説明

システイン類を有効成分とするマトリックスメタロプロテアーゼ−8阻害剤及び糖尿病患者又は耐糖能障害を有する者用の歯周病予防又は治療組成物

【課題】MMP-8の阻害剤の提供、並びにMMP-8の産生又は活性亢進により引き起こされる疾患の諸症状の改善、該疾患の予防又は治療を目的とする。
【解決手段】本願においてシステイン類(例えば、L−システイン)がマトリックスメタロプロテアーゼ−8を阻害するという新規な知見が得られた。システイン類を有効成分として含有するマトリックスメタロプロテアーゼ−8阻害剤、並びに前記マトリックスメタロプロテアーゼ−8阻害剤を含有する糖尿病患者又は耐糖能障害を有する者用の歯周病予防又は治療組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、システイン類のマトリックスメタロプロテアーゼ−8(MMP-8)の産生又は活性を阻害する作用を利用する技術に関する。より詳しくは、システイン類を含有するMMP-8阻害剤、糖尿病患者又は耐糖能障害を有する者の歯周病を予防又は治療する技術、MMP-8の関与するその他の疾患を予防又は治療する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
マトリックスメタロプロテアーゼ(以下、MMPsと称することがある)は、活性部位に亜鉛(II)イオンを保有することを特徴とする、細胞外マトリックス分解酵素の総称であり、作用する物質(基質)の種類と構造(ドメイン構造)の違いにより、大きく5群に分類され、現在は27種類程度が確認されている。
【0003】
MMPsの主たる基質は細胞外マトリックスであり、例えばコラーゲン、ラミニン、ゼラチン、フィブロネクチン、プロテオグリカン、エラスチンなどの生体高分子である。MMPsは生体内における組織のリモデリングや創傷治癒の過程において、不要な細胞外マトリックスを分解し、血管新生や新たな組織の構築を制御することによって正常な組織を維持する働きをすると考えられている。しかしながら、MMPsの活性が亢進しすぎると、細胞外マトリックスの構造異常、代謝バランスの異常(合成・分解のバランスの崩れ)を引き起こし、腫瘍性浸潤やその転移現象、変形性関節症や慢性関節リウマチ等の関節疾患、血管組織や骨組織の代謝異常、歯周病等の組織破壊、糖尿病合併症などの治癒遅延などを引き起こすことが知られつつある。
【0004】
MMPsの一種であるMMP-8は基質の種類とドメイン構造の種類からコラゲナーゼ群に分類される。MMP-8は好中球から産生されることから、好中球コラゲナーゼとも呼ばれている(例えば、非特許文献1参照)。MMP-8の主な基質は、I型、II型、III型コラーゲンなどであり、同じコラーゲン群に属するMMP-1(組織コラゲナーゼ)の基質と重複する。MMP-1は皮膚、角膜等の組織由来の繊維芽細胞、ケラチノサイト、骨芽細胞等の組織系細胞によって産生されるが、これらの組織系細胞は遊走しないため、MMP-1の産生は一定の部位で行われる。これに対し、MMP-8は前述の通り好中球により産生されるが、好中球は免疫系の細胞で遊走するため、MMP-8の産生部位は好中球の動きに応じて変動する。また、MMP-1とMMP-8は活性化機構においても異なる。MMP-1が同じコラゲナーゼ群に属するMMP-3によって活性化されるのに対し、MMP-8はストロメライシン群に属するMMP-10によって活性化される。
【0005】
好中球の付着、遊走、集積が引き起こす疾病において、MMP-8は重要な役割を担っていると考えられている。特に、慢性的に炎症が発生している糖尿病患者においては、糖尿病合併症をはじめとする糖尿病に付随する疾患の治癒遅延とMMP-8の酵素活性の発現水準との間には強い相関関係が存在すると考えられている。すなわち、糖尿病に付随する疾患の治癒が遅い者ほど、MMP-8の活性レベルが高いと考えられている。
【0006】
糖尿病患者の歯周病は、発症率が高く、進行が早いことがよく知られている。糖尿病患者の特徴である易感染性によって、歯周組織における細菌感染に対する炎症反応が著しく亢進され、歯周組織が急速に破壊されること、また治療に対する反応性(治療効果)が著しく悪いことから、糖尿病患者における歯周病(歯周炎、歯肉炎)は糖尿病の第6の合併症と認定する検討がなされている(例えば、非特許文献2参照)。このように、糖尿病患者における歯周病は難治性であり、通常の歯周病の治療法では治癒し難いことから血糖コントロールと共に、易感染性を考慮し、徹底したプラークコントロールを抗菌剤を併用しつつ行うことが要求される。また、耐糖能障害を有する者も、糖尿病患者より緩やかではあるが同様の傾向を有しており、歯周病が治癒しがたい。
【0007】
糖尿病患者における歯周病では歯肉溝滲出液(GCF)中のコラゲナーゼ活性が高いことが報告され(例えば、非特許文献3参照)、その由来がMMP-8であることが報告されている(例えば、非特許文献4参照)。また、糖尿病をストレプトゾトシンで誘発したラットの歯肉におけるコラゲナーゼ活性、ゼラチナーゼ活性が、リポポリサッカライド(LPS)で歯周病を発症させた非糖尿病ラットよりも高いことが報告されている(例えば、非特許文献5参照)。
【非特許文献1】吉原、新名、「炎症と免疫」、2、177-185、1994
【非特許文献2】Harald L., Diabetes Care, 16, Supplement 1, 329-334, 1993
【非特許文献3】Bedia S. et al., J. Periodontol., 77, 189-194, 2006
【非特許文献4】Sorsa T. et al., J. Clin. Periodontol., 19, 146-149, 1992
【非特許文献5】Kuang-min C. et al., Res. Commun. Mol. Pathol. Pharmacol., 91, 303-318, 1996
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、MMP-8の阻害剤の提供、MMP-8の産生又は活性亢進により引き起こされる疾患の諸症状の改善、該疾患の予防又は治療を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、システイン類の経口摂取又は局所投与によりMMP-8の産生又は活性が阻害されることを見出し本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、下記のマトリックスメタロプロテアーゼ−8阻害剤及び糖尿病患者又は耐糖能障害を有する者用の歯周病予防又は治療組成物を提供するものである。
項1.システイン類を有効成分として含有するマトリックスメタロプロテアーゼ−8阻害剤。
項2.項1に記載のマトリックスメタロプロテアーゼ−8阻害剤を含有する糖尿病患者又は耐糖能障害を有する者用の歯周病予防又は治療組成物。
【0011】
本発明において、システイン類には、システイン、システイン誘導体及びそれらの塩が包含され、1種単独で又は2種以上併用して使用できる。システイン誘導体としては、シスチン、システインメチルエステル、システインエチルエステル、メチルシステイン、L−エチルシステイン、N−アセチルシステイン等が例示される。塩としては、経口投与が許容される塩であれば特に限定されない。例えば、システインまたは上記システイン誘導体の塩酸塩、硝酸塩及び酢酸塩等の無機酸塩等の酸塩;システインまたは上記システイン誘導体のナトリウム塩やカリウム塩などのアルカリ金属塩、マグネシウム塩やカルシウム塩などのアルカリ土類金属塩などを挙げることができる。好ましくはシステインまたは上記システイン誘導体の塩酸塩であり、具体的には、塩酸システイン(特に、L−システイン塩酸塩)、塩酸メチルシステイン、塩酸L−エチルシステインを例示することができる。システイン類として好ましいのは、L−システイン、塩酸システインであり、より好ましくはL−システインである。
【0012】
本発明のマトリックスメタロプロテアーゼ−8(MMP-8)阻害剤はMMP-8の産生又は活性を阻害する作用を有し、システイン類を有効成分として含有する。また、本発明の予防又は治療組成物は糖尿病患者又は耐糖能障害を有する者用の歯周病を予防又は治療する作用を有し、前記本発明の阻害剤を有効成分として含有する。本発明の阻害剤及び予防又は治療組成物中のシステイン類の含有量は、L−システインに換算した場合、好ましくは0.001〜50重量%、より好ましくは0.01〜20重量%である。
【0013】
本発明の阻害剤及び予防又は治療組成物の摂取量は、成人一人1日あたり、L−システインに換算したシステイン類の摂取量が、通常100〜2000mg、好ましくは200〜1000mとなる量である。また、本発明の阻害剤及び予防又は治療組成物は、1日1回又は数回に分けて摂食すればよく、摂食の時期は食前(好ましくは5分以内)、食間、食後(好ましくは5分以内)、食事中のいずれも可能である。
【0014】
また、本発明の阻害剤及び予防又は治療組成物の局所投与量は、成人一人1日あたり、L−システインに換算したシステイン類の投与量が、通常0.1〜100mg、好ましくは1〜10mgとなる量である。
【0015】
また、本発明の阻害剤及び予防又は治療組成物の好ましい投与対象は、糖尿病患者、耐糖能障害を有する者であり、より好ましくは糖尿病患者である。なお、耐糖能障害を有する者は境界型と称されることもあり、その判定基準はWHOによって示されている。すなわち、75gのブドウ糖を経口的に負荷する経口ブドウ糖負荷試験により得られる負荷前の血糖値と負荷2時間後の血糖値において、負荷前血糖値(mg/dL)が110未満かつ負荷2時間後血糖値(mg/dL)が140未満の者を正常型、負荷前血糖値が126以上及び負荷2時間後血糖値が200以上のいずれかに該当する者を糖尿病型、正常型にも糖尿病型にも属さない者を境界型とする判定基準である。
【0016】
また、本発明の阻害剤及び予防又は治療組成物は、必要に応じて、システイン類に加えて経口的に許容される担体、他の薬効成分、添加剤などを含むことができる。本発明の阻害剤及び予防又は治療組成物は、使用目的等に応じて経口摂取又は局所投与(好ましくは患部(病変部)への直接投与)に適した形態、例えば、液剤、錠剤、顆粒剤、細粒剤、粉剤などの固形剤或いは液剤又は固形剤を封入したカプセル剤、口腔用スプレー、トローチ、軟膏剤、ゲル剤、ガム剤等の様々な形態で使用できる。これらの形態の製剤は常法によって製造できる。好ましい製剤形態は経口摂取の場合は、錠剤(糖衣錠、コーティング錠)、顆粒剤、有核錠、多層錠、カプセル剤、ガム剤などであり、局所投与の場合は、軟膏剤、ゲル剤、ポケットイリゲータ薬液、歯間ブラシ用ジェル、口腔組織に付着する形態(温度感受性ゲル剤、フィルム剤など)、歯周ポケット注入軟膏などである。他の薬効成分としては、例えば、塩化セチルピリジニウム(CPC)、クロルヘキシジン、ヒノキチオール、トリクロサン、塩化ベンゼトニウムなどの抗菌剤、塩化リゾチーム、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルレチン酸、トラネキサム酸、アラントイン、ビタミンE、ビタミンC、フィトナジオンなどの抗炎症剤、銅クロロフィリンナトリウム、カルバゾクロムなどの口臭抑制剤、抗酸化剤などが挙げられる。また、経口的に許容される担体及び添加剤としては、製剤分野で利用されているものを広く使用できる。例えば次の素材が挙げられるがこれらに限定されない。
糖アルコール類(マルチトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトールなど)、乳糖、ショ糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸塩類(炭酸カルシウムなど)、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸、メチルセルロース、グリセリン、アルギン酸ナトリウム、アラビアゴム、タルク、リン酸塩類(リン酸水素カリウム、リン酸水素カルシウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸二水素ナトリウムなど)、硫酸カルシウム、乳酸カルシウム、カカオ脂等の賦形剤。単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液等の粘度調整剤。ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、結晶セルロース、粉末セルロース、結晶セルロース・カルメロースナトリウム、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、エチルセルロース、リン酸カリウム、アラビアゴム末、プルラン、ペクチン、デキストリン、トウモロコシデンプン、アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、ゼラチン、キサンタンガム、カラギーナン、トラガント、トラガント末、ポリエチレングリコール等の結合剤。乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖等の崩壊剤。ショ糖、ステアリン酸、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤。第4級アンモニウム塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤。デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤。精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤。ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、酵素処理レシチン、酵素分解レシチン、サポニン等の乳化剤。アスコルビン酸、トコフェロール等の抗酸化剤。乳酸、クエン酸、グルコン酸、グルタミン酸等の酸味料。ビタミン類、アミノ酸類、乳酸塩、クエン酸塩、グルコン酸塩などの強化剤。二酸化ケイ素等の流動化剤。スクラロース、アセスルファムカリウム、アスパルテーム、グリチルリチン等の甘味料。ハッカ油、ユーカリ油、ケイヒ油、ウイキョウ油、チョウジ油、オレンジ油、レモン油、ローズ油、フルーツフレーバー、ミントフレーバー、ペパーミントパウダー、dl−メントール、l−メントール等の香料。ラクチュロース、ラフィノース、ラクトスクロース等のオリゴ糖類。酢酸ナトリウム等の製剤用剤。
【0017】
更に錠剤等の固形剤には必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠、二層錠、多層錠等とすることができる。液体製剤は水性又は油性の懸濁液、溶液、シロップ、エリキシル剤であってもよく、通常の担体、添加剤等を用いて常法に従い、調製することができる。
【0018】
また、本発明はシステイン類をMMP-8阻害の有効成分として含有する上記の疾患の予防用食品、上記の症状の改善用食品としての態様も包含しうる。食品には、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養機能食品、病者用食品等が包含される。食品は、システイン類に、必要に応じてその食品の形態に応じた可食性担体、食品素材、食品添加物などと組み合わせて、通常の方法により調製することができる。例えば、飲料などの液状の食品、錠剤、顆粒、チュアブルタブレットやトローチ、チューイングガムのような固形の食品等として利用することができる。
【0019】
本発明者の研究によれば、システイン類を経口摂取した場合、歯周組織においてMMP-8の産生又は活性を阻害した。しかし、MMP-2、MMP-9等の他のMMPの活性の阻害は認められなかった。このため、システイン類はMMP-8の産生又は活性を選択的に阻害すると考えられる。よって、システイン類によって、正常な組織の修復を妨げることなく、糖尿病患者における歯周病の進行防止又は治療が可能となる。また、歯周組織の再生術や歯科インプラントの埋伏手術を受けた場合、組織は正常なリモデリングを経て新しい組織を早期に形成することが要求されるが、これらの施術は外来物質を歯周組織中に設置することから、好中球の遊走を誘発し、MMP-8の活性発現による組織破壊が生じることにより初期の効果を得られない場合がある。システイン類をこれら施術のサポート剤として使用することによって、歯周病の再発やインプラント周囲炎を予防しつつ、早期に歯周組織を自然治癒することが可能である。
【0020】
したがって、システイン類は、次に掲げる疾患の予防又は改善作用、症状の改善作用を有する。すなわち、糖尿病患者又は耐糖能障害を有する者における歯周病(歯肉炎、歯周炎)、糖尿病合併症(糖尿病性腎症、糖尿病性神経症、糖尿病性網膜症、糖尿病性大血管障害、糖尿病性心筋症など)、インプラント周囲炎等の諸疾患、歯肉の退縮症状、歯周ポケットの深化症状、歯牙の動揺症状、再生術後の歯周組織破壊症状などの諸症状である。したがって、本発明はこれらの疾患の予防又は治療組成物、予防又は治療する方法、これら症状の改善剤、改善する方法等を包含しうる。これらの中でも特に、糖尿病患者又は耐糖能障害を有する者における歯周病(歯肉炎、歯周炎)の予防又は治療組成物としての効果が期待される。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、MMP-8の阻害剤として利用できるほか、MMP-8が関与する疾患、例えば糖尿病患者又は耐糖能障害を有する者の歯周病(歯肉炎、歯周炎)の予防又は治療、MMP-8の関与する症状の改善に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、実施例等により、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0023】
試験例1
試験方法
<試験製剤>
1錠中にL−システインを40mg含有するタブレット。

<摂取方法>
試験製剤2錠を1日に3回、食後に水又は湯とともに摂取する。1日当たりのL−システイン摂取量は240mgである。

<被験者>
試験開始前に試験担当医師が予診および問診を行い、以下の全ての条件を満たした被験者を選定した。
被験者の条件:
・本試験の目的と内容を理解し、文書に参加の同意が得られた者
・25〜65歳の男女
・本試験開始前3ヶ月以内に歯周病治療を受けていない者
・ポケットデプス(PD)が4mm以上である部位を1部位以上、または、PDが4mm未満であっても出血を伴う部位を2部位以上保有する歯周病患者と診断された者
被験者除外基準:
・L−システイン製剤、還元剤、シスチン、抗酸化物を含む健康食品やサプリメントを過去2週間以内に摂取した者
・授乳中又は妊娠中の女性
・過去3ヶ月以内に、歯肉状態に作用する薬物や抗生物質を3週間以上服用した者

<被験者数>
19名(男性17名、女性2名、平均年齢46.8歳)

<試験デザイン>
対照群を含まないテスト群のみのオープン試験

<試験スケジュール>
予診により選定された被験者は、約2週間後にベースライン診査を行った。ベースライン診査後に試験製剤を4週間摂取した。摂取開始2週間後、4週間後に診査を行った。

<併用薬、併用食品>
L−システイン製剤、還元剤、シスチン、抗酸化物を含む健康食品やサプリメント、グルココルチコイド、歯肉状態に作用する薬物や抗生物質は評価に影響を及ぼすため、原則として、併用禁止とした。

<生化学的指標及び臨床指標>
ポケットデプス(PD)4mm以上の部位を有する歯を主として試験歯とし、ベースライン(試験開始時)、2週間目、4週間目(試験終了時)に歯肉溝滲出液(GCF)を採取し、GCF中のMMP-8及びMMP-9の活性の測定を行った。また、PD、プロービング時の出血(BOP)の測定を行った。
【0024】
試験結果
<ポケットデプスの経時変化>
ベースライン時に4mm以上のPDを保有した被験者(16名)について、ベースライン時、摂取2週間目及び摂取4週間目のPDの平均値を表1及び図1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
予診からベースライン時までにPDの改善は認められなかったが、摂取後2週間目には有意に(P<0.001)改善し、2週目から4週目まではその値を維持していた。
【0027】
<BOPの経時変化>
全被験者について、ベースライン時、摂取2週間目及び摂取4週間目の、総プロービング箇所に対する出血(BOP)部位の割合の平均値を表2及び図2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
予診からベースライン時までにBOPの改善は認められなかったが、摂取後2週間目には有意に(P<0.05)改善し、2週間目から4週間目までの間も緩やかに改善した。

<GCF量の経時変化>
GCF(歯肉溝滲出液)を採取したPDが4mm以上のポケットのうち、ペリオトロンで測定可能圏内であった40検体のGCF量の平均値を図3に示す。ベースライン時から試験終了の4週間目までGCF量にほとんど変化は認められなかった。

<GCF中のMMP-8及びMMP-9の活性の経時変化>
PDが4mm以上の部位からランダムに20箇所を選択し、GCF中に含まれる総MMP-8量、活性型MMP-8量、総MMP-9量、活性型MMP-9量を測定した。なお、総MMP量は活性型MMP量と潜在型MMP量の総量である。
【0030】
GCFのサンプリングはペリオペーパーを用いて行い、MMP-8及びMMP-9の活性はBiotrak Activity Assay System(Amersham Biosciences社製)を用いて測定した。ペリオペーパーを抽出溶液(0.05%(w/w))Brij-35/アッセイバッファー)に入れてロータリーシェーカーで30分間振盪し、その後遠心した。上清を回収し、試験に供した。
【0031】
96穴プレートにMMP-8抗体溶液を入れ、37℃で2時間反応させ、抗体をプレート底面に付着させた。その後、抗体溶液を除去し、ウェルをウォッシュバッファーで4回洗浄した。なお、MMP-9の試験においては、ウェル底面にMMP-9抗体が定着しているものを使用した。各ウェルにMMP標準液、検体液を入れ4℃で一晩静置し、サンプル中のMMPを抗体に結合させた。ウォッシュバッファーで4回ウェルを洗浄し、MMP標準及びMMP総量を測定するサンプルにのみAPMAを添加し、37℃で1.5時間反応させ、潜在型MMPを活性型へと変換させた。このとき、活性型MMPを測定するサンプルについては、アッセイバッファーを添加した。反応終了後、全てのサンプルに検出試薬を添加し、405nmの吸光度を測定した。MMP標準液の濃度と、初期値からの吸光度変化より求めたMMP活性((反応終了時の吸光度−吸光度初期値)/(反応時間)×1000)を用いて検量線を作成し、検体液中のMMP活性をMMP量に換算して求めた。測定結果を図4に示す。MMP-8では、摂取4週間の間に総MMP-8量は減少し、活性型MMP-8量は有意に減少した。これに対しMMP-9では、摂取4週間経過しても総MMP-9量、活性型MMP-9量ともにほとんど変化が認められなかった。
【0032】
次に、PDが4mm以上であった48部位から採取した全てのサンプルについて、総MMP-9量及び活性型MMP-9量の測定を行った。測定結果を図5に示す。摂取4週間経過しても総MMP-9量、活性型MMP-9量ともにほとんど変化が認められなかった。
【0033】
試験例2
試験方法
ヒト単球系細胞株U937を、5mMグルコース(normal glucose:NG)(浸透圧調整のため、20mMマンニトールも添加)又は25mMグルコース(high glucose:HG)存在下で3日間培養し、それぞれを正常血糖状態、高血糖状態と想定した。その後、糖を除き、0.01μg/mL L−システイン(L−システイン塩酸塩一水和物)を添加し20時間培養した。さらに、L−システインを除き、100ng/mL LPS、10ng/mL PMA(Phorbol 12-myristate 13-acetate)を添加して24時間培養した。その後細胞からtotal RNAを回収し、cDNAを合成した後、Real-time PCRによってMMP−8の発現を調べた。
試験結果
培養時の添加物によって、培養したU937を以下のように想定した。
・NG+PMA:健常者
・NG+PMA+LPS:歯周病罹患者
・HG+PMA+LPS:糖尿病+歯周病罹患者
それぞれのU937において、L−システインを添加した場合としなかった場合の各サンプルから得たデータを図6に示す。また、特に、「NG+PMA+LPS」及び「HG+PMA+LPS」に比べ、各々に0.01μg/mL L−システインを添加した系がどの程度MMP−8の発現を阻害したのかを表3に示す。
【0034】
【表3】

【0035】
高血糖状態で培養した場合、正常血糖状態で培養した場合と比較すると、LPS,PMA刺激に対するMMP−8の発現亢進が有意に高く、亢進したMMP−8発現はL−システインによって有意に抑制された。また、その効果は高血糖状態で培養した場合の方が高いことも分かった。
【0036】
したがって、歯周病罹患者よりも、糖尿病または耐糖能障害を有し歯周病に罹患している者の方が有意にMMP−8発現が高く、且つ、L−システインはより効果的にMMP−8産生抑制に働き、歯周病予防及び治療に効果的である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、MMP-8の阻害剤、MMP-8が関与する疾患の予防又は治療、MMP-8の関与する症状の改善等の分野において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】PD(平均値)の経時変化を表すグラフである。縦軸はPD(mm)を示し、横軸は、左からベースライン時、摂取2週間目、摂取4週間目を示す。
【図2】BOP(平均値)の経時変化を表すグラフである。縦軸はBOPの割合(%)を示し、横軸は、左からベースライン時、摂取2週間目、摂取4週間目を示す。
【図3】GCF量の経時変化を表すグラフである。縦軸はGCF量(μL)を示し、横軸は左からベースライン時、摂取2週間目、摂取4週間目を示す。
【図4】GCF中のMMP-8量の経時変化を表すグラフ及びMMP-9量の経時変化を表すグラフである。縦軸は総MMP量又は活性型MMP量(ng/部位)を示し、横軸は左からベースライン時、摂取4週間目を示す。
【図5】GCF中のMMP-9量の経時変化を表すグラフである。縦軸は総MMP-9量又は活 性型MMP-9量(ng/部位)を示し、横軸は左からベースライン時、摂取2週間目、摂取4週間目を示す。
【図6】ヒト単球系細胞株U937を、添加物の条件を変えて培養した時の、MMP−8の発現の差をReal-time PCRによって調べた結果を表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
システイン類を有効成分として含有するマトリックスメタロプロテアーゼ−8阻害剤。
【請求項2】
請求項1に記載のマトリックスメタロプロテアーゼ−8阻害剤を含有する糖尿病患者又は耐糖能障害を有する者用の歯周病予防又は治療組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−115174(P2008−115174A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266981(P2007−266981)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(000106324)サンスター株式会社 (200)
【Fターム(参考)】