説明

サーボ・パターンの書き込み方法及びディスク・ドライブ装置

【課題】セルフ・サーボ・ライトの初期処理において、サーボ・パターンに拠らないアクチュエータの駆動電流の制御によって、より確実にサーボ・パターンを発見してサーボ制御に移行する。
【解決手段】本発明の一実施形態のHDDは、セルフ・サーボ・ライトにより、磁気ディスクにサーボ・パターンを書き込む。HDDは、アクチュエータをクラッシュ・ストップに押し付けた状態で複数の異なる駆動電流を与える。複数の異なる駆動電流のそれぞれにおいてライト素子により書き込みを行うことで、離間した複数セクタのサーボ・パターンを有する複数のサーボ・パターン・トラックを磁気ディスクに書き込む。アクチュエータの駆動電流を徐々に変化させることによってリード素子を徐々に移動し、複数のサーボ・パターン・トラックのいずれかのトラックにリード素子を位置決めする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーボ・パターンの書き込み方法及びディスク・ドライブ装置に関し、特に、ディスク上のサーボ・パターンを使用したサーボ制御によるヘッド・ポジショニングを行いながらディスクにサーボ・パターンを書き込むセルフ・サーボ・ライトに関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク・ドライブ(HDD)は、磁気ディスク上のサーボ・パターンを使用したサーボ制御によりヘッド・ポジショニングを行い、ホストからのコマンドが指定するアドレスにデータを書き込み、あるいはデータを読み出す。磁気ディスクにサーボ・パターンを書き込む処理はサーボ・ライトと呼ばれ、一般にHDDの生産工程において実施される。サーボ・ライトの1つに、HDDが自身で書き込んだパターンを読み出すことによりヘッド・ポジショニングとタイミング制御をおこなって、サーボ・パターンを磁気ディスクに書き込むセルフ・サーボ・ライト(SSW)が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
SSWにおいて新たなサーボ・パターンを磁気ディスクに書き込むため、HDDは、ヘッド・ポジショニングのためのサーボ・パターンと、新たなサーボ・パターンを書き込むタイミングを測定するためのタイミング・パターンを書き込む。HDDが磁気ディスクに書き込むサーボ・パターンは、典型的には、ホストからのコマンドに対応したリード/ライト処理において使用するサーボ・パターン(以下においてプロダクト・サーボ・パターン)の他に、SSWにおけるサーボ制御のみに使用するパターンを含む。本明細書におけるサーボ・パターンは、これら二つのパターンを含む、ヘッド・ポジショニング(アクチュエータ位置制御)のためのパターンである。
【0004】
セルフ・サーボ・ライトは、HDD自身が書き込んだサーボ・パターンを読み出してヘッド・ポジショニング(アクチュエータ位置制御)を行いながら、タイミング・パターンによりタイミング制御を行い、新しいサーボ・トラックを書き込む。HDDは、このようにサーボ・パターンを広げる処理を繰り返し行う。ヘッド・スライダ上のリード素子とライト素子とは磁気ディスクの異なる半径方向にあり、ライト素子により書き込んだサーボ・パターンをリード素子により読む出すことができる。典型的にはリード素子はライト素子よりも内周側にあり、ライト素子が書き込んだサーボ・パターンをリード素子で読み出し、ライト素子が外周側に新たなサーボ・トラックを書き込む。
【0005】
ライト素子がサーボ・パターンを書き込む前には磁気ディスクの記録面にはサーボ・パターンは存在していないため、磁気ディスク上のサーボ・パターンによるヘッド・ポジショニングを行うことができない。従来のセルフ・サーボ・ライトにおいて、HDDは、クラッシュ・ストップを使用して、ヘッド・スライダを磁気ディスク上で位置決めする。
【0006】
HDDは、ヘッド・スライダを支持するアクチュエータを駆動するボイス・コイル・モータ(VCM)に一定電流を印加し、アクチュエータを内側クラッシュ・ストップに強く押し付ける。VCMの駆動力と内側クラッシュ・ストップの弾性力が釣り合う位置において、アクチュエータは停止している。HDDは、VCM電流を一定の値に維持してライト素子によりサーボ・パターンを書き込むことで、1周のサーボ・トラックを書き込むことができる。
【0007】
VCM電流値を小さくする、つまり、VCM駆動力を小さくすると、VCM駆動力よりも内側クラッシュ・ストップの弾性力が大きくなり、アクチュエータ及びそれに支持されているヘッド・スライダは磁気ディスクの外周側に移動する。新たに設定されたVCMの駆動力と内側クラッシュ・ストップの弾性力が釣り合う半径位置においてアクチュエータは停止する。
【0008】
上述のように、リード素子は、ライト素子よりも内側にある。VCM電流を徐々に小さくすると、リード素子が徐々に磁気ディスクの外周側に移動し、既に書き込まれているサーボ・トラックに到達する。HDDは、リード素子が読み出したサーボ・パターンを使用して、アクチュエータをサーボ制御(ヘッド・ポジショニング)することができる。
【特許文献1】特開2006−344265号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
アクチュエータ(ヘッド・スライダ位置)のサーボ制御のためには、リード素子がサーボ・パターンを正確に読み出し、リード素子がサーボ・トラック内のターゲット位置をフォローイングする必要がある。ヘッド・スライダによるターゲット位置のフォローイングを行うためには、ヘッド・スライダが定期的にサーボ・パターン(サーボ・セクタ)を検出することができることが必要である。HDDは、ヘッド・スライダが検出したサーボ・パターン内のサーボ・アドレス・マーク(SAM)を基準として、サーボ制御のタイミング制御を行う。このように、連続してサーボ・パターンのSAMを見つけることができ、定期的に安定してサーボ制御のためのタイミング制御を行うことができる状態をロック状態と呼ぶ。
【0010】
クラッシュ・ストップに押しあてたアクチュエータの位置はクラッシュ・ストップの弾性力、アクチュエータに接続されているFPC(Flexible Printed Circuit)のバイアス力、VCM電流に対するVCM駆動力の比例係数などのパラメータに依存する。これらのパラメータは一般に精密な再現性を示さず、さらに、温度や湿度などの環境条件によっても変化する。また、近年の記録密度の高いHDDでは、プロダクト・サーボ・トラック1本の幅が200nm以下という水準まで小さくなっている。
【0011】
このため、磁気ディスクの記録面に最初のサーボ・トラックを書き込んだ後、リード素子でそのサーボ・トラックを読み出すためにVCM電流の段階的に変化させた場合に、HDDがサーボ・トラックを発見することなく、リード素子がサーボ・トラックを通りすぎてしまう可能性がある。あるいは、リード素子の読み出し信号によりサーボ・トラックを発見することができた場合であっても、VCM電流を段階的に変化させた場合にリード素子がサーボ・トラック内で最初に読み出す位置は、毎回変化する。この点について、図7を参照して具体的に説明する。
【0012】
図7は、一つのバースト・パターンのリード信号を模式的に示しており、X軸は半径位置、Y軸は信号振幅を表している。VCM電流を段階的に変化させてリード素子を外周側に移動する場合、リード素子が最初に読み出す信号が、A点もしくはB点であることがある。A点あるいはB点と同一に振幅値を示す点は内周側にも存在し、それらは、A´点、B´点で示されている。
【0013】
HDDは、VCM電流を徐々に変化させて最初にバースト信号を取得したとき、現在位置がA点であるのかA´点であるのかを判定することはできない。B点とB´点についても同様である。このため、HDDがターゲット位置(例えばバースト・センタ)にリード素子を位置決めするために内周側から外周側にリード素子を移動し、最初にA点もしくはB点の信号を読み出すと、A´点もしくはB´点と誤認し、リード素子がバースト・パターンからはずれ、HDDは、サーボ・データを取得することができなくなる。
【0014】
サーボ・トラックを見つけることができなかった場合、あるいは、サーボ制御が解除された場合、HDDは、安全のため、VCM電流を初期値に再設定して、サーボ・トラックの探索を最初からやり直すことが必要となる。従って、セルフ・サーボ・ライトの初期処理において、VCM電流の規則的な変化によるヘッド・ポジショニングによって、より確実にサーボ・パターンを発見してサーボ制御に移行するための手法が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様は、ディスク・ドライブ装置に実装されており回動することでヘッドをディスク半径方向に移動するアクチュエータを駆動制御し、前記ヘッドにより前記ディスク上にサーボ・パターンを書き込む処理において、ユーザ・データのアドレスを示すプロダクト・サーボ・パターンを書き込む前に、前記アクチュエータのサーボ制御のためのサーボ・パターンを前記ディスク上に書き込む方法である。この方法は、前記アクチュエータをその回動範囲を画定するクラッシュ・ストップに押し付けた状態で、前記アクチュエータの複数の異なる駆動電流を与える。前記複数の異なる駆動電流のそれぞれにおいてライト素子により書き込みを行うことで、離間した複数セクタのサーボ・パターンを有する複数のサーボ・パターン・トラックを前記ディスクに書き込む。前記複数のサーボ・パターン・トラックの隣接するトラックは半径方向において離間している。前記アクチュエータを前記クラッシュ・ストップに押し付けた状態で、前記駆動電流を徐々に変化させることによって前記ライト素子と異なる半径位置にあるリード素子を徐々に移動し、前記複数のサーボ・パターン・トラックのいずれかのトラックに前記リード素子を位置決めする。これにより、セルフ・サーボ・ライトの初期処理において、サーボ・パターンに拠らないアクチュエータの駆動電流の制御によって、より確実にサーボ・パターンを発見してサーボ制御に移行することができる。
【0016】
好ましくは、さらに、前記複数のサーボ・パターン・トラックのいずれかのトラックの内周側エッジと外周側エッジのそれぞれに位置決めした状態において、新たなサーボ・パターンを前記ライト素子で書き込む。これにより、新たなサーボ・パターンをより多い段数で書く込むことができる。
好ましくは、前記複数のサーボ・パターン・トラックのそれぞれに、サーボ・パターン・トラックを識別する識別子を書き込む。これにより、各トラックを特定することができる。さらに、前記複数セクタのサーボ・パターンのそれぞれは、前記プロダクト・サーボ・パターンと同様のフィールドを含み、各セクタのサーボ・パターンのトラックIDフィールドに前記サーボ・パターン・トラックを識別する識別子が書き込まれていることが好ましい。これにより、サーボ・パターン内フィールドの本来の機能を利用することができる。
【0017】
前記複数のサーボ・パターン・トラックのそれぞれに、今回の処理で新たに書き込んだサーボ・パターン・トラックであることを示す識別子を書き込むことが好ましい。これにより、最新のパターンを確実に特定することができる。さらに、前記識別子は、タイム・スタンプを含むことが好ましい。これにより、最新のパターンを区別すると共に、パターン書き込みの履歴情報として使用することができる。前記サーボ・パターン・トラックを識別する識別子と前記新たに書き込んだサーボ・パターン・トラックであることを示す識別子とは、サーボ・パターンの同一のフィールド内にあることが好ましい。これにより、効率的に各識別子の書き込みと検出を行うことができる。
【0018】
前記複数のサーボ・パターン・トラックのそれぞれを書き込む前に前記ライト素子による消去を行い、前記消去におけるライト幅は、前記複数のサーボ・パターン・トラックの書き込みにおけるライト幅よりも大きいことが好ましい。これにより、新たなサーボ・パターンを高い信頼性において書き込むことができる。
【0019】
本発明の他の態様は、ディスクと、前記ディスクへサーボ・パターンを書き込むライト素子と、前記サーボ・パターンを読み出すリード素子と、を有するヘッドと、前記ヘッドを支持し、回動することで前記ヘッドを前記ディスクの半径方向において移動するアクチュエータと、前記アクチュエータを駆動制御し、前記ライト素子により前記ディスク上にサーボ・パターンを書き込む処理において、ユーザ・データのアドレスを示すプロダクト・サーボ・パターンを書き込む前に、前記アクチュエータのサーボ制御のためのサーボ・パターンを前記ディスク上に前記ライト素子により書き込むコントローラと、を有するディスク・ドライブ装置である。前記コントローラは、前記アクチュエータをその回動範囲を画定するクラッシュ・ストップに押し付けた状態で、前記アクチュエータの複数の異なる駆動電流を与える。さらに、前記複数の異なる駆動電流のそれぞれにおいてライト素子により書き込みを行うことで、離間した複数セクタのサーボ・パターンを有する複数のサーボ・パターン・トラックを前記ディスクに書き込む。前記複数のサーボ・パターン・トラックの隣接するトラックは半径方向において離間している。さらに前記コントローラは、前記アクチュエータを前記クラッシュ・ストップに押し付けた状態で、前記駆動電流を徐々に変化させることによって前記ライト素子と異なる半径位置にあるリード素子を徐々に移動し、前記複数のサーボ・パターン・トラックのいずれかのトラックに前記リード素子を位置決めする。これにより、セルフ・サーボ・ライトの初期処理において、サーボ・パターンに拠らないアクチュエータの駆動電流の制御によって、より確実にサーボ・パターンを発見してサーボ制御に移行することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、セルフ・サーボ・ライトの初期処理において、サーボ・パターンに拠らないアクチュエータの駆動電流の制御によって、より確実にサーボ・パターンを発見してサーボ制御に移行することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を説明する。説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略及び簡略化がなされている。又、各図面において、同一要素には同一の符号が付されており、説明の明確化のため、必要に応じて重複説明は省略されている。本実施形態においては、ディスク・ドライブ装置の例として、ハードディスク・ドライブ(HDD)について説明する。
【0022】
本形態のHDDは、セルフ・サーボ・ライトにより、磁気ディスクにサーボ・パターンを書き込む。セルフ・サーボ・ライトは、HDDに実装されているヘッド・スライダのリード素子により磁気ディスク上のサーボ・パターンを読み出し、同様に実装されているアクチュエータをサーボ制御により目的の位置に位置決めする。ヘッド・スライダ上のリード素子とライト素子とは異なる半径位置にある、HDDは、磁気ディスクにヘッド・スライダのライト素子によりサーボ・パターンを書き込む。以上の処理を繰り返すことで、磁気ディスクの全面にサーボ・パターンを書き込むことができる。
【0023】
本形態において、ヘッド・ポジショニングのサーボ制御に使用する磁気ディスク上のパターンをサーボ・パターンと呼ぶ。セルフ・サーボ・ライトにおいて、磁気ディスク上には、ホストからのコマンドに応じてユーザ・データの読み出しあるいは書き込みを行うためのサーボ・パターンであるプロダクト・サーボ・パターンの他、プロダクト・サーボ・パターンを書き込むためのサーボ制御に使用するサーボ・パターンが書き込まれる。
【0024】
以下においては、好ましい例として、製品としてのHDDに実装される制御回路が、セルフ・サーボ・ライトを制御、実行する例を説明する。同様の処理を、専用のサーボ・ライト装置が行うこともできるが、本例により、専用のサーボ・ライト装置の数に依存することなく、多くのHDDのサーボ・ライトを同時に行うことができる。まず、セルフ・サーボ・ライトを行うHDDの全体構成について説明する。HDD1は、筐体10の外側に固定された回路基板を備えている。回路基板上には、リード・ライト・チャネル(RWチャネル)21、モータ・ドライバ・ユニット22、ハードディスク・コントローラ(HDC)とMPUの集積回路(HDC/MPU)23及び半導体メモリのRAM24などの各回路を有している。
【0025】
筐体10内において、スピンドル・モータ(SPM)14は所定の角速度で磁気ディスク11を回転する。磁気ディスク11は、データを記憶するディスクである。図1においては、プロダクト・サーボ・パターンが既に書き込まれている磁気ディスク11が示されている。磁気ディスク11の記録面には、磁気ディスク11の中心から半径方向に放射状に延び、所定の角度毎に形成された複数のサーボ領域111が形成される。
【0026】
図1において、7つのサーボ領域を例示している。各サーボ領域111は、ユーザ・データの読み取り/書き込みにおいてヘッド・スライダの位置決め制御を行うためのプロダクト・サーボ・パターンが記録される。隣り合う2つのサーボ領域111の間の領域がデータ領域112であって、そこにユーザ・データが記録される。サーボ領域111とデータ領域112は、所定の角度で交互に設けられる。
【0027】
ヘッド・スライダ12は、磁気ディスク11上を浮上するスライダと、データの読み出し/書き込みを行うヘッドであるヘッド素子部とを備えている。ヘッド・スライダ12はアクチュエータ16の先端部に固定されている。移動機構であるアクチュエータ16は、ボイス・コイル・モータ(VCM)15に連結され、回動軸を中心に回動することによって、ヘッド・スライダ12を回転する磁気ディスク11上においてその半径方向に移動する。アクチュエータ16の可動範囲は表面に弾性体を有する内側クラッシュ・ストップ171と外側クラッシュ・ストップ172によって制限される。
【0028】
モータ・ドライバ・ユニット22は、HDC/MPU23からの制御データに従って、SPM14とVCM15とを駆動する。アーム電子回路(AE)13は、HDC/MPU23からの制御データに従って複数のヘッド・スライダ12の中から磁気ディスク11にアクセスするヘッド・スライダ12を選択し、リード/ライト信号の増幅を行う。RWチャネル21は、リード処理において、AE13から取得したリード信号からサーボ・データ及びユーザ・データを抽出し、デコード処理を行う。デコード処理されたデータは、HDC/MPU23に供給される。また、RWチャネル21は、ライト処理において、HDC/MPU23から供給されたライト・データをコード変調し、さらに、コード変調されたデータをライト信号に変換してAE13に供給する。
【0029】
HDC/MPU23において、HDCはロジック回路であり、MPUはRAM24にロードされたファームウェアに従って動作する。RAM24には、制御及びデータ処理に必要とされるデータがロードされる。HDC/MPU23はコントローラの一例であり、ヘッド・ポジショニング制御、インターフェース制御、ディフェクト管理などのデータ処理に関する必要な処理の他、HDD1の全体制御を実行する。特に、本形態において、HDC/MPU23がセルフ・サーボ・ライトの実行を制御する。
【0030】
本形態のセルフ・サーボ・ライトは、主に、初期パターンの書き込み処理と、その後の自己伝播処理とに分かれる。本形態のセルフ・サーボ・ライトは初期パターン書き込み処理にその特徴を有するが、それについて詳細に説明する前に、自己伝播処理について説明する。
【0031】
自己伝播処理は、ヘッド・スライダ12のリード素子により磁気ディスク11上のサーボ・パターンを読み出してヘッド・スライダ12を目的位置に位置決めし、新たなサーボ・パターンをヘッド・スライダ12のライト素子によって磁気ディスク11に書き込む。この処理を繰り返すことで、記録面全体にサーボ・パターンを書き込む。リード素子とライト素子とは異なる半径位置にあるため、ライト素子が過去に書き込んだサーボ・パターン上をリード素子がトレースしながら、異なる半径位置にあるライト素子が新たなサーボ・パターンを書き込むことができる。
【0032】
自己伝播処において、典型的には、HDD1は、複数のヘッド・スライダ12から一つを選択し、その選択したヘッド・スライダ12によって記録面上のパターンを読み出す。HDD1は、このヘッド・スライダ12が読み出した信号を使用してアクチュエータ16を制御し、このヘッド・スライダを含む全ヘッド・スライダによって、各記録面に同時にパターンを書き込む。
【0033】
図2(a)は、自己伝播処理における、ヘッド・スライダ12上のヘッド素子部120と磁気ディスク11上のサーボ・パターンとを示している。磁気ディスク11の回転方向は、図2の右側から左側へ向かう方向である。ヘッド素子部120はリード素子122とライト素子121とを有している。本形態のHDD1は、自己伝播処理において、内周側から外周側に向かってパターンを書き進んでいく。なお、HDDの構成によっては、外周側から内周側にパターンを書き進めることもできる。
【0034】
図2(a)において、リード素子122がライト素子121よりも磁気ディスク11の内周側に配置されている。サーボ・パターンは、内周側から外周側に書き進められる。内周側からサーボ・パターンを書き込むことによって、ライト素子121により先に書き込まれたサーボ・パターンをリード素子122が読み取ることができる。これによって、リード素子122が読み出したサーボ・パターンによってヘッド・スライダ12の位置合わせを行いながら、ライト素子121は新たなサーボ・パターンを外周側に書き込むことができる。
【0035】
本明細書において、ライト素子121とリード素子との間の半径方向における間隔をリード・ライト・オフセットと呼ぶ。具体的には、リード素子122とライト素子121の各センター間の、磁気ディスク11の半径方向における距離を示す。リード・ライト・オフセットは、磁気ディスク11上の半径位置によって変化する。ライト素子121とリード素子122とは円周方向においても位置がずれており、この方向における間隔をリード・ライト・セパレーションと呼ぶ。
【0036】
本形態において、HDD1は、ホストからのコマンドに応じた処理において使用するプロダクト・サーボ・パターンと同じフォーマットのサーボ・パターンを使用して、セルフ・サーボ・ライトにおける位置制御を行う。これにより、製品としてのHDD1に実装されている機能を利用してセルフ・サーボ・ライトを行うことができる。これとは異なり、プロダクト・サーボ・パターンの他にセルフ・サーボ・ライト専用のサーボ・パターンとタイミング・パターンとを書き込み、これらを使用して、プロダクト・サーボ・パターン(及びセルフ・サーボ・ライト専用のサーボ・パターンとタイミング・パターン)を書き込むこともできる。
【0037】
サーボ・パターンを新たに書き込むためには、正確にヘッド素子部120を位置決めするためのサーボ・パターンと、新たなパターンを書き込むタイミングの基準となるタイミング・パターンとが必要である。図2(a)において、位置決めためのサーボ・パターンはプロダクト・サーボ・パターン(と同フォーマットのパターン)117であり、サーボ情報部113とバースト部114とから構成されている。また、パターン書き込みのタイミング制御のためのタイミング・パターン115が、バースト部114の後に続いている。
【0038】
図2(b)は、図2(a)において矩形Bで囲まれた部分のパターン・フォーマットを示しており、半径方向に配列された4セクタのパターンを示している。ここで、1セクタのパターンは、プロダクト・サーボ・パターン117とタイミング・パターン115で構成されている。つまり、図2(b)は、4セクタのプロダクト・サーボ・パターン117と4セクタのタイミング・パターン115とを示している。HDD1は、1トラックにおいて円周方向に離間している複数セクタのプロダクト・サーボ・パターン117を書き込み、各セクタは半径方向において連続するように書き込まれる。タイミング・パターン115も同様である。
【0039】
プロダクト・サーボ・パターン117のサーボ情報部113は、広く知られているように、プリアンブル(PREAMBLE)、サーボ・アドレス・マーク(SAM)、グレイ・コードからなるトラックID(GRAY)、サーボ・セクタ番号(PHSN)の各フィールドを含む。プリアンブルは、可変ゲイン・アンプのゲイン調整や波形位相検出に使用する。SAMは、トラックID等の実際の情報が始まることを示す部分である。バースト部114は、トラックIDで示されるサーボ・トラック内の更に精密な位置を示すパターンである。
【0040】
バースト部114において、円周方向において異なる4つの位置にパターンが書き込まれる。ライト素子121は、一つのトラックにおいて、バースト部114に一つのパターンを書き込む。サーボ・セクタ番号に最も近いパターンをAパターンと呼び、その後ろに続くパターンを順次、B、C、Dパターンと呼ぶ。それぞれのパターンはライト素子121の幅(半径方向の寸法)を持ち、互いに半径方向にオフセットして配置される。これに対して、サーボ情報部113は、半径方向において一部が重なるように書き込まれる。
【0041】
本形態において、タイミング・パターン部115は、ユーザ・データを収容するデータ・セクタの一部で構成される。これにより、製品として制御回路の機能を利用することができる。タイミング・パターン部115は、波形位相検出のためのプリアンブル(PREAMBLE)と、データ・アドレス・マーク(DAM)とで構成されている。プリアンブルにより、磁気ディスクに記録されたパターンの波形位相に正確に同期することができる。通常のデータ・セクタは、DAMの後に記録されるユーザ・データを有する。
【0042】
HDC/MPU23は、DAMをサーボ・ライトのタイミング基準として使用する。つまり、HDC/MPU23は、DAMの検出タイミングを基準として、次のセクタのパターンを書き込む。なお、HDC/MPU23は、タイミング基準として、DAMの代わりにSAMを使用してもよい。この場合、データ・セクタ・フィールドによるタイミング・パターン115は不要であり、プロダクト・サーボ・パターン117のみでよく、プロダクト・サーボ・パターン117がタイミング・パターンを包含している。また、プロダクト・サーボ・パターン117の前にタイミング・パターン部115を配置してもよい。
【0043】
このように、セルフ・サーボ・ライトにおいて、HDD1は、自分で磁気ディスク11に書き込んだパターンを参照し、そのパターンの信号から得られる時間的、空間的情報を使用して、時間的(周方向におけるタイミング制御)、空間的(半径方向における位置制御)な制御を行いながら、リード・ライト・オフセットだけ半径方向にずれた位置に、次のパターンを書き込む。本形態においては、HDC/MPU23は、プロダクト・サーボ・パターンを使用してヘッド・スライダ12の位置決めを行い、DAMを基準としてサーボ・パターンの書き込みタイミングを制御する。
【0044】
図2(a)を参照した説明から理解されるように、自己伝播処を行うためには、リード・ライト・オフセットに相当する長さに渡って配列されたサーボ・パターン(クラスタ・パターン)が、磁気ディスク11に書き込まれていることが必要である。初期パターン書き込み処理は、自己伝播処理に必要なこの初期パターンを磁気ディスクに書き込むための処理である。
【0045】
初期パターン書き込み処理は、セルフ・サーボ・ライトの一連の手順の中のスタートアップ動作に相当する。スタートアップ動作の段階において、自己伝播処理と同様にプロダクト・サーボ・パターンと同様のフォーマットを有するサーボ・パターン117と、タイミング・パターン115とからなるパターンを、半径方向に1もしくは複数ステップ分(数トラック分)の幅で位相をそろえて書きつないだクラスタ・パターンを形成する。
【0046】
さらに、このクラスタ・パターンに位置決めしながら1ステップ分幅を広げた新しいクラスタ・パターンを順次記録していくことにより、最終的に、リード・ライト・オフセットよりも幅の広い自己伝播用の初期パターンを形成することができる。なお、クラスタ・パターンのサーボ・パターン及びタイミング・パターンは、自己伝播処理におけるそれらと異なっていてもよいが、効率的な処理のためにはそれらが同一であることが好ましい。
【0047】
初期パターンを形成する動作は、アクチュエータ16を内側クラッシュ・ストップ171に押し付けた状態、すなわちヘッド・スライダ12が磁気ディスク11の最内周領域に位置する状態で実施する。VCM電流を小さくして押し付け力を小さくすると、内側クラッシュ・ストップ171の弾性力により、アクチュエータ16(ヘッド・スライダ12)は外周側に移動する。
【0048】
図3は磁気ディスク11の最内周領域に記録されたクラスタ・パターン116a〜116dの配置を示す図である。HDD1は、磁気ディスク11の1周にわたり、数十から数百個のセクタのクラスタ・パターンを形成する。クラスタ・パターンのセクタ数はサーボ・ライト動作で最終的に形成されるプロダクト・サーボ・パターンのセクタ数と同じ、あるいは異なる数である。図3は数百セクタあるクラスタ・パターンのうち3セクタを示している。
【0049】
HDC/MPU23は、アクチュエータ16とヘッド・スライダ12を制御して、クラスタ・パターンを、内周側から1段、2段と段数(トラック数)を増やしながら順次書き込む。HDC/MPU23は、最初に第1のクラスタ・パターン116aを書き込む。次に、リード素子122をこのクラスタ・パターン116a上に位置決めして第2のクラスタ・パターン116bを書き込む。第2のクラスタ・パターンは第1のクラスタ・パターンからみてリード・ライト・オフセット分だけ外周側に位置する。このときリード素子122をクラスタ・パターン116aの中心から少しずらした2箇所(内周エッジと外周エッジ)に位置決めして新たなパターンをライト素子121で書き込むことにより、1段の第1のクラスタ・パターン116aから2段の第2のクラスタ・パターン116bを形成する。
【0050】
同様にして、HDC/MPU23は、リード素子122を第2のクラスタ・パターン116bに位置決めして、第3のクラスタ・パターン116cをライト素子121で書き込む。さらに、第3のクラスタ・パターン116cに位置決めして第4のクラスタ・パターン116dを書き込む。
【0051】
このように順次クラスタ・パターンの段数(トラック数)を増やすことによって、クラスタ・パターンの幅(半径方向の長さ)は広がる。図3の例において、第4のクラスタ・パターン116dは、リード・ライト・オフセット分の幅をカバーする。HDC/MPU23は、第4のクラスタ・パターン116dを、自己伝播動作の初期パターンとして使用することができる。
【0052】
このように、内周側のクラスタ・パターンを使用して外周側のクラスタ・パターンを書き込むとき、リード素子122は、最初に、内周側のクラスタ・パターンの内周エッジに位置決めされ、ライト素子121がリード・ライト・オフセット分外周にサーボ・パターンを書き込む。その後、リード素子122は、内周側のクラスタ・パターン上を、1トラックずつ外周側に移動し、各位置においてライト素子121が新たなパターンを書き込む。最後には、リード素子122は、内周側のクラスタ・パターンの外周エッジに位置決めされる。これにより、順次クラスタ・パターンの段数(トラック数)を増やす。
【0053】
HDC/MPU23は、アクチュエータ16を内周側クラッシュ・ストップ171の押し付けながら、リード素子122が読み出したサーボ信号を使用して、サーボ制御によりリード素子122のポジショニング(VCM電流の制御)を行う。ここで、第1のクラスタ・パターン116aを使用して、第2のクラスタ・パターン116bを書き込む例を、図4のフローチャートを参照して説明する。
【0054】
ライト素子121が、VCM電流一定において、第1のクラスタ・パターン116aを磁気ディスク11の1周にわたり書き込む(S11)。その後、HDC/MPU23は、VCM電流を少しずつ減少させながらヘッド・スライダ12を外周側にゆっくりと移動させる(S12)。リード素子122が、書き込んだ第1のクラスタ・パターン116a上に来て波形を読み出せるようになると(S13)、HDC/MPU23は、第1のクラスタ・パターン116a内周エッジへの位置決め動作に移行する(S14)。内周エッジにおいて、バーストの振幅は、最大値の略半分である。
【0055】
リード素子122が、第1のクラスタ・パターン116aの内周エッジにロックされ、正確に位置決めされたら、HDC/MPU23は、第2のクラスタ・パターン116bの内周側トラックを、ライト素子121で書き込む(S15)。ロックは、連続してサーボ・パターンのSAMを見つけることができ、定期的に安定してサーボ制御のためのタイミング制御を行うことができる状態である。内周側トラックの書き込みが完了すると、HDC/MPU23は、第1のクラスタ・パターン116aのバースト(Aパターン)の振幅を参照して、サーボ制御によりヘッド・スライダ12を外周側に移動させる(S16)。HDC/MPU23は、リード素子122を第1のクラスタ・パターン116aの外周エッジまで移動し、その位置にリード素子122を位置決めする(S17)。外周エッジにおいて、バーストの振幅は、最大値の略半分である。
【0056】
リード素子122が外周エッジに位置決めされた状態で、HDC/MPU23は、第2のクラスタ・パターン116bの外周側トラックを、ライト素子121で書き込む(S18)。外周側トラックの書き込み完了により、磁気ディスク1周にわたる第2のクラスタ・パターン116bの形成が完了する。以降のクラスタ・パターンの書き込みにおいても、HDC/MPU23は、各トラックのバーストの振幅を使用して、リード素子122(ヘッド・スライダ12)の位置決めを行う。HDC/MPU23は、半径位置によって、一つあるいは複数のバースト・パターンの振幅を使用してヘッド・ポジショニングを行う。バーストを使用したサーボ制御は、広く知られたプロダクト・サーボ・パターンによるサーボ制御と略同様である。
【0057】
上述のように、第1のクラスタ・パターン116a(サーボ・パターン)の書き込みを行った後、第1のクラスタ・パターン116aの探索を開始する。この探索において、HDC/MPU23は、サーボ制御によらず、予め設定されている方法に従ってVCM電流を徐々に変化させる(小さくする)ことによって、ヘッド・スライダ12を移動する。第1のクラスタ・パターン116aの内側にはパターンが存在しないため、リード素子122が読み出した信号によりヘッド・ポジショニングを行うことはできない。HDC/MPU23は、設定されているステップでVCM電流を徐々に変化させ、ゆっくりとヘッド・スライダ12を外周側に移動する。
【0058】
典型的には、HDC/MPU23は、VCM電流のレベルをデジタル数値により特定することができ、一定レベルで、段階的にVCM電流を小さくする。しかし、クラッシュ・ストップの弾性力やアクチュエータのバイアス力は毎回変化するため、ヘッド・スライダ12は毎回異なる動きを示す。このため、HDC/MPU23が第1のクラスタ・パターン116aを見つけ、リード素子122を第1のクラスタ・パターン116aの内周エッジに結果位置決めできない可能性がある。
【0059】
そこで、本形態においては、HDC/MPU23は、異なる半径位置の複数トラックの第1のクラスタ・パターン116aを、磁気ディスク11に書き込む。リード素子122を最初のトラックの第1のクラスタ・パターン116aに上手く位置決めすることができず、リード素子122がそのトラックを通りすぎても、複数トラックの内の他のいずれかのトラックに位置決めすることができればよいので、リード素子122を、より確実に、第1のクラスタ・パターン116aの内周端に位置決めすることができる。
【0060】
図5は、3トラックの第1のクラスタ・パターン116a_1〜116a_3を例示している。図5において、各トラックは半径方向において離間しており、その間隔(トラック間距離)L1は同じである。各トラックは同一セクタ数のクラスタ・パターンを有しており、各セクタの円周方向における位置は、トラック間において一致している。実際のセルフ・サーボ・ライトにおいて、HDC/MPU23は、サーボ制御も使用せず、正確なタイミング制御も行うことができない。このため、トラック間隔は一定とは限らず、一つのトラックにおけるセクタ間隔も一定とは限らない。また、HDC/MPU23は、各トラックにおいて、異なるセクタ数のクラスタ・パターンを書き込んでもよい。
【0061】
HDC/MPU23は、一定のVCM電流をVCM15に与えながら、一つのトラックのクラスタ・パターン116aを書き込む。VCM電流の値が変化すると、アクチュエータ16の押し付け力とクラッシュ・ストップの弾性力との間の関係から、ヘッド・スライダ12の半径位置も変化する。複数の異なるVCM電流を与えることで、半径位置の異なる複数トラックのクラスタ・パターン116aを書き込む。
【0062】
典型的に、HDC/MPU23は、設計により予め設定されている複数の異なるVCM電流をVCM15に与える。例えば、HDC/MPU23は、最初にVCM電流I1を与え、その後にVCM電流I2を与え、最後にVCM電流I3を与え、各VCM電流値において、1トラックのクラスタ・パターン116a_1〜116a_3を書き込む。
【0063】
I1〜I3はHDC/MPU23のファームウェアに設定されている。I1とI2の差分Δ1と、I2とI3の差分Δ2は、典型的には等しい。クラッシュ・ストップの弾性力は一定ではないため、Δ1とΔ2とが同じであっても、トラック間距離は必ずしも同一とはならないが、これらの値が小さい場合は、トラック間距離は略同一となる。
【0064】
典型的には、HDC/MPU23は、SMP14のタイミング信号(INDEX信号)を基準として、各セクタの書き込みを行う。INDEX信号は、モータ・ドライバ・ユニット22が、SPM14の1回転毎に出力する。HDC/MPU23は、このINDEX信号を基準とし、自らのクロック信号により時間を計って各セクタを書き込む。
【0065】
INDEX信号の精度は自己伝播におけるタイミング制御と比較して精度が低く、また、INDEX信号の間のタイミング制御はクロック信号のみに依存するため、サーボ・パターンを使用したタイミング制御と異なり、各セクタの間の距離は一定ではなく、トラック間のセクタ位置も一致しない。
【0066】
図5に示すように、各トラックのクラスタ・パターン116aは、半径方向において離間していることが重要である。上記の通り、円周方向における書き込みタイミングは高精度に制御されていないため、二つのトラックの一部が重なる場合、パターンの位相が一致しない可能性が高いからである。また、その後に正確な2段のクラスタ・パターンを書き進めるためには、最初のクラスタ・パターンは1段であることが必要である。
【0067】
隣接トラック間のギャップ、つまり、トラックの互いの対向する端の間の距離L2は、リード素子122の幅(リード幅)よりも大きいことが好ましい。リード幅は、リード素子122がバーストの振幅値を読み取ることができる幅である。これにより、トラック間の波形間干渉を避け、リード素子122は、各トラックのクラスタ・パターン116aを個別に読み取ることができる。
【0068】
複数トラックのクラスタ・パターン116aを書き込む場合、HDC/MPU23が各トラックを特定することができることが好ましい。このためには、クラスタ・パターン116aの各トラックが、トラックIDを含んでいればよい。各トラックのクラスタ・パターン116aの一部もしくは全部が同一のトラックIDを有する。容易かつ確実にトラックIDを検出できるように、トラック内の全てのクラスタ・パターン116aがトラックIDを有することが好ましい。図2(b)を参照して説明したように、クラスタ・パターン116aは、プロダクト・サーボ・パターンと同じフォーマットのサーボ・パターン117と、データ・セクタの一部で構成されているタイミング・パターン115と、で構成されている。
【0069】
クラスタ・パターン116a内のいずれかのフィールドにトラックの識別子を埋め込むことができれば、データ・フォーマットとして効率的である。具体的には、サーボ情報部113のSAMのフィールド、あるいはトラックIDのフィールドにトラックの識別子を格納することができる。セクタ番号のフィールドは、クラスタ・パターン116aのセクタ番号を格納するため、トラック識別子は異なるフィールドがよい。特に、トラックIDのフィールドは、本来の機能がサーボ・トラック番号の収容である、クラスタ・パターン116aのトラック識別子の格納に好適である。
【0070】
クラスタ・パターン116aのトラックを識別するための数値は、トラックの数と同じ数の種類が存在すれば、その数値自体は何でもよい。従って、トラックIDのフィールドにおいて、ユーザ・データのアクセスに使用するプロダクト・サーボ・パターンで不使用の数値を使用することで、HDD1の既存の機能を利用して、容易にクラスタ・パターン116aのトラックを識別することができる。この他、タイミング・パターン部115の後ろにクラスタ・パターン116aのトラック識別子を付加してもよい。あるいは、プロダクト・サーボ・パターン117がリピータブル・ラン・アウト・フィールド(RROフィールド)のような付加的なフィールドを有している場合、そのフィールドにトラック識別子を書き込んでもよい。
【0071】
以下において、複数トラックの最初の1段のクラスタ・パターン116aの書き込み、及び、クラスタ・パターン116aのいずれかのトラックへのリード素子122の位置決め動作の好ましい例について、図6のフローチャートを参照して説明する。まず、HDC/MPU23は、VCM15のVCM電流I1を与え、アクチュエータ16を内周側クラッシュ・ストップ171に押し付ける(S31)。
【0072】
VCM電流I1を維持して、HDC/MPU23は、モータ・ドライバ・ユニット22からINDEX信号を受け取る。HDC/MPU23は、INDEX信号を基準としてクロック信号をカウントし、一定のカウント数間隔で、各セクタのクラスタ・パターン116aをライト素子121により書き込む(S32)。
【0073】
最初のトラックのクラスタ・パターン116aの書き込みが終了すると、HDC/MPU23は、次のトラックの書き込みのために(S33におけるN)、VCM電流をI1からΔIだけ減少させる(S34)。アクチュエータ16の押し付け力が減少して、内周側クラッシュ・ストップ171の弾性力によりアクチュエータ16が外側に移動する。HDC/MPU23は、VCM電流(I1−ΔI)を維持して、そのトラックにおける各セクタのクラスタ・パターン116aをライト素子121により書き込む(S32)。
【0074】
図5の例のように3トラックのクラスタ・パターン116aを書き込む場合、2番目のトラックのクラスタ・パターン116aの書き込みが終了すると、HDC/MPU23は、次のトラックの書き込みのために(S33におけるN)、VCM電流を(I1−ΔI)からΔIだけ減少させる(S34)。アクチュエータ16の押し付け力が減少して、内周側クラッシュ・ストップ171の弾性力によりアクチュエータ16がさらに外側に移動する。HDC/MPU23は、VCM電流(I1−2ΔI)を維持して、そのトラックにおける各セクタのクラスタ・パターン116aをライト素子121により書き込む(S32)。
【0075】
3トラックのクラスタ・パターン116aを書き込むと(S33におけるY)、HDC/MPU23は、VCM電流の設定値をI1に戻す(S35)。HDC/MPU23は、VCM電流をI1から徐々に小さくして、ゆっくりとリード素子122を外周側に移動する(S36)。具体的には、HDC/MPU23は、細かいステップで段階的に減少するVCM電流を与える。HDC/MPUは、各VCM電流値をディスク1回転以上維持して、リード素子122のクラスタ・パターン116aへのロックを試みる。
【0076】
最初のトラックにリード素子122を上手くロック、さらに所望位置に位置決めすることができた場合(S37におけるY)、HDC/MPU23は、そのトラックにリード素子122を位置決めして、外周側に第2のクラスタ・パターン116bを書き込む(S38)。この処理は、図2を参照して説明した処理と同様である。HDC/MPU23は、第1のクラスタ・パターン116a内にトラックIDを記録しているため、そのIDを読み取ることで、現在のトラックを特定することができる。
【0077】
リード素子122が最初のトラックでロックされることなく通り過ぎてしまった場合(S37におけるN)、HDC/MPU23はVCM電流を増加させ続け、リード素子122をさらに外周側に移動する(S39)。HDC/MPU23は、ほぼ間違いなく、2番目あるいは3番目のトラックにおいて、リード素子122をターゲット位置に位置決めすることができる。リード素子122が全てのトラックから正確に信号を読みとることができずに通りすぎてしまった場合(S40におけるN)、エラーとして処理される(S41)。
【0078】
2もしくは3番目のトラックで初めてリード素子122をサーボ制御により位置決めすることができた場合(S40におけるY)、HDC/MPU23は、そのトラックにリード素子122を位置決めして、ライト素子121により外周側に第2のクラスタ・パターン116bを書き込む(S38)。あるいは、これと異なり、HDC/MPU23は、2もしくは3番目のトラックに位置決めした後、アクチュエータ16を内周側に戻して、最内周トラックを探索してもよい。しかし、制御が複雑化するために、2もしくは3番目のトラックに位置決めすることができた場合は、そのトラックにおいて第2のクラスタ・パターン116bの書き込むことが好ましい。
【0079】
セルフ・サーボ・ライトにおいては、処理の途中でエラーが発生し、HDC/MPU23が処理を最初からやり直すことがある。HDC/MPU23は、初期パターン形成処理から処理を行う。しかし、磁気ディスク11上には、前回書き込んだ初期パターンが残っているため、HDD1は残っている初期パターンを消去することが必要である。好ましくは、HDD1は、自己のライト素子121によって、記録面上に残っているパターンを消去する。
【0080】
パターン消去において重要な点は、そのときのライト幅である。初期パターン消去においては、過去のパターンを確実に消去することが重要となる。そのため、初期パターンの書き込みにおけるライト幅よりも広いライト幅によって消去処理を行うことで、過去の初期パターンをより確実に消去することができる。HDC/MPU23は、ライト電流を大きくすることでライト幅を広げることができる。
【0081】
例えば、HDC/MPU23は、ライト素子121を各ターゲット位置に移動した後、新たなパターンを書き込む前にパターン消去を行う。HDC/MPU23は、AE13のレジスタにライト電流を示すデータを設定することで、各ライト素子121のライト電流を制御する。パターン消去の後、HDC/MPU23は、ライト電流を再設定して、新たなパターンを書き込む。
【0082】
初期パターン形成処理において、サーボ制御前のクラスタ・パターンの書き込みは、設定されているVCM電流を与えてアクチュエータ制御するに過ぎないため、パターン消去におけるライト幅をパターン書き込みよりも大きくしても、初期パターンが記録面上に残る可能性は存在する。このような場合、HDC/MPU23が過去のパターンと現在のパターンとを区別することができれば、過去のパターンを誤って読み出すことなく、新たな初期パターンを書き進めることができる。
【0083】
そこで、好ましくは、HDC/MPU23は、クラスタ・パターン内に、今回の処理において新たに書き込んだパターンであることを示す識別子を書き込む。この初期パターン書き込み処理の識別子は、単なるカウンタ値、あるいは、それに加えてもしくはそれに代えて、タイム・スタンプを使用してもよい。タイム・スタンプは、日付及び/もしくは時刻を表すデータである。これにより、最新のパターンを区別すると共に、パターン書き込みの履歴情報として使用することができる。例えば、HDC/MPU23は、初期パターン書き込み処理を行った月日(タイプ・スタンプの一例)とカウンタ値を使用する。カウンタ値は、その月日における初期パターン書き込み処理の順番(何回目の初期パターン書き込み処理か)を示す。
【0084】
あるいは、タイム・スタンプとして、初期パターン書き込み処理の時分を表すデータを識別子として使用してもよい。HDC/MPU23は、カウンタ値を使用する場合、最後に使用した識別子を磁気ディスク以外の不揮発性メモリに保存しておく。初期パターン書き込み処理の識別子を書き込むクラスタ・パターンの数や位置、あるいは、クラスタ・パターン内での書き込み位置は、クラスタ・パターンのトラック識別子と同様に考えることができる。好ましくは、プロダクト・サーボ・パターンのトラックIDのフィールドにトラックの識別子と初期パターン書き込み処理の識別子とを記録する。
【0085】
以上、本発明を好ましい実施形態を例として説明したが、本発明が上記の実施形態に限定されるものではない。当業者であれば、上記の実施形態の各要素を、本発明の範囲において容易に変更、追加することが可能である。例えば、本発明はHDDに特に有用であるが、それ以外のディスク・ドライブ装置に適用してもよい。本発明は、最初のクラスタ・パターンへの位置決めに特に有用であるが、サーボ制御できない状況における他のサーボ・パターン(トラック)の探索に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本実施形態にかかるHDDの構成を模式的に示す図である。
【図2】本実施形態にかかる自己伝播処理における、ヘッド・スライダ上のヘッド素子部と磁気ディスク上のサーボ・パターンとを示す図である。
【図3】本実施形態において、磁気ディスクの最内周領域に記録されたクラスタ・パターンの配置を示す図である。
【図4】本実施形態において、第1のクラスタ・パターンを使用して、第2のクラスタ・パターンを書き込む例を説明するフローチャートである。
【図5】本実施形態において、3トラックの第1のクラスタ・パターンの一部セクタを示す図である。
【図6】本実施形態において、複数トラックの最初の1段のクラスタ・パターンの書き込み、及び、クラスタ・パターンのいずれかのトラックへのリード素子の位置決め動作の好ましい例について説明するフローチャートである。
【図7】従来の技術における課題を説明する図である。
【符号の説明】
【0087】
1 ハードディスク・ドライブ、10 筐体、11 磁気ディスク
12 ヘッド・スライダ、13 アーム・エレクトロニクス
14 スピンドル・モータ、15 ボイス・コイル・モータ、16 アクチュエータ、
21 リード・ライト・チャネル、22 モータ・ドライバ・ユニット
23 HDC/MPU、24 RAM、111 サーボ領域、112 データ領域
113 サーボ情報部、114 バースト部、115 タイミング・パターン
116a〜116d クラスタ・パターン、117 プロダクト・サーボ・パターン
120 ヘッド素子部、121 ライト素子、122 リード素子
171 内側クラッシュ・ストップ、172 外側クラッシュ・ストップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスク・ドライブ装置に実装されており回動することでヘッドをディスク半径方向に移動するアクチュエータを駆動制御し、前記ヘッドにより前記ディスク上にサーボ・パターンを書き込む処理において、ユーザ・データのアドレスを示すプロダクト・サーボ・パターンを書き込む前に、前記アクチュエータのサーボ制御のためのサーボ・パターンを前記ディスク上に書き込む方法であって、
前記アクチュエータをその回動範囲を画定するクラッシュ・ストップに押し付けた状態で、前記アクチュエータの複数の異なる駆動電流を与え、
前記複数の異なる駆動電流のそれぞれにおいてライト素子により書き込みを行うことで、離間した複数セクタのサーボ・パターンを有する複数のサーボ・パターン・トラックを前記ディスクに書き込み、前記複数のサーボ・パターン・トラックの隣接するトラックは半径方向において離間しており、
サーボ・パターン・トラックの探索において前記アクチュエータを前記クラッシュ・ストップに押し付けた状態で、前記駆動電流を徐々に変化させることによって前記ライト素子と異なる半径位置にあるリード素子を徐々に移動し、前記複数のサーボ・パターン・トラックのいずれかのトラックに前記リード素子を位置決めする、
サーボ・パターン書き込み方法。
【請求項2】
さらに、前記複数のサーボ・パターン・トラックのいずれかのトラックの内周側エッジと外周側エッジのそれぞれに位置決めした状態において、新たなサーボ・パターンを前記ライト素子で書き込む、
請求項1に記載のサーボ・パターン書き込み方法。
【請求項3】
さらに、前記複数のサーボ・パターン・トラックのそれぞれに、サーボ・パターン・トラックを識別する識別子を書き込む、
請求項1に記載のサーボ・パターン書き込み方法。
【請求項4】
前記複数セクタのサーボ・パターンのそれぞれは、前記プロダクト・サーボ・パターンと同様のフィールドを含み、
各セクタのサーボ・パターンのトラックIDフィールドに前記サーボ・パターン・トラックを識別する識別子が書き込まれている、
請求項3に記載のサーボ・パターン書き込み方法。
【請求項5】
さらに、前記複数のサーボ・パターン・トラックのそれぞれに、今回の書き込み処理で新たに書き込んだサーボ・パターン・トラックであることを示す識別子を書き込む、
請求項1に記載のサーボ・パターン書き込み方法。
【請求項6】
前記識別子は、タイム・スタンプを含む、
請求項5に記載のサーボ・パターン書き込み方法。
【請求項7】
前記サーボ・パターン・トラックを識別する識別子と前記新たに書き込んだサーボ・パターン・トラックであることを示す識別子とは、サーボ・パターンの同一のフィールド内にある、
請求項5に記載のサーボ・パターン書き込み方法。
【請求項8】
さらに、前記複数のサーボ・パターン・トラックのそれぞれを書き込む前に前記ライト素子による消去を行い、
前記消去におけるライト幅は、前記複数のサーボ・パターン・トラックの書き込みにおけるライト幅よりも大きい、
請求項1に記載のサーボ・パターン書き込み方法。
【請求項9】
ディスクと、
前記ディスクへサーボ・パターンを書き込むライト素子と、前記サーボ・パターンを読み出すリード素子と、を有するヘッドと、
前記ヘッドを支持し、回動することで前記ヘッドを前記ディスクの半径方向において移動するアクチュエータと、
前記アクチュエータを駆動制御し、前記ライト素子により前記ディスク上にサーボ・パターンを書き込む処理において、ユーザ・データのアドレスを示すプロダクト・サーボ・パターンを書き込む前に、前記アクチュエータのサーボ制御のためのサーボ・パターンを前記ディスク上に前記ライト素子により書き込むコントローラと、を有し、
前記コントローラは、
前記アクチュエータをその回動範囲を画定するクラッシュ・ストップに押し付けた状態で、前記アクチュエータの複数の異なる駆動電流を与え、
前記複数の異なる駆動電流のそれぞれにおいてライト素子により書き込みを行うことで、離間した複数セクタのサーボ・パターンを有する複数のサーボ・パターン・トラックを前記ディスクに書き込み、前記複数のサーボ・パターン・トラックの隣接するトラックは半径方向において離間しており、
サーボ・パターン・トラックの探索において前記アクチュエータを前記クラッシュ・ストップに押し付けた状態で、前記駆動電流を徐々に変化させることによって前記ライト素子と異なる半径位置にあるリード素子を徐々に移動し、前記複数のサーボ・パターン・トラックのいずれかのトラックに前記リード素子を位置決めする、
ディスク・ドライブ装置。
【請求項10】
さらに、前記複数のサーボ・パターン・トラックのいずれかのトラックの内周側エッジと外周側エッジのそれぞれに位置決めした状態において、新たなサーボ・パターンを前記ライト素子で書き込む、
請求項9に記載のディスク・ドライブ装置。
【請求項11】
さらに、前記複数のサーボ・パターン・トラックのそれぞれに、サーボ・パターン・トラックを識別する識別子を書き込む、
請求項9に記載のディスク・ドライブ装置。
【請求項12】
前記複数セクタのサーボ・パターンのそれぞれは、前記プロダクト・サーボ・パターンと同様のフィールドを含み、
各セクタのサーボ・パターンのトラックIDフィールドに前記サーボ・パターン・トラックを識別する識別子が書き込まれている、
請求項11に記載のディスク・ドライブ装置。
【請求項13】
さらに、前記複数のサーボ・パターン・トラックのそれぞれに、今回の処理で新たに書き込んだサーボ・パターン・トラックであることを示す識別子を書き込む、
請求項9に記載のディスク・ドライブ装置。
【請求項14】
前記識別子は、タイム・スタンプを含む、
請求項13に記載のディスク・ドライブ装置。
【請求項15】
前記サーボ・パターン・トラックを識別する識別子と前記新たに書き込んだサーボ・パターン・トラックであることを示す識別子とは、サーボ・パターンの同一のフィールド内にある、
請求項13に記載のディスク・ドライブ装置。
【請求項16】
さらに、前記複数のサーボ・パターン・トラックのそれぞれを書き込む前に前記ライト素子による消去を行い、
前記消去におけるライト幅は、前記複数のサーボ・パターン・トラックの書き込みにおけるライト幅よりも大きい、
請求項9に記載のディスク・ドライブ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−40146(P2010−40146A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−204899(P2008−204899)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(503116280)ヒタチグローバルストレージテクノロジーズネザーランドビーブイ (1,121)
【Fターム(参考)】