説明

システアミン化合物を用いてウイルス感染を治療するための材料および方法

本発明は、ウイルス感染の予防および/または治療を含む種々の健康状態を治療するための材料および方法を提供する。好ましい態様において、システアミン化合物は、インフルエンザウイルス感染を治療するために被検体に投与される。より好ましくは、システアミン化合物は、トリインフルエンザウイルスのサブタイプ(例えば、H5N1型トリインフルエンザウイルス等のような)を含むインフルエンザA型、インフルエンザB型、インフルエンザC型のウイルス感染を治療するために被検体に投与される。


【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2005年11月28日に出願された米国仮出願第60/740,584号、2006年6月2日に出願された同第60/810,773号、2006年7月6日に出願された同第60/818,885号、および2006年9月25日に出願された同第60/847,020号の恩典を主張する。これらの出願は、いかなる図および/または表も含めて、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の背景
ウイルスは、タンパク膜に包まれた核酸(RNAまたはDNA)からなる小さな寄生生物である。ウイルスは、感受性宿主細胞に感染して、宿主細胞の機構にさらにウイルスを産生するように指示することによってのみ、複製することができる。糖タンパク質(タンパク膜にある)が、感受性宿主細胞へのウイルスの吸着および侵入を仲介する。
【0003】
大抵のウイルスが、複製の間に形成される核酸の種類およびmRNAが産生される経路に基づいて、大まかな分類に分けられる。一般的に、ウイルスは、核酸が一本鎖または二本鎖であり得るRNAかDNAのどちらかを遺伝物質として有している。
【0004】
DNA型の重要なウイルス群(クラスIおよびIIのウイルスにも分類される。Harvey, L. et al., Molecular Cell Biology, Fourth Edition, W.H. Freeman and Company (2000)(非特許文献1)参照。)としては、アデノウイルス科(adenoviridae)、ヘルペスウイルス科(herpesviridae)、ポックスウイルス科(poxviridae)、パポバウイルス科(papovaviridae)、濃核病ウイルス亜科(densovirinae)、およびパルボウイルス亜科(parvovirinae)が挙げられる。RNA型に通常分類されるウイルス群(クラスIII〜VIとしても分類される。Molecular Cell Biology参照)としては、ビルナウイルス科(birnaviridae)、レオウイルス科(reoviridae)、アストウイルス科(astoviridae)、アルテリウイルス属(arterivirus)、カリシウイルス科(caliciviridae)、コロナウイルス科(coronaviridae)、フラビウイルス科(flaviviridae)、ピコルナウイルス科(picornaviridae)、トガウイルス科(togaviridae)、ポリオウイルス(polioviruses)、ボルナウイルス科(bornaviridae)、フィロウイルス科(filoviridae)、パラミクソウイルス亜科(paramyxovirinae)、ニューモウイルス亜科(pneumovirinae)、ラブドウイルス科(rhabdoviridae)、ブンヤウイルス科(bunyaviridae)、およびオルソミクソウイルス科(orthomyxoviridae)が挙げられる。
【0005】
「フルー(flu)」として一般に知られているインフルエンザは、オルソミクソウイルス科の群に分類されるインフルエンザウイルスによって引き起こされる接触伝染病である。人間に影響を及ぼす、公知のインフルエンザ型のウイルスには、3種の型、インフルエンザA型、B型およびC型がある。インフルエンザB型ウイルスおよびインフルエンザC型ウイルスが、主にヒトに感染することが分かっている一方で、インフルエンザA型ウイルスは、ヒトに加えて多くの動物種から単離されている。
【0006】
インフルエンザウイルスは、分節を有しかつカプシド形成した、マイナス一本鎖RNAを含有するウイルスを含む、エンベロープを持つウイルスである。インフルエンザウイルスのエンベロープは、ヘマグルチニンおよびノイラミニダーゼという2種の表面糖タンパク質の存在によって特徴付けられる。インフルエンザA型ビリオンおよびインフルエンザB型ビリオンは、多形性であり、通常、直径80〜120 nmである。インフルエンザC型ビリオンは、多くの特徴的な性質を有しており、従って近縁種であるA型およびB型ビリオンと区別される。
【0007】
インフルエンザウイルスは、ヒトの呼吸器管(すなわち、鼻、咽喉、および肺)を攻撃する。例えば、インフルエンザA型およびB型の感染は、高い接触感染性の急性呼吸器疾患を引き起こし得ることが多い。インフルエンザ感染は、通常、次の症状:発熱、頭痛、疲労感(極度の疲労感であり得る)、空咳、咽喉炎、鼻充血、および体の痛みを含む。
【0008】
米国では、何百万人(米国住民の約10%〜20%)もが、毎年インフルエンザにかかると推測されている。これらの人の大半が、一般的に1〜2週間で回復する。しかしながら、場合によっては、インフルエンザ感染から合併症が生じ得る。フルーから合併症にかかる危険性が最高である人としては、50歳を超える人、生後6〜23ヶ月の子供、妊娠3ヶ月を超える女性、長期療養施設もしくは機関で生活する人、慢性の心臓、肺、もしくは腎臓の疾患、糖尿病、または免疫系が低下している人が挙げられる。肺炎、気管支炎、脳炎、中耳炎、鼻炎、および副鼻腔炎は、インフルエンザ感染に起因する合併症のほんの数例でしかない。さらに、フルーは慢性的な健康問題を悪化させ得る。例えば、喘息を患う人は、フルーにかかっている間に、喘息の発作を体験するかもしれず、慢性うっ血性心不全を患う人は、フルーに誘発されて、この状態を悪化させるかもしれない。
【0009】
米国では、1年に平均して約36,000人が、インフルエンザが原因で死亡し、1年に114,000人が、感染の結果、病院に入院する必要がある。従って、インフルエンザウイルスは、入院および医療機関への来訪の増加につながる、罹患率に大きな影響を与える。例えば、65歳を超える患者に対して、および5歳未満の子供に対しても、入院率が高いことがよく見られる。
【0010】
さらに、インフルエンザウイルスが全住民中に蔓延すると、多大な経済的影響を及ぼす流行という結果になり得る。1957年、1968年、および1977年のインフルエンザ流行の間、インフルエンザ感染が原因である高い死亡率が見られた。(Fields Virology, Second Edition, Volume 1, pp. 1075-1152 (1990)(非特許文献2))。一定周期で、インフルエンザウイルスは、世界的な流行を引き起こす。例えば、1918年のインフルエンザの汎流行は、報告によれば、世界中で約2000万人の死亡と米国で約500,000人の死亡を引き起こした(Medical Microbiology, Fourth Edition, University of Texas Medical Branch at Galveston (1996)(非特許文献3))。
【0011】
インフルエンザウイルスは、咳および/またはくしゃみをしたときに放出される呼吸器飛沫(飛沫拡散としても知られる)を経由して、主に人から人へと伝播する。インフルエンザウイルスは、3時間もの間、呼吸器飛沫の状態で空気中に浮いたままであり得るが、熱に敏感であり、50℃より高い温度で速やかに不活性化される。該ウイルスは、硬質の非孔性表面上(すなわち、電話の受話器、コンピューターのキーボード、ドアノブ、台所の調理台、おもちゃ)で24〜48時間、布、紙、およびティッシュペーパー上で8時間、ならびに手のひらの上で5分間生存することができる(Muir, P, “Treatment of Influenza. Essential CPE. Continuing Education from the Pharmaceutical Society of Australia," Paragon Printers, Australasia, ACT (2002) (非特許文献4)参照)。典型的な伝播の仕方としては、感染性の浮遊する呼吸器飛沫との粘膜接触、人と人との接触、汚染された物との接触(すなわち、感染した鼻や咽喉からの排出物で汚れたティッシュペーパー)が挙げられる。
【0012】
インフルエンザに関連する症状が人に現れる前に、早ければ一日で、呼吸器飛沫を経由するインフルエンザウイルスの伝播が起こり得る。最初に症状が現れた後、成人はさらに3〜7日間、ウイルスを他人に伝播させ続け得る。成人とは違って、子供には7日間よりも長くウイルスを伝播させる能力がある。一般的に、ウイルスが体内に侵入してから、症状は1〜4日間続く。場合によっては、人はフルー・ウイルスに感染するが、症状がはっきりでないこともあり得る。それでも、この間、これらの感染した人は、他人にウイルス伝播し得る。
【0013】
インフルエンザ感染を予防するために有用な方法はほとんどなく、治療法はまだ開発されていない。インフルエンザ感染を予防するための方法としては、ワクチン接種および抗ウイルス薬治療が挙げられる。米国では、3種の抗ウイルス薬(アマンタジン、リマンタジン、およびオセルタミビル)が認可されており、インフルエンザウイルス性疾患の予防または治療用に市販されている。しかしながら、これらの化合物は、予防的に用いられる場合に最も有効であり、インフルエンザウイルスが速やかに両方の化合物に対する耐性を生じさせてしまい得る。米国特許第3,352,912号(特許文献1)および同第3,152,180号(特許文献2)を参照されたい。インフルエンザウイルスに対して活性を有することが報告された他の化合物が、米国特許第6,271,373号(特許文献3)、同第5,935,957号(特許文献4)、同第5,821,243号(特許文献5)、同第5,684,024号(特許文献6)、同第3,592,934号(特許文献7)、同第3,538,160号(特許文献8)、同第3,534,084号(特許文献9)、同第3,496,228号(特許文献10)、および同第3,483,254号(特許文献11)に開示されている。
【0014】
ウイルス性疾患の治療のための新しい治療法が、大いに必要とされている。細菌感染の治療のための様々な治療法の開発が、大いに進展する一方で、ウイルスの治療のための実行可能な治療法はほとんどない。前述のように、抗ウイルス薬およびワクチンは、インフルエンザ感染の予防および/または治療に用いられる主要な方法である。ガンシクロビル、アシクロビル、およびホスカネットは、現在、ヘルペスウイルス感染の治療に利用される。しかしながら、これらの治療法は、宿主細胞のDNA複製へのそれらの有害な作用、または限られた数のウイルス感染へのそれらの作用に基づく、実質的な副作用を有し得る。さらに、上述のように、ウイルスが治療法に対して耐性を生じることが知られており、薬効をだんだんと衰えさせる。
【0015】
知られる限り、システアミン化合物が、ウイルス感染の治療に有用であると報告されたことはこれまでない。
【0016】
【特許文献1】米国特許第3,352,912号
【特許文献2】米国特許第3,152,180号
【特許文献3】米国特許第6,271,373号
【特許文献4】米国特許第5,935,957号
【特許文献5】米国特許第5,821,243号
【特許文献6】米国特許第5,684,024号
【特許文献7】米国特許第3,592,934号
【特許文献8】米国特許第3,538,160号
【特許文献9】米国特許第3,534,084号
【特許文献10】米国特許第3,496,228号
【特許文献11】米国特許第3,483,254号
【非特許文献1】Harvey, L. et al., Molecular Cell Biology, Fourth Edition, W.H. Freeman and Company (2000)
【非特許文献2】Fields Virology, Second Edition, Volume 1, pp. 1075-1152 (1990)
【非特許文献3】Medical Microbiology, Fourth Edition, University of Texas Medical Branch at Galveston (1996)
【非特許文献4】Muir, P, “Treatment of Influenza. Essential CPE. Continuing Education from the Pharmaceutical Society of Australia," Paragon Printers, Australasia, ACT (2002)
【発明の開示】
【0017】
発明の簡単な概要
本発明は、ウイルス感染の発症を予防するためだけでなく、ウイルス感染と診断された被検体を治療するための、材料および方法を提供する。一態様において、本発明は、ウイルスに関連する症状の治療のための方法を提供する。他の態様において、本発明は、ウイルスに関連する合併症の発症を予防または遅らせるための方法を提供する。
【0018】
従って、本発明は、システアミン化合物を被検体に投与することによって、クラスI〜Vのウイルスによるウイルス感染の治療および/または予防を提供する(Lodish, H. et al., Molecular Cell Biology, Fourth Edition, W. H. Freeman and Company (2000) 参照)。さらに具体的には、本発明は、クラスI〜Vのウイルス感染の治療および/または予防、クラスI〜Vのウイルス感染に関連する症状の緩和、ならびにクラスI〜Vのウイルス感染に関連する合併症の発症を予防または遅らせるための方法を提供する。
【0019】
以下の型のウイルスに起因するウイルス感染は、本明細書に開示されるシステアミン化合物を投与することにより、治療および/または予防される。該ウイルスとしては、二重鎖DNA(dsDNA)、一本鎖DNA(ssDNA)、二重鎖ゲノムRNA(dsRNA)、一本鎖のプラス鎖RNA、および一本鎖のマイナス鎖RNAのウイルスが挙げられ、例えば、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ヒトパピローマウイルス、パルボウイルス、レオウイルス、ピコルナウイルス、コロナウイルス、フラビウイルス、トガウイルス、オルソミクソウイルス、ブンヤウイルス、ラブドウイルス、およびパラミクソウイルス等が挙げられるが、これに限定されない。
【0020】
本発明は、とりわけヒトおよび動物の両方の健康に、特にクラスI〜Vのウイルスに感染した動物に適用できる。例えば、以下に列挙するが、これらに限定されないウイルス、およびヒト以外の哺乳類に共通する該ウイルスの結果として生じる状態が、本発明を用いることにより、治療および/または予防され得る:任意の変異体を含む、ブタサークルウイルス2型(swine circle virus 2)、ピコルナウイルス、オルソミクソウイルス、コロナウイルス、トガウイルス、パラミクソウイルス、ラブドウイルス、およびレオウイルス。
【0021】
本明細書で具体的に例示されるのは、インフルエンザウイルス感染を治療および/または予防するための、システアミン化合物の使用である。本発明によれば、インフルエンザウイルスを得る前に、システアミン化合物を被検体に投与することが、被検体をインフルエンザ感染から守る助けになり得る。または、少なくとも、システアミン化合物を投与しない場合に見られるであろう程度よりも、確実に少ない程度でインフルエンザウイルス疾患に関連する症状が起きるようにできる。
【0022】
他の態様において、インフルエンザに関連する合併症にかかる危険性が高い被検体における、インフルエンザに関連する合併症の発症を予防および/または遅らせるために、システアミン化合物が投与される。例えば、本発明によれば、例えば、脳炎、気管支炎、気管炎、筋炎、鼻炎、副鼻腔炎、喘息、細菌感染(すなわち、ストレプトコッカス・アウレウス(streptococcus aureus)菌感染、ヘモフィルス・インフルエンザ(haemophilus influenzae)菌感染、ブドウ球菌性肺炎菌感染)、心合併症(すなわち、心房細動、心筋炎、心膜炎)、ライ症候群、神経学的合併症(すなわち、錯乱、けいれん、精神病、神経炎、ギラン・バレー症候群、昏睡、横断性脊髄炎、脳炎、脳脊髄炎)、毒素性ショック症候群、筋炎、ミオグロビン尿症、および腎不全、クループ、中耳炎、ウイルス感染(すなわち、ウイルス性肺炎)、肺線維症、閉塞性細気管支炎、気管支拡張症、ぜんそくの増悪、慢性閉塞性肺疾患の増悪、肺膿瘍、蓄膿症、肺アスペルギルス症、筋炎およびミオグロビン血症、心不全、妊婦での早期胎児死および後期死産、妊婦での周産期死亡率の増加、出生時の先天性異常等のインフルエンザに関連する合併症は、システアミン化合物の摂取によって低減され得る。
【0023】
本発明の他の態様において、インフルエンザに関連する症状を緩和するために、システアミン化合物をインフルエンザ感染と診断された被検体に投与する。システアミン化合物を、単独で、またはインフルエンザウイルス性疾患を治療/予防するために用いられる他の公知の薬剤(すなわち、ワクチン接種、抗ウイルス薬)、もしくはインフルエンザに関連する症状を治療するために用いられる他の公知の薬剤(すなわち、鎮咳薬、粘液溶解薬、ならびに/または去痰薬;解熱剤および鎮痛剤;鼻充血除去薬)と同時に投与することができる。
【0024】
一態様において、システアミン化合物を、単独で、またはウイルス感染を治療/予防するために用いられる他の公知の薬剤と同時に投与する。好ましくは、インフルエンザウイルスへの曝露前に、その間に、またはその後に、本発明のシステアミン化合物を、インフルエンザウイルス性疾患を治療/予防するために用いられる他の公知の薬剤(すなわち、ワクチン接種、抗ウイルス薬)、またはインフルエンザに関連する症状を治療するために用いられる他の公知の薬剤(すなわち、鎮咳薬、粘液溶解薬、および/または去痰薬;解熱剤および鎮痛剤;鼻充血除去薬)と同時に、被検体に投与する。
【0025】
関連する態様において、システアミン化合物を、単独で、またはトリインフルエンザウイルス(AIV)感染を治療および/または予防するために用いられる他の公知の薬剤と同時に投与する。本発明によれば、AIV感染を治療および/または予防するために、システアミン化合物を注射または経口投与によって、被検体に投与できる。
【0026】
好ましくは、システアミン化合物を、単独で、またはトリインフルエンザウイルスの種々のサブタイプの治療および/または予防に有用な他の公知の薬剤と同時に投与する。より好ましくは、本発明のシステアミン化合物を、単独で、またはH5N1型AIVの治療および/または予防に有用な他の公知の薬剤と同時に投与する。上記に列挙したAIVサブタイプのいずれかを、好ましくはH5N1型AIV感染を治療および/または予防するために、少なくとも0.1 mg/mLのシステアミン塩酸塩、より好ましくは少なくとも1 mg/mLのシステアミン塩酸塩、さらに好ましくは少なくとも2 mg/mLのシステアミン塩酸塩の投薬量を、被検体に投与することができる。
【0027】
特定の好ましい態様において、H5N1型AIV感染の治療および/または予防において投与されるシステアミン塩酸塩の投薬量は、被検体に存在するウイルスの濃度に相関する。より好ましくは、H5N1型AIV感染の治療および/または予防に投与されるシステアミン塩酸塩の投薬量は、およそLD50の初期濃度に相関する。
【0028】
本発明によれば、被検体をウイルス感染から守るために、ウイルス感染前に被検体に投与されるシステアミン化合物の1日投与量は、約10 mg〜3,000 mgであり得る。好ましくは、システアミン化合物は、1日当り約50 mg〜1,500 mgで投与される。より好ましい態様において、インフルエンザウイルス(例えば、トリインフルエンザウイルス、インフルエンザA型、インフルエンザB型、およびインフルエンザC型、またはこれらの任意の変異体)の疾患の発症を予防/治療するために、約200 mg〜900 mgのシステアミン塩酸塩が、被検体に毎日投与される。
【0029】
本発明によれば、ひとたびウイルス感染に伴う症状が現れた被検体に投与されるシステアミン化合物の1日投与量は、約10 mg〜3,000 mgである。好ましくは、システアミン化合物は、1日当り約200 mg〜1,500 mgで投与される。より好ましい態様において、1日に約450 mg〜900 mgのシステアミン塩酸塩が、インフルエンザウイルス(例えば、トリインフルエンザウイルス、インフルエンザA型、インフルエンザB型、およびインフルエンザC型、あるいはこれらの任意の変異体)の疾患に伴う症状の重症度を治療および/または改善するために、被検体に投与される。
【0030】
本発明によれば、ウイルス感染に伴う合併症にかかる危険性のある被検体に投与されるシステアミン化合物の1日投与量は、約10 mg〜3,000 mgである。好ましくは、システアミン化合物は、1日当り約200 mg〜1,500 mgで投与される。より好ましい態様において、1日に約450 mg〜900 mgのシステアミン塩酸塩が、インフルエンザウイルス(例えば、トリインフルエンザウイルス、インフルエンザA型、インフルエンザB型、およびインフルエンザC型、あるいはこれらの任意の変異体)の疾患に伴う合併症の発症を予防するおよび/または遅らせるために、被検体に投与される。
【0031】
発明の詳細な開示
本発明は、ウイルス感染を治療するための材料および方法を提供する。具体的には、本発明は、クラスI〜Vのウイルス感染を予防するための材料、方法;クラスI〜Vのウイルス感染に伴う症状を治療する/改善するための材料、方法;および/またはクラスI〜Vのウイルス感染に伴う合併症の発症を予防する/遅らせるための材料、方法を提供する。好ましい態様において、本発明は、インフルエンザ感染を予防するための方法、インフルエンザ感染に伴う症状を治療する/改善するための方法、および高リスクの患者における、インフルエンザ感染に伴う合併症の発症を予防する/遅らせるための方法を提供する。
【0032】
本明細書で用いられる「症状」という用語は、被検体が特定の状態または疾患を患っているという、一般的な徴候または指標のことを言う。例えば、本明細書で用いられるウイルス感染に伴う症状は、被検体がクラスI〜Vのウイルスに感染しているという、一般的な徴候または指標のことを言う。本明細書で意図されるインフルエンザに関連する症状としては、発熱、頭痛、極度疲労/疲労、筋肉痛、関節痛、炎症性の流涙、倦怠感、悪心および/または嘔吐、悪寒戦慄、胸部痛、くしゃみおよび呼吸器症状(すなわち、気道粘膜の炎症、胸骨下灼熱感(substernal burning)、鼻汁、咽喉のかゆみ/咽喉炎、空咳、嗅覚喪失)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
本発明によれば、インフルエンザウイルス感染に伴う症状は、感染後24〜48時間以内に始まり得、突然起こり得る。悪寒または寒気は、インフルエンザの最初の指標であることが多い。最初の数日間、発熱は普通であり、それから体温が102°F〜103°Fに上がり得る。多くの場合、被検体は、何日も寝込むほど十分に体調が悪く、被検体は、全身の長く続く痛み(ache)および痛み(pain)を体験することが多く、最も顕著なのは背部および脚である。
【0034】
本明細書で用いられる「合併症」という用語は、疾患または状態の間に起こり、疾患もしくは状態の根幹ではない、病的過程または事象のことを言い、疾患/状態または独立した原因に起因するかもしれない病的過程または事象のことを言う。従って、合併症という用語は、クラスI〜Vのウイルスに感染していると診断された被検体に見られる、医学的/臨床的問題のことを言う。インフルエンザウイルス感染の一つの合併症は、インフルエンザウイルス感染が、慢性的な健康問題を悪化させ得る合併症である。例えば、ウイルス感染に伴う合併症としては、脳炎、気管支炎、気管炎、筋炎、鼻炎、副鼻腔炎、喘息、細菌感染(すなわち、ストレプトコッカス・アウレウス菌感染、ヘモフィルス・インフルエンザ菌感染、ブドウ球菌性肺炎菌感染)、心合併症(すなわち、心房細動、心筋炎、心膜炎)、ライ症候群、神経学的合併症(すなわち、錯乱、けいれん、精神病、神経炎、ギラン・バレー症候群、昏睡、横断性脊髄炎、脳炎、脳脊髄炎)、毒素性ショック症候群、筋炎、ミオグロビン尿症、および腎不全、クループ、中耳炎、ウイルス感染(すなわち、ウイルス性肺炎)、肺線維症、閉塞性細気管支炎、気管支拡張症、ぜんそくの増悪、慢性閉塞性肺疾患の増悪、肺膿瘍、蓄膿症、肺アスペルギルス症、筋炎およびミオグロビン血症、心不全、妊婦での早期胎児死および後期死産、妊婦での周産期死亡率の増加、ならびに出生時の先天性異常が挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
本明細書で用いられる、「インフルエンザ」、「インフルエンザウイルス」、または「フルー」という用語は、インフルエンザA型、インフルエンザB型、およびインフルエンザC型、ならびにこれらの変異体を含む、オルソミクソウイルス科の群のRNAウイルスのことを言う。本明細書で意図されるインフルエンザウイルスとしては、それらの表面上に、ノイラミニダーゼおよびヘマグルチンという2種の抗原性グリコシル化酵素を有するウイルスが挙げられる。本発明の材料および方法を用いて治療され得る、インフルエンザウイルスの種々のサブタイプとしては、H1N1、H1N2、H2N2、H3N2、H3N8、H5N1、H5N3、H5N8、H5N9、H7N1、H7N2、H7N3、H7N4、H7N7、H9N2およびH10N7サブタイプが挙げられるが、これらに限定されず、「スペイン風邪」、「アジア風邪」、「香港風邪」、「トリフルー」、「ブタフルー」、「ウマフルー」、および「イヌフルー」として、一般に公知である以下のサブタイプを含む。
【0036】
本明細書で用いられる「被検体」という用語は、本発明に記載の組成物での治療が提供される、ヒトおよび哺乳類を含む生物のことを説明する。開示された治療の方法から利益を得る哺乳類種としては、類人猿、チンパンジー、オランウータン、ヒト、サル、ならびに例えばイヌ、ネコ、マウス、ラット、モルモット、およびハムスター等の飼い慣らされた動物(すなわち、ペット)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
本明細書で用いられる「同時投与」および「同時に投与する」としては、クラスI〜Vのウイルス感染の治療において、またはクラスI〜Vのウイルス感染に関連する症状/合併症の治療のために、本発明の方法(システアミン化合物の投与)と共に使用するために適した、化合物または治療法を投与することが挙げられる。
【0038】
インフルエンザ感染であると診断された被検体に対して、システアミン化合物を、ワクチン接種、抗ウイルス薬、鎮咳薬、粘液溶解薬および/または去痰薬;解熱剤および鎮痛剤;鼻充血除去薬と同時に投与することができる。一例として、化合物は、例えば薬学的組成物等のような、システアミン化合物との混合剤として提供され得る。または、該化合物とシステアミンは、例えば連続して、同時に、もしくは異なった時間に投与される別々の薬学的組成物等のような、別々の化合物として提供され得る。好ましくは、システアミン化合物と、インフルエンザ感染の治療/予防、および/またはインフルエンザに関連する症状/合併症の治療のための公知の薬剤(または治療法)とが別々に投与される場合、システアミン化合物と公知の薬剤(方法)が相互作用できないほど互いに時間をあけて投与される事はない。
【0039】
本発明の特定の態様において、システアミン化合物は、ワクチン接種;例えばアマンタジン、リマンタジン、リバビリン、イドクスウリジン、トリフルリジン、ビダラビン、アシクロビル、ガンシクロビル、ホスカルネット、ジドブジン、ジダノシン、ザルシタビン、スタブジン、ファムシクロビル、オセルタミビル、およびバラシクロビル等のような抗ウイルス薬治療(ウイルス感染の治療に用いられる材料および/または方法);または鎮咳薬、粘液溶解薬、および/もしくは去痰薬;解熱剤および鎮痛剤;鼻充血除去薬(インフルエンザ感染に伴う症状の治療に用いられる材料)と同時に投与され得るが、これらに限定されない。
【0040】
一例として、本発明のシステアミン化合物と共に使用するための化合物は、例えば薬学的組成物等としてのような、システアミン化合物との混合剤として提供され得る。あるいは、該化合物とシステアミンは、例えば連続して、同時に、もしくは異なった時間に投与される別々の薬学的組成物等のような、別々の化合物として提供され得る。好ましくは、システアミン化合物と、インフルエンザ感染の治療/予防、および/またはインフルエンザに関連する症状/合併症の治療のための公知の薬剤(または治療法)とが別々に投与される場合、システアミン化合物と公知の薬剤(方法)が相互作用できないほど互いに時間をあけて投与される事はない。
【0041】
本明細書で使用される「システアミン化合物」への言及は、システアミン、システアミン化合物の薬学的に許容される塩を含む種々のシステアミン塩、および、例えば、体内で容易に代謝されてシステアミンを生じることができるシステアミンのプロドラッグを含む。本発明の範囲内には、システアミンの類似体、誘導体、抱合体、ならびに代謝前駆体(例えば、システイン、シテアミン、およびパンテチン等)および代謝産物(例えば、タウリンおよびヒポタウリン等)も含まれ、これらは、本明細書に記載の通り、コルチゾール濃度を下げることおよび免疫活性の増強によって、ストレスおよびストレスに関連する症状/合併症を治療および/または予防する能力を有する。システアミンの種々の類似体、誘導体、抱合体、および代謝産物は周知であり、当業者に容易に用いられ、例えば、米国特許第6,521,266号、同第6,468,522号、同第5,714,519号、および同5,554,655号に示される化合物、組成物、および送達方法を含む。
【0042】
本明細書で意図されるシステアミン化合物としては、パントテン酸が挙げられる。パントテン酸は、多くの生理学的反応に必要不可欠な物質である補酵素Aに、哺乳類中で変換される天然のビタミンである。システアミンは補酵素Aの成分であり、補酵素A濃度が上がると、結果として循環システアミン濃度が上がる。例えば、第三リン酸マグネシウムおよび亜硫酸マグネシウム(エプソム塩)等のようなアルカリ金属塩は、補酵素Aの形成を増強する。さらに、補酵素Aからシステアミンへの分解は、例えば、クエン酸等のような還元剤の存在によって高められる。従って、パントテン酸とアルカリ金属塩の組み合わせは、結果として補酵素Aの生成を増大させ、それに付随してシステアミンの生成を増大させる。
【0043】
本明細書で用いられる「薬学的に許容される塩」という用語は、薬学的に許容され、かつシステアミン化合物の活性を大きく減少または阻害しない、システアミン化合物の任意の塩のことを言う。適切な例としては、例えば、酢酸、酒石酸、トリフルオロ酢酸、乳酸、マレイン酸、フマル酸、クエン酸、メタン、スルホン酸、硫酸、リン酸、硝酸等のような、有機酸もしくは無機酸を用いた酸付加塩、または塩化物が挙げられる。
【0044】
従って、本発明の一態様において、本明細書で示されるシステアミンの利点は、天然の代謝プロセスを介して、例えば、補酵素Aの働きを介して、または前駆体および/もしくはシステインの代謝産物として、システアミンの内因性の産生を促進することにより達成され得る(図1および2を参照)。これは、例えば、パントテン酸の投与により達成され得る。
【0045】
本明細書で用いられる「有効量」という用語は、所望の生物学的応答を引き出すのに必要な量のことを言う。本発明によれば、システアミン化合物の有効量は、クラスI〜Vのウイルス感染を治療/予防するために、クラスI〜Vのウイルス感染に伴う症状を治療/改善するために、および/またはクラスI〜Vのウイルス感染に伴う合併症の発症を治療する/遅らせる/改善するために必要な量である。好ましい態様において、システアミン化合物の有効量は、インフルエンザ感染を治療/予防するために、インフルエンザ感染に伴う症状を治療/改善するために、および/またはインフルエンザ感染に伴う合併症にかかる危険性が高い患者において、インフルエンザ感染に伴う合併症の発症を治療する/遅らせる/改善するために必要な量である。症状および/または合併症の改善は、重症度の、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%の減少であり得る。
【0046】
本明細書で用いられる「クラスI〜Vのウイルス」という用語は、Lodish, H. et al, Molecular Cell Biology, Fourth Edition, W.H. Freeman and Company (2000) に記載の通り、ゲノム構成およびmRNA合成戦略によって同定されたウイルスの数種の分類のことを言う。クラスI〜Vのウイルスは、以下の通り同定される。
・クラスIウイルスは、二本鎖DNAの単一分子を含む;
・クラスIIウイルスは、一本鎖DNAの単一分子を含む;
・クラスIIIウイルスは、二本鎖ゲノムRNAを含む;
・クラスIVウイルスは、ウイルスmRNAの一本鎖(ゲノムRNAのプラス/正鎖としても知られる)を含み、該ウイルスmRNAはタンパク質をコードして、それ自身による感染性がある;および
・クラスVウイルスは、ゲノムウイルスmRNAを相補するRNA配列の一本鎖(ゲノムRNAのマイナス/負鎖としても知られる)を含み、該ゲノムRNAはmRNA合成の鋳型として働くが、それ自身はタンパク質をコードしない。
【0047】
本発明は、システアミン化合物を被検体に投与することによって、クラスI〜Vのウイルス感染を治療および/または予防するための材料ならびに方法を提供する。以下の型のウイルスに起因するウイルス感染は、本明細書で開示されるシステアミン化合物を投与することにより、治療および/または予防される。該ウイルスとしては、二重鎖DNA(dsDNA)、一本鎖DNA(ssDNA)、二重鎖ゲノムRNA(dsRNA)、一本鎖のプラス鎖RNA、および一本鎖のマイナス鎖RNAのウイルスが挙げられる。本発明によって治療され得る、意図されるウイルスとしては、アルボウイルス(デング熱ウイルス、および黄熱等を含むが、これらに限定されない);アデノウイルス(急性呼吸器疾患、肺炎、結膜炎、胃腸炎、咽頭炎、急性出血性膀胱炎、アフリカ豚コレラ、ブタサーコウイルス、ブタアデノウイルスA型、B型、およびC型を含むが、これらに限定されない);ヘルペスウイルス[単純ヘルペスウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス(水疱瘡および帯状疱疹)、エプスタイン・バーウイルスを含むが、これらに限定されない];ヒトパピローマウイルス(HPV 1-65型を含むが、これらに限定されない);パルボウイルス(パルボウイルスB19、イヌパルボウイルスを含むが、これらに限定されない);レオウイルス(オルビウイルス、ロタウイルス、アクアレオウイルス、コルチウイルスを含むが、これらに限定されない);ピコルナウイルス(エンテロウイルス、ライノウイルス、ヘパトウイルスを含むが、これらに限定されない);コロナウイルス(コロナウイルスおよびトロウイルスを含むが、これらに限定されない);フラビウイルス(ペスチウイルス(petsivirus)、C型肝炎様ウイルスを含むが、これらに限定されない);トガウイルス(アルファウイルスおよびルビウイルスを含むが、これらに限定されない)、オルソミクソウイルス(インフルエンザA型、B型、およびC型ウイルス、トリインフルエンザウイルス、トゴトウイルスを含むが、これらに限定されない);ブンヤウイルス(ハンタウイルス、ナイロウイルス、フレボウイルスを含むが、これらに限定されない);ラブドウイルス(狂犬病ウイルス、エフェメロウイルス、ベシクロウイルスを含むが、これらに限定されない);ならびにパラミクソウイルス(麻疹ウイルスおよびムンプスウイルスを含むが、これらに限定されない)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
本発明は、とりわけヒト以外の被検体の健康に、特にクラスI〜Vのウイルスに感染したヒト以外の被検体に適用できる。例えば、以下に列挙するが、これらに限定されないウイルス、およびヒト以外の被検体に共通する、該ウイルスの結果として生じる状態が、本発明を用いることにより、治療および/または予防され得る。
ピコルナウイルス(トリ脳脊髄炎、アヒル肝炎、およびカリシウイルス(ネコ)感染);オルソミクソウイルス(家禽ペストおよびトリインフルエンザ (H5N1型));コロナウイルス(家禽における伝染性気管支炎およびコロナウイルス性腸炎、ならびに犬におけるイヌコロナウイルス);トガウイルス(キジ脳炎);パラミクソウイルス(家禽におけるニューカッスル病、ならびに犬におけるイヌジステンバーおよびパラインフルエンザ);ラブドウイルス(狂犬病および魚におけるウイルス性出血疾患);ならびにレオウイルス(家禽伝染性ファブリキウス嚢病)。
【0049】
ヒト被検体に関して、本発明は、とりわけインフルエンザウイルス感染の治療および/または予防に、特にトリインフルエンザウイルス感染の治療および/または予防に適用できる。本発明によれば、システアミン化合物は、サブタイプH1N1、H1N2、H2N2、H3N2、H3N8、H5N1、H5N2、H5N3、H5N8、H5N9、H7N1、H7N2、H7N3、H7N4、H7N7、H9N2、およびH10N7のウイルスを含む種々のトリインフルエンザ株の治療および/または予防に有用である。本発明の一態様において、H5N1型トリインフルエンザウイルス感染を治療および/または予防するために、システアミン塩酸塩を被検体(ヒトまたは動物のいずれか一方)に投与することができる。システアミン塩酸塩は、単独で、またはインフルエンザ感染を治療および/または予防するのに有効であると知られる他の公知の薬剤と同時に投与することができる。
【0050】
関連する態様において、システアミン化合物(例えばシステアミン塩酸塩等)は、単独で、またはトリインフルエンザウイルス(AIV)感染を治療および/または予防するために用いられる、他の公知の薬剤と同時に投与される。システアミン化合物は、注射または経口投与によって投与され得る。
【0051】
H5N1型AIV感染を治療および/または予防するために、好ましくは少なくとも0.1 mg/mLのシステアミン塩酸塩、より好ましくは少なくとも1 mg/mLのシステアミン塩酸塩、さらに好ましくは少なくとも2 mg/mLのシステアミン塩酸塩の投薬量を、被検体に投与することができる。
【0052】
特定の好ましい態様において、AIV感染(サブタイプH1N1、H1N2、H2N2、H3N2、H3N8、H5N1、H5N2、H5N3、H5N8、H5N9、H7N1、H7N2、H7N3、H7N4、H7N7、H9N2、およびH10N7のウイルスを含む)の治療および/または予防に投与されるシステアミン塩酸塩の投薬量は、被検体に存在するウイルスの濃度に相関する。より好ましくは、H5N1型AIV感染の治療および/または予防に投与されるシステアミン塩酸塩の投薬量は、被検体に存在するウイルスのおよそLD50の濃度に相関する。
【0053】
本発明の組成物は、例えば、錠剤またはカプセル等のような経口投与可能な形態を含む種々の投与経路で、または非経口経路、静脈内経路、筋肉内経路、経皮的経路、口腔内経路、皮下的経路、坐剤、もしくは他の経路を介して用いることができる。このような組成物を、本明細書において総称して「薬学的組成物」と言う。通常、薬学的組成物は、単位投薬形態(unit dosage form)であり得、すなわちヒトが摂取するための単位投薬量として適した物理的に別個の単位であり得、それぞれの単位は、1つまたは複数の薬学的に許容される他の成分、すなわち希釈剤または担体と会合して所望の治療効果を生じるように計算された、所定量の活性成分を含む。
【0054】
本発明のシステアミン化合物は、薬学的に有用な組成物を調製するための公知の方法に従って処方することができる。製剤は、周知であり、かつ当業者が容易に入手可能である多くの情報源に記述されている。例えば、Remington's Pharmaceutical Science (Martin EW [1995] Easton Pennsylvania, Mack Publishing Company, 19th ed.) には、本発明と関連付けて使用することができる製剤について記述されている。非経口投与に適した製剤としては、例えば、酸化防止剤、緩衝剤、静菌薬、および対象とする受容個体(recipient)の血液と製剤とを同じ浸透圧にする溶質を含んでいてもよい、滅菌した注射用水溶液;ならびに懸濁剤および増粘剤を含んでいてもよい、水性滅菌懸濁液および非水性滅菌懸濁液が挙げられる。製剤は、単回用量(one-dose)または複数回用量(multi-dose)の容器で、例えば、密封したアンプルおよびバイアルで与えられてもよく、使用前に滅菌液体担体、例えば、注射用水の条件しか必要としない、フリーズドライの(凍結乾燥された)状態で保存されてもよい。即時注射用溶液および懸濁液は、滅菌した粉末、顆粒、錠剤等から調製されてもよい。当然のことながら、前記で詳しく述べた成分に加えて、本発明の製剤は、問題になっている製剤の種類と関連する当技術分野において常套的である他の薬剤を含むことができる。
【0055】
システアミン化合物を含む製剤としては、経口投与、直腸投与、経鼻投与、局所(口腔内および舌下を含む)投与、膣内投与、非経口(皮下、筋肉内、静脈内、皮内、髄腔内、および硬膜外を含む)投与、ならびに眼への投与に適した製剤が挙げられる。製剤は、単位投薬形態で都合良く提示されてもよく、製薬学の技術分野において周知のいくつかの方法によって調製されてもよい。このような方法としては、システアミン化合物と、1つまたは複数の副成分を構成する担体とが会合した状態にする工程が挙げられる。一般に、製剤は、システアミン化合物と、液体担体もしくは微粉固体担体またはそれら両方とが均一で密接に会合した状態にし、次いで、必要に応じて、生成物を成形することにより調製される。特定の態様において、システアミン化合物は、皮膚用パッチ剤で使用するための製剤として提供され得る。
【0056】
本発明によれば、システアミン化合物の投与は、当業者に現在知られているまたは将来知られると予想される任意の適切な方法および技術によって達成することができる。好ましい態様において、システアミン化合物は、例えば、丸剤、トローチ剤、錠剤、ガム、飲料等のような、特許を受けることができ、かつ容易に摂取される経口製剤として処方される。次いで、摂取は、ストレスのかかる事象(stressful event)を体験するとき、体験する前、もしくは体験した後、および/または免疫活性の増強を必要とする際に(すなわち、インフルエンザ感染と診断された後)、行われる。
【0057】
本発明によれば、組成物は、活性成分として有効量のシステアミン、および1つもしくは複数の無毒の薬学的に許容される担体または希釈剤を含む。このような担体の例としては、エタノール、ジメチルスルホキシド、グリセロール、シリカ、アルミナ、デンプン、ソルビトール、イノシタール、キシリトール、D-キシロース、マンニオール、粉末セルロース、結晶セルロース、タルク、コロイド状ニ酸化ケイ素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウムアルミニウム、水酸化アルミニウム、デンプンリン酸エステルナトリウム、レシチン、ならびに等価な担体および希釈剤が挙げられる。
【0058】
所望の治療的処置に対して、このような投薬量の投与を提供するために、本発明の組成物は、通常、担体または希釈剤を含有する全組成物の約0.1%と95%の間で構成されるであろう。用いられる投薬量は、治療される個体の年齢、体重、健康状態、または性別に基づいて、変更することができる。
【0059】
一態様において、所望の反応を引き出すために患者に投与されるシステアミンの投薬量は、1日当り約10 mg〜約3,000 mgである。所望の反応としては、以下を挙げることができる。(1) クラスI〜Vのウイルス感染、好ましくはインフルエンザ感染を予防すること;(2) クラスI〜Vの感染に伴う症状、好ましくはインフルエンザ感染に伴う症状の重症度、持続、または強さを低減すること;ならびに(3) クラスI〜Vのウイルス感染に関連する合併症、好ましくはインフルエンザ感染に関連する合併症の重症度、持続、または強さを予防すること、遅らせること、または低減すること。好ましくは、所望の反応を引き出すために、システアミン塩酸は、1日に約50 mg〜1,000 mgで投与される。さらに好ましい態様において、所望の反応を引き出すために患者に投与されるシステアミン塩酸の投薬量は、1日当り約200 mg〜900 mgである。
【0060】
以下は、本発明を実施するための手順を説明する実施例である。これらの実施例は限定するものとして解釈されるべきではない。特に断りのない限り、全てのパーセント値は重量パーセントであり、全ての溶媒混合物比は体積比である。
【0061】
実施例1− インフルエンザに関連する症状の治療
インフルエンザウイルスに感染し、インフルエンザ感染に伴う症状(鼻汁、発熱、極度疲労)を示す男性被検体は、初めに市販の鼻充血除去薬および粘液溶解薬の投薬で治療された。市販薬の投薬治療は、インフルエンザに関連する症状を24時間以内に治療するには効果がなかった。
【0062】
市販薬の投薬治療は効果がないと分かった後、被検体に、約700 mg用量のシステアミン塩酸塩を経口で投与した。24時間以内にインフルエンザに伴う症状は消失していた。被検体は、全身が健康になった感じを示した。
【0063】
実施例2− H5N1型トリインフルエンザウイルスに対するシステアミンの抗ウイルス活性試験:対照としてリン酸オセルタミビルを用いたインビトロおよびインビボ試験
本発明の一態様によれば、システアミンは、H5N1型トリインフルエンザウイルスに対する抗ウイルス活性を明らかに示す。本発明の主題は、トリインフルエンザウイルスでの思いがけない結果により、とりわけ有益である。例えば、後述のように、トリインフルエンザウイルスに対する認可薬であるリン酸オセルタミビル(その一般名はタミフル(登録商標)である)よりもさらに、システアミンは、H5N1型トリインフルエンザウイルスの治療にとりわけ有効である。
【0064】
材料と方法
システアミン(以下、「TG21」と称され、これはシステアミンを99%含む)は、Omega Bio-Pharma (H.K.) Limitedによって供給された。特定病原体未感染(SPF)の雌鶏(北京、中国)から得た孵化卵をこの実験に用いた。H5N1型トリインフルエンザウイルス CV株は、感染したニワトリから単離した。トリインフルエンザワクチンに免疫のないRomanニワトリを河北から購入した。タミフル(登録商標)(Roche (China) Ltd., 上海、中国)は、本明細書中に記載のものを使用した。
【0065】
孵化鶏卵におけるTG21毒性の評価
TG21 1 gを0.01 mol/L、pH7.2のPBS 10 mL (1:10)に溶解し(1:10, 10mg/mL)、次いで、1:10〜1:5120に連続倍数希釈した。希釈薬(試験群)またはPBS緩衝液(対照群)を、各希釈溶液あたり5個、10日齢の孵化鶏卵の漿尿膜腔に注入した。鶏卵を37℃で孵化し、胚生存を確認するためおよびLD50(ウイルスの50%致死量)を計算するために、5日間、1日に2回観察した。
【0066】
孵化鶏卵におけるH5N1型トリインフルエンザのEID50の評価
トリインフルエンザウイルス CV株の原株(Original stock)を、0.01M、pH7.2のPBSで10-1〜10-10に10倍連続希釈した。0.2 mLの希釈ウイルス(試験群)またはPBS緩衝液(対照群)を、各希釈溶液あたり5個、10日齢の孵化鶏卵の漿尿膜腔に接種した。鶏卵を37℃で孵化し、胚生存を確認するために、5日間、1日に2回観察した。EID50(50%鶏卵感染量)をリード・メンチ(Reed-Muench)法に基づいて算出した。
【0067】
孵化鶏卵におけるトリインフルエンザへのTG21抗ウイルス作用の評価
TG21 1 gを0.01 mol/L、pH7.2のPBS 10 mLに溶解し(1:10, 100 mg/mL)、次いで、1:10〜1:5120に連続倍数希釈した。希釈したTG21溶液を、EID50が10倍または100倍である同体積のH5N1型トリインフルエンザウイルス CV株と共に、室温で、30、60、および120分間それぞれ培養し、次いで、ウイルス‐薬物混合溶液 0.2 mLを、SPFの雌鶏から得た10日齢の孵化鶏卵の漿尿膜腔に接種した。全ての孵化鶏卵を37℃で孵化し、胚生存を確認するために、5日間、1日に2回観察した。IC50を算出した。
【0068】
陽性対照として、100倍EID50下で、トリインフルエンザウイルスへのタミフル(登録商標)の抗ウイルス作用を評価した。
【0069】
ニワトリにおけるトリインフルエンザウイルスのLD50の評価
トリインフルエンザウイルス CV株の原株を、0.01M、pH7.2のPBSで10-1〜10-9に10倍連続希釈し、次いで、点鼻により各希釈溶液あたり10羽のニワトリに感染させるために用いた。生存を確認するために、動物を7日間、1日に2回観察した。ニワトリに対するトリインフルエンザウイルスのLD50を動物生存数に従って算出した。
【0070】
ニワトリにおけるトリインフルエンザに対するTG21有効性の評価
4〜6週齢のRomanニワトリに飲用水を介して3日間、TG21 40、20、10 mg/羽/日の高投薬量でTG21を投与し、次いで、ニワトリに、点鼻により1日1回、3日間、2.5、25、250倍のEID50で、ウイルス投与した。ウイルス投与した後5日間、該動物を同じ投薬量のTG21で処置し続けた。ニワトリを7日間、1日に2回観察した。未処置の陰性対照を平行して実行した。動物生存数を記録し、TG21薬の有効性を以下の式に従って評価した。
有効性=(対照群における死亡日(death date)−処置群の死亡率)/(対照群の死亡率)×100%
【0071】
結果
1. 毒性
TG21を孵化鶏卵に接種してから120時間後、約100 mg/mL(1:10 希釈溶液)〜25 mg/mL(1:40)の範囲の高用量で、多少の毒性が検出された。孵化鶏卵についてのTG21のLD50は32.1 mg/mLであった。12.5mg/mL(1:80)より低い用量では、副作用はみられなかった。
【0072】
2. 孵化鶏卵におけるH5N1型トリインフルエンザのEID50およびニワトリにおけるLD50
ウイルスの原株を109倍(濃度10-9)を超えて希釈した場合、孵化鶏卵は生存した。リード・メンチ法に従って、孵化鶏卵におけるH5N1型トリインフルエンザのEID50は、10-8.17と算出された。ウイルス株を10-8倍またはそれ以下に希釈した場合、試験したウイルスは致死に至らなかった。ニワトリにおけるH5N1型トリインフルエンザのLD50は、10-5.41/0.2mLであった。
【0073】
3. 孵化鶏卵におけるH5N1型トリインフルエンザウイルスへのTG21の抗ウイルス作用
孵化鶏卵に接種する前に、H5N1型トリインフルエンザウイルスを、30、60、および120分間、TG21の数種の希釈溶液で処置した。EID50が10倍であるウイルス感染量(challenge dose)下で処置時間を30、60、および120分間とった、H5N1型トリインフルエンザウイルスに対するTG21のIC50は、それぞれ15.6、14.9、および6.8 mg/mLであった。EID50が10倍であるウイルス量下で接種する前に、ウイルスをTG21で30および120分間処置した場合、IC50は、それぞれ17.5および16.1 mg/mLであった(下記の表1を参照)。
【0074】
タミフル(登録商標)で処置した陽性対照群では、EID50が100倍であるウイルス用量下で接種する前に処置時間を30および120分間とった、孵化鶏卵におけるH5N1型トリインフルエンザに対するタミフル(登録商標)のIC50は、それぞれ25.1および19.4 mg/mLであった。陰性対照(薬物未投与)では、全ての孵化鶏卵が死亡した。
【0075】
(表1) 孵化鶏卵におけるH5N1型AIVへのTG21の抗ウイルス作用

注記:Mins=分;aEID50:50%鶏卵感染のための薬物用量;b接種前の薬物‐ウイルスの反応時間;c薬物初期濃度は100mg/mLである;d生存数/総数;eIC50:50%の胚が生存するために必要な薬物濃度。
【0076】
ニワトリにおけるH5N1型トリインフルエンザウイルスに対するTG21の有効性
感染性H5N1型トリインフルエンザウイルスの高ウイルス供与量(250×LD50)、中ウイルス供与量(25×LD50)、および低ウイルス供与量(2.5×LD50)で、ウイルス投与する前3日間およびウイルス投与した後5日間、4〜6週齢のニワトリに飲用水を介して、10〜40 mg/羽/日でTG21を投与した。ニワトリにおけるH5N1型トリインフルエンザウイルスへのTG21の抗ウイルス作用の結果を下記の表2に示す。LD50が250倍であるウイルス感染量下では、タミフル(登録商標)対照群における動物を含む、試験したニワトリの全てが3日以内に死亡した。これは、ウイルス感染に対して有効な防御を提供できるような、タミフル(登録商標)を含む薬物療法がない程、ウイルス感染の供与量が高すぎることに起因し得る。
【0077】
40、20、10 mg/羽/日の投薬量での、ニワトリにおけるH5N1型トリインフルエンザウイルスに対するTG21の防御は、LD50が2.5倍であるウイルス感染量下で、それぞれ100%、62.5%、および87.5%であり、LD50が25倍であるウイルス感染量下で、それぞれ70%、80%、および50%であった。TG21の有効性および陰性対照(薬物なし)の有効性の統計的差異は、極めて有意であった(カイ二乗検定により、全p値<0.01)。タミフル(登録商標)(5 mg/羽/日)の有効性は、LD50が25倍であるウイルス感染量下で50%であった。LD50が25倍であるウイルス感染量下で、TG21(10 mg/羽/日)とタミフル(登録商標)(5 mg/羽/日)の間に有意差はみられなかった(P.>0.05)(表2)。
【0078】
(表2) ニワトリにおけるH5N1型トリインフルエンザウイルスへのTG21の抗ウイルス作用

注記:** P<0.01 カイ二乗検定により対照群と比較;a:生存数/総数。
【0079】
要約
SPF(特定病原体未感染)の雌鶏から得た、10日齢の孵化鶏卵および4〜6週齢のニワトリをこの試験に用い、H5N1型トリインフルエンザウイルス CV株でのTG21の抗ウイルス作用を試験した。ニワトリについてのウイルスのLD50(50%致死量)、孵化鶏卵についてのウイルスのEID50(50%鶏卵感染量)、および孵化鶏卵についてのTG21のLD50を最初に決定した。インビトロ試験のために、ウイルスを数種のTG 21濃度で、30〜120分間、それぞれ前培養し、次いで、孵化鶏卵に接種して、胚生存を確認した。TG21のIC50(50%胚生存に必要な薬物濃度)を算出した。インビボ試験のために、ウイルス投与する前3日間およびウイルス投与した後5日間、ニワトリに飲用水を介して、高AIV用量、中AIV用量、および低AIV用量において、TG21を投与した。動物生存数を記録して、薬物の有効性を評価した。陽性対照(タミフル(登録商標))および陰性対照(薬物なし)を並行試験で実施した。その結果によると、(1) 孵化鶏卵におけるH5N1型トリインフルエンザウイルスに対するTG21のIC50は、接種する前に、EID50が10倍であるウイルスを30、60、120分間、TG21で処置した場合、それぞれ15.6、14.9、6.8 mg/mLであり、接種する前に、EID50が100倍であるウイルスを30および120分間、薬物で処置した場合、それぞれ17.5および16.1 mg/mLであった。孵化鶏卵におけるH5N1型トリインフルエンザウイルスに対するタミフル(登録商標)のIC50は、接種する前に、EID50が100倍であるウイルスを30および60分間、タミフル(登録商標)と共に培養した場合、それぞれ25.1および19.4mg/mLであった。また、(2) ニワトリで大量死を引き起こすH5N1型トリインフルエンザウイルスに対する40、20、10 mg/羽/日の用量でのTG21の有効性は、LD50が2.5倍であるウイルス感染量下で、それぞれ100%、62.5%、および87.5%であり、LD50が25倍であるウイルス感染量下で、それぞれ70%、80%、および50%であった。一方、タミフル(登録商標)(5 mg/羽/日)の有効性は、50%であった。これらの結果は、システアミンがH5N1型トリインフルエンザウイルスに対する強い抗ウイルス活性を有することを示唆し、それは、例えばタミフル(登録商標)のようなトリインフルエンザ対する現在の認可薬と比べて、H5N1型トリインフルエンザウイルスに対して同様の防御またはより優れた防御を提供することができる。
【0080】
実施例3− マウスにおけるH5N1型トリインフルエンザウイルスに対するシステアミンの抗ウイルス活性
材料と方法
システアミン(以下、「TG21」と称され、これはシステアミンを99%含む)は、Omega Bio-Pharma (H.K.) Limitedによって供給された。H5N1型トリインフルエンザウイルス WV株は、感染したニワトリから単離した。タミフル(登録商標)(Roche (China) Ltd., 上海、中国)は、本明細書中に記載のものを使用した。
【0081】
マウスにおけるH5N1型トリインフルエンザウイルスの50%致死量(mLD50)の評価
H5N1型トリインフルエンザ(WV株)の原液を最初に1:5に希釈し、次いで、PBSで5種の希釈溶液(1:5〜1:1280)に4倍連続希釈した。6〜8週齢の雌マウスに、1%バルビツール酸ナトリウム100μLの筋肉内注射により麻酔をかけ、次いで、各マウスの鼻腔に、希釈したH5N1型トリインフルエンザウイルス WV株50μLを点鼻することにより接種した(各希釈溶液に対してn = 10マウス)。動物を14日間毎日観察し、リード・メンチ法で、マウスの死亡に基づいてmLD50を算出した。その結果は、マウスの生存が、1:5ウイルス希釈溶液群で0%であり、1:20ウイルス希釈溶液群で10%であり、1:80ウイルス希釈溶液群で25%であり、1:320ウイルス希釈溶液群で80%であり、かつ1:1280ウイルス希釈溶液群で90%であったことを示す。H5N1型トリインフルエンザ(WV株)のmLD50は、10-2.1509/0.05mLまたは1:141.5 希釈溶液/0.05mLであった。
【0082】
トリインフルエンザウイルスに感染したマウスにおけるシステアミンの治療的役割
50匹の雌マウス(6〜8週齢)を、各群当たり10マウスで、3処置群(T1、T2、およびT3)、1陰性(未処置)対照群、および1陽性(タミフル(登録商標))対照群に割り振った。1%バルビツール酸ナトリウム100μLの筋肉内注射により麻酔をかけた後、全マウスの鼻腔内にPBS 50μLのmLD50が10倍であるH5N1型トリインフルエンザウイルスを接種した。感染後1時間以内に、T1〜T3処置群において、それぞれマウス当り4.8、2.4、1.2 mgの1日用量のTG21で、陽性対照群においてはマウス当り1日0.3mgのタミフル(登録商標)で、および陰性対照群においては同体積のPBSで、強制経口投与により12日間、動物を処置した。
【0083】
感染の臨床的兆候および生存に関して、マウスを14日間、1日に2回観察した。H5N1型トリインフルエンザウイルスに対するTG21の防御率を算出し、カイ二乗検定により群間の有意差を比較した。例えば、防御率(%)を割り出す方程式は以下である。
防御率(%)=(対照群における死亡日(death date)−処置群の死亡率)/(対照群の死亡率)×100%
その結果によると、T1群(4.8 mg/マウス/日)、T2群(2.4 mg/マウス/日)、およびT3群(1.2 mg/マウス/日)のTG21処置において、防御はそれぞれ50%、70%、および10%であり、陰性対照群においては0%の防御率、および陽性(タミフル(登録商標))対照群においては60%の防御率を伴った。T1群(P<0.05)、T2群(P<0.01)、およびT3群(P<0.05)におけるTG21の防御率は、陰性対照群における防御率と有意に異なった。これらの結果は、トリインフルエンザウイルス感染の治療における理想的な薬物として、TG21がH5N1型トリインフルエンザウイルスに対する強い抗ウイルス活性を有すること示す。
【0084】
本明細書において言及または引用された全ての特許、特許出願、および刊行物は、本明細書の明白な教示と矛盾しない範囲まで、全ての図および表を含めて、その全体が参照として組み入れられる。
【0085】
本明細書に記載の実施例および態様は例示を目的とするに過ぎず、それらの内容を踏まえれば、種々の修正および変更が当業者に示唆されるだろうし、本発明に精神および範囲に含まれることが理解されるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】補酵素Aの構成成分としてのシステアミンを示す。
【図2】システアミンの代謝経路を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルス感染していると被検体を診断する工程、および有効量のシステアミン化合物を該被検体に投与する工程を含む、ウイルス感染を治療するための方法。
【請求項2】
ウイルス感染が、トリインフルエンザウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ヒトパピローマウイルス、パルボウイルス、レオウイルス、ピコルナウイルス、コロナウイルス、フラビウイルス、トガウイルス、オルソミクソウイルス、ブンヤウイルス、ラブドウイルス、およびパラミクソウイルスからなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
被検体が、トリインフルエンザウイルス、肺炎、結膜炎、胃腸炎、咽頭炎、急性出血性膀胱炎、単純ヘルペスウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、エプスタイン・バーウイルス、HPV 1-65型、パルボウイルスB19、イヌパルボウイルス、オルビウイルス、ロタウイルス、アクアレオウイルス、コルチウイルス、エンテロウイルス、ライノウイルス、ヘパトウイルス、コロナウイルスおよびトロウイルス、ペスチウイルス(petsivirus)、C型肝炎様ウイルス、アルファウイルス、ルビウイルス、インフルエンザA型、B型およびC型ウイルス、トゴトウイルス、ハンタウイルス、ナイロウイルス、フレボウイルス、狂犬病ウイルス、エフェメロウイルス、ベシクロウイルス、麻疹ウイルス、ならびにムンプスウイルスからなる群の少なくとも一つに感染している、請求項2記載の方法。
【請求項4】
1日に少なくとも0.1 mgのシステアミン化合物を被検体に投与する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
1日に2 mg〜3,000 mgの間のシステアミン化合物を投与する工程を含む、請求項4記載の方法。
【請求項6】
システアミン化合物が、システアミン、システアミン塩、システアミンのプロドラッグ、システアミンの類似体、システアミンの誘導体、システアミンの抱合体、およびシステアミンの代謝産物からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
システアミン塩が、システアミン塩酸塩またはシステアミンリン酸塩である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
システアミン化合物が、経口的に、非経口的に、静脈内に、筋肉内に、経皮的に、口腔内経路で、皮下的に、または坐剤経路で服用される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
ウイルス感染していると被検体を診断する工程、および有効量のシステアミン化合物を該被検体に投与する工程を含む、ウイルス感染に伴う合併症の重症度、強さ、または持続期間を低減するための方法。
【請求項10】
ウイルス感染が、トリインフルエンザウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ヒトパピローマウイルス、パルボウイルス、レオウイルス、ピコルナウイルス、コロナウイルス、フラビウイルス、トガウイルス、オルソミクソウイルス、ブンヤウイルス、ラブドウイルス、およびパラミクソウイルスからなる群より選択される、請求項9記載の方法。
【請求項11】
被検体が、トリインフルエンザウイルス、肺炎、結膜炎、胃腸炎、咽頭炎、急性出血性膀胱炎、単純ヘルペスウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、エプスタイン・バーウイルス、HPV 1-65型、パルボウイルスB19、イヌパルボウイルス、オルビウイルス、ロタウイルス、アクアレオウイルス、コルチウイルス、エンテロウイルス、ライノウイルス、ヘパトウイルス、コロナウイルスおよびトロウイルス、ペスチウイルス、C型肝炎様ウイルス、アルファウイルス、ルビウイルス、インフルエンザA型、B型およびC型ウイルス、トゴトウイルス、ハンタウイルス、ナイロウイルス、フレボウイルス、狂犬病ウイルス、エフェメロウイルス、ベシクロウイルス、麻疹ウイルス、ならびにムンプスウイルスからなる群の少なくとも一つに感染している、請求項10記載の方法。
【請求項12】
1日に少なくとも0.1 mgのシステアミン化合物を被検体に投与する工程を含む、請求項9記載の方法。
【請求項13】
1日に2 mg〜3,000 mgの間のシステアミン化合物を投与する工程を含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
システアミン化合物が、システアミン、システアミン塩、システアミンのプロドラッグ、システアミンの類似体、システアミンの誘導体、システアミンの抱合体、およびシステアミンの代謝産物からなる群より選択される、請求項9記載の方法。
【請求項15】
システアミン化合物が、システアミン塩酸塩またはシステアミンリン酸塩である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
システアミン化合物が、経口的に、非経口的に、静脈内に、筋肉内に、経皮的に、口腔内経路で、皮下的に、または坐剤経路で服用される、請求項9記載の方法。
【請求項17】
ウイルス感染していると被検体を診断する工程、および有効量のシステアミン化合物を該被検体に投与する工程を含む、ウイルス感染に伴う症状を治療するための方法。
【請求項18】
ウイルス感染が、トリインフルエンザウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ヒトパピローマウイルス、パルボウイルス、レオウイルス、ピコルナウイルス、コロナウイルス、フラビウイルス、トガウイルス、オルソミクソウイルス、ブンヤウイルス、ラブドウイルス、およびパラミクソウイルスからなる群より選択される、請求項17記載の方法。
【請求項19】
被検体が、H5N1型トリインフルエンザウイルス、肺炎、結膜炎、胃腸炎、咽頭炎、急性出血性膀胱炎、単純ヘルペスウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、エプスタイン・バーウイルス、HPV 1-65型、パルボウイルスB19、イヌパルボウイルス、オルビウイルス、ロタウイルス、アクアレオウイルス、コルチウイルス、エンテロウイルス、ライノウイルス、ヘパトウイルス、コロナウイルスおよびトロウイルス、ペスチウイルス、C型肝炎様ウイルス、アルファウイルス、ルビウイルス、インフルエンザA型、B型およびC型ウイルス、トゴトウイルス、ハンタウイルス、ナイロウイルス、フレボウイルス、狂犬病ウイルス、エフェメロウイルス、ベシクロウイルス、麻疹ウイルス、ならびにムンプスウイルスに感染している、請求項17記載の方法。
【請求項20】
1日に少なくとも0.1 mgのシステアミン化合物を被検体に投与する工程を含む、請求項17記載の方法。
【請求項21】
1日に2 mg〜3,000 mgの間のシステアミン化合物を投与する工程を含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
システアミン化合物が、システアミン、システアミン塩、システアミンのプロドラッグ、システアミンの類似体、システアミンの誘導体、システアミンの抱合体、およびシステアミンの代謝産物からなる群より選択される、請求項17記載の方法。
【請求項23】
システアミン化合物が、システアミン塩酸塩またはシステアミンリン酸塩である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
システアミン化合物が、経口的に、非経口的に、静脈内に、筋肉内に、経皮的に、口腔内経路で、皮下的に、または坐剤経路で服用される、請求項17記載の方法。
【請求項25】
有効量のシステアミン化合物を被検体に投与する工程を含む、ウイルス感染に関連する合併症の発症を予防するための方法。
【請求項26】
ウイルス感染が、トリインフルエンザウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ヒトパピローマウイルス、パルボウイルス、レオウイルス、ピコルナウイルス、コロナウイルス、フラビウイルス、トガウイルス、オルソミクソウイルス、ブンヤウイルス、ラブドウイルス、およびパラミクソウイルスからなる群より選択される、請求項25記載の方法。
【請求項27】
被検体が、H5N1型トリインフルエンザウイルス、肺炎、結膜炎、胃腸炎、咽頭炎、急性出血性膀胱炎、単純ヘルペスウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、エプスタイン・バーウイルス、HPV 1-65型、パルボウイルスB19、イヌパルボウイルス、オルビウイルス、ロタウイルス、アクアレオウイルス、コルチウイルス、エンテロウイルス、ライノウイルス、ヘパトウイルス、コロナウイルスおよびトロウイルス、ペスチウイルス、C型肝炎様ウイルス、アルファウイルス、ルビウイルス、インフルエンザA型、B型およびC型ウイルス、トゴトウイルス、ハンタウイルス、ナイロウイルス、フレボウイルス、狂犬病ウイルス、エフェメロウイルス、ベシクロウイルス、麻疹ウイルス、ならびにムンプスウイルスからなる群の少なくとも一つに感染している、請求項26記載の方法。
【請求項28】
1日に少なくとも0.1 mgのシステアミン化合物を被検体に投与する工程を含む、請求項25記載の方法。
【請求項29】
1日に2 mg〜3,000 mgの間のシステアミン化合物を投与する工程を含む、請求項28記載の方法。
【請求項30】
システアミン化合物が、システアミン、システアミン塩、システアミンのプロドラッグ、システアミンの類似体、システアミンの誘導体、システアミンの抱合体、およびシステアミンの代謝産物からなる群より選択される、請求項25記載の方法。
【請求項31】
システアミン化合物が、システアミン塩酸塩またはシステアミンリン酸塩である、請求項30記載の方法。
【請求項32】
システアミン化合物が、経口的に、非経口的に、静脈内に、筋肉内に、経皮的に、口腔内経路で、皮下的に、または坐剤経路で服用される、請求項25記載の方法。
【請求項33】
ウイルス感染を予防するための有効量のシステアミン化合物および抗ウイルス薬を含む組成物。
【請求項34】
ウイルス感染がトリインフルエンザウイルスであり、かつ抗ウイルス薬がガンシクロビル、アシクロビル、ホスカネット、アマンタジン、リマンタジン、およびオセルタミビルからなる群より選択される、請求項33記載の組成物。
【請求項35】
ウイルス感染を予防するための有効量のシステアミン化合物およびインフルエンザ感染に伴う症状を治療するための薬学的材料を含む組成物。
【請求項36】
ウイルス感染がトリインフルエンザウイルスであり、かつ薬学的材料が鎮咳薬、粘液溶解薬、去痰薬、解熱剤、鎮痛剤、および鼻充血除去薬からなる群より選択される、請求項35記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−517395(P2009−517395A)
【公表日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−542483(P2008−542483)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【国際出願番号】PCT/US2006/045652
【国際公開番号】WO2007/062272
【国際公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(508157691)オメガ バイオ−ファルマ (エイチ.ケイ.) リミテッド (2)
【Fターム(参考)】