説明

シアン汚染土壌の浄化設備及び浄化方法

【課題】汚染領域の土壌を原位置のバイオレメディエーションにより低コストで確実に浄化することができると共に、建物の下の土壌が汚染されている場合にも対応して浄化することができる。
【解決手段】シアンによる汚染土壌領域に設けられ、シアンを分解する分解微生物が存在する汚染土壌内に溶存酸素水を注入する溶存酸素水注入部と、汚染土壌領域の地下水流の流れ方向で溶存酸素水注入部より下流側の汚染土壌領域に設けられ、汚染土壌内に分解微生物を活性化してシアンの分解を促進する薬剤を注入する薬剤注入部とを備えるシアン汚染土壌の浄化設備。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアンで汚染された土壌を浄化するシアン汚染土壌の浄化設備及び浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有害物質で汚染された土壌に対する無害化処理が環境上の重要な問題となっている。重金属類で汚染された工場敷地内の土壌や、それらの土壌で埋め立てられた地域の土壌の無害化処理として、重金属類を化学薬品で処理して不溶化し、降水等で溶解流出しないような対策が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
しかし、重金属類の不溶化処理は、汚染土壌から重金属を取り除く方法でなく、土壌に重金属類が残留するという問題があるため、最近では微生物活動による有害物質の分解または改質を利用する生物学的修復法、すなわちバイオレメディエーションによる浄化処理が検討されている。特に原位置処理でのバイオレメディエーション(以下「原位置バイオレメディエーション」と表記する)は、有害物質を地上に取り出すことなく原位置において恒久的に分解除去または無害化できる利点を有する。また、この方法は、物理的手法や化学的手法の浄化処理で認められる、有害成分濃度が低濃度域になるまで修復が進むと修復スピードが著しく低下する現象に対する対策としても有効とされている。
【0004】
重金属類の中でシアンはその構造から炭素と窒素を分離してしまえば完全に無害化できるという特長があるが、炭素と窒素は微生物が増殖する上での必須の栄養源である。そのため、シアンを主要な炭素源及び主要な窒素源として共に活用するシアンのバイオレメディエーションはシアンの浄化方法として有効である。斯様なシアンを含む汚染土壌の原位置バイオレメディエーションとして、原位置の汚染領域の土壌を掘削し、浄化促進剤を直接汚染領域の土壌に注入し、土壌と浄化促進剤を混合して処理する方法がある(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−283795号公報
【特許文献2】特開2004−025091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2の方法では、汚染領域の全域に亘って狭い間隔毎に浄化促進剤を注入することになるので、施工コストや浄化促進剤のコストが非常に高くなると共に、建物の下の土壌が汚染されている場合には浄化促進剤を注入することができないという問題がある。そのため、汚染領域の全域を低コストで確実に浄化することができると共に、建物の下の土壌が汚染されている場合にも対応して浄化することができる浄化設備或いは方法が求められている。
【0007】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであって、汚染領域の土壌を原位置のバイオレメディエーションにより低コストで確実に浄化することができると共に、建物の下の土壌が汚染されている場合にも対応して浄化することができるシアン汚染土壌の浄化設備及び浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のシアン汚染土壌の浄化設備は、シアンによる汚染土壌領域に設けられ、シアンを分解する分解微生物が存在する前記汚染土壌内に溶存酸素水を注入する溶存酸素水注入部と、前記汚染土壌領域の地下水流の流れ方向で前記溶存酸素水注入部より下流側の前記汚染土壌領域に設けられ、前記汚染土壌内に前記分解微生物を活性化してシアンの分解を促進する薬剤を注入する薬剤注入部とを備えることを特徴とする。前記分解微生物を活性化してシアンの分解を促進する薬剤には、例えば炭水化物、有機酸等の炭素含有物質、リン酸塩等のリン含有物質等が含まれる。また、前記シアンには、各種シアン化物、鉄、ニッケル、銅等の各種金属のシアン錯体、有機物質とシアンとの複合物等が含まれる。
前記構成により、地下水流の上流側では、溶存酸素水の注入により、汚染土壌を好気的状態にして分解微生物を活性化し、シアンの分解を促進することができると共に、溶存酸素水と地下水流の流れにより、シアンを下流側に流してシアンを下流側に濃縮させることができる。移動しきれずに残留した希薄なシアンは薬剤の添加が無くても増殖したシアンを窒素源として利用し得る好気性従属栄養微生物等により分解される。そして、シアンが濃縮した下流側において薬剤を加えてシアンを窒素源として利用し得る好気性従属栄養微生物等の分解微生物を活性化し、濃縮した高濃度シアンを分解して汚染土壌を浄化することができる。即ち、地下水流を利用して長く間隔を開けて注入処理を行うことが可能であると共に、少量の薬剤で浄化できて高価な薬剤の使用を抑制することが可能であり、汚染領域の土壌を原位置バイオレメディエーションにより低コストで確実に浄化することができる。また、地下水流を利用することにより、建物の下の土壌が汚染されている場合にも対応して浄化することができる。
【0009】
また、本発明のシアン汚染土壌の浄化設備は、前記薬剤注入部が前記薬剤として炭素含有物質を前記汚染土壌内に注入することを特徴とする。
前記構成により、シアンを主要な窒素源として活用するものの、炭素源としては他の有機物から同化採取する好気性従属栄養微生物相に対応し、これを分解微生物として活性化することが可能となる。
【0010】
また、本発明のシアン汚染土壌の浄化設備は、前記溶存酸素水注入部を、前記汚染土壌領域の地下層に第1の経路を介して前記溶存酸素水を注入可能なものとし、前記薬剤注入部を、前記汚染土壌領域の地下層に第2の経路を介して前記薬剤を注入可能なものとすることを特徴とする。
前記構成により、第1の経路、第2の経路を介して溶存酸素水、薬剤をそれぞれ適切な地下層の範囲に注入することができ、より確実にシアンを分解することができる。
【0011】
また、本発明のシアン汚染土壌の浄化設備は、前記溶存酸素水注入部を、前記薬剤注入部の上流側に前記地下水流の流れ方向に沿って間隔を開けて複数設けることを特徴とする。前記溶存酸素水注入部は、前記地下水流の流れ方向に沿って10m以内の間隔で複数設けると好適である。
前記構成により、地下水流の上流側で溶存酸素水によりシアンの分解を一層促進することができると共に、薬剤を注入する箇所より上流側のシアンをより確実に下流側に流して濃縮し、下流側の薬剤の注入により分解することができる。
【0012】
また、本発明のシアン汚染土壌の浄化設備は、前記溶存酸素水注入部を、前記地下水流の流れ方向と略直交する方向に間隔を開けて複数設け、前記薬剤注入部を、前記地下水流の流れ方向と略直交する方向に間隔を開けて複数設けることを特徴とする。
前記構成により、地下水流の上流側の広範囲の汚染土壌領域では、溶存酸素水の注入により、汚染土壌を好気的状態にして分解微生物を活性化し、シアンの分解を促進することができると共に、溶存酸素水と地下水流の流れにより、広範囲のシアンを下流側に流してシアンを下流側に濃縮させることができる。そして、シアンが濃縮した下流側の広範囲の汚染土壌領域において薬剤を加えて分解微生物を活性化し、濃縮したシアンを分解することができ、広範囲の汚染土壌を浄化することができる。
【0013】
また、本発明のシアン汚染土壌の浄化方法は、シアンによる汚染土壌領域におけるシアンを分解する分解微生物が存在する汚染土壌内に溶存酸素水を注入し、前記汚染土壌領域の地下水流の流れ方向で前記溶存酸素水注入箇所より下流側の前記汚染土壌内に前記分解微生物を活性化してシアンの分解を促進する薬剤を注入することを特徴とする。前記分解微生物を活性化してシアンの分解を促進する薬剤には、例えば炭水化物、有機酸等の炭素含有物質、リン酸塩等のリン含有物質等が含まれる。また、前記シアンには、各種シアン化物、鉄、ニッケル、銅等の各種金属のシアン錯体、有機物質とシアンとの複合物等が含まれる。
前記構成により、地下水流の上流側では、溶存酸素水の注入により、汚染土壌を好気的状態にして分解微生物を活性化し、シアンの分解を促進することができると共に、溶存酸素水と地下水流の流れにより、シアンを下流側に流してシアンを下流側に濃縮させることができる。移動しきれずに残留した希薄なシアンは薬剤の添加が無くても増殖したシアンを窒素源として利用し得る好気性従属栄養微生物等により分解される。そして、シアンが濃縮した下流側において薬剤を加えてシアンを窒素源として利用し得る好気性従属栄養微生物等の分解微生物を活性化し、濃縮した高濃度シアンを分解して汚染土壌を浄化することができる。即ち、地下水流を利用して長く間隔を開けて注入処理を行うことが可能であると共に、少量の薬剤で浄化できて高価な薬剤の使用を抑制することが可能であり、汚染領域の土壌を原位置バイオレメディエーションにより低コストで確実に浄化することができる。また、地下水流を利用することにより、建物の下の土壌が汚染されている場合にも対応して浄化することができる。
【0014】
尚、本発明で用いられる分解微生物は、シアンの分解を促進可能なものであれば適宜であり、単独の微生物でも、幾つかの微生物が混合した状態のものでもよく、その種類について特に限定するものではない。好適には対象とする汚染土壌の原位置の土着微生物を直接利用するとよい。また、本明細書開示の発明は、各発明や実施形態の構成の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な構成を本明細書開示の他の構成に変更して特定したもの、或いはこれらの構成に本明細書開示の他の構成を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な構成を部分的な作用効果が得られる限度で削除して特定した上位概念化したものを包含する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のシアン汚染土壌の浄化設備或いは浄化方法は、汚染領域の土壌を原位置のバイオレメディエーションにより低コストで確実に浄化することができると共に、建物の下の土壌が汚染されている場合にも対応して浄化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施形態のシアン汚染土壌の浄化設備を示す縦断面説明図。
【図2】第2実施形態のシアン汚染土壌の浄化設備を示す縦断面説明図。
【図3】第3実施形態のシアン汚染土壌の浄化設備を示す平面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔第1実施形態のシアン汚染土壌の浄化設備〕
本発明による第1実施形態のシアン汚染土壌の浄化設備について説明する。図1は第1実施形態のシアン汚染土壌の浄化設備を示す縦断面説明図である。
【0018】
第1実施形態のシアン汚染土壌の浄化設備は、シアンを分解する分解微生物が存在する汚染土壌内に溶存酸素水を注入する溶存酸素水注入部と、汚染土壌内に分解微生物を活性化してシアンの分解を促進する薬剤を注入する薬剤注入部とをシアンによる汚染土壌領域に設け、汚染土壌を原位置で浄化するものである。溶存酸素水注入部は、汚染土壌領域の地下水流の流れ方向における上流側に設けられ、薬剤注入部は、汚染土壌領域の地下水流の流れ方向における下流側、即ち溶存酸素水注入部よりも下流側に設けられる。
【0019】
溶存酸素水注入部は、図1に示すように、汚染土壌領域の地下水流11の流れ方向における上流側に設けられ、汚染土壌領域の土壌10内に埋設されている井戸1と、井戸1内に溶存酸素水を供給する供給管2と、供給管2と接続され、供給する溶存酸素水を貯留する溶存酸素水貯留槽3と、溶存酸素水貯留槽3に貯留されている溶存酸素水を供給管2に送り出すポンプ4とから構成される。井戸1と供給管2は、汚染土壌領域の地下層に溶存酸素水を注入可能な第1の経路に相当する。
【0020】
井戸1には、土壌10内に溶存酸素水を注入するための図示省略する注入口が設けられている。前記注入口は、井戸1の長手方向に所定間隔を開けて設けられていると共に、井戸1の周方向に所定間隔を開けて周設されている。供給管2は、一端側が溶存酸素水貯留槽3に接続されると共に、他端側が井戸1内に導かれており、その分岐管が井戸1の前記注入口に達するように設けられている。溶存酸素水を土壌10内に注入する際には、ポンプ4を駆動して溶存酸素水貯留槽3から溶存酸素水を供給管2に送り出し、前記分岐管及び井戸1の前記注入口を介して土壌10内に溶存酸素水を注入する。尚、井戸1の前記注入口から溶存酸素水を注入する構成に代え、井戸1を埋設する深さを調整し、供給管2で供給する溶存酸素水を井戸1に形成した下端開口から土壌10内に注入する構成とすることも可能である。
【0021】
薬剤注入部は、図1に示すように、汚染土壌領域の地下水流11の流れ方向における下流側、即ち井戸1よりも下流側に設けられ、汚染土壌領域の土壌10内に埋設されている井戸5と、井戸5内に分解微生物を活性化してシアンの分解を促進する薬剤を供給する供給管6と、供給管6と接続され、供給する薬剤を貯留する薬剤貯留槽7と、薬剤貯留槽7に貯留されている薬剤を供給管6に送り出すポンプ8とから構成される。井戸5と供給管6は、汚染土壌領域の地下層に薬剤を注入可能な第2の経路に相当する。
【0022】
井戸5には、土壌10内に薬剤を注入するための図示省略する注入口が設けられている。前記注入口は、井戸5の長手方向に所定間隔を開けて設けられていると共に、井戸5の周方向に所定間隔を開けて周設されている。供給管6は、一端側が薬剤貯留槽7に接続されると共に、他端側が井戸5内に導かれており、その分岐管が井戸5の前記注入口に達するように設けられている。薬剤を土壌10内に注入する際には、ポンプ8を駆動して薬剤貯留槽7から薬剤を供給管6に送り出し、前記分岐管及び井戸5の前記注入口を介して土壌10内に薬剤を注入する。尚、井戸5の前記注入口から薬剤を注入する構成に代え、井戸5を埋設する深さを調整し、供給管2で供給する薬剤を井戸5に形成した下端開口から土壌10内に注入する構成とすることも可能である。
【0023】
前記分解微生物を活性化してシアンの分解を促進する薬剤には、例えば炭水化物、有機酸等の炭素含有物質、リン酸塩等のリン含有物質等が含まれる。薬剤として炭素含有物質を用いる場合、シアンを主要な窒素源として活用するものの、炭素源としては他の有機物から同化採取する好気性従属栄養微生物相に対応し、これを分解微生物として活性化することが可能となる。また、前記シアンには、各種シアン化物、鉄、ニッケル、銅等の各種金属のシアン錯体、有機物質とシアンとの複合物等が含まれる。
【0024】
第1実施形態のシアン汚染土壌の浄化設備で汚染土壌を浄化する際には、ポンプ4を駆動して溶存酸素水貯留槽3から溶存酸素水を供給管2に送り出し、井戸1の注入口から汚染土壌領域内の土壌10に溶存酸素水を注入して、地下水流11の流れ方向の上流側に位置する溶存酸素水注入箇所から土壌10に溶存酸素水を注入すると共に、ポンプ8を駆動して薬剤貯留槽7から薬剤を供給管6に送り出し、井戸5の注入口から汚染土壌領域内の土壌10に薬剤を注入して、地下水流11の流れ方向の下流側に位置する薬剤注入箇所から土壌10に薬剤を注入する。溶存酸素水の注入、薬剤の注入は、それぞれ連続的に行う或いは定期的・断続的に行うことが可能であるが、地下水流11の流れが速い場合には連続注入すると好適である。
【0025】
上流側の溶存酸素水注入箇所から注入された溶存酸素水は、井戸1の周囲の土壌10に拡がり、土壌10を好気性として土壌10中の分解微生物を活性化し、井戸1の周囲土壌10に含まれるシアンの分解を促進して汚染土壌を浄化する。更に、溶存酸素水と土壌10の地層間の地下水流11の流れにより、シアンが下流側に流され、シアンが地下水流11の下流側で濃縮される。この際、溶存酸素水と地下水流11の流れで下流側に移動しきれずに残留した希薄なシアンは、薬剤の添加が無くても、シアンを窒素源として利用し得る好気性従属栄養微生物などシアンを分解する分解微生物の活性化、増殖により、所要レベル以下に分解される。
【0026】
そして、下流側で加えられる薬剤は、井戸5の周囲の土壌10に拡がり、土壌10中のシアンを窒素源として利用し得る好気性従属栄養微生物などシアンを分解する分解微生物を活性化し、井戸5の周囲の土壌10に含まれるシアンの分解を促進して、地下水流11の下流側の土壌10で濃縮された高濃度シアンの分解を促進して汚染土壌を浄化する。
【0027】
尚、汚染土壌領域の土壌10中の分解微生物は、土壌10内に土着している分解微生物を利用することが好ましいが、溶存酸素水と薬剤を注入する前に、外部から所要の分解微生物を土壌10中に投与するようにすることも可能であり、後述する実施形態でも同様である。
【0028】
第1実施形態のシアン汚染土壌の浄化設備及び浄化方法は、地下水流11の上流側の溶存酸素水注入部と下流側の薬剤注入部により、原位置バイオレメディエーションにより汚染土壌領域内のシアンを確実に分解して汚染土壌を浄化することができる。また、地下水流11を利用して溶存酸素水を拡げることにより、溶存酸素水注入部と薬剤注入部を設ける間隔を長くすることが可能であると共に、下流側の濃縮した高濃度シアンに対して少量の薬剤を添加し、高価な薬剤の使用を抑制することができる。従って、溶存酸素水注入部、薬剤注入部の設置コストや薬剤の使用コストを抑制し、コスト低減を図ることができると共に、効率良くシアンを分解することができる。また、地下水流11を利用することにより、建物の下の土壌10が汚染されている場合にも対応して浄化することができる。また、井戸1と供給管2の経路、井戸5と供給管6の経路により、溶存酸素水、薬剤をそれぞれ適切な地下層の範囲に注入することができ、より確実にシアンを分解することができる。
【0029】
〔第2実施形態のシアン汚染土壌の浄化設備〕
次に、本発明による第2実施形態のシアン汚染土壌の浄化設備について説明する。図2は第2実施形態のシアン汚染土壌の浄化設備を示す縦断面説明図である。
【0030】
第2実施形態のシアン汚染土壌の浄化設備は、溶存酸素水注入部を、薬剤注入部の上流側において地下水流11の流れ方向に沿って10m以内の間隔を開けて複数設ける構成であり、その他の構成は第1実施形態の浄化設備と同様で、第1実施形態と同様の追加、変更を加えることが可能である。各溶存酸素水注入部は、井戸1と同一構成の井戸1a、1b、1cと、供給管2と同一構成の供給管2a、2b、2cと、溶存酸素水貯留槽3と同一構成の溶存酸素水貯留槽3a、3b、3cと、ポンプ4と同一構成のポンプ4a、4b、4cとから各々構成される。また、薬剤注入部は、第1実施形態と同一の井戸5、供給管6、薬剤貯留槽7、ポンプ8とから構成される。
【0031】
第2実施形態のシアン汚染土壌の浄化設備で汚染土壌を浄化する際には、ポンプ4a、4b、4cを駆動して溶存酸素水貯留槽3a、3b、3cから溶存酸素水を供給管2a、2b、2cに送り出し、地下水流11の上流側に順番に位置する井戸1a、1b、1cの注入口から汚染土壌領域内の土壌10に溶存酸素水を注入すると共に、ポンプ8を駆動して薬剤貯留槽7から薬剤を供給管6に送り出し、地下水流11の下流側で井戸1a、1b、1cよりも下流側に位置する井戸5の注入口から汚染土壌領域内の土壌10に薬剤を注入する。溶存酸素水の注入、薬剤の注入は、それぞれ連続的に行う或いは定期的・断続的に行うことが可能であるが、地下水流11の流れが速い場合には連続注入すると好適である。
【0032】
上流側で注入された溶存酸素水は、井戸1a、1b、1cの周囲の土壌10に拡がり、土壌10を好気性として土壌10中の分解微生物を活性化し、井戸1a、1b、1cの周囲土壌10に含まれるシアンの分解を促進して汚染土壌を浄化する。更に、溶存酸素水と土壌10の地層間の地下水流11の流れにより、シアンが下流側に流され、シアンが地下水流11の下流側である井戸1a、1b、1cの下流側で濃縮される。この際、溶存酸素水と地下水流11の流れで下流側に移動しきれずに残留した希薄なシアンは、薬剤の添加が無くても、シアンを窒素源として利用し得る好気性従属栄養微生物などシアンを分解する分解微生物の活性化、増殖により、所要レベル以下に分解される。
【0033】
そして、下流側で加えられる薬剤は、井戸5の周囲の土壌10に拡がり、土壌10中のシアンを窒素源として利用し得る好気性従属栄養微生物などシアンを分解する分解微生物を活性化し、井戸5の周囲の土壌10に含まれるシアンの分解を促進して、地下水流11の下流側の土壌10で濃縮された高濃度シアンの分解を促進して汚染土壌を浄化する。
【0034】
第2実施形態のシアン汚染土壌の浄化設備及び浄化方法は、第1実施形態と同様の効果を奏することに加え、地下水流の上流側で溶存酸素水によりシアンの分解を一層促進することができると共に、薬剤を注入する箇所より上流側のシアンをより確実に下流側に流して濃縮し、下流側の薬剤の注入により分解することができる。
【0035】
〔第3実施形態のシアン汚染土壌の浄化設備〕
次に、本発明による第3実施形態のシアン汚染土壌の浄化設備について説明する。図3は第3実施形態のシアン汚染土壌の浄化設備を示す平面説明図である。
【0036】
第3実施形態のシアン汚染土壌の浄化設備は、溶存酸素水注入部を、地下水流11の上流側において地下水流11の流れ方向と略直交する方向に間隔を開けて複数設け、薬剤注入部を、地下水流11の下流側において地下水流11の流れ方向と略直交する方向に複数設ける構成であり、その他の構成は第1実施形態と同様で、第1実施形態と同様の追加、変更を加え、また、第2実施形態の構成を組み合わせることも可能である。各溶存酸素水注入部は、井戸1と同一構成の井戸1d、1e、1fと、供給管2と同一構成の供給管2d、2e、2fと、溶存酸素水貯留槽3と同一構成の溶存酸素水貯留槽3d、3e、3fと、ポンプ4と同一構成のポンプ4d、4e、4fとから各々構成される。また、各薬剤注入部は、井戸5と同一構成の井戸5d、5e、5fと、供給管6と同一構成の供給管6d、6e、6fと、薬剤貯留槽7と同一構成の薬剤貯留槽7d、7e、7fと、ポンプ8と同一構成のポンプ8d、8e、8fとから各々構成される。
【0037】
第3実施形態のシアン汚染土壌の浄化設備で汚染土壌を浄化する際には、ポンプ4d、4e、4fを駆動して溶存酸素水貯留槽3d、3e、3fから溶存酸素水を供給管2d、2e、2fに送り出し、地下水流11の上流側に位置する井戸1d、1e、1fの注入口から汚染土壌領域内の土壌10に溶存酸素水を注入すると共に、ポンプ8d、8e、8fを駆動して薬剤貯留槽7d、7e、7fから薬剤を供給管6d、6e、6fに送り出し、地下水流11の下流側で井戸1d、1e、1fよりも下流側に位置する井戸5d、5e、5fの注入口から汚染土壌領域内の土壌10に薬剤を注入する。溶存酸素水の注入、薬剤の注入は、それぞれ連続的に行う或いは定期的・断続的に行うことが可能であるが、地下水流11の流れが速い場合には連続注入すると好適である。
【0038】
上流側で注入された溶存酸素水は、井戸1d、1e、1fの周囲の土壌10に拡がり、土壌10を好気性として土壌10中の分解微生物を活性化し、井戸1d、1e、1fの周囲土壌10に含まれるシアンの分解を促進して汚染土壌を浄化する。更に、溶存酸素水と土壌10の地層間の地下水流11の流れにより、シアンが下流側に流され、シアンが地下水流11の下流側で濃縮される。この際、溶存酸素水と地下水流11の流れで下流側に移動しきれずに残留した希薄なシアンは、薬剤の添加が無くても、シアンを窒素源として利用し得る好気性従属栄養微生物などシアンを分解する分解微生物の活性化、増殖により、所要レベル以下に分解される。
【0039】
そして、下流側で加えられる薬剤は、井戸5d、5e、5fの周囲の土壌10に拡がり、土壌10中のシアンを窒素源として利用し得る好気性従属栄養微生物などシアンを分解する分解微生物を活性化し、井戸5d、5e、5fの周囲の土壌10に含まれるシアンの分解を促進して、地下水流11の下流側の土壌10で濃縮された高濃度シアンの分解を促進して汚染土壌を浄化する。
【0040】
第3実施形態のシアン汚染土壌の浄化設備及び浄化方法は、第1実施形態と同様の効果を奏することに加え、地下水流11の上流側の広範囲の汚染土壌領域では、溶存酸素水の注入により、汚染土壌を好気性として分解微生物を活性化し、シアンの分解を促進することができると共に、溶存酸素水と地下水流11の流れにより、広範囲のシアンを下流側に流してシアンを下流側に濃縮させることができる。そして、シアンが濃縮した下流側の広範囲の汚染土壌領域において薬剤を加えて分解微生物を活性化し、濃縮したシアンを分解することができ、広範囲の汚染土壌を行うことができる。
【実施例】
【0041】
〔実施例1〕
ここで、本発明によるシアン汚染土壌の浄化設備の模式的な実験結果について説明する。
シアンの溶出量が2.0mg/lのシアン汚染土壌を内径20mm長さ200mmの円筒容器に充填し、溶存酸素水と、分解微生物を活性化させる薬剤として炭素源である液糖とリン源であるリン酸二水素カリウムを混合した薬液を、上記円筒容器直前で混合した後、その混合液を前記円筒容器の下部から注入し、容器上部方向に0.5ml/minの速度で通水させた結果、前記円筒容器上部から流出してくる流出液のシアン濃度を1回/週で分析する。
1ヶ月後に土壌のシアン溶出量を分析したところ、排出されるシアン濃度は0.1mg/l未満であると共に、土壌中のシアン溶出量は0.1mg/l未満であった。
【0042】
〔比較例1〕
これに対して、実施例1と同じ土壌試料を円筒容器に充填し、同様の条件で溶存酸素水だけを注入して通水したところ、排出されてくるシアン濃度を1回/週で分析すると共に、1ヶ月後の土壌のシアン溶出量を分析したところ、排出されるシアン濃度は常に平均0.2mg/l以下であると共に、土壌中のシアン溶出量は0.4mg/lであった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、シアンで汚染された土壌の浄化に利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1、1a、1b、1c、1d、1e、1f…井戸 2、2a、2b、2c、2d、2e、2f…供給管 3、3a、3b、3c、3d、3e、3f…溶存酸素水貯留槽 4、4a、4b、4c、4d、4e、4f…ポンプ 5、5d、5e、5f…井戸 6、6d、6e、6f…供給管 7、7d、7e、7f…薬剤貯留槽 8、8d、8e、8f…ポンプ 10…土壌 11…地下水流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアンによる汚染土壌領域に設けられ、シアンを分解する分解微生物が存在する前記汚染土壌内に溶存酸素水を注入する溶存酸素水注入部と、
前記汚染土壌領域の地下水流の流れ方向で前記溶存酸素水注入部より下流側の前記汚染土壌領域に設けられ、前記汚染土壌内に前記分解微生物を活性化してシアンの分解を促進する薬剤を注入する薬剤注入部と、
を備えることを特徴とするシアン汚染土壌の浄化設備。
【請求項2】
前記薬剤注入部は、前記薬剤として炭素含有物質を前記汚染土壌内に注入することを特徴とする請求項1記載のシアン汚染土壌の浄化設備。
【請求項3】
前記溶存酸素水注入部を、前記汚染土壌領域の地下層に第1の経路を介して前記溶存酸素水を注入可能なものとし、
前記薬剤注入部を、前記汚染土壌領域の地下層に第2の経路を介して前記薬剤を注入可能なものとすることを特徴とする請求項1または2記載のシアン汚染土壌の浄化設備。
【請求項4】
前記溶存酸素水注入部を、前記薬剤注入部の上流側に前記地下水流の流れ方向に沿って間隔を開けて複数設けることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のシアン汚染土壌の浄化設備。
【請求項5】
前記溶存酸素水注入部を、前記地下水流の流れ方向と略直交する方向に間隔を開けて複数設け、
前記薬剤注入部を、前記地下水流の流れ方向と略直交する方向に間隔を開けて複数設けることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のシアン汚染土壌の浄化設備。
【請求項6】
シアンによる汚染土壌領域におけるシアンを分解する分解微生物が存在する汚染土壌内に溶存酸素水を注入し、
前記汚染土壌領域の地下水流の流れ方向で前記溶存酸素水注入箇所より下流側の前記汚染土壌内に前記分解微生物を活性化してシアンの分解を促進する薬剤を注入することを特徴とするシアン汚染土壌の浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−36835(P2011−36835A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−189224(P2009−189224)
【出願日】平成21年8月18日(2009.8.18)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】