説明

サンプル塗布装置

【課題】非接触式サンプル塗布装置であって、サンプル溶液の交換が容易に行うことができ、ノズルによるクロスコンタミネーションを回避し、さらにTLCロッドにも対応できるTLC用のサンプル塗布装置を提供することにある。
【解決手段】マイクロシリンジ1とマイクロシリンジのニードル側に配置された可動式のジェットブロック2から構成され、ジェットブロックは、マイクロシリンジのニードルが摺動できる細孔2a、ジェットブロック内に気体流を導入する気体導入手段2b、および交換式のジェットノズル3を具備しており、ジェットノズルは少なくとも内壁が円錐形状であり、前記円錐形状の頂点方向にジェット気流が噴出するための噴出孔3aを具備し、前記ジェットノズル内壁の延長線が交差する円錐形の頂角θが鋭角であることを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TLC(薄層クロマトグラフィー)分析に用いるTLCプレートまたはTLCロッドの上に、分析対象サンプル溶液を塗布する際に用いるサンプル塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、様々な測定対象サンプルの分離分析を行うためにTLC分析が広く利用されてきた。TLC分析では、ガラス板やアルミシートなどの平板上に、シリカゲルやアルミナなどの微粒子とバインダーの混合スラリーをキャストし、薄層を形成させたTLCプレートが一般的に用いられている。また、TLCを応用したTLC−FID法では、外径1mmほどの石英棒の周囲に薄層を焼結形成させたTLCロッドが用いられている。
【0003】
前記TLCプレートおよびTLCロッド上に分析対象サンプルを塗布するためには、ガラス毛細管やマイクロシリンジが用いられ、0.5〜5μL程度の微量サンプル溶液をスポット状に手動にて塗布するのが一般的である。一方、前記手動にて行う塗布作業は、サンプル数が多い場合身体的苦痛を強いられること、また塗布量が一定でなく精度の良い結果が得られないことなどの理由から、機械によるサンプル塗布装置が考案されてきた。電磁石を利用した装置(特許文献1参照)やロボットアームとサンプル供給用のニードル、およびニードルとTLCプレートの接触圧力を回避するスプリングとで構成された装置(特許文献2参照)などが知られている。
【0004】
前記塗布装置で問題になる点は、サンプルを供給するためのガラス毛細管やマイクロシリンジなどのニードルの先端が、TLCプレートの薄層に適度な接触圧力をもって確実に接していることが重要である。もし接していない場合、ガラス毛細管では薄層による毛細管現象が働かず全く塗布出来ない。マイクロシリンジなどでは、サンプル溶液が極めて微量であるため、サンプル溶液はニードルの外壁に沿って上昇し、一部垂れ落ちたサンプル溶液だけが塗布されることになるため、一定量塗布することは不可能である。一方、接触圧力が過剰な場合は薄層そのものに傷が付き、その後に行われる展開分離操作に悪影響を与えるばかりでなく、過剰な圧力によりガラス毛細管が破損したり、マイクロシリンジのニードルが折れ曲がるなどの事故が発生する。
【0005】
またTLC−FID法で用いられるTLCロッドの場合には、TLCロッド自体の機械的強度が弱く、ニードルなどの圧力が少しでも加わるとTLCロッドが破損する。さらにTLCロッドは、外径が約1mmの極めて細い棒状であることからニードルの位置決めが困難で、TLCプレートの場合よりもさらに機械化が難しい状況にある。従って、TLC−FID法の場合には専ら手動により塗布作業が行われている。
【0006】
一方、スプレーを用いたTLCプレート用の非接触式塗布装置(非特許文献1)が市販されている。これはマイクロシリンジにて徐々にサンプル溶液をニードル先端に排出させて、その排出されたサンプル溶液を空気または窒素ガス流にてノズルからスプレーさせる構造となっている。この場合ノズルはTLCプレートと接触しないので前記の問題が発生しない。しかしながらこの装置は、ノズルとマイクロシリンジが固定されているために、サンプル溶液の種類を交換することが困難で、サンプル溶液を交換するたびにマイクロシリンジを装置から取り外し、マイクロシリンジを洗浄液で洗浄してから次のサンプルを吸引、再び装置に取付けるという手作業が必要である。
【0007】
TLC分析では、TLCプレート1枚に数種類のサンプル溶液を塗布することが通常行われており、サンプル溶液の交換に煩雑な手作業を要することは好ましくない。さらにノズルはサンプル溶液の飛沫により汚染されるが、ノズルの清掃は容易ではないことからクロスコンタミネーションを受けやすくなる。このことは特に放射線標識したサンプルなどの場合重大な欠点となる。
【0008】
以上のようにTLC塗布装置では、マイクロシリンジのニードルなどによるTLCプレートやTLCロッド自体の破損、または薄層の損傷を回避すること。サンプル溶液が容易に交換できること。クロスコンタミネーションが回避できることが強く求められている。
【特許文献1】特許公報番号 US4161508
【特許文献2】特開2006−084358
【非特許文献1】「CAMAG LINOMAT5 オンラインカタログ」CAMAG(スイス国)、2008年、p3」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、TLC用非接触式塗布装置において、サンプル溶液の交換が容易に行うことができ、ノズルによるクロスコンタミネーションを回避し、さらにTLCロッドにも対応できる安価なTLC用サンプル塗布装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の課題を解決するために、マイクロシリンジとマイクロシリンジのニードル側に配置された可動式のジェットブロックから構成され、可動式のジェットブロックは、マイクロシリンジのニードルが摺動できる細孔、ジェットブロック内に気体流を導入する気体導入手段、および交換式のジェットノズルを具備しており、ジェットノズルは少なくとも内壁が円錐形状であり、前記円錐形状の頂点方向にジェット気流が噴出するための噴出孔を具備し、前記ジェットノズル内壁の延長線が交差する円錐形の頂角が鋭角であることを特徴とするサンプル塗布装置により解決することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、TLCプレートまたはTLCロッドにジェットノズルが接触しないでサンプル塗布が行えるため、薄層に傷がつくことがない。また、円錐形状のジェットノズルにより、サンプル溶液を含むジェット気流は細く絞られ、そのジェット気流の焦点にTLCロッドを合わせることにより、極めて細いTLCロッドにも高価で特別な手段を用いることなく容易にサンプル塗布を行うことができる。さらにジェットブロックを可動式とすることで、マイクロシリンジの洗浄およびサンプルの交換が容易に行うことができる上、ジェットノズルが容易に着脱できるため、サンプルの種類毎にジェットノズルを交換することによりクロスコンタミネーションを完全に回避することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。図1は、本発明のサンプル塗布装置の一態様を模式的に示す説明図であり、図2は、マイクロシリンジ洗浄およびサンプル溶液吸引時のマイクロシリンジとジェットブロックの位置関係を示す説明図である。
【0013】
図1の態様は、マイクロシリンジ1、ジェットブロック2および着脱可能なジェットノズル3より構成されている。マイクロシリンジ1は、ハミルトン社、SGE社または伊藤シリンジ社から供給されているものをそのまま使用することができる。ジェットブロック2は、ステンレス、アルミニウム、真鍮、リン青銅などの金属やジュラコン、PTFE、PEEKなどの所謂エンジニアリングプラスチックなどから製作することができるが、耐腐食性や機械的強度を考慮するとステンレス製が望ましい。
【0014】
ジェットノズル3は外面形状に対しての制約はないが、少なくともその内壁が円錐形状をしている。ジェットノズル3は、金属、ガラス、セラミックス、プラスチックなどの材質を加工し製作可能であるが、内壁を円錐形状に加工することは非常にコストがかかり、交換式で使用するには問題がある。そこで最も安価で安定した品質を得る方法として、ノック式ピペットに使用される使い捨てチップ、例えばエッペンドルフ社製epTIPSの50〜1000μLタイプを適当にカットして使用する。前記epTIPSの寸法精度は非常に良く、かつ内面は液切れを考慮し滑らかな表面となっている。また、材質が若干の弾力性を持っていることから、ジェットブロックの突起2cに差し込むだけで固定が可能である。しかも使い捨て製品なので非常に安価であり、本発明を実施するには最適である。
【0015】
マイクロシリンジ1は,ガラス製バレル1a、プランジャー1cおよびニードル1bからなり、プランジャー1cを矢印Bで示すように上下移動することで、サンプル溶液の吸引および排出を行うことができる。ジェットブロック2には、ニードル1bの外径よりもわずかに大きい細孔2aが設けられ、ニードル1bに沿ってジェットブロック全体が矢印Aで示すように上下に移動可能とし、同時に気体導入手段2bから供給される気体流がジェットブロック2の上方に漏れ出すことを防いでいる。
【0016】
ジェットノズル3の内壁は円錐形状でその円錐形の頂点方向に噴出孔3aが開いており、その内壁の延長線上にサンプル溶液を含むジェット気流の焦点fが形成され、焦点fはTLCロッド4の上面に合わせられている。なお前記焦点fは、ジェットノズル3の円錐形の頂点と同じである。
【0017】
サンプル溶液が吸引されているマイクロシリンジ1のプランジャー1cをステッピングモーターなどで矢印Bの下方向へゆっくりと移動させると、サンプル溶液はニードル1bの先端からにじみ出す。気体導入手段2bには、空気あるいは窒素ガスなどの気体流が導入され、その気体流はジェットブロック2およびジェットノズル3により絞られて速い線速度で噴出孔3aより噴出する。このときニードル1bの先端からにじみ出たサンプル溶液は、前記気体流により表面張力が打ち破られ細かな液滴となって気体流とともに噴出され、TLCロッド4上の焦点fにフォーカスされて、TLCロッド表面にある薄層にしみ込むことになる。図1ではニードル1bの先端は噴出孔3aより内側に位置しているが、噴出孔3aから外側にわずかに突出していても本発明を実施することができる。
【0018】
ここで、ジェットノズル3の具体的形状であるが、ニードル先端からにじみ出たサンプル溶液を気体流で効率よく噴出させるためには、例えばサンプル溶液がメタノール溶液の場合、気体流の線速度は5.3m/sec以上必要とされる。仮に噴出孔3aの径が2mmであれば、約2000mL/min以上の気体流量が必要になる。気体を空気とした場合、エアポンプにより気体流を作り出すことが現実的であるが、市販の安価なダイアフラム式エアポンプは最大流量が2000mL/min程度であることから、噴出孔3aの径は2mmより小さいことが望まれる。また気体を窒素とした場合は窒素ボンベを用いるのが一般的であるが、流量は少ないほどランニングコストは安くなる。
【0019】
一方ジェットノズル3の先端と焦点f(円錐形の頂点)の間隙は、装置の設計上あるいは装置を使用する上で最低でも1mmより余裕があることが望ましい。これらの点を勘案し噴出孔3aの径が2mm、ジェットノズル3の先端と焦点fの間隙が1mmという条件から、ジェットノズル3の円錐形の頂角θは90°の角度になる。ここで前記条件を満たすには円錐形の頂角θは0°<θ<90°で表される鋭角であることが好ましいことになる。前記epTIPSの50〜1000μLタイプをジェットノズル3として用いた場合、噴出孔3aの径は約0.8mm、ジェットノズル3と焦点fの間隙は約4.5mm、円錐形の頂角θは約9.6°となった。
【0020】
このように、サンプル塗布の対象がTLCロッドのような極めて細く機械的強度が弱いものであっても、本発明のサンプル塗布装置によれば容易にサンプルを塗布することができる。またTLCプレートの場合は、TLCロッドよりもさらに容易に成し得ることは明白である。またジェットノズル3が容易に着脱できることから、サンプルの種類ごとにジェットノズルを交換することでノズルの汚に起因するサンプルのクロスコンタミネーションを完全に回避することができる。
【0021】
図2は、サンプル溶液を吸引する場合、あるいは洗浄液によりマイクロシリンジ1を洗浄する場合のマイクロシリンジおよびジェットブロックの位置関係を示す。サンプル溶液を吸引する場合やマイクロシリンジを洗浄するとき、ジェットブロック2はモーターやソレノイドなどによって上方へ移動する。従って、ニードル1bの先端は、ジェットノズル3にある噴出口3aから外側に突き出される。次に気体導入手段から導入されていた気体は、電磁弁などによりその供給が停止される。
【0022】
この状態でサンプル溶液または洗浄液が入ったボトル5の中へニードル1bの先端を差し込み、プランジャー1cを上方へ引き上げることにより、サンプル溶液または洗浄溶液が吸引される。マイクロシリンジを洗浄する場合には、プランジャー1cを矢印Bのように数回上下させポンピングすることにより成し得る。従ってサンプル溶液の交換やマイクロシリンジの洗浄操作は、マイクロシリンジを装置から取り外すことなく容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のサンプル塗布装置の一態様を模式的に示す説明図である。
【図2】本発明のサンプル塗布装置におけるマイクロシリンジ洗浄およびサンプル溶液吸引時のマイクロシリンジとジェットブロックの位置関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0024】
1・・・マイクロシリンジ;1a・・・ガラス製バレル;1b・・・ニードル;1c・・・プランジャー;2・・・ジェットブロック;2a・・・細孔;2b・・・気体導入手段;2c・・・突起;3・・・ジェットノズル;3a・・・噴出孔;4・・・TLCロッドの断面;5・・・ボトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TLCプレートまたはTLCロッド上に、液体サンプルを塗布するためのサンプル塗布装置であって、マイクロシリンジとマイクロシリンジのニードル側に配置された可動式のジェットブロックから構成され、可動式のジェットブロックは、マイクロシリンジのニードルが摺動できる細孔、ジェットブロック内に気体流を導入する気体導入手段、および交換式のジェットノズルを具備しており、ジェットノズルは少なくとも内壁が円錐形状であり、前記円錐形状の頂点方向にジェット気流が噴出するための噴出孔を具備し、前記ジェットノズル内壁の延長線が交差する円錐形の頂角が鋭角であることを特徴とするサンプル塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−168785(P2009−168785A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−29633(P2008−29633)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【特許番号】特許第4189773号(P4189773)
【特許公報発行日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(508041781)株式会社リポニクス (4)