シクロジペプチド合成酵素及びシクロ(TYR−Xaa)シクロジペプチドの合成のためのその使用
シクロジペプチドの合成に関与する単離された、天然の、又は合成のポリヌクレオチド及び該ポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド、該ポリヌクレオチド又は任意の実質的に相同なポリヌクレオチドを含む組換えベクター、該ポリヌクレオチド又は該組換えベクターで改変された宿主細胞、並びにシクロジペプチド、特にシクロ(Tyr-Xaa)シクロジペプチド(ここで、Xaaは任意のアミノ酸である)及びその誘導体のインビトロ及びインビボでの合成方法、並びにそれらの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロジペプチドの合成に関わる、単離された、天然の又は合成のポリヌクレオチド及び該ポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド、該ポリヌクレオチド又はいずれの実質的に相同なポリヌクレオチドを含む組換えベクター、該ポリヌクレオチド又は組換えベクターで改変された宿主細胞、並びにシクロジペプチド、特にシクロ(Tyr-Xaa)シクロジペプチド(ここで、Xaaは任意のアミノ酸である)及びその誘導体をインビトロ又はインビボで合成する方法に関する。
【0002】
本発明の目的のために、用語「ジケトピペラジン誘導体」又は「DKP」又は「2,5-DKP」又は「環状ジペプチド」又はシクロジペプチド又は「環状ジアミノ酸」の用語は、ジケトピペラジン(ピペラジン-2,5-ジオン又は2,5-ジオキソピペラジン)環を有する分子を意味することを意図する。α,β-脱水素されたシクロジペプチド誘導体の具体的な場合は、置換基R1及びR2は、α,β-不飽和アミノアシル側鎖である(図1)。このような誘導体は、以下、「Δ」誘導体という。
【背景技術】
【0003】
DKP誘導体は、細菌、酵母、糸状菌及び苔蘚のような多くの生物により天然に生成される、増加している化合物のファミリーを構成する。他にも海綿及びヒトデのような海洋生物から単離されている。これらの誘導体の例であるシクロ(L-His-L-Pro)は、哺乳動物に存在することが示されている。
【0004】
DKP誘導体は、単純なシクロジペプチドからさらにより複雑な構造まで、非常に多様な構造を有する。単純なシクロジペプチドは、DKP誘導体のわずかな部分のみを構成し、この大部分は、主環及び/又は側鎖が多くの修飾:炭素ベース、ヒドロキシ、ニトロ、エポキシ、アセチル又はメトキシ基の導入、及びジスルフィド架橋又は複素環の形成を含む、より複雑な構造を有する。2つの炭素間の二重結合の形成も非常に多い。海洋起源のある誘導体はハロゲン原子を含んでいる。
【0005】
有用な生物学的特性が、いくつかのDKP誘導体について既に示されている。ビシクロマイシン(Bicozamine (商標))は、子牛及びブタで下痢を予防するための食品添加物として用いられる抗菌剤である(Magyarら, J. Biol. Chem, 1999, 274, 7316〜7324)。グリオトキシンは、組織拒絶の原因である免疫細胞の選択的エクスビボ除去のために評価された免疫抑制特性を有する(Waringら, Gen. Pharmacol., 1996, 27, 1311〜1316)。アンベウェルアミド(ambewelamides)、バーティシリン(verticillin)及びフェニラヒスチン(phenylahistin)のようないくつかの化合物は、種々の機構を伴う抗腫瘍活性を示す(Chuら, J. Antibiot. (Tokyo), 1995, 48, 1440〜1445 ; Kanohら, J. Antibiot. (Tokyo), 1999, 52, 134〜141; Williamsら, Tetrahedron Lett., 1998, 39, 9579〜9582)。
【0006】
ストレプトミセス・ノウルセイ(Streptomyces noursei)により生成されるアルボノウルシン(albonoursin)のようなその他の多くものが、抗菌活性を示す(Fukushimaら, J. Antibiot. (Tokyo), 1973, 26, 175〜176)。シクロ(Tyr-Tyr)及びシクロ(Tyr-Phe)は、心臓作用薬の可能性があることが示された:シクロ(Tyr-Tyr)は強心薬の可能性があり、シクロ(Tyr-Phe)は心臓抑制剤である(Kilianら, Pharmazie, 2005, 60, 305〜309)。これらの2つのシクロジペプチドは、受容体相互作用剤としても試験され、2つの化合物が、オピオイド受容体への著しい結合を示すことが見出された(Kilianら, 2005, 既出)。さらに、これらは、抗腫瘍薬としても評価され、シクロ(Tyr-Phe)は、3つの異なる培養株化細胞の成長阻害を誘導することが示された(Kilianら, 2005, 既出)。シュードモナス・エルギノサ(Pseudomonas aeruginosa)により生成されるシクロ(ΔAla-L-Val)が、細菌間伝達シグナルに関与し得ることが記載されている(Holdenら, Mol. Microbiol., 1999, 33, 1254〜1266)。他の化合物は、病原性微生物の毒性に関与するか、又は鉄に結合するか、又は神経生物学的特性を有すると記載されている(Kingら, J. Agr. Food Chem., 1992, 40, 834〜837; Sammes, Fortschritte der Chemie Organischer Naturstoffe, 1975, 32, 51〜118; Alvarezら, J. Antibiot., 1994, 47, 1195〜1201)。
【0007】
既知のDKPの数は着実に増加しているが、これらの化合物の生合成経路は、いまだにほとんど探索されておらず、これらの合成についてほとんど知識が得られていないこととなっている。
【0008】
現在までに報告されているいくつかの件において、DKPの合成は、直線状ジペプチドから自発的に生じ、これについては、N-アルキル化アミノ酸又はプロリン残基の存在下ではペプチド結合のシス立体配置が好ましい。このような自発的環化は、ペプチド合成酵素メガ複合体上でのペプチド伸長の間のチオエステル結合の不安定さのために、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)におけるグラミシジンS及びチロシジンAの非リボソームペプチド合成の経過においても観察されている(Schwarzerら, Chem. Biol, 2001, 8, 997〜1010)。つまり、自発的DKP形成の既知の機構のすべてにおいて、前駆体ジペプチドの1次構造、特にそのペプチド結合の立体配置は、DKP環の形成が起こるため、及び最終的なDKP誘導体の生成をもたらす手順のための基本的な要件であるようである。
【0009】
しかし、このような自発的環化反応は、プロリン残基又はN-アルキル化残基を含まないDKP誘導体の大多数の生合成を説明できない。
【0010】
DKP誘導体の既知の製造方法は、化学合成、天然の製造者である生物からの抽出及び酵素的な方法を含む:
- 化学的な方法は、DKP誘導体を合成するために用いることができるが(Fischer, J. Pept. Sci., 2003, 9, 9〜35)、これらは、保護されたアミノアシル前駆体の使用をしばしば必要とし、かつ立体化学的な完全性の損失を導くので、費用及び効率の点で不利であるとみなされている。さらに、これらは、大量の有機溶媒などを使用するので、環境に優しい方法ではない。
【0011】
- 天然の製造者である生物からの抽出は、用いることができるが、天然生成物中の所望のDKP誘導体の含量がしばしば低いので、生産性は低いままである。
【0012】
- 酵素的な方法、すなわちインビボ(例えばシクロジペプチドを合成する酵素を発現する微生物の培養、又は培養培地から単離した微生物細胞)、又はインビトロ(例えば精製されたシクロジペプチドを合成する酵素)のいずれかで酵素を用いる方法を、用いることができる。シクロジペプチドを生成することが知られている酵素は、非リボソームペプチド合成酵素(以下、NRPSという) (Gruenewaldら, Appl. Environ. Microbiol., 2004, 70, 3282〜3291)、及びシクロジペプチド合成酵素(CDS)であるAlbCである(Lautruら, Chem. Biol., 2002, 9, 1355〜1364; 国際出願WO 2004/000879号)。
【0013】
NRPSを用いる酵素的な方法は、特定のシクロジペプチドを生成することが既に報告されている。バチルス・ブレビスからのバイモジュラー複合体TycA/TycB1をコードする2つの遺伝子(Mootz及びMarahiel, J. Bacteriol., 1997, 179, 6843〜6850)を、大腸菌(Escherichia coli)において同時発現させ、シクロ(DPhe-Pro)の生成を上昇させた(Gruenewaldら, Appl. Environ. Microbiol., 2004, 70, 3282〜3291)。シクロジペプチドは安定であり、大腸菌に対して毒性でなく、培養培地中に分泌された。しかし、NRPSを用いる方法は、N-アルキル化残基を含むシクロジペプチドの生成に本質的に限定されているようである。さらに、NRPSを利用する方法は、実行が困難である:NRPSは、大きいマルチモジュラー酵素複合体であり、これらは遺伝子的又は生化学的なレベルのいずれにおいても操作が容易でない。
【0014】
AlbCを利用する酵素的な方法も、特定のシクロジペプチドを生成すると記載されている。異種宿主であるストレプトミセス・リビダンス(Streptomyces lividans) TK21又は大腸菌によるストレプトミセス・ノウルセイからのAlbCの発現は、2つのシクロジペプチド、シクロ(Phe-Leu)及びシクロ(Phe-Phe)の生成を導き、これらは培養培地に分泌された(Lautruら, Chem. Biol., 2002, 9, 1355〜1364)。AlbCは、2つのアミノアシル誘導体の縮合を触媒して、N-アルキル化された残基を含むか又は含まないシクロジペプチドを、未知の機構により形成する。このことは、非リボソームペプチド合成酵素に関係しない特定の酵素がDKP誘導体の形成を触媒できることを明確に示している。AlbCは、DKPモチーフの形成に直接関与する酵素の最初の例である。
【0015】
さらに、得られたシクロ(Phe-Leu)シクロジペプチドは、天然の基質シクロ(L-Phe-L-Leu)から始まってまずシクロ(ΔPhe-L-Leu)に導き、最後にアルボノウルシンに相当するシクロ(ΔPhe-ΔLeu)まで導く2段階の連続反応でアルボノウルシンの形成を特異的に触媒する環状ジペプチドオキシダーゼ(CDO)の存在下で、ストレプトミセス・ノウルセイにより生成される抗生物質であるシクロ(α,β-デヒドロ-ジペプチド)、すなわちアルボノウルシン又はシクロ(ΔPhe-ΔLeu)に変換され得る(Gondryら, Eur. J. Biochem., 2001, 268, 1712〜1721)。上記のCDOは、種々のシクロジペプチドを、α,β-デヒドロジペプチドにも変換し得る(Gondryら, Eur. J. Biochem., 2001, 既出)。
【0016】
DKP誘導体は、種々の生物学的機能を示すので、新規な薬剤、食品添加物などの発見及び開発のために有用な物質である。よって、これらの化合物を大量に入手可能とできることは、必要である。
【0017】
ジケトピペラジン誘導体の天然の合成についての経路の理解は、製造者である生物における道理に基づいた遺伝的改良を可能にし、生成及び精製収率の最適化により、現存する合成手順の置き換え又は改良(化学的又は生物工学的経路により)についての展望を開くだろう。さらに、ジケトピペラジン誘導体の生合成経路に関わる酵素の性質及び/又は特異性の改変は、元来の分子構造と最適化された生物学的特性とを有する新規な誘導体の創出をもたらし得る。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、シクロ(Tyr-Xaa)シクロジペプチド(ここで、Xaaは任意のタンパク質由来(proteinogenic)又は非タンパク質由来のアミノ酸であり、好ましくは、Xaaは、芳香族又はアルキル側鎖を有するアミノ酸から選択され、さらにより好ましくは、XaaはTyr、Phe、Trp及びAlaから選択される)の形成を触媒できるシクロジペプチドを合成する新しい酵素(又はシクロジペプチド合成酵素、CDS)ファミリーを今回同定した。
【0019】
よって、本発明の目的は、
- 2つのアミノ酸Tyr及びXaa (ここで、Xaaは任意のアミノ酸である)からシクロ(Tyr-Xaa)シクロジペプチドを生成する能力を有し、かつ
- 配列番号3の配列のポリペプチドと、少なくとも40%の同一性又は少なくとも60%の類似性を有するポリペプチド配列を含む
ことを特徴とする、単離されたシクロジペプチド合成酵素である。
【0020】
好ましくは、本発明のシクロジペプチド合成酵素は、配列番号3の配列と、少なくとも50%の同一性又は少なくとも70%の類似性、さらにより好ましくは少なくとも60%の同一性又は少なくとも80%の類似性、さらにより好ましくは少なくとも70%の同一性又は少なくとも90%の類似性を有するポリペプチド配列を含む。
【0021】
好ましくは、本発明のシクロジペプチド合成酵素は、配列番号3の配列のポリペプチドと、少なくとも75%の同一性又は少なくとも95%の類似性、より好ましくは少なくとも80%の同一性又は少なくとも98%の類似性、最も好ましくは少なくとも90%の同一性又は少なくとも99%の類似性を有するポリペプチド配列を含む。
【0022】
本発明の有利な実施形態によると、上記の本発明の単離されたシクロジペプチド合成酵素は、配列番号3、配列番号4及び配列番号6の配列からなる群より選択される。
本発明の別の実施形態によると、上記のシクロジペプチド合成酵素は、配列番号4以外のポリペプチド配列を有する。
【0023】
本明細書において定義される同一性のパーセンテージ及び類似性のパーセンテージは、BLASTプログラムを用いて(blast2seq、デフォルトパラメータ) (Tatutsova及びMadden, FEMS Microbiol Lett., 1999, 174, 247〜250)、配列番号3の配列の全長からなる比較ウインドウで、好ましくはそれらを配列番号3の長さの少なくとも90%であるオーバーラップ、すなわち217アミノ酸のオーバーラップに対して計算することにより、得ることができる。
【0024】
本発明の別の目的は、
a) 上記で定義される本発明のシクロジペプチド合成酵素をコードするポリヌクレオチド;
b) ポリヌクレオチドa)の相補ポリヌクレオチド;
c) ストリンジェントな条件下で、ポリヌクレオチドa)又はb)とハイブリッド形成するポリヌクレオチド
から選択される単離されたポリヌクレオチドである。
【0025】
上記の単離されたポリヌクレオチドは、有利には、ストリンジェントな条件下で、配列番号1のポリヌクレオチド配列の相補ポリヌクレオチドにハイブリッド形成し、シクロ(Tyr-Xaa) (ここで、Xaaは任意のアミノ酸である)を生成する能力を有するシクロジペプチドを合成する酵素をコードする。
【0026】
本明細書で用いる場合、用語「ハイブリッド形成する」は、ポリヌクレオチドが記載される核酸配列又はその一部分とハイブリッド形成する経過のことである。よって、上記の核酸配列は、RNA又はDNA調製物のそれぞれノザン又はサザンブロット分析においてプローブとして有用であり得るか、或いはそれらのそれぞれのサイズに応じて、PCR分析におけるオリゴヌクレオチドプライマーとして用い得る。好ましくは、上記のハイブリッド形成するポリヌクレオチドは、少なくとも10、より好ましくは少なくとも15ヌクレオチドを含み、プローブとして用いられる本発明のハイブリッド形成するポリヌクレオチドは、好ましくは少なくとも100、より好ましくは少なくとも200、より好ましくは少なくとも500ヌクレオチドを含む。
【0027】
当該技術において、核酸分子を用いてどのようにしてハイブリッド形成実験を行うかは公知であり、すなわち、当業者は、本発明に従って、どのハイブリッド形成条件を用いなければならないかを知っている。このようなハイブリッド形成条件は、Sambrookら, Molecular Cloning: A Laboratory Manual; Cold Spring Harbor Laboratory Press, 第2版 1989及び第3版 2001; Gerhardtら; Methods for General and Molecular Bacteriology; ASM Press, 1994; Lefkovits; Immunology Methods Manual: The Comprehensive Sourcebook of Techniques; Academic Press, 1997; Golemis; Protein-Protein Interactions: A Molecular Cloning Manual; Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2002のような標準的な参考書、及び当業者に知られる他の標準的な実験手引書又は上記で引用されるものに記載される。本発明に従って好ましいものは、ストリンジェントなハイブリッド形成条件である。
【0028】
「ストリンジェントなハイブリッド形成条件」とは、例えば、50%ホルムアミド、5×SSC (750 mM NaCl, 75 mMクエン酸ナトリウム)、50 mMリン酸ナトリウム(pH 7.6)、5×デンハルト溶液、10%硫酸デキストラン、及び20μg/ml変性断片化サケ精子DNAを含む溶液中で42℃にて一晩のインキュベーションと、それに続く例えば0.2×SSC中で約65℃でのフィルタの洗浄のことである。
【0029】
また、低ストリンジェンシーハイブリッド形成条件でハイブリッド形成する核酸分子も構想される。ハイブリッド形成及びシグナル検出のストリンジェンシーの変化は、ホルムアミド濃度;塩条件、又は温度の操作によりまず達成される。例えば、より低いストリンジェンシー条件は、6×SSPE (20×SSPE = 3 mol/l NaCl; 0.2 mol/l NaH2PO4; 0.02 mol/l EDTA, pH 7.4)、0.5% SDS、30%ホルムアミド、100μg/mlサケ精子ブロッキングDNAを含む溶液中で37℃にて一晩のインキュベーションと、それに続く1×SSPE、0.1% SDSで50℃での洗浄を含む。
【0030】
さらに、さらにより低いストリンジェンシーを達成するために、ストリンジェントなハイブリッド形成の後に行う洗浄を、より高い塩濃度(例えば5×SSC)で行うことができる。上記の条件の変動は、ハイブリッド形成実験におけるバックグラウンドを抑制するために用いられるブロッキング試薬の使用及び/又は別のブロッキング試薬への交換により達成し得る。典型的なブロッキング試薬は、デンハルト試薬、BLOTTO、ヘパリン、変性サケ精子DNA、及び市販で入手可能な特許登録された処方を含む。
【0031】
本発明の単離されたポリヌクレオチドの例は、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)から単離されたRv2275遺伝子として知られる配列に相当し(配列番号2は、GenBankアクセッション番号GI:57116681のマイコバクテリウム・ツベルクローシスH37Rv完全ゲノムの2546883位〜2547752位に相当する)、かつ配列番号4の配列のシクロジペプチド合成酵素をコードする配列番号2の配列のポリヌクレオチドである。異なるデータベースで入手可能な情報は、単離されておらず、その機能が同定されていない推定タンパク質に関するものである。
【0032】
本発明の単離されたポリヌクレオチドの別の例は、2番目のコドンが(配列番号2におけるTCAコドンの代わりに)GCAコドンである配列番号2の変異型に相当し、かつ2番目のアミノ酸がAlaである(Serの代わりに)配列番号6の配列のシクロジペプチド合成酵素をコードする配列番号5の配列のポリヌクレオチドである。本発明の単離されたポリヌクレオチドのさらなる例は、49番目のコドン(TTT)から始まり、49番目のコドンがATGコドンで置き換えられ、50番目のコドンが変化していない(CAG)か又はGAGコドンで置き換えられており、かつ2番目のアミノ酸がGln又はGluのいずれかである配列番号3の配列のシクロジペプチド合成酵素の短縮形をコードする配列番号2の5'短縮配列に相当する配列番号1の配列のポリヌクレオチドである。
【0033】
本発明の別の実施形態によると、上記のポリヌクレオチドは、配列番号2以外のポリヌクレオチド配列を有する。
【0034】
本発明の単離されたポリヌクレオチドは、DNAライブラリー、特にマイコバクテリウムDNAライブラリー、例えばマイコバクテリウム・ツベルクローシス又はマイコバクテリウム・ボビス(Mycobacterium bovis) DNAライブラリーから、プローブとして配列番号1を用いて得ることができる。本発明のポリヌクレオチドは、マイコバクテリウム、特にマイコバクテリウム・ツベルクローシス又はマイコバクテリウム・ボビスのトータルDNAに対して行うポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により得ることができるか、又はマイコバクテリウム、特にマイコバクテリウム・ツベルクローシス又はマイコバクテリウム・ボビスのトータルRNAに対して行うRT-PCRにより得ることができる。
【0035】
本発明の別の目的は、上記で定義される本発明のポリヌクレオチドを含むことを特徴とする組換えベクターである。
用いられるベクターは、従来技術で知られるいずれのベクターであり得る。本発明に従って用い得るベクターとしては、特に、プラスミド、コスミド、細菌人工染色体(BAC)、放線菌類の組込み要素、ウイルス又はバクテリオファージが挙げられる。
【0036】
上記のベクターは、ベクターの複製及び/又はポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドの発現のために要求される任意の調節配列(プロモーター、終結部位など)も含み得る。
【0037】
本発明の別の目的は、上記で定義されるポリヌクレオチド又は本発明の組換えベクターが導入された改変宿主細胞である。
このような改変宿主細胞は、原核生物又は真核生物を宿主として用いる任意の既知の異種発現系であり得、原核生物が好ましい。例えば、動物又は昆虫細胞、好ましくは微生物、特に大腸菌のような細菌が挙げられる。
【0038】
本発明の別の目的は、上記で定義される本発明のポリヌクレオチド又は組換えベクターの、上記で定義される改変宿主細胞の調製のための使用である。
本発明によるポリヌクレオチド又は組換えベクターの、改変される宿主細胞への導入は、任意の既知の方法、例えばトランスフェクション、インフェクション、融合、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション又は遺伝子銃により行うことができる。
【0039】
本発明の別の目的は、上記で定義される本発明のシクロジペプチド合成酵素の、シクロジペプチド及びその誘導体の製造のための使用である。
上記で定義される本発明のシクロジペプチド合成酵素の上記の使用の有利な実施形態によると、上記のCDSは、特定のシクロジペプチドであるシクロ(Tyr-Tyr)、シクロ(Tyr-Phe)、シクロ(Tyr-Trp)及びシクロ(Tyr-Ala)を製造するために用いられる。
【0040】
別の態様において、本発明は、
(1) 同じ又は異なっていてよい2つのアミノ酸Tyr及びXaa又はそれらの誘導体を、適切な条件下で、上記で定義される本発明のシクロジペプチド合成酵素とインキュベートし、
(2) このようにして得られたシクロ(Tyr-Xaa)シクロジペプチドを回収する
ことを含むことを特徴とする、シクロ(Tyr-Xaa)シクロジペプチド(ここで、Xaaは任意のアミノ酸である)の合成方法に関する。
【0041】
用語「適切な条件」は、好ましくは、その条件下でアミノ酸と本発明のシクロジペプチド合成酵素とがインキュベートされて、上記のシクロジペプチドの合成が可能になる適切な条件(濃度、pH、緩衝液、温度、反応時間など)を意味することを意図する。
【0042】
アミノ酸及びシクロジペプチド合成酵素の適切な濃度の例は、次のとおりである:アミノ酸(Tyr及びXaa)は、0.1 mM〜100 mM、好ましくは1 mM〜10 mMの濃度;本発明のシクロジペプチド合成酵素は、0.1 nM〜100μM、好ましくは1μM〜100μMの濃度である。
【0043】
適切な緩衝液の例は、可溶性原核細胞抽出液を補った150 mM NaCl、10 mM ATP、20 mM MgCl2を含む100 mM Tris-HClである。
適切なpHは、6と8の間の範囲であり、適切な温度は、20と40℃の間の範囲であり、適切な時間は、12と24時間の間の範囲である。
【0044】
よって、上記の方法を行う好ましい実施形態によると、工程(1)は、0.1 mM〜100 mM、好ましくは1 mM〜10 mMの濃度の適切なアミノ酸、0.1 nMと100μMの間、好ましくは1μM〜100μMの濃度の本発明によるシクロジペプチド合成酵素の存在下で、6と8の間のpHで、かつシクロジペプチド合成酵素を生成しない大腸菌又はストレプトミセス(Streptomyces)細胞のような原核細胞の可溶性抽出物を含む緩衝液中で行われる。
【0045】
α,β-脱水素されたシクロペプチド誘導体は、Gondryら(Eur. J. Biochem., 2001, 既出)又は国際PCT出願WO 2004/000879号に記載される方法に従って、上記のシクロジペプチドから得ることができる。
例えば、5 10-3単位の量のCDOを、上記の方法により用いられる緩衝液に加える。1単位のCDOは、標準アッセイ条件下で、1分あたりに1μmolのシクロ(ΔPhe-His)の形成を触媒する量として定義された(Gondryら, Eur. J. Biochem., 2001, 268, 4918〜4927)。
【0046】
よって、上記の方法の好ましい実施形態によると、該方法は、
(1') 同じ又は異なっていてよい2つのアミノ酸Tyr及びXaaを、上記で定義される適切な条件下で、本発明によるシクロジペプチド合成酵素及び精製されたCDOとインキュベートし、
(2') α,β-脱水素されたシクロペプチドを回収する
ことを含む。
【0047】
シクロジペプチド、又はα,β-脱水素されたその誘導体の合成方法の別の好ましい実施形態によると、シクロジペプチド合成酵素の合成のための本発明のポリヌクレオチドの使用からなる予備的工程(P)を、工程(1)又は工程(1')の前に行う。
【0048】
シクロジペプチド、又はα,β-脱水素されたその誘導体の合成方法は、任意の適切な生物学的な系、特に例えば微生物、例えば大腸菌又はストレプトミセス・リビダンスのような細菌において、或いは原核生物又は真核生物を宿主として用いる任意の既知の異種発現系、若しくは無細胞系において行い得る。好ましい実施形態によると、シクロジペプチド及びα,β-脱水素されたその誘導体の合成方法は、本発明のシクロジペプチド合成酵素を発現する本発明の改変宿主細胞の培養において行われる。
【0049】
本発明の別の目的は、上記で定義される本発明の改変宿主細胞の、シクロ(Tyr-Xaa)シクロジペプチド、特にシクロ(Tyr-Tyr)、シクロ(Tyr-Phe)、シクロ(Tyr-Trp)及びシクロ(Tyr-Ala)、並びにそれらのα,β-脱水素された誘導体の製造のための使用である。
【0050】
別の態様において、本発明は、以下の
(1') 上記で定義される宿主細胞を、該宿主に適する培養条件下で培養し、
(2') 培養培地からシクロジペプチドを回収する
工程を含む、シクロ(Tyr-Xaa)シクロジペプチド(ここで、Xaaは任意のアミノ酸である)の合成方法に関する。
【0051】
α,β-脱水素されたシクロジペプチド誘導体は、以下の条件下で、Gondryら(Eur. J. Biochem., 2001, 既出)又は国際PCT出願WO 2004/000879号に記載される方法に従って、上記のシクロジペプチドから得ることができる:
(1') 上記で定義される宿主細胞を、該宿主に適する培養条件下で培養し、
(1'') 工程(1')から得られたシクロジペプチドを含む培養培地を、精製されたCDOとインキュベートし、
(2'') 工程(1'')から得られるα,β-脱水素されたシクロジペプチド誘導体を、培養培地から回収する。
【0052】
CDOを用いる条件は、上記のものと同じである。
【0053】
シクロジペプチド、又はα,β-脱水素されたシクロジペプチドの誘導体の回収は、液相抽出技術により、或いは沈殿、又は薄層若しくは液相クロマトグラフィー技術、特に逆相HPLC、又は当該技術において知られるペプチド精製に適する任意の方法により、合成から直接行うことができる。
【0054】
本発明の別の目的は、α,β-脱水素されたシクロ(Tyr-Xaa)誘導体:シクロ(ΔTyr-Xaa)、シクロ(Tyr-ΔXaa)及びシクロ(ΔTyr-ΔXaa) (ここで、Xaaはいずれかのアミノ酸である)である。
【0055】
上記の誘導体の好ましい実施形態によると、これらは、シクロ(ΔTyr-Tyr)、シクロ(ΔTyr-Phe)、シクロ(ΔTyr-Trp)、シクロ(ΔTyr-Ala)、シクロ(Tyr-ΔPhe)、シクロ(Tyr-ΔTrp)、シクロ(Tyr-ΔAla)、シクロ(ΔTyr-ΔTyr)、シクロ(ΔTyr-ΔPhe)、シクロ(ΔTyr-ΔTrp)、シクロ(ΔTyr-ΔAla)からなる群より選択される。
【0056】
上記の規定に加えて、本発明は、本発明の実施例及び添付の図面に言及する以下の記載から明らかになる他の規定も含む。添付の図面において:
- 図1. (a) ピペラジン-2,5-ジオン環の構造。シスアミド結合は太線である。(b) シクロ(Tyr-Tyr)の構造。(c) シクロ(Tyr-Phe)の構造。(d) シクロ(Tyr-Trp)の構造。(e) シクロ(Tyr-Ala)の構造。
【0057】
- 図2. 発現ベクターpEXP-Rv2275構築のためのクローニングストラテジ。
- 図3. 完全Rv2275タンパク質を発現する大腸菌BL21AI細胞の培養培地のHPLC分析。pEXP-Rv2275 (連続線)及び空のpQE60 (点線)で形質転換された細胞の培養培地を、RP-HPLCにより分析した。クロマトグラムを、220 nmで記録した。
【0058】
- 図4. N-末端にタグ付加したRv2275分析(図3を参照)からのピーク1溶出に相当するフラクション1のMS (4a)及びMSMS (4b)スペクトル。回収されたフラクション1を、質量分析計に直接注入し、オンラインでフルスキャンMSを得た(図4a)。星印を付したm/zピークは、天然のシクロジペプチドのm/zに一致し(表2)、実施例2に記載される条件下でのMSMS特徴づけのために選択した。235.0±0.1でのm/zピークのみが、シクロジペプチドに典型的な一連のフラグメンテーションを示す:図4bにおいて娘イオンスペクトル中に示すような28及び45のニュートラルロス、並びにチロシンのいわゆるイミニウム及び関連するイオン(以下、「iTyr」という)の生成。
【0059】
- 図5. N-末端にタグ付加したRv2275分析(図3を参照)からのピーク2溶出に相当するフラクション2のMS (5a)及びMSMS (5b)スペクトル。回収されたフラクション2を、質量分析計に直接注入し、オンラインでフルスキャンMSを得た(図5a)。327.0±0.1でのm/zを有するメインピークを、実施例2に記載される条件下でのMSMSフラグメンテーションによる構造の特徴付けのために選択した。娘イオンスペクトルは、28及び45の一連のニュートラルロス、及び136.0±0.1でのm/zピークを示し、これはチロシンのイミニウムイオンに一致する(以下、「iTyr」という)(図5b)。
【0060】
- 図6. N-末端にタグ付加したRv2275分析(図3を参照)からのピーク3及び4の同時溶出に相当するフラクション3-4のMS (6a)及びMSMS (6b及び6c)スペクトル。回収されたフラクション3-4を、質量分析計に直接注入し、オンラインでフルスキャンMSを得た(図6a)。指定するシクロジペプチドに一致するm/zピークの娘イオンのスペクトル(MSスペクトルにおいて丸で囲んだピーク)は、実施例2に記載される条件下で得られた。チロシン、フェニルアラニン及びトリプトファンのイミニウムイオン並びに関連するイオンは、それぞれ、「iTyr」、「iPhe」及び「iTrp」という。
【0061】
- 図7. 市販のシクロ(Tyr-Tyr)のHPLC分析(7a)、MS及びMSMSスペクトル(7b)。クロマトグラムは、220 nmで記録した。m/z 327.0±0.1でのシクロ(Tyr-Tyr)のMS及び娘イオンスペクトルは、実験方法に記載される条件下で得た。チロシンのイミニウムイオン及び関連イオンは、以下、「iTyr」という。
【0062】
- 図8. 合成シクロ(Tyr-Phe)のHPLC分析(8a)、MS及びMSMSスペクトル(8b)。クロマトグラムは、220 nmで記録した。m/z 311.2±0.1でのシクロ(Tyr-Phe)のMS及び娘イオンスペクトルは、実験方法に記載される条件下で得た。チロシン及びフェニルアラニンのイミニウムイオンは、それぞれ「iTyr」及び「iPhe」という。
【0063】
- 図9. 合成シクロ(Tyr-Trp)のHPLC分析(9a)、MS及びMSMSスペクトル(9b)。クロマトグラムは、220 nmで記録した。m/z 350.0±0.1でのシクロ(Tyr-Trp) のMS及び娘イオンスペクトルは、実験方法に記載される条件下で得た。チロシン及びトリプトファンのイミニウム及び関連するイオンは、それぞれ「iTyr」及び「iTrp」という。
【0064】
- 図10. 合成シクロ(Tyr-Ala)のHPLC分析(10a)、MS及びMSMSスペクトル(10b)。クロマトグラムは、220 nmで記録した。m/z 235.0±0.1でのシクロ(Tyr-Ala) のMS及び娘イオンスペクトルは、実験方法に記載される条件下で得た。チロシンのイミニウムイオンは、以下、「iTyr」という。Alaのイミニウムイオンは検出されない。
【0065】
- 図11. 短縮Rv2275タンパク質を発現する大腸菌M15[pREP4]細胞の培養培地のHPLC分析。pQE60-Rv2275C (連続線)及びpQE60 (点線)で形質転換された細胞の培養培地を、RP-HPLCにより分析した。クロマトグラムは、220 nmで記録した。
【0066】
- 図12. 短縮Rv2275分析(図11を参照)から得られたピーク1 (図12a)及びピーク2 (図12b)のMS及びMSMSスペクトル。回収したフラクションを、質量分析計に直接注入し、オンラインでフルスキャンMSを得た(上のスペクトル)。指定したシクロジペプチドに一致したm/zピーク(MSスペクトルにおいて丸で囲んだピーク)の娘イオンスペクトル(下のスペクトル)を、実験方法に記載される条件下で得た。チロシンのイミニウム及び関連するイオンは、以下、「iTyr」という。
【0067】
- 図13. 短縮Rv2275分析(図11を参照)から得られたピーク3 (図13a)及びピーク4 (図13b)のMS及びMSMSスペクトル。回収したフラクションを、質量分析計に直接注入し、オンラインでフルスキャンMSを得た(上のスペクトル)。指定したシクロジペプチドに一致したm/zピーク(MSスペクトルにおいて丸で囲んだピーク)の娘イオンスペクトル(下のスペクトル)を、実験方法に記載される条件下で得た。チロシン、フェニルアラニン及びトリプトファンのイミニウム及び関連するイオンを、それぞれ、「iTyr」、「iPhe」及び「iTrp」という。
【実施例】
【0068】
以下の実施例は、本発明を説明するが、限定するものではない。
実施例1:N-末端HIS6タグ付加融合体としてのRv2275タンパク質をコードする大腸菌発現ベクターの構築
Rv2275をコードする発現ベクターを、Gateway (商標)クローニング技術(Invitrogen)を用いて構築した。これは、そのN-末端に(His)6タグ、attB組換え部位の翻訳配列(クローニングのために必要)及びTEVプロテアーゼ切断部位を有する細胞質融合タンパク質としてRv2275を発現して、29残基、すなわちMSYYHHHHHHLESTSLYKKAGFENLYFQG (配列番号18)のN-末端伸長となるように設計された。Rv2275をコードする遺伝子は、結核菌群(Mycobacterium tuberculosis complex)のいくつかの株(結核菌、エム・ボビス)で保存されているので、我々は、この発現ベクターの構築のために、マイクバクテリウム・ツベルクローシスH37Rv (gi:15609412)のRv2275遺伝子と100%同一であるmb2298遺伝子(gi:31793454)を有するマイコバクテリウム・ボビスBCGパスツールからの染色体DNAを用いた。
【0069】
クローニングストラテジの全体を、図2に示す。まず、組換えクローニングに適し、かつRv2275タンパク質をコードするattBに挟まれたDNAを、3回の連続するPCRの後に得た。mb2298遺伝子を、鋳型としてのマイコバクテリウム・ボビスBCGパスツールゲノムDNA、並びにプライマーA及びB(表I)を用いて、1回目のPCRで増幅させた(図2におけるPCR 1)。PCR条件は、97℃にて4分間の1回の最初の変性工程、続いて94℃にて1分間、54℃にて1分間、72℃にて2分間を25サイクル、そして72℃にて10分間の1回の最終伸長工程であった。反応混合物(50μl)は、1μlの染色体DNA (25 ng/μl)、0.3μlの100μMの各プライマー溶液、5μlのMgSO4を含む10×Pfu DNAポリメラーゼ緩衝液(Pfu DNAポリメラーゼ供給業者により供給される)、0.1μlの各10 mMのdNTPミックス、及び1μlのPfu DNAポリメラーゼ(2.5 U/μl; Fermentas)を含んでいた。PCR産物(以下、「PCR産物1」という)を、次いで、1%アガロースゲルでの電気泳動の後に(Sambrookら, Molecular Cloning: A Laboratory manual, 2001, New York)、「GFX PCR DNA and Gel Band Purification」キット(Amersham Biosciences)を用いて精製した。2回目のPCR (図2におけるPCR 2)により、TEVプロテアーゼ切断部位をコードする配列を、PCR産物1の5'末端に、そしてattB2コード配列を3'末端に付加することが可能になった。PCR条件は、95℃にて5分間の1回の最初の変性工程、続いて95℃にて45秒間、50℃にて45秒間、72℃にて1.5分間を30サイクル、そして72℃にて10分間の1回の最終伸長工程であった。反応混合物(50μl)は、5 ngのPCR産物1、0.4μMのプライマーC及びD (表I)、2.5単位のExpand High Fidelity Enzymeミックス(Roche)、1.5 mM MgCl2を含む1×Expand High Fidelity緩衝液(Roche)、及び200μMの各dNTPを含んでいた。1%アガロースゲルでの電気泳動及びQIAquick Gel Extractionキット(Qiagen)を用いる精製の後に、PCR産物(以下、「PCR産物2」という)を、3回目のPCRに用い(図2におけるPCR 3)、これにより、PCR産物2の5'末端にattB1コード配列を付加することが可能になった。PCRを、上記のようにして、鋳型として5 ngのPCR産物2、並びに0.4μMのプライマーE及びD (表I)を用いて行った。得られたPCR産物(以下、「PCR産物3」という)を、上記のようにして精製した。
【0070】
次に、attBに挟まれたPCR産物3を、BP clonase (商標)反応においてpDONR (商標) 221ドナーベクター(Invitrogen)と再結合させて、エントリーベクターpENT-Rv2275を得た。pENT-Rv2275を、ABI PRISM 310 Genetic Analyzer (Applied Biosystem)、並びにプライマーM13フォワード、M13リバース及びF (表Iを参照)を用いて、2つの組換え部位の間の配列を決定した。pENT-Rv2275及び市販のデスティネーションベクターpDEST-17 (Invitrogen)を、LR clonase (商標)サブクローニング反応において用いて、供給業者の推奨に従って発現ベクターpEXP-Rv2275 (配列番号19)を得た。
【0071】
【表1】
【0072】
組換え混合物を、大腸菌DH5α化学的コンピテント細胞の形質転換に用いて、陽性クローンを、コロニーPCRによる分析の後で選択した。50μlの反応混合物は、鋳型としての少量のコロニー、200μMの各dNTP、0.2μMのプライマーM13フォワード及びM13リバース、1×ThermoPol反応緩衝液(New England Biolabs)、並びに1.25単位のTaq DNAポリメラーゼ(New England Biolabs)を含んでいた。用いたPCR条件は、以下のとおりであった:95℃にて5分間の1回の最初の変性工程、続いて92℃にて30秒間、50℃にて30秒間、72℃にて2分間の30サイクル。プラスミドDNAを、Wizard DNA精製システム(Promega)を用いて陽性クローンから単離し、-20℃にて保存した。
【0073】
実施例2:大腸菌細胞質でのRv2275の発現は、シクロジペプチドの合成を導く。
Rv2275の発現を、最少培地中で、プラスミドpEXP-Rv2275を有する大腸菌細胞を培養することにより行った。この培地は、最少培地1リットル当たり1 mlのビタミン溶液及び2 mlの微量要素(oligoelements)溶液と、M9最少培地の全ての要素(6 g/l Na2HPO4、3 g/l KH2PO4、0.5 g/l NaCl、1 g/l NH4Cl、1mM MgSO4、0.1 mM CaCl2、1μg/mlチアミン及び0.5%グルコース又はグリセロール)を含んでいた(Sambrookら、上記)。ビタミン溶液は、1.1 mg/lビオチン、1.1 mg/l葉酸、110 mg/l パラ-アミノ安息香酸、110 mg/lリボフラビン、220 mg/lパントテン酸、220 mg/lピリドキシン-HCl、220 mg/lチアミン及び220 mg/lナイアシンアミドを50%エタノール中に含む。微量要素溶液は、FeCl2含有溶液をH2Oで50倍に希釈することにより作製した。FeCl2含有溶液は、100 mlあたりに:8 ml濃HCl、5g FeCl2.4H2O、184 mg CaCl2.2H2O、64 mg H3BO3、40 mg MnCl2.4H2O、18 mg CoCl2.6H2O、4 mg CuCl2.2H2O、340 mg ZnCl2、605 mg Na2MoO4.2H2Oを含む。
【0074】
プラスミドpEXP-Rv2275からのRv2275の組換え発現は、大腸菌BL21AI細胞(Invitrogen)を用いて行った。50μlの化学的コンピテント細胞(Invitrogen)を、20 ngのプラスミドで、標準的な熱ショック手法を用いて形質転換した(Sambrookら, 上記)。BL21AI細胞を、CDSを生成しない対照培養を作製するために、pQE60でも形質転換した。SOC培地(Sambrookら, 上記)中で37℃にて1時間増殖させた後に、2つの形質転換混合物の細菌を、200μg/mlのアンピシリン含有LBプレート上に広げ、37℃にて1晩培養した。いくつかのコロニーを採取して、0.5%グルコース及び200μg/mlアンピシリンを含むビタミン及び微量要素溶液を補ったM9液体培地に接種した。振とうしながら37℃にて一晩インキュベートした後に、500μlの各スターター培養物を用いて、0.5%グリセロール及び200μg/mlアンピシリンを含むビタミン及び微量要素溶液を補った25 mlのM9最少培地に接種した。細菌を、37℃にて、OD600が約0.5になるまで成長させ、0.02% L-アラビノースを加えた。培養を、20℃にて24時間継続した。培養上清を、3,000 gにて20分間の遠心分離の後に回収して、-20℃に維持した。
【0075】
HPLC分析によるシクロジペプチド誘導体の検出。
シクロジペプチドの形成は、AlbCを発現する大腸菌細胞の培養上清について以前に報告されたようにして(Lautruら, Chem. Biol., 2002, 9, 1355〜1364)、Rv2275を発現する大腸菌細胞の培養上清を分析することにより調べた。
培養上清(200μl)を、濃トリフルオロ酢酸を用いてpH=3まで酸性化し、次いで、HPLCにより分析した。試料を、C18カラム(4.6×250 mm, 5μm, 300Å, Vydac)に装填し、0.1%トリフルオロ酢酸を含む0%から55%までのアセトニトリル/脱イオン水の60分間の直線勾配により溶出した(流速、1 ml/分)。溶出を、ダイオードアレイ検出器を用いて220と500 nmの間で監視した。
【0076】
N-末端にタグ付加したRv2275を発現する大腸菌細胞の培養上清の220 nmでのHPLC分析は、2つの分離されたピーク、すなわちピーク1及びピーク2と、2つのあまり分離されていないピーク、すなわちピーク3及びピーク4を示し、これらはRv2275を発現しない細胞の培養上清(空のpQ60を用いた)では見いだされなかった(図3)。これらの4つのピークは、すなわち、その合成が大腸菌でのRv2275の発現に直接関連する生成物に相当した。ピーク2は主要なピークであり、21.3分の保持時間及び275 nm付近が中心である吸収バンドにより特徴付けられた。ピーク1は、小さいピークであり、15.9分の保持時間及び275 nm付近が中心である吸収バンドにより特徴付けられた。ピーク3及び4は、非常に近い保持時間を示したので、完全には分離されない。ピーク3は、29.6分の保持時間及び277 nm付近が中心であり288 nmにショルダーがある吸収バンドにより特徴付けられた。ピーク4は、29.8分の保持時間及び275 nm付近が中心である吸収バンドにより特徴付けられた。4つのピークを、質量分析によるさらなる分析のために回収した。
【0077】
MS及びMSMS分析によるシクロジペプチド誘導体の同定
培養上清からのHPLC溶出画分(上記を参照)を回収し、直交型大気圧インターフェースエレクトロスプレーイオン化(AP-ESI)源(Bruker Daltonik GmbH, Germany)を備えるイオントラップ型質量分析計Esquire HCTを用いて、質量分析により分析した。試料は、シリンジポンプにより、3μl/分の流速で質量分析計に直接注入した。窒素は、乾燥及び霧化ガスとして用いられ、ヘリウムガスは、効率的なトラップ及びESIにより発生するイオンの冷却のため、並びにフラグメンテーションプロセスのためにイオントラップに導入された。イオン化は、9 psiに設定された霧化ガス、5μl/分に設定された乾燥ガス及び300℃に設定された乾燥温度でのポジティブモードで行った。イオン化及び質量分析の条件(キャピラリ高電圧、スキマー及びキャピラリ出口電圧、並びにイオン移動パラメータ)は、100と400 m/zの間のシクロジペプチド質量の範囲内の化合物の最適な検出のために設定された。質量フラグメンテーションによる構造的特徴決定のために、1マスユニットの分離幅を、親のイオンの単離のために用いた。フラグメンテーション振幅は、少なくとも90%の単離されたプリカーサーイオンがフラグメンテーションされるまで、同調させた。フルスキャンMS及びMSMSスペクトルを、EsquireControlソフトウェアを用いて獲得し、全てのデータを、DataAnalysisソフトウェアを用いて処理した。
【0078】
質量分析及びHPLC分析用の標準物質として、市販のシクロジペプチド(Sigma及びBachem)、又は化学合成シクロジペプチド(Jeediguntaら, Tetrahedron, 2000, 56, 3303〜3307により記載されるようにして)を用いた。
【0079】
N-末端タグ付加されたRv2275に相当する溶出されたフラクションのMSスペクトル(以下、ピーク1の溶出について「フラクション1」、ピーク2の溶出について「フラクション2」、ピーク3及び4の両方の溶出について「フラクション3-4」という)を、それぞれ図4a、5a及び6aに示す。これらのスペクトルは、不均質な質量及び比較的低強度のm/zピークを示した。これは、Rv2275により生成される可能性があるシクロジペプチドが、エレクトロスプレーイオン化によりイオン化されにくいことによるのであろう。MSスペクトルに始まり、我々は、全ての著しいm/z値(シグナル/ノイズ比>5)を、天然のシクロジペプチドの予測される質量の値と比較した(表IIに示す)。
【0080】
【表2】
【0081】
第2工程において、m/z値がシクロジペプチドのものに一致する化合物の化学構造を解明するために、MSMS実験を行った。
【0082】
種々の市販又は手製の合成シクロジペプチドについて既に実験され、また、多くのところで出版されたシクロジペプチド娘イオンスペクトルで観察されるように(Chenら, Eur Food Research Technology, 2004, 218, 589〜597 ; Starkら, J Agric Food Chem, 2005, 53, 7222〜7231)、シクロジペプチド誘導体は、以下の特徴的なパターンにフラグメンテーションされる:(i) カルボニル基(C=O基の脱離による28 umaの損失)又はアミド基(CONH3に対応する45の損失)のいずれかの側でのジケトピペラジン環の開裂による連続的なニュートラルロス、及び(ii) アミノアシル残基の同定を可能にするいわゆるイミニウムイオン及びそれらの関連するイオンのm/zピークの存在(Roepstorffら, Biomed Mass Spectrom, 1984, 11, 601 ; Johnsonら, Anal. Chem, 1987, 59, 2621〜2625) (表III)。
【0083】
【表3】
【0084】
一致したシクロジペプチドm/zピーク(図4a、5a及び6aにおいて星印を付した)を、次いで、個別にMSMSフラグメンテーションに供し、全ての得られた娘イオンスペクトルを、シクロジペプチドフラグメンテーションパターンについてスクリーニングした。
【0085】
フラクション1のMS分析は、天然のシクロジペプチドに一致するm/z値を有するm/zピークを示した(図4a)。しかし、MSMSフラグメンテーション後の1つのみ(235.0±0.1)が、28及び45のニュートラルロスと、チロシンのイミニウム(136±0.1)及び関連イオン(107±0.1)に相当するm/zピークの出現とを示すシクロジペプチドの典型的なパターンを増加させた(図4b)。表IIに示す質量によると、235のm/zを有するチロシン残基を含むシクロジペプチドのみが、シクロ(Tyr-Ala)である。よって、15.9分の保持時間で溶出された化合物は、シクロ(Tyr-Ala)であることが示された。
【0086】
フラクション2のMS分析は、天然のシクロジペプチドに一致するm/z値を有する5つのm/zピークを示した(図5a)。しかし、327.1±0.1の主要ピークのみが、シクロジペプチドに典型的なフラグメンテーションパターンを示した(図5b)。表2の天然のシクロジペプチドのm/z値に比較して、このm/zは、シクロ(Tyr-Tyr)に一致する。さらに、このm/z 327.1±0.1の娘イオンスペクトルは、チロシンのイミニウムイオンの存在を示した(図5b)。この結果は、21.3分にてフラクション2で溶出されたRv2275生成物が、シクロ(Tyr-Tyr)であることを示す。
【0087】
フラクション3-4のMS分析は、シクロジペプチドについての予測されるm/z値に一致し、かつシクロジペプチドに典型的なフラグメンテーションパターンをともに示す2つのピークを示した(図6): m/z = 311.1±0.1のピーク、及びm/z = 350.0±0.1のより小さいピーク(図6a)。MSMSフラグメンテーションによる構造の特徴付けは、チロシン(m/z = 136.0±0.1)及びフェニルアラニン(m/z = 120.0±0.1)の検出されたイミニウムイオンを参照にして、311.1±0.1でのm/zピークをシクロ(Tyr-Phe)として同定した(図6b)。350.0±0.1でのわずかなm/zピークのMSMS分析は、チロシンのイミニウムイオン(m/z = 136.0±0.1)、及びトリプトファンのイミニウム関連イオンの3つ(m/z = 130.0±0.1、132.0±0.1及び170.0±0.1)を生成した(図6c)。350.0±0.1でのm/zを有するピークを、次いで、シクロ(Tyr-Trp)のものとした。
【0088】
実施例3:大腸菌細胞質でのRv2275の発現は、シクロ(TYR-Xaa)の合成を導く。
上記で示したMS分析は、Rv2275を生成する大腸菌の培養上清で同定された化合物が、シクロ(Tyr-Ala)、シクロ(Tyr-Tyr)、シクロ(Tyr-Phe)及びシクロ(Tyr-Trp)であったことを強く示唆した。これらの同定を確認するために、市販のシクロ(Tyr-Tyr)及びシクロ(Tyr-Trp)、並びに化学合成したシクロ(Tyr-Phe)及びシクロ(Tyr-Ala)を、HPLC分析及びMSMS実験の両方において参照として用いた。これらの標準シクロジペプチドの全ては、上記で検出されたのと同じクロマトグラフィー及び質量の特徴を示す。実際に、参照シクロ(Tyr-Tyr)の保持時間(図7aを参照)は、培養上清のピーク2のものと同じである(図3)。次に、参照シクロ(Tyr-Tyr)を、MS及びMSMS分析に供し、得られたフラグメンテーションパターン(図7b)は、図5bで得られたものと類似することが見出された。標準シクロ(Tyr-Phe)は、あまり分離されていないピーク4で得られたものと同じ保持時間で溶出される(図3に比較して図8a)。この標準シクロジペプチドのMS及びMSMSの特徴(図8b)は、ピーク4について得られたものと同じである(図6b)。同様にして、標準シクロ(Tyr-Trp) (図9a及び9b)及びシクロ(Tyr-Ala) (図10a及び10b)に対するRP-HPLC及びMS分析は、pEXP-Rv2275の培養上清で検出された代謝産物のものと同じRP-HPLC保持時間及びフラグメンテーションパターンを示す。
【0089】
明確に、我々は、大腸菌でのRv2275の発現が、培養培地で見出されたシクロ(Tyr-Tyr)、シクロ(Tyr-Ala)、シクロ(Tyr-Phe)及びシクロ(Tyr-Trp)の合成を導き、このことは、Rv2275が、大腸菌において活性な形で生成され得るシクロ(Tyr-Xaa)合成酵素であることを示すことを示した。
【0090】
実施例4:C-末端HIS6タグ付加融合体としての短縮されたRv2275タンパク質(配列番号3)をコードする大腸菌発現ベクターの構築
Rv2275は、AlbCについての239に比較して、289アミノ酸長である。これらのタンパク質のアラインメントは、Rv2275には、48アミノ酸のN-末端伸長があり、これはAlbCに等価物が存在しないことを示す。いくつかのアミノ酸の可欠性の問題に取り組むために、2つの構築物を作製して、クローニングベクターpQE60 (Qiagen)においてRv2275の2つの異なるC-末端His6タグ付加バージョンを発現させた。
【0091】
プラスミドpQE60-Rv2275Lと命名された第1構築物において、Rv2275の完全コード配列が存在し、プラスミドpQE60-Rv2275Cと命名された第2構築物には、最初の48コドンを欠く短縮コード配列が存在する。
【0092】
プラスミドpQE60-Rv2275Lの構築
Rv2275をコードする完全配列を有するDNAフラグメントを、鋳型としてのpEXP-Rv2275、Taq DNAポリメラーゼ(Pharmacia)及び以下のプライマーを製造業者の推奨する条件下で用いるPCR増幅の後に得た:
- プライマーKRVLF (5'-CGGCCATGGCATACGTGGCTGCCGAACCAGGC-3', NcoI部位に下線) (配列番号15)、及び
- プライマーKRVR (5'-GGCAGATCTTTCGGCGGGGCTCCCATCAGG-3', BglII部位に下線) (配列番号16)。
【0093】
2つの制限部位を、このようにして導入した:コード配列の上流にNcoI部位、及び下流にBglII部位。NcoI部位の導入に伴って、2番目のコドンTCAがGCAに置換され(KがGである配列番号5を参照)、このことにより、対応するタンパク質では2番目のアミノ酸セリンがアラニンに置換された(位置2のアミノ酸がAlaである配列番号6を参照)。このDNAフラグメントを、NcoI-BglIIフラグメントとして、NcoI及びBamHIにより消化されたベクターpQE60にクローニングして、プラスミドpQE60-Rv2275L (配列番号20)を得た。挿入物のDNA配列は、配列決定により確認した。
【0094】
プラスミドpQE60-Rv2275Cの構築
Rv2275の短縮バージョンをコードする配列を有するDNAフラグメントを、鋳型としてのpEXP-Rv2275、Taq DNAポリメラーゼ(Pharmacia)、及び以下のプライマーを、製造業者により推奨される条件下で用いるPCR増幅の後に得た:
- プライマーKRVCF (5'-CGGCCATGGAGCTAGGCAGGCGCATTCCGGAAGC-3', NcoI部位に下線) (配列番号17)、及び
- プライマーKRVR (5'-GGCAGATCTTTCGGCGGGGCTCCCATCAGG-3', BglII部位に下線) (配列番号16)。
【0095】
2つの制限部位を、このようにして導入した:コード配列の上流にNcoI部位、及び下流にBglII部位。PCR増幅により得られたフラグメントにおいて、ATG開始コドンは、元来のRv2275配列の49番目のコドン(TTT)に対応する位置で導入された。NcoI部位の導入は、コドンCAG (元来の配列の50番目のコドン)の、GAG (短縮配列の2番目のコドン)での置換も伴い(SがGである配列番号1を参照)、対応するタンパク質ではグルタミンがグルタミン酸に置換された(位置でのアミノ酸がGluである配列番号3を参照)。このDNAフラグメントを、NcoI-BglIIフラグメントとして、NcoI及びBamHIで消化されたベクターpQE60にクローニングして、プラスミドpQE60-Rv2275C (配列番号21)を得た。挿入物のDNA配列を、配列決定により確認した。
【0096】
シクロジペプチドの合成のための完全及び短縮Rv2275の発現
Rv2275の完全及び短縮されたバージョンの発現を、実施例2に示すようにして、プラスミドpQE60-Rv2275L又はpQE60-Rv2275Cを有する大腸菌細胞を培養することにより行った。
【0097】
プラスミドpQE60-Rv2275L及びpQE60-Rv2275CからのC-末端タグ付加Rv2275の発現は、pREP4プラスミドを含む大腸菌M15株(以下、「M15pREP4」という) (Qiagen)を用いて行った。50μlの化学的コンピテント細胞を、20 ngのプラスミドpQE60-Rv2275L、pQE60-Rv2275C及びpQE60で、標準的な熱ショック手順を用いて形質転換した(Sambrookら, 上記)。SOC培地で1時間増殖させた後に、形質転換混合物を、0.5%グルコース、100μg/mlアンピシリン及び30μlg/mlカナマイシンを含むLBプレート上に広げ、37℃にて1晩インキュベートした。いくつかのコロニーを採取して、0.5%グルコース、100μg/mlアンピシリン及び30μg/mlカナマイシンを含むビタミン及び微量要素溶液を補ったM9液体培地に接種した。回転振とう機で200 rpmにより37℃にて24時間の成長の後に、0.5%グリセロール、100μg/mlアンピシリン及び30μg/mlカナマイシンを含むビタミン及び微量要素溶液を補った予め加熱した最少培地25 mlに、最少培地中のスターター培養物500μlを接種した。細菌培養物を、200 rpmで回転振とうしながら37℃にてインキュベートし、600 nmでの吸光度(OD600)を、成長の間に監視した。OD600が0.5に到達したときに、1 mM IPTGを加え、培養物を、200 rpmで回転振とうしながら20℃にて20時間インキュベートした。細菌培養物を、次いで、3,000 gにて20分間遠心分離し、上清を、シクロジペプチド生成分析のためにとりおいた。
【0098】
プラスミドpQE60-Rv2275Lを有する大腸菌M15pREP4細胞を培養し、それらがシクロ(Tyr-Tyr)、シクロ(Tyr-Ala)、シクロ(Tyr-Phe)及びシクロ(Tyr-Trp)を合成する能力を、上記のようにしてHPLCにより評価した。220 nmでのクロマトグラムは、プラスミドpEXP-Rv2275を有する大腸菌細胞の上清を用いて得られたものと類似することが見出された(データ示さず)。
【0099】
プラスミドpQE60-Rv2275Cを有する大腸菌M15pREP4細胞を培養し、それらがシクロ(Tyr-Tyr)、シクロ(Tyr-Ala)、シクロ(Tyr-Phe)及びシクロ(Tyr-Trp)を合成する能力を、上記のようにしてHPLCにより評価した(図11)。220 nmでのクロマトグラムは、プラスミドpEXP-Rv2275を有する大腸菌細胞の上清を用いて得られたものと類似することが見出された(図3及び図11のクロマトグラムを比較されたい):Rv2275の短縮バージョンの発現は、4つのピークの存在を導き(11においてピーク1、2、3及び4と示す)、これらは、全長Rv2275について以前に得られたピーク1、2、3及び4のもの(図3)と同様の保持時間及びスペクトルの特徴をそれぞれ示す。MS及びMSMS分析により明らかにされるように(図12及び13)、ピーク1'、2'、3'及び4'は、それぞれ、シクロ(Tyr-Ala)、シクロ(Tyr-Tyr)、シクロ(Tyr-Trp)及びシクロ(Tyr-Phe)と同定された。よって、Rv2275のN-末端伸長は、シクロ(Tyr-Xaa)合成活性について、なくてもよい。
【0100】
実施例5:精製Rv2275タンパク質によるシクロ(TYR-TYR)のインビトロ生成。
精製Rv2275タンパク質の生成
最少培地をLB培地で置き換えた以外は(Sambrookら, 上記)、実施例2にすでに記載したようにして、Rv2275タンパク質の生成のための細菌培養を行った。0.02%アラビノースを用いる誘導の後に、培養を20℃にて12時間継続した。細菌細胞を、4,000 gで20分間の遠心分離により採集し、-80℃にて凍結した。次いで、細菌細胞を融解し、100 mM Tris-HCl pH 8、150 mM NaCl及び5%グリセロールで構成される1.5 mlの抽出緩衝液に再懸濁した。細胞を、イートンプレスを用いて破砕し、20,000 gで4℃にて20分間遠心分離した。可溶性タンパク質を含む得られた上清を、100 mM Tris-HCl pH 8、150 mM NaClで構成される緩衝液で平衡化したNi2+カラム(AmershamからのHisTrap HP)に装填した。カラムを、同じ緩衝液で洗浄し、イミダゾールの直線勾配に付した(0〜1 Mのイミダゾール、pH 8)。Rv2275タンパク質は、約250 mMのイミダゾールで溶出された。精製されたRv2275タンパク質を、次いで、洗浄し(イミダゾールを除去するため)、Vivaspin濃縮器(Vivascience)を用いて濃縮した。
【0101】
追加のために用いる可溶性細胞抽出物の調製
空のベクターpQE60 (Qiagen)で形質転換された細菌を、上記のようにして培養して破砕した。破砕した細胞を、20,000 gで4℃にて20分間遠心分離した。得られた上清は、シクロジペプチド合成酵素を含まない大腸菌細胞の可溶性抽出物に相当する。
【0102】
シクロ(Tyr-Tyr)のインビトロ生成
5.5 mM Tyr、10 mM ATP、20 mM MgCl2及び25μMの精製されたRv2275タンパク質を含む215μlの反応混合物に、上記の可溶性細胞抽出物115μlを補った。この混合物を、30℃にて12時間インキュベートした。反応を、TFAの添加により停止し、20,000 gで20分間の遠心分離に付した。次いで、上清をHPLCにより分析し、HPLCで溶出されたフラクションを、実施例2に記載されるようにして質量分析により特徴付けた。対照として、精製Rv2275を除く以外は同様の条件下で同じ実験を行った。
【0103】
結果は、Rv2275タンパク質を含むインキュベートされた混合物が、シクロ(Tyr-Tyr)を含む(図5に示すものと同様の質量の特徴を有する、21.3分の保持時間でHPLCから溶出されたフラクション)が、Rv2275タンパク質を含まないインキュベートされた混合物は、シクロジペプチドを含まないことを明確に示す。このことは、シクロ(Tyr-Tyr)の形成を、精製シクロ(Tyr-Xaa)合成酵素を用いてインビトロで行うことができることを示す。
シクロ(Tyr-Tyr)シクロジペプチドについて記載した手順を、シクロ(Tyr-Phe)、シクロ(Tyr-Trp)及びシクロ(Tyr-Ala)に応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】(a) ピペラジン-2,5-ジオン環の構造。(b) シクロ(Tyr-Tyr)の構造。(c) シクロ(Tyr-Phe)の構造。(d) シクロ(Tyr-Trp)の構造。(e) シクロ(Tyr-Ala)の構造。
【図2】発現ベクターpEXP-Rv2275構築のためのクローニングストラテジ。
【図3】完全Rv2275タンパク質を発現する大腸菌BL21AI細胞の培養培地のHPLC分析。
【図4】N-末端にタグ付加したRv2275分析(図3を参照)からのピーク1溶出に相当するフラクション1のMS (4a)及びMSMS (4b)スペクトル。
【図5】N-末端にタグ付加したRv2275分析(図3を参照)からのピーク2溶出に相当するフラクション2のMS (5a)及びMSMS (5b)スペクトル。
【図6】N-末端にタグ付加したRv2275分析(図3を参照)からのピーク3及び4の同時溶出に相当するフラクション3-4のMS (6a)及びMSMS (6b及び6c)スペクトル。
【図7】市販のシクロ(Tyr-Tyr)のHPLC分析(7a)、MS及びMSMSスペクトル(7b)。
【0105】
【図8】合成シクロ(Tyr-Phe)のHPLC分析(8a)、MS及びMSMSスペクトル(8b)。
【図9】合成シクロ(Tyr-Trp)のHPLC分析(9a)、
【図10】合成シクロ(Tyr-Ala)のHPLC分析(10a)、MS及びMSMSスペクトル(10b)。
【図11】短縮Rv2275タンパク質を発現する大腸菌M15[pREP4]細胞の培養培地のHPLC分析。
【図12】短縮Rv2275分析から得られたピーク1 (図12a)及びピーク2 (図12b)のMS及びMSMSスペクトル。
【図13】短縮Rv2275分析から得られたピーク3 (図13a)及びピーク4 (図13b)のMS及びMSMSスペクトル。
【図1a】
【図1b】
【図1c】
【図1d】
【図1e】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロジペプチドの合成に関わる、単離された、天然の又は合成のポリヌクレオチド及び該ポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド、該ポリヌクレオチド又はいずれの実質的に相同なポリヌクレオチドを含む組換えベクター、該ポリヌクレオチド又は組換えベクターで改変された宿主細胞、並びにシクロジペプチド、特にシクロ(Tyr-Xaa)シクロジペプチド(ここで、Xaaは任意のアミノ酸である)及びその誘導体をインビトロ又はインビボで合成する方法に関する。
【0002】
本発明の目的のために、用語「ジケトピペラジン誘導体」又は「DKP」又は「2,5-DKP」又は「環状ジペプチド」又はシクロジペプチド又は「環状ジアミノ酸」の用語は、ジケトピペラジン(ピペラジン-2,5-ジオン又は2,5-ジオキソピペラジン)環を有する分子を意味することを意図する。α,β-脱水素されたシクロジペプチド誘導体の具体的な場合は、置換基R1及びR2は、α,β-不飽和アミノアシル側鎖である(図1)。このような誘導体は、以下、「Δ」誘導体という。
【背景技術】
【0003】
DKP誘導体は、細菌、酵母、糸状菌及び苔蘚のような多くの生物により天然に生成される、増加している化合物のファミリーを構成する。他にも海綿及びヒトデのような海洋生物から単離されている。これらの誘導体の例であるシクロ(L-His-L-Pro)は、哺乳動物に存在することが示されている。
【0004】
DKP誘導体は、単純なシクロジペプチドからさらにより複雑な構造まで、非常に多様な構造を有する。単純なシクロジペプチドは、DKP誘導体のわずかな部分のみを構成し、この大部分は、主環及び/又は側鎖が多くの修飾:炭素ベース、ヒドロキシ、ニトロ、エポキシ、アセチル又はメトキシ基の導入、及びジスルフィド架橋又は複素環の形成を含む、より複雑な構造を有する。2つの炭素間の二重結合の形成も非常に多い。海洋起源のある誘導体はハロゲン原子を含んでいる。
【0005】
有用な生物学的特性が、いくつかのDKP誘導体について既に示されている。ビシクロマイシン(Bicozamine (商標))は、子牛及びブタで下痢を予防するための食品添加物として用いられる抗菌剤である(Magyarら, J. Biol. Chem, 1999, 274, 7316〜7324)。グリオトキシンは、組織拒絶の原因である免疫細胞の選択的エクスビボ除去のために評価された免疫抑制特性を有する(Waringら, Gen. Pharmacol., 1996, 27, 1311〜1316)。アンベウェルアミド(ambewelamides)、バーティシリン(verticillin)及びフェニラヒスチン(phenylahistin)のようないくつかの化合物は、種々の機構を伴う抗腫瘍活性を示す(Chuら, J. Antibiot. (Tokyo), 1995, 48, 1440〜1445 ; Kanohら, J. Antibiot. (Tokyo), 1999, 52, 134〜141; Williamsら, Tetrahedron Lett., 1998, 39, 9579〜9582)。
【0006】
ストレプトミセス・ノウルセイ(Streptomyces noursei)により生成されるアルボノウルシン(albonoursin)のようなその他の多くものが、抗菌活性を示す(Fukushimaら, J. Antibiot. (Tokyo), 1973, 26, 175〜176)。シクロ(Tyr-Tyr)及びシクロ(Tyr-Phe)は、心臓作用薬の可能性があることが示された:シクロ(Tyr-Tyr)は強心薬の可能性があり、シクロ(Tyr-Phe)は心臓抑制剤である(Kilianら, Pharmazie, 2005, 60, 305〜309)。これらの2つのシクロジペプチドは、受容体相互作用剤としても試験され、2つの化合物が、オピオイド受容体への著しい結合を示すことが見出された(Kilianら, 2005, 既出)。さらに、これらは、抗腫瘍薬としても評価され、シクロ(Tyr-Phe)は、3つの異なる培養株化細胞の成長阻害を誘導することが示された(Kilianら, 2005, 既出)。シュードモナス・エルギノサ(Pseudomonas aeruginosa)により生成されるシクロ(ΔAla-L-Val)が、細菌間伝達シグナルに関与し得ることが記載されている(Holdenら, Mol. Microbiol., 1999, 33, 1254〜1266)。他の化合物は、病原性微生物の毒性に関与するか、又は鉄に結合するか、又は神経生物学的特性を有すると記載されている(Kingら, J. Agr. Food Chem., 1992, 40, 834〜837; Sammes, Fortschritte der Chemie Organischer Naturstoffe, 1975, 32, 51〜118; Alvarezら, J. Antibiot., 1994, 47, 1195〜1201)。
【0007】
既知のDKPの数は着実に増加しているが、これらの化合物の生合成経路は、いまだにほとんど探索されておらず、これらの合成についてほとんど知識が得られていないこととなっている。
【0008】
現在までに報告されているいくつかの件において、DKPの合成は、直線状ジペプチドから自発的に生じ、これについては、N-アルキル化アミノ酸又はプロリン残基の存在下ではペプチド結合のシス立体配置が好ましい。このような自発的環化は、ペプチド合成酵素メガ複合体上でのペプチド伸長の間のチオエステル結合の不安定さのために、バチルス・ブレビス(Bacillus brevis)におけるグラミシジンS及びチロシジンAの非リボソームペプチド合成の経過においても観察されている(Schwarzerら, Chem. Biol, 2001, 8, 997〜1010)。つまり、自発的DKP形成の既知の機構のすべてにおいて、前駆体ジペプチドの1次構造、特にそのペプチド結合の立体配置は、DKP環の形成が起こるため、及び最終的なDKP誘導体の生成をもたらす手順のための基本的な要件であるようである。
【0009】
しかし、このような自発的環化反応は、プロリン残基又はN-アルキル化残基を含まないDKP誘導体の大多数の生合成を説明できない。
【0010】
DKP誘導体の既知の製造方法は、化学合成、天然の製造者である生物からの抽出及び酵素的な方法を含む:
- 化学的な方法は、DKP誘導体を合成するために用いることができるが(Fischer, J. Pept. Sci., 2003, 9, 9〜35)、これらは、保護されたアミノアシル前駆体の使用をしばしば必要とし、かつ立体化学的な完全性の損失を導くので、費用及び効率の点で不利であるとみなされている。さらに、これらは、大量の有機溶媒などを使用するので、環境に優しい方法ではない。
【0011】
- 天然の製造者である生物からの抽出は、用いることができるが、天然生成物中の所望のDKP誘導体の含量がしばしば低いので、生産性は低いままである。
【0012】
- 酵素的な方法、すなわちインビボ(例えばシクロジペプチドを合成する酵素を発現する微生物の培養、又は培養培地から単離した微生物細胞)、又はインビトロ(例えば精製されたシクロジペプチドを合成する酵素)のいずれかで酵素を用いる方法を、用いることができる。シクロジペプチドを生成することが知られている酵素は、非リボソームペプチド合成酵素(以下、NRPSという) (Gruenewaldら, Appl. Environ. Microbiol., 2004, 70, 3282〜3291)、及びシクロジペプチド合成酵素(CDS)であるAlbCである(Lautruら, Chem. Biol., 2002, 9, 1355〜1364; 国際出願WO 2004/000879号)。
【0013】
NRPSを用いる酵素的な方法は、特定のシクロジペプチドを生成することが既に報告されている。バチルス・ブレビスからのバイモジュラー複合体TycA/TycB1をコードする2つの遺伝子(Mootz及びMarahiel, J. Bacteriol., 1997, 179, 6843〜6850)を、大腸菌(Escherichia coli)において同時発現させ、シクロ(DPhe-Pro)の生成を上昇させた(Gruenewaldら, Appl. Environ. Microbiol., 2004, 70, 3282〜3291)。シクロジペプチドは安定であり、大腸菌に対して毒性でなく、培養培地中に分泌された。しかし、NRPSを用いる方法は、N-アルキル化残基を含むシクロジペプチドの生成に本質的に限定されているようである。さらに、NRPSを利用する方法は、実行が困難である:NRPSは、大きいマルチモジュラー酵素複合体であり、これらは遺伝子的又は生化学的なレベルのいずれにおいても操作が容易でない。
【0014】
AlbCを利用する酵素的な方法も、特定のシクロジペプチドを生成すると記載されている。異種宿主であるストレプトミセス・リビダンス(Streptomyces lividans) TK21又は大腸菌によるストレプトミセス・ノウルセイからのAlbCの発現は、2つのシクロジペプチド、シクロ(Phe-Leu)及びシクロ(Phe-Phe)の生成を導き、これらは培養培地に分泌された(Lautruら, Chem. Biol., 2002, 9, 1355〜1364)。AlbCは、2つのアミノアシル誘導体の縮合を触媒して、N-アルキル化された残基を含むか又は含まないシクロジペプチドを、未知の機構により形成する。このことは、非リボソームペプチド合成酵素に関係しない特定の酵素がDKP誘導体の形成を触媒できることを明確に示している。AlbCは、DKPモチーフの形成に直接関与する酵素の最初の例である。
【0015】
さらに、得られたシクロ(Phe-Leu)シクロジペプチドは、天然の基質シクロ(L-Phe-L-Leu)から始まってまずシクロ(ΔPhe-L-Leu)に導き、最後にアルボノウルシンに相当するシクロ(ΔPhe-ΔLeu)まで導く2段階の連続反応でアルボノウルシンの形成を特異的に触媒する環状ジペプチドオキシダーゼ(CDO)の存在下で、ストレプトミセス・ノウルセイにより生成される抗生物質であるシクロ(α,β-デヒドロ-ジペプチド)、すなわちアルボノウルシン又はシクロ(ΔPhe-ΔLeu)に変換され得る(Gondryら, Eur. J. Biochem., 2001, 268, 1712〜1721)。上記のCDOは、種々のシクロジペプチドを、α,β-デヒドロジペプチドにも変換し得る(Gondryら, Eur. J. Biochem., 2001, 既出)。
【0016】
DKP誘導体は、種々の生物学的機能を示すので、新規な薬剤、食品添加物などの発見及び開発のために有用な物質である。よって、これらの化合物を大量に入手可能とできることは、必要である。
【0017】
ジケトピペラジン誘導体の天然の合成についての経路の理解は、製造者である生物における道理に基づいた遺伝的改良を可能にし、生成及び精製収率の最適化により、現存する合成手順の置き換え又は改良(化学的又は生物工学的経路により)についての展望を開くだろう。さらに、ジケトピペラジン誘導体の生合成経路に関わる酵素の性質及び/又は特異性の改変は、元来の分子構造と最適化された生物学的特性とを有する新規な誘導体の創出をもたらし得る。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、シクロ(Tyr-Xaa)シクロジペプチド(ここで、Xaaは任意のタンパク質由来(proteinogenic)又は非タンパク質由来のアミノ酸であり、好ましくは、Xaaは、芳香族又はアルキル側鎖を有するアミノ酸から選択され、さらにより好ましくは、XaaはTyr、Phe、Trp及びAlaから選択される)の形成を触媒できるシクロジペプチドを合成する新しい酵素(又はシクロジペプチド合成酵素、CDS)ファミリーを今回同定した。
【0019】
よって、本発明の目的は、
- 2つのアミノ酸Tyr及びXaa (ここで、Xaaは任意のアミノ酸である)からシクロ(Tyr-Xaa)シクロジペプチドを生成する能力を有し、かつ
- 配列番号3の配列のポリペプチドと、少なくとも40%の同一性又は少なくとも60%の類似性を有するポリペプチド配列を含む
ことを特徴とする、単離されたシクロジペプチド合成酵素である。
【0020】
好ましくは、本発明のシクロジペプチド合成酵素は、配列番号3の配列と、少なくとも50%の同一性又は少なくとも70%の類似性、さらにより好ましくは少なくとも60%の同一性又は少なくとも80%の類似性、さらにより好ましくは少なくとも70%の同一性又は少なくとも90%の類似性を有するポリペプチド配列を含む。
【0021】
好ましくは、本発明のシクロジペプチド合成酵素は、配列番号3の配列のポリペプチドと、少なくとも75%の同一性又は少なくとも95%の類似性、より好ましくは少なくとも80%の同一性又は少なくとも98%の類似性、最も好ましくは少なくとも90%の同一性又は少なくとも99%の類似性を有するポリペプチド配列を含む。
【0022】
本発明の有利な実施形態によると、上記の本発明の単離されたシクロジペプチド合成酵素は、配列番号3、配列番号4及び配列番号6の配列からなる群より選択される。
本発明の別の実施形態によると、上記のシクロジペプチド合成酵素は、配列番号4以外のポリペプチド配列を有する。
【0023】
本明細書において定義される同一性のパーセンテージ及び類似性のパーセンテージは、BLASTプログラムを用いて(blast2seq、デフォルトパラメータ) (Tatutsova及びMadden, FEMS Microbiol Lett., 1999, 174, 247〜250)、配列番号3の配列の全長からなる比較ウインドウで、好ましくはそれらを配列番号3の長さの少なくとも90%であるオーバーラップ、すなわち217アミノ酸のオーバーラップに対して計算することにより、得ることができる。
【0024】
本発明の別の目的は、
a) 上記で定義される本発明のシクロジペプチド合成酵素をコードするポリヌクレオチド;
b) ポリヌクレオチドa)の相補ポリヌクレオチド;
c) ストリンジェントな条件下で、ポリヌクレオチドa)又はb)とハイブリッド形成するポリヌクレオチド
から選択される単離されたポリヌクレオチドである。
【0025】
上記の単離されたポリヌクレオチドは、有利には、ストリンジェントな条件下で、配列番号1のポリヌクレオチド配列の相補ポリヌクレオチドにハイブリッド形成し、シクロ(Tyr-Xaa) (ここで、Xaaは任意のアミノ酸である)を生成する能力を有するシクロジペプチドを合成する酵素をコードする。
【0026】
本明細書で用いる場合、用語「ハイブリッド形成する」は、ポリヌクレオチドが記載される核酸配列又はその一部分とハイブリッド形成する経過のことである。よって、上記の核酸配列は、RNA又はDNA調製物のそれぞれノザン又はサザンブロット分析においてプローブとして有用であり得るか、或いはそれらのそれぞれのサイズに応じて、PCR分析におけるオリゴヌクレオチドプライマーとして用い得る。好ましくは、上記のハイブリッド形成するポリヌクレオチドは、少なくとも10、より好ましくは少なくとも15ヌクレオチドを含み、プローブとして用いられる本発明のハイブリッド形成するポリヌクレオチドは、好ましくは少なくとも100、より好ましくは少なくとも200、より好ましくは少なくとも500ヌクレオチドを含む。
【0027】
当該技術において、核酸分子を用いてどのようにしてハイブリッド形成実験を行うかは公知であり、すなわち、当業者は、本発明に従って、どのハイブリッド形成条件を用いなければならないかを知っている。このようなハイブリッド形成条件は、Sambrookら, Molecular Cloning: A Laboratory Manual; Cold Spring Harbor Laboratory Press, 第2版 1989及び第3版 2001; Gerhardtら; Methods for General and Molecular Bacteriology; ASM Press, 1994; Lefkovits; Immunology Methods Manual: The Comprehensive Sourcebook of Techniques; Academic Press, 1997; Golemis; Protein-Protein Interactions: A Molecular Cloning Manual; Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2002のような標準的な参考書、及び当業者に知られる他の標準的な実験手引書又は上記で引用されるものに記載される。本発明に従って好ましいものは、ストリンジェントなハイブリッド形成条件である。
【0028】
「ストリンジェントなハイブリッド形成条件」とは、例えば、50%ホルムアミド、5×SSC (750 mM NaCl, 75 mMクエン酸ナトリウム)、50 mMリン酸ナトリウム(pH 7.6)、5×デンハルト溶液、10%硫酸デキストラン、及び20μg/ml変性断片化サケ精子DNAを含む溶液中で42℃にて一晩のインキュベーションと、それに続く例えば0.2×SSC中で約65℃でのフィルタの洗浄のことである。
【0029】
また、低ストリンジェンシーハイブリッド形成条件でハイブリッド形成する核酸分子も構想される。ハイブリッド形成及びシグナル検出のストリンジェンシーの変化は、ホルムアミド濃度;塩条件、又は温度の操作によりまず達成される。例えば、より低いストリンジェンシー条件は、6×SSPE (20×SSPE = 3 mol/l NaCl; 0.2 mol/l NaH2PO4; 0.02 mol/l EDTA, pH 7.4)、0.5% SDS、30%ホルムアミド、100μg/mlサケ精子ブロッキングDNAを含む溶液中で37℃にて一晩のインキュベーションと、それに続く1×SSPE、0.1% SDSで50℃での洗浄を含む。
【0030】
さらに、さらにより低いストリンジェンシーを達成するために、ストリンジェントなハイブリッド形成の後に行う洗浄を、より高い塩濃度(例えば5×SSC)で行うことができる。上記の条件の変動は、ハイブリッド形成実験におけるバックグラウンドを抑制するために用いられるブロッキング試薬の使用及び/又は別のブロッキング試薬への交換により達成し得る。典型的なブロッキング試薬は、デンハルト試薬、BLOTTO、ヘパリン、変性サケ精子DNA、及び市販で入手可能な特許登録された処方を含む。
【0031】
本発明の単離されたポリヌクレオチドの例は、マイコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)から単離されたRv2275遺伝子として知られる配列に相当し(配列番号2は、GenBankアクセッション番号GI:57116681のマイコバクテリウム・ツベルクローシスH37Rv完全ゲノムの2546883位〜2547752位に相当する)、かつ配列番号4の配列のシクロジペプチド合成酵素をコードする配列番号2の配列のポリヌクレオチドである。異なるデータベースで入手可能な情報は、単離されておらず、その機能が同定されていない推定タンパク質に関するものである。
【0032】
本発明の単離されたポリヌクレオチドの別の例は、2番目のコドンが(配列番号2におけるTCAコドンの代わりに)GCAコドンである配列番号2の変異型に相当し、かつ2番目のアミノ酸がAlaである(Serの代わりに)配列番号6の配列のシクロジペプチド合成酵素をコードする配列番号5の配列のポリヌクレオチドである。本発明の単離されたポリヌクレオチドのさらなる例は、49番目のコドン(TTT)から始まり、49番目のコドンがATGコドンで置き換えられ、50番目のコドンが変化していない(CAG)か又はGAGコドンで置き換えられており、かつ2番目のアミノ酸がGln又はGluのいずれかである配列番号3の配列のシクロジペプチド合成酵素の短縮形をコードする配列番号2の5'短縮配列に相当する配列番号1の配列のポリヌクレオチドである。
【0033】
本発明の別の実施形態によると、上記のポリヌクレオチドは、配列番号2以外のポリヌクレオチド配列を有する。
【0034】
本発明の単離されたポリヌクレオチドは、DNAライブラリー、特にマイコバクテリウムDNAライブラリー、例えばマイコバクテリウム・ツベルクローシス又はマイコバクテリウム・ボビス(Mycobacterium bovis) DNAライブラリーから、プローブとして配列番号1を用いて得ることができる。本発明のポリヌクレオチドは、マイコバクテリウム、特にマイコバクテリウム・ツベルクローシス又はマイコバクテリウム・ボビスのトータルDNAに対して行うポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により得ることができるか、又はマイコバクテリウム、特にマイコバクテリウム・ツベルクローシス又はマイコバクテリウム・ボビスのトータルRNAに対して行うRT-PCRにより得ることができる。
【0035】
本発明の別の目的は、上記で定義される本発明のポリヌクレオチドを含むことを特徴とする組換えベクターである。
用いられるベクターは、従来技術で知られるいずれのベクターであり得る。本発明に従って用い得るベクターとしては、特に、プラスミド、コスミド、細菌人工染色体(BAC)、放線菌類の組込み要素、ウイルス又はバクテリオファージが挙げられる。
【0036】
上記のベクターは、ベクターの複製及び/又はポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドの発現のために要求される任意の調節配列(プロモーター、終結部位など)も含み得る。
【0037】
本発明の別の目的は、上記で定義されるポリヌクレオチド又は本発明の組換えベクターが導入された改変宿主細胞である。
このような改変宿主細胞は、原核生物又は真核生物を宿主として用いる任意の既知の異種発現系であり得、原核生物が好ましい。例えば、動物又は昆虫細胞、好ましくは微生物、特に大腸菌のような細菌が挙げられる。
【0038】
本発明の別の目的は、上記で定義される本発明のポリヌクレオチド又は組換えベクターの、上記で定義される改変宿主細胞の調製のための使用である。
本発明によるポリヌクレオチド又は組換えベクターの、改変される宿主細胞への導入は、任意の既知の方法、例えばトランスフェクション、インフェクション、融合、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション又は遺伝子銃により行うことができる。
【0039】
本発明の別の目的は、上記で定義される本発明のシクロジペプチド合成酵素の、シクロジペプチド及びその誘導体の製造のための使用である。
上記で定義される本発明のシクロジペプチド合成酵素の上記の使用の有利な実施形態によると、上記のCDSは、特定のシクロジペプチドであるシクロ(Tyr-Tyr)、シクロ(Tyr-Phe)、シクロ(Tyr-Trp)及びシクロ(Tyr-Ala)を製造するために用いられる。
【0040】
別の態様において、本発明は、
(1) 同じ又は異なっていてよい2つのアミノ酸Tyr及びXaa又はそれらの誘導体を、適切な条件下で、上記で定義される本発明のシクロジペプチド合成酵素とインキュベートし、
(2) このようにして得られたシクロ(Tyr-Xaa)シクロジペプチドを回収する
ことを含むことを特徴とする、シクロ(Tyr-Xaa)シクロジペプチド(ここで、Xaaは任意のアミノ酸である)の合成方法に関する。
【0041】
用語「適切な条件」は、好ましくは、その条件下でアミノ酸と本発明のシクロジペプチド合成酵素とがインキュベートされて、上記のシクロジペプチドの合成が可能になる適切な条件(濃度、pH、緩衝液、温度、反応時間など)を意味することを意図する。
【0042】
アミノ酸及びシクロジペプチド合成酵素の適切な濃度の例は、次のとおりである:アミノ酸(Tyr及びXaa)は、0.1 mM〜100 mM、好ましくは1 mM〜10 mMの濃度;本発明のシクロジペプチド合成酵素は、0.1 nM〜100μM、好ましくは1μM〜100μMの濃度である。
【0043】
適切な緩衝液の例は、可溶性原核細胞抽出液を補った150 mM NaCl、10 mM ATP、20 mM MgCl2を含む100 mM Tris-HClである。
適切なpHは、6と8の間の範囲であり、適切な温度は、20と40℃の間の範囲であり、適切な時間は、12と24時間の間の範囲である。
【0044】
よって、上記の方法を行う好ましい実施形態によると、工程(1)は、0.1 mM〜100 mM、好ましくは1 mM〜10 mMの濃度の適切なアミノ酸、0.1 nMと100μMの間、好ましくは1μM〜100μMの濃度の本発明によるシクロジペプチド合成酵素の存在下で、6と8の間のpHで、かつシクロジペプチド合成酵素を生成しない大腸菌又はストレプトミセス(Streptomyces)細胞のような原核細胞の可溶性抽出物を含む緩衝液中で行われる。
【0045】
α,β-脱水素されたシクロペプチド誘導体は、Gondryら(Eur. J. Biochem., 2001, 既出)又は国際PCT出願WO 2004/000879号に記載される方法に従って、上記のシクロジペプチドから得ることができる。
例えば、5 10-3単位の量のCDOを、上記の方法により用いられる緩衝液に加える。1単位のCDOは、標準アッセイ条件下で、1分あたりに1μmolのシクロ(ΔPhe-His)の形成を触媒する量として定義された(Gondryら, Eur. J. Biochem., 2001, 268, 4918〜4927)。
【0046】
よって、上記の方法の好ましい実施形態によると、該方法は、
(1') 同じ又は異なっていてよい2つのアミノ酸Tyr及びXaaを、上記で定義される適切な条件下で、本発明によるシクロジペプチド合成酵素及び精製されたCDOとインキュベートし、
(2') α,β-脱水素されたシクロペプチドを回収する
ことを含む。
【0047】
シクロジペプチド、又はα,β-脱水素されたその誘導体の合成方法の別の好ましい実施形態によると、シクロジペプチド合成酵素の合成のための本発明のポリヌクレオチドの使用からなる予備的工程(P)を、工程(1)又は工程(1')の前に行う。
【0048】
シクロジペプチド、又はα,β-脱水素されたその誘導体の合成方法は、任意の適切な生物学的な系、特に例えば微生物、例えば大腸菌又はストレプトミセス・リビダンスのような細菌において、或いは原核生物又は真核生物を宿主として用いる任意の既知の異種発現系、若しくは無細胞系において行い得る。好ましい実施形態によると、シクロジペプチド及びα,β-脱水素されたその誘導体の合成方法は、本発明のシクロジペプチド合成酵素を発現する本発明の改変宿主細胞の培養において行われる。
【0049】
本発明の別の目的は、上記で定義される本発明の改変宿主細胞の、シクロ(Tyr-Xaa)シクロジペプチド、特にシクロ(Tyr-Tyr)、シクロ(Tyr-Phe)、シクロ(Tyr-Trp)及びシクロ(Tyr-Ala)、並びにそれらのα,β-脱水素された誘導体の製造のための使用である。
【0050】
別の態様において、本発明は、以下の
(1') 上記で定義される宿主細胞を、該宿主に適する培養条件下で培養し、
(2') 培養培地からシクロジペプチドを回収する
工程を含む、シクロ(Tyr-Xaa)シクロジペプチド(ここで、Xaaは任意のアミノ酸である)の合成方法に関する。
【0051】
α,β-脱水素されたシクロジペプチド誘導体は、以下の条件下で、Gondryら(Eur. J. Biochem., 2001, 既出)又は国際PCT出願WO 2004/000879号に記載される方法に従って、上記のシクロジペプチドから得ることができる:
(1') 上記で定義される宿主細胞を、該宿主に適する培養条件下で培養し、
(1'') 工程(1')から得られたシクロジペプチドを含む培養培地を、精製されたCDOとインキュベートし、
(2'') 工程(1'')から得られるα,β-脱水素されたシクロジペプチド誘導体を、培養培地から回収する。
【0052】
CDOを用いる条件は、上記のものと同じである。
【0053】
シクロジペプチド、又はα,β-脱水素されたシクロジペプチドの誘導体の回収は、液相抽出技術により、或いは沈殿、又は薄層若しくは液相クロマトグラフィー技術、特に逆相HPLC、又は当該技術において知られるペプチド精製に適する任意の方法により、合成から直接行うことができる。
【0054】
本発明の別の目的は、α,β-脱水素されたシクロ(Tyr-Xaa)誘導体:シクロ(ΔTyr-Xaa)、シクロ(Tyr-ΔXaa)及びシクロ(ΔTyr-ΔXaa) (ここで、Xaaはいずれかのアミノ酸である)である。
【0055】
上記の誘導体の好ましい実施形態によると、これらは、シクロ(ΔTyr-Tyr)、シクロ(ΔTyr-Phe)、シクロ(ΔTyr-Trp)、シクロ(ΔTyr-Ala)、シクロ(Tyr-ΔPhe)、シクロ(Tyr-ΔTrp)、シクロ(Tyr-ΔAla)、シクロ(ΔTyr-ΔTyr)、シクロ(ΔTyr-ΔPhe)、シクロ(ΔTyr-ΔTrp)、シクロ(ΔTyr-ΔAla)からなる群より選択される。
【0056】
上記の規定に加えて、本発明は、本発明の実施例及び添付の図面に言及する以下の記載から明らかになる他の規定も含む。添付の図面において:
- 図1. (a) ピペラジン-2,5-ジオン環の構造。シスアミド結合は太線である。(b) シクロ(Tyr-Tyr)の構造。(c) シクロ(Tyr-Phe)の構造。(d) シクロ(Tyr-Trp)の構造。(e) シクロ(Tyr-Ala)の構造。
【0057】
- 図2. 発現ベクターpEXP-Rv2275構築のためのクローニングストラテジ。
- 図3. 完全Rv2275タンパク質を発現する大腸菌BL21AI細胞の培養培地のHPLC分析。pEXP-Rv2275 (連続線)及び空のpQE60 (点線)で形質転換された細胞の培養培地を、RP-HPLCにより分析した。クロマトグラムを、220 nmで記録した。
【0058】
- 図4. N-末端にタグ付加したRv2275分析(図3を参照)からのピーク1溶出に相当するフラクション1のMS (4a)及びMSMS (4b)スペクトル。回収されたフラクション1を、質量分析計に直接注入し、オンラインでフルスキャンMSを得た(図4a)。星印を付したm/zピークは、天然のシクロジペプチドのm/zに一致し(表2)、実施例2に記載される条件下でのMSMS特徴づけのために選択した。235.0±0.1でのm/zピークのみが、シクロジペプチドに典型的な一連のフラグメンテーションを示す:図4bにおいて娘イオンスペクトル中に示すような28及び45のニュートラルロス、並びにチロシンのいわゆるイミニウム及び関連するイオン(以下、「iTyr」という)の生成。
【0059】
- 図5. N-末端にタグ付加したRv2275分析(図3を参照)からのピーク2溶出に相当するフラクション2のMS (5a)及びMSMS (5b)スペクトル。回収されたフラクション2を、質量分析計に直接注入し、オンラインでフルスキャンMSを得た(図5a)。327.0±0.1でのm/zを有するメインピークを、実施例2に記載される条件下でのMSMSフラグメンテーションによる構造の特徴付けのために選択した。娘イオンスペクトルは、28及び45の一連のニュートラルロス、及び136.0±0.1でのm/zピークを示し、これはチロシンのイミニウムイオンに一致する(以下、「iTyr」という)(図5b)。
【0060】
- 図6. N-末端にタグ付加したRv2275分析(図3を参照)からのピーク3及び4の同時溶出に相当するフラクション3-4のMS (6a)及びMSMS (6b及び6c)スペクトル。回収されたフラクション3-4を、質量分析計に直接注入し、オンラインでフルスキャンMSを得た(図6a)。指定するシクロジペプチドに一致するm/zピークの娘イオンのスペクトル(MSスペクトルにおいて丸で囲んだピーク)は、実施例2に記載される条件下で得られた。チロシン、フェニルアラニン及びトリプトファンのイミニウムイオン並びに関連するイオンは、それぞれ、「iTyr」、「iPhe」及び「iTrp」という。
【0061】
- 図7. 市販のシクロ(Tyr-Tyr)のHPLC分析(7a)、MS及びMSMSスペクトル(7b)。クロマトグラムは、220 nmで記録した。m/z 327.0±0.1でのシクロ(Tyr-Tyr)のMS及び娘イオンスペクトルは、実験方法に記載される条件下で得た。チロシンのイミニウムイオン及び関連イオンは、以下、「iTyr」という。
【0062】
- 図8. 合成シクロ(Tyr-Phe)のHPLC分析(8a)、MS及びMSMSスペクトル(8b)。クロマトグラムは、220 nmで記録した。m/z 311.2±0.1でのシクロ(Tyr-Phe)のMS及び娘イオンスペクトルは、実験方法に記載される条件下で得た。チロシン及びフェニルアラニンのイミニウムイオンは、それぞれ「iTyr」及び「iPhe」という。
【0063】
- 図9. 合成シクロ(Tyr-Trp)のHPLC分析(9a)、MS及びMSMSスペクトル(9b)。クロマトグラムは、220 nmで記録した。m/z 350.0±0.1でのシクロ(Tyr-Trp) のMS及び娘イオンスペクトルは、実験方法に記載される条件下で得た。チロシン及びトリプトファンのイミニウム及び関連するイオンは、それぞれ「iTyr」及び「iTrp」という。
【0064】
- 図10. 合成シクロ(Tyr-Ala)のHPLC分析(10a)、MS及びMSMSスペクトル(10b)。クロマトグラムは、220 nmで記録した。m/z 235.0±0.1でのシクロ(Tyr-Ala) のMS及び娘イオンスペクトルは、実験方法に記載される条件下で得た。チロシンのイミニウムイオンは、以下、「iTyr」という。Alaのイミニウムイオンは検出されない。
【0065】
- 図11. 短縮Rv2275タンパク質を発現する大腸菌M15[pREP4]細胞の培養培地のHPLC分析。pQE60-Rv2275C (連続線)及びpQE60 (点線)で形質転換された細胞の培養培地を、RP-HPLCにより分析した。クロマトグラムは、220 nmで記録した。
【0066】
- 図12. 短縮Rv2275分析(図11を参照)から得られたピーク1 (図12a)及びピーク2 (図12b)のMS及びMSMSスペクトル。回収したフラクションを、質量分析計に直接注入し、オンラインでフルスキャンMSを得た(上のスペクトル)。指定したシクロジペプチドに一致したm/zピーク(MSスペクトルにおいて丸で囲んだピーク)の娘イオンスペクトル(下のスペクトル)を、実験方法に記載される条件下で得た。チロシンのイミニウム及び関連するイオンは、以下、「iTyr」という。
【0067】
- 図13. 短縮Rv2275分析(図11を参照)から得られたピーク3 (図13a)及びピーク4 (図13b)のMS及びMSMSスペクトル。回収したフラクションを、質量分析計に直接注入し、オンラインでフルスキャンMSを得た(上のスペクトル)。指定したシクロジペプチドに一致したm/zピーク(MSスペクトルにおいて丸で囲んだピーク)の娘イオンスペクトル(下のスペクトル)を、実験方法に記載される条件下で得た。チロシン、フェニルアラニン及びトリプトファンのイミニウム及び関連するイオンを、それぞれ、「iTyr」、「iPhe」及び「iTrp」という。
【実施例】
【0068】
以下の実施例は、本発明を説明するが、限定するものではない。
実施例1:N-末端HIS6タグ付加融合体としてのRv2275タンパク質をコードする大腸菌発現ベクターの構築
Rv2275をコードする発現ベクターを、Gateway (商標)クローニング技術(Invitrogen)を用いて構築した。これは、そのN-末端に(His)6タグ、attB組換え部位の翻訳配列(クローニングのために必要)及びTEVプロテアーゼ切断部位を有する細胞質融合タンパク質としてRv2275を発現して、29残基、すなわちMSYYHHHHHHLESTSLYKKAGFENLYFQG (配列番号18)のN-末端伸長となるように設計された。Rv2275をコードする遺伝子は、結核菌群(Mycobacterium tuberculosis complex)のいくつかの株(結核菌、エム・ボビス)で保存されているので、我々は、この発現ベクターの構築のために、マイクバクテリウム・ツベルクローシスH37Rv (gi:15609412)のRv2275遺伝子と100%同一であるmb2298遺伝子(gi:31793454)を有するマイコバクテリウム・ボビスBCGパスツールからの染色体DNAを用いた。
【0069】
クローニングストラテジの全体を、図2に示す。まず、組換えクローニングに適し、かつRv2275タンパク質をコードするattBに挟まれたDNAを、3回の連続するPCRの後に得た。mb2298遺伝子を、鋳型としてのマイコバクテリウム・ボビスBCGパスツールゲノムDNA、並びにプライマーA及びB(表I)を用いて、1回目のPCRで増幅させた(図2におけるPCR 1)。PCR条件は、97℃にて4分間の1回の最初の変性工程、続いて94℃にて1分間、54℃にて1分間、72℃にて2分間を25サイクル、そして72℃にて10分間の1回の最終伸長工程であった。反応混合物(50μl)は、1μlの染色体DNA (25 ng/μl)、0.3μlの100μMの各プライマー溶液、5μlのMgSO4を含む10×Pfu DNAポリメラーゼ緩衝液(Pfu DNAポリメラーゼ供給業者により供給される)、0.1μlの各10 mMのdNTPミックス、及び1μlのPfu DNAポリメラーゼ(2.5 U/μl; Fermentas)を含んでいた。PCR産物(以下、「PCR産物1」という)を、次いで、1%アガロースゲルでの電気泳動の後に(Sambrookら, Molecular Cloning: A Laboratory manual, 2001, New York)、「GFX PCR DNA and Gel Band Purification」キット(Amersham Biosciences)を用いて精製した。2回目のPCR (図2におけるPCR 2)により、TEVプロテアーゼ切断部位をコードする配列を、PCR産物1の5'末端に、そしてattB2コード配列を3'末端に付加することが可能になった。PCR条件は、95℃にて5分間の1回の最初の変性工程、続いて95℃にて45秒間、50℃にて45秒間、72℃にて1.5分間を30サイクル、そして72℃にて10分間の1回の最終伸長工程であった。反応混合物(50μl)は、5 ngのPCR産物1、0.4μMのプライマーC及びD (表I)、2.5単位のExpand High Fidelity Enzymeミックス(Roche)、1.5 mM MgCl2を含む1×Expand High Fidelity緩衝液(Roche)、及び200μMの各dNTPを含んでいた。1%アガロースゲルでの電気泳動及びQIAquick Gel Extractionキット(Qiagen)を用いる精製の後に、PCR産物(以下、「PCR産物2」という)を、3回目のPCRに用い(図2におけるPCR 3)、これにより、PCR産物2の5'末端にattB1コード配列を付加することが可能になった。PCRを、上記のようにして、鋳型として5 ngのPCR産物2、並びに0.4μMのプライマーE及びD (表I)を用いて行った。得られたPCR産物(以下、「PCR産物3」という)を、上記のようにして精製した。
【0070】
次に、attBに挟まれたPCR産物3を、BP clonase (商標)反応においてpDONR (商標) 221ドナーベクター(Invitrogen)と再結合させて、エントリーベクターpENT-Rv2275を得た。pENT-Rv2275を、ABI PRISM 310 Genetic Analyzer (Applied Biosystem)、並びにプライマーM13フォワード、M13リバース及びF (表Iを参照)を用いて、2つの組換え部位の間の配列を決定した。pENT-Rv2275及び市販のデスティネーションベクターpDEST-17 (Invitrogen)を、LR clonase (商標)サブクローニング反応において用いて、供給業者の推奨に従って発現ベクターpEXP-Rv2275 (配列番号19)を得た。
【0071】
【表1】
【0072】
組換え混合物を、大腸菌DH5α化学的コンピテント細胞の形質転換に用いて、陽性クローンを、コロニーPCRによる分析の後で選択した。50μlの反応混合物は、鋳型としての少量のコロニー、200μMの各dNTP、0.2μMのプライマーM13フォワード及びM13リバース、1×ThermoPol反応緩衝液(New England Biolabs)、並びに1.25単位のTaq DNAポリメラーゼ(New England Biolabs)を含んでいた。用いたPCR条件は、以下のとおりであった:95℃にて5分間の1回の最初の変性工程、続いて92℃にて30秒間、50℃にて30秒間、72℃にて2分間の30サイクル。プラスミドDNAを、Wizard DNA精製システム(Promega)を用いて陽性クローンから単離し、-20℃にて保存した。
【0073】
実施例2:大腸菌細胞質でのRv2275の発現は、シクロジペプチドの合成を導く。
Rv2275の発現を、最少培地中で、プラスミドpEXP-Rv2275を有する大腸菌細胞を培養することにより行った。この培地は、最少培地1リットル当たり1 mlのビタミン溶液及び2 mlの微量要素(oligoelements)溶液と、M9最少培地の全ての要素(6 g/l Na2HPO4、3 g/l KH2PO4、0.5 g/l NaCl、1 g/l NH4Cl、1mM MgSO4、0.1 mM CaCl2、1μg/mlチアミン及び0.5%グルコース又はグリセロール)を含んでいた(Sambrookら、上記)。ビタミン溶液は、1.1 mg/lビオチン、1.1 mg/l葉酸、110 mg/l パラ-アミノ安息香酸、110 mg/lリボフラビン、220 mg/lパントテン酸、220 mg/lピリドキシン-HCl、220 mg/lチアミン及び220 mg/lナイアシンアミドを50%エタノール中に含む。微量要素溶液は、FeCl2含有溶液をH2Oで50倍に希釈することにより作製した。FeCl2含有溶液は、100 mlあたりに:8 ml濃HCl、5g FeCl2.4H2O、184 mg CaCl2.2H2O、64 mg H3BO3、40 mg MnCl2.4H2O、18 mg CoCl2.6H2O、4 mg CuCl2.2H2O、340 mg ZnCl2、605 mg Na2MoO4.2H2Oを含む。
【0074】
プラスミドpEXP-Rv2275からのRv2275の組換え発現は、大腸菌BL21AI細胞(Invitrogen)を用いて行った。50μlの化学的コンピテント細胞(Invitrogen)を、20 ngのプラスミドで、標準的な熱ショック手法を用いて形質転換した(Sambrookら, 上記)。BL21AI細胞を、CDSを生成しない対照培養を作製するために、pQE60でも形質転換した。SOC培地(Sambrookら, 上記)中で37℃にて1時間増殖させた後に、2つの形質転換混合物の細菌を、200μg/mlのアンピシリン含有LBプレート上に広げ、37℃にて1晩培養した。いくつかのコロニーを採取して、0.5%グルコース及び200μg/mlアンピシリンを含むビタミン及び微量要素溶液を補ったM9液体培地に接種した。振とうしながら37℃にて一晩インキュベートした後に、500μlの各スターター培養物を用いて、0.5%グリセロール及び200μg/mlアンピシリンを含むビタミン及び微量要素溶液を補った25 mlのM9最少培地に接種した。細菌を、37℃にて、OD600が約0.5になるまで成長させ、0.02% L-アラビノースを加えた。培養を、20℃にて24時間継続した。培養上清を、3,000 gにて20分間の遠心分離の後に回収して、-20℃に維持した。
【0075】
HPLC分析によるシクロジペプチド誘導体の検出。
シクロジペプチドの形成は、AlbCを発現する大腸菌細胞の培養上清について以前に報告されたようにして(Lautruら, Chem. Biol., 2002, 9, 1355〜1364)、Rv2275を発現する大腸菌細胞の培養上清を分析することにより調べた。
培養上清(200μl)を、濃トリフルオロ酢酸を用いてpH=3まで酸性化し、次いで、HPLCにより分析した。試料を、C18カラム(4.6×250 mm, 5μm, 300Å, Vydac)に装填し、0.1%トリフルオロ酢酸を含む0%から55%までのアセトニトリル/脱イオン水の60分間の直線勾配により溶出した(流速、1 ml/分)。溶出を、ダイオードアレイ検出器を用いて220と500 nmの間で監視した。
【0076】
N-末端にタグ付加したRv2275を発現する大腸菌細胞の培養上清の220 nmでのHPLC分析は、2つの分離されたピーク、すなわちピーク1及びピーク2と、2つのあまり分離されていないピーク、すなわちピーク3及びピーク4を示し、これらはRv2275を発現しない細胞の培養上清(空のpQ60を用いた)では見いだされなかった(図3)。これらの4つのピークは、すなわち、その合成が大腸菌でのRv2275の発現に直接関連する生成物に相当した。ピーク2は主要なピークであり、21.3分の保持時間及び275 nm付近が中心である吸収バンドにより特徴付けられた。ピーク1は、小さいピークであり、15.9分の保持時間及び275 nm付近が中心である吸収バンドにより特徴付けられた。ピーク3及び4は、非常に近い保持時間を示したので、完全には分離されない。ピーク3は、29.6分の保持時間及び277 nm付近が中心であり288 nmにショルダーがある吸収バンドにより特徴付けられた。ピーク4は、29.8分の保持時間及び275 nm付近が中心である吸収バンドにより特徴付けられた。4つのピークを、質量分析によるさらなる分析のために回収した。
【0077】
MS及びMSMS分析によるシクロジペプチド誘導体の同定
培養上清からのHPLC溶出画分(上記を参照)を回収し、直交型大気圧インターフェースエレクトロスプレーイオン化(AP-ESI)源(Bruker Daltonik GmbH, Germany)を備えるイオントラップ型質量分析計Esquire HCTを用いて、質量分析により分析した。試料は、シリンジポンプにより、3μl/分の流速で質量分析計に直接注入した。窒素は、乾燥及び霧化ガスとして用いられ、ヘリウムガスは、効率的なトラップ及びESIにより発生するイオンの冷却のため、並びにフラグメンテーションプロセスのためにイオントラップに導入された。イオン化は、9 psiに設定された霧化ガス、5μl/分に設定された乾燥ガス及び300℃に設定された乾燥温度でのポジティブモードで行った。イオン化及び質量分析の条件(キャピラリ高電圧、スキマー及びキャピラリ出口電圧、並びにイオン移動パラメータ)は、100と400 m/zの間のシクロジペプチド質量の範囲内の化合物の最適な検出のために設定された。質量フラグメンテーションによる構造的特徴決定のために、1マスユニットの分離幅を、親のイオンの単離のために用いた。フラグメンテーション振幅は、少なくとも90%の単離されたプリカーサーイオンがフラグメンテーションされるまで、同調させた。フルスキャンMS及びMSMSスペクトルを、EsquireControlソフトウェアを用いて獲得し、全てのデータを、DataAnalysisソフトウェアを用いて処理した。
【0078】
質量分析及びHPLC分析用の標準物質として、市販のシクロジペプチド(Sigma及びBachem)、又は化学合成シクロジペプチド(Jeediguntaら, Tetrahedron, 2000, 56, 3303〜3307により記載されるようにして)を用いた。
【0079】
N-末端タグ付加されたRv2275に相当する溶出されたフラクションのMSスペクトル(以下、ピーク1の溶出について「フラクション1」、ピーク2の溶出について「フラクション2」、ピーク3及び4の両方の溶出について「フラクション3-4」という)を、それぞれ図4a、5a及び6aに示す。これらのスペクトルは、不均質な質量及び比較的低強度のm/zピークを示した。これは、Rv2275により生成される可能性があるシクロジペプチドが、エレクトロスプレーイオン化によりイオン化されにくいことによるのであろう。MSスペクトルに始まり、我々は、全ての著しいm/z値(シグナル/ノイズ比>5)を、天然のシクロジペプチドの予測される質量の値と比較した(表IIに示す)。
【0080】
【表2】
【0081】
第2工程において、m/z値がシクロジペプチドのものに一致する化合物の化学構造を解明するために、MSMS実験を行った。
【0082】
種々の市販又は手製の合成シクロジペプチドについて既に実験され、また、多くのところで出版されたシクロジペプチド娘イオンスペクトルで観察されるように(Chenら, Eur Food Research Technology, 2004, 218, 589〜597 ; Starkら, J Agric Food Chem, 2005, 53, 7222〜7231)、シクロジペプチド誘導体は、以下の特徴的なパターンにフラグメンテーションされる:(i) カルボニル基(C=O基の脱離による28 umaの損失)又はアミド基(CONH3に対応する45の損失)のいずれかの側でのジケトピペラジン環の開裂による連続的なニュートラルロス、及び(ii) アミノアシル残基の同定を可能にするいわゆるイミニウムイオン及びそれらの関連するイオンのm/zピークの存在(Roepstorffら, Biomed Mass Spectrom, 1984, 11, 601 ; Johnsonら, Anal. Chem, 1987, 59, 2621〜2625) (表III)。
【0083】
【表3】
【0084】
一致したシクロジペプチドm/zピーク(図4a、5a及び6aにおいて星印を付した)を、次いで、個別にMSMSフラグメンテーションに供し、全ての得られた娘イオンスペクトルを、シクロジペプチドフラグメンテーションパターンについてスクリーニングした。
【0085】
フラクション1のMS分析は、天然のシクロジペプチドに一致するm/z値を有するm/zピークを示した(図4a)。しかし、MSMSフラグメンテーション後の1つのみ(235.0±0.1)が、28及び45のニュートラルロスと、チロシンのイミニウム(136±0.1)及び関連イオン(107±0.1)に相当するm/zピークの出現とを示すシクロジペプチドの典型的なパターンを増加させた(図4b)。表IIに示す質量によると、235のm/zを有するチロシン残基を含むシクロジペプチドのみが、シクロ(Tyr-Ala)である。よって、15.9分の保持時間で溶出された化合物は、シクロ(Tyr-Ala)であることが示された。
【0086】
フラクション2のMS分析は、天然のシクロジペプチドに一致するm/z値を有する5つのm/zピークを示した(図5a)。しかし、327.1±0.1の主要ピークのみが、シクロジペプチドに典型的なフラグメンテーションパターンを示した(図5b)。表2の天然のシクロジペプチドのm/z値に比較して、このm/zは、シクロ(Tyr-Tyr)に一致する。さらに、このm/z 327.1±0.1の娘イオンスペクトルは、チロシンのイミニウムイオンの存在を示した(図5b)。この結果は、21.3分にてフラクション2で溶出されたRv2275生成物が、シクロ(Tyr-Tyr)であることを示す。
【0087】
フラクション3-4のMS分析は、シクロジペプチドについての予測されるm/z値に一致し、かつシクロジペプチドに典型的なフラグメンテーションパターンをともに示す2つのピークを示した(図6): m/z = 311.1±0.1のピーク、及びm/z = 350.0±0.1のより小さいピーク(図6a)。MSMSフラグメンテーションによる構造の特徴付けは、チロシン(m/z = 136.0±0.1)及びフェニルアラニン(m/z = 120.0±0.1)の検出されたイミニウムイオンを参照にして、311.1±0.1でのm/zピークをシクロ(Tyr-Phe)として同定した(図6b)。350.0±0.1でのわずかなm/zピークのMSMS分析は、チロシンのイミニウムイオン(m/z = 136.0±0.1)、及びトリプトファンのイミニウム関連イオンの3つ(m/z = 130.0±0.1、132.0±0.1及び170.0±0.1)を生成した(図6c)。350.0±0.1でのm/zを有するピークを、次いで、シクロ(Tyr-Trp)のものとした。
【0088】
実施例3:大腸菌細胞質でのRv2275の発現は、シクロ(TYR-Xaa)の合成を導く。
上記で示したMS分析は、Rv2275を生成する大腸菌の培養上清で同定された化合物が、シクロ(Tyr-Ala)、シクロ(Tyr-Tyr)、シクロ(Tyr-Phe)及びシクロ(Tyr-Trp)であったことを強く示唆した。これらの同定を確認するために、市販のシクロ(Tyr-Tyr)及びシクロ(Tyr-Trp)、並びに化学合成したシクロ(Tyr-Phe)及びシクロ(Tyr-Ala)を、HPLC分析及びMSMS実験の両方において参照として用いた。これらの標準シクロジペプチドの全ては、上記で検出されたのと同じクロマトグラフィー及び質量の特徴を示す。実際に、参照シクロ(Tyr-Tyr)の保持時間(図7aを参照)は、培養上清のピーク2のものと同じである(図3)。次に、参照シクロ(Tyr-Tyr)を、MS及びMSMS分析に供し、得られたフラグメンテーションパターン(図7b)は、図5bで得られたものと類似することが見出された。標準シクロ(Tyr-Phe)は、あまり分離されていないピーク4で得られたものと同じ保持時間で溶出される(図3に比較して図8a)。この標準シクロジペプチドのMS及びMSMSの特徴(図8b)は、ピーク4について得られたものと同じである(図6b)。同様にして、標準シクロ(Tyr-Trp) (図9a及び9b)及びシクロ(Tyr-Ala) (図10a及び10b)に対するRP-HPLC及びMS分析は、pEXP-Rv2275の培養上清で検出された代謝産物のものと同じRP-HPLC保持時間及びフラグメンテーションパターンを示す。
【0089】
明確に、我々は、大腸菌でのRv2275の発現が、培養培地で見出されたシクロ(Tyr-Tyr)、シクロ(Tyr-Ala)、シクロ(Tyr-Phe)及びシクロ(Tyr-Trp)の合成を導き、このことは、Rv2275が、大腸菌において活性な形で生成され得るシクロ(Tyr-Xaa)合成酵素であることを示すことを示した。
【0090】
実施例4:C-末端HIS6タグ付加融合体としての短縮されたRv2275タンパク質(配列番号3)をコードする大腸菌発現ベクターの構築
Rv2275は、AlbCについての239に比較して、289アミノ酸長である。これらのタンパク質のアラインメントは、Rv2275には、48アミノ酸のN-末端伸長があり、これはAlbCに等価物が存在しないことを示す。いくつかのアミノ酸の可欠性の問題に取り組むために、2つの構築物を作製して、クローニングベクターpQE60 (Qiagen)においてRv2275の2つの異なるC-末端His6タグ付加バージョンを発現させた。
【0091】
プラスミドpQE60-Rv2275Lと命名された第1構築物において、Rv2275の完全コード配列が存在し、プラスミドpQE60-Rv2275Cと命名された第2構築物には、最初の48コドンを欠く短縮コード配列が存在する。
【0092】
プラスミドpQE60-Rv2275Lの構築
Rv2275をコードする完全配列を有するDNAフラグメントを、鋳型としてのpEXP-Rv2275、Taq DNAポリメラーゼ(Pharmacia)及び以下のプライマーを製造業者の推奨する条件下で用いるPCR増幅の後に得た:
- プライマーKRVLF (5'-CGGCCATGGCATACGTGGCTGCCGAACCAGGC-3', NcoI部位に下線) (配列番号15)、及び
- プライマーKRVR (5'-GGCAGATCTTTCGGCGGGGCTCCCATCAGG-3', BglII部位に下線) (配列番号16)。
【0093】
2つの制限部位を、このようにして導入した:コード配列の上流にNcoI部位、及び下流にBglII部位。NcoI部位の導入に伴って、2番目のコドンTCAがGCAに置換され(KがGである配列番号5を参照)、このことにより、対応するタンパク質では2番目のアミノ酸セリンがアラニンに置換された(位置2のアミノ酸がAlaである配列番号6を参照)。このDNAフラグメントを、NcoI-BglIIフラグメントとして、NcoI及びBamHIにより消化されたベクターpQE60にクローニングして、プラスミドpQE60-Rv2275L (配列番号20)を得た。挿入物のDNA配列は、配列決定により確認した。
【0094】
プラスミドpQE60-Rv2275Cの構築
Rv2275の短縮バージョンをコードする配列を有するDNAフラグメントを、鋳型としてのpEXP-Rv2275、Taq DNAポリメラーゼ(Pharmacia)、及び以下のプライマーを、製造業者により推奨される条件下で用いるPCR増幅の後に得た:
- プライマーKRVCF (5'-CGGCCATGGAGCTAGGCAGGCGCATTCCGGAAGC-3', NcoI部位に下線) (配列番号17)、及び
- プライマーKRVR (5'-GGCAGATCTTTCGGCGGGGCTCCCATCAGG-3', BglII部位に下線) (配列番号16)。
【0095】
2つの制限部位を、このようにして導入した:コード配列の上流にNcoI部位、及び下流にBglII部位。PCR増幅により得られたフラグメントにおいて、ATG開始コドンは、元来のRv2275配列の49番目のコドン(TTT)に対応する位置で導入された。NcoI部位の導入は、コドンCAG (元来の配列の50番目のコドン)の、GAG (短縮配列の2番目のコドン)での置換も伴い(SがGである配列番号1を参照)、対応するタンパク質ではグルタミンがグルタミン酸に置換された(位置でのアミノ酸がGluである配列番号3を参照)。このDNAフラグメントを、NcoI-BglIIフラグメントとして、NcoI及びBamHIで消化されたベクターpQE60にクローニングして、プラスミドpQE60-Rv2275C (配列番号21)を得た。挿入物のDNA配列を、配列決定により確認した。
【0096】
シクロジペプチドの合成のための完全及び短縮Rv2275の発現
Rv2275の完全及び短縮されたバージョンの発現を、実施例2に示すようにして、プラスミドpQE60-Rv2275L又はpQE60-Rv2275Cを有する大腸菌細胞を培養することにより行った。
【0097】
プラスミドpQE60-Rv2275L及びpQE60-Rv2275CからのC-末端タグ付加Rv2275の発現は、pREP4プラスミドを含む大腸菌M15株(以下、「M15pREP4」という) (Qiagen)を用いて行った。50μlの化学的コンピテント細胞を、20 ngのプラスミドpQE60-Rv2275L、pQE60-Rv2275C及びpQE60で、標準的な熱ショック手順を用いて形質転換した(Sambrookら, 上記)。SOC培地で1時間増殖させた後に、形質転換混合物を、0.5%グルコース、100μg/mlアンピシリン及び30μlg/mlカナマイシンを含むLBプレート上に広げ、37℃にて1晩インキュベートした。いくつかのコロニーを採取して、0.5%グルコース、100μg/mlアンピシリン及び30μg/mlカナマイシンを含むビタミン及び微量要素溶液を補ったM9液体培地に接種した。回転振とう機で200 rpmにより37℃にて24時間の成長の後に、0.5%グリセロール、100μg/mlアンピシリン及び30μg/mlカナマイシンを含むビタミン及び微量要素溶液を補った予め加熱した最少培地25 mlに、最少培地中のスターター培養物500μlを接種した。細菌培養物を、200 rpmで回転振とうしながら37℃にてインキュベートし、600 nmでの吸光度(OD600)を、成長の間に監視した。OD600が0.5に到達したときに、1 mM IPTGを加え、培養物を、200 rpmで回転振とうしながら20℃にて20時間インキュベートした。細菌培養物を、次いで、3,000 gにて20分間遠心分離し、上清を、シクロジペプチド生成分析のためにとりおいた。
【0098】
プラスミドpQE60-Rv2275Lを有する大腸菌M15pREP4細胞を培養し、それらがシクロ(Tyr-Tyr)、シクロ(Tyr-Ala)、シクロ(Tyr-Phe)及びシクロ(Tyr-Trp)を合成する能力を、上記のようにしてHPLCにより評価した。220 nmでのクロマトグラムは、プラスミドpEXP-Rv2275を有する大腸菌細胞の上清を用いて得られたものと類似することが見出された(データ示さず)。
【0099】
プラスミドpQE60-Rv2275Cを有する大腸菌M15pREP4細胞を培養し、それらがシクロ(Tyr-Tyr)、シクロ(Tyr-Ala)、シクロ(Tyr-Phe)及びシクロ(Tyr-Trp)を合成する能力を、上記のようにしてHPLCにより評価した(図11)。220 nmでのクロマトグラムは、プラスミドpEXP-Rv2275を有する大腸菌細胞の上清を用いて得られたものと類似することが見出された(図3及び図11のクロマトグラムを比較されたい):Rv2275の短縮バージョンの発現は、4つのピークの存在を導き(11においてピーク1、2、3及び4と示す)、これらは、全長Rv2275について以前に得られたピーク1、2、3及び4のもの(図3)と同様の保持時間及びスペクトルの特徴をそれぞれ示す。MS及びMSMS分析により明らかにされるように(図12及び13)、ピーク1'、2'、3'及び4'は、それぞれ、シクロ(Tyr-Ala)、シクロ(Tyr-Tyr)、シクロ(Tyr-Trp)及びシクロ(Tyr-Phe)と同定された。よって、Rv2275のN-末端伸長は、シクロ(Tyr-Xaa)合成活性について、なくてもよい。
【0100】
実施例5:精製Rv2275タンパク質によるシクロ(TYR-TYR)のインビトロ生成。
精製Rv2275タンパク質の生成
最少培地をLB培地で置き換えた以外は(Sambrookら, 上記)、実施例2にすでに記載したようにして、Rv2275タンパク質の生成のための細菌培養を行った。0.02%アラビノースを用いる誘導の後に、培養を20℃にて12時間継続した。細菌細胞を、4,000 gで20分間の遠心分離により採集し、-80℃にて凍結した。次いで、細菌細胞を融解し、100 mM Tris-HCl pH 8、150 mM NaCl及び5%グリセロールで構成される1.5 mlの抽出緩衝液に再懸濁した。細胞を、イートンプレスを用いて破砕し、20,000 gで4℃にて20分間遠心分離した。可溶性タンパク質を含む得られた上清を、100 mM Tris-HCl pH 8、150 mM NaClで構成される緩衝液で平衡化したNi2+カラム(AmershamからのHisTrap HP)に装填した。カラムを、同じ緩衝液で洗浄し、イミダゾールの直線勾配に付した(0〜1 Mのイミダゾール、pH 8)。Rv2275タンパク質は、約250 mMのイミダゾールで溶出された。精製されたRv2275タンパク質を、次いで、洗浄し(イミダゾールを除去するため)、Vivaspin濃縮器(Vivascience)を用いて濃縮した。
【0101】
追加のために用いる可溶性細胞抽出物の調製
空のベクターpQE60 (Qiagen)で形質転換された細菌を、上記のようにして培養して破砕した。破砕した細胞を、20,000 gで4℃にて20分間遠心分離した。得られた上清は、シクロジペプチド合成酵素を含まない大腸菌細胞の可溶性抽出物に相当する。
【0102】
シクロ(Tyr-Tyr)のインビトロ生成
5.5 mM Tyr、10 mM ATP、20 mM MgCl2及び25μMの精製されたRv2275タンパク質を含む215μlの反応混合物に、上記の可溶性細胞抽出物115μlを補った。この混合物を、30℃にて12時間インキュベートした。反応を、TFAの添加により停止し、20,000 gで20分間の遠心分離に付した。次いで、上清をHPLCにより分析し、HPLCで溶出されたフラクションを、実施例2に記載されるようにして質量分析により特徴付けた。対照として、精製Rv2275を除く以外は同様の条件下で同じ実験を行った。
【0103】
結果は、Rv2275タンパク質を含むインキュベートされた混合物が、シクロ(Tyr-Tyr)を含む(図5に示すものと同様の質量の特徴を有する、21.3分の保持時間でHPLCから溶出されたフラクション)が、Rv2275タンパク質を含まないインキュベートされた混合物は、シクロジペプチドを含まないことを明確に示す。このことは、シクロ(Tyr-Tyr)の形成を、精製シクロ(Tyr-Xaa)合成酵素を用いてインビトロで行うことができることを示す。
シクロ(Tyr-Tyr)シクロジペプチドについて記載した手順を、シクロ(Tyr-Phe)、シクロ(Tyr-Trp)及びシクロ(Tyr-Ala)に応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】(a) ピペラジン-2,5-ジオン環の構造。(b) シクロ(Tyr-Tyr)の構造。(c) シクロ(Tyr-Phe)の構造。(d) シクロ(Tyr-Trp)の構造。(e) シクロ(Tyr-Ala)の構造。
【図2】発現ベクターpEXP-Rv2275構築のためのクローニングストラテジ。
【図3】完全Rv2275タンパク質を発現する大腸菌BL21AI細胞の培養培地のHPLC分析。
【図4】N-末端にタグ付加したRv2275分析(図3を参照)からのピーク1溶出に相当するフラクション1のMS (4a)及びMSMS (4b)スペクトル。
【図5】N-末端にタグ付加したRv2275分析(図3を参照)からのピーク2溶出に相当するフラクション2のMS (5a)及びMSMS (5b)スペクトル。
【図6】N-末端にタグ付加したRv2275分析(図3を参照)からのピーク3及び4の同時溶出に相当するフラクション3-4のMS (6a)及びMSMS (6b及び6c)スペクトル。
【図7】市販のシクロ(Tyr-Tyr)のHPLC分析(7a)、MS及びMSMSスペクトル(7b)。
【0105】
【図8】合成シクロ(Tyr-Phe)のHPLC分析(8a)、MS及びMSMSスペクトル(8b)。
【図9】合成シクロ(Tyr-Trp)のHPLC分析(9a)、
【図10】合成シクロ(Tyr-Ala)のHPLC分析(10a)、MS及びMSMSスペクトル(10b)。
【図11】短縮Rv2275タンパク質を発現する大腸菌M15[pREP4]細胞の培養培地のHPLC分析。
【図12】短縮Rv2275分析から得られたピーク1 (図12a)及びピーク2 (図12b)のMS及びMSMSスペクトル。
【図13】短縮Rv2275分析から得られたピーク3 (図13a)及びピーク4 (図13b)のMS及びMSMSスペクトル。
【図1a】
【図1b】
【図1c】
【図1d】
【図1e】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
- 2つのアミノ酸Tyr及びXaa (ここで、Xaaはいずれかのアミノ酸である)からシクロ(Tyr-Xaa)シクロジペプチドを生成する能力を有し、かつ
- 配列番号3の配列のポリペプチドと、少なくとも40%の同一性又は少なくとも60%の類似性を有するポリペプチド配列を含む
ことを特徴とする、単離されたシクロジペプチド合成酵素。
【請求項2】
配列番号3、配列番号4及び配列番号6の配列からなる群より選択されることを特徴とする請求項1に記載の単離されたシクロジペプチド合成酵素。
【請求項3】
a) 請求項1又は2で定義されるシクロジペプチド合成酵素をコードするポリヌクレオチド;
b) ポリヌクレオチドa)の相補ポリヌクレオチド;
c) ストリンジェントな条件下で、ポリヌクレオチドa)又はb)にハイブリッド形成するポリヌクレオチド
から選択されることを特徴とする単離されたポリヌクレオチド。
【請求項4】
ストリンジェントな条件下で、配列番号1のポリヌクレオチド配列の相補ポリヌクレオチドにハイブリッド形成し、かつシクロ(Tyr-Xaa) (ここで、Xaaはいずれかのアミノ酸である)を生成する能力を有するシクロジペプチド合成酵素をコードすることを特徴とする請求項3に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項5】
配列番号1、配列番号2及び配列番号5の配列からなる群より選択されることを特徴とする請求項3に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか1項で定義されるポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
【請求項7】
プラスミドであることを特徴とする請求項6に記載の組換えベクター。
【請求項8】
請求項3〜5のいずれか1項で定義されるポリヌクレオチド、又は請求項6若しくは7で定義される組換えベクターで改変された宿主細胞。
【請求項9】
原核細胞からなる請求項8に記載の宿主細胞。
【請求項10】
細菌からなる請求項8に記載の宿主細胞。
【請求項11】
請求項1又は2に記載のシクロジペプチド合成酵素の、シクロジペプチド シクロ(Tyr-Xaa) (ここで、Xaaはいずれかのアミノ酸である)を製造するための使用。
【請求項12】
シクロ(Tyr-Tyr)、シクロ(Tyr-Phe)、シクロ(Tyr-Trp)、シクロ(Tyr-Ala)から選択されるシクロジペプチドを製造するための請求項11に記載の使用。
【請求項13】
請求項8〜10のいずれか1項で定義される宿主細胞の、シクロジペプチド シクロ(Tyr-Xaa) (ここで、Xaaはいずれかのアミノ酸である)を製造するための使用。
【請求項14】
シクロ(Tyr-Tyr)、シクロ(Tyr-Phe)、シクロ(Tyr-Trp)、シクロ(Tyr-Ala)から選択されるシクロジペプチドを製造するための請求項13に記載の使用。
【請求項15】
(1) 同じ又は異なっていてよい2つのアミノ酸Tyr及びXaaを、適切な条件下で、請求項1又は2で定義されるシクロジペプチド合成酵素とインキュベートし、
(2) このようにして得られたシクロ(Tyr-Xaa)シクロジペプチドを回収する
ことを特徴とする、シクロ(Tyr-Xaa)シクロジペプチド(ここで、Xaaはいずれかのアミノ酸である)の合成方法。
【請求項16】
(1') 同じ又は異なっていてよい2つのアミノ酸Tyr及びXaaを、適切な条件下で、請求項1又は2で定義されるシクロジペプチド合成酵素及び精製されたCDOとインキュベートし、
(2') α,β-脱水素されたシクロジペプチドを回収する
ことを含むことを特徴とする、α,β-脱水素されたシクロ(Tyr-Xaa)シクロジペプチド(ここで、Xaaはいずれかのアミノ酸である)の合成方法。
【請求項17】
工程(1)又は工程(1')が、0.1 mMと100 mMの間、好ましくは1 mM〜10 mMの濃度の適切なアミノ酸、0.1 nMと100μMの間、好ましくは1μM〜100μMの濃度のシクロジペプチド合成酵素の存在下に、シクロジペプチド合成酵素を生成しない大腸菌又はストレプトミセス細胞のような原核細胞の可溶性抽出物を含む6と8の間のpHの緩衝液中で行われる請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
工程(1)又は工程(1')の前に、シクロジペプチド合成酵素を合成するために請求項3〜5のいずれか1項で定義されるポリヌクレオチドを用いることからなる予備工程(P)をさらに含むことを特徴とする請求項15〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
以下の:
(1') 請求項8〜10のいずれか1項で定義される宿主細胞を、該宿主細胞に適する培養条件下で培養し、
(2') 培養培地からシクロジペプチドを回収する
工程を含む、シクロ(Tyr-Xaa)シクロジペプチド(ここで、Xaaはいずれかのアミノ酸である)の合成方法。
【請求項20】
以下の:
(1') 請求項8〜10のいずれか1項で定義される宿主細胞を、該宿主細胞に適する培養条件下で培養し、
(1") 工程(1')から得られたシクロ(Tyr-Xaa)シクロジペプチドを、精製されたCDOとインキュベートし、
(2') 培養培地からシクロジペプチドを回収する
工程を含む、α,β-脱水素されたシクロ(Tyr-Xaa)シクロジペプチド(ここで、Xaaはいずれかのアミノ酸である)の合成方法。
【請求項21】
α,β-脱水素されたシクロ(Tyr-Xaa)誘導体:シクロ(ΔTyr-Xaa)、シクロ(Tyr-ΔXaa)及びシクロ(ΔTyr-ΔXaa) (ここで、Xaaはいずれかのアミノ酸である)。
【請求項22】
シクロ(ΔTyr-Tyr)、シクロ(ΔTyr-Phe)、シクロ(ΔTyr-Trp)、シクロ(ΔTyr-Ala)、シクロ(Tyr-ΔPhe)、シクロ(Tyr-ΔTrp)、シクロ(Tyr-ΔAla)、シクロ(ΔTyr-ΔTyr)、シクロ(ΔTyr-ΔPhe)、シクロ(ΔTyr-ΔTrp)、シクロ(ΔTyr-ΔAla)からなる群より選択されることを特徴とする請求項21に記載の誘導体。
【請求項1】
- 2つのアミノ酸Tyr及びXaa (ここで、Xaaはいずれかのアミノ酸である)からシクロ(Tyr-Xaa)シクロジペプチドを生成する能力を有し、かつ
- 配列番号3の配列のポリペプチドと、少なくとも40%の同一性又は少なくとも60%の類似性を有するポリペプチド配列を含む
ことを特徴とする、単離されたシクロジペプチド合成酵素。
【請求項2】
配列番号3、配列番号4及び配列番号6の配列からなる群より選択されることを特徴とする請求項1に記載の単離されたシクロジペプチド合成酵素。
【請求項3】
a) 請求項1又は2で定義されるシクロジペプチド合成酵素をコードするポリヌクレオチド;
b) ポリヌクレオチドa)の相補ポリヌクレオチド;
c) ストリンジェントな条件下で、ポリヌクレオチドa)又はb)にハイブリッド形成するポリヌクレオチド
から選択されることを特徴とする単離されたポリヌクレオチド。
【請求項4】
ストリンジェントな条件下で、配列番号1のポリヌクレオチド配列の相補ポリヌクレオチドにハイブリッド形成し、かつシクロ(Tyr-Xaa) (ここで、Xaaはいずれかのアミノ酸である)を生成する能力を有するシクロジペプチド合成酵素をコードすることを特徴とする請求項3に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項5】
配列番号1、配列番号2及び配列番号5の配列からなる群より選択されることを特徴とする請求項3に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれか1項で定義されるポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
【請求項7】
プラスミドであることを特徴とする請求項6に記載の組換えベクター。
【請求項8】
請求項3〜5のいずれか1項で定義されるポリヌクレオチド、又は請求項6若しくは7で定義される組換えベクターで改変された宿主細胞。
【請求項9】
原核細胞からなる請求項8に記載の宿主細胞。
【請求項10】
細菌からなる請求項8に記載の宿主細胞。
【請求項11】
請求項1又は2に記載のシクロジペプチド合成酵素の、シクロジペプチド シクロ(Tyr-Xaa) (ここで、Xaaはいずれかのアミノ酸である)を製造するための使用。
【請求項12】
シクロ(Tyr-Tyr)、シクロ(Tyr-Phe)、シクロ(Tyr-Trp)、シクロ(Tyr-Ala)から選択されるシクロジペプチドを製造するための請求項11に記載の使用。
【請求項13】
請求項8〜10のいずれか1項で定義される宿主細胞の、シクロジペプチド シクロ(Tyr-Xaa) (ここで、Xaaはいずれかのアミノ酸である)を製造するための使用。
【請求項14】
シクロ(Tyr-Tyr)、シクロ(Tyr-Phe)、シクロ(Tyr-Trp)、シクロ(Tyr-Ala)から選択されるシクロジペプチドを製造するための請求項13に記載の使用。
【請求項15】
(1) 同じ又は異なっていてよい2つのアミノ酸Tyr及びXaaを、適切な条件下で、請求項1又は2で定義されるシクロジペプチド合成酵素とインキュベートし、
(2) このようにして得られたシクロ(Tyr-Xaa)シクロジペプチドを回収する
ことを特徴とする、シクロ(Tyr-Xaa)シクロジペプチド(ここで、Xaaはいずれかのアミノ酸である)の合成方法。
【請求項16】
(1') 同じ又は異なっていてよい2つのアミノ酸Tyr及びXaaを、適切な条件下で、請求項1又は2で定義されるシクロジペプチド合成酵素及び精製されたCDOとインキュベートし、
(2') α,β-脱水素されたシクロジペプチドを回収する
ことを含むことを特徴とする、α,β-脱水素されたシクロ(Tyr-Xaa)シクロジペプチド(ここで、Xaaはいずれかのアミノ酸である)の合成方法。
【請求項17】
工程(1)又は工程(1')が、0.1 mMと100 mMの間、好ましくは1 mM〜10 mMの濃度の適切なアミノ酸、0.1 nMと100μMの間、好ましくは1μM〜100μMの濃度のシクロジペプチド合成酵素の存在下に、シクロジペプチド合成酵素を生成しない大腸菌又はストレプトミセス細胞のような原核細胞の可溶性抽出物を含む6と8の間のpHの緩衝液中で行われる請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
工程(1)又は工程(1')の前に、シクロジペプチド合成酵素を合成するために請求項3〜5のいずれか1項で定義されるポリヌクレオチドを用いることからなる予備工程(P)をさらに含むことを特徴とする請求項15〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
以下の:
(1') 請求項8〜10のいずれか1項で定義される宿主細胞を、該宿主細胞に適する培養条件下で培養し、
(2') 培養培地からシクロジペプチドを回収する
工程を含む、シクロ(Tyr-Xaa)シクロジペプチド(ここで、Xaaはいずれかのアミノ酸である)の合成方法。
【請求項20】
以下の:
(1') 請求項8〜10のいずれか1項で定義される宿主細胞を、該宿主細胞に適する培養条件下で培養し、
(1") 工程(1')から得られたシクロ(Tyr-Xaa)シクロジペプチドを、精製されたCDOとインキュベートし、
(2') 培養培地からシクロジペプチドを回収する
工程を含む、α,β-脱水素されたシクロ(Tyr-Xaa)シクロジペプチド(ここで、Xaaはいずれかのアミノ酸である)の合成方法。
【請求項21】
α,β-脱水素されたシクロ(Tyr-Xaa)誘導体:シクロ(ΔTyr-Xaa)、シクロ(Tyr-ΔXaa)及びシクロ(ΔTyr-ΔXaa) (ここで、Xaaはいずれかのアミノ酸である)。
【請求項22】
シクロ(ΔTyr-Tyr)、シクロ(ΔTyr-Phe)、シクロ(ΔTyr-Trp)、シクロ(ΔTyr-Ala)、シクロ(Tyr-ΔPhe)、シクロ(Tyr-ΔTrp)、シクロ(Tyr-ΔAla)、シクロ(ΔTyr-ΔTyr)、シクロ(ΔTyr-ΔPhe)、シクロ(ΔTyr-ΔTrp)、シクロ(ΔTyr-ΔAla)からなる群より選択されることを特徴とする請求項21に記載の誘導体。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2009−534049(P2009−534049A)
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−507186(P2009−507186)
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【国際出願番号】PCT/IB2006/001852
【国際公開番号】WO2007/122447
【国際公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(506315103)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE
【住所又は居所原語表記】25,rue Leblanc Immeuble(Le Ponant D),75015 PARIS,France
【出願人】(308032666)協和発酵バイオ株式会社 (41)
【出願人】(508318904)ユニベルシテ パリ サッド 11 (5)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS SUD 11
【住所又は居所原語表記】15 Rue Georges Clemenceau,F−91405 Cedex Orsay,France
【出願人】(502205846)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィク (154)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【国際出願番号】PCT/IB2006/001852
【国際公開番号】WO2007/122447
【国際公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(506315103)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE
【住所又は居所原語表記】25,rue Leblanc Immeuble(Le Ponant D),75015 PARIS,France
【出願人】(308032666)協和発酵バイオ株式会社 (41)
【出願人】(508318904)ユニベルシテ パリ サッド 11 (5)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS SUD 11
【住所又は居所原語表記】15 Rue Georges Clemenceau,F−91405 Cedex Orsay,France
【出願人】(502205846)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィク (154)
【Fターム(参考)】
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