説明

サンプル処理装置

【課題】試薬プレートに対してサンプルプレートを接合することにより、それらの間に試薬を展開させてサンプルの試薬処理を行う装置において、試薬プレートからの液だれを防止する。
【解決手段】試薬プレート16に弁構造20を設ける。弁構造20は弁球22を有し、サンプルプレート10が試薬プレート16に接合していない状態では、弁球22の一部が小孔から突出して、その周囲からの試薬の流出が阻止される。サンプルプレート10が試薬プレート16に接合すると、弁球22が奥側に押し込まれ、その周囲に流路が形成され、試薬槽18から試薬が隙間へ流出し、試薬が両プレート間に展開される。これによりサンプル14が試薬によって湿潤状態におかれる。弁球に代えて円柱体等を利用することも可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサンプル処理装置に関し、サンプルプレートに試薬プレートを接合させた状態でその間に試薬を導入し更に展開させてサンプルを試薬処理する装置の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
生物組織を各種の試薬によって処理するサンプル処理装置としては各種のものが知られている。特許文献1には、面接合による試薬展開を利用したサンプル処理装置が開示されている。具体的には、サンプルが付着されたサンプルプレートと、試薬槽を有する試薬プレートとが利用され、両プレートが起立した状態において、一方又は両方の平行移動により、サンプルプレートのサンプル付着面と試薬プレートの接合面とが接合される。サンプルプレートの接合面には、試薬槽に連通する小孔が形成されているため、その小孔からサンプル側へ試薬がにじみ出て展開し、サンプルが湿潤状態におかれる。
【0003】
【特許文献1】特開平9−281017号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、小孔には弁構造が設けられていないため、試薬の粘性如何によっては液だれのおそれがある。特に、加温時に試薬の粘性が低下すると、そのような問題が生じやすい。
【0005】
本発明の目的は、面接合方式のサンプル処理装置において、液だれを防止できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、生物組織サンプルが付着されたサンプルプレートと、前記サンプルプレートのサンプル貼着面に接合される接合面と、試薬を収容する試薬漕と、前記試薬漕から前記接合面へ試薬をにじみ出す開口部と、を有する試薬プレートと、を含み、前記開口部には弁構造が形成され、前記弁構造は、前進状態で前記サンプルプレート側へ部分的に突出して試薬流出を制限し且つ前記サンプルプレートの接合時に後退運動して試薬流出路を形成する弁部材を有する、ことを特徴とするサンプル処理装置に関する。
【0007】
上記構成によれば、試薬槽からの試薬が出る部分(開口部)に弁構造が設けられているので、液だれを防止することができる。弁構造は運動可能に設けられた弁部材を有し、それはサンプルプレートの表面(あるいはサンプル表面)に当たって奥側に引っ込むものであり、そのような運動により弁部材の周囲の全部又は一部に流路が形成されて、そこから試薬が接合面間の隙間に展開することになる。面接合が解消されると、試薬の流れにより弁部材が前方へ自然に運動し、試薬が堰き止められる。よって、電気的な駆動源が不要で、機械的に複雑な仕組みも不要であるので、簡易かつ安価な構成で液だれを効果的に防止できる。特に、サンプル及び試薬の全体を加温しながら試薬処理を行うような場合においては、試薬の粘性が変化して液だれが生じやすくなる場合もあるが、上記構成によればそのような問題を効果的に解消又は軽減できる。
【0008】
望ましくは、前記弁構造は、前記弁部材を収容する空洞部と、前記空洞部の前側に形成され、前記弁部材の前進端を規定する前進規制構造体と、前記空洞部の後側に形成され、前記弁部材の後退端を規定する後退規制構造体と、を含む。望ましくは、前記弁部材は球体であり、あるいは、円柱体である。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように、本発明によれば、面接合方式のサンプル処理装置において、液だれを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0011】
図1には、本発明に係るサンプル処理装置の要部構成が示されている。このサンプル処理装置は、サンプルとしての生体組織を試薬によって処理する装置であり、試薬処理に際しては必要に応じて加温が行われる。
【0012】
図1には、サンプルプレート10及び試薬プレート16が示されている。それらのプレート10,16は起立状態にある。サンプルプレート10は保持部12によって上方から保持されており、保持部12は図示されていないロボットによって機械的に駆動される。
【0013】
サンプルプレート10は例えばスライドガラスであり、その一方面10Aはサンプル付着面であり、そのサンプル付着面10Aのほぼ中央部にはサンプル14が貼り付けられている。サンプル14は生物組織の切片等である。ちなみに、カバーガラスは設けられていない。
【0014】
一方、試薬プレート16は、固定的に設けられ、あるいは必要に応じて搬送機構によって駆動されるものである。試薬プレート16は平板形を有しており、その上部には試薬槽18が設けられている。試薬槽18の上部開口18Aを介して図示されていない分注機構によって試薬槽18内に試薬が導入される。
【0015】
試薬槽18の下部18Bには弁構造20が形成されており、弁構造20は以下に詳述する弁球22を有する。ちなみに、試薬プレート16における接合面16Aには、その中央部やや上側に小孔が形成されており、その小孔の奥側に弁構造20が設けられている。
【0016】
図2には図1に示した試薬プレート16の斜視図が示されている。上述したように、弁構造20はその内部に弁球22を有している。弁球22は水平前後方向の一定範囲において運動可能に設けられており、サンプルプレート10が接合されていない状態では、弁球22は前方へ突き出ており、これによって試薬の流出が阻止される。すなわち、試薬が堰止められる。その状態では、弁球22の一部分が小孔から突出する。一方、後に説明するように、サンプルプレート10が試薬プレート16に接合されると、サンプルプレート10のサンプル付着面あるいはサンプル14自身によって弁球22の一部分が押し込まれ、すなわち弁球22それ自体が奥側に若干後退運動し、これによって、その周囲の全部あるいは一部分に隙間が形成され、そこを介して試薬が2つの面間に流出し、それが表面張力によって展開される。
【0017】
図3には、上述した弁構造20の拡大図が示されている。試薬槽18の下部には、その一部に空洞部20Bが形成されており、その内部には弁球22が運動可能に設けられている。弁球22における一部分22Aは、それが前進した状態において外部に突き出ており、すなわち小孔20Aから膨らみ出ている。ちなみに、dは接合面16Aから弁球22の一部分22Aが突き出た量を表している。
【0018】
符号26は、弁球22が外側へ飛び出ないようにするための規制部分を表しており、同様に、符号28は弁球22が後方側へ不必要に飛び出ないようにするための規制部分を表している。すなわち、空洞部20Bの前方及び後方を絞り込むことにより弁球22の運動空間が構成されている。2点鎖線で示される弁球24は、サンプルプレートが試薬プレートに接合されることによる後退運動状態を表しており、上述したように、その状態では弁球24の周囲に流路が形成され、試薬槽18からの試薬が接合面側に流出し、これによってサンプルの全体が試薬により湿潤状態におかれる。
【0019】
図4には、変形例が示されており、図示される弁構造27においては、小孔を規定する出口部品28が試薬プレート16に埋め込まれている。すなわち、弁球22を装着するにあたっては、まず空洞部内に弁球22を収納させた上で、部品28を設けるようにすればよい。部材28は、例えばゴム材等であってもよいし、あるいは金属であってもよい。部品28を試薬に対して悪影響が生じない耐薬品性をもった材料で構成するのが望ましい。
【0020】
図5には更に他の弁構造が示されている。その弁構造40は、その内部に円柱体44を有しており、それが弁部材を構成している。試薬プレート16の接合面16Aには、上述した小孔に代えて水平方向に広がった長方形の開口42が形成されており、その開口42からサンプルプレート側に円柱体44の一部分44Aが突出している。そのような突出状態では、円柱体44の周囲が完全に塞がれ、試薬槽からの試薬の流出が堰止められている。一方、上述した弁球と同様に、その突出した一部分44Aを奥側に押し込めば、その上側及び下側に流路が形成されて、試薬槽からの試薬の流出が許容される。
【0021】
上述した実施形態においては、弁部材として弁球あるいは円柱体が利用されていたが、他の形態をもった弁部材を利用するようにしてもよい。いずれにしても、面接合状態において奥側に引っ込んで流路を形成し、面接合の解消状態において前進して流路を塞ぐような構造を採用すれば、電気的な制御に依らずに、しかも簡易な構成をもって液だれを防止できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るサンプル処理装置の要部構成を示す図である。
【図2】図1に示した試薬プレートの斜視図である。
【図3】図1に示した弁構造の拡大断面図である。
【図4】弁構造の変形例を示しす図である。
【図5】弁構造の他の実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0023】
10 サンプルプレート、12 保持部、14 サンプル、16 試薬プレート、18 試薬槽、20 弁構造、22 弁球、44 円柱体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物組織サンプルが付着されたサンプルプレートと、
前記サンプルプレートのサンプル貼着面に接合される接合面と、試薬を収容する試薬漕と、前記試薬漕から前記接合面へ試薬をにじみ出す開口部と、を有する試薬プレートと、
を含み、
前記開口部には弁構造が形成され、
前記弁構造は、前進状態で前記サンプルプレート側へ部分的に突出して試薬流出を制限し且つ前記サンプルプレートの接合時に後退運動して試薬流出路を形成する弁部材を有する、ことを特徴とするサンプル処理装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記弁構造は、前記弁部材を収容する空洞部と、
前記空洞部の前側に形成され、前記弁部材の前進端を規定する前進規制構造体と、
前記空洞部の後側に形成され、前記弁部材の後退端を規定する後退規制構造体と、
を含むことを特徴とするサンプル処理装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の装置において、
前記弁部材は球体である、ことを特徴とするサンプル処理装置。
【請求項4】
請求項1又は2記載の装置において、
前記弁部材は円柱体である、ことを特徴とするサンプル処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−286730(P2008−286730A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−133910(P2007−133910)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】