説明

サッカーボール

【課題】高い耐久性、耐衝撃性、湿度や温度に対する高い安定性を有し、環境に配慮した材料から作製されたサッカーボールを提供する。
【解決手段】本発明のサッカーボールは、球形中空のチューブ14を被覆した表皮層11を備えており、該表皮層11は、チューブ14側から、ポリアミド系エラストマーフィルム12、及び、熱可塑性ポリウレタンフィルム13の積層構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サッカーボールに関する。
【背景技術】
【0002】
サッカーボールは、例えば、空気を透過しないゴムから成り、バルブを介して圧縮空気が封入される球形中空のチューブ、及び、このチューブを被覆する表皮層から構成されている。そして、サッカーボールには、強い衝撃が繰り返し作用するので、高い耐久性、耐衝撃性が必要とされる。また、サッカーボールは様々な環境で使用されるので、湿度や温度に対する高い安定性も要求される。サッカーボールの表皮層を構成する材料についてはこれまでにも様々な報告があるが、環境に配慮をしたバイオマス由来のフィルム材料を用いたものは、発明者が調べた限り、知られていない。
【0003】
特表2008−517122には、ポリアミドブロック及びポリエーテルブロックを有するコポリマーのクローズドセル架橋フォームであって、フォームの密度が20kg/m3から700kg/m3であるフォームを使用したサッカーボールの発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−517122
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特表2008−517122には、サッカーボールの具体的な構造については、何ら、言及されていない。また、これまでのサッカーボールの開発や改良は、公式球として認定される範囲内での耐久性等の改善を目的としている。然るに、練習用のサッカーボール等にあっては、公式球としてのサッカーボールよりも一層の耐久性、耐衝撃性が強く要求される。
【0006】
従って、本発明の目的は、高い耐久性、耐衝撃性、湿度や温度に対する高い安定性を有し、環境に配慮した材料から作製されたサッカーボールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための本発明のサッカーボールは、球形中空のチューブを被覆した表皮層を備えており、
該表皮層は、チューブ側から、ポリアミド系エラストマーフィルム、及び、熱可塑性ポリウレタンフィルムの積層構造を有する。
【0008】
ここで、本発明のサッカーボールにおいて、ポリアミド系エラストマーフィルムはバイオマス由来であることが好ましい。『バイオマス由来』であるとは、生物由来の資源であることを意味する。
【0009】
ポリアミド系エラストマーフィルムは、より具体的には、ポリアミドブロック及びポリエーテルブロックを有するコポリマーが架橋されたクローズドセルを有し、密度が0.02グラム/cm3乃至0.7グラム/cm3のフィルム状材料である。このポリアミド系エラストマーフィルムは、サッカーボールが蹴られたときに、外力に応じて伸縮し、衝撃を和らげ、しかも、表皮層全体を補強し、サッカーボールの形状を維持し、サッカーボールに耐久性、耐衝撃性を付与し、チューブを保護する。ポリアミド系エラストマーフィルムの厚さとして、0.2mm乃至0.5mm、好ましくは0.2mm乃至0.3mmを例示することができ、例えば、押出し成型法に基づき製造することができる。
【0010】
また、熱可塑性ポリウレタンフィルムは、サッカーボールの湿度や温度に対する安定性を高める。熱可塑性ポリウレタンフィルムの厚さとして、0.2mm乃至0.5mm、好ましくは0.2mm乃至0.3mmを例示することができ、例えば、押出し成型法に基づき製造することができる。熱可塑性ポリウレタンフィルムは、好ましくは、ポリエステル系あるいはポリエーテル系の熱可塑性ポリウレタンフィルムから成る。場合によっては、熱可塑性ポリウレタンフィルムの代わりに、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂フィルムを用いることもできる。
【0011】
ポリアミド系エラストマーフィルムと熱可塑性ポリウレタンフィルムとの積層構造は、ラミネート法に基づき得ることができる。
【0012】
本発明のサッカーボールは、球形中空の空気を透過しない弾性材料から成るチューブ、具体的には、例えば、天然ゴムやブチルゴム、ラテックスゴム製のチューブ(場合によっては、ポリウレタン製のチューブ)を備えているが、このチューブには、圧搾空気を注入するためのゴム製バルブが加硫接着等により取り付けられている。例えばゴム製バルブの中央にはムシゴムが装着されており、空気注入針が差し込まれる細い孔が途中まで形成されており、バルブは表皮層に露出している。また、サッカーボールは、表皮層から成る複数枚の多角形のパネルから構成されている。具体的には、例えば、12枚の五角形のパネルと20枚の六角形のパネルとから構成され、各パネルの周辺を内側に折り込み、縫い糸にて縫い合わされ、球形(準正32面体を膨張させて球形とした形状)とされている。そして、球形のパネルの内部にチューブが納められている。パネルの表面には、例えば、模様、文字、記号、ロゴマーク等が印刷されている。尚、パネル全体を覆うように、例えばポリウレタン樹脂から成る透明保護層を設けてもよい。また、ポリアミド系エラストマーフィルムと熱可塑性ポリウレタンフィルムとの間に、ポリエステルフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等の強度の高いフィルムから成る強化層を配してもよい。また、縦糸と横糸を交差させて織った織布(例えば、綿布又は綿とポリエステルの混紡布)や不織布から成る補強層(パッキング材とも呼ばれ、例えば、3枚乃至4枚の織布や不織布が重ねられ、例えばラテックス系接着剤やクロロプレン系ゴム糊にて貼り合わされている)によって表皮層を補強してもよい。更には、補強層には、布の間にポリウレタン等の発泡材から成る衝撃緩衝層を介在させてもよいし、また、ポリエステルフィルム、PVCフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等、高強度のフィルムから成る強化層を介在させてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のサッカーボールは、ポリアミド系エラストマーフィルム及び熱可塑性ポリウレタンフィルムの積層構造を有する表皮層から構成されており、サッカーボールに高い耐久性、耐衝撃性、耐摩耗性、耐候性、耐紫外線性、耐薬品性、高引裂強度、湿度や温度に対する高い安定性を付与することができる。また、表皮層をポリアミド系エラストマーフィルムから構成することで、環境に配慮した材料によってサッカーボールを作製することができる。ポリアミド系エラストマーフィルムは、透明であり、触感が滑らかであるし、融点が高いので昇華性インクでの印刷が可能である。そして、このようなサッカーボールは、練習用のサッカーボール等に対する高い耐久性、耐衝撃性等への強い要求を十分に満足させることができる。それ故、公式球には適合しない場合もあり得るが、安価で、一層の耐久性、耐衝撃性を有するサッカーボールを提供することができる。また、本発明のサッカーボールに用いられる表皮層は、他の球技用ボール(例えば、ハンドボール)に適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、実施例1のサッカーボールの模式的な一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではなく、実施例における種々の数値や材料は例示である。
【実施例1】
【0016】
実施例1は、本発明のサッカーボールに関する。表皮層の模式的な一部断面図を図1に示すように、実施例1のサッカーボール10は、球形中空のチューブ14を被覆した表皮層11を備えており、この表皮層11は、チューブ側から、厚さ0.2mmのポリアミド系エラストマーフィルム12、及び、厚さ0.2mmの熱可塑性ポリウレタンフィルム(より具体的には、ポリエーテル系の熱可塑性ポリウレタンフィルム)13の積層構造(総厚:0.4mm)を有する。より具体的には、ポリアミド系エラストマーフィルム12として、アルケマ社製造の「Pebax Rnew」を使用した。
【0017】
ここで、ポリアミド系エラストマーフィルム12はバイオマス由来である。具体的には、ポリアミド系エラストマーフィルム12は、トウゴマからとれるひまし油から作られるプラスチックを原料とし、押出し成型法によって製造される。また、ポリアミド系エラストマーフィルム12と熱可塑性ポリウレタンフィルム13はラミネートによって積層されている。
【0018】
サッカーボールは、球形中空の空気を透過しない弾性材料から成るチューブ14、具体的には、天然ゴムのチューブを備えている。このチューブ14には、圧搾空気を注入するためのゴム製バルブ(図示せず)が加硫接着等により取り付けられている。ゴム製バルブの中央にはムシゴムが装着されており、空気注入針が差し込まれる細い孔が途中まで形成されており、バルブは表皮層11に露出している。また、サッカーボールは、表皮層11から成る複数枚の多角形のパネル、具体的には、12枚の五角形のパネルと20枚の六角形のパネルとから構成されている。そして、各パネルの周辺を内側に折り込み、縫い糸(例えば、約10000デニールのポリエステル糸)にて縫い合わされ、球形(準正32面体を膨張させて球形とした形状)とされている。そして、この球形のパネルの内部にチューブ14が納められている。尚、補強層によって表皮層を内側から補強しているが、補強層の図示は省略した。
【0019】
サッカーボールは、例えば、以下の方法で製造することができる。即ち、表皮層を一定の形状(五角形及び六角形)に裁断してパネルを得た後、パネルの個々の表面に、所望に応じて、印刷を施す。次いで、2枚のパネルの表面が接するように重ね合わせ、2枚のパネルの端縁を一辺ずつ縫い合わせる。縫製後、2枚のパネルの表面が略同一面となるよう折り返す。こうして、パネル端縁の縫製部分が内側へ略90度折り込まれた構造を得ることができる。更には、各パネルの全辺を縫い合わせることにより、球形の表皮層を構成することができる。そして、チューブを、2枚のパネルの最後に残された一辺から表皮層内に収納した後、この一辺を縫い合わせる。
【0020】
比較例1として、ポリエステル系熱可塑性ポリウレタン単層のフィルム材(厚さ=0.4mm)を表皮層として用いて、サッカーボールを作製した。
【0021】
各試験を次のような手順で行った。得られた結果を、以下の表1に纏めた。
【0022】
[衝撃試験]
表皮層試験片のサイズを30mm×30mmとし、衝撃強度の測定を、JIS K7124−1:1999に準拠して行った。撃心(ポンチ先端半径=7.9mm)をセットし、落下錘の質量、落下の高さを変えて錘を落下させ、試験片に加えられるエネルギーと試験片の破壊状態を記録した。エネルギーの下限値[表1では、衝撃試験(下限値)で表す]は、試験片が一部でも破壊し始めたときのエネルギー値であり、上限値[表1では、衝撃試験(上限値)で表す]は、試験片が完全に破壊したときのエネルギー値を示す。
【0023】
[引裂試験]
表皮層試験片のサイズを75mm×63.5mmとし、JIS K7128−2:1998「プラスチック―フィルム及びシートの引裂強さ試験方法―第2部:エルメンドルフ引裂法」に準拠して、引裂試験を行った。具体的には、縦方向に対して垂直にスリットを入れ、スリットの方向に衝撃を加えて、MD方向及びTD方向での試験を行った。
【0024】
[耐久性試験]
表皮層試験片を高温高湿(85゜C,相対湿度80%)の雰囲気に170時間、放置した後の表皮層試験片の分子量の変化を調べた。そして、初期分子量に対する170時間経過後の分子量を百分率で表した。
【0025】
[表1]
衝撃試験(下限値) 衝撃試験(上限値) 耐久性試験
実施例1 1.96Nm 20.6Nm 90%
比較例1 1.47Nm 12.7Nm 73%

引裂強さ(MD) 引裂強さ(TD)
実施例1 33.1N 14.3N
【0026】
表1から、実施例1のサッカーボールに用いた表皮層の衝撃強度、耐久性といった特性は、比較例1の表皮層よりも優れていることが判る。
【符号の説明】
【0027】
10・・・サッカーボール、11・・・表皮層、12・・・ポリアミド系エラストマーフィルム、13・・・熱可塑性ポリウレタンフィルム、14・・・チューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球形中空のチューブを被覆した表皮層を備えており、
該表皮層は、チューブ側から、ポリアミド系エラストマーフィルム、及び、熱可塑性ポリウレタンフィルムの積層構造を有するサッカーボール。
【請求項2】
ポリアミド系エラストマーフィルムはバイオマス由来である請求項1に記載のサッカーボール。

【図1】
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【公開番号】特開2011−104162(P2011−104162A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263099(P2009−263099)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】