説明

シュープレスベルト

【課題】耐摩耗性、耐クラック性、加工性に優れた製紙用シュープレスベルトの提供。
【解決手段】基体とポリウレタン樹脂とからなるシュープレスベルトにおいて、前記ポリウレタン樹脂が、(1)トリレンジイソシアネート(TDI)とポリオールとを反応させて得られた、末端にイソシアネート基を有するTDIプレポリマー、及びジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)とポリオールとを反応させて得られた、末端にイソシアネート基を有するMDIプレポリマー、との混合プレポリマーと硬化剤との反応により得られ、又は(2)TDIとMDIとの混合物とポリオールとを反応させて得られた、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと硬化剤との反応により得られ、上記混合プレポリマー又は混合ジイソシアネートにおけるTDIとMDIとの含有割合(モル含有率)が、シュー側ポリウレタン樹脂の方が、フェルト側ポリウレタン樹脂よりもMDIのモル含有率が多いこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製紙機械用シュープレスベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
製紙における抄紙工程においては、湿紙を加圧脱水するプレスパートにおいて、加圧ベルトが使用されている。加圧ベルトとして、加圧シュー側よりプレスロールに押し付け回転するシュープレス用ベルトが多く用いられ、抄紙機械のプレスロールと加圧シュー間を走行するベルトと、その上に載置されるフェルトと湿紙とを、抄紙機のシュープレス機構によって加圧することにより、湿紙の水分をフェルトに移行させて湿紙の水分を搾水する。
【0003】
シュープレスベルトは基本的にはベルト全体の強度を発現させるための、織布等からなる基体と、基体の両面または片面に積層されたポリウレタンとから構成されている。
【0004】
ポリウレタンの製造法は、末端に2個のイソシアネート基を有するジイソシアネートと末端に複数の水酸基を有するポリオールとを重付加反応させて、先ず末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを製造する。かくして得られた液状のウレタンプレポリマーは、低分子であり、これに硬化剤(連鎖延長剤)を加えて加熱することにより、硬化し、固体状の高分子量ポリウレタンが得られる。
【0005】
このようなポリウレタンが積層されたベルトを製造するには、基体に硬化剤を含む液状のウレタンプレポリマーを塗布、含浸し、乾燥または加熱により硬化させるという工程がとられている。
【0006】
ウレタンプレポリマーの原料である上記ジイソシアネートとしては、従来トリレンジイソシアネート(以下TDIという)が多く用いられ、またジフェニルメタンジイソシアネート(以下MDIという)も用いられている。更にシュー側のポリウレタンの原料にはMDI、フェルト側のポリウレタンにはTDI系を用いることも提案されている(特許文献1)
【0007】
【特許文献1】特開2002-146694
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
シュープレスベルトは加圧シューとプレスロールによる高い圧力を受けながら、高速で走行するという苛酷な条件で使用されるので、磨耗及びクラックが起こり易い。またシュープレスベルトは搾られた水分を排水するために、通常フェルト側に走行方向に沿って多数の排水溝が設けられているが、この排水溝が変形したり、その角(ランドエッジ)の欠落が起こる。したがって、長時間の使用に耐えるためには、シュープレスベルトの材料であるポリウレタン樹脂に対し、このような条件下での耐磨耗性及び耐クラック性が要求される。
【0009】
本発明の発明者らは、基布の両面(シュー側およびフェルト側)のポリウレタン樹脂のいずれもが、製造原料であるジイソシアネートとして、TDIとMDIとを併用し、(1)TDIとポリオールとを反応させて得られたTDIプレポリマーと、MDIとポリオールとを反応させて得られたMDIプレポリマーとの混合ウレタンプレポリマーから得られたポリウレタン樹脂、または、(2)TDIとMDIとの混合物とポリオールとを反応させて得られたウレタンプレポリマーから得られたウレタンプレポリマーから得られたポリウレタン樹脂を用い、かつベルトの両側のポリウレタンのジイソシアネートの配合比率をそれぞれ最適の比率に調整することにより、耐磨耗性及び耐クラック性等の物性が著しく改善され、製紙機械用に好適なベルトが得られることを見出し、本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち本発明の第1の実施態様は、基体とそのシュー側およびフェルト側の両面に含浸積層されたポリウレタン樹脂とからなるシュープレスベルトにおいて、前記ポリウレタン樹脂が、いずれもトリレンジイソシアネート(TDI)とポリオールとを反応させて得られた、末端にイソシアネート基を有するTDIプレポリマー、及びジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)とポリオールとを反応させて得られた、末端にイソシアネート基を有するMDIプレポリマーとの混合プレポリマーと、硬化剤との反応により得られ、TDIプレポリマーとMDIプレポリマーとの混合割合が、シュー側ポリウレタン樹脂の方が、フェルト側ポリウレタン樹脂よりもMDIのモル含有率が多いことを特徴とするシュープレスベルトである。
【0011】
また本発明の第2の実施態様は基体と、そのシュー側およびフェルト側の両面に含浸積層されたポリウレタン樹脂とからなるシュープレスベルトにおいて、前記ポリウレタン樹脂がいずれも、トリレンジイソシアネート(TDI)とジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)との混合物とポリオールとを反応させて得られた、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと硬化剤との反応により得られ、TDIとMDIとの混合物が、シュー側ポリウレタン樹脂の方が、フェルト側ポリウレタン樹脂よりもMDIのモル含有率が多いことを特徴とするシュープレスベルトである。
【0012】
上記TDIプレポリマーとMDIプレポリマーとの混合プレポリマーを用いる方法(1)、及びTDIとMDIとの混合ジイソシアネートを用いる方法(2)のいずれの実施態様においても、混合物中におけるMDIとTDIの比率は、シュー側ポリウレタン樹脂においては、MDIのモル含有率を60〜95%、特に70〜90%含有するものを用い、フェルト側ポリウレタン樹脂においては、MDIのモル含有率を5〜50%、特に10〜40%含有するものを用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
基体の両面にポリウレタン層を有するシュープレスベルトにおいて、プレポリマーとしてシュー側およびフェルト側において、それぞれ特定のモル含有率を有するTDIプレポリマー/MDIプレポリマーの混合物、或いはウレタンプレポリマー製造原料のジイソシアネートとして、シュー側およびフェルト側において、それぞれ特定のモル含有率を有するTDI/MDI混合物を使用することで、本発明ではシュープレスベルトの耐クラック性、耐摩耗性、及び加工性等が従来のものより優れたシュープレスベルトが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のシュープレスベルトは、基体の両面にポリウレタンが含浸、積層された積層構造を有する。基体としては主として織布が用いられる。
【0015】
基体にポリウレタン層を積層するには、基体に硬化剤を含む液状のウレタンプレポリマーを塗布、含浸し、乾燥または加熱により硬化させて固体状の高分子量ポリウレタンを積層させる。
【0016】
本発明において、TDIとMDIを併用する方法として、(1)TDIとMDIをそれぞれ別個にポリオールと反応させて、TDIプレポリマーとMDIプレポリマーとを合成し、両者を特定のモル含有率で混合して得られた、TDIプレポリマー/MDIプレポリマーの混合物を使用する方法、或いは(2)プレポリマー製造の原料であるジイソシアネートとして、特定のモル含有率を有するTDI/MDIの混合物を用いる方法のいずれも実施することができる。
【0017】
シュープレスベルトは、基体の両面(シュー側およびフェルト側)にポリウレタン層が積層されているが、シュー側とフェルト側とでは要求される物性が異なるので、それぞれについて最良の材料を選択する必要がある。一方プレポリマーを硬化させて高分子量ポリウレタンを生成するための硬化時間も、ジイソシアネートの種類により大きく影響されるので、これらを総合的に判断して、基体両面のポリウレタン層のTDIプレポリマー/MDIプレポリマーのモル含有率、或いはTDI/MDIのモル含有率を選択する。
【0018】
本発明ではまず基体のシュー側にポリウレタン層を含浸して積層、形成する。基体は液透過性があるため液垂れ現象を考慮しなければならない。つまりシュー側に硬化剤を含む液状のウレタンプレポリマーを塗布する際に、シュー側の硬化時間を短縮し、液垂れ現象をなくすことが重要であり、そのためにはMDIの添加が有効である。TDIは硬化時間が比較的長く、従って基体のシュー側に積層する場合、液垂れし易く積層し難い。本発明ではこの欠点を、TDIプレポリマー/MDIプレポリマーのモル含有率、或いはTDI/MDIのモル含有率を調整された範囲内で、MDI又はMDIプレポリマーを添加することで改善されることができた。ここでMDIプレポリマー或いはMDIの混合割合が多過ぎると、硬化剤を含む液状のウレタンプレポリマーを塗布した後、直ぐに硬化が進んでしまい、その後に新たに積層したウレタンプレポリマーとの間で、十分な層間接着力が得られなくなる。
【0019】
次に、基体のフェルト側へのポリウレタン層の含浸、積層であるが、シュー側のポリウレタン層が十分に乾燥固化した後、製造工程中のベルトの表裏を反転し、引続き基体のフェルト側のポリウレタン層を含浸して積層、形成する。既にシュー側にポリウレタン層が形成されているため、該ベルトの基体は液透過性がないので、専らフェルト側の樹脂に要求されている機能、即ち耐クラック性と耐磨耗性の要求を満たすようにMDIのモル含有率を調整する。MDIのモル含有率が多いと耐クラック性は向上するが、MDIのモル含有率が多すぎると、耐磨耗性が悪くなるので好ましくない。つまり本発明では、TDI成分の耐磨耗性の良さに、更にMDI成分の耐クラック性の良さを兼ね備えたフェルト側ポリウレタン層を積層、形成することが肝要である。
【0020】
以上の諸物性を考慮して、本発明のシュープレスベルトでは基体の両面のポリウレタン層におけるTDIとMDIのモル含有率が異なり、TDIとMDIとの混合比率は、シュー側の方が、フェルト側よりもMDIのモル含有率が多いものとなっている。
【0021】
一般的にフェルト側は耐クラック性と耐磨耗性の双方が要求される。そこで本発明ではフェルト側ポリウレタン樹脂の製造に際し、TDIプレポリマー/MDIプレポリマーの混合プレポリマー或いはTDI/MDI混合ジイソシアネートを用い、MDIのモル含有率を好ましくは5〜50%、より好ましくは10〜40%とすることにより、フェルト側の耐クラック性と耐磨耗性の双方を改善することができた。MDIのモル含有率が多すぎると耐摩耗性が悪くなる。一方MDIのモル含有率が少なすぎるとクラックが起こり易い。
【0022】
また、基体のシュー側にポリウレタン層を含浸して積層、形成するとき硬化時間を短縮し、液垂れ現象をなくすことが重要であり、そのためにはMDIの添加が有効であり、本発明ではシュー側ポリウレタン樹脂においても、混合プレポリマー或いは混合ジイソシアネートを用いるが、MDIのモル含有率を、フェルト側よりも大きくし、好ましくはMDIのモル含有率を60〜95%、より好ましくは70〜90%含有することで、シュー側の硬化時間を短縮し、液垂れ現象をなくすことができた。MDIのモル含有率が少ないと液垂れを起こし、加工性が悪い。一方MDIのモル含有率が多すぎると層間剥離を起こしやすくなる。
【0023】
MDIは、各種の異性体が存在するが、4,4'異性体が最も好ましい。
【0024】
TDIとMDIの混合物と反応させるポリオールとしてはポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールのいずれも使用することができる。ポリエーテルポリオールとしては、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリテトラメチレングリコールなどが挙げられる。またポリエステルポリオールとしては、フタル酸ポリエステルポリオール、ポリエチレンアジペート、ポリカプロラクタムエステル、ポリカーボネート、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペートなどが挙げられる。これらポリオールの平均分子量は200〜10000、特に400〜4000のものが好ましい。これらは単独でも、また2種以上の混合物として使用することもできる。
【0025】
ポリオールとジイソシアネートとから、ウレタンプレポリマーを製造する反応において、両者の混合比は、イソシアネート基/OH基当量比が1.3/1〜4/1、好ましくは1.4/1〜1.6/1の範囲となるようにするのが好ましい。
【0026】
かくして得られた末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーは一般には低粘度であり、これを硬化剤(連鎖延長剤)により連鎖延長することによって高分子量のポリウレタンが得られるが、本発明のポリウレタンと基体からなる製紙機械用ベルトを製造するに当たっては、ウレタンプレポリマーと硬化剤との混合物を織布等のベルト基体に含浸させ、加熱、硬化させることにより図1に示すような、基体の両面にポリウレタン樹脂が含浸、積層されたベルトが得られる。
【0027】
図1においてベルト10は、強度を持たせるための基体30とポリウレタン20とからなり、ポリウレタン20は湿紙または紙と接するフェルト側樹脂21と、シュー等の製紙機械側に接するシュー側樹脂22とで基体30を挟んで積層されている。図1では基体30はMD方向の糸材31と、CMD方向の糸材32とで織成された織布を用いているが、このほか両者を織成せずに重ね合わせたもの、フィルムや編物、狭い幅の帯状体をスパイラルに巻いたもの等が用いられる。またフェルト側樹脂21の表面(ベルト外周面)には、排水溝23を形成した構造とするのが好ましい。
【0028】
しかしこのような排水溝を設けると、製紙機械用ベルトの使用中に溝部分からの亀裂が生じ、クラックが発生しやすくなる。クラック発生防止にはMDIのモル含有率を多くすることが有効であるが、MDIのモル含有率が多すぎると耐摩耗性が悪くなることが実験からわかった。本発明ではフェルト側ポリウレタン樹脂におけるMDIモル含有率を本発明で特定することにより、両物性を総合的に向上させることができるので、このような排水溝つきシュープレスベルトに対しても、混合イソシアネートの使用は極めて有効である。
【0029】
排水溝形状としては、矩形溝を有するものの他、USP 6,296,738や、実用新案登録第3,104,830号公報に記載されているような溝側壁が曲線状のもの、外側に向かって拡がっているもの、溝底部がフラットで、その端部が丸底状であるものなどを適宜用いることができるが、本発明においては特に、図1、2に示すような断面が矩形で丸底の形状、または断面が台形で丸底の形状であり、かつ排水溝のランド部の端部が面取りされているものが好ましい。
【0030】
このような排水溝の形状の詳細を図2に示す。図2において、23は矩形の排水溝であり、これがベルトの移動方向と平行に並べて多数設けられている。その底部は24のように丸底の形状となっている。ランド部25は端部が面取りされており、これにより端部の欠損やランド部の耳欠けを防ぐ事が出来る。
また排水溝のサイズとしては、溝幅aが1〜4mm、深さcが0.5mm〜5mm、隣接する排水溝との間隔bが1〜4mmであるものが好ましく、排水溝をこのような、形状、サイズとすることと、フェルト側ポリウレタン樹脂におけるMDIモル含有率の調整とによってフェルト側ポリウレタン樹脂の物性を向上させることができた。
【0031】
本発明において使用する硬化剤は特に制限はないが、ジアミン系硬化剤、特にジメチルチオトルエンジアミン(DMTDA)及びメチレンビスオルソクロロアニリン(MBOCA)例えば3,3'-ジクロロ4,4'-ジアミノジフェニルメタン等を挙げることができるが、特にDMTDAがより好ましい。DMTDAはジメチルチオ基及びアミノ基の置換位置による各種異性体、例えば3,5-ジメチルチオ2,4-トルンジアミン、3,5-ジメチルチオ2,6-トルンジアミン等が存在するが、これら異性体混合物の形で使用することができ、米国アルベマール社製のEthacure300(商品名)として入手可能である。
【0032】
硬化剤による硬化反応は公知の方法で行なうことができる。硬化反応の温度は通常20〜150℃、好ましくは90〜140℃であり、少なくとも30分以上反応させるのが好ましい。
ウレタンプレポリマーと硬化剤とは、硬化剤の活性水素基とウレタンプレポリマーのイソシアネート基との当量比がO.9〜1.10となるような混合比で混合することが望ましい。
【0033】
基体としては織布、不織布、フィルム等が用いられるが、特に織布が好ましい。基体は材質又は構造の異なる2種以上の基体を積層して用いることもできる。
【0034】
シュープレスベルトは基体の両面にポリウレタン樹脂層が積層されているが、基体の両面にポリウレタン樹脂を積層させる方法は、例えば図3のように、ロール40、41間に基体30を掛け渡し、ロールを回転させながら、基体30上に塗布ノズル42から、まずシュー側樹脂22となるウレタンプレポリマーを塗布し、シュー側樹脂22を乾燥固化後に基体の表裏を反転させ、反対側にフェルト側樹脂21となるウレタンプレポリマーを塗布し、乾燥固化させる。
【0035】
かくして図4のように、ロール40、41間に掛け渡されたベルトが、基体30の両側(シュー側及びフェルト側)にウレタンプレポリマー22,21が含浸された状態で、上方に設けられた熱源43により、数時間加熱反応させ、硬化させる。硬化後ベルト表面を研磨し、必要に応じて更に外周面すなわちフェルト側樹脂21に排水溝33を形成する。本発明においては、排水溝23の断面は、矩形状で丸底形状、かつ排水溝のランド部の端部が面取りされるか、または台形で丸底形状、かつ排水溝のランド部の端部が面取りされているものが好ましいが、このような排水溝の形状は、溝切刃の形状により設定することができる。また、排水溝の溝幅、深さ、隣接する排水溝との間隔も、溝切刃の形状により所望の数値に設定することができる。
【実施例】
【0036】
本発明による、TDIプレポリマー/MDIプレポリマーの混合プレポリマー、或いはTDI/MDI混合ジイソシアネートを原料としてシュープレスベルを製造し、その物性を評価した。実施例に用いられたシュープレスベルトの構成は図1に示すとおりである。
【0037】
(ウレタンプレポリマーの製造)
TDIとMDIを、それぞれポリテトラメチレングリコールと、NCO/OH当量比が1.5/1となるように混合し、それを窒素置換した反応器に充填し、撹拌しながら50℃、3時間反応させ、反応生成物から未反応のイソシアネートを蒸留除去した後、残渣を濾過して、TDIプレポリマーとMDIプレポリマーとを製造し、両者を所定のモル比率で混合して、TDIプレポリマー/MDIプレポリマーの混合プレポリマーを得た。
一方、TDIとMDIとを所定のモル比率で配合し、これとポリテトラメチレングリコールとを上記TDIプレポリマー、MDIプレポリマーと同様にして、TDI/MDI混合ジイソシアネートからのウレタンプレポリマーを製造した。
【0038】
(硬化剤の添加)
硬化剤としてDMTDA(米国アルベマール社製"Ethacure 300"(3,5-ジメチルチオ2,4-トルンジアミン/3,5-ジメチルチオ2,6-トルンジアミンとの80部/20部混合物)を用意し、前記工程で得られた混合プレポリマー、又は混合ジイソシアネートから得られたプレポリマーとを、H/NCO当量比が0.97となるように混合した。
【0039】
(プレポリマー塗布)
図3に示すように、ロール40、41間に基体30を掛け渡し、ロールを回転させながら、基体30上にまず樹脂塗布ノズル42から、シュー側樹脂22となるウレタンプレポリマーを塗布し、シュー側樹脂22を乾燥固化させる。次に基体の表裏を反転させ、反対側にフェルト側樹脂21となるウレタンプレポリマーを塗布し、乾燥固化させる。
【0040】
(硬化)
かくして図4のように、ロール40、41間に掛け渡されたベルトが、基体30の両側(シュー側及びフェルト側)にウレタンプレポリマー22,21が含浸された状態で、上方に設けられた熱源43により、100℃、3時間反応させ、ついで130℃、5時間加熱し、硬化させた。ポリウレタンが硬化した後、ベルト表面を研磨し、更に外周面すなわちフェルト側樹脂21に排水溝として幅1mm、ピッチ2.5mmの矩形溝33を切削して、ベルト厚さ5mmに仕上げ、ポリウレタンと基体からなるベルトサンプルを得た。
【0041】
得られたベルトサンプルについて、下記の物性評価を行なった。
(1)加工性(液滴垂れ)
(2)層間剥離
(3)クラック試験
(4)磨耗試験
物性評価方法は下記のとおりである。
【0042】
加工性(液滴垂れ)
回転するロール上に基体を載置し、その上からウレタンプレポリマーを塗布する際の樹脂液の垂れ性を観察し、下記により評価した。
液滴垂れを起こさないもの:加工性良好
液滴垂れを起こすもの: 加工性不良
【0043】
層間剥離
シュー側を構成する樹脂とフェルト側を構成する樹脂との境界面に切れ目を入れ、強伸度試験機で引き裂きその時の強度の最大値で評価した。
【0044】
耐クラック性試験
図5に示す装置を用いて測定した。試験片51は両端がクランプハンド52,52により挟持され、クランプハンド52,52が、連動して左右方向に往復移動可能に構成されている。試験片51に掛けられる張力は3kg/cm、往復速度は40cm/秒である。
また、試験片51は、回転ロール53と、プレスシュー54とにより挟まれ、プレスシューを回転ロール方向に移動することにより、36kg/cm2で加圧される。
この装置により、試験片に往復運動を繰り返し、試験片51の回転ロール側の面にクラックが生じるまでの往復回数を測定し、下記の4段階で評価した。
20万回以上:優
10〜20万回:良
2〜10万回 :やや悪い
2万回以下 :悪い
【0045】
耐磨耗性
図6に示す装置を用いて測定した。図6において試験片51はプレスボード55の下部に取り付けられ、その下の面(測定対象面)は回転ロール56に接触し押圧される。回転ロール56の外周には、摩擦子57が設けられ、圧力6kg/cm、回転ロールの回転速度100m/分で、加圧下での回転ロールとの接触摩擦を10分間行い、試験後の試験片51の厚み減少量を測定し、下記の4段階で評価した。
磨耗量 0.05mm以下 :優
磨耗量 0.05〜0.5mm:良
磨耗量 0.5〜0.8mm :やや悪い
磨耗量 0.8mm以上 :悪い
【0046】
[実施例1〜5及び比較例1〜5](混合プレポリマー)
シュー側及びフェルト側のウレタンプレポリマーとして、表1に示すモル比率で混合したTDIプレポリマー/MDIプレポリマー混合プレポリマーを用いて、各種ベルトサンプルを作成し、シュー側、フェルト側の物性を評価した。結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
[実施例6〜10及び比較例6〜11](混合ジイソシアネート)
シュー側及びフェルト側のウレタンプレポリマー製造原料であるジイソシアネートの混合比率をそれぞれ表2のとおりにして、ベルトサンプルを作成し、シュー側、フェルト側の物性を評価した。結果を表2に示す。
【0049】
【表2】

*硬化剤
DMTDA:ジメチルチオトルエンジアミン
MOCA:4,4'-メチレンビス-(2-クロロアニリン)
【0050】
表1の結果から明らかなように、TDIプレポリマーとMDIプレポリマーとの混合割合が、シュー側ベルトの方が、フェルト側ベルトよりもMDIのモル含有率が多くなるように設定し、然もシュー側、フェルト側において、特定の範囲内とした本発明のシュープレスベルト(実施例1〜5)の加工性は良好で、かつシュー側の層間剥離、フェルト側の耐クラック性及び耐磨耗性の結果は良好であった。
【0051】
また、表2の結果から明らかなように、ポリウレタンプレポリマーの原料ジイソシアネートに、TDI/MDIの混合ジイソシアネートを用い、かつそれをシュー側、フェルト側において、特定の範囲内とした本発明のシュープレスベルト(実施例6〜10)は加工性良好で、かつシュー側の層間剥離、フェルト側の耐クラック性、耐摩耗性は一部にやや不良を示すものも含むが、使用限界範囲内であり総じて結果は良好である。これに反し、シュー側においてTDI単独の場合(比較例6)、あるいはMDIのモル含有率の少ないもの(比較例8)は加工性が不良であり、またMDI単独の場合(比較例7)は層間剥離を起こす。またフェルト側においてTDI単独の場合(比較例6)及びMDI含量の少ないもの(比較例9)は耐クラック性が劣り、またMDIのモル含有率の多いもの(比較例10)は耐摩耗性が劣る結果となっている。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は基体と、その両面に含浸積層されたポリウレタンとからなるシュープレスベルトにおいて、ポリウレタン樹脂が、(1)TDIとポリオールとを反応させて得られたTDIプレポリマー、及びMDIとポリオールとを反応させて得られたMDIプレポリマーとの混合物から得られたポリウレタン樹脂、あるいは(2)ウレタンプレポリマー製造原料であるジイソシアネートとして、TDI/MDI混合ジイソシアネートとを反応させて得られたウレタンプレポリマーから得られたポリウレタン樹脂を用い、いずれの実施態様においても、TDIプレポリマーとMDIプレポリマーとの混合割合が、シュー側ポリウレタン樹脂の方が、フェルト側ポリウレタン樹脂よりもMDIのモル含有率を多くし、好ましくはシュー側においてはMDIのモル含有率60〜95%、特に好ましくは70〜90%、フェルト側においてはMDIのモル含有率5〜50%、特に好ましくは10〜40%としたことにより、耐クラック性、耐摩耗性、加工性等の優れたシュープレスベルトが提供される。
【0053】
これによって、高圧下、高速で走行する過酷な条件においても、クラックや摩耗によるベルトの損傷が少なく、耐久性が増し、ベルトが長期間使用できることによるコストの削減、架け替えによる運転休止時間の短縮による生産性の向上が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明のシュープレスベルトの断面図である。
【図2】排水溝の断面図である。
【図3】本発明のシュープレスベルト製造工程を示す。
【図4】本発明のシュープレスベルト製造工程を示す。
【図5】耐クラック性試験装置。
【図6】耐摩耗性試験装置。
【符号の説明】
【0055】
10 ベルト
20 ポリウレタン
21 フェルト側樹脂
22 シュー側樹脂
23 排水溝
24 底部
25 ランド部
30 基体
31 MD方向の糸材
32 CMD方向の糸材
40、41 ロール
42 樹脂塗布ノズル
43 熱源
51 試験片
52 クランプハンド
53 回転ロール
54 プレスシュー
55 プレスボード
56 回転ロール
57 摩擦子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、そのシュー側およびフェルト側の両面に含浸積層されたポリウレタン樹脂とからなるシュープレスベルトにおいて、前記ポリウレタン樹脂がいずれも、トリレンジイソシアネート(TDI)とポリオールとを反応させて得られた、末端にイソシアネート基を有するTDIプレポリマー、及びジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)とポリオールとを反応させて得られた、末端にイソシアネート基を有するMDIプレポリマーとの混合プレポリマーと、硬化剤との反応により得られ、TDIプレポリマーとMDIプレポリマーとの混合割合が、シュー側ポリウレタン樹脂の方が、フェルト側ポリウレタン樹脂よりもMDIのモル含有率が多いことを特徴とするシュープレスベルト。
【請求項2】
シュー側ポリウレタン樹脂が、MDIのモル含有率で60〜95%含有することを特徴とする請求項1記載のシュープレスベルト。
【請求項3】
フェルト側ポリウレタン樹脂が、MDIのモル含有率で5〜50%含有することを特徴とする請求項1記載のシュープレスベルト。
【請求項4】
基体と、そのシュー側およびフェルト側の両面に含浸積層されたポリウレタン樹脂とからなるシュープレスベルトにおいて、前記ポリウレタン樹脂が、いずれもトリレンジイソシアネート(TDI)とジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)との混合物とポリオールとを反応させて得られた、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと硬化剤との反応により得られ、TDIとMDIとの混合物が、シュー側ポリウレタン樹脂の方が、フェルト側ポリウレタン樹脂よりもMDIのモル含有率が多いことを特徴とするシュープレスベルト。
【請求項5】
シュー側ポリウレタン樹脂が、MDIのモル含有率で60〜95%の混合ジイソシアネートとポリオールとを反応させて得られた、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと硬化剤との反応により得られたものであることを特徴とする請求項4記載のシュープレスベルト。
【請求項6】
フェルト側ポリウレタン樹脂が、MDIのモル含有率で5〜50%の混合ジイソシアネートとポリオールとを反応させて得られた、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーと硬化剤との反応により得られたものであることを特徴とする請求項4記載のシュープレスベルト。
【請求項7】
硬化剤がジメチルチオトルエンジアミンであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のシュープレスベルト。
【請求項8】
フェルト側樹脂の表面に排水溝を形成した構造である請求項1〜7のいずれかに記載のシュープレスベルト。
【請求項9】
排水溝の断面が矩形状で丸底の形状で、かつ排水溝のランド部の端部が面取りされている請求項8に記載のシュープレスベルト。
【請求項10】
排水溝の断面が台形で丸底の形状で、かつ排水溝のランド部の端部が面取りされている請求項8に記載のシュープレスベルト。
【請求項11】
排水溝の溝幅が1〜4mm、深さが0.5mm〜5mm、隣接する排水溝との間隔が1〜4mmであることを特徴とする請求項8〜10に記載のシュープレス用ベルト。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−119979(P2007−119979A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−319091(P2005−319091)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(000180597)イチカワ株式会社 (99)
【Fターム(参考)】