説明

サーマルプリンターおよびその印刷不良補填方法

【課題】印刷不能な発熱体素子が含まれているラインサーマルヘッドにより発生する印刷不良を実用上支障の無い程度まで補填可能なサーマルプリンターの印刷不良補填方法を提案すること。
【解決手段】サーマルプリンター1では、ラインサーマルヘッド11における発熱体素子Hのそれぞれが正常素子Ha、不良素子Hbのいずれであるのかを検出しておく。不良素子H4と両側の正常素子H3、H4を同時に駆動する印刷動作において、正常素子H3、H5による印刷ドットd2を、通常印刷時の印刷ドットd1よりも大きなドット径となるように、正常素子H3、H5を、通常の第1駆動信号SS1よりも実効印加電圧の大きな第2駆動信号SS2により駆動する。不良素子H4による印刷ドットの欠損を両側の正常素子H3、H5の印刷ドットd2によって実用上支障の無い状態に補填でき、ヘッド交換まで印刷ができないという弊害を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラインサーマルヘッドに不良な発熱体素子が含まれている場合に発生する白筋などの印刷不良を実用上支障の無い印刷状態となるように補填可能なサーマルプリンターおよび、その印刷不良補填方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ライン式のサーマルプリンターでは、ラインサーマルヘッドの発熱体素子が配列されている発熱部に対して感熱紙などの記録紙をプラテンローラーによって押し付けながら搬送し、記録紙の搬送動作に同期させて印刷ドット形成位置に対応する発熱体素子を駆動(通電)して、所定の径の印刷ドットを記録紙上に形成している。発熱体素子が断線などで駆動不能状態になると、記録紙上に形成された印刷画像に白筋が現れるなどの印刷不良が発生する。特に、記録紙の搬送方向に延びるバーが当該搬送方向に直交する方向に沿って所定のパターンで配列された構成の一次元バーコード(以下、フェンスバーコードと呼ぶ場合もある。)を印刷する場合には、このような不良発熱体素子による白筋、バーの欠損などの印刷不良が、バーコードリーダーによる読取不能、読取誤りの原因となるので好ましくない。
【0003】
特許文献1に開示のプリンター制御装置では、発熱体の正常、異常を判定し、異常と判定された発熱体によって印刷を行わなければならない場合には、印刷ヘッドを用紙の幅方向に移動させて正常な発熱体によって異常発熱体による印刷位置に印刷を行う重ね印刷制御を行うようにしている。特許文献2に開示のドットプリンターにおいても、シリアルヘッドの一回の走査による印刷を複数回の走査によって補完しながら印刷することにより、不良ドットが発生しても常に正常な印刷出力を得るようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05−169706号公報
【特許文献2】特開平11−179943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、ライン式のサーマルプリンターの場合には、上記特許文献1、2に開示されているようなシリアルヘッドを走査させて不良発熱体素子の印刷欠損を補填する方法を採用することは一般的に困難である。このため、発熱体素子が印刷不能になった場合には、ラインサーマルヘッドが交換されるまでは印刷を行うことができない。特に、フェンスバーコード印刷の場合には、印刷不能な発熱体素子が含まれているラインサーマルヘッドを用いて印刷を行うと、印刷されたバーコードの読取不能、読取誤りが発生する可能性がある。したがって、ユーザーはラインサーマルヘッドが交換されるまで印刷を行うことができず、極めて不便である。
【0006】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、ラインサーマルヘッドが交換されるまでの間等において、印刷不能な発熱体素子が含まれているラインサーマルヘッドにより発生する印刷不良を実用上支障の無い程度まで補填可能なサーマルプリンターの印刷不良補填方法を提案することにある。また、本発明の課題は、当該印刷不良補填方法を用いて印刷不良を補填するサーマルプリンターを提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明のサーマルプリンターの印刷不良補填方法は、
ラインサーマルヘッドにおける発熱体素子のそれぞれについて、記録媒体上に正常な印刷ドットを形成可能な正常素子および正常な印刷ドットを形成できない不良素子のいずれであるのかを検出する検出ステップと、
隣接する少なくとも2個の前記発熱体素子を同時に駆動する印刷動作を行う印刷ステップとを有し、
当該印刷ステップにおいて、一方の前記発熱体素子が前記正常素子であり、他方の前記発熱体素子が前記不良素子である場合には、前記正常素子による印刷ドット径を、通常印刷時の印刷ドット径よりも大きくなるように、当該正常素子を駆動することを特徴としている。
【0008】
本発明の方法では、正常素子による印刷ドット径を通常印刷時よりも大きくすることにより、隣接の不良素子による印刷ドットの欠損を補填している。よって、記録媒体上に形成された印刷画像において、不良素子による印刷ドットの欠損量を少なくできる。例えば、不良素子による印刷ドットの欠損によって印刷画像上に発生する白筋部分が、正常素子による印刷ドットの広がりによって補填されて、完全なベタ黒ではないが所定の印刷濃度で印刷された状態が形成される。換言すると、正常な印刷状態に近い印刷濃度のコントラスト状態が得られ、印刷不良部分を実用上支障の無い印刷状態にすることができる。
【0009】
前記印刷ステップにおいて、隣接する3個の前記発熱体素子を同時に駆動する印刷動作を行うときには、両側に位置する前記発熱体素子が前記正常素子であり、これらの間に位置する前記発熱体素子が前記不良素子である場合には、当該不良素子の両側の前記正常素子のそれぞれによる印刷ドット径を通常印刷時の印刷ドット径よりも大きくなるように、これらの正常素子を駆動することが望ましい。このように、両側から印刷ドットの欠損部分を補填することにより、印刷不良部分を正常な印刷状態により近い状態に修正することができる。
【0010】
前記印刷ステップにおいて、前記印刷ドット径を前記通常印刷時よりも大きくするためには、前記正常素子の駆動を、前記通常印刷時よりも大きな実効印加電圧を用いて行うようにすればよい。このためには、前記正常素子に印加する駆動信号の電圧値およびデューティ比の少なくとも一方を上げるようにすればよい。
【0011】
前記印刷ステップにおいて、より大きな径の印刷ドットを形成するためには、実効印加電圧を上げると共に、前記印刷動作における前記記録媒体の搬送速度を前記通常印刷時よりも遅くすればよい。
【0012】
ここで、本発明の方法はフェンスバーコードの印刷不良補填に用いるのに適している。すなわち、前記印刷ステップにおいて、前記記録媒体の搬送方向に延びるバーが当該搬送方向に直交する方向に沿って所定のパターンで配列された構成の一次元バーコードを印刷する場合に適している。本発明の方法によって印刷不良を補填すれば、得られたバーコードを、バーコードリーダーによって読取不能、読取誤りが実際上発生しない程度の印刷状態にできる。よって、新たなラインサーマルヘッドに交換されるまで、不良発熱体素子を含むラインサーマルヘッドによる印刷を継続することが可能になる。
【0013】
次に、本発明のサーマルプリンターは、
ラインサーマルヘッドと、
前記ラインサーマルヘッドの発熱体素子を駆動するための駆動信号として、実効印加電圧の異なる少なくとも2種類の第1駆動信号および第2駆動信号を発生する駆動信号発生部と、
印刷データに基づき、前記発熱体素子のそれぞれに対して選択的に前記駆動信号を供給して、前記発熱体素子のそれぞれを駆動するヘッド駆動部と、
前記発熱体素子のそれぞれについて、記録媒体上に正常な印刷ドットを形成可能な正常素子および正常な印刷ドットを形成できない不良素子のいずれであるのかを検出する不良検出部と、
前記ヘッド駆動部から前記発熱体素子のそれぞれに供給される前記駆動信号を、前記第1駆動信号および前記第2駆動信号のいずれか一方に設定する駆動信号切替制御部とを有し、
当該駆動信号切替制御部は、隣接する少なくとも2個の前記発熱体素子を同時に駆動する印刷動作において、一方の前記発熱体素子が前記正常素子であり、他方の前記発熱体素子が前記不良素子である場合には、当該正常素子に供給される前記駆動信号を、前記第1駆動信号に比べて実効印加電圧の大きな前記第2駆動信号に切り替えることを特徴としている。
【0014】
ここで、前記駆動信号切替制御部は、隣接する3個の前記発熱体素子を同時に駆動する印刷動作において、両側に位置する前記発熱体素子が前記正常素子であり、これらの間に位置する前記発熱体素子が前記不良素子である場合には、当該不良素子の両側の前記正常素子に供給される前記駆動信号を前記第2駆動信号に切り替えることが望ましい。
【0015】
前記第2駆動信号の実効印加電圧を上げるためには、前記第1駆動信号に対して、電圧値およびデューティ比の少なくとも一方を高くすればよい。
【0016】
また、正常素子によって形成される印刷ドット径を更に大きくするために、本発明のサーマルプリンターは、印刷対象の記録媒体を前記ラインサーマルヘッドの印刷位置を経由して搬送する搬送機構と、前記第2駆動信号が前記正常素子に供給される場合に、前記搬送機構による前記記録媒体の搬送速度を、通常印刷時の第1搬送速度よりも遅い第2搬送速度に切り替える搬送速度切替制御部とを有していることが望ましい。
【0017】
さらに、正常素子による印刷ドット径を拡大することによって印刷不良を補填する場合には、印刷ドット密度(解像度)が高い方がよく、そのためには、ラインサーマルヘッドとして、2列の発熱体素子列を備え、これら2列の発熱体素子列の間において前記発熱体素子のそれぞれが千鳥状に配置されているものを用いることが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、正常素子による印刷ドット径を通常印刷時よりも大きくすることにより、隣接の不良素子による印刷ドットの欠損を補填している。よって、記録媒体上に形成された印刷画像において、不良素子による印刷ドットの欠損量を少なくできる。例えば、不良素子による印刷ドットの欠損によって印刷画像上に発生する白筋部分が、正常素子による印刷ドットの広がりによって補填されて、完全なベタ黒ではないが所定の印刷濃度で印刷された状態が形成される。換言すると、正常な印刷状態に近い印刷濃度のコントラスト状態が得られ、印刷不良部分を実用上支障の無い印刷状態にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明を適用したサーマルプリンターの概略ブロック図である。
【図2】ラインサーマルヘッドの駆動信号を示す信号波形図である。
【図3】ラインサーマルヘッドの発熱体素子の配列状態を示す説明図である。
【図4】サーマルプリンターの駆動信号切替制御部を示す概略ブロック部である。
【図5】サーマルプリンターによる印刷不良補填状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照して本発明を適用したライン型のサーマルプリンターの実施の形態を説明する。
【0021】
図1は本実施の形態に係るライン型のサーマルプリンターの制御系を中心に示す概略ブロック図である。サーマルプリンター1は、CPU2、ROM3、RAM4などから構成されるプリンター制御装置5を備えており、プリンター制御装置5には、入力装置6および表示装置7が接続されている。また、プリンター制御装置5は、通信インターフェース8を介して、上位のコンピューター9に接続されており、コンピューター9からは印刷データを含む印刷指令などが供給される。
【0022】
プリンター制御装置5には、ヘッドドライバー10を介してラインサーマルヘッド11が接続されており、モータードライバー12を介して搬送モーター13が接続されている。ラインサーマルヘッド11の発熱面11aに沿って複数個の発熱体素子H(H1、H2、H3・・・)がそのライン方向に配列されている。搬送モーター13には、ラインサーマルヘッド11に対して記録用紙14を介して押圧されるプラテンローラー15が接続されており、当該プラテンローラー15の回転によって記録用紙14が搬送される。
【0023】
プリンター制御装置5は、駆動信号発生部16および駆動信号切替制御部17を備えている。駆動信号発生部16は、ラインサーマルヘッド11の発熱体素子Hのそれぞれを駆動するための駆動信号SSを発生する。本例では、発熱体素子Hに対する実効印加電圧の異なる2種類の第1駆動信号SS1および第2駆動信号SS2を発生する。駆動信号切替制御部17は、ヘッドドライバー10から発熱体素子Hのそれぞれに供給される駆動信号SSを、第1駆動信号SS1および第2駆動信号SS2のいずれか一方に設定する。CPU2は、上位のコンピューター9から供給される印刷データに基づき1ライン毎のライン印刷データを展開生成し、当該ライン印刷データに基づき、発熱体素子Hのそれぞれを駆動するための駆動信号SSをヘッドドライバー10に供給する。供給される駆動信号SSは駆動信号切替制御部17によって設定された第1駆動信号SS1あるいは第2駆動信号SS2である。
【0024】
ここで、プリンター制御装置5には、各発熱体素子Hが正常な印刷ドットを記録用紙14上に形成可能な正常素子Haであるのか、正常な印刷ドットを形成不能な不良素子Hbであるのかを検出する不良ドット検出回路18が接続されている。不良ドット検出回路18は、プリンター制御装置5の制御の下に、ヘッドドライバー10を介して各発熱体素子Hに通電を行い、通電に伴う抵抗変化などに基づき正常素子、不良素子の検出を行う。検出結果は、不良ドット位置記憶部19に記憶保持される。不良ドット検出回路18による検出動作は、予め定めた時点、例えば、電源投入後の初期設定動作が行われる時点、予め定めた時間が経過した後の印刷待機時などにおいて行われる。このような不良ドット検出回路18としては、例えば特許文献1に開示の不良検出装置を用いることができるが、他の構成の検出回路であってもよい。
【0025】
図2は第1駆動信号SS1および第2駆動信号SS2の例を示す信号波形図であり、その周期tが1ドット印刷区間である。第1駆動信号SS1は通常印刷時(不良素子Hbによる印刷位置に印刷が不要である場合)に用いられる駆動信号であり、第2駆動信号SS2は後述のように不良素子Hbによる印刷ドットの欠損を補填する補填印刷時に用いられる駆動信号である。図示の波形では、第1、第2駆動信号SS1、SS2がハイレベルの時に発熱体素子Hに通電される。双方の信号の電圧値は同一であるが、デューティ比が第2駆動信号SS2の方が大きく、したがって、発熱体素子Hに対する実効印加電圧が大きい。換言すると、第2駆動信号SS2を用いた場合の方が発熱体素子Hの発熱量が多く、記録用紙14に形成される印刷ドットのドット径が第1駆動信号SS1を用いる場合に比べて大きくなる。本例では、デューティ比のみを変えているが、デューティ比を同一とし、第2駆動信号SS2の電圧値を第1駆動信号SS1よりも大きくしてもよい。また、第2駆動信号SS2のデューティ比および電圧値の双方を駆動信号SS1よりも大きくすることも可能である。
【0026】
図3(a)はラインサーマルヘッド11の発熱面に配列されている発熱体素子Hの配列状態を示す説明図である。ラインサーマルヘッド11には2列の発熱体素子列21、22が備わっている。発熱体素子列21には、複数個の発熱体素子H(H1、H3、H5・・・)が一定のピッチ2pで直線状に配列されており、発熱体素子列22にも複数個の発熱体素子H(H2、H4、H6・・・)が一定のピッチ2pで直線状に配列されている。また、発熱体素子列21と発熱体素子列22は一定の間隔を開けた状態で平行に延びており、それらの発熱体素子H1、H2、H3・・・は相互に千鳥状に配列された位置関係となっている。
【0027】
したがって、ラインサーマルヘッド11のライン方向A(発熱体素子列の方向)に沿って見た場合に、発熱体素子H1、H2、H3・・・の配列ピッチは、各列の配列ピッチ2pの半分のピッチpとなっている。印刷動作においては、双方の発熱体素子列21、22によって一ライン分の印刷データの印刷が行われる。すなわち、ピッチpの印刷ドット密度で印刷が行われる。なお、図3(b)に示すように、一列の発熱体素子が配列されている構成のラインサーマルヘッド11Aを用いることも可能である。
【0028】
次に、図4はプリンター制御装置5における駆動信号切替制御部17の部分を示す概略ブロック図である。駆動信号切替制御部17は、発熱体素子Hに対応するビット数のヘッド駆動電圧切替レジスター23、および、同じく発熱体素子Hに対応するビット数の駆動電圧切替スイッチ24を備えている。CPU2の制御の下に生成された印刷データに基づき、ヘッド駆動電圧切替レジスター23の各ビットV1、V2、V3・・・には、各発熱体素子H1、H2、H3・・・に供給される駆動信号SSを通常の第1駆動信号SS1および印刷不良補填用の第2駆動信号SS2のいずれにするのかを表す1ライン分の切替情報が設定される。切替情報は、1ライン分ずつ順次に駆動電圧切替スイッチ24の対応ビットS1、S2、S3・・・に供給されて、各発熱体素子H1、H2、H3・・・に供給される駆動信号が設定される。駆動電圧切替スイッチ24には駆動信号発生部16から第1駆動信号SS1および第2駆動信号SS2が供給されており、各ビットに設定されている駆動信号SSがヘッドドライバー10の各ビットD1、D2、D3・・・に出力される。
【0029】
一方、CPU2の制御の下にRAM4内のプリントバッファー(図示せず)に展開された1ライン印刷データが、データラッチレジスター25の各ビットR1、R2、R3・・・にラッチされ、このライン印刷データがヘッドドライバー10の各ビットD1、D2、D3・・・に出力される。ヘッドドライバー10は、これらの供給信号に基づき、印刷位置に対応する発熱体素子Hに対して駆動信号SS(第1駆動信号SS1あるいは第2駆動信号SS2)を出力して、当該発熱体素子Hを発熱させて、記録用紙14上に印刷ドットを形成させる。通常の駆動信号SS1によって駆動される発熱体素子Hによる印刷ドットのドット径に比べて、実効印加電圧が大きい第2駆動信号SS2によって駆動される発熱体素子Hによる印刷ドットのドット径は大きくなる。
【0030】
ここで、駆動信号切替制御部17は、隣接する2個の発熱体素子Hを同時に駆動する印刷動作において、一方の発熱体素子Hが正常素子であり、他方の発熱体素子Hが不良素子である場合には、当該正常素子に供給される駆動信号SSを、第1駆動信号SS1に比べて実効印加電圧の大きな第2駆動信号SS2に切り替えるようにしている。本例では、1個の不良素子を挟み両側に正常素子が存在する場合には、双方の正常素子に供給される駆動信号SSを第2駆動信号SS2に切り替えるようにしている。かかる切替設定機能は、例えば、CPU2により制御プログラムを実行することにより実現される機能である。
【0031】
(印刷不良補填動作例)
次に、図5を参照して、不良素子が発生した場合におけるサーマルプリンター1によるバーコード印刷時の印刷不良補填動作の一例を説明する。
【0032】
まず、不良ドット検出回路18によってラインサーマルヘッド11の発熱体素子H1、H2、H3・・・のそれぞれについて正常素子Haであるか、不良素子Hbであるのかの検出が行われ、この情報が不良ドット位置記憶部19に記憶保持されている。上位のコンピューター9から印刷指令およびバーコード印刷データを受信すると、プリンター制御装置5は、受信した印刷データに基づきバーコード印刷画像データを生成し、これを一ライン毎のライン印刷データに展開して順次にデータラッチレジスター25に供給する。
【0033】
先に述べたように、駆動信号切替制御部17は、各ライン印刷データに基づき、隣接する2個の発熱体素子Hを同時に駆動する印刷動作において、一方の発熱体素子Hが正常素子であり、他方の発熱体素子Hが不良素子である場合には、当該正常素子に供給される駆動信号SSを、第1駆動信号SS1に比べて実効印加電圧の大きな第2駆動信号SS2に切り替えるようにしている。
【0034】
例えば、図5(a)に示すように、ラインサーマルヘッド11における第4番目の発熱体素子H4および第n番目の発熱体素子Hnが不良素子であり、それ以外の発熱体素子Hが正常素子であり、不良素子である発熱体素子H4と両側の発熱体素子H3、H5とを同時に駆動して印刷を行う必要があるとする。同様に、不良素子である発熱体素子Hnと両側の発熱体素子Hn−1、Hn+1とを同時に駆動して印刷を行う必要があるとする。
【0035】
この場合、通常の第1駆動信号SS1を各発熱体素子Hに供給して印刷動作を行った場合には、図5(a)に示すように、不良素子H4、Hnの位置には印刷ドットが形成されず、他の正常素子は通常のドット径の印刷ドットd1を記録用紙14上に形成する。この結果、記録用紙14上に印刷されたバーコード30には、不良素子H4、Hnによる印刷ドット欠損による白筋31(4)、31(n)が発生してしまう。
【0036】
本例のサーマルプリンター1では、この場合の印刷動作において、駆動電圧切替制御部17によって、不良素子H4の両側の正常素子H3、H5の駆動信号SSが、通常の第1駆動信号SS1に比べて実効印加電圧の大きな第2駆動信号SS2に切り替え設定される。同様に、不良素子Hnの両側の正常素子Hn−1、Hn+1の駆動信号SSが第2駆動信号SS2に切り替え設定される。これら以外の正常素子の駆動信号は第1駆動信号SS1のままとされる。
【0037】
この結果、図5(b)に示すように、正常素子H3、H5によって、通常の印刷時の印刷ドットd1よりもドット径の大きな印刷ドットd2が記録用紙上に形成される。これらのドット径の大きな印刷ドットd2によって、不良素子H4によって生ずる印刷ドットのドット欠損部分が両側から補填されて、正常素子による印刷位置に比べて印刷濃度は全体としては低いものの、白筋となってドット欠損部分がそのまま残ってしまう状態を回避できる。他の不良素子Hnのドット欠損部分についても同様に、両側のドット径の大きな印刷ドットd2によってドット欠損が補填される。このようにして、不良素子による印刷不良が補填された状態のバーコード30Aが得られる
【0038】
ここで、ダイレクトサーマルプリンターと呼ばれる感熱方式の場合には、各発熱体素子が感熱紙に対して加える熱量に応じて発色状態が変化し、熱量が増えるとそれに応じて発色が濃くなると共に発色範囲(ドット径)も広がる。感熱紙に加える熱量は発熱体素子の発熱量に依存し、発熱体素子の発熱量は当該発熱体素子に対する実効印加電圧に依存する。また、インクリボンに塗布されたインクを普通紙に転写する転写方式のサーマルプリンターの場合においては、熱溶性顔料インクを熱で溶融させて転写する熱溶融型と、昇華型染料インクを昇華させて転写する昇華型とがある。この場合においては、インク濃度を変えることはできないが、感熱方式の場合と同様に、加える熱量に応じてドット径を変更することができ、発熱体素子に加える実効有効電圧を増加させることによりトッド径を大きくできる。
【0039】
したがって、両側の印刷ドットd2のドット径の広がり状態を適切に設定しておくことにより、換言すると、第2駆動信号SS2の実効印加電圧を適切に設定しておくことにより、不良素子によるドット欠損に起因して、バーコード30Aの読取不能あるいは読取誤りが発生する事態を回避できる。特に、本例では、図3に示すように発熱体素子Hの配列密度を高めているので、不良素子によるドット欠損により生ずる白筋幅が狭く、したがって、両側の正常素子によりドット欠損を容易に補填できる。
【0040】
なお、発熱体素子Hに対する実効印加電圧を増加させるための方法として、上記のようにデューティ比あるいは電圧値の高い第2駆動信号SS2を用いているが、これと共に、記録用紙14の搬送速度を通常印刷時よりも遅くして、印刷ドットのドット径を更に大きくすることが可能である。この場合には、プリンター制御装置5に、搬送モーター13による記録用紙14の搬送速度を、通常印刷時の第1搬送速度よりも遅い第2搬送速度に切り替える搬送速度切替制御部を付加しておけばよい。
【0041】
また、上記の実施の形態はバーコード印刷を例に挙げて説明したが、それ以外の文字、図形などの印刷の場合においても不良発熱体素子に起因する印刷不良を補填することが可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 サーマルプリンター、2 CPU、3 ROM、4 RAM、5 プリンター制御装置、6 入力装置、7 表示装置、8 通信インターフェース、9 コンピューター、10 ヘッドドライバー、11,11A ラインサーマルヘッド、12 モータードライバー、13 搬送モーター、14 記録用紙、15 プラテンローラー、16 駆動信号発生部、17 駆動信号切替制御部、18 不良ドット検出回路、19 不良ドット位置記憶部、21 発熱体素子列、22 発熱体素子列、23 ヘッド駆動電圧切替レジスター、24 駆動電圧切替スイッチ、25 データラッチレジスター、30 バーコード、30A 印刷不良補填後のバーコード、31(4),31(n) 白筋、H,H1,H2,H3,H4,H5,Hn−1,Hn,Hn+1 発熱体素子、Ha 正常素子、Hb 不良素子、SS 駆動信号、SS1 第1駆動信号、SS2 第2駆動信号、d1 通常のドット径の印刷ドット、d2 大きなドット径の印刷ドット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラインサーマルヘッドにおける発熱体素子のそれぞれについて、記録媒体上に正常な印刷ドットを形成可能な正常素子および正常な印刷ドットを形成できない不良素子のいずれであるのかを検出する検出ステップと、
隣接する少なくとも2個の前記発熱体素子を同時に駆動する印刷動作を行う印刷ステップとを有し、
当該印刷ステップにおいて、一方の前記発熱体素子が前記正常素子であり、他方の前記発熱体素子が前記不良素子である場合には、当該正常素子による印刷ドットのドット径を、通常印刷時の印刷ドットよりも大きいドット径となるように、当該正常素子を駆動することを特徴とするサーマルプリンターの印刷不良補填方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記印刷ステップは、隣接する3個の前記発熱体素子を同時に駆動する印刷動作を行うステップであり、
当該印刷ステップにおいて、両側に位置する前記発熱体素子が前記正常素子であり、これらの間に位置する前記発熱体素子が前記不良素子である場合には、当該不良素子の両側の前記正常素子のそれぞれによる印刷ドットのドット径を通常印刷時の印刷ドットよりも大きなドット径となるように、これらの正常素子を駆動することを特徴とするサーマルプリンターの印刷不良補填方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記印刷ステップでは、前記印刷ドット径を前記通常印刷時よりも大きくするために、前記正常素子の駆動を、前記通常印刷時よりも大きな実効印加電圧を用いて行うことを特徴とするサーマルプリンターの印刷不良補填方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記印刷ステップでは、前記正常素子に印加する駆動信号の電圧値およびデューティ比の少なくとも一方を上げることにより前記実効印加電圧を大きくすることを特徴とするサーマルプリンターの印刷不良補填方法。
【請求項5】
請求項4において、
前記印刷ステップでは、前記印刷動作における前記記録媒体の搬送速度を前記通常印刷時よりも遅くすることを特徴とするサーマルプリンターの印刷不良補填方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のうちのいずれかの項において、
前記印刷ステップでは、前記記録媒体の搬送方向に延びるバーが当該搬送方向に直交する方向に沿って所定のパターンで配列された構成の一次元バーコードを印刷する印刷動作を行うことを特徴とするサーマルプリンターの印刷不良補填方法。
【請求項7】
ラインサーマルヘッドと、
前記ラインサーマルヘッドの発熱体素子を駆動するための駆動信号として、実効印加電圧の異なる少なくとも2種類の第1駆動信号および第2駆動信号を発生する駆動信号発生部と、
印刷データに基づき、前記発熱体素子のそれぞれに対して選択的に前記駆動信号を供給して、前記発熱体素子のそれぞれを駆動するヘッド駆動部と、
前記発熱体素子のそれぞれについて、記録媒体上に正常な印刷ドットを形成可能な正常素子および正常な印刷ドットを形成できない不良素子のいずれであるのかを検出する不良検出部と、
前記ヘッド駆動部から前記発熱体素子のそれぞれに供給される前記駆動信号を、前記第1駆動信号および前記第2駆動信号のいずれか一方に設定する駆動信号切替制御部とを有し、
当該駆動信号切替制御部は、隣接する少なくとも2個の前記発熱体素子を同時に駆動する印刷動作において、一方の前記発熱体素子が前記正常素子であり、他方の前記発熱体素子が前記不良素子である場合には、当該正常素子に供給される前記駆動信号を、前記第1駆動信号に比べて実効印加電圧の大きな第2駆動信号に切り替えることを特徴とするサーマルプリンター。
【請求項8】
請求項7において、
前記駆動信号切替制御部は、隣接する3個の前記発熱体素子を同時に駆動する印刷動作において、両側に位置する前記発熱体素子が前記正常素子であり、これらの間に位置する前記発熱体素子が前記不良素子である場合には、当該不良素子の両側の前記正常素子に供給される前記駆動信号を前記第2駆動信号に切り替えることを特徴とするサーマルプリンター。
【請求項9】
請求項7または8において、
前記第2駆動信号は、前記第1駆動信号に対して、電圧値およびデューティ比の少なくとも一方が高いことを特徴とするサーマルプリンター。
【請求項10】
請求項9において、
印刷対象の記録媒体を前記ラインサーマルヘッドの印刷位置を経由して搬送する搬送機構と、
前記第2駆動信号が前記正常素子に供給される場合に、前記搬送機構による前記記録媒体の搬送速度を、通常印刷時の第1搬送速度よりも遅い第2搬送速度に切り替える搬送速度切替制御部とを有していることを特徴とするサーマルプリンター。
【請求項11】
請求項7ないし10のうちのいずれかの項において、
前記ラインサーマルヘッドは2列の発熱体素子列を備え、これら2列の発熱体素子列の間においては前記発熱体素子のそれぞれが千鳥状に配置されていることを特徴とするサーマルプリンター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−218713(P2011−218713A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92036(P2010−92036)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】