説明

サーメット粉末、表層にサーメットを有するロール、および、表層にサーメットを有するロールの製造方法

【課題】ハイテン鋼を多量に熱処理する場合であっても、優れた耐ビルドアップ性および耐酸化性を呈するサーメット粉末、表層にサーメットを有するロール、および、表層にサーメットを有するロールの製造方法を提案する。
【解決手段】サーメット粉末全量に対して、Cr23C6:20〜30mass%およびY2O3:10〜20mass%を両者合計で40mass%以下含有するとともに、Crを10〜12mass%、Alを2〜4mass%、Yを1mass%以下含有し、さらにIrを3〜5mass%含有し、残部はCoおよび/またはNiからなるサーメット粉末を用いて、ロールの表面に、皮膜厚:70〜120 μm の溶射層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーメット粉末、表層にサーメットを有するロール、および、表層にサーメットを有するロールの製造方法に関し、特に、鋼板の連続焼鈍炉等の熱処理炉において、被処理材の炉内搬送に使用される炉内ロールに使用して好適な、耐ビルドアップ性および耐酸化性に優れた表層にサーメットを有するロールの製造に使用するサーメット粉末、表層にサーメットを有するロール、および、そのロールの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼帯などの金属帯の連続焼鈍ラインには焼鈍すなわち広義には熱処理のための炉(熱処理炉)があるが、熱処理炉の内部では、走行する金属帯を炉内で支持するために多くの耐熱ロール(炉内ロール)が使用されている。しかしながら、長期間の連続使用により、これらの炉内ロールの表面には、金属帯表面に濃化したMnやSi等の酸化物等が凝着して、いわゆるビルドアップが形成される。
【0003】
図1に、炉内ロール1の表面に形成されたビルドアップ2を示すが、このビルドアップ2は、金属帯3の通過部に沿って円周方向に並列に形成される。
【0004】
かかるビルドアップが発生すると、金属帯には表面疵等の品質不良が発生し、甚だしい場合には操業を中止して通板材でロール表面の清浄化を図ったり、またさらに甚だしい場合には炉を開放して、ロール表面の研削手入れあるいはロール交換を行う必要が生じる。
【0005】
そこで、従来から、上記したようなビルドアップの発生を防止するために、ロール表面に溶射による保護皮膜を形成する技術が種々提案されている。
【0006】
たとえば、特許文献1には、5〜20mass%Cr2O3-Al2O3 と95〜80mass%CoNiCrAlYからなるサーメット溶射材料をロール表面に溶射する技術が提案されている。
【0007】
特許文献2には、51〜95 vol%Al2O3 とMCrAlY(Mは、Fe,NiまたはCo)からなるサーメット溶射材料をロール表面に溶射する技術が提案されている。
【0008】
特許文献3には、30〜80mass%ZrSiO4とMCrAlY(Mは、Fe,NiまたはCo)からなるサーメット溶射皮膜の表面に、酸化クロムを被覆する技術が提案されている。
【0009】
特許文献4には、 Al2O3−MgOを最上層とする Al2O3−MgOと結合金属との多層被膜を形成する技術が提案されている。
【0010】
特許文献5には、5〜50 vol%ホウ化物とMCrAlY(Mは、Fe,NiまたはCo)のメカニカルアロイ複合粉末をロール表面に溶射する技術が提案されている。
【0011】
特許文献6には、CrB2,ZrB2,WB、TiB2等のホウ化物の少なくとも1種を1〜60体積%(実質は25体積%以上)含むと共に、 Cr3C2,TaC,WC,ZrC,TiC,NbC等の炭化物の少なくとも1種を5〜50体積%(実質的に15体積%以上)含み、残部が実質的にメタル(MCrAlY)からなるサーメット皮膜が提案されている。
【0012】
特許文献7には、サーメット粉末全量に対して、MCrAlY中のAlを3〜8mass%、Crを16〜25mass%、Yを 0.1〜1mass%含有し、残部はCoおよび/またはNiからなり、かつセラミック粉末として、サーメット粉末全量に対して、ホウ化物を1〜5mass%および/または炭化物を5〜10mass%含有させた溶射被覆用サーメット粉末が提案されている。なお、上記中、MCrAlYとは、通常、Fe,Ni,Coの少なくともいずれか1種を基として、Cr,Al,Yを適量添加した耐熱合金を指す。
【0013】
特許文献8には、セラミック粉末および耐熱合金粉末の混合粉からなるサーメット粉末であって、該セラミック粉末として、サーメット粉末全量に対して、Cr23C6 を10〜20mass%およびY2O3 を10〜20mass%、かつ両者の合計:30mass%以下を含有し、一方該耐熱合金粉末は、サーメット粉末全量に対して、Alを4〜6mass%、Crを12〜16mass%およびYを1mass%以下含有し、残部はCoおよび/またはNiからなるサーメット粉末が提案されている。
【特許文献1】特開平02−270955号公報
【特許文献2】特開昭63−199857号公報
【特許文献3】特開昭63−047379号公報
【特許文献4】特開昭60−056058号公報
【特許文献5】特開平03−226552号公報
【特許文献6】特開平07−011420号公報
【特許文献7】特再平01−034866号公報(WO01−034866)
【特許文献8】特開2005−206833号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記した特許文献1〜6に開示の技術では、一般的な普通鋼の熱処理に際しては、ビルドアップ軽減効果が少なからず認められ、また、高強度鋼材(いわゆるハイテン鋼:冷延鋼板では通常 340 MPa以上、熱延鋼板では通常 440 MPa以上の引張強度を有するものを指す)の処理量が少なければ問題となることはなかった。
【0015】
しかしながら、近年のハイテン鋼の増加に伴い、これらの技術ではビルドアップに対して有効であるとは言えなくなってきた。
【0016】
この点、特許文献7に開示の技術は、特許文献1〜6の技術を踏まえて、ハイテン鋼を多量に熱処理する場合にも対応できるように開発されたもので、この技術により、確かに耐ビルドアップ性は改善されたものの、使用に伴いロール表面の酸化に起因した肌あれや微小剥離(チッピング)が発生することが判明した。そして、ロール寿命が、従来の一般的な普通鋼のみ処理する場合に比べ、短いことも判明した。特に、含有しているホウ化物系セラミックが、長期間の使用に伴い、酸化していく傾向にあることが認められた。
【0017】
特許文献8の技術は、特許文献7の技術に対し、耐酸化性向上を図ったものである。
【0018】
しかしながら、最近、ハイテン鋼に対する需要は、より高強度のものにシフトしつつある。440 MPaのものの一部に対し、560MPaのものが代替的に要求されたり、あるいは、それを上回る強度の780MPa、980MPaといったものが要求されるようになってきている。ハイテン鋼全体としての総需要も増加の一途を辿っている。
【0019】
このような状況にあって、従来の特許文献8の技術では、ハイテン鋼の高強度化によるMn含有量アップと処理量の増加に伴い、耐ビルドアップ性に改善の余地が生じてきた。すなわち、ハイテン鋼の高強度化によるMn含有量アップと処理量の増加に伴い、特許文献8の技術によるビルドアップ抑制の効果が十分でなくなり、ロールを使用可能な期間が徐々に短くなってきた。
【0020】
耐ビルドアップ性を改善するには、MCrAlY中のCr,Alの低減やY2O3の増量が考えられるが、発明者の研究により、却って耐酸化性の低下をまねくことがわかり、短期間でロールの表面の肌荒れや微小剥離が発生する問題があった。
【0021】
本発明は、上記の問題を有利に解決するもので、ハイテン鋼を多量に熱処理する場合であっても、優れた耐ビルドアップ性および耐酸化性を呈するサーメット粉末、表層にサーメットを有するロール、および、表層にサーメットを有するロールの製造方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
さて、発明者らは、ハイテン鋼の熱処理においても十分な耐ビルドアップ性を有し、酸化による肌あれや微小剥離を長期間にわたって生じ難い十分な耐酸化性を得るべく、鋭意検討を重ねた結果、従来一般的に用いられてきたMCrAlY中のAlを低減すると共に、セラミック中の炭化物として Cr3C2の代わりにCr23C6を使用することにより、所期した目的が有利に達成される、との知見を得た。
【0023】
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0024】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.セラミック粉末および耐熱合金粉末の混合粉からなるサーメット粉末であって、該セラミック粉末として、サーメット粉末全量に対して、Cr23C6:20〜30mass%およびY2O3:10〜20mass%を両者合計で40mass%以下含有するとともに、該耐熱合金粉末は、サーメット粉末全量に対して、Crを10〜12mass%、Alを2〜4mass%、Yを1mass%以下含有し、さらにIrを3〜5mass%含有し、残部はCoおよび/またはNiからなることを特徴とするサーメット粉末。
2.Cr23C6:20〜30mass%、Y2O3:10〜20mass%を両者合計で40mass%以下含有するとともに、Crを10〜12mass%、Alを2〜4mass%、Yを1mass%以下含有し、さらにIrを3〜5mass%含有し、残部Coおよび/またはNiからなることを特徴とする表層にサーメットを有するロール。
3.上記2に記載のサーメット粉末を用いて、ロールの表面に、皮膜厚:70〜120 μm の溶射層を形成することを特徴とする表層にサーメットを有するロールの製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、特にハイテン鋼の熱処理において、耐ビルドアップ性に優れ、かつ耐酸化性に優れた炉内ロールを提供することが可能となり、連続焼鈍炉等の熱処理炉を有する製造ラインにおけるロール手入れやロール替えに伴う時間ロスを短縮できる結果、ラインの停止時間の短縮(稼働時間の拡大)およびロール手入れ等に要する費用の低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明について詳細に説明する。
さて、本発明のサーメット粉末は、セラミック粉末と耐熱合金粉末(MCrAlY)の混合粉からなる。ここに、MCrAlYとは、前述したとおり、Fe,Ni,Coの少なくともいずれか1種類を基として、Cr,Al,Yを適量添加した耐熱合金を指す。
【0027】
まず、本発明に従うセラミック粉末について説明する。
本発明では、セラミック粉末中の炭化物として、従来使用されてきた Cr3C2の代わりにCr23C6を使用するところは特許文献8と同じである。
【0028】
このことは、従来、耐ビルドアップ性の点では問題ありとされながらも、耐酸化性改善の点から、保護皮膜中に比較的多量の含有を余儀なくされていたAlやCrを低減しても、炭化物として Cr3C2ではなくCr23C6を用いれば、耐酸化性が低下することがないため、耐酸化性の低下を招くことなしに耐ビルドアップ性の向上が図れることが、本発明者らの研究により判明したことに基づいている。
【0029】
この理由は、以下のように考えられる。すなわち、 Cr3C2は 800℃以上の高温で変態してCr23C6になるが、その際、体積変化により皮膜に引張応力が発生して破断し、皮膜がロール表面から剥離してしまう箇所が部分的に生じてくる結果、耐酸化性が低下する。この点、炭化物として最初からCr23C6を使用しておけば、上記のような高温変態に基づく体積変化は生じないので、耐酸化性が低下することはない。
【0030】
ここに、Cr23C6炭化物の添加量は、サーメット粉末全量に対して20mass%に満たないと、上記の耐酸化性改善効果が十分でなく、30mass%を超えると耐熱衝撃性が著しく低下し、皮膜介面から剥離し易くなる。よって、Cr23C6の添加量はサーメット粉末全量に対して20〜30mass%の範囲に限定した。
【0031】
また、Y2O3は、サーメット粉末全量に対して10mass%に満たないと、Mn含有量アップや処理量の増加の条件のもとでの耐ビルドアップ性が十分でなく、20mass%を超えると皮膜がポーラスになり易くなる。よって、Y2O3の添加量はサーメット粉末全量に対して10〜20mass%の範囲に限定した。
【0032】
なお、これら高融点のセラミックの量が多すぎると、未溶融のセラミック粉末が残り、皮膜形成が困難になるため、Cr23C6とY2O3は両者合計で40mass%以下に制限する必要がある。
【0033】
また、セラミックとしては、上記したCr23C6とY2O3の他、少量(1.0 mass%以下)であれば、 Al2O3やCr2O3などの混入を許容することができる。
【0034】
次に、本発明に従う耐熱合金粉末(MCrAlY)について説明する。以下に説明することが本発明の主たる作用である。
【0035】
ハイテン鋼も対象とする場合、従来、皮膜中のAlとCrは、ハイテン鋼中のMnと反応しやすいため、できるだけ低減することが望ましいが、耐酸化性を確保する観点から下限が規程され、Alは4〜6mass%、Crは12〜16mass%が適正と考えられていた。
【0036】
しかしながら、本発明は、新たにIrを3〜5mass%含有させることで、耐酸化性を低下させることなく、AlやCrを従来よりも低減できることを見出したのである。すなわち、Alは2〜4mass%、Crは10〜12mass%に低減することができたのである。
【0037】
Alは、皮膜成分のうちMnと最も反応し易い元素であり、皮膜中のAl量が4mass%を超えると、このAlが均一に分散していない場合にはMnとの反応が顕在化し、一方2mass%を下廻ると長期間の使用における耐酸化性が不十分となり、皮膜の肌あれやチッピングの原因となる。従って、保護皮膜中のAl量すなわちサーメット粉末全量に対するAl量は2〜4mass%の範囲に限定する必要がある。
【0038】
Crは、Alの次にMnと反応し易い元素であるので、皮膜中のCr量が12mass%を超えると、耐ビルドアップ性に悪影響を及ぼす。一方10mass%を下廻ると長期間の使用における耐酸化性が不十分となり、皮膜の肌あれやチッピングの原因となる。従って、保護皮膜中のCr量すなわちサーメット粉末全量に対するCr量は10〜12mass%の範囲に限定する必要がある。
【0039】
ここで、前述したとおり、発明者らの研究により、耐酸化性については、Irを3〜5mass%とすることによって、十分に補い得ることが判明した。
【0040】
次に、Yは、セラミックと耐熱合金の結合性を向上させ、保護皮膜を強固にする作用を有する有用元素である。しかしながら、1mass%を超えて添加すると、逆に皮膜剥離強度の低下を招くので、保護皮膜中のY量すなわちサーメット粉末全量に対するY量は1mass%以下とした。なお、Y量の下限については特に規定しないが、好ましくは 0.1 mass %以上であり、より好ましい範囲は 0.5〜1.0 mass%である。
【0041】
また、耐熱合金の残部は、耐熱性および耐酸化性を確保するためにCoまたはNiあるいはこれらの合金とする。この他、不可避的な不純物が混入する場合も、本発明の範囲内に入るものとする。
【0042】
なお、溶射皮膜の密着性の観点からは、残部はCoまたはCo−Ni合金とするのが有利である。
【0043】
Co−Ni合金の場合のCoとNiの比率は、Co:Ni=20:80〜80:20とするのが好ましい。
【0044】
次に、上記のサーメット粉末を用いた溶射方法について説明する。上記のセラミック粉末と耐熱合金粉末を混合し、粒径が10〜100 μm 程度の混合粉末とする。
【0045】
ついで、耐熱鋳鋼等を素材とする炉内ロールの表面に溶射するわけであるが、溶射方法および溶射条件については特に制限はなく、従来公知の方法および条件で行えば良い。
【0046】
例えば、溶射方法としては、爆発式溶射法(D-GUN法) 、高速ガス燃焼溶射法(D-JET法)およびガスプラズマ溶射法等が有利に適合する。
【0047】
また、溶射皮膜厚が70μm より薄いと充分な耐久寿命が得られず、一方 120μm より厚いと熱疲労による剥離を生じ易くなるので、溶射皮膜厚は70〜120 μm とすることが好適である。
【実施例1】
【0048】
表1に示す成分割合になる、セラミック粉末と耐熱合金粉末を、ミキシング法により混合して、粒径が50〜100 μm のサーメット粉末を作製した。なお、セラミック粉末の含有量および耐熱合金成分の含有量はいずれも、サーメット粉末全量に対する割合である。
【0049】
上記のサーメット粉末をそれぞれ、25mm×25mm×10mmの寸法の SUS基材の表面に、爆発式溶射法(D-GUN 法)によって溶射し、100 μm 厚の溶射皮膜を形成した。ついで、溶射皮膜の表面を研削仕上げした。
【0050】
かくして得られた溶射皮膜付き鋼板を2枚用意し、図2に示すように、溶射面を内側にして、その間にハイテン鋼(Mn:1.2 mass%,Si:0.05mass%,Al:0.04mass%を含有)を挟み込んで、一つのテストピースとした。図中、番号4が SUS基材、5が溶射皮膜、6がハイテン鋼である。
【0051】
このようにして準備したテストピースを、 900℃で、3体積%H2−97体積%N2雰囲気の実験炉に 180時間保持する焼結テストを実施した。実験炉での焼結テスト実施後、テストピースを取り出し、ハイテン鋼を取り外し、EDX(エネルギー分散型X線分析機)により溶射面の表面定量を行うと共に、SEM(走査型電子顕微鏡)によりハイテン鋼を取り外した部分の溶射皮膜の断面の写真撮影を行った。
【0052】
また、同時に、50mm×50mm×10mmの寸法の SUS基材の表面に、爆発式溶射法(D-GUN 法)で100 μm 厚の溶射皮膜を形成後、表面を研削仕上げした試験片をそれぞれ用意し、実験炉内で1000℃, 30秒間の加熱後、取り出して、水冷を行う耐剥離性のテストを実施した。
【0053】
上記の実験により、耐ビルドアップ性、耐酸化性および耐剥離性について調べた結果を、表1に併記する。
【0054】
ビルドアップの発生は、EDXにより測定されたMn量で評価した。大別すると、表1中「大」は、Mn量が30mass%以上、「中」はMn量が15mass%以上30mass%未満、「小」はMn量が5mass%以上15mass%未満、そして「極小」はMn量が5mass%未満の場合である。
【0055】
また、耐酸化性は、SEMで測定した表面の酸化スケールの厚みで評価するものとし、表1中「大」はスケール平均厚みが20μm 以上、「中」はスケール平均厚みが10μm 以上20μm 未満、「小」はスケール平均厚みが5μm 以上10μm 未満、そして「極小」はスケール平均厚みが5μm 未満の場合である。
【0056】
さらに、耐剥離性は、上記の耐剥離性のテストにおける加熱・冷却を1サイクルとして、皮膜剥離に至るまでの回数で評価した。
【0057】
【表1】

【0058】
同表に示したとおり、本発明に従うサーメット粉末を使用した場合はいずれも、ビルドアップの発生は軽微であり、また酸化スケール量も少なく、さらに剥離に至るまでの回数も45回以上と、従来より大幅に改善されていることが分かる。これにより、本発明のサーメット粉末を使用することにより、耐ビルドアップ性と共に耐酸化性に優れた溶射皮膜が得られることが確認できた。
【実施例2】
【0059】
次に、本発明に従うサーメット粉末(サーメット粉末全量に対して、Al:3mass%、Cr:10mass%、Y:0.8 mass%およびIr:4mass%を含有し、残部はCoの耐熱合金粉末材料に、Cr23C6を25mass%、Y2O3を15mass%混合したサーメット粉末)を、連続焼鈍ラインにおける連続焼鈍炉の加熱帯(雰囲気950℃、3体積%H2-N2)の下ロール( 800mmφ×2000mmL)として用いるロールの表面に、D-GUN 法を用いて溶射(皮膜厚:100 μm)して、本発明のロールとして投入し、実機評価した。
【0060】
また、比較のため、従来の特許文献8のサーメット粉末(サーメット粉末全量に対して、Al:5mass%、Cr:16mass%およびY:0.8 mass%を含有し、残部はCoの耐熱合金粉末材料に、Cr23C6を15mass%、Y2O3を15mass%混合したサーメット粉末)を、本発明例と同様に、D-GUN 法を用いて同じロールの表面に溶射(皮膜厚:100 μm)して、従来のロールとして投入し、あわせて実機評価した。ライン速度(鋼帯搬送速度)は最大 500 mpm とした。このラインは、ハイテン鋼処理を20万km/月以上行ういわゆるシートCAL である。
【0061】
その結果、従来ロールでは、30ヶ月経過した時点から微小剥離が徐々に見られるようになり、42ケ月後にロール交換を余儀なくされたのに対し、本発明のロールを使用した場合には、48ヶ月経過後もビルドアップは全く発生せず、しかも被膜酸化に起因すると見られる微小剥離も認められなかった。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】ビルドアップが発生した炉内ロールの正面図である。
【図2】実施例1で用いたテストピースの断面図である。
【符号の説明】
【0063】
1 炉内ロール
2 ビルドアップ
3 鋼帯
4 SUS 基材
5 溶射皮膜
6 ハイテン鋼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック粉末および耐熱合金粉末の混合粉からなるサーメット粉末であって、該セラミック粉末として、サーメット粉末全量に対して、Cr23C6:20〜30mass%およびY2O3:10〜20mass%を両者合計で40mass%以下含有するとともに、該耐熱合金粉末は、サーメット粉末全量に対して、Crを10〜12mass%、Alを2〜4mass%、Yを1mass%以下含有し、さらにIrを3〜5mass%含有し、残部はCoおよび/またはNiからなることを特徴とするサーメット粉末。
【請求項2】
Cr23C6:20〜30mass%、Y2O3:10〜20mass%を両者合計で40mass%以下含有するとともに、Crを10〜12mass%、Alを2〜4mass%、Yを1mass%以下含有し、さらにIrを3〜5mass%含有し、残部Coおよび/またはNiからなることを特徴とする表層にサーメットを有するロール。
【請求項3】
前記請求項1に記載のサーメット粉末を用いて、ロールの表面に、皮膜厚:70〜120 μm の溶射層を形成することを特徴とする表層にサーメットを有するロールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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