サツマイモ由来エクスパンシン遺伝子のcDNAおよびこれを用いた高生産性形質転換植物体
【課題】サツマイモ由来エクスパンシン遺伝子(IbExpansin)のcDNA、前記cDNAを含む植物形質転換用ベクター、および前記ベクターを用いて生産した形質転換植物体を提供する。
【解決手段】特定の配列からなる塩基配列を有する単離されたサツマイモエクスパンシン遺伝子のcDNAを提供する。これを用いた形質転換シロイヌナズナでは、その成長が促進されて植物の大きさが増大し、特に種子生産量が3倍増加した。よって、この遺伝子は、種子生産量を高めようとする形質転換植物体、あるいは植物の生体重を増加させるための形質転換植物体の開発に有用に利用できる。
【解決手段】特定の配列からなる塩基配列を有する単離されたサツマイモエクスパンシン遺伝子のcDNAを提供する。これを用いた形質転換シロイヌナズナでは、その成長が促進されて植物の大きさが増大し、特に種子生産量が3倍増加した。よって、この遺伝子は、種子生産量を高めようとする形質転換植物体、あるいは植物の生体重を増加させるための形質転換植物体の開発に有用に利用できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高生産性形質転換植物体を製作するためのサツマイモ由来エクスパンシン遺伝子のcDNAに係り、さらに詳しくは、サツマイモ由来エクスパンシン遺伝子のcDNA、このcDNAを含む形質転換用ベクター、およびこのベクターを用いた、植物体の生体重および/または種子生産量が増加する高生産性形質転換作物の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エクスパンシン(Expansin)は、Cosgroveとその同僚らによって発見(McQueen-Mason et al., 1992, Plant Cell 4, 1425-1433)されて以来、広範囲な研究が行われてきた。研究の初期には、エクスパンシンは、主に、pHによって調節される細胞壁の軟化を通じた細胞の拡張に関与する酵素として知られていた(Cosgrove, 2000, Nature 407, 321-326)。以後、エクスパンシンがα−、β−の2つの形で存在することが明らかになった(Shcherban et al., 1995, PNAS 92, 9245-9249)。
【0003】
最近では、エクスパンシンは、細胞拡張の他に、植物の形態形成(Ruan et al., 2001, Plant Cell 13, 47-60)、果物の軟化(Rose et al., 2000, Plant Physiology 123, 1583-1592; Civello et al., 1999, Plant Physiology 121, 1273-1280)、花粉管の伸長(Cosgrove et al., 1997, PNAS 94, 6559-6564)、根の屈地性反応成長(Zhang and Hasenstein, 2000, Plant Cell Physiology 41, 1305-1312)、根細胞の伸長(Lee et al., 2003, Plant Physiology 131, 985-997)などにも関与することが明らかになっている(for review, Lee et al., 2001, Cur. Opin. Plant Biol. 4, 527-532)。
【0004】
更に、淡水稲とトマトにおけるエクスパンシンの発現の様相についても研究されている。トマトでは葉の原基の発達が始まる頂端にエクスパンシンが発現することを確認した(Reinhardt et al., 1998, Plant Cell 10, 1427-1437)。トマト果物成熟特異的なエクスパンシン(Exp1)をクローニングして形質転換体を製作して、Exp1がトマト果物の軟化に関連することを究明した(Brummell et al., 1999, Plant Cell, 11: 2203-2216)。また、淡水稲の速い成長と細胞壁の軟化程度が増加する直前にエクスパンシンのmRNAが増加し(Cho and Kende, 1997a, Plant Cell 9, 1661-1671; 1997b, Plant Physiology 113, 1137-1143; 1998, Plant Journal 15, 805-812)、エクスパンシンが細胞の伸長に関与しており、このようなエクスパンシンが過多発現された形質転換稲植物体の子葉の長さは野生種と比較して31〜97%増加した(Choi et al., 2003 Plant Cell, 15: 1386-1398)ことが分かる。ところが、前記の形質転換稲植物体は、雄性不稔性を示して種子を結ぶことが不可能であった。
【0005】
一方、穀物の種子はヒトの主食として多く用いられているから、穀物栽培において、種子生産量の増加は非常に意味が大きいといえる。また、穀物の種子は60〜70%が澱粉から構成されているので、科学者らは、以前から、穀物種子の澱粉含量を増大させることにより穀物生産量の増大を図ろうと努力してきた。
【0006】
ADP−グルコースリン酸化酵素(AGPase)は、抑制剤(Pi)と促進剤(3PGA)によってその活性が調節されるアロステリック酵素(allosteric enzyme)であって、植物体内の澱粉の合成を調節する酵素として知られている。この酵素をコード化する遺伝子を用いて穀物種子の澱粉合成量を変化させる研究が行われてきた。トウモロコシのAGPase遺伝子に6つの塩基配列が添加されて2つ(チロシンとセリン(tyrosine and serine)のアミノ酸が添加された突然変異(Sh2−Rev6)は、AGPaseの抑制剤に対する感受性を低下させ、その結果トウモロコシ種子内の澱粉合成を促進させることにより、重量を11〜18%増加させた(Giroux et al., 1996, PNAS 93, 5824-5829)。トウモロコシの突然変異AGPase遺伝子(Sh2r6hs)は、抑制剤に対する感受性を低下させ、AGPaseの小さいサブユニット(small subunit)と大きいサブユニット(large subunit)間の結合を一層安定化させる。CaMV35SプロモータとSh2r6hsを用いた形質転換小麦の場合、種子の生産量が野生種と比較して38%増加した(Smidansky et al., 2002, PNAS 99, 1724-1729)。内胚乳(endosperm)特異的なプロモータ(トウモロコシのユビキチンプロモータ)とSh2r6hsを用いた形質転換稲の場合、野生種と比較して種子および植物体の生産量が20%増大した(Smidansky et al., 2003, Planta, 216, 656-664)。
【0007】
したがって、作物の生産性を画期的に増大させるために、遺伝子導入を用いた高生産性形質転換作物体の製作が強く求められてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、上述した技術的要求に応えるためのもので、その目的とするところは、高生産性形質転換作物を生産するためのサツマイモエクスパンシン遺伝子(IbExpansin)のcDNAを提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、IbExpansin遺伝子のcDNAを含む植物体形質転換用ベクターを提供することにある。
【0010】
本発明の別の目的は、高生産性作物を生産しようとする場合、前記サツマイモエクスパンシン遺伝子(IbExpansin)を含むベクターを用いて製造された形質転換植物体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明者らは、サツマイモエクスパンシン(IbExpansin)遺伝子のcDNAをクローニングして植物体形質転換用発現ベクターを製作し、同一のベクターを用いてシロイヌナズナ形質転換体を製作してその生産性を確認したところ、形質転換シロイヌナズナの生体量が著しく増加し、特に種子の生産性が3倍増加したことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
したがって、本発明は、配列番号1の塩基配列を有する単離されたサツマイモエクスパンシン遺伝子のcDNAを提供する。
【0013】
前記cDNA塩基配列は、合計1,213bpであって、33bpの5’非翻訳領域、717bpのORF(配列番号11, Open Reading Frame、238個のアミノ酸)、および463bpの3’非翻訳領域からなることを特徴とする。
【0014】
本発明の他の目的を達成するために、本発明は、前記ORFによって翻訳され、配列番号2のアミノ酸配列を有する単離されたポリペプチドを提供する。
【0015】
本発明の別の目的を達成するために、本発明は、前記サツマイモ由来エクスパンシン遺伝子のcDNAを含む植物形質転換用発現ベクター(pIbExpansin)を提供する。
【0016】
前記植物体形質転換用ベクターは、外来遺伝子を導入された植物体内で永久的に発現させることが可能な形質転換用バイナリーベクターである。
【0017】
また、前記本発明に係るサツマイモエクスパンシン遺伝子(IbExpansin)のcDNAは、pMBP1ベクターのCaMV35SプロモータとNOSタミネータとの間に位置する。本発明ではpMBP1ベクターを使用したが、他の植物形質転換用ベクターで置換し得ることは、当業者にとって自明である。
【0018】
本発明は、前記本発明に係るサツマイモエクスパンシン遺伝子(IbExpansin)のcDNAを含むバイナリーベクターによって形質転換されたシロイヌナズナ植物体を提供する。
【0019】
前記バイナリーベクターは、アグロバクテリウムを用いる方法、あるいは遺伝子銃を利用する方法などで植物体を形質転換させることができる。本発明では、その例として、フローラルディップ(floral dip)方法(Clough and Bent, 1998, Plant J.)によってシロイヌナズナを形質転換させた。
【0020】
また、本発明に係るサツマイモエクスパンシン遺伝子は、シロイヌナズナの他に、生体量を高め且つ種子生産量を増大させようとするいずれの植物にも導入できる。
【0021】
ひいては、本発明は、本発明に係るサツマイモエクスパンシン遺伝子(IbExpansin)のcDNA断片を増幅するための配列番号5または配列番号6で表されるPCR用プライマーを提供する。
【0022】
本発明は、エクスパンシン遺伝子をバイナリーベクターに組み込んだ後、これを植物体に導入する段階を含むことを特徴とする、種子生産量および/または生体重を増加させる方法を提供する。上述したように、エクスパンシン遺伝子が一部公開されているが、エクスパンシン遺伝子が種子生産量に寄与するという事実は、未だ報告されたことがなく、本発明によって最初に発見された。様々な由来のエクスパンシン遺伝子が種子生産量および/または生体重の増加のために植物体に導入できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、サツマイモ(Ipomoea batatas cv Jinhongmi)由来エクスパンシン遺伝子(IbExpansin)のcDNAに関するものであって、これは、植物体の成長を促進させて生体量を増加させるとともに、種子生産量を増大させる。これにより、本発明は、高生産性形質転換植物体の開発に効果的に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を好適な実施例によって詳細に説明する。ところが、下記実施例は本発明を説明するためのもので、本発明の権利範囲を限定するものではない。
【0025】
〔実施例1:サツマイモエクスパンシン遺伝子cDNAのクローニング〕
サツマイモの幼い塊根からRNAを抽出してEST(Expressed Sequence Tag)ライブラリーを構築した後、2,859個のESTをクローニングしてNCBIに登録した(NCBI受託番号:BU690119〜BU692977、You et al., 2003, FEBS Letters 536, 101-105)。これらのESTのうち、IbExpansin(NCBI受託番号:BU691452)は、約1kbであって、一番目のATGコドンがない部分cDNAである。したがって、サツマイモエクスパンシン遺伝子IbExpansinの全長を確保するために、構築されていたサツマイモ塊根の肥大初期のESTライブラリーを鋳型としてIbExpansin遺伝子特異的なプライマー(配列番号3)とT3ベクタープライマーを用いて増幅させたところ、予想される5’全長サイズ部位からバンドを確認することができなかった(図1)。
【0026】
よって、予想される全長位置の部位をアガロースゲルから溶出した後、これを鋳型として遺伝子特異的なネスティドプライマー(nested primer)(配列番号4)とT3プライマーを用いて2次PCRを行った結果、約350bpのPCR産物を得た(図2)。
【0027】
前記得られた産物をさらにpGEM−T Easyベクターに組み込んで塩基配列の分析を行ったところ、IbExpansinの5’塩基配列であることを確認することができた。この塩基配列に基づいて、両端にBamHIとKpnI制限酵素認識部位を添加させた5’と3’の遺伝子特異的なプライマー(配列番号5と配列番号6)を製作し、全長IbExpansinをRT−PCR方法でクローニングした(図3)。
【0028】
〔実施例2:全長IbExapansin塩基配列の決定および分析〕
約1.2kbの全長cDNAの塩基配列をPCRでクローニングしてpGEM−T Easyベクターに組み込んだ後、プラスミドDNAを抽出して塩基配列を決定した結果、IbExpansinは、合計1213bp、具体的に33bpの5’UTR、717bp ORFおよび463bp 3’UTRから構成されていた。この全長IbExpansinのcDNAをNCBIに登録した(受託番号:DQ515800)。IbExpansinの239個のアミノ酸配列は、N末端領域を除いてはお互いに高い相同性を示すアミノ酸配列の保存度が非常に高く(図4)、トマト、唐辛子などのエクスパンシンアミノ酸配列と78%の高い相同性を示すことが分かった(図5)。
【0029】
〔実施例3:組織別ノーザン(Northern)分析〕
(1)ノーザン分析方法
IbExpansinの発現様相を確認するために、貯蔵根が発達する前の個体からの根(FRN)、茎(Stem−FRN)、葉(Leaf−FRN)および葉柄(Petiole−FRN)、貯蔵根発達初期の個体からの根(FRES)、貯蔵根段階の個体からの貯蔵根(SR)、茎(Stem−SR)、葉(Leaf−SR)および葉柄(Petiole−SR)、並びに貯蔵根が完全に成長した後の個体からの根組織(FRLS)(図6参照)より、全RNAを4.4M グアニジウム−SDS lysis buffer(chirgwin et al., 1979)と5.7M CsCl グラジエント方法(Glisin et al., 1974)を用いて抽出した後、約20μgの総RNAを1%アガロース−ホルムアルデヒドゲルに電気泳動し、Tropilon−plusTM(Tropix、USA)ナイロン膜に転移(transfer)させた。
【0030】
プローブは、1kb Expansin ESTクローンを含んでいる2.5ngのプラスミド、dCTPを除いた100μM dNTP mix、100μMのdCTP−biotin、10μMのベクター(pBluscriptII)プライマーT3(5’−AATTAACCCTCACTAAAGGG−3’;配列番号7)と、T7(3’−CGGGATATCACTCAGCATAATG−5’;配列番号8)、1×PCRバッファと1ユニットのTaqポリメラーゼをそれぞれ添加して最終体積を10μLに調整し、95℃で5分間処理した。その後、95℃10秒、65℃30秒、72℃30秒を1サイクルとして、35サイクルの増幅を行って製作した。
【0031】
前記PCRで増幅されたビオチン標識プローブ(biotinylated probe)は、QIAquickTM PCR精製キット(QIAGEN、ドイツ)で精製し、約100ngを膜に添加して65℃で18時間ハイブリダイゼーションした。その後、1%SDSを含む2×SSCを用いて室温で5分(2回)、1%SDSを含む0.1×SSCを用いて15分(2回)、そして1×SSCを用いて室温で5分間(2回)を処理した。プローブ検出は、Southern−starTMkit(Tropix、USA)を用いて行った。ブロットをブロッキングバッファ(1×PBS、0.2%I−BlockTM Reagentと0.5%SDS)で処理し、ストレプトアビジン結合アルカリ性ホスファターゼ(Alkaline phosphatase conjugated streptavidin)を付けた後、CDP−StarTM(Ready−to−Use)を処理した。膜はX線フィルム(富士フィルム、日本)に10分〜1時間30分露出させた。
【0032】
(2)IbExpansinの発現様相の確認
IbExpansinは、貯蔵根発達前の根組織と葉柄で強く発現し、茎と葉においても発現した。ところが、貯蔵根発達後の塊根組織ではその発現量が著しく低下したことを確認することができ、茎と葉における発現量が非常に減少した(図7)。このような発現様相は、IbExpansinが、長さ生長が活発に起こっている組織で強く発現していることを示唆している。
【0033】
〔実施例4:バイナリーベクターの製作〕
IbExpansin全長cDNAをRT−PCRで増幅するときに使用したプライマーに既にBamHIとKpnI制限酵素認識部位を添加させたプライマー(配列番号5および配列番号6)を使用したため、過多発現用バイナリーベクター製作のために、pGEM−T Easyベクターに入っているcDNAをBamHIとKpnIで切断した後、cDNAをpMBP1ベクターのCaMV35SSプロモータとNOSタミネータとの間に挿入し、この挿入をコロニーPCR(colony PCR)と制限酵素処理によって確認して(図8)バイナリーベクターpIbEXpansinを製作した(図9)。
【0034】
〔実施例5:製作されたpIbExpansinベクターを用いたシロイヌナズナ形質転換〕
実施例4で製作されたpIbExpansinベクターをアクロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens C58C1)に冷解凍(Freeze-thaw)方法(An, G. 1987, Methods in Enzymology)によって導入した。
【0035】
形質転換されたアグロバクテリアを2日間28℃で振とう培養した後、これをフローラルディップ方法(Clough and Bent, 1998, The Plant Journal)に基づいてシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana cv. columbia)の開花直前の柱頭に接種してシロイヌナズナ植物体を形質転換させた。
【0036】
〔実施例6:形質転換シロイヌナズナの選抜および確認〕
実施例5で製造されたシロイヌナズナ形質転換体から種子を収穫した後、カナマイシン(30mg/L)含有MS培地に塗末して抵抗能のある形質転換植物体T1を選別し、IbExpansin cDNAがシングルコピー(single copy)で導入されてカナマイシン抵抗性に対する分離比が3:1のT2植物体を区別し、同型接合種子(homozygous seed)を確保した。これらの中から任意に3ライン(Exp−1、Exp−4、Exp−22)を選択してIbExpansinの発現量を調査した。
【0037】
形質転換シロイヌンズナにおけるIbExpansinの発現量を調査するために、シロイヌナズナの葉からTri−Reagent(Invitrogen、USA)を用いて全RNAを抽出した後、oligo(dT)とSuperScriptTMIII(Invitrogen、USA)を用いて逆転写させた。内的対照群(internal control)としてシロイヌナズナeIF4A1遺伝子を使用した。IbExpansinの遺伝子特異プライマー(5’−GTAGGATCCCATTCCTCTACCAATTCAACTGAA−3’(配列番号5)、5’−GATGGTACCACTGTCTCCACACTCAGCATT−3’(配列番号6))、およびeIF4A1プライマー(5’−GCTCTCCCGTGGTTTCAAGGACCAGATC−3’(配列番号9)、5’−GTCTGTGAGCCAATCAACCTTACGCCTG−3’(配列番号10))を共に使用して94℃で5分間変性した。その後、94℃30秒、58℃30秒、72℃1分を1サイクルとして、30サイクル繰り返し行った後、72℃で7分間合成(extension)させた。PCR産物をアガロースゲルで電気泳動し、野生型にはないIbExpansin転写物を形質転換体から確認した(図10)。
【0038】
〔実施例7:形質転換シロイヌナズナ成長の分析〕
IbExpansinシロイヌナズナ形質転換体の成長を野生型と比較した。このために、Exp−1、Exp−4およびExp−22を野生型と共に土壌に播種して育てた後、花軸が出る直前に葉の成長度合いを比較した。Exp−1、Exp−4およびExp−22は、野生型と比較し、花軸が出る前の葉の枚数にはあまり変わりがなかったが、葉の成長速度が速くて葉の長さと幅がさらに長かった(図11)。
【0039】
〔実施例8:形質転換シロイヌナズナの種子生産量の分析〕
IbExpansinシロイヌナズナ形質転換体の種子の大きさを調査し、野生型と比較した。T3世代の同型接合体種子を用いた。それぞれ形質転換体の種子を顕微鏡の下で観察したところ、Exp−1、Exp−4、Exp−22はいずれも野生型と比較して種子の大きさが増大したことを確認した(図12)。
【0040】
〔実施例9:形質転換シロイヌナズナ種子の澱粉含量の分析〕
IbExpansinシロイヌナズナ形質転換体の種子に含有されている澱粉量を調査し、野生型と比較した。形質転換体シロイヌナズナと野生型シロイヌナズナの種子としては、T4世代の同型接合体種子を用いた。種子に液体窒素を加えて乳鉢に細かく擂った後、それぞれ1gの量を、25mLの蒸留水が入っている150mLの三角フラスコに移した。移されたサンプルを3分間沸かしながら攪拌した後、滅菌器を用いて135℃で1時間澱粉を分解し、常温から約60℃になるまで降温して安定化させた。このように準備された水溶液に100mLの蒸留水を添加し、Starch Assay Kit(SIGMA)を用いて、製造社から提供された方法に準じて澱粉含量を分析した。その結果、IbExpansinシロイヌナズナ形質転換体Exp−1、Exp−4、Exp−22の種子1個当たりの澱粉含量はそれぞれ1.55±0.13、1.48±0.03、1.54±0.06μgであって、野生型シロイヌナズナの0.98±0.06μgより多いことを確認することができた(図13)。
【0041】
〔実施例10:形質転換シロイヌナズナ種子のタンパク質含量の分析〕
IbExpansinシロイヌナズナ形質転換体種子のタンパク質含量を調査し、野生型と比較した。種子としては、T3世代の同型接合体種子を用いた。種子1個当たりのタンパク質含量を分析するために、形質転換体と野生型のT3世代種子100個をタンパク質抽出溶液(250mMスクロース、50mM Tris HCl、pH8.0、2mM DTT、2mM EDTA、タンパク質阻害剤カクテル)に添加し、ドリルとプラスチック棒を用いて細かく擂った後、4℃で12,000rpmで10分間遠心分離した。上澄み液を新規チューブ内に移し、タンパク質分析キット(BioRad)を用いて種子1個当たりのタンパク質量を決定した。その結果、IbExpansinシロイヌナズナ形質転換体Exp−4、Exp−22がいずれも野生型に比べて多くのタンパク質含量を持つことを確認したうえ、このことを、それぞれのサンプル2μLずつを12% SDS/ポリアクリルアミドゲルにロードして電気泳動した後、CBB(coomassie brilliant blue)染色試薬を用いたゲル染色を行うことにより、再確認した(図14)。
【0042】
〔実施例11:形質転換シロイヌナズナの種子生産量の分析〕
IbExpansin形質転換植物全体の種子生産量を調査するために、種子の千粒重、植物体当たりの種子莢の個数、1莢当たりの種子の個数、全種子の個数、全種子の重量などをExp−4を対象として調査した。図15に示すように、IbExpansinシロイヌナズナ形質転換体が野生型に比べて千粒重も重かったし、植物体当たりの種子莢の個数、1莢当たりの種子の個数、全種子の個数が全て多かった。結果として、1植物体当たり生産する種子の生産量は、野生種が149.73±0.19mgであり、IbExpansin形質転換体が444.27±0.62mgであって、IbExpansin形質転換体が野生種に比べて約3倍高い種子生産量を示した(図15)。
【0043】
よって、本発明に係るIbExpansin cDNAは、生体量の高い形質転換植物体、特に種子生産量が画期的に高い形質転換作物体の生産などに効果的に利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
上述したように、本発明は、サツマイモ(Ipomoea batatas cv Jinhongmi)由来エクスパンシン遺伝子(IbExpansin)のcDNAに関するものであって、この遺伝子は、植物体の成長を促進させて生体量を増加させるとともに、種子の生産量を増大させることができる。これにより、本発明は、高生産性形質転換植物体の開発に効果的に利用できる非常に有用な発明である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係るサツマイモ由来エクスパンシン遺伝子の全長cDNAクローニングのために行った1次PCRの結果を示す図である。
【図2】本発明に係るサツマイモ由来エクスパンシン遺伝子の全長cDNAクローニングのために行った1次PCRの産物を鋳型として行った2次PCRの結果を示す図である。
【図3】PCRによってクローニングされた本発明に係るサツマイモ由来エクスパンシン遺伝子の全長cDNAを示す図である。
【図4】本発明に係るサツマイモ由来エクスパンシン遺伝子cDNAのアミノ酸配列と他の植物エクスパンシンcDNAのアミノ酸配列とを比較した図である。
【図5】本発明に係るサツマイモ由来エクスパンシン遺伝子cDNAのアミノ酸配列と他の植物エクスパンシンcDNAのアミノ酸配列間の相同性を示す図である。
【図6】本発明に係るサツマイモ由来エクスパンシン遺伝子の発現の様相を調べるために使用したサツマイモの組織を示す図である。
【図7】本発明に係るサツマイモ由来エクスパンシン遺伝子のサツマイモ植物における発現の様相を示す図である。
【図8】本発明に係るサツマイモ由来エクスパンシンのcDNAでシロイヌナズナを形質転換させるためのバイナリーベクター構築の過程を示す図である。
【図9】本発明に係るサツマイモ由来エクスパンシンのcDNAでシロイヌナズナを形質転換させるためのバイナリーベクター(pIbExpansin)の構造を示す模式図である。
【図10】本発明に係るサツマイモ由来エクスパンシンのcDNAが組み込まれたシロイヌナズナ形質転換体における遺伝子の発現を確認した図である。
【図11】本発明に係るサツマイモ由来エクスパンシンのcDNAが組み込まれたシロイヌナズナ形質転換体の成長を野生種と比較した図である。
【図12】本発明に係るサツマイモ由来エクスパンシンのcDNAが組み込まれたシロイヌナズナ形質転換体の種子を野生種と比較した図である。
【図13】本発明に係るサツマイモ由来エクスパンシンのcDNAが組み込まれたシロイヌナズナ形質転換体の種子の澱粉含量を野生種と比較した図である。
【図14】本発明に係るサツマイモ由来エクスパンシンのcDNAが組み込まれたシロイヌナズナ形質転換体の種子のタンパク質含量を野生種と比較した図である。
【図15】本発明に係るサツマイモ由来エクスパンシンのcDNAが組み込まれたシロイヌナズナ形質転換体の種子生産能力を野生種と比較した図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、高生産性形質転換植物体を製作するためのサツマイモ由来エクスパンシン遺伝子のcDNAに係り、さらに詳しくは、サツマイモ由来エクスパンシン遺伝子のcDNA、このcDNAを含む形質転換用ベクター、およびこのベクターを用いた、植物体の生体重および/または種子生産量が増加する高生産性形質転換作物の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エクスパンシン(Expansin)は、Cosgroveとその同僚らによって発見(McQueen-Mason et al., 1992, Plant Cell 4, 1425-1433)されて以来、広範囲な研究が行われてきた。研究の初期には、エクスパンシンは、主に、pHによって調節される細胞壁の軟化を通じた細胞の拡張に関与する酵素として知られていた(Cosgrove, 2000, Nature 407, 321-326)。以後、エクスパンシンがα−、β−の2つの形で存在することが明らかになった(Shcherban et al., 1995, PNAS 92, 9245-9249)。
【0003】
最近では、エクスパンシンは、細胞拡張の他に、植物の形態形成(Ruan et al., 2001, Plant Cell 13, 47-60)、果物の軟化(Rose et al., 2000, Plant Physiology 123, 1583-1592; Civello et al., 1999, Plant Physiology 121, 1273-1280)、花粉管の伸長(Cosgrove et al., 1997, PNAS 94, 6559-6564)、根の屈地性反応成長(Zhang and Hasenstein, 2000, Plant Cell Physiology 41, 1305-1312)、根細胞の伸長(Lee et al., 2003, Plant Physiology 131, 985-997)などにも関与することが明らかになっている(for review, Lee et al., 2001, Cur. Opin. Plant Biol. 4, 527-532)。
【0004】
更に、淡水稲とトマトにおけるエクスパンシンの発現の様相についても研究されている。トマトでは葉の原基の発達が始まる頂端にエクスパンシンが発現することを確認した(Reinhardt et al., 1998, Plant Cell 10, 1427-1437)。トマト果物成熟特異的なエクスパンシン(Exp1)をクローニングして形質転換体を製作して、Exp1がトマト果物の軟化に関連することを究明した(Brummell et al., 1999, Plant Cell, 11: 2203-2216)。また、淡水稲の速い成長と細胞壁の軟化程度が増加する直前にエクスパンシンのmRNAが増加し(Cho and Kende, 1997a, Plant Cell 9, 1661-1671; 1997b, Plant Physiology 113, 1137-1143; 1998, Plant Journal 15, 805-812)、エクスパンシンが細胞の伸長に関与しており、このようなエクスパンシンが過多発現された形質転換稲植物体の子葉の長さは野生種と比較して31〜97%増加した(Choi et al., 2003 Plant Cell, 15: 1386-1398)ことが分かる。ところが、前記の形質転換稲植物体は、雄性不稔性を示して種子を結ぶことが不可能であった。
【0005】
一方、穀物の種子はヒトの主食として多く用いられているから、穀物栽培において、種子生産量の増加は非常に意味が大きいといえる。また、穀物の種子は60〜70%が澱粉から構成されているので、科学者らは、以前から、穀物種子の澱粉含量を増大させることにより穀物生産量の増大を図ろうと努力してきた。
【0006】
ADP−グルコースリン酸化酵素(AGPase)は、抑制剤(Pi)と促進剤(3PGA)によってその活性が調節されるアロステリック酵素(allosteric enzyme)であって、植物体内の澱粉の合成を調節する酵素として知られている。この酵素をコード化する遺伝子を用いて穀物種子の澱粉合成量を変化させる研究が行われてきた。トウモロコシのAGPase遺伝子に6つの塩基配列が添加されて2つ(チロシンとセリン(tyrosine and serine)のアミノ酸が添加された突然変異(Sh2−Rev6)は、AGPaseの抑制剤に対する感受性を低下させ、その結果トウモロコシ種子内の澱粉合成を促進させることにより、重量を11〜18%増加させた(Giroux et al., 1996, PNAS 93, 5824-5829)。トウモロコシの突然変異AGPase遺伝子(Sh2r6hs)は、抑制剤に対する感受性を低下させ、AGPaseの小さいサブユニット(small subunit)と大きいサブユニット(large subunit)間の結合を一層安定化させる。CaMV35SプロモータとSh2r6hsを用いた形質転換小麦の場合、種子の生産量が野生種と比較して38%増加した(Smidansky et al., 2002, PNAS 99, 1724-1729)。内胚乳(endosperm)特異的なプロモータ(トウモロコシのユビキチンプロモータ)とSh2r6hsを用いた形質転換稲の場合、野生種と比較して種子および植物体の生産量が20%増大した(Smidansky et al., 2003, Planta, 216, 656-664)。
【0007】
したがって、作物の生産性を画期的に増大させるために、遺伝子導入を用いた高生産性形質転換作物体の製作が強く求められてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、上述した技術的要求に応えるためのもので、その目的とするところは、高生産性形質転換作物を生産するためのサツマイモエクスパンシン遺伝子(IbExpansin)のcDNAを提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、IbExpansin遺伝子のcDNAを含む植物体形質転換用ベクターを提供することにある。
【0010】
本発明の別の目的は、高生産性作物を生産しようとする場合、前記サツマイモエクスパンシン遺伝子(IbExpansin)を含むベクターを用いて製造された形質転換植物体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明者らは、サツマイモエクスパンシン(IbExpansin)遺伝子のcDNAをクローニングして植物体形質転換用発現ベクターを製作し、同一のベクターを用いてシロイヌナズナ形質転換体を製作してその生産性を確認したところ、形質転換シロイヌナズナの生体量が著しく増加し、特に種子の生産性が3倍増加したことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
したがって、本発明は、配列番号1の塩基配列を有する単離されたサツマイモエクスパンシン遺伝子のcDNAを提供する。
【0013】
前記cDNA塩基配列は、合計1,213bpであって、33bpの5’非翻訳領域、717bpのORF(配列番号11, Open Reading Frame、238個のアミノ酸)、および463bpの3’非翻訳領域からなることを特徴とする。
【0014】
本発明の他の目的を達成するために、本発明は、前記ORFによって翻訳され、配列番号2のアミノ酸配列を有する単離されたポリペプチドを提供する。
【0015】
本発明の別の目的を達成するために、本発明は、前記サツマイモ由来エクスパンシン遺伝子のcDNAを含む植物形質転換用発現ベクター(pIbExpansin)を提供する。
【0016】
前記植物体形質転換用ベクターは、外来遺伝子を導入された植物体内で永久的に発現させることが可能な形質転換用バイナリーベクターである。
【0017】
また、前記本発明に係るサツマイモエクスパンシン遺伝子(IbExpansin)のcDNAは、pMBP1ベクターのCaMV35SプロモータとNOSタミネータとの間に位置する。本発明ではpMBP1ベクターを使用したが、他の植物形質転換用ベクターで置換し得ることは、当業者にとって自明である。
【0018】
本発明は、前記本発明に係るサツマイモエクスパンシン遺伝子(IbExpansin)のcDNAを含むバイナリーベクターによって形質転換されたシロイヌナズナ植物体を提供する。
【0019】
前記バイナリーベクターは、アグロバクテリウムを用いる方法、あるいは遺伝子銃を利用する方法などで植物体を形質転換させることができる。本発明では、その例として、フローラルディップ(floral dip)方法(Clough and Bent, 1998, Plant J.)によってシロイヌナズナを形質転換させた。
【0020】
また、本発明に係るサツマイモエクスパンシン遺伝子は、シロイヌナズナの他に、生体量を高め且つ種子生産量を増大させようとするいずれの植物にも導入できる。
【0021】
ひいては、本発明は、本発明に係るサツマイモエクスパンシン遺伝子(IbExpansin)のcDNA断片を増幅するための配列番号5または配列番号6で表されるPCR用プライマーを提供する。
【0022】
本発明は、エクスパンシン遺伝子をバイナリーベクターに組み込んだ後、これを植物体に導入する段階を含むことを特徴とする、種子生産量および/または生体重を増加させる方法を提供する。上述したように、エクスパンシン遺伝子が一部公開されているが、エクスパンシン遺伝子が種子生産量に寄与するという事実は、未だ報告されたことがなく、本発明によって最初に発見された。様々な由来のエクスパンシン遺伝子が種子生産量および/または生体重の増加のために植物体に導入できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、サツマイモ(Ipomoea batatas cv Jinhongmi)由来エクスパンシン遺伝子(IbExpansin)のcDNAに関するものであって、これは、植物体の成長を促進させて生体量を増加させるとともに、種子生産量を増大させる。これにより、本発明は、高生産性形質転換植物体の開発に効果的に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を好適な実施例によって詳細に説明する。ところが、下記実施例は本発明を説明するためのもので、本発明の権利範囲を限定するものではない。
【0025】
〔実施例1:サツマイモエクスパンシン遺伝子cDNAのクローニング〕
サツマイモの幼い塊根からRNAを抽出してEST(Expressed Sequence Tag)ライブラリーを構築した後、2,859個のESTをクローニングしてNCBIに登録した(NCBI受託番号:BU690119〜BU692977、You et al., 2003, FEBS Letters 536, 101-105)。これらのESTのうち、IbExpansin(NCBI受託番号:BU691452)は、約1kbであって、一番目のATGコドンがない部分cDNAである。したがって、サツマイモエクスパンシン遺伝子IbExpansinの全長を確保するために、構築されていたサツマイモ塊根の肥大初期のESTライブラリーを鋳型としてIbExpansin遺伝子特異的なプライマー(配列番号3)とT3ベクタープライマーを用いて増幅させたところ、予想される5’全長サイズ部位からバンドを確認することができなかった(図1)。
【0026】
よって、予想される全長位置の部位をアガロースゲルから溶出した後、これを鋳型として遺伝子特異的なネスティドプライマー(nested primer)(配列番号4)とT3プライマーを用いて2次PCRを行った結果、約350bpのPCR産物を得た(図2)。
【0027】
前記得られた産物をさらにpGEM−T Easyベクターに組み込んで塩基配列の分析を行ったところ、IbExpansinの5’塩基配列であることを確認することができた。この塩基配列に基づいて、両端にBamHIとKpnI制限酵素認識部位を添加させた5’と3’の遺伝子特異的なプライマー(配列番号5と配列番号6)を製作し、全長IbExpansinをRT−PCR方法でクローニングした(図3)。
【0028】
〔実施例2:全長IbExapansin塩基配列の決定および分析〕
約1.2kbの全長cDNAの塩基配列をPCRでクローニングしてpGEM−T Easyベクターに組み込んだ後、プラスミドDNAを抽出して塩基配列を決定した結果、IbExpansinは、合計1213bp、具体的に33bpの5’UTR、717bp ORFおよび463bp 3’UTRから構成されていた。この全長IbExpansinのcDNAをNCBIに登録した(受託番号:DQ515800)。IbExpansinの239個のアミノ酸配列は、N末端領域を除いてはお互いに高い相同性を示すアミノ酸配列の保存度が非常に高く(図4)、トマト、唐辛子などのエクスパンシンアミノ酸配列と78%の高い相同性を示すことが分かった(図5)。
【0029】
〔実施例3:組織別ノーザン(Northern)分析〕
(1)ノーザン分析方法
IbExpansinの発現様相を確認するために、貯蔵根が発達する前の個体からの根(FRN)、茎(Stem−FRN)、葉(Leaf−FRN)および葉柄(Petiole−FRN)、貯蔵根発達初期の個体からの根(FRES)、貯蔵根段階の個体からの貯蔵根(SR)、茎(Stem−SR)、葉(Leaf−SR)および葉柄(Petiole−SR)、並びに貯蔵根が完全に成長した後の個体からの根組織(FRLS)(図6参照)より、全RNAを4.4M グアニジウム−SDS lysis buffer(chirgwin et al., 1979)と5.7M CsCl グラジエント方法(Glisin et al., 1974)を用いて抽出した後、約20μgの総RNAを1%アガロース−ホルムアルデヒドゲルに電気泳動し、Tropilon−plusTM(Tropix、USA)ナイロン膜に転移(transfer)させた。
【0030】
プローブは、1kb Expansin ESTクローンを含んでいる2.5ngのプラスミド、dCTPを除いた100μM dNTP mix、100μMのdCTP−biotin、10μMのベクター(pBluscriptII)プライマーT3(5’−AATTAACCCTCACTAAAGGG−3’;配列番号7)と、T7(3’−CGGGATATCACTCAGCATAATG−5’;配列番号8)、1×PCRバッファと1ユニットのTaqポリメラーゼをそれぞれ添加して最終体積を10μLに調整し、95℃で5分間処理した。その後、95℃10秒、65℃30秒、72℃30秒を1サイクルとして、35サイクルの増幅を行って製作した。
【0031】
前記PCRで増幅されたビオチン標識プローブ(biotinylated probe)は、QIAquickTM PCR精製キット(QIAGEN、ドイツ)で精製し、約100ngを膜に添加して65℃で18時間ハイブリダイゼーションした。その後、1%SDSを含む2×SSCを用いて室温で5分(2回)、1%SDSを含む0.1×SSCを用いて15分(2回)、そして1×SSCを用いて室温で5分間(2回)を処理した。プローブ検出は、Southern−starTMkit(Tropix、USA)を用いて行った。ブロットをブロッキングバッファ(1×PBS、0.2%I−BlockTM Reagentと0.5%SDS)で処理し、ストレプトアビジン結合アルカリ性ホスファターゼ(Alkaline phosphatase conjugated streptavidin)を付けた後、CDP−StarTM(Ready−to−Use)を処理した。膜はX線フィルム(富士フィルム、日本)に10分〜1時間30分露出させた。
【0032】
(2)IbExpansinの発現様相の確認
IbExpansinは、貯蔵根発達前の根組織と葉柄で強く発現し、茎と葉においても発現した。ところが、貯蔵根発達後の塊根組織ではその発現量が著しく低下したことを確認することができ、茎と葉における発現量が非常に減少した(図7)。このような発現様相は、IbExpansinが、長さ生長が活発に起こっている組織で強く発現していることを示唆している。
【0033】
〔実施例4:バイナリーベクターの製作〕
IbExpansin全長cDNAをRT−PCRで増幅するときに使用したプライマーに既にBamHIとKpnI制限酵素認識部位を添加させたプライマー(配列番号5および配列番号6)を使用したため、過多発現用バイナリーベクター製作のために、pGEM−T Easyベクターに入っているcDNAをBamHIとKpnIで切断した後、cDNAをpMBP1ベクターのCaMV35SSプロモータとNOSタミネータとの間に挿入し、この挿入をコロニーPCR(colony PCR)と制限酵素処理によって確認して(図8)バイナリーベクターpIbEXpansinを製作した(図9)。
【0034】
〔実施例5:製作されたpIbExpansinベクターを用いたシロイヌナズナ形質転換〕
実施例4で製作されたpIbExpansinベクターをアクロバクテリウム(Agrobacterium tumefaciens C58C1)に冷解凍(Freeze-thaw)方法(An, G. 1987, Methods in Enzymology)によって導入した。
【0035】
形質転換されたアグロバクテリアを2日間28℃で振とう培養した後、これをフローラルディップ方法(Clough and Bent, 1998, The Plant Journal)に基づいてシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana cv. columbia)の開花直前の柱頭に接種してシロイヌナズナ植物体を形質転換させた。
【0036】
〔実施例6:形質転換シロイヌナズナの選抜および確認〕
実施例5で製造されたシロイヌナズナ形質転換体から種子を収穫した後、カナマイシン(30mg/L)含有MS培地に塗末して抵抗能のある形質転換植物体T1を選別し、IbExpansin cDNAがシングルコピー(single copy)で導入されてカナマイシン抵抗性に対する分離比が3:1のT2植物体を区別し、同型接合種子(homozygous seed)を確保した。これらの中から任意に3ライン(Exp−1、Exp−4、Exp−22)を選択してIbExpansinの発現量を調査した。
【0037】
形質転換シロイヌンズナにおけるIbExpansinの発現量を調査するために、シロイヌナズナの葉からTri−Reagent(Invitrogen、USA)を用いて全RNAを抽出した後、oligo(dT)とSuperScriptTMIII(Invitrogen、USA)を用いて逆転写させた。内的対照群(internal control)としてシロイヌナズナeIF4A1遺伝子を使用した。IbExpansinの遺伝子特異プライマー(5’−GTAGGATCCCATTCCTCTACCAATTCAACTGAA−3’(配列番号5)、5’−GATGGTACCACTGTCTCCACACTCAGCATT−3’(配列番号6))、およびeIF4A1プライマー(5’−GCTCTCCCGTGGTTTCAAGGACCAGATC−3’(配列番号9)、5’−GTCTGTGAGCCAATCAACCTTACGCCTG−3’(配列番号10))を共に使用して94℃で5分間変性した。その後、94℃30秒、58℃30秒、72℃1分を1サイクルとして、30サイクル繰り返し行った後、72℃で7分間合成(extension)させた。PCR産物をアガロースゲルで電気泳動し、野生型にはないIbExpansin転写物を形質転換体から確認した(図10)。
【0038】
〔実施例7:形質転換シロイヌナズナ成長の分析〕
IbExpansinシロイヌナズナ形質転換体の成長を野生型と比較した。このために、Exp−1、Exp−4およびExp−22を野生型と共に土壌に播種して育てた後、花軸が出る直前に葉の成長度合いを比較した。Exp−1、Exp−4およびExp−22は、野生型と比較し、花軸が出る前の葉の枚数にはあまり変わりがなかったが、葉の成長速度が速くて葉の長さと幅がさらに長かった(図11)。
【0039】
〔実施例8:形質転換シロイヌナズナの種子生産量の分析〕
IbExpansinシロイヌナズナ形質転換体の種子の大きさを調査し、野生型と比較した。T3世代の同型接合体種子を用いた。それぞれ形質転換体の種子を顕微鏡の下で観察したところ、Exp−1、Exp−4、Exp−22はいずれも野生型と比較して種子の大きさが増大したことを確認した(図12)。
【0040】
〔実施例9:形質転換シロイヌナズナ種子の澱粉含量の分析〕
IbExpansinシロイヌナズナ形質転換体の種子に含有されている澱粉量を調査し、野生型と比較した。形質転換体シロイヌナズナと野生型シロイヌナズナの種子としては、T4世代の同型接合体種子を用いた。種子に液体窒素を加えて乳鉢に細かく擂った後、それぞれ1gの量を、25mLの蒸留水が入っている150mLの三角フラスコに移した。移されたサンプルを3分間沸かしながら攪拌した後、滅菌器を用いて135℃で1時間澱粉を分解し、常温から約60℃になるまで降温して安定化させた。このように準備された水溶液に100mLの蒸留水を添加し、Starch Assay Kit(SIGMA)を用いて、製造社から提供された方法に準じて澱粉含量を分析した。その結果、IbExpansinシロイヌナズナ形質転換体Exp−1、Exp−4、Exp−22の種子1個当たりの澱粉含量はそれぞれ1.55±0.13、1.48±0.03、1.54±0.06μgであって、野生型シロイヌナズナの0.98±0.06μgより多いことを確認することができた(図13)。
【0041】
〔実施例10:形質転換シロイヌナズナ種子のタンパク質含量の分析〕
IbExpansinシロイヌナズナ形質転換体種子のタンパク質含量を調査し、野生型と比較した。種子としては、T3世代の同型接合体種子を用いた。種子1個当たりのタンパク質含量を分析するために、形質転換体と野生型のT3世代種子100個をタンパク質抽出溶液(250mMスクロース、50mM Tris HCl、pH8.0、2mM DTT、2mM EDTA、タンパク質阻害剤カクテル)に添加し、ドリルとプラスチック棒を用いて細かく擂った後、4℃で12,000rpmで10分間遠心分離した。上澄み液を新規チューブ内に移し、タンパク質分析キット(BioRad)を用いて種子1個当たりのタンパク質量を決定した。その結果、IbExpansinシロイヌナズナ形質転換体Exp−4、Exp−22がいずれも野生型に比べて多くのタンパク質含量を持つことを確認したうえ、このことを、それぞれのサンプル2μLずつを12% SDS/ポリアクリルアミドゲルにロードして電気泳動した後、CBB(coomassie brilliant blue)染色試薬を用いたゲル染色を行うことにより、再確認した(図14)。
【0042】
〔実施例11:形質転換シロイヌナズナの種子生産量の分析〕
IbExpansin形質転換植物全体の種子生産量を調査するために、種子の千粒重、植物体当たりの種子莢の個数、1莢当たりの種子の個数、全種子の個数、全種子の重量などをExp−4を対象として調査した。図15に示すように、IbExpansinシロイヌナズナ形質転換体が野生型に比べて千粒重も重かったし、植物体当たりの種子莢の個数、1莢当たりの種子の個数、全種子の個数が全て多かった。結果として、1植物体当たり生産する種子の生産量は、野生種が149.73±0.19mgであり、IbExpansin形質転換体が444.27±0.62mgであって、IbExpansin形質転換体が野生種に比べて約3倍高い種子生産量を示した(図15)。
【0043】
よって、本発明に係るIbExpansin cDNAは、生体量の高い形質転換植物体、特に種子生産量が画期的に高い形質転換作物体の生産などに効果的に利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
上述したように、本発明は、サツマイモ(Ipomoea batatas cv Jinhongmi)由来エクスパンシン遺伝子(IbExpansin)のcDNAに関するものであって、この遺伝子は、植物体の成長を促進させて生体量を増加させるとともに、種子の生産量を増大させることができる。これにより、本発明は、高生産性形質転換植物体の開発に効果的に利用できる非常に有用な発明である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係るサツマイモ由来エクスパンシン遺伝子の全長cDNAクローニングのために行った1次PCRの結果を示す図である。
【図2】本発明に係るサツマイモ由来エクスパンシン遺伝子の全長cDNAクローニングのために行った1次PCRの産物を鋳型として行った2次PCRの結果を示す図である。
【図3】PCRによってクローニングされた本発明に係るサツマイモ由来エクスパンシン遺伝子の全長cDNAを示す図である。
【図4】本発明に係るサツマイモ由来エクスパンシン遺伝子cDNAのアミノ酸配列と他の植物エクスパンシンcDNAのアミノ酸配列とを比較した図である。
【図5】本発明に係るサツマイモ由来エクスパンシン遺伝子cDNAのアミノ酸配列と他の植物エクスパンシンcDNAのアミノ酸配列間の相同性を示す図である。
【図6】本発明に係るサツマイモ由来エクスパンシン遺伝子の発現の様相を調べるために使用したサツマイモの組織を示す図である。
【図7】本発明に係るサツマイモ由来エクスパンシン遺伝子のサツマイモ植物における発現の様相を示す図である。
【図8】本発明に係るサツマイモ由来エクスパンシンのcDNAでシロイヌナズナを形質転換させるためのバイナリーベクター構築の過程を示す図である。
【図9】本発明に係るサツマイモ由来エクスパンシンのcDNAでシロイヌナズナを形質転換させるためのバイナリーベクター(pIbExpansin)の構造を示す模式図である。
【図10】本発明に係るサツマイモ由来エクスパンシンのcDNAが組み込まれたシロイヌナズナ形質転換体における遺伝子の発現を確認した図である。
【図11】本発明に係るサツマイモ由来エクスパンシンのcDNAが組み込まれたシロイヌナズナ形質転換体の成長を野生種と比較した図である。
【図12】本発明に係るサツマイモ由来エクスパンシンのcDNAが組み込まれたシロイヌナズナ形質転換体の種子を野生種と比較した図である。
【図13】本発明に係るサツマイモ由来エクスパンシンのcDNAが組み込まれたシロイヌナズナ形質転換体の種子の澱粉含量を野生種と比較した図である。
【図14】本発明に係るサツマイモ由来エクスパンシンのcDNAが組み込まれたシロイヌナズナ形質転換体の種子のタンパク質含量を野生種と比較した図である。
【図15】本発明に係るサツマイモ由来エクスパンシンのcDNAが組み込まれたシロイヌナズナ形質転換体の種子生産能力を野生種と比較した図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1の塩基配列を有する単離されたDNA。
【請求項2】
前記DNAはサツマイモ(Ipomoea batatas cv Jinhongmi)エクスパンシン遺伝子(IbExpansin)のcDNAに由来したことを特徴とする、請求項1に記載のDNA。
【請求項3】
請求項1に記載のDNAを含む植物形質転換用バイナリーベクター。
【請求項4】
請求項1に記載のDNAまたは請求項3に記載のベクターを含む微生物。
【請求項5】
請求項1に記載のDNAまたは請求項3に記載のベクターが組み込まれた形質転換植物体。
【請求項6】
配列番号1の塩基配列を含むDNA断片を増幅するための配列番号5または配列番号6で表されるPCR用プライマー。
【請求項7】
配列番号11の塩基配列を有するサツマイモエクスパンシン遺伝子(IbExpansin)のORF。
【請求項8】
請求項7に記載のサツマイモエクスパンシン遺伝子(IbExpansin)のORFを含む植物形質転換用バイナリーベクター。
【請求項9】
請求項7に記載のORFまたは請求項8に記載のベクターを含む微生物。
【請求項10】
請求項7に記載のORFまたは請求項8に記載のベクターが組み込まれた形質転換植物体。
【請求項11】
請求項7に記載のORFによって翻訳され、配列番号2のアミノ酸配列を有する単離されたポリペプチド。
【請求項12】
エクスパンシン遺伝子をバイナリーベクターに組み込んだ後、これを植物体に導入する段階を含むことを特徴とする、種子生産量および/または生体重を増加させる方法。
【請求項1】
配列番号1の塩基配列を有する単離されたDNA。
【請求項2】
前記DNAはサツマイモ(Ipomoea batatas cv Jinhongmi)エクスパンシン遺伝子(IbExpansin)のcDNAに由来したことを特徴とする、請求項1に記載のDNA。
【請求項3】
請求項1に記載のDNAを含む植物形質転換用バイナリーベクター。
【請求項4】
請求項1に記載のDNAまたは請求項3に記載のベクターを含む微生物。
【請求項5】
請求項1に記載のDNAまたは請求項3に記載のベクターが組み込まれた形質転換植物体。
【請求項6】
配列番号1の塩基配列を含むDNA断片を増幅するための配列番号5または配列番号6で表されるPCR用プライマー。
【請求項7】
配列番号11の塩基配列を有するサツマイモエクスパンシン遺伝子(IbExpansin)のORF。
【請求項8】
請求項7に記載のサツマイモエクスパンシン遺伝子(IbExpansin)のORFを含む植物形質転換用バイナリーベクター。
【請求項9】
請求項7に記載のORFまたは請求項8に記載のベクターを含む微生物。
【請求項10】
請求項7に記載のORFまたは請求項8に記載のベクターが組み込まれた形質転換植物体。
【請求項11】
請求項7に記載のORFによって翻訳され、配列番号2のアミノ酸配列を有する単離されたポリペプチド。
【請求項12】
エクスパンシン遺伝子をバイナリーベクターに組み込んだ後、これを植物体に導入する段階を含むことを特徴とする、種子生産量および/または生体重を増加させる方法。
【図5】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2007−319159(P2007−319159A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−101023(P2007−101023)
【出願日】平成19年4月6日(2007.4.6)
【出願人】(505176556)コリア ユニバーシティ インダストリアル アンド アカデミック コラボレイション ファウンデーション (29)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月6日(2007.4.6)
【出願人】(505176556)コリア ユニバーシティ インダストリアル アンド アカデミック コラボレイション ファウンデーション (29)
【Fターム(参考)】
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