説明

サリチル酸4−ヘプテン−2−イルおよびフレグランス成分としてのその使用

本発明はサリチル酸4−ヘプテン−2−イルおよびフレグランス成分としてのその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サリチル酸4−ヘプテン−2−イル、その製造方法、およびそれを含むフレグランス組成物に関連する。
【背景技術】
【0002】
サリチル酸エステル類の多様性は、文献から知られており、それらのいくらかはフレグランス産業で使われている。それでもなお、芳香ノートを増強または改良、あるいは新しい芳香ノートを与える新しい化合物に対する、フレグランス産業での一定の需要がある。特に、長持ちする、強いフローラルノートに継続的な需要がある。
【0003】
広く使われているサリチル酸エステルは、例えば、サリチル酸cis−3−ヘキセニル(サリチル酸(Z)−3―ヘキセン−1−イル)である。カーネーションフラワーアブソリュートで確認されており、スイート、グリーンバルサム芳香ノートを有すると言われている。
【発明の開示】
【0004】
驚くべきことに、メチル基によるエステル基のアルファ位でのサリチル酸cis−3−ヘキセニルの置換は、サリチル酸4−ヘプテン−2−イルを生じさせ、香りの閾値への影響をわずかに持っているが、サリチル酸cis−3−ヘキセニルがエステル基のベータ位でメチル基によって置換された場合、香りの閾値が大きく損なわれ、したがって、非置換化合物の代わりとして、サリチル酸4−ヘプテン−2−イルは非常に有用である。新しい分子は、ここに説明されているように、その嗅覚特性、非常に低い香りの閾値のため、および長引く効果と組合わさって、部屋中に非常に早く広がる能力のために、フレグランス産業において非常に価値がある。
【0005】
ここで使われるように、「香りの閾値」は嗅覚で関知することのできる、空気内での気体の最も低い濃度を意味する。一般的に言って、低い香りの閾値の化合物が、高い香りの閾値の化合物よりも、より強力であるといえ、したがってフレグランス組成物内での極めて低い濃度の使用で、嗅覚効果を成し遂げることを可能にする。
【0006】
したがって、本発明は一形態において、フレグランス成分として、サリチル酸4−ヘプテン−2−イル、サリチル酸(Z)−4−ヘプテン−2−イルおよびサリチル酸(E)−4−ヘプテン−2−イル両方の使用に関連する。
【0007】
サリチル酸4−ヘプテン−2−イルは、一つのキラル中心を含み、立体異性体の混合物として存在してもよく、またはそれらは異性体的に純粋な形として分離されてもよい。立体異性体の分離は、これらの化合物の製造および精製に複雑性を増し、そこで単に経済的理由のために、それらの立体異性体の混合物として該化合物を使用することが好まれる。しかしながら、個々の立体異性体を調製することが望まれる場合、当技術分野で周知の方法(例えば分取HPLCおよびGC、または立体選択的な合成)に従って成し遂げることができる。
【0008】
最も望ましい異性体は、ユリ種およびフランジパニを連想させる、非常にクリスプ(crisp)なフローラルおよびグリーンノートに特徴づけられる、サリチル酸(Z)4−ヘプテン−2−イルである。両方の鏡像異性体は似たにおい特性を有しているが、一方で、(Z)−異性体の香りの閾値は、(E)−異性体のそれよりも10倍低く、よって好ましい。
【0009】
単一異性体、または(E)−異性体との組み合わせとしてのサリチル酸(Z)−4−ヘプテン−2−イルの嗅覚特性に基づき、現在入手可能な豊富な天然物および合成分子から選ばれる、エッセンシャルオイル、アルコール類、アルデヒド類およびケトン類、エーテル類およびアセタール類、エステル類およびラクトン類、大環状分子類および複素環類などの、広範囲の周知のフレグランス成分と組み合わせて、それはとても広範囲のフレグランスの創作に使われることができる。
【0010】
したがって、いわゆるホワイトフローラルノートによるフレグランス組成物において、それはユリおよびフランジパニ種の特徴の側面をそれぞれ提供しまたは補い、該組成物をよりフレッシュに、またよりスパークリング(sparkling)なものにする。芳香族のスパイシーフローラルフレグランスにおいて、野生種のカーネーションの望ましいノートを与え、再びスパークリングフレッシュネス(sparkling freshness)に寄与する。スミレおよびフリージアタイプのイオノン豊富なフレグランスに加えられ、組成物全体を再びとてもスパークリング(sparkling)でさわやかにし、独特なフローラルグリーンノートを補う。かなり一般的に、サリチル酸(Z)−4−ヘプテン−2−イルは著しく低い閾値をもった強力なにおい物質であり、したがって、フレグランス組成物に対し0.05重量%の量で、既に効果を得ることが可能である、と言うことができる。一方、このにおい物質は非常に高い統合機能によって特徴づけられ、50重量%以上の濃度で使われることができる。
【0011】
本発明の化合物は、香水、家庭用品、洗濯用品、ボディケア用品および化粧品などのフレグランス利用品に、単にフレグランス利用品に該化合物を含むフレグランス組成物を直接混合することにより用いられてもよく、もしくは前の段階で、該化合物をポリマー、カプセル、マイクロカプセルおよびナノカプセル、リポソーム、皮膜形成剤、カーボンまたはゼオライトなどの吸着剤、環状オリゴ糖およびそれらの混合物などの封入物質で封入されてもよく、または光、酵素、または同様なものなどの外的刺激の適用でフレグランス分子を放出するように適合された基質に化学的に結合されていてもよい。
【0012】
したがって、本発明はさらに、従来技術および方法を使用して、該化合物を利用品に直接混ぜること、または該化合物を含むフレグランス組成物を混ぜ、そして後にフレグランス利用品に混ぜることにより、フレグランス成分としてサリチル酸4−ヘプテン−2−イルのそれへの組み入れを含むフレグランス利用品を製造する方法を提供する。嗅覚的有効量の本発明の化合物を加えることによって、フレグランス利用品の芳香ノートが改善、増強または改変される。
【0013】
したがって、本発明はさらに、嗅覚的有効量のサリチル酸4−ヘプテン−2−イル、好ましくはサリチル酸(Z)−4−ヘプテン−2−イルをそれに加えることにより、フレグランス利用品を改善、増強、または改変するための方法を提供する。
【0014】
ここで使われるように、「フレグランス利用品」は、上質のフレグランス、例えばオードパルファムおよびオードトワレ;家庭用品、例えば食器洗い機用洗剤、表面クリーナー;洗濯用品、例えば柔軟剤、漂白剤、洗剤;ボディケア用品、例えばシャンプー、シャワージェル;および化粧品、例えばデオドラント、におい物質を含むバニッシングクリームなどを意味する。この用品のリストは、例としてあげられ、いかなる限定としてもみなされない。
【0015】
下記のリストは、サリチル酸4−ヘプテン−2−イルと組み合わされても良い、既知のにおい物質分子およびにおい物質天然抽出物の例を含む:
−エッセンシャルオイルおよびエクストラクト、例えば、ラベンダーオイル、ジュニパーオイル、オークモスアブソリュート、ゼラニウムオイル、ジャスミンアブソリュート、パチョリオイル、ローズオイル、サンダルウッドオイル、レモンオイル、またはイラン−イランオイル。
−アルコール類、例えば、シトロネロール、Ebanol(R)、オイゲノール、ゲラニオール、スーパーミュゲ(Super Muguet)、リナロール、フェニルエチルアルコール、ネロリドール、3−ヘキセノール、Sandalore(R)、テルピネオール、またはTimberol(R)
【0016】
−アルデヒド類およびケトン類、例えば、AzuroneTM、α−アミル桂皮アルデヒド、ジョージーウッド(Georgywood)、ヒドロキシシトロネラール、Iso E Super、イソラルデイン、Hedione(R)、マルトール、メチルセドリルケトン、メチルイオノン、ベータ−イオノン、ジヒドロファルネサールまたはバニリン。
−エーテル類およびアセタール類、例えば、Ambrox(R)、ゲラニルメチルエーテル、ローズオキサイドまたはSpirambrene(R)
【0017】
−エステル類およびラクトン類、例えば、酢酸ベンジル、セドリルアセテート、γ−デカラクトン、Helvetolide(R)、γ−ウンデカラクトンまたは酢酸ベチベニル。
−大環状分子類、例えば、アンブレトリド、エチレンブラシレート、Exaltolide(R)またはCosmoneTM
−複素環類、例えば、イソブチルキノリン。
【0018】
本発明の化合物は、サリチル酸メチルによる4−ヘプチン−2−オールのサリチル酸4−ヘプチン−2−イルへのエステル交換によって調製されてもよい。サリチル酸4−ヘプチン−2−イルの選択的水素添加は、サリチル酸(Z)−4−ヘプテン−2−イルを生成する。(E)−異性体は、ジエチレングリコールジメチルエーテル中での、水素化リチウムアルミニウムによる4−ヘプチン−2−オールの(E)−4−ヘプテン−2−オールへの水素化、および引き続くサリチル酸メチルによるエステル交換によって、高い収率で得られる。出発化合物4−ヘプチン−2−オールは、J.Flahaut et al., Helvetica Chimica Acta 61, 2275 (1978)に説明された手順に従って調製されてもよい。
【0019】
本発明は、下記の非限定的な例を参照して、ここでさらに説明される。
例1:サリチル酸4−ヘプテン−2−イル
a)サリチル酸4−ヘプチン−2−イル
4−ヘプチン−2−オール(22g;0.2mol)およびサリチル酸メチル(30g;0.2mol)を、撹拌および窒素下で、120℃まで加熱する。チタニウム(IV)イソプロポキシド(0.5g;0.02mol)をシリンジを介して一部分で加え、反応物を減圧下(600mbar)で150°Cまで加熱し、その間にメタノールを蒸留する。24時間後(75%変換)フラスコの内容物を25℃まで冷ます。高真空(0.1Torr=0.133mbar)を加え、反応質量を短経路で蒸留し、最初の5gの4−ヘプチン−2−オール(23%)を得て、118°C/0.1Torr(0.133mbar)において35gのサリチル酸4−ヘプチン−2−イル(75%)を得る。
【0020】
【表1】

香りの描写:あるユリ種を連想させるホワイトフローラルの香り
【0021】
b)サリチル酸(Z)−4−ヘプテン−2−イル
サリチル酸4−ヘプチン−2−イル(24.6g;0.1mol)を30mlの無水エタノールに溶解し、硫酸バリウム上のパラジウムの上(0.4g;0.02mol)および水素下で3時間撹拌する。セライト(Celite)でのろ過および減圧下でのエタノールの蒸発により、26.2gの粗生成物を得る、そしてそれをVigreuxカラムで蒸留し、23.5g(96%)のわずかに黄色がかったオイルを98°C/0.1Torr(0.133mbar)で得る。同じ条件下で、再蒸留し、21.6g(88%)の無色のサリチル酸(Z)−4−ヘプテン−2−イルを得る。
【0022】
【表2】

香りの描写:あるユリ種およびフランジパニを連想させるクリスプ(crisp)なフローラルおよびグリーンノート。
【0023】
例2:サリチル酸(Z)−2−メチル−3−ヘキセン−1−イル
サリチル酸(Z)−2−メチル−3−ヘキセン−1−イルを、他の場所(Russian Journal of Organic Chemistry, 1992, 28, 220-225)に説明されている合成、(Z)−2−メチル−3−ヘキセン−1−オール、およびサリチル酸メチルから上記例1a)に説明されたように調製する。(Z)−2−メチル−3−ヘキセン−1−オール(5.9g、0.05mol)およびサリチル酸メチル(7.6g、0.05mol)から、このように、108〜112℃/0.3mbarで蒸留した後、7.5gのサリチル酸(Z)−2−メチル−3−ヘキセン−1−イル(64%)を得た。
【0024】
【表3】

香りの描写:フローラル、グリーン、ウォータリー(watery)
【0025】
例3:2−ヒドロキシ−3−メチル安息香酸(Z)−3−ヘキセン−1−イル
2−ヒドロキシ−3−メチル安息香酸(Z)−3−ヘキセン−1−イルは、市販の(Z)−ヘキサ−3−エン−1−オールおよびo−クレソチン酸メチルから上記例1a)に説明されたように調製される。(Z)−ヘキサ−3−エン−1−オール(20.0g、0.2mol)およびo−クレソチン酸メチル(33.2g、0.2mol)から、したがって118°C/0.2mbarで蒸留した後、37.2gの2−ヒドロキシ−3−メチル安息香酸(Z)−3−ヘキセン−1−イル(79%)を得た。
【0026】
【表4】

香りの描写:フローラル、バルサム、わずかにグリーンおよびウォータリー(watery)
【0027】
例4:GC−香りの閾値の測定
当業者に既知の標準的な手順に従って、揮発性香料化合物の閾値を、においを嗅ぐポート(sniff port)を備えているガスクロマトグラフィで、訓練された評価者のパネルによって測定された。それぞれのパネリストによって嗅がれた最も低い濃度が、ngで表される個々の閾値として記録される(においを嗅ぐポートに送られる化合物の絶対量)。
【0028】
比較として、サリチル酸(Z)−2−メチル−3−ヘキセン−1−イルおよび2−ヒドロキシ−3−メチル安息香酸(Z)−3−ヘキセン−1−イルも検査された。目的は、置換基の位置によって与えられる重要な効果を示すことであった。同一状況下で、個々の化合物の香りの閾値が測定された。結果が以下に示される。
【0029】
【表5】

【0030】
上記の結果から見られるように、化合物は互いに構造的に密接に関連しているが、香りの閾値はかなり異なっている。結果的に、本発明の化合物がサリチル酸(Z)−3−ヘキセン−1−イルと似ていることは、予想できなかった。
【0031】
例5:さわやかなホワイトフローラル特性のフレグランス組成物
【表6】

【0032】
サリチル酸(Z)−4−ヘプテン−2−イルを100重量部加えることで、上記組成物は、よりスパークリング(sparkling)でラッシュ(lush)な、フランジパニおよびユリ種の望ましいノートがさらにいっそう発展された。
【0033】
例6:スパイシーホワイトフローラル特性のフレグランス組成物
【表7】

【0034】
サリチル酸(Z)−4−ヘプテン−2−イルを100重量部加えることで、上記組成物はよりスパークリングで、軽く、フレッシュになった。さらに、これにより、野生種のカーネーションのとても魅力的なノートを発展することを補助し、一般的に非常に望まれるスパイシーホワイトフローラルノートを補った。
【0035】
例7:スミレおよびフリージア特性のフレグランス組成物
【表8】

【0036】
フレグランス調和(accord)に、サリチル酸(Z)−4−ヘプテン−2−イルを60重量部加えることで、該組成物を繊細なグリーン−フルーティシェード(shade)を持った、ラッシュ(lush)で、スパークリング(sparkling)でさわやかなフローラルにした。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サリチル酸(Z)−4−ヘプテン−2−イルおよびサリチル酸(E)−4−ヘプテン−2−イルから選択される化合物。
【請求項2】
サリチル酸(Z)−4−ヘプテン−2−イルおよびサリチル酸(E)−4−ヘプテン−2−イルから選択される少なくとも一つの化合物を含む、フレグランス組成物。
【請求項3】
サリチル酸(Z)−4−ヘプテン−2−イルおよびサリチル酸(E)−4−ヘプテン−2−イルから選択される化合物の、フレグランス成分としての使用。
【請求項4】
サリチル酸(Z)−4−ヘプテン−2−イルおよびサリチル酸(E)−4−ヘプテン−2−イルから選択される化合物、またはそれらの混合物の有効量を組み入れるステップを含む、フレグランス利用品の製造方法。

【公表番号】特表2008−507479(P2008−507479A)
【公表日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−521770(P2007−521770)
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【国際出願番号】PCT/CH2005/000435
【国際公開番号】WO2006/007755
【国際公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(501105842)ジボダン エス エー (158)
【Fターム(参考)】