説明

シリカ球状粒子

【課題】有機成分を実質的に含まず、かつ強固な凝集がなく、樹脂などに粒度分布の揃ったサブミクロン粒子として容易に分散し得るシリカ球状粒子を提供する。
【解決手段】水分散状態において、平均粒子径が0.1〜0.5μmの範囲にあり、かつその粒子径域における式(I)S(%)=(粒子径の標準偏差/平均粒子径)×100・・・(I)より算出される粒度分散係数Sが26%以下であって、式(II)S(%)=aX+b・・・(II)[Xは平均粒子径(μm)、aは−10〜−6、bは15〜27]の関係を満たすシリカ球状粒子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ球状粒子に関する。さらに詳しくは、本発明は、電子材料用充填材などとして有用な、強固な凝集がなく、樹脂などに粒度分布の揃ったサブミクロン粒子として容易に分散し得るシリカ球状粒子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、平均粒子径が1μm以下で、かつ粒度分布の揃ったシリカ、チタニア、アルミナなどの金属酸化物粒子は、各種充填材や研磨剤などとして有用であることが知られているが、特に最近では、電子材料用充填材としての用途が多い。この分野においては、電子部品の細密化や精密化により、特に粒度分布の揃った充填材用粒子が望まれている。
【0003】
平均粒子径が1μm以下で、かつ粒子径が揃った金属酸化物粒子は、これまでにも存在するが、工業的に製造することは容易ではない。
【0004】
例えば、天然鉱物の塊を粗粉砕し、さらに微粉砕して微粒子化し、サブミクロン粒子を得ることは可能であるが、未粉砕物の混入が避けられず、粒度分布が広いものとなる。
【0005】
また、金属酸化物微粒子を製造する方法としては、ゾル−ゲル法が知られている。このゾル−ゲル法においては、一般にアルコールおよび/又は水などを含む水性媒体中において、加水分解性金属化合物を加水分解処理することが行われ、そして生成した金属酸化物粒子は、所望の大きさとなって、水性媒体中に分散している。この状態においては、該粒子は、一次粒子の単一粒子となっているものや、数個の粒子が凝集しているものもある。特に1μm以下の粒子においては、凝集する傾向が顕著であり、しかも強固に凝集する傾向がある。
【0006】
このようにして得られた加水分解処理液は、濃縮、乾燥処理して脱溶媒を行い、粒子粉体を得る。この乾燥処理においては、通常粒子同士の間に強い引力が働き、二次凝集を引き起こし、しかもこの凝集は解きほぐすことが非常に困難である。上記の乾燥粉体を、改めて溶媒に分散して超音波処理などを施し、沈降した粒子の除去や、上澄みを取り除き、目的の粒子径を有する粒子のみを得ようとしても、収率が悪い上、工業的なスケールには対応しにくい。
【0007】
すなわち、一旦強固に二次凝集(一次凝集を含む)してしまった一次粒子の粒子径が1μm以下の、いわゆるサブミクロン金属酸化物粒子は、従来の超音波処理などの後処理では、再度凝集を解くのは非常に困難である。また、一次粒子の粒子径が1μm以上の二次凝集力の比較的弱い凝集粒子であれば、例えば樹脂に対する充填材として使用する場合、樹脂への練り込みの際の混練によるシェアによって、問題にならない場合もあるが、一次粒子の粒子径が1μm以下のサブミクロン粒子では、上記混練時のシェアで凝集を解きほぐすのは困難であり、樹脂中に充填材の金属酸化物粒子が均質に分散しない事態を招来する。その結果、所望する充填材添加効果が得られない。
【0008】
一方、このような問題を解決する方法として、二次凝集を軽減するために、加水分解処理液中に粒子が分散された状態で濃縮し、途中でエチレングリコールなどの分散剤を添加し、粒子表面に生じる粒子間引力を軽減させる手段が用いられることがある。ここで得られた分散粒子を含む濃縮液を種粒子液として、加水分解性金属化合物を再度加水分解処理して、粒子径を大きくすることは可能である。この場合、加水分解処理液を濃縮時に再度エチレングリコールなどの分散剤を添加することで所望の大きさまでビルドアップを行い、最終的には脱溶媒により乾燥粒子を得る。また、このような分散剤などの有機成分を含有又はコートすることで、乾燥時の二次凝集を抑制することも試みられている。この方法でも、粒度分布が揃ったサブミクロン粒子を工業的に得ることができる。しかしながら、このような方法で得られた粒子は、ビルドアップの途中で使用されたエチレングリコールなどの有機成分が粒子内部や表面に残留するのを避けられないために、電子部品において、熱的な影響を受ける個所での使用は、その熱によって該有機物が分解して問題となるおそれがある。そのため、使用用途が非常に限定されているのが実状である。
【0009】
したがって、余分な有機成分などを含まず、かつ凝集の少ない金属酸化物のサブミクロン粒子が望まれていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような事情のもとで、電子材料用充填材などとして有用な有機成分を実質的に含まず、かつ強固な凝集がなく、樹脂などに粒度分布の揃ったサブミクロン粒子として容易に分散し得るシリカ球状粒子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記の性状を有するシリカ球状粒子を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、ゾル−ゲル法により得られた粒子分散反応液を濃縮、乾燥、焼成処理後、さらに湿式解砕処理し、乾燥することにより、所望の性状を有するシリカ球状粒子が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1)水分散状態において、平均粒子径が0.1〜0.5μmの範囲にあり、かつその粒子径域における式(I)
S(%)=(粒子径の標準偏差/平均粒子径)×100 ・・・(I)
より算出される粒度分散係数Sが26%以下であって、式(II)
S(%)=aX+b ・・・(II)
[ただし、Xは平均粒子径(μm)で、0.1〜0.5であり、aは−10〜−6の数、bは15〜27の数である。]
の関係を満たすことを特徴とするシリカ球状粒子、および
(2)ゾル−ゲル法により形成されたものである上記(1)項に記載のシリカ球状粒子
を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電子材料用充填材などとして有用な、有機成分を実質的に含まず、かつ強固な凝集がなく、樹脂などに粒度分布の揃ったサブミクロン粒子として容易に分散し得るシリカ球状粒子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のシリカ球状粒子は、水分散状態において、平均粒子径が0.1〜0.5μmの範囲にあり、かつその粒子径域における式(I)
S(%)=(粒子径の標準偏差/平均粒子径)×100 ・・・(I)
より算出される粒度分散係数Sが26%以下であって、式(II)
S(%)=aX+b ・・・(II)
[ただし、Xは平均粒子径(μm)で、0.1〜0.5であり、aは−10〜−6の数、bは15〜27の数である。]
の関係を満たす粒子である。
【0015】
なお、前記の水分散状態における平均粒子径および標準偏差は、以下に示す方法により測定した値である。
〈水分散状態におけるシリカ粒子の平均粒子径および標準偏差の測定方法〉
水50ミリリットル中に試料0.1gを加え、出力150Wの超音波ホモジナイザーにて10分間分散させて、シリカ粒子の水分散液を調製する。次に、粒度分析計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)を用い、上記水分散液中のシリカ粒子について粒度分布を測定し、平均粒子径および標準偏差を求める。
【0016】
水分散状態において、前記関係式(I)および(II)を満たすシリカ球状粒子は、水分散状態において、サブミクロンの平均粒子径を有し、かつ粒子径の揃った粒子であり、このようなシリカ粒子は、強固な凝集塊が存在しないため、一般的な混練機を用いて、容易に樹脂などへ分散することができる。
【0017】
前記の性状を有する本発明のシリカ球状粒子は、以下に示す本発明の方法により、効率よく製造することができる。
【0018】
本発明のシリカ球状粒子を製造する方法においては、ゾル−ゲル法により得られたシリカ粒子を含む反応液を濃縮、乾燥、焼成処理し、次いで一次粒子の凝集塊を含む焼成粉体を湿式解砕処理したのち、乾燥することにより、所望の性状を有するシリカ球状粒子が得られる。
【0019】
前記のゾル−ゲル法により得られたシリカ粒子を含む反応液としては、例えば一般式(III)
MRn ・・・(III)
(式中、Mは珪素原子、Rは加水分解性基、nは珪素原子Mの価数を示し、複数のRはたがいに同一でも異なっていてもよい。)
で表される加水分解性珪素化合物を加水分解処理して得られたものを好ましく挙げることができる。
【0020】
前記一般式(III)において、Rで表される加水分解性基としては、珪素原子Mに結合し、加水分解される基であればよく、特に制限されず、例えば水酸基、アルコキシル基、イソシアネート基、塩素原子などのハロゲン原子、オキシハロゲン基、アセチルアセトネート基などが挙げられるが、これらの中で、アルコキシル基、特に炭素数1〜4の低級アルコキシル基が好適である。
【0021】
シリカ粒子は、樹脂のフィラーなどとしてよく用いられており、前記一般式(III)で表される加水分解性珪素化合物の中で、粒子の原料となる珪素化合物の例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシランなどを挙げることができる。本発明においては、前記一般式(III)で表される加水分解性珪素化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
本発明のシリカ球状粒子を製造する方法において、前記一般式(III)で表される加水分解性珪素化合物を加水分解処理して、シリカ粒子を含む反応液を調製する方法としては、特に制限はなく、従来公知の方法を用いることができる。例えば、該加水分解性珪素化合物を、水および/またはアルコールなどの水性媒体中において、所望により塩基触媒または酸触媒などの加水分解触媒の存在下に加水分解することにより、シリカ粒子を含む反応液を調製することができる。この際、一回の加水分解反応で所望の粒子径を有するシリカ粒子が得られれば、そのまま該反応液を次工程へ供給することができる。
【0023】
また、所望の粒子径のシリカ粒子が得られない場合には、このシリカ粒子をシード粒子とし、さらに加水分解反応を行う操作を1回以上繰り返して、所望の粒子径まで該粒子を成長させ、この成長した粒子を含む反応液を次工程へ供給することができる。
【0024】
本発明のシリカ球状粒子を製造する方法においては、このようにして得られたシリカ粒子を含む反応液を、常法に従って、濃縮、乾燥処理し、さらに焼成処理する。このようにして得られた焼成粉体には、一次粒子の凝集塊が含まれているので、該焼成粉体に湿式解砕処理を施す。
【0025】
一般に、凝集塊を解砕する手段としては、代表的な例として粉砕機による解砕がある。この粉砕機については乾式及び湿式方式が数多く実用化されている。
【0026】
中でも乾式粉砕機ジェットミルはジェット気流中に粉砕物を送り込み粒子同士の衝突力で破壊し微粉化する。1μm以上の粒子に解砕するには適しているが、未解砕の凝集物の混入があるため乾式分級機が必要となる。このような乾式粉砕機ジェットミルとしては、例えばホソカワミクロンカウンタージェットミル等が挙げられる。
【0027】
また乾式分級機を用いた場合でも、現在の分級レベルでは例えば0.2μm程度の粒子径を持つ粒子のみを抽出することは困難である。また取り扱う粉体によっては付着性が強く分級ができない場合もある。したがって、乾式粉砕機はサブミクロンの粒子に解砕するには不適である。
【0028】
一方湿式粉砕機においては、主に従来から行われている高圧ジェット水流衝突型とビーズミル型がよく知られている。前者の高圧ジェット水流衝突型は向かい合った2つのノズルから凝集塊を含んだスラリー液を衝突させ解砕を進行させる方法である。この方法の場合、一次粒子径が0.5μm程度以上であれば凝集塊が解砕される。ただし一次粒子径が0.2μm程度の場合には凝集力が強く解砕されない。したがって0.2μm程度の凝集塊の解砕には不適である。また、解砕機として使用する場合には出力196N/mm2以上の装置が必要となり大型で高価である。
【0029】
湿式粉砕機のビーズミル型粉砕機については機種の選定が重要となる。
水平横型ビーズミルで円筒部の筒が長い場合には、解砕するスラリー液が装置内のコーナなどの溜まりの部分と直線的に通過できる部分に分けられやすいために、滞留時間に差が生じる。このために得られた粒子は解砕が十分に終了した粒子と、応力がかかりすぎて、球形の形が割れてしまった粒子と、解砕が不充分で強固な凝集塊が残されたままの粒子に分かれるなど、好ましくない事態を招来する。そして、処理時間は微妙な調整となり重要なファクターとなる。ここで得られたスラリー液の粒度分布を測定した場合にはブロードな曲線となりやすい。
【0030】
このような理由から、本発明のシリカ球状粒子を製造する方法においては、焼成粉体の解砕には、湿式ビーズミル型粉砕機を用いるのが好ましく、そして該湿式ビーズミル型粉砕機としては、円筒型粉砕室を有し、かつ該円筒型粉砕室内部の形状において、スラリー液の流入方向長さ/スラリー液の流出方向長さの比が好ましくは1.0以下、より好ましくは0.7以下のものが好適である。図1は、湿式ビーズミル型粉砕機における円筒型粉砕室内部の形状を説明するための図であって、この図において、円筒型粉砕室1内部のスラリー液の流入方向長さ(筒部長さ)はA、スラリー液の流出方向長さ(胴径)はBとなり、したがってA/Bが、好ましくは1以下、より好ましくは0.7以下となる。
【0031】
円筒型粉砕室内部の形状が、上記範囲にある湿式ビーズミル型粉砕機を用いた場合も、解砕するスラリー液が装置内のコーナなどの溜まりの部分と直線的に通過できる部分に分けられやすいが、スラリー液の流入方向長さ(円筒部長さ)が、短いためにコーナ部の影響がなくなり、また滞留時間にも差が生じない。さらに、解砕の進行程度と粒子の割れ防止のコントロールは、ビ−ズ径(メディア径)とセパレータクリアランスと処理時間で制御される。そして、処理時間経過が目的時間と比較して2割程度オーバーしても品質の変化(粒子割れ)がないことが分かった。
【0032】
メディア径の選択は随時行うが、一次粒子径の大きさに合わせて選択する。代表例として一次粒子径が1.0μm以下約0.4μm以上の場合には0.3mm程度のメディアを用い、約0.4μm未満の場合には0.2mm程度のメディアを用いた方が目的の粒子を得やすい。
【0033】
本発明のシリカ球状粒子を製造する方法においては、このようにして、焼成粉体を湿式解砕処理したのち、常法に従って乾燥処理することにより、強固な凝集塊を含まず、所望の性状を有するシリカ球状粒子からなる粉体が得られる。
【0034】
次に、本発明のシリカ球状粒子を製造する方法の1例について説明する。
【0035】
まず、加水分解触媒を含む水性媒体を調製する。上記水性媒体としては、水または水と水混和性有機溶剤との混合物を用いることができる。ここで、水混和性有機溶剤の例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの低級アルコール類、アセトンなどのケトン類などが挙げられる。これらは単独で水と混合してもよいし、2種以上を組み合わせて水と混合してもよい。また、加水分解触媒としては、好ましくはアンモニアおよび/またはアミンが用いられる。アミンとしては、例えばモノメチルアミン、ジメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミンなどを好ましく挙げることができる。このアンモニアやアミンは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、毒性が少なく、除去が容易で、かつ安価なことから、アンモニアが好適である。
【0036】
次に、この加水分解触媒を含む水性媒体を攪拌し、かつ温度を0〜50℃程度に維持しながら、これに加水分解性珪素化合物、好ましくはテトラアルコキシシランを連続的に滴下して加水分解、縮合させて、シリカ粒子を形成させる。この際、珪素化合物の濃度が好ましくは20重量%以下、より好ましくは5〜15重量%になるように滴下することが望ましい。滴下時間については特に制限はないが、通常0.5〜5時間程度である。
【0037】
このようにして得られたシリカ粒子が、所望の粒子径を有する場合は、該反応液はそのまま濃縮、乾燥工程へ供給する。また、所望の粒子径に達しない場合には、前記反応液中のアルコール、アンモニアやアミンなどの揮発性有機成分を留去させて、シリカシード粒子の水分散液を得たのち、次工程の成長反応に用いる。
【0038】
加水分解触媒を含む水性媒体に、上記のシリカシード粒子の水分散液を加えて攪拌し、温度を0〜50℃に維持しながら、前記と同じ原料の加水分解性珪素化合物を連続的に滴下して加水分解、縮合反応を行い、シリカシード粒子を成長させ、所望の粒子径のシリカ粒子を含む反応液を得る。
【0039】
次に、前記のシリカ粒子を含む反応液を、例えば振動乾燥機などにより、常法に従って濃縮、乾燥処理し、シリカ粒子からなる乾燥粉体を得る。この乾燥粉体を、さらに700〜900℃程度の温度にて、酸素を含むガス雰囲気下で焼成処理することにより、焼成シリカ粒子粉体を得る。さらに、このようにして得られた焼成シリカ粒子粉体は、一次粒子が凝集した塊が含まれているので、前述したように湿式ビーズミル型粉砕機を用いて、湿式解砕処理を行う。この湿式解砕処理で得られたシリカ粒子の水分散液を、常法に従って乾燥処理することにより、所望の性状を有するシリカ球状粒子が得られる。
【実施例】
【0040】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
実施例1
(1)シード粒子の製造
攪拌機を備えた100リットルの反応容器を恒温槽にセットし、メタノール37kg、25重量%濃度のアンモニア水26kg及び水23kgを入れ、攪拌機で混合しながら30℃に加温した。次いでこの混合液を攪拌しながら、テトラエトキシシラン5.8kgを毎分50gの速度で連続的に添加した。添加後、ロータリエバポレータによりメタノール及びアンモニアを除去し、シリカシード粒子の水分散液を得た。このシリカシード粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)測定による平均粒子径は0.14μmであった。
【0041】
(2)焼成シリカ粒子の製造
攪拌機を備えた100リットルの反応容器を恒温槽にセットし、メタノール20kg、25重量%濃度のアンモニア水15kg及び水1.6kgを入れ、更に上記(1)で得られたシリカシード粒子の水分散液(平均粒子径0.14μm、重量濃度9%)を10kg添加し、シード粒子分散液を得た。この分散液を30℃に加温し、攪拌しながら、テトラエトキシシラン36kgを毎分100gの速度で連続的に添加して加水分解縮合反応を行い、シリカシード粒子を成長させた。この成長反応により生成したシリカ粒子は、その平均粒子径が0.23μm(SEM測定)となり、極めて粒度分布が狭い球状粒子であった。
水封式真空ポンプ、コンデンサー、加熱用ジャケットを備えた内容量50リットル、実容量27リットルの振動乾燥機(中央加工機製「VHS−30型」)に解砕用のナイロンボール(25mmφ)を15kg入れ、上記で得られたシリカ粒子の水分散液100リットルのうち25リットルを上記乾燥機に入れ、乾燥機本体を105℃に加熱しながら、53MPaの減圧条件で濃縮操作を開始した。振動乾燥機内の液量が15リットルまで濃縮した時点で、更にシリカ分散液10リットルを乾燥機内に導入し濃縮操作を行った。このような濃縮操作を繰り返すことにより、最初にシリカ粒子水分散液を導入してから4時間後に水分散液全量が15リットルまで濃縮された。次に乾燥機中の濃縮液15リットルに純水10リットルを注入して、更に濃縮操作を行い、アルコール及びアンモニアを除去しつつ、未反応のテトラエトキシシランの加水分解を完結させた。純水の注入が終了してから、振動乾燥機に5.1kNの振動力による振動を加えながら、更に1時間の濃縮操作を行うことにより水分が除去され、粉体化したシリカ粒子が得られた。更に引き続き105℃で3時間シリカ粒子を乾燥させた。
乾燥後のシリカ粒子をアルミナるつぼに入れて電気炉内にセットし、酸素気流下、室温から800℃まで3時間かけて昇温し、この温度で9時間保持した後、室温まで3時間かけて降温して、焼成シリカ粒子を得た。
【0042】
(3)目的とするシリカ粒子の製造
上記(2)で得られた焼成シリカ粒子を2kg、純水1.5kgを5リットルの手付きビーカ(ポリエチレン製)に入れスパチュラを用いて分散させた。
焼成シリカ粒子中には乾燥時や焼成時にできた多くの凝集塊が存在しており、このままSCミルで解砕を行うとスクリーンを詰まらせる可能性があるため、予備解砕を行うことにした。
【0043】
予備解砕機は三井鉱山製アトライタNS−1型を用いた。このアトライタに予め5mmφジルコニアビーズ12kgを充填した。上記の分散したシリカ粒子水分散液をアトライタに入れ300rpmで30分間分散させた。同様に焼成シリカ粒子を2kg、純水1.5kgを5リットルの手付きビーカ(ポリエチレン製)に入れスパチュラを用いて分散させた。この分散したシリカ粒子水分散液をアトライタに入れ300rpmで30分間分散させた。再度、焼成シリカ粒子を2kg、水1.5kgを5リットルの手付きビーカ(ポリエチレン製)に入れスパチュラを用いて分散させた。この分散したシリカ粒子水分散液をアトライタに入れ192rpmで30分間分散させた。このように3回予備解砕を行い、合計約10.5kg、重量濃度で57.1%の分散液を得た。
ここで得られた分散液を湿式解砕機(三井鉱山製「SCミル100型」)の原料とした。
【0044】
SCミルには0.2mmφジルコニアビーズを440g充填した。アトライタで予備解砕を行ったシリカ粒子水分散液をSCミルに投入し回転数1800rpmで運転を開始した。運転開始から1時間経過した後に、粒度分布の確認を行い、十分に解砕されていることを確認した後に約10kgのシリカ粒子水分散液をポリエチレン製の容器に取り出した。上記粒度分布の確認は島津製作所製レーザ回折粒度分布測定機「SALD−2000J」を用いて行った。なお、試料調製は通常予備分散で行われる超音波ホモジナイザー照射は行わず、装置内蔵の超音波分散のみで行った。また、測定の際に用いる屈折率の設定は1.60−0.10iとした。
【0045】
次にSCミルで得られたシリカ粒子水分散液の濃縮・乾燥を行った。
加熱用ジャケットを備えた内容量47リットル、実容量30リットルの濃縮乾燥機ブラボー(新幸インベスト製「IV型」)に、上記で得られたシリカ粒子水分散液10kg全量を入れて蓋をし、底部アジテーションを90rpmで攪拌し、更にサイドカッター1670rpmで回転させた。乾燥機本体は蒸気により105℃に加熱しながら、ブロアーにて吸引し濃縮操作を開始した。ブラボー内のシリカ粒子水分散液は1時間経過した後、液体から粉体へと変化してきた。この時点で更にサイドカッターの回転数を3000rpmに上げた。更に引き続き105℃で3時間シリカ粒子を乾燥させたのち、乾燥機を停止し取り出した。
【0046】
このようにして得られたシリカ粒子は、明細書本文記載の方法に従い、粒度分析計「マイクロトラックUPA」(日機装社製)で水分散状態における粒子分布を測定した結果、平均粒子径が0.2μm、粒度分散係数Sが13.2%で式(II)の条件を満たす粒子径分布の揃った粒子であった。
【0047】
実施例2
(1)シード粒子の製造
実施例1(1)と同様にして、シリカシード粒子の水分散液を得た。このシード粒子の走査型電子顕微鏡測定による平均粒子径は0.14μmであった。
【0048】
(2)焼成シリカ粒子の製造
攪拌機を備えた100リットルの反応容器を恒温槽にセットし、メタノール32kg、アンモニア水21kg及び水9kgを入れ、更に上記(1)で得られたシリカシード粒子の水分散液(平均粒子径0.14μm、重量濃度9%)を1.6kg添加し、シード粒子分散液を得た。この分散液を30℃に加温し、攪拌しながら、テトラエトキシシラン36kgを毎分100gの速度で連続的に添加して加水分解縮合反応を行い、シリカシード粒子を成長させた。この成長反応により生成したシリカ粒子は、その平均粒子径が0.47μm(SEM測定)となり、極めて粒度分布が狭い球状粒子であった。
以下、実施例1(2)と同様な操作を行い、焼成シリカ粒子を得た。
【0049】
(3)目的とするシリカ粒子の製造
上記(2)で得られた焼成シリカ粒子を用い、実施例1(3)と同様な操作を行い、目的のシリカ粒子を得た。
このようにして得られたシリカ粒子は、明細書本文記載の方法により、粒度分析計「マイクロトラックUPA」(日機装社製)で水分散状態における粒度分布を測定した結果、平均粒子径が0.5μm、粒度分散係数Sが18.0%で式(II)の条件を満たす粒子径分布の揃った粒子であった。
【0050】
比較例1
実施例1において、(2)で得られた焼成シリカ粒子、すなわち(3)の製造工程を経ていないシリカ粒子を比較例1の粒子とした。
この粒子は、水分散状態における平均粒子径及び粒度分散係数Sを、粒度分析計「マイクロトラックUPA」(日機装社製)により測定しようとしたが、凝集塊が多く存在し、粒子径領域がサブミクロン粒子径域より大きいところにあるため、測定不能であった。なお、後述の試験例において、レーザ回折粒度分布計で測定した平均粒子径は8.520μmであった。
【0051】
試験例1
実施例1および比較例1で得られたシリカ粒子について、以下のようにして水への分散性、水分散液中のシリカ粒子の粒度分布および分散状態を調べた。
(1)水への分散性
水50ミリリットル中に試料0.1gを入れ、超音波ホモジナイザー(出力150W)にて分散し、実施例1のサンプルと比較例1のサンプルの水へ分散されるために必要な時間を比較したところ、実施例1のサンプルは10分であったが、比較例1のサンプルは20分であった。
【0052】
(2)水分散液中のシリカ粒子の粒度分布
上記(1)で得られた実施例1および比較例1のシリカ粒子の水分散液についてレーザ回折粒度分布測定機(島津製作所製「SALD−2000J」)を用い、広粒子径範囲について粒度分布を測定した。実施例1の結果を図2に、比較例1の結果を図3に示す。また粒度分析計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)を用い、サブミクロン粒子径域での粒度分布を測定した。実施例1の結果を図4に示す。なお、比較例1は測定不能であった。
【0053】
レーザ回折粒度分布測定機による広粒子径範囲の粒度分布においては、図2および図3から分かるように、実施例1では、平均値が約0.2μmであって、0.07〜0.4μmの間に分布しているが、比較例1では、平均値が約8.5μmであって、1〜50μmの間に分布している。
【0054】
また、粒度分析計によるサブミクロン粒子径域での粒度分布においては、図4から分かるように、実施例1では、0.2μmを中位径としてみると±0.1μm以内に分布しており、粒度分散係数をみても13.2%であって、非常に粒子径が揃っている。これに対し、比較例1では、粒子径領域が大きいところにあり、測定不能であった。
【0055】
(3)水分散液中の分散状態
上記(1)で得られた実施例1および比較例1のシリカ粒子の水分散液について、シリカ粒子の分散状態をSEMで観察した。図5に、実施例1のSEM写真図を、図6に、比較例1のSEM写真図を示す。なお、図5、図6において、(a)は撮影倍率が5000倍の場合、(b)は撮影倍率が15000倍の場合である。
これらの図から、実施例1では凝集塊がないが、比較例1では、観察できる大きい凝集塊があることが分かる。
【0056】
以上の評価結果から、実施例1と比較例1においては、分散性に大きな差があることが証明できる。
本発明の水分散状態において、粒子径が揃ったサブミクロン粒子を樹脂へ混練した場合にも、せん断効果により、容易に一次粒子状態に分散されることが推察される。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、電子材料用充填材などとして有用な、有機成分を実質的に含まず、かつ強固な凝集がなく、樹脂などに粒度分布の揃ったサブミクロン粒子として容易に分散し得るシリカ球状粒子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】湿式ビーズミル型粉砕機における円筒型粉砕室内部の形状を説明するための図である。
【図2】実施例1で得られたシリカ粒子の水分散液について、レーザ回折粒度分布測定機を用い、広粒子径範囲で測定した粒度分布図である。
【図3】比較例1で得られたシリカ粒子の水分散液について、レーザ回折粒度分布測定機を用い、広粒子径範囲で測定した粒度分布図である。
【図4】実施例1で得られたシリカ粒子の水分散液について、粒度分析計を用い、サブミクロン粒子径域で測定した粒度分布図である。
【図5】実施例1で得られたシリカ粒子の水分散状態を示すSEM写真図である。
【図6】比較例1で得られたシリカ粒子の水分散状態を示すSEM写真図である。
【符号の説明】
【0059】
1 円筒型粉砕室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分散状態において、平均粒子径が0.1〜0.5μmの範囲にあり、かつその粒子径域における式(I)
S(%)=(粒子径の標準偏差/平均粒子径)×100 ・・・(I)
より算出される粒度分散係数Sが26%以下であって、式(II)
S(%)=aX+b ・・・(II)
[ただし、Xは平均粒子径(μm)で、0.1〜0.5であり、aは−10〜−6の数、bは15〜27の数である。]
の関係を満たすことを特徴とするシリカ球状粒子。
【請求項2】
ゾル−ゲル法により形成されたものである請求項1記載のシリカ球状粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−285406(P2008−285406A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−163559(P2008−163559)
【出願日】平成20年6月23日(2008.6.23)
【分割の表示】特願2002−76840(P2002−76840)の分割
【原出願日】平成14年3月19日(2002.3.19)
【出願人】(000120010)宇部日東化成株式会社 (203)
【Fターム(参考)】