説明

シラン化されたカーボンナノチューブ、およびその製造方法

本発明は、シラン化カーボンナノチューブの製造に関するものである。初めにカーボンナノチューブを酸化し、続いて、該カーボンナノチューブを、シロキサン構造を有するカーボンナノチューブと共有結合を形成する、1つまたは複数のオルガノシラン誘導体を含む飽和気相にさらす。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、シラン化されたカーボンナノチューブ、その製造方法、および、シラン化されたカーボンナノチューブの使用に関するものである。
【0002】
従来において、カーボンナノチューブを基板に成長させる製造方法が知られている(B.Q.Wei他、Organized Assembly of Carbon Nanotubes, Nature, 416巻、495〜496ページ、2002年4月4日)。
【0003】
その他にも、気相からカーボンナノチューブを堆積することによるカーボンナノチューブの製造方法も知られている(Z.F.Ren他、Synthesis of Large Arrays of Well‐Aligned Carbon Nanotubes on Glass, SCIENCE, 282巻、1105〜1107ページ、1998年11月)。
【0004】
また、カーボンナノチューブに関する基本原理は、当業者にとって周知である。(例えば、C. Dekker, Carbon‐Nanotubes as Molecular Quantum Wires, Physics Today, 22〜28ページ、1999年5月)。
【0005】
ナノチューブ、特にカーボンナノチューブは、金属導体として、およびナノエレクトロニクスにおける半導体として適している。さらに、カーボンナノチューブは、例えば、複合材(composite materials)、センサー、または、トランジスタの半導体素子として用いられる。しかし、多くの場合、ナノチューブの表面を物理的および/または化学的に変形させることが、ナノチューブを用いるための前提条件になっている。さらに、トランジスタとして用いる場合、該前提条件に、誘電体による改造が付加される。この場合、誘電体(例えば、シラン層)を、トランジスタの活性経路(active path)(カーボンナノチューブ)と、ゲート電極との間の絶縁体として用いる。
【0006】
さらに、導電性のカーボンナノチューブを周囲から遮蔽するために、誘電体を、層間化合物として用いる必要がある。さらに、カーボンナノチューブを複合材に用いるため、および、センサーとして用いる場合に化学的に変形させるために、カーボンナノチューブの表面の濡れ性を変えることが重要である。
【0007】
例えばSiOを気相蒸着(CVD)すれば、カーボンナノチューブにSiOを被覆することができる。。そうするためにはプラズマプロセス、または/および、酸化雰囲気下での300℃を超える温度処理が必要である。これらを行うと、カーボンナノチューブが破壊される場合がある。
【0008】
また、ゾル・ゲル技術を用いて、室温でカーボンナノチューブにSiOを被覆することも、記載されている(T. Seeger、他; Chemical Physics Letters 339 (2001年)41ページ)これらの被覆の不都合としては、カーボンナノチューブが、SiO型の被覆部の中に埋設されているだけであり、化学的に結合されることはない点にある。そのため、該被覆部は、熱応力によってナノチューブから離れてしまう場合がある。
【0009】
本発明の目的は、誘電体によって被覆されたカーボンナノチューブを提供することであり、高温でも(温度上昇しても)安定して被覆している該カーボンナノチューブいる。本発明の他の目的は、このような被覆されたカーボンナノチューブの製造方法を提供することである。
【0010】
これらの目的は、請求項に特徴を示した複数の形態によって達成される。
【0011】
本発明では、初めにカーボンナノチューブを酸化し、続いて、該カーボンナノチューブを、シロキサン構造を有するカーボンナノチューブと共有結合を形成することができる、1つまたは複数のオルガノシラン誘導体を含む飽和気相にさらすことを特徴とする、カーボンナノチューブのシラン化方法を提供する。
【0012】
本発明では、この方法によって得られるカーボンナノチューブについても提供する。驚くべきことに、生成されるシロキサンは、カーボンナノチューブに、均質で、ほぼ欠陥のない被膜を形成する。
【0013】
本発明では、カーボンナノチューブとは、1つの層または多層にドープされたり、機能化されたりした、あらゆる種類のナノチューブのことである。本発明では、シラン化されるとは、カーボンナノチューブの表面に単層または多層のオルガノシランが形成されることである。
【0014】
オルガノシラン誘導体は、ここでは、誘導体の種類に応じて、カーボンナノチューブ(RSiX誘導体)や、カーボンナノチューブ及びその周囲(neighbor)(RSiX誘導体)や、または、カーボンナノチューブ及びチューブ間の架橋体(RSiX誘導体)に、シロキサン構造とともに、共有結合を形成する。純粋な誘導体を用いず、それらの混合物を用いた場合、該混合物の組成に応じて、複雑な架橋が生じる。RSiXシラン誘導体を用いることが好ましい。
【0015】
好ましいオルガノシラン誘導体として、
一般式
RSiX、RSiX、またはRSiXのアルキル誘導体またはアリールシラン誘導体が挙げられる(Xは、官能基を示す)。該オルガノシラン誘導体のうちの2つまたは3つの混合物も好ましい。好ましい官能基Xとして、塩素、臭素、直鎖または枝分かれしたC‐C30アルコキシ基、フェノキシ、ベンジルオキシ、または、ナフトキシが挙げられる。
【0016】
Rは、それぞれ有機基であり、互いに独立している。好ましいRは、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、アミノ基、および、ヒドロキシル基である。ここで、アルキル基およびアリール基が特に好ましい。
【0017】
アルキル基として、特に、直鎖のまたは枝分かれしたC‐C30基または(C‐C)‐シクロアルキル基が用いられる。アリール基として、特に、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基、フェナントリル基、または、ピリジル基が選択される。これらは、それぞれ、直鎖のまたは鎖が枝分かれした(C‐C)‐アルキル基、(C‐C)‐シクロアルキル基、直鎖のまたは鎖が枝分かれした(C‐C)‐アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、ジ(C‐C)アルキルアミノ基、ニトロ基、および、シアン基、からなる群の中から互いに独立して選択された、1つ、2つ、または、3つの置換基、によって置換されてもよい。アルケニル基として、例えば、ビニル基またはプロペニル基を用いることができる。アルキニル基として、例えば、エチニル基を用いることができる。
【0018】
同様に、一般式RSi‐NH‐SiR(ジシラザン)の化合物を、カーボンナノチューブの被覆に用いてもよい。さらに本形態でも、Rは、上記したような有機基である。好ましいRとして、メチル基、クロロメチル基、フェニル基、ビニル基、および、アミノ基、または、シクロトリシラザン(cyclic trisilazanes)(例えばヘキサメチルシクロトリシラザン)が挙げられる。
【0019】
本発明では、初めに、酸化されたカーボンナノチューブを備える。カーボンナノチューブの酸化を、溶液または気相中の、酸素または他の全ての適切な酸化剤を用いて行う。該酸化を、例えば、溶液中で次亜塩素酸塩を用いて行うか、または、気相中で500℃よりも高い温度で行う。
【0020】
酸化度(つまり、1単位面積あたりの、酸化された基の数)は、通常、わずかである。この酸化を、通常、酸化されたカーボンナノチューブの酸化度が1nmあたり0.2〜1.0ヒドロキシル基であるように行う。通常、この酸化度は、1平方ナノメートルあたり0.5ヒドロキシル基である。
【0021】
続いて、このようにして機能化されたカーボンナノチューブを、溶媒(例えば、ジメチルホルムアミド)の中に分散させ、適切な基板表面に提供する。好ましい方法では、カーボンナノチューブを、基板の上で直接成長させ、気相中で酸化させる。
【0022】
続いて、カーボンナノチューブのシラン化を、ガス状のオルガノシラン誘導体(非プロトン性の溶媒にシランを溶解させた溶液の気相と飽和した不活性気体雰囲気下で行う。好ましい不活性気体は、窒素である。非プロトン性の溶媒として、例えば、トルエン、ペンタン、ヘキサン、石油エーテル、および、シクロヘキサン、さらには、ジメチルホルムアミド、または、ジメチルスルホキシドが挙げられる。トルエンは、溶媒として特に適している。
【0023】
反応時間、反応温度、および、オルガノシラン誘導体の濃度といった、反応条件を、反応生成物に応じて選択し、当業者は簡単な実験によって該反応条件を決めることができる。通常、温度が15℃〜130℃、好ましくは20℃〜100℃である場合、シラン化を1分〜24時間行う。ここで、開始反応(initial reaction)(つまり、シランをカーボンナノチューブに結合させる)は、数分以内に終了する。温度については、主に、用いる溶媒の種類またはその気圧に応じて選択することができる。通常、非プロトン性の溶媒(例えば、トルエン(この溶媒については、ここでさらに詳述する))を用いる。この溶媒の室温での気圧は、0.01bar〜5barである。該溶媒中のオルガノシランの濃度は、通常、1mMである。
【0024】
得られる層を厚くするために、例えば、反応雰囲気を変えることができる。一般式RSiXまたはRSiXの誘導体を架橋するには、微量の湿度があれば十分である。共有結合された酸化物の覆いを厚さ0.01μm〜10μm、好ましくは0.01μm〜1μmになるように形成するために、この架橋を、目的に応じて制御できる。
【0025】
吸着している間、官能基Xは、カーボンナノチューブ上に位置するヒドロキシ基と反応する。その結果、単層が得られる。水の存在下で、結合していない官能基Xが反応することにより、層を厚くすることができる。この架橋は、一般式RSiXの誘導体の場合には行われない。なぜなら、この場合、官能基Xとの反応後に他の官能基Xを用いないからである。一般式RSiXおよびRSiXの誘導体は、カーボンナノチューブと結合し、さらに、シロキサンを生成することによって互いに共有結合する。
【0026】
本発明の好ましい形態を、以下の実施例によって詳述する。ただしこの実施例は、本発明を限定するものではない。
【0027】
〔実施例〕
初めに、カーボンナノチューブを、触媒気相蒸着(catalytic gas-phase deposition)によって600℃で成長させる。続いて、このようにして得られた多層のカーボンナノチューブを、700℃で空気中において酸化させる。この酸化を、1分間行う。最後に、カーボンナノチューブを、ジメチルホルムアミドの中に分散させ、次に、基板(例えば、シリコン)に提供する。
【0028】
カーボンナノチューブによって被覆された基板を、不活性気体である窒素と、トルエンにオクタデシルトリクロロシランを1mmol加えた溶液の気相とからなる混合ガスにさらす(気圧:0.2bar(25℃))。
【0029】
カーボンナノチューブのシラン化を、室温で12時間以上行う。続いて、カーボンナノチューブによって被覆された基板を、シラン気相中から除去し、さらに5分間純粋な窒素の中に置く。
【0030】
これにより、カーボンナノチューブに均質な被覆が得られる。この被覆部または覆いは、テストされるカーボンナノチューブの直径を(+約10%)変えることにより、走査型電子顕微鏡で確認することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブを酸化し、
続いて、上記カーボンナノチューブを、シロキサン構造を有するカーボンナノチューブと共有結合を形成することができる、1つまたは複数のオルガノシラン誘導体を含む飽和気相にさらす、カーボンナノチューブのシラン化方法。
【請求項2】
上記酸化したカーボンナノチューブを、不活性気体と、非プロトン性の溶媒に1つまたは複数のオルガノシラン誘導体が溶解した液の気相とを含む混合ガスにさらすことによりシラン化を行う、請求項1に記載のカーボンナノチューブのシラン化方法。
【請求項3】
一般式
RSiX、RSiX、または、RSiX
(Xは、塩素と、臭素と、直鎖または枝分かれしたC‐C30アルコキシ基と、フェノキシと、ベンジルオキシと、ナフトキシとからなる群から選択された官能基を示し、
Rは、アルキル基と、アリール基と、アルケニル基と、アルキニル基と、アミノ基と、ヒドロキシル基とからなる群から選択された、互いに独立した有機基である)
で示されるオルガノシラン誘導体、
または、
上記オルガノシラン誘導体のうちの2つまたは3つの混合物、を用いる請求項1または2に記載のカーボンナノチューブのシラン化方法。
【請求項4】
上記シラン化を、15℃〜130℃、好ましくは20℃〜100℃の温度で、1分〜24時間行う、請求項1〜3のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブのシラン化方法。
【請求項5】
上記の酸化を、酸化されたカーボンナノチューブの酸化度が1nmあたり0.2〜1.0ヒドロキシル基になるように行う、請求項1〜4のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブのシラン化方法。
【請求項6】
上記カーボンナノチューブを、基板に直接成長させ、気相中で酸化させる、請求項1〜5のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブのシラン化方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブのシラン化方法によって得られるカーボンナノチューブ。
【請求項8】
複合材、センサー、または、トランジスタの半導体素子としての、請求項7に記載のカーボンナノチューブの使用。

【公表番号】特表2008−500934(P2008−500934A)
【公表日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−513718(P2007−513718)
【出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【国際出願番号】PCT/EP2005/004310
【国際公開番号】WO2005/118472
【国際公開日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(506211850)キモンダ アクチエンゲゼルシャフト (110)
【Fターム(参考)】