質と共にリボヌクレオプロテイン(RNP)を形成し、該蛋白質によりゲノム中の遺伝子が発現し、このRNAが複製されて娘RNPが形成される機能を持つRNAである。一般にマイナス鎖RNAウイルスのゲノムは、3'リーダー領域と5'トレイラー領域の間に、ウイルス遺伝子がアンチセンス配列として並んだ構成をしている。各遺伝子のORFの間には、転写終結配列(E配列) - 介在配列(I配列) - 転写開始配列(S配列) が存在し、これにより各遺伝子のORFをコードするRNAが別々のシストロンとして転写される。本発明のウイルスに含まれるゲノムRNAは、該RNAにコードされる遺伝子群の発現およびRNA自身の自律的な複製に必要なウイルス蛋白質である N(ヌクレオキャプシド)、P(ホスホ)、およびL(ラージ)をアンチセンスにコードしている。また該RNAは、ウイルス粒子の形成に必要なM(マトリックス)蛋白質をコードしていてもよい。さらに該RNAは、ウイルス粒子の感染に必要なエンベロープ蛋白質をコードしていてもよい。マイナス鎖RNAウイルスのエンベロープ蛋白質としては、細胞膜融合を起こす蛋白質であるF(フュージョン)蛋白質および細胞への接着に必要なHN(ヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ)蛋白質が挙げられる。但し、ある種の細胞では感染にHN蛋白質は必要なく(Markwell, M.A. et al., Proc. Natil. Acad. Sci. USA 82(4):978-982 (1985))、F蛋白質のみで感染が成立する。また、F蛋白質および/またはHN蛋白質以外のウイルスエンベロープ蛋白質をコードさせてもよい。
【0044】
例えばパラミクソウィルス亜科に属する各ウィルスにおける各遺伝子は、一般に次のように表記される。一般に、NP遺伝子は"N"とも表記される。また、HNはノイラミニダーゼ活性を有さない場合にはHと表記される。
レスピロウイルス属 NP P/C/V M F HN - L
ルブラウイルス属 NP P/V M F HN (SH) L
モービリウイルス属 NP P/C/V M F H - L
【0045】
例えばセンダイウイルスの各遺伝子の塩基配列のデータベースのアクセッション番号は、NP遺伝子については M29343、M30202, M30203, M30204, M51331, M55565, M69046, X17218、P遺伝子については M30202, M30203, M30204, M55565, M69046, X00583, X17007, X17008、M遺伝子については D11446, K02742, M30202, M30203, M30204, M69046, U31956, X00584, X53056、F遺伝子については D00152, D11446, D17334, D17335, M30202, M30203, M30204, M69046, X00152, X02131、HN遺伝子については D26475, M12397, M30202, M30203, M30204, M69046, X00586, X02808, X56131、L遺伝子については D00053, M30202, M30203, M30204, M69040, X00587, X58886を参照のこと。またその他のウイルスがコードするウイルス遺伝子を例示すれば、N遺伝子については、CDV, AF014953; DMV, X75961; HPIV-1, D01070; HPIV-2, M55320; HPIV-3, D10025; Mapuera, X85128; Mumps, D86172; MV, K01711; NDV, AF064091; PDPR, X74443; PDV, X75717; RPV, X68311; SeV, X00087; SV5, M81442; および Tupaia, AF079780、P遺伝子については、CDV, X51869; DMV, Z47758; HPIV-l, M74081; HPIV-3, X04721; HPIV-4a, M55975; HPIV-4b, M55976; Mumps, D86173; MV, M89920; NDV, M20302; PDV, X75960; RPV, X68311; SeV, M30202; SV5, AF052755; および Tupaia, AF079780、C遺伝子については CDV, AF014953; DMV, Z47758; HPIV-1. M74081; HPIV-3, D00047; MV, ABO16162; RPV, X68311; SeV, AB005796; および Tupaia, AF079780、M遺伝子については CDV, M12669; DMV Z30087; HPIV-1, S38067; HPIV-2, M62734; HPIV-3, D00130; HPIV-4a, D10241; HPIV-4b, D10242; Mumps, D86171; MV, AB012948; NDV, AF089819; PDPR, Z47977; PDV, X75717; RPV, M34018; SeV, U31956; および SV5, M32248、F遺伝子については CDV, M21849; DMV, AJ224704; HPN-1. M22347; HPIV-2, M60182; HPIV-3. X05303, HPIV-4a, D49821; HPIV-4b, D49822; Mumps, D86169; MV, AB003178; NDV, AF048763; PDPR, Z37017; PDV, AJ224706; RPV, M21514; SeV, D17334; および SV5, AB021962、HN(HまたはG)遺伝子については CDV, AF112189; DMV, AJ224705; HPIV-1, U709498; HPIV-2. D000865; HPIV-3, AB012132; HPIV-4A, M34033; HPIV-4B, AB006954; Mumps, X99040; MV, K01711; NDV, AF204872; PDPR, Z81358; PDV, Z36979; RPV, AF132934; SeV, U06433; および SV-5, S76876 が例示できる。但し、各ウイルスは複数の株が知られており、株の違いにより上記に例示した以外の配列からなる遺伝子も存在する。
【0046】
これらのウイルス蛋白質をコードするORFおよび外来遺伝子のORFは、ゲノムRNAにおいて上記のE-I-S配列を介してアンチセンスに配置される。ゲノムRNAにおいて最も3'に近いORFは、3'リーダー領域と該ORFとの間にS配列のみが必要であり、EおよびI配列は必要ない。またゲノムRNAにおいて最も5'に近いORFは、5'トレイラー領域と該ORFとの間にE配列のみが必要であり、IおよびS配列は必要ない。また2つのORFは、例えばIRES等の配列を用いて同一シストロンとして転写させることも可能である。このような場合は、これら2つのORFの間にはE-I-S配列は必要ない。例えば、野生型のパラミクソウイルスの場合、典型的なRNAゲノムは、3'リーダー領域に続き、N、P、M、F、HN、およびL蛋白質をアンチセンスにコードする6つのORFが順に並んでおり、それに続いて5'トレイラー領域を他端に有する。本発明においてゲノムRNAは、ウイルス遺伝子の配置はこれに限定されるものではないが、好ましくは、野生型ウイルスと同様に、3'リーダー領域に続き、N、P、M、F、HN、およびL蛋白質をコードするORFが順に並び、それに続いて5'トレイラー領域が配置されることが好ましい。ある種のウイルスにおいては、ウイルス遺伝子が異なっているが、そのような場合でも上記と同様に各ウイルス遺伝子を野生型と同様の配置とすることが好ましい。一般に N、P、およびL遺伝子を保持しているベクターは、細胞内で自律的にRNAゲノムから遺伝子が発現し、ゲノムRNAが複製される。さらにFおよびHN遺伝子等のエンベロープのスパイク蛋白質をコードする遺伝子、およびM遺伝子の働きにより、感染性のウイルス粒子が形成され、細胞外に放出される。従って、このようなベクターは伝播能を有するウイルスベクターとなる。ベクターに外来遺伝子を搭載させる場合は、後述するように、このゲノム中の蛋白質非コード領域に挿入すればよい。
【0047】
また、マイナス鎖RNAウイルスベクターは、野生型ウイルスが持つ遺伝子のいずれかを欠損したものであってよい。例えば、ウイルスのエンベロープ構成蛋白質の遺伝子を欠失させたウイルスは、安全性の高い遺伝子導入ベクターとして有用である。本発明の方法に従えば、エンベロープ構成蛋白質の遺伝子を欠失させたウイルスを、ワクシニアウイルスベクターを使うことなく、高力価で回収することが可能である。エンベロープ構成蛋白質とは、ウイルスのエンベロープの成分となるウイルス蛋白質を言い、エンベロープ表面に露出し細胞への接着または感染に機能するスパイク蛋白質およびエンベロープの形成等に機能する裏打ち蛋白質が含まれる。具体的には、エンベロープ構成蛋白質の遺伝子としては F、HN、およびM が挙げられ、ウイルス種によっては H、M1、および G 等の遺伝子が含まれる。これらのエンベロープ構成蛋白質の遺伝子の1つまたは複数を欠失させたウイルスは、感染細胞において感染性ウイルス粒子を形成できないため安全性が高い。このようなウイルスの再構成は、例えば、欠損している遺伝子産物を外来的に供給することにより行うことができる。あるいは、全く別のエンベロープ蛋白質で、ウイルスの感染性を相補してもよい。このようなエンベロープ蛋白質としては、VSV-Gを例示することができる。すなわち、エンベロープ構成蛋白質遺伝子を欠失させたウイルスの構築に用いられるエンベロープ蛋白質遺伝子は、ウイルスの形成および感染性を保障する限り、欠失させた遺伝子に限定されない。このようにして製造されたウイルスは、野生型ウイルスと同様に宿主細胞に接着して細胞融合を起こすが、細胞に導入されたウイルスゲノムはウイルス遺伝子に欠損を有するため、最初と同じような感染力を持つ娘ウイルス粒子は形成されない。このため、一回限りの遺伝子導入力を持つ安全なウイルスベクターとして有用である(WO00/70055、WO00/70070、および WO03/025570; Li, H.-O. et al., J. Virol. 74(14) 6564-6569 (2000))。ゲノムから欠損させる遺伝子としては、例えばF遺伝子、HN遺伝子、M遺伝子、またはその任意の組み合わせが挙げられる。例えば、F遺伝子が欠損した組み換えマイナス鎖RNAウイルスゲノムを発現するプラスミドを、F蛋白質の発現ベクターならびにNP、P、およびL蛋白質の発現ベクターと共に宿主細胞にトランスフェクションすることにより、組み換えウイルスの再構成を行うことができる(実施例4〜5参照)。また、例えば、F遺伝子が染色体に組み込まれた宿主細胞を用いてウイルスを製造することもできる。この場合は、F遺伝子は誘導発現できるように、上述の組み換え酵素標的配列を用いて、組み換え酵素特異的に発現を誘導できるようにしておくことが好ましい。ウイルス生産細胞で発現させるこれらの蛋白質群は、そのアミノ酸配列はウイルス由来の配列そのままでなくとも、核酸の導入における活性が天然型のそれと同等かそれ以上ならば、変異を導入したり、あるいは他のウイルスの相同遺伝子で代用してもよい。
【0048】
また、本発明においては、先にも述べたが、ウイルスゲノムが由来するウイルスのエンベロープ蛋白質とは異なる蛋白質をエンベロープに含む組み換えウイルスを製造することもできる。例えば、ウイルス再構成の際に、ベースとなるウイルスのゲノムが元来コードするエンベロープ蛋白質以外のエンベロープ蛋白質を細胞で発現させることにより、所望のエンベロープ蛋白質を有する組み換えウイルスを製造することができる。このような蛋白質に特に制限はない。細胞への感染能を与える所望の蛋白質が用いられる。例えば、他のウイルスのエンベロープ蛋白質、例えば水疱性口内炎ウイルス(Vesicular stomatitis virus; VSV)のG蛋白質(VSV-G)を挙げることができる。VSV-G蛋白質は、任意のVSV株に由来するものであってよい。例えば Indiana血清型株(J. Virology 39: 519-528 (1981))由来のVSV-G蛋白を用いることができるが、これに限定されない。また本発明のベクターは、他のウイルス由来のエンベロープ蛋白質を任意に組み合わせて含むことができる。例えば、このような蛋白質として、ヒト細胞に感染するウイルスに由来するエンベロープ蛋白質が好適である。このような蛋白質としては、特に制限はないが、レトロウイルスのアンフォトロピックエンベロープ蛋白質などが挙げられる。レトロウイルスのアンフォトロピックエンベロープ蛋白質としては、例えばマウス白血病ウイルス(MuLV)4070A株由来のエンベロープ蛋白質を用い得る。また、MuMLV 10A1由来のエンベロープ蛋白質を用いることもできる(例えばpCL-10A1(Imgenex)(Naviaux, R. K. et al., J. Virol. 70: 5701-5705 (1996))。また、ヘルペスウイルス科の蛋白質としては、例えば単純ヘルペスウイルスのgB、gD、gH、gp85蛋白質、EBウイルスのgp350、gp220蛋白質などが挙げられる。ヘパドナウイルス科の蛋白質としては、B型肝炎ウイルスのS蛋白質などが挙げられる。これらの蛋白質は、細胞外ドメインをF蛋白質またはHN蛋白質の細胞内ドメインと結合させた融合蛋白質として用いてもよい。このように本発明において用いられるウイルスベクターには、VSV-G蛋白質などのように、ゲノムが由来するウイルス以外のウイルスに由来するエンベロープ蛋白質を含むシュードタイプウイルスベクターが含まれる。ウイルスのゲノムRNAにはこれらのエンベロープ蛋白質をゲノムにコードされないように設計すれば、ウイルス粒子が細胞に感染した後は、ウイルスベクターからこの蛋白質が発現されることはない。
【0049】
また、本発明においては、例えば、エンベロープ表面に特定の細胞に接着しうるような接着因子、リガンド、受容体等の蛋白質、抗体またはその断片、あるいはこれらの蛋白質を細胞外領域に有し、マイナス鎖RNAウイルスのエンベロープ蛋白質由来のポリペプチドを細胞内領域に有するキメラ蛋白質などを含むウイルスを製造することもできる。これにより、ウイルスベクターの感染の特異性を制御し得る。これらはウイルスゲノムにコードされていてもよいし、ウイルスの再構成時に、ウイルスゲノム以外の遺伝子(例えば別の発現ベクターまたは宿主染色体上などにある遺伝子)からの発現により供給されてもよい。
【0050】
またウイルスベクターは、例えばウイルス蛋白質による免疫原性を低下させるために、またはRNAの転写効率または複製効率を高めるために、ウイルスに含まれる任意のウイルス遺伝子が野生型遺伝子から改変されていてよい。具体的には、例えば複製因子であるN、P、およびL遺伝子の中の少なくとも一つを改変し、転写または複製の機能を高めることが考えられる。また、エンベロープ蛋白質の1つであるHN蛋白質は、赤血球凝集素であるヘマグルチニン(hemagglutinin)活性とノイラミニダーゼ(neuraminidase)活性との両者の活性を有するが、例えば前者の活性を弱めることができれば、血液中でのウイルスの安定性を向上させることが可能であろうし、例えば後者の活性を改変することにより、感染能を調節することも可能である。また、F蛋白質を改変することにより膜融合能を調節することもできる。また、例えば、細胞表面の抗原分子となりうるF蛋白質および/またはHN蛋白質の抗原提示エピトープ等を解析し、これを利用してこれらの蛋白質に関する抗原提示能を弱めた組み換えウイルスベクターを作製することもできる。
【0051】
またマイナス鎖RNAウイルスベクターは、アクセサリー遺伝子が欠損したものであってよい。例えばSeVのアクセサリー遺伝子の1つであるV遺伝子をノックアウトすることにより、培養細胞における遺伝子発現および複製は障害されることなく、マウス等の宿主に対するSeVの病原性が顕著に減少する(Kato, A. et al., 1997, J. Virol. 71:7266-7272; Kato, A. et al., 1997, EMBO J. 16:578-587; Curran, J. et al., WO01/04272, EP1067179)。このような弱毒化ベクターは、in vivo またはex vivoにおける毒性のない遺伝子導入用ウイルスベクターとして特に有用である。
【0052】
マイナス鎖RNAウイルスは遺伝子導入ベクターとして優れており、宿主細胞の細胞質でのみ転写・複製を行い、DNAフェーズを持たないため染色体への組み込み(integration)は起こらない(Lamb, R.A. and Kolakofsky, D., Paramyxoviridae: The viruses and their replication. In: Fields BN, Knipe DM, Howley PM, (eds). Fields of virology. Vol. 2. Lippincott - Raven Publishers: Philadelphia, 1996, pp. 1177-1204)。このため染色体異常による癌化および不死化などの安全面における問題が生じない。マイナス鎖RNAウイルスのこの特徴は、ベクター化した時の安全性に大きく寄与している。異種遺伝子発現の結果では、例えばセンダイウイルス(SeV)を連続多代継代しても殆ど塩基の変異が認められず、ゲノムの安定性が高く、挿入異種遺伝子を長期間に渡って安定に発現する事が示されている(Yu, D. et al., Genes Cells 2, 457-466 (1997))。また、カプシド構造蛋白質を持たないことによる導入遺伝子のサイズまたはパッケージングの柔軟性(flexibility)など性質上のメリットがある。このように、マイナス鎖RNAウイルスベクターは、ヒトの遺伝子治療のための高効率ベクターの新しいクラスとなることが示唆される。伝播能を有するSeVベクターは、外来遺伝子を少なくとも5kbまで導入可能であり、転写ユニットを付加することによって2種類以上の遺伝子を同時に発現する事も可能である。
【0053】
特にセンダイウイルスは、齧歯類にとっては病原性で肺炎を生じることが知られているが、人に対しては病原性がない。これはまた、野生型センダイウイルスの経鼻的投与によって非ヒト霊長類において重篤な有害作用を示さないというこれまでの報告によっても支持されている(Hurwitz, J.L. et al., Vaccine 15: 533-540, 1997; Bitzer, M. et al., J. Gene Med,.5: 543-553, 2003; Slobod, K.S. et al., Vaccine 22: 3182-3186, 2004)。センダイウイルスのこれらの特徴は、センダイウイルスベクターが人の治療へ応用出来ることを示唆するものである。
【0054】
ウイルスベクターは、ゲノムRNA中に所望の外来遺伝子をコードし得る。外来遺伝子を含む組換えウイルスベクターは、上記のウイルスベクターのゲノムに外来遺伝子を挿入することによって得られる。外来遺伝子の挿入位置は、例えばウイルスゲノムの蛋白質非コード領域の所望の部位を選択することができ、例えばゲノムRNAの3'リーダー領域と3'端に最も近いウイルス蛋白質ORFとの間、各ウイルス蛋白質ORFの間、および/または5'端に最も近いウイルス蛋白質ORFと5'トレイラー領域の間に挿入することができる。また、M、FまたはHN遺伝子などのエンベロープ構成蛋白質遺伝子を欠失するゲノムでは、その欠失領域に外来遺伝子をコードする核酸を挿入することができる。パラミクソウイルスに外来遺伝子を導入する場合は、ゲノムへの挿入断片のポリヌクレオチドの鎖長が6の倍数となるように挿入することが望ましい(Journal of Virology, Vol. 67, No. 8, 4822-4830, 1993)。挿入した外来遺伝子とウイルスORFとの間には、E-I-S配列が構成されるようにする。E-I-S配列を介して2またはそれ以上の外来遺伝子をタンデムに並べて挿入することができる。
【0055】
外来遺伝子を容易に挿入できるようにするために、ゲノムRNAをコードするcDNA中に外来遺伝子を挿入するためのクローニングサイトを設計することができる。その部位は、例えばゲノムの蛋白質非コード領域の所望の位置であってよく、具体的には3'リーダー領域と3'に最も近いウイルス蛋白質ORFとの間、各ウイルス蛋白質ORFの間、および/または5'に最も近いウイルス蛋白質ORFと5'トレイラー領域の間に挿入することができる。エンベロープ構成蛋白質遺伝子を欠失するゲノムでは、その欠失領域にクローニングサイトを設計することができる。クローニングサイトは、例えば制限酵素の認識配列とすることができる。クローニングサイトは、複数の制限酵素認識配列を有する、いわゆるマルチクローニングサイトとしてもよい。複数の外来遺伝子をゲノム中の別々の位置に挿入できるように、クローニングサイトは、ゲノム中の複数箇所に存在してもよい。
【0056】
ベクターに搭載する外来遺伝子の発現レベルは、その遺伝子の上流(マイナス鎖(ネガティブ鎖)の3'側)に付加する転写開始配列の種類により調節することができる(WO01/18223)。また、ゲノム上の外来遺伝子の挿入位置によって制御することができ、マイナス鎖の3'の近くに挿入するほど発現レベルが高く、5'の近くに挿入するほど発現レベルが低くなる。このように、外来遺伝子の挿入位置は、該遺伝子の所望の発現量を得るために、また前後のウイルス蛋白質をコードする遺伝子との組み合わせが最適となる様に適宜調節することができる。一般に、外来遺伝子の高い発現が得られることが有利と考えられるため、外来遺伝子は、効率の高い転写開始配列に連結し、マイナス鎖ゲノムの3'端近くに挿入することが好ましい。具体的には、3'リーダー領域と3'に最も近いウイルス蛋白質ORFとの間に挿入される。あるいは、3'に一番近いウイルス蛋白質遺伝子と2番目のウイルス蛋白質遺伝子のORFの間、または3'から2番目と3番目のウイルス蛋白質遺伝子の間に挿入してもよい。野生型パラミクソウイルスにおいては、ゲノムの3'に最も近いウイルス蛋白質遺伝子はN遺伝子であり、2番目の遺伝子はP遺伝子、3番目の遺伝子はM遺伝子である。逆に、導入遺伝子の高発現が望ましくない場合は、例えば外来遺伝子の挿入位置をマイナス鎖ゲノムのなるべく5'側に設定したり、転写開始配列を効率の低いものにするなどして、ウイルスベクターからの発現レベルを低く抑えることで適切な効果が得られるようにすることも可能である。
【0057】
外来遺伝子をコードする核酸をゲノムに挿入するときに付加するS配列としては、例えばマイナス鎖RNAウイルスの所望のS配列を用いることができるが、センダイウイルスであれば、3'-UCCCWVUUWC-5'(W= AまたはC; V= A, C, またはG)(配列番号:11)の配列を好適に用いることができる。特に 3'-UCCCAGUUUC-5'(配列番号:12)、3'-UCCCACUUAC-5'(配列番号:13)、および 3'-UCCCACUUUC-5'(配列番号:14)が好ましい。これらの配列は、プラス鎖をコードするDNA配列で表すとそれぞれ 5'-AGGGTCAAAG-3'(配列番号:15)、5'-AGGGTGAATG-3'(配列番号:16)、および 5'-AGGGTGAAAG-3'(配列番号:17)である。センダイウイルスベクターのE配列としては、例えば 3'-AUUCUUUUU-5'(配列番号:18)(プラス鎖をコードするDNAでは 5'-TAAGAAAAA-3'(配列番号:19))が好ましい。I配列は、例えば任意の3塩基であってよく、具体的には 3'-GAA-5'(プラス鎖DNAでは 5'-CTT-3')を用いればよい。
【0058】
マイナス鎖RNAウイルスベクターを製造するには、哺乳動物細胞において、マイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAを含むRNPの再構成に必要なウイルス蛋白質、すなわちN、P、およびL蛋白質の発現と、マイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAをコードするcDNAの転写とを、CAプロモーターにより誘導する。転写によりマイナス鎖ゲノム(すなわちウイルスゲノムと同じアンチセンス鎖)を生成させてもよく、あるいはプラス鎖(アンチゲノム。ゲノムRNAの相補鎖。)を生成させても、ウイルスRNPを再構成することができる。ベクターの再構成効率を高めるには、好ましくはプラス鎖を生成させる。RNA末端は、天然のウイルスゲノムと同様に3'リーダー配列と5'トレイラー配列の末端をなるべく正確に反映させることが好ましい。このためには、上述のように、転写産物の5'端に自己切断型のリボザイムを付加しておき、リボザイムによりマイナス鎖RNAウイルスゲノムの末端を正確に切り出させることにより実現させることができる。あるいは、他の態様においては、転写産物の5'端を正確に制御するために、転写開始部位としてバクテリオファージのRNAポリメラーゼ認識配列を利用し、該RNAポリメラーゼを細胞内で発現させる。
【0059】
転写産物の3'端を制御するには、例えば転写産物の3'端に自己切断型リボザイムをコードさせておき、このリボザイムにより正確に3'端が切り出されるようにすることができる(Hasan, M. K. et al., J. Gen. Virol. 78: 2813-2820, 1997、Kato, A. et al., 1997, EMBO J. 16: 578-587 及び Yu, D. et al., 1997, Genes Cells 2: 457-466)。リボザイムとしては、デルタ肝炎ウイルスのアンチゲノム鎖(antigenomic strand)由来の自己開裂リボザイムが使用できる。
【0060】
例えば組み換えセンダイウイルスは、本明細書の開示およびHasan, M. K. et al., J. Gen. Virol. 78: 2813-2820, 1997、Kato, A. et al., 1997, EMBO J. 16: 578-587 及び Yu, D. et al., 1997, Genes Cells 2: 457-466の記載等に準じて、次のようにして構築することができる。
外来遺伝子を組み込む場合は、まず、目的の外来遺伝子のcDNA塩基配列を含むDNA試料を用意する。DNA試料は、25ng/micro-l以上の濃度で電気泳動的に単一のプラスミドと確認できることが好ましい。以下、NotI部位を利用してウイルスゲノムRNAをコードするDNAに外来遺伝子を挿入する場合を例にとって説明する。目的とするcDNA塩基配列の中にNotI認識部位が含まれる場合は、部位特異的変異導入法などを用いて、コードするアミノ酸配列を変化させないように塩基配列を改変し、NotI部位を予め除去しておくことが好ましい。この試料から目的の遺伝子断片をPCRにより増幅し回収する。2つのプライマーの5'部分にNotI部位を付加しておくことにより、増幅された断片の両端をNotI部位とする。ウイルスゲノム上に挿入された後の外来遺伝子のORFとその両側のウイルス遺伝子のORFとの間にE-I-S配列が配置されるように、プライマー中にE-I-S配列を含めるようにする。合成DNAの長さは、付加したE-I-S配列を含む最終的な挿入断片の鎖長が6の倍数になるように塩基数を設計する(いわゆる「6のルール(rule of six)」; Kolakofski, D. et al., J. Virol. 72:891-899, 1998; Calain, P. and Roux, L., J. Virol. 67:4822-4830, 1993; Calain, P. and Roux, L., J. Virol. 67: 4822-4830, 1993)。E-I-S配列は、例えば挿入断片のオリゴDNAの3'側にセンダイウィルスのマイナス鎖のS配列、I配列、およびE配列、例えばそれぞれ5'-CTTTCACCCT-3'(配列番号:20)、5'-AAG-3'、および 5'-TTTTTCTTACTACGG-3'(配列番号:21)を用いることができる。
【0061】
PCRは、Taqポリメラーゼまたはその他のDNAポリメラーゼを用いる通常の方法を用いることができる。増幅した目的断片はNotIで消化した後、pBluescript等のプラスミドベクターのNotI部位に挿入する。得られたPCR産物の塩基配列をシークエンサーで確認し、正しい配列のプラスミドを選択する。このプラスミドから挿入断片をNotIで切り出し、ゲノムcDNAを含むプラスミドのNotI部位にクローニングする。またプラスミドベクターを介さずにゲノムcDNAのNotI部位に直接挿入し、組み換えセンダイウイルスcDNAを得ることも可能である。
【0062】
例えば、組み換えセンダイウイルスゲノムcDNAであれば、文献記載の方法に準じて構築することができる(Yu, D. et al., Genes Cells 2: 457-466, 1997; Hasan, M. K. et al., J. Gen. Virol. 78: 2813-2820, 1997)。例えば、外来遺伝子のセンス鎖の3'側にE-I-S配列が連結した2本鎖DNAを合成する。これをゲノムのプラス鎖をコードするcDNAの所望のS配列のすぐ3'側に挿入する。例えばプラス鎖ゲノムをコードするcDNAにおいて、所望のウイルス蛋白質遺伝子のコード配列とこれを転写するS配列の間に予め制限酵素部位(例えばNotI部位)を作っておき、ここに外来遺伝子 - E-I-S配列をコードするDNAを制限酵素部位を利用して挿入することができる(Tokusumi, T. et al. (2002) Virus Res 86(1-2), 33-8)。
【0063】
このようにして作製したウイルスゲノムRNAをコードするDNAを、CAプロモーターによって、上記のウイルス蛋白質(L、P、およびN)存在下で細胞内で転写させることにより、効率的にウイルスベクターを再構成することができる。本発明の方法は、様々な組み換えウイルスの再構成方法に適用することができる(WO97/16539; WO97/16538; WO03/025570; Durbin, A. P. et al., 1997, Virology 235: 323-332; Whelan, S. P. et al., 1995, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92: 8388-8392; Schnell. M. J. et al., 1994, EMBO J. 13: 4195-4203; Radecke, F. et al., 1995, EMBO J. 14: 5773-5784; Lawson, N. D. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92: 4477-4481; Garcin, D. et al., 1995, EMBO J. 14: 6087-6094; Kato, A. et al., 1996, Genes Cells 1: 569-579; Baron, M. D. and Barrett, T., 1997, J. Virol. 71: 1265-1271; Bridgen, A. and Elliott, R. M., 1996, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93: 15400-15404)。これらの方法に本発明の方法を適用することにより、パラインフルエンザ、水疱性口内炎ウイルス、狂犬病ウイルス、麻疹ウイルス、リンダーペストウイルス、センダイウイルスなどを含むマイナス鎖RNAウイルスをDNAから高い効率で再構成させることができる。ウイルスゲノムをコードするDNAにおいて、F遺伝子、HN遺伝子、および/またはM遺伝子等のエンベロープ構成蛋白質遺伝子を欠失させた場合には、そのままでは感染性のウイルス粒子を形成しないが、宿主細胞に、これら欠失させた遺伝子および/または他のウイルスのエンベロープ蛋白質をコードする遺伝子などを別途、細胞に導入し発現させることにより、感染性のウイルス粒子を形成させることが可能である(Hirata, T. et al., 2002, J. Virol. Methods, 104:125-133; Inoue, M. et al., 2003, J. Virol. 77:6419-6429)。ウイルス生産細胞においてエンベロープ構成蛋白質を発現させる場合は、これらのエンベロープ構成蛋白質もCAプロモーターにより発現させることが好ましい。このためには、CAプロモーターの下流にエンベロープ構成蛋白質をコードするDNAを連結する。これにより、エンベロープ構成蛋白質の発現をCAプロモーターにより直接発現することができる。
【0064】
具体的な方法の1つとしては、例えば一過的にウイルス製造を行う方法が挙げられる。この方法の1つは、CAプロモーターの制御下にリボザイムとマイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAまたはその相補鎖とをコードするDNAを転写するベクターを、マイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAを含むRNPを構成するウイルス蛋白質をCAプロモーターの制御下で発現するベクターと共に哺乳動物細胞にトランスフェクションする方法である。RNPを構成するウイルス蛋白質の存在下で、CAプロモーターからマイナス鎖RNAウイルスゲノムRNAまたはアンチゲノムRNAが転写されることにより、機能的RNPが形成されてウイルスが再構築される。細胞において生産されたマイナス鎖RNAウイルスまたはその増殖産物を回収することにより、マイナス鎖RNAウイルスベクターを得ることができる。
【0065】
また、別の方法においては、CAプロモーターの制御下にバクテリオファージのRNAポリメラーゼをコードするDNAを含むベクターと、該RNAポリメラーゼの認識配列の下流に連結されたマイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAまたはその相補鎖をコードするDNAを含むベクターを、マイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAを含むRNPを構成するウイルス蛋白質(N、L、およびP)をCAプロモーターの制御下で発現するベクターと共に哺乳動物細胞にトランスフェクションする。RNPを構成するウイルス蛋白質の存在下で、CAプロモーターからRNAポリメラーゼが発現し、これによりマイナス鎖RNAウイルスゲノムRNAまたはアンチゲノムRNAが転写されることにより、機能的RNPが形成されてウイルスが再構築される。細胞において生産されたマイナス鎖RNAウイルスまたはその増殖産物を回収することにより、マイナス鎖RNAウイルスベクターを得ることができる。
【0066】
トランスフェクションに用いるベクターとしては、例えばプラスミドが好適である。各プラスミドは、それぞれ一種類の蛋白質が発現するようにしてもよいし、複数の蛋白質を1つのプラスミドから発現させてもよい。このためには、1つのプラスミドにプロモーターを複数持たせるか、あるいはIRES等の利用して1つのプロモーターから複数の蛋白質を生成させることもできる。例えばIRESなどの非プロモーター機構により1つのプロモーターから2つ以上の蛋白質を発現させる場合は、該プロモーターがCAプロモーターであれば、これらの蛋白質はCAプロモーターから発現されるものとみなされる。しかしマイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAを含むRNPを構成するウイルス蛋白質(L、P、およびN)は少なくとも、それぞれが別々のCAプロモーターから発現が駆動されることが好ましい。以上のようなトランスフェクションによる一過的なウイルス生産は、特別な細胞を用いなくても迅速にウイルスを製造できる点で優れている。
【0067】
細胞への核酸のトランスフェクションには、例えばリン酸カルシウム法(Graham, F. L. and Van Der Eb, J., 1973, Virology 52: 456; Wigler, M. and Silverstein, S., 1977, Cell 11: 223)、種々のトランスフェクション試薬を用いた方法、あるいは電気穿孔法等を用いることができる。リン酸カルシウム法については、例えばChenおよびOkayama(Chen, C. and Okayama, H., 1987, Mol. Cell. Biol. 7: 2745)に従って、2〜4% CO2、35℃、15〜24時間、沈殿混液中のDNA濃度 20〜30 micro-g/ml の条件で実施することができる。トランスフェクション試薬については、DEAE-デキストラン(Sigma #D-9885 M.W. 5×105 )、DOTMA(Roche)、Superfect(QIAGEN #301305)、DOTAP、DOPE、DOSPER(Roche #1811169)、TransIT-LT1 (Mirus, Product No. MIR 2300) などを用いることができる。トランスフェクション試薬とDNAとの複合体がエンドソーム中で分解されてしまうのを防ぐため、クロロキンを加えることができる(Calos, M. P., 1983, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80: 3015)。また、電気穿孔法は、細胞選択性がないという点で汎用性が高く、パルス電流の持続時間、パルスの形、電界(電極間のギャップ、電圧)の強さ、バッファーの導電率、DNA濃度、細胞密度を最適化して適用される。ベクター再構成のためのDNAの細胞への導入には、操作が簡便で多量の細胞を用いて多数の検体を検討することができる点で、トランスフェクション試薬を用いる方法が適している。好適には Superfect Transfection Ragent(QIAGEN, Cat No. 301305)、DOSPER Liposomal Transfection Reagent(Roche, Cat No. 1811169)、またはTransIT-LT1 (Mirus, Product No. MIR 2300) 等が用いられるが、これらに制限されない。
【0068】
本発明のウイルス製造方法の他の様態では、ウイルスの生成に必要な蛋白質および/またはRNAを、ウイルス生産細胞の染色体から発現させる。この方法の具体例としては、CAプロモーターからウイルスゲノムRNAまたはその相補鎖を転写するDNA、あるいは、CAプロモータからバクテリオファージ由来のRNAポリメラーゼを発現するDNAが、哺乳動物細胞の染色体に組み込まれた細胞株を用いる方法が挙げられる。形質転換細胞のクローニングにより、発現量の高い細胞を選択することで、より高い力価のウイルスを生産する能力を持つ細胞を調製することができる。このため、高力価のウイルスを安定して製造するために有用である。これらの細胞株においては、普段はCAプロモーターからウイルスゲノムRNAやRNAポリメラーゼを発現しないが、刺激に応答して発現を誘導できるようにすることも好適である。上記のloxPやFRTを用いて、誘導的にCAプロモーターから遺伝子を発現させることができる。ウイルス製造時にCreリコンビナーゼやFLPリコンビナーゼを発現させ、CAプロモーターからの発現を誘導する。
【0069】
この細胞で、マイナス鎖RNAウイルスのゲノムRNAを含むRNPを構成するウイルス蛋白質(N、L、およびP)の存在下、ウイルスゲノムRNAまたはその相補鎖を転写させることにより、マイナス鎖RNAウイルスの再構築を行うことができる。RNP構成蛋白質は、それらをコードするプラスミドベクターのトランスフェクションにより供給すればよい。
【0070】
トランスフェクションに用いる各プラスミドの量を例示すれば、マイナス鎖RNAウイルスのゲノムをリボザイムで切り出す方法(例えばHamRbz法)においては、NP発現プラスミドを0.1μg〜2μg(より好ましくは0.3μg)、P発現プラスミドを0.1μg〜2μg(より好ましくは0.5μg)、L発現プラスミドを0.5μg〜4.5μg(より好ましくは2.0μg)、F発現プラスミドを0.1μg〜5μg(より好ましくは0.5μg)、ウイルスゲノムRNA (プラス鎖またはマイナス鎖) をコードするプラスミドを0.5μg〜5μg(より好ましくは5μg) 用いるとよい。例えばSeVの製造のためには、実施例に記載の各プラスミドを以下の量でトランスフェクションに使用するとよい。
pCAGGS-NP 0.1μg〜2μg (より好ましくは0.3μg)
pCAGGS-P 0.1μg〜2μg (より好ましくは0.5μg)
pCAGGS-L(TDK) 0.5μg〜4.5μg (より好ましくは2.0μg)
pCAGGS-F5R 0.1μg〜5μg (より好ましくは0.5μg)
pCAGGS-SeV 0.5μg〜5μg (より好ましくは5μg)
(pCAGGS-SeV/ΔF-GFP)
マイナス鎖RNAウイルスのゲノムをバクテリオファージのRNAポリメラーゼを介して転写させる方法においては、NP発現プラスミドを0.1μg〜2μg(より好ましくは0.5μg)、P発現プラスミドを0.1μg〜2μg(より好ましくは0.5μg)、L発現プラスミドを0.5μg〜4.5μg(より好ましくは2.0μg)、F発現プラスミドを0.1μg〜5μg(より好ましくは0.5μg)、ウイルスゲノムRNA (プラス鎖またはマイナス鎖) をコードするプラスミドを0.5μg〜5μg(より好ましくは5μg) 用いるとよい。例えばSeVの製造のためには、実施例に記載の各プラスミドを以下の量でトランスフェクションに使用するとよい。
pCAGGS-NP 0.1μg〜2μg (より好ましくは0.5μg)
pCAGGS-P 0.1μg〜2μg (より好ましくは0.5μg)
pCAGGS-L(TDK) 0.5μg〜4.5μg (より好ましくは2.0μg)
pCAGGS-F5R 0.1μg〜5μg (より好ましくは0.5μg)
pCAGGS-SeV 0.5μg〜5μg (より好ましくは5μg)
(pCAGGS-SeV/ΔF-GFP)
【0071】
トランスフェクションから48〜72時間程度培養後、細胞を回収し、凍結融解を3回程度繰り返して細胞を破砕した後、RNPを含む破砕物を細胞に再度トランスフェクションして培養する。または、培養上清を回収し、細胞の培養液に添加して感染させ培養する。トランスフェクションは、例えばリポフェクトアミンまたはポリカチオニックリポソームなどと共に複合体を形成させて細胞に導入することが可能である。具体的には、種々のトランスフェクション試薬が利用できる。例えば、DOTMA(Roche)、Superfect(QIAGEN #301305)、DOTAP、DOPE、DOSPER(Roche #1811169)、TransIT-LT1 (Mirus, Product No. MIR 2300) などが挙げられる。エンドソーム中での分解を防ぐため、クロロキンを加えることもできる(Calos, M. P., 1983, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80: 3015)。RNPが導入された細胞では、RNPからのウイルス遺伝子の発現およびRNPの複製の過程が進行しウイルスが増幅する。得られたウイルス溶液(培養上清)は、適宜希釈して再増幅を繰り返すことにより、混入し得る煩雑物を取り除くことができる。しかし本発明の方法は、T7 RNAポリメラーゼを発現するワクシニアウイルスを用いないため、ワクシニアウイルスを除去するために再増幅を繰り返す必要はない点で優れている。得られたベクターは-80℃で保存することができる。エンベロープ構成蛋白質をコードする遺伝子を欠損した伝播能を持たないウイルスを再構成させるには、エンベロープ構成蛋白質を発現する細胞(ヘルパー細胞)をトランスフェクションに使用するか、またはエンベロープ構成蛋白質発現プラスミドを共にトランスフェクションすればよい。また、トランスフェクションを行った細胞にエンベロープ構成蛋白質を発現する細胞を重層して培養することによってエンベロープ構成蛋白質遺伝子欠損型ウイルスを増幅することもできる(国際公開番号 WO00/70055 および WO00/70070参照)。
【0072】
エンベロープ構成蛋白質遺伝子を欠損するマイナス鎖RNAウイルスベクターを構築するために用いるヘルパー細胞は、例えば欠損させたエンベロープ構成蛋白質あるいは別のエンベロープ蛋白質(例えばVSV-Gやアンフォトロピックenv等)をコードする遺伝子をトランスフェクションすることにより作製することができる(WO00/70055 および WO00/70070;Hasan, M. K. et al., 1997, J. General Virology 78: 2813-2820参照)。誘導発現を可能にするためには、例えばCre/loxP誘導型発現プラスミドpCALNdlw(Arai, T. et al., J. Virology 72, 1998, p1115-1121)等の組み換え酵素標的配列を持つベクターにエンベロープ蛋白質遺伝子を組み込む。細胞は、例えばSeVの増殖によく用いられているサル腎臓由来細胞株LLC-MK2細胞(ATCC CCL-7)を用いることができる。LLC-MK2細胞は、10%の熱処理した非動化ウシ胎児血清(FBS)、ペニシリンGナトリウム 50単位/ml、およびストレプトマイシン 50 micro-g/mlを添加したMEMで37℃、5% CO2で培養する。SeV-F遺伝子産物は細胞傷害性を有するため、Cre DNAリコンビナーゼによりエンベロープ蛋白質遺伝子産物を誘導発現されるように設計された上記プラスミドpCALNdLw/Fを、リン酸カルシウム法(mammalian transfection kit (Stratagene))により、周知のプロトコールに従ってLLC-MK2細胞に遺伝子導入を行う。限界希釈により細胞をクローニングした後、細胞を拡大培養し、導入遺伝子の高発現細胞株の選別を行う。このためには、例えばアデノウイルスAxCANCreを斉藤らの方法(Saito et al., Nucl. Acids Res. 23: 3816-3821 (1995); Arai, T.et al., J. Virol 72,1115-1121 (1998))により例えば moi=3〜5 で感染させ、ウェスタンブロッティングまたはウイルス生産により、細胞を選択する。
【0073】
スパイク蛋白質であるF遺伝子欠失またはHN遺伝子欠失は、SeVベクターを非伝播性にするために、また、エンベロープの裏打ち蛋白質であるM遺伝子欠失は感染細胞からの粒子形成を不能にするために有効である。また、F、HN、およびMの少なくとも2つの遺伝子の任意の組み合わせを欠損するベクターは、より安全性が保障される。例えば、MおよびF遺伝子両欠失SeV (SeV/ΔMΔF) は、非伝播性でかつ粒子形成を欠くベクターとなる。SeV/ΔMΔFはin vitroおよびin vivoで高レベルの感染性および遺伝子発現能を保っており、そのレベルは野生型SeVベクターのレベルと同様である。SeV/ΔMΔFのこれらの特徴は、SeVの安全性の向上にさらに寄与するものと考えられる。
【0074】
回収されたウイルスの力価は、例えばCIU(Cell Infecting Unit)測定または赤血球凝集活性(HA)の測定することにより決定することができる(WO00/70070; Kato, A. et al., 1996, Genes Cells 1: 569-579; Yonemitsu, Y. & Kaneda, Y., Hemaggulutinating virus of Japan-liposome-mediated gene delivery to vascular cells. Ed. by Baker AH. Molecular Biology of Vascular Diseases. Method in Molecular Medicine: Humana Press: pp. 295-306, 1999)。また、GFP(緑色蛍光蛋白質)などのマーカー遺伝子を搭載したベクターについては、マーカーを指標に直接的に感染細胞をカウントすることにより力価を定量することができる(例えばGFP-CIUとして)。このようにして測定した力価は、CIUと同等に扱うことができる(WO00/70070)。
【0075】
ウイルスが再構成する限り、再構成に用いる宿主細胞は特に制限されない。例えば、センダイウイルスベクター等の再構成においては、サル腎由来のLLC-MK2細胞およびCV-1細胞 (例えばATCC CCL-70)、ハムスター腎由来のBHK細胞 (例えばATCC CCL-10) などの培養細胞、ヒト由来細胞等を使うことができる。また、大量にセンダイウイルスベクターを得るために、上記の宿主から得られたウイルスベクターを発育鶏卵に感染させ、ベクターを増幅することができる。鶏卵を使ったウイルスベクターの製造方法は既に開発されている(中西ら編,(1993),「神経科学研究の先端技術プロトコールIII, 分子神経細胞生理学」, 厚生社, 大阪, pp.153-172)。具体的には、例えば、受精卵を培養器に入れ9〜12日間 37〜38℃で培養し、胚を成長させる。ウイルスベクターを尿膜腔へ接種し、数日間(例えば3日間)卵を培養してウイルスベクターを増殖させる。培養期間等の条件は、使用する組み換えセンダイウイルスにより変わり得る。その後、ウイルスを含んだ尿液を回収する。尿液からのセンダイウイルスベクターの分離・精製は常法に従って行うことができる(田代眞人,「ウイルス実験プロトコール」, 永井、石浜監修, メジカルビュー社, pp.68-73,(1995))。
【0076】
本明細書に記載したウイルス製造方法に従えば、本発明のウイルスベクターは、例えば 1×105 CIU/mL以上、好ましくは 1×106 CIU/mL以上、より好ましくは 5×106 CIU/mL以上、より好ましくは 1×107 CIU/mL以上、より好ましくは 5×107 CIU/mL以上、より好ましくは 1×108 CIU/mL以上、より好ましくは 5×108 CIU/mL以上の力価でウイルス産生細胞の細胞外液中に放出させることが可能である。ウイルスの力価は、本明細書および他に記載の方法により測定することができる(Kiyotani, K. et al., Virology 177(1), 65-74 (1990); WO00/70070)。
【0077】
回収したウイルスベクターは実質的に純粋になるよう精製することができる。精製方法はフィルトレーション(濾過)、遠心分離、吸着、およびカラム精製等を含む公知の精製・分離方法またはその任意の組み合わせにより行うことができる。「実質的に純粋」とは、ウイルスベクターを含む溶液中で該ウイルスの成分が主要な割合を占めることを言う。例えば実質的に純粋なウイルスベクター組成物は、溶液中に含まれる全蛋白質(但しキャリアーや安定剤として加えた蛋白質は除く)のうち、ウイルスベクターの成分として含まれる蛋白質の割合が10% (重量/重量) 以上、好ましくは20%以上、より好ましくは50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上を占めることにより確認することができる。例えばパラミクソウィルスベクターであれば、具体的な精製方法としては、セルロース硫酸エステルまたは架橋ポリサッカライド硫酸エステルを用いる方法(特公昭62-30752号公報、特公昭62-33879号公報、および特公昭62-30753号公報)、およびフコース硫酸含有多糖および/またはその分解物に吸着させる方法(WO97/32010)等を例示することができるが、これらに制限されない。
【0078】
本発明のウイルスベクターを含む組成物の製造においては、ベクターは必要に応じて薬理学的に許容される所望の担体または媒体と組み合わせることができる。「薬学的に許容される担体または媒体」とは、ベクターと共に投与することが可能であり、ベクターによる遺伝子導入を有意に阻害しない材料である。このような担体または媒体としては、例えば滅菌水、塩化ナトリウム溶液、デキストロース溶液、乳酸含有リンゲル溶液、培養液、血清、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などが挙げられ、これらとベクターを適宜組み合わせて製剤化することが考えられる。また本発明の組成物は、リポソームの膜安定化剤(例えばコレステロール等のステロール類)を含んでいてもよい。また、抗酸化剤(例えばトコフェロールまたはビタミンEなど)を含んでいてもよい。さらに、その他にも、植物油、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、殺生物剤等が含有されていてもよい。また保存剤やその他の添加剤を添加することができる。本発明の組成物は、水溶液、カプセル、懸濁液、シロップなどの形態であり得る。また本発明の組成物は溶液、凍結乾燥物、またはエアロゾルの形態の組成物であってよい。凍結乾燥物の場合は安定化剤としてソルビトール、シュークロース、アミノ酸及び各種蛋白質等を含んでいてもよい。
【0079】
マイナス鎖RNAウイルスベクターを、免疫を誘導するために用いる場合は、免疫原性を高めるために、サイトカイン、コレラ毒素、サルモネラ毒素等の免疫促進剤を添加することもできる。またこのようなワクチン組成物には、ミョウバン、不完全Freund'sアジュバント、MF59 (オイルエマルジョン)、MTP-PE (マイコバクテリア細胞壁由来の muramyl tripeptide)、および QS-21 (soapbark tree Quilaja saponaria 由来)などのアジュバントを組み合わせることもできる。また、組成物または細胞の投与に際しては、アジュバント効果を高めるサイトカイン類を組み合わせることも有効である。このような遺伝子としては、例えば i)一本鎖IL-12 (Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96 (15): 8591-8596, 1999)、ii)インターフェロン-gamma(米国特許第 5,798,100号)、iii)顆粒球コロニー刺激因子(GM-CSF)、iv)GM-CSF と IL-4 の組み合わせ(J. Neurosurgery 90 (6), 1115-1124 (1999))などが挙げられる。
【0080】
マイナス鎖RNAウイルスベクターのインビボでの投与量は、疾患、患者の体重、年齢、性別、症状、投与組成物の形態、投与方法、導入遺伝子等により異なるが、当業者であれば適宜決定することが可能である。投与されるベクターは好ましくは約105 CIU/mlから約1011 CIU/ml、より好ましくは約107 CIU/mlから約109 CIU/ml、最も好ましくは約1×108 CIU/mlから約5×108 CIU/mlの範囲内の量を薬学上容認可能な担体中で投与することが好ましい。ヒトにおいては1回当たりの投与量は 2×105 CIU〜 2×1011 CIUが好ましく、投与回数は、1回または臨床上容認可能な副作用の範囲で複数回可能であり、1日の投与回数についても同様である。ヒト以外の動物についても、例えば目的の動物とヒトとの体重比または投与標的部位の容積比(例えば平均値)で上記の投与量を換算した量を投与することができる。なお、伝播性のマイナス鎖RNAウイルスベクターを個体または細胞に投与後、治療が完了するなどウイルスベクターの増殖を抑止する必要が生じた際には、RNA依存性RNAポリメラーゼ阻害剤を投与すれば、宿主に障害を与えずにウイルスベクターの増殖だけを特異的に抑止することもできる。エクスビボ投与の場合は、体外(例えば試験管またはシャーレ内)で標的細胞にベクターを接触させる。MOIは1〜500の間で投与することが好ましく、より好ましくは2〜300、さらに好ましくは3〜200、さらに好ましくは5〜100、さらに好ましくは7〜70である。本発明のマイナス鎖RNAウイルスベクターの投与対象となる生物としては特に制限はなく、ヒトおよび非ヒト哺乳動物を含む所望の哺乳動物が含まれ、具体的には、ヒト、マウス、ラット、イヌ、ブタ、ネコ、ウシ、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、サルが挙げられる。
【実施例】
【0081】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。なお、本明細書中に引用された文献は、すべて本明細書の一部として組み込まれる。
【0082】
[実施例1] プラスミドの構築(図1)
・pCAGGS(Btype)の構築
pCALNdLw (Arai, T. et al. J. Virology 72, 1998, p1115-1121) をXho Iで消化し、Qiaquick PCR Purification kitで精製し、ライゲーションを行った。Xho I断片が除かれたものを選別し、得たものをpCAGGS(B type)とした。pCAGGS(B type)をSal Iで消化し、Pfu DNA polymeraseでブラント化し、Qiaquick PCR Purification kitで精製し、ライゲーションを行った。Sal Iサイトがつぶれたものを選別し、pCAGGS(BSX)とした。
【0083】
・pCAGGS-NPの構築(図2)
pCALNdLwをSpe I及びEcoT22Iで消化し、アガロースゲル電気泳動で分離した。2651 bp断片と3674 bp断片を切り出し、Qiaquick gel Extraction kit で精製した。2651 bp断片をさらにXho Iで消化し、アガロースゲル電気泳動で分離後、1761 bpのバンドを精製した。Zeocin抵抗性遺伝子をpcDNA3.1/Zeo(+)をテンプレートにしてプライマー 5'-TCTCGAGTCGCTCGGTACGATGGCCAAGTTGACCAGTGCCGTTCCGGTGCTCAC-3' (配列番号:22) 及びプライマー 5'-AATGCATGATCAGTAAATTACAATGAACATCGAACCCCAGAGTCCCGCTCAGTCCTGCTCCTCGGCCACGAAGTGCACGCAGTTG-3' (配列番号:23) を用いてPCRにより増幅しXhoI及びEcoT22Iで消化し、アガロースゲル電気泳動で分離し、438 bpのバンドを切り出し、Qiaquick Gel Extraction kitで精製した。このZeocin抵抗性遺伝子を含むバンドと上記3674 bp及び1761bpの3種類の断片をライゲーションにより連結してpCALNdLw-Zeoを得た。このpCALNdLw-ZeoをSwaIで消化しEco RIリンカー (STRATAGENE) を挿入することでpCALNdLWE-Zeoを得た。マルチクローニングサイトが導入されたセンダイウイルスcDNA (特開2002-272465) (以下pSeV(TDK)と称す) をNot I及びXho Iで消化し、アガロースゲル電気泳動で分離し、1669 bpのバンドを切り出し、Qiaquick Gel Extraction kitで精製した。このNP遺伝子を含む断片をNot I及びXho I消化したpGEM11Zf(+) (Promega)へ挿入し、pGEM-NP(Z)PCR14-3とした。これをテンプレートにしてプライマー 5'-CCGGAATTCAACAAATGGCCGGGTTGTTGAGCACCTTCGA-3' (配列番号:24) 及び5'-CCGGAATTCCTAGATTCCTCCTATCCCAGCTACTGCTGCTCG-3' (配列番号:25) を用いてPCRにより増幅し、Eco RI消化後、pCALNdLWE-ZeoのEco RIサイトに導入し、pCALNdLWE-Zeo-NP(Z)を得た。次にpCALNdLWE-Zeo-NP(Z)をXho I消化し、ライゲーションを行い、Xho I断片を除いたプラスミドを構築し、これをpCAGGS-NPとした。
【0084】
・pCAGGS-P4C(-)の構築(図3)
pCALNdLw-HygroM (Inoue, M. et al. J. Virology 77, 2003, p6419-6429) をXhoIで消化し、アガロースゲル電気泳動で分離後、Hygromycin抵抗性遺伝子を含む1679 bpのバンドを切り出し、Qiaquick Gel Extraction kitで精製した。pCALNdLwをXho I消化し、アガロースゲル電気泳動後4864 bpのバンドを切り出し、Qiaquick Gel Extraction kitで精製した。両方の断片を用いてライゲーションを行いpCALNdLw-Hygroを構築した。このpCALNdLw-HygroをSwaIで消化し、Nhe Iリンカー (STRATAGENE) を挿入することでpCALNdLWN-Hygroを得た。4C(-)SeV cDNA(Kurotani, Kato, Nagai,et al Genes to Cells 3, 1998, p111-124)をテンプレートにして 5'-CTAGCTAGCCCACCATGGATCAAGATGCCTTCATTCTAAAAGAAGATTCT-3' (配列番号:26) 及び 5'-CTAGCTAGCCTAGTTGGTCAGTGACTCTATGTCCTCTTCTACGAGTTCCA-3' (配列番号:27) を用いてKOD-PLUS DNA Polymerase (TOYOBO) でPCRを行た。gene clean kitを用いて精製し、PCR産物をNhe Iで消化し、gene clean kit で精製した。これを、上記のpCALNdLWN-hygroのNhe Iサイトに導入し、pCALNdLWN-hygro-P(Z)k4C(-)を得た。これをXho Iで消化し、Qiaquick PCR Purification kitで精製後、ライゲーションを行いXho I断片(Hygromycin抵抗性遺伝子領域)を除いたものを選択し、pCAGGS-P4C(-)を得た。
【0085】
・pCAGGS-L(TDK)の構築(図4)
pSeV(TDK) をFse I及び Sac IIで消化し、アガロースゲル電気泳動で分離後、6732 bpのバンドを切り出し、Qiaquick Gel Extraction kitで精製した。Pfu DNA PolymeraseとdNTPを使用し、72℃で10分間反応させブラント化した。Qiaquick PCR purification kitで精製後、pCAGGS(BSX)のSwa Iサイトに導入しpCAGGS-L(TDK)を得た。
【0086】
・pCAGGS-F及びpCAGGS-F5Rの構築(図5〜7)
pCALNdLw/F (Li, H.-O. et al. J. Virology 74, 2000, p6564-6569) をXho I消化、精製後、ライゲーションを行いXho I断片(Neomycin耐性遺伝子領域)が除かれたものを選択し、pCAGGS-Fを得た。pCALNdLw-ZeoF (特願2001-283451) をテンプレートにして条件(I) 5'-CATTTTGGCAAAGAATTGATTAATTCGAG-3' (配列番号:28) 及び 5'-TCACAGCACCCAAGAATCTCTTCTGGCGAGCACCGGCATTTTGTGTC-3' (配列番号:29) のプライマーの組み合わせと、条件(II) 5'-GACACAAAATGCCGGTGCTCGCCAGAAGAGATTCTTGGGTGCTGTGA-3' (配列番号:30) 及び 5'-GATCGTAATCACAGTCTCTCGAGAGTTGTACCATCTACCTAC-3' (配列番号:31) のプライマーの組み合わせを用いてPfu Turbo (STRATAGENE) を使用してPCRを行った。PCR産物はアガロースゲル電気泳動で分離後、条件(I)の1470 bpのバンドと条件(II)の1190 bpのバンドをそれぞれ切り出し、GENE CLEAN KITを使用して回収した(それぞれPCR産物(I)、PCR産物(II)とする)。精製したPCR産物(I)とPCR産物(II)をそれぞれ10倍希釈したものを1μlずつを混合し、さらに 5'-CATTTTGGCAAAGAATTGATTAATTCGAG-3' (配列番号:28) 及び 5'-GATCGTAATCACAGTCTCTCGAGAGTTGTACCATCTACCTAC-3' (配列番号:31) のプライマーの組み合わせでPfu Turboを使用しPCRを行った。PCR産物 5μlをアガロースゲル電気泳動し、エチジウムブロマイド染色した結果、予想される2.6 kbのバンドが検出された。そこで、残りのPCR産物をQiaquick PCR Extraction kitで精製した。その後Dra IIIとMfe Iで連続的に制限酵素処理を行い、アガロースゲル電気泳動で分離後、約2.0 kbのバンドを切り出した。pCALNdLw-Zeo-Fを Dra IIIとMfe Iで連続的に消化し、アガロースゲル電気泳動により分離し、約6kpのバンドを切り出し、GENECLEAN II KIT (BIO) で精製した。このpCALNdLw-Zeo-F DraIII-Mfe I断片と上記PCR DraIII-Mfe I断片をライゲーションすることによりpCALNdLw-Zeo-F furinを得た。次にこのpCALNdLw-Zeo-F furinをテンプレートにして、条件(I) 5'-CATTTTGGCAAAGAATTGATTAATTCGAG-3' (配列番号:28) 及び 5'-TCACAGCACCGAAGAATCTCCTCCGGCGACGACCGGCATTTTGTGTCGTATC-3' (配列番号:32) のプライマーの組み合わせ、条件(II) 5'-GATACGACACAAAATGCCGGTCGTCGCCGGAGGAGATTCTTCGGTGCTGTGA-3' (配列番号:33) 及び5'-AAATCCTGGAGTGTCTTTAGAGC-3' (配列番号:34) のプライマーの組み合わせでPCRを行った。電気泳動で分離後、条件(I)の約1.4 kbpのバンドと条件(II)の約200 bpのバンドを切り出し、Qiaquick gel Extraction kit でそれぞれ精製した。50倍希釈したものを1μlずつ混合し、さらに 5'-CATTTTGGCAAAGAATTGATTAATTCGAG-3' (配列番号:28) 及び 5'-AAATCCTGGAGTGTCTTTAGAGC-3' (配列番号:34) のプライマーの組み合わせでPfu Turboを使用してさらにPCRを行った。5μlのPCR産物をアガロースゲル電気泳動で分離後、染色し、約1.6 kbpのバンドを確認した。残りをQiaquick PCR Purification kitで精製しCla IとFseIで消化し、アガロースゲル電気泳動で分離後、約1 kbpのバンドを切り出し、Qiaquick PCR Purification kitで精製した。pCALNdLw-Zeo-F furinをCla IとFse Iで消化、アガロースゲル電気泳動で分離後、約8 kbpのバンドを切り出しQiaquick PCR Purification kitで精製した。これと上記PCR産物のClaI-Fse I消化精製物でライゲーションすることによりpCALNdLw-Zeo F5Rを得た。このpCALNdLw-Zeo F5RをXho Iで消化し、精製後ライゲーションを行いXho I断片(Zeocin抵抗性遺伝子を含む)を含まないものを選択し、pCAGGS-F5Rを得た。
【0087】
・pCAGGS-T7の構築(図8)
pTF7-3 (ATCC No.67202) をBam HIで消化し、アガロースゲル電気泳動で分離後、T7 RNA Polymerase遺伝子を含む2.65 kbpの断片を回収し、pMW219 (ニッポンジーン) のBam HIサイトに挿入しpMW219-T7を得た。このpMW219-T7をSal Iで消化後、DNA Blunting kit (TaKaRa) を使用して平滑末端にし、Eco RIリンカー(Stratagene #901026)を導入し、pMW219-T7-Eco RIを得た。このpMW219-T7-Eco RIをEco RIで消化し、T7 RNA Polymeraseを含むEco RI断片を精製し、上記pCALNdLWEのEco RIサイトに導入することでpCALNdLWE-T7を得た。
【0088】
・pCAGGS-SeVおよびpCAGGS-SeV/ΔF-GFPの構築(図9〜11)
pSeV(TDK)をNot I及びKpn Iで消化し、アガロースゲル電気泳動で分離後、2995 bpのバンドを切り出し、Qiaquick Gel Extraction kitで精製した。MlinkerF 5'-GGCCGCGTCGACATCGATGCTAGCCTCGAGCCGCGGTAC-3' (配列番号:35) とMlinkerR 5'-CGCGGCTCGAGGCTAGCATCGATGTCGACGC-3' (配列番号:36) を各2μg (2μl) と H2O を 21μl を混合し、95℃5分、85℃15分、65℃15分、37℃15分、25℃15、分4℃でアニーリングさせた。この混合液とpSeV(TDK) NotI-Kpn I精製液をライゲーションし、pSeV/Linkerを得た。このpSeV/Linkerをテンプレートにして、pGEM-F5 5'-CTTAACTATGCGGCATCAGAGC-3' (配列番号:37) 及びpGEM-R1 5'-GCCGATTCATTAATGCAGCTGG-3' (配列番号:38) を使用し、KOD-Plus (TOYOBO) を用いてPCR反応を行いQiaquick PCR Purification kitを使用して精製した。その精製液をテンプレートとしてRibLF1 5'-CTATAGGAAAGGAATTCCTATAGTCACCAAACAAGAG-3' (配列番号:39) とpGEM-R1 5'-GCCGATTCATTAATGCAGCTGG-3' (配列番号:38) を使用し、KOD-PLUS (TOYOBO) を用いてPCR反応を行いQiaquick PCR Purification kitを使用して精製した。この精製液をテンプレートにして、RibLF2 5'-GATGAGTCCGTGAGGACGAAACTATAGGAAAGGAATTC-3' (配列番号:40) とpGEM-R1 5'-GCCGATTCATTAATGCAGCTGG-3' (配列番号:38) を使用し、KOD-Plus (TOYOBO) を用いてPCR反応を行いQiaquick PCR Purification kitを使用して精製した。さらにこの精製液をテンプレートにしてRibLF3 5'-GCGGGCCCTCTCTTGTTTGGTCTGATGAGTCCGTGAGGAC-3' (配列番号:41) とpGEM-R1 5'-GCCGATTCATTAATGCAGCTGG-3' (配列番号:38) を使用し、KOD-Plus (TOYOBO) を用いてPCR反応を行いQiaquick PCR Purification kitを使用して精製した。この精製PCR産物をpCAGGS(BSX)のSwa Iサイトに導入し、pCAGGS-SeV(m)とした。次にpSeV18+b(+)/ΔF-EGFP (Li, H.-O. et al. J. Virology 74, 2000, p6564-6569) をNot I 及びSal Iで消化し、アガロースゲル電気泳動で分離後、1972 bpのバンドを切り出し、Qiaquick Gel Extraction kitで精製し、Not I及びSal I消化し、精製したpCAGGS-SeV(m) とライゲーションし、pCAGGS-SeV(m)A を得た。pSeV(+)18/ΔFをNhe I 及びKpn Iで消化し、アガロースゲル電気泳動で分離後、3325 bpのバンドを切り出し、Qiaquick Gel Extraction kitで精製し、Not I及びSal I消化し、精製したpCAGGS-SeV(m)とライゲーションし、pCAGGS-SeV(m)ACを得た。
【0089】
pSeV18+b(+)(Li, H.-O. et al. J. Virology 74, 2000, p6564-6569)をSal I及びNhe Iで消化し、Qiaquick PCR purification kitで精製した。そして、LITMUS38 (NEW ENGLAND BioLabs) のSal I-NheIサイトに導入しLitmus38/SeV Sal I-Nhe Iを得た。このLitmus38/SeV Sal I-Nhe IをSal I及びNhe Iで消化し、アガロースゲル電気泳動で分離後、9886 bpのバンドを切り出し、Qiaquick Gel Extraction kitで精製し、pCAGGS-SeV(m)ACのSal I-Nhe Iサイトに導入することでpCAGGS-SeVを得た。
【0090】
pSeV/ΔF-EGFP(Li, H.-O. et al. J. Virology 74, 2000, p6564-6569)をSal I及びNhe Iで消化し、Qiaquick PCR purification kitで精製した。そして、LITMUS38 (NEW ENGLAND BioLabs)のSal I-NheIサイトに導入しLitmus38/Sal I-Nhe IΔF-GFPを得た。このLitmus38/Sal I-Nhe IΔF-GFPをSal I及びNhe Iで消化し、アガロースゲル電気泳動で分離後、8392 bpのバンドを切り出し、Qiaquick Gel Extraction kitで精製し、pCAGGS-SeV(m)ACのSal I-Nhe Iサイトに導入することでpCAGGS-SeV/ΔF-GFPを得た。
【0091】
・pGEM-IRES-Luciの構築
pMAMneo-Luci(Clontech)からBam HIで消化して得たルシフェラーゼフラグメントをpTM1(Nature, 348,1, November, 1990, 91-92)のBam HIサイトへ導入しpGEM-IRES-Luciを構築した。
【0092】
[実施例2] T7 RNA Polymerase発現BHK-21(以下BHK/T7とする)の樹立
上記で構築したpCALNdLWE-T7をBHK-21細胞(ATCC CCL-10)にmammalian transfection kit (Stratagene)または、SuperFect (Qiagen)を使用してトランスフェクションを行った。400μg/mlのG418を含むD-MEMで37℃、5% CO2下で2週間培養し、単一の細胞から増殖した薬剤耐性クローンを得た。得られた薬剤耐性クローンはCre DNA recombinaseを発現する組み換えアデノウイルス(AxCANCre)をMoi=4で感染し、24時間後に細胞をPBSで1回洗浄した後に、細胞を回収し、anti-T7 RNA Polymerase rabbit Polyclonal antibodyを使用したウエスタンブロット解析によってT7 RNA Polymeraseの発現を確認した。
発現を確認出来たクローンに関してpGEM-IRES-LuciをSuperFectを使用してトランスフェクションした。24時間後に細胞を回収しデュアルルシフェラーゼレポーターシステム(Promega)キットを使用しMiniLumat LB9506 (EG&G BERTHOLD) にてルシフェラーゼ活性を測定しT7 RNA Polymeraseの活性を確認した。
【0093】
[実施例3] 従来法による組み換えセンダイウイルスの製造
LLC-MK2 細胞を 5×106 cells/dish で100 mm ペトリ皿に蒔き、24時間培養後、血清を含まない MEM で 1 回洗浄した後、3μg/ml のソラレンと長波長紫外線 (365nm) で 5 分間処理した T7 RNA ポリメラーゼを発現するリコンビナントワクシニアウイルス (Fuerst, T.R. et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83, 8122-8126(1986)) に室温で 1 時間感染させた (moi=2)。細胞を血清を含まない MEM で 2 回洗浄した後、LacZ 搭載 F 欠失型センダイウイルスベクター cDNA (pSeV (+18:LacZ)ΔF), pGEM/NP, pGEM/P, 及びpGEM/L (Kato, A. et al., Genes Cells 1, 569-579(1996)) をそれぞれ 12μg, 4μg, 2μg, 4μg/dish およびエンベローププラスミド pGEM/FHN を4μg/dish加え、 Opti-MEM (GIBCO) に懸濁し、SuperFect transfection reagent (1μg DNA/5μl のSuperFect, QIAGEN) を入れ、室温で 15 分間放置後、最終的に 3% FBSを含むOpti-MEM 3 ml に入れた DNA-SuperFect 混合物を細胞に添加して培養した。3時間培養後、細胞を、血清を含まないMEMで2回洗浄し、シトシンβ-D-アラビノフラノシド 40μg/ml (AraC, Sigma) とトリプシン 7.5μg/ml を含むMEM で24時間培養した。培養上清を取り除き、血清を含まない MEM (40μg/ml AraC, 7.5μg/m トリプシンを含む) に懸濁された100 mm ペトリ皿 1 枚分のF発現 LLC-MK2/F7 細胞(F発現を誘導した細胞は LLC-MK2/F7/Aと記載する;Li, H.-O. et al., J. Virology 74. 6564-6569 (2000), WO00/70070)懸濁液 5 ml を重層した。さらに培養48時間後、これらの細胞と上清を回収し、それぞれ P0-d3 サンプルとした。P0-d3のペレットを Opti-MEM に懸濁し (2×107 cells/ml)、凍結融解を3回繰り返して lipofection reagent DOSPER (Boehringer mannheim) と混合し (106 cells/25μl DOSPER) 室温で15分間放置した後、F発現 LLC-MK2/F7 細胞株(LLC-MK2/F7/A)にトランスフェクション (106 cells/well 24-well-plate) し、血清を含まないMEM (40μg/ml AraC, 7.5μg/m トリプシンを含む) で培養した。培養後7日目に上清を回収し、P1-d7サンプルとした。さらに上清全量を12-well-plateに捲いたF発現 LLC-MK2/F7 細胞株(LLC-MK2/F7/A)に 37℃1時間感染後、MEM 培地で一回洗浄した後、血清を含まないMEM (40μg/ml AraC, 7.5μg/ml トリプシンを含む) で培養した。培養後7日目に上清を回収し、P2-d7サンプルとした。さらに上清全量を6-well-plateに捲いたF発現 LLC-MK2/F7 細胞株(LLC-MK2/F7/A)に 37℃1時間感染後、MEM培地で一回洗浄した後、血清を含まないMEM (7.5μg/ml トリプシンを含む) で培養した。培養後7日目に上清を回収し、P3-d7サンプルとした。さらに上清全量を10 cm plateに捲いたF発現 LLC-MK2/F7細胞株(LLC-MK2/F7/A)に37℃1時間感染後、MEM 培地で一回洗浄した後、血清を含まないMEM (40μg/ml AraC, 7.5μg/ml トリプシンを含む) で培養した。培養後7日目に上清を回収し、P4-d7サンプルとした。
【0094】
[実施例4] CAプロモーターを使用したセンダイウイルスベクターの回収方法1
・pCAGGSにハンマーヘッドリボザイムを付加したセンダイウイルスゲノムを使用したセンダイウイルスベクターの回収方法(以下HamRbz法とする)
【0095】
4−1[伝播型SeVベクターの回収]
293T 細胞をトランスフェクションする前日に 1×106 cells/well/2 ml 10% FBS入りのD-MEM で6 well plateに蒔いた。トランスフェクションは以下の様にして行った。Opti-MEM 30μlにTransIT-LT1 (Mirus) を15μlを混合し、室温で10〜15分間培養した。この間にDNA溶液を調整した。Opti-MEM 20μlにpCAGGS-NP, pCAGGS-P4C(-), pCAGGS-L(TDK), pCAGGS-SeVをそれぞれ 0.5μg, 0.5μg, 2μg, 2μgで溶解した。10〜15分後にTransIT-LT1溶液とDNA溶液を混合し室温で15分間静置した。この間に細胞の培地を抜いて新しい10% FBS入りのD-MEMを1 ml/wellで静かに添加した。15分後、Opti-MEM (GIBCO) 500μlをDNA-TransIT-LT1 混合物に加え、全量を細胞に添加して培養した。37℃, 5% CO2 下で4日間培養後、培養液を捨て、トリプシン 7.5μg/ml を含む(血清を含まない)MEM(以下Try-MEM)に1×106 cells/ mlになるように懸濁したLLC-MK2/F7/A細胞を1ml/well で重層し、37℃, 5% CO2 下で4日間培養した。LLC-MK2/F7/A重層4日後に上清を回収し、HA アッセイを行った。HAはネガティブだったので、回収した上清を10日間孵卵させた鶏卵3個に100μlを接種し、孵卵機にて35℃で3日間培養した。その後、尿液を回収し、HA アッセイを行った。その結果、3個中2個の鶏卵から回収した尿液でHA活性が認められた。したがって、本方法により野生型のセンダイウイルスベクターを回収することが可能であることが示された(図12)。
【0096】
4−2[F欠失型SeVベクターの回収]
293T細胞をトランスフェクションする前日に 1×106 cells/well/2 ml 10% FBS入りのD-MEM で6 well plateに蒔いた。トランスフェクションは以下の様にして行った。Opti-MEM 30μlにTransIT-LT1 (Mirus) を15μlを混合し、室温で10〜15分間培養した。この間にDNA溶液を調整した。Opti-MEM 20μlにpCAGGS-NP, pCAGGS-P4C(-), pCAGGS-L(TDK), pCAGGS-F5R, pCAGGS-SeV/ΔF-GFPをそれぞれ 0.3μg, 0.5μg, 2μg, 0.5μg, 0.5〜5μgで溶解した。10〜15分後にTransIT-LT1溶液とDNA溶液を混合し室温で15分間静置した。この間に細胞の培地を抜いて新しい10% FBS入りのD-MEMを1ml/wellで静かに添加した。15分後、Opti-MEM (GIBCO) 500μlをDNA-TransIT-LT1 混合物に加え、全量を細胞に添加して培養した。37℃, 5% CO2下で72時間培養後、培養液を捨て、トリプシン 7.5μg/ml を含む(血清を含まない)MEM(以下Try-MEM)に1×106 cells/ mlになるように懸濁したLLC-MK2/F7/A細胞を1 ml/well で重層し、37℃, 5% CO2下で培養した。それから24時間後に培養液1 mlを回収し、新しいTry-MEMを1 ml加え、37℃, 5% CO2下で培養した。48時間後に培養液1 mlを回収し、新しいTry-MEMを1 ml加え、37℃, 5% CO2下で培養した。72時間後に培養液1 mlを回収した。回収した培養液は、7.5% BSAを133μl 加え(最終濃度1% BSA)、CIUを測定するまで-80℃で保存した。
【0097】
4−3[GFP発現細胞のカウントによるCIUの測定(GFP-CIU)]
CIUアッセイの2〜3日前にLLC-MK2 細胞を12 well-plateに蒔いた。2日前の場合は1.5×105 cells/wellの割合で、10% FBS入りのMEM 1ml/wellで蒔き、3日前の場合は、8.0×104 cells/wellの割合で、10% FBS入りのMEM 1ml/wellで蒔いた。CIUアッセイの当日に血清を含まない MEM で 1 回洗浄した後、重層後24、48、72時間目に回収した培養液の1/10希釈系列をMEM 培地で作製し、37℃1時間感染後、MEM 培地で一回洗浄し、MEM 培地 1 ml を添加した。37℃で2日培養後、細胞を蛍光顕微鏡で観察し、適度な希釈のウェルのGFP陽性細胞の数を数えた。その結果、重層72時間後に、1×105〜1×107 GFP-CIU/mlのウイルスベクターが回収された(図13)。
【0098】
4−4[F遺伝子の供給が野生型F(以下F)の場合に対するfurin認識配列を導入したF(以下F5R)の場合の生産性の改善]
pCAGGSでFタンパク質を供給する時に、野生型のF遺伝子を用いた場合とfurin認識配列を導入したF5Rの場合とで再構成効率の比較を行った。293T 細胞をトランスフェクションする前日に 1×106 cells/well/2 ml 10% FBS入りのD-MEM で6 well plateに蒔いた。トランスフェクションは以下の様にして行った。Opti-MEM 30μlにTransIT-LT1 (Mirus)を15μlを混合し、室温で10〜15分間培養した。この間にDNA溶液を調整した。Opti-MEM 20μlに、pCAGGS-NP, pCAGGS-P4C(-), pCAGGS-L, pCAGGS-SeV/ΔF-GFPをそれぞれ0.3μg, 0.5μg, 2μg, 2μgに固定し、pCAGGS-FまたはpCAGGS-F5Rを0.1μg, 0.3μg, 0.5μg, 0.7μg, 0.9μgと条件を振って溶解した。10〜15分後にTransIT-LT1溶液とDNA溶液を混合し室温で15分間静置した。この間に細胞の培地を抜いて新しい10% FBS入りのD-MEMを1 ml/wellで静かに添加した。15分後、Opti-MEM (GIBCO) 500μlをDNA-TransIT-LT1 混合物に加え、全量を細胞に添加して培養した。37℃, 5% CO2下で72時間培養後、培養液を捨て、トリプシン 7.5μg/ml を含む(血清を含まない)MEM(以下Try-MEM)に1×106 cells/ mlになるように懸濁したLLC-MK2/F7/A細胞を1 ml/well で重層し、37℃, 5%CO2下で培養した。それから24時間後に培養液1 mlを回収し、新しいTry-MEMを1ml加え、37℃, 5%CO2下で培養した。48時間後に培養液1 mlを回収し、新しいTry-MEMを1ml加え、37℃, 5%CO2下で培養した。72時間後に培養液1 mlを回収した。回収した培養液は、7.5% BSAを133μl 加え(最終濃度1% BSA)、CIUを測定するまで-80℃で保存した。全てのサンプルを回収後にCIU アッセイを行った。その結果、pCAGGS-Fは0.7μgの時が最も再構成効率が良く、重層24時間目、48時間目、72時間目でそれぞれ0 CIU/ml, 7.9×102 CIU/ml, 3.3×104 CIU/mlのウイルスベクターを含んでいた。一方で、pCAGGS-F5Rを使用した場合は、0.5μgの時が最も良く重層24時間目、48時間目、72時間目でそれぞれ3.2×104 CIU/ml, 5.7×105 CIU/ml, 1.2×107 CIU/mlのウイルスベクターを含んでいた。両者で再構成効率が最も良かった条件で比較してみると、pCAGGS-F5Rを使用する場合の方がpCAGGS-Fを使用する場合よりも再構成効率がはるかによく、重層72時間目で373倍高いウイルスベクターを得ることが出来た(図14)。
【0099】
[実施例5] CAプロモーターを使用したセンダイウイルスベクターの回収方法2
・pCAGGS-T7を使用したセンダイウイルスベクターの回収方法(以下pCAGGS-T7法とする)
5−1[伝播型SeVベクターの回収]
トランスフェクションする前日に各細胞を6 well plateに蒔いた(293T 細胞:1×106 cells/well/2 ml 10% FBS入りのD-MEM、LLC-MK2細胞:5.0×105 cells/well/2 ml 10% FBS入りのD-MEM、BHK-21細胞:2.5×105 cells/well/2 ml 10% FBS入りのD-MEM、BHK/T7細胞:2.5×105 cells/well/2 ml 10% FBS入りのD-MEM)。トランスフェクションは以下の様にして行った。Opti-MEM 30μlにTransIT-LT1 (Mirus) 15μlを混合し、室温で10〜15分間培養した。この間にDNA溶液を調整した。Opti-MEM 20μlにpCAGGS-T7, pCAGGS-NP, pCAGGS-P4C(-), pCAGGS-L(TDK), pSeV(TDK)18+GFPをそれぞれ 0.5μg, 0.5μg, 0.5μg, 2μg, 5μgで溶解した。10〜15分後にTransIT-LT1溶液とDNA溶液を混合し室温で15分間静置した。この間に細胞の培地を抜いて新しい10% FBS入りのD-MEMを1 ml/wellで静かに添加した。15分後、Opti-MEM (GIBCO) 500μlをDNA-TransIT-LT1 混合物に加え、全量を細胞に添加して培養した。37℃, 5% CO2下で3日間培養した。このとき、GFP陽性細胞の数をカウントした結果、293T細胞で246個、LLC-MK2細胞で16個、BHK-21細胞で288個、BHK/T7細胞で405個であった。その後、培養液を捨て、PBS(-) 1 mlを細胞に添加し、セルスクレーパーで剥がし、エッペンドルフチューブに回収した。1回凍結融解をした後に、希釈しない細胞懸濁液とPBS(-)で10倍、100倍、1000倍希釈した細胞懸濁液100μlを10日鶏卵にそれぞれ接種した。孵卵機にて35℃で3日間培養した。その後、尿液を回収し、HA アッセイを行った。その結果、希釈しない293T細胞、BHK-21細胞、BHK/T7細胞懸濁液を接種した鶏卵でウイルスの増殖を確認出来た(図15)。
【0100】
5−2[F欠失型SeVベクターの回収]
293T 細胞をトランスフェクションする前日に 1×106 cells/well/2 ml 10% FBS入りのD-MEM で6 well plateに蒔いた。トランスフェクションは以下の様にして行った。Opti-MEM 30μlにTransIT-LT1 (Mirus) を15μlを混合し、室温で10〜15分間培養した。この間にDNA溶液を調整した。Opti-MEM 20μlにpCAGGS-T7, pCAGGS-NP, pCAGGS-P4C(-), pCAGGS-L(TDK), pCAGGS-F5R, pSeV/ΔF-GFP (WO00/70070) をそれぞれ 0.5μg, 0.5μg, 0.5μg, 2μg, 0.5μg, 0.5〜5μgで溶解した。10〜15分後にTransIT-LT1溶液とDNA溶液を混合し室温で15分間静置した。この間に細胞の培地を抜いて新しい10% FBS入りのD-MEMを1ml/wellで静かに添加した。15分後、Opti-MEM (GIBCO) 500μlをDNA-TransIT-LT1 混合物に加え、全量を細胞に添加して培養した。37℃, 5% CO2 下で72時間培養後、培養液を捨て、Try-MEMに1×106 cells/ mlになるように懸濁したLLC-MK2/F7/A細胞を1ml/well で重層し、37℃, 5% CO2 下で培養した。それから24時間後に培養液1 mlを回収し、新しいTry-MEMを1ml加え、37℃, 5% CO2下で培養した。48時間後に培養液1 mlを回収し、新しいTry-MEMを1ml加え、37℃, 5% CO2下で培養した。72時間後に培養液1 mlを回収した。回収した培養液は、7.5% BSAを133μl 加え(最終濃度1% BSA)、CIUを測定するまで-80℃で保存した。
【0101】
5−3[GFP発現細胞のカウントによるCIUの測定(GFP-CIU)]
CIUアッセイの2〜3日前にLLC-MK2 細胞を12 well-plateに蒔いた。2日前の場合は1.5×105 cells/wellの割合で、10% FBS入りのMEM 1ml/wellで蒔き、3日前の場合は、8.0×104 cells/wellの割合で、10% FBS入りのMEM 1ml/wellで蒔いた。CIUアッセイの当日に血清を含まない MEM で 1 回洗浄した後、重層後24、48、72時間目に回収した培養液の1/10希釈系列をMEM 培地で作製し、37℃1時間感染後、MEM培地で一回洗浄し、MEM 培地 1 ml を添加した。37℃で2日培養後、細胞を蛍光顕微鏡で観察し、適度な希釈のウェルのGFP陽性細胞の数を数えた。その結果、重層72時間後に、1×106 〜 1×107 GFP-CIU/mlのウイルスベクターが回収された(図16)。
このpCAGGS-T7法はプラスミドの導入細胞に293T細胞を使用した時は、リン酸カルシウム法によってもSeV18+GFP/ΔFの回収に成功した。効率は、TransIT-LT1と同等以上であった(図17)。
【0102】
[実施例6] pCAGGS-T7法の細胞種の検討
pCAGGS-T7法が293T以外の細胞でもセンダイウイルスベクターの回収が出来るかどうかを検討するために、LLC-MK2, BHK-21, BHK/T7, 293T細胞で回収することが出来るかを試みた。各細胞をトランスフェクションする前日に 6 well plateに蒔いた(LLC-MK細胞:5×105 cells/well, BHK-21細胞:2.5×105 cells/well, BHK/T7細胞:2.5×105 cells/well, 293T細胞:1.0×106 cells/well)。トランスフェクションは以下の様にして行った。Opti-MEM 30μlにTransIT-LT1(Mirus)を15μlを混合し、室温で10〜15分間培養した。この間にDNA溶液を調整した。Opti-MEM 20μlにpCAGGS-T7, pCAGGS-NP, pCAGGS-P4C(-), pCAGGS-L(TDK), pCAGGS-F5R, pSeV/ΔF-GFPをそれぞれ 0.5μg, 0.5μg, 0.5μg, 2μg, 0.5μg, 2μgで溶解した(ただし、BHK/T7細胞を使用する時はpCAGGS-T7は添加していない)。10〜15分後にTransIT-LT1溶液とDNA溶液を混合し室温で15分間静置した。この間に細胞の培地を抜いて新しい10% FBS入りのD-MEMを1ml/wellで静かに添加した。15分後、Opti-MEM (GIBCO) 500μlをDNA-TransIT-LT1 混合物に加え、全量を細胞に添加して培養した。37℃, 5% CO2下で72時間培養後、培養液を捨て、Try-MEMに1×106 cells/mlになるように懸濁したLLC-MK2/F7/A細胞を1 ml/well で重層し、37℃, 5% CO2下で培養した。それから24時間後に培養液1 mlを回収し、新しいTry-MEMを1ml加え、37℃, 5% CO2下で培養した。48時間後に培養液1 mlを回収し、新しいTry-MEMを1ml加え、37℃, 5% CO2下で培養した。72時間後に培養液1 mlを回収した。回収した培養液は、7.5% BSAを133μl 加え(最終濃度1% BSA)、CIUを測定するまで-80℃で保存した。n=3で行った。その結果、テストした全ての細胞種からベクターが回収された。ベクターの回収効率はBHK/T7細胞>BHK-21細胞>293T細胞>LLC-MK2細胞の順であった(図18)。また、BHK/T7発現株にはpCAGGS-T7はトランスフェクションしていないことから、T7発現株においてCAプロモーターを使用しても、F欠失型SeV/ΔF-GFPの回収が可能であることが示された。
【0103】
[実施例7] HamRbz法とpCAGGS-T7法の比較
293T 細胞をトランスフェクションする前日に 1×106 cells/well/2 ml 10% FBS入りのD-MEM で6 well plateに蒔いた。トランスフェクションは以下の様にして行った。Opti-MEM 30μlにTransIT-LT1 (Mirus) を15μlを混合し、室温で10〜15分間培養した。この間にDNA溶液を調整した。Opti-MEM 20μlにpCAGGS-NP, pCAGGS-P4C(-), pCAGGS-L(TDK), pCAGGS-F5R, pCAGGS-SeV/ΔF-GFPをそれぞれ 0.3μg, 0.5μg, 2μg, 0.5μg, 5μgで溶解した。10〜15分後にTransIT-LT1溶液とDNA溶液を混合し室温で15分間静置した。この間に細胞の培地を抜いて新しい10% FBS入りのD-MEMを1 ml/wellで静かに添加した。15分後、Opti-MEM (GIBCO) 500μlをDNA-TransIT-LT1 混合物に加え、全量を細胞に添加して培養した。37℃, 5% CO2 下で72時間培養後、培養液を捨て、トリプシン 7.5μg/ml を含む(血清を含まない)MEM(以下Try-MEM)に1×106 cells/ mlになるように懸濁したLLC-MK2/F7/A細胞を1 ml/well で重層し、37℃, 5% CO2下で培養した。それから24時間後に培養液1 mlを回収し、新しいTry-MEMを1ml加え、37℃, 5% CO2下で培養した。48時間後に培養液1 mlを回収し、新しいTry-MEMを1ml加え、37℃, 5% CO2下で培養した。72時間後に培養液1 mlを回収した。回収した培養液は、7.5% BSAを133μl 加え(最終濃度1% BSA)、CIUを測定するまで-80℃で保存した。
【0104】
pCAGGS-T7法については、293T 細胞をトランスフェクションする前日に 1×106 cells/well/2 ml 10% FBS入りのD-MEM で6 well plateに蒔いた。トランスフェクションは以下の様にして行った。Opti-MEM 30μlにTransIT-LT1 (Mirus) を15μlを混合し、室温で10〜15分間培養した。この間にDNA溶液を調整した。Opti-MEM 20μlにpCAGGS-T7, pCAGGS-NP, pCAGGS-P4C(-), pCAGGS-L(TDK), pCAGGS-F5R, pSeV/ΔF-GFPをそれぞれ 0.5μg, 0.5μg, 0.5μg, 2μg, 0.5μg, 5μgで溶解した。10〜15分後にTransIT-LT1溶液とDNA溶液を混合し室温で15分間静置した。この間に細胞の培地を抜いて新しい10% FBS入りのD-MEMを1ml/wellで静かに添加した。15分後、Opti-MEM (GIBCO) 500μlをDNA-TransIT-LT1 混合物に加え、全量を細胞に添加して培養した。37℃, 5% CO2下で72時間培養後、培養液を捨て、Try-MEMに1×106 cells/ mlになるように懸濁したLLC-MK2/F7/A細胞を1 ml/well で重層し、37℃, 5% CO2下で培養した。それから24時間後に培養液1 mlを回収し、新しいTry-MEMを1 ml加え、37℃, 5% CO2下で培養した。48時間後に培養液1 mlを回収し、新しいTry-MEMを1 ml加え、37℃, 5% CO2下で培養した。72時間後に培養液1 mlを回収した。回収した培養液は、7.5% BSAを133μl 加え(最終濃度1% BSA)、CIUを測定するまで-80℃で保存した。CIU測定の結果、pCAGGS-T7法はHamRbz法よりも再構成効率が高いことが示された(図19)。
【0105】
[実施例8] M遺伝子欠失型ベクターおよびMF両遺伝子欠失型ベクターの構築
pCAGGS-T7法によるM遺伝子欠失型センダイウイルスベクター(SeV/ΔM)、およびMF両遺伝子欠失型センダイウイルスベクタ一(SeV/ΔMΔF-GFP)の再構成を行った。
・SeV/ΔMベクターの再構成
293T細胞をトランスフェクションする前日に 1×106 cells/well/2 ml 10%FBS入りのD-MEMで6well plateに蒔いた。トランスフェクションは以下の様にして行った。Opti-MEM 30μlにTransIT-LT1 (Mirus) を15μlを混合し、室温でl0〜15分間培養した。この間にDNA溶液を調整した。Opti-MEM 20μlに、pCAGGS-NP, pCAGGS-P4C(-), pCAGGS-L(TDK), pCAGGS-M, pCAGGS-T7, pSeV/ΔM-GFPをそれぞれ 0.5μg, 0.5μg, 2μg, 1.0μg, 0.5μg, 5μgで溶解した。10〜15分後にTransIT-LT1溶液とDNA溶液を混合し、室温で15分間静置した。この間に細胞の培地を抜いて、新しい10% FBS入りのD-MEMを 1 ml/well で静かに添加した。15分後、Opti-MEM (GIBCO) 500μlをDNA-TransIT-LT1混合物に加え、全量を細胞に添加して培養した。37℃, 5% CO2下で72時間培養後、培養液を捨て、トリプシン 7.5μg/ml を含む (血清を含まない) MEM (以下Try-MEM) に1×106 cells/ml になるように懸濁したセンダイウイルスのM遺伝子とF遺伝子の両方を発現するLLC-MK2細胞 (以下LLC-M/Fとする) を 1 ml/wellで重層し、37℃、5%CO2下で培養した。重層後3日間は毎日培地を新しいTry-MEMと交換した。その後は2〜3日毎に交換した。トランスフェクション後9日目に培養液を新しいLLC-MK2-M/F細胞に添加し、32℃、5%CO2下で9日間培養した (2〜3日毎に培地交換した)。その上清を新しいLLC-MK2-M/F細胞に添加し、同様に4日間培養した。この培養上清中には5.4×108 CIU/mlのSeV/ΔM-GFPベクターが存在していることを確認した。トランスフェクション後4日間培養した細胞(P0d4)、一回目の継代後7日間培養した細胞(P1d7)、二回目の継代後4日間培養した細胞(P2d4)のベクター感染細胞の広がりをGFPの蛍光で観察した結果を図20に示した。
【0106】
・SeV/ΔMΔF-GFPの再構成
293T細胞をトランスフェクションする前日に1×106 cells/well/2ml 10%FBS入りのD-MEMで6 well plateに蒔いた。トランスフェクションは以下の様にして行った。Opti-MEM 30μlにTransIT-LT1 (Mirus) 15μlを混合し、室温で10〜15分間培養した。この間にDNA溶液を調整した。Opti-MEM 20μlに、pCAGGS-NP, pCAGGS-P4C(-), pCAGGS-L(TDK), pCAGGS-F5R, pCAGGS-M, pCAGGS-T7, pSeV/ΔMΔF-GFPをそれぞれ 0.5μg, 0.5μg, 2μg, 0.5μg, 1.0μg, 0.5μg, 5μgで溶解した。10〜15分後にTransIT-LT1溶液とDNA溶液を混合し室温で15分間静置した。この間に細胞の培地を抜いて新しい10% FBS入りのD-MEMを1ml/wellで静かに添加した。15分後、Opti-MEM (GIBCO) 500μlを DNA-TransIT-LT1混合物に加え、全量を細胞に添加して培養した。37℃, 5%CO2下で72時間培養後、培養液を捨て、トリプシン 7.5μg/mlを含む (血清を含まない) MEM (以下Try-MEM) に1×106cells/mlになるように懸濁したLLC-M/Fを 1 ml/wellで重層し、37℃、5%CO2下で培養した。重層後3日間は毎日培地を新しいTry-MEMと交換した。その後は2〜3日毎に交換した。トランスフェクション後9日目に培養液を新しいLLC-M/F細胞に添加し、32℃、5% CO2下で9日間培養した (2〜3日毎に培地交換した)。その上清を新しいLLC-M/F細胞に添加し、同様に4日間培養した。さらに、その上清を新しいLLC-M/F細胞に添加し、同様に3日間培養した。この培養上清中には4.6×107 CIU/mlのSeV/ΔMΔF-GFPベクターが存在していることを確認した。トランスフェクション後4日間培養した細胞(P0d4)、一回目の継代後9日間培養した細胞(P1d9)、二回目の継代後4日間培養した細胞(P2d4)、三回目の継代後3日間培養した細胞(P3d3)のベクター感染細胞の広がりをGFPの蛍光で観察した結果を図21に示した。
【0107】
[実施例9] CAプロモーターとCMVプロモーターの再構成効率の比較
CMVプロモーターとCAプロモーターの比較のために、CMVプロモ一ター支配下のNP, P, L, F5R, T7 RNA polymeraseをpCl-neo (Promega) に搭載した(それぞれpCl-neo-NP, pCl-neo-P4C(-), pCl-neo-L(TDK), pCl-neo-F5R, および pCl-neo-T7)。293T細胞をトランスフェクションする前日に、1×106 cells/well/2ml 10%FBS入りのD-MEMで6 well plateに蒔いた。トランスフェクションは以下の様にして行った。Opti-MEM 30μlにTransIT-LT1 (Mirus) 15μlを混合し、室温で10〜15分間培養した。この間にDNA溶液を調整した。CAプロモーター (pCAGGSプラスミド) を使用する場合は、Opti-MEM 20μlに、pCAGGS-NP, pCAGGS-P4C(-), pCAGGS-L(TDK), pCAGGS-F5R, pCAGGS-T7, pSeV/ΔF-GFPをそれぞれ 0.5μg, 0.5μg, 2μg, 0.5μg, 0.5μg, 5μgで溶解した。CMVプロモーター (pCl-neo) を使用する場合は、Opti-MEM 20μlにpCl-neo-NP, pCl-neo-P4C(-), pCl-neo-L(TDK), pCl-neo-F5R, pCl-neo-T7, pSeV/ΔF-GFPをそれぞれ 0.5μg, 0.5μg, 5μg, 0.5μg, 1μg, 5μgで溶解した。10〜15分後にTransIT-LT1溶液とDNA溶液を混合し室温で15分間静置した。この間に細胞の培地を抜いて新しい10% FBS入りのD-MEMを1 ml/wellで静かに添加した。15分後、Opti-MEM (GIBCO) 500μlをDNA-TransIT-LT1混合物に加え、全量を細胞に添加して培養した。37℃, 5% CO2下で72時間培養後、培養液を捨て、トリプシン 7.5μg/mlを含む (血清を含まない) MEM (以下Try-MEM) に1×106 cells/mlになるように懸濁したLLC-MK2/F7/A細胞を1 ml/well で重層し、37℃, 5% CO2下で培養した。それから24時間後に培養液 1 mlを回収し、新しいTry-MEMを 1 ml加え、37℃, 5% CO2下で培養した。48時間後に培養液 1 mlを回収し、新しいTry-MEMを 1 ml加え、37℃, 5%CO2下で培養した。72時間後に培養液 1 mlを回収した。回収した培養液は、7.5% BSAを133μl加え (最終濃度 1%BSA)、CIUを測定するまで-80℃で保存した。
【0108】
CAプロモーターを使用した場合は、トランスフェクション72時間目にGFPの広がりが観察され、LLC-MK2/F7/A細胞を重層後も効率良く増殖した。一方、CMVプロモーターを使用した場合は、トランスフェクション72時間目にはGFPの蛍光は観察されず、LLC-MK2/F7/A細胞重層48時間後にようやくGFPの小さな広がりが観察された。ベクターの再構成は、CAプロモーターの方が1000倍以上効率的であった。従って、CAプロモーターの方がCMVプロモーターよりもはるかにベクターの回収に適している。
また、CMVプロモーター支配下の遺伝子とCAプロモーター支配下の遺伝子の組み合わせでの検討を行ったところ、ヘルパープラスミドの全てをCAプロモーターでドライブする方がCMVとCAの組み合わせよりもベクターの回収効率ははるかに良かった。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の方法は、ワクシニアウイルスを用いることなく、高効率でマイナス鎖RNAウイルスベクターを製造することが可能であり、製造過程および生成標品の安全性が高い。特に本発明によれば、F遺伝子、HN遺伝子、および/またはM遺伝子等のエンベロープ構成蛋白質遺伝子を欠損するマイナス鎖RNAウイルスベクターを、ワクシニアウイルス非依存的に製造することができる。本発明の方法は、特に遺伝子治療用ベクターなどの高い安全性が必要なベクターの製造方法として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラミクソウイルス生産細胞における (i) 該ウイルスのゲノムRNAまたはその相補鎖の転写および (ii) 該ゲノムRNAとリボヌクレオプロテインを形成するパラミクソウイルス蛋白質の発現を、サイトメガロウイルスエンハンサーおよびニワトリβ-アクチンプロモーターを含むプロモーターにより誘導することを特徴とするパラミクソウイルスベクターの製造方法であって、下記(a)または(b)の方法、
(a)該ウイルス生産細胞において、サイトメガロウイルスエンハンサーおよびニワトリβ-アクチンプロモーターを含むプロモーターの制御下にリボザイムとパラミクソウイルスのゲノムRNAまたはその相補鎖とをコードするDNAが連結されたDNAを転写させる工程を含み、該リボザイムは、転写産物を該リボザイムとゲノムRNAまたはその相補鎖との間で切断する活性を有する、パラミクソウイルスベクターの製造方法
(b)該ウイルス生産細胞において、サイトメガロウイルスエンハンサーおよびニワトリβ-アクチンプロモーターを含むプロモーターの制御下にバクテリオファージのRNAポリメラーゼをコードするDNAが連結されたDNAを発現させる工程、および該RNAポリメラーゼにより、該RNAポリメラーゼの認識配列の制御下に連結されたパラミクソウイルスのゲノムRNAまたはその相補鎖をコードするDNAを転写させる工程を含む、パラミクソウイルスベクターの製造方法

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図17】
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【図19】
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【図22】
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【図1】
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【図12】
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【図15】
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【図18】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−130346(P2012−130346A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−28159(P2012−28159)
【出願日】平成24年2月13日(2012.2.13)
【分割の表示】特願2005−517263(P2005−517263)の分割
【原出願日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(595155107)株式会社ディナベック研究所 (22)
【Fターム(参考)】