説明

シミュレーション方法

【課題】旋回限界付近の走行を除いた通常走行における旋回時において重要なパラメータを解析することを可能とするシミュレーション方法を提供する。
【解決手段】シミュレーション方法は、タイヤモデルを用いて、タイヤモデルの進行方向に対する直角方向のコーナリングフォースを算出するステップAと、タイヤモデルの進行方向とタイヤモデルの回転方向とによって形成される角度をスリッピングアングルとして、1単位当たりのスリッピングアングルに対するコーナリングフォースの変化量であるコーナリングパワーを算出するステップBとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの性能を解析するためのシミュレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、1対のビードコアと、1対のビードコア間に跨るトロイダル形状を有するカーカス層と、カーカス層に隣接して配置されるベルト層と、ビードコア、カーカス層及びベルト層を被覆するゴム層とを備えるタイヤが知られている。
【0003】
タイヤは、ビードコアを有するビード部と、トレッド接地面を有するトレッド部と、タイヤの側面を形成するサイドウォール部と、サイドウォール部とトレッド部との間に跨って設けられるショルダー部とを備える。
【0004】
このようなタイヤの性能を解析する手法として、有限要素法(FEM;Finite Element Method)などの解析手法が知られている。例えば、コーナリング時において、タイヤ(車両)の進行方向に対する直角方向の力(以下、コーナリングフォース)を有限要素法によって解析する技術が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−22620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、直進走行時においては、タイヤ(車両)の進行方向とタイヤの向き(回転方向)とによって形成される角度(以下、スリップアングル)が小さい。一方で、スリップアングルが−1°〜1°の範囲程度である場合には、スリッピングアングルとコーナリングフォースとの関係がほぼ線形になる。
【0007】
旋回限界付近の走行を除いた通常走行における旋回時の車両の挙動を議論する場合には、スリッピングアングルが小さいため、発明者らは、スリッピングアングルに対するコーナリングフォースの変化量(以下、コーナリングパワー)が重要なパラメータであることに着目した。
【0008】
そこで、本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、旋回限界付近の走行を除いた通常走行における旋回時において重要なパラメータを解析することを可能とするシミュレーション方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の特徴に係るシミュレーション方法は、複数のブロックによって構成されるトレッドパターンを有するタイヤの性能を解析するための方法である。シミュレーション方法は、前記タイヤをモデル化したタイヤモデルを用いて、前記タイヤモデルの進行方向に対する直角方向のコーナリングフォースを算出するステップAと、前記タイヤモデルの進行方向と前記タイヤモデルの回転方向とによって形成される角度をスリッピングアングルとして、1単位当たりの前記スリッピングアングルに対する前記コーナリングフォースの変化量であるコーナリングパワーを算出するステップBとを備える。
【0010】
第1の特徴において、前記ステップBは、前記複数のブロック毎に、前記コーナリングパワーを算出するステップを含む。
【0011】
第1の特徴において、前記ステップBは、前記複数のブロック毎に算出された前記コーナリングパワーに基づいて、前記トレッドパターン全体の前記コーナリングパワーを算出するステップを含む。
【0012】
第1の特徴において、前記ステップBは、1単位当たりの荷重の変化量に対する前記コーナリングパワーの変化量を算出するステップを含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、旋回限界付近の走行を除いた通常走行における旋回時において重要なパラメータを解析することを可能とするシミュレーション方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、第1実施形態に係るシミュレーション装置100を示すブロック図である。
【図2】図2は、第1実施形態に係るタイヤXを示すブロック図である。
【図3】図3は、第1実施形態に係るコーナリングパワー(CP)を示す図である。
【図4】図4は、第1実施形態に係るシミュレーション方法を示すフロー図である。
【図5】図5は、変更例2に係るCP変化量(CP/ΔW)を示す図である。
【図6】図6は、変更例3に係る正規化CP変化量(CP/W/ΔW)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下において、本発明の実施形態に係るシミュレーション方法について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。
【0016】
ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率などは現実のものとは異なることに留意すべきである。従って、具体的な寸法などは以下の説明を参酌して判断すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0017】
[実施形態の概要]
実施形態に係るシミュレーション方法は、複数のブロックによって構成されるトレッドパターンを有するタイヤの性能を解析するための方法である。シミュレーション方法は、前記タイヤをモデル化したタイヤモデルを用いて、前記タイヤモデルの進行方向に対する直角方向のコーナリングフォースを算出するステップAと、前記タイヤモデルの進行方向と前記タイヤモデルの回転方向とによって形成される角度をスリッピングアングルとして、前記スリッピングアングルに対する前記コーナリングフォースの変化量であるコーナリングパワーを算出するステップBとを備える。
【0018】
実施形態では、スリッピングアングルに対するコーナリングフォースの変化量であるコーナリングパワーが算出される。これによって、旋回限界付近の走行を除いた通常走行における旋回時において重要なパラメータを取得することができる。
【0019】
また、実施形態では、複数のブロックによって構成されるトレッドパターンを有するタイヤをモデル化したタイヤモデルが用いられる。従って、実測値に近いコーナリングパワーを算出することができる。
【0020】
[第1実施形態]
(シミュレーション装置)
以下において、第1実施形態に係るシミュレーション装置について説明する。図1は、第1実施形態に係るシミュレーション装置100を示す図である。図1に示すように、シミュレーション装置100は、モデル化部110と、算出部120とを有する。
【0021】
モデル化部110は、複数のブロックによって構成されるトレッドパターンを有するタイヤをモデル化したタイヤモデルを生成する。
【0022】
例えば、モデル化部110は、図2に示すタイヤXをモデル化したタイヤモデルを生成する。図2は、第1実施形態に係るタイヤXの一部分を示す拡大平面図である。
【0023】
図2に示すように、タイヤXは、トレッド接地面に設けられるトレッドパターンを構成するブロック10を有する。ブロック10は、少なくとも1以上の溝20によって区分けされる。溝20は、例えば、周方向溝20A、幅方向溝20B及びショルダー溝20Cである。
【0024】
なお、ブロック10は、周方向溝20A及び幅方向溝20Bによって区分けされるブロック10A及び周方向溝20A及びショルダー溝20Cによって区分けされるブロック10Bを含む。
【0025】
算出部120は、モデル化部110によってモデル化されたタイヤモデルを用いて、タイヤの性能を解析する。タイヤの解析手法としては、例えば、有限要素法(FEM;Finite Element Method)を用いることが可能である。但し、タイヤの解析手法は、これに限定されるものではない。
【0026】
詳細には、算出部120は、モデル化部110によってモデル化されたタイヤモデルを用いて、タイヤモデルの進行方向に対する直角方向のコーナリングフォース(CF)を算出する。続いて、算出部120は、コーナリングフォース(CF)に基づいて、1単位当たりのスリッピングアングル(SA)に対するコーナリングフォース(CF)の変化量であるコーナリングパワー(CP)を算出する。なお、スリッピングアングル(SA)は、タイヤモデルの進行方向とタイヤモデルの回転方向とによって形成される角度である。
【0027】
例えば、算出部120は、図3に示すように、スリッピングアングル(SA)が−1°〜1°の範囲において、スリッピングアングル(SA)に対するコーナリングフォース(CF)を示す任意の2点をプロットして、コーナリングパワー(CP)を算出する。ここで、コーナリングパワー(CP)は、1単位当たりのスリッピングアングル(SA)に対するコーナリングフォース(CF)の変化量(すなわち、図3に示す直線の傾き)である。なお、図3において、直線の傾きが大きいほど、コーナリングパワー(CP)の変化が大きい。
【0028】
(シミュレーション方法)
以下において、第1実施形態に係るシミュレーション方法について説明する。図4は、第1実施形態に係るシミュレーション方法を示すフロー図である。
【0029】
図4に示すように、ステップ10において、シミュレーション装置100は、タイヤモデルを用いて、タイヤモデルの進行方向に対する直角方向のコーナリングフォース(CF)を算出する。
【0030】
シミュレーション装置100は、コーナリングフォース(CF)に基づいて、1単位当たりのスリッピングアングル(SA)に対するコーナリングフォース(CF)の変化量であるコーナリングパワー(CP)を算出する。
【0031】
(作用及び効果)
第1実施形態では、1単位当たりのスリッピングアングル(SA)に対するコーナリングフォース(CF)の変化量であるコーナリングパワー(CP)が算出される。これによって、旋回限界付近の走行を除いた通常走行における旋回時において重要なパラメータを取得することができる。
【0032】
また、第1実施形態では、複数のブロック10によって構成されるトレッドパターンを有するタイヤXをモデル化したタイヤモデルが用いられる。従って、実測値に近いコーナリングパワーを算出することができる。
【0033】
[変更例1]
以下において、第1実施形態の変更例1について説明する。以下においては、第1実施形態に対する相違点にいて説明する。
【0034】
変更例1では、シミュレーション装置100は、タイヤモデルを生成したときの荷重(W)に基づいてコーナリングパワー(CP)を正規化して、正規化コーナリングパワー(CP/W)を算出する。
【0035】
[変更例2]
以下において、第1実施形態の変更例2について説明する。以下においては、第1実施形態に対する相違点にいて説明する。
【0036】
変更例1では、シミュレーション装置100は、1単位当たりの荷重(W)の変化量(以下、荷重変化量(ΔW)に対するコーナリングパワー(CP)の変化量(以下、CP変化量(CP/ΔW))を算出する。
【0037】
詳細には、シミュレーション装置100は、図5に示すように、荷重(W)に対するコーナリングパワー(CP)を示す複数の点(ここでは、3つの点)をプロットして、CP変化量(CP/ΔW)を算出する。ここで、CP変化量(CP/ΔW)は、1単位当たりの荷重変化量(ΔW)に対するコーナリングパワー(CP)の変化量(すなわち、図5に示す直線の傾き)である。なお、図5において、直線の傾きが小さいほど、コーナリングパワー(CP)の変化が小さい。
【0038】
[変更例3]
以下において、第1実施形態の変更例3について説明する。以下においては、第1実施形態に対する相違点にいて説明する。
【0039】
変更例1では、シミュレーション装置100は、1単位当たりの荷重(W)の変化量(以下、荷重変化量(ΔW)に対する正規化コーナリングパワー(CP/W)の変化量(以下、正規化CP変化量(CP/W/ΔW))を算出する。
【0040】
詳細には、シミュレーション装置100は、図6に示すように、荷重(W)に対する正規化コーナリングパワー(CP/W)を示す複数の点(ここでは、3つの点)をプロットして、正規化CP変化量(CP/W/ΔW)を算出する。ここで、正規化CP変化量(CP/W/ΔW)は、1単位当たりの荷重変化量(ΔW)に対する正規化コーナリングパワー(CP/W)の変化量(すなわち、図6に示す直線の傾き)である。なお、図6において、直線の傾きが大きいほど、コーナリングパワー(CP)の変化が小さい。
【0041】
[その他の実施形態]
本発明は上述した実施形態によって説明したが、この開示の一部をなす論述及び図面は、この発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0042】
実施形態では特に触れていないが、シミュレーション装置100は、複数のブロック10毎に、コーナリングパワー(CP)、正規化コーナリングパワー(CP/W)、CP変化量(CP/ΔW)、或いは、正規化CP変化量(CP/W/ΔW)を算出してもよい。
【0043】
実施形態では特に触れていないが、シミュレーション装置100は、複数のブロック10毎に算出された値に基づいて、トレッドパターン全体について、コーナリングパワー(CP)、正規化コーナリングパワー(CP/W)、CP変化量(CP/ΔW)、或いは、正規化CP変化量(CP/W/ΔW)を算出してもよい。
【符号の説明】
【0044】
10…ブロック、20…溝、100…シミュレーション装置、110…モデル化部、120…算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のブロックによって構成されるトレッドパターンを有するタイヤの性能を解析するためのシミュレーション方法であって、
前記タイヤをモデル化したタイヤモデルを用いて、前記タイヤモデルの進行方向に対する直角方向のコーナリングフォースを算出するステップAと、
前記タイヤモデルの進行方向と前記タイヤモデルの回転方向とによって形成される角度をスリッピングアングルとして、1単位当たりの前記スリッピングアングルに対する前記コーナリングフォースの変化量であるコーナリングパワーを算出するステップBとを備えることを特徴とするシミュレーション方法。
【請求項2】
前記ステップBは、前記複数のブロック毎に、前記コーナリングパワーを算出するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載のシミュレーション方法。
【請求項3】
前記ステップBは、前記複数のブロック毎に算出された前記コーナリングパワーに基づいて、前記トレッドパターン全体の前記コーナリングパワーを算出するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載のシミュレーション方法。
【請求項4】
前記ステップBは、1単位当たりの荷重の変化量に対する前記コーナリングパワーの変化量を算出するステップを含むことを特徴とする請求項1に記載のシミュレーション方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−23005(P2013−23005A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157738(P2011−157738)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】