サージ電流検出デバイス
【課題】導体に簡単に取り付けることができ、導体に侵入するサージ電流を的確に検出するサージ電流検出デバイスを提供する。
【解決手段】サージ電流検出デバイス30は、導体11に対して着脱自在に取り付けられ、この導体11に侵入するサージ電流を検出するものである。サージ電流検出デバイス30は、対向する第1及び第2のホルダ本体40−1,40−2により導体11を着脱自在に把持するホルダ40と、このホルダ40内に固定され、導体11に侵入するサージ電流によって発生する磁界を形成する磁力線を、所定の検出領域に高密度に集中させる断面ほぼU字状の磁力集中部材60と、前記検出領域に位置するようにホルダ40内に固定され、サージ電流を検出する磁性体シート70とを備えている。
【解決手段】サージ電流検出デバイス30は、導体11に対して着脱自在に取り付けられ、この導体11に侵入するサージ電流を検出するものである。サージ電流検出デバイス30は、対向する第1及び第2のホルダ本体40−1,40−2により導体11を着脱自在に把持するホルダ40と、このホルダ40内に固定され、導体11に侵入するサージ電流によって発生する磁界を形成する磁力線を、所定の検出領域に高密度に集中させる断面ほぼU字状の磁力集中部材60と、前記検出領域に位置するようにホルダ40内に固定され、サージ電流を検出する磁性体シート70とを備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信回路や電源回路等の被保護機器に接続された通信線や電源線等の導体に侵入する落雷等のサージ電流に対して被保護機器を防護(保護)するための保安器等に設けられ、サージ電流の大きさ等の侵入状態を検出するサージ電流検出デバイスに係り、特に、サージ電流の侵入に伴い、導体に発生する磁界を利用してサージ電流の侵入状態を検出するサージ電流検出デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、通信回路や電源回路等の被保護機器の品質が向上するにつれ、落雷等による機器破損の被害件数も増加の傾向を辿っている。例えば、建物設備周辺に落雷があった場合、落雷のあった場所から周辺へサージ電流が流れる。そして、サージ電流が設備内部へと侵入してしまうと、被保護機器が破壊されてしまう。そのため、サージ電流の侵入を検出するサージ電流検出デバイスが求められていた。
【0003】
又、被保護機器が破壊されないように保安器(SPD)が設備へと設置される。落雷等の雷サージ電流から設備機器を保護する役目を持つ保安器も、内部の避雷管(アレスタ)やバリスタ等の雷保護素子である防護素子が破壊される場合があるため、保護する設備と同様に、サージ電流の侵入を検出するサージ電流検出デバイスが求められていた。
【0004】
保安器、とりわけ内部防護素子のバリスタやアレスタ等は、サージ電流やサージ電圧が印加されることで劣化していく素子である。そして、劣化することにより本来備わっている機能が低下してしまうおそれがあるため、劣化した保安器というものは早期交換が重要である。
【0005】
これらの問題解決のための従来技術として、例えば、下記の特許文献1〜3に記載されたサージ電流検出デバイスが知られている。
【0006】
特許文献1に記載されたサージ電流検出デバイスでは、落雷によるサージ電流が導体に流れた際のサージ電流のジュール熱を利用して感熱材を変色させ、バリスタ等の防護素子の劣化を判定している。即ち、バリスタ等の防護素子に感熱材を設置しておき、サージ電流が流れ、防護素子が動作することによりジュール熱が発生し、感熱材を変色させている。
【0007】
特許文献2、3に記載されたサージ電流検出デバイスでは、前記と同様に、ジュール熱を利用する判定方法であり、熱収縮材による金属の収縮を利用して劣化を判定している。例えば、サージ電流のジュール熱により金属収縮材が縮み、この金属収縮材により、遮蔽されていた表示部を露出させて目視できるような機構を施すことで、判定を行っている。
【0008】
又、保安器とは異なる他の技術分野ではあるが、カードの情報内容を目視にて確認できる磁気表示媒体の技術が、下記の特許文献4に記載されている。
【0009】
この特許文献4に記載された磁気表示媒体では、基体上に情報収納部と磁気表示部とを備えている。情報収納部は、磁気テープ又は集積回路(IC)メモリにより構成されている。磁気表示部は、基板と、この上に直接又は中間層を介して塗設されたマイクロカプセルを含有する記録層とを有している。マイクロカプセルの中には、液体と、この液体の中に浮遊し且つ磁場に感応する磁性粉とが含有されており、情報収納部に収納された情報に基づき、磁気表示部の記録層に目視可能な情報の記録及び消去ができるように構成されている。
又、マイクロカプセルに関する技術が、下記の特許文献5等にも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−150657号公報
【特許文献2】特開2006−244889号公報
【特許文献3】特開2007−242569号公報
【特許文献4】特開平5−16578号公報
【特許文献5】特開平11−76801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1〜3に記載された従来のサージ電流検出デバイスでは、次の(a)、(b)のような課題があった。
【0012】
(a) 従来のものは、導体に流れるサージ電流のジュール熱を利用してバリスタ、アレスタ等の防護素子の劣化を判定している。サージ電流を流す導体は、サージ電流を速やかに流さなければならないので、抵抗値を小さくする必要がある。しかし、サージ電流は短時間に流れ、ジュール熱量が少ないので、劣化検出感度が良くない。
【0013】
(b) 金属収縮材等を用いたものでは、機械式構造のため、導体への取り付けに手数が掛かり、更に、小型化、軽量化、及び低コスト化が難しい。
【0014】
このように、従来のサージ電流検出デバイスでは、劣化検出感度が良くない、導体への取り付けに手数が掛かる、更に、小型化、軽量化、及び低コスト化が難しい、といった課題があった。
【0015】
このような課題を解決するために、例えば、特許文献4、5等に記載されたマイクロカプセルを含有する記録層を従来の技術に適用して、サージ電流を検出することが考えられる。しかし、落雷等のサージ電流は極めて短時間に流れるため、検出感度を向上させることが困難であった。
【0016】
そこで、本発明は、従来のマイクロカプセル技術等を用いて、従来の前記課題を巧みに解決したサージ電流検出デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のサージ電流検出デバイスは、導体に対して着脱自在に取り付けられ、前記導体に侵入するサージ電流を検出するサージ電流検出デバイスであって、対向する第1及び第2のホルダ本体を有し、前記第1及び第2のホルダ本体により前記導体を着脱自在に把持するホルダと、前記第1のホルダ本体側に装着され、前記導体を挿脱自在に収容し、前記導体に侵入する前記サージ電流によって発生する磁界を形成する磁力線を、所定の検出領域に高密度に集中させる磁性体からなる磁力集中部材と、前記検出領域に位置するように前記第2のホルダ本体側に装着され、前記サージ電流を検出する磁性体シートとを備えている。
【0018】
そして、前記磁性体シートは、表面及び裏面を有し、前記裏面側が前記検出領域に配置されるシート部材と、前記シート部材の表面側に設けられ、集中された前記磁力線により配向状態が変化する磁性粉が液体中に浮遊状態で封止されたマイクロカプセルが複数配置され、前記サージ電流における侵入状態の記録及び消去が可能な記録層と、前記記録層を覆い、前記記録層における前記記録及び消去の状態が外部から目視可能な透光性の保護膜とを有している。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、次の(a)〜(c)のような効果がある。
(a) 導体に侵入するサージ電流によって発生する磁界を形成する磁力線を、磁力集中部材によって所定の検出領域に高密度に集中させ、磁性体シート内のマイクロカプセル中の磁性粉の配向状態を変化させる構成にしている。そのため、短時間に侵入するサージ電流に対し、より鮮明に磁性粉の配向状態の変化を目視でき、サージ電流値の大きさや侵入回数を簡単且つ的確に検知することができる。
【0020】
(b) 前記(a)により、従来のようなジュール熱による危険もなく、しかも、ホルダにより、導体に磁性体シートを近接させる構成であるため、構造が簡単で、小型化及び低コスト化が可能であり、取り付け場所が嵩むことがない。
【0021】
(c) ホルダは、第1及び第2のホルダ本体により導体を着脱自在に把持する構成になっており、更に、そのホルダに装着された磁力集中部材が、導体を挿脱自在に収容する構成になっている。そのため、サージ電流検出デバイスを導体に簡単に取り付け、又は取り外すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は本発明の実施例1におけるサージ電流検出デバイスが設けられた保安器を示す回路図である。
【図2a】図2aは図1中のサージ電流検出デバイス30を示す斜視図である。
【図2b】図2bは図2aのサージ電流検出デバイス30を開いた状態を示す斜視図である。
【図2c】図2cは図2aのサージ電流検出デバイス30を示す左側面図である。
【図2d】図2dは図2aのサージ電流検出デバイス30におけるI−II線断面を示す模式図である。
【図3a】図3aは図2d中の磁性体シート70を示す模式的な断面図である。
【図3b】図3bは図3a中の部分拡大図である。
【図3c】図3cは図3a中の部分拡大図である。
【図4a】図4aは図1の保安器10の対接地間(コモンモード)の動作を示す回路図である。
【図4b】図4bは図1の保安器10の線間(ノーマルモード)の動作を示す回路図である。
【図5a】図5aは図2aのサージ電流検出デバイス30の動作を説明するための模式的な図であって、磁性体シート70の表面側から見た平面図である。
【図5b】図5bは図5aの右側面図である。
【図6a】図6aは図2aのサージ電流検出デバイス30を用いて試験したサージ電流検出結果74aを示す図である。
【図6b】図6bは図2aのサージ電流検出デバイス30を用いて試験したサージ電流検出結果74bを示す図である。
【図6c】図6cは図2aのサージ電流検出デバイス30を用いて試験したサージ電流検出結果74cを示す図である。
【図6d】図6dは図2aのサージ電流検出デバイス30を用いて試験したサージ電流検出結果74dを示す図である。
【図7a】図7aは本発明の実施例2におけるサージ電流検出デバイスを示す斜視図である。
【図7b】図7bは図7aのサージ電流検出デバイスを開いた状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明を実施するための形態は、以下の好ましい実施例の説明を添付図面と照らし合わせて読むと、明らかになるであろう。但し、図面はもっぱら解説のためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0024】
(実施例1の構成)
図1は、本発明の実施例1におけるサージ電流検出デバイスが設けられた保安器を示す回路図である。
【0025】
保安器10は、通信機器等の被保護機器25を落雷等のサージ電流から防護するものであり、接地線である導体11(例えば、11−1)に接続されるアース端子Eと、通信線、電源線等の線路である2つの導体11−2,11−3に接続される2つの線路側端子L1,L2と、被保護機器25に接続される2つの機器側端子T1,T2とを有している。一方の線路側端子L1及び機器側端子T1間は、導体11−4により接続され、他方の線路側端子L2及び機器側端子T2間も、導体11−7により接続されている。
【0026】
導体11−4には、線間側の導体11−5を介して、防護素子(例えば、3極避雷管である3極アレスタ)12の第1電極が接続され、この3極アレスタ12の第2電極が、線間側の導体11−6を介して、導体11−7に接続されている。3極アレスタ12の第3電極は、アース側の導体11−8を介して、アース端子Eに接続されている。各導体11(=11−1〜11−8)としては、耐電流に応じた直径(例えば、3mm〜4mm、5mm〜6mm、7mm〜10mm等)を有する断面円形のケーブルが使用されている。
【0027】
アース側の導体11−1には、サージ電流検出デバイス30(例えば、30−1)が装着され、更に、線路側の導体11−2,11−3にもサージ電流検出デバイス30−2,30−3がそれぞれ装着されている。各サージ電流検出デバイス30−1〜30−3は、各導体11−1〜11−3に侵入する落雷等のサージ電流における侵入状態(例えば、侵入経路、侵入電流値の大きさ、侵入回数等)をそれぞれ検出するものであり、同一の構成である。なお、サージ電流検出デバイス30(例えば、30−4,30−5,30−6)は、保安器10内の導体11−5,11−6,11−8に装着することもできる。
【0028】
図2a〜図2dは、図1中のサージ電流検出デバイス30を示す構成図であり、図2aはサージ電流検出デバイス30を示す斜視図、図2bは図2aのサージ電流検出デバイス30を開いた状態を示す斜視図、図2cは図2aのサージ電流検出デバイス30を示す左側面図、及び、図2dは図2aのサージ電流検出デバイス30におけるI−II線断面を示す模式図である。
【0029】
サージ電流検出デバイス30は、導体11を着脱自在に把持するほぼ円筒状のホルダ40と、このホルダ40内に固定され、導体11に侵入するサージ電流によって発生する磁界を形成する磁力線を、所定の検出領域に高密度に集中させる断面ほぼU字状の板状をなす磁力集中部材60と、前記検出領域に位置するようにホルダ40に固定され、前記サージ電流における侵入状態の記録が可能な方形の磁性体シート70とにより構成されている。
【0030】
ほぼ円筒状のホルダ40の外形の寸法は、例えば、幅Wが16mm、長さDが19mm、及び高さHが12mm程度である。なお、ホルダ40の外形の寸法は、導体11の太さ等に応じて任意の値に変更が可能である。このホルダ40は、中心軸方向に2分割された対向する第1のホルダ本体40−1及び第2のホルダ本体40−2を有し、これらが合成樹脂等の絶縁部材により一体的に形成されている。第1及び第2のホルダ本体40−1,40−2は、一側端が2つのヒンジ部41−1,41−2により連結されている。第1のホルダ本体40−1の解放側の他側端には、係合突起42が設けられている。第2のホルダ本体40−2の解放側の他側端には、係合突起42と対向する位置に、係合枠43が設けられている。これらの係合突起42及び係合枠43により、係合部が構成され、係合突起42を係合枠43内に嵌入することにより、第1及び第2のホルダ本体40−1,40−2の解放側の他側端が着脱自在に係止される構成になっている。
【0031】
第1及び第2のホルダ本体40−1,40−2の一端には、円形の貫通孔44を構成する半円孔44a,44bがそれぞれ形成されている。この円形の貫通孔44を構成する半円孔44a,44bに対向して、第1及び第2のホルダ本体40−1,40−2の他端にも、円形の貫通孔45を構成する半円孔45a,45bがそれぞれ形成されている。半円孔44a,44bにより構成される円形の貫通孔44は、導体11を貫通させる孔である。この貫通孔44の周りには、複数のスリット46が形成され、異なる太さの導体11を貫通させることができるように、孔の大きさが伸縮自在の構造になっている。同様に、半円孔45a,45bにより構成される円形の貫通孔45は、導体11を貫通させる孔である。この貫通孔45の周りには、複数のスリット47が形成され、異なる太さの導体11を貫通させることができるように、孔の大きさが伸縮自在の構造になっている。
【0032】
第1のホルダ本体40−1内には、一対の対向する収容壁48−1,48−2と、この収容壁48−1,48−2間における底部の端部に位置する係止片49とが、設けられている。一対の対向する収容壁48−1,48−2間には、断面ほぼU字状の板状をなす磁力集中部材60が装着され、この磁力集中部材60が係止片49により固定されている。
【0033】
磁力集中部材60は、断面ほぼU字状をなす板状の磁性体(例えば、酸化鉄、酸化クロム、コバルト、フェライト等の強磁性体)により形成され、導体11を収容して、この導体11に侵入するサージ電流によって発生する磁界を形成する磁力線を、所定の検出領域(即ち、磁力集中部材60の解放端60a,60b間付近の領域)に高密度に集中させる機能を有している。
【0034】
第2のホルダ本体40−2内において、磁力集中部材60の解放端60a,60bに対向する位置には、方形の開口部50が形成されている。この開口部50の周縁付近には、係止突起51が設けられている。開口部50には、プラスチック製等の方形の透明板52が嵌合され、この透明板52が係止突起51により固定されている。透明板52の内側には、方形の磁性体シート70の表面が、その透明板52に接するように配置されている。
【0035】
図3aは、図2d中の磁性体シート70を示す模式的な断面図、図3b及び図3cは、図3a中の部分拡大図である。
【0036】
図3aに示すように、磁性体シート70は、第2のホルダ本体40−2の開口部50に固定され、その第2のホルダ本体40−2の内側に位置する裏面側に、シート部材71が設けられている。シート部材71は、プラスチック等により形成され、表示のコントラストを明瞭にするために所定の色で着色されている。シート部材71の表面側には、サージ電流における侵入状態の記録及び消去が可能な記録層72が設けられている。記録層72の表面側は、この記録層72における記録及び消去の状態が外部から目視可能な透光性の保護膜73により覆われている。透光性の保護膜73は、例えば、プラスチック等の透明シートにより構成されている。保護膜73の表面側は、透明板52の裏面側に接するように配置される。
【0037】
シート部材71及び保護膜73間の記録層72は、そのシート部材71の表面側に配置された複数のマイクロカプセル72aと、これらのマイクロカプセル72a間に充填された接着剤であるバインダ72b等とにより構成されている。マイクロカプセル72aは、特許文献4、5等に記載されているように、磁力線により配向状態が変化する複数の磁性粉72a1が、有機溶剤等の液体72a2中に浮遊状態で封止されたものであり、例えば、直径が10〜100μm位の球形をしている。磁性粉72a1は、保磁力の小さな鉄材等の軟磁性体に、保磁力の大きな磁石材(フェライト、ネオジム等)の硬磁性体を適度に混合して用いると、保磁力の良いマイクロカプセル72aが得られる。例えば、軟磁性体として、フレーク状(薄片状)で縦横比が約10、粒子径2〜10μm位のものに、硬磁性体として、フレーク状で縦横比が約5、粒子径0.1〜2μm位のものを3〜15%位混合すれば、保磁力の良いマイクロカプセル72aが得られる。
【0038】
このような構成の磁性体シート70では、例えば、図3bに示すように、水平磁界Hhが加わると、磁性粉72a1が水平方向に配向して横に並び、外部から透明板52を介して保護膜73に入射する入射光Ihは、磁性粉72a1の表面で反射する。そのため、保護膜73を通して磁性粉72a1の表面色を目視できる。又、図3cに示すように、垂直磁界Hvが加わると、磁性粉72a1が垂直方向に配向して縦に並び、外部から透明板52を介して保護膜73に入射する入射光Ihは、シート部材71の表面まで届くが、反射が多く、シート部材71の色までは見えない。そのため、例えば、シート部材71の色が白でも赤でも、概ね全体的に黒く見える。
【0039】
(サージ電流検出デバイスの取り付け方法)
サージ電流検出デバイス30を導体11に取り付ける方法について説明する。
【0040】
図2bに示すように、内部に磁力集中部材60及び磁性体シート70が装着されたホルダ40において、ヒンジ部41−1,41−2を軸として、第1のホルダ本体40−1と第2のホルダ本体40−2とを開く。第1のホルダ本体40−1内に装着された断面U字状の磁力集中部材60と半円孔44a,45aとを、導体11の外周に嵌め込む。次に、内部に磁性体シート70が装着された第2のホルダ本体40−2を、ヒンジ部41−1,41−2を軸として第1のホルダ本体40−1側に閉じ、第2のホルダ本体40−2側の係合枠43中に、第1のホルダ本体40−1側の係合突起42を嵌入すれば、第1及び第2のホルダ本体40−1,40−2が固定される。
【0041】
これにより、サージ電流検出デバイス30が導体11の外周に取り付けられる。この取り付け状態では、図2dに示すように、導体11が磁力集中部材60中に収容され、この磁力集中部材60の解放端60a,60b間付近が、磁性体シート70により閉塞された状態に保持される。
【0042】
(保安器の動作)
図4aは、図1の保安器10の対接地間(コモンモード)の動作を示す回路図である。更に、図4bは、図1の保安器10の線間(ノーマルモード)の動作を示す回路図である。
【0043】
図4aの対接地間(コモンモード)において、落雷等により、導体11−2,11−3を介して線路側端子L1,L2から侵入したサージ電流iが+極性の場合、異常電圧よってアレスタ12が放電動作する。そのため、侵入したサージ電流iは、実線矢印で示すように、線路側端子L1→導体11−4→サージ電流検出デバイス30−5が設置された導体11−5→アレスタ12→導体11−8→アース端子Eへと流れると共に、線路側端子L2→導体11−7→サージ電流検出デバイス30−6が設置された導体11−6→アレスタ12→導体11−8→アース端子Eへと流れる。これにより、機器側端子T1,T2に接続された被保護機器25が、サージ電流iから防護される。この際、サージ電流検出デバイス30−1〜30−6が動作する。
【0044】
これに対し、導体11−2,11−3を介して線路側端子L1,L2から侵入したサージ電流iが−極性の場合、異常電圧よってアレスタ12が放電動作し、侵入したサージ電流iは、破線矢印で示すように、前記とは逆方向の経路を経て線路側端子L1,L2へ流れ、機器側端子T1,T2に接続された被保護機器25が、サージ電流iから防護される。この際、サージ電流検出デバイス30−1〜30−6が動作する。
【0045】
図4bの線間(ノーマルモード)において、落雷等により、導体11−2を介して線路側端子L1に+極性のサージ電流iが侵入した場合、異常電圧よってアレスタ12が放電動作する。そのため、侵入したサージ電流iは、実線矢印で示すように、導体11−4→サージ電流検出デバイス30−5が設置された導体11−5→アレスタ12→サージ電流検出デバイス30−6が設置された導体11−6→導体11−7→線路側端子L2へと流れる。これにより、機器側端子T1,T2に接続された被保護機器25が、サージ電流iから防護される。この際、サージ電流iはアース端子Eへ流れないので、サージ電流検出デバイス30−2,30−5,30−6,30−3が動作する。
【0046】
これに対し、導体11−3を介して線路側端子L2に+極性のサージ電流iが侵入した場合、異常電圧よってアレスタ12が放電動作し、侵入したサージ電流iは、実線矢印で示すように、前記とは逆方向の経路を経て線路側端子L1へ流れ、機器側端子T1,T2に接続された被保護機器25が、サージ電流iから防護される。この際、サージ電流iはアース端子Eへ流れないので、サージ電流検出デバイス30−3,30−6,30−5,30−2が動作する。
【0047】
(実施例1のサージ電流検出デバイスの動作)
図5aは、図2aのサージ電流検出デバイス30の動作を説明するための模式的な図であって、磁性体シート70の表面側から見た平面図である。更に、図5bは、図5aの右側面図である。
【0048】
図5aに示すように、導体11に装着されたサージ電流検出デバイス30において、矢印の右方向へサージ電流iが導体11に流れると、図5bに示すように、導体11の周囲に磁界Hが発生し、この磁界Hを形成する磁力線Mが、磁力集中部材60のS極側の解放端60bからN極側の解放端60aへ向かって、矢印の反時計回り方向に均等に生じる。導体11の周囲に均等に生じた磁力線Mは、磁力集中部材60により、所定の検出領域である解放端60a,60b間付近に高密度に集中される。
【0049】
そのため、ホルダ40により、磁力集中部材60の解放端60a,60b間上に配置された磁性体シート70内の記録層72において、解放端60a,60b間の上部に位置するマイクロカプセル72aには、水平の磁力線Mが加わり、マイクロカプセル72a中の磁性粉72a1が横に並んでこの磁性粉72a1の表面色が磁性体シート70内の保護膜73の表面に現れる。これに対し、解放端60a,60b間の斜め上部に位置するマイクロカプセル72aには、斜め方向の磁力線Mが加わり、マイクロカプセル72a中の磁性粉72a1が斜めに並んで若干黒くなった部分が保護膜73の表面に現れる。これにより、解放端60a,60b間の両側に対向する保護膜73箇所には、2本の線のサージ電流検出結果74が現れ、より鮮明に磁性粉72a1の配向状態の変化を目視できる。
【0050】
ここで、サージ電流検出結果74である2本の線により、導体11にサージ電流iが侵入したことを目視でき、更に、その2本の線の太さにより、サージ電流値の大きさや侵入回数を検知することができる。
【0051】
図6a〜図6dは、図2aのサージ電流検出デバイス30を用いて試験したサージ電流検出結果74(=74a〜74d)を示す図である。
【0052】
図6aは、サージ電流iが500Aで印加回数が1回の場合のサージ電流検出結果74aである。同様に、図6bは、サージ電流iが1kAで印加回数が1回の場合のサージ電流検出結果74b、図6cは、サージ電流iが2kAで印加回数が1回の場合のサージ電流検出結果74c、更に、図6dは、サージ電流iが2kAで印加回数が3回の場合のサージ電流検出結果74dである。
【0053】
この図6a〜図6dから明らかなように、侵入するサージ電流値の大きさや侵入回数が増加する程、サージ電流検出結果74(=74a,74b,74c,74d)である2本の線の太さが太くなっている。そのため、その2本の線の太さから、サージ電流値の大きさや侵入回数を検知することが可能になる。
【0054】
(実施例1の効果)
本実施例1によれば、次の(1)〜(5)のような効果がある。
【0055】
(1) 導体11に侵入するサージ電流iによって発生する磁界H(=Hh,Hv)を形成する磁力線Mを、磁力集中部材60によって所定の検出領域(即ち、磁力集中部材60の解放端60a,60b間付近)に高密度に集中させ、磁性体シート70内のマイクロカプセル72a中の磁性粉72a1の配向状態を変化させる構成にしている。そのため、短時間に侵入するサージ電流iに対し、より鮮明に磁性粉72a1の配向状態の変化を目視でき、サージ電流値の大きさや侵入回数を簡単且つ的確に検知することができる。
【0056】
(2) 前記(1)により、従来のようなジュール熱による危険もなく、しかも、ホルダ40により、導体11に磁性体シート70を近接させる構成であるため、構造が簡単で、小型化及び低コスト化が可能であり、取り付け場所が嵩むことがない。
【0057】
(3) ホルダ40は、第1及び第2のホルダ本体40−1,40−2からなる2分割構造になっており、しかも、そのホルダ40に装着された磁力集中部材60が断面ほぼU字状になっている。そのため、第1及び第2のホルダ本体40−1,40−2を開いて、ほぼU字状の磁力集中部材60を導体11の外周に被せ、第1及び第2のホルダ本体40−1,40−2を閉じれば、サージ電流検出デバイス30を簡単に導体11に取り付けることができる。又、第1及び第2のホルダ本体40−1,40−2を開いて、導体11から磁力集中部材60を引き離せば、サージ電流検出デバイス30を簡単に導体11から取り外すことができる。
【0058】
(4) 貫通孔44,45の周りには複数のスリット46,47が形成されているので、貫通孔44,45の大きさが伸縮し、異なる太さの導体11に取り付けることができる。なお、複数のスリット46,47に代えて、貫通孔44,45の周りを、柔軟性を有する部材にて形成することにより、貫通孔44,45の大きさを伸縮自在の構造にすることも可能である。
【0059】
(5) 第1及び第2のホルダ本体40−1,40−2からなる2分割構造のホルダ40を一体的に形成すれば、製造が容易になり、低コスト化が可能になる。
【実施例2】
【0060】
(実施例2の構成)
図7aは、本発明の実施例2におけるサージ電流検出デバイスを示す斜視図である。更に、図7bは、図7aのサージ電流検出デバイスを開いた状態を示す斜視図である。この図7a及び図7bにおいて、実施例1を示す図2a及び図2b中の要素と共通の要素には共通の符号が付されている。
【0061】
本実施例2のサージ電流検出デバイス30Aでは、実施例1のほぼ円筒状のホルダ40とは形状の異なるほぼ角筒状のホルダ40Aを有している。この角筒状のホルダ40A内には、実施例1とほぼ同様の磁力集中部材60及び磁性体シート70が装着されている。
【0062】
ほぼ角筒状のホルダ40Aは、中心軸方向に2分割された対向する第1のホルダ本体40A−1及び第2のホルダ本体40A−2を有し、これらが合成樹脂等の絶縁部材により一体的に形成されている。第1及び第2のホルダ本体40A−1,40A−2は、一側端が1つのヒンジ部41により連結されている。第1のホルダ本体40A−1の解放側の他側端には、係合枠43Aが設けられている。第2のホルダ本体40A−2の解放側の他側端には、係合枠43Aと対向する位置に、係合突起42Aが設けられている。これらの係合突起42A及び係合枠43Aにより、係合部が構成され、係合突起42Aを係合枠43A内に嵌入することにより、第1及び第2のホルダ本体40A−1,40A−2の解放側の他側端が着脱自在に係止される構成になっている。
【0063】
第1及び第2のホルダ本体40A−1,40A−2の一端には、実施例1と同様に、円形の貫通孔44を構成する半円孔44a,44bがそれぞれ形成されている。この円形の貫通孔44を構成する半円孔44a,44bに対向して、第1及び第2のホルダ本体40A−1,40A−2の他端にも、実施例1と同様に、円形の貫通孔45を構成する半円孔45a,45bがそれぞれ形成されている。半円孔44a,44bにより構成される円形の貫通孔44は、導体11を貫通させる孔である。この貫通孔44の周りには、実施例1と同様に、複数のスリット46Aが形成され、異なる太さの導体11を貫通させることができるように、孔の大きさが伸縮自在の構造になっている。同様に、半円孔45a,45bにより構成される円形の貫通孔45は、導体11を貫通させる孔である。この貫通孔45の周りには、実施例1と同様に、複数のスリット47Aが形成され、異なる太さの導体11を貫通させることができるように、孔の大きさが伸縮自在の構造になっている。
【0064】
なお、本実施例2の貫通孔44,45は、ほぼ角筒状のホルダ40Aの両端に形成されるため、実施例1に比べて孔の大きさに制約を受ける。そのため、実施例1に比べて、細い導体11に適している。
【0065】
第1のホルダ本体40A−1内には、実施例1と同様に、断面ほぼU字状の板状をなす磁力集中部材60が装着されている。第2のホルダ本体40A−2内において、磁力集中部材60の解放端60a,60bに対向する位置には、実施例1と同様に、方形の開口部50が形成されている。この開口部50には、実施例1とほぼ同様に、プラスチック製等の方形の透明板52が固定されている。透明板52の内側には、実施例1と同様に、方形の磁性体シート70の表面が、その透明板52に接するように配置されている。
【0066】
(サージ電流検出デバイスの取り付け方法)
サージ電流検出デバイス30Aを導体11に取り付ける方法について説明する。
【0067】
図7bに示すように、内部に磁力集中部材60及び磁性体シート70が装着されたホルダ40Aにおいて、ヒンジ部41を軸として、第1のホルダ本体40A−1と第2のホルダ本体40A−2とを開く。第1のホルダ本体40A−1内に装着された断面U字状の磁力集中部材60と半円孔44a,45aとを、導体11の外周に嵌め込む。次に、内部に磁性体シート70が装着された第2のホルダ本体40A−2を、ヒンジ部41を軸として第1のホルダ本体40A−1側に閉じ、第2のホルダ本体40A−2側の係合突起42Aを、第1のホルダ本体40A−1側の係合枠43Aに嵌入すれば、第1及び第2のホルダ本体40A−1,40A−2が固定される。
【0068】
これにより、サージ電流検出デバイス30Aが導体11の外周に取り付けられる。この取り付け状態では、実施例1の図2dと同様に、導体11が磁力集中部材60中に収容され、この磁力集中部材60の解放端60a,60b間付近が、磁性体シート70により閉塞された状態に保持される。
【0069】
(実施例2の動作・効果)
本実施例2のサージ電流検出デバイス30Aでは、実施例1のサージ電流検出デバイス30に対して全体の形状が異なるものの、実施例1と同様の動作を行い、実施例1とほぼ同様の効果を奏することができる。なお、本実施例2の貫通孔44,45は、ほぼ角筒状のホルダ40Aの両端に形成されるため、実施例1に比べて孔の大きさに制約を受け、実施例1に比べて、細い導体11に適している。
【0070】
(実施例1、2の変形例)
本発明は、上記実施例1、2に限定されず、種々の利用形態や変形が可能である。この利用形態や変形例としては、例えば、次の(i)〜(iii)のようなものがある。
【0071】
(i) 磁力集中部材60及び磁性体シート70を装着するためのホルダ40,40Aは、図示以外の形状や構造に変形しても良い。例えば、図2b及び図7bにおいて、ホルダ40,40A中のヒンジ部41−1,41−2,41を除去して、第1のホルダ本体40−1,40−1Aと第2のホルダ本体40−2,40−2Aとを分離し、第1のホルダ本体40−1,40A−1と第2のホルダ本体40−2,40−2Aとの接合箇所に、凹凸等の嵌脱自在の嵌合部を設ける。このような構成にすれば、第1のホルダ本体40−1,40A−1と第2のホルダ本体40−2,40−2Aとにより、導体11を挟持し、その第1のホルダ本体40−1,40A−1と第2のホルダ本体40−2,40−2Aとを嵌合部で嵌合すれば、サージ電流検出デバイス30,30Aを簡単に導体11に取り付けることができる。
【0072】
(ii) 磁力集中部材60及び磁性体シート70は、図示以外の他の形状や構造に変形しても良い。
【0073】
(iii) 実施例1、2のサージ電流検出デバイス30,30Aに適用される保安器10は、図1の保安器10の回路構成に限定されず、種々の回路構成の保安器に適用可能である。
【符号の説明】
【0074】
10 保安器
11,11−1〜11−8 導体
12 アレスタ
30,30A サージ電流検出デバイス
40,40A ホルダ
40−1,40A−1 第1のホルダ本体
40−2,40A−2 第2のホルダ本体
41,41−1,41−2 ヒンジ部
42,42A 係合突起
43,43A 係合枠
44,45 貫通孔
60 磁力集中部材
70 磁性体シート
71 シート部材
72 記録層
73 保護膜
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信回路や電源回路等の被保護機器に接続された通信線や電源線等の導体に侵入する落雷等のサージ電流に対して被保護機器を防護(保護)するための保安器等に設けられ、サージ電流の大きさ等の侵入状態を検出するサージ電流検出デバイスに係り、特に、サージ電流の侵入に伴い、導体に発生する磁界を利用してサージ電流の侵入状態を検出するサージ電流検出デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、通信回路や電源回路等の被保護機器の品質が向上するにつれ、落雷等による機器破損の被害件数も増加の傾向を辿っている。例えば、建物設備周辺に落雷があった場合、落雷のあった場所から周辺へサージ電流が流れる。そして、サージ電流が設備内部へと侵入してしまうと、被保護機器が破壊されてしまう。そのため、サージ電流の侵入を検出するサージ電流検出デバイスが求められていた。
【0003】
又、被保護機器が破壊されないように保安器(SPD)が設備へと設置される。落雷等の雷サージ電流から設備機器を保護する役目を持つ保安器も、内部の避雷管(アレスタ)やバリスタ等の雷保護素子である防護素子が破壊される場合があるため、保護する設備と同様に、サージ電流の侵入を検出するサージ電流検出デバイスが求められていた。
【0004】
保安器、とりわけ内部防護素子のバリスタやアレスタ等は、サージ電流やサージ電圧が印加されることで劣化していく素子である。そして、劣化することにより本来備わっている機能が低下してしまうおそれがあるため、劣化した保安器というものは早期交換が重要である。
【0005】
これらの問題解決のための従来技術として、例えば、下記の特許文献1〜3に記載されたサージ電流検出デバイスが知られている。
【0006】
特許文献1に記載されたサージ電流検出デバイスでは、落雷によるサージ電流が導体に流れた際のサージ電流のジュール熱を利用して感熱材を変色させ、バリスタ等の防護素子の劣化を判定している。即ち、バリスタ等の防護素子に感熱材を設置しておき、サージ電流が流れ、防護素子が動作することによりジュール熱が発生し、感熱材を変色させている。
【0007】
特許文献2、3に記載されたサージ電流検出デバイスでは、前記と同様に、ジュール熱を利用する判定方法であり、熱収縮材による金属の収縮を利用して劣化を判定している。例えば、サージ電流のジュール熱により金属収縮材が縮み、この金属収縮材により、遮蔽されていた表示部を露出させて目視できるような機構を施すことで、判定を行っている。
【0008】
又、保安器とは異なる他の技術分野ではあるが、カードの情報内容を目視にて確認できる磁気表示媒体の技術が、下記の特許文献4に記載されている。
【0009】
この特許文献4に記載された磁気表示媒体では、基体上に情報収納部と磁気表示部とを備えている。情報収納部は、磁気テープ又は集積回路(IC)メモリにより構成されている。磁気表示部は、基板と、この上に直接又は中間層を介して塗設されたマイクロカプセルを含有する記録層とを有している。マイクロカプセルの中には、液体と、この液体の中に浮遊し且つ磁場に感応する磁性粉とが含有されており、情報収納部に収納された情報に基づき、磁気表示部の記録層に目視可能な情報の記録及び消去ができるように構成されている。
又、マイクロカプセルに関する技術が、下記の特許文献5等にも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−150657号公報
【特許文献2】特開2006−244889号公報
【特許文献3】特開2007−242569号公報
【特許文献4】特開平5−16578号公報
【特許文献5】特開平11−76801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1〜3に記載された従来のサージ電流検出デバイスでは、次の(a)、(b)のような課題があった。
【0012】
(a) 従来のものは、導体に流れるサージ電流のジュール熱を利用してバリスタ、アレスタ等の防護素子の劣化を判定している。サージ電流を流す導体は、サージ電流を速やかに流さなければならないので、抵抗値を小さくする必要がある。しかし、サージ電流は短時間に流れ、ジュール熱量が少ないので、劣化検出感度が良くない。
【0013】
(b) 金属収縮材等を用いたものでは、機械式構造のため、導体への取り付けに手数が掛かり、更に、小型化、軽量化、及び低コスト化が難しい。
【0014】
このように、従来のサージ電流検出デバイスでは、劣化検出感度が良くない、導体への取り付けに手数が掛かる、更に、小型化、軽量化、及び低コスト化が難しい、といった課題があった。
【0015】
このような課題を解決するために、例えば、特許文献4、5等に記載されたマイクロカプセルを含有する記録層を従来の技術に適用して、サージ電流を検出することが考えられる。しかし、落雷等のサージ電流は極めて短時間に流れるため、検出感度を向上させることが困難であった。
【0016】
そこで、本発明は、従来のマイクロカプセル技術等を用いて、従来の前記課題を巧みに解決したサージ電流検出デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のサージ電流検出デバイスは、導体に対して着脱自在に取り付けられ、前記導体に侵入するサージ電流を検出するサージ電流検出デバイスであって、対向する第1及び第2のホルダ本体を有し、前記第1及び第2のホルダ本体により前記導体を着脱自在に把持するホルダと、前記第1のホルダ本体側に装着され、前記導体を挿脱自在に収容し、前記導体に侵入する前記サージ電流によって発生する磁界を形成する磁力線を、所定の検出領域に高密度に集中させる磁性体からなる磁力集中部材と、前記検出領域に位置するように前記第2のホルダ本体側に装着され、前記サージ電流を検出する磁性体シートとを備えている。
【0018】
そして、前記磁性体シートは、表面及び裏面を有し、前記裏面側が前記検出領域に配置されるシート部材と、前記シート部材の表面側に設けられ、集中された前記磁力線により配向状態が変化する磁性粉が液体中に浮遊状態で封止されたマイクロカプセルが複数配置され、前記サージ電流における侵入状態の記録及び消去が可能な記録層と、前記記録層を覆い、前記記録層における前記記録及び消去の状態が外部から目視可能な透光性の保護膜とを有している。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、次の(a)〜(c)のような効果がある。
(a) 導体に侵入するサージ電流によって発生する磁界を形成する磁力線を、磁力集中部材によって所定の検出領域に高密度に集中させ、磁性体シート内のマイクロカプセル中の磁性粉の配向状態を変化させる構成にしている。そのため、短時間に侵入するサージ電流に対し、より鮮明に磁性粉の配向状態の変化を目視でき、サージ電流値の大きさや侵入回数を簡単且つ的確に検知することができる。
【0020】
(b) 前記(a)により、従来のようなジュール熱による危険もなく、しかも、ホルダにより、導体に磁性体シートを近接させる構成であるため、構造が簡単で、小型化及び低コスト化が可能であり、取り付け場所が嵩むことがない。
【0021】
(c) ホルダは、第1及び第2のホルダ本体により導体を着脱自在に把持する構成になっており、更に、そのホルダに装着された磁力集中部材が、導体を挿脱自在に収容する構成になっている。そのため、サージ電流検出デバイスを導体に簡単に取り付け、又は取り外すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は本発明の実施例1におけるサージ電流検出デバイスが設けられた保安器を示す回路図である。
【図2a】図2aは図1中のサージ電流検出デバイス30を示す斜視図である。
【図2b】図2bは図2aのサージ電流検出デバイス30を開いた状態を示す斜視図である。
【図2c】図2cは図2aのサージ電流検出デバイス30を示す左側面図である。
【図2d】図2dは図2aのサージ電流検出デバイス30におけるI−II線断面を示す模式図である。
【図3a】図3aは図2d中の磁性体シート70を示す模式的な断面図である。
【図3b】図3bは図3a中の部分拡大図である。
【図3c】図3cは図3a中の部分拡大図である。
【図4a】図4aは図1の保安器10の対接地間(コモンモード)の動作を示す回路図である。
【図4b】図4bは図1の保安器10の線間(ノーマルモード)の動作を示す回路図である。
【図5a】図5aは図2aのサージ電流検出デバイス30の動作を説明するための模式的な図であって、磁性体シート70の表面側から見た平面図である。
【図5b】図5bは図5aの右側面図である。
【図6a】図6aは図2aのサージ電流検出デバイス30を用いて試験したサージ電流検出結果74aを示す図である。
【図6b】図6bは図2aのサージ電流検出デバイス30を用いて試験したサージ電流検出結果74bを示す図である。
【図6c】図6cは図2aのサージ電流検出デバイス30を用いて試験したサージ電流検出結果74cを示す図である。
【図6d】図6dは図2aのサージ電流検出デバイス30を用いて試験したサージ電流検出結果74dを示す図である。
【図7a】図7aは本発明の実施例2におけるサージ電流検出デバイスを示す斜視図である。
【図7b】図7bは図7aのサージ電流検出デバイスを開いた状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明を実施するための形態は、以下の好ましい実施例の説明を添付図面と照らし合わせて読むと、明らかになるであろう。但し、図面はもっぱら解説のためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0024】
(実施例1の構成)
図1は、本発明の実施例1におけるサージ電流検出デバイスが設けられた保安器を示す回路図である。
【0025】
保安器10は、通信機器等の被保護機器25を落雷等のサージ電流から防護するものであり、接地線である導体11(例えば、11−1)に接続されるアース端子Eと、通信線、電源線等の線路である2つの導体11−2,11−3に接続される2つの線路側端子L1,L2と、被保護機器25に接続される2つの機器側端子T1,T2とを有している。一方の線路側端子L1及び機器側端子T1間は、導体11−4により接続され、他方の線路側端子L2及び機器側端子T2間も、導体11−7により接続されている。
【0026】
導体11−4には、線間側の導体11−5を介して、防護素子(例えば、3極避雷管である3極アレスタ)12の第1電極が接続され、この3極アレスタ12の第2電極が、線間側の導体11−6を介して、導体11−7に接続されている。3極アレスタ12の第3電極は、アース側の導体11−8を介して、アース端子Eに接続されている。各導体11(=11−1〜11−8)としては、耐電流に応じた直径(例えば、3mm〜4mm、5mm〜6mm、7mm〜10mm等)を有する断面円形のケーブルが使用されている。
【0027】
アース側の導体11−1には、サージ電流検出デバイス30(例えば、30−1)が装着され、更に、線路側の導体11−2,11−3にもサージ電流検出デバイス30−2,30−3がそれぞれ装着されている。各サージ電流検出デバイス30−1〜30−3は、各導体11−1〜11−3に侵入する落雷等のサージ電流における侵入状態(例えば、侵入経路、侵入電流値の大きさ、侵入回数等)をそれぞれ検出するものであり、同一の構成である。なお、サージ電流検出デバイス30(例えば、30−4,30−5,30−6)は、保安器10内の導体11−5,11−6,11−8に装着することもできる。
【0028】
図2a〜図2dは、図1中のサージ電流検出デバイス30を示す構成図であり、図2aはサージ電流検出デバイス30を示す斜視図、図2bは図2aのサージ電流検出デバイス30を開いた状態を示す斜視図、図2cは図2aのサージ電流検出デバイス30を示す左側面図、及び、図2dは図2aのサージ電流検出デバイス30におけるI−II線断面を示す模式図である。
【0029】
サージ電流検出デバイス30は、導体11を着脱自在に把持するほぼ円筒状のホルダ40と、このホルダ40内に固定され、導体11に侵入するサージ電流によって発生する磁界を形成する磁力線を、所定の検出領域に高密度に集中させる断面ほぼU字状の板状をなす磁力集中部材60と、前記検出領域に位置するようにホルダ40に固定され、前記サージ電流における侵入状態の記録が可能な方形の磁性体シート70とにより構成されている。
【0030】
ほぼ円筒状のホルダ40の外形の寸法は、例えば、幅Wが16mm、長さDが19mm、及び高さHが12mm程度である。なお、ホルダ40の外形の寸法は、導体11の太さ等に応じて任意の値に変更が可能である。このホルダ40は、中心軸方向に2分割された対向する第1のホルダ本体40−1及び第2のホルダ本体40−2を有し、これらが合成樹脂等の絶縁部材により一体的に形成されている。第1及び第2のホルダ本体40−1,40−2は、一側端が2つのヒンジ部41−1,41−2により連結されている。第1のホルダ本体40−1の解放側の他側端には、係合突起42が設けられている。第2のホルダ本体40−2の解放側の他側端には、係合突起42と対向する位置に、係合枠43が設けられている。これらの係合突起42及び係合枠43により、係合部が構成され、係合突起42を係合枠43内に嵌入することにより、第1及び第2のホルダ本体40−1,40−2の解放側の他側端が着脱自在に係止される構成になっている。
【0031】
第1及び第2のホルダ本体40−1,40−2の一端には、円形の貫通孔44を構成する半円孔44a,44bがそれぞれ形成されている。この円形の貫通孔44を構成する半円孔44a,44bに対向して、第1及び第2のホルダ本体40−1,40−2の他端にも、円形の貫通孔45を構成する半円孔45a,45bがそれぞれ形成されている。半円孔44a,44bにより構成される円形の貫通孔44は、導体11を貫通させる孔である。この貫通孔44の周りには、複数のスリット46が形成され、異なる太さの導体11を貫通させることができるように、孔の大きさが伸縮自在の構造になっている。同様に、半円孔45a,45bにより構成される円形の貫通孔45は、導体11を貫通させる孔である。この貫通孔45の周りには、複数のスリット47が形成され、異なる太さの導体11を貫通させることができるように、孔の大きさが伸縮自在の構造になっている。
【0032】
第1のホルダ本体40−1内には、一対の対向する収容壁48−1,48−2と、この収容壁48−1,48−2間における底部の端部に位置する係止片49とが、設けられている。一対の対向する収容壁48−1,48−2間には、断面ほぼU字状の板状をなす磁力集中部材60が装着され、この磁力集中部材60が係止片49により固定されている。
【0033】
磁力集中部材60は、断面ほぼU字状をなす板状の磁性体(例えば、酸化鉄、酸化クロム、コバルト、フェライト等の強磁性体)により形成され、導体11を収容して、この導体11に侵入するサージ電流によって発生する磁界を形成する磁力線を、所定の検出領域(即ち、磁力集中部材60の解放端60a,60b間付近の領域)に高密度に集中させる機能を有している。
【0034】
第2のホルダ本体40−2内において、磁力集中部材60の解放端60a,60bに対向する位置には、方形の開口部50が形成されている。この開口部50の周縁付近には、係止突起51が設けられている。開口部50には、プラスチック製等の方形の透明板52が嵌合され、この透明板52が係止突起51により固定されている。透明板52の内側には、方形の磁性体シート70の表面が、その透明板52に接するように配置されている。
【0035】
図3aは、図2d中の磁性体シート70を示す模式的な断面図、図3b及び図3cは、図3a中の部分拡大図である。
【0036】
図3aに示すように、磁性体シート70は、第2のホルダ本体40−2の開口部50に固定され、その第2のホルダ本体40−2の内側に位置する裏面側に、シート部材71が設けられている。シート部材71は、プラスチック等により形成され、表示のコントラストを明瞭にするために所定の色で着色されている。シート部材71の表面側には、サージ電流における侵入状態の記録及び消去が可能な記録層72が設けられている。記録層72の表面側は、この記録層72における記録及び消去の状態が外部から目視可能な透光性の保護膜73により覆われている。透光性の保護膜73は、例えば、プラスチック等の透明シートにより構成されている。保護膜73の表面側は、透明板52の裏面側に接するように配置される。
【0037】
シート部材71及び保護膜73間の記録層72は、そのシート部材71の表面側に配置された複数のマイクロカプセル72aと、これらのマイクロカプセル72a間に充填された接着剤であるバインダ72b等とにより構成されている。マイクロカプセル72aは、特許文献4、5等に記載されているように、磁力線により配向状態が変化する複数の磁性粉72a1が、有機溶剤等の液体72a2中に浮遊状態で封止されたものであり、例えば、直径が10〜100μm位の球形をしている。磁性粉72a1は、保磁力の小さな鉄材等の軟磁性体に、保磁力の大きな磁石材(フェライト、ネオジム等)の硬磁性体を適度に混合して用いると、保磁力の良いマイクロカプセル72aが得られる。例えば、軟磁性体として、フレーク状(薄片状)で縦横比が約10、粒子径2〜10μm位のものに、硬磁性体として、フレーク状で縦横比が約5、粒子径0.1〜2μm位のものを3〜15%位混合すれば、保磁力の良いマイクロカプセル72aが得られる。
【0038】
このような構成の磁性体シート70では、例えば、図3bに示すように、水平磁界Hhが加わると、磁性粉72a1が水平方向に配向して横に並び、外部から透明板52を介して保護膜73に入射する入射光Ihは、磁性粉72a1の表面で反射する。そのため、保護膜73を通して磁性粉72a1の表面色を目視できる。又、図3cに示すように、垂直磁界Hvが加わると、磁性粉72a1が垂直方向に配向して縦に並び、外部から透明板52を介して保護膜73に入射する入射光Ihは、シート部材71の表面まで届くが、反射が多く、シート部材71の色までは見えない。そのため、例えば、シート部材71の色が白でも赤でも、概ね全体的に黒く見える。
【0039】
(サージ電流検出デバイスの取り付け方法)
サージ電流検出デバイス30を導体11に取り付ける方法について説明する。
【0040】
図2bに示すように、内部に磁力集中部材60及び磁性体シート70が装着されたホルダ40において、ヒンジ部41−1,41−2を軸として、第1のホルダ本体40−1と第2のホルダ本体40−2とを開く。第1のホルダ本体40−1内に装着された断面U字状の磁力集中部材60と半円孔44a,45aとを、導体11の外周に嵌め込む。次に、内部に磁性体シート70が装着された第2のホルダ本体40−2を、ヒンジ部41−1,41−2を軸として第1のホルダ本体40−1側に閉じ、第2のホルダ本体40−2側の係合枠43中に、第1のホルダ本体40−1側の係合突起42を嵌入すれば、第1及び第2のホルダ本体40−1,40−2が固定される。
【0041】
これにより、サージ電流検出デバイス30が導体11の外周に取り付けられる。この取り付け状態では、図2dに示すように、導体11が磁力集中部材60中に収容され、この磁力集中部材60の解放端60a,60b間付近が、磁性体シート70により閉塞された状態に保持される。
【0042】
(保安器の動作)
図4aは、図1の保安器10の対接地間(コモンモード)の動作を示す回路図である。更に、図4bは、図1の保安器10の線間(ノーマルモード)の動作を示す回路図である。
【0043】
図4aの対接地間(コモンモード)において、落雷等により、導体11−2,11−3を介して線路側端子L1,L2から侵入したサージ電流iが+極性の場合、異常電圧よってアレスタ12が放電動作する。そのため、侵入したサージ電流iは、実線矢印で示すように、線路側端子L1→導体11−4→サージ電流検出デバイス30−5が設置された導体11−5→アレスタ12→導体11−8→アース端子Eへと流れると共に、線路側端子L2→導体11−7→サージ電流検出デバイス30−6が設置された導体11−6→アレスタ12→導体11−8→アース端子Eへと流れる。これにより、機器側端子T1,T2に接続された被保護機器25が、サージ電流iから防護される。この際、サージ電流検出デバイス30−1〜30−6が動作する。
【0044】
これに対し、導体11−2,11−3を介して線路側端子L1,L2から侵入したサージ電流iが−極性の場合、異常電圧よってアレスタ12が放電動作し、侵入したサージ電流iは、破線矢印で示すように、前記とは逆方向の経路を経て線路側端子L1,L2へ流れ、機器側端子T1,T2に接続された被保護機器25が、サージ電流iから防護される。この際、サージ電流検出デバイス30−1〜30−6が動作する。
【0045】
図4bの線間(ノーマルモード)において、落雷等により、導体11−2を介して線路側端子L1に+極性のサージ電流iが侵入した場合、異常電圧よってアレスタ12が放電動作する。そのため、侵入したサージ電流iは、実線矢印で示すように、導体11−4→サージ電流検出デバイス30−5が設置された導体11−5→アレスタ12→サージ電流検出デバイス30−6が設置された導体11−6→導体11−7→線路側端子L2へと流れる。これにより、機器側端子T1,T2に接続された被保護機器25が、サージ電流iから防護される。この際、サージ電流iはアース端子Eへ流れないので、サージ電流検出デバイス30−2,30−5,30−6,30−3が動作する。
【0046】
これに対し、導体11−3を介して線路側端子L2に+極性のサージ電流iが侵入した場合、異常電圧よってアレスタ12が放電動作し、侵入したサージ電流iは、実線矢印で示すように、前記とは逆方向の経路を経て線路側端子L1へ流れ、機器側端子T1,T2に接続された被保護機器25が、サージ電流iから防護される。この際、サージ電流iはアース端子Eへ流れないので、サージ電流検出デバイス30−3,30−6,30−5,30−2が動作する。
【0047】
(実施例1のサージ電流検出デバイスの動作)
図5aは、図2aのサージ電流検出デバイス30の動作を説明するための模式的な図であって、磁性体シート70の表面側から見た平面図である。更に、図5bは、図5aの右側面図である。
【0048】
図5aに示すように、導体11に装着されたサージ電流検出デバイス30において、矢印の右方向へサージ電流iが導体11に流れると、図5bに示すように、導体11の周囲に磁界Hが発生し、この磁界Hを形成する磁力線Mが、磁力集中部材60のS極側の解放端60bからN極側の解放端60aへ向かって、矢印の反時計回り方向に均等に生じる。導体11の周囲に均等に生じた磁力線Mは、磁力集中部材60により、所定の検出領域である解放端60a,60b間付近に高密度に集中される。
【0049】
そのため、ホルダ40により、磁力集中部材60の解放端60a,60b間上に配置された磁性体シート70内の記録層72において、解放端60a,60b間の上部に位置するマイクロカプセル72aには、水平の磁力線Mが加わり、マイクロカプセル72a中の磁性粉72a1が横に並んでこの磁性粉72a1の表面色が磁性体シート70内の保護膜73の表面に現れる。これに対し、解放端60a,60b間の斜め上部に位置するマイクロカプセル72aには、斜め方向の磁力線Mが加わり、マイクロカプセル72a中の磁性粉72a1が斜めに並んで若干黒くなった部分が保護膜73の表面に現れる。これにより、解放端60a,60b間の両側に対向する保護膜73箇所には、2本の線のサージ電流検出結果74が現れ、より鮮明に磁性粉72a1の配向状態の変化を目視できる。
【0050】
ここで、サージ電流検出結果74である2本の線により、導体11にサージ電流iが侵入したことを目視でき、更に、その2本の線の太さにより、サージ電流値の大きさや侵入回数を検知することができる。
【0051】
図6a〜図6dは、図2aのサージ電流検出デバイス30を用いて試験したサージ電流検出結果74(=74a〜74d)を示す図である。
【0052】
図6aは、サージ電流iが500Aで印加回数が1回の場合のサージ電流検出結果74aである。同様に、図6bは、サージ電流iが1kAで印加回数が1回の場合のサージ電流検出結果74b、図6cは、サージ電流iが2kAで印加回数が1回の場合のサージ電流検出結果74c、更に、図6dは、サージ電流iが2kAで印加回数が3回の場合のサージ電流検出結果74dである。
【0053】
この図6a〜図6dから明らかなように、侵入するサージ電流値の大きさや侵入回数が増加する程、サージ電流検出結果74(=74a,74b,74c,74d)である2本の線の太さが太くなっている。そのため、その2本の線の太さから、サージ電流値の大きさや侵入回数を検知することが可能になる。
【0054】
(実施例1の効果)
本実施例1によれば、次の(1)〜(5)のような効果がある。
【0055】
(1) 導体11に侵入するサージ電流iによって発生する磁界H(=Hh,Hv)を形成する磁力線Mを、磁力集中部材60によって所定の検出領域(即ち、磁力集中部材60の解放端60a,60b間付近)に高密度に集中させ、磁性体シート70内のマイクロカプセル72a中の磁性粉72a1の配向状態を変化させる構成にしている。そのため、短時間に侵入するサージ電流iに対し、より鮮明に磁性粉72a1の配向状態の変化を目視でき、サージ電流値の大きさや侵入回数を簡単且つ的確に検知することができる。
【0056】
(2) 前記(1)により、従来のようなジュール熱による危険もなく、しかも、ホルダ40により、導体11に磁性体シート70を近接させる構成であるため、構造が簡単で、小型化及び低コスト化が可能であり、取り付け場所が嵩むことがない。
【0057】
(3) ホルダ40は、第1及び第2のホルダ本体40−1,40−2からなる2分割構造になっており、しかも、そのホルダ40に装着された磁力集中部材60が断面ほぼU字状になっている。そのため、第1及び第2のホルダ本体40−1,40−2を開いて、ほぼU字状の磁力集中部材60を導体11の外周に被せ、第1及び第2のホルダ本体40−1,40−2を閉じれば、サージ電流検出デバイス30を簡単に導体11に取り付けることができる。又、第1及び第2のホルダ本体40−1,40−2を開いて、導体11から磁力集中部材60を引き離せば、サージ電流検出デバイス30を簡単に導体11から取り外すことができる。
【0058】
(4) 貫通孔44,45の周りには複数のスリット46,47が形成されているので、貫通孔44,45の大きさが伸縮し、異なる太さの導体11に取り付けることができる。なお、複数のスリット46,47に代えて、貫通孔44,45の周りを、柔軟性を有する部材にて形成することにより、貫通孔44,45の大きさを伸縮自在の構造にすることも可能である。
【0059】
(5) 第1及び第2のホルダ本体40−1,40−2からなる2分割構造のホルダ40を一体的に形成すれば、製造が容易になり、低コスト化が可能になる。
【実施例2】
【0060】
(実施例2の構成)
図7aは、本発明の実施例2におけるサージ電流検出デバイスを示す斜視図である。更に、図7bは、図7aのサージ電流検出デバイスを開いた状態を示す斜視図である。この図7a及び図7bにおいて、実施例1を示す図2a及び図2b中の要素と共通の要素には共通の符号が付されている。
【0061】
本実施例2のサージ電流検出デバイス30Aでは、実施例1のほぼ円筒状のホルダ40とは形状の異なるほぼ角筒状のホルダ40Aを有している。この角筒状のホルダ40A内には、実施例1とほぼ同様の磁力集中部材60及び磁性体シート70が装着されている。
【0062】
ほぼ角筒状のホルダ40Aは、中心軸方向に2分割された対向する第1のホルダ本体40A−1及び第2のホルダ本体40A−2を有し、これらが合成樹脂等の絶縁部材により一体的に形成されている。第1及び第2のホルダ本体40A−1,40A−2は、一側端が1つのヒンジ部41により連結されている。第1のホルダ本体40A−1の解放側の他側端には、係合枠43Aが設けられている。第2のホルダ本体40A−2の解放側の他側端には、係合枠43Aと対向する位置に、係合突起42Aが設けられている。これらの係合突起42A及び係合枠43Aにより、係合部が構成され、係合突起42Aを係合枠43A内に嵌入することにより、第1及び第2のホルダ本体40A−1,40A−2の解放側の他側端が着脱自在に係止される構成になっている。
【0063】
第1及び第2のホルダ本体40A−1,40A−2の一端には、実施例1と同様に、円形の貫通孔44を構成する半円孔44a,44bがそれぞれ形成されている。この円形の貫通孔44を構成する半円孔44a,44bに対向して、第1及び第2のホルダ本体40A−1,40A−2の他端にも、実施例1と同様に、円形の貫通孔45を構成する半円孔45a,45bがそれぞれ形成されている。半円孔44a,44bにより構成される円形の貫通孔44は、導体11を貫通させる孔である。この貫通孔44の周りには、実施例1と同様に、複数のスリット46Aが形成され、異なる太さの導体11を貫通させることができるように、孔の大きさが伸縮自在の構造になっている。同様に、半円孔45a,45bにより構成される円形の貫通孔45は、導体11を貫通させる孔である。この貫通孔45の周りには、実施例1と同様に、複数のスリット47Aが形成され、異なる太さの導体11を貫通させることができるように、孔の大きさが伸縮自在の構造になっている。
【0064】
なお、本実施例2の貫通孔44,45は、ほぼ角筒状のホルダ40Aの両端に形成されるため、実施例1に比べて孔の大きさに制約を受ける。そのため、実施例1に比べて、細い導体11に適している。
【0065】
第1のホルダ本体40A−1内には、実施例1と同様に、断面ほぼU字状の板状をなす磁力集中部材60が装着されている。第2のホルダ本体40A−2内において、磁力集中部材60の解放端60a,60bに対向する位置には、実施例1と同様に、方形の開口部50が形成されている。この開口部50には、実施例1とほぼ同様に、プラスチック製等の方形の透明板52が固定されている。透明板52の内側には、実施例1と同様に、方形の磁性体シート70の表面が、その透明板52に接するように配置されている。
【0066】
(サージ電流検出デバイスの取り付け方法)
サージ電流検出デバイス30Aを導体11に取り付ける方法について説明する。
【0067】
図7bに示すように、内部に磁力集中部材60及び磁性体シート70が装着されたホルダ40Aにおいて、ヒンジ部41を軸として、第1のホルダ本体40A−1と第2のホルダ本体40A−2とを開く。第1のホルダ本体40A−1内に装着された断面U字状の磁力集中部材60と半円孔44a,45aとを、導体11の外周に嵌め込む。次に、内部に磁性体シート70が装着された第2のホルダ本体40A−2を、ヒンジ部41を軸として第1のホルダ本体40A−1側に閉じ、第2のホルダ本体40A−2側の係合突起42Aを、第1のホルダ本体40A−1側の係合枠43Aに嵌入すれば、第1及び第2のホルダ本体40A−1,40A−2が固定される。
【0068】
これにより、サージ電流検出デバイス30Aが導体11の外周に取り付けられる。この取り付け状態では、実施例1の図2dと同様に、導体11が磁力集中部材60中に収容され、この磁力集中部材60の解放端60a,60b間付近が、磁性体シート70により閉塞された状態に保持される。
【0069】
(実施例2の動作・効果)
本実施例2のサージ電流検出デバイス30Aでは、実施例1のサージ電流検出デバイス30に対して全体の形状が異なるものの、実施例1と同様の動作を行い、実施例1とほぼ同様の効果を奏することができる。なお、本実施例2の貫通孔44,45は、ほぼ角筒状のホルダ40Aの両端に形成されるため、実施例1に比べて孔の大きさに制約を受け、実施例1に比べて、細い導体11に適している。
【0070】
(実施例1、2の変形例)
本発明は、上記実施例1、2に限定されず、種々の利用形態や変形が可能である。この利用形態や変形例としては、例えば、次の(i)〜(iii)のようなものがある。
【0071】
(i) 磁力集中部材60及び磁性体シート70を装着するためのホルダ40,40Aは、図示以外の形状や構造に変形しても良い。例えば、図2b及び図7bにおいて、ホルダ40,40A中のヒンジ部41−1,41−2,41を除去して、第1のホルダ本体40−1,40−1Aと第2のホルダ本体40−2,40−2Aとを分離し、第1のホルダ本体40−1,40A−1と第2のホルダ本体40−2,40−2Aとの接合箇所に、凹凸等の嵌脱自在の嵌合部を設ける。このような構成にすれば、第1のホルダ本体40−1,40A−1と第2のホルダ本体40−2,40−2Aとにより、導体11を挟持し、その第1のホルダ本体40−1,40A−1と第2のホルダ本体40−2,40−2Aとを嵌合部で嵌合すれば、サージ電流検出デバイス30,30Aを簡単に導体11に取り付けることができる。
【0072】
(ii) 磁力集中部材60及び磁性体シート70は、図示以外の他の形状や構造に変形しても良い。
【0073】
(iii) 実施例1、2のサージ電流検出デバイス30,30Aに適用される保安器10は、図1の保安器10の回路構成に限定されず、種々の回路構成の保安器に適用可能である。
【符号の説明】
【0074】
10 保安器
11,11−1〜11−8 導体
12 アレスタ
30,30A サージ電流検出デバイス
40,40A ホルダ
40−1,40A−1 第1のホルダ本体
40−2,40A−2 第2のホルダ本体
41,41−1,41−2 ヒンジ部
42,42A 係合突起
43,43A 係合枠
44,45 貫通孔
60 磁力集中部材
70 磁性体シート
71 シート部材
72 記録層
73 保護膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体に対して着脱自在に取り付けられ、前記導体に侵入するサージ電流を検出するサージ電流検出デバイスであって、
対向する第1及び第2のホルダ本体を有し、前記第1及び第2のホルダ本体により前記導体を着脱自在に把持するホルダと、
前記第1のホルダ本体側に装着され、前記導体を挿脱自在に収容し、前記導体に侵入する前記サージ電流によって発生する磁界を形成する磁力線を、所定の検出領域に高密度に集中させる磁性体からなる磁力集中部材と、
前記検出領域に位置するように前記第2のホルダ本体側に装着され、前記サージ電流を検出する磁性体シートとを備え、
前記磁性体シートは、
表面及び裏面を有し、前記裏面側が前記検出領域に配置されるシート部材と、
前記シート部材の表面側に設けられ、集中された前記磁力線により配向状態が変化する磁性粉が液体中に浮遊状態で封止されたマイクロカプセルが複数配置され、前記サージ電流における侵入状態の記録及び消去が可能な記録層と、
前記記録層を覆い、前記記録層における前記記録及び消去の状態が外部から目視可能な透光性の保護膜と、
を有することを特徴とするサージ電流検出デバイス。
【請求項2】
前記磁力集中部材は、
前記導体を挿脱自在に収容する断面ほぼU字状をなす板状の前記磁性体により形成され、
前記検出領域は、
前記ほぼU字状の解放端間付近の領域であることを特徴とする請求項1記載のサージ電流検出デバイス。
【請求項3】
前記第1及び第2のホルダ本体には、
前記導体を貫通させる伸縮自在の貫通孔が形成されていることを特徴とする請求項1記載のサージ電流検出デバイス。
【請求項4】
前記貫通孔は、前記貫通孔の周りにスリットが形成されて伸縮自在の構成になっていることを特徴とする請求項3記載のサージ電流検出デバイス。
【請求項5】
前記第1及び第2のホルダ本体は、
一端がヒンジ部により連結され、
他端が解放されて係合部により着脱自在に係止される構成になっていることを特徴とする請求項1記載のサージ電流検出デバイス。
【請求項1】
導体に対して着脱自在に取り付けられ、前記導体に侵入するサージ電流を検出するサージ電流検出デバイスであって、
対向する第1及び第2のホルダ本体を有し、前記第1及び第2のホルダ本体により前記導体を着脱自在に把持するホルダと、
前記第1のホルダ本体側に装着され、前記導体を挿脱自在に収容し、前記導体に侵入する前記サージ電流によって発生する磁界を形成する磁力線を、所定の検出領域に高密度に集中させる磁性体からなる磁力集中部材と、
前記検出領域に位置するように前記第2のホルダ本体側に装着され、前記サージ電流を検出する磁性体シートとを備え、
前記磁性体シートは、
表面及び裏面を有し、前記裏面側が前記検出領域に配置されるシート部材と、
前記シート部材の表面側に設けられ、集中された前記磁力線により配向状態が変化する磁性粉が液体中に浮遊状態で封止されたマイクロカプセルが複数配置され、前記サージ電流における侵入状態の記録及び消去が可能な記録層と、
前記記録層を覆い、前記記録層における前記記録及び消去の状態が外部から目視可能な透光性の保護膜と、
を有することを特徴とするサージ電流検出デバイス。
【請求項2】
前記磁力集中部材は、
前記導体を挿脱自在に収容する断面ほぼU字状をなす板状の前記磁性体により形成され、
前記検出領域は、
前記ほぼU字状の解放端間付近の領域であることを特徴とする請求項1記載のサージ電流検出デバイス。
【請求項3】
前記第1及び第2のホルダ本体には、
前記導体を貫通させる伸縮自在の貫通孔が形成されていることを特徴とする請求項1記載のサージ電流検出デバイス。
【請求項4】
前記貫通孔は、前記貫通孔の周りにスリットが形成されて伸縮自在の構成になっていることを特徴とする請求項3記載のサージ電流検出デバイス。
【請求項5】
前記第1及び第2のホルダ本体は、
一端がヒンジ部により連結され、
他端が解放されて係合部により着脱自在に係止される構成になっていることを特徴とする請求項1記載のサージ電流検出デバイス。
【図1】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図2d】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図4a】
【図4b】
【図5a】
【図5b】
【図6a】
【図6b】
【図6c】
【図6d】
【図7a】
【図7b】
【図2a】
【図2b】
【図2c】
【図2d】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図4a】
【図4b】
【図5a】
【図5b】
【図6a】
【図6b】
【図6c】
【図6d】
【図7a】
【図7b】
【公開番号】特開2012−220307(P2012−220307A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85465(P2011−85465)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000130835)株式会社サンコーシヤ (64)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000130835)株式会社サンコーシヤ (64)
【Fターム(参考)】
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