説明

ショックアブソーバー

【目的】 軽量且つ安価なアルミニウム合金製のサスペンションストラット等の曲げ荷重を受ける自動車用ショックアブソーバーの提供。
【構成】 下端にフランジ状のブラケット受け部15を有するベースシェル1をアルミニウム合金の冷間鍛造で形成し、ブラケット部2をアルミニウム合金の押出形材で一体成形して該ベースシェルをブラケット部内に挿入嵌合して主要構造を構成することにより、曲げ荷重に対する強度を付与する。更に、該受け部上面をブラケット部下端と所定の開先となる角度に形成し又はブラケット部側面に溶接用切欠部を設けて溶接する。ベースシェル外周とブラケット部内周とに突条と凹溝とを設けて嵌合することにより外周廻りの外力に強度を付与し、また、該突条上端をスプリング受け部とすることにより、充分な支持強度を付与できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、自動車等のサスペンション構造において車輪支持機構の反発エネルギーを吸収してダンパー作用を果たすショックアブソーバーに関する。特に、サスペンションアームとして外力に対して曲げモーメントの一部を負担し、サスペンションストラットとして機能するショックアブソーバーに関する。
【0002】
【従来の技術】近年地球環境保護という観点から、省エネルギーによる二酸化炭素排出量の抑制及びリサイクルの促進が求められており、自動車についてもその影響が大きいことから、省エネルギー及びリサイクルへの取り組みが欠かせないものとなっている。アルミニウム合金材は構造重量の軽量化に有効であり、リサイクル容易な素材であるため、自動車の構造や部品のアルミニウム合金化が進められているが、アルミニウム合金材と従来用いられていた鋼材とはその比重のみでなく強度や硬度等の材質上の相違から、鋼製部品の構造や製造工程をそのままアルミニウム合金材に適用すると種々の問題が生じる。近年、自動車等のサスペンション構造において比較的簡単な構造にできると共に車内有効容積を広く取ることができることからショックアブソーバーにサスペンションアームとしての機能を持たせたいわゆるサスペンションストラットを組み込んだマクファーソン式サスペンション等が普及している。
【0003】従来、これらのサスペンションストラットとして機能するショックアブソーバーは鋼製パイプ(ベースシェル)と鋼製プレス部品(ブラケット、スプリングシート)とを溶接して構成するものが一般的で、これらの鋼製部品は材質的に剛性、強度共に優れているが、軽量化を図るには材質的な限界があり、一体化構造としたり荷重分布に応じた断面構造とする等の構造上の工夫も加工工程が複雑になり、製造コストからも採用し難い。また、上記のパイプとプレス部品を溶接してなる構造も、ブラケットをベースシェルの取付構造となる中空のベースシェルを捲回して締め付けて固定する部品とこれを車軸側に取り付けるブラケットとを別体として形成してこれらを共にベースシェルに溶接するため、部品点数も多くなって重量も嵩み、また製造工程数も多いため製造コストも低減できなかった。
【0004】これら自動車等のサスペンションに用いられるショックアブソーバーについても、サスペンションアーム等のリンク機能を持たず軸方向の荷重のみを負担するタイプのものはこれまでアルミニウム合金製のものが実現しており、いわゆるサスペンションストラットのようにサスペンションアームとしての機能を兼ねる構造となるとショックアブソーバー単独の作用を行うもの以上に軽量化効果が期待されるが、サスペンションストラットにおいては、ダンパーとしての機能のほか外力の曲げモーメントをも負担することから曲げ剛性及び曲げ強度に対する要求が極めて厳しく、アルミニウム合金とすることが困難であった。
【0005】すなわち、サスペンションストラットでは、ショックアブソーバーのベースシェル下方のブラケット取付位置近傍に曲げ及び応力が集中し、これに応えるため肉厚等を大幅に増して強度を向上することはアルミニウム合金材の使用量を大幅に増し、反って重量の増加を来すばかりか、アルミニウム合金材は素材原価の比率が大きいためコストの上昇を招くこととなった。また、鋼製のサスペンションストラットと同様に部材を溶接によって結合して構成すると、アルミニウム合金は熱伝導率が高くしかも比較的低温で熱処理効果が表れるため、溶接個所周辺に溶接入熱の影響が及んで軟化し強度低下を来す。前記のような従来のベースシェルとブラケット部品とを組合せて溶接する構造においてはこれが上記の応力集中箇所近傍に相当するため、アルミニウム合金化を図る上でこのような構造を採用することはできない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、強度及び剛性の観点から鋼製サスペンションストラットと比べて遜色なく、尚且つ製造が容易で大幅なコスト上昇とならないアルミニウム合金製の自動車用ショックソーバー、特にサスペンションストラットとして好適なショックアブソーバーを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、その目的を達成するため、アルミニウム合金の冷間鍛造により形成したベースシェル及びアルミニウム合金の押出形材により一体に形成したブラケット部からなり、該ブラケット部内に該ベースシェルを挿入嵌合して主要構造を構成してなる曲げ荷重を受ける自動車用ショックアブソーバーであり、前記ベースシェルの下端部には冷間鍛造によりフランジ状ブラケット部受け部を形成してなり、さらに前記ベースシェルの下端部のフランジ状ブラケット部受け部上面に傾斜面を形成し、該フランジ上面の傾斜をブラケット部との間で溶接の際の溶込みが充分で健全な溶接部が得られるための開先角度に形成し、ブラケット部をベースシェル上端から挿入嵌合してブラケット部とブラケット部受け部とを溶接してなるものであり、
【0008】また、前記ブラケット部の円筒部側面に溶接用切欠き部を形成して、該切欠き部においてベースシェルとブラケット部とを溶接して一体化してなるものであり、更に、前記ベースシェルの外周部に軸方向に沿う突条を形成し、ブラケット部には該突条と嵌合する凹溝を形成して両者を軸方向に嵌合することによって構成し、また、上記ベースシェルの突条をベースシェルの軸方向途中から形成し、該突条上端をベースシェル上部より挿入嵌合されたスプリングシートの受け部としてスプリングシートに加えられる荷重を支持するものであり、また更に、上記ショックアブソーバーがサスペンションアームとして機能するサスペンションストラットであることを特徴とする。
【0009】
【作用】請求項1にかかる構造は、ショックアブソーバーとしての構造上高い寸法精度を要求されるベースシェルを冷間鍛造によって形成し、取付のためのブラケット等の突出部などの複雑な断面構造を必要とするブラケット部を、押出し加工により形成してそれぞれアルミニウム素材に適した加工法により形成することにより、その構造上の要求と生産性及びコストからの要求とを両立せしめ、アルミニウム合金製のショックアブソーバーを安価に提供可能としたものである。特にこのようにして形成されたベースシェルとブラケット部との嵌合構造は、両者を密着した状態に維持できるため、ベースシェル下方に加わる曲げ荷重をブラケット部に円滑に伝えて補強することができるものであり、ベースシェル全体の肉厚を増す等の格別の構造を採用することなくこれらに加わる曲げ及び応力の集中箇所に所定の強度及び剛性を付与することができる。請求項2の構成によれば、ブラケット部をベースシェルに挿入嵌合して溶接する際に、特別な治具や仮止め手段等を講じることなく所定の位置に容易且つ正確に設定することができる。
【0010】また、請求項3のフランジ状ブラケット部受け部は、ブラケット部をベースシェルに嵌合する際の位置決め機能を有すると共に、その上面の傾斜面によりブラケット部切断面との間に所定の角度の開先を形成するものであるから、格別の治具や仮止め手段を用いることなく、溶接の際のセッティング及び開先形状を得ることができ、且つ例えば、ブラケット部を嵌合後ベースシェルを水平に支持して回動しながら溶接することにより一定の溶接条件で溶接することができ、溶接作業を容易に行うことができる。
【0011】請求項4のブラケット部の側面に形成した溶接用切欠き部によれば、曲げ及び応力の集中するブラケット部嵌合部上端近傍を避けて溶接することができ、ベースシェルに溶接入熱による熱影響による軟化、強度低下等の影響を与えることのない強固な溶接一体化構造とすることができる。更に、この切欠き部による構成は、ベースシェル外周に沿って任意の位置に形成できるから強度上の要求に応じて充分な溶接ビード長さを確保することができると共に、溶接入熱をブラケット部に分散して逃がすため寸法精度を要求されるベースシェルに対して溶接の際の熱影響による歪み等の寸法変化を回避することができる。
【0012】請求項5のベースシェルとブラケット部とに形成した突条と凹溝による嵌合構造は、ショックアブソーバーに加わる軸廻りの外力に対して十分な強度を与えるものであり、また、この突条を形成する位置をベースシェルのスプリングシートの取付位置下方として、その上端をベースシェル上方から嵌合したスプリングシートの受け部とすることにより、ストッパー機能と共にその下向きの荷重を受ける支持構造として充分な強度を付与することができる。更に、このようにして形成されたショックアブソーバーは、サスペンションアームとしての機能を兼ねることにより、サスペンションストラットとして優れた機能を果たすことができる。
【0013】
【発明の実施の態様】本発明のショックアブソーバーの構造及び製造工程を以下に図面を参照しながら具体的に説明する。冷間鍛造により形成するベースシェルのアルミニウム合金素材として、JIS−A6063又はJIS−A6061のT4材を用い冷間鍛造後T8熱処理を施して用い、押出しにより成形するブラケット部のアルミニウム合金素材として、JIS−A6063をT5熱処理したもの又はJIS−A6061材をT6熱処理したものを使用した。
【0014】図1は、本発明のショックアブソーバーの全体概略図であり、1は中空チューブ構造のベースシェル、2はブラケット部である。ショックアブソーバーのピストンに結合するロッド5は車体側ストラットタワー40にネジ部6で固定され、ブラケット部2はそのブラケット21で車軸側に取り付けられて、車体側のストラットタワー40の下面とベースシェルに固定されたスプリングシート7との間に介装したスプリング8を介して車軸に加わる荷重を支持する。このタイプのショックアブソーバーは、このスプリングによる反発力をダンパー作用により吸収するが、サスペンションアームとしてその一端を車体側に固定されているため、その荷重により車体側から曲げ荷重が加わり、特にその曲げ荷重はベースシェル下方のブラケット部の嵌合位置近傍に集中する。
【0015】本発明のショックアブソーバーにおいては、ブラケット部がベースシェル下方のこれら曲げ荷重の集中する箇所に嵌合する構造を有しており、後述するようにベースシェルを加工精度の優れた冷間鍛造により、またブラケット部を押出しによる一体構造としてその内周面の加工精度を向上できることにより、嵌合部を密着した状態で一体化できるため、ベースシェルに加わる曲げ荷重は直接ブラケット部に伝えられてその荷重を分担することができる。このため、ベースシェルをこれら曲げ荷重の集中する箇所に合わせて肉厚を増す等して全体の剛性、強度を持たせる必要はなく、簡単な構造で軽量化を達成できる。
【0016】図2に本発明のショックアブソーバーのベースシェルを示す。ベースシェル1は冷間鍛造により成形してなり、有底円筒形状に形成されるがその底部にフランジ状のブラケット受部15を設け、ブラケットを後述するようにベースシェル底部で溶接して固定する場合にはブラケットの下端断面との間に所定の角度の溶接開先となるように傾斜角度θに形成する。図3に本発明のブラケット部2を示す。ブラケット部はアルミニウム合金押出し加工により所定のブラケット21を設けた断面形状の連続した形材として形成され、所定の長さに切断して取付け用の孔22を形成し、取付部構造に応じて不要箇所を切除して破線に示すような形状に成形する。25は、後述する溶接部となる切欠き部である。
【0017】本発明のショックアブソーバーは、図4に示すように冷間鍛造により成形したベースシェル1に押出し加工材を切断して形成したブラケット部2を上方から挿入・嵌合して前記したようにベースシェル底部に形成したフランジ状受け部15に当接させ、該フランジ部上面とブラケット部下端の切断面との間でその間隔と角度が所定の開先形状となるようにして、両者を溶接固定する。この溶接構造によれば、溶接部がベースシェルの曲げ応力の集中する箇所から充分に離れた箇所に確保され、且つ冷間鍛造により所定の開先加工が同時に行われ、また、押出し加工材からブラケット部として切出す際に直角に切断するのみで良いため材料の無駄もない。
【0018】また、ベースシェルのブラケット部への溶接に際して、ブラケット部側面に切欠き開口25を設けてその切欠き端縁をベースシェルとの溶接個所に利用する他の実施例を図5に示す。図において切欠き部25をブラケット部側面に対称に1対あるいは適数形成し、その端縁部を溶接部26としてベースシェルに溶接する。この構造によれば、ベースシェルに曲げの集中するベースシェル下方のブラケット部上縁部近傍から離れた位置において溶接個所を確保できる。また、ブラケット部により補強された領域にあるため、強度的に余裕があり、溶接強度上必要な溶接部の長さも切欠きの縦横の端縁全体を溶接し、あるいは更に必要であれば切欠き部を増設することにより確保することができる。
【0019】図6及び7はそれぞれベースシェル外周及びブラケット部内周に軸方向に突条30及びこれを嵌合する凹溝31を形成したもので、ベースシェルとブラケット部との間に加わる外周方向の力に対して嵌合して強固に固定作用を持たせることができる。又、ベースシェルには前記したように曲げが加わるが、この突条は補強構造として強度を付与できることから、軽量且つコスト低下の効果がある。この突条の断面形状は、これらの強度及び加工上の都合により、その高さ及び幅を適宜設定すればよい。また図8に示すようにベースシェル外周の突条を途中までとし、その上端33を図9の組立外観図に示すようにサスペンションスプリング8を受けるスプリングシート7を溶接するための受け部とすることによりその荷重を負担せしめるための十分な強度を付与することができる。突条をベースシェル途中のスプリングシート受け位置までとしてその上方を凸無し部32の形状とするには、突条を形成後切除しても良く、また予め鍛造により所定の形状に仕上げても良い。
【0020】
【発明の効果】以上に説明したように、本発明によれば、サスペンションストラット等の曲げ荷重を受けるショックアブソーバーの構造をアルミニウム合金材の特性に適した構造及び加工方法で形成することにより、省エネルギー及びリサイクルに適したアルミニウム合金による軽量化を達成すると共に、その生産性を向上し、製造コストの低減を容易に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のショックアブソーバー外観略図
【図2】 本発明のショックアブソーバーのベースシェル
【図3】 本発明のショックアブソーバーのブラケット部
【図4】 ベースシェルとブラケット部との溶接部断面
【図5】 ブラケット部の切欠き部端縁により溶接した実施例
【図6】 ベースシェルに突条を形成した実施例
【図7】 ブラケット部に凹溝を形成した実施例
【図8】 ベースシェル外周の突条上端をスプリングシート受け部とする実施例
【図9】 ベースシェル外周の突条上端をスプリングシート受け部とした組立図
【符号の説明】
1:ベースシェル 2:ブラケット部 5:ロッド 6:ネジ部 7:スプリングシート 8:サスペンションスプリング 15:ブラケット部受部 21:ブラケット 22:孔 25:溶接用切欠き部 26:切欠き部端縁溶接部 30:突条 31:凹溝 32:凸無し部 33:突条上端 40:ストラットタワー

【特許請求の範囲】
【請求項1】 アルミニウム合金の冷間鍛造により形成したベースシェル及びアルミニウム合金の押出形材により一体に形成したブラケット部からなり、該ブラケット部内に該ベースシェルを挿入嵌合して主要構造を構成してなる曲げ荷重を受ける自動車用ショックアブソーバー。
【請求項2】 前記ベースシェルの下端部には冷間鍛造によりフランジ状ブラケット部受け部を形成してなる請求項1記載の自動車用ショックアブソーバー。
【請求項3】 前記ベースシェルの下端部のフランジ状ブラケット部受け部上面に傾斜面を形成し、該フランジ部上面の傾斜をブラケット部との間で溶接の際の溶込みが充分で健全な溶接部が得られるための開先角度に形成し、ブラケット部をベースシェル上端から挿入嵌合してブラケット部とブラケット部受け部とを溶接してなることを特徴とする請求項2記載の自動車用ショックアブソーバー。
【請求項4】 前記ブラケット部の円筒部側面に溶接用切欠き部を形成して、該切欠き部においてベースシェルとブラケット部とを溶接して一体化してなることを特徴とする請求項1、2又は3記載の自動車用ショックアブソーバー。
【請求項5】 前記ベースシェルの外周部に軸方向に沿う突条を形成し、ブラケット部には該突条と嵌合する凹溝を形成して両者を軸方向に嵌合することを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の自動車用ショックアブソーバー。
【請求項6】 前記ベースシェルの突条をベースシェルの軸方向途中から形成し、該突条上端をベースシェル上部より挿入嵌合されたスプリングシートの受け部としてスプリングシートに加えられる荷重を支持することを特徴とする請求項5記載の自動車用ショックアブソーバー。
【請求項7】 前記ショックアブソーバーがサスペンションアームとして機能するサスペンションストラットであることを特徴とする請求項1〜6記載の自動車用ショックアブソーバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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