説明

シミュレーション結果補正装置および補正方法

【課題】パラメータに起因してシミュレーション結果に含まれる誤差を、目的体系を模擬した実験結果を用いて定量的に推定した補正係数を用いて補正する。
【解決手段】シミュレーション結果補正装置は、計算値・測定値相対差記憶部144と、入力値の不確かさの影響を演算する共分散誤差行列演算部111と、入力値の影響を演算する実機体系感度係数ベクトル演算部117および実験体系感度係数ベクトル演算部115と、線形結合定数αを演算し記憶する第1の線形結合定数演算部118および線形結合定数記憶部148と、模擬性評価因子RFを演算し記憶する模擬性評価因子演算部119および模擬性評価因子記憶部150と、対象物理量の補正指標値を推定する補正指標値演算部120と、信頼性増強因子RCFを前記模擬性評価因子RFの値から計算する信頼性増強因子演算部121と、計算結果補正部122とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象の物理現象をコンピュータ上に表現したモデルを用いてシミュレーションした結果に含まれる誤差を、その対象を模擬した実験の結果を用いての誤差の推定、および推定した誤差に基づく計算結果の補正に関する。
【背景技術】
【0002】
工業分野で製作される製品は、実際に使用する前に目的とする性能が発揮できるかを確認する必要がある。最もよく用いられる方法は、最終的な製品と殆ど同じものを試作して、その試作品の性能を確かめる方法で、実証試験と呼ばれている。たとえば家電製品でも自動車でも鉄道列車でも試作品を製作して、その性能を確認し品質を保証して最終的な製品として出荷している。
【0003】
一方、特定の工業分野では、製作する製品の大きさが巨大で、最終的な製品の性能を試作によって確認することが極めて困難である場合がある。また、製作する製品が非常に高価であるか製作数が唯一つあるいは少数であるか、経済的あるいは他のいくつかの理由によって試作品を製作することが合理性をもたない場合もある。
【0004】
たとえば、実際の原子力発電所や核物質に関係する施設では、これらの発電所や施設を試作することは経済的にも物理的にもほとんど不可能である。理由の一つとして、使用する核物質を自由に用意することができないことがある。使用済み核燃料の貯蔵施設を建設する場合、予め貯蔵する使用済み核燃料と同じものを用意しておいて施設の性能を測定することは現実的には不可能である。原子力発電所を建設する際も、予め別の燃料集合体を用意しておいてその核燃料によって炉心の核的性能を確認することは、経済的な面からも成立性がほとんど無い。
【0005】
そこで、原子力分野では実物を用いた性能の確認ではなく、計算による性能の確認が産業分野の誕生時点から行われてきた。また他の分野、特に高額な製品である航空機やロケット、大型船舶などの設計でも、製品のコストを下げ、製作時間を短縮するために設計段階で計算によって最終的な性能を把握することが、ますます一般的になってきている。
【0006】
予測計算には、一般的にコンピュータを用いる。製品が従う物理理論に基づいて作成された計算機プログラムによってその「製品」の性能を把握する技術は、計算物理、計算実験あるいは計算機シミュレーション(コンピュータシミュレーション)などと呼ばれ、大きく発達した技術分野になっている。
【0007】
原子力発電所を建設する場合、設計段階において、実際の燃料集合体を用意して原子炉の炉心の核的性能を確認することは不可能であるので、コンピュータシミュレーションで性能を確認する。また原子炉の炉心に装荷する燃料集合体の体数や燃料集合体に含まれる核物質の濃度や分布についてもコンピュータシュミレーションに基づいて決定される。原子力分野ではこのようなコンピュータシュミレーション技術は不可欠である。
【0008】
コンピュータシュミレーションは、数値計算の積み重ねであって、必ず計算誤差が付きまとう。計算の確からしさを計算精度と呼ぶが、計算精度を把握することとは設計の信頼性・安全性の向上、経済性の改善、設計の合理化のために非常に重要である。計算精度を正確に把握することとは、得られた計算値に伴っている計算誤差を正確に把握することと同じ意味である。
【0009】
次に、計算誤差の種類について説明する。
【0010】
計算で生じる誤差の要因は幾つかの種類に分けられる。計算手法の誤差、数値計算の誤差および計算に用いる数値(入力値)に起因する誤差である。
【0011】
計算に用いる物理モデルは、あくまで自然界の物理現象を数学的にモデル化したものであり、自然界がこの物理モデルに従って変化しているわけではない。加えて、物理モデルをコンピュータで計算できるように近似・変形した場合にも誤差が生じる。これらが計算手法の誤差である。
【0012】
原子力の核計算において、中性子の運動の基礎方程式は、ボルツマンの輸送方程式によって記述される。ボルツマンの輸送方程式をコンピュータで解く場合、何らかの近似を用いて解くことになる。原子炉の炉心計算では、ボルツマンの輸送方程式を近似した拡散方程式が広く利用されている。この拡散方程式は、ボルツマンの輸送方程式を中性子の運動の角度方向の情報を無視して近似したものである。よって中性子の運動方向が均一でない体系では、拡散方程式による計算で誤差が大きくなるおそれがある。加えて、拡散方程式で使用される拡散係数は、密度の薄い媒質に対して適切な数値を設定することができない場合があり、そのため誤差を生ずる。計算対象の体系が小さい場合、すなわち中性子の洩れの割合が大きい小型の炉心を拡散理論で計算すれば、洩れを過大評価して臨界固有値を過小評価する傾向があり、計算誤差が大きくなる傾向があるといわれている。
【0013】
このように、計算を行なう際、計算に用いる理論やモデルが適切であるか、計算手法で生じている誤差の検討が必要である。
【0014】
数値計算の誤差は、コンピュータで計算する過程の四則演算で生じる誤差である。数値計算の誤差として代表的なものには、たとえば丸め誤差とか、切り上げ・切り捨て誤差がある。ただし、数値計算の誤差は、現在の工夫された数値計算技術とコンピュータのハードウェアの発達によって十分無視できるレベルになっており、一般に他の誤差と比較して十分小さく、誤差の主たる支配因子ではない。
【0015】
誤差の要因として一番大きいと考えられるものは、計算に使用する数値に起因する誤差である。計算に用いられる数値は、寸法、体系を構成する物質、その物質の数密度などの計算対象に固有な数値と、計算対象それぞれには依存せず、計算に共通に使用される数値がある。たとえば、水の温度と圧力が決まれば水の密度は決まるが、その密度の値は計算体系には依存せず共通に使用される値である。計算に用いられるこれら全ての数値を、以下パラメータと呼ぶことにする。またパラメータによって計算結果に生ずる誤差を、以下パラメータ誤差と呼ぶことにする。
【0016】
一般的に用いられる物理定数も真の値ではなく、誤差が含まれている。ただし、物理定数の精度は他の数値に比べて遥かに高く、有効数字も6桁を越えるものが多くある。このため、一般的に、物理定数の誤差が原子力施設の設計や建設、燃料集合体のなどの設計、製作で問題となることはないと判断できる。
【0017】
一方、これまで核計算の中で最も重要と判断されてきたパラメータは「核データライブラリ」に関する数値であり、中性子反応断面積、崩壊定数、収率、遅発中性子割合などがそれにあたる。「核データライブラリ」は、核計算に直接的に関わる数値群で、これら数値の変化が核特性を示す計算値に与える影響が大きい。また、もともと「核データライブラリ」は、全ての値が測定によって正確に確認・決定されたものではなく、理論計算によって定められた数値も含まれる。このため、「核データライブラリ」に含まれる誤差は、他のパラメータ誤差よりも大きいと判断される。したがって、核計算では、「核データライブラリ」のパラメータ誤差が重要視される。
【0018】
パラメータ誤差のなかで次に重要なものは、原子数密度の誤差である。原子力分野において、運転後の燃料集合体などについては、燃焼計算によって原子数密度を得る。このため、その後の計算で原子数密度を用いるときには、既にこの原子数密度に計算誤差が含まれていると判断される。
【0019】
原子力産業では、扱う製品の構成元素、元素の原子数密度などの組成を高い精度で確認・測定することが困難あるいは非現実的な場合がある。燃料集合体内の核種組成や核種の原子数密度は、次にその燃料集合体を使用する場合の反応度の決定、保管・輸送の際の臨界安全性や放射線量を定量化するために極めて重要な数値である。しかし、核種の組成や原子数密度の測定のために燃料集合体を炉心から取り出すこと、さらに、破壊して分析測定することは現実的ではなく、また、高い放射線レベルの燃料集合体1体ずつを外部から正確に測定することも技術的にも経済的にも成立性が乏しい。
【0020】
そこで燃料集合体の核種組成や原子数密度は、過去燃料集合体が置かれていた環境をできるかぎり正確に把握して、計算機プログラムによって計算する。これを燃焼計算と呼ぶ。このようにして求めた原子数密度には、計算誤差が含まれる。この原子数密度もこの数値を入力とした核計算の計算結果に与える影響が大きいものであり、計算で生じる誤差の原因を考察する際に重要である。
【0021】
実際の原子力発電所に関する計算を行なう場合には、原子炉の中で移動する流体の流量や温度、材料温度は、計算に必要な入力点数について精度の高い数値が得られないことがあり、経験的な数値を仮定し入力して計算を行なう。炉心の中に水と蒸気の二層流が存在する沸騰水型原子炉(BWR)の炉心計算では、流量の誤差によって生ずる計算誤差は有意な値である考えられている。
【0022】
原子力産業の初めから、核物質の臨界性という原子力に特有の現象を確認するために、実験装置が作られ、利用されてきた。そのひとつが、臨界実験装置である。臨界実験装置は、一般的に、大気圧下、常温(室温)で運転・稼動できるように設計された装置である。
【0023】
臨界実験装置は小型の原子炉であって、実際の原子炉で使用するウランやプルトニウムなどの核物質を使用して臨界状態を達成する。しかし、装置が非常に小型であるために熱をほとんど出さない。原子炉のミニチュア版といった装置であり、臨界状態を実現できることから、臨界実験装置と呼ばれている。臨界実験装置を用いた実験は、臨界実験と呼ばれる。
【0024】
臨界実験は、計算の誤差を減らすために役立てられてきた。物理的に非常に単純化され、簡略化された条件で、体系を組み上げて、同時に精度の高い測定データを取得することが臨界実験の目的である。物理的に非常に単純で簡略化した体系では、形状や組成に関わる計算入力パラメータの誤差を減らすことができ、誤差の少ない測定値は計算値との比較を容易にする。過去から現在に至るまで「計算手法に起因する誤差」と「核データライブラリに起因する誤差」を明らかにすることを目的に、臨界実験によって得られた多くの測定値と計算値が比較されて、その結果、誤差要因が特定され誤差が定量化されてきた。
【0025】
加えて、臨界実験の測定値を計算値がよく再現できていれば、計算に使った手法、計算に使った主として核データライブラリなどのパラメータの品質が高いと判断される。品質が高いと判断されれば、同じ手法とパラメータの組み合わせで目的とする体系の設計を行っても良いという品質保証・判断基準となってきた。
【0026】
臨界実験の測定値で一番重要視されるものは、臨界になった条件である。そこで、臨界になった諸条件を、データとして正確に取得する。原子炉物理の言葉では、臨界になった条件を「臨界質量」という言葉で表すことがあり、これは核物質種類、質量のみならず、体系の幾何形状、温度や核物質の組成や質量一式の正確な数値を指す。
【0027】
次に重要とされるものは、臨界実験装置が臨界になったときの核分裂反応の空間分布である。燃料棒を組み合わせて構成された臨界実験装置では、燃料棒から放出される放射線を測定して、放射線量の比によって核分裂反応の分布を測定することが多い。これは核分裂反応と放出される放射線の量は比例関係にあると考えられるからである。なお、臨界実験装置に、たとえば小型核分裂電離箱などの特別の放射線測定器を挿入して、目的とする位置での放射線の量を測定することも多い。この場合も、測定値の比によって中性子束の分布などが求められる。
【0028】
目的とする測定値が得られれば、次に臨界実験の体系や実験条件を入力として計算を行なう。計算で求めた値を臨界実験で得られた臨界量と核分裂反応の分布、中性子束の分布などの測定値と比較することで、計算全体の品質が把握できる。すなわち計算値と測定値が測定誤差の範囲や許容できる程度で一致していれば、臨界実験を計算した計算機プログラム(計算手法)と核データライブラリを中心として計算に用いたパラメータが十分な品質を有しているという根拠になる。その後、同じ計算機プログラム(計算手法)と核データライブラリを用いて最終的に目的とする原子炉や原子炉施設の設計の計算に適用できるという判断がなされる。
【0029】
一方、計算値と測定値に有意な差が認められる場合は、計算手法や核データライブラリの問題点や改良すべき点を特定し、計算値と測定値の一致が改善されるように改良がなされる。このように、臨界実験は、計算機(プログラム)と核データライブラリの品質の確認や保証、あるいは計算手法や核データライブラリの改良に寄与してきた。
【0030】
臨界実験で得られた数値(測定値)にも誤差が含まれる。その誤差は、測定誤差と呼ばれる。測定誤差には、それぞれの測定の際に偶然発生する統計誤差(ランダム誤差、統計誤差)と、測定に用いた計測器や手法に伴う誤差(系統誤差)が含まれる。統計誤差は、確率分布に従い、測定の回数を増やせば誤差の割合は減少する性質がある。系統誤差は、測定方法そのものに付随した誤差であるので、測定ごとに常に発生し、系統誤差の割合は測定の回数によって変化することはない。なお、測定誤差の割合は、計算誤差の割合よりも小さいと考えられる。
【0031】
これまで臨界実験で得られたデータを利用する方法として、一般的に次の二つの応用がなされてきた。補正因子(バイアス)法と、断面積アジャストメントである。
【0032】
補正因子(バイアス)法では、目的とする体系において計算で生じる相対誤差を減らすことを目的としており、その誤差の原因を取り除くことは考察しない。
【0033】
臨界実験の計算値と測定値を利用して目的とする体系の計算精度を向上させる別の手法として、断面積アジャストメントがある。計算誤差の要因を核データライブラリ(断面積ライブラリ)と考えて、臨界実験での計算値と測定値とが一致するように、核データライブラリの値を調整・修正(アジャストメント)し、その調整を行った核データを用いて、目的とする体系の計算を行ない、計算精度を向上させるという考え方である。
【0034】
特許文献1には、主に流体の計算に際して、幾何学的な寸法誤差・公差、境界条件など入力値の持つ誤差、数値解析誤差について、計算値に含まれる誤差を、感度係数を用いて評価する手法が開示されている。また、非特許文献1には、目的とする体系に対して最終的な設計値を得る際に、計算値にバイアスを乗じ、計算値を補正する手法が開示されている。この手法では、実験で得られた測定値と計算値との比を組み合わせることで、一般的なバイアスを得る。
【0035】
特許文献1に記載された手法は、あくまで計算値だけを利用しており、実験で得られる測定値を有効的に利用する手段がない。また、非特許文献2に記載された手法は、数学的手法が記載されているものの、指数関数を利用するため演算が極めて複雑であり各実験に必要な係数を一意的に簡便に計算できない。さらに、基本的問題として計算のアルゴリズムに、なぜ指数関数を用いるべきかの物理学的な理由付けがないので、理論の基盤が十分でなかった。
【0036】
特許文献2では、この点を解決するために、理論的な裏付けをもった誤差の推定方法に基づく誤差推定装置の発明が開示されている。
【0037】
一方、実設計において、製品が要求する性能を必ず満たすために裕度をもった設計がなされる。例えば最高速度100km/hの自動車を設計する際には、設計計算で見込まれる誤差が6%であれば信頼度は94%(0.94)と考えられるので、計算上では余裕を見て107km/h(=100÷0.94)の性能が出るように設計される。このように実際の工業製品を製作する際に、設計計算値に裕度や安全係数を加減したり、乗除して設計がなされてきた。
【0038】
これは建築分野の設計に良く用いられてきた手法で、例えば地震などで要求される建物の強度に対して最低限要求される数値に2を掛けるなどして設計上は2倍の強度を持つように設計されることがある。エレベーターを吊り下げるケーブルについても同様で、エレベーターに乗り込む最大人員あるいは持ち込まれる重量の何倍かに耐えるように設計・製作されている。
【0039】
原子力分野も同様で、原子力に関する性能で最も注意を払わなければいけない臨界に関係する臨界安全の分野では、中性子の(実効)増倍率が1.0になることが臨界であるため、安全上、燃料集合体などの製品や原子力施設が臨界にならないように、設計計算ではそれらの中性子増倍率が0.95を下回るように設計される。これらは設計計算で5%の計算誤差があっても最終的に実製品や実施設が臨界状態にはならないようにするための配慮である。
【0040】
これらの裕度や安全係数は歴史的に、(1)政府や国際的な公的機関が設定する、(2)これまで過去の経験やこれまで長い期間使用されてきた手法で決める、(3)技術者の個人的判断、等によって数値が決められ、計算誤差として加えられるかあるいは乗じられて利用されてきた。
【0041】
着目する性能に対しての実験で明らかになった計算誤差を設計計算値に何かの形で適用する際にも、これまで過去の経験やこれまで長い期間使用されてきた手法、技術者の個人的判断、によって安全係数と称される値が別に決められ、評価された計算誤差に更に加減されるか乗除されて利用されてきた。
【0042】
例えば推測統計学では信頼性区間95%という値がよく使われ、判断基準として5%という数値がよく使われている。原子力分野でもしばしば0.95という数値を臨界安全の基準に用いたり、その他の設計に適用している。これは5%という値を無条件に安全係数として臨界での値1.000から指し引いて使用している例である。
【0043】
確かに、これらの安全係数を用いて設計値としてより安全側の評価をした後工業製品を製作するのは、安全を担保するのに重要な考え方である。一方、過大な安全係数は設計余裕度を必要な範囲を越えて大きく見積もりすぎることになるため、経済性の面では必ずしも賢明な方法ではない。例えば100kgの鋼材で組み立てれば強度的に十分成立する構造物をわざわざ150kgの鋼材を用いて製作するのは経済的に不利益を招くので、過度な安全係数の適用は経済的に最適な設計をもたらさない。
【0044】
先に述べたように、(臨界)実験の測定値とその実験を設計コードで計算して得られた値との差として評価できた計算誤差を設計計算の値に利用する際には、(臨界)実験が目的とする実機体系に十分に模擬しているほど得られた計算誤差の価値が高い。別の言葉では得られた計算誤差は目的とする実機体系の計算値への適用性が高いことは明らかである。
【0045】
しかしながらこれまで実験体系の類似性の程度に関わらず常に同じ安全係数を用いられることが多かった。
【0046】
よって安全面に十分な大きな配慮をしているとは言えるが、安全係数の扱いに際して工学的に経済面を含めて最適化するような配慮はこれまでなされてこなかった。
【0047】
(臨界)実験を実施して得られた測定値とその実験を設計コードで計算して得られた計算値との差から計算誤差が把握できる。この計算誤差を目的とする実機体系の設計値に適用する際、実施した(臨界)実験が目的とする実機体系にどの程度類似しているかを考慮せず、過去の経験や長く使われてきた手法に従って、安全係数を選定し計算誤差とその安全係数を組み合わせて、設計計算の計算値に適用されてきた。
【0048】
これは安全を担保する方法としては十分ではあるが、通常安全係数は一定の値が用いられ、設計精度の良いものにもそうでないものにも一律に使用されてきた。これは毎回設計精度を確認する必要が無く簡便な方法であるが、余裕度を過度に設定してしまう場合があり、工業製品として経済面を考慮した場合、必ずしも最適な取扱いがなされているとは言えない。
【0049】
特許文献1および2で開示されている発明は、評価された誤差の推定結果を使用して、もとの設計計算値を補正することを目的としており、目的とする実機体系の性能が特に人間社会活動の安全に直接関わるものでなければこれで完結できる十分な手法である。一方、例えば飛行機の機体の強度計算のように設計の信頼度が人間の社会活動に直接関係するものがある。そのようなものには設計計算値に加えて安全係数というものが適用されてきた。このような安全係数を組み合わせるという観点は特許文献1および2には記述されていないが、これらの提案内容を否定するものではなくて、さらに設計計算値を補足する考え方である。
【0050】
また、目的とする実機体系がある特定の製品や施設である場合、最終的な精度を保つために計算誤差(不確かさ)について適切な裕度を設定する必要がある。例えば核物質や燃料集合体を保管して未臨界を保持する施設などである。これらの施設では未臨界を保つことが最重要課題である。安全の程度を増加させるためには核物質や燃料集合体の総量を減らせば良いが、それは装置や施設の経済的運用の目的からは逆の方向である。それゆえ経済性と臨界安全の両立の観点から、未臨界の程度の非常に正確な評価が強く求められる。
【0051】
長年、未臨界を担保するために安全係数や補正因子等が多く用いられてきた。しかしながらそれらの値や方法は十分な理論的背景に基づいて決められたものではなく、多くは技術者の経験や判断によって決められることが多かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0052】
【特許文献1】特開2008−217139号公報
【特許文献2】特開2011−106970号公報
【非特許文献】
【0053】
【非特許文献1】Tadafumi SANO、他1名、"Generalized Bias Factor Method for Accurate Prediction of Neutronics Characteristics"、Journal of NUCLEAR SCIENCE and TECHNOLOGY、Vol.43, No.12、Page 1465-1470、2006年
【非特許文献2】Teruhiko KUGO、他2名、"Theoretical Study on New Bias Factor Methods to Effectively Use Critical Experiments for Improvement of Prediction Accuracy of Neutronic Characteristics"、Journal of NUCLEAR SCIENCE and TECHNOLOGY、Vol.44, No.12、Page 1509-1517、2007年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0054】
原子力分野や、試作品を製作して最終的な性能を確認することが現実的ではない分野では、特定の設計手法に基づき、特定のパラメータを入力として目的とする体系の着目する物理量を計算して設計値としている。
【0055】
この計算で用いる方程式を、ここではモデル方程式と呼ぶ。設計計算の段階で計算値である設計値に含まれる数値の誤差を定量評価することは、設計精度を確認するために極めて重要な作業である。
【0056】
設計精度を確認するために、原子力分野では臨界実験が行われてきた。実験において着目する物理量を測定し、設計する際に使用するのと同じ計算手法(計算機プログラム)と物理定数など(パラメータ)を用いて計算を行ない、計算値と測定値の差によって設計計算での誤差を推測する。
【0057】
あるいは計算値と測定値の差がある許容限界の範囲ならば、この方法で設計計算を行なっても問題はないという判断がなされてきた。
【0058】
臨界実験は、従来、理論や計算手法の誤差と、パラメータによる誤差とを定量化することを目的として実施されてきた。ただし、臨界実験で得られる情報について、これまで物理学的・数学的に詳しい検討がなされることは少なく、目的とする体系と比較して重要な特徴が再現されている実験であれば有用であるという判断に基づいて実験がなされてきた。
【0059】
臨界実験の測定値と計算値とは、補正因子(バイアス)法や断面積アジャストメントに利用されてきた。よって、臨界実験で得られた計算誤差の情報を組み合わせて、目的の体系の計算誤差にする手法は提供されていなかった。ここで情報とは、目的とする体系を、特定の設計手法、特定のパラメータで計算したときに得られる数値(設計予想値)に対して、誤差がどの程度含まれるかを確認するための情報である。
【0060】
実験結果に対して定量的、数学的に詳しい検討がなされなかったため、実験を行う際に、着目する物理量の性質を明らかにするには実験においてどの項目を重要視すべきかの判断ができないので、最善の実験を行ったかどうか判断できないという問題がある。
【0061】
また、目的とする体系の状態を常に広い範囲について実験で模擬できるとは限らない。たとえば目的とする体系で使用する物質について実験施設で十分な量を用意できない場合、実験ではその物質を使用している空間領域は実験体系の一部になり、このような実験は部分模擬実験と呼ばれる。
【0062】
部分模擬実験で得られた情報で目的とする体系の着目する物理量の誤差を評価する手法は知られていない。
【0063】
さらに、複数の実験を行った際、どの実験が優れていたかを定量的に比較する方法、複数の実験の情報を組み合わせて設計計算の誤差を推定する手法は知られていない。その他、過去に実施した実験の情報を有効利用したり、実験に必要な資源(人的、時間的、経済的資源)の最適化を行う有効な手法がないのが現状である。
【0064】
工学上、製作する製品や施設の性能を設計から保証する際に、設計で得られた最も信頼できる数値をそのまま使うのではなくて、設計目標値を必ず満足させるために、保守的な意味で余裕をもつようにある係数を乗じたり、一定値を加えたりして最終的な設計がなされる。このときの係数を安全係数と呼んでいる。これまでこの安全係数は一定の値が用いられたり、設計計算者の判断で決められることが多く、その値が工学的に安全性と経済性の両面を満足しているという保証は乏しく、おおむね経済性が損なわれてきた。
【0065】
そこで、本発明は、対象の挙動をコンピュータ上に表現したモデルを用いたシミュレーションにおいて、パラメータに起因してシミュレーション結果に含まれる誤差を、目的とした体系を模擬した実験結果を用いて定量的に推定した補正係数を用いて補正することができることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0066】
上述の目的を達成するため、本発明は、対象の挙動をコンピュータ上に表現したモデルを用いてシミュレーションした結果に含まれる誤差をその対象を模擬した実験の結果を用いて推定した結果に基づき、前記シミュレーション結果を補正するシミュレーション結果補正装置において、n個の実験体系があるときに、iを1≦i≦nを満たす整数として、各i番目の実験について前記モデルを用いたシミュレーションで得られた対象とする物理量Rの計算値Cの、各実験で測定された当該物理量Rの測定値Eとの比較値である各実験比較値CEを演算および記憶する比較値演算部および比較値記憶部と、シミュレーションに用いる前記モデルへの入力値の不確かさの割合の関係を示す共分散誤差行列Wを演算する共分散誤差行列演算部と、前記対象について前記モデルを用いたシミュレーションの結果のそのモデルへの入力値の単位変化に対する変化量を示す目的体系感度係数ベクトルSを演算する目的体系感度係数ベクトル演算部と、各i番目の実験の体系について前記モデルを用いてシミュレーションした結果のそのモデルへの入力値の単位変化に対する変化量を表す実験体系感度係数ベクトルSを演算する実験体系感度係数ベクトル演算部と、前記実験体系感度係数ベクトル演算部の演算結果を記憶する実験体系感度係数ベクトル記憶部と、前記実験体系感度係数ベクトルSを線形結合した線形結合ベクトルSの線形結合定数αを、所定の評価値が最小になるように求める線形結合定数演算部と、前記線形結合定数αを記憶する線形結合定数記憶部と、前記共分散誤差行列Wと前記目的体系感度係数ベクトルSと前記線形結合ベクトルSとから模擬性評価因子RFを RF=S・W・S/((S・W・S1/2・(S・W・S1/2) により求める模擬性評価因子演算部と、前記模擬性評価因子RFを記憶する模擬性評価因子記憶部と、前記線形結合定数αを重みとして前記各実験比較値の値を合成して前記モデルを用いたシミュレーションの結果得られる前記対象の物理量Rについての補正指標値を推定する補正指標値演算部と、信頼性増強因子RCFを前記模擬性評価因子RFの値から計算する信頼性増強因子演算部と、前記補正指標値演算部は、前記補正指標値に前記信頼性増強因子を乗ずる計算誤差補正部と、を有することを特徴とする。
【0067】
また、本発明は、対象の挙動をコンピュータ上に表現したモデルを用いてシミュレーションした結果に含まれる誤差をその対象を模擬した実験の結果を用いて推定した結果を用いて、自動的に前記シミュレーション結果を補正するシミュレーション結果補正方法において、実験体系測定値記憶部が、前記実験の結果得られる測定値Qを記憶するステップと、実験体系測定値記憶部が、前記模擬実験体系で得られる測定値を記憶するステップと、共分散誤差行列演算部および共分散誤差行列記憶部が、共分散誤差行列を導出しかつ記憶するステップと、実験体系物理量演算部および実験体系演算値記憶部が、模擬実験体系のシミュレーション計算を行いかつ計算値を記憶するステップと、比較値演算部および比較値記憶部が、シミュレーション計算値と測定値の比較値を算出し記憶するステップと、実験体系感度係数ベクトル演算部および目的体系演算値記憶部で計算機が、実験体系感度係数ベクトルを算出し記憶するステップと、実機体系物理量演算部および目的体系演算値記憶部が、目的とする実機体系のシミュレーション計算を行いかつ記憶するステップと、目的体系感度係数ベクトル演算部および実機体系感度係数ベクトル記憶部が、目的とする実機体系の感度係数を算出しかつ記憶するステップと、線形結合定数演算部および線形結合定数記憶部が、線形結合定数を算出するステップと、模擬性評価因子演算部および模擬性評価因子記憶部が、模擬実験体系を組み合わせた模擬性評価因子RFを算出するステップと、補正指標値演算部が、補正指標値を算出するステップと、信頼性増強因子演算部および信頼性増強因子記憶部が、信頼性増強因子RCFを算出するステップと、計算誤差補正部が、前記補正指標値と前記信頼性増強因子RCFの積を算出するステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0068】
本発明によれば、対象の挙動をコンピュータ上に表現したモデルを用いたシミュレーションにおいて、シミュレーション結果を、パラメータに起因してシミュレーション結果に含まれる誤差と、目的とした体系を模擬できた割合を定量的に評価した模擬性評価因子から推定した信頼性増強因子を用いて補正することができるので、経済性を確保しながら設計計算値を最適化して信頼度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明に係るシミュレーション結果補正装置の第1の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るシミュレーション結果補正装置における二乗差SDの概念図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るシミュレーション結果補正装置における2つのベクトルで構成される角度θと信頼性増強因子RCFの二乗との関係図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係るシミュレーション結果補正装置における模擬性評価因子RFと、二乗差割合SDRおよび信頼性増強因子RCFとの関係を示すグラフである。
【図5】本発明に係るシミュレーション結果補正装置の第1の実施形態の処理のフロー図である。
【図6】本発明に係るシミュレーション結果補正装置の第2の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図7】本発明に係るシミュレーション結果補正装置の第2の実施形態の処理のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0070】
以下、図面を参照して本発明に係る計算誤差処理装置の実施形態について説明する。ここで、同一または類似の部分には、共通の符号を付して、重複説明は省略する。
【0071】
[第1の実施形態]
図1は、本発明に係るシミュレーション結果補正装置の第1の実施形態の構成を示すブロック図である。このシミュレーション結果補正装置10は、計算機(図示しない)上に構築することができる。
【0072】
計算機は、中央演算処理装置(CPU)100、記憶装置140、入力装置160および表示装置170を備える。CPU100は、演算部110および制御部130を有し、制御部130はその一部として入力制御部131および表示制御部132を有する。
【0073】
これらの各構成要素は、バス30を介して接続されている。
【0074】
入力制御部131には、キーボードやマウスなどの入力装置160が接続されている。表示制御部132には、液晶ディスプレイなどの表示装置170が接続されている。シミュレーション結果補正装置10への演算開始の指示など計算機への入力は、入力装置160を介して行われる。推定された誤差や信頼性増強因子、シミュレーション結果を補正した結果などの必要な情報は、表示装置170に表示される。
【0075】
CPU100の演算部110は、共分散誤差行列演算部111、実験体系物理量演算部112、計算値・測定値相対差演算部113、物理量相対差判定部114、実験体系感度係数ベクトル演算部115、実機体系物理量演算部116、実機体系感度係数ベクトル演算部117、第1の線形結合定数演算部118、模擬性評価因子演算部119、相対誤差演算部120、信頼性増強因子演算部121および計算結果補正部122を有する。
【0076】
また、記憶装置140は、実験体系測定値記憶部141、実験体系演算値記憶部142、実機体系演算値記憶部143、計算値・測定値相対差記憶部144、相対誤差記憶部145、実験体系感度係数ベクトル記憶部146、実機体系感度係数ベクトル記憶部147、線形結合定数記憶部148、共分散誤差行列記憶部149、模擬性評価因子記憶部150および信頼性増強因子記憶部151を有する。
【0077】
シミュレーション結果補正装置10は、対象の挙動をコンピュータ上に表現したモデルを用いてシミュレーションした結果に付随する計算誤差を推定し、この推定結果を用いてシミュレーション結果を補正する。ここで、シミュレーション結果補正装置10が計算誤差を推定する体系を「目的体系」あるいは「実機体系」と呼ぶ。この目的体系とは、たとえば原子炉などの製品である。
【0078】
計算誤差を推定するときに、シミュレーション結果補正装置10は、n個の実験によって得られた結果を用いる。ここで、実験とは、目的体系の少なくとも一部を模擬しておこなうものであり、実験に用いた装置などの体系を「実験体系」と呼ぶ。本実施の形態では、模擬実験として臨界実験を行う場合について説明する。
【0079】
本実施形態では、対象の挙動をコンピュータ上に表現したモデル(以下「モデル」)を用いてシミュレーションした結果に含まれるパラメータに起因する誤差を、その対象を模擬した実験の結果を用いて定量的に推定する。
【0080】
そのため実験と目的とする実機体系に関して、数理的にまず両者の模擬性(あるいは類似性)を定義する。次にその模擬性の数値に従って安全係数を合理的に算出し、安全面、経済面の両方を満たす必要十分な安全係数の評価方法を提供する。
【0081】
実験体系測定値記憶部141は、n個の実験によって得られた各測定値を記憶する。以下、物理量Rについての第i番目(i=1,2,・・・,n)の実験で得られた測定値をRと表記する。
【0082】
実験体系物理量演算部112は、前記のn個の実験に関して、それぞれの実験体系についてモデルを用いてシミュレーションを行い、前記の物理量Rの値を求める。
【0083】
以下、物理量Rについての第i番目(i=1,2,・・・,n)の実験に関するシミュレーションで得られた計算値をRと表記する。また、実験体系演算値記憶部142は、実験体系物理量演算部112により得られた各計算値Rを記憶する。
【0084】
実機体系物理量演算部116は、目的とする実機体系について、モデルを用いてシミュレーションを行い、前記の物理量Rの値を求める。また、実機体系演算値記憶部143は、目的とする実機体系について実機体系物理量演算部116で得られた物理量Rの値を記憶する。
【0085】
実験体系感度係数ベクトル演算部115は、i番目の実験の体系についてモデルを用いてシミュレーションした結果について、そのモデルのパラメータx(i=1,2,…,m)の入力値の単位変化によって生ずる、着目する物理量をRの変化量を表す実験体系感度係数ベクトルS
【数1】

により、算出する。
【0086】
実験体系感度係数ベクトルはその名の示すようにベクトル量であり、パラメータの数mがその要素数である。
【0087】
実験体系感度係数ベクトル記憶部146は、実験体系感度係数ベクトル演算部115で算出した実験体系感度係数ベクトルSを記憶する。
【0088】
実機体系感度係数ベクトル演算部117は、目的の体系についてシミュレーションした結果について、そのモデルのパラメータx(i=1,2,…,m)の入力値の単位変化によって生ずる着目する物理量Rの変化量を表す目的体系感度係数ベクトルS
【数2】

により、算出する。
【0089】
実験体系感度係数ベクトルもパラメータの数mを要素数とするベクトル量である。
【0090】
実機体系感度係数ベクトル記憶部147は、実験体系感度係数ベクトル演算部117で算出した実験体系感度係数ベクトルSを記憶する。
【0091】
共分散誤差行列演算部111は、シミュレーションに用いるモデルへの入力値の不確かさの割合の関係を示す共分散誤差行列Wを算出する。
【0092】
ここで、共分散誤差行列は、目的とする体系と実験体系とで使用する同じ構造の入力値の不確かさを表す誤差行列である。目的とする体系と実験体系で共通に使用するこの共分散誤差行列Wは、対角成分wiiにそれぞれのパラメータx(i=1,2,…,m)の相対誤差を二乗した値が、また、非対角成分wijにはパラメータiとパラメータjの間の相対誤差の積が収められている。
【0093】
この共分散誤差行列Wの各成分の大きさは、互いの大きさの関係が正しければ良く、絶対値は問題ではない。なお、ここでは、目的とする体系の入力に関しての不確かさを表した共分散誤差行列とそれぞれの実験についての体系の入力に関しての不確かさを表した共分散誤差行列が同じ行列であるという仮定をしている。
【0094】
一般に、モデルへの入力値の不確かさの割合を表す共分散誤差行列は、必ずしも明確に定義されない。この場合は、共分散誤差行列を単位行列としてもよい。
【0095】
共分散誤差行列記憶部149は、共分散誤差行列演算部111で算出された共分散誤差行列Wを記憶する。
【0096】
第1の線形結合定数演算部118は、実験体系感度係数ベクトルSを線形結合した線形結合ベクトルSの線形結合定数αを、SWSがSWSと等しくかつ目的体系感度係数ベクトルSと線形結合ベクトルSとのなす角が最小になるように求める。
【0097】
まず、i番目の実験体系の感度係数ベクトルSを用いて、(3)式を満足する感度係数ベクトルの線形結合(線形結合ベクトル)S
【数3】

により定義し、算出する。
【0098】
ここで、αは任意の定数であり、これを線形結合定数と呼ぶ。
【0099】
次に、線形結合定数αを、
WS=SWS …(4)
を満足し、かつ目的体系感度係数ベクトルSと線形結合ベクトルSとのなす角θが最小になるように求める。
【0100】
ここで、Tはベクトルや行列の転置を示す記号である。この(4)式は、相対誤差の総量が同じであるという条件を表している。
【0101】
目的体系感度係数ベクトルSと線形結合ベクトルSとのなす角θが最小になるように求める方法はいくつか想定される。
【0102】
たとえば、(S−SW(S−S)の絶対値を最小とすることにより、目的体系感度係数ベクトルSと線形結合ベクトルSとのなす角θを最小にすることができる。(S−SW(S−S)の値が零(0)となった場合、すなわち、
(S−SW(S−S)=0 …(5)
を満足する場合は、自動的に、
WS/{(SWS1/2(SWS1/2}=1 …(6)
となる。この場合、(6)式は、後述する模擬性評価因子RFが1となっていることを示している。
【0103】
(6)式の左辺の分子は、共分散誤差行列Wを考慮した線形結合ベクトルSと目的体系感度係数ベクトルSとの内積を示している。(6)式の左辺の分母は、共分散誤差行列Wを考慮した線形結合ベクトルSと目的体系感度係数ベクトルSのベクトルの大きさになっている。
【0104】
(S−SW(S−S)の絶対値を最小とする線形結合定数αは、たとえばLagrangeの未定定数法を用いて求めることができる。
【0105】
dを、d=SWS …(7)
とし、この式を束縛条件とし、Lagrangeの未定定数λを用いて、以下の式Lを作る。
【0106】
L={(S−SW(S−S)}+λ{SWS−d}
L={2d−2(SWS)}+λ{SWS−d} …(8)
この(8)式に関して極値条件から、
【数4】

として、αの条件式(連立方程式)を作成する。この条件式から、λとα(i=1,2,…,n)を決定する。
【0107】
今、rij=SWS、rRi=SWSとすれば、Lagrange未定定数λを用いて、λとα(i=1,2,…,n)とを解く方程式は以下のように書ける。
【0108】
R・λ・α=r …(10)
ここで、RはRijで構成される行列、αはαで構成される列ベクトル、rはrRiで構成される列ベクトルである。
【0109】
例として、Rが4行4列の行列である場合について説明する。この場合、上述の方程式は、
【数5】

となる。この式を解いて、λα(i=1,2,…,n)を求める。
【0110】
すなわち、
【数6】

により、λα(i=1,2,…,n)を算出する。
【0111】
加えて、αは、
【数7】

が成り立つように規格化される。
【0112】
このようにして、λとα(i=1,2,…,n)が決定される。
【0113】
なお、λとα(i=1,2,…,n)は、正負で与えられる。原理的には、2d−2・(SWS)が小さくなるほうの符号を選ぶことになる。しかし、新たに定義される模擬性評価因子がλに等しいことがわかっており、模擬性評価因子は1に近い値であるべきなので、λを負の値とすることは目的と合致しない。そこで、λとしては常に正の値を選択すればよいことになる。
【0114】
線形結合定数記憶部148は、第1の線形結合定数演算部118で算出された線形結合定数α(i=1,2,…,n)を記憶する。
【0115】
模擬性評価因子演算部119は、実験体系と、目的とする実機体系の類似度を数理的に定義する。
【0116】
実験体系に関して着目する物理パラメータRに関する感度係数ベクトルS、目的とする実機体系に関して着目する物理パラメータRに関する感度係数ベクトルS、および計算に用いたパラメータの共分散誤差行列Wを用いて、これらの体系間の類似性を示す模擬性評価因子(Representativity Factor:RF)を求めることができる。
【0117】
模擬性評価因子RFは、
RF=SWS/((SWS1/2(SWS1/2)…(14)
により算出する。
【0118】
模擬性評価因子RFとは、目的体系感度係数ベクトルSと線形結合ベクトルSとのなす角をθとしたときの、cosθを表している。この値が1のとき、すなわちcosθ=1のときに、θ=0となり、線形結合ベクトルSと目的体系感度係数ベクトルSとが重なった状態、すなわち、数理的に完全に一致していることになる。逆に何の関係もない場合は、模擬性評価因子は0となる。
【0119】
なお、線形結合定数αを求める際にその絶対値を最小化しようとする評価値の値が、零(0)となった場合、すなわち、
(S−SW(S−S)=0 …(15)
を満足する場合には、自動的に、
WS/{(SWS1/2(SWS1/2}=1 …(16)
となる。
【0120】
この(16)式は、模擬性評価因子RFが1となっていることを示している。(16)式の左辺の分子は、共分散誤差行列Wを考慮した線形結合ベクトルSと目的体系感度係数ベクトルSとの内積を示している。(16)式の左辺の分母は、共分散誤差行列Wを考慮した線形結合ベクトルSと目的体系感度係数ベクトルSのベクトルの大きさになっている。
【0121】
模擬性評価因子記憶部150は、模擬性評価因子演算部119で算出された模擬性評価因子RFを記憶する。
【0122】
信頼性増強因子演算部121は、模擬性評価因子演算部119で算出された模擬性評価因子RFを用いて、安全係数を求める。当然ながら安全係数は明確な数学的意味付けに従って定義される。以下、安全係数を、信頼性増強因子RCFと呼ぶ。
【0123】
以下の、信頼性増強因子RCFの導出について説明する。
【0124】
一般にSとSは完全には一致せず、差(のベクトル)が存在して、技術者が次に興味があるのはその差のベクトルの大きさである。
【0125】
既にSに関して大きさの二乗をdとする規格化が行われており、Wを共分散誤差行列とすればSとSの差のベクトルの大きさの二乗、すなわちここで二乗差SDは以下のベクトルと行列の二次形式で定義できる。
【0126】
SD=(S−SW(S−S
=SWS+SWS−2SWS
=d+d―2SWS …(17)
この式は次のように変形できる。この変形は二つのベクトルSとSで構成される三角形において第二余弦定理として成立している。
【0127】
図2は、本発明の第1の実施形態に係るシミュレーション結果補正装置における二乗差SDの概念図である。図2にこの二つのベクトルSとSとがなすいくつかの角度の場合の例を示す。
【0128】
この場合、模擬性評価因子RFは、共分散誤差行列Wが単位行列とした場合における二つのベクトルSとSで構成される角度の余弦となっている。
【0129】
さらに、式(17)は、次のように変形できる。
【0130】
SD=d+d―2SWS=2d−2dSWS/d
=2d−2dSWS/((√d)(√d))
=2d−2dSWS/((SWS1/2(SWS1/2
=2d−2d・RF=2d(1−RF) …(18)
このように二乗差SDが定義できるので、二つのベクトルSとベクトルSの二乗差SDの、上記dに対する二乗差割合SDRを次の式で定義することができる。
【0131】
SDR=SD/d=2(1−RF) ここで0≦RF≦1 ・・・・(19)
上記の(18)式を(19)式の条件下で評価すればSDRの値の範囲は容易に評価でき、
0≦SDR≦2 …(20)
となる。
【0132】
二乗差割合SDRは二つのベクトルSとSの差のベクトルの大きさが今実験体系で見出されている計算誤差SWS(=d)の何倍に相当するかを示す数値である。
【0133】
前述のように、前記の式(18)(19)のSDRは、上記の目的とする実機体系に関する(着目する物理パラメータに関する)計算誤差を求めた場合、評価ができないで残っている計算誤差の大きさの割合を示すものといえる。
【0134】
二乗差割合SDRの値が最大2であるというのを理解するのは難しいように思えるが、もしも2つの感度係数(ベクトル)SとSとが全く類似性を持たず直交関係にあり、模擬性評価因子が0である場合に二乗差割合SDRが最大値の2になってしまう。
【0135】
ただしこれは特殊な場合というか、もともと類似性をもたない模擬性評価因子が0になる場合で、計算誤差の評価には適さない場合であり、この2という値の理論上の最大値となっている。
【0136】
このような極端な場合を除き、一般的に模擬性価因子RFは0.7より大きいと考えて良い。なぜならもともと技術者は目的とする実機体系になるべく類似した(臨界)実験を採用しようと意図するからである。従っておおむねSDRは0.6より小さくなる。 更に模擬牲評価因子RFが0.9よりも大きければSDRは0.2よりも小さくなり、これらの関係は妥当といえる(図2および後述の図4を参照)。
【0137】
次に、先に求めた二乗差割合SDRと、模擬性評価因子記憶部150に記憶されている模擬性評価因子RFを用いて、新たに信頼性増強因子RCFを定義する。
【0138】
前記のように、目的とする実機体系に関する(着目する物理パラメータに関する)計算誤差を求めても、模擬性価因子RFは常に1.0ではないので評価ができない計算誤差(不確かさ)が残っているからである。
【0139】
図3は、本実施形態に係るシミュレーション結果補正装置における2つのベクトルで構成される角度θと信頼性増強因子RCFの二乗との関係図である。
【0140】
目的とする実機体系の計算値について計算で用いたパラメータに関する計算誤差を補正した場合、
a)補正する相対誤差の二乗の大きさをdとしていること。 b)SとSの差のベクトルの大きさの二乗、すなわちここで二乗差SDは、模擬性価因子をRFとしてSD=2d・(1−RF)であること。 c)補正係数としてまずdとSDの和を考え、その和をdで割った値を求める。 d)その値の平方根を新たな補正係数(信頼性増強因子RCF)として定義する。という考え方に基づいて行う。
【0141】
RCF=[(d+SD)/d]1/2
=(1+SD/d)1/2
=(1+SDR)1/2
=[1+2・(1−RF)]1/2
=(3−2・RF)1/2 ・・・ (21)
以上の処理を、図3で説明する。まず、上記のように、SとSの差のベクトルの大きさの二乗、すなわちここで二乗差SDを求める。次に、これと絶対値が等しく、かつSと直行するベクトルSDaを考える。ベクトルSとベクトルSDaとを合成したベクトルの絶対値が、求める信頼性増強因子RCFの二乗となる。
【0142】
図4は、本発明の第1の実施形態に係るシミュレーション結果補正装置における模擬性評価因子RFと、二乗差割合SDRおよび信頼性増強因子RCFとの関係を示すグラフである。図4に示すように、SDRは、0〜2の範囲の値をとるが、RCFは、1〜√3の範囲の値をとり、補正のための係数に適した形態である。
【0143】
ここで、RCFは、
RCF=(3−2RF)1/2 ≒2−RF …(22)
により近似できる。
【0144】
この式の右辺の最後の項はRF≧0.7について良い近似式になっている。
【0145】
たとえば、RF=0.7の場合、元の式では(3−2RF)1/2=1.265、これに対し近似式では、2−RF=1.300であり、3%程度の違いであり、相対誤差のレベルでの違いであることから良い近似となっている。
【0146】
信頼性増強因子記憶部151は、信頼性増強因子演算部121で算出された信頼性増強因子RCFを記憶する。
【0147】
計算値・測定値相対差演算部113は、モデルを用いてシミュレーションした結果に含まれる誤差を、各実験に関する相対差E(i=1,2・・・,n)として算出する。
【0148】
ここで、iは、1から実験の総数nまでの自然数である。
【0149】
すなわち、相対差Eは、i番目の実験についてのモデルにより得られた物理量Rの計算値の、当該実験で測定された当該物理量Rの測定値に対する誤差である。
【0150】
ここで、相対差E(i=1,2・・・,n)は、次のような意味を持つ。
【0151】
今、臨界実験などの模擬実験により、着目する物理量Rに対して得られた測定値をRとし、あるモデルを用いてシミュレーション計算を行ったときに得られた計算値をRとする。
【0152】
計算値Rと測定値Rの相対差Eは、
=(R−R)/R=(R/R)−1 …(23)
により算出される。
【0153】
この値は、
「パラメータによる相対誤差」+「計算手法による相対誤差」−「測定誤差」 にほぼ等しい。なお、ここでの測定誤差は相対誤差である。
【0154】
この値から「計算手法による相対誤差」と「測定誤差」を取り除く。「計算手法による相対誤差」および「測定誤差」は、いずれも通常、正負が明らかではないから、二乗して、
{(R/R)−1}−「計算手法による相対誤差」−「相対測定誤差」 を実験体系でのパラメータによって生じている相対差Eの二乗、すなわち(Eとみなす。なお、この演算は正確な評価ではないが、便宜上の評価である。計算手法による相対誤差が明確でないときには、0とおいてもよい。
【0155】
また、「計算手法による相対誤差」が十分小さいときは、(Eiを(E−「相対測定誤差」2から求め、あるいは「相対測定誤差」が十分小さいときは(Eiを(E−「計算手法による相対誤差」2から求め、さらに「計算手法による相対誤差」も「相対測定誤差」も共に十分小さいときは(Eとを(Eiとしてもよい。十分小さいか否かについては、たとえば、{(R/R)−1}に対して、「相対測定誤差」の二乗あるいは「計算手法による相対誤差」の二乗が、1/100程度の判断値を基準とすればよい。
【0156】
物理量相対差判定部114は、計算値・測定値相対差演算部113で算出された相対差E(i=1,2・・・,n)の絶対値が、予め判断のために与えられたn個の規定値以内にあるか否かを判定し、いずれであるかの判定値を出力する。
【0157】
これらのステップは、実験の総数n回繰り返される。
【0158】
計算値・測定値相対差記憶部144は、計算値・測定値相対差演算部113で算出された相対差E と(E (i=1,2・・・,n)とを記憶する。
【0159】
評価してそれを実験の数組み合わせて、目的とする実機体系の計算誤差(不確かさ)(ΔZ/Z)を以下のような手法で評価する。
【0160】
相対誤差演算部120は、線形結合定数記憶部148に記憶された線形結合定数αを重みとして用い、相対差EPiの値を合成して、目的の体系の着目する物理量Zの誤差ΔZに対して、計算に用いたパラメータに起因する相対誤差の二乗(ΔZ/Z)を求める。
【0161】
具体的には、この相対誤差の二乗(ΔZ/Z)は、
【数8】

(ただし、
CORij=SWS/{(SWS1/2(SWS1/2})
により算出される。
【0162】
この際、線形結合定数記憶部148に記憶されている線形結合定数αの正負が考慮される。
【0163】
計算結果補正部122は、計算値・測定値相対差記憶部144で算出された計算誤差(不確かさ)すなわち、(24)式から求めることのできる(ΔZ/Z)で表される補正量に対して、信頼性増強因子演算部121で算出された信頼性増強因子RCFを乗ずることによって、目的とする実機体系の計算値に、安全係数すなわち信頼性増強因子RCFを考慮した誤差を適用する。
【0164】
すなわち、この補正係数(信頼性増強因子RCF)を目的とする実機体系の計算値について計算で用いたパラメータに関する計算誤差を補正する値に更に乗ずれば理論的に保守的に計算値の補正がなされ、さらに模擬性価因子をRFに基づく合理的な補正が実施できる。
【0165】
本補正因子の優れたところはこの因子が数学的な考察に従って導出されたものであり、もう一つの優れた点は、この補正因子は模擬性評価因子と直接的な関係があることで、模擬性評価因子が計算されれば容易に計算できる点である。
【0166】
なお、目的とする体系と実験体系とで異なる共分散(誤差)行列を用いてもよい。目的とする体系の共分散行列をW、実験体系での共分散行列をWEとする。ただし、WとWEの構造は同じで、この場合二つの行列の互いの(i,j)成分は同じ単位で定義されているものとする。すなわち互いの(i,j)成分は大きさの比較が直接行えるものとする。
【0167】
この場合、(4)式および(5)式は、
=S …(25)
および、
(S−S(S−S)=0 …(26)
となる。これらの式を用いて、線形結合定数αを求める。
【0168】
さらに、次式が成り立つように、定数t(i=1,2,…,n)を決定する。
【0169】
E=S …(27)
定数t(i=1,2,…,n)の決定は、たとえば第1の線形結合定数演算部118で行えばよい。このようにして得られた定数tを用いて、目的の体系の相対誤差の二乗は、
【数9】

(ただし、
CORij=SWS/{(SWS1/2(SWS1/2})
により求められる。
【0170】
図5は、本実施形態の処理のフロー図である。
【0171】
まずシミュレーション計算を開始するに当たり、判断のためのn個の規定値が設定される(S01)。
【0172】
次に、目的とする実機体系が選定される(S02)。加えてn種類の模擬実験体系が選定される(S03)。
【0173】
実験体系測定値記憶部141は、模擬実験体系の各測定値を記憶する(S04)。
【0174】
更に着目する物理量を計算する手法(シミュレーション方法)が選定され(S05)、計算のためのパラメータ入力の選定と設定が行われる(S06)。
【0175】
次に、ステップS05で選定されたシミュレーション方法に起因する計算手法による相対誤差、および実験体系における相対測定誤差を算出し、記憶する(S07)。この算出は、共分散誤差行列演算部111で行われる。実験体系演算値記憶部142は、前記相対誤差、および実験体系における相対測定誤差の算出結果を記憶する。
【0176】
次に、共分散誤差行列演算部111は、共分散誤差行列を導出し、共分散誤差行列記憶部149はこの結果を記憶する(S08)。
【0177】
次に、実験体系物理量演算部112は、ステップS05において選定された計算手法とステップS06によって設定されたパラメータに基づき、模擬実験体系に関するシミュレーション計算を実施する。得られた計算結果は、実験体系演算値記憶部142に格納、記憶される(S09)。
【0178】
次に、計算値・測定値相対差演算部113は、ステップS04で実験体系測定値記憶部141に記憶されたi番目の模擬実験体系の測定値と、ステップS09で実験体系演算値記憶部142に記憶されたi番目の模擬実験体系についての計算結果に基づき、相対差Eの値を算出し、ステップS07で実験体系演算値記憶部142に記憶した計算手法による相対誤差、および実験体系における相対測定誤差を用いて(Eを計算する。計算値・測定値相対差記憶部144がこの結果を格納、記憶する(S10)。
【0179】
次に、物理量相対差判定部114は、ステップS10の結果すなわち前記のE値の絶対値が第i番目の規定値以下であるかどうかの判定を行う(S11)。
【0180】
の絶対値が第i 番目の規定値を越える場合は、シミュレーションに用いた手法の見直しが行われる(S05)。
【0181】
以上のステップS04からステップS11は模擬実験体系の数であるn回繰り返される(S12)。
【0182】
次に、実験体系感度係数ベクトル演算部115は、ステップS05において選定された計算手法とステップS06によって入力されたパラメータに基づき、模擬実験の感度係数を導出する。実験体系感度係数ベクトル記憶部146は、この結果を記憶する(S13)。
【0183】
次に、実機体系物理量演算部116は、目的とする実機体系に関するシミュレーション計算を実行する。実機体系演算値記憶部143は、実機体系について得られた計算結果を格納、記憶する(S14)。
【0184】
その後、実機体系感度係数ベクトル演算部117は、目的体系での物理量の感度係数を導出する。実機体系感度係数ベクトル記憶部147は、この結果を記憶する(S15)。
【0185】
第1の線形結合定数演算部118は、(S−S・W・(S−S)の絶対値を最小とすることにより、前記目的体系感度係数ベクトルSと前記線形結合ベクトルSとのなす角を最小にする線形結合定数αを求める(S16)。
【0186】
模擬性評価因子演算部119は、ステップS08で共分散誤差行列記憶部149に記憶された共分散誤差行列、ステップS13で実験体系感度係数ベクトル記憶部146に記憶された模擬実験の感度係数と線形結合定数記憶部148に記憶された線形結合係数線形結合定数α、ステップS15で実機体系感度係数ベクトル記憶部147に記憶された実機体系での感度係数に基づき、模擬実験体系を組み合わせた模擬性評価因子RFが算出される。模擬性評価因子記憶部150は、算出された模擬性評価因子RFを記憶する(S17)。
【0187】
次に、相対誤差演算部120は、模擬性評価因子RFの計算の過程で得られた係数を利用して、E値(i=1,2、・・・、n)とその正負を用いて目的とする実機体系の計算誤差RDの絶対値と符号を算出する。相対誤差記憶部145は、この結果を記憶する(S18)。
【0188】
次に、信頼性増強因子演算部121は、RFの計算値に基づき信頼性増強因子RCFを算出し、信頼性増強因子記憶部は、これを記憶する(S19)。
【0189】
最後に計算結果補正部122は、計算誤差RDと信頼性増強因子RCFとを組み合わせて補正演算を行い(S20)、以上の自動プロセスを終了する。
【0190】
このように、目的とする体系の入力に関しての不確かさを表した+共分散(誤差)行列とそれぞれの実験についての体系の入力に関しての不確かさを表した共分散(誤差)行列が同じ行列という仮定をせずに、この共分散誤差行列が異なる場合でも処理すべき式を一般化できて計算誤差を推定することができる。
【0191】
最後にこれまで求められた模擬性評価因子RFから安全係数(信頼性増強因子)RCFは、
RCF=(3−2RF)1/2 ≒2−RF …(22)
により求められる。RFが0.7よりも大きい場合は上式の最も右の式が非常に良い近似になっている。
【0192】
(効果)
本発明によれば、モデルを用いたシミュレーションにおいて、パラメータに起因してシミュレーション結果に含まれる誤差を、目的とした体系を模擬した実験結果を用いて定量的に推定した補正係数を用いて補正することができる。
【0193】
[第2の実施形態]
図6は、本発明に係るシミュレーション結果補正装置の第2の実施形態の構成を示すブロック図である。計算機全体の構成は、第1の実施形態と同様である。本実施形態では、演算部110および記憶装置140の機能的な構成要素の一部を異にしている。
【0194】
CPU100の演算部110は、共分散誤差行列演算部111、実験体系物理量演算部112、計算値・測定値相対比演算部125、実験体系感度係数ベクトル演算部115、実機体系物理量演算部116、実機体系感度係数ベクトル演算部117、第2の線形結合定数演算部126、模擬性評価因子演算部119、補正因子BF演算部127、信頼性増強因子演算部121および計算結果補正部122を有する。
【0195】
すなわち、計算値・測定値相対比演算部125、第2の線形結合定数演算部126、補正因子BF演算部127に違いがある。
【0196】
記憶装置140は、実験体系測定値記憶部141、実験体系演算値記憶部142、実機体系演算値記憶部143、計算値・測定値相対比記憶部155、補正因子BF記憶部156、実験体系感度係数ベクトル記憶部146、実機体系感度係数ベクトル記憶部147、線形結合定数記憶部148、共分散誤差行列記憶部149、模擬性評価因子記憶部150および信頼性増強因子記憶部151を有する。
【0197】
すなわち、計算値・測定値相対比記憶部155、補正因子BF記憶部156に違いがある。
【0198】
以上のように、第1の実施形態では、実験体系での測定値と、実験体系での演算値の比較は、両者の差に基づき行ったが、本実施形態では、両者の比に基づき行うものである。
【0199】
実施した(臨界)実験のケース数が1である場合、補正因子(バイアス)法が良く適用される。補正因子(バイアス)法では、計算によって生じる誤差を減らすことを目的としている。例えば特定の計算手法(計算機プログラム)と特定の核データライブラリ(計算で用いるパラメータ)を使用して、目的とする体系の設計計算を行なうものとする。特定の物理量に注目して、臨界実験で得られた計算値の相対誤差の割合が、目的とする体系の計算値の相対誤差の割合と同じと仮定する。
【0200】
次に、臨界実験の計算値と測定値とから、補正因子(バイアス)を計算する。目的とする体系の計算値に、この補正因子を乗じれば目的とする体系の計算値の相対誤差を取り除くことが可能になり、目的とする体系の計算精度を向上させることができる。
【0201】
臨界実験の真値をT、臨界実験での計算値をC=T(1+Δc)、臨界実験での測定値をE=T(1+Δ)とする。ここで、Δcは臨界実験での計算誤差、Δeは測定誤差である。実験体系での計算値Cに対する実験体系での測定値Rの比をCRで表すと、
CR=E/C=T(1+Δe)/T(1+Δc)=(1+Δe)/(1+Δc)であるから、このCR を目的とする計算値C=T(1+Δc)に乗ずれば、一般に実験の測定誤差Δeは計算誤差Δcよりも小さいので、ΔcとΔcとが同じ程度であるならば、
=C×CR
=T(1+Δc)×(1+Δe)/(1+Δc
≒T(1+Δe+Δc−Δc
≒T(1+Δe) …(29)
となり、目的とする体系の計算値Rから計算による誤差を減らした値を推定することができる。これが補正因子(バイアス)法である。なお、Tは真値、Δcは目的とする計算値に含まれる計算誤差である。
【0202】
計算値・測定値相対比演算部125は、i番目の模擬実験体系の測定値E、その模擬体系の計算手法(シミュレーション方法)を用いて得られた計算値Cの二つの値の比CRを、
CR=E/C (i=1,2,・・・,n) …(30)
によって算出する。
【0203】
従って、CRは模擬実験体系の数n個存在することになる。
【0204】
計算値・測定値相対比記憶部155は、計算値・測定値相対比演算部125で算出されたCR(i=1,2,・・・,n)を記憶する。
【0205】
第2の線形結合定数演算部126は、実験体系感度係数ベクトルSを線形結合した線形結合ベクトルSの線形結合定数αを、
【数10】

から求める。
【0206】
ここでΔMは計算手法の不確かさ、ΔEは測定誤差を示し、Vはその分散を示す。
【0207】
ここで線形結合係数αには条件式が課せられる。すなわち、
全てのα≧0(正またはゼロ) …(32)
および
【数11】

あるいはcを1として、
【数12】

である。
【0208】
通常、特別な意味が存在しない限り、線形結合係数αの和は1に規格化される(非特許文献1参照)。
【0209】
式(31)のIを最小にする方法は、Monte Carlo法などの数値計算によっても良いし、Iをαで偏微分してそれを0とおいてαの条件式である式(31)〜式(33)の成立する範囲で解けばよい。
【0210】
線形結合定数記憶部148は、第2の線形結合定数演算部126で算出された線形結合定数α(i=1,2,・・・,n)を記憶する。
【0211】
補正因子BF演算部127は、計算値・測定値相対比記憶部155に記憶されたCR(i=1,2,・・・,n)を、第2の線形結合定数演算部126に記憶されている線形結合定数αを用いて線形結合し、補正因子BFを、
【数13】

により算出する。
【0212】
とCとの自然対数をとってその両者の差に線形結合因子αを重みにして線形結合した値をLBFとする。即ち、
【数14】

によりLBFを算出する。
【0213】
ここでも線形結合係数αには条件式が課せられる。すなわち、
全てのα≧0(正またはゼロ)
および
【数15】

あるいはcを1とした
【数16】

である。
【0214】
さらに、自然対数eをLBF乗した値を補正因子BFとする。即ち、
BF=exp(LBF) …(39)
この方法は、非特許文献2にPE法として同文献の1513頁に示されている。
【0215】
補正因子BF記憶部156は、補正因子BF演算部127により算出された補正因子BFを記憶する。
【0216】
補正因子(バイアス)法では、目的とする実機体系において計算で生じる相対誤差を減らすことを目的としており、補正因子BFをCに乗じることになるが、このとき、(臨界)実験と目的とする実機体系との模擬性価因子RFが計算されれば、容易に補正係数(信頼性増強因子RCF)を求めることができるので、この値を更に乗じてC×BF×RCFとすれば合理的に信頼性を増すことができる。
【0217】
図7は、本実施形態の処理のフロー図である。
【0218】
まず、目的とする実機体系が選定される(S02)。加えてn種類の模擬実験体系が選定される(S03)。
【0219】
実験体系測定値記憶部141は、模擬実験体系の各測定値を記憶する(S04)。
【0220】
更に着目する物理量を計算する手法(シミュレーション方法)が選定され(S05)、計算のためのパラメータ入力の選定と設定が行われる(S06)。
【0221】
次に、共分散誤差行列演算部111は、共分散誤差行列を導出し、共分散誤差行列記憶部149はこの結果を記憶する(S08)。
【0222】
次に、実験体系物理量演算部112は、ステップS05において選定された計算手法とステップS06によって設定されたパラメータに基づき、模擬実験体系に関するシミュレーション計算を実施する。得られた計算結果は、実験体系演算値記憶部142に格納、記憶される(S09)。
【0223】
次に、計算値・測定値相対比演算部125は、ステップS04で実験体系測定値記憶部141に記憶されたi番目の模擬実験体系の測定値と、ステップS09で実験体系演算値記憶部142に記憶されたi番目の模擬実験体系についての計算結果に基づき、相対比差CRの値を算出し、計算値・測定値相対比記憶部155がこの結果を格納、記憶する(S10)。
【0224】
以上のステップS04からステップS10は模擬実験体系の数であるn回繰り返される(S12)。
【0225】
次に、実験体系感度係数ベクトル演算部115は、ステップS05において選定された計算手法とステップS06によって入力されたパラメータに基づき、模擬実験の感度係数を導出する。実験体系感度係数ベクトル記憶部146は、この結果を記憶する(S13)。
【0226】
次に、実機体系物理量演算部116は、目的とする実機体系に関するシミュレーション計算を実行する。実機体系演算値記憶部143は、実機体系について得られた計算結果を格納、記憶する(S14)。
【0227】
その後、実機体系感度係数ベクトル演算部117は、目的体系での物理量の感度係数を導出する。実機体系感度係数ベクトル記憶部147は、この結果を記憶する(S15)。
【0228】
第2の線形結合定数演算部126は、前記(31)式のIを最小にする線形結合定数αを求める。線形結合定数記憶部148は、この結果を記憶する(S30)。
【0229】
模擬性評価因子演算部119は、ステップS08で共分散誤差行列記憶部149に記憶された共分散誤差行列、ステップS13で実験体系感度係数ベクトル記憶部146に記憶された模擬実験の感度係数と線形結合定数記憶部148に記憶された線形結合係数線形結合定数α、ステップS15で実機体系感度係数ベクトル記憶部147に記憶された実機体系での感度係数に基づき、模擬実験体系を組み合わせた模擬性評価因子RFが算出される。模擬性評価因子記憶部150は、算出された模擬性評価因子RFを記憶する(S17)。
【0230】
次に、補正因子BF演算部127は、模擬性評価因子RFの計算の過程で得られた係数を利用して、CR値(i=1,2、・・・、n)を用いて目的とする実機体系の補正因子BFを算出する。補正因子BF記憶部156は、この結果を記憶する(S31)。
【0231】
次に、信頼性増強因子演算部121は、RFの計算値から安全係数(信頼性増強因子)RCFを算出する(S19)。
【0232】
最後に計算結果補正部122は、補正因子BFと信頼性増強因子RCFとを組み合わせて補正演算を行い(S32)、以上の自動プロセスを終了する。
【0233】
なお、共分散誤差行列は原理的にはシミュレーションに用いる入力の全てについて定義されるものであるが、その評価が非常に困難である場合は共分散誤差行列を単位行列としてもよい。
【0234】
(効果)
本実施形態によれば、モデルを用いたシミュレーションにおいて、パラメータに起因してシミュレーション結果に含まれる誤差を、目的とした体系を模擬した実験結果を用いて定量的に推定した補正係数を用いて補正することができる。
【0235】
[その他の実施形態]
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
【0236】
例えば、目的体系として原子炉、実験体系として原子炉を模擬する臨界実験装置の体系を例にとって説明したが、原子炉以外の製品についても適用しうる。
【0237】
また、例えば、第1の実施形態では、線形結合定数αの求め方として、代表的なLagrangeの未定定数法による場合を示したが、同様の結果が得られる他の方法でもよい。
【0238】
さらに、各実施形態の特徴を組み合わせてもよい。また、これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
【0239】
例えば、各実施形態においては、演算し記憶する場合に、演算部と称する各演算機能部分と記憶部と称する記憶装置内の各記憶機能部分とに区分した形で説明している。しかしながら、演算した結果を次のステップで使用する場合は、一々記憶装置に記憶させるようなことはせずCPU内に仮置きしてステップを進めることも通常行われている。従って、記憶装置内にあるとして記載している記憶部が、CPU内の演算部分の一部として一時的に記憶される場合も、本発明の実施形態に含まれる。
【0240】
これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0241】
10・・・シミュレーション結果補正装置
30・・・バス
100・・・中央演算処理装置(CPU)
110・・・演算部
111・・・共分散誤差行列演算部
112・・・実験体系物理量演算部
113・・・計算値・測定値相対差演算部(比較値演算部)
114・・・物理量相対差判定部
115・・・実験体系感度係数ベクトル演算部
116・・・実機体系物理量演算部
117・・・実機体系感度係数ベクトル演算部
118・・・第1の線形結合定数演算部
119・・・模擬性評価因子演算部
120・・・相対誤差演算部(補正指標値演算部)
121・・・信頼性増強因子演算部
122・・・計算結果補正部
125・・・計算値・測定値相対比演算部(比較値演算部)
126・・・第2の線形結合定数演算部
127・・・補正因子BF演算部(補正指標値演算部)
130・・・制御部
131・・・入力制御部
132・・・表示制御部
140・・・記憶装置
141・・・実験体系測定値記憶部
142・・・実験体系演算値記憶部
143・・・実機体系演算値記憶部
144・・・計算値・測定値相対差記憶部(比較値記憶部)
145・・・相対誤差記憶部(補正指標値記憶部)
146・・・実験体系感度係数ベクトル記憶部
147・・・実機体系感度係数ベクトル記憶部(目的体系感度係数ベクトル記憶部)
148・・・線形結合定数記憶部
149・・・共分散誤差行列記憶部
150・・・模擬性評価因子記憶部
151・・・信頼性増強因子記憶部
155・・・計算値・測定値相対比記憶部(比較値記憶部)
156・・・補正因子BF記憶部(補正指標値記憶部)
160・・・入力装置
170・・・表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の挙動をコンピュータ上に表現したモデルを用いてシミュレーションした結果に含まれる誤差をその対象を模擬した実験の結果を用いて推定した結果に基づき、前記シミュレーション結果を補正するシミュレーション結果補正装置において、
n個の実験体系があるときに、iを1≦i≦nを満たす整数として、各i番目の実験について前記モデルを用いたシミュレーションで得られた対象とする物理量Rの計算値Cの、各実験で測定された当該物理量Rの測定値Eとの比較値である各実験比較値CEを演算および記憶する比較値演算部および比較値記憶部と、
シミュレーションに用いる前記モデルへの入力値の不確かさの割合の関係を示す共分散誤差行列Wを演算する共分散誤差行列演算部と、
前記対象について前記モデルを用いたシミュレーションの結果のそのモデルへの入力値の単位変化に対する変化量を示す目的体系感度係数ベクトルSを演算する目的体系感度係数ベクトル演算部と、
各i番目の実験の体系について前記モデルを用いてシミュレーションした結果のそのモデルへの入力値の単位変化に対する変化量を表す実験体系感度係数ベクトルSを演算する実験体系感度係数ベクトル演算部と、
前記実験体系感度係数ベクトル演算部の演算結果を記憶する実験体系感度係数ベクトル記憶部と、
前記実験体系感度係数ベクトルSを線形結合した線形結合ベクトルSの線形結合定数αを、所定の評価値が最小になるように求める線形結合定数演算部と、
前記線形結合定数αを記憶する線形結合定数記憶部と、
前記共分散誤差行列Wと前記目的体系感度係数ベクトルSと前記線形結合ベクトルSとから模擬性評価因子RFを
RF
=S・W・S/((S・W・S1/2・(S・W・S1/2
により求める模擬性評価因子演算部と、
前記模擬性評価因子RFを記憶する模擬性評価因子記憶部と、
前記線形結合定数αを重みとして前記各実験比較値の値を合成して前記モデルを用いたシミュレーションの結果得られる前記対象の物理量Rについての補正指標値を推定する補正指標値演算部と、
信頼性増強因子RCFを前記模擬性評価因子RFの値から計算する信頼性増強因子演算部と、
前記補正指標値に前記信頼性増強因子を乗ずる計算誤差補正部と、
を有することを特徴とするシミュレーション結果補正装置。
【請求項2】
前記比較値演算部は、前記比較値として、相対差E=(C−E)/E(i=1,2,…,n)を算出した上で、予め算出した、計算手法による相対誤差Eおよび相対測定誤差Eに基づき、
(Ei=(E −(E2 −(E2
により、(Ei を求めることを特徴とする請求項1に記載のシミュレーション結果補正装置。
【請求項3】
前記比較値演算部は、前記比較値として、相対比CR=E/C (i=1,2,・・・,n)を算出することを特徴とする請求項1に記載のシミュレーション結果補正装置。
【請求項4】
前記線形結合定数演算部は、(S−S・W・(S−S)の絶対値を最小とすることにより、前記目的体系感度係数ベクトルSと前記線形結合ベクトルSとのなす角を最小にする線形結合定数αを求め、
前記補正指標値演算部は、前記補正指標値として算出する相対誤差RDについてその二乗RDを、
【数17】

に基づき求め、RDの符号は
・W・S/{(S・W・S1/2(S・W・S1/2
の絶対値が最大になる i (i=1,2,・・・,n)についてこの値の符号と、その i に関する相対差 E i の符号を掛け算して得られた符号として求め、
前記信頼性増強因子演算部は、前記模擬性評価因子RFを使用して前記信頼性増強因子RCFを、
RCF=(3−2・RF)1/2
によって求める、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシミュレーション結果補正装置。
【請求項5】
前記線形結合定数演算部は、(S−S・W・(S−S)の絶対値を最小とすることにより、前記目的体系感度係数ベクトルSと前記線形結合ベクトルSとのなす角を最小にする線形結合定数αを求め、
前記共分散誤差行列Wが、前記目的体系での共分散誤差行列Wと前記実験の体系での共分散誤差行列WEとが異なる場合であって、WとWEの二つの行列の(i,j)成分の大きさが比較できるときに、
前記線形結合定数演算部は、S・W・S=S・W・Sを満足する線形結合定数αと、t・WE・S=S・W・Sを満足する定数tとを求め、
前記補正指標値演算部は、前記補正指標値として算出される相対誤差RDについてその二乗RDを、
【数18】

に基づき求め、RDの符号は、前記CORijの絶対値が最大になる i (i=1,2,・・・,n)についてこの値の符号と、その i に関する相対差 Eiの符号を掛け算して得られた符号として求め、
前記信頼性増強因子演算部は、前記模擬性評価因子RFを使用して前記信頼性増強因子RCFを、
RCF=(3−2・RF)1/2
によって求める、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシミュレーション結果補正装置。
【請求項6】
前記線形結合定数演算部は、
【数19】

を最小にする線形結合定数αを求め、
前記補正指標値演算部は、前記補正指標値として算出される補正因子BFを、
【数20】

により求め、
前記信頼性増強因子演算部は、前記模擬性評価因子RFを使用して前記信頼性増強因子RCFを、
RCF=(3−2・RF)1/2
によって求める、
ことを特徴とする請求項1または請求項3に記載のシミュレーション結果補正装置。
【請求項7】
前記線形結合定数演算部は、
【数19】

を最小にする線形結合定数αを求め、
前記補正指標値演算部は、前記補正指標値として算出される補正因子BFを、
【数21】

BF=exp(LBF)
により求め、
前記信頼性増強因子演算部は、前記模擬性評価因子RFを使用して前記信頼性増強因子RCFを、
RCF=(3−2・RF)1/2
によって求める、
ことを特徴とする請求項1または請求項3に記載のシミュレーション結果補正装置。
【請求項8】
前記信頼性増強因子演算部は、前記模擬性評価因子RFを使用して前記信頼性増強因子RCFを、近似式を用いて、
RCF=2−RF
によって求める、
ことを特徴とする請求項4ないし請求項7のいずれか一項に記載のシミュレーション結果補正装置。
【請求項9】
前記共分散誤差行列Wは単位行列であることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載のシミュレーション結果補正装置。
【請求項10】
対象の挙動をコンピュータ上に表現したモデルを用いてシミュレーションした結果に含まれる誤差をその対象を模擬した実験の結果を用いて推定した結果を用いて、自動的に前記シミュレーション結果を補正するシミュレーション結果補正方法において、
実験体系測定値記憶部が、前記実験の結果得られる測定値Qを記憶するステップと、
実験体系測定値記憶部が、前記模擬実験体系で得られる測定値を記憶するステップと、
共分散誤差行列演算部および共分散誤差行列記憶部が、共分散誤差行列を導出し記憶するステップと、
実験体系物理量演算部および実験体系演算値記憶部が、模擬実験体系のシミュレーション計算を行いかつシミュレーション計算の計算値を記憶するステップと、
比較値演算部および比較値記憶部が、シミュレーション計算値と測定値の比較値を算出し記憶するステップと、
実験体系感度係数ベクトル演算部および目的体系演算値記憶部で計算機が、実験体系感度係数ベクトルを算出し記憶するステップと、
実機体系物理量演算部および目的体系演算値記憶部が、目的とする実機体系のシミュレーション計算を行いかつシミュレーション計算の計算値を記憶するステップと、
目的体系感度係数ベクトル演算部および実機体系感度係数ベクトル記憶部が、目的とする実機体系の感度係数を算出し記憶するステップと、
線形結合定数演算部および線形結合定数記憶部が、線形結合定数を算出するステップと、
模擬性評価因子演算部および模擬性評価因子記憶部が、模擬実験体系を組み合わせた模擬性評価因子RFを算出するステップと、
補正指標値演算部が、補正指標値を算出するステップと、
信頼性増強因子演算部および信頼性増強因子記憶部が、信頼性増強因子RCFを算出するステップと、
計算誤差補正部が、前記補正指標値と前記信頼性増強因子RCFの積を算出するステップと、
を有することを特徴とするシミュレーション結果補正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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