説明

シアナミド類の製造方法

【課題】第2級アミンとハロゲン化シアンから、グアニジン化合物の副生が抑制された条件下に、高品質のシアナミド類を収率良く製造する。
【解決手段】第2級アミンとハロゲン化シアンとを反応系内に供給しながら反応させる。この反応は、水性溶媒中で、反応混合物のpHを7〜11に保ちながら行うのがよい。第2級アミンとしては、ピロリジンやピペリジン、モルホリンが好適であり、ハロゲン化シアンとしては、塩化シアンが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第2級アミンからシアナミド類を製造する方法に関する。シアナミド類は、医薬、農薬、電子材料や、それらの原料乃至中間体等として有用である。
【背景技術】
【0002】
シアナミド類を製造する方法として、第2級アミンとハロゲン化シアンを反応させる方法が知られている。例えば、ベルギー特許第641601号明細書(特許文献1)には、第2級アミンの水溶液又は水懸濁液中に塩化シアンを供給しながら反応を行うことが開示されている。また、ドイツ特許出願公開第10063023号明細書(特許文献2)には、モルホリンの水溶液中に塩化シアンを供給しながら反応を行うことが開示されている。
【0003】
【特許文献1】ベルギー特許第641601号明細書
【特許文献2】ドイツ特許出願公開第10063023号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1や2に開示の方法では、生成したシアナミド類がさらにハロゲン化シアンと反応することによりグアニジン化合物が副生し易いため、得られるシアナミド類の収率や品質の点で満足できないことがある。そこで、本発明の目的は、第2級アミンとハロゲン化シアンから、高品質のシアナミド類を収率良く製造しうる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討の結果、反応系内に第2級アミンとハロゲン化シアンを共フィードして反応を行うことにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、第2級アミンとハロゲン化シアンとを反応系内に供給しながら反応させることにより、シアナミド類を製造する方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、第2級アミン類とハロゲン化シアンから、高品質のシアナミド類を収率良く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で原料に用いる第2級アミンは、脂肪族又は芳香族の環式又は非環式アミンであることができ、典型的には次の式(1)
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、R1及びR2は、それぞれ1価の炭化水素基を表すか、一緒になって2価の有機基を表す。)
【0010】
で示すことができる。そして、この式(1)で示される第2級アミンを原料に用いることにより、次の式(2)
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、R1及びR2は、前記と同じ意味を表す。)
【0013】
で示されるシアナミド類を製造することができる。
【0014】
1及びR2が1価の炭化水素基である場合、この炭化水素基は、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基又は芳香族炭化水素基であることができ、ここで、脂肪族炭化水素基とは、脂肪族炭化水素から水素を除いた残基であり、その炭素数は通常1〜20程度である。その具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−オクタデシル基のようなアルキル基;ビニル基、アリル基のようなアルケニル基;エチニル基、プロパルギル基のようなアルキニル基等が挙げられる。
【0015】
また、脂環式炭化水素基とは、脂環式炭化水素から水素を除いた残基であり、その炭素数は通常3〜20程度である。この脂環式炭化水素基は、脂環式炭化水素の脂肪族環から水素を除いた残基であってもよいし、脂肪族鎖を有する脂環式炭化水素の該脂肪族鎖から水素を除いた残基であってもよい。その具体例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、ノルボルニル基、アダマンチル基のようなシクロアルキル基;シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基のようなシクロアルキルアルキル基等が挙げられる。
【0016】
また、芳香族炭化水素基とは、芳香族炭化水素から水素を除いた残基であり、その炭素数は通常6〜20程度である。この芳香族炭化水素基は、芳香族炭化水素の芳香族環から水素を除いた残基であってもよいし、脂肪族鎖を有する芳香族炭化水素の該脂肪族鎖から水素を除いた残基であってもよいし、脂肪族環を有する芳香族炭化水素の該脂肪族環から水素を除いた残基であってもよい。その具体例としては、フェニル基、ナフチル基、インデニル基のようなアリール基;ベンジル基、4−フェニルブチル基のようなアリールアルキル基(アラルキル基)等が挙げられる。
【0017】
なお、これらの炭化水素基は、置環基を有していてもよく、かかる置換基の例としては、アルコキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲノ基、オキソ基、シリル基等が挙げられる。
【0018】
また、R1及びR2が一緒になって2価の有機基を形成している場合、この有機基は、2つの結合位置の原子が共に炭素原子である芳香族又は脂肪族の基であることができ、その炭素数は通常3〜20程度である。好ましい例としては、次の式(3)
【0019】
−(CH2)2−X−(CH2)n− (3)
【0020】
(式中、Xはメチレン基又は酸素原子を表し、nは1又は2の整数を表す。)
【0021】
で示される基を挙げることができる。
【0022】
第2級アミンの具体例としては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジ−n−プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジアリルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジドデシルアミン、ジオクタデシルアミン、ジベンジルアミン、ジフェニルアミン、N−メチルアニリン、ビス(4−メトキシフェニル)アミン、ビス(4−メチルフェニル)アミン、ビス(2−メチルフェニル)アミン、ジシクロヘキシルアミン、ジシクロペンチルアミン、ジシクロオクチルアミン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン等が挙げられる。
【0023】
中でも、ピロリジンやピペリジン、モルホリンの如き、前記式(1)においてR1及びR2が一緒になって前記式(3)で示される2価の有機基を形成している化合物、すなわち、次の式(4)
【0024】
【化3】

【0025】
(式中、X及びnは、前記と同じ意味を表す。)
【0026】
で示される第2級アミンを原料に用いて、次の式(5)
【0027】
【化4】

【0028】
(式中、X及びnは、前記と同じ意味を表す。)
【0029】
で示されるシアナミド類を製造するのに、本発明の方法は特に効果的である。なお、第2級アミンは必要に応じてそれらの2種以上を用いてもよい。
【0030】
本発明では、上記の第2級アミンをハロゲン化シアンと反応させることにより、対応するシアナミド類を製造するが、その際、第2級アミンとハロゲン化シアンとを反応系内に併注、すなわち共フィードする。かかる処方を採用することにより、グアニジン化合物の副生を抑制して、高品質のシアナミド類を収率良く製造することができる。
【0031】
ハロゲン化シアンとしては、塩化シアンを用いてもよいし、臭化シアンを用いてもよいが、液体又は気体として取り扱いが容易であることから、塩化シアンが好ましく用いられる。ハロゲン化シアンの使用量は、第2級アミンに対し、通常0.8〜1.5モル倍程度である。
【0032】
反応溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、メタノール、イソプロピルアルコール、アセトニトリル、ブチロニトリル、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼンの如き有機溶媒や、水を用いることができ、必要に応じてそれらの2種以上からなる混合溶媒を用いることもできる。中でも、水単独溶媒や、水とこれに混和性又は非混和性の有機溶媒との混合溶媒の如き、水性溶媒が好ましく用いられる。反応溶媒の使用量は、第2級アミンに対し、通常0.5〜10重量倍、好ましくは0.5〜5重量倍である。
【0033】
反応は、反応混合物を中性乃至塩基性に、具体的には反応混合物のpHを7〜13、好ましくは7〜11に調整しながら行うのがよく、このためには、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、炭酸カリウムの如き無機塩基を、反応系内に加えながら反応を行うのが望ましい。
【0034】
反応温度は、通常0〜100℃、好ましくは20〜70℃である。反応の経過は、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、核磁気共鳴スペクトル等で追跡することができる。
【0035】
反応後の後処理操作は適宜選択されるが、例えば、反応混合物を油水分離することにより、油層としてシアナミド類を回収する方法や、反応混合物を濃縮して溶媒を除去した後、無機塩等の不溶物を濾別し、濾液としてシアナミド類を回収する方法等が挙げられる。得られたシアナミド類は、さらに蒸溜、晶析、洗浄等の精製操作に付してもよい。
【0036】
かくして得られるシアナミド類としては、例えば、ジメチルシアナミド、ジエチルシアナミド、ジ−n−プロピルシアナミド、ジイソプロピルシアナミド、ジアリルシアナミド、ジ−n−ブチルシアナミド、ジヘキシルシアナミド、ジオクチルシアナミド、ジドデシルシアナミド、ジオクタデシルシアナミド、ジベンジルシアナミド、ジフェニルシアナミド、メチルフェニルシアナミド、ビス(4−メトキシフェニル)シアナミド、ビス(4−メチルフェニル)シアナミド、ビス(2−メチルフェニル)シアナミド、ジシクロヘキシルシアナミド、ジシクロペンチルシアナミド、ジシクロオクチルシアナミド、N−シアノピロリジン、N−シアノピペリジン、N−シアノモルホリン等が挙げられる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0038】
実施例1
500mlフラスコに、水98gを入れて攪拌し、この中に、塩化シアン48gとモルホリン67gを50℃にて6時間かけて滴下した後、50℃にて0.5時間保持した。また、この滴下と保持の間、反応液のpHが8.5に保たれるように、20重量%水酸化ナトリウム水溶液162gを加えた。得られた反応液をガスクロマトグラフィーで分析した結果、N−シアノモルホリンの含量は80g(収率95%)であり、グアニジン化合物〔ビス(オキシジエチレン)グアニジン〕の生成は確認されなかった。
【0039】
比較例1
500mlフラスコに、モルホリン53gと水78gを入れて攪拌し、この中に、塩化シアン36gを50℃にて6時間かけて滴下した後、50℃にて0.5時間保持した。また、この滴下と保持の間、反応液のpHが8.5に保たれるように、48重量%水酸化ナトリウム水溶液54gを加えた。得られた反応液をガスクロマトグラフィーで分析した結果、N−シアノモルホリンの含量は59g(収率89%)であり、グアニジン化合物〔ビス(オキシジエチレン)グアニジン〕の含量は6g(収率10%)であった。
【0040】
実施例2
500mlフラスコに、水132gを入れて攪拌し、この中に、塩化シアン48gとピペリジン52gを50℃にて4時間かけて滴下した後、50℃にて0.5時間保持した。また、この滴下と保持の間、反応液のpHが8.5に保たれるように、48重量%水酸化ナトリウム水溶液51gを加えた。得られた反応液を有機層と水層とに分液し、有機層をガスクロマトグラフィーで分析した結果、N−シアノピペリジンの含量は64g(収率97%)であり、グアニジン化合物〔ビス(ペンタメチレン)グアニジン〕の生成は確認されなかった。
【0041】
比較例2
500mlフラスコに、ピペリジン52gと水78gを入れて攪拌し、この中に、塩化シアン36gを50℃にて6時間かけて滴下した後、50℃にて0.5時間保持した。また、この滴下と保持の間、反応液のpHが8.5に保たれるように、48重量%水酸化ナトリウム水溶液54gを加えた。得られた反応液を有機層と水層とに分液し、有機層をガスクロマトグラフィーで分析した結果、N−シアノピペリジンの含量は58g(収率87%)であり、グアニジン化合物〔ビス(ペンタメチレン)グアニジン〕の含量は7g(収率11%)であった。
【0042】
実施例3
500mlフラスコに、水111gを入れて攪拌し、この中に、塩化シアン48gとピロリジン44gを50℃にて4時間かけて滴下した後、50℃にて0.5時間保持した。また、この滴下と保持の間、反応液のpHが8.5に保たれるように、48重量%水酸化ナトリウム水溶液59gを加えた。得られた反応液を有機層と水層とに分液し、有機層をガスクロマトグラフィーで分析した結果、N−シアノピロリジンの含量は64g(収率97%)であり、グアニジン化合物〔ビス(テトラメチレン)グアニジン〕の生成は確認されなかった。
【0043】
比較例3
500mlフラスコに、ピロリジン65gと水98gを入れて攪拌し、この中に、塩化シアン54gを50℃にて6時間かけて滴下した後、50℃にて0.5時間保持した。また、この滴下と保持の間、反応液のpHが8.5に保たれるように、48重量%水酸化ナトリウム水溶液67gを加えた。得られた反応液を有機層と水層とに分液し、有機層をガスクロマトグラフィーで分析した結果、N−シアノピロリジンの含量は20g(収率24%)であり、グアニジン化合物〔ビス(テトラメチレン)グアニジン〕の含量は50g(収率67%)であった。
【0044】
実施例4
500mlフラスコに、水109gを入れて攪拌し、この中に、臭化シアン69gをアセトニトリル94gに溶解させた溶液とピロリジン36gとを50℃にて6時間かけて滴下した後、50℃にて0.5時間保持した。また、この滴下と保持の間、反応液のpHが8.5に保たれるように、48重量%水酸化ナトリウム水溶液57gを加えた。得られた反応液を有機層と水層とに分液し、有機層をガスクロマトグラフィーで分析した結果、N−シアノピロリジンの含量は43g(収率90%)であり、グアニジン化合物〔ビス(テトラメチレン)グアニジン〕の生成は確認されなかった。
【0045】
比較例4
500mlフラスコに、ピロリジン36gと水73gを入れて攪拌し、この中に、臭化シアン69gをアセトニトリル130gに溶かした溶液を50℃にて6時間かけて滴下した後、50℃にて0.5時間保持した。また、この滴下と保持の間、反応液のpHが8.5に保たれるように、48重量%水酸化ナトリウム水溶液57gを加えた。得られた反応液を有機層と水層とに分液し、有機層をガスクロマトグラフィーで分析した結果、N−シアノピペリジンの含量は19g(収率39%)であり、グアニジン化合物〔ビス(テトラメチレン)グアニジン〕の含量は18g(収率44%)であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第2級アミンとハロゲン化シアンとを反応系内に供給しながら反応させることを特徴とするシアナミド類の製造方法。
【請求項2】
水性溶媒中で反応を行う請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
反応混合物のpHを7〜11に保ちながら反応を行う請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
第2級アミンが下記式(4)
【化1】

(式中、Xはメチレン基又は酸素原子を表し、nは1又は2の整数を表す。)
で示される化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
ハロゲン化シアンが塩化シアンである請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。