説明

ショートアーク型放電ランプ

【課題】レーザービーム照射又は電子ビーム照射による溶接法によって、内部リード棒と集電円板とを強固に接合でき、信頼性の高いショートアーク型放電ランプを提供すること。
【解決手段】集電円板21と内部リード棒保持用筒体16との当接部が、集電円板21の内端面と混合層と集電円板構成材料の境界線(L)とが交わる交点(A)を越えて、混合層21aに達するよう形成されている。a>bとして引きはがす応力を緩和する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧水銀灯などのショートアーク型放電ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
図5は、ショートアーク型放電ランプの説明用断面図である。
この放電ランプにおいて、バルブ10は、石英ガラスにより形成され、発光空間Sを囲繞する楕円球形の発光管部11と、この発光管部11の両端から外方に伸びるよう連設された筒状の封止管部12とにより構成されており、それぞれ当該発光管部11に続く封止管部12の発光管部11に接近した個所に、封止管部12の一部が縮径された状態の絞り込み部12aが形成されている。
バルブ10の発光管部11内には、陽極13および陰極14が互いに対向するよう配置されており、その各々は、封止管部12から発光管部11に管軸に沿って伸びる例えばタングステンよりなる円柱状の内部リード棒15の先端に固定されて支持されている。バルブ10の発光管部11内には、キセノン、アルゴン、クリプトン等の希ガス若しくはこれらの混合物よりなる封入ガスおよび水銀などの発光物質が封入されている。内部リード棒15の基端部は、内部リード棒保持用筒体16と封止用ガラス部材17の間に配置された集電円板21に接続される。この集電円板21の中心には、内部リード棒15の外径に適合する内径の孔が形成されており、かかる内部リード棒は挿入された状態で接続されている。
バルブ10の封止管部12内においては、発光管部11に接近した位置に、内部リード棒15の外径に適合する内径の筒孔を有する石英ガラスよりなる内部リード棒保持用筒体16が、当該内部リード棒15が挿通された状態で配置され、この内部リード棒保持用筒体16の外周面は、封止管部12の一部である絞り込み部12aの内面に溶着され、当該内部リード棒保持用筒体16の一端面16aが発光空間Sに露出している。封止管部12内における内部リード棒保持用筒体16の外端側には、封止用ガラス部材17が配置されている。この封止用ガラス部材17においては、その発光空間S側の内端部171が外端に向かうに従って大径となる円錐台状に形成され、この内端部171に続いて、封止管部12の内径に適合する外径の円柱状の胴部172が形成されている。また、この封止用ガラス部材17には、その外端面から軸方向に沿って伸びる有底孔173が形成されており、この有底孔173には、その内径に適合する外径の外部リード棒18が挿入されている。
封止用ガラス部材17の外周面には、モリブデンよりなる複数の帯状の金属箔20が、当該封止用ガラス部材17の周方向に互いに離間して配置されており、金属箔20の各々の内端部は、集電円板21に接続されて内部リード棒15と電気的に接続されており、一方、金属箔20の各々の外端部は、封止用ガラス部材17の外端面に沿って伸びて外部リード棒18に接続され、当該封止用ガラス部材17の内端から外端に向かって伸びている。また、封止用ガラス部材17の外周面は、金属箔20を介して封止管部12の内面に気密に溶着されている。
封止用ガラス部材17の外端側には、外部リード棒18の外径に適合する筒孔を有する石英ガラスよりなるリード棒保持用筒体19が、当該外部リード棒18が挿通された状態で配置されており、このリード棒保持用筒体19の外周面は、封止管部12の内面に気密に溶着されている。
【0003】
以上において、内部リード棒15と集電円板21はロウ付けや抵抗溶接によって接合されているが、これらの手段は接合状態の安定性・信頼性の面、または製造コスト面から種々の問題がある。
【0004】
すなわち、内部リード棒と集電円板をロウ付けにより接合する場合、下記問題がある。
(1)まず、ロウ材は、ランプ点灯時の内部リード棒が到達する温度から、約1000℃という高温下での使用に長時間耐えられる材料であることが要求される。更に、内部リード棒と集電円板の接合に用いられるよう、両部材に対して濡れ性の良好な材料であることも要求される。内部リード棒の材質は電極構成材料と同質のタングステンが、集電円板の材質には加工性と耐熱性の観点からモリブデンが使用されることが多く、これらの金属に対して濡れ性が良好で、かつ、耐熱性を有する材料として、プラチナ(Pt)が好適に使用されている。
而して、プラチナは融点がモリブデンの再結晶温度(〜1200℃)を上回る金属であり、ロウ付け工程において内部リード棒及び集電円板全体をその融点以上に加熱した場合、モリブデンの再結晶化が生じて集電円板が脆化し、割れやすくなる。その結果、集電円板に内部リード棒を介して電極の荷重などの負荷が過剰に加わった場合には、脆性破壊が引き起こされる可能性がある。
(2)また、水銀が発光管部内に封入されたランプでは、プラチナは水銀と反応して合金化し、融点が下がることがあるため、内部リード棒と集電円板の接合部が溶融する可能性がある。
(3)また、ロウ付けする工程においては、内部リード棒及び集電円板全体をロウ材の融点以上に加熱する必要がある。このため、バッチ式の炉内に未接合状態の内部リード棒及び集電円板をセットして、炉内部を真空に維持し、1800℃以上に昇温して加熱し、ロウ付けするが、その際、昇温、維持、徐冷の一連の工程に多大な時間が掛り、生産性に乏しい。
【0005】
一方、抵抗溶接では下記のような問題がある。
まず、円柱側面に対する溶接であるため抵抗値が安定せず、接合部強度が不安定である。更に、内部リード棒と集電円板における電気的接続の信頼性と機械的強度の確保のため多点溶接しているが、抵抗溶接では接続点の増加とともに抵抗値が変化するため、結局、接合部強度が安定しなくなる。このように接合部の強度が安定しない結果、溶接外れを引き起こしやすくなる。溶接外れを起こしてしまうと、機械的破壊に至らずとも、接合部の接触面積が小さくなり、その結果、抵抗値が大きくなり、点灯時の電流による抵抗熱が増加し、過熱し、溶融破壊に至る。特に大型の大電流タイプのランプでは過熱による破壊の可能性が高まる。
【特許文献1】特開2003−132838号公報
【特許文献2】特開2003−323866号公報
【特許文献3】特開2002−8586号公報
【特許文献4】特開平11−342479号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のことから、従来のロウ付けや抵抗溶接に代わる方法により、集電円板と内部リード棒を接続する方法の検討が望まれている。このような事情に鑑み、本発明者らは、接合対象の部材同士の溶融による接合を検討し、その具体的手段として、レーザービーム溶接法又は電子ビーム溶接法による内部リード棒と集電円板の接合について鋭意検討を行った。レーザービーム溶接及び電子ビーム溶接は、基本的に、他の部材を用いることなく被接合部材の接合部近傍を融点以上に加熱して相互の物質の融合により接合するものであり、ロウ材等の他の物質を用いる必要もなく、強固な接合状態が得られると考えられると考えられる。
【0007】
ところが本発明者らが検討した結果、集電円板と内部リード棒とをこれらの手段により接合したものにおいても、十分な機械的強度が得られない場合があるということが判明した。
【0008】
このような不具合が発生した現象について、以下、レーザービーム溶接法による溶接部を例に挙げて詳細に説明を行う。
図6(a)は、内部リード棒15と集電円板21とのレーザービーム溶接法による接合部を、ランプの管軸を通る断面で切断した説明用断面図である。
本発明者らが内部リード棒15と集電円板21の、レーザービーム溶接法による接合部状態について詳細に検討した結果、以下のようなことが判明した。
【0009】
集電円板は、(イ)「電極の重みを支える」、(ロ)「電流を流す」の2つの役割を果たすものである。ここでは破断の原因究明について検討するので、前者の(イ)について、図6(a),(b)及び図7を参照して詳述する。
電極13及び内部リード棒15の重みを支える様子は図6(a)の通りであり、すなわち、集電円板21が内部リード棒保持用筒体16に支持されることによって集電円板21に連設された内部リード棒15が電極13を保持している。その結果、内部リード棒保持用筒体16と集電円板21の接触部分には、集電円板21を図の上方に押し上げる力Fが働くことになる。
【0010】
更に拡大した図が図6(b)である。内部リード棒15は電極(13)の重みにより、図の下方に引っ張られ、集電円板21と保持用筒体接触部(集電円板21が保持用筒体16により支持される最小径部)ないし内部リード棒15までの間に張力Tが発生する。
このような応力状態にさらされた結果、溶接箇所が破断すると推察される。
【0011】
図6(b)において、円で囲んだ溶接部W近傍を、図7に更に拡大して図示する。なお、図7では、便宜上、上方に位置した封止用ガラス部材(17)を省略して記載している。
図7において、内部リード棒15を構成するタングステンと、集電円板21を構成するモリブデンの2種の金属が混在する層が混合層21aである。そして、同図中符号21bで示す部分は、材質としてはモリブデンにより構成されるが、溶接時の高温によって部分的に形成されたモリブデンの再結晶部である。また、符号21cは、当初のモリブデン相であり、非再結晶部である。このように溶接部に再結晶が生じるのは、融点が異なる材質同士の溶接の特徴であるが、より高融点の金属が融けるように温度を調節するため、融点の低い金属は必要以上の熱を得て再結晶してしまうためである。なお、タングステンの再結晶温度は約2000℃〜、モリブデンの再結晶温度は約1200℃〜である。
【0012】
この結果、混合層21aはモリブデンの再結晶部21bとの間で境界Lを形成するが、この境界Lにおいては他の界面より結合力が弱く、引き裂く方向に応力(張力T)がかかると、矢印Nの方向に亀裂が発生し、境界Lに沿って破断することがわかった。
なお、こうしたLのような境界は、レーザービーム溶接法のほか、電子ビーム溶接法によった溶接部においても同様に形成される。
【0013】
以上のことに鑑み、この発明が解決しようとする課題は、レーザービーム照射又は電子ビーム照射による溶接法によって、内部リード棒と集電円板とを強固に接合でき、信頼性の高いショートアーク型放電ランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明にかかるショートアーク型放電ランプは、
発光管部及び発光管部の両端に連設された封止管部とよりなるバルブと、
発光管部内に互いに対向配置された陰極及び陽極と、
陰極又は陽極を先端に有する内部リード棒と、
内部リード棒が貫通し、バルブの封止管部内に配置されたリード棒保持用筒体と、
リード棒保持用筒体の外端面に沿って前記封止管部内に配置され、その中心に形成されたリード棒挿入孔に内部リード棒の基端部が挿通されて接続された集電円板と、
当該集電円板にその一端が接続され、封止管部内に気密に埋設された金属箔と、
該金属箔の他端に接続されて封止管部外に導出された外部リード棒と、
を具備してなるショートアーク型放電ランプであって、
集電円板と内部リード棒は、レーザービーム溶接法、又は、電子ビーム溶接法によってそれぞれの構成材料が溶融して構成された混合層が、集電円板内端面のリード棒挿入孔近傍に形成されることにより、接合されており、
集電円板と内部リード棒保持用筒体との当接部の少なくとも一部が、ランプ管軸を通る断面上に形成された集電円板の内端面と混合層と集電円板構成材料の境界(L)とが交わる交点(A)を越えて、混合層に達するよう形成されている
ことを特徴とする。
【0015】
また、発光管部及び発光管部の両端に連設された封止管部とよりなるバルブと、
発光管部内に互いに対向配置された陰極及び陽極と、
陰極又は陽極を先端に有する内部リード棒と、
内部リード棒が貫通し、バルブの封止管部内に配置されたリード棒保持用筒体と、
リード棒保持用筒体の外端面に沿って前記封止管部内に配置され、その中心に形成されたリード棒挿入孔に内部リード棒の基端部が挿通されて接続された集電円板と、
当該集電円板にその一端が接続され、封止管部内に気密に埋設された金属箔と、
該金属箔の他端に接続されて封止管部外に導出された外部リード棒と、
を具備してなるショートアーク型放電ランプであって、
集電円板と内部リード棒は、レーザービーム溶接法、又は、電子ビーム溶接法によってそれぞれの構成材料が溶融して構成された混合層が、集電円板内端面のリード棒挿入孔近傍に形成されることにより、接合されており、
バルブの管軸を通る断面において、
集電円板の内端面と、混合層と集電円板構成材料の境界(L)との交点(A)を始点とし、前記境界(L)の接線上を通過する仮想半直線nと、
前記交点(A)から内部リード棒に向かってバルブの管軸に対して垂直方向に引いた仮想半直線mとのなす角αが、90°未満である
ことを特徴とする。
【0016】
また、集発光管部及び発光管部の両端に連設された封止管部とよりなるバルブと、
発光管部内に互いに対向配置された陰極及び陽極と、
陰極又は陽極を先端に有する内部リード棒と、
内部リード棒が貫通し、バルブの封止管部内に配置されたリード棒保持用筒体と、
リード棒保持用筒体の外端面に沿って前記封止管部内に配置され、その中心に形成されたリード棒挿入孔に内部リード棒の基端部が挿通されて接続された集電円板と、
当該集電円板にその一端が接続され、封止管部内に気密に埋設された金属箔と、
該金属箔の他端に接続されて封止管部外に導出された外部リード棒と、
を具備してなるショートアーク型放電ランプであって、
集電円板と内部リード棒とは、レーザービーム溶接法、又は、電子ビーム溶接法によってそれぞれの構成材料が溶融して構成された混合層が、集電円板内端面のリード棒挿入孔近傍に形成されることにより、接合されており、
バルブの管軸を通る断面において、
集電円板の内端面と、混合層と集電円板構成材料の境界(L)との交点(A)を始点とし、前記境界(L)の接線上を通過する仮想半直線nと、
前記交点(A)から内部リード棒に向かってバルブの管軸に対して垂直方向に引いた仮想半直線mとのなす角αが、90°以下であると共に、
前記交点(A)から、前記混合層における集電円板内端側表面に向かって引いた接線hと、前記仮想半直線mとのなす角βが、0°より大きい
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1記載の発明においては、混合層と集電円板構成材料との境界部分にかかる引っ張り方向の応力を低減でき、混合層と集電円板構成材料層(モリブデン再結晶相)との界面を引き剥がそうとする力を小さくすることができる。
請求項2記載又は請求項3記載の本発明によれば、張力は集電円板表面に平行な方向にかかるが、混合層と集電円板構成材料との境界線の接線方向と張力がかかる方向とのなす角αを90°未満とするので、混合層と集電円板構成材料層(モリブデン再結晶相)との界面を引き剥がそうとする力を小さくすることができる。αの大きさは35°以下であれば十分な効果が得られる。
以上の本発明によれば、内部リード棒と集電円板とのレーザービーム溶接又は電子ビーム溶接による接合部が、上記構造のいずれかを有するよう形成することにより、接合強度が増大し、高い信頼性を有するショートアーク型放電ランプとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお本発明に係るショートアーク型放電ランプの基本構造は先に図5を参照して説明した通りであり、ここでも図5を参照して説明する。
【0019】
〔第1の実施形態〕
図1、図2及び図5を参照して第1の実施形態を説明する。
まず、図5を参照してランプ全体の構成を説明する。同図は、バルブの管軸に沿って切断したランプの縦断面図である。
この放電ランプにおいて、バルブ10は、石英ガラスにより形成され、発光空間Sを囲繞する楕円球形の発光管部11と、この発光管部11の両端から外方に伸びるよう連設された筒状の封止管部12とにより構成されており、それぞれ発光管部11に続く封止管部12の発光管部11に接近した個所に、封止管部12の一部が縮径された状態の絞り込み部12aが形成されている。
【0020】
バルブ10の発光管部11内には、陽極13および陰極14が互いに対向するよう配置されており、その各々は、封止管部12から発光管部11に管軸に沿って伸びる例えばタングステンよりなる円柱状の内部リード棒15の先端に固定されて支持されている。バルブ10の発光管部11内には、キセノン、アルゴン、クリプトン等の希ガス若しくはこれらの混合物よりなる封入ガスおよび水銀などの発光物質が封入されている。
【0021】
バルブ10の封止管部12内においては、発光管部11に接近した位置に、内部リード棒15の外径に適合する内径の筒孔を有する石英ガラスよりなる内部リード棒保持用筒体16が、当該内部リード棒15が挿通された状態で配置され、この内部リード棒保持用筒体16の外周面は、封止管部12の一部である絞り込み部12aの内面に溶着され、内部リード棒保持用筒体16の一端面16aが発光空間Sに露出している。
封止管部12内における内部リード棒保持用筒体16の外方側には、封止用ガラス部材17が配置されている。この封止用ガラス部材17においては、その発光空間S側の内端部171が外端に向かうに従って大径となる円錐台状に形成され、この内端部171に続いて、封止管部12の内径に適合する外径の円柱状の胴部172が形成されている。
【0022】
内部リード棒15の基端部は、内部リード棒保持用筒体16と封止用ガラス部材17の間に配置された集電円板21に接続されている。この内部リード棒15と集電円板21とは、当該内部リード棒15が集電円板21に形成されたリード棒挿入孔211を貫通した状態で、リード棒挿入孔211内径部と内部リード棒15外周部とがレーザービーム溶接法により接合されたものであり、その詳細構成については後段で説明する。
この封止用ガラス部材17には、その外端面から軸方向に沿って伸びる有底孔173が形成されており、この有底孔173には、その内径に適合する外径の外部リード棒18が挿入されている。
【0023】
封止用ガラス部材17の外周面には、モリブデンよりなる複数の帯状の金属箔20が、当該封止用ガラス部材17の周方向に互いに離間して配置されており、金属箔20の各々の内端部は、集電円板21に接続され、これにより金属箔20と内部リード棒15とが電気的に接続された状態となっている。金属箔20の各々の外端部は、封止用ガラス部材17の外端面に沿って伸びて外部リード棒18に接続され、当該封止用ガラス部材17の内端から外端に向かって伸びている。また、封止用ガラス部材17の外周面は、金属箔20を介して封止管部12の内面に気密に溶着されている。
封止用ガラス部材17の外端側には、外部リード棒18の外径に適合する筒孔を有する石英ガラスよりなる外部リード棒保持用筒体19が、当該外部リード棒18が挿通された状態で配置されており、この外部リード棒保持用筒体19の外周面は、封止管部12の内面に気密に溶着されている。
【0024】
図1は、レーザービーム溶接時における集電円板と内部リード棒の状態を説明する斜視図である。集電円板21は、円形の板状体であって、例えば、厚さ2mm、外径φ20mm、内径φ6mmである。内部リード棒15は、全長100mm、外径φ6mmであり、不図示の先端部(上端)には、電極(陽極)が固定されている。集電円板21のリード棒挿入孔211に内部リード棒15の後端部15aが貫通した状態でチャック等で固定し、紙面上斜め右上方向からアルゴンガス雰囲気下でレーザービームを照射する。レーザービーム照射は、一回の照射時間が例えば4msであり、内部リード棒15の中心軸を枢軸として2〜5°ずつ位置を相対的に移動させながら、最終的に全周(360°)方向に照射する。レーザービームによる溶融痕は例えば不連続に70〜180個所形成される。
【0025】
溶接は、集電円板21における内端面のみに施してもよいし、両面に施してもよい。なお両面において溶接を行う場合は、内部リード棒15外周面と集電円板21内周面の間にたまったガスが抜けるよう、少なくとも1箇所溶接の不連続部分を形成しておくのが望ましい。
【0026】
図2(a),(b)は、内部リード棒15と集電円板21の接合部近傍を拡大して示すバルブの管軸を通る断面図である。
ここに、図2(a)は陽極13側内部リード棒15と集電円板21近傍を拡大して示す図で、図2(b)は、図2(a)において円で囲んだ部分を更に拡大して示す図である。なお、図5のようにランプ管軸が垂直方向に支持される場合、図2(a)のように上側に位置される集電円板21では、封止用ガラス部材17は溶接部の破壊機構に関与しないため、便宜上図2(b)においては省略して記載する。
図2(b)において符号21aは内部リード棒15を構成するタングステンと、集電円板21を構成するモリブデンとが融け合って形成された混合層である。符号21b及び符号21cは、いずれも集電円板21の構成材料よりなるが、21bはモリブデンの再結晶相よりなる再結晶部、21cは集電円板を構成する当初のモリブデン相であって非再結晶相である。混合層21aと再結晶部21bの境界を、同図に示すよう曲線Lで示し、当明細書においては、かかる境界Lが集電円板21の内端側の面と交わる点を交点Aと称する。また、この点Aと内部リード棒15表面との距離をa(mm)とする。
また、内部リード棒保持用筒体16と集電円板21とが接触している当接部において、内部リード棒15にもっとも近接した部分(すなわち、最小径部)をBで示しており、この点Bと内部リード棒15表面との距離をb(mm)とする。
【0027】
本発明では、同図に示すように、当接部における最小径部Bが交点Aよりも、半径方向内方に位置しており、上記a(mm)とb(mm)とはa>bの関係を有している。このように、集電円板21と内部リード棒保持用筒体16との当接部が、集電円板21の内端面と混合層と集電円板構成材料の境界線(L)とが交わる交点(A)を越えて、混合層21aに達するよう形成されていることにより、交点Aにかかる張力が緩和され、境界Lにおける亀裂の発生及び進行が抑制されるようになる。
なお、各溶接部の少なくとも一部において上記a>bの関係が成立すれば、引き剥がす応力の緩和に効果があり強度を高くでき、とりわけ、交点Aにおける最大径部が保持用筒体16で保持された場合、モーメントが小さくなる分、内部リード棒の荷重から張力を軽減するのに大きな効果を得ることができる。
【0028】
このように内部リード棒と集電円板とのレーザービーム溶接法による接合部を、上記の各構造を有するものとすることにより、内部リード棒と集電円板における接合強度を高め、高い信頼性を有するショートアーク型放電ランプとすることができる。
【0029】
〔第2の実施形態〕
続いて、本発明の第2の実施形態を、図3を参照して説明する。図3は、前図、図2(b)に対応するバルブの管軸を通る断面図であり、内部リード棒(15)、集電円板(21)、内部リード棒保持用筒体(16)のみを拡大して示している。この実施形態において先に説明し第1の実施形態と異なるところは溶接部構造であり、溶接方法(レーザービーム溶接法)および他のランプ構成は全て第1の実施形態と同じであるので、先に説明した構成については同じ符号で示し、詳細説明については省略する。
【0030】
図3において、一点破線で示す直線nは、混合層と集電円板構成材料の境界線(L)の接線上を通過し、境界線(L)が集電円板の内端面と交わる交点(A)を始点とした仮想半直線である。また、同じく一点破線で示す直線mは交点Aを始点として集電円板21の内側の端面を通過する仮想半直線である。
【0031】
直線mと直線nにより形成される角をαとすると、本実施形態においてはαが90°未満の範囲に構成される。
この結果、交点Aにおいて、接線nの垂直方向と張力Tの方向が一致しなくなり、応力Gはα=90°の場合よりも分散され、境界Lの接線nに対して垂直に引き剥がそうとする力が小さくなる。直線mと直線nのなす角αの大きさが小さければ小さいほど、接線nに対して垂直方向に働く力、すなわち、引き剥がす応力Gの大きさが小さくなるので、亀裂の発生が回避され、破断の進行を抑制できるが、溶接時に内部リード棒15と集電円板21の両者にまたがる溶融部を形成することにより強度を稼ぐことから、αは10〜60°、好ましくは20〜45°、更に望ましくは30〜35°の範囲とするのがよい。
【0032】
レーザービーム溶接法又は電子ビーム溶接法によってこのような形状の溶接部を実現するには、ビームスポット径および集光角を制御するような手段によったり、当初の集電円板21形状において、内側縁部に環状の突起部を設けるなど易溶融部を予め形成しておいて、被加熱(溶融)領域を小さくできるような構造を具備させておけばよい。要は、最終的に直線mと直線nのなす角αの角度を90°より小さくなるようにすればよい。
【0033】
以上のように、混合層21aとモリブデンの再結晶部21bの境界Lの形状を制御することにより、引き剥がす応力を緩和でき、結果、亀裂の発生、進行を回避することができるようになる。その結果、溶接部の破壊を抑制し、接合強度を高めることができる。
【0034】
〔第3の実施形態〕
続いて、本発明の第3の実施形態を図4を参照して説明する。図4(a)は、前図、図2(b)又は図3に対応する図面であり、内部リード棒(15)、集電円板(21)、内部リード棒保持用筒体(16)のみ、拡大して示した図である。また、同図(b)は、(a)の応力状態を説明する説明図である。なおこの実施形態において、先に説明した実施形態と異なるところは溶接部構造であり、溶接方法および他のランプ構成は全て先に説明した実施形態と同じである。よって、先に説明した構成については同じ符号で示し、詳細説明については省略する。なお、直線mは交点Aを始点として集電円板21の内側の端面を通過する仮想半直線であり、直線nは、混合層と集電円板構成材料の境界線(L)の接線上を通過し、境界線(L)が集電円板の内端面と交わる交点(A)を始点とした仮想半直線である。
また、直線mと直線nにより形成される角をαとする。
【0035】
本実施形態においては、混合層21aが形成された部分において、溶融した金属が集電円板21のリード棒挿入孔211内に流入することによって、連続的に集電円板の肉厚が減少するよう断面略C状の凹部が形成されている。
図4(b)で示すように、内端面の表面形状を均一な平面状態から、混合層相当個所において凹状に変化させることにより、混合層21aの表面においては張力Tが働く向きが変化し、直線hで示すその接線方向に傾く。
この結果、直線mと、直線hとのなす角をβ(°)とすると、これが0°よりも大きい場合には、前述した直線mと直線nのなす角αが90°の場合でも、張力Tの向きと直線nの垂直方向が不一致になり、交点Aにおいて境界Lを引き剥がす方向にかかる応力Gの大きさを小さくできる。この結果、亀裂の発生、進行が抑制され、溶接部の接合強度が高くなる。
【0036】
このように、混合層の表面を変化させることにより張力が働く方向を変えて、混合層と集電円板構成材料との境界線の接線方向と張力がかかる方向とを90°未満に変化させる(すなわちα−βの大きさを90°未満とする)ことによっても、張力Tの大きさを分散できて、直線nに対して垂直方向に働く応力を小さくできる。
なお、このような溶接部は、内部リード棒15と集電円板21のリード棒挿入孔211に隙間Kを形成することで両者の溶融液が流入し、溶融した部分を肉薄化させることで容易に実現できる。
【0037】
以上、本発明の実施形態について種々説明を行ったが、本発明に係る集電円板と内部リード棒の接合について、2部材間の局所的な加熱によって達成される溶接であれば、レーザービーム溶接以外にも、電子ビーム溶接法にも適用できる。また、レーザービームとTIG溶接の両方の照射を同時に利用するようないわゆるハイブリッド溶接においても実現することができる。
また、上記実施形態においては、集電円板にリード棒挿入孔が形成されて、当該孔に内部リード棒の基端部が突出して固定されたものについて説明を行ったが、溶接後に不要部分を切除したものも適用可能である。溶接個所において内部リード棒の少なくとも一部が集電円板に挿入された状態であればよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】レーザービーム溶接時における集電円板と内部リード棒の状態を説明する斜視図である。
【図2】第1の実施形態を説明する(a),(b)内部リード棒と集電円板の接合部近傍を拡大して示すバルブの管軸を通る断面図である。
【図3】第1の実施形態を説明する内部リード棒と集電円板の接合部近傍を拡大して示すバルブの管軸を通る断面図である。
【図4】(a)は内部リード棒、集電円板、内部リード棒保持用筒体を拡大して示した、バルブ管軸を通る断面図、(b)は、(a)の応力状態を説明する説明図である。
【図5】ショートアーク型放電ランプの説明用断面図である。
【図6】(a)溶接部をランプの管軸を通る断面で切断した説明用断面図、(b)は(a)を更に拡大した図である。
【図7】図6(b)の円で囲んだ溶接部近傍を、拡大した説明用断面図である。
【符号の説明】
【0039】
10 発光管
11 発光部
12 封止管部
12a 絞込み部
13 陽極
14 陰極
15 内部リード棒
16 内部リード棒保持用筒体
16a 一端面
17 封止用ガラス部材
171 内端部
171a 有底孔
172 胴部
173 有底孔
18 外部リード棒
19 外部リード棒保持用筒体
20 金属箔
21 集電円板
21a 混合層
21b モリブデン再結晶部
21c モリブデン非再結晶部
211 リード棒挿入孔
S 放電空間


【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光管部及び発光管部の両端に連設された封止管部とよりなるバルブと、
発光管部内に互いに対向配置された陰極及び陽極と、
陰極又は陽極を先端に有する内部リード棒と、
内部リード棒が貫通し、バルブの封止管部内に配置されたリード棒保持用筒体と、
リード棒保持用筒体の外端面に沿って前記封止管部内に配置され、その中心に形成されたリード棒挿入孔に内部リード棒の基端部が挿通されて接続された集電円板と、
当該集電円板にその一端が接続され、封止管部内に気密に埋設された金属箔と、
該金属箔の他端に接続されて封止管部外に導出された外部リード棒と、
を具備してなるショートアーク型放電ランプであって、
集電円板と内部リード棒は、レーザービーム溶接法、又は、電子ビーム溶接法によってそれぞれの構成材料が溶融して構成された混合層が、集電円板内端面のリード棒挿入孔近傍に形成されることにより、接合されており、
集電円板と内部リード棒保持用筒体との当接部の少なくとも一部が、ランプ管軸を通る断面上に形成された集電円板の内端面と混合層と集電円板構成材料の境界(L)とが交わる交点(A)を越えて、混合層に達するよう形成されている
ことを特徴とするショートアーク型放電ランプ。
【請求項2】
発光管部及び発光管部の両端に連設された封止管部とよりなるバルブと、
発光管部内に互いに対向配置された陰極及び陽極と、
陰極又は陽極を先端に有する内部リード棒と、
内部リード棒が貫通し、バルブの封止管部内に配置されたリード棒保持用筒体と、
リード棒保持用筒体の外端面に沿って前記封止管部内に配置され、その中心に形成されたリード棒挿入孔に内部リード棒の基端部が挿通されて接続された集電円板と、
当該集電円板にその一端が接続され、封止管部内に気密に埋設された金属箔と、
該金属箔の他端に接続されて封止管部外に導出された外部リード棒と、
を具備してなるショートアーク型放電ランプであって、
集電円板と内部リード棒は、レーザービーム溶接法、又は、電子ビーム溶接法によってそれぞれの構成材料が溶融して構成された混合層が、集電円板内端面のリード棒挿入孔近傍に形成されることにより、接合されており、
バルブの管軸を通る断面において、
集電円板の内端面と、混合層と集電円板構成材料の境界(L)との交点(A)を始点とし、前記境界(L)の接線上を通過する仮想半直線nと、
前記交点(A)から内部リード棒に向かってバルブの管軸に対して垂直方向に引いた仮想半直線mとのなす角αが、90°未満である
ことを特徴とするショートアーク型放電ランプ。
【請求項3】
集発光管部及び発光管部の両端に連設された封止管部とよりなるバルブと、
発光管部内に互いに対向配置された陰極及び陽極と、
陰極又は陽極を先端に有する内部リード棒と、
内部リード棒が貫通し、バルブの封止管部内に配置されたリード棒保持用筒体と、
リード棒保持用筒体の外端面に沿って前記封止管部内に配置され、その中心に形成されたリード棒挿入孔に内部リード棒の基端部が挿通されて接続された集電円板と、
当該集電円板にその一端が接続され、封止管部内に気密に埋設された金属箔と、
該金属箔の他端に接続されて封止管部外に導出された外部リード棒と、
を具備してなるショートアーク型放電ランプであって、
集電円板と内部リード棒とは、レーザービーム溶接法、又は、電子ビーム溶接法によってそれぞれの構成材料が溶融して構成された混合層が、集電円板内端面のリード棒挿入孔近傍に形成されることにより、接合されており、
バルブの管軸を通る断面において、
集電円板の内端面と、混合層と集電円板構成材料の境界(L)との交点(A)を始点とし、前記境界(L)の接線上を通過する仮想半直線nと、
前記交点(A)から内部リード棒に向かってバルブの管軸に対して垂直方向に引いた仮想半直線mとのなす角αが、90°以下であると共に、
前記交点(A)から、前記混合層における集電円板内端側表面に向かって引いた接線hと、前記仮想半直線mとのなす角βが、0°より大きい
ことを特徴とするショートアーク型放電ランプ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−115498(P2007−115498A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−305194(P2005−305194)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】