説明

シャッター装置

【課題】 本発明の目的は、小型化を図ることのできるシャッター装置を提供すること。
【解決手段】シャッター装置1は、振動子と該振動子の質量を変化させる質量変化手段との間に設けられ、質量変化手段による振動子の質量変化を許容する開状態と阻止する閉状態とを切り替えることができる。このようなシャッター装置1は、駆動軸41と、予圧を持って駆動軸41に設けられた移動体42と、駆動軸41をその軸方向に振動させる圧電素子43とを有するアクチュエーター4と、移動体42を駆動軸41の一方側へ付勢する付勢手段5と、移動体42に支持され、移動体42の移動方向に延在する長尺状のシャッター部2とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャッター装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、振動子の共振周波数を調整(変更)する方法として、振動子の質量を変化(増加または減少)させる方法が知られている。このような方法は、例えば、振動子と、イオンビームを振動子に照射することにより振動子の一部を除去して振動子の質量を減少させるイオンガンと、振動子とイオンガンとの間に設けられたシャッターとを有する装置を用いて行われる(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の装置では、複数のシャッター板が重ねられた状態にて鉄芯に軸支されており、各シャッター板は、鉄芯を中心として回動可動となっている。また、各シャッター板は、対応するソレノイドの駆動により回動するように構成されている。特許文献1に記載の装置では、このようなシャッター板の回動を利用して、シャッターを開状態または閉状態とすることができる。
【0004】
このような装置では、イオンガンからイオンビームが発射されている状態にて、シャッターを開状態とする。これにより、イオンビームがシャッターを通過して振動子に照射され、振動子の一部が除去されることにより、振動子の共振周波数が変化(減少)する。そして、振動子の周波数が所定の周波数となった時点でシャッターを閉状態とすることにより、振動子へのイオンビームの照射を阻止する。このような方法により、振動子の共振周波数を調整する。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のシャッターでは、各シャッター板を駆動する複数のソレノイドがシャッター板から横方向にずれた位置に設けられているとともに、高さ方向に重ねられているため、シャッターの大型化を招いてしまう。シャッターの大型化を招くと、その分、チャンバー等を大きくしなければならず、振動子の周波数調整の効率が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−118156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、小型化を図ることのできるシャッター装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
[適用例1]
本発明のシャッター装置は、開状態と閉状態とを切り替えることのできるシャッター装置であって、
駆動軸と、
前記駆動軸をその軸方向に振動させる圧電素子と、
前記駆動軸に保持され、前記圧電素子によって前記駆動軸を振動させることにより、前記駆動軸に対して移動して、アクチュエーター駆動を行なう移動体と、
前記移動体を前記駆動軸の一方側へ付勢する付勢手段と、
前記移動体に支持され、前記駆動軸の軸方向に延在するシャッター部とを有し、
前記移動体が前記駆動軸の前記一方側から他方側へ移動によって、前記シャッター部が前記閉状態から前記開状態となり、
前記移動体が前記駆動軸の前記他方側から前記一方側へ移動によって、前記シャッター部が前記開状態から前記閉状態となることを特徴とする。
これにより、小型化を図ることのできるシャッター装置を提供することができる。また、開状態から閉状態となる際のシャッター部の移動速度を高めることができる。そのため、より精度よく、振動子の周波数を調整することができる。
【0009】
[適用例2]
本発明のシャッター装置では、前記アクチュエーター駆動により、前記シャッター部を前記開状態から前記閉状態とするシャッター装置であって、
前記バネの力をFとし、前記Fの前記開状態での力をFb(max)とし、前記アクチュエーター駆動の推進力をFとし、前記移動体と前記駆動軸との間の静止摩擦力をFとし、前記移動体と前記駆動軸との間の動摩擦力をFとしたとき、
前記移動体が停止の状態では、F≧F+Fb(max)を満足し、
前記移動体が停止から移動へ切り替わる状態では、F<F+Fb(max)を満足し、
前記移動体が移動している状態は、F<F+Fを満足することが好ましい。
これにより、シャッター装置を確実に開状態から閉状態とすることができる。
【0010】
[適用例3]
本発明のシャッター装置では、前記アクチュエーター駆動により、前記シャッター部を前記閉状態から前記開状態とするシャッター装置であって、
前記バネの力をFとし、前記Fの前記閉状態での力をFb(min)とし、前記アクチュエーター駆動の推進力をFp’とし、前記移動体と前記駆動軸との間の静止摩擦力をF0’とし、前記移動体と前記駆動軸との間の動摩擦力をF1’としたとき、
前記移動体が停止の状態では、F≧Fp’+Fb(min)を満足し、
前記移動体が停止から移動へ切り替わる状態では、F0’+Fb(min)<Fp’を満足し、
前記移動体が移動している最中は、F1’+F<Fp’を満足することが好ましい。
これにより、シャッター装置を確実に閉状態から開状態とすることができる。
【0011】
[適用例4]
本発明のシャッター装置では、前記付勢手段は、バネであることが好ましい。
これにより、付勢手段の構成が簡単となる。
[適用例5]
本発明のシャッター装置では、前記シャッター部の移動範囲を規制する規制手段を有していることが好ましい。
これにより、シャッター装置の開閉動作を毎回同様に行うことができる。
[適用例6]
本発明のシャッター装置では、前記規制手段は、前記付勢手段の付勢力を規制するストッパーを有していることが好ましい。
これにより、規制手段の構成が簡単となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態にかかるシャッター装置を適用した周波数調整装置の概略図である。
【図2】本発明の第1実施形態にかかるシャッター装置を示す断面図である。
【図3】図2に示すシャッター装置が有するアクチュエーターの断面図である。
【図4】コイルバネの付勢力とアクチュエーターの推進力の関係を示すグラフである。
【図5】図2に示すシャッター装置の動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のシャッター装置を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態にかかるシャッター装置を適用した周波数調整装置の概略図、図2は、本発明の第1実施形態にかかるシャッター装置を示す断面図、図3は、図2に示すシャッター装置が有するアクチュエーターの断面図、図4は、コイルバネの付勢力とアクチュエーターの推進力の関係を示すグラフ、図5は、図2に示すシャッター装置の動作を説明するための図である。なお、以下では、説明の都合上、図1、図2中の上側を「上」、下側を「下」、右側を「右」、左側を「左」として説明する。また、図1に示すように、互いに直交する3軸をx軸、y軸およびz軸とする。
【0014】
以下では、本発明のシャッター装置を、振動子9の共振周波数を調整するための周波数調整装置100に適用した場合について説明する。ただし、本発明のシャッター装置の用途は、これに限定されない。
1.周波数調整装置
図1に示す周波数調整装置100は、内部を所望の環境とすることのできるチャンバー110と、複数のシャッター装置1が並設してなるシャッター装置集合体1’と、イオンガン120と、遮蔽板130とを有している。なお、シャッター装置1の枚数は、特に限定されず、例えば、10〜30程度とすることができる。
【0015】
イオンガン120は、例えば、Ar、Ne等の不活性ガスに電界を作用させて加速させることにより、イオンビームを発射するものであり、振動子9の質量を変化させる質量変化手段を構成するものである。このようなイオンガン120は、チャンバー110内にてシャッター装置集合体1’よりも下側に位置しており、上方へ向けてイオンビームIBを照射する。
【0016】
また、遮蔽板130は、チャンバー110内にてシャッター装置集合体1’よりも上側に位置しており、隣り合うシャッター装置1の間(隙間)から上方へ漏れるイオンビームIBを遮断する。
複数のシャッター装置1は、それぞれ、独立して駆動が制御されており、イオンビームIBの通過を許容する開状態と、イオンビームIBを遮断する閉状態とを切り替えることができる。
【0017】
このような周波数調整装置100では、1つのシャッター装置1の上方に1つの振動子9を配置し、イオンガン120からイオンビームIBを発射するとともに、シャッター装置1を開状態とすることにより、振動子9にイオンビームIBを照射し、振動子9の一部(例えば、電極の一部)を除去する。これにより、振動子9の質量を減らし、その共振周波数を調整する。イオンビームIBの照射により、振動子9の共振周波数が所定値となったら、速やかにシャッター装置1を閉じ、それ以上イオンビームIBが振動子9に照射されるのを阻止する。周波数調整装置100によれば、このようにして振動子9の共振周波数を調整することができる。なお、周波数調整装置100を用いた振動子9の周波数調整方法については、後に、詳しく説明する。
【0018】
次に、シャッター装置1について詳しく説明する。なお、複数のシャッター装置1は、互いに同様の構成であるため、以下では、1つのシャッター装置1について代表して説明し、他のシャッター装置1については、その説明を省略する。
図2に示すように、シャッター装置1は、シャッター部2とシャッター部2を移動させる移動手段3と、後述するコイルバネ51の変形量を規制する規制手段6とを有している。また、シャッター装置1を構成する各部は、図示しない支持部に支持されている。
【0019】
シャッター部2は、板状をなし、x軸方向に延在している。このようなシャッター部2は、例えば、耐イオンエッチング性に優れる炭素、チタン等を構成材料として構成されている。これにより、イオンビームIBによるシャッター部2の損傷を効果的に抑制することができる。また、このような材料で構成することにより、シャッター部2の軽量化を図ることができ、シャッター部2の反応性や移動速度を向上させることができる。
【0020】
なお、シャッター部2は、例えば、鉄、ニッケル、コバルト、銅、マンガン、アルミニウム、マグネシウム等の各種金属、またはこれらのうちの少なくとも1種を含む合金または金属間化合物、さらには、これらの金属の酸化物、窒化物、炭化物等で構成された本体の表面に、耐スパッタ性に優れるDLC(ダイアモンドライクカーボン)膜を形成した構成とすることもできる。
【0021】
このようなシャッター部2は、連結部7を介して後述する移動体42に支持されている。具体的には、シャッター部2には、x軸方向に離間した一対の貫通孔21、22が形成されている。一方、連結部7には、貫通孔21、22に対応する突起71、72が形成されている。この突起71、72が貫通孔21、22に係合することにより、シャッター部2が連結部7を介して移動体42に支持されている。なお、シャッター部2は、連結部7に対して着脱自在となっている。これにより、消耗品であるシャッター部2の交換を簡単に行うことができる。
【0022】
移動手段3は、アクチュエーター4と、付勢手段5とを有している。
アクチュエーター4は、いわゆる「超音波アクチュエーター」であって、図3に示すように、駆動軸41と、駆動軸41をその軸方向に振動させる圧電素子43と、駆動軸31に保持され、圧電素子43によって駆動軸41を振動させることにより、駆動軸41に対して移動して、アクチュエーター駆動を行なう移動体42とを有している。
圧電素子43は、膜状(板状)の圧電体の両面に電極を貼り合わせたものであり、一対の電極間に所定の電圧(例えば正弦波)を印加することにより、その厚さ方向(x軸方向)に伸縮する。このような圧電素子43としては、例えば、ユニモルフ型、バイモルフ型、積層型等を用いることができる。
【0023】
電圧を印加することにより圧電素子43をx軸方向伸縮変形させると、それに伴って駆動軸41がx軸方向に振動する。当該振動によって、アクチュエーター4に移動体42を移動させる推進力が発生し、移動体42が駆動軸41に沿って移動する。具体的には、圧電素子43に印加する電圧(交番電圧、パルス電圧等)を工夫し、駆動軸41の振動の行き(先端側への変位)と帰り(基端側への変位)のDuty比を変化させることにより、移動体42を駆動軸41の基端側から先端側へ向けて移動させたり、反対に、先端側から基端側へ向けて移動させたりすることができる。
【0024】
具体的には、駆動軸41の振動の行きを遅くし、帰りを早くすることにより、移動体42を置き去りにすることができ、移動体42が微小に駆動軸41の先端側へ移動する。この振動を高速に繰り返し与えることにより、移動体42を駆動軸41の先端側へ移動させることができる。反対に、駆動軸41の振動の行きを早くし、帰りを遅くすることにより、移動体42を引き寄せることができ、移動体42が微小に駆動軸41の基端側へ移動する。この振動を高速に繰り返し与えることにより、移動体42を駆動軸41の基端側へ移動させることができる。
図2に示すように、駆動軸41は、棒状をなし、x軸方向に延在している。また、駆動軸41の径は、軸方向に沿って一定となっている。このような駆動軸41の大きさとしては、特に限定されないが、例えば、長さ(x軸方向長さ)を3〜20mm程度、径を1〜1.5mm程度とすることができる。
【0025】
移動体42は、予圧を持って駆動軸41に設けられている。移動体42の構成としては、予圧を持って駆動軸41に保持されていれば、特に限定されないが、例えば、図3に示すように、溝422を有する本体421と、溝422に対向して本体421に固定された板バネ423とで構成することができる。このような構成の移動体42は、板バネ423の付勢力によって駆動軸41に予圧を持って保持されている。なお、移動体42の長さ(x軸方向の長さ)としては、特に限定されず、例えば、2〜15mm程度とすることができる。
【0026】
付勢手段5は、コイルバネ(バネ)51で構成されている。コイルバネ51には、駆動軸41が挿入されている。また、コイルバネ51は、圧電素子43と移動体42との間に収縮した状態で設けられており、その復元力によって、移動体42を駆動軸41の先端側へ付勢している。すなわち、コイルバネ51は、圧縮バネ(押しバネ)であると言える。このような構成によれば、コイルバネ51によって、アクチュエーター4の駆動時の移動体42の先端側への移動をアシストすることができる。そのため、移動体42の先端側への移動速度を高めることができる。
また、付勢手段5をコイルバネ51で構成することにより、付勢手段5の構成が簡単なものとなるとともに、付勢手段5の小型化を図ることができる。
【0027】
なお、本実施形態では、圧縮バネであるコイルバネ51を移動体42よりも駆動軸41の基端側に配置し、移動体42を先端側へ押し付けることにより移動体42を付勢しているが、例えば、引張バネ(引きバネ)であるコイルバネ51を移動体42よりも駆動軸41の先端側に配置し、移動体42を先端側へ引っ張ることにより付勢してもよい。このような構成によっても、本実施形態と同様の効果を発揮することができる。ただし、コイルバネ51として引張バネを用いる場合、コイルバネ51と移動体42とを連結する必要がある点で、本実施形態のように圧縮バネであるコイルバネ51を用いるのが好ましい。また、付勢手段5は、上記機能を発揮することができれば、コイルバネ51に限定されず、例えば、ゴムなどの弾性体で構成することもできる。
【0028】
ここで、後述するように、シャッター装置1では、移動体42が駆動軸41の先端側へ移動すると、それに伴ってシャッター部2が移動し、これにより、開状態から閉状態となるように構成されている。移動体42をコイルバネ51によって付勢し、シャッター部2の開状態から閉状態への移動をより高速かつ反応性よく行うことにより、振動子9が所定の共振周波数となった際にイオンビームIBをより素早く遮断することができる。すなわち、シャッター装置1を閉状態とする命令を出した時刻と、シャッター装置1が実際に閉状態となった時刻との時間差をより短くすることができる。そのため、振動子9の周波数をより精度よく所定値に合わせ込むことができる。
【0029】
また、コイルバネ51によって移動体42の先端側への移動をアシストすることにより、アクチュエーター4の個体差を小さくすることができる。具体的には、複数のアクチュエーター4間では、駆動軸41に対する移動体42の摩擦力の異なり等から、移動体42の先端側への移動速度が異なる場合が考えられる。そこで、コイルバネ51によって移動体42の先端側への移動をアシストすることにより、複数のアクチュエーター4間での移動体42の先端側への移動速度の差を小さくすることができる。その結果、複数のシャッター装置1の閉動作(開状態から閉状態とする動作)を同様に行うことができ、例えば、複数の振動子9間での調整済みの周波数のずれを抑制することができる。
【0030】
このような移動手段3によれば、第1に、移動手段3を構成する装置の小型化を図ることができる。そのため、複数のシャッター装置1をy軸方向に、より狭ピッチで並設することができる。また、第2に、移動体42の駆動軸41の先端側への移動速度を高めることができるため、より素早く短時間で、シャッター装置1を開状態から閉状態とすることができ、振動子9の周波数をより精度よく所定値に合わせ込むことができる。第3に、実質的に発熱しないため、チャンバー110内の環境を一定に保つことが容易となる(特に、チャンバー110内を真空(減圧)環境下とする場合に有利である)。
【0031】
規制手段6は、シャッター部2を介してx軸方向に対向配置された一対のストッパー61、62を有している。一対のストッパー61、62の離間距離は、シャッター部2の長さよりも大きく、これらストッパー61、62の間をシャッター部2が移動可能となっている。そして、シャッター部2の先端側への移動は、シャッター部2がストッパー61に衝突(当接)することにより規制され、反対に、シャッター部2の基端側への移動は、シャッター部2がストッパー62に衝突(当接)することにより規制される。
なお、ストッパー61、62間でのシャッター部2の移動距離としては、特に限定されないが、例えば、1〜5mm程度であるのが好ましい。これにより、シャッター部2の移動距離を抑えることができるため、より素早く短時間で、シャッター装置1を開状態から閉状態とすることができる。
【0032】
また、規制手段6によって、シャッター部2の移動が規制されることによって、コイルバネ51の変形量が規制される。言い換えれば、コイルバネ51の変形量を毎回一定に維持する機能を有している。
このような規制手段6によれば、コイルバネ51の変形量およびシャッター部2の移動距離を毎回ほぼ一定に保つことができ、かつ、シャッター装置1を開状態から閉状態へする際のコイルバネ51の付勢力を毎回ほぼ等しくすることができる。そのため、シャッター装置1を閉状態とする命令を出した時刻と、シャッター装置1が実際に閉状態となった時刻との時間差を毎回ほぼ等しくすることができる。所定のシャッター装置1を用いて周波数調整を行った振動子同士の周波数のズレを抑制することができる。
【0033】
仮に、シャッター部2の移動距離が変化したり、コイルバネ51の変形量が変化したりすると、シャッター装置1を開状態から閉状態となるまでの時間、より具体的には、シャッター装置1を閉状態とするための命令(信号)を出した時刻から、実際にシャッター装置1が完全に閉状態となるまでの時間が変化する。このようにシャッター装置1を閉じる時間が変化すると、それに伴って、振動子9へのイオンビームIBの照射時間が変化し、振動子9の質量が必要以上に減少したり、目的値まで減少していなかったりし、振動子9の共振周波数が所定の周波数からずれてしまう。すなわち、シャッター部2の移動距離やコイルバネ51の変形量が変化してしまうと、振動子9の共振周波数を高精度に調整することができなくなるおそれがある。
【0034】
なお、コイルバネ51は、シャッター部2がストッパー61に当接した状態でも収縮状態を維持している、すなわち自然状態に復帰していないことが好ましい。これにより、シャッター装置1が閉状態となるまで、常に、コイルバネ51によって移動体42が付勢されているため、より素早く短時間で、シャッター装置1を開状態から閉状態とすることができる。また、コイルバネ51は、シャッター部2がストッパー62に当接した状態では、最大収縮位置(スティッキングポイント)に到達していないのが好ましい。これにより、過度な収縮によるコイルバネ51の変形(バネ力の変化)を効果的に防止または抑制することができる。
【0035】
このようなシャッター装置1は、シャッター部2がストッパー61に当接した状態、すなわち、図5(a)に示す状態がイオンビームIBの振動子9への照射を遮断する閉状態である。
閉状態から、アクチュエーター4を駆動して移動体42を基端側へ移動させると、これと共にシャッター部2が移動し、その基端がストッパー62に接触し、それ以上の移動が規制される。これにより、図5(b)に示すように、シャッター部2がイオンビームIBの振動子9への照射を許容する開状態となる。反対に、開状態から、アクチュエーター4を駆動して移動体42を先端側へ移動させると、これと共にシャッター部2が移動し、その先端がストッパー61に接触し、それ以上の移動が規制される。これにより、図5(a)に示すように、前述した閉状態となる。
【0036】
次いで、コイルバネ51の付勢力および圧電素子43の推進力について、図4に基づいて説明する。なお、図4は、コイルバネ51の付勢力の一例を示すグラフであり、コイルバネ51の付勢力は、図4のものに限定されない。
図4中、Fは、コイルバネ51の付勢力である。特に、Fb(max)は、シャッター装置1が開状態となっている状態でのコイルバネ51の付勢力、すなわちコイルバネ51が最も収縮した状態での付勢力であり、Fb(min)は、シャッター装置1が閉状態となっている状態でのコイルバネ51の付勢力、すなわちコイルバネ51が最も伸長した状態での付勢力である。
【0037】
また、Fは、移動体42が駆動軸41の先端側へ移動する際に、その移動が開始されるまで移動体42と駆動軸41との間に発生する静止摩擦力であり、Fは、移動体42が駆動軸41の先端側へ移動している最中に移動体42と駆動軸41との間に発生する動摩擦力である。
また、F0’は、移動体42が駆動軸41の基端側へ移動する際に、その移動が開始されるまで移動体42と駆動軸41との間に発生する静止摩擦力であり、F1’は、移動体42が駆動軸41の基端側へ移動している最中に移動体42と駆動軸41との間に発生する動摩擦力である。
また、Fは、アクチュエーター4の駆動(圧電素子43の振動)によって発生し、移動体42を駆動軸41の先端側へ移動させる推進力(推力)であり、Fp’は、アクチュエーター4の駆動によって発生し、移動体42を駆動軸41の基端側へ移動させる推進力(推力)である。
【0038】
図4に示すように、本実施形態のアクチュエーター4では、静止摩擦力F、F0’が互いに等しい。すなわち、移動体42と駆動軸41との間に発生する静止摩擦力は、移動体42の移動方向両側にて等方性を有している。同様に、本実施形態のアクチュエーター4では、動摩擦力F、F1’が互いに等しい。すなわち、移動体42と駆動軸41との間に発生する動摩擦力は、移動体42の移動方向両側にて等方性を有している。なお、静止摩擦力F、F0’は、異なっていてもよいし、同様に、動摩擦力F、F1’も異なっていてもよい。
【0039】
本実施形態のアクチュエーター4では、静止摩擦力F(F0’)および動摩擦力F(F1’)は、それぞれ、駆動軸41の軸に沿って一定である。また、静止摩擦力F(F0’)は、動摩擦力F(F1’)よりも大きい。
シャッター装置1が開状態で停止しているとき、F≧F+Fb(max)なる関係を満足している。これにより、移動体42の停止状態、すなわちシャッター装置1の開状態を確実に維持することができる。
【0040】
シャッター装置1が開状態のときにアクチュエーター4を駆動させ、それにより発生する推進力Fは、F<F+Fb(max)なる関係を満足している。これにより、アクチュエーター4を駆動すると、FとFb(max)の合力が静止摩擦力Fよりも大きくなる。その結果、移動体42が駆動軸41の先端側へ向けて移動を開始する。
なお、推進力Fは、F−Fb(max)≦Fなる関係を満足していればよいが、より高いことが好ましく、推進力Fp’とほぼ等しいのがより好ましい。これにより、移動体42を駆動軸41の先端側へ移動させる力が大きくなり、移動体42の駆動軸41の先端側への移動速度が高まる。また、推進力Fを、推進力Fp’とほぼ等しくすることにより、アクチュエーター4(圧電素子43)の駆動制御が簡単となる。
【0041】
移動体42が駆動軸41の先端側へ移動している最中の推進力Fは、F<F+Fなる関係を満足すればよい。これにより、移動体42の移動を継続することができる。そして、シャッター部2がストッパー61に当接することにより、移動体42のそれ以上の移動が規制されるとともに、シャッター装置1が閉状態となる。なお、この際の推進力Fは、移動体42が駆動軸41の先端側へ向けて移動を開始するのに発生させる推進力Fと等しいのが好ましい。すなわち、開状態から閉状態へするためにアクチュエーター4を駆動するときは、圧電素子43の駆動(振動)を一定に維持するのが好ましい。これにより、アクチュエーター4の駆動制御が容易となる。
【0042】
シャッター装置1が閉状態となった後は、アクチュエーター4の駆動を停止するのが好ましい。
なお、図4の構成では、コイルバネ51の付勢力Fが、開状態と閉状態の間にて常に動摩擦力Fよりも大きい。そのため、移動体42が移動を開始した後は、圧電素子43の駆動(振動)を停止しても、移動体42の移動を継続することができる。これにより、省電力駆動を図ることができる。
【0043】
また、ストッパー61を省略する場合、閉状態となる位置にて、コイルバネ51の付勢力Fとアクチュエーター4の推進力Fの合力が動摩擦力Fよりも低くなるように設定すればよい。前述のように、移動体42が移動を開始した後は、圧電素子43の駆動を停止する場合には、コイルバネ51の付勢力Fが動摩擦力Fよりも低くなるように設定すればよい。これにより、シャッター装置1が閉状態となった際に、移動体42の移動が自動的に停止する。ただし、このような構成とした場合には、図4の構成と比較してコイルバネ51の付勢力Fが低くなるため、シャッター部2の移動速度が低下するおそれがある。
【0044】
一方、シャッター装置1が閉状態で停止しているとき、F≧Fp’+Fb(min)なる関係を満足している。これにより、仮に、ストッパー61を省略した場合においても、移動体42を停止させておくことができ、シャッター装置1の閉状態を維持することができる。
シャッター装置1が閉状態のときにアクチュエーター4を駆動させ、それにより発生する推進力Fp’は、F0’+Fb(max)≦Fp’なる関係を満足している。これにより、アクチュエーター4を駆動すると、Fp’が付勢力Fb(max)と静止摩擦力Fの合力よりも大きくなる。その結果、移動体42が駆動軸41の基端側へ向けて移動を開始する。
【0045】
移動体42が駆動軸41の基端側へ移動している最中は、F1’+F<Fp’なる関係を満足すればよい。これにより、移動体42の移動が継続される。そして、シャッター部2がストッパー62に当接することにより、移動体42のそれ以上の移動が規制されるとともに、シャッター装置1が開状態となる。
シャッター装置1が開状態となった後は、アクチュエーター4の駆動を停止するのが好ましい。
【0046】
なお、推進力Fp’は、図4の一点鎖線に示すように移動体42が停止しているか否か、さらに移動している場合にはその位置によって、その大きさを変化させてもよいが、これでは、アクチュエーター4(圧電素子43)の駆動制御が煩雑となる。そのため、推進力Fp’は、図4の実線で示すように、点線で示す推進力Fp’の最大値にて一定とすることが好ましい。
以上、シャッター装置1の構成について、詳細に説明した。
【0047】
2.周波数調整方法
次に、周波数調整装置100を用いた振動子9の周波数調整方法について説明する。
周波数調整装置100による振動子9の周波数調整は、1つのシャッター装置1の直上に1つの振動子9が位置するように、複数の振動子9をチャンバー110内に配置し、チャンバー110内を減圧状態(好ましくは、真空状態)とした状態にて行われる。また、振動子9の共振周波数を断続的に検知しながら行われ、この検知結果は、リアルタイムに図示しない制御手段に送られる。
【0048】
なお、複数の振動子9は、それぞれ、板状またはシート状のキャリアに支持されている。そして、この状態にて、以下のようにして、振動子9の周波数を調整する。各振動子9の周波数調整の方法は、互いに同様であるため、以下では、1つの振動子9の周波数を調整する方法について説明し、他の振動子9の周波数を調整する方法については、その説明を省略する。
【0049】
まず、シャッター装置1を閉状態とする。次に、イオンガン120をONとし、イオンビームIBを上方に向けて発射する。そして、イオンビームIBが安定するまで、シャッター装置1を閉状態としたまま放置する。次に、シャッター装置1を開状態とする。シャッター装置1を開状態とすると、イオンビームIBが振動子9に照射され、振動子9の一部、より具体的には電極の一部が除去され、これに伴う振動子9の質量の減少によって、振動子9の共振周波数が徐々に上昇する。次に、振動子9の共振周波数が所定の周波数となったときに、シャッター装置1を閉状態とする。以上の工程により、振動子9の共振周波数の調整が終了する。
【0050】
以上、本発明のシャッター装置について、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置換することができる。また、本発明に、他の任意の構成物が付加されていてもよい。また、各実施形態を適宜組み合わせてもよい。
また、前述した実施形態では、イオンビームによって振動子の質量を減少させることにより振動子の共振周波数を変更する方法について説明したが、これに限定されず、例えば蒸着によって金属粒子を振動子に付着させ、振動子の質量を増加させることにより、振動子の共振周波数を変更してもよい。
【符号の説明】
【0051】
1…シャッター装置 1’…シャッター装置集合体 2…シャッター部 21…貫通孔 22…貫通孔 3…移動手段 4…アクチュエーター 41…駆動軸 42…移動体 421…本体 422…溝 423…板バネ 43…圧電素子 5…付勢手段 51…コイルバネ 6…規制手段 61…ストッパー 62…ストッパー 7…連結部 71…突起 72…突起 9…振動子 100…周波数調整装置 110…チャンバー 120…イオンガン 130…遮蔽板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開状態と閉状態とを切り替えることのできるシャッター装置であって、
駆動軸と、
前記駆動軸をその軸方向に振動させる圧電素子と、
前記駆動軸に保持され、前記圧電素子によって前記駆動軸を振動させることにより、前記駆動軸に対して移動して、アクチュエーター駆動を行なう移動体と、
前記移動体を前記駆動軸の一方側へ付勢する付勢手段と、
前記移動体に支持され、前記駆動軸の軸方向に延在するシャッター部とを有し、
前記移動体が前記駆動軸の前記一方側から他方側へ移動によって、前記シャッター部が前記閉状態から前記開状態となり、
前記移動体が前記駆動軸の前記他方側から前記一方側へ移動によって、前記シャッター部が前記開状態から前記閉状態となることを特徴とするシャッター装置。
【請求項2】
前記アクチュエーター駆動により、前記シャッター部を前記開状態から前記閉状態とするシャッター装置であって、
前記バネの力をFとし、前記Fの前記開状態での力をFb(max)とし、前記アクチュエーター駆動の推進力をFとし、前記移動体と前記駆動軸との間の静止摩擦力をFとし、前記移動体と前記駆動軸との間の動摩擦力をFとしたとき、
前記移動体が停止の状態では、F≧F+Fb(max)を満足し、
前記移動体が停止から移動へ切り替わる状態では、F<F+Fb(max)を満足し、
前記移動体が移動している状態は、F<F+Fを満足する請求項1に記載のシャッター装置。
【請求項3】
前記アクチュエーター駆動により、前記シャッター部を前記閉状態から前記開状態とするシャッター装置であって、
前記バネの力をFとし、前記Fの前記閉状態での力をFb(min)とし、前記アクチュエーター駆動の推進力をFp’とし、前記移動体と前記駆動軸との間の静止摩擦力をF0’とし、前記移動体と前記駆動軸との間の動摩擦力をF1’としたとき、
前記移動体が停止の状態では、F≧Fp’+Fb(min)を満足し、
前記移動体が停止から移動へ切り替わる状態では、F0’+Fb(min)<Fp’を満足し、
前記移動体が移動している最中は、F1’+F<Fp’を満足する請求項2に記載のシャッター装置。
【請求項4】
前記付勢手段は、バネである請求項1ないし3のいずれかに記載のシャッター装置。
【請求項5】
前記シャッター部の移動範囲を規制する規制手段を有している請求項1ないし4のいずれかに記載のシャッター装置。
【請求項6】
前記規制手段は、前記付勢手段の付勢力を規制するストッパーを有している請求項5に記載のシャッター装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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