説明

シュッコンカスミソウ切り花の悪臭低減品質保持剤

【課題】シュッコンカスミソウの独特の悪臭を低減する悪臭低減品質保持剤を提供する。
【解決手段】切り花出荷前あるいは後に品質保持剤(20g・l-1ショ糖と100mg・l-1,8−ヒドロキシノリン硫酸塩を含む)に一価の分岐脂肪酸アルコール(イソアミルアルコール)または芳香族アルコール(ベンジルアルコールまたは2−フェニルエチルアルコールを含む)を添加した悪臭低減品質保持剤に切り口を浸漬することで悪臭を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナデシコ科ギプソフィラ属に属する多年性草本であるシュッコンカスミソウの悪臭発散抑制技術に関する。
【背景技術】
【0002】
シュッコンカスミソウは、わが国では出荷量が単品目としては切り花中5位、出荷額が50億円程度(平成14年度)の重要花き作目である。
【0003】
シュッコンカスミソウはいわゆる添え花としてフラワーアレンジメント等に広く使われているが、花序(いわゆる切り花の観賞部分)から独特の悪臭が発散されることが利用上問題となっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、従来から花序から発散される悪臭を消臭する物質を種々検討してきており、本発明は切り花出荷前あるいは後に処理をすることにより悪臭の発散を抑制し、商品性を高めることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
これまでには鮮度保持剤として銀チオサルファート剤が生産、流通、消費の各段階で使用されていたが、品質保持に限られていた。
【0006】
シュッコンカスミソウは、生産者が切り取り、保管している初期の段階で、悪臭を発散することが多く、問題となる。
【0007】
これまでに、シュッコンカスミソウ花序の発散する悪臭の原因物質がメチル酪酸(3−および2−メチル酪酸)であることを解明していた。
【0008】
シュッコンカスミソウを数種類の物質で処理することにより、悪臭の原因物質の生成および発散を抑制し、切り花としての商品性を高めることができる。
【発明の効果】
【0009】
シュッコンカスミソウの悪臭低減の機作は、供試した物質の種類ごとに異なると考えられる。
【0010】
アルコール類は植物体内に吸収され、メチル酪酸の前駆物質であるイソバレル−CoA(isovaleryl−CoA)と内生の酵素の触媒によって反応することによりエステルを生成し、結果としてメチル酪酸の生成を抑制する。
【0011】
また、エステル類は一般に芳香として感受されるものが多く、さらに芳香族アルコールであるベンジンアルコールと2−フェニルエチルアルコールはそれ自体がフローラルな匂いを持つことから、これらによる悪臭のマスキングの効果も理由となる。
【0012】
これまでの結果、アルコール類の処理によって、シュッコンカスミソウ切り花の悪臭を低減させることができる。
【0013】
シュッコンカスミソウを数種類の物質で処理することにより、悪臭の原因物質の生成および発散を抑制し、切り花としての商品性を高めることができる。
【0014】
シュッコンカスミソウの悪臭低減品質保持剤として、悪臭低減物質を添加した品質保持剤を提供するものである。
【0015】
悪臭低減物質としてアルコール類がよいが、一価の分岐脂肪族アルコールおよび芳香族アルコールが好ましい。
【0016】
前記の一価の分岐脂肪族アルコールにはイソアミルアルコールである悪臭低減品質保持剤である。
【0017】
前記の芳香族アルコールにはベンジルアルコールや2−フェニルエチルアルコールである悪臭低減品質保持剤である。
【発明の実施するための最良の形態】
【0018】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0019】
‘ブリストルフェアリー’を実験に用い、約20%の花らいが開いた段階で側生の花序(長さ約30cm)を収穫した。
【0020】
20g・l-1ショ糖と100mg・l-1,8−ヒドロキシキノリン硫酸塩を含む開花溶液(BOS)にそれぞれの物質を溶解させた溶液に茎基部を浸漬した。
【実施例1】
【0021】
開花溶液(BOS)に溶解させる物質として、イソアミルアルコール(濃度500μl・l-1)を用いた開花溶液(BOS)の区を対照とした。
【実施例2】
【0022】
開花溶液(BOS)に溶解させる物質として、ベンジルアルコール(濃度500μl・l-1)を用いた開花溶液(BOS)の区を対照とした。
【実施例3】
【0023】
開花溶液(BOS)に溶解させる物質として、2−フェニルエチルアルコール(濃度500μl・l-1)を用いた開花溶液(BOS)の区を対照とした。
【比較例1】
【0024】
開花溶液(BOS)に溶解させる物質として、エタノール(エチルアルコール)(濃度500μl・l-1)を用いた開花溶液(BOS)の区を対照とした。
【比較例2】
【0025】
開花溶液(BOS)に溶解させる物質として、1−ヘキサノール(濃度500μl・l-1)を用いた開花溶液(BOS)の区を対照とした。
【比較例3】
【0026】
開花溶液(BOS)に溶解させる物質として、シス−3−ヘキセン−1−オール(濃度500μl・l-1)を用いた開花溶液(BOS)の区を対照とした。
【0027】
室温(約20℃)で4日間保持した後、Tenax TAカラムを用いたヘッドスペース吸収法により揮発性物質をガスクロマトグラフィー(GC)で定量するとともに、臭覚官能試験による悪臭程度の評価を行った。
【0028】
エタノール以外のアルコールの処理により、メチル酪酸の発散量は減少したが、各種アルコールにより効果にばらつきがあった。(図1)。
【0029】
特にイソアミルアルコール,ベンジルアルコール,2−フェニルエチルアルコールの発散量低減効果は大きく、その発散量は各々イソアミルアルコールでは55%に、ベンジルアルコールでは53%に、2−フェニルエチルアルコールでは38%まで低減した。
【0030】
各種アルコール類の処理がシュッコンカスミソウ花器の匂いの強度に及ぼす影響を12人の被験者による官能試験を行い、対照区(いずれの物質も無添加)との匂いの比較を行った。
【0031】
実施例1の溶液で処理したシュッコンカスミソウは、12人中6人が匂いの強さが弱まったとし、3人が同じと評価し、効果が確認できた。
【0032】
実施例2の溶液で処理したシュッコンカスミソウは、12人中9人が匂いの強さが弱まったとし、2人が同じと評価し、効果が確認できた。
【0033】
実施例3の溶液で処理したシュッコンカスミソウは、12人中9人が匂いの強さが弱まったとし、3人が同じと評価し、効果か確認できた。
【0034】
前記に対して、比較例1・2・3で、比較例1では溶液で処理したシュッコンカスミソウは、12人中1人が匂いの強さが弱まったとし、5人が同じで6人が逆に強くなったと評価し、比較例2では12人中5人が匂いの強さが弱まったとし、3人が同じで4人が逆に強くなったと評価し、比較例3では12人中2人が匂いの強さが弱まったとし、7人が同じで3人が逆に強くなったと評価し、いずれも効果が確認されなかった(図2)。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】各種アルコール処理がシュッコンカスミソウ花序からのメチル酪酸(methylbutyric acid)発散量に及ぼす影響を示す図である。
【図2】各種アルコール類の処理がシュッコンカスミソウ花序の匂いの強度に及ぼす影響の官能試験の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一価の分岐脂肪族アルコールおよび芳香族アルコールから選択される悪臭低減物質を含むことを特徴とするシュッコンカスミソウ切り花の悪臭低減品質保持剤。
【請求項2】
前記の一価の分岐脂肪族アルコールがイソアミルアルコールであり、前記の芳香族アルコールがベンジルアルコールまたは2−フェニルエチルアルコールである請求項1記載の悪臭低減品質保持剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate