説明

ショートアーク型放電ランプ

【課題】陰極と陽極が発光管内で対向配置され、前記陰極の近傍に始動補助電極が配設されてなるショートアーク型放電ランプにおいて、前記始動補助電極に外力が作用しても、変形することなく陰極との位置関係が適正に保たれて、確実な始動補助が行われる構造を提供するものである。
【解決手段】前記陰極には、その後端側から先端側に軸芯方向に貫通する貫通孔が形成され、前記始動補助電極は、その根元部が前記陰極の軸部に固定されるとともに、前記貫通孔を貫通して、その先端部が貫通孔から突出して前記陰極の先端近傍にまで延在していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は半導体製造や映写機の投影等に使用されるショートアーク型放電ランプに関し、特に陰極近傍に始動補助電極を有するショートアーク型放電ランプに係わるものである。
【背景技術】
【0002】
この種のショートアーク型放電ランプでは、その始動電圧を下げて始動性を改善するためのさまざまな手段が提案されている。
特開2004―055416号公報(特許文献1)には、始動補助電極として細いワイヤー状の導電性部材を陰極近傍に設けることで、ランプに高電圧が印加されたとき該導電性部材(始動補助電極)の先端に電界集中を生じさせて、陰極先端近傍の電子密度を上昇させて、電極間の絶縁破壊を容易にし、ランプの始動性を向上させる技術が開示されている。
【0003】
図4にその全体構成が示されていて、発光管2内に陰極3と陽極4とが対向配置された放電ランプ1において、前記陰極3の近傍にワイヤー状の導電性部材からなる始動補助電極6が配置されている。
図5にその詳細が示されていて、始動補助電極6はその根元部6bが前記陰極3の軸部5に巻き付けられて固定され、その先端部6aが前記陰極3の先端3aの近傍に位置している。
かかる構成により、ランプ点灯時に陰極3と陽極4間に高電圧が印加されると、前記始動補助電極6の先端部6aに電界集中が起き、陰極3から放出される電子密度を上昇させることにより、両電極3、4間の絶縁破壊を容易にしようとするものである。
【0004】
ところで、この始動補助電極6を構成する導電性部材は金属ワイヤーからなるため、その剛性が低く、該始動補助電極6が、その根元部6bが陰極軸部5に固定され、そこから陰極3に沿って延在して陰極先端部3aの近傍にその先端部6aを配置する片持ち支持構造であるため、該始動補助電極6自体が振動などの外力により変形し易く、その先端部6aの位置が極めて不安定で変動しやすい。
例えば、ランプの輸送中に掛かる軽微な負荷によっても始動補助電極6が変形し、その先端部6aの位置が変動してしまうということがある。また、ランプ点灯中は電極軸部5から陰極先端部3a側に向けて熱対流が発生しており、特に陰極3の外周囲はこの熱対流による負荷が大きいために、該始動補助電極6に大きな負荷がかかり変形してしまうことがあった。
このため、始動補助電極6の先端部6aと、陰極3先端および陽極4先端との適正位置が保たれずに、所期の効果を期待できなくなってしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−055416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明が解決しようとする課題は、発光部内に陰極と陽極が対向配置されるとともに、前記陰極の近傍にワイヤー状の始動補助電極が配置されてなる放電ランプにおいて、前記始動補助電極がみだりに変形することがなく、陰極に対して適正な位置関係に保たれて、確実な始動補助ができるような構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明に係るショートアーク型放電ランプでは、陰極に、その後端側から先端側に軸芯方向に貫通する貫通孔が形成され、始動補助電極は、その根元部が前記陰極の軸部に固定されるとともに、前記貫通孔を貫通して、その先端部が該貫通孔から突出して前記陰極の先端部近傍にまで延在していることを特徴とする。
また、前記陽極の先端と前記始動補助電極の先端部の距離D2は、前記陽極と前記陰極の電極間距離D1よりも大きいことを特徴とする。
また、前記陰極の軸芯と前記始動補助電極の先端部の距離L1が、前記陽極と前記陰極の電極間距離D1よりも小さいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、ワイヤー状からなる始動補助電極が、陰極に設けた軸芯方向の貫通孔を貫通しているので、外力が掛かってもみだりに変形することがなく、その位置が固定され陰極との適正な位置関係が保たれて、確実な始動補助が確保されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施例の陰極部分の部分断面図。
【図2】この発明の陰極、陽極、始動補助電極の配置関係を示す図。
【図3】この発明の効果を示す表。
【図4】従来例の全体図。
【図5】図4の部分拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1に本発明に係わる放電ランプの陰極構造が示されていて、陰極3は、先端側で縮径されるテーパ部3bとその先端部3aとを備える。
該陰極3には、その後端側から先端側に軸芯方向に貫通する貫通孔8が形成されており、該貫通孔8は陰極3の後端部3cから前記テーパ部3bに貫通している。
金属ワイヤーからなる始動補助電極6は、根元部6bが陰極3の陰極軸部5に巻きつけ固定されている。そして、該始動補助電極6は、貫通孔8に嵌挿されてこれを貫通し、その先端部6aはテーパ部3bの先端から突出して、陰極3の先端部3aの近傍に位置している。
前記貫通孔8は、好適には例えば、細孔放電加工機を用いることで穿設され、その孔径は、例えば0.5mmである。
【0011】
前記始動補助電極6には、陰極軸部5から高電圧が印加され、その先端部6aの電界集中によって強い電界強度が近傍の陰極3に働き、該陰極3の電子密度を上昇させ、これによりランプの始動性が向上するものである。この始動補助電極6は陰極3本体とは別体に設けられるため、陰極3とは別の素材を選定することができる。この始動補助電極6に適した素材としては、タングステン(W)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、そしてレニウム(Re)などの高融点金属が用いられる。
【0012】
前記始動補助電極6と陰極3および陽極4との配置関係が図2に示されている。
陽極4と始動補助電極6の突出先端部6aの最短距離D2は、電極間距離D1より大きくなるよう始動補助電極6が配置されている。
この始動補助電極6の先端部6aは陽極4に近いほどランプの始動性が上がるが、あまり陽極4に近づけすぎると、該陽極4との間にアークが発生してしまい、その先端部6aがアークにより溶融し蒸発してしまって、発光管の内面に蒸発物が付着し、黒化の原因となってしまう。
そのため、始動補助電極6の先端部6bは、陰極先端部3aより僅かに後退した位置にあるように設定される。即ち、始動補助電極6の先端部6aと陽極4との最短距離D2は、陰極3と陽極4の電極間距離D1よりも大きく(D2>D1)なるように設定されることが好ましい。
【0013】
本発明の効果を実証するために以下の実験を行った。
<放電ランプ>
封入ガス:キセノン 1.0atm
電極間距離(D1):9mm
陰極先端径:1.5mm
貫通孔径:0.5mm
始動補助電極:φ0.2mm Taワイヤー
<始動補助電極の突出位置>
実施形態1:D2=17mm、L1=9.5mm
実施形態2:D2=12mm、L1=3.5mm
実施形態3:D2=7mm 、L1=3.5mm
比較例:始動補助電極なし

これらのランプを製作し、それぞれのランプ始動性能の比較実験を行った。始動性能の評価は、点灯初期における絶縁破壊電圧(kV)と1500時間点灯後の絶縁破壊電圧(kV)を計測することによって評価した。
【0014】
その結果が図3に示されていて、比較例においては、始動電圧は初期においては20kV、1500時間点灯後には25kVであったものが、本発明の実施形態1〜3はいずれも絶縁破壊電圧がこれを下回り、始動性の改善が見られる。
実施形態3は、D2=7mmで、D2<D1となり、始動補助電極6の先端部6aが陰極先端3aより突出して、陽極4に近づいているものであって、点灯初期においては10kVと最も低いが、先に述べたように、点灯後にその先端が溶融してしまい、1500時間点灯後には、20kvと、実施形態2のランプと同等となっている。
このことから、先に述べたように、始動補助電極6の溶融・蒸発は発光管黒化の観点から必ずしも好ましいものではないので、同程度の効果が期待できる実施形態2のように、始動補助電極6の先端部6aが、陰極線端部3aよりも後退していて、D2>D1になる関係であることがより好ましいことが分かる。ただし、ランプのその他の種々の状況から、黒化の程度が現実的に問題にならない程度であれば、実施形態3のものも採用しうることはいうまでもない。
また、実施形態1のランプでは、始動補助電極6の先端部6aと陰極軸芯Oとの距離L1が9.5mmと、実施形態2、3の3.5mmより大きく、その分だけ、絶縁破壊電圧が実施形態2、3よりもやや大きくなっていてやや劣る。このことから、距離L1は、電極間距離D1よりも小さい(L1<D1)ことが好ましいことが分かる。
しかしながら、この実施形態3においても、比較例よりは始動性がよいことが分かる。
【0015】
以上説明したように、本発明のショートアーク型放電ランプにおいては、陰極の近傍に始動補助電極が配設されてなるショートアーク型放電ランプにおいて、前記陰極には、該陰極後端側から先端側に軸芯方向に貫通する貫通孔が形成され、前記始動補助電極は、その根元部が前記陰極の軸部に固定されるとともに、前記貫通孔を貫通して、その先端部が貫通孔から突出して前記陰極の先端部近傍にまで延在していることにより、始動補助電極は、貫通孔によりその挙動が制限されるので、移送時の負荷や発光管内の熱対流による負荷が掛かっても、変形が防止されて、陰極との位置関係が適正に保たれ、確実な始動性が担保されるものである。
【符号の説明】
【0016】
1 ショートアーク型放電ランプ
2 発光管
3 陰極
4 陽極
5 陰極軸
6 始動補助電極
6a 根元部
6b 先端部
8 貫通孔




【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極と陽極が発光管内で対向配置され、前記陰極の近傍に始動補助電極が配設されてなるショートアーク型放電ランプにおいて、
前記陰極には、その後端側から先端側に軸芯方向に貫通する貫通孔が形成され、
前記始動補助電極は、その根元部が前記陰極の軸部に固定されるとともに、前記貫通孔を貫通して、その先端部が該貫通孔から突出して前記陰極の先端部近傍にまで延在している、
ことを特徴とするショートアーク型放電ランプ。
【請求項2】
前記陽極の先端と前記始動補助電極の先端部の距離D2は、前記陽極と前記陰極の電極間距離D1よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載のショートアーク型放電ランプ。
【請求項3】
前記陰極の軸芯と前記始動補助電極の先端部の距離L1は、前記陽極と前記陰極の電極間距離D1よりも小さいことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のショートアーク型放電ランプ。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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