サルモネラマーカーワクチン
本発明は、不活性化遺伝子を有するマーカーワクチンとして適切なサルモネラ株に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不活性化phoN遺伝子を有するサルモネラ株に関する。特に本発明は、ΔphoN Salmonella enterica生存減弱化ワクチン株の調製方法に関する。更に本発明は、サルモネラ感染動物からワクチン化動物を識別するための、組換えサルモネラタンパク質phoNを使用する血清学的試験システムに関する。更に、細菌学的試験システムがDIVAのために開示される。
【0002】
本発明は更に、Salmonella enterica ssp. 血清型Enteritidis株CLAB SE404(DSM21972)、及びSalmonella Enteritidis感染の予防のための家禽の処理のための、及び/またはさらなる病原体に対して家畜類を保護する多価組換えサルモネラキャリアーワクチンの調製のための生存減弱化ΔphoNサルモネラマーカーワクチン株としての前記株の使用に関する。CLAB SE404は、血清学的及び/または細菌学的手段によって、ワクチン化動物からの感染動物の識別(Differentiation of infected from Vaccinated Animal;DIVA)が可能である。
【背景技術】
【0003】
非腸チフスサルモネラ症は、動物及びヒトにおける広くいきわたった疾患である。ヒトでは、家禽類及びブタの製品から主として発生する最も一般的な食品媒介疾患である。欧州連合では、食物連鎖への病原性Salmonella ssp.の取り込みを減少すべき監視システムが確立されるであろう(規則EC2160/2003)。ワクチン接種は、家畜における病原性Salmonella ssp.の流行を減少し、かくして伝播速度を最小化するであろう。抗サルモネラワクチンは、例えば産卵鶏及びブタに対して市販されている。ワクチンは、細菌であるか生存減弱化サルモネラワクチンである。産卵鶏では、これらのワクチンを使用して、病原体の卵内伝播と糞への流出を減少する。
【0004】
生存減弱化サルモネラワクチンの効力は、細菌ワクチンより優れていることが見出されている。家畜に対する生存減弱化サルモネラワクチンの好ましい使用は、EC2160/2003の規則と一致するワクチン化動物からの感染動物の識別(DIVA)の方法を要求している。
【0005】
認可されている生存減弱化サルモネラワクチンの主なものは、化学的なミュータジェネシスによってSalmonella enterica ssp. enterica 血清型の規定された野生型単離物から調製される。現在では、生存減弱化サルモネラワクチンは、細菌学的手段によって野生型Salmonella ssp.から識別される。これらの方法は長時間を必要とする労力の要するものである。ワクチン化動物と感染動物の血清学的識別は非常に好ましいであろう。現在利用可能な生存減弱化サルモネラワクチンは、DIVAストラテジーに従った血清学的識別を可能にしない。
【0006】
DIVA生ワクチンは、ウイルス感染の予防のために家畜において成功して使用されている。
マーカーワクチンは、ポジティブマーカーまたはネガティブマーカーとしてのいずれかで調製できる。ポジティブマーカーワクチンは、ワクチン化動物では特異的な抗体を誘導するが感染動物では誘導しないさらなる抗原を含む。後の感染を有するワクチン化動物を単なるワクチン化動物から識別できないため、ポジティブマーカーワクチンは明らかに不利である。
【0007】
ネガティブマーカーワクチンは、感染動物で特異的な抗体を誘導する抗原の除去によって調製される。かくしてネガティブマーカーワクチンは、感染動物のものとは異なるワクチン化動物における体液性免疫応答を誘導する。理想的にはこの差異は、血清学的手段によって検出できる。ポジティブマーカーワクチンとは対照的に、ネガティブマーカーワクチンは、後に感染するようになったワクチン化動物の同定が可能である。
【0008】
ネガティブマーカー抗原の選択には、いくつかの観点が考慮されなければならない:前記抗原は免疫原性でなければならないが、病原体に対して動物を保護する免疫反応に関与してはならない。かくして、マーカー抗原をコードする遺伝子の除去または不活性化は、ワクチン株の免疫原性を維持しなければならない。最後に、家畜に出現して体液性免疫応答を誘導する可能性のある他の生物によって誘導される偽のポジティブな血清学的結果を避けるために、マーカー抗原は病原体に特異的であるべきである。
【0009】
ウイルスワクチンとは対照的に生存減弱化細菌ワクチンの高度な複雑性のため、生存減弱化細菌マーカーワクチンの開発のためにはずっと多大な努力が必要である。ネガティブサルモネラマーカーワクチンの第一の候補は、高度に免疫原性の表面抗原の遺伝子を欠失することによって、生存減弱化サルモネラワクチン株から確立された。これらの生存減弱化サルモネラDNAワクチンは、血清学的手段によってワクチン化動物から感染動物を識別することができた。しかしながらこれらのプロトタイプは、元となるワクチン株よりもずっと保護的ではなかった。
【0010】
phoN遺伝子は非特異的な酸性ホスファターゼをコードし、それは全てのSalmonella ssp.で広く提示されることが見出されている。phoN遺伝子は、PhoPQレギュロンの制御下で発現され、後者はサルモネラにおける毒性遺伝子のための一般的な調節因子である。phoNが動物におけるサルモネラの生存に必須であるかは未知である。
【0011】
PhoPQレギュロンへのphoNのリンケージは、サルモネラが宿主組織を占有する際はいつでも、phoNが活性化されることを示すであろう。かくして、生存減弱化サルモネラワクチン株におけるphoN遺伝子の除去または不活性化が、ワクチン化動物における保護的免疫性を誘導する能力にネガティブに影響する可能性があるかどうかという疑問が残っている。生存減弱化サルモネラワクチン株における単一の遺伝子の欠失が残存している毒性を更に減少し、それが宿主の免疫応答の刺激を減少させ、その結果保護的免疫を阻害するかもしれないことが既知である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Springer等, 2000, Berl. Munch. Tierarztl Wschr. 113, 246-252
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、当該技術分野のワクチンの上述の欠点を少なくとも部分的に解消するネガティブマーカーワクチンとして適切なサルモネラ株を提供することである。
【0014】
本発明では、サルモネラDIVAワクチンの調製のための標的として、phoN遺伝子が選択された。驚くべきことに、phoN遺伝子は、生ワクチンとして特に適切なphoN欠損サルモネラ株を作製する特徴の組み合わせを提供する。
【0015】
第一の驚くべき特徴は、サルモネラと比較した全てのサルモネラではない細菌におけるPhoNタンパク質の構造の差異である。他方で、PhoNアミノ酸配列は、各種のサルモネラ種において少なくとも95%の同一性(アミノ酸配列の全量に対して計算される)の度合いを有する。
【0016】
第二の驚くべき特徴は、PhoNが免疫原性であるという事実である。Salmonella ssp.で感染されたチキン及びマウス由来の血清の分析により、精製PhoNタンパク質に特異的に結合する抗体の出現が明白に明らかにされた。この結果は、PhoNが免疫原性であり、サルモネラに感染した鳥類及び哺乳類を検出するための血清学的マーカー抗原として使用できるという最初の証拠を提供する。サルモネラワクチン株においてphoN遺伝子の発現を破壊すると、これは血清学的手段によりワクチン化動物から感染動物を識別することを可能にするであろう。かくして、PhoN抗原を欠損したサルモネラ生ワクチンによってワクチン化された動物は、PhoN特異的抗体を生産しない一方、野生型サルモネラで感染された動物ではこの抗体を生産するであろう。
【0017】
第三の驚くべき特徴は、生存減弱化サルモネラワクチン株のphoN遺伝子の除去は、ワクチン株の毒性を更に減少させるかもしれないが、その免疫原性と同種血清型のサルモネラ感染からワクチン化チキンを保護する効力には影響しないという事実である。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の第一の主題は、不活性化phoN遺伝子を有するサルモネラ株である。これはΔphoNによってここで記載される。ΔphoNサルモネラ株は、本質的にphoN活性を有さない。分子生物学界の当業者であれば、サルモネラのような細菌における遺伝子不活性化の方法は既知である。
【0019】
phoNの不活性化は、phoN遺伝子の欠損または/及び修飾を含む。特に本発明のサルモネラ株は、PhoNタンパク質、またはPhoNタンパク質またはその断片に対する免疫応答を誘導できるPhoNタンパク質の断片を実質的に生産しない、即ち本発明のサルモネラ株は、PhoNタンパク質またはその断片に関して免疫原性ではない。phoN遺伝子は、完全にまたは少なくとも部分的に欠失されて良い。phoN遺伝子の部分的な欠失は、phoN遺伝子の全長配列の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも98%の欠失であって良い。phoN遺伝子配列が部分的に欠失されているのであれば、残余の配列は好ましくは、PhoNタンパク質またはその断片、特にここに記載される免疫原性断片を発現できない。
【0020】
phoN遺伝子配列の修飾は配列置換を含む。phoN遺伝子は、別の配列によって完全に置換されて良い。phoN遺伝子の欠失配列は、他の配列によって完全にまたは部分的に置換されて良い。
【0021】
phoN遺伝子のコード配列(オープンリーディングフレーム)は、完全にまたは少なくとも部分的に欠失されて良い。phoNコード配列の部分的な欠失は、全長phoNコード配列の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも98%の配列の欠失であって良い。phoNコード配列が部分的に欠失されているのであれば、残余の配列は好ましくは、PhoNタンパク質またはその断片、特にここに記載される免疫原性断片を発現できない。
【0022】
phoNコード配列の修飾は配列置換を含む。phoNコード配列は、別の配列によって完全に置換されて良い。phoNコード配列の欠失配列は、他の配列によって完全にまたは部分的に置換されて良い。
【0023】
サルモネラにおけるphoNポリペプチドの配列の典型的な例は、図1に記載されている(配列番号1〜20)。サルモネラphoN遺伝子ローカスの典型的な例は図2に示されており、それはphoNオープンリーディングフレーム(ORF)と、phoN ORFの上流または/及び下流の調節配列を含む(配列番号23〜27)。
【0024】
本発明のphoNポリペプチドの断片は、少なくとも10、少なくとも20、または少なくとも30のアミノ酸残基の長さを有して良い。それらは最大で200、最大で150、または最大で100アミノ酸残基の長さを有して良い。断片は免疫原性断片(ここで免疫原性部分とも称される)を含む。
【0025】
phoN遺伝子の不活性化は、ここで記載されている通り、例えばphoNコード領域の完全なまたは少なくとも部分的な欠失による、またはphoNコード領域の置換による、不可逆的な不活性化である。特に不可逆的な不活性化は、本発明のサルモネラ株が野生型phoN遺伝子型に戻ることを防止する。
【0026】
上述のように、本発明のサルモネラ株は、PhoNタンパク質に対する免疫応答を誘導できるPhoNタンパク質を実質的に生産しない、即ち本発明のサルモネラ株は、PhoNタンパク質またはその断片に関して免疫原性ではない。PhoNタンパク質またはその断片に関する免疫原性は、本発明のサルモネラ株で処理されるいずれかの種における免疫原性であって良い。特にPhoNタンパク質またはその断片に関する免疫原性は、哺乳動物、例えばブタまたは鳥類、例えばチキンのような家禽における免疫原性である。
【0027】
当業者は、サルモネラ株または非サルモネラ株におけるPhoNポリペプチド及びphoN遺伝子を同定することができる。本発明では、サルモネラPhoNタンパク質は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、及び配列番号20から選択される配列を含むタンパク質、または選択された配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である配列を含むポリペプチドであって良く、ここで同一性は選択された配列の長さに関して計算される。非サルモネラPhoNタンパク質は、EscherichiaまたはShigellaから得られるPhoNタンパク質であって良く、配列番号21及び配列番号22から選択された配列、または配列番号21及び配列番号22から選択された配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である配列を含むポリペプチドであって良く、ここで同一性は選択された配列の長さに関して計算される。
【0028】
本発明に係る株を得るためにここに記載されたphoN不活性化に供されるサルモネラ株は、Salmonella enterica ssp.から選択されて良い。サルモネラ株は、Salmonella enterica ssp. entericaの血清型から、例えば血清型Enteritidis、Dublin、Gallinarum、Typhimurium、Newport、Choleraesuis、Agona、Hadar、Heidelberg、Kentucky、Saintpaul、Virchow、Weltevreden、Javiana、Schwarzengrund、Paratyphi、及びTyphiから、または図1に挙げられた血清型から選択されて良い。
【0029】
ここに記載されるphoN不活性化に供されるサルモネラ株は、減弱化サルモネラ株、例えば生存減弱化サルモネラ株、例えば生存減弱化Salmonella enterica ssp. enterica血清型Enteritidis His- Ade-株、例えばSalmovac SE(Springer等, 2000, Berl. Munch. Tierarztl Wschr. 113, 246-252)またはその変異体であって良い。
【0030】
ここに記載されるphoN遺伝子の不活性化は、認可された生存減弱化サルモネラワクチンに適用されても良い。これらの株は、家畜のサルモネラ感染を避け、同時にサルモネラに感染した家畜からワクチン化した家畜の識別を可能にするために、免疫原性に影響することなく生存減弱化サルモネラΔphoNマーカーワクチンに形質転換されて良い。化学的なミュータジェネシス及び/または遺伝的な操作によって調製されている生存減弱化サルモネラワクチン株について、または少なくとも一つの更なる同種抗原、及び/または異種病原体の少なくとも一つの更なる抗原を発現するために、例えば担体として生存減弱化サルモネラワクチン株を使用するいずれかの組換えサルモネラワクチンアプローチについて、またはワクチン化のためにDNAを送達する担体として使用される生存減弱化サルモネラワクチン株について、これらの形質転換法を適用することができる。
【0031】
生存減弱化サルモネラワクチン株である、ここに記載されたphoN不活性化に供されるサルモネラ株は、特に以下のものである:
(i)化学的なミュータジェネシス及び/または遺伝的な操作によって調製されたワクチン株;
(ii)少なくとも一つの同種サルモネラ抗原、及び/または少なくとも一つの異種抗原、たとえば異種病原体の抗原を任意に組換え発現する組換えワクチン株;または
(iii)DNAを送達するための組換え担体株。
【0032】
本発明の好ましいサルモネラ株は、Salmonella enterica enterica Enteritidis株CLAB SE404(DSM21972)、及びそれから由来するいずれかの株である。
【0033】
本発明のサルモネラ株、特にDSM21972株は、医薬、例えば獣医薬において使用されるものであって良い。本発明のサルモネラ株、特にDSM21972株は、ワクチンとして使用するためのものであって良い。本発明のサルモネラ株、特にDSM21972株は、生ワクチンとして使用のするためのものであって良い。本発明のサルモネラ株、特にここに記載されるワクチン、とりわけDSM21972株は、サルモネラ感染に対して、特にSalmonella enterica sspでの感染に対する保護するためのワクチンとして使用するためのものであって良い。本発明のサルモネラ株、特にDSM21972株は、哺乳動物、例えばブタまたは鳥類、例えばチキンのような家禽における使用のためのものであって良い。
【0034】
本発明のサルモネラ株、特にDSM21972株は、医薬、例えば獣医薬における医薬の製造のために使用されて良い。本発明のサルモネラ株、特にDSM21972株は、ワクチンの製造のために使用されて良い。本発明のサルモネラ株、特にDSM21972株は、生ワクチンの製造のために使用されて良い。本発明のサルモネラ株、特にここに記載されるワクチン、とりわけDSM21972株は、サルモネラ感染に対して、特にSalmonella enterica ssp.での感染に対して保護するためのワクチンの製造のために使用されて良い。本発明のサルモネラ株、特にDSM21972株は、哺乳動物、例えばブタまたは鳥類、例えばチキンのような家禽における使用のための医薬の製造のために使用されて良い。
【0035】
本発明のワクチン、特にDSM21972は、後のサルモネラ感染に対して、特にSalmonella enterica ssp.での後の感染に対して保護するためのワクチン、及び更なる病原体に対して保護する多価組換えサルモネラ担体ワクチンを調製するためのワクチンであって良い。前記ワクチンは、少なくとも一つの同種サルモネラ抗原、及び/または少なくとも一つの異種抗原、たとえば異種病原体の抗原を任意に組換え発現する。前記ワクチンは、哺乳動物、例えばブタまたは鳥類、例えばチキンのような家禽に対する投与に適したものであって良い。
【0036】
本発明の主題は、本発明のサルモネラ株、特にDSM21972株の、その必要のある被験者に対する投与を含む、サルモネラ感染の予防または/及び治療のための方法である。前記被験者は、哺乳動物、例えばブタまたは鳥類、例えばチキンのような家禽であって良い。
【0037】
本発明の更なる主題は、本発明のサルモネラ株の、その必要のある被験者に対する投与を含む、病原体での感染の予防または/及び治療の方法であり、本発明のサルモネラ株は、この病原体に対する保護を与えるために調製され、例えば多価サルモネラ生ワクチンである。このサルモネラ株はDSM21972から由来することが好ましい。前記被験者は、哺乳動物、例えばブタまたは鳥類、例えばチキンのような家禽であって良い。とりわけ前記病原体はサルモネラとは異なる。
【0038】
本発明のまた別の主題は、サルモネラ株のphoN遺伝子を不活性化することを含む、ここに記載されるサルモネラ株、特にDSM21972株の生産方法である。
【0039】
上述のように、phoNの不活性化は、生存減弱化サルモネラワクチン株の毒性を更に減少しても良いが、形質転換されたサルモネラワクチン株の免疫原性には影響しない。それ故phoN不活性化は、生存減弱化サルモネラDIVAワクチン株を生産する適切な方法である。
【0040】
生存減弱化ΔphoNサルモネラDIVAワクチンの調製は、サルモネラ感染に対して、特にSalmonella enterica ssp.での感染に対して、例えば鳥類及び/または哺乳類家畜を保護することができるいずれかの生存減弱化サルモネラワクチン株から開始することができる。DSM21972の調製は、サルモネラSE株の変異体から開始された。そのようなサルモネラワクチン株から、遺伝学的操作を適用することにより、phoN遺伝子をここに記載されたように不活性化する。phoNの不活性化が完成した後、元となるサルモネラ変異体株に対して出現した差異を評価するために、個々のサルモネラ変異体株を分析しなければならない。phoNサルモネラ変異体株は好ましくは、元となるサルモネラ変異体株由来のphoN遺伝子を除いて生物学的特徴は本質的に同一である。phoNサルモネラ変異体株が、phoNとは関連しない一つ以上の特徴において元となるサルモネラ変異体株とは異なるのであれば、これらの変更は永久的であっても良く、最も重要には、適切なワクチン化動物において後のサルモネラ感染に対して保護的免疫応答を誘導する元となる株のオリジナルの免疫原性特徴を必須に維持しても良い。
【0041】
好ましくはphoNは、遺伝学的操作によってphoN遺伝子をコードする核酸断片の欠失により不可逆的に不活性化される。不活性化法は、phoNの転写が開始されるアクセサリー核酸の欠失をも含んで良い。phoNの欠失は、新規な転写産物の出現を抑制するそのような態様で実施されても良い。遺伝学的操作は、ここに記載されるサルモネラのゲノムのいずれかのプロセッシングを包含する。好ましくは相同的組換えの方法は、ゲノムの残りの部分を変化させないままphoN遺伝子の正確な欠失を可能にするはずであり、それはここで「クリーンな」欠失法と記載される。更に、Datsenko及びWannerによって記載されたλファージRedリコンビナーゼのような一時的に共発現されるリコンビナーゼによって実施される相同的組換えの方法が好ましい。
【0042】
本発明のサルモネラ株は、例えば少なくとも30%、少なくとも50%、または少なくとも90%までの減少した自動性、及び/または例えば少なくとも30%、少なくとも50%、または少なくとも90%まで減少したバイオフィルム形成能力を有して良い。
【0043】
上述したように、phoNサルモネラ株、特に生存減弱化ΔphoNサルモネラ株、とりわけDSM21972はマーカーワクチンであって良い。DSM21972のような生存減弱化ΔphoNサルモネラマーカーワクチン株は、血清学的及び/または補助的細菌学的手段によって、ワクチン化動物からの感染動物の識別(DIVA)が可能である。
【0044】
本発明のまた別の主題は、血清学的マーカー抗原としてのサルモネラPhoNポリペプチドまたは/及びその免疫原性断片を含むポリペプチドの使用である。血清学的マーカー抗原は、PhoNポリペプチドから由来するいずれかの抗原であって良い。phoN抗原は、全長PhoNポリペプチドを含む、または好ましくは少なくとも10、より好ましくは少なくとも20、更により好ましくは少なくとも30アミノ酸の長さを有するそのいずれかの免疫原性部分を含むポリペプチドであって良い。PhoNポリペプチドは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、及び配列番号20から選択される配列を含むポリペプチド、または配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、及び配列番号20から選択される配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である配列を含むポリペプチドであって良く、ここで同一性%は選択された配列の全長に対して計算される。前記免疫原性部分は、ここに記載されたPhoNポリペプチドの配列に対して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一であるアミノ酸部分を有する配列を有してよく、ここで同一性%は前記免疫原性部分の長さに対して計算される。ここに記載される同一性は、BLASTまたはFASTAのような一般的なアルゴリズムによって計算されて良い。好ましい配列は、CLAB_SE360から由来する配列番号1である(図1参照)。
【0045】
ここに記載される血清学的マーカー抗原は、本発明のサルモネラ株でのワクチン化の後のワクチン化動物からの感染動物の識別(DIVA)のために使用されて良い。
【0046】
本発明のphoN抗原は、phoN核酸の組換え発現によって、特に大腸菌のような組換え宿主細胞において調製されて良い。phoN抗原は、任意に適切な防腐剤とともに、凍結ストックとしてまたは凍結乾燥物として提供されて良い。
【0047】
本発明のまた別の主題は、少なくとも一つの組換えサルモネラphoN抗原、またはいずれかのその免疫原性部分、及び任意に更なる試験成分を含む、サルモネラphoN抗原に対して向けられた抗体を検出するための血清学的試験システムである。前記血清学的試験システムは、本発明のサルモネラ株、特に生存減弱化ΔphoNサルモネラDIVAワクチン、例えばCLAB SE404(DSM21972)の識別が可能であって良い。少なくとも一つのphoN抗原はここに記載された抗原である。サルモネラphoN抗原は好ましくは、配列番号1の配列、または配列番号1と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である配列を含み、ここで同一性は配列番号1の長さに対して計算される。
【0048】
前記血清学的試験システムでは、前記抗原はサルモネラで感染されている疑いのある動物、またはワクチン化後にサルモネラで感染された可能性のある動物の血清中の抗体を特異的に検出する標的抗原として機能する。本発明のサルモネラ株、特に生存減弱化サルモネラDIVAワクチンによって成功して免疫化されている動物の血清が使用されると、PhoN標的抗原によって抗体は検出されない。検出はELISAフォーマットで実施されて良い。
【0049】
任意に、サルモネラLPSのような更なるサルモネラ特異的抗原が血清学的試験システムで使用され、前記システムは、野生型サルモネラと本発明のサルモネラ変異体株、特に生存減弱化ΔphoNサルモネラDIVAワクチンの両者によって誘導された抗体を検出する。
【0050】
本発明のまた別の主題は、ここに記載されたサルモネラ抗原をコードするphoN核酸である。phoN核酸は、PhoNポリペプチドまたはここに記載されるその断片、例えば配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、及び配列番号20から選択される配列を含むポリペプチド、または前記配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である配列を含むポリペプチドをコードする配列を含み、ここで同一性は前記配列の長さに対して計算される。前記核酸は、ここに記載されたPhoNポリペプチドのいずれかの免疫原性断片をコードしても良い。
【0051】
phoN核酸は、適切な組換えDNAベクターを使用することにより、例えば大腸菌のような宿主において、組換えサルモネラphoN抗原またはいずれかのその免疫原性部分の製造のために使用されてよい。phoN抗原は、ここに記載された抗原であって良い。phoN抗原は、配列番号1の配列、または配列番号1と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である配列、またはここに記載されたその免疫原性部分を含んでよい。同一性は配列番号1の長さに対して計算される。
【0052】
本発明の更なる主題は、野生型Salmonella ssp.と本発明のサルモネラ株、例えば生存減弱化ΔphoNサルモネラDIVAワクチンの識別のための細菌学的試験システムに関する。この細菌学的試験システムは、生物学的サンプル中のサルモネラの検出を調節する公的な標準的方法を完成している。
【0053】
本発明の細菌学的試験システムは、サルモネラコロニーが標準的な検出法でいつ出現したか、これらが野生型サルモネラか本発明のサルモネラ株、例えば生存減弱化ΔphoNサルモネラかを明らかにする。個々のサルモネラコロニーのゲノムがphoN遺伝子またはその断片を含むかを評価するため、少なくとも一つ疑わしいサルモネラコロニーが分析される。分析はPCR法によって、または/及びPhoN活性または/及びPhoN遺伝子産物の検出によって実施されてよい。疑わしいサルモネラコロニーの代表的な株、例えば少なくとも5、少なくとも10、少なくとも15、または少なくとも20のコロニーが分析されてよい。
【0054】
PhoN活性は、PhoN特異的基質ミックスを含むマイクロタイタープレートのウェルのような別個のバイアル内に単一のコロニーの一部を移すことによって測定でき、そこでPhoNは視覚的制御または適切な装置によって検出できる発色生成物を生成する。PhoNは、PhoN活性の測定のための完全な細胞の使用を可能にするSalmonella ssp.の細胞質内空間に局在している。前記試験システムによれば、野生型サルモネラは発色生成物を生成することによってPhoN活性を示す一方、生存減弱化ΔphoNサルモネラはそれを示さない。適切な基質はBCIPであって良い。
【0055】
本発明のサルモネラ株は、ISO6579に従った試験によって検出されて良い。ISO6579は参考としてここに含まれる。ISO6579に従って試験により、PhoN活性は発色性基質BCIPによって検出されてよい。
【0056】
本発明は更に以下の図面、実施例、及び配列表によって説明される。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】図1は、各種のSalmonella enterica enterica血清型の間のPhoNタンパク質の相同性を示す図である。
【図2A】図2は、Salmonella enterica enterica血清型のphoNのゲノム領域を示す図である(配列番号23〜25)。
【図2B】図2は、Salmonella enterica enterica血清型のphoNのゲノム領域を示す図である(配列番号26)。
【図2C】図2は、Salmonella enterica enterica血清型のphoNのゲノム領域を示す図である(配列番号27)。
【図3】図3は、Datsenko及びWannerによって記載された置換組換えを使用する、生存減弱化Salmonella enterica enterica Enteritidisワクチン株Salmovac SEのphoN欠失ミュータントの調製のためのストラテジーを説明する図である。S. Enteritidisワクチン株Salmovac SEと同一であるphoNローカスを包含するS. Enteritidis P125109株のゲノム領域が例示的に示されている。前記ゲノム領域はNCBI(National Center for Biotechnology Information)データベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/genomues)で寄託されているNC_011294.1配列の4.419.410ヌクレオチド(nt)で開始する。いずれかのオープンリーディングフレーム(ORF)の向きと長さが矢印で示されている。注釈付のORFは黒矢印で説明され、他のものはストライプの矢印で説明されている。phoNについては、中抜きの矢印で説明されている二つのプロモーター(P1、P2)が予測されている。図3Aは、phoN遺伝子を含む欠失領域の境界(黒塗り縦線)を例示的に説明する。図3Bは、phoNの置換の後の元のゲノム領域内のORFを説明する。元のORFの三つ(ORF1−3)は、組換え法によって伸張されるようになる(中抜き矢印)。
【図4】図4は、図3に記載された置換組換えによるS. Enteritidisワクチン株Salmovac SEから調製されたphoNミュータント株のゲノム領域内の逆転写PCT(RT−PCR)を説明する。図4Aでは、推定のアセチルトランスフェラーゼ(黒矢印)として命名されたORFのRT−PCR分析のデータが説明されている。この分析は、推定のアセチルトランスフェラーゼ及び引き続くORF1−3を包含する転写産物(mRNA)を明らかにした。RT−PCRは更に、前記転写産物が置換断片内に亘っているが、驚くべきことにこの断片を通過していないことを明らかにした。上部の右枠では、置換断片の一次構造と含まれるFRT部位が示されている。FRT部位は、高安定性(−17kcal/mol)の二重構造を形成する。FRT部位は実際には、置換断片を超えたORF1−3の発現を抑制する転写終了因子として機能することが示唆される。RT−PCRのためのプライマーは、(1)置換断片を通過する、または(2)FRT部位の前の領域をカバーする、のいずれかである転写産物を検出するために着想される。図4Bは、逆転写酵素(RNA)で処理されている、またはPCRの前に未処理のままである(DNA)S. EnteritidisΔphoNワクチン株から得られたRT−PCR産物のアガロースゲル電気泳動を示す。このデータは純粋なRNAプローブを明らかにする。コントロールとして、gyrB遺伝子のRT−PCRが提供される。すでに記載したとおり、置換断片を越えた転写産物はほぼ破壊され(レーン1)、対照的にFRT部位の前で終結する転写産物が生成される(レーン2)。
【図5】図5は、野生型S. Enteritidis株の毒性を、生存減弱化S. Enteritidisワクチン株Salmovac SE及びΔphoNミュータント株CLAB_SE404と比較した結果を示す図である。各種のサルモネラ株の相対的な毒性を、24時間の期間以内のMDCK細胞中のサルモネラの生存割合を測定することにより評価した。10のMOIで野生型S. Enteritidis株で細胞を感染させた。両者の生存減弱化S. Enteritidisワクチン株を100のMOIで投与した。2時間の感染期間の後、培養倍地中の過剰な細菌を洗浄により除去した。更にゲンタマイシン[25μg/ml]を添加し、過剰なサルモネラ細胞を抑制した。適切な条件化での感染細胞の24時間の培養の後、1%トリトン−X100を含むPBS中のMDCK細胞の溶解により、細胞内サルモネラの数を測定した。前記データは、野生型S. Enteritidis単離物と比較して、MDCK細胞内の両者の生存減弱化S. Enteritidisワクチン株の大きく減少した維持を明らかに示す。驚くべきことに、前記データは、MDCK細胞中の両者のサルモネラワクチン株について異なる生存割合を明らかにした。CLAB_SE404は、図3の注釈で記載された生存減弱化S. Enteritidisワクチン株Salmovac SEから調製されている、異なるΔphoNミュータントクローンの非自動性変異体である。前記データは、先祖株のSalmovac SEと比較して、CLAB_SE404の減少した毒性を示した。
【図6】図6は、二つのΔphoNS. Enteritidisワクチン株の毒性を、白色レグホンチキンで更に評価した結果を示す図である。前記動物を、CLAB_SE404またはCLAB_SE441のいずれかの1−2×108CFUを使用して、1及び21日齢で経口ワクチン化した。CLAB_SE441は、S. EnteritidisΔphoN[ade/his]−の自動性変異体である。対照的に、CLAB_SE404は、S. EnteritidisΔphoN[ade/his]−の非自動性変異体である。ワクチン化の各種の時間後で、5匹の動物を犠牲にし、ワクチン化動物の各種の組織で細菌の数を測定した。高いコロニー形成値は、選択的XLT−4アガープレート上での直接培養によりサルモネラが検出されたことを示す。ペプトン水における富化培養と、その後のISO6579に記載されたMSRVアガープレートでのインキュベーションの後に、残余のコロニー形成を測定した。前記データは、両者のΔphoNS. Enteritidisワクチン株の間の毒性の差異を確認する。CLAB_SE404は、CLAB_SE441と比較してワクチン化チキンの組織からずっと迅速に消失する。
【図7】図7は、CLAB_SE404で二度ワクチン化された白色レグホンチキンが、野生型S. Enteritidis(SE147N)の1−2×108CFUを使用して経口チャレンジ感染を受けた結果を示す図である。チャレンジ感染はブースターワクチン化の21日後で投与され、更に14日間分析された。コントロールとして、何も処理していない白色レグホンチキンを同じ42日齢で感染させた。各種の時間で、両者の動物群内のサルモネラの流出と組織コロニー形成を測定し、その結果が図7Aに要約されている。前記データは、ワクチン化動物の明らかな保護を明らかにする。かくして、野生型S. Enteritidisを流出する動物の数は、ワクチン化群において明らかに減少する。更に、脾臓及び肝臓においてサルモネラを有する動物の数は、非処理コントロール群と比較してワクチン化動物でここでも低い。ワクチン化動物では、何も処理していない動物よりも盲腸の含有物における野生型サルモネラの数が著しく減少していた(図7B)。前記データは、Salmovac SEΔphoNワクチン株の非自動性変異体であるCLAB_SE404の保護的特徴を明らかに示す。
【図8】図8は、ISO6579に従った標準的なサルモネラ検出試験と平行して使用される細菌学的phoN−DIVA試験の承認を示す図である。図8Aは、XLT4アガープレートと、発色性ホスファターゼ基質BCIP[80μg/ml]を補ったLB−アガープレートのそれぞれに、野生型Salmonella TyphimuriumとEnteritidisを平行植菌したことを例示的に示す図である。野生型Salmonella TyphimuriumとEnteritidisは一般的に、XLD/XLT4アガープレートでは黒色のコロニーとして、BCIP LB−アガープレート(PhoN−DIVA試験)では青緑色のコロニーとして出現する。図8Bでは、生存減弱化Salmonella EnteritidisΔphoNワクチン株CLAB_SE404の平行植菌が示されている。ΔphoNサルモネラワクチン株は、サルモネラ特異的XLD/XLT4アガープレートでは黒色コロニーを出現するが、BCIP LB−アガープレートでは非着色を維持した。サルモネラはホスファターゼ活性を有するいくつかの酵素を発現することが既知であるため、この発見は驚くべきものである。phoN遺伝子の不活性化は、ここに記載された発色性ホスファターゼ反応を阻害するのに十分であることが結論付けられる。概略が記載された試験は、生存減弱化phoN−DIVAS. Enteritidisワクチン株CLAB_SE404を使用してセットアップされた標準的なサルモネラ試験の範囲内で、ワクチン化動物からの感染動物の明白な識別が可能である。
【図9】図9は、白色レグホンチキンにおけるPhoN−DIVA抗体試験を示す。特に、サルモネラ感染チキン由来の血清(Inf)と、生存減弱化S. EnteritidisphoN−DIVAワクチン株CLAB_SE404で免疫化されたチキン由来の血清(Vac)を使用する、イムノブロット分析によって承認されたPhoN−DIVA抗体試験の特異性を示す。図9Aのブロットは、サルモネラPhoNの二つの組換え変異体であるPhoNFP101とPhoNFP201で調製された。ブロッティングの前に10%Schagger-JagowPAGEで精製サンプルを分離しておいた。PhoNFP101は元となるPhoNの一次構造をカバーしている。PhoNFP201は、切り詰められたNH2末端と、PhoNの活性中心でアミノ酸置換を有し、不活性なPhoNを生じている。イムノブロット分析は、適切なアルカリホスファターゼ接合抗血清を使用して、IgG特異的免疫応答を示す。分子量マーカーはレーンMで示されており、それぞれ43、34及び26kDaに対応する。図9Aに示されたphoN-DIVA抗体試験は、生存減弱化S. EnteritidisphoN-DIVAワクチン株CLAB_SE404で二度免疫化されたチキン由来の血清(Vac)と、毒性S. Enteritidis株SE147Nで感染された未処理の動物由来の血清(Inf)で実施された。Inf群の抗体は両者の変異体Pho抗原に結合する。Vac群はPhoN特異的抗体を生産しない。図9Bでは、各種の時間での感染の両動物群の血清を使用するELISAで測定された、S. Enteritidis溶解物に対するIgG力価が説明されている。DIVA−Vac群では、チャレンジ感染の前(0)及び後、感染後7日目と28日目でIgG力価が測定された。Inf群では、同じ態様でIgG力価が測定された。
【図10】図10は、融合タンパク質PhoNFP101(左側のマップ)とPhoNFP201(右側のマップ)の調製のために使用された発現プラスミドのマップを示す図である。
【図11】図11は、PhoNFP101の遺伝子(A)とコードされた融合タンパク質(B)の配列を示す図である。
【図12】図12は、PhoNFP201の遺伝子(A)とコードされた融合タンパク質(B)の配列を示す図である。
【実施例】
【0058】
実施例1
National Center for Biotechnology Information(NCBI)のインターネットポータルを介したデータベース「nr」を使用するBLAST2.2.18によって各種のSalmonella enterica enterica血清型内のタンパク質PhoNの相同性を評価した。Salmonella Enteritidis株CLAB_SE360のタンパク質PhoNのアミノ酸配列を、クエリー配列(配列番号1)として使用した。CLAB_SE360は、ワクチン株Salmovac SEの変異体である(Springer等, 2000, Berl. Munch. Tierarztl, Wschr. 113, 246-252)。各種のPhoNタンパク質の一次構造内の非同一アミノ酸が、着色によって強調されている。前記データは、各種のサルモネラ血清型内でPhoNタンパク質の一次構造が>96%で同一性を有していることを明らかにする。
【0059】
対照的に、非サルモネラ細菌内でのPhoNタンパク質の一次構造は、Salmonella enterica enterica血清型のPhoNタンパク質と低い関係(<40%の同一性)しか有さない。非サルモネラ細菌の最も関連するPhoNアミノ酸配列が示されている。同一のアミノ酸のみが示されている。変異体(−)、付加的(+)、または欠けている(Δ)アミノ酸が示されている。全配列は配列表に記載されている(配列番号21及び22)。
【0060】
この結果は図1に要約されている。
【0061】
実施例2
T. Shigaki及びK.D. Hirschi (Anal. Biochem. 2001, 298:118-120)またはK.A. Datsenko及びB.L. Wanner(PNAS 2000, 97:6640-6645)によって記載されたような遺伝学的操作による、ΔphoNサルモネラミュータントの調製に関連するphoN遺伝子と隣接領域を含む各種のSalmonella enterica enterica血清型のphoNゲノム領域が記載される。
【0062】
phoNゲノム領域は、以下のように図2に示されている:
図2A:S. Enteritidis str. P125109(RefSeq NC011294.1から引用)
S. Dublin str. CT_02021853(RefSeq NC011205.1から引用)
S. Gallinarum str. 287/91(RefSeq NC011274.1から引用)
図2B:S. Typhimurium str. LT2(RefSeq NC003197.1から引用)
図2C:S. Choleraesuis str. SC-B67(RefSeq NC006905.1から引用)
【0063】
実施例3
本実施例では、phoN遺伝子が、生存減弱化Salmonella Enteritidisワクチン株Salmovac SEの変異体から元々由来したSalmonella Enteritidis株のゲノムから遺伝学的操作により除去された。驚くべきことにより詳細な分析により、ΔphoNSalmonella Enteritidisワクチン株変異体の集団において差異が示された。いくつかの限られたΔphoNワクチン株変異体は、先祖株及び他のΔphoNワクチン株変異体の少なくとも30%である自動性活性を有する。更に、この減少した自動性のΔphoNワクチン株変異体は、バイオフィルムを形成する能力も減少しており、このことは更に先祖株及び他のΔphoN変異体とは異なる。
【0064】
指摘された差異に加えて、調査された全てのΔphoNSalmonella Enteritidis変異体はアデニン及びヒスチジンに対して独立栄養性であり、複雑なリポポリサッカリド(LPS)を発現する。それらは既知の毒性プラスミドのいずれかを含むものではない。かくして、全てのΔphoNSalmonella Enteritidis変異体は、ドイツにおける産卵鶏のワクチン化について承認されているSalmovac SEの関連する特徴を含む。
【0065】
単一の変異体、CLAB SE404を、減少した自動性とバイオフィルム能力を有するΔphoNSalmonella Enteritidis変異体の集団から選択した。CLAB SE404の更なる分析により、これらの更に同定された特徴が150世代を超えて安定であることが明らかにされた。
【0066】
株CLAB SE404は、寄託番号DSM21972の下で、DSMZ-Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH, Inhoffenstrabe 7B, D-38124 Braunschweigに2008年11月10日でブタペスト条約の下で寄託されている。
【0067】
以下の分析では、CLAB SE404の毒性と効力を、自動性ΔphoNSalmonella Enteritidisワクチン株変異体及び元となるワクチン株と比較した。
【0068】
サルモネラワクチン株の毒性を、in vitro及びin vivo実験によって評価した。MDCK細胞の定量的な感染により、CLAB SE404が先祖株及び自動性ΔphoNSalmonella Enteritidis変異体よりもMDCK細胞において毒性が小さいことが明らかに示された。
【0069】
一日齢のチキンを、CLAB SE404または自動性ΔphoNSalmonella Enteritidis群の単一の変異体のいずれかで経口的に植菌した。その後、ワクチン化動物の各種の組織におけるサルモネラの存在を、細菌学的手段により測定した。前記データは、ワクチン化の7日後で両者の動物群において肝臓及び脾臓における同量のサルモネラを明らかにする。この後、CLAB SE404の量は、肝臓及び脾臓で減少するが、自動性ΔphoNSalmonella Enteritidis変異体株を受けた動物の器官では高いままである。盲腸組織では、同様の結果が得られた。このデータは、CLAB SE404が自動性ΔphoNSalmonella Enteritidis変異体よりも毒性が低いことを明らかに示す。CLAB SE404は、自動性ΔphoNSalmonella Enteritidis変異体よりもずっと早期に、ワクチン化チキンの組織及び排泄物から消失する。
【0070】
ΔphoNSalmonella Enteritidis株の免疫原性を、1日齢及び21日齢で、CLAB SE404または自動性ΔphoNSalmonella Enteritidis変異体のいずれかで経口的にワクチン化されたチキンにおいて測定した。両動物群の体液性及び粘膜性免疫応答を、サルモネラ抗原を使用するELISAによって評価した。そのデータにより、両者のワクチン株は、経口的にワクチン化されたチキンにおいて体液性及び粘膜性免疫応答を誘導することが明らかとなり、この免疫応答は最後のワクチン化の50日以上後でも高いままであった。かくして、CLAB SE404は、自動性ΔphoNSalmonella Enteritidis変異体と同様の免疫原性効力を有する。
【0071】
最後に、1日齢及び21日齢でCLAB SE404または自動性ΔphoNSalmonella Enteritidis変異体のいずれかによって経口的にワクチン化されたチキンは、毒性Salmonella enterica enterica Enteritidis単離物でのチャレンジ感染に抵抗性であることを示すことができた。かくして、CLAB SE404は、自動性ΔphoNSalmonella Enteritidis変異体と同様の保護的効力を有する。
【0072】
要約すると、CLAB SE404は、低い流出と高い効力を有する家禽のための新規な生存減弱化サルモネラワクチンとして同定され、更にワクチン化動物から感染動物を識別することが可能であることが同定された。
【0073】
実施例4
PhoN−DIVA抗体試験のための組換えPhoNタンパク質の調製
PhoN−DIVA抗体試験は、組換えPhoNに基づいて好ましくは調製される。精製組換えPhoNでの以前のイムノブロット分析により、生存減弱化サルモネラphoN−DIVAワクチン株でワクチン化された動物は、この全体タンパク質に結合する抗体を生成しないことが明らかである。PhoNタンパク質の複雑性と、体液性免疫応答の広範囲の反応性にも関わらず、phoN−DIVAサルモネラワクチン株で免疫化された動物の血清内で、交差反応する抗体が存在しないことは驚くべきことであった。
【0074】
PhoN−DIVA抗体試験のための組換えPhoNは、高純度で調製されてよい。いずれかの不純物は、PhoN−DIVAサルモネラワクチンで免疫化された家畜の広範囲の抗体によって検出されても良く、かくしてPhoN−DIVA抗体試験で偽の結果を生ずるであろう。
【0075】
純粋なPhoNの調製は、高ストリンジェントな精製条件を可能にする外的ポリペプチド断片で、PhoNの一次構造を伸張することによって容易にされてよい。好ましくは、一連のヒスチジン(Hisタグ)を、PhoNのアミノ末端またはカルボキシ末端のいずれかで導入する。更に、Hisタグの除去を可能にするエンドペプチダーゼ、例えばトロンビンによって特異的に認識される別のタンパク質ドメインを、HisタグとPhoN構造との間に導入してよい。この分析により、Hisタグとトロンビン部位を含むPhoNのそのような融合タンパク質が、以前の分析で示された生存減弱化サルモネラDIVAワクチン株でワクチン化された動物の血清に干渉しないことが明らかである。
【0076】
PhoNの融合タンパク質は、従来の発現ベクター、例えばpET15bにより、供給者、例えばNovagenによって示された標準的な精製プロトコールを適用することによって、大腸菌で調製できる。図10〜12は、使用された発現プラスミドのマップ、例示的に調製されたPhoN融合タンパク質、PhoNFP101及びPhoNFP201のDNA及びアミノ酸配列を開示する。
【0077】
PhoN−DIVA抗体試験
チキンが生存減弱化サルモネラphoN−DIVAワクチン株でワクチン化された際はいつでも、PhoN−DIVA抗体試験を適用する。本実施例では、血清学的PhoN−DIVA試験システムは、組換えタンパク質PhoN、例えばPhoNFP101またはPhoNFP201、及び別のサルモネラ特異的抗原を含む。好ましくは、サルモネラ特異的抗原は、例えばIdexx Laboratories Inc. (Flockchek)、またはLabor Diagnostik GmbH Leipzig (Flocktype Salmonella)、またはBiochek及び他の会社によって提供される、チキンにおけるサルモネラ特異的抗体を検出する市販の試験キットによって提供される。この試験セットアップは、ワクチン化の後にサルモネラ特異的免疫応答が出現するかどうかを明らかにする。更に、野生型サルモネラが関与していないことを明らかにし、それはPhoN−DIVA抗体試験における組換えタンパク質PhoNでネガティブな反応によって指摘される。
【0078】
一般的に、サルモネラ特異的抗体の検出のための市販の試験キットは、マイクロタイタープレートにおける間接的ELISAとして準備されている。供給者に依存して、サルモネラ特異的抗原または抗原ミックスは、マイクロタイタープレートのバイアルにすでに結合されているか、ストック溶液の一部を使用して後に結合されなければならない。
【0079】
精製PhoN、例えばPhoNFP201は、適切な防腐剤と共に凍結ストック溶液または凍結乾燥物として好ましくは提供される。本実施例では、PhoN特異的抗体の検出のためのELISAは、例えばAntibodies. A Laboratory ManualにおけるE. Harlow及びD. Laneによるもののようないずれかで記載された標準的なプロトコールに従って実施される。
【0080】
【表1】
【図2A−1】
【図2A−2】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不活性化phoN遺伝子を有するサルモネラ株に関する。特に本発明は、ΔphoN Salmonella enterica生存減弱化ワクチン株の調製方法に関する。更に本発明は、サルモネラ感染動物からワクチン化動物を識別するための、組換えサルモネラタンパク質phoNを使用する血清学的試験システムに関する。更に、細菌学的試験システムがDIVAのために開示される。
【0002】
本発明は更に、Salmonella enterica ssp. 血清型Enteritidis株CLAB SE404(DSM21972)、及びSalmonella Enteritidis感染の予防のための家禽の処理のための、及び/またはさらなる病原体に対して家畜類を保護する多価組換えサルモネラキャリアーワクチンの調製のための生存減弱化ΔphoNサルモネラマーカーワクチン株としての前記株の使用に関する。CLAB SE404は、血清学的及び/または細菌学的手段によって、ワクチン化動物からの感染動物の識別(Differentiation of infected from Vaccinated Animal;DIVA)が可能である。
【背景技術】
【0003】
非腸チフスサルモネラ症は、動物及びヒトにおける広くいきわたった疾患である。ヒトでは、家禽類及びブタの製品から主として発生する最も一般的な食品媒介疾患である。欧州連合では、食物連鎖への病原性Salmonella ssp.の取り込みを減少すべき監視システムが確立されるであろう(規則EC2160/2003)。ワクチン接種は、家畜における病原性Salmonella ssp.の流行を減少し、かくして伝播速度を最小化するであろう。抗サルモネラワクチンは、例えば産卵鶏及びブタに対して市販されている。ワクチンは、細菌であるか生存減弱化サルモネラワクチンである。産卵鶏では、これらのワクチンを使用して、病原体の卵内伝播と糞への流出を減少する。
【0004】
生存減弱化サルモネラワクチンの効力は、細菌ワクチンより優れていることが見出されている。家畜に対する生存減弱化サルモネラワクチンの好ましい使用は、EC2160/2003の規則と一致するワクチン化動物からの感染動物の識別(DIVA)の方法を要求している。
【0005】
認可されている生存減弱化サルモネラワクチンの主なものは、化学的なミュータジェネシスによってSalmonella enterica ssp. enterica 血清型の規定された野生型単離物から調製される。現在では、生存減弱化サルモネラワクチンは、細菌学的手段によって野生型Salmonella ssp.から識別される。これらの方法は長時間を必要とする労力の要するものである。ワクチン化動物と感染動物の血清学的識別は非常に好ましいであろう。現在利用可能な生存減弱化サルモネラワクチンは、DIVAストラテジーに従った血清学的識別を可能にしない。
【0006】
DIVA生ワクチンは、ウイルス感染の予防のために家畜において成功して使用されている。
マーカーワクチンは、ポジティブマーカーまたはネガティブマーカーとしてのいずれかで調製できる。ポジティブマーカーワクチンは、ワクチン化動物では特異的な抗体を誘導するが感染動物では誘導しないさらなる抗原を含む。後の感染を有するワクチン化動物を単なるワクチン化動物から識別できないため、ポジティブマーカーワクチンは明らかに不利である。
【0007】
ネガティブマーカーワクチンは、感染動物で特異的な抗体を誘導する抗原の除去によって調製される。かくしてネガティブマーカーワクチンは、感染動物のものとは異なるワクチン化動物における体液性免疫応答を誘導する。理想的にはこの差異は、血清学的手段によって検出できる。ポジティブマーカーワクチンとは対照的に、ネガティブマーカーワクチンは、後に感染するようになったワクチン化動物の同定が可能である。
【0008】
ネガティブマーカー抗原の選択には、いくつかの観点が考慮されなければならない:前記抗原は免疫原性でなければならないが、病原体に対して動物を保護する免疫反応に関与してはならない。かくして、マーカー抗原をコードする遺伝子の除去または不活性化は、ワクチン株の免疫原性を維持しなければならない。最後に、家畜に出現して体液性免疫応答を誘導する可能性のある他の生物によって誘導される偽のポジティブな血清学的結果を避けるために、マーカー抗原は病原体に特異的であるべきである。
【0009】
ウイルスワクチンとは対照的に生存減弱化細菌ワクチンの高度な複雑性のため、生存減弱化細菌マーカーワクチンの開発のためにはずっと多大な努力が必要である。ネガティブサルモネラマーカーワクチンの第一の候補は、高度に免疫原性の表面抗原の遺伝子を欠失することによって、生存減弱化サルモネラワクチン株から確立された。これらの生存減弱化サルモネラDNAワクチンは、血清学的手段によってワクチン化動物から感染動物を識別することができた。しかしながらこれらのプロトタイプは、元となるワクチン株よりもずっと保護的ではなかった。
【0010】
phoN遺伝子は非特異的な酸性ホスファターゼをコードし、それは全てのSalmonella ssp.で広く提示されることが見出されている。phoN遺伝子は、PhoPQレギュロンの制御下で発現され、後者はサルモネラにおける毒性遺伝子のための一般的な調節因子である。phoNが動物におけるサルモネラの生存に必須であるかは未知である。
【0011】
PhoPQレギュロンへのphoNのリンケージは、サルモネラが宿主組織を占有する際はいつでも、phoNが活性化されることを示すであろう。かくして、生存減弱化サルモネラワクチン株におけるphoN遺伝子の除去または不活性化が、ワクチン化動物における保護的免疫性を誘導する能力にネガティブに影響する可能性があるかどうかという疑問が残っている。生存減弱化サルモネラワクチン株における単一の遺伝子の欠失が残存している毒性を更に減少し、それが宿主の免疫応答の刺激を減少させ、その結果保護的免疫を阻害するかもしれないことが既知である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Springer等, 2000, Berl. Munch. Tierarztl Wschr. 113, 246-252
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、当該技術分野のワクチンの上述の欠点を少なくとも部分的に解消するネガティブマーカーワクチンとして適切なサルモネラ株を提供することである。
【0014】
本発明では、サルモネラDIVAワクチンの調製のための標的として、phoN遺伝子が選択された。驚くべきことに、phoN遺伝子は、生ワクチンとして特に適切なphoN欠損サルモネラ株を作製する特徴の組み合わせを提供する。
【0015】
第一の驚くべき特徴は、サルモネラと比較した全てのサルモネラではない細菌におけるPhoNタンパク質の構造の差異である。他方で、PhoNアミノ酸配列は、各種のサルモネラ種において少なくとも95%の同一性(アミノ酸配列の全量に対して計算される)の度合いを有する。
【0016】
第二の驚くべき特徴は、PhoNが免疫原性であるという事実である。Salmonella ssp.で感染されたチキン及びマウス由来の血清の分析により、精製PhoNタンパク質に特異的に結合する抗体の出現が明白に明らかにされた。この結果は、PhoNが免疫原性であり、サルモネラに感染した鳥類及び哺乳類を検出するための血清学的マーカー抗原として使用できるという最初の証拠を提供する。サルモネラワクチン株においてphoN遺伝子の発現を破壊すると、これは血清学的手段によりワクチン化動物から感染動物を識別することを可能にするであろう。かくして、PhoN抗原を欠損したサルモネラ生ワクチンによってワクチン化された動物は、PhoN特異的抗体を生産しない一方、野生型サルモネラで感染された動物ではこの抗体を生産するであろう。
【0017】
第三の驚くべき特徴は、生存減弱化サルモネラワクチン株のphoN遺伝子の除去は、ワクチン株の毒性を更に減少させるかもしれないが、その免疫原性と同種血清型のサルモネラ感染からワクチン化チキンを保護する効力には影響しないという事実である。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の第一の主題は、不活性化phoN遺伝子を有するサルモネラ株である。これはΔphoNによってここで記載される。ΔphoNサルモネラ株は、本質的にphoN活性を有さない。分子生物学界の当業者であれば、サルモネラのような細菌における遺伝子不活性化の方法は既知である。
【0019】
phoNの不活性化は、phoN遺伝子の欠損または/及び修飾を含む。特に本発明のサルモネラ株は、PhoNタンパク質、またはPhoNタンパク質またはその断片に対する免疫応答を誘導できるPhoNタンパク質の断片を実質的に生産しない、即ち本発明のサルモネラ株は、PhoNタンパク質またはその断片に関して免疫原性ではない。phoN遺伝子は、完全にまたは少なくとも部分的に欠失されて良い。phoN遺伝子の部分的な欠失は、phoN遺伝子の全長配列の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも98%の欠失であって良い。phoN遺伝子配列が部分的に欠失されているのであれば、残余の配列は好ましくは、PhoNタンパク質またはその断片、特にここに記載される免疫原性断片を発現できない。
【0020】
phoN遺伝子配列の修飾は配列置換を含む。phoN遺伝子は、別の配列によって完全に置換されて良い。phoN遺伝子の欠失配列は、他の配列によって完全にまたは部分的に置換されて良い。
【0021】
phoN遺伝子のコード配列(オープンリーディングフレーム)は、完全にまたは少なくとも部分的に欠失されて良い。phoNコード配列の部分的な欠失は、全長phoNコード配列の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも98%の配列の欠失であって良い。phoNコード配列が部分的に欠失されているのであれば、残余の配列は好ましくは、PhoNタンパク質またはその断片、特にここに記載される免疫原性断片を発現できない。
【0022】
phoNコード配列の修飾は配列置換を含む。phoNコード配列は、別の配列によって完全に置換されて良い。phoNコード配列の欠失配列は、他の配列によって完全にまたは部分的に置換されて良い。
【0023】
サルモネラにおけるphoNポリペプチドの配列の典型的な例は、図1に記載されている(配列番号1〜20)。サルモネラphoN遺伝子ローカスの典型的な例は図2に示されており、それはphoNオープンリーディングフレーム(ORF)と、phoN ORFの上流または/及び下流の調節配列を含む(配列番号23〜27)。
【0024】
本発明のphoNポリペプチドの断片は、少なくとも10、少なくとも20、または少なくとも30のアミノ酸残基の長さを有して良い。それらは最大で200、最大で150、または最大で100アミノ酸残基の長さを有して良い。断片は免疫原性断片(ここで免疫原性部分とも称される)を含む。
【0025】
phoN遺伝子の不活性化は、ここで記載されている通り、例えばphoNコード領域の完全なまたは少なくとも部分的な欠失による、またはphoNコード領域の置換による、不可逆的な不活性化である。特に不可逆的な不活性化は、本発明のサルモネラ株が野生型phoN遺伝子型に戻ることを防止する。
【0026】
上述のように、本発明のサルモネラ株は、PhoNタンパク質に対する免疫応答を誘導できるPhoNタンパク質を実質的に生産しない、即ち本発明のサルモネラ株は、PhoNタンパク質またはその断片に関して免疫原性ではない。PhoNタンパク質またはその断片に関する免疫原性は、本発明のサルモネラ株で処理されるいずれかの種における免疫原性であって良い。特にPhoNタンパク質またはその断片に関する免疫原性は、哺乳動物、例えばブタまたは鳥類、例えばチキンのような家禽における免疫原性である。
【0027】
当業者は、サルモネラ株または非サルモネラ株におけるPhoNポリペプチド及びphoN遺伝子を同定することができる。本発明では、サルモネラPhoNタンパク質は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、及び配列番号20から選択される配列を含むタンパク質、または選択された配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である配列を含むポリペプチドであって良く、ここで同一性は選択された配列の長さに関して計算される。非サルモネラPhoNタンパク質は、EscherichiaまたはShigellaから得られるPhoNタンパク質であって良く、配列番号21及び配列番号22から選択された配列、または配列番号21及び配列番号22から選択された配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である配列を含むポリペプチドであって良く、ここで同一性は選択された配列の長さに関して計算される。
【0028】
本発明に係る株を得るためにここに記載されたphoN不活性化に供されるサルモネラ株は、Salmonella enterica ssp.から選択されて良い。サルモネラ株は、Salmonella enterica ssp. entericaの血清型から、例えば血清型Enteritidis、Dublin、Gallinarum、Typhimurium、Newport、Choleraesuis、Agona、Hadar、Heidelberg、Kentucky、Saintpaul、Virchow、Weltevreden、Javiana、Schwarzengrund、Paratyphi、及びTyphiから、または図1に挙げられた血清型から選択されて良い。
【0029】
ここに記載されるphoN不活性化に供されるサルモネラ株は、減弱化サルモネラ株、例えば生存減弱化サルモネラ株、例えば生存減弱化Salmonella enterica ssp. enterica血清型Enteritidis His- Ade-株、例えばSalmovac SE(Springer等, 2000, Berl. Munch. Tierarztl Wschr. 113, 246-252)またはその変異体であって良い。
【0030】
ここに記載されるphoN遺伝子の不活性化は、認可された生存減弱化サルモネラワクチンに適用されても良い。これらの株は、家畜のサルモネラ感染を避け、同時にサルモネラに感染した家畜からワクチン化した家畜の識別を可能にするために、免疫原性に影響することなく生存減弱化サルモネラΔphoNマーカーワクチンに形質転換されて良い。化学的なミュータジェネシス及び/または遺伝的な操作によって調製されている生存減弱化サルモネラワクチン株について、または少なくとも一つの更なる同種抗原、及び/または異種病原体の少なくとも一つの更なる抗原を発現するために、例えば担体として生存減弱化サルモネラワクチン株を使用するいずれかの組換えサルモネラワクチンアプローチについて、またはワクチン化のためにDNAを送達する担体として使用される生存減弱化サルモネラワクチン株について、これらの形質転換法を適用することができる。
【0031】
生存減弱化サルモネラワクチン株である、ここに記載されたphoN不活性化に供されるサルモネラ株は、特に以下のものである:
(i)化学的なミュータジェネシス及び/または遺伝的な操作によって調製されたワクチン株;
(ii)少なくとも一つの同種サルモネラ抗原、及び/または少なくとも一つの異種抗原、たとえば異種病原体の抗原を任意に組換え発現する組換えワクチン株;または
(iii)DNAを送達するための組換え担体株。
【0032】
本発明の好ましいサルモネラ株は、Salmonella enterica enterica Enteritidis株CLAB SE404(DSM21972)、及びそれから由来するいずれかの株である。
【0033】
本発明のサルモネラ株、特にDSM21972株は、医薬、例えば獣医薬において使用されるものであって良い。本発明のサルモネラ株、特にDSM21972株は、ワクチンとして使用するためのものであって良い。本発明のサルモネラ株、特にDSM21972株は、生ワクチンとして使用のするためのものであって良い。本発明のサルモネラ株、特にここに記載されるワクチン、とりわけDSM21972株は、サルモネラ感染に対して、特にSalmonella enterica sspでの感染に対する保護するためのワクチンとして使用するためのものであって良い。本発明のサルモネラ株、特にDSM21972株は、哺乳動物、例えばブタまたは鳥類、例えばチキンのような家禽における使用のためのものであって良い。
【0034】
本発明のサルモネラ株、特にDSM21972株は、医薬、例えば獣医薬における医薬の製造のために使用されて良い。本発明のサルモネラ株、特にDSM21972株は、ワクチンの製造のために使用されて良い。本発明のサルモネラ株、特にDSM21972株は、生ワクチンの製造のために使用されて良い。本発明のサルモネラ株、特にここに記載されるワクチン、とりわけDSM21972株は、サルモネラ感染に対して、特にSalmonella enterica ssp.での感染に対して保護するためのワクチンの製造のために使用されて良い。本発明のサルモネラ株、特にDSM21972株は、哺乳動物、例えばブタまたは鳥類、例えばチキンのような家禽における使用のための医薬の製造のために使用されて良い。
【0035】
本発明のワクチン、特にDSM21972は、後のサルモネラ感染に対して、特にSalmonella enterica ssp.での後の感染に対して保護するためのワクチン、及び更なる病原体に対して保護する多価組換えサルモネラ担体ワクチンを調製するためのワクチンであって良い。前記ワクチンは、少なくとも一つの同種サルモネラ抗原、及び/または少なくとも一つの異種抗原、たとえば異種病原体の抗原を任意に組換え発現する。前記ワクチンは、哺乳動物、例えばブタまたは鳥類、例えばチキンのような家禽に対する投与に適したものであって良い。
【0036】
本発明の主題は、本発明のサルモネラ株、特にDSM21972株の、その必要のある被験者に対する投与を含む、サルモネラ感染の予防または/及び治療のための方法である。前記被験者は、哺乳動物、例えばブタまたは鳥類、例えばチキンのような家禽であって良い。
【0037】
本発明の更なる主題は、本発明のサルモネラ株の、その必要のある被験者に対する投与を含む、病原体での感染の予防または/及び治療の方法であり、本発明のサルモネラ株は、この病原体に対する保護を与えるために調製され、例えば多価サルモネラ生ワクチンである。このサルモネラ株はDSM21972から由来することが好ましい。前記被験者は、哺乳動物、例えばブタまたは鳥類、例えばチキンのような家禽であって良い。とりわけ前記病原体はサルモネラとは異なる。
【0038】
本発明のまた別の主題は、サルモネラ株のphoN遺伝子を不活性化することを含む、ここに記載されるサルモネラ株、特にDSM21972株の生産方法である。
【0039】
上述のように、phoNの不活性化は、生存減弱化サルモネラワクチン株の毒性を更に減少しても良いが、形質転換されたサルモネラワクチン株の免疫原性には影響しない。それ故phoN不活性化は、生存減弱化サルモネラDIVAワクチン株を生産する適切な方法である。
【0040】
生存減弱化ΔphoNサルモネラDIVAワクチンの調製は、サルモネラ感染に対して、特にSalmonella enterica ssp.での感染に対して、例えば鳥類及び/または哺乳類家畜を保護することができるいずれかの生存減弱化サルモネラワクチン株から開始することができる。DSM21972の調製は、サルモネラSE株の変異体から開始された。そのようなサルモネラワクチン株から、遺伝学的操作を適用することにより、phoN遺伝子をここに記載されたように不活性化する。phoNの不活性化が完成した後、元となるサルモネラ変異体株に対して出現した差異を評価するために、個々のサルモネラ変異体株を分析しなければならない。phoNサルモネラ変異体株は好ましくは、元となるサルモネラ変異体株由来のphoN遺伝子を除いて生物学的特徴は本質的に同一である。phoNサルモネラ変異体株が、phoNとは関連しない一つ以上の特徴において元となるサルモネラ変異体株とは異なるのであれば、これらの変更は永久的であっても良く、最も重要には、適切なワクチン化動物において後のサルモネラ感染に対して保護的免疫応答を誘導する元となる株のオリジナルの免疫原性特徴を必須に維持しても良い。
【0041】
好ましくはphoNは、遺伝学的操作によってphoN遺伝子をコードする核酸断片の欠失により不可逆的に不活性化される。不活性化法は、phoNの転写が開始されるアクセサリー核酸の欠失をも含んで良い。phoNの欠失は、新規な転写産物の出現を抑制するそのような態様で実施されても良い。遺伝学的操作は、ここに記載されるサルモネラのゲノムのいずれかのプロセッシングを包含する。好ましくは相同的組換えの方法は、ゲノムの残りの部分を変化させないままphoN遺伝子の正確な欠失を可能にするはずであり、それはここで「クリーンな」欠失法と記載される。更に、Datsenko及びWannerによって記載されたλファージRedリコンビナーゼのような一時的に共発現されるリコンビナーゼによって実施される相同的組換えの方法が好ましい。
【0042】
本発明のサルモネラ株は、例えば少なくとも30%、少なくとも50%、または少なくとも90%までの減少した自動性、及び/または例えば少なくとも30%、少なくとも50%、または少なくとも90%まで減少したバイオフィルム形成能力を有して良い。
【0043】
上述したように、phoNサルモネラ株、特に生存減弱化ΔphoNサルモネラ株、とりわけDSM21972はマーカーワクチンであって良い。DSM21972のような生存減弱化ΔphoNサルモネラマーカーワクチン株は、血清学的及び/または補助的細菌学的手段によって、ワクチン化動物からの感染動物の識別(DIVA)が可能である。
【0044】
本発明のまた別の主題は、血清学的マーカー抗原としてのサルモネラPhoNポリペプチドまたは/及びその免疫原性断片を含むポリペプチドの使用である。血清学的マーカー抗原は、PhoNポリペプチドから由来するいずれかの抗原であって良い。phoN抗原は、全長PhoNポリペプチドを含む、または好ましくは少なくとも10、より好ましくは少なくとも20、更により好ましくは少なくとも30アミノ酸の長さを有するそのいずれかの免疫原性部分を含むポリペプチドであって良い。PhoNポリペプチドは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、及び配列番号20から選択される配列を含むポリペプチド、または配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、及び配列番号20から選択される配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である配列を含むポリペプチドであって良く、ここで同一性%は選択された配列の全長に対して計算される。前記免疫原性部分は、ここに記載されたPhoNポリペプチドの配列に対して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一であるアミノ酸部分を有する配列を有してよく、ここで同一性%は前記免疫原性部分の長さに対して計算される。ここに記載される同一性は、BLASTまたはFASTAのような一般的なアルゴリズムによって計算されて良い。好ましい配列は、CLAB_SE360から由来する配列番号1である(図1参照)。
【0045】
ここに記載される血清学的マーカー抗原は、本発明のサルモネラ株でのワクチン化の後のワクチン化動物からの感染動物の識別(DIVA)のために使用されて良い。
【0046】
本発明のphoN抗原は、phoN核酸の組換え発現によって、特に大腸菌のような組換え宿主細胞において調製されて良い。phoN抗原は、任意に適切な防腐剤とともに、凍結ストックとしてまたは凍結乾燥物として提供されて良い。
【0047】
本発明のまた別の主題は、少なくとも一つの組換えサルモネラphoN抗原、またはいずれかのその免疫原性部分、及び任意に更なる試験成分を含む、サルモネラphoN抗原に対して向けられた抗体を検出するための血清学的試験システムである。前記血清学的試験システムは、本発明のサルモネラ株、特に生存減弱化ΔphoNサルモネラDIVAワクチン、例えばCLAB SE404(DSM21972)の識別が可能であって良い。少なくとも一つのphoN抗原はここに記載された抗原である。サルモネラphoN抗原は好ましくは、配列番号1の配列、または配列番号1と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である配列を含み、ここで同一性は配列番号1の長さに対して計算される。
【0048】
前記血清学的試験システムでは、前記抗原はサルモネラで感染されている疑いのある動物、またはワクチン化後にサルモネラで感染された可能性のある動物の血清中の抗体を特異的に検出する標的抗原として機能する。本発明のサルモネラ株、特に生存減弱化サルモネラDIVAワクチンによって成功して免疫化されている動物の血清が使用されると、PhoN標的抗原によって抗体は検出されない。検出はELISAフォーマットで実施されて良い。
【0049】
任意に、サルモネラLPSのような更なるサルモネラ特異的抗原が血清学的試験システムで使用され、前記システムは、野生型サルモネラと本発明のサルモネラ変異体株、特に生存減弱化ΔphoNサルモネラDIVAワクチンの両者によって誘導された抗体を検出する。
【0050】
本発明のまた別の主題は、ここに記載されたサルモネラ抗原をコードするphoN核酸である。phoN核酸は、PhoNポリペプチドまたはここに記載されるその断片、例えば配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、及び配列番号20から選択される配列を含むポリペプチド、または前記配列と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である配列を含むポリペプチドをコードする配列を含み、ここで同一性は前記配列の長さに対して計算される。前記核酸は、ここに記載されたPhoNポリペプチドのいずれかの免疫原性断片をコードしても良い。
【0051】
phoN核酸は、適切な組換えDNAベクターを使用することにより、例えば大腸菌のような宿主において、組換えサルモネラphoN抗原またはいずれかのその免疫原性部分の製造のために使用されてよい。phoN抗原は、ここに記載された抗原であって良い。phoN抗原は、配列番号1の配列、または配列番号1と少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である配列、またはここに記載されたその免疫原性部分を含んでよい。同一性は配列番号1の長さに対して計算される。
【0052】
本発明の更なる主題は、野生型Salmonella ssp.と本発明のサルモネラ株、例えば生存減弱化ΔphoNサルモネラDIVAワクチンの識別のための細菌学的試験システムに関する。この細菌学的試験システムは、生物学的サンプル中のサルモネラの検出を調節する公的な標準的方法を完成している。
【0053】
本発明の細菌学的試験システムは、サルモネラコロニーが標準的な検出法でいつ出現したか、これらが野生型サルモネラか本発明のサルモネラ株、例えば生存減弱化ΔphoNサルモネラかを明らかにする。個々のサルモネラコロニーのゲノムがphoN遺伝子またはその断片を含むかを評価するため、少なくとも一つ疑わしいサルモネラコロニーが分析される。分析はPCR法によって、または/及びPhoN活性または/及びPhoN遺伝子産物の検出によって実施されてよい。疑わしいサルモネラコロニーの代表的な株、例えば少なくとも5、少なくとも10、少なくとも15、または少なくとも20のコロニーが分析されてよい。
【0054】
PhoN活性は、PhoN特異的基質ミックスを含むマイクロタイタープレートのウェルのような別個のバイアル内に単一のコロニーの一部を移すことによって測定でき、そこでPhoNは視覚的制御または適切な装置によって検出できる発色生成物を生成する。PhoNは、PhoN活性の測定のための完全な細胞の使用を可能にするSalmonella ssp.の細胞質内空間に局在している。前記試験システムによれば、野生型サルモネラは発色生成物を生成することによってPhoN活性を示す一方、生存減弱化ΔphoNサルモネラはそれを示さない。適切な基質はBCIPであって良い。
【0055】
本発明のサルモネラ株は、ISO6579に従った試験によって検出されて良い。ISO6579は参考としてここに含まれる。ISO6579に従って試験により、PhoN活性は発色性基質BCIPによって検出されてよい。
【0056】
本発明は更に以下の図面、実施例、及び配列表によって説明される。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】図1は、各種のSalmonella enterica enterica血清型の間のPhoNタンパク質の相同性を示す図である。
【図2A】図2は、Salmonella enterica enterica血清型のphoNのゲノム領域を示す図である(配列番号23〜25)。
【図2B】図2は、Salmonella enterica enterica血清型のphoNのゲノム領域を示す図である(配列番号26)。
【図2C】図2は、Salmonella enterica enterica血清型のphoNのゲノム領域を示す図である(配列番号27)。
【図3】図3は、Datsenko及びWannerによって記載された置換組換えを使用する、生存減弱化Salmonella enterica enterica Enteritidisワクチン株Salmovac SEのphoN欠失ミュータントの調製のためのストラテジーを説明する図である。S. Enteritidisワクチン株Salmovac SEと同一であるphoNローカスを包含するS. Enteritidis P125109株のゲノム領域が例示的に示されている。前記ゲノム領域はNCBI(National Center for Biotechnology Information)データベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/genomues)で寄託されているNC_011294.1配列の4.419.410ヌクレオチド(nt)で開始する。いずれかのオープンリーディングフレーム(ORF)の向きと長さが矢印で示されている。注釈付のORFは黒矢印で説明され、他のものはストライプの矢印で説明されている。phoNについては、中抜きの矢印で説明されている二つのプロモーター(P1、P2)が予測されている。図3Aは、phoN遺伝子を含む欠失領域の境界(黒塗り縦線)を例示的に説明する。図3Bは、phoNの置換の後の元のゲノム領域内のORFを説明する。元のORFの三つ(ORF1−3)は、組換え法によって伸張されるようになる(中抜き矢印)。
【図4】図4は、図3に記載された置換組換えによるS. Enteritidisワクチン株Salmovac SEから調製されたphoNミュータント株のゲノム領域内の逆転写PCT(RT−PCR)を説明する。図4Aでは、推定のアセチルトランスフェラーゼ(黒矢印)として命名されたORFのRT−PCR分析のデータが説明されている。この分析は、推定のアセチルトランスフェラーゼ及び引き続くORF1−3を包含する転写産物(mRNA)を明らかにした。RT−PCRは更に、前記転写産物が置換断片内に亘っているが、驚くべきことにこの断片を通過していないことを明らかにした。上部の右枠では、置換断片の一次構造と含まれるFRT部位が示されている。FRT部位は、高安定性(−17kcal/mol)の二重構造を形成する。FRT部位は実際には、置換断片を超えたORF1−3の発現を抑制する転写終了因子として機能することが示唆される。RT−PCRのためのプライマーは、(1)置換断片を通過する、または(2)FRT部位の前の領域をカバーする、のいずれかである転写産物を検出するために着想される。図4Bは、逆転写酵素(RNA)で処理されている、またはPCRの前に未処理のままである(DNA)S. EnteritidisΔphoNワクチン株から得られたRT−PCR産物のアガロースゲル電気泳動を示す。このデータは純粋なRNAプローブを明らかにする。コントロールとして、gyrB遺伝子のRT−PCRが提供される。すでに記載したとおり、置換断片を越えた転写産物はほぼ破壊され(レーン1)、対照的にFRT部位の前で終結する転写産物が生成される(レーン2)。
【図5】図5は、野生型S. Enteritidis株の毒性を、生存減弱化S. Enteritidisワクチン株Salmovac SE及びΔphoNミュータント株CLAB_SE404と比較した結果を示す図である。各種のサルモネラ株の相対的な毒性を、24時間の期間以内のMDCK細胞中のサルモネラの生存割合を測定することにより評価した。10のMOIで野生型S. Enteritidis株で細胞を感染させた。両者の生存減弱化S. Enteritidisワクチン株を100のMOIで投与した。2時間の感染期間の後、培養倍地中の過剰な細菌を洗浄により除去した。更にゲンタマイシン[25μg/ml]を添加し、過剰なサルモネラ細胞を抑制した。適切な条件化での感染細胞の24時間の培養の後、1%トリトン−X100を含むPBS中のMDCK細胞の溶解により、細胞内サルモネラの数を測定した。前記データは、野生型S. Enteritidis単離物と比較して、MDCK細胞内の両者の生存減弱化S. Enteritidisワクチン株の大きく減少した維持を明らかに示す。驚くべきことに、前記データは、MDCK細胞中の両者のサルモネラワクチン株について異なる生存割合を明らかにした。CLAB_SE404は、図3の注釈で記載された生存減弱化S. Enteritidisワクチン株Salmovac SEから調製されている、異なるΔphoNミュータントクローンの非自動性変異体である。前記データは、先祖株のSalmovac SEと比較して、CLAB_SE404の減少した毒性を示した。
【図6】図6は、二つのΔphoNS. Enteritidisワクチン株の毒性を、白色レグホンチキンで更に評価した結果を示す図である。前記動物を、CLAB_SE404またはCLAB_SE441のいずれかの1−2×108CFUを使用して、1及び21日齢で経口ワクチン化した。CLAB_SE441は、S. EnteritidisΔphoN[ade/his]−の自動性変異体である。対照的に、CLAB_SE404は、S. EnteritidisΔphoN[ade/his]−の非自動性変異体である。ワクチン化の各種の時間後で、5匹の動物を犠牲にし、ワクチン化動物の各種の組織で細菌の数を測定した。高いコロニー形成値は、選択的XLT−4アガープレート上での直接培養によりサルモネラが検出されたことを示す。ペプトン水における富化培養と、その後のISO6579に記載されたMSRVアガープレートでのインキュベーションの後に、残余のコロニー形成を測定した。前記データは、両者のΔphoNS. Enteritidisワクチン株の間の毒性の差異を確認する。CLAB_SE404は、CLAB_SE441と比較してワクチン化チキンの組織からずっと迅速に消失する。
【図7】図7は、CLAB_SE404で二度ワクチン化された白色レグホンチキンが、野生型S. Enteritidis(SE147N)の1−2×108CFUを使用して経口チャレンジ感染を受けた結果を示す図である。チャレンジ感染はブースターワクチン化の21日後で投与され、更に14日間分析された。コントロールとして、何も処理していない白色レグホンチキンを同じ42日齢で感染させた。各種の時間で、両者の動物群内のサルモネラの流出と組織コロニー形成を測定し、その結果が図7Aに要約されている。前記データは、ワクチン化動物の明らかな保護を明らかにする。かくして、野生型S. Enteritidisを流出する動物の数は、ワクチン化群において明らかに減少する。更に、脾臓及び肝臓においてサルモネラを有する動物の数は、非処理コントロール群と比較してワクチン化動物でここでも低い。ワクチン化動物では、何も処理していない動物よりも盲腸の含有物における野生型サルモネラの数が著しく減少していた(図7B)。前記データは、Salmovac SEΔphoNワクチン株の非自動性変異体であるCLAB_SE404の保護的特徴を明らかに示す。
【図8】図8は、ISO6579に従った標準的なサルモネラ検出試験と平行して使用される細菌学的phoN−DIVA試験の承認を示す図である。図8Aは、XLT4アガープレートと、発色性ホスファターゼ基質BCIP[80μg/ml]を補ったLB−アガープレートのそれぞれに、野生型Salmonella TyphimuriumとEnteritidisを平行植菌したことを例示的に示す図である。野生型Salmonella TyphimuriumとEnteritidisは一般的に、XLD/XLT4アガープレートでは黒色のコロニーとして、BCIP LB−アガープレート(PhoN−DIVA試験)では青緑色のコロニーとして出現する。図8Bでは、生存減弱化Salmonella EnteritidisΔphoNワクチン株CLAB_SE404の平行植菌が示されている。ΔphoNサルモネラワクチン株は、サルモネラ特異的XLD/XLT4アガープレートでは黒色コロニーを出現するが、BCIP LB−アガープレートでは非着色を維持した。サルモネラはホスファターゼ活性を有するいくつかの酵素を発現することが既知であるため、この発見は驚くべきものである。phoN遺伝子の不活性化は、ここに記載された発色性ホスファターゼ反応を阻害するのに十分であることが結論付けられる。概略が記載された試験は、生存減弱化phoN−DIVAS. Enteritidisワクチン株CLAB_SE404を使用してセットアップされた標準的なサルモネラ試験の範囲内で、ワクチン化動物からの感染動物の明白な識別が可能である。
【図9】図9は、白色レグホンチキンにおけるPhoN−DIVA抗体試験を示す。特に、サルモネラ感染チキン由来の血清(Inf)と、生存減弱化S. EnteritidisphoN−DIVAワクチン株CLAB_SE404で免疫化されたチキン由来の血清(Vac)を使用する、イムノブロット分析によって承認されたPhoN−DIVA抗体試験の特異性を示す。図9Aのブロットは、サルモネラPhoNの二つの組換え変異体であるPhoNFP101とPhoNFP201で調製された。ブロッティングの前に10%Schagger-JagowPAGEで精製サンプルを分離しておいた。PhoNFP101は元となるPhoNの一次構造をカバーしている。PhoNFP201は、切り詰められたNH2末端と、PhoNの活性中心でアミノ酸置換を有し、不活性なPhoNを生じている。イムノブロット分析は、適切なアルカリホスファターゼ接合抗血清を使用して、IgG特異的免疫応答を示す。分子量マーカーはレーンMで示されており、それぞれ43、34及び26kDaに対応する。図9Aに示されたphoN-DIVA抗体試験は、生存減弱化S. EnteritidisphoN-DIVAワクチン株CLAB_SE404で二度免疫化されたチキン由来の血清(Vac)と、毒性S. Enteritidis株SE147Nで感染された未処理の動物由来の血清(Inf)で実施された。Inf群の抗体は両者の変異体Pho抗原に結合する。Vac群はPhoN特異的抗体を生産しない。図9Bでは、各種の時間での感染の両動物群の血清を使用するELISAで測定された、S. Enteritidis溶解物に対するIgG力価が説明されている。DIVA−Vac群では、チャレンジ感染の前(0)及び後、感染後7日目と28日目でIgG力価が測定された。Inf群では、同じ態様でIgG力価が測定された。
【図10】図10は、融合タンパク質PhoNFP101(左側のマップ)とPhoNFP201(右側のマップ)の調製のために使用された発現プラスミドのマップを示す図である。
【図11】図11は、PhoNFP101の遺伝子(A)とコードされた融合タンパク質(B)の配列を示す図である。
【図12】図12は、PhoNFP201の遺伝子(A)とコードされた融合タンパク質(B)の配列を示す図である。
【実施例】
【0058】
実施例1
National Center for Biotechnology Information(NCBI)のインターネットポータルを介したデータベース「nr」を使用するBLAST2.2.18によって各種のSalmonella enterica enterica血清型内のタンパク質PhoNの相同性を評価した。Salmonella Enteritidis株CLAB_SE360のタンパク質PhoNのアミノ酸配列を、クエリー配列(配列番号1)として使用した。CLAB_SE360は、ワクチン株Salmovac SEの変異体である(Springer等, 2000, Berl. Munch. Tierarztl, Wschr. 113, 246-252)。各種のPhoNタンパク質の一次構造内の非同一アミノ酸が、着色によって強調されている。前記データは、各種のサルモネラ血清型内でPhoNタンパク質の一次構造が>96%で同一性を有していることを明らかにする。
【0059】
対照的に、非サルモネラ細菌内でのPhoNタンパク質の一次構造は、Salmonella enterica enterica血清型のPhoNタンパク質と低い関係(<40%の同一性)しか有さない。非サルモネラ細菌の最も関連するPhoNアミノ酸配列が示されている。同一のアミノ酸のみが示されている。変異体(−)、付加的(+)、または欠けている(Δ)アミノ酸が示されている。全配列は配列表に記載されている(配列番号21及び22)。
【0060】
この結果は図1に要約されている。
【0061】
実施例2
T. Shigaki及びK.D. Hirschi (Anal. Biochem. 2001, 298:118-120)またはK.A. Datsenko及びB.L. Wanner(PNAS 2000, 97:6640-6645)によって記載されたような遺伝学的操作による、ΔphoNサルモネラミュータントの調製に関連するphoN遺伝子と隣接領域を含む各種のSalmonella enterica enterica血清型のphoNゲノム領域が記載される。
【0062】
phoNゲノム領域は、以下のように図2に示されている:
図2A:S. Enteritidis str. P125109(RefSeq NC011294.1から引用)
S. Dublin str. CT_02021853(RefSeq NC011205.1から引用)
S. Gallinarum str. 287/91(RefSeq NC011274.1から引用)
図2B:S. Typhimurium str. LT2(RefSeq NC003197.1から引用)
図2C:S. Choleraesuis str. SC-B67(RefSeq NC006905.1から引用)
【0063】
実施例3
本実施例では、phoN遺伝子が、生存減弱化Salmonella Enteritidisワクチン株Salmovac SEの変異体から元々由来したSalmonella Enteritidis株のゲノムから遺伝学的操作により除去された。驚くべきことにより詳細な分析により、ΔphoNSalmonella Enteritidisワクチン株変異体の集団において差異が示された。いくつかの限られたΔphoNワクチン株変異体は、先祖株及び他のΔphoNワクチン株変異体の少なくとも30%である自動性活性を有する。更に、この減少した自動性のΔphoNワクチン株変異体は、バイオフィルムを形成する能力も減少しており、このことは更に先祖株及び他のΔphoN変異体とは異なる。
【0064】
指摘された差異に加えて、調査された全てのΔphoNSalmonella Enteritidis変異体はアデニン及びヒスチジンに対して独立栄養性であり、複雑なリポポリサッカリド(LPS)を発現する。それらは既知の毒性プラスミドのいずれかを含むものではない。かくして、全てのΔphoNSalmonella Enteritidis変異体は、ドイツにおける産卵鶏のワクチン化について承認されているSalmovac SEの関連する特徴を含む。
【0065】
単一の変異体、CLAB SE404を、減少した自動性とバイオフィルム能力を有するΔphoNSalmonella Enteritidis変異体の集団から選択した。CLAB SE404の更なる分析により、これらの更に同定された特徴が150世代を超えて安定であることが明らかにされた。
【0066】
株CLAB SE404は、寄託番号DSM21972の下で、DSMZ-Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH, Inhoffenstrabe 7B, D-38124 Braunschweigに2008年11月10日でブタペスト条約の下で寄託されている。
【0067】
以下の分析では、CLAB SE404の毒性と効力を、自動性ΔphoNSalmonella Enteritidisワクチン株変異体及び元となるワクチン株と比較した。
【0068】
サルモネラワクチン株の毒性を、in vitro及びin vivo実験によって評価した。MDCK細胞の定量的な感染により、CLAB SE404が先祖株及び自動性ΔphoNSalmonella Enteritidis変異体よりもMDCK細胞において毒性が小さいことが明らかに示された。
【0069】
一日齢のチキンを、CLAB SE404または自動性ΔphoNSalmonella Enteritidis群の単一の変異体のいずれかで経口的に植菌した。その後、ワクチン化動物の各種の組織におけるサルモネラの存在を、細菌学的手段により測定した。前記データは、ワクチン化の7日後で両者の動物群において肝臓及び脾臓における同量のサルモネラを明らかにする。この後、CLAB SE404の量は、肝臓及び脾臓で減少するが、自動性ΔphoNSalmonella Enteritidis変異体株を受けた動物の器官では高いままである。盲腸組織では、同様の結果が得られた。このデータは、CLAB SE404が自動性ΔphoNSalmonella Enteritidis変異体よりも毒性が低いことを明らかに示す。CLAB SE404は、自動性ΔphoNSalmonella Enteritidis変異体よりもずっと早期に、ワクチン化チキンの組織及び排泄物から消失する。
【0070】
ΔphoNSalmonella Enteritidis株の免疫原性を、1日齢及び21日齢で、CLAB SE404または自動性ΔphoNSalmonella Enteritidis変異体のいずれかで経口的にワクチン化されたチキンにおいて測定した。両動物群の体液性及び粘膜性免疫応答を、サルモネラ抗原を使用するELISAによって評価した。そのデータにより、両者のワクチン株は、経口的にワクチン化されたチキンにおいて体液性及び粘膜性免疫応答を誘導することが明らかとなり、この免疫応答は最後のワクチン化の50日以上後でも高いままであった。かくして、CLAB SE404は、自動性ΔphoNSalmonella Enteritidis変異体と同様の免疫原性効力を有する。
【0071】
最後に、1日齢及び21日齢でCLAB SE404または自動性ΔphoNSalmonella Enteritidis変異体のいずれかによって経口的にワクチン化されたチキンは、毒性Salmonella enterica enterica Enteritidis単離物でのチャレンジ感染に抵抗性であることを示すことができた。かくして、CLAB SE404は、自動性ΔphoNSalmonella Enteritidis変異体と同様の保護的効力を有する。
【0072】
要約すると、CLAB SE404は、低い流出と高い効力を有する家禽のための新規な生存減弱化サルモネラワクチンとして同定され、更にワクチン化動物から感染動物を識別することが可能であることが同定された。
【0073】
実施例4
PhoN−DIVA抗体試験のための組換えPhoNタンパク質の調製
PhoN−DIVA抗体試験は、組換えPhoNに基づいて好ましくは調製される。精製組換えPhoNでの以前のイムノブロット分析により、生存減弱化サルモネラphoN−DIVAワクチン株でワクチン化された動物は、この全体タンパク質に結合する抗体を生成しないことが明らかである。PhoNタンパク質の複雑性と、体液性免疫応答の広範囲の反応性にも関わらず、phoN−DIVAサルモネラワクチン株で免疫化された動物の血清内で、交差反応する抗体が存在しないことは驚くべきことであった。
【0074】
PhoN−DIVA抗体試験のための組換えPhoNは、高純度で調製されてよい。いずれかの不純物は、PhoN−DIVAサルモネラワクチンで免疫化された家畜の広範囲の抗体によって検出されても良く、かくしてPhoN−DIVA抗体試験で偽の結果を生ずるであろう。
【0075】
純粋なPhoNの調製は、高ストリンジェントな精製条件を可能にする外的ポリペプチド断片で、PhoNの一次構造を伸張することによって容易にされてよい。好ましくは、一連のヒスチジン(Hisタグ)を、PhoNのアミノ末端またはカルボキシ末端のいずれかで導入する。更に、Hisタグの除去を可能にするエンドペプチダーゼ、例えばトロンビンによって特異的に認識される別のタンパク質ドメインを、HisタグとPhoN構造との間に導入してよい。この分析により、Hisタグとトロンビン部位を含むPhoNのそのような融合タンパク質が、以前の分析で示された生存減弱化サルモネラDIVAワクチン株でワクチン化された動物の血清に干渉しないことが明らかである。
【0076】
PhoNの融合タンパク質は、従来の発現ベクター、例えばpET15bにより、供給者、例えばNovagenによって示された標準的な精製プロトコールを適用することによって、大腸菌で調製できる。図10〜12は、使用された発現プラスミドのマップ、例示的に調製されたPhoN融合タンパク質、PhoNFP101及びPhoNFP201のDNA及びアミノ酸配列を開示する。
【0077】
PhoN−DIVA抗体試験
チキンが生存減弱化サルモネラphoN−DIVAワクチン株でワクチン化された際はいつでも、PhoN−DIVA抗体試験を適用する。本実施例では、血清学的PhoN−DIVA試験システムは、組換えタンパク質PhoN、例えばPhoNFP101またはPhoNFP201、及び別のサルモネラ特異的抗原を含む。好ましくは、サルモネラ特異的抗原は、例えばIdexx Laboratories Inc. (Flockchek)、またはLabor Diagnostik GmbH Leipzig (Flocktype Salmonella)、またはBiochek及び他の会社によって提供される、チキンにおけるサルモネラ特異的抗体を検出する市販の試験キットによって提供される。この試験セットアップは、ワクチン化の後にサルモネラ特異的免疫応答が出現するかどうかを明らかにする。更に、野生型サルモネラが関与していないことを明らかにし、それはPhoN−DIVA抗体試験における組換えタンパク質PhoNでネガティブな反応によって指摘される。
【0078】
一般的に、サルモネラ特異的抗体の検出のための市販の試験キットは、マイクロタイタープレートにおける間接的ELISAとして準備されている。供給者に依存して、サルモネラ特異的抗原または抗原ミックスは、マイクロタイタープレートのバイアルにすでに結合されているか、ストック溶液の一部を使用して後に結合されなければならない。
【0079】
精製PhoN、例えばPhoNFP201は、適切な防腐剤と共に凍結ストック溶液または凍結乾燥物として好ましくは提供される。本実施例では、PhoN特異的抗体の検出のためのELISAは、例えばAntibodies. A Laboratory ManualにおけるE. Harlow及びD. Laneによるもののようないずれかで記載された標準的なプロトコールに従って実施される。
【0080】
【表1】
【図2A−1】
【図2A−2】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Salmonella enterica ssp. enterica血清型Enteritidis株DSM21972またはそれから由来するいずれかの株。
【請求項2】
医薬、例えば獣医薬における使用のための、請求項1に記載の株。
【請求項3】
ワクチンとしての使用のための、請求項2に記載の株。
【請求項4】
生ワクチンとしての使用のための、請求項3に記載の株。
【請求項5】
サルモネラ感染に対して保護するためのワクチンとしての使用のための、請求項3または4に記載の株。
【請求項6】
哺乳類、例えばブタ、または鳥類、例えばチキンのような家禽における使用のための、請求項1から5のいずれか一項に記載の株。
【請求項7】
血清学的マーカー抗原としての、サルモネラphoNポリペプチドまたは/及びその免疫原性部分を含むポリペプチドの使用であって、前記phoNポリペプチドは、配列番号1の配列、または配列番号1に少なくとも70%同一である配列を含み、前記免疫原性部分は、好ましくは少なくとも10、より好ましくは少なくとも20、更により好ましくは少なくとも30アミノ酸の長さを有する、使用。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか一項に記載の株でのワクチン化後の、ワクチン化動物からの感染動物の識別(DIVA)のための、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
phoN抗原が、特に大腸菌のような組換え宿主細胞における、phoN核酸の組換え発現によって調製される、請求項7または8に記載の使用。
【請求項10】
phoN抗原が、配列番号1の全長phoNポリペプチドを含む、請求項7から9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
少なくとも一つの組換えサルモネラphoN抗原、またはその免疫原性部分、及び任意に更なる試験成分を含む、サルモネラphoN抗原に対して向けられた抗体の検出のための血清学的試験システムであって、前記phoN抗原が、配列番号1の配列、または配列番号1に少なくとも70%同一である配列を含む、システム。
【請求項12】
組換えサルモネラphoN抗原またはその免疫原性断片の製造のための、サルモネラphoN核酸の使用であって、前記phoN抗原が、配列番号1の配列、または配列番号1に少なくとも70%同一である配列を含む、使用。
【請求項1】
Salmonella enterica ssp. enterica血清型Enteritidis株DSM21972またはそれから由来するいずれかの株。
【請求項2】
医薬、例えば獣医薬における使用のための、請求項1に記載の株。
【請求項3】
ワクチンとしての使用のための、請求項2に記載の株。
【請求項4】
生ワクチンとしての使用のための、請求項3に記載の株。
【請求項5】
サルモネラ感染に対して保護するためのワクチンとしての使用のための、請求項3または4に記載の株。
【請求項6】
哺乳類、例えばブタ、または鳥類、例えばチキンのような家禽における使用のための、請求項1から5のいずれか一項に記載の株。
【請求項7】
血清学的マーカー抗原としての、サルモネラphoNポリペプチドまたは/及びその免疫原性部分を含むポリペプチドの使用であって、前記phoNポリペプチドは、配列番号1の配列、または配列番号1に少なくとも70%同一である配列を含み、前記免疫原性部分は、好ましくは少なくとも10、より好ましくは少なくとも20、更により好ましくは少なくとも30アミノ酸の長さを有する、使用。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか一項に記載の株でのワクチン化後の、ワクチン化動物からの感染動物の識別(DIVA)のための、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
phoN抗原が、特に大腸菌のような組換え宿主細胞における、phoN核酸の組換え発現によって調製される、請求項7または8に記載の使用。
【請求項10】
phoN抗原が、配列番号1の全長phoNポリペプチドを含む、請求項7から9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
少なくとも一つの組換えサルモネラphoN抗原、またはその免疫原性部分、及び任意に更なる試験成分を含む、サルモネラphoN抗原に対して向けられた抗体の検出のための血清学的試験システムであって、前記phoN抗原が、配列番号1の配列、または配列番号1に少なくとも70%同一である配列を含む、システム。
【請求項12】
組換えサルモネラphoN抗原またはその免疫原性断片の製造のための、サルモネラphoN核酸の使用であって、前記phoN抗原が、配列番号1の配列、または配列番号1に少なくとも70%同一である配列を含む、使用。
【図2B】
【図2C】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12A】
【図12B】
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2C】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12A】
【図12B】
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公表番号】特表2012−509075(P2012−509075A)
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536877(P2011−536877)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【国際出願番号】PCT/EP2009/065571
【国際公開番号】WO2010/057985
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(511122385)グラビティ・ホールディング・アーゲー (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【国際出願番号】PCT/EP2009/065571
【国際公開番号】WO2010/057985
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(511122385)グラビティ・ホールディング・アーゲー (1)
【Fターム(参考)】
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