説明

サーマルインクジェット記録用液体組成物、カラーインク、インクセット、インクカートリッジ、サーマルインクジェット記録装置

【課題】 カラー画像の形成において生じるブリーディングの発生を抑制し、サーマルインクジェット記録方法で吐出した場合においても吐出が良好なサーマルインクジェット記録用液体組成物の提供。
【解決手段】 水と、多価金属塩と、液媒体とを含有するサーマルインクジェット記録用液体組成物であって、2−ピロリドン−5−カルボン酸、ピラゾールまたはピラゾール誘導体から選択される少なくとも1種類の物質を含有することを特徴とするサーマルインクジェット記録用液体組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーマルインクジェット記録用液体組成物、サーマルインクジェット記録用カラーインクに関する。また、これらを用いたサーマルインクジェット記録用インクセット、サーマルインクジェット記録用インクカートリッジ及びサーマルインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、装置の小型化、低ランニングコスト、カラー化等が容易であり、カラー画像の形成に優位であるが、画像の高品質化がより求められる中、いくつかの課題がある。例えば、異なる2種のインクが隣接して記録媒体に付与された場合、該インク同士がそれらの境界部で混ざり合ってしまい、カラー画像の品位が低下する現象(ブリーディング)が発生する場合がある。特に、ブラックインクとカラーインクの境界部でのブリーディングは、画像品位低下への影響が大きいため、様々な解決方法が研究されている。
【0003】
例えば、記録媒体上で接触する一方の液体組成物に沈殿剤を含有させ、他方の液体組成物に沈殿剤によって沈殿物を生成し得る着色材(色材)を含有させることで、ブリーディングの発生を抑制する技術が開示されている(特許文献1、特許文献2参照)。この技術では、沈殿剤として多価金属塩が開示され、多価金属塩によって沈殿物を生成し得る着色材として少なくとも1つのカルボキシル基を有する染料等が開示されている。又、第1の液体組成物が着色材を含有する場合、即ち接触する液体組成物が共にインクである場合も開示されている。
【特許文献1】特開平5−202328号公報
【特許文献2】特開平6−106841号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、本発明者らの検討によれば、特許文献1及び2のブリーディング抑制方法は、サーマルインクジェット記録方法により多価金属塩を含有した液体組成物を記録ヘッドから繰り返し吐出すると、次のような課題が発生する場合があることを見出した。
【0005】
記録ヘッドが有する、熱エネルギーを付与するヒータ(発熱素子基板)上には、金属及び/又は金属酸化物、例えば、タンタル又はタンタルの酸化物等からなる最表面保護層が設けられている。この最表面保護層が溶解することによりヒータの断線が起こり、吐出が劣化し、形成される画像品質に影響を及ぼすという課題である。
【0006】
このような吐出の劣化は、以下のような理由により発現すると考えられる。即ち、ヒータによって、多価金属塩を含有するインクあるいは液体組成物が過熱されると、該多価金属塩を構成しているアニオンイオンが分解してしまうため、ヒータ近傍のカチオンイオン(多価金属イオン)濃度が上昇し、アルカリ性が強くなる。これにより、ヒータ上に設けられているタンタル等の金属及び/又は金属の酸化物からなる最表面保護膜が溶解し、ヒーターが断線し、吐出が劣化する。
【0007】
従って、本発明の目的は、カラー画像を形成した際のブリーディングの発生を抑制し、サーマルインクジェット記録方法で吐出した場合においても吐出が良好なサーマルインクジェット記録用液体組成物、サーマルインクジェット記録用カラーインクを提供することにある。
【0008】
又、本発明の他の目的は、これらを用いたサーマルインクジェット記録用インクセット、サーマルインクジェット記録用インクカートリッジ及びサーマルインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らは、カラー画像を形成した際のブリーディングの発生を抑制し、且つ、サーマルインクジェット記録方法で吐出した場合においても、吐出が良好な液体組成物、及びカラーインクについて鋭意検討行った結果、本発明に至った。
【0010】
前記目的は、以下の本発明によって達成される。
【0011】
本発明の一実施態様にかかるサーマルインクジェット記録用液体組成物は、水と、多価金属塩と、液媒体とを含有するサーマルインクジェット記録用液体組成物であって、2−ピロリドン−5−カルボン酸、ピラゾールまたはピラゾール誘導体から選択される少なくとも1種類の物質を含有することを特徴とするサーマルインクジェット記録用液体組成物である。
【0012】
本発明の一実施態様にかかるサーマルインクジェト記録用インクセットは、前記液体組成物と、該液体組成物との接触によって該液体組成物と反応する着色インクとを組み合わせてなることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の一実施態様にかかるサーマルインクジェット記録用インクカートリッジは、前記液体組成物を収容する液体組成物収容部と、該液体組成物との接触によって該液体組成物と反応する着色インクを収容する着色インク収容部とを具備することを特徴とするものである。
【0014】
本発明の一実施態様にかかるサーマルインクジェット記録装置は、前記液体組成物を収容する液体組成物収容部と、該液体組成物をサーマルインクジェット記録方法で吐出するための記録ヘッドとを具備することを特徴とするものである。
【0015】
本発明の一実施態様にかかるサーマルインクジェット記録用カラーインクは、水と、多価金属塩と、液媒体と、色材とを含有するサーマルインクジェット記録用カラーインクであって、2−ピロリドン−5−カルボン酸、ピラゾールまたはピラゾール誘導体から選択される少なくとも1種類の物質を含有することを特徴とするサーマルインクジェット記録用カラーインクである。
【0016】
本発明の他の実施態様にかかるサーマルインクジェット記録用インクセットは、前記カラーインクと、該カラーインクとの接触によって該カラーインクと反応するブラックインクとを組み合わせてなることを特徴とするものである。
【0017】
本発明の他の実施態様にかかるサーマルインクジェット記録用インクカートリッジは、前記カラーインクを収容するカラーインク収容部と、前記ブラックインクを収容するブラックインク収容部とを具備することを特徴とするものである。
【0018】
本発明の他の実施態様にかかるサーマルインクジェット記録装置は、前記サーマルインクジェット記録用カラーインクを収容するカラーインク収容部と、該カラーインクをサーマルインクジェット記録方法で吐出するための記録ヘッドとを具備することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ブリーディングの発生を抑制し、サーマルインクジェット記録方法で吐出した場合においても吐出が良好なサーマルインクジェット記録用液体組成物、サーマルインクジェット記録用カラーインクを提供できる。また、前記効果を達成可能なサーマルインクジェット記録用インクセット、インクジェット記録用インクカートリッジ及びサーマルインクジェット記録装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。
【0021】
[第1実施形態]
本発明の具体的な実施形態の一つを「第1実施形態」とし、以下に説明する。
【0022】
第1実施形態とは、水と、多価金属塩と、液媒体とを含有するサーマルインクジェット記録用液体組成物であって、2−ピロリドン−5−カルボン酸、ピラゾールまたはピラゾール誘導体から選択される少なくとも1種類の物質を含有することを特徴とする液体組成物を用い、該液体組成物と着色インクを、記録媒体上に、これらが接触状態を形成するように付与する実施形態である。かかる実施形態において、前記液体組成物及び前記着色インクの付与は、サーマルインクジェット記録方法によって行う。
【0023】
第1実施形態で用いる液体組成物について説明する。
【0024】
液体組成物が含有する多価金属塩としては、例えば硝酸、硫酸、酢酸等の多価金属塩が挙げられる。具体的には、例えば硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウムが挙げられる。中でも硝酸の多価金属塩または酢酸の多価金属塩を使用することが好ましい。具体的には、例えば硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウムを使用することが好ましい。液体組成物は、前記多価金属塩から選択される少なくとも1種を含有する。液体組成物が含有する多価金属塩の総含有量は、液体組成物全量に対して0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。また、液体組成物全量に対して20質量%以下であることが好ましく、12質量%以下であることがより好ましい。この条件を満たすことで、ブリーディングの発生をより良好に抑制できる。
【0025】
液体組成物が含有するピラゾール誘導体としては、2−ピラゾリン、5−ピラゾロン、アンチピリン、ピラゾールカルボン酸から選択される1種を用いることが好ましい。
【0026】
液体組成物が含有する2−ピロリドン−5−カルボン酸、ピラゾールまたはピラゾール誘導体から選択される少なくとも1種類の物質の総含有量は、液体組成物全量に対して1質量%以上であることが好ましく、1.75質量%以上であることがより好ましい。また、液体組成物全量に対して20質量%以下であることが好ましく、7質量%以下であることがより好ましい。この条件を満たすことで、より優れたヘッドの長寿命化を図ることができ、液体組成物を良好に吐出することが可能となる。
【0027】
液体組成物が含有する液媒体としては、水と水溶性有機溶剤を併用することが好ましい。この場合に使用する水は、種々のイオンを含有する一般の水ではなく、脱イオン水を使用することが望ましい。水の含有量は、インク全量に対して、35質量%以上が好ましい。また、96質量%以下が好ましい。水溶性有機溶剤は、インクの粘度を調整してインクの乾燥速度を遅らせるため、或いは、色材の溶解性を高め記録ヘッドのノズルの目詰まりを防止するため等、種々の目的で使用される。具体的な水性有機溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、イソブチルアルコール及びn−ペンタノール等の炭素数1〜5のアルキルアルコール類。ジメチルホルムアミド及びジメチルアセトアミド等のアミド類。アセトン及びジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン及びジオキサン等のエーテル類;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコール等のオキシエチレン又はオキシプロピレン共重合体。エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、トリエチレングリコール及び1,2,6ーヘキサントリオール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類。グリセリン;トリメチロールエタン及びトリメチロールプロパン。エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル及びトリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の低級アルキルエーテル類;トリエチレングリコールジメチル(又はエチル)エーテル及びテトラエチレングリコールジメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級ジアルキルエーテル類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン及びトリエタノールアミン等のアルカノールアミン類。スルホラン、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン及び1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン。以上のものが挙げられる。これらの水溶性有機溶剤は、単独でも、或いは混合物としてでも使用できる。
【0028】
次に、第1実施形態で使用する着色インクについて説明する。
【0029】
着色インクは、少なくとも色材と液媒体とを含有する。前記着色インクは、本実施形態にかかる液体組成物と接触した際に、該液体組成物中の多価金属塩に起因する多価金属イオンと反応する。ここでいう「反応」とは、着色インク中の色材が凝集若しくは沈殿する、或いは、着色インクの増粘が生起されることをいう。
【0030】
着色インクに用いる色材としては、顔料及び染料が挙げられる。
【0031】
顔料としては、無機顔料や有機顔料等、あらゆる顔料を用いることができるが、具体的には、下記のものが挙げられる。即ち、カーボンブラック、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、114、128、129、151、154及び195。C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、57(Sr)、112、122、123、168、184及び202。C.I.ピグメントブルー1、2、3、15:3、15:34、16、22及び60。C.I.ヴァットブルー4及び6等。以上のものが挙げられる。
【0032】
前記した顔料を色材として使用する場合には、顔料を着色インク中に安定に分散させるために、分散剤を用いることが好ましい。分散剤としては、高分子分散剤や界面活性剤系分散剤等が挙げられる。高分子分散剤の具体例としては、例えば、ポリアクリル酸塩、スチレン−アクリル酸共重合物塩、スチレン−メタクリル酸共重合物塩、スチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合物塩が挙げられる。また、スチレン−マレイン酸共重合物塩、アクリル酸エステル−マレイン酸共重合物塩、スチレン−メタクリルスルホン酸共重合物塩、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合物塩が挙げられる。さらに、β−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール及びポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0033】
これらの中でも、重量平均分子量が1,000〜30,000のものを使用することが好ましい。また、酸価が100〜430のものを使用することが好ましい。界面活性剤系分散剤としては、ラウリルベンゼンスルホン酸塩、ラウリルスルホン酸塩、ラウリルベンゼンカルボン酸塩、ラウリルナフタレンスルホン酸塩、脂肪族アミン塩及びポリエチレンオキサイド縮合物等が挙げられる。これらの分散剤の使用量は、顔料を10質量部としたとき、0.5質量部以上、5.0質量部以下とすることが好ましい。
【0034】
顔料として、特開平5−186704号公報に記載されているような、カーボンブラックの表面に水溶性基を導入することにより自己分散を可能とした、所謂自己分散型カーボンブラックを使用することもできる。自己分散型カーボンブラックを使用した場合には、分散剤の使用量を減少可能である。
【0035】
色材として顔料を用いたインク(顔料インク)と、前記液体組成物とが接触すると、顔料インクの顔料と該液体組成物中の多価金属イオンが反応する。即ち、塩析作用等により、該顔料インク中の顔料が速やかに凝集、沈殿する。この結果、顔料インク中の色材の記録媒体への定着が高速化され、異色の2種以上のインクが隣接して付与された場合においても、ブリーディングの発生を抑制できる。
【0036】
染料としては、直接染料、酸性染料、塩基性染料及び分散染料等の水溶性染料が好適に用いられる。
【0037】
染料を含有する着色インクとしては、前記液体組成物との接触によって、該液体組成物と染料が反応するインクが好ましい。即ち、塩析効果による染料の析出や、多価金属イオンと染料との反応による水難溶性或いは水不溶性の塩又は化合物の形成が起こるインクが好ましい。これらの作用、或いはこれらの作用の複合によって、着色インク中の染料の記録媒体への定着が高速に進む。このような染料は、前記液体組成物と接触した際に、該液体組成物中の多価金属塩と反応して不溶性の塩又は化合物を形成し易い。よって、分子中に少なくとも1つのカルボキシル基を有する染料を用いることが好ましい。具体的には、下記の例示化合物1〜30に挙げるような構造を有する染料を用いることが好ましいが、本発明は、これらに限定されるものではない。尚、例示化合物1〜5中のMはアルカリ金属、アンモニウム、有機アンモニウムのいずれかである。
【0038】
【化1】

【0039】
【化2】

【0040】
【化3】

【0041】
【化4】

【0042】
【化5】

【0043】
【化6】

【0044】
【化7】

【0045】
【化8】

【0046】
【化9】

【0047】
【化10】

【0048】
【化11】

【0049】
【化12】

【0050】
着色インクに含有させる色材としては、前記顔料又は前記染料の中から1種類を用いてもよいし、2種類以上を組合わせて用いてもよい。又、前記色材の濃度は、インク全量に対して0.1質量%以上が好ましい。また、20質量%以下が好ましい。
【0051】
着色インクが含有する液媒体としては、前記液体組成物で挙げた液媒体を用いることができる。
【0052】
第1実施形態で用いられる液媒体について説明する。
【0053】
又、着色インクのpH値を一定にして、インク中における染料の溶解性及び顔料の分散性を安定化させるために、着色インク中にpH調整剤を含有させてもよい。pH調整剤としては、具体的には、例えば、硝酸、硫酸、塩酸等の無機酸。酢酸、プロピオン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸等のカルボン酸。水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化アンモニウム等の水酸化物。硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム及び硫酸アンモニウム等の硫酸塩。炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸アンモニウム及び炭酸水素アンモニウム等の炭酸塩。酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム及び酢酸アンモニウム等の酢酸塩、塩酸塩等が挙げられる。
【0054】
これらのpH調整剤は、前記した液体組成物に含有させてもよい。又、これらは、液体組成物及び着色インク中に単独で添加させて使用してもよいが、更に好ましくは、2種類以上のpH調整剤を選択して併用する。これらのpH調整剤は、液体組成物全量に対して0.1質量%以上用いることが好ましく、1質量%以上用いることがより好ましい。また、10質量%以下用いることが好ましく、8質量%以下用いることがより好ましい。この条件を満たすことで、よりpHを安定に保ち、着色インク中に含まれている水溶性染料の溶解安定性を高めることが可能となる。また、ノズルの目詰まり等の問題を防止することが可能となる。
【0055】
液体組成物中、又はこれと併用する着色インク中には、上記の成分の他に、必要に応じて従来公知の一般的な各種添加剤を併用することができる。例えば、粘度調整剤、防かび剤、防腐剤、酸化防止剤、消泡剤及び尿素等のノズル乾燥防止剤を適宜併用することができる。
【0056】
液体組成物、又はこれと併用する着色インクの物性の好適な範囲は、25℃付近でのpH値が、好ましくは3以上、より好ましくは4以上である。また、12以下、より好ましくは10以下である。表面張力は、好ましくは10mN/m(dyn/cm)以上、より好ましくは15mN/m(dyn/cm)以上である。また、好ましくは60mN/m(dyn/cm)以下、より好ましくは50mN/m(dyn/cm)以下である。粘度は、好ましくは1cps以上である。また、好ましくは30cps以下、より好ましくは10cps以下である。
【0057】
第1実施形態では、前記液体組成物と前記着色インクとを、記録媒体上に、これらが接触状態を形成し、反応するように付与する。付与する順序は、液体組成物が先であっても、着色インクが先であってもよい。しかし、画像濃度及び定着性を更に向上させるという観点からは、着色インクを付与した後に、液体組成物を付与し、更にそれに続いて再度着色インクの付与を行うことが好ましい。液体組成物と着色インクとの接触状態が形成されるように、これらを記録媒体上に付与することで、形成される画像の良好な文字品位、定着性、耐水性及びブリーディング抑制効果の向上が達成される。これは、記録媒体上において、液体組成物と着色インクとが接触すると、液体組成物を構成する多価金属塩に起因する多価金属イオンと、インク中の顔料及び染料が混合されることによって、凝集、沈殿、或いは着色インクの増粘が生じるためと考えられる。
【0058】
この際に使用する記録媒体は、特に限定されるものではない。しかし、コピー用紙、ボンド紙等の、所謂、普通紙に画像を形成した場合に、本発明のブリーディング低減効果が顕著に現れる。よって、記録媒体としては普通紙を用いることが好ましい。
【0059】
液体組成物の付与を着色インクの付与に先立って行う場合に、液体組成物を記録媒体に付着せしめてから、着色インクを付着させるまでの時間については特に制限されるものではない。しかし、本発明を一層効果的なものにするためには、例えば、2秒以内、特に好ましくは、1秒以内とするとよい。このことは、液体組成物と着色インクとを逆の順序で記録媒体上に付与した場合についても同様である。
【0060】
前記の方法で液体組成物と着色インクとを記録媒体上に付与し、記録を行った場合を説明する。画像形成領域における着色インクと液体組成物の記録媒体への単位面積当たりの付与量は、着色インクの付与量を10質量部としたとき、液体組成物の付与量を1質量部以上、10質量部以下とすることが好ましい。ここで、画像形成領域における記録媒体上の単位面積当たりの着色インクと液体組成物の付与量の比の調整は、具体的には以下の方法が挙げられる。例えば、液体組成物と着色インクの記録媒体上への付与をインクジェット記録方法で行う場合に、記録媒体上に付着させる液体組成物の画素数が、記録媒体上に付着する着色インクの画素数の10〜100%となるように制御する。
【0061】
第1実施形態にかかる液体組成物を用いることにより、記録ヘッドの最表面保護層の溶解が抑制され、安定した吐出をすることが可能となる。本発明者らの検討では、このように安定した吐出が可能となる理由は、次のように考えられる。液体組成物に含有されている2−ピロリドン−5−カルボン酸、ピラゾールまたはピラゾール誘導体から選択される少なくとも1種類の物質により、多価金属塩のアニオンイオンの過熱による分解が抑制される。このため、ヒータ近傍のカチオンイオン(多価金属イオン)濃度の上昇及びアルカリ性が強くなることが抑制され、ヒータ上に設けられているタンタル等の金属及び/又は金属の酸化物からなる最表面保護膜の溶解が抑制される。よって、ヒーターの断線も抑制される。
【0062】
第1実施形態にかかる液体組成物を用いることを特徴とするインクジェット記録装置としては、以下のインクジェット記録装置がある。
【0063】
即ち、液体組成物を収容する液体組成物収容部、着色インクを収容する着色インク収容部、及び該液体組成物と着色インクをサーマルインクジェット記録方法で吐出するインクジェット記録装置である。前記インクジェット記録装置は、液体組成物収容部及び着色インク収容部から導かれた流路内の液体組成物及び着色インクに、熱エネルギーを付与するためのヒータを有する記録ヘッドを具備している。また、記録情報に応じて前記ヒータにパルス状の電気信号を印加する手段を具備している。更には、前記ヒータが、金属及び/又は金属酸化物を含有する最表面保護層を具備する。ここで、金属及び/又は金属酸化物が、特にタンタル及び/又はタンタルの酸化物である態様のインクジェット記録装置の場合に、本発明の顕著な効果が奏される点で好ましい。
【0064】
サーマルインクジェット記録方法でインクを吐出するインクジェット記録装置について、図を参照しながら説明する。このインクジェット記録装置の主要部であるヘッド構成の一例を、図1及び図2に示す。図1は、インク流路に沿った記録ヘッド13の断面図であり、図2は、図1のA−B線での切断断面図である。記録ヘッド13は、インクを通す流路(ノズル)14を有するガラス、セラミック、シリコン、ポリサルホン又はプラスチック板等と発熱素子基板15とを接着して得られる。発熱素子基板15は、酸化シリコン、窒化シリコン及び炭化シリコン等で形成される保護層16−1、白金等の金属又は白金の酸化物等の金属の酸化物、特に、タンタル又はタンタルの酸化物で形成される最表面保護層16−2を有する。さらに、アルミニウム、金及びアルミニウム−銅合金等で形成される電極17−1及び17−2、ハフニウムボライド、窒化タンタル及びタンタルアルミニウム等の高融点材料から形成される発熱抵抗体層18を有する。さらに、酸化シリコン、酸化アルミニウム等で形成される蓄熱層19、シリコン、アルミニウム及び窒化アルミニウム等の放熱性のよい材料で形成される基板20を有する。
【0065】
このインクジェット記録装置では、上記ヘッド13の電極17−1及び17−2にパルス状の電気信号が印加されると、発熱素子基板15のnで示される領域(ヒーター)が急速に発熱する。この時、表面に接しているインク21に気泡が発生し、その圧力でメニスカス23が突出し、インク21が記録ヘッド13のノズル14を通して吐出する。吐出されたインクは、吐出オリフィス22よりインク小滴24となり、記録媒体25に向かって飛翔する。図3には、図1に示したヘッドを多数並べたマルチヘッドの一例の外観図を示す。このマルチヘッドは、マルチノズル26を有するガラス板27と、図1に説明したものと同じような発熱ヘッド28を接着して作られている。
【0066】
次に、γ値について説明する。γ値とは、サーマルインクジェットヘッドが、インク或いは液体組成物を吐出できる最低限必要な臨界エネルギーに対する実際に投入するエネルギーの比を表わす因子である。即ち、サーマルインクジェットヘッドに印加するパルスの幅をPとし(複数のパルスを分割して与える時はその合計幅)、印加する電圧をV、ヒータの抵抗をRとする時、投入エネルギーEは、下記式(A)で表される。
E=P×V/R (A)
この時、サーマルインクジェットヘッドが、インク或いは液体組成物を吐出できる最低限必要なヒータへの臨界エネルギーをEthとし、実際に駆動を行う時の投入エネルギーをEopとすれば、γ値は、下記式(B)で与えられる。
γ=Eop/Eth (B)
【0067】
そして、サーマルインクジェットヘッドの駆動条件から、液体組成物を吐出させる場合に好適なγ値を求める方法としては、以下の(1)及び(2)の2つの方法が挙げられる。
【0068】
(1)パルス幅が固定している場合
先ず、与えられたパルス幅で、サーマルインクジェットヘッドが液体組成物を吐出する適当な電圧を見つけて駆動する。次に、徐々に電圧を下げてゆき、液体組成物の吐出が止まる電圧を見つけ、この電圧の直前の吐出可能な最小電圧をVthとする。実際に駆動で使用されている電圧をVopとすれば、γ値は、下記式(C)で求められる。
γ=(Vop/Vth) (C)
(2)電圧が固定している場合
先ず、与えられた電圧で、サーマルインクジェットヘッドが液体組成物を吐出する適当なパルス幅を見つけて駆動する。次に、徐々にパルス幅を短くしてゆき、液体組成物の吐出が止まるパルス幅を見つける。このパルス幅の直前の吐出可能な最小パルス幅をPthとする。実際に駆動で使用されているパルス幅をPopとすれば、γ値は、下記式(D)で求められる。
γ=Pop/Pth (D)
尚、ここでの電圧値は、サーマルインクジェットヒータを発熱させるためにヒータ部に実際にかかる電圧である。ヘッドの外部から投入した電圧は、接点や配線抵抗等で電圧降下することがあるので、γ値の厳密な意味での算出には用いることはできない。しかし、ヘッドの外部からVthとVopの測定を行う場合、これらの電圧変動分が両方の値に含めて測定されるので、電圧変動分が大きくない限り、これらの値を直接用いてγ値を計算しても誤差は少なく、よって、これによる値を便宜的にγ値として用いることができる。
【0069】
又、実際のプリンターで記録を行っている際には、複数のヒータが駆動されるために1つのヒータに対する電圧がこの影響を受けて変動する可能性があることに注意する必要がある。更に、前記式(A)と式(B)とから、同一のγ値においては、Vの2乗とPは反比例するように見えるが、実際には、Vの2乗とPは単純な関係にない。それは、パルス波形が矩形にならない等の電気的問題、パルス波形が異なるとヒータ周辺の熱拡散が異なる等の熱的問題、電圧が異なるとヒータからインクへの熱流束が異なり発泡状態が変化する等のサーマルインクジェット特有の問題等によるものである。従って、上記(1)及び(2)で述べた方法は、夫々独立して扱われなければならず、一方の値から計算で他方の値に変換することは誤差を生じる原因となることに注意しなければならない。本発明では、特に断らない限り、上記(2)の方法で求めた値をγ値とした。
【0070】
インクや液体組成物の安定的な吐出のためには、上記のようにして得られるγ値が1.1〜2程度となるような条件で、インクジェット記録装置を駆動するのが一般的である。
【0071】
図4に、先に説明した記録ヘッドを組み込んだインクジェット記録装置の一例を示す。図4において、61はワイピング部材としてのブレードであり、その一端はブレード保持部材によって保持固定されており、カンチレバーの形態をなす。かかるブレード61は、記録ヘッド65による記録領域に隣接した位置に配置され、又、図示した例の場合は、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。
【0072】
62は記録ヘッド65の突出口面のキャップであり、ブレード61に隣接するホームポジションに配置され、記録ヘッド65の移動方向と垂直な方向に移動して、インク吐出口面と当接し、キャッピングを行う構成を備える。更に、63はブレード61に隣接して設けられるインク吸収体であり、ブレード61と同様、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。上記ブレード61、キャップ62及びインク吸収体63によって吐出回復部64が構成され、ブレード61及びインク吸収体63によって吐出口面に水分、塵埃等の除去が行われる。
【0073】
65は、吐出エネルギー発生手段を有し、吐出口を配した吐出口面に対向する記録媒体にインクを吐出して記録を行う記録ヘッド、66は、記録ヘッド65を搭載して記録ヘッド65の移動を行うためのキャリッジである。キャリッジ66はガイド軸67と摺動可能に係合し、キャリッジ66の一部は、モーター68によって駆動されるベルト69と接続(不図示)している。これによりキャリッジ66はガイド軸67に沿った移動が可能となり、記録ヘッド65による記録領域及びその隣接した領域の移動が可能となる。
【0074】
51は、記録媒体を挿入するための紙給部、52は、不図示のモーターにより駆動される紙送りローラーである。これらの構成により記録ヘッドの65吐出口面と対向する位置へ記録媒体が給紙され、記録が進行につれて排紙ローラー53を配した排紙部へ排紙される。以上の構成において記録ヘッド65が記録終了してホームポジションへ戻る際、吐出回復部64のキャップ62は記録ヘッド65の移動経路から退避しているが、ブレード61は、移動経路中に突出している。その結果、記録ヘッド65の吐出口がワイピングされる。
【0075】
尚、キャップ62が記録ヘッド65の吐出面に当接してキャッピングを行う場合、キャップ62は記録ヘッドの移動経路中に突出するように移動する。記録ヘッド65がホームポジションから記録開始位置へ移動する場合、キャップ62及びブレード61は上記したワイピングの時の位置と同一の位置にある。この結果、この移動においても記録ヘッド65の吐出口面はワイピングされる。上述の記録ヘッドのホームポジションへの移動は、記録終了時や吐出回復時ばかりでなく、記録ヘッドが記録のために記録領域を移動する間に所定の間隔で記録領域に隣接したホームポジションへ移動する。この移動に伴って、上記ワイピングが行われる。
【0076】
図5は、記録ヘッドにインク供給部材、例えば、チューブを介して供給されるインクを収容したインクカートリッジ45の一例を示す図である。ここで40は供給用インクを収納した着色インク収容部、例えば、インク袋であり、その先端にはゴム製の栓42が設けられている。この栓42に針(不図示)を挿入することにより、インク袋40中のインクをヘッドに供給可能にする。44は廃インクを受容するインク吸収体である。着色インク収容部は、インクとの接液面がポリオレフィン、特にポリエチレンで形成されているものが好ましい。着色インク収容部は、カラーインクを収容する場合は、カラーインク収容部といい、ブラックインクを収容する場合は、ブラックインク収容部という。また、液体組成物を収容する場合は、液体組成物収容部という。
【0077】
第1実施形態にかかるインクジェット記録装置は、前記したように記録ヘッドとインクカートリッジとが別体となったものに限らず、図6に示すようなそれらが一体になったものでもよい。図6において、70は記録ユニットであり、この中には液体組成物を収容する液体組成物収容部、カラーインクを収容するカラーインク収容部、ブラックインクを収容するブラックインク収容部等が収納されている。例えば、収容部がインク収容部である場合、インク吸収体が収納されており、かかるインク吸収体中のインクが複数のオリフィスを有するヘッド部71からインク滴として吐出される構成になっている。インク吸収体の材料としてはポリウレタンを用いることが好ましい。又、インク吸収体を用いず、インク収容部が内部にバネ等を仕込んだインク袋であるような構造でもよい。72は、カートリッジ内部を大気に連通させるための大気連通口である。この記録ユニット70は、図4に示す記録ヘッド65に換えて用いられるものであって、キャリッジ66に対して着脱自在になっている。
【0078】
第1実施形態にかかるインクジェット記録方法によってカラー画像を形成する場合の例を、図7を用いて説明する。例えば、図3に示した記録ヘッドを5つキャリッジ96上に並べた記録装置を使用する。91、92、93、94は、それぞれイエロー、マゼンタ、シアン及びブラック各色のカラーインクを吐出するための記録ヘッドである。又、95は液体組成物を吐出するヘッドである。該ヘッドは前記した記録装置に配置され、記録信号に応じて、各色インクを吐出する。又、液体組成物は、例えば、各色インクの吐出に先立ち、少なくともインクが記録媒体に付着する画像形成部分に付着させておく。
【0079】
図7では記録ヘッドを5つ使用した例を示したが、これに限定されるものではなく、図8に示したように1つの記録ヘッドでイエロー101、マゼンタ102、シアン103及びブラック104、液体組成物105とを液流路を分けて行う場合も好ましい。勿論、各インクと液体組成物の記録順が、上記した順序と逆になるようなヘッドの配置をとってもよい。
【0080】
第1実施形態で好適に使用されるインクジェット記録ヘッドの配置の具体的な構成例としては、図9〜11に示したような3種が挙げられる。図9〜11において、111〜114、121〜124及び131〜134は、夫々、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)及びブラック(Bk)の各色のインクを吐出するための記録ヘッドである。又、115、125及び135は液体組成物(S)を吐出するための記録ヘッドである。各記録ヘッドは、図7で示したと同様にキャリッジ上に並べられる(構成例によって異なる)。各記録ヘッドは前記したような記録装置に配置され、記録信号に応じて、各色のインクを吐出する。又、液体組成物は、それに先立ち或いは後に、少なくとも各色のインクが記録媒体に付着する画像領域に付着させる。尚、各記録ヘッドは矢印(1)の方向にキャリッジによって移動し、記録媒体は矢印(2)方向に給紙ローラー等によって移動する。
【0081】
先ず、図9に示した第1の構成例では、S(115)、Bk(114)、C(113)、M(112)及びY(111)用の記録ヘッドが、並列にキャリッジ上に配置されている。図10に示した第2の構成例は、並列に配置された液体組成物及びブラックインク用の記録ヘッドと、これらの記録ヘッドとは並列で、且つ互いに直列に配置されたY(121)、M(122)及びC(123)用の記録ヘッドとからなる。ここで、各記録ヘッドの1ドットあたりの吐出体積は、必ずしも同一である必要はなく、液体組成物の組成等により、最適な記録が行われるように、各記録ヘッドの1ドットあたりの吐出体積(Vd)を調整してもよい。好適には、S、Y、M、CのVdを同一にしてBkをその2倍とする構成がよいが、これに限定されない。更に、図11に示した第3の構成例では、吐出体積が同一のBk(134)、S(135)、Bk(134)、C(133)、M(132)及びY(131)用の記録ヘッドが並列にキャリッジ上に配置されており、ブラックインクの吐出量を、他の液体組成物及びカラーインクの吐出量の倍量とすることができる。尚、図11に示した構成例においても、S、Bk、Y、M及びCの吐出体積(Vd)は、必ずしも同一でなくてもよい。
【0082】
[第2実施形態]
次に、本発明の具体的な実施形態の一つを「第2実施形態」とし、以下に説明する。
【0083】
第2実施形態とは、2−ピロリドン−5−カルボン酸、ピラゾールまたはピラゾール誘導体から選択される少なくとも1種類の物質と、液媒体と、色材とを含有することを特徴とするサーマルインクジェット記録用カラーインクと、該カラーインクとの接触によって該カラーインクと反応するブラックインクとを用い、該カラーインクと該ブラックインクを、記録媒体上に、これらが接触状態を形成するように付与する実施形態である。かかる実施形態において、前記液体組成物及び前記着色インクの付与は、サーマルインクジェット記録方法によって行う。
【0084】
カラーインクが含有するピラゾール誘導体としては、2−ピラゾリン、5−ピラゾロン、アンチピリン、ピラゾールカルボン酸から選択される少なくとも1種が好ましい。カラーインクは、2−ピロリドン−5−カルボン酸、ピラゾールまたはピラゾール誘導体から選択される少なくとも1種類の物質を含有する。カラーインクが含有する2−ピロリドン−5−カルボン酸、ピラゾールまたはピラゾール誘導体から選択される少なくとも1種類の物質の総含有量は、カラーインク全量に対して1質量%以上であることが好ましく、1.75質量%以上であることがより好ましい。また、カラーインク全量に対して20質量%以下であることが好ましく、7質量%以下であることがより好ましい。この条件を満たすことで、より優れたヘッドの長寿命化を図ることができ、カラーインクを良好に吐出することが可能となる。
【0085】
第2実施形態では、ブラックインクとカラーインクとの間のブリーディング防止を目的としている。しかし、カラーインクに、普通紙に対して速い浸透性を持たせるような処理を施せば、異なる色のカラーインク間におけるブリーディング防止に効果的である。具体的には、カラーインクに界面活性剤を添加することが挙げられる。
【0086】
第2実施形態で用いるカラーインクについて説明する。
【0087】
カラーインクに用いる色材としては、顔料及び染料が挙げられる。
次に、第2実施形態にかかるインクセットを構成するカラーインクに含有される色材について説明する。色材としては、直接染料、酸性染料、塩基性染料、分散染料及び顔料が挙げられるが、多価金属塩と調合された時にも、反応せずに可溶性が維持される色材であることが好ましい。このような色材としては、下記に列挙したもの等が使用できる。
【0088】
例えば、C.I.アシッドイエロー23;C.I.アシッドレッド52、289;C.I.アシッドブルー9;C.I.リアクティブレッド180;C.I.ダイレクトブルー189、199;C.I.ベーシックイエロー1、2、11、13、14、19、21、25、32、33、36、51;C.I.ベーシックオレンジ2、15、21、22;C.I.ベーシックレッド1、2、9、12、13、37、38、39、92;C.I.ベーシックバイオレット1、3、7、10、14;C.I.ベーシックブルー1、3、5、7、9、19、24、25、26、28、29、45、54、65;C.I.ベーシックグリーン1、4;C.I.ベーシックブラウン1、12;C.I.ベーシックブラック2、8等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの水溶性染料は、1種類だけを用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。又、これらの水溶性染料の濃度は、インク全量に対して0.1質量%以上が好ましく、20質量%以下が好ましい。
【0089】
顔料としては、例えば非イオン分散体やアミノ分散体を用いた分散顔料およびアミノ自己分散顔料が挙げられる。
【0090】
尚、カラーインクが2−ピロリドン−5−カルボン酸、ピラゾールまたはピラゾール誘導体から選択される少なくとも1種類の物質を含有していても、インクのpHが大きく変化することはないため、pH変化による前記色材の凝集、析出は起きにくい。
【0091】
カラーインク中には、上記で述べた成分の他に、少なくとも1種の界面活性剤を含有させることが好ましい。界面活性剤を含有させることによって、カラーインクに所望の浸透性及び粘度を付与することが可能となる。界面活性剤としては、具体的には、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤等、従来公知の界面活性剤が挙げられる。中でも、ノニオン性界面活性剤を用いるのが好ましい。これらの界面活性剤のカラーインク中の添加量については、インク全量に対して0.01質量%以上用いることが好ましく、0.1質量%以上用いることがより好ましい。また、10質量%以下であることが好ましい。この条件を満たすことで、所望の浸透性が得られる適当なインク粘度を得やすい。
【0092】
次に、第2実施形態で用いるブラックインクについて説明する。
【0093】
ブラックインクは、色材と液媒体を含み、前記カラーインクとの接触によって該カラーインクと反応するものであることを特徴とする。具体的には、カラーインク中の多価金属塩に起因する多価金属イオンと反応する色材を使用することが好ましい。ここで言う「反応」は、第1実施形態で記載した内容と同義である。
【0094】
ブラックインクに使用される色材としては、第1実施形態の着色インクに使用し得るブラックの色材が挙げられる。これらの色材は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。又、これらの色材の添加量は、インク全量に対して0.1質量%以上であることが好ましい。また、20質量%以下であることが好ましい。
【0095】
ブラックインク中には、ノニオン性界面活性剤を添加させることが好ましい。この際に使用されるノニオン性界面活性剤としては、例えば、高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪族エチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、脂肪族アミドエチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、多価アルコールの脂肪酸エステル、アルカノールアミンの脂肪酸アミド類のノニオン性界面活性剤等が挙げられる。これらのものはいずれも好ましく使用されるが、より好ましくは、高級アルコールのエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールのエチレンオキサイド付加物、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物等のノニオン性界面活性剤を用いる。更に、上記エチレンオキサイド付加物の付加モル数が4〜20の範囲のものが特に好ましいブラックインク中に含有させるノニオン性界面活性剤の含有量は、インク全量の0.1質量%以上とすることが好ましく、0.2質量%以上とすることがより好ましい。また、0.5質量%以下とすることが好ましく、0.4質量%以下とすることがより好ましい。この条件を満たすことで、ブラックインクとカラーインク間のブリーディング抑制の向上が図りやすく、ブラックインクとカラーインクとの境界部におけるブラックインクの濃度の低下、所謂、「白もや」の発生を効果的に抑制しやすい。また、インク吐出性や印字品位を良好に保ちやすい。
【0096】
ブラックインク及びカラーインクに用いられる液媒体及びそれらの添加量、物性値等としては、上記第1実施形態で記載した値と同じである。
【0097】
第2実施形態では、前記カラーインクと前記ブラックインクとを、記録媒体上に、これらが接触状態を形成し、反応するように付与する。
【0098】
この際に使用する記録媒体は、特に限定されるものではない。しかし、コピー用紙、ボンド紙等の、所謂、普通紙に画像を形成した場合に、本発明のブリーディング低減効果が顕著に現れる。よって、記録媒体としては普通紙を用いることが好ましい。
【0099】
他の態様として、ブラックインクとカラーインクを記録媒体上で重なるように付与し、且つ、カラーインクの記録媒体への付与をブラックインクに先立って行う方法(以下、下打ち方法と呼ぶ)が挙げられる。下打ち方法を行うことで、ブラックインクとカラーインク間のブリーディングの更なる向上が図られ、白もやの軽減が図られる。下打ち方法において、カラーインクを記録媒体に付着せしめてから、ブラックインクを付着させるまでの時間は、数秒以内、特に好ましくは1秒以内とすることが好ましい。又、ブラックインクを付与した後、カラーインクを付与する形態(上打ち方法)を用いてもよい。
【0100】
又、下打ち方法において、画像形成領域におけるブラックインクとカラーインクの記録媒体への単位面積当たりの付与量は、ブラックインクの付与量を10質量部としたとき、カラーインクの付与量を1質量部以上、10質量部以下とすることが好ましい。このようにすれば、得られる画像の白もやが軽減されて、特にベタ画像において均一性が改善される。尚、画像形成領域における記録媒体上の単位面積当たりのブラックインクとカラーインクの付与量の比の調整は、具体的には以下の方法が挙げられる。例えば、ブラックインクとカラーインクの付与をインクジェット記録方法で行う場合に、記録媒体上に付着させるカラーインクの画素数が、記録媒体上に付着するブラックインクの画素数の10〜100%となるように制御する方法が挙げられる。
【0101】
本願発明の第2実施形態にかかるカラーインクを用いることにより、記録ヘッドの最表面保護層の溶解が抑制され、安定した吐出をすることが可能となる。本発明者らの検討では、このように安定した吐出が可能となる理由は、次のように考えられる。カラーインクに含有されている2−ピロリドン−5−カルボン酸、ピラゾールまたはピラゾール誘導体から選択される少なくとも1種類の物質により、多価金属塩のアニオンイオンの過熱による分解が抑制される。このため、ヒータ近傍のカチオンイオン(多価金属イオン)濃度の上昇及びアルカリ性が強くなることが抑制され、ヒータ上に設けられているタンタル等の金属及び/又は金属の酸化物からなる最表面保護膜の溶解が抑制される。よって、ヒーターの断線も抑制される。
【0102】
第2実施形態にかかるカラーインク及びブラックインクを用いることを特徴とするインクジェット記録装置としては、例えば、図3に示した記録ヘッドを4つキャリッジ上に並べた記録装置を用いることができる。図12はその一例である。これらの記録ヘッドには、図5で示すようなカラーインク収容部、ブラックインク収容部からインクが供給される。141、142、143、144は、夫々、イエローインク(Y)、マゼンタインク(M)及びシアンインク(C)及びブラックインク(Bk)を吐出するための記録ヘッドである。該ヘッドは前記した記録装置に配置され、例えば、キャリッジを矢印方向に移動させながら、各色のインクを吐出する記録信号に応じて、各色のインクを吐出する。
【0103】
図12では4個の記録ヘッドを使用した例を示した。勿論、これに限定されるものではなく、図13に示したように、1つの記録ヘッドで、ブラックインク154、シアンインク153、マゼンタインク152及びイエローインク151の液流路を分けて行う場合も好ましい。第2実施形態で好適に使用されるインクジェット記録ヘッドの、具体的な配置の構成例としては、図14及び図15に示したような2種が挙げられる。図14及び図15において、161〜164及び171〜174は、夫々イエロー、マゼンタ、シアン及びブラックの各種のインクを吐出するための記録ヘッドである。各記録ヘッドは、図12で示したと同様にキャリッジ上に並べられる(構成例によって異なる)。各記録ヘッドは、前記で説明したようなインクジェット記録装置に配置され、記録信号に応じて、各種のインクを吐出する。尚、各記録ヘッドは矢印(1)方向にキャリッジによって移動し、記録媒体は矢印(2)方向に給紙ローラー等によって移動する。
【0104】
先ず、図14に示した構成例では、Bk(164)、C(163)、M(162)及びY(161)用の記録ヘッドが並列にキャリッジ上に配置されている。図15に示した第2の構成例では、ブラックインク(174)用の記録ヘッドと、この記録ヘッドとは並列で、且つ、互いに直列に配置されたC(173)、M(172)、Y(171)用の記録ヘッドとからなる。尚、図14において、キャリッジを固定し、記録媒体を矢印(2)方向に給紙ローラー等によって移動させるようにした、所謂ラインプリンタに適用してもよい。
【実施例】
【0105】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例により限定されるものではない。尚、文中「部」及び「%」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
【0106】
各々の液体組成物及び着色インクの調製方法は、下記の通りである。
【0107】
<液体組成物の調製方法>
まず、下記の成分を混合し、多価金属塩を溶解した。その後、ポアサイズが0.2μmのミクロフィルター(富士フイルム製)を用いて加圧濾過した。このようにして、液体組成物1〜13を調整した。尚、液体組成物1〜10は実施例に、液体組成物11〜13は比較例に相当する。
<液体組成物1>
・硝酸マグネシウム 2.5部
・トリメチロールプロパン 5部
・ピラゾール 7部
・水 85.5部
<液体組成物2>
・硝酸マグネシウム 2.5部
・トリメチロールプロパン 5部
・ピラゾール 1.75部
・水 90.75部
<液体組成物3>
・硝酸マグネシウム 2.5部
・トリメチロールプロパン 5部
・2−ピロリドン−5−カルボン酸 7部
・水 85.5部
<液体組成物4>
・硝酸マグネシウム 2.5部
・トリメチロールプロパン 5部
・2−ピロリドン−5−カルボン酸 1.75部
・水 90.75部
<液体組成物5>
・硝酸カルシウム 2.8部
・トリメチロールプロパン 5部
・ピラゾール 7部
・水 85.2部
<液体組成物6>
・硝酸カルシウム 2.8部
・トリメチロールプロパン 5部
・2−ピロリドン−5−カルボン酸 7部
・水 85.2部
<液体組成物7>
・酢酸カルシウム 2.7部
・1,2,6ーヘキサントリオール 5部
・ピラゾール 7部
・水 85.3部
<液体組成物8>
・酢酸カルシウム 2.7部
・1,2,6ーヘキサントリオール 5部
・2−ピロリドン−5−カルボン酸 7部
・水 85.3部
<液体組成物9>
・酢酸マグネシウム 2.4部
・1,2,6ーヘキサントリオール 5部
・ピラゾール 7部
・水 85.6部
<液体組成物10>
・酢酸マグネシウム 2.4部
・1,2,6ーヘキサントリオール 5部
・2−ピロリドン−5−カルボン酸 7部
・水 85.6部
<液体組成物11>
・硝酸マグネシウム 2.5部
・トリメチロールプロパン 5部
・水 92.5部
<液体組成物12>
・硝酸カルシウム 2.8部
・トリメチロールプロパン 5部
・水 92.2部
<液体組成物13>
・酢酸カルシウム 2.7部
・1,2,6ーヘキサントリオール 5部
・水 92.3部
【0108】
<顔料インクの調製方法>
顔料インクについては、下記の方法で調製した。
【0109】
<ブラックインク1>
(顔料分散液1の調製)
市販の酸性カーボンブラック「MA77」(pH3、三菱化学製)300gを水1000mlによく混合した後、これに次亜塩素酸ソーダ(有効塩素濃度12%)450gを滴下して、100〜105℃で10時間攪拌し、スラリーを得た。得られたスラリーを東洋ろ紙No.2(アドバンティス製)でろ過し、顔料粒子を十分に水洗し、顔料ウェットケーキを得た。この顔料ウェットケーキを水3,000mlに再分散し、電導度0.2μsまで逆浸透膜で脱塩し、顔料分散液(pH=8〜10)を得た。更に、この顔料分散液を顔料濃度10質量%に濃縮した。以上の方法によりカーボンブラックの表面に−COONa基を導入し、かかる自己分散型のカーボンブラックを有する顔料分散液1を得た。
【0110】
(インクの調製)
前記顔料分散液1を含有する下記の成分を混合して、更に、ポアサイズが3μmのミクロフィルター(富士フイルム製)を用いて加圧濾過し、ブラックインク1を調製した。
・前記顔料分散液1 40部
・グリセリン 8部
・トリメチロールプロパン 5部
・イソプロピルアルコール 4部
・水 43部
【0111】
<ブラックインク2>
(顔料分散液2の調製)
・スチレン−アクリル酸−アクリル酸ブチル共重合体(酸価116、平均分子量3,700) 5部
・トリエタノールアミン 0.5部
・ジエチレングリコール 5部
・水 69.5部
前記成分を混合し、ウォーターバスで70℃に加温し、樹脂成分を溶解させる。この溶液にカーボンブラック「MA−100」(pH3.5、三菱化学製)15部、2−プロパノール5部を加え、30分間プレミキシングを行った後、下記の条件で分散処理を行った。
・分散機:サンドグラインダー(五十嵐機械製)
・粉砕メディア:ジルコニウムビーズ1mm径
・粉砕メディアの充填率:50%(体積)
・粉砕時間:3時間
更に、遠心分離処理(12,000rpm、20分間)を行って粗大粒子を除去して、カーボンブラックを含有する顔料分散液2とした。
【0112】
(インクの調製)
前記顔料分散液2を含有する下記の成分を混合して、更にポアサイズが3μmのミクロフィルター(富士フイルム製)を用いて加圧ろ過し、ブラックインク2を調製した。
・前記顔料分散液2 20部
・トリメチロールプロパン 5部
・ジエチレングリコール 10部
・2−ピロリドン 5部
・アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物(アセチレノールEH、川研ファインケミカル製) 0.2部
・水 59.8部
【0113】
<イエローインク1>
(顔料分散液3の調製)
・スチレン−アクリル酸共重合体(酸価200、平均分子量7,000)
5.5部
・モノエタノールアミン 1.0部
・イオン交換水 67.5部
・ジエチレングリコール 5.0部
前記成分を混合し、ウォーターバスで70℃に加温し、樹脂分を溶解させた。この溶液に、C.I.Pigment Yellow 93を20部、イソプロピルアルコールを1.0部加え、30分間プレミキシングを行った後、下記の条件で分散処理を行なった。
・分散機:サンドグラインダー
・粉砕メディア:ガラスビーズ 1mm径
・粉砕メディアの充填率:50%(体積)
・粉砕時間:3時間
更に遠心分離処理(12,000rpm、20分間)を行い、粗大粒子を除去して顔料分散液3とした。
【0114】
前記顔料分散液3を含有する下記の成分を混合して、更にポアサイズが3μmのミクロフィルター(富士フイルム製)を用いて加圧濾過し、イエローインク1を調製した。
・前記顔料分散液3 20部
・グリセリン 15部
・ジエチレングリコール 10部
・アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物(アセチレノールEH、川研ファインケミカル製) 0.3部
・水 54.7部
【0115】
<マゼンタインク1>
(顔料分散液4の調製)
・スチレン−アクリル酸共重合体(酸価200、平均分子量7,000)
5.5部
・モノエタノールアミン 1.0部
・イオン交換水 67.5部
・ジエチレングリコール 5.0部
上記成分を混合し、ウォーターバスで70℃に加温し、樹脂分を溶解させた。この溶液にC.I.Pigment Red 122を20部、イソプロピルアルコールを1.0部加え、30分間プレミキシングを行った後、下記の条件で分散処理を行なった。
・分散機:サンドグラインダー
・粉砕メディア:ガラスビーズ 1mm径
・粉砕メディアの充填率:50%(体積)
・粉砕時間:3時間
更に遠心分離処理(12,000rpm、20分間)を行い、粗大粒子を除去して顔料分散液4とした。
【0116】
(インクの調製)
前記顔料分散液4を含有する下記の成分を混合して、更にポアサイズが3μmのミクロフィルター(富士フイルム製)を用いて加圧濾過し、マゼンタインク1を調製した。
・前記顔料分散液4 20部
・グリセリン 15部
・ジエチレングリコール 10部
・アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物(アセチレノールEH、川研ファインケミカル製) 0.3部
・水 54.7部
【0117】
<シアンインク1>
(顔料分散液5の調製)
・スチレン−アクリル酸共重合体(酸価200、平均分子量7,000)
5.5部
・モノエタノールアミン 1.0部
・イオン交換水 67.5部
・ジエチレングリコール 5.0部
上記成分を混合し、ウォーターバスで70℃に加温し、樹脂分を溶解させた。更に、この溶液にC.I.Pigment Blue 15:3を20部、イソプロピルアルコールを1.0部加え、30分間プレミキシングを行った後、下記の条件で分散処理を行なった。
・分散機:サンドグラインダー
・粉砕メディア:ガラスビーズ 1mm径
・粉砕メディアの充填率:50%(体積)
・粉砕時間:3時間
更に、遠心分離処理(12,000rpm、20分間)を行い、粗大粒子を除去して、顔料分散液5とした。
【0118】
(インクの調製)
前記顔料分散液5を含有する下記の成分を混合して、更にポアサイズが3μmのミクロフィルター(富士フイルム製)を用いて加圧濾過し、シアンインク1を調製した。
・前記顔料分散液5 20部
・グリセリン 15部
・ジエチレングリコール 10部
・アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物(アセチレノールEH、川研ファインケミカル製) 0.3部
・水 54.7部
【0119】
<染料インクの調製方法>
染料インクについては、下記の方法で調製した。
【0120】
<ブラックインク3>
前記例示化合物1を色材として含有する下記の成分を混合して、更にポアサイズが0.2μmのミクロフィルター(富士フイルム製)を用いて加圧濾過し、ブラックインク3を調製した。
・前記例示化合物1(式中のMはNH4+) 2部
・ジエチレングリコール 10部
・2−ピロリドン 5部
・2−プロパノール 5部
・水酸化ナトリウム 0.1部
・水 77.9部
【0121】
<イエローインク2>
前記例示化合物2を色材として含有する下記の成分を用い、これらを溶解した後、ポアサイズが0.2μmのミクロフィルター(富士フイルム製)を用いて加圧濾過し、イエローインク2を調製した。
・前記例示化合物2(式中のMはNH4+) 3部
・グリセリン 7部
・ジエチレングリコール 5部
・尿素 5部
・エタノール 2部
・水 78部
【0122】
<マゼンタインク2>
前記例示化合物3を色材として含有する下記の成分を用い、これらを溶解した後、ポアサイズが0.2μmのミクロフィルター(富士フイルム製)を用いて加圧濾過し、マゼンタインク2を調製した。
・前記例示化合物3(式中のMはNH4+) 3部
・グリセリン 7部
・ジエチレングリコール 5部
・尿素 5部
・エタノール 2部
・水 78部
【0123】
<シアンインク2>
前記例示化合物4を色材として含有する下記の成分を用い、これらを溶解した後、ポアサイズが0.2μmのミクロフィルター(富士フイルム製)を用いて加圧濾過し、シアンインク2を調製した。
・前記例示化合物4(式中のMはNH4+) 3部
・グリセリン 7部
・ジエチレングリコール 5部
・尿素 5部
・エタノール 2部
・水 78部
また、2−ピロリドン−5−カルボン酸、ピラゾールまたはピラゾール誘導体から選択される少なくとも1種類の物質を含有したカラーインクを、以下のように調整した。
【0124】
<イエローインク3>
・C.I.ベーシックイエロー11 4部
・硝酸カルシウム 2.5部
・トリメチロールプロパン 5部
・2−ピロリドン−5−カルボン酸 5部
・アセチレノール 1部
・エタノール 2部
・1,5−ペンタンジオール 7部
・エチレン尿素 2部
・水 71.5部
<マゼンタインク3>
・C.I.リアクティブレッド180 4部
・酢酸カルシウム 2.5部
・トリメチロールプロパン 5部
・ピラゾール 5部
・アセチレノール 1部
・エタノール 2部
・1,5−ペンタンジオール 7部
・エチレン尿素 2部
・水 71.5部
<シアンインク3>
・C.I.アシッドブルー9 4部
・硝酸マグネシウム 2.5部
・トリメチロールプロパン 5部
・2−ピロリドン−5−カルボン酸 5部
・アセチレノール 1部
・エタノール 2部
・1,5−ペンタンジオール 7部
・エチレン尿素 2部
・水 71.5部
また、これとは別に、2−ピロリドン−5−カルボン酸、ピラゾールまたはピラゾール誘導体から選択される物質を含有していないカラーインクを、以下のように調整した。
【0125】
<イエローインク4>
・C.I.ベーシックイエロー11 4部
・硝酸カルシウム 2.5部
・トリメチロールプロパン 5部
・アセチレノール 1部
・エタノール 2部
・1,5−ペンタンジオール 7部
・エチレン尿素 2部
・水 76.5部
<マゼンタインク4>
・C.I.リアクティブレッド180 4部
・酢酸カルシウム 2.5部
・トリメチロールプロパン 5部
・アセチレノール 1部
・エタノール 2部
・1,5−ペンタンジオール 7部
・エチレン尿素 2部
・水 76.5部
<シアンインク4>
・C.I.アシッドブルー9 4部
・硝酸マグネシウム 2.5部
・トリメチロールプロパン 5部
・アセチレノール 1部
・エタノール 2部
・1,5−ペンタンジオール 7部
・エチレン尿素 2部
・水 76.5部
【0126】
(評価及び評価基準)
<評価試験>
評価試験について以下に示す。
【0127】
[評価1]
前記液体組成物1〜13及びイエローインク3、4、マゼンタインク3、4、シアインインク3、4を用いて、耐久性の評価を行った。評価には、記録信号に応じた熱エネルギーをインクに付与することにより液体組成物を吐出させるオンデマンド型マルチ記録ヘッドを有するインクカートリッジ(BC−02、キヤノン製)を有するインクジェット記録装置を用いた。前記記録ヘッドのヒータ上の最表面保護層は、タンタル及びタンタルの酸化物より成る。前記装置を用い、液体組成物を駆動周波数6,250Hz、駆動電圧24.6Vで、Pthを実測し、γ値=1.2に相当するPop(駆動パルス)をかけて吐出した。インクを記録ヘッドから各吐出口から2×E発吐出し、この時のヒータの最表面保護層の減少量を評価した。結果を、以下表1に示す。
【0128】
【表1】

【0129】
表1からも明らかなように、本発明の実施例で示す液体組成物及びカラーインクは、比較例で示す液体組成物と比較して、ヒータの最表面保護層の減少量が十分に抑えられている。このため、ヘッドの長寿命化を達成でき、安定した吐出をすることが可能である。
【0130】
[評価2]
前記の各カラーインクと各液体組成物1〜10を表2に示すように組合わせてインクセットを作成し、記録紙に記録を行った。また、ブラックインク2、イエローインク3、マゼンタインク3、シアンインク3を組み合わせてインクセットを作成し、記録紙に記録を行った。
【0131】
使用したインクジェット記録装置としては、図4に示したと同様の構成の記録装置(BJC700J、キヤノン製)である。かかる記録装置を用い、図7に示した5つの記録ヘッドを用いて画像を形成した。この際、液体組成物を先打ちして先ず記録紙上に付着させ、その後着色インクを付着させる構成とした。また、記録紙上への液体組成物を付与する位置が、記録紙上へ着色インクが付与される位置と正確に重なるように調整した。記録紙は、PB用紙(キヤノン製)とXEROX 4024紙(ゼロックス製)の2種類を使用した。
【0132】
(1)画像の印字品質(フェザリング)
各インクセットを用い、英数文字(12ポイント)を印字した。印字後、1時間放置し、目視で文字のシャープさや、文字の縁辺に発生するヒゲ状の滲みの発生度合いを評価した。この結果、いずれの組み合わせにおいても、得られた文字はシャープで、ヒゲ状の滲み(フェザリング)の発生はほとんど無かった。
【0133】
(2)ブリーディング
各インクセットを用い、先ず液体組成物でベタ部を印字した。その直後、液体組成物のベタ部上にブラックインクでベタ部を印字した。さらにその直後に、液体組成物のベタ部上に、ブラックインクのベタ部と隣接するように、イエロー、又はマゼンタ、又はシアンインクでベタ部を印字した。以上のようにして得られた、ブラックインクとカラーインクのベタ部の境界を目視にて観察して、各着色インクとの間のブリーディングを評価した。この結果、いずれの組み合わせにおいても、ブリーディングの発生はほとんど無かった。
【0134】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】本発明のインクジェット記録装置の記録ヘッドの一例を示す縦断面図である。
【図2】本発明のインクジェット記録装置の記録ヘッドの一例を示す横断面図である。
【図3】本発明の図1に示した記録ヘッドをマルチ化したヘッドの外観斜視図である。
【図4】本発明のインクジェット記録装置の一例を示す概略斜視図である。
【図5】インクカートリッジの一例を示す内部構成斜視図である。
【図6】記録ユニットの一例を示す斜視図である。
【図7】複数の記録ヘッドが配列した記録部を示した斜視図である。
【図8】本発明に使用する別の記録ヘッドの斜視図である。
【図9】記録ヘッドの第1の構成図を示す図である。
【図10】記録ヘッドの第2の構成図を示す図である。
【図11】記録ヘッドの第3の構成図を示す図である。
【図12】複数の記録ヘッドが配列した記録部を示した斜視図である。
【図13】本発明に使用する別の記録ヘッドの斜視図である。
【図14】記録ヘッドの第4の構成例を示す図である。
【図15】記録ヘッドの第5の構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0136】
13 記録ヘッド
14 インク溝(ノズル)
15 発熱素子基板
16−1 保護層
16−2 最表面保護層
17−1、17−2 電極
18 発熱抵抗体層
19 蓄熱層
20 基板
21 インク
22 吐出オリフィス
23 メニスカス
24 インク小滴
25 記録媒体
26 マルチ溝(マルチノズル)
27 ガラス板
28 発熱ヘッド
40 着色インク収容部(カラーインク収容部、ブラックインク収容部)、或は液体組成物収容部
42 栓
44 インク吸収体
45 インクカートリッジ
51 給紙部
52 紙送りローラー
53 排紙ローラー
61 ブレード
62 キャップ
63 インク吸収体
64 吐出回復部
65 記録ヘッド
66 キャリッジ
67 ガイド軸
68 モーター
69 駆動ベルト
70 記録ユニット
71 ヘッド部
72 大気連通口
80 インク流路
81 オリフィスプレート
82 振動板
83 圧電素子
84 基体
85 吐出口
91 イエローインク記録ヘッド
92 マゼンタインク記録ヘッド
93 シアンインク記録ヘッド
94 ブラックインク記録ヘッド
95 液体組成物記録ヘッド
96 キャリッジ
101 イエローインク流路
102 マゼンタインク流路
103 シアンインク流路
104 ブラックインク流路
105 液体組成物流路
111 イエローインク記録ヘッド
112 マゼンタインク記録ヘッド
113 シアンインク記録ヘッド
114 ブラックインク記録ヘッド
115 液体組成物記録ヘッド
121 イエローインク記録ヘッド
122 マゼンタインク記録ヘッド
123 シアンインク記録ヘッド
124 ブラックインク記録ヘッド
125 液体組成物記録ヘッド
131 イエローインク記録ヘッド
132 マゼンタインク記録ヘッド
133 シアンインク記録ヘッド
134 ブラックインク記録ヘッド
135 液体組成物記録ヘッド
141 イエローインク記録ヘッド
142 マゼンタインク記録ヘッド
143 シアンインク記録ヘッド
144 ブラックインク記録ヘッド
145 キャリッジ
151 イエローインク流路
152 マゼンタインク流路
153 シアンインク流路
154 ブラックインク流路
161 イエローインク記録ヘッド
162 マゼンタインク記録ヘッド
163 シアンインク記録ヘッド
164 ブラックインク記録ヘッド
171 イエローインク記録ヘッド
172 マゼンタインク記録ヘッド
173 シアンインク記録ヘッド
174 ブラックインク記録ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、多価金属塩と、液媒体とを含有するサーマルインクジェット記録用液体組成物であって、2−ピロリドン−5−カルボン酸、ピラゾールまたはピラゾール誘導体から選択される少なくとも1種類の物質を含有することを特徴とするサーマルインクジェット記録用液体組成物。
【請求項2】
前記ピラゾール誘導体が2−ピラゾリン、5−ピラゾロン、アンチピリン、ピラゾールカルボン酸から選択される少なくとも1種である請求項1に記載のサーマルインクジェット記録用液体組成物。
【請求項3】
前記多価金属塩が、硝酸の多価金属塩または酢酸の多価金属塩から選択される少なくとも1種である請求項1または2に記載のサーマルインクジェット記録用液体組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の液体組成物と、該液体組成物との接触によって該液体組成物と反応する着色インクとを組み合わせてなることを特徴とするサーマルインクジェット記録用インクセット。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の液体組成物を収容する液体組成物収容部と、該液体組成物との接触によって該液体組成物と反応する着色インクを収容する着色インク収容部とを具備することを特徴とするサーマルインクジェット記録用インクカートリッジ。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の液体組成物を収容する液体組成物収容部と、該液体組成物をサーマルインクジェット記録方法で吐出するための記録ヘッドとを具備することを特徴とするサーマルインクジェット記録装置。
【請求項7】
さらに、前記液体組成物との接触によって該液体組成物と反応する着色インクを収容する着色インク収容部と、該着色インクをサーマルインクジェット記録方法で吐出するための記録ヘッドとを具備することを特徴とする請求項6に記載のサーマルインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記記録ヘッドが、金属及び/又は金属酸化物を含有する最表面保護層を備えたヒータを具備する請求項6または7に記載のサーマルインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記金属及び/又は金属酸化物が、タンタル及び/又はタンタルの酸化物である請求項8に記載のサーマルインクジェット記録装置。
【請求項10】
水と、多価金属塩と、液媒体と、色材とを含有するサーマルインクジェット記録用カラーインクであって、2−ピロリドン−5−カルボン酸、ピラゾールまたはピラゾール誘導体から選択される少なくとも1種類の物質を含有することを特徴とするサーマルインクジェット記録用カラーインク。
【請求項11】
前記サーマルインクジェット記録用カラーインクが、イエローインク、マゼンタインク及びシアンインクから選択される少なくとも1種である請求項10に記載のサーマルインクジェット記録用カラーインク。
【請求項12】
前記ピラゾール誘導体が2−ピラゾリン、5−ピラゾロン、アンチピリン、ピラゾールカルボン酸から選択される少なくとも1種である請求項10または11に記載のサーマルインクジェット記録用カラーインク。
【請求項13】
前記多価金属塩が、硝酸の多価金属塩または酢酸の多価金属塩から選択される少なくとも1種である請求項10〜12のいずれか1項に記載のサーマルインクジェット記録用カラーインク。
【請求項14】
請求項10〜13のいずれか1項に記載のサーマルインクジェット記録用カラーインクと、該カラーインクとの接触によって該カラーインクと反応するブラックインクとを組み合わせてなることを特徴とするサーマルインクジェット記録用インクセット。
【請求項15】
請求項10〜13のいずれか1項に記載のサーマルインクジェット記録用カラーインクを収容するカラーインク収容部と、該カラーインクとの接触によって該カラーインクと反応するブラックインクを収容するブラックインク収容部とを具備することを特徴とするサーマルインクジェット記録用インクカートリッジ。
【請求項16】
請求項10〜13のいずれか1項に記載のサーマルインクジェット記録用カラーインクを収容するカラーインク収容部と、該カラーインクをサーマルインクジェット記録方法で吐出するための記録ヘッドとを具備することを特徴とするサーマルインクジェット記録装置。
【請求項17】
さらに、前記カラーインクとの接触によって該カラーインクと反応するブラックインクを収容するブラックインク収容部と、該ブラックインクをサーマルインクジェット記録方法で吐出するための記録ヘッドとを具備することを特徴とする請求項16に記載のサーマルインクジェット記録装置。
【請求項18】
前記記録ヘッドが、金属及び/又は金属酸化物を含有する最表面保護層を備えたヒータを具備する請求項16または17に記載のサーマルインクジェット記録装置。
【請求項19】
前記金属及び/又は金属酸化物が、タンタル及び/又はタンタルの酸化物である請求項18に記載のサーマルインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−52162(P2010−52162A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−216783(P2008−216783)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】