説明

シェーグレン症候群診断用マーカー

【課題】涙液中のタンパク質の質量分布を測定することで、シェーグレン症候群であるかどうかを的確かつ簡易に検定する、同症候群の診断用マーカーを提供する。
【解決手段】本発明は、涙液中の質量数2094Da、2743Da、3483Da、4972Da、10860Da、14191Da、14702Da、16429Da、17453Daおよび17792Daのタンパク質を検定指標とするシェーグレン症候群診断用マーカーである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドナーから採取した涙液中のタンパク質の質量分布を測定するためのシェーグレン症候群の診断用マーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
シェーグレン症候群とは従来、乾性角結膜炎、口内乾燥症、慢性関節リウマチを三主要症状とする症候群に対して名づけられたものである。しかし、現在では唾液腺、涙腺などの外分泌腺の非特異的慢性炎症に起因する乾燥症候群のことをシェーグレン症候群という(非特許文献1参照)。
【0003】
本症候群は、膠原病や自己免疫疾患と合併することが多く、非合併例においても高γ−グロブリン血症、組織学的にリンパ球と形質細胞の浸潤、血清中にリウマチ因子、抗核抗体、抗SS−A抗体、抗SS−B抗体、抗甲状腺抗体、抗DNA抗体、抗唾液腺抗体などの多彩な自己抗体が検出され、液性免疫異常が見られる。また、遅延性皮膚アレルギー反応の低下、NK細胞活性や自己リンパ球混合培養反応の低下など細胞性免疫異常も見られることから、自己免疫疾患とみなす考えが有力である。
【0004】
さらに、最近、本症候群患者の血清中にEpstein-Barr Virus(EBV)関連抗体価の上昇が認められ、本症候群患者の涙液や唾液腺からEBV遺伝子が大量に検出されることなどから、ウイルス感染により異常な免疫反応が誘導され、生体の免疫反応が変化したり、感染したウイルスがヒトの自己抗原と共通抗原性をもち、分子相同性とよばれる現象を引き起こしたりして、本症候群を発症するとの考えもある。
【0005】
前述したように本症候群発生の原因は、種々考えられ未だその根本的な原因は明確になっていない(非特許文献2、非特許文献3参照)。
【0006】
本症候群の診断に関しては、1999年に日本シェーグレン研究会が設定したシェーグレン症候群の改訂診断基準がある。その基準は以下の通りである。
【0007】
1.生検病理組織検査で次のいずれかの陽性所見を認めること
A)口唇腺組織で4mm2あたり1focus(導管周囲に50個以上のリンパ球浸潤)以上
B)涙腺組織で4mm2あたり1focus(導管周囲に50個以上のリンパ球浸潤)以上
2.口腔検査で次のいずれかの陽性所見を認めること
A)唾液腺造影でStageI(直径1mm未満の小点状陰影)以上の異常所見
B)唾液分泌量低下(ガム試験にて10分間で10ml以下またはSaxonテストにて2分間で2g以下)であり、かつ唾液腺シンチグラフィーにて機能低下の所見
3.眼科検査で次のいずれかの陽性所見を認めること
A)Schirmer試験で5分間に5mm以下で、かつローズベンガル試験(van
Bijsterveld スコア)で3以上
B)Schirmer試験で5分間に5mm以下で、かつ蛍光色素試験で陽性
4.血清検査で次のいずれかの陽性所見を認めること
A)抗Ro/SS−A抗体陽性
B)抗La/SS−B抗体陽性
<診断基準>
上の4項目のうち、いずれか2項目以上を満たせばシェーグレン症候群と診断する(非特許文献4参照)、となっている。
【0008】
また、その他の本症候群の診断に関しては、次の方法などが知られている。例えば、涙液中のアクアポリン5を測定することにより、涙腺または唾液腺の病態を診断する方法および診断キットが特許文献1に、自己免疫疾患(シェーグレン症候群含む)患者の抗体と反応するHMG−1もしくはHMG−2ファミリーから選ばれるポリペプチドまたはそれらの断片を含有する診断薬が特許文献2に、α―フォドリンまたはα―フォドリン断片タンパク質またはそれらの塩を含んでなる自己免疫疾患(シェーグレン症候群含む)診断薬が特許文献3に開示されている。
【0009】
一方、涙液中のタンパク質の物性や性質を測定する方法としては、ドデシル硫酸ナトリウムのような変性剤の存在下、ポリアクリルアミドゲル中で行うSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法や充填剤の選択によりその測定効率を高めることができる高速液体クロマトグラフィー法などが知られている。しかしながら、いずれの方法も、タンパク質を分離精製した後に、その性質を分析することを目的としており、タンパク質の質量分布の変化に着目したものではない。また、涙液中のタンパク質の質量分布をプロテインチップシステムを用いて測定し、疾患との関係を明らかにする方法でもない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−97939号公報
【特許文献2】特開平10−82788号公報
【特許文献3】特開平10−251157号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】医学大辞典 761−762頁、南山堂 1996年2月1日 刊行
【非特許文献2】眼科診療プラクティス11 眼科治療薬ガイド、202−206頁、文光堂 1994年4月19日 刊行
【非特許文献3】眼科診療プラクティス32 眼疾患診療ガイド、701−702頁、文光堂 1997年10月28日 刊行
【非特許文献4】シェーグレン症候群診断の手技・手法マニュアル、3−5頁、日本シェーグレン研究会 2000年9月22日 刊行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、シェーグレン症候群は、膠原病や関節リウマチといった他の疾患と合併することが多く、シェーグレン症候群の診断を困難なものとしている。このような現状を鑑みて、本発明は、被験者に肉体的な負担を強いることなく、涙液中のタンパク質の質量分布を測定することで、シェーグレン症候群であるかどうかを的確かつ簡易に検定することができるシェーグレン症候群の診断用マーカーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、涙液中のタンパク質の質量分布に着目し、どのような質量数のタンパク質が、どのような状況で涙液中に増加または減少するかをプロテインチップシステムで測定し、そのタンパク質の分布量変化を確認することで、シェーグレン症候群患者に特有のタンパク質の分布量変化を見出し、その変化するタンパク質の質量数を特定することで本発明を完成させた。また、そのタンパク質の質量数とその分布量変化のパターンを観察することで、シェーグレン症候群患者のモニタリングが可能になること、およびそのパターンが、シェーグレン症候群診断用マーカーとして利用できることも併せて見出した。以下に本発明を詳述する。
【0014】
本発明における発明は、涙液中の2094Da、2743Da、3483Da、4972Da、10860Da、14191Da、14702Da、16429Da、17453Daおよび17792Daのタンパク質を検定指標とするシェーグレン症候群診断用マーカーである。
【0015】
本発明における涙液とは、ドナーから採取された涙液を意味する。
【0016】
本発明における涙液中のタンパク質とは、涙液中に発現しているタンパク質、そのタンパク質断片、ペプチドおよび2以上のタンパク質、そのタンパク質断片またはペプチドからなる会合体を意味する。
【0017】
シェーグレン症候群患者の検定方法とは、ドナーから採取した涙液中のタンパク質の質量分布を測定して、そのタンパク質の分布量を健常者の涙液中のタンパク質の分布量と比較することにより検定する方法を意味する。
【0018】
測定するタンパク質の質量分布は、シェーグレン患者特有のものであれば、特に制限はないが、測定するタンパク質の質量分布中心が2094Da、2743Da、3483Da、4972Da、10860Da、14191Da、14702Da、16429Da、17453Daおよび17792Daであることが好ましい。
【0019】
本発明における質量分布の測定には、タンパク質の質量分析が可能な汎用される装置またはシステムであれば、特に制限なく使用できる。例えば、四重極型質量分析計、飛行時間型質量分析計、四重極イオントラップ質量分析計、フーリエ変換型イオンサイクロトロン型質量分析計などの装置やプロテインチップと飛行時間型質量分析計および測定・解析に使用するソフトウェアがインストールされたコンピュータが一体となったプロテインチップシステム等が使用できる。好ましくは、飛行時間型質量分析計やプロテインチップシステムを使用することができ、特に好ましくは、Ciphergen社製のプロテインチップシステムを使用することができる。
【0020】
プロテインチップとは、タンパク質の解析に適した様々な性質をチップ表面に担持させた汎用されるプロテインチップであれば特に制限はない。例えば、タンパク質の発現解析や精製に用いられる疎水性型、陽イオン交換型、陰イオン交換型、金属イオン型、順相型等の化学的性質を有するケミカルチップ、特異的な結合(相互作用)を分析するために用いられる活性化型チップ、抗体型、レセプター型、DNA型等のバイオロジカルチップを使用できる。好ましくは、疎水性型、陽イオン交換型、陰イオン交換型、金属イオン型、順相型のケミカルチップを使用でき、特に好ましくは、陽イオン交換型、陰イオン交換型または金属イオン型のケミカルチップを使用することができる。
【0021】
シェーグレン症候群患者をモニタリングする方法とは、シェーグレン症候群患者の治療過程において、疾患の進行の程度および疾患の治癒の程度を確認する方法を意味する。
【0022】
より具体的には、本方法は、疾患の進行や治癒の過程で生じる涙腺組織の炎症や涙腺機能の低下といった現象を正確に把握することを補助し、より適切な時期に、より適切な薬剤を投与したり、適切な治療を施したりすることに応用することができる。
【0023】
本発明におけるシェーグレン症候群診断用マーカーとは、シェーグレン症候群を診断する時に診断指標となるシェーグレン患者に特有の涙液中のタンパク質分布パターンを意味する。
【0024】
より具体的には、該パターンをシェーグレン症候群診断用シートとしたり、それらパターンに関する情報をコンピュータプログラムの一部に組み込んだりすることができる。
【0025】
本発明のシェーグレン症候群診断用マーカーは、シェーグレン症候群治療薬の薬剤開発の為の評価指標(基準)等に使用することもできる。
【0026】
ドナーからの涙液の採取方法としては、涙液の採取方法として汎用されている方法であれば、特に制限はない。例えば、ろ紙、綿糸、セルロース膜等の不溶性支持担体やキャピラリーを使用して直接採取する方法、涙液を生理食塩水により洗い流すことで採取する方法等が挙げられる。好ましくはSchirmer試験用ろ紙を挙げることができる。
【0027】
プロテインチップへの涙液中タンパク質の担持に使用する結合用緩衝溶液としては、プロテインチップにタンパク質を担持する際に使用できる緩衝溶液であれば、特に制限はなく使用することができる。例えば、酢酸ナトリウム緩衝溶液、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン/塩化水素緩衝溶液、リン酸緩衝溶液等を使用することができる。
【0028】
エネルギー吸収分子としては、プロテインチップシステムで使用できるエネルギー吸収分子であれば、特に制限なく使用することができる。例えば、3,5−ジメトキシ−4−ヒドロキシケイ皮酸等を使用することができる。
【発明の効果】
【0029】
上記の結果より、本発明は、涙液中の質量分布中心が2094、2743、3483、4972、10860、14191、14702、16429、17453および17792Daのタンパク質の分布量変化を確認することで、シェーグレン症候群患者を検定することができ、また、それらのパターンをモニタリングすることで、シェーグレン症候群患者の治療過程における疾患進行の程度および疾患の治癒の程度の確認でき、さらに、そのパターンが、シェーグレン症候群患者診断用マーカーとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1(a)は、健常者から採取した涙液を使用して、陰イオン交換プロテインチップを用いて測定した、タンパク質の質量/電荷数(m/z)とピーク強度(peak intensity、発現しているタンパク質の量)の関係を示すスペクトルである。図1(b)は、シェーグレン症候群患者から採取した涙液を使用して、陰イオン交換プロテインチップを用いて測定した、タンパク質の質量/電荷数(m/z)とピーク強度(peak intensity、発現しているタンパク質の量)の関係を示すスペクトルである。
【図2】健常者21例、シェーグレン症候群中高度患者23例から採取した涙液を使用して、陰イオン交換プロテインチップを用いて測定した、タンパク質の質量/電荷数(m/z)とピーク強度(peak intensity、発現しているタンパク質の量)の関係をまとめて示すグラフである。
【図3】健常者21例、シェーグレン症候群中高度患者23例から得られた10個のタンパク質に対応する質量数のSS down-score(減少したSS indexの合計/7)、SS up-score(増加したSS-indexの合計/3)をパラメータとして臨床的診断価値を評価した結果を示すグラフである。
【図4】健常者21例、シェーグレン症候群中高度患者23例から得られた7個のタンパク質に対応する質量数のSS down-score(減少したSS indexの合計/7)と、シェーグレン症候群の重症度分類に用いられるローズベンガル試験との相関を示すグラフである。
【図5(a)】健常者から採取した涙液を使用して、陰イオン交換プロテインチップを用いてpH4.0から8.0で測定した、タンパク質の等電点を求めるスペクトルである。タンパク質は、その等電点でプロテインチップとの結合力を失う。
【図5(b)】シェーグレン症候群患者から採取した涙液を使用して、陰イオン交換プロテインチップを用いてpH4.0から8.0で測定した、タンパク質の等電点を求めるスペクトルである。タンパク質は、その等電点でプロテインチップとの結合力を失う。
【図5(c)】シェーグレン症候群患者から採取した涙液を使用して、陰イオン交換プロテインチップを用いてpH4.0から8.0で測定した、タンパク質の等電点を求めるスペクトルである。タンパク質は、その等電点でプロテインチップとの結合力を失う。
【図5(d)】シェーグレン症候群患者から採取した涙液を使用して、陰イオン交換プロテインチップを用いてpH4.0から8.0で測定した、タンパク質の等電点を求めるスペクトルである。タンパク質は、その等電点でプロテインチップとの結合力を失う。
【図5(e)】健常者から採取した涙液を使用して、陰イオン交換プロテインチップを用いてpH4.0から8.0で測定した、タンパク質の等電点を求めるスペクトルである。タンパク質は、その等電点でプロテインチップとの結合力を失う。
【図5(f)】健常者から採取した涙液を使用して、陰イオン交換プロテインチップを用いてpH4.0から8.0で測定した、タンパク質の等電点を求めるスペクトルである。タンパク質は、その等電点でプロテインチップとの結合力を失う。図5(a)、(e)および (f)は同一健常者のものであり、図5(b)、(c)、(d)およびは同一シェーグレン症候群患者のものである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に実施例に基づき、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0032】
(実施例)
シェーグレン症候群患者と健常者の涙液中のタンパク質の質量分布およびそれらの分布量について検討した。
【0033】
1.涙液の採取方法、涙液サンプルの調製およびプロテインチップへの涙液中サンプルの担持:
1)涙液をろ紙で採取した後、そのろ紙にリン酸緩衝溶液50μlを加え、遠心操作(10000rpm)を行うことで、その涙液を回収した。
【0034】
2)回収した涙液を結合用緩衝溶液で最終的に30倍希釈とし、バイオプロセッサーに装着したプロテインチップのチップスポットに24μl添加した。
【0035】
3)それを室温にて20分間インキュベートし、次いで、チップスポットを結合用緩衝溶液で3回、精製水で2回洗浄し、アフィニティーのないタンパク質や塩を除去した。
【0036】
4)最後に、チップスポットにエネルギー吸収分子である3,5−ジメトキシ−4−ヒドロキシケイ皮酸0.5μlを2回添加した。
【0037】
尚、結合用緩衝溶液は、使用するプロテインチップの種類により異なるので、陽イオン交換型プロテインチップを使用する場合には、pH4およびpH6の50mM 酢酸ナトリウム緩衝溶液を、陰イオン交換プロテインチップ型を使用する場合には、pH8の50mM トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン/塩化水素緩衝溶液、pH6の50mM 酢酸ナトリウム緩衝溶液を、金属イオン交換型プロテインチップを使用する場合には、リン酸緩衝溶液を使用した。
【0038】
2.測定方法
1.の方法により涙液サンプルを担持させたプロテインチップを飛行時間型質量分析計(TOF-MS)を利用したCiphergen社製のプロテインチップシステムのプロテインチップリーダにセットし、涙液サンプル中に発現しているタンパク質の質量数および、その量を測定した。
【0039】
尚、質量/荷電比(m/z)はパゾプレシン(1084.2Da)、ソマトスタチン(1637.9Da)、牛インスリンβ鎖(3495.9Da)、ヒトインスリン(5807.6Da)、牛ユビキチン(8564.8Da)および牛チトクロームc(12230.6Da)を用いて校正し、決定した。
【0040】
3.シェーグレン患者の臨床評価法
健常者およびシェーグレン症候群患者の角膜上皮障害の程度は、汎用されるローズベンガル(rose bengal)試験を用いて、0−9点でスコア化して評価した。
【0041】
4.測定結果およびその比較
1)涙液サンプルとして、健常者から採取した涙液を使用して、上記1.および2.の操作を陰イオン交換プロテインチップ(Ciphergen社製WCX2,pH4.0)を用いて実施した。代表的な一例の測定結果を図1(a)に示す。2094、2743、14191、14702、16429、17453および17792m/zのタンパク質の発現が見られた。尚、図1(a)中の2Hは2荷電分子である。
【0042】
2)涙液サンプルとして、シェーグレン症候群患者から採取した涙液を使用して、上記1.および2.の操作を陰イオン交換型プロテインチップ(Ciphergen社製WCX2,pH4.0)を用いて実施した。代表的な一例の測定結果を図1(b)に示す。図1(a)で見られた7種のタンパク質の量はいずれも低下し、新たに3483、4972および10860m/zのタンパク質が発現した。
【0043】
3)涙液サンプルとして、健常者21例とシェーグレン症候群患者23例から採取した涙液を使用して、上記1.および2.の操作を陰イオン交換プロテインチップ(Ciphergen社製WCX2,pH4.0)を用いて実施した。この結果を図2にまとめて示す(平均±SD)。健常者と比較し、シェーグレン症候群患者では、2094、2743、14191、14702、16429、17453および17792m/zm/zのタンパク質の量が有意に低下し(p<0.01)、一方3483、4972および10860m/zのタンパク質の量は有意に増加した(p<0.01)。
【0044】
4)前述の10タンパク質に対応する質量数のSS index(シェーグレン症候群症例のintensity/正常者の平均intensity)、SS down-score(減少したSS indexの合計/7)、SS up-score(増加したSS-indexの合計/3)をパラメータとして臨床的診断価値を評価した。この結果を図3に示す。SS up-score、SS down-scoreともにシェーグレン症候群と他の対照群との間には有意差があった。SS down-score 0.5をカットオフ値とすると、シェーグレン症候群の診断に対して特異度100%、感度87%となった。
【0045】
また、ローズベンガル試験とSS down-scoreとの相関を図4に示す。両者間にはr=-0.77の有意の負の相関がみられた(p<0.00002)。
【0046】
5)涙液サンプルとして、健常者およびシェーグレン症候群患者から採取した涙液を使用して、上記1.および2.の操作を陰イオン交換型プロテインチップ(Ciphergen社製WCX2)を用いて実施した。結合用緩衝溶液のpHを4.0から8.0の範囲で変化させ、タンパク質とチップとの結合が消失したpHをpI値(等電点)とした(図5中の*印参照)。この測定結果を図5(a)、(b)、(c)、(d)、(e)および(f)に示す。図5(a)、(e)および (f)は同一健常者のものであり、図5(b)、(c)および(d)は同一シェーグレン症候群患者のものである。
【0047】
図1、図2、図3、図4および図5に基づき、シェーグレン症候群患者の涙液中のタンパク質の質量数分布およびその量と健常者の涙液中のタンパク質の質量数分布およびその量とを比較検討した。
【0048】
その結果、図1および図2に示すように、健常者で分泌されている2094、2743、14191、14702、16429、17453および17792m/zのタンパク質の量が、シェーグレン症候群患者では減少することから、これらのタンパク質はシェーグレン症候群涙液腺組織の分泌機能障害を示す疾患マーカーであることが明らかとなった。
【0049】
さらに、図1および図2に示すように、健常者では発現の少ない3483、4972および10860m/zのタンパク質の量が、シェーグレン症候群患者では増加していることから、これらのタンパク質はシェーグレン症候群涙液腺組織の障害因子の存在を示す疾患マーカーであることが明らかとなった。
【0050】
さらに、図3に示すように、10個のタンパク質を総合的に評価したSS down-scoreやSS up-scoreを用いることにより、シェーグレン症候群の診断が可能であることが明らかとなった。
【0051】
さらに、図4に示すように、シェーグレン症候群の重症度分類に用いられるローズベンガル試験とSS down-scoreとが有意の相関を認めたことから、SS down-scoreを用いることにより、シェーグレン症候群の重症度を評価できることが明らかとなった。
【0052】
さらに、図5に示すように、各タンパク質は下記の特徴的なpI値(等電点)を示すことが明らかとなった。2094、2743m/z(図5(a))および17453、17792m/z(図5(f))のpIは4.4〜4.8、3483m/z(図5(b))のpIは4.0〜4.4、4972m/z(図5(c))のpIは4.8〜5.2、10860m/z(図5(d))のpIは5.6〜6.0、14702m/z(図5(e))のpIは8.0以上である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
涙液中の質量数2094Da、2743Da、3483Da、4972Da、10860Da、14191Da、14702Da、16429Da、17453Daおよび17792Daのタンパク質を検定指標とするシェーグレン症候群診断用マーカー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5(a)】
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【図5(b)】
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【図5(c)】
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【図5(d)】
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【図5(e)】
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【図5(f)】
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【公開番号】特開2010−243505(P2010−243505A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160324(P2010−160324)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【分割の表示】特願2004−170652(P2004−170652)の分割
【原出願日】平成16年6月9日(2004.6.9)
【出願人】(508206933)
【Fターム(参考)】