説明

シミュレーション方法、繊維配向制御方法、及び繊維配向制御装置

【課題】高精度の繊維配向角制御を可能にするシミュレーション方法、繊維配向制御方法、および繊維配向制御装置を提供する。
【解決手段】抄紙原料をワイヤー上に供給する際に、ヘッドボックスにおけるエッジフロー流量(またはサイドブリード流量)調整手段の操作によるスライスリップ出口の原料速度成分の変化を数式モデルに表し、該数式モデルは、前記抄紙原料の流れ方向の速度成分は変化せず、前記流れ方向に直交する速度成分は、端から所定の応答幅だけ前記エッジフロー流量(または前記サイドブリード流量)の変化に比例して変化するとして設定し、前記数式モデルから幅方向の配向角プロファイルの変化を予測演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維配向角プロファイルを制御する方法に関し、好適な繊維配向角制御を行う、シミュレーション方法、繊維配向制御方法、及び繊維配向制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、原料であるパルプから紙を作る抄紙機において、抄紙機から生成された紙の繊維配向性は寸法安定性や強度などに影響するため、繊維配向性を制御することが重要であることが知られている。特許文献1及び非特許文献1には、繊維配向性を制御する抄紙機が記載されている。
【特許文献1】特開2000−144597号公報
【非特許文献1】ジョン・シェークスピア(John Shakespeare)、ユハ・ニヴィラ(Juha Kniivila)、アネリ・コーピネン(Anneli Korpinen)、ティモ・ヨハンソン(Timo Johansson)、「アン・オンライン・コントロール・システム・フォー・シミュルテイネオス・オプティミゼーション・オブ・ベイシス・ウエイト・アンド・オリエンテーション・アングル・プロファイルズ(An On-Line Control System for Simultaneous Optimization of Basis Weight and Orientation Angle Profiles)」、プロシーディング・オブ・ザ・ファースト・エコペーパーテック(Proceeding of the First EcopaperTech)、(フィンランド)、1995年、p.39−50
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、特許文献1及び非特許文献1には、エッジフロー流量やスライスリップ開度を変更したときの繊維配向性の定性的な変化の特性については記載されているが、変化を定量的に捉えた知見については記載されていないため、高精度の繊維配向角制御は困難である。
【0004】
そこで、本発明は、上述の事情を鑑みてなされたものであり、高精度の繊維配向角制御を可能にするシミュレーション方法、繊維配向制御方法、及び繊維配向制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載した発明は、 抄紙原料をワイヤー上に供給する際に、ヘッドボックスにおけるエッジフロー流量調整手段とサイドブリード流量調整手段との少なくともいずれか一つの操作によるスライスリップ出口の原料速度成分の変化を数式モデルに表し、該数式モデルを、前記抄紙原料の流れ方向に直交する速度成分は、端から所定の応答幅だけエッジフロー流量とサイドブリード流量との少なくともいずれか一つの変化に比例して変化するとして設定し、前記数式モデルから幅方向の繊維配向角プロファイルの変化を予測演算することを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載した発明は、抄紙原料をワイヤー上に供給する際に、ヘッドボックスにおけるスライスリップ開度調整手段の操作によるスライスリップ出口の原料速度成分の変化を数式モデルに表し、該数式モデルを、前記抄紙原料の流れ方向の速度成分の変化はスライスリップの開度変化に比例し、前記流れ方向に直交する速度成分の変化は前記スライスリップの開度変化の幅方向差分の平均的な値に比例するとして設定し、前記数式モデルから幅方向の繊維配向角プロファイルの変化を予測演算することを特徴とする。
【0007】
請求項3に記載した発明は、抄紙原料をワイヤー上に供給する際に、ヘッドボックスにおけるスライスリップ開度調整手段及びエッジフロー流量調整手段とサイドブリード流量調整手段との少なくともいずれか一つの操作によるスライスリップ出口の原料速度成分の変化を数式モデルに表し、該数式モデルを、前記抄紙原料の流れ方向の速度成分の変化はスライスリップの開度変化に比例し、前記流れ方向に直交する速度成分の変化は、端から所定の応答幅に渡るエッジフロー流量とサイドブリード流量との少なくともいずれか一つの変化に比例した変化分と、前記スライスリップの開度変化の幅方向差分の平均的な値に比例した変化分との加算であるとして設定し、前記数式モデルから幅方向の繊維配向角プロファイルの変化を予測演算することを特徴とする。
【0008】
請求項4に記載した発明は、抄紙原料をワイヤー上に供給する際に、ヘッドボックスにおけるエッジフロー流量調整手段とサイドブリード流量調整手段との少なくともいずれか一つの操作によるスライスリップ出口の原料速度成分の変化を数式モデルに表し、該数式モデルを、前記抄紙原料の流れ方向に直交する速度成分は、端から所定の応答幅だけエッジフロー流量とサイドブリード流量との少なくともいずれか一つの変化に比例して変化するとして設定し、前記数式モデルによる幅方向の繊維配向角プロファイルの変化の予測演算手段を用いて計算された評価関数に基づき、最適なエッジフロー流量操作量と最適なサイドブリード流量操作量の少なくともいずれか一つを求めることを特徴とする。
【0009】
請求項5に記載した発明は、抄紙原料をワイヤー上に供給する際に、ヘッドボックスにおけるスライスリップ開度調整手段の操作によるスライスリップ出口の原料速度成分の変化を数式モデルに表し、該数式モデルを、前記抄紙原料の流れ方向の速度成分の変化はスライスリップの開度変化に比例し、前記流れ方向に直交する速度成分の変化は前記スライスリップの開度変化の幅方向差分の平均的な値に比例するとして設定し、前記数式モデルによる幅方向の繊維配向角プロファイルの変化の予測演算手段を用いて計算された評価関数に基づき、最適なスライスリップ開度操作量を求めることを特徴とする。
【0010】
請求項6に記載した発明は、抄紙原料をワイヤー上に供給する際に、ヘッドボックスにおけるスライスリップ開度調整手段及びエッジフロー流量調整手段とサイドブリード流量調整手段との少なくともいずれか一つの操作によるスライスリップ出口の原料速度成分の変化を数式モデルに表し、該数式モデルを、前記抄紙原料の流れ方向の速度成分の変化はスライスリップの開度変化に比例し、前記流れ方向に直交する速度成分の変化は、端から所定の応答幅に渡るエッジフロー流量とサイドブリード流量との少なくともいずれか一つの変化に比例した変化分と、前記スライスリップの開度変化の幅方向差分の平均的な値に比例した変化分との加算であるとして設定し、前記数式モデルによる幅方向の繊維配向角プロファイルの変化の予測演算手段を用いて計算された評価関数に基づき、最適なスライスリップ開度操作量及び最適なエッジフロー流量操作量と最適なサイドブリード流量操作量との少なくともいずれか一つを求めることを特徴とする。
【0011】
請求項7に記載した発明は、前記最適なスライスリップ開度操作量及び前記最適なエッジフロー流量操作量と前記最適なサイドブリード流量操作量との少なくともいずれか一つを求めるための前記評価関数として、制御偏差の自乗和を用いることを特徴とする。
【0012】
請求項8に記載した発明は、前記最適なスライスリップ開度操作量及び前記最適なエッジフロー流量操作量と前記最適なサイドブリード流量操作量との少なくともいずれか一つを求める手段として、前記評価関数に関する最急降下法を用いることを特徴とする。
【0013】
請求項9に記載した発明は、抄紙原料をワイヤー上に供給する際に、ヘッドボックスにおけるエッジフロー流量調整手段とサイドブリード流量調整手段との少なくともいずれか一つの操作によるスライスリップ出口の原料速度成分の変化を数式モデルに表し、該数式モデルを、前記抄紙原料の流れ方向に直交する速度成分は、端から所定の応答幅だけエッジフロー流量とサイドブリード流量との少なくともいずれか一つの変化に比例して変化するとして設定し、前記数式モデルによる幅方向の繊維配向角プロファイルの変化の予測演算手段を用いて計算された評価関数に基づき、最適なエッジフロー流量操作量と最適なサイドブリード流量操作量との少なくともいずれか一つを求め、該最適なエッジフロー流量操作量と該最適なサイドブリード流量操作量との少なくともいずれか一つに基づいて前記エッジフロー流量調整手段と前記サイドブリード流量調整手段との少なくともいずれか一つが調節されることを特徴とする。
【0014】
請求項10に記載した発明は、抄紙原料をワイヤー上に供給する際に、ヘッドボックスにおけるスライスリップ開度調整手段の操作によるスライスリップ出口の原料速度成分の変化を数式モデルに表し、該数式モデルを、前記抄紙原料の流れ方向の速度成分の変化はスライスリップの開度変化に比例し、前記流れ方向に直交する速度成分の変化は前記スライスリップの開度変化の幅方向差分の平均的な値に比例するとして設定し、前記数式モデルによる幅方向の繊維配向角プロファイルの変化の予測演算手段を用いて計算された評価関数に基づき、最適なスライスリップ開度操作量を求め、該最適なスライスリップ開度操作量に基づいて前記スライスリップ開度調整手段が調節されることを特徴とする。
【0015】
請求項11に記載した発明は、抄紙原料をワイヤー上に供給する際に、ヘッドボックスにおけるスライスリップ開度調整手段及びエッジフロー流量調整手段とサイドブリード流量調整手段との少なくともいずれか一つの操作によるスライスリップ出口の原料速度成分の変化を数式モデルに表し、該数式モデルを、前記抄紙原料の流れ方向の速度成分の変化はスライスリップの開度変化に比例し、前記流れ方向に直交する速度成分の変化は、端から所定の応答幅に渡るエッジフロー流量とサイドブリード流量との少なくともいずれか一つの変化に比例した変化分と、前記スライスリップの開度変化の幅方向差分の平均的な値に比例した変化分との加算であるとして設定し、前記数式モデルによる幅方向の繊維配向角プロファイルの変化の予測演算手段を用いて計算された評価関数に基づき、最適なスライスリップ開度操作量及び最適なエッジフロー流量操作量と最適なサイドブリード流量操作量との少なくともいずれか一つを求め、該最適なスライスリップ開度操作量及び該最適なエッジフロー流量操作量と該最適なサイドブリード流量操作量との少なくともいずれか一つに基づいて、前記スライスリップ開度調整手段及び前記エッジフロー流量調整手段と前記サイドブリード流量調整手段との少なくともいずれか一つが調節されることを特徴とする。
【0016】
請求項12に記載した発明は、前記最適なスライスリップ開度操作量及び前記最適なエッジフロー流量操作量と前記最適なサイドブリード流量操作量との少なくともいずれか一つを求めるための前記評価関数として、制御偏差の自乗和を用いることを特徴とする。
【0017】
請求項13に記載した発明は、前記最適なスライスリップ開度操作量及び前記最適なエッジフロー流量操作量と前記最適なサイドブリード流量操作量との少なくともいずれか一つを求める手段として、前記評価関数に関する最急降下法を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に記載した発明によれば、エッジフロー流量とサイドブリード流量との少なくともいずれか一つを調整した際の繊維配向角プロファイルの変化を演算することができるため、幅方向の繊維配向角プロファイルの変化を定量的に捉えることができる効果がある。
【0019】
請求項2に記載した発明によれば、スライスリップ開度を調整した際の繊維配向角プロファイルの変化を演算することができるため、幅方向の繊維配向角プロファイルの変化を定量的に捉えることができる効果がある。
【0020】
請求項3に記載した発明によれば、スライスリップ開度及びエッジフロー流量とサイドブリード流量との少なくともいずれか一つを調整した際の繊維配向角プロファイルの変化を演算することができるため、幅方向の繊維配向角プロファイルの変化を定量的に捉えることができる効果がある。
【0021】
請求項4に記載した発明によれば、最適なエッジフロー流量操作量と最適なサイドブリード流量操作量との少なくともいずれか一つを求めることができるため、高精度な繊維配向角制御を行うことができる効果がある。
【0022】
請求項5に記載した発明によれば、最適なスライスリップ開度操作量を求めることができるため、高精度な繊維配向角制御を行うことができる効果がある。
【0023】
請求項6に記載した発明によれば、最適なスライスリップ開度操作量及び最適なエッジフロー流量操作量と最適なサイドブリード流量操作量との少なくともいずれか一つを求めることができるため、より高精度な繊維配向角制御を行うことができる効果がある。
【0024】
請求項7に記載した発明によれば、最適な操作量を算出することができるため、定量的に高精度な繊維配向角制御を行うことができる効果がある。
【0025】
請求項8に記載した発明によれば、評価関数を最も急激に小さくする操作量を求めることができるため、最適な操作量を算出することができる効果がある。
【0026】
請求項9に記載した発明によれば、最適なエッジフロー流量と最適なサイドブリード流量との少なくともいずれか一つに調節することができるため、繊維配向が揃った製品を得ることができる効果がある。
【0027】
請求項10に記載した発明によれば、最適なスライスリップ開度に調節することができるため、繊維配向が揃った製品を得ることができる効果がある。また、スライスリップ開度は局所的に開度を調整することができるため、局所的に繊維配向を制御することができる効果がある。
【0028】
請求項11に記載した発明によれば、最適なスライスリップ開度及び最適なエッジフロー流量と最適なサイドブリード流量との少なくともいずれか一つに調節することができるため、より繊維配向が揃った製品を得ることができる効果がある。これは、スライスリップ開度を制御することにより局所的な繊維配向を制御することができ、エッジフロー流量とサイドブリード流量との少なくともいずれか一つを制御することにより全体的な繊維配向を制御することができるため、両者を組み合わせることでより高精度な繊維配向制御を行うことができるためである。
【0029】
請求項12に記載した発明によれば、最適な操作量を算出することができるため、定量的に高精度な繊維配向角制御を行うことができる効果がある。
【0030】
請求項13に記載した発明によれば、評価関数を最も急激に小さくする操作量を求めることができるため、最適な操作量を算出することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
次に、本発明の実施形態を図1〜図10に基づいて説明する。
図1に示すように、抄紙機1は、抄紙原料が供給されるヘッドボックス41が設けられており、ヘッドボックス41の抄紙原料の流れ方向下流側には、抄紙原料がワイヤー表面に供給された後に脱水されるワイヤーパート44が構成されている。ジェットがワイヤーに最初に着地する面を紙のワイヤー面、その反対側の面を紙のフェルト面と呼ぶ。ワイヤーパート44の下流側には、抄紙原料をフェルトと共にプレスロールでプレスされ搾水されるプレスパート45が設けられており、更に下流側には製造された紙を乾燥させるためのドライパート50が構成されている。このドライパート50は、予熱が付与されるプレドライヤー51と、プレドライヤー51に引き続き乾燥を促進させるアフタードライヤー52とから構成されている。ドライパート50の更に下流側には、ドライパート50で乾燥されて紙となった抄紙原料を圧潰するためのカレンダーパート55が設けられており、カレンダーパート55の更に下流側には、紙を巻き取るリールパート53が構成されている。
図1は、長網抄紙機の例を示しているが、本発明は抄紙機の形態(ギャップフォーマ、オントップフォーマなど)に関わらず適用される。
【0032】
本実施形態では、リールパート53の直前に、繊維配向角計測手段としての繊維配向計測計71が配設されている。紙のワイヤー面とフェルト面のそれぞれの繊維配向角を計測する場合にはワイヤー面とフェルト面のそれぞれに対向させて繊維配向計測計71を配設し、一方の面の繊維配向角を計測する場合には一方の面に対向させて配設する。
全層の繊維配向角を計測する場合には、紙の一方の面に対向させて光源を、他方の面に対向させて検出器をそれぞれ配置する。
【0033】
本実施形態では、繊維配向計測計71は抄紙機1の幅方向に往復運動する走査手段に支持されており、走査手段で走行させながら繊維配向角データを取得し、幅方向に関する実繊維配向角プロファイルを取得できるように構成されている。
【0034】
また、図2に示すように、抄紙機1には複数の操作部を制御するための制御部72が設けられている。この制御部72により、スライスボルト操作部81、エッジフローバルブ操作部82、サイドブリードバルブ操作部83、及びその他操作部84、85を操作可能に構成されている。
【0035】
リールパート53直前に設けられた繊維配向計測計71は、紙面の配向データを測定し、制御部72に出力されるように構成されている。制御部72はこの繊維配向角データから実繊維配向角プロファイルを作成し、予め登録された理想繊維配向角プロファイルと比較するように構成されている。
そして、数式モデルを用いて得られた制御演算結果を基に、スライスボルト操作部81、エッジフローバルブ操作部82、サイドブリードバルブ操作部83、及びその他操作部84、85を操作してスライスリップ開度やエッジフローバルブ開度などを変更して、実繊維配向角プロファイルが理想繊維配向角プロファイルに収束するように制御される。
【0036】
図3に示すように、繊維配向計測計71によって取得された繊維配向角データは、例えば、工場の一角に設けられた中央制御室などに配置されたCPUを主体として構成された制御部72に送出されて、実繊維配向角プロファイル生成部91にて実繊維配向角プロファイルが作成されるように構成されている。
作成された実繊維配向角プロファイルは、制御部72に接続されたCRTモニタなどの表示装置73に表示される。また、制御部72には予めこの抄紙機1で抄造する紙に適した理想繊維配向角プロファイルが登録されており、この理想繊維配向角プロファイルも表示装置73に表示されるようにしてある。或いは、これら実繊維配向角プロファイルも理想繊維配向角プロファイルも表示せず、制御部72においてこれら実繊維配向角プロファイルと理想繊維配向角プロファイルとの差を求めて作成された繊維配向角偏差プロファイルを表示装置73に表示させるようにしても良い。また、この表示装置73は中央制御室だけでなく、必要となる位置、例えばヘッドボックス41の近傍や繊維配向計測計71の近傍などに配設しても良い。
【0037】
次に、実繊維配向角プロファイルと理想繊維配向角プロファイルとを比較する繊維配向角プロファイル比較部92で繊維配向角偏差プロファイルが求められる。繊維配向角偏差プロファイルと予め登録されているモデルパラメータ(係数)とから操作変更量を求める制御演算部93が構成されており、制御演算部93からエッジフロー出力部(サイドブリード出力部)94及びスライスボルト出力部95に操作変更量の情報が伝達され、エッジフロー出力部(サイドブリード出力部)94からエッジフローバルブ操作部82(サイドブリードバルブ操作部83)へ情報が伝達されることによりエッジフローバルブ22、24やサイドブリードバルブ32、34のバルブ開度が調整されるように構成されている。また、同じようにスライスボルト出力部95からスライスボルト操作部81へ情報が伝達されることによりスライスリップ15の開度が調整されるように構成されている。
【0038】
制御部72には、スライスリップ開度調整手段としてのスライスボルト操作部81、エッジフロー流量調整手段としてのエッジフローバルブ操作部82、及びサイドブリード流量調整手段としてのサイドブリードバルブ操作部83などが接続されており、これら各操作部との間で所定のデータが交換可能に構成されている。
【0039】
次に、図4(A)、(B)に示すように、ヘッドボックス41は、抄紙原料が供給されるテーパヘッダー11と、抄紙原料の流れを整えるためのチューブバンク12と、更に下流側にはタービュランスジェネレータ13と、タービュランスジェネレータ13の下流にはスライスチャンネル14とが形成されており、スライスチャンネル14の抄紙原料の流れ方向先端にスライスリップ15が形成されている。このスライスリップ15からワイヤーパート44に抄紙原料が吐出されるように構成されている。ここで、抄紙原料の流れ方向手前側をF(操作)側、奥側をB(駆動)側とする。
【0040】
テーパヘッダー11の側壁で、F側とB側のそれぞれに一箇所ずつエッジフロー管21、23が接続され、エッジフロー管21、23を介してテーパヘッダー11とタービュランスジェネレータ13とが、チューブバンク12を介することなく連通されている。また、エッジフロー管21、23の途中にはエッジフローバルブ22、24が設けられており、エッジフローバルブ22、24の開度を調整することにより、タービュランスジェネレータ13出口の速度分布、すなわちスライスリップ15からワイヤーパート44に吐出する抄紙原料の流速分布を調整可能に構成されている。このエッジフローバルブ22、24は、エッジフローバルブ操作部82と接続されており、エッジフローバルブ操作部82からの電気信号により自動的にエッジフローバルブ22、24の開度が調整されるように構成されている。
【0041】
また、スライスチャンネル14の側壁で、F側とB側のそれぞれに一箇所ずつブリード管31、33が接続されており、スライスチャンネル14内の抄紙原料をブリード管31、33から排出できるように構成されている。このブリード管31、33にはサイドブリードバルブ32、34が設けられており、サイドブリードバルブ32、34の開度を調整することにより、スライスリップ15出口の流速分布を変えることができるように構成されている。そして、このサイドブリードバルブ32、34は、サイドブリードバルブ操作部83と接続されており、サイドブリードバルブ操作部83からの電気信号により自動的にサイドブリードバルブ32、34の開度が調整されるように構成されている。
なお、一般的にはエッジフロー管21、23かブリード管31、33のいずれか一方のみが設置されている。
【0042】
更に、スライスリップ15の上部にはスライスボルト16が設けられている。スライスボルト16によりスライスリップ15の高さ方向の開度を調整することができるように構成されている。そして、このスライスボルト16は、スライスボルト操作部81と接続されており、スライスボルト操作部81からの電気信号により自動的にスライスボルト16が動作し、スライスリップ15の高さ方向の開度が調整されるように構成されている。また、スライスボルト16は局所的に調整可能に構成されている。
【0043】
次に、作用について説明する。
抄紙機1のヘッドボックス41に抄紙原料が供給され、スライスリップ15から抄紙原料が吐出される。吐出された抄紙原料は、ワイヤーパート44にて脱水された後、プレスパート45に搬送される。プレスパート45にて更に搾水された後、ドライパート50へと搬送される。ドライパート50は、プレドライヤー51とアフタードライヤー52とに分かれており、プレスパート45から送られた紙を乾燥する。乾燥された紙は、その後カレンダーパート55にて圧潰されたのち、リールパート53にて巻き取られる。
【0044】
ここで、繊維配向計測計71がリールパート53の直前に設けられている。繊維配向計測計71は幅方向に走査しながら所定位置で繊維配向角データを取得し、制御部72にデータを送出する。制御部72では実繊維配向角プロファイル生成部91にて実繊維配向角プロファイルを作成し、繊維配向角プロファイル比較部92にて実繊維配向角プロファイルと理想繊維配向角プロファイルとの差分を演算して繊維配向角偏差プロファイルを作成する。ここで、適宜必要な情報を表示装置73に表示する。
【0045】
繊維配向角プロファイル比較部92にて演算された繊維配向角偏差プロファイルより、差分が0であるか否かが判断される。差分が0でない場合には、制御演算部93にてスライスボルト16並びにエッジフローバルブ22、24若しくはサイドブリードバルブ32、34の操作変更量を求める。操作変更量のデータは、エッジフロー出力部(サイドブリード出力部)94及びスライスボルト出力部95にて電気信号に変換され、エッジフローバルブ操作部82(サイドブリードバルブ操作部83)及びスライスボルト操作部81へ伝達され、各操作部が調節される。上述の動作を繰り返し、繊維配向角偏差プロファイルが0に収束するように各操作部を調節する。
【0046】
次に、本実施形態における数式モデルの構成及びモデルパラメータ(係数)の求め方について説明する。
本実施形態では、繊維配向角プロファイルを表すために、次のように定義する。紙の幅方向にN個の区画に分割し、それぞれの区画の繊維配向角測定値をFOPV(i)とする。iは1〜Nの値をとる。Nは基本的にはスライスボルト16の本数であるが、実際には一つの区画に複数のスライスボルト16を含めて平均化を行う。
【0047】
FOSV(i)を位置iにおける制御の繊維配向角制御目標値とする。繊維配向角の表し方には、全層平均値、フェルト面値、ワイヤー面値、及びフェルト面値とワイヤー面値との差分などがあるが、繊維配向角測定値FOPV(i)と繊維配向角制御目標値FOSV(i)とは同じ表し方を採用する。
下記(1)式で繊維配向角偏差FODV(i)を定義する。制御の目標は、この繊維配向角偏差を0にすることにある。
FODV(i)=FOPV(i)−FOSV(i) ・・・ (1)
【0048】
本実施形態では、数式モデルを用いてスライスリップ15出口の原料速度成分の変化率を求め、この原料速度成分の変化率から繊維配向角プロファイルの変化を予測演算する。そして、この繊維配向角偏差の自乗和が最小になるように、エッジフローバルブ22、24、サイドブリードバルブ32、34、及びスライスボルト16を制御するものである。
【0049】
そのために、図5に示すように座標を定義する。なお、図4と同じ要素には同一符号を付して、詳細な説明を省略する。スライスチャンネル14の手前にはスライスリップ15が、向こう側にはタービュランスジェネレータ13が配置される。MD方向は紙が流れる方向、CD方向は紙の幅方向である。
ここでは、MD方向に座標X、CD方向に座標Y、及び紙の厚さ方向に座標Zを定義する。座標Xは紙が流れる方向を正とし、座標YはB側からF側に向かう方向を正とする。このような座標系で、X方向の速度成分をU(m/s)、Y方向の速度成分をV(m/s)、Z方向の速度成分をW(m/s)とする。
【0050】
スライスリップ15出口における原料速度成分を用いて、繊維配向角計算値FO(i)を下記(2)式のように定義する。なお、iはスライスリップ15を紙の幅方向にN個の領域に分割したときのi番目の領域であることを表す。
【0051】
繊維配向角はワイヤーパート44における紙層形成時の脱水作用のばらつき或いはドライパート50における乾燥による幅方向収縮の影響を受けるが、近似的には(2)式で表すことができる。
FO(i)=arctan(V(i)/U(i))×180/π ・・・(2)
ここで、V(i)はi番目領域のスライスリップ15出口におけるCD方向の速度成分(m/s)、U(i)は同位置のMD方向の相対速度成分(m/s)である。相対速度とは、ワイヤー面配向角の場合はワイヤー面上の原料の速度とワイヤー走行速度との相対速度を、フェルト面配向角の場合はフェルト面における原料の速度とその直下の紙層との相対速度をいう。前記(2)式により、原料のMD方向及びCD方向の速度を求めることにより、繊維配向角を計算することができる。
【0052】
エッジフローバルブ22、24又はサイドブリードバルブ32、34を操作したときのU、V速度成分の変化をモデル化し、(3−1)〜(3−3)式で表す。このモデルをエッジフローモデルという。
【0053】
【数1】

【0054】
(3−1)式のdUEF(i)はF側エッジフローバルブ24又はF側サイドブリードバルブ34の開度をdEF%変更したときの、i番目領域におけるU速度成分の変化量であり、dUEB(i)はB側エッジフローバルブ22又はB側サイドブリードバルブ32の開度をdEB%変更したときの、i番目領域におけるU速度成分の変化量である。(3−1)式はこれらのバルブ開度を変更してもU速度成分は変化しないことを示している。
【0055】
(3−2)式のdVEF(i)はF側エッジフローバルブ24又はF側サイドブリードバルブ34の開度をdEF%変更したときの、i番目領域におけるV速度成分の変化量であり、(3−3)式のdVEB(i)はB側エッジフローバルブ22又はB側サイドブリードバルブ32の開度をdEB%変更したときの、i番目領域におけるV速度成分の変化量である。また、KEF、KEBはそれぞれF側のバルブ、B側のバルブの開度を変更したときのV速度成分変化量のプロセスゲインを、Lは応答幅を表す。
【0056】
図6には、(3−2)式、(3−3)式で演算したdVEF(i)とdVEB(i)を示す。横軸は紙の幅方向であり、1、N−L、L+1、Nはそれぞれ1番目、(N−L)番目、(L+1)番目、N番目領域を示す。また、縦軸はdVEF(i)、dVEB(i)の大きさを表す。
dVEF(i)はi=1のときに最小値−KEF、i=L+1のときに0になり、その間直線的に変化する。一方、dVEB(i)はi=N−Lのときに0、i=Nのときに最大値KEBになり、その間直線的に変化する。すなわち、エッジフロー管21、23或いはブリード管31、33が設置されている側からL番目のスライスボルト16の位置までの流速成分を直線的に変えることができる。
【0057】
なお、通常エッジフローバルブ22、24の開度を変えたときは係数KEF、KEB共に正になり、サイドブリードバルブ32、34の開度を変えたときは係数KEF、KEB共に負になる。
【0058】
次に、スライスボルト16を操作してスライスリップ15の開度を変化させたときのU、V速度成分の変化をモデルで表す。このモデルをスライスボルトモデルという。U速度成分の変化dU(i)は下記(4)式で求めることができる。
dU(i)=K×dS(i) (i=1,・・・,N) ・・・(4)
ここで、dS(i)はμm単位で表したi番目領域のスライスリップ15の開度変化、Kはスライスリップ15の開度変化からU速度成分の変化を求めるプロセスゲインであり、正または負の値をとる。
【0059】
V速度成分の変化は下記(5−1)〜(5−4)式で求めることができる。なお、dT(i)はi番目領域のスライスボルト16を操作したときのスライスリップ15の開度変化(μm)、rは移動平均を計算する範囲、Kはスライスリップ15の開度変化からV速度成分の変化を演算するプロセスゲインを表す。
【0060】
【数2】

【0061】
まず、(5−1)式によってi番目領域のスライスリップ15の開度変化の幅方向差分dT(i)を演算する。次に、(5−2)式を用いて開度変化の幅方向差分の移動平均dT(i)を求める。移動平均の範囲は、iを中心にして±rの範囲で行う。次に、(5−3)式によって移動平均dT(i)の移動平均dTmm(i)を求める。そして、この移動平均の移動平均dTmm(i)を用いて(5−4)式によってi番目領域のスライスリップ15の開度変化によるV速度成分の変化dV(i)を演算する。
【0062】
図7にスライスボルトモデルによるスライスボルト16を操作したときのU、V速度成分の変化の計算値を示す。この計算値は(4)式、(5−1)〜(5−4)式を用いて計算したものである。なお、(5−2)、(5−3)式のr=3とした。
図7(A)は、スライスリップ15の開度変化を模式的に示したものである。ここでは山型にスライスリップ15の開度を変化させている。図7(B)はスライスリップ15開度の変化と流体シミュレーションで求めたU相対速度の変化dUを表したものである。図7(C)は(5−2)、(5−3)式で計算したスライスリップ15開度の差分の移動平均、移動平均の移動平均、及び流体シミュレーションで求めたV速度成分の変化量dVを示したものである。
図7(B)、(C)に示すように、スライスリップ15開度の変化量と流体シミュレーションで求めたdU、及び(5−3)式で求めたスライスリップ15開度幅方向差分の移動平均の移動平均と流体シミュレーションで求めたdVの形はよく一致しており、スライスボルトモデルが有効であることが分かる。
【0063】
なお、図7(B)のdUとスライスリップ15開度の変化量とからK=―3.1×10−4(m/s/μm)が、図7(C)のスライスリップ15開度幅方向差分の移動平均の移動平均とdVとからK=1.1×10−3(m/s/μm)が得られる。
i番目領域の繊維配向角は(2)式によって求めることができる。したがって、(2)式の微分dFO(i)を計算することによって、繊維配向角の変化を得ることができる。この繊維配向角の変化dFO(i)を下記(6)式に示す。
【0064】
【数3】

【0065】
ここにおいて、dU(i)は(4)式で求めたU相対速度成分変化(m/s)、dV(i)は(3−2)式、(3−3)式及び(5−4)式で求めたV速度成分変化の和であり、下記(7)式で与えられる。
dV(i)=dV(i)+dVEF(i)+dVEB(i) ・・・(7)
また、U(i)、V(i)はそれぞれU速度成分、V速度成分の現在値(m/s)である。U速度成分の現在値U(i)は、(4)式を積分することによって下記(8)式で計算することができる。
(i)=K×S(i)+U (i=1,・・・,N) ・・・(8)
【0066】
はU相対速度成分の初期値であり、位置iにはよらない値であり、全層平均、フェルト面、及び差分配向角の場合には一般に負の値になる。また、ワイヤー面配向角の場合は、例えばJ/W比を用いて、近似的に下記(9)式で計算できる。
(i)=(R−A)×WSPD (i=1,・・・,N) ・・(9)
Rはワイヤー面紙層での原料のU速度成分とワイヤー走行速度の比であるJ/W比、Aは1.00に近いある値、WSPDはワイヤー走行速度である。
【0067】
V速度成分の現在値は、(2)式をV(i)について解き、かつ繊維配向角計算値FO(i)を繊維配向角測定値FOPV(i)に置き換えることにより、下記(10)式で得ることができる。
V(i)=tan(FOPV(i)×π/180)×U(i) ・・・(10)
(i)はU相対速度成分の現在値である。
【0068】
U、V速度成分と繊維配向角との関係は、(2)式で表される。したがって、エッジフローモデル及びスライスボルトモデルから、エッジフローバルブ22、24、サイドブリードバルブ32、34及びスライスボルト16を操作したときの繊維配向角の変化は次のような特徴を持つことが分かる。なお、ここでいう繊維配向角プロファイルの平均値FOAVEとは、下記(11)式で表される値を言う。
【0069】
【数4】

FOPV(i)は、位置iにおける繊維配向角測定値である。
【0070】
図6から分かるように、エッジフローバルブ22、24、サイドブリードバルブ32、34を操作したときは、F側とB側のバルブを逆方向に操作することにより、繊維配向角プロファイルの平均値を変化させることができる。また、繊維配向角プロファイルの形状を応答幅Lに相当する大きな幅で変化させることができる。
これに対して、図7及び(5−1)〜(5−4)式から明らかなように、スライスボルト16を操作したときには繊維配向角プロファイルの平均値はほとんど変化しない。しかし、繊維配向角プロファイルの形状を局所的に変化させることができる。
【0071】
このような特徴から、エッジフローバルブ22、24又はサイドブリードバルブ32、34の操作とスライスボルト16の操作とを組み合わせることによって、繊維配向角プロファイル全体形状を変化させ、しかも繊維配向角の平均値を0°に近づけることができる。しかし、用途によってはエッジフローバルブ22、24又はサイドブリードバルブ32、34の操作のみを使用することもできる。
位置iにおける繊維配向角偏差FODV(i)は(1)式で求められる。したがって、下記(12)式で示す繊維配向角偏差の自乗和Jを評価関数として採用する。
【0072】
【数5】

【0073】
エッジフローバルブ22、24又はサイドブリードバルブ32、34とスライスボルト16を操作端として、(12)式の評価関数を最適化する制御方法を考える。そのため、(6)式に(4)式と(5−4)式を代入して、繊維配向角プロファイルの変化dFO(i)を計算する。結果は下記(13)式になる。
【0074】
【数6】

【0075】
この(13)式を、行列を用いて書き直すと下記(14)式になる。
【0076】
【数7】

【0077】
(14)式のKはスライスリップ15の開度を変更したことによる繊維配向角プロファイルの変化を表すN×N行列であり、その値は下記(15)式で与えられる。また、Kはエッジフローバルブ22、24又はサイドブリードバルブ32、34の開度を変更したことによる繊維配向角プロファイルの変化を表すN×2行列であり、その値は下記(16)式で与えられる。
【0078】
【数8】

【0079】
【数9】

【0080】
ここで、(14)式を積分すると、下記(17)式が得られる。
【0081】
【数10】

【0082】
この(17)式を(12)式に代入すると、評価関数Jは下記(18)式になる。
【0083】
【数11】

【0084】
【数12】

【0085】
とおくと、(18)式より、下記(19)式が得られる。
【0086】
【数13】

【0087】
1ステップ先のスライスリップ15開度とエッジフローバルブ22、24又はサイドブリードバルブ32、34の開度の操作変更量を、ある正の数εを用いて下記(20)式で表す。
【0088】
【数14】

【0089】
この(20)式は、最急降下法によって評価関数Jを最も急激に小さくする操作変更量になっている。εは操作ゲインに相当する。(19)式をこの(20)式に代入すると、下記(21)式が得られる。
【0090】
【数15】

【0091】
この(21)式を変形すると、下記(22)式になる。K、Kは(15)、(16)式で与えられる。
【0092】
【数16】

【0093】
この(22)式を書き直すと、下記(23)式になる。
【0094】
【数17】

【0095】
実際には、この(23)式の操作ゲインεをスライスボルト16の操作ゲインとエッジフローバルブ22、24又はサイドブリードバルブ32、34の操作ゲインに分けて、下記(24)式とする。
【0096】
【数18】

【0097】
但し、εはスライスリップ15開度の操作ゲイン、εはエッジフローバルブ22、24又はサイドブリードバルブ32、34の操作ゲインである。
この(24)式で定義される操作変更量を、(12)式で定義される評価関数Jを最適化するためのスライスボルト16とエッジフローバルブ22、24又はサイドブリードバルブ32、34を操作端とする繊維配向角制御における操作変更量とする。
【0098】
図8(A)、(B)にスライスボルト16のみを操作した場合のシミュレーション結果を示す。ここで、繊維配向角制御目標値FOSV(i)=0、N=56とし、繊維配向角測定値FOPV(i)には初期値が与えられている。なお、i=1〜Nである。
また、プロセスゲインなどは次のように設定した。
=−0.0003((m/s)/μm)
=0.0006((m/s)/μm)
EF=0.0015((m/s)/%)
EB=0.0019((m/s)/%)
ε=20(μm/°)
ε=0(%/°)
移動平均の範囲 r=1
シミュレーション回数=100回
スライスリップ15の幅方向の各点における繊維配向角の分布を表した繊維配向角測定値プロファイルの初期値の平均値は−1°である。図8(A)から、スライスボルト16のみの操作によって、繊維配向角測定値はその初期値の平均値と同じ値に収束することが分かる。また、図8(A)の結果が得られた際のスライスリップ15の幅方向の開度を表したものが図8(B)である。
【0099】
図9は、エッジフローバルブ22、24のみを操作したときのシミュレーション結果である。K、K、KEF、KEB、r、シミュレーション回数は図5と同じであり、
ε=0(μm/°)
ε=0.01(%/°)
とした。また、エッジフローバルブ22、24の操作量の初期値として
EF=EB=60%
最終値として、
EF=54.1%、EB=61.3%となった。
【0100】
図6から分かるように、エッジフローバルブ22、24のみの操作によって繊維配向角測定値プロファイルの平均値を0°に近づけることができるが、繊維配向角プロファイルの各点の値は一般に0°に近づけることはできない。
【0101】
図10(A)、(B)はスライスボルト16とエッジフローバルブ22、24の両方を制御した場合のシミュレーション結果である。K、K、KEF、KEB、r、シミュレーション回数は図6と同じであり、
ε=20(μm/°)
ε=0.01(%/°)
とした。また、エッジフローバルブ22、24の操作量の初期値として、
EF=EB=60%
最終値として、
EF=56.7%、EB=61.6%となった。
【0102】
図10(A)より、スライスボルト16とエッジフローバルブ22、24の両方を制御することによって、繊維配向角制御目標値であるFODV(i)を各点で0に近づけることが分かる。また、図10(A)の結果が得られた際のスライスリップ15の幅方向の開度を表したものが図10(B)である。
【0103】
本実施形態によれば、エッジフロー流量(サイドブリード流量)やスライスリップ開度を調整することで繊維配向角プロファイルがどのように変化するかを予測演算するための数式モデル及びモデルパラメータを求めることができる。
また、繊維配向角を制御するための各操作部の操作量は、制御演算部に繊維配向角測定値と繊維配向角制御目標値との差分を代入して定量的に求めることができるため、好適な制御をすることができる。また、この制御を継続的に行うことで、繊維配向角測定値を繊維配向角制御目標値に収束させることができる。
【0104】
エッジフローバルブ及び/或いはサイドブリードバルブの開度を制御することで繊維配向角の幅方向の平均値を0°に近づけることができるため、高品質の紙を製造することができる。
また、スライスボルトを制御してスライスリップの開度を局所的に調整することにより、繊維配向角を局所的に調整することが可能となり、目標値の値に近づけることができる。
したがって、エッジフローバルブ及び/或いはサイドブリードバルブの開度及びスライスリップの開度の両方を制御することで、繊維配向角の平均値を0°に近づけると共に、局所的に調整することで各点での繊維配向角を0°に近づけることもできるため、より高品質の紙を製造することができる。
【0105】
尚、本発明は上述した実施の形態に限られるものではなく、例えば以下のような態様も採用可能である。
本実施形態では、繊維配向計測計をリールパート直前に配設した場合の説明をしたが、設置位置はプレドライヤーとアフタードライヤーとの間でも構わない。また、要求される紙質によっては表裏面の繊維配向角の均一化を図る必要が無い場合などには、フェルト面或いはワイヤー面のいずれか一方の繊維配向角あるいは繊維配向角の全層平均値を測定するようにしても構わない。
本実施形態では、実繊維配向角プロファイルと理想繊維配向角プロファイルとの差分を0にする場合の説明をしたが、紙の表裏面の実繊維配向角プロファイルの差分を0にする制御に適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明の実施形態における抄紙機の概略斜視図である。
【図2】本発明の実施形態における繊維配向制御シミュレーション装置を備えた抄紙機の概略構成図である。
【図3】本発明の実施形態における繊維配向制御シミュレーション装置の概略構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施形態におけるヘッドボックスの(A)が平面図、(B)が断面図である。
【図5】本発明の実施形態における座標の構成図である。
【図6】本発明の実施形態におけるdVEF(i)及びdVEB(i)の特性図である。
【図7】本発明の実施形態におけるスライスボルト操作時の特性図であり、(A)がスライスリップの開度を示す図、(B)がdUとスライスリップ開度変化量との関係を示す図、(C)がdVとスライスリップ開度の差分の移動平均とスライスリップ開度差分の移動平均の移動平均との関係を示す図である。
【図8】本発明の実施形態におけるスライスボルトのみを操作したときの初期値と制御結果(100回)とのシミュレーション結果を示す図であり、(A)がスライスリップ幅方向の各点における配向角を示す図、(B)がスライスリップ幅方向の各点におけるスライスリップ開度を示す図である。
【図9】本発明の実施形態におけるエッジフローバルブのみを操作したときの初期値と制御結果(100回)とのスライスリップ幅方向の各点におけるシミュレーション結果を示す図である。
【図10】本発明の実施形態におけるスライスボルトとエッジフローバルブとの両方を操作したときの初期値と制御結果(100回)とのシミュレーション結果を示す図であり、(A)がスライスリップ幅方向の各点における配向角を示す図、(B)がスライスリップ幅方向の各点におけるスライスリップ開度を示す図である。
【符号の説明】
【0107】
1…抄紙機 15…スライスリップ 16…スライスボルト(スライスリップ開度調整手段) 22、24…エッジフローバルブ(エッジフロー流量調整手段) 32、34…サイドブリードバルブ(サイドブリード流量調整手段) 41…ヘッドボックス 44…ワイヤーパート(ワイヤー) 71…繊維配向計測計 72…制御部 81…スライスボルト操作部 82…エッジフローバルブ操作部 83…サイドブリードバルブ操作部 91…実繊維配向角プロファイル生成部 92…繊維配向角プロファイル比較部 93…制御演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抄紙原料をワイヤー上に供給する際に、ヘッドボックスにおけるエッジフロー流量調整手段とサイドブリード流量調整手段との少なくともいずれか一つの操作によるスライスリップ出口の原料速度成分の変化を数式モデルに表し、
該数式モデルを、前記抄紙原料の流れ方向に直交する速度成分は、端から所定の応答幅だけエッジフロー流量とサイドブリード流量との少なくともいずれか一つの変化に比例して変化するとして設定し、
前記数式モデルから幅方向の繊維配向角プロファイルの変化を予測演算することを特徴とするシミュレーション方法。
【請求項2】
抄紙原料をワイヤー上に供給する際に、ヘッドボックスにおけるスライスリップ開度調整手段の操作によるスライスリップ出口の原料速度成分の変化を数式モデルに表し、
該数式モデルを、前記抄紙原料の流れ方向の速度成分の変化はスライスリップの開度変化に比例し、前記流れ方向に直交する速度成分の変化は前記スライスリップの開度変化の幅方向差分の平均的な値に比例するとして設定し、
前記数式モデルから幅方向の繊維配向角プロファイルの変化を予測演算することを特徴とするシミュレーション方法。
【請求項3】
抄紙原料をワイヤー上に供給する際に、ヘッドボックスにおけるスライスリップ開度調整手段及びエッジフロー流量調整手段とサイドブリード流量調整手段との少なくともいずれか一つの操作によるスライスリップ出口の原料速度成分の変化を数式モデルに表し、
該数式モデルを、前記抄紙原料の流れ方向の速度成分の変化はスライスリップの開度変化に比例し、前記流れ方向に直交する速度成分の変化は、端から所定の応答幅に渡るエッジフロー流量とサイドブリード流量との少なくともいずれか一つの変化に比例した変化分と、前記スライスリップの開度変化の幅方向差分の平均的な値に比例した変化分との加算であるとして設定し、
前記数式モデルから幅方向の繊維配向角プロファイルの変化を予測演算することを特徴とするシミュレーション方法。
【請求項4】
抄紙原料をワイヤー上に供給する際に、ヘッドボックスにおけるエッジフロー流量調整手段とサイドブリード流量調整手段との少なくともいずれか一つの操作によるスライスリップ出口の原料速度成分の変化を数式モデルに表し、該数式モデルを、前記抄紙原料の流れ方向に直交する速度成分は、端から所定の応答幅だけエッジフロー流量とサイドブリード流量との少なくともいずれか一つの変化に比例して変化するとして設定し、
前記数式モデルによる幅方向の繊維配向角プロファイルの変化の予測演算手段を用いて計算された評価関数に基づき、最適なエッジフロー流量操作量と最適なサイドブリード流量操作量の少なくともいずれか一つを求めることを特徴とする繊維配向制御方法。
【請求項5】
抄紙原料をワイヤー上に供給する際に、ヘッドボックスにおけるスライスリップ開度調整手段の操作によるスライスリップ出口の原料速度成分の変化を数式モデルに表し、該数式モデルを、前記抄紙原料の流れ方向の速度成分の変化はスライスリップの開度変化に比例し、前記流れ方向に直交する速度成分の変化は前記スライスリップの開度変化の幅方向差分の平均的な値に比例するとして設定し、
前記数式モデルによる幅方向の繊維配向角プロファイルの変化の予測演算手段を用いて計算された評価関数に基づき、最適なスライスリップ開度操作量を求めることを特徴とする繊維配向制御方法。
【請求項6】
抄紙原料をワイヤー上に供給する際に、ヘッドボックスにおけるスライスリップ開度調整手段及びエッジフロー流量調整手段とサイドブリード流量調整手段との少なくともいずれか一つの操作によるスライスリップ出口の原料速度成分の変化を数式モデルに表し、該数式モデルを、前記抄紙原料の流れ方向の速度成分の変化はスライスリップの開度変化に比例し、前記流れ方向に直交する速度成分の変化は、端から所定の応答幅に渡るエッジフロー流量とサイドブリード流量との少なくともいずれか一つの変化に比例した変化分と、前記スライスリップの開度変化の幅方向差分の平均的な値に比例した変化分との加算であるとして設定し、
前記数式モデルによる幅方向の繊維配向角プロファイルの変化の予測演算手段を用いて計算された評価関数に基づき、最適なスライスリップ開度操作量及び最適なエッジフロー流量操作量と最適なサイドブリード流量操作量との少なくともいずれか一つを求めることを特徴とする繊維配向制御方法。
【請求項7】
前記最適なスライスリップ開度操作量及び前記最適なエッジフロー流量操作量と前記最適なサイドブリード流量操作量との少なくともいずれか一つを求めるための前記評価関数として、制御偏差の自乗和を用いることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載の繊維配向制御方法。
【請求項8】
前記最適なスライスリップ開度操作量及び前記最適なエッジフロー流量操作量と前記最適なサイドブリード流量操作量との少なくともいずれか一つを求める手段として、前記評価関数に関する最急降下法を用いることを特徴とする請求項7に記載の繊維配向制御方法。
【請求項9】
抄紙原料をワイヤー上に供給する際に、ヘッドボックスにおけるエッジフロー流量調整手段とサイドブリード流量調整手段との少なくともいずれか一つの操作によるスライスリップ出口の原料速度成分の変化を数式モデルに表し、該数式モデルを、前記抄紙原料の流れ方向に直交する速度成分は、端から所定の応答幅だけエッジフロー流量とサイドブリード流量との少なくともいずれか一つの変化に比例して変化するとして設定し、
前記数式モデルによる幅方向の繊維配向角プロファイルの変化の予測演算手段を用いて計算された評価関数に基づき、最適なエッジフロー流量操作量と最適なサイドブリード流量操作量との少なくともいずれか一つを求め、
該最適なエッジフロー流量操作量と該最適なサイドブリード流量操作量との少なくともいずれか一つに基づいて前記エッジフロー流量調整手段と前記サイドブリード流量調整手段との少なくともいずれか一つが調節されることを特徴とする繊維配向制御装置。
【請求項10】
抄紙原料をワイヤー上に供給する際に、ヘッドボックスにおけるスライスリップ開度調整手段の操作によるスライスリップ出口の原料速度成分の変化を数式モデルに表し、該数式モデルを、前記抄紙原料の流れ方向の速度成分の変化はスライスリップの開度変化に比例し、前記流れ方向に直交する速度成分の変化は前記スライスリップの開度変化の幅方向差分の平均的な値に比例するとして設定し、
前記数式モデルによる幅方向の繊維配向角プロファイルの変化の予測演算手段を用いて計算された評価関数に基づき、最適なスライスリップ開度操作量を求め、
該最適なスライスリップ開度操作量に基づいて前記スライスリップ開度調整手段が調節されることを特徴とする繊維配向制御装置。
【請求項11】
抄紙原料をワイヤー上に供給する際に、ヘッドボックスにおけるスライスリップ開度調整手段及びエッジフロー流量調整手段とサイドブリード流量調整手段との少なくともいずれか一つの操作によるスライスリップ出口の原料速度成分の変化を数式モデルに表し、該数式モデルを、前記抄紙原料の流れ方向の速度成分の変化はスライスリップの開度変化に比例し、前記流れ方向に直交する速度成分の変化は、端から所定の応答幅に渡るエッジフロー流量とサイドブリード流量との少なくともいずれか一つの変化に比例した変化分と、前記スライスリップの開度変化の幅方向差分の平均的な値に比例した変化分との加算であるとして設定し、
前記数式モデルによる幅方向の繊維配向角プロファイルの変化の予測演算手段を用いて計算された評価関数に基づき、最適なスライスリップ開度操作量及び最適なエッジフロー流量操作量と最適なサイドブリード流量操作量との少なくともいずれか一つを求め、
該最適なスライスリップ開度操作量及び該最適なエッジフロー流量操作量と該最適なサイドブリード流量操作量との少なくともいずれか一つに基づいて、前記スライスリップ開度調整手段及び前記エッジフロー流量調整手段と前記サイドブリード流量調整手段との少なくともいずれか一つが調節されることを特徴とする繊維配向制御装置。
【請求項12】
前記最適なスライスリップ開度操作量及び前記最適なエッジフロー流量操作量と前記最適なサイドブリード流量操作量との少なくともいずれか一つを求めるための前記評価関数として、制御偏差の自乗和を用いることを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載の繊維配向制御装置。
【請求項13】
前記最適なスライスリップ開度操作量及び前記最適なエッジフロー流量操作量と前記最適なサイドブリード流量操作量との少なくともいずれか一つを求める手段として、前記評価関数に関する最急降下法を用いることを特徴とする請求項12に記載の繊維配向制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−63675(P2008−63675A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−240001(P2006−240001)
【出願日】平成18年9月5日(2006.9.5)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】