説明

シラン架橋ポリエチレン、電線、及びケーブル

【課題】架橋度が高く、かつ、押出成形後の外観が平滑であり、シュリンクバックが小さいシラン架橋ポリエチレン、電線、及びケーブルを提供する。
【解決手段】本発明のシラン架橋ポリエチレンは、シラン化合物を遊離ラジカル発生剤によりグラフト共重合させたポリエチレンを架橋させたシラン架橋ポリエチレンであって、シラン化合物が、ポリエチレン100重量部に対し1.5重量部以上含まれ、シラン化合物の添加量の遊離ラジカル発生剤の添加量に対する割合が35以上であり、シラン化合物を遊離ラジカル発生剤によりグラフト共重合させた前記ポリエチレンの190℃、21.18Nの試験条件下におけるメルトインデックスが、5g/10分以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラン架橋ポリエチレン、電線、及びケーブルに関する。特に、本発明は、被覆材料に用いるシラン架橋ポリエチレン、当該シラン架橋ポリエチレンを含む被覆材料を備える電線、及びケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンは電気絶縁性に優れることから電線の被覆材料、ケーブルの被覆材料として用いられている。特に、ポリエチレンに架橋構造を導入した架橋ポリエチレンは被覆材料に耐熱性を付加させることができるので、電力ケーブル等の被覆材料用途として広く用いられている。ポリエチレンの架橋方法には、有機過酸化物架橋、電子線照射架橋、及びシラン架橋による方法がある。ここで、シラン架橋においては、ポリエチレンを成形した後、水分が存在する大気中、又は高湿環境下にシラン化合物が共重合したポリエチレンを放置するだけで架橋が進行する。したがって、初期設備投資を比較的少なくできるメリットがあり、600V程度の低圧電力ケーブルの製造方法として活用されている。
【0003】
従来、導体の周りにフッ素系の滑剤を含まないシラン架橋ポリオレフィンで構成される絶縁層を有するシラン架橋ポリオレフィンを用いた電線・ケーブルであって、絶縁層の表面に融点が130℃以上のポリエチレンからなるスキン層を有すると共に、当該絶縁層及びスキン層を充実押出成形により形成したシラン架橋ポリオレフィンを用いた電線・ケーブルが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
特許文献1に記載のシラン架橋ポリオレフィンを用いた電線・ケーブルによれば、導体の周りに設けられたシラン架橋ポリオレフィンの絶縁層が十分な架橋度を有し、かつ、加熱変形特性、及び押出外観が良好な電線・ケーブルを提供できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−181754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シラン架橋ポリエチレンを用いた電線・ケーブルは、一般的には次のように製造される。すなわち、まず、ポリエチレンにシラン化合物をグラフト共重合させるべく、ポリエチレン、シラン化合物、及び遊離ラジカル発生剤を混合し、練り合わせて反応させる。次に、ここにシラノール縮合触媒を添加した後、銅からなる導体、又はケーブルコアに押出被覆する。押出被覆する工程は、シラン化合物をグラフト共重合させたポリエチレンを一旦作製し、別工程においてシラノール縮合触媒と当該ポリエチレンとを混合、練り合わせて押出被覆する方法、一つの押出機で全混練工程を実施し、押出被覆する方法等がある。このようにして得られた電線・ケーブルは大気中若しくは高湿環境下に放置することで、被覆材料の架橋が進行する。
【0007】
そして、近年の市場のグローバル化に伴い、国内規格を国際規格に整合させる動きが活発化している。低圧電力ケーブルの分野においてもIEC規格に整合したJIS規格が制定され、絶縁体として用いる架橋ポリエチレンにおいては従来よりも高い架橋度が要求されている。
【0008】
しかしながら、シラン架橋ポリエチレンの架橋度を上げることを目的として、シラン化合物の添加量と遊離ラジカル発生剤の添加量とを増加させると、押出成形時の外観に表面荒れ、及びツブ状の突起物等が生じる場合がある。更に、使用時において被覆材料が収縮し、接続部及び端末部の導体が外部に露出する、いわゆるシュリンクバックと称される現象が発生する場合がある。したがって、電線・ケーブルの被覆材料に用いるシラン架橋ポリエチレンの架橋度を向上させることが困難な場合がある。
【0009】
したがって、本発明の目的は、架橋度が高く、かつ、押出成形後の外観が平滑であり、シュリンクバックが小さいシラン架橋ポリエチレン、電線、及びケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明は、上記目的を達成するため、シラン化合物を遊離ラジカル発生剤によりグラフト共重合させたポリエチレンを架橋させたシラン架橋ポリエチレンであって、シラン化合物が、ポリエチレン100重量部に対し1.5重量部以上含まれ、シラン化合物の添加量の遊離ラジカル発生剤の添加量に対する割合が35以上であり、シラン化合物を遊離ラジカル発生剤によりグラフト共重合させた前記ポリエチレンの190℃、21.18Nの試験条件下におけるメルトインデックスが、5g/10分以下であるシラン架橋ポリエチレンが提供される。
【0011】
(2)また、上記シラン架橋ポリエチレンにおいて、ゲル分率が60%を超えてもよい。
【0012】
(3)また、上記シラン架橋ポリエチレンにおいて、シラノール縮合触媒が更に添加されてもよい。
【0013】
(4)また、上記シラン架橋ポリエチレンにおいて、JIS C 3660−2−1の9に示されるホットセット試験において、空気温度200℃、荷重20N/cm2、荷重を加える時間を15分に設定した試験条件での荷重時の伸びが175%以下であり、冷却後の永久伸びが15%以下であってもよい。
【0014】
(5)また、本発明は、上記目的を達成するため、(1)〜(4)のいずれか1つに記載のシラン架橋ポリエチレンからなる絶縁被覆層と、絶縁被覆層に被覆される導体とを備える電線が提供される。
【0015】
(6)また、本発明は、上記目的を達成するため、(1)〜(4)のいずれか1つに記載のシラン架橋ポリエチレンからなるシース層と、シース層に被覆される電線とを備えるケーブルが提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るシラン架橋ポリエチレン、電線、及びケーブルによれば、架橋度が高く、かつ、押出成形後の外観が平滑であり、シュリンクバックが小さいシラン架橋ポリエチレン、電線、及びケーブルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態に係るシラン架橋ポリエチレンからなる絶縁体を備える電線の断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るシラン架橋ポリエチレンからなる絶縁体を備えるケーブルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[実施の形態]
本発明の実施の形態に係るシラン架橋ポリエチレンは、シラン化合物を遊離ラジカル発生剤によりグラフト共重合させたポリエチレンをシラノール縮合触媒、及び水分の存在下で架橋させたシラン架橋ポリエチレンである。具体的に、シラン架橋ポリエチレンは、シラン化合物が、ポリエチレン100重量部に対し1.5重量部以上含まれ、シラン化合物の添加量の遊離ラジカル発生剤の添加量に対する割合が35以上であり、シラン化合物を遊離ラジカル発生剤によりグラフト共重合させたポリエチレンの190℃、21.18Nの試験条件下におけるメルトインデックスが、5g/10分以下である。
【0019】
ポリエチレンに添加するシラン化合物及び遊離ラジカル発生剤の量は、本発明者が鋭意検討した以下の結果に基づく。
【0020】
すなわち、まず、ポリエチレンにシラン化合物をグラフト共重合させる反応では、熱により遊離ラジカル発生剤が分解し、遊離ラジカルが発生する。そして、発生した遊離ラジカルがポリエチレンから水素を引き抜くことにより、ポリマーラジカルが生成する。生成したポリマーラジカルにシラン化合物が付加すると、シラン化合物がグラフト共重合したポリエチレンが得られる。
【0021】
しかし、実際には上記反応以外にポリマーラジカル同士の結合も同時に発生する。この反応が進行しすぎると、ポリエチレンの分子量が高くなり、更に、三次元的な橋架け構造を形成して架橋する。結果として、押出時の流動性が低下することにより表面の荒れやツブ状の突起等に起因する外観不良、残留歪によるシュリンクバックの問題が生じる。押出被覆時にシラノール縮合触媒を添加すると、ポリマー内の水分の影響によりシラン化合物をグラフト共重合させたポリエチレン同士の反応も発生するので、これらの問題はより顕著に表れる。
【0022】
これに対し、本発明者は、ポリエチレン100重量部に対し、1.5重量部以上のシラン化合物を添加し、かつ、シラン化合物の添加量の遊離ラジカル発生剤の添加量に対する割合(すなわち、重量比)を35以上にし、シラン化合物を遊離ラジカル発生剤によりグラフト共重合させたポリエチレンの190℃、21.18Nの試験条件下におけるメルトインデックスを5g/10分以下にすることで、押出成形時の表面荒れやツブ状の突起の発生、シュリンクバックの発生を防止できる知見を得た。更に、本発明者は、適切な条件で架橋を促進させた後は、架橋度の高いシラン架橋ポリエチレンが得られるという知見を得、本実施の形態に係るシラン架橋ポリエチレンに至った。
【0023】
これは、遊離ラジカル発生剤によって生成したポリマーラジカルが、過剰に添加されたシラン化合物と優先的に反応することによって、ポリエチレンの高分子量化、及び架橋を抑制できるので、押出性の低下を抑制できると共に、シラン化合物のグラフト量が増加することにより、高い架橋度を実現することができることに起因すると考えられる。
【0024】
本実施の形態において用いるシラン化合物は、ポリマーと反応可能な基とシラノール縮合により架橋を形成するアルコキシ基との双方を有する。具体的に、シラン化合物は、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン等のビニルシラン化合物、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン化合物、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシシラン化合物、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリルシラン化合物、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、ビス(3−(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド等のポリスルフィドシラン化合物、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン化合物等を用いることができる。
【0025】
また、遊離ラジカル発生剤としては、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、メチルエチルケトンパーオキサイド、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、クメンハイドロパーオキサイド等の熱によって分解し、遊離ラジカルを発生させる有機過酸化物を主として用いることができる。
【0026】
本実施の形態においては、1.5重量部以上のシラン化合物が、100重量部のポリエチレンに添加される。すなわち、ポリエチレンにグラフト共重合されるシラン化合物の量を多くすることにより得られる共重合体の架橋度を高くすることを目的として、シラン化合物は1.5重量部以上添加する。また、シラン化合物同士の反応が多くなることにより異物が生成し、成形物の外観や特性を低下させることを抑制すべく、シラン化合物は5重量部以下添加することが好ましい。
【0027】
また、シラン化合物の添加量の遊離ラジカル発生剤の添加量に対する重量比を35以上にする。ここで、重量比は、シラン化合物の添加量を(a)、遊離ラジカル発生剤の添加量を(b)とした場合に、(a)/(b)により算出することができる。ポリエチレンの高分子量化が進むことにより生成される共重合体の外観の荒れ及びツブ状の突起物の生成を抑制し、シュリンクバックを低減させるべく、(a)/(b)は35以上にする。また、シラン化合物同士の反応が多くなることにより異物が生成し、成形物の外観や特性を低下させることを抑制すべく、(a)/(b)は150以下にすることが好ましい。
【0028】
また、本実施の形態において用いるポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、若しくは超低密度ポリエチレン、又はこれらのうち2種以上を混合した混合物を挙げることができる。
【0029】
更に、本実施の形態に係るシラン架橋ポリエチレンは、IEC規格等で要求される物性を得ることができる架橋度を確保することを目的として、60%を超えるゲル分率を有する。そして、シラン化合物を遊離ラジカル発生剤によりグラフト共重合させたポリエチレンの190℃、21.18Nの試験条件下におけるメルトインデックスは、5g/10分以下である。メルトインデックスが5g/10分を超えると、ポリエチレンの分子量が低くなり、架橋度が上がりにくくなる傾向がある。
【0030】
また、シラン化合物をグラフト共重合させたポリエチレンのメルトインデックスは、好ましくは、190℃、21.18Nの試験条件下で、0.8g/10分以上であることが好ましい。メルトインデックスが0.8g/10分未満では、押出被覆の際にシラノール縮合触媒を添加すると、外観の荒れ、及びツブ状の突起物が生成しやすくなり、シュリンクバックも大きくなりやすい。
【0031】
本実施の形態に係るシラン架橋ポリエチレンには、シラノール縮合触媒を更に添加することができる。用いるシラノール縮合触媒としては、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクタエート、酢酸第1錫、カプリル酸第1錫、カプリル酸亜鉛、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト等を用いることができる。そして、シラノール縮合触媒の添加量は、用いるシラノール縮合触媒の種類に応じ、ポリエチレン100重量部あたり、0.001重量部以上0.1重量部以下に制御する。添加方法としては、試薬をそのまま添加する方法以外に、ポリエチレン等の結晶性ポリオレフィン系樹脂に予め混合したマスターバッチを用いる方法を採用することもできる。
【0032】
更に、本実施の形態に係るシラン架橋ポリエチレンには、プロセス油、加工助剤、難燃剤、難燃助剤、架橋剤、架橋助剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、銅害防止剤、滑剤、無機充填剤、相溶化剤、安定剤、カーボンブラック、着色剤等の配合剤を適宜、添加することもできる。
【0033】
図1は、本発明の実施の形態に係るシラン架橋ポリエチレンからなる絶縁体を備える電線の断面の概要を示す。また、図2は、本発明の実施の形態に係るシラン架橋ポリエチレンからなる絶縁体を備えるケーブルの断面の概要を示す。
【0034】
電線1は、銅等の金属材料からなる導体10と、導体10の外周を被覆する絶縁被覆層としての絶縁体20とを備える。また、ケーブル2は、電線1の外周を被覆するシース層としてのシース30を備える。絶縁体20及びシース30は、本実施の形態に係るシラン架橋ポリエチレンから主として構成される。絶縁体20及びシース30はそれぞれ、シラン架橋ポリエチレンの押出成形により導体10又は電線1を被覆する。
【0035】
本実施の形態に係るシラン架橋ポリエチレンを用いた電線1及びケーブル2は、以下の三つの工程を経て製造される。まず、ポリエチレンにシラン化合物をグラフト共重合させる工程(工程(1))、シラン化合物をグラフト共重合させたポリエチレン及びシラノール縮合触媒を混練し、導体10若しくは電線1に押出被覆する工程(工程(2))、電線1又はケーブル2を水分が存在する環境下に設置し、ポリエチレンの架橋を促進させる工程(工程(3))の三つの工程である。
【0036】
工程(1)及び工程(2)を単軸押出機等で一度の押出で実施する方法や、別々に分けて、工程(1)を単軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロール等で実施し、工程(2)を単軸押出機で実施する方法等を採用することできる。なお、酸化防止剤や着色剤などの配合剤は、いずれの段階でも加えることができる。また、工程(3)は、大気中に自然放置する方法、高湿庫等の環境下に設置する方法等がある。高湿庫内に設置する場合は、ポリエチレンの融点以下の温度に設定し、架橋速度を上昇させることもできる。
【0037】
(実施の形態の効果)
本実施の形態に係るシラン架橋ポリエチレンは、ポリエチレン100重量部に対し1.5重量部以上のシラン化合物が含まれ、シラン化合物の添加量の遊離ラジカル発生剤の添加量に対する割合が35以上であり、シラン化合物を遊離ラジカル発生剤によりグラフト共重合させたポリエチレンの190℃、21.18Nの試験条件下におけるメルトインデックスが5g/10分以下であるので、架橋度が高くすることができ、かつ、押出外観を平滑にすることができると共に、シュリンクバックを小さくすることができる。つまり、本実施の形態においては、成形時には押出性に優れ、かつ、適切な条件で架橋を促進させた後には高い架橋度を有するシラン架橋ポリエチレンを提供することができる。このようなシラン架橋ポリエチレンは、低圧電力ケーブル等の電線、及びケーブルの被覆材料として用いることができる。
【実施例】
【0038】
実施例1〜9に係るシラン架橋ポリエチレンからなる被覆材を備える電線と、比較例1〜6に係る電線とを作製した。
【0039】
具体的に、ポリエチレンにシラン化合物をグラフト共重合させる工程、及びシラノール縮合触媒を混練し、表1及び表2に記載の組成を有する被覆材を電線に押出被覆する工程を別々に実施することにより、実施例1〜9に係る電線、及び比較例1〜6に係る電線を作製した。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
まず、ポリエチレンにシラン化合物をグラフト共重合させる工程では、40mm単軸押出機(L/D=24)を用い、ホッパーからポリエチレンを投入し、ビニルトリメトキシシランにジクミルパーオキサイドを表1に記載の比率で溶解させた溶液を液添ポンプから注入し、シラン化合物がグラフト共重合したポリエチレンを作製した。シリンダ温度は200℃に設定し、押出機内の滞留時間は2〜3分に設定して押し出した。
【0043】
続いて、シラノール縮合触媒を混練し、電線に押出被覆する工程では、40mm単軸押出機(L/D=24)を用い、予め表1及び表2に記載の比率で原料を混合しておいたシラン化合物をグラフト共重合させたポリエチレンとシラノール縮合触媒とを含むマスターバッチをホッパーから投入し、7.3φの銅からなる導体に押出被覆して電線を作製した。なお、被覆材の厚さは1.2mmである。また、シリンダ温度を180℃に設定し、押出機内の滞留時間を2〜3分に制御して押し出しを実施した。そして、作製した電線に80℃の飽和蒸気圧中で24時間の架橋処理を施した。
【0044】
このようにして作製したシラン化合物をグラフト共重合させたポリエチレン、及びシラン架橋ポリエチレンを被覆した電線の特性を以下に示す方法で評価した。
【0045】
まず、シラン化合物をグラフト共重合させたポリエチレンに関しては、JIS K 7210に基づくメルトインデックス(メルトマスフローレイト)を測定した。ここで、温度は190℃に設定し、荷重は21.18Nに設定した。
【0046】
そして、シラン架橋ポリエチレンを被覆した電線は、以下に示す方法で評価した。
【0047】
(ゲル分率)
銅からなる導体を電線から取り除き、130℃に熱したキシレン中で24時間の抽出を実施した。(抽出後の残存ゲル重量)/(抽出前のシラン架橋ポリエチレン重量)×100(%)をゲル分率とした。ゲル分率が60%を超える被覆材を合格にした。
【0048】
(押出外観)
被覆材の表面の平滑さ、ツブ状の突起物の有無を目視、及び手触りにより評価した。十分に平滑であると判断された電線を合格(良)にした。
【0049】
(シュリンクバック)
絶縁体のシュリンクバックは、JIS C 3660−1−3の10に準拠して評価した。電線を300mmの長さに切断し、中央部に200mm間隔の標線を付した。そして、標線が絶縁体の端から2mmの位置になるように、試料の両端から絶縁体を取り除き、試験片とした。次に、130℃で1時間保持した時、{(加熱前の標線間距離)−(加熱後の標線間距離)}/(加熱前の標線間距離)×100(%)を絶縁体の収縮率とし、収縮率が4%以下である試験片を合格にした。
【0050】
(ホットセット試験)
銅からなる導体を取り除き、被覆材料の内側を平滑に研削してJIS C 3660−2−1の9に示されるホットセット試験を実施した。空気温度200℃の恒温層中にダンベル状の試料を吊るし、20N/cm2の荷重を15分間加え、荷重を加えた時の伸びを測定した。その後、荷重を取り除き、取り除いた時から5分経過した後、試料を取り出して十分に冷却した。そして、試料の永久伸びを測定した。荷重時の伸びが175%以下であり、冷却後の永久伸びが15%以下である被覆材料を合格にした。
【0051】
表1に示すように、実施例1〜9においては、いずれも押出外観が良好であり、シュリンクバックも小さく、ゲル分率も高く、ホットセット試験の結果が良好であった。
【0052】
また、表2に示すように、比較例1においては、押出外観、及びシュリンクバックは良好であった。しかし、シラン化合物の添加量が規定より少ないため、ゲル分率が低く、ホットセット試験で溶融、破断した。シラン化合物と遊離ラジカル発生剤の重量比を一定のままシラン化合物の添加量を多くした比較例2においては、ゲル分率が高くなり、ホットセット試験には合格するものの、流動性が低下し、押出外観が悪く、シュリンクバックも大きい結果となった。
【0053】
一方、比較例1に比べ、シラン化合物と遊離ラジカル発生剤の重量比を高めた比較例3、実施例3〜5においては、シラン化合物をグラフト共重合させたポリエチレンのメルトインデックスは、シラン化合物の添加量の増加と共に大きくなり、成形時のポリエチレンの高分子量化を抑制できた。比較例3は、シラン化合物の添加量が規定より少なく、ゲル分率が低いと共に、ホットセット試験が不合格であった。しかしながら実施例3〜5においては、ホットセット試験に合格した。
【0054】
実施例3と実施例6とを比較すると、実施例6ではシラン化合物をグラフト共重合させたポリエチレンのメルトインデックスが0.8より小さく、シュリンクバックが大きくなった。また、実施例3と実施例7とを比較すると、実施例7では原料ポリエチレンのメルトインデックスが2より小さく、シュリンクバックが大きくなった。
【0055】
比較例4と比較例5とでは、シラン化合物と遊離ラジカル発生剤の重量比が規定を下回るため、良好な押出外観が得られなかった。
【0056】
比較例6では、原料ポリエチレンのメルトインデックスが10より大きく、シラン化合物をグラフト共重合させた後のメルトインデックスが5より大きい。このため、ゲル分率が低くなり、ホットセット試験が不合格だった。
【0057】
以上のように、実施例1〜9に係るシラン架橋ポリエチレンを用いた電線及びケーブルは、押出外観に優れ、シュリンクバックも小さく、かつ、架橋度も高いことが示された。すなわち、実施例1〜9に係るシラン架橋ポリエチレンを用いた電線及びケーブルの工業的有用性は極めて高いことが示された。
【0058】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0059】
1 電線
2 ケーブル
10 導体
20 絶縁体
30 シース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シラン化合物を遊離ラジカル発生剤によりグラフト共重合させたポリエチレンを架橋させたシラン架橋ポリエチレンであって、
前記シラン化合物が、前記ポリエチレン100重量部に対し1.5重量部以上含まれ、前記シラン化合物の添加量の前記遊離ラジカル発生剤の添加量に対する割合が35以上であり、
前記シラン化合物を前記遊離ラジカル発生剤によりグラフト共重合させた前記ポリエチレンの190℃、21.18Nの試験条件下におけるメルトインデックスが、5g/10分以下であるシラン架橋ポリエチレン。
【請求項2】
ゲル分率が60%を超える請求項1に記載のシラン架橋ポリエチレン。
【請求項3】
シラノール縮合触媒が更に添加された請求項2に記載のシラン架橋ポリエチレン。
【請求項4】
JIS C 3660−2−1の9に示されるホットセット試験において、空気温度200℃、荷重20N/cm2、荷重を加える時間を15分に設定した試験条件での荷重時の伸びが175%以下であり、冷却後の永久伸びが15%以下である請求項3に記載のシラン架橋ポリエチレン。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のシラン架橋ポリエチレンからなる絶縁被覆層と、
前記絶縁被覆層に被覆される導体と
を備える電線。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のシラン架橋ポリエチレンからなるシース層と、
前記シース層に被覆される電線と
を備えるケーブル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−21146(P2012−21146A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131165(P2011−131165)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】