説明

シリカフィラーの製造方法

【課題】 シランカップリング剤による処理効果の高い溶融シリカ粉末が容易に得られ、信頼性の高い樹脂封止型半導体装置などの構成に適するシリカフィラーの製造方法の提供。
【解決手段】 珪石粉末をプロパン−酸素炎中に放出し溶融球状化し、球状のシリカフィラーを製造する工程において、前記溶融球状化温度から室温に冷却する過程、好ましくは50〜 300℃、より好ましくは85〜 150℃で、シランカップリング剤処理を施すことを特徴とするシリカフィラーの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、シリカフィラーの製造方法に係り、さらに詳しくは半導体装置の封止用樹脂の充填剤に適する球状のシリカフィラーの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】半導体工業の分野においては、半導体装置ないし半導体素子の外界に対する保護・安定性化のため、たとえばエポキシ樹脂組成物などでモールド封止している。なお、この樹脂モールド封止に当たっては、前記封止樹脂層の熱膨脹係数の低減、熱伝導度の向上、硬化樹脂層の亀裂発生防止などのため、球状の溶融シリカ粉末をフィラー(充填剤)として、エポキシ樹脂成分に混合・含有させている(特公平 3-46413号公報)。ここで、球状の溶融シリカ粉末は、プロパン−酸素炎(1900℃以上の温度)中に、破砕荷より調製した結晶性シリカ粉末を投入・溶射することにより得られている。
【0003】そして、平均粒径10〜50μm で、粒径分布 1〜 100μm 程度の球状溶融シリカ粉末は、たとえばエポキシ樹脂成分に混合・含有させたとき、増粘作用が小さくて(低い粘度を維持する)、良好な流動性や脱気性を呈するので、多くの関心が払われている。
【0004】また、上記球状溶融シリカ粉末を、β−( 3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル−トリメトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピル−トリメトキシシランなどのシランカップリング剤した場合は、硬化させた封止樹脂層の密着性や耐湿の向上に寄与し、前記封止樹脂層の機械的強度および電気的特性の改良がなされる。なお、球状溶融シリカ粉末のシランカップリング剤処理は、球状の溶融シリカ粉末とシランカップリング剤との乾式混合、あるいはシラン水溶液中もしくはエチルアルコール溶液中で、球状の溶融シリカ粉末を混合した後、 100〜 150℃程度の温度で乾燥処理することにより行われる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】近年、半導体装置(半導体素子)の実装回路装置化に伴って、樹脂封止型半導体パッケージが多用されつつある。ところで、表面実装型半導体パッケージの場合は、実装回路装置を構成する過程の半田付け工程で、表面実装型半導体パッケージが 200℃以上の温度に曝され、このときに、封止樹脂層に亀裂(クラック)を生じることが往々起こる。
【0006】そして、前記クラック発生の原因は、封止樹脂層中の水分が気化し、膨脹することによると考えられ、その防止対策として、封止用樹脂の低吸湿性化、および吸湿の低いシリカフィラーの配合率を高めることなどが試みられているが、封止用樹脂の低吸湿性化にも限界がある。一方、吸湿の低いシリカフィラーの配合率も90重量%に達するので、流動性などの点からトランスファー成型(モールド)が事実上至難な状態にある。つまり、上記シランカップリング剤で処理した球状の溶融シリカ粉末を封止用樹脂のフィラーとして配合しても、実用上、なお問題がある。
【0007】本発明者らは、上記対応策について、さらに検討を進めた結果、次のような現象を見出した。すなわち、球状の溶融シリカ粉末を溶射・製造後の時間が経過している場合、前記溶射・製造された溶融シリカ粉末表面にシラノール基が多量に存在しており、このシラノール基に水分が水素結合し、さらに、吸着水に水分が多重吸着する。したがって、溶融シリカ粉末を溶射・製造後の経過時間、溶融シリカ粉末の温度によっては、シランカップリング剤の処理効果が十分に得られない。つまり、前記溶融シリカ粉末表面には、吸着水や未反応シラノール基が残留し、水分を吸着し易い状態となっているため、シランカップリング剤による処理効果が得られない。
【0008】本発明は、上記事情に基づいてなされたもので、シランカップリング剤による処理効果の高い溶融シリカ粉末が容易に得られ、信頼性の高い樹脂封止型半導体装置などの構成に適するシリカフィラーの製造方法の提供を目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】請求項1の発明は、珪石粉末をプロパン−酸素炎中に放出し溶融球状化し、球状のシリカフィラーを製造する工程において、前記溶融球状化温度から室温に冷却する過程で、シランカップリング剤処理を施すことを特徴とするシリカフィラーの製造方法である。
【0010】請求項2の発明は、請求項1記載のシリカフィラーの製造方法において、シランカップリング剤処理を施す温度が、50〜 300℃であることを特徴とする。
【0011】請求項3の発明は、請求項1もしくは請求項2記載のシリカフィラーの製造方法において、シランカップリング剤処理を施す温度が、85〜 150℃であることを特徴とする。
【0012】本発明において、出発原料として用いる珪石粉末は、ベグマタイトの石英、変性した珪岩、水成岩などのいわゆる珪石を、たとえば破砕法もしくは磨砕法などによって粉砕・粉末かしたもので、平均粒径 1〜 100μm 程度で、かつ粒径分布5〜30μm 程度が好ましい。
【0013】本発明において、たとえば酸素もしくは窒素を搬送気体とし、供給される珪石粉末を溶射・球状化するために使用する火炎は、プロパン−酸素系が選択される。そして、この火炎温度は、珪石粉末の粒系や珪石粉末の供給量などによっても異なるが、一般的に、1500〜2000℃程度である。なお、前記プロパン−酸素系のプロパン/酸素比、供給される珪石粉末量/プロパン量(供給される珪石粉末濃度)などは適宜調節する。
【0014】本発明において、溶射・形成された球状のシリカフィラーを処理するために使用するシランカップリング剤としては、たとえばβ−( 3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル−トリメトキシシラン、γ−グリシジルオキシプロピル−トリメトキシシランなどが挙げられ、一般的には、アルコール系の溶媒で希釈したシランカップリング剤が使用される。
【0015】本発明において、前記シランカップリング剤による球状のシリカフィラーの処理は、球状のシリカフィラーが溶射・形成された温度よりも低温で、かつ少なくとも室温よりも高い温度の範囲で行われる必要がある。すなわち、未反応のシラノール基および吸着水の存在しない表面処理シリカフィラーを得るためには、溶射・形成された球状シリカフィラー表面のシラノール基量が、シランカップリング剤処理の必要最小限であり、吸着水が存在しない状態を呈することが前提条件となる。そして、この前提条件は、火炎・溶射による球状化直後から室温に冷却する過程で得られるからである。
【0016】前記溶射・形成された球状シリカフィラーのシランカップリング剤処理は、溶射・形成後の冷却過程で、球状シリカフィラーの温度が50〜 300℃程度のときに行うことが好ましく、より好ましは85〜 150℃程度である。ここで、シランカップリング剤処理は、球状シリカフィラー 100重量部当たり、 0.1〜 1重量部程度のシランカップリング剤をたとえば噴霧法などによって吹き付け・混合した後、80〜 150℃程度の温度で乾燥することにより行われる。なお、球状シリカフィラーの温度が 300℃以上のとき、シランカップリング剤処理を行うと、シランカップリング剤が熱分解などを起こして、所要の低吸湿化を達成できない恐れがある。 請求項1〜3の発明では、珪石粉末をプロパン−酸素炎中に放出し溶融球状化し、その溶融球状化温度から室温に冷却する過程で、シランカップリング剤処理を施す。つまり、表面のシラノール基量が、シランカップリング剤処理の必要最小限で、かつ吸着水が存在しない状態において、シランカップリング剤処理が行われるため、未反応のシラノール基および吸着水の存在しない低吸湿化されたシリカフィラーが容易に得られる。そして、前記シリカフィラーの低吸湿化に伴って、低吸湿性のモールド用樹脂組成物の提供を可能とし、結果的に、信頼性の高い樹脂封止型半導体装置の提供を可能とする。
【0017】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施例を説明する。
【0018】たとえばシリカ純度95%のベグマタイトの石英を、ボールミルなどによって破砕し、調製した平均粒径15μm の珪石粉末を用意する。一方、プロパン−酸素ガスを燃焼用ガスとするバーナーを備えた溶射装置を用意する。次いで、酸素ガスを搬送気体として、前記珪石粉末をバーナーに供給し、プロパン−酸素ガスの火炎中で溶融球状化させた球状のシリカフィラーを溶射・形成する。
【0019】前記球状のシリカフィラーの溶射・形成後、その冷却過程で、球状のシリカフィラーの温度が 100℃の時点で、球状のシリカフィラーに対して 0.5重量%相当量のシランカップリング剤( TSL8350.東芝シリコーン社製)を噴霧し、30分間混合した。その後、 100℃の温度で約 5時間、加熱乾燥を施してシリカフィラーを得た。
【0020】次に、上記製造したシリカフィラー90重量部と、エポキシ系樹脂10重量部とを混合してモールド用樹脂組成物を調製した。ここで、エポキシ系樹脂は、たとえばビスフェノール型エポキシ樹脂および脂肪族ポリアミン硬化剤である。このモールド用樹脂組成物をトランスファー成形し、厚さ 1mm,30×30mm角の成形体を得て、この成形体を85℃,85%RHの条件で、 168時間放置して吸湿量( ppm)を測定した(吸湿性評価)結果を表1に示す。
【0021】また、 148ピン QFP型のリードフレームのステージに18×18mm角の半導体チップを搭載し、所定の金型内に配置し、前記モールド用樹脂組成物を使用して、トランスファーモールドを行い 148ピン QFP型の樹脂封止型半導体装置を10個作成した。前記樹脂封止型半導体装置を85℃,85%RHの条件で、 168時間放置して吸湿させた後、 245℃で60秒間加熱して、半田耐熱性の評価を行った。すなわち、前記 245℃で60秒間の加熱後、樹脂封止型半導体装置の外観を顕微鏡で、内部を超音波探傷器でそれぞれ観察し、クラック発生の有無を調べた結果を表1に併せて示す。ここで、クラック発生数は、クラックが発生した樹脂封止型半導体装置の数である。
【0022】なお、上記実施例において、シランカップリング剤を噴霧するときの温度を、300℃以上にするとシランカップリング剤の熱分解が認められ、また、50℃以下ではシラノール基量や吸着水量の増加傾向が認められた。
【0023】比較例として、上記実施例の場合と同様の条件で、球状のシリカフィラーを溶射・形成し、冷却後、球状のシリカフィラーをポリエチレン樹脂製の袋に入れ、1週間放置後に球状のシリカフィラーに対して 0.5重量%相当量のシランカップリング剤( TSL8350.東芝シリコーン社製)を噴霧し、30分間混合した。その後、 100℃の温度で約 5時間、加熱乾燥を施してシリカフィラーを得た。
【0024】そして、実施例の場合と同様に、このシリカフィラーを使用して調製した、モールド用樹脂組成物をトランスファー成形した成形体、 148ピン QFP型の樹脂封止型半導体装置(10個)について、同様の条件で行った試験評価の結果を表1に併せて示す。
【0025】


なお、本発明は上記実施例に限定されるものでなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲でいろいろの変形を採ることができる。たとえば原料である珪石粉末の種類やその平均粒径、あるいは使用するシランカップリング剤の種類や使用量などは、適宜変更することができる。
【0026】
【発明の効果】請求項1〜3の発明によれば、表面のシラノール基量が、シランカップリング剤処理の必要最小限で、かつ吸着水が存在しない状態において、シランカップリング剤処理が行われるため、未反応のシラノール基および吸着水の存在しない低吸湿化されたシリカフィラーが容易に得られる。したがって、低吸湿性のモールド用樹脂組成物の提供を可能とし、結果的に、信頼性の高い樹脂封止型半導体装置の提供などに大きく寄与する。
【0027】

【特許請求の範囲】
【請求項1】 珪石粉末をプロパン−酸素炎中に放出し溶融球状化し、球状のシリカフィラーを製造する工程において、前記溶融球状化温度から室温に冷却する過程で、シランカップリング剤処理を施すことを特徴とするシリカフィラーの製造方法。
【請求項2】 シランカップリング剤処理を施す温度が50〜 300℃であることを特徴とする請求項1記載のシリカフィラーの製造方法。
【請求項3】 シランカップリング剤処理を施す温度が85〜 150℃であることを特徴とする請求項1もしくは請求項2記載のシリカフィラーの製造方法。

【公開番号】特開平11−92685
【公開日】平成11年(1999)4月6日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−259009
【出願日】平成9年(1997)9月24日
【出願人】(000221122)東芝セラミックス株式会社 (294)