説明

シリコーンおよび特定のポリホスファゼンを含む組成物およびデバイス

本発明は、ポリオルガノシロキサンおよびポリホスファゼン化合物の両方を含む組成物および医療デバイスに関する。医療デバイス内もしくは上に組み込まれると、これらの組成物は、前記デバイスが体液と接触した場合の前記デバイス上の細胞付着物を減少させて血栓症の重症度を減少させ、そして前記デバイスに対する抗拒絶反応特性を付与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療デバイス、ならびに前記医療デバイスへ、例えば、細胞もしくは細菌付着および/または増殖を減少させること、有機もしくは無機付着物を減少させること、血栓症のリスクを低下させること、または宿主被験者内での前記医療デバイスの生物学的受容性(抗拒絶反応特性)を改善することにより、有益な、および/または改良された特性を与える組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現代の医療手技の多くは、医療デバイスをヒトもしくは動物被験者の体内に植え込み、周期的もしくは継続的に内生もしくは外生組織および体液と長期間にわたり接触したままにさせることを必要とする。チューブは、植え込み型デバイスの一般的例であり、医療手技において極めて多数の用途がある。例えば、チューブは、流体および薬物送達チューブ、外部補給チューブ、排膿もしくは流体ドレーンチューブ、およびカテーテルを含むことができるが、それらはすべて患者の組織や体液との連続的な接触に耐え抜く必要がある。しかし、ヒトもしくは動物の体内でのそのような医療デバイスの存在、または別の方法で組織、体液、もしくは器官と接触する任意のデバイスは、例えば炎症、感染、血栓症、細胞および細菌付着、増殖および/または増殖の過剰発現、有機もしくは無機付着物(物質の集積)、再狭窄などの望ましくない反応を誘導する可能性がある。そのようなデバイスは、チューブ自体が作り出した通路を含む通路を閉塞させる可能性がある細胞増殖の拡散を生じさせる場合もある。
【0003】
チューブ以外の植込み型デバイスもまた、現代の医療手技において使用されている。例えば、顎、頬、鼻、頬骨、胸筋、ふくらはぎ、胸部、および臀部のためのインプラントは、通常は身体の領域内に、その身体の領域を強化する、(生体)力学的に安定化させる、もしくは再建するために挿入される軟質もしくは半硬質/流体シリコーンゴムから作製される。豊胸手術では、空隙内にシェルが挿入されるが、そのシェルには流体が前充填されている、もしくは挿入後に流体が充填される。これらのデバイスを製造するために使用される実際の材料は過去数年間にわたって変化してきたが、シリコーンは依然として、そのようなデバイス内で、またはそのようなデバイスのために使用される基本的材料である。
【0004】
シリコーンは、多数の医療インプラントを合成するために有用で人気のある材料である。しかし、シリコーンの使用にリスクが伴わない訳ではなく、シリコーンの使用には有害な作用が結び付いてきた。シリコーンが骨グラフトとして使用されてきた動物モデルでは、シリコーンには長期にわたる局所的体液貯留および下層の骨の吸収が結び付いており、患者は追加の矯正外科手術を受けなければならなくなる。シリコーンカテーテルは、尿路感染症および尿道炎に関係するカテーテルの外皮形成および閉塞を伴い、これらは、カテーテル法から比較的に短期間の後に発生することがある。さらに、シリコーンは、細菌感染症の不在下でさえ高い炎症指数と結び付いている。細菌が存在する場合は、シリコーンは、他の材料より化膿性感染に罹患する確率が高い。シリコーンは、現在は明確に認識された局所肉芽腫性炎症の誘導因子でもある。Cole,P.,Zackson,D.A.のAm.J.Clin.Pathol.,1990,Jan,93(1),148−52を参照されたい。さらに、シリコーンは、比較的酸感受性である。例えば、胃酸は、シリコーンに有害な影響を有することが公知である。さらに、生体液への長期曝露を含む生物学的環境へ曝露した後には、機械的弾性柔軟性の消失および剛性の増加が観察されることがある。さらに、経時的にインプラントから表面移動して漏出する可能性があり、それにより望ましくない生物学的反応を引き起こす、例えばオリゴマーシロキサンおよび長鎖脂肪酸などの可塑剤および平滑剤に起因して、生体適合性の低下が発生する可能性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Cole,P.;Zackson,D.A.;Am.J.Clin.Pathol.,1990,Jan.93(1),148−52
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シリコーン材料は一般に植込み型医療デバイスに使用されるので、シリコーンの有害な作用を調節する、もしくは改善するための何らかの方法に対する必要がある。この必要は、シリコーン材料が医療チューブ、ドレッシング類、増量剤、ドレナージチューブ、ポンプ部品、Tドレーン、眼内レンズ、コンタクトレンズ、皮膚増量剤、乳房インプラント、気管瘻ベント、コンフォーター、膜ドレッシング、ホイル、ペースメーカー電極のための絶縁材などの絶縁材、関節置換物、血管インプラント、ピン、クリップ、心臓弁を含む弁、シャント、スクリュー、プレート、グラフト、ステント、インプラント、ペースメーカー部品、除細動器部品、電極部品、手術デバイス、手術器具、人工膜もしくは構造、人工臓器もしくは組織の部品などを含むデバイスに使用されるために、広範囲に及ぶ。このため、医療デバイスにおいて使用する場合にシリコーンの有害な作用を減少させるのに役立ち得る任意の化合物、組成物、処理、および/または方法が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ポリオルガノシロキサン(「シリコーン」とも呼ばれる)および1つまたは複数の特定のポリホスファゼンを含む、ヒトもしくは動物の体内もしくは器官内へ導入するための、またはヒトもしくは動物の体内もしくは器官の組織もしくは流体と接触する医療デバイスを提供する。この材料の組み合わせは、医療デバイスをより生体適合性に、より潤滑性に、抗菌性に、および抗血栓形成性にさせることが見いだされている。
【0008】
医療デバイスおよび前記デバイスを包含する方法は、ポリオルガノシロキサンおよびポリホスファゼン成分の正確な配置に関しては限定されず、例えば、ポリオルガノシロキサンは、任意の方法でポリホスファゼンでコーティングおよび/または反応させられている、もしくは結合されている中間層でコーティング(もしくは層化)させる、反応させる、ブレンド(もしくは混合)する、グラフト化させる、結合する、架橋結合する、共重合する、コーティングおよび/または反応させることができる。さらに、本発明のポリホスファゼンは、ポリオルガノシロキサンと結合することができ、この組み合わせは、ポリホスファゼンおよびポリオルガノシロキサンが実質的に同時にコーティングされるように、デバイス上もしくは表面上にコーティングすることができる。すべてのこれらの態様は、任意の材料がポリオルガノシロキサンおよび特定のポリホスファゼンを含んでいる(include)もしくは含んでいる(comprise)という開示によって、または特定ポリホスファゼンがポリオルガノシロキサンに加えられるという開示によって包含されている。本明細書で使用する、ポリオルガノシロキサンは、シリコーン、ポリシロキサン、または単純重合シロキサンとも呼ばれる。
【0009】
また別の態様では、本開示は、式I、によって表される特定のポリホスファゼンもしくは誘導体またはそれらのアナログと組み合わせてポリオルガノシロキサンを含む医療デバイスを提供する。
【化1】

【0010】
nは、2〜∞であり、R〜Rは、アルキル、アミノアルキル、ハロアルキル、チオアルキル、チオアリール、アルコキシ、ハロアルコキシ、アリールオキシ、ハロアリールオキシ、アルキルチオレート、アリールチオレート、アルキルスルホニル、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、窒素、酸素、硫黄、リン、もしくはそれらの組み合わせから選択される1つまたは複数のヘテロ原子を含むヘテロシクロアルキル、または窒素、酸素、硫黄、リン、もしくはそれらの組み合わせから選択される1つまたは複数のヘテロ原子を含むヘテロアリールから各々独立して選択される基である。
【0011】
1つの態様では、例えば、ポリオルガノシロキサンは、医療デバイスの例えばコーティングなどの部品、または全部を構成することができ、そしてポリホスファゼンは任意の方法でポリオルガノシロキサンを備えるデバイス内に含めることができる。本発明は、ポリオルガノシロキサンにポリホスファゼンを加える工程を含む、医療デバイスをより生体適合性、より潤滑性、抗菌性、および抗血栓形成性にさせるための方法をさらに提供する。さらに、ポリホスファゼンは、モノマー、オリゴマーもしくはポリマーのいずれであろうと接着促進剤を含めて、もしくは含めずに、結合(tie)層、界面活性剤、分散剤、充填材、安定剤、または相互に接触した場合にポリホスファゼンおよびポリオルガノシロキサン化合物間の界面適合性および/または安定性を改善することを目的とする任意の他の物質との組み合わせにおいて使用できる。
【0012】
また別の態様では、本開示は、ポリオルガノシロキサンおよびポリ[ビス(2,2,2−トリフルオロエトキシ)ホスファゼン]を含む医療デバイスを提供する。さらに、本発明は、シリコーンおよび特定のポリホスファゼンを含む組成物であって、ポリホスファゼンは、ポリ[ビス(2,2,2−トリフルオロエトキシ)ホスファゼン]とも呼ばれるポリ[ビス(トリフルオロエトキシ)ホスファゼン]である組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】大腸菌(E.coli)を含有する人工尿中で3日間培養した後にポリ[ビス(2,2,2−トリフルオロエトキシ)]ホスファゼンを用いて処理したSilastic(登録商標)フォーリーカテーテルの倍率1,600倍での走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す図である。
【図2】大腸菌を含有する人工尿中で3日間培養した後にいずれのポリホスファゼンを用いた処理もしていないSilastic(登録商標)フォーリーカテーテルの倍率550倍での走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す図である。
【図3】大腸菌を含有する人工尿中で3日間培養した後にいずれのポリホスファゼンを用いた処理もしていないSilastic(登録商標)フォーリーカテーテルの倍率1,600倍での走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、ヒトもしくは動物の身体もしくは器官内に導入するための、またはヒトもしくは動物の身体もしくは器官の組織もしくは流体と接触する医療デバイスであって、ポリオルガノシロキサンをポリホスファゼンと組み合わせて含む、あるいは言い換えると、それにポリホスファゼンが加えられているポリオルガノシロキサンを含む医療デバイスに関する。
【0015】
1つの態様では、本発明は、特定のポリホスファゼンもしくはその誘導体をポリオルガノシロキサンと組み合わせて含むデバイスを提供する。理論によって束縛することは意図していないが、ポリホスファゼンをポリオルガノシロキサンと「組み合わせて」と記載する場合は、制限なく、ポリホスファゼンがポリオルガノシロキサンと接触していること、またはポリホスファゼンがポリオルガノシロキサンと接触している中間成分と接触していることを反映することが意図されている。中間成分には、例えば、本明細書で開示するような接着促進剤、結合層、移行材料、介在層などの材料が含まれる。本明細書で使用する用語「接触している」には、成分間もしくは層間の任意の化学的もしくは物理的相互作用が含まれる。例えば、ポリオルガノシロキサンと接触しているポリホスファゼンは、シリコーンと本明細書に開示した特定のポリホスファゼンの組み合わせ、それらの任意の(ランダム、交互、ブロック、グラフト、櫛形、星形、樹枝状などの)コポリマー、シリコーンとポリホスファゼンとの間の相互貫入網目、ブレンド、または他の化学的もしくは物理的相互作用を含むもののいずれかを含むことが意図されている。同様に、ポリホスファゼンがポリオルガノシロキサンと接触している中間成分と接触していると記載する場合は、任意のタイプの化学反応、結合、イオンおよび/または静電相互作用、またはそれによりこれら全部の成分が相互作用を達成する任意のタイプの物理的および/または化学的プロセスを含むことが意図されている。ポリホスファゼンをポリオルガノシロキサンと組み合わせて含む任意のデバイスは、それらの任意の組み合わせを含むこれらの接触相互作用タイプのいずれかを含む、および/または1つのタイプもしくは他のタイプに含まれると容易には同定されない接触相互作用を含むことができるが、むしろこれら2つの間の相互作用様式の連続体(例えば結合エネルギー、ファンデルワールス相互作用、イオン相互作用、静電相互作用、ルイス酸/塩基錯体形成など)に沿って位置付けられると理解すべきである。
【0016】
ポリオルガノシロキサン。1つの態様では、ポリオルガノシロキサンは、医療デバイスの一部、例えばコーティングを構成するが、一部の実施形態では、本医療デバイスは、(バルク材料を形成する)ポリオルガノシロキサン自体から調製される。用語「ポリオルガノシロキサン」、「ポリシロキサン」、または「シリコーン」は、それらの骨格が繰り返しのケイ素−酸素結合から作られている合成ポリマーの一般カテゴリーを意味する。ポリマー骨格鎖を形成するためのそれらの酸素への結合に加えて、ケイ素原子はさらに側鎖に、典型的には有機基に結合する。1つの態様では、有機側基は、メチル基を含んでいる。1つの一般的シリコーンは、ポリマー鎖内の各ケイ素原子に結合した2個のメチル基を有することを特徴とする;このため、このシリコーンは、繰り返しの[−O−SiMe−]単位からできている。このシリコーンは、ポリジメチルシロキサン(またはジメチルポリシロキサン)と呼ばれ、一般にはPDMSと略記される。
【0017】
しかし、本発明では、多数の他のポリオルガノシロキサンを使用できる。例えば、適切なポリオルガノシロキサンには、以下の基、アルキル、アリール、アルキルオキシ(アルコキシ)、アリールオキシ、ハロアルキル、ハロアリール、ハロアルコキシ、ハロアリールオキシ、アルケニル、アルキニル、アルキル−もしくはアリール−エーテル基、アルキル−もしくはアリール−エステル基、O−複素環基、N−複素環基、およびそれら複素環基の変形、ならびにそれらの任意の異性体を含む組み合わせを含み、このときいずれの基も約20個までの炭素原子を有していてよい、のいずれかがポリオルガノシロキサン構造内でケイ素に結合できるポリオルガノシロキサンが含まれるが、それらに限定されない。有用である特定の基の例には、メチル、エチル、n−プロピル、イソ−プロピル、n−ブチル、t−ブチル、フェニル、トリル、キシリル、ベンジル、イミダゾリル、ビニル、ビニルベンジル、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソ−プロポキシ、クロロフェニル、フルオロフェニル、トリフルオロメチル、トリフルオロエチル、トリフルオロプロピル、ヘキサフルオロ−イソプロピル、酢酸エステル、ギ酸エステルなど、およびそれらの任意の組み合わせが含まれるが、それらに限定されない。そこで、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、エーテルまたは、チタン酸塩もしくはジルコン酸塩として間接的に、もしくはシロキサン骨格などに直接的に付着した酢酸もしくはギ酸エステルを含有する潜在的に加水分解可能な基は、対応するホモポリマーもしくはコポリマーのシロキサン調製物もしくはブレンドへ当分野において一般に公知かつ使用される所望の特性を提供するために、鎖に沿ってメチル基と置換されることが多い。これらなどの置換基は、当業者には公知であるように、対応するホモポリマーもしくはコポリマーのシロキサン調製物もしくはブレンドに所望の特性を提供するために、ポリジメチルシロキサン構造内で一部もしくは全部のメチル基と置換されてよい。その他の基は、そのような基を部分的もしくは完全にハロゲン化することができる、例えばフェニル、エチル、ビニル、アリルなどの、ポリジメチルシロキサン構造内の一部または全部のメチル基と置換されてよい。ハロゲン化基の例には、ペンタフルオロフェニル、トリフルオロエチル、またはトリフルオロメチルフェニル基が含まれるがそれらに限定されない。さらに、所望の特性を備えるコポリマーのシロキサン調製物もしくはブレンドは、当分野において公知で使用されている。
【0018】
本発明において使用できる特定のポリシロキサンまたは「シリコーン」は限定されない。むしろ、ヒトもしくは動物の身体、器官、血管、または腔内へ導入するために適する、またはヒトもしくは動物の身体もしくは器官の組織もしくは流体(液体および/または気体)と接触する任意のデバイスを含む医療デバイス内で使用される、または使用できる任意のシリコーンは、本発明に包含される。さらに、本開示は、例えば、高温加硫(HTV)シリコーン、室温加硫(RTV)シリコーン、および液状シリコーンゴム(LSR)さえ含むシリコーンゴムの主要業種分類にしたがって分類される任意のシリコーンに適用できる。さらに、シリコーンゴムについてのASTM D1418分類に従った任意のシリコーンゴムを使用することができ、それらの例は表1に提供した。この表は、シリコーンゴムについてのASTM D1418分類を示す。
【表1】

【0019】
これらの様々な化合物のために一般的に使用される用語には、シリコーン、シリコーン−エラストマー(高粘度エラストマー、液状シリコーンゴム、低粘度シリコーン、および接着剤を含むがそれらに限定されない)、シリコーンゴム、フルオロシリコーン、フルオロシリコーンのポリマー、ジメチルシリコーン、フェニル含有シリコーン、ビニル含有シリコーン、置換シリコーン、シリコーン樹脂、シリコーン樹脂とエラストマーのブレンド、シリコーンゲル、シリコーン液状エラストマー、ポリシロキサン、および室温で固体であるその他のシロキサンが含まれる。そのような材料は、全部が本発明に包含される。ポリマー上の末端基は、トリメチルシリルオキシ末端をさらに含むことができるが、これらの末端上のメチル基は他の基もしくは原子と置換されてもよい。本発明ではシリコーンの正確なタイプは限定されないが、それはシリコーンに加えられるポリホスファゼンは効率的に作用し、室温および高温ならびに化学的および放射線硬化性シリコーン、液体射出成形シリコーン、シリコーン液体エラストマー、凝縮硬化性シリコーン、付加硬化性シリコーンおよびエラストマー、ならびに樹脂性シリコーンを含むがそれらに限定されないシリコーンに有益な特性を加えるからである。このために、また別のシリコーンの例には、室温硬化性(RTV)、水分硬化性、白金硬化性、ペルオキシ硬化性、またはより一般的には、金属およびラジカル硬化性シリコーンが含まれるがそれらに限定されない。
【0020】
さらに、化合物もしくは組成物を含む充填材料もまたシリコーンに加えることができる。例えば、当業者には理解されるように、シリコーンに追加の特性を付与するために、カーボンブラック、酸化チタン、硫酸バリウム、ヒュームドシリカなどのシリカ充填剤、または様々な顔料をシリコーンに加えることができる。例えば、充填剤材料は、ハプト数を変化させるため、不撓性もしくは柔軟性の特性を提供するため、放射線不透過性などの光学的品質もしくは電磁特性を変化させるため、または導電特性を変化させるために使用できる。
【0021】
デバイス。1つの態様では、本発明は、シリコーンを含有する任意のデバイスを包含しており、そしてシリコーンを含むデバイスを製造する方法であって、本発明のシリコーンおよびポリホスファゼンを結合する工程を含む方法を提供する。例えば、医用チューブではないチューブもまた、本発明の範囲内に含まれる。その他の例は、様々なシール、ガスケット、ベローズ、ローラー、バルブ、押出デバイス、鋳造デバイス、彫刻デバイス、装飾彫刻デバイス、成形デバイスなどを含んでいる。デバイスがそれから構成される基礎の材料は限定されないが、それは本発明がシリコーンを含有する任意のデバイスに適用できるからである。シリコーンに加えられるポリホスファゼンは、シリコーンに非医療使用にも有益である特性を付与する。例えば、本発明のポリホスファゼンは、高度の潤滑性ならびに非粘着特性を有する、そしてそれらの特性を付与するが、これらはチューブ内もしくはデバイスの表面上での材料もしくは流体の移動に役立ち、成分、接触面、および周囲環境への摩擦摩耗を減少させる。さらに、シリコーン含有デバイスに加えられる本発明のポリホスファゼンは、デバイスを清潔に維持する際のメンテナンスの努力を減少させることのできる抗菌特性をデバイスに付与する。また本デバイスは、チューブには限定されず、シリコーンを含む任意の三次元構造または任意の二次元表面であってよい。例えば、固体構造、シート、および外部環境もしくは構造内の他の空隙と連絡している、もしくは連絡していない内部空隙を備える構造、またはそれらの組み合わせは、本発明の範囲内に含まれる。
【0022】
1つの態様では、本デバイスもしくは医療デバイスがシリコーンおよび本発明のポリホスファゼンしか含有しないことは必要とされない。本発明の所定の実施形態では、本デバイスもしくは医療デバイスは、ポリホスファゼンに加えて、シリコーンおよび少なくとも1つの他の化合物もしくは材料の組成物を含むことができる。例えば、所定の医療デバイスは、シリコーンおよびウレタンもしくはポリウレタンコポリマーを含む組成物を含むことができる。シリコーンを含む追加の組成物には、さらにポリ塩化ビニル(PVC)、アクリル系、ビニル、ナイロン、ポリエチレンおよびポリプロピレンを含むポリオレフィン、ポリエーテル、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ヒドロゲル、イオノマー、シリコーンゴム、熱可塑性ゴム、フルオロポリマー、その他のポリシロキサンなどを含有する組成物が含まれる。当業者は、シリコーンおよびポリホスファゼンを含む組成物の成分は、さらにそれらの任意の組み合わせを含む上記に列挙した材料のいずれかまたはその他をさらに含むことができること、そして本組成物は、それがシリコーンおよびポリホスファゼンを含有する限り、他の材料の表面に適用する、もしくは他の材料と混合する、ブレンドする、その上にコーティングする、グラフト化もしくは結合できることを認識する。
【0023】
他の態様では、本デバイスもしくは医療デバイスは、さらにまたシリコーンおよびポリホスファゼンが、デバイスもしくは医療デバイスを被包化する、デバイスもしくは医療デバイスの1つまたは複数の表面に適用される、デバイスもしくは医療デバイスの内部にある、さもなければデバイスもしくは医療デバイスの一部であるデバイスもしくは医療デバイスであってよい。例えば、金属プレートなどの内部構造はシリコーンでコーティングすることができ、そしてシリコーンもしくはシリコーンを含む材料の層は引き続いてポリホスファゼンで、またはポリホスファゼンへコーティングする、グラフト化させる、ブレンドする、もしくは接着することができる。または、内部構造は、本発明のシリコーンおよびポリホスファゼンを含む組成物でコーティングする、ブレンドする、グラフト化させる、もしくは接着することができる。
【0024】
本医療デバイスは、任意の数の技術によってヒトもしくは動物の身体もしくは器官内に導入することができる。例えば、本デバイスは、ヒトもしくは動物の身体、器官、血管、もしくは腔に開口部が作成される手術などの侵襲性手技を通して導入することができ、本デバイスはその中に配置される。または、ヒトもしくは動物は本デバイスを飲み込むことができる、または本デバイスはヒトもしくは動物の身体上の開口部内に配置できる、または本デバイスはヒトもしくは動物の身体へ少なくとも部分的に付着させることができる。さらに、本デバイスは、さもなければヒトもしくは動物の身体またはヒトもしくは動物の器官の組織もしくは流体(液体および気体を含む)と接触させることができる。例えば、本デバイスは、その中を流体が通過するチューブを含むことができ、例えば被験者の身体内もしくは身体外へ流体を送達および/または輸送する任意の体外デバイスなどのチューブは、チューブをヒトもしくは動物の体内に挿入せずにその流体をヒトもしくは動物へ送達できる。追加の例は、例えば気体もしくは流体の通過もしくは流動を制御する弁であって、ヒトもしくは動物の身体内に挿入できる、またはヒトもしくは動物の身体の外部へ配置できる弁などの医療デバイスを含んでいる。デバイスの正確な配置は限定されないが、それは本発明の1つの態様は、それによりポリホスファゼンがシリコーンもしくはシリコーン含有デバイスに有益な特徴を付与する、シリコーンをベースとする、もしくはシリコーンを含有するデバイスと本発明のポリホスファゼンとの組み合わせであるためである。
【0025】
ポリホスファゼン。シリコーンおよびポリホスファゼンを含む本デバイスもしくは医療デバイスは、典型的には以下の一般式I、を有する特定のポリホスファゼンもしくはその誘導体を含んでいる。
【化2】

【0026】
式中、nは、2〜∞である;およびR〜Rは、アルキル、アミノアルキル、ハロアルキル、チオアルキル、チオアリール、アルコキシ、ハロアルコキシ、アリールオキシ、ハロアリールオキシ、アルキルチオレート、アリールチオレート、アルキルスルホニル、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、窒素、酸素、硫黄、リン、もしくはそれらの組み合わせから選択される1つまたは複数のヘテロ原子を含むヘテロシクロアルキル、または窒素、酸素、硫黄、リン、もしくはそれらの組み合わせから選択される1つまたは複数のヘテロ原子を含むヘテロアリールから各々独立して選択される基である。
【0027】
残基R〜Rは、各々独立して変動してよく、このために同一であっても相違していてもよい。式I中でnは∞ほど大きくてよいと指示することによって、約75,000,000ダルトンまでの平均分子量を有していてよいポリホスファゼンポリマーを包含するnの値を規定することが意図されている。例えば、1つの態様では、nは少なくとも40〜約100,000まで変動してよい。また別の態様では、nは式Iにおいて∞ほど大きくてよいと指示することによって、約4,000〜約50,000のnの数値を規定することが意図されており、より好ましくはnは約7,000〜約40,000、および最も好ましくはnは約13,000〜約30,000である。
【0028】
本発明のまた別の態様では、本明細書に開示したデバイスを調製するために使用するポリマーは、上記の式に基づく分子量を有しており、これは少なくとも約70,000g/molの分子量、より好ましくは少なくとも約1,000,000g/mol、およびさらにより好ましくは少なくとも約3×10g/mol〜約20×10g/molの分子量であってよい。最も好ましいのは、少なくとも約10,000,000g/molの分子量を有するポリマーである。
【0029】
本発明の1つの態様では、ポリホスファゼンは、ポリ[ビス(2,2,2−トリフルオロエトキシ)ホスファゼン]またはそのフッ素化アルコキシドアナログである。好ましいポリ[ビス(トリフルオロエトキシ)ホスファゼン]ポリマーは、以下に示す式IAによって表される反復型モノマーから作られている。
【化3】

【0030】
式中、R〜Rは、全部がトリフルオロエトキシ(OCHCF)基であり、nは、少なくとも約100〜より大きな分子量の長さまで変動してよい。
【0031】
例えば、nは、約4,000〜約500,000、または約4,000〜約3,000である。1つの態様では、nは、約13,000〜約30,000である。または、本発明のデバイスの調製においては、このポリマーのアナログを使用できる。用語「アナログ」は、式IAの構造を有するモノマーから作られているポリマーを意味することが意図されているが、このときR〜R官能基の1つまたは複数は相違する官能基と置換されるが、そのポリマーの生物学的不活性は実質的に変化しない。典型的な官能基には、エトキシ(OCHCH)、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルオキシ(OCHCFCF)、2,2,2,2’,2’,2’−ヘキサフルオロイソプロピルオキシ(OCH(CF)、2,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロブチルオキシ(OCHCFCFCF)、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチルオキシ(OCH(CFCF)、2,2,3,3,−テトラフルオロプロピルオキシ(OCHCFCHF)、2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロブチルオキシ(OCHCFCFCF)、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8−ドデカフルオロオクチルオキシ(OCH(CFCHF)などが含まれる。さらに、一部の実施形態では、R〜R基の1%以下は、より弾性のホスファゼンポリマーを提供するために架橋結合を支援できる特徴である、アルケノキシ基であってよい。この態様では、アルケノキシ基には、OCHCH=CH、OCHCHCH=CH、アリルフェノキシ基などがそれらの組み合わせを含めて含まれるが、それらに限定されない。
【0032】
また別の態様では、nは式IまたはIAにおいて∞ほど大きくてよいと指示することによって、分子量が少なくとも約70,000g/molであるポリホスファゼンポリマーを包含するnの数値を規定することが意図されている。また別の態様では、nは、平均分子量が少なくとも約1,000,000g/molであるように選択できる。さらに、nは、平均分子量が少なくとも約10,000,000g/molであるように選択できる。さらにまた別の態様では、平均分子量の有用な範囲は、約7×10g/mol〜約25×10g/molである。
【0033】
ペンダント側基もしくは部分(「残基」とも称する)であるR〜Rは、各々独立して変動してよく、このため同一であっても相違していてもよい。さらに、R〜Rは、置換または未置換であってよい。アルコキシ、アルキルスルホニル、ジアルキルアミノ、およびその他のアルキル含有基内のアルキル基もしくは部分は、例えば1〜20個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分枝状アルキル基であってよく、例えば少なくとも1つのハロゲン原子、例えばフッ素原子もしくは上記のR〜R基について記載した基などの他の官能基によってアルキル基がさらに置換されることが可能である。プロピルもしくはブチルなどのアルキル基を規定することによって、特定のアルキル基の任意の異性体を包含することが意図されている。
【0034】
1つの態様では、アルコキシ基の例には、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、およびブトキシ基などが含まれるがそれらに限定されず、それらはさらに置換されてよい。例えば、アルコキシ基は少なくとも1つのフッ素原子と置換されてよく、2,2,2−トリフルオロエトキシは有用なアルコキシ基を構成する。また別の態様では、アルコキシ基の1つまたは複数は、少なくとも1つのフッ素原子を含有している。さらに、アルコキシ基は、少なくとも2つのフッ素原子を含有していてよい、またはアルコキシ基は3つのフッ素原子を含有していてよい。例えば、シリコーンと組み合わされるポリホスファゼンは、ポリ[ビス(2,2,2−トリフルオロエトキシ)ホスファゼン]であってよい。ポリマーのアルコキシ基はさらにまた上述した実施形態の組み合わせであってよいが、このとき1つまたは複数のフッ素原子は他の基もしくは原子と組み合わせてポリホスファゼン上に存在している。
【0035】
1つの態様では、例えば、置換基R〜Rのうちの少なくとも1つは、未置換アルコキシ置換基、例えばメトキシ(OCH)、エトキシ(OCHCH)またはn−プロポキシ(OCHCHCH)であってよい。また別の態様では、例えば、置換基R〜Rのうちの少なくとも1つは、少なくとも1つのフッ素原子で置換されたアルコキシ基である。有用なフッ素置換アルコキシ基であるR〜Rの例には、OCF、OCHCF、OCHCHCF、OCHCFCF、OCH(CF、OCCH(CF、OCHCFCFCF、OCH(CFCF、OCH(CFCF、OCH(CFCF、OCH(CFCF、OCH(CFCF、OCHCFCHF、OCHCFCFCHF、OCH(CFCHF、OCH(CFCHF、OCH(CFCHF、OCH(CFCHF、OCH(CFCHFなどが含まれるがそれらに限定されない。
【0036】
アルキルスルホニル置換基の例には、メチルスルホニル、エチルスルホニル、プロピルスルホニル、およびブチルスルホニル基が含まれるがそれらに限定されない。ジアルキルアミノ置換基の例には、ジメチル−、ジエチル−、ジプロピル−、およびジブチルアミノ基が含まれるがそれらに限定されない。同様に、プロピルもしくはブチルなどのアルキル基を規定することによって、特定のアルキル基の任意の異性体を包含することが意図されている。
【0037】
典型的なアリールオキシ基の例には、例えば、少なくとも1つの酸素原子、非酸素化原子を有する1つまたは複数の芳香族環系、および/またはアルコキシ置換基を有する環を有する化合物が含まれるが、アリール基が例えば上記に規定した少なくとも1つのアルキルもしくはアルコキシ置換基で置換されることも可能である。アリールオキシ基の例には、フェノキシおよびナフトキシ基、および例えば置換フェノキシおよびナフトキシ基を含むそれらの誘導体が含まれるがそれらに限定されない。
【0038】
ヘテロシクロアルキル基は、例えば、3〜10個の原子を含有する環系であってよく、少なくとも1個の環原子は窒素、酸素、硫黄、リン、またはこれらのヘテロ原子の任意の組み合わせである。ヘテロシクロアルキル基は、例えば、上記に規定したような少なくとも1つのアルキルもしくはアルコキシ置換基で置換されてよい。ヘテロシクロアルキル基の例には、ピペリジニル、ピペラジニル、ピロリジニル、およびモルホリニル基、ならびにそれらの置換アナログが含まれるがそれらに限定されない。
【0039】
ヘテロアリール基は、例えば、少なくとも1個の環原子が窒素、酸素、硫黄、リン、またはこれらのヘテロ原子の任意の組み合わせである、1つまたは複数の芳香族環系を有する化合物であってよい。ヘテロアリール基は、例えば、上記に規定したような少なくとも1つのアルキルもしくはアルコキシ置換基で置換されてよい。ヘテロアリール基の例には、イミダゾリル、チオフェン、フラン、オキサゾリル、ピロリル、ピリジニル、ピリジノリル、イソキノリニル、およびキノリニル基、ならびにそれらの誘導体が含まれるがそれらに限定されない。
【0040】
シリコーンおよびポリホスファゼンを含むデバイスの調製。本医療デバイスおよび本デバイスを包含する方法は、ポリオルガノシロキサンおよびポリホスファゼン成分の正確な配置に関しても、ポリオルガノシロキサンおよびポリホスファゼンが結合される方法によっても、これらの成分間で発生する可能性がある任意のタイプの相互作用もしくは結合機序によっても限定されない。一般的に言って、本開示は、ポリオルガノシロキサンを本明細書で提供するようなポリホスファゼンと組み合わせて含むデバイスを提供する。
【0041】
このため、デバイスを調製する、およびポリオルガノシロキサンとポリホスファゼン成分を結合する以下の方法は、限定的ではなく、例として提供されている。例えば、ポリオルガノシロキサンは任意の方法でコーティングする、ブレンドする、混合する、グラフト化する、接着する、積層化する、または結合することができる。本明細書で使用するように、すべてのこれらの態様は、ポリホスファゼンがポリオルガノシロキサンに加えられる、もしくは結合されるという開示によって、または任意の材料がポリオルガノシロキサンおよびポリホスファゼンを含んでいるという開示によって包含されている。例えば、1つの態様では、ポリホスファゼンは、ポリホスファゼンをシリコーンの1つまたは複数の表面に加える工程によって、本デバイスもしくは医療デバイスを含むシリコーンに加えることができる。例えば、ポリホスファゼンは、シリコーンの外面、シリコーンの内面、シリコーンの本体もしくはその部品内、またはそれらの任意の組み合わせに加える(コーティングする、ブレンドする、グラフト化させる、接着するなど)ことができる。さらに、ポリホスファゼンは、シリコーンの1つより多い表面に加えることができる。例えば、シリコーンチューブは、チューブの外面上、内面上、またはチューブの内面および外面の両方の上にコーティングする、ブレンドする、グラフト化させる、接着することができる。シリコーンを含むデバイスの、デバイスの外面と流体連絡していない内面、またはデバイス内に被包化されているデバイスの内面のために、内面は、その内面が被包化されていない期間中の製造中にコーティングする、ブレンドする、グラフト化させる、接着することなどができる。または、内面は、デバイス内に開口部を導入することによってポリホスファゼンを用いてコーティングする、ブレンドする、グラフト化させる、接着することなどができるが、この場合ポリホスファゼンは、内面上にコーティングする、ブレンドする、グラフト化させる、接着することができ、その後にはコーティングされた、ブレンドされた、グラフト化された、もしくは接着された内面が今では被包化されるように開口部のシーリングが行われる。または、シリコーンでコーティングされた、ブレンドされた、グラフト化された、もしくは接着されたデバイスは、同様に、もしくは引き続いてポリホスファゼンを用いてシリコーン上にコーティングすることができる。例えば、シリコーンを含む弁は、ポリホスファゼンでコーティングされた、ブレンドされた、グラフト化された、接着された弁の1つまたは複数の表面を有することができる。弁の表面に加えられたポリホスファゼンは、ポリホスファゼン表面の滑らかな性質に起因して気体もしくは流体が弁を通過して流れることに役立つことができる。
【0042】
さらに別の態様では、本発明のポリホスファゼンがシリコーンの表面に加えられる(コーティングされる、ブレンドされる、グラフト化される、接着されるなど)場合には、この組み合わせはさらにまた化合物、液体、もしくは気体のシロキサン本体内もしくは外、またはその表面上への移動を防止もしくは調節し、それによってこれらの物質の漏出もしくは損失を各々制御された方法で防止もしくは調節する障壁界面を提供することができる。それらの移動を制御できる物質の例には、充填剤、安定剤、顔料、着色剤、色素、レーキ、界面活性剤、帯電防止剤、平滑剤、分離剤、医薬物質などがそれらの組み合わせを含めて含まれる。そこで、1つの態様では、シリコーン本体とポリホスファゼンコーティングとの組み合わせは、生物学的環境内に配置されたシリコーン本体から化合物が漏出することを制御することによって生分解を減少させるのに役立つことができる。この特徴は、デバイスの寿命および/または生体内安定性を増加させ、身体−表面相互作用の不都合な作用を減らすのに役立つことができる。また別の態様では、この機能は、近接している、もしくは相互に接触している場合のシリコーン表面の再融解もしくは再溶着を防止することもでき、その作用は当分野において公知である。ポリホスファゼンは、さらに細菌増殖に抵抗する、血漿タンパク質吸着の減少、血小板接着の減少を示す、そしてデバイスの生体適合性を増強する表面を提供する。
【0043】
加工処理方法および特定のポリマー材料に依存して、上記の技術は任意の数のポリシロキサン−ポリホスファゼン構造を生成することができる。この態様では、例えば、本明細書に開示した方法は、ホモポリマー、コポリマー、グラフト化コポリマー、架橋結合構造、および/または相互貫入編目などの組み合わせの形状にある、ポリシロキサン−ポリホスファゼンの組み合わせを提供できる。例えば、本明細書に開示した方法は、その中では様々なポリマー相がナノ、メソもしくはミクロ構造を備える識別可能な分離された領域を形成する、均質に構造化された、識別不能な固有複合ポリマー編目または不均質に構造化されたコポリマーを生成できる。また別の態様では、例えば、本明細書に開示した技術は、例えば、デバイスのための特定の用途によって意図されるそれらの特定の特性を複合デバイスに付与する多層構造などの、付帯的な肉眼で識別可能な二次元もしくは三次元的に連結した界面重合ポリマー相を生成することができる。各タイプのポリマー編目はポリマー混合物の機械的および表面特性に影響を及ぼし、デバイスの所望の用途のために一連の所望の特性を付与できることは理解されている。
【0044】
ポリホスファゼンコーティングは、任意の数の技術によって適用できる。1つの態様では、例えば、本発明のポリホスファゼンは、ポリホスファゼンの溶液中にシリコーンを浸漬する工程によってシリコーンに適用できる。そこで、溶媒蒸発速度、溶媒の濃度、タイプ、特定のポリホスファゼン、ポリホスファゼンの濃度状況、使用する特定のシリコーン、基質材料の溶媒受容性、シリコーンの基質構造、浸漬コーティングパラメーター(温度、浸漬コーティング速度、溶液中の滞留時間など)、およびその他のそのようなパラメーターを使用すると、特定の基質上に所望の厚さおよび形態を備える高度に均質および/または特別仕立てされたポリホスファゼンコーティングを作り出すことができる。例えば極性非プロトン性溶媒を含むポリホスファゼン溶液を調製するためには、様々な溶媒が適する。また別の態様では、水へのある程度の溶解性もしくはブレンド性を示す極性プロトン性溶媒もまた良好に作用する。例えば、適切な溶媒には、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、酢酸ヘキシル、酢酸ヘプチル、酢酸オクチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、ジグライム、t−ブチルメチルエーテル、ジメチルエーテル、ヘキサフルオロベンゼン、テトラメチルウレア、テトラメチルグアニジン、ジメチルアセトアミドなどをそれらの任意の組み合わせを含めて含まれるが、それらに限定されない。これらの溶媒の混合物を使用できる、または任意の溶媒には他の溶媒もしくは非溶媒、例えばエタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、ベンゼン、キシレン、メシチレン、ジエチルエーテル、水などの添加で補うことができる。さらに、その他の成分をポリホスファゼン溶液に加えることができるが、その例には、溶解度を調整するための共溶媒、界面活性剤、接着剤などがそれらの任意の組み合わせを含めて含まれるがそれらに限定されない。
【0045】
または、また別の態様では、本発明のポリホスファゼンは、ポリホスファゼンをシリコーン上にスプレーする工程によってシリコーンに適用することができる。例えば、ポリホスファゼンは、スプレーコーティング法によって基質上に溶着させることができる。この方法は、不規則な形状の製品をコーティングするために特に適する。有機溶媒中のポリホスファゼンの溶液は、液体供給物を離散させるために特定の圧力で不活性キャリアーガスを使用して空気圧式ノズルを通して噴霧することができる。または、ノズルは、超音波攪拌を使用して溶液を離散させることによってミストを生成する、低圧もしくは無圧超音波タイプであってよい。生成した溶液ネブラは、正確な方法条件に依存して様々な厚さの基質上に正角コーティングをコーティングかつ生成するために基質を標的とされる。さらにまた別の態様では、例えば二酸化炭素もしくはジメチルエーテルなどの適切な溶媒中のポリホスファゼンの超臨界溶液が規定セットの温度および圧力パラメーターで作り出され、当該の基質上にスプレーコーティングされる。
【0046】
本発明のまた別の態様は、それにより新規に製造されたシリコーンがポリホスファゼンでコーティングされるように、ポリホスファゼンをシリコーンの製造プロセス中にシリコーンと共抽出できることを提供する。または、ポリホスファゼンは、シリコーン上にスピンコーティングすることができる。スピンコーティング法は、極めて薄い均質なフィルムを平面上に形成するために特に適しており、この場合には適切な有機溶媒中のポリホスファゼンポリマーの溶液を当該の基質上にスピン成形することができる。溶媒蒸発速度、溶媒の濃度、タイプ、ポリホスファゼンの濃度状況、およびスピンコーティングのパラメーター(温度、スピン速度など)、およびその他を使用すると、シリコーン含有基質上に特定の厚さおよび形態を備える高度に均質な正角ポリホスファゼンコーティングを作り出すことができる。
【0047】
さらにまた別の態様では、シリコーンを本発明のポリホスファゼンでコーティングするためのまた別の方法は、シリコーン上にポリホスファゼンをエレクトロスピニングする方法である。そこで、スプレー法、浸漬コーティング法、エレクトロスプレー法、スピンコーティング法、エレクトロスピニング法などを含む任意の数の方法を使用できる。シリコーンをポリホスファゼンでコーティングするためのさらにまた別の方法は、シリコーン上にポリホスファゼンを沈降させる方法である。そのような方法の1つの例は、蒸着法において、反応性ガスもしくは不活性ガスのいずれかのガス雰囲気の存在下でポリホスファゼンを揮発させる方法である。または、ポリホスファゼンは、還元ガス雰囲気下でシリコーンに適用することができる。
【0048】
さらにまた別の態様では、ポリホスファゼン膜を前形成し、次にその膜をシリコーン含有基質へ適用する工程によって、またはポリホスファゼンをシリコーン含有基質と接触させる工程によって、シリコーン含有基質を本発明のポリホスファゼンでコーティングすることができる。膜は、本明細書で記載するように接着促進剤を使用して、または基質に膜を溶媒接着する工程によって適用できるが、このとき溶媒は、膜が基質に結合する方法で基質の表面を改質する。ポリホスファゼンの膜を形成する例は、米国特許第7,265,199号明細書に提供されており、その全体は参照して本明細書に組み込まれる。理論によって束縛しなくても、2つの成分間で半相互貫入編目が形成されると考えられる。しかし、本発明は、それによりポリホスファゼンおよびシリコーンが相互作用する任意の機序とは無関係に、シリコーン含有基質上に適用される前成形ポリホスファゼン膜を含むシリコーンおよびポリホスファゼンの任意の組み合わせを包含している。
【0049】
また別の態様では、本明細書に開示した方法などの方法は、1回または複数回にわたり実施できる。例えば、ポリホスファゼン層は、シリコーン基質に1または複数回適用できる。複数回の適用が使用される場合は、ポリホスファゼンコーティングの厚さは、調整もしくは操作することができる。1つの実施形態では、ポリホスファゼンコーティングは、厚さが実質的に1つのポリマー単層である。すなわち、コーティングは単一ポリマー鎖の旋回半径の寸法に対応する。また別の実施形態では、ポリホスファゼンコーティングは、厚さが1つの単層〜約1μmである。また別の態様では、ポリホスファゼンコーティングの厚さは、約1つの単層〜約2μm、または約1つの単層〜約3μm、または約1つの単層〜約4μm、または約1つの単層〜約5μm、または約1つの単層〜約10μm、または約1つの単層〜約20μm、または約1つの単層〜約30μm、または約1つの単層〜約40μm、または約1つの単層〜約50μm、または約1つの単層〜約75μm、または約1つの単層〜約100μm、または約1つの単層〜約150μm、または約1つの単層〜約200μm、または約1つの単層〜約300μm、または約1つの単層〜約350μmである。当業者は、ポリホスファゼンの厚さは変動させられること、そしてデバイスもしくは医療デバイスの特定の用途もしくは使用意図に依存してよいことを理解する。
【0050】
また別の態様では、本発明のポリホスファゼンは、ポリホスファゼンをシリコーンとブレンドする工程によってシリコーンに加えることができる。例えば、ポリホスファゼンは、シリコーンの製造プロセス中にシリコーンとブレンドすることができる。例えば、シリコーンエラストマーが重合された後であるが架橋結合の前に、ポリホスファゼンをシリコーンに添加し、その混合物を引き続いて1つまたは複数の様々な架橋結合方法もしくは反応を受けさせることができる。例えば、架橋結合法には、ラジカル架橋結合、縮合架橋結合、付加架橋結合などが含まれる。または、シリコーンエラストマーを架橋結合させ、その後に、シリコーンおよびポリホスファゼンが所望の方法、濃度もしくは程度でブレンドされるように、硬化法の前にポリホスファゼンが添加されてもよい。さらにまた別の態様では、ポリホスファゼンは、成形プロセス中にシリコーンおよびポリホスファゼンが所望通りにブレンドされるように、射出成形プロセス中にシリコーンに加えることができる。例えば熱架橋結合または周囲温度もしくは高温での硬化などの使用するプロセスパラメーターに依存して、当業者には理解されるように、シリコーンおよびポリホスファゼンの実質的に均質な組み合わせを入手できる。
【0051】
考えられる様々なシリコーン製造プロセス中に、ポリホスファゼンは、ポリホスファゼンの所望の最終もしくは前選択濃度を達成するための必要に応じて、例えばブレンドプロセス中にシリコーンに加えることができる。例えば、シリコーン合成法中には、ポリホスファゼンは、シリコーンおよびポリホスファゼンを含む組成物に比較したポリホスファゼンの最終前選択濃度が達成されるように、シリコーンに特定の量、特定の濃度、または特定の速度で加えることができる。
【0052】
また別の態様では、本発明のポリホスファゼンは、または、ポリホスファゼンをシリコーンへグラフト化させる工程によってシリコーンに加えることもできる。ポリホスファゼンをシリコーンへグラフト化させるための1つの方法は、2つの成分を共抽出する工程を含んでおり、それによってシリコーンは部分的に硬化され、ポリホスファゼンは部分的に硬化したシリコーンの1つまたは複数の表面に適用されるので、その結果としてそれらの2つの成分は安定性形状でそれらを一緒に混合もしくはグラフト化させる。このグラフト化法は、シリコーンの1つの外面またはシリコーンの1つより多い外面に適用できる。例えば、シリコーンをベースとするチューブは、チューブの内面もしくは外面だけがポリホスファゼンを用いてグラフト化されるように、本発明のポリホスファゼンと共抽出することができる。または、チューブの外面および内面の両方を、ポリホスファゼンでグラフト化させることもできる。また別の態様では、架橋および重合したシリコーンを1つまたは複数の表面上で部分的に可溶化させ、部分的に可溶化した表面にポリホスファゼンを加えることができる。いったん適用されると、次にこれらの材料は、ポリホスファゼンがシリコーンの1つまたは複数の表面にグラフト化されるように、再硬化させることができる。
【0053】
さらにまた別の態様では、本発明のポリホスファゼンがシリコーンと結合される場合は、典型的には数種の工程もしくは検査法が使用される。基質の性質および所定の用途に依存して、基質は最初に所望であれば、例えば超音波処理もしくは基質材料を様々な液体化学洗浄浴、溶液、もしくは試薬内に浸漬させ、続いて特定の洗浄浴に基づいて適切な溶媒を洗い流す工程によって洗浄することができる。洗浄試薬の例には、酸化性、酸性、もしくはアルカリ性エッチング液が含まれるがそれらに限定されない。そのような数種の洗浄工程後に、次に基質は表面反応性接着促進剤を含有する溶液中に、基質上で接着促進剤の所望の単層もしくは多重層が得られるために十分な時間にわたり浸漬させることができる。典型的には、過剰な未反応試薬は、さらに洗浄する工程によって除去することができ、その後には最終乾燥工程を行うことができる。
【0054】
また別の態様では、ポリホスファゼンフィルムを基質上に物理的にグラフト化させる工程は、典型的には、本発明のポリホスファゼンフィルムで表面をコーティングする前に接着促進層を表面上へ化学的にグラフト化させる工程によって基質を調製する工程によって実施される。1つの態様では、基質への接着層もしくは結合層の化学的結合を促進するために、基質表面は、接着促進剤のための固定部位として機能できるヒドロキシル基で強化することができる。例えば、シリコーン基質は適切な反応性のヒドロキシル化表面を作り出すためにプラズマ活性化することができる、または、シリコーン基質は酸性、塩基性、もしくは酸化性化学試薬で処理することができる。理論によって束縛することは意図していないが、何よりも、本方法は基質とポリホスファゼンフィルムとの間の所望の引力界面張力を作り出すために機能し、接着の失敗によるポリマーフィルムの層間剥離を防止するのに役立つ。本方法は、さらにまたコーティング中の溶液のディウェッティングを防止し、さらにそれによって均質に構造化されたフィルムを溶着させるために、基質とポリホスファゼンコーティング液の表面エネルギーを調整するためにも機能できる。
【0055】
例えば、シリコーンは、水酸化カリウムもしくはナトリウムの希釈溶液中に沈め、その後に洗浄し、そして引き続いて接着促進剤で処理することができる。例えば、シリコーンは、塩基の濃度、シリコーンのタイプ、シリコーンの架橋度、温度などに基づいて調整できる期間にわたって5.7(重量:容量)%の塩基溶液に浸し、その後洗浄し、そしてさらに接着促進剤を溶着させた後に、ポリホスファゼンと接触させることができる。5.7(重量:容量)%の塩基溶液を用いると、典型的な浸漬時間は多数のシリコーンについて約1〜約10分間である。
【0056】
本発明の1つの態様では、接着促進剤は、以下の方法で利用できる。一般的には、例えば、基質と本発明のポリホスファゼンポリマーとの界面は、接着促進剤もしくはリンカーを含むことができる。例えば、1つの態様では、接着促進剤は、酸成分およびアミン成分を含むことができる。酸成分およびアミン成分は、様々な物質、材料、もしくは分子内、または単一基質、材料、もしくは分子内に位置していてよい。この態様では、例えば、基質および本発明のホスファゼンポリマーに比較した接着促進剤成分の位置付けは、一般に次の方法で表すことができる。 基質−酸成分−アミン成分−ホスファゼンポリマー
この態様では、酸成分は、酸官能基を提供する任意の部分を含んでいてよく、例えば、水により加水分解されるとヒドロキシル(OH)基を形成する酸、そのエステル、その部分エステル、または酸ハロゲン化物から選択できる。酸成分を提供する材料の例には、カルボン酸、リン酸もしくはホスホン酸誘導体、硫酸もしくはスルホン酸誘導体、オルトケイ酸誘導体、ボロン酸誘導体、チタン酸誘導体、ならびに水により加水分解されるとOH基を形成することが公知であるすべての他の公知の種、化合物、組成物、混合物、もしくは部分が含まれるがそれらに限定されない。この態様では、アミン(もしくはアミジン)成分との結合は、例えば、酸成分と遊離アミンの反応およびその後の脱水の結果として生じる典型的アミド結合によって確立できる。また別の態様では、アミド結合は、酸成分が酸ハロゲン化物を含む場合には、ヒドロキシルの代わりにハロゲン化物基の除去によって確立することもできる。理論によって束縛することは意図していないが、基質−酸成分結合自体は、エーテル形成もしくは水素結合によって、またはそれによって酸部分もしくは酸成分が基質と効果的に相互作用できる任意の方法によって確立することもできる。また別の態様では、例えば、アミノ酸は接着促進剤として有用であり、酸成分およびアミン成分が単一分子内に位置する分子の原型的例を提供する。
【0057】
本発明の1つの態様では、アミノプロピルトリアルコキシシランなどのアミノアルキルトリアルコキシシランは、ポリホスファゼンおよびシリコーンと組み合わせて使用した場合に接着促進剤として良好に作用するが、それらの例には本明細書に例示した式IIおよびIIIによる化合物が含まれる。
【化4】

【0058】
式IIおよびIIIでは、Rは、−Oアルキル、−Oアルキルエステル、もしくはアルキルから選択でき;Rは、−Oアルキルから選択でき;Rは、Hもしくはアルキルから選択でき;およびRは、Hもしくはアルキルから選択できるが、このときアルキルは本明細書に規定されており、そしてRまたはRの少なくとも1つは加水分解性−Oアルキル基を含んでいる。RまたはRの少なくとも1つは加水分解性基を含んでいるので、加水分解反応が発生して共有表面グラフト化を生成することができる。さらに式IIおよびIIIに関して、mは0〜約20の整数であってよく、mは典型的には2〜12の整数であり、mは3であることが好ましい。さらに、nは0〜4の整数であってよく、mは、典型的には1または2から選択される。例えば、1つの態様では、RおよびRは、どちらもHであってよい、または別の態様では、RおよびRはどちらもCHであってよいが、このとき、mは3であり、nは1もしくは2である。理論によって束縛することは意図していないが、正双極子もしくは四極子モーメントを有するシロキサン接着促進剤のペンダント基は、一時的または永久的のいずれかで、例えばトリフルオロエトキシなどのフッ素化アルコキシド基を含むポリホスファゼンの陰に分極されたフッ素化ペンダント基との好都合な相互作用を作り出すと考えられている。例えば、ジメチルアセトアミド、トリメチルウレイド、ペンタフルオロフェニル、第4級アミン、第3級、第2級、第1級アミンおよびアルキル化アミドなどのペンダント基は、好都合の接着を示す。
【0059】
本発明のまた別の態様では、ペンタフルオロフェニルペンダント基を備える典型的な化合物は、好都合のシラノール末端基を示す、以下の式IVの化合物を含むことができる。
【化5】

【0060】
およびRだけが相違する接着促進剤の類似の−Oアルキルシリーズ(式中、RおよびRは、OMe、OEt、もしくはOPrから選択される)についての各加水分解速度についての比較は、OMeからOPrへ進行するにつれて加水分解速度が低下することを明らかにしている。例えば、末端に(OMe)を備えるシランは、酸性化水性メタノール中で末端に(OEt)キャップ構造を備えるシランより70倍早く加水分解する。このために、シラン末端基の選択は、所望の反応時間に合致するように適応させることができる。より緩徐な反応時間が必要とされない限り、典型的には(OMe)置換シランが使用される。
【0061】
また別の態様では、結果として生じるシロキサンオリゴマーおよびポリマーの弾性係数を制御するためには、架橋結合官能基をシロキサン末端で−Oアルキルをアルキルと置換することによって3〜1へ減少させることができる。例えば、メチルから選択されるRは、増加した柔軟性を備えるシロキサン接着促進性多重層のために好ましい可能性がある。
【0062】
本発明のまた別の態様は、気相溶着プロセスのために良好に適合する追加のシラン接着促進剤によって提供されるが、それらの例を式VおよびVIとして以下に提供する。
【化6】

【0063】
例えば、式VおよびVIでは、Rは、−Oアルキルもしくはアルキルから選択されてよい;およびRは、Hもしくはアルキルから選択されてよい。式VおよびVIの接着促進剤は、環境が水性または非水性のいずれであるかとは無関係に、液相および気相シラン溶着法どちらのためにも適している。そこで、1つの態様では、これらの接着促進剤は、ヒドロキシル富裕表面と反応できる前に加水分解する必要はない。例えば、そして理論によって束縛することは意図していないが、式VまたはVIは、開環変形を生成するために直接的に接触している表面結合ヒドロキシル基と反応させることによって開環反応シーケンスを開始することができる。さらに、接着促進剤の反応速度は便宜的である。本明細書で記載するように、そのような表面改質は、エッチング剤、酸化溶液、揮発性溶媒およびその他の反応種を用いて、液相内で実施できる。さらに、本明細書に開示した接着促進剤を使用する本方法は、均質かつ平滑な接着促進剤の溶着をもたらし、そしてフィルム厚さは、接着促進剤の濃度および溶着時間に依存する。
【0064】
表2では、これらの個々の成分の各々の例、つまり、基質、酸成分およびアミン成分によって説明される接着促進剤、ならびにポリホスファゼンが例示されている。完全な酸成分の例は表2に提供されているが、アミン部分もしくは分子もしくは組成物についてはアミン成分を構成できる例だけが例示されており、このときRは、当業者であれば理解できるように、アルキル、アリール、置換アルキルなどであってよい。任意の個別成分は、同一分子成分タイプ(列)の中に含まれる任意の他の個別成分と互換可能である。これらをまとめると、表2は、基質、酸成分、アミン成分、およびポリホスファゼンのモジュラーコンポーネント「ライブラリー」を提供している。
【0065】
次の表は、基質、接着促進剤、およびポリホスファゼンについてのモジュラーコンポーネントライブラリーの例を示す。
【表2】

【0066】
この態様では、例えば、本方法は、1つまたは複数のハロアルキル基を含有するアルコキシシランを結合し、そしてテトラメチル−グアニジンもしくはポリエチレンイミンを溶着させる場合に使用できる。さらに、理論によって束縛することは意図していないが、金属を基質として使用する場合は、上述したようなアミノ酸は金属カルボキシレート形成に起因して直接的に溶着させることができる。
【0067】
さらにまた別の態様では、例えば、化学的グラフト化法などの接着促進剤相互作用において強度の化学的相互作用を使用できる。例えば、ジアルコール側鎖は接着促進剤の一部として使用できるが、この場合にはポリマー側基とのエーテル結合を形成することによって接着層をポリマー層へ結合させることが可能である。この態様は、典型的方法において単純にそれらを対合させる代りに、側鎖の末端を一緒に融合させることを許容する。例えば、この技術は、おそらく置換中に一保護アルコール官能基を有する工程によって可能であるが、この場合には小量のこれらの官能性側基を含有するコポリマーとしてのポリホスファゼンが入手される。この場合には、保護基は水分不安定性であってよい。
【0068】
化合物をシリコーンへグラフト化させるためのこれらなどの技術について記載してきたが、本明細書に開示した本発明はそれらの方法に限定されない。シリコーンを他の化合物へグラフト化させる前のシリコーンの表面処理の他の例は、例えば、米国特許第5,494,756号明細書に見いだすことができる。
【0069】
理論によって束縛することは意図していないが、また別の態様では、例えば、シリコーンおよびポリホスファゼンの適切な組み合わせには、それらのコポリマー、例えばランダムコポリマー、交互コポリマー、ブロックコポリマー、グラフトコポリマー、その他のコポリマー、シリコーン含有基質とポリホスファゼンとの間の相互貫入編目、またはこれらの材料のブレンドが含まれる。1つの態様では、例えば、略語「A」の使用は[−P=N−]骨格を有する式Iによると、ポリホスファゼン[−RP=N−]部分(式中、xは1〜6の整数である)を意味しており、および略語「B」の使用は[−Si−O−]骨格を有するシリコーン[−RSi−O−]部分(式中、各Rは、独立して例えば本明細書に開示したようなシリコーン置換基である)を意味しており、本発明によって包含されるポリマー、構造モチーフ、およびシリコーン−ポリホスファゼンの組み合わせは、以下のように描出することができる。
【化7】

【化8】

【0070】
さらに、理論によって束縛することは意図していないが、上記の例示におけるシリコーン−ポリホスファゼン骨格−骨格結合性に加えて、本発明の他の態様は、以下の構造を特徴とするシリコーン−ポリホスファゼンの組み合わせを含んでいる。1つのポリマーの1つまたは複数の側基と他のポリマーの1つまたは複数の骨格単位との結合;1つのポリマーの1つまたは複数の側基と他のポリマーの1つまたは複数の側基との結合;および/またはすべての考えられるそれらの並べ替え。さらに、これらの結合性はコポリマーを形成する2つのポリマーには限定されず、さらに第3もしくはさらにそれ以上の追加のポリマー、または骨格間もしくは側基間を含むポリマー間の結合形成に関与する適切な連結部分も含むことができる。このために、この態様は、さらに結合層または例えば本明細書に記載したようなエチレンイミン、アミノシランなどの接着促進剤を包含している。
【0071】
ポリマーのブレンドは、各ポリマーのために適切な共溶媒を用いて、もしくは溶解物を使用して一般に形成される、シリコーンおよびポリホスファゼンポリマーのブレンドであると説明できる。均質もしくは中間勾配(intergradient)ブレンドの形成は、1つより多い中間相との異質なブレンドの形成に加えて達成できる。ブレンド中でのシリコーンおよびポリホスファゼンポリマーのすべての比率は本発明によって包含されている。
【0072】
さらに、理論によって束縛しなくても、相互貫入編目は1つのポリマーから他のポリマー内へ広がる、そして様々なポリマー間で適正な接着を作り出すためにその他のポリマーのポリマー鎖と相互作用するポリマー鎖(側基を備える骨格単位)であると理解できると考えられる。この態様では、用語「半相互貫入編目」がしばしば使用されるが、それは1つのポリマー(例えば、シリコーン含有ポリマー)が架橋結合ポリマー鎖を含むが、他のポリマー(ポリホスファゼン)は非架橋結合であってよく、他のポリマー内に拡散しているからである。半相互貫入編目は、1つまたは複数のポリマーが架橋結合されていて安定性編目マトリックスを形成しているが、もう1つのポリマーは架橋結合されていないことによって相互貫入編目とは相違する可能性がある。本発明のまた別の態様である真の相互貫入編目では、どちらのポリマーも架橋結合されていてよい。
【0073】
数種の合成戦略を使用すると、上記に開示した組み合わせもしくはコポリマーを形成できる。この態様では、例えば、コポリマーはシリコーンのモノマー前駆体または小さな低分子量オリゴマーとポリホスファゼンとの適切な混合物を同時もしくは類似の時点に共重合させる工程によって生成できる。1つのポリマーのこれらのモノマー/前駆体単位を他のポリマーへ付着させ、次に引き続いてその間に他のポリマーの骨格上に「グラフト化」させながらこれらのモノマー単位を重合させる工程によって、安定性コポリマーを形成できる。この状況では、これは適切なホスファゼン前駆体を、適切なシロキサン前駆体もしくはシリコーンポリマー鎖を用いて共重合させる工程によって実行することができる。この例では、本方法は、B上にグラフト化されたAのコポリマーを提供するが、このときポリホスファゼン鎖(および/またはそれらの前駆体)はシロキサンの骨格上にグラフト化される。
【0074】
このタイプのグラフト化プロセスは、シリコーンポリマー相からポリホスファゼン相への距離に関連して、グラフト化ポリホスファゼン側鎖の分子量の段階的増加をさらにまた含むことができる。分子量における漸進的変化は、表面エネルギーにおける漸進的転移を許容しながら、ポリホスファゼンポリマーのシリコーンポリマー相内への拡散を増加させ、2つのポリマー間の一層強力な接着を生じさせる。
【0075】
また別の態様では、このタイプのグラフト化は、さらにまたポリマーの末端位置でシロキサンアンカー基を含有するポリホスファゼンポリマーを使用することによっても達成できる。加水分解的に不安定なアルコキシ置換基を有することに起因して、これらは硬化中にシリコーンポリマーと結合する。
【0076】
また別の態様では、反応性シリコーン基を適切な反応性短鎖シロキサン側鎖を備えるポリホスファゼンポリマー骨格へグラフト化させる工程によって、コポリマーを形成できる。例えば、適切な数のシロキサン「アンカー」基を含有するポリホスファゼンポリマーは、標準シリコーンと同様の硬化反応を受けられるように合成できる。−[NP−(OSiR−結合の加水分解性の性質に起因して、ポリホスファゼンPNポリマー骨格に立体的保護を与え、これらの部分を加水分解から安定化させる、他方では同時に便宜的加水分解、したがって現存するシロキサン編目への架橋結合を許容する反応性置換基(少なくともR、R、および/またはRのうちの1つ)を提供するためにはケイ素原子上のかさ高い置換基を使用するのが好ましい。
【0077】
この態様では、以下の構造はポリホスファゼン骨格に結合した、またはその中に挿入された適切なシロキサンアンカー基の1つの例である。
【化9】

【0078】
この例では、以下の化学的置換反応は、グラフト化ポリホスファゼンシロキサンコポリマーを提供できる反応シナリオを描出する。1)例えばポリクロロホスファゼンもしくはポリアルコキシホスファゼンなどのポリホスファゼン前駆体と、金属ハロゲン化物もしくは金属アルコキシドを除外したメタル化シラノール種との反応は、−[NP(OSiR]−部分を提供できる。メタル化シラノールを形成するために使用できる試薬には、グリニャール(Grignard)試薬、有機リチウム試薬、有機銅試薬、有機亜鉛試薬などを含むことができる。そこで、シラノールHOSiRのメタル化は、不安定なアルコキシ置換基を備えるハロ−ポリホスファゼンもしくはホスファゼンに向けて十分に反応性である金属シラノレート(M(OSiR(式中、jおよびkは、金属イオンの同一性に依存する)を形成する。金属には、それらに限定されないが第1、2、11、12、13、および14族の金属を含むことができるが、好ましいのはリチウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛、スズ、もしくは銅である。2)例えばポリクロロホスファゼンなどのポリホスファゼン前駆体と適切なアミノ−(有機)シランもしくはアミノ−(有機)シロキサン試薬との反応は、所望のポリホスファゼン−シロキサンコポリマーを形成し、塩酸もしくは任意の安定性離脱基が形成される。後者の場合には、この反応は任意で、塩基の存在下で実施できる。
【0079】
また別の態様では、コポリマー形成における追加の戦略には、適切な試薬による側基の結合が含まれる。これは、例えば、ポリホスファゼンポリマーの活性化(有機)二重結合アンカー基と反応させられる有機ケイ素水素化物種によって達成できる。または、これは例えば、例えばフルオロ−有機ホスファゼン側基からシリル含有側基へのフッ素置換基を移動させるフッ素置換反応などの、グラフト化シロキサンポリマーの側枝での反応によって達成できる。
【0080】
上記に開示した、例えば水素結合などの比較的に弱い物理的もしくは化学的相互作用の代わりに、より強力な結合相互作用は、接着促進剤の一部としてジアルコール側鎖を使用できる場合は、化学的グラフト化によって作り出すことができる。この場合には、ポリマー側基とのエーテル結合を形成することによって接着相をポリマー相へ結合させることが可能な場合がある。この態様は、典型的方法で単純にそれらを対合させる代りに、側鎖の末端を一緒に融合させることを許容する。
【0081】
本明細書に開示したように、安定性相互貫入編目の形成は、シリコーンポリマー相からポリホスファゼン相への距離に関連して特定の溶着したポリホスファゼンポリマーの分子量を増加させながらのポリホスファゼン相の段階的溶着を含むことができる。分子量における漸進的変化は、表面エネルギーにおける漸進的転移を許容しながら、ポリホスファゼンポリマーのシリコーンポリマー相内への拡散を増加させ、それによって成分間の接着力を上昇させる。
【0082】
さらに、一次ポリホスファゼン相のシリコーンへの初期結合は、その後のシリコーン領域内に相互拡散しているポリホスファゼンもしくは以前に記載したその前駆体の熱誘導性、放射線誘導性、もしくはプラズマ誘導性重合、架橋結合反応とともに、以前に記載したように、適切な前駆体の溶着を含むことができる。
【0083】
本明細書に提供したように、本明細書に開示したデバイスおよび方法は、シリコーンおよびポリホスファゼン成分の正確な配置に限定されず、例えばシリコーンは任意の方法でポリホスファゼンでコーティングおよび/または反応させられている、もしくは結合されている中間層でコーティング(もしくは層化)される、反応させる、ブレンド(もしくは混合)する、グラフト化させる、接着する、架橋結合する、共重合する、コーティングおよび/または反応させることができるという説明が使用されてきた。このために、シリコーンと結合された、もしくはシリコーンに加えられたポリホスファゼンは、それにより1つの化学部分が2つのポリマーを一緒に結合することによって他の化学部分に加えられているこれら2つの分子のコポリマーを記載するために使用できる。語句「ポリホスファゼンに加えられたシリコーン」または「シリコーンに加えられたポリホスファゼン」またはこれらの説明の変形は、ポリホスファゼン側鎖を含有するシリコーンを含んでいる、または言い換えると、これらのポリマーはポリホスファゼン側鎖のシリコーン上もしくは内への結合もしくは組み込みから形成できる。この結合は、共有結合またはイオン結合のいずれであってもよい。ポリホスファゼンをシリコーンに加えるこの態様では、ポリホスファゼンは、それによりポリホスファゼンの厚さが制御され、ポリホスファゼンとシリコーンとの間の化学結合のタイプが、本明細書に開示したような試薬もしくは前駆体の選択によって制御される方法で、シリコーンに加えることができる。
【0084】
当業者は、シリコーンと本発明のポリホスファゼンとの相互作用を記載するために本開示で一般に使用した、例えばコーティング、ブレンド、グラフト化、結合などの用語に加えて、本発明によって包含されたシリコーンおよびポリホスファゼン成分の様々な組み合わせを記載するために追加の用語を使用できることを理解する。この態様では、例えば、付着させる、粘着させる、結合する、固定する、接合する、結合する、取り付ける、セメント固定する、連結する、添付する、結合する、固定する、融合する、混合する、付加する、加える、混ぜる(intermix)、混ぜる(admix)、混合する、一体化する、統合する、融合する、および組み合わせるなどの用語は、ポリホスファゼンをシリコーンに加えることを説明するために本明細書で使用される用語よりむしろ使用できる用語の例である。
【0085】
本明細書に記載した内因性もしくは外因性で構造化されたポリマー複合製品をもたらすために設計された加工処理技術は、物理的もしくは化学的相互作用のいずれか、またはその両方を通してそれらの緊密に相互接続編目を達成する。1つの態様では、相違するポリマー相間の界面接触領域は、それらの間の接着相互作用を強化するために結合方法中に最大化できる。
【0086】
接着促進剤、結合層、および前処理。ポリマー相間の接着を強化するためには、添加もしくは結合プロセス中に、均一かつ正角接触を達成するためにポリホスファゼンポリマーをシリコーンエラストマー基質へ適用できるように、表面エネルギーの各凝集エネルギー密度を適合させることができる。例えばPDMS、Silastic(登録商標)およびその他の類似のシリコーンエラストマーなどのポリマーの表面は通常は疎水性であるが、これはそれらが低平面エネルギーを有しており、したがって親水性化合物もしくは組成物で余り容易にコーティングできないことを意味している。低表面エネルギーポリマーのまた別の特徴は、これらの基質が静電的に帯電する可能性があり、このために容易に大気粉塵粒子を収集し得ることにある。コーティングされるポリマー基質の良好な清潔性、湿潤性、および改良された接着を達成するために、これらの基質は、それらの表面を「活性化」するための様々な技術を用いて前処理できる。そのような活性化技術は、基質の多孔性を増加させること、ならびに接着力、湿潤性、および非静電性および非汚染化特性を増加させるために表面エネルギーを上昇させることを目的としている。
【0087】
そこで、本明細書に開示した方法は、ラテックス(それ自体がイソプレン単位をベースとするポリマーである)とのコポリマーを形成するために使用できる、多数のジメチルビニル末端ジメチルシロキサンを含有する、それ自体がシリコーンであるSilastic(登録商標)に適用できる。イソプレンおよびジメチルビニル基について下記で例示する。共重合したラテックスとSilastic(登録商標)材料の硬化は、白金触媒法(添加タイプ)または過酸化物硬化法(熱)のいずれかによって達成できる。そのようなプロセスは、そのためには熱およびか酸化物硬化が有用であり、トルエンが一般的溶媒で過酸化ベンゾイルが有用な硬化剤である成形プロセスに適用できる。
【化10】

【0088】
ポリマー表面の十分な表面活性化を提供できる、多数の基質前処理の例が使用されてきた。この態様では、典型的な方法には、酸性、塩基性、もしくは酸化溶液を含有する侵襲性の化学浴を用いた湿性化学処理が含まれるがそれには限定されない。そのような方法は、本発明ではポリホスファゼンをシリコーンもしくはシリコーン含有基質へ接着および/または結合させる際に役立つように使用できる。
【0089】
この態様では、例えば、ポリマー基質は(ハロ)有機溶媒中に膨潤させ、次にクロム硫酸、硝酸、(水素)過酸化物、ペルオキソ二流酸塩、カロ酸(過硫酸、SO(OH)(OOH))、オゾンなどで処理することができる。その他の前処理方法には、臭素飽和水を用いたポリマー基質の湿性化学処理またはアルカリもしくはアルカリ土類水酸化物をベースとするアルカリ溶液を用いた処理が含まれる。さらにその他の処理には、表面エネルギーにおける所望の変化を発生させるためにポリイミド表面とフッ化水素酸もしくはナトリウム自体との反応が含まれる。
【0090】
表面処理技術のその他の態様には、例えば、表面エネルギーにおける所望の変化を発生させるためのフレーム熱分解、フッ素化、x線もしくはその他の放射線への光線曝露、陽もしくは陰イオン化および電子線照射、コロナ放電、またはプラズマ処理へポリマー基質を曝露させる工程が含まれる。後者の2種の技術は、コーティングされるポリマー材料の表面処理のために広く使用されてきており、以下で手短に説明する。
【0091】
コロナ放電は、通常はポリマー基質を直流によって発生する大気中コロナ(スパーク)放電へ曝露させ、環境中に存在する空気から高度に反応性のオゾンを作り出し、そしてポリマー基質の上面をオゾンと反応させてその後の結合用途のために適する酸化された化学的反応性の高表面エネルギーポリマーを作り出す工程によって行われる。
【0092】
その他のプラズマ処理技術には、無機および有機気体を含む室温もしくはわずかに高い温度の大気圧もしくは低気圧環境のいずれかで、様々な出力(通常は数百〜数千ワット)のAC、DC、もしくはマイクロ波により発生したプラズマを用いるポリマー基質の、処理を含んでいる。無機および有機気体の例には、アルゴン、ヘリウム、窒素、水素、亜酸化窒素、酸素、空気、塩化水素、フッ素、臭素、塩素、一酸化炭素、二酸化炭素、アンモニア、メタン、アルカン、芳香族化合物、ハロアルケンおよび芳香族化合物、ならびに単独もしくは適切な組み合わせでの類似化合物が含まれるがそれらに限定されない。そのようなプラズマプロセスは、表面エネルギーおよび化学的官能性における所定の変化をもたらすことができる。
【0093】
この態様はシリコーン含有基質に適用されるので、表面エネルギーの変化を検証するためにシリコーン含有基質へのプラズマ活性化処理が及ぼす影響を相当容易に監視することができる。例えば、1つのそのような方法は、プラズマ処理の前後に基質の接触角を測定する方法である。天然プラスチック基質は、典型的には材料の疎水性の性質に起因して高度の接触角を示す。プラズマ活性化後、例えば窒素/酸素雰囲気中でのプラズマ活性化後には、基質表面は表面上でのヒドロキシ基の生成に起因して親水性にされる。このため接触角は、プラズマ活性化後には相当大きく減少する。
【0094】
プラズマ活性化プロセスは、基質にとって極めて穏やかであり、必要であれば数回繰り返すことができる。効果的な表面処理のために必要な時間量は、基質の接触角が一定となるまで減少させることができる。基質エッチングのリスクは、通常は約15分間を越えるような、連続的プラズマ処理の時間が長くなった後にのみ発生する。処理された基質表面は、典型的にはおよそ10分間から数時間にわたって活性なままの可能性があるが、この時間は、個別処理、活性化された表面が維持されている条件、または活性化された表面が活性化後に接触できる任意の反応種に基づいて変動してよい。
【0095】
問題の基質が十分に洗浄されて上記の方法の1つもしくは類似の技術によって活性化されると、基質は、ポリホスファゼンがシリコーン含有基質と反応させられる、ブレンドされる、グラフト化される、またはさもなければ結合されるために化学的もしくは物理的反応性表面もしくは相を作り出すために必要な所望の表面官能性を発生させるためのそれ以上の処理を受けさせることができる。湿性化学方法および乾燥技術について上記で開示したように、ポリマー基質は液体もしくは気体いずれかの状態にある表面改質剤と接触させることができる。
【0096】
プラズマおよびコロナ放電に基づく技術において所望の表面官能性を付与するためには、例えば、気体酸素を使用すると、ポリマー基質上でヒドロキシ、カルボキシ、アルデヒド、もしくはペルオキシ基を生成することができる。アンモニアを使用すると、表面にアミノもしくはイミノ官能性を付与できる。さらに、水素を使用すると、シリコーン表面に水素化物官能性を提供できる。このため、当業者には理解されるように、表面官能性は、その下でプラズマおよびコロナ放電が実施される試薬ガスの選択によって特別仕立てすることができる。
【0097】
それによってポリホスファゼンがシリコーンに加えられる先行態様では、これらの方法にはさらにまた本発明のポリホスファゼンをシリコーンに加えるプロセスに役立つことのできる多数の工程もしくは試薬を補充することもできる。1つの態様では、ポリホスファゼンのシリコーンへの接着を促進するために、シリコーンおよびポリホスファゼンを接触させる、もしくは加える方法に化合物もしくは組成物を含めることができる。例えば、ポリホスファゼンをシリコーンに添加する前に、接着促進剤もしくはスペーサーをシリコーン表面に加える、ポリホスファゼンに加える、シリコーンもしくはポリホスファゼン内にブレンドする、シリコーンにグラフト化させる、またはシリコーンもしくはポリホスファゼンに結合させることができる。
【0098】
理論によって束縛することは意図していないが、この態様では、接着促進剤は、例えばイオンおよび/または共有結合によって、または例えばファンデルワールスもしくは水素結合相互作用などの他の低エネルギー相互作用、またはそれらの組み合わせによって、接着促進剤をシリコーンおよびポリホスファゼンの両方へ結合させることによるポリホスファゼンのシリコーンへの接着を改善することができる。1つの態様では、例えば、ポリホスファゼンのシリコーン含有基質への付着は、接着促進剤もしくはポリホスファゼンに結合できる例えばヒドロキシル化表面もしくは相などの反応性部分を作り出すためのシリコーンのプラズマ活性化プロセスによって強化することができる。
【0099】
さらにこの態様に続いて、接着促進剤もしくはスペーサーは極性末端基を含有していてよいが、それらの例には、ヒドロキシ、カルボキシ、カルボキシル、アミノ、ニトロ基などが含まれるがそれらに限定されない。さらに、O−EDタイプの末端基もまた使用できるが、このとき「O−ED」は、アルコキシ、アルキルスルホニル、ジアルキルアミノ、もしくはアリールオキシ基、またはヘテロ原子として窒素を備えるヘテロシクロアルキルもしくはヘテロアリール基を表している。この場合には、O−EDタイプの末端基は、未置換、または例えば、塩素もしくはフッ素などのハロゲン原子で置換されてよい。この態様では、フッ素置換O−ED基が良好に機能する。
【0100】
本発明のさらにまた別の態様では、接着促進剤は、モノシラン、オリゴシラン、ポリシラン、モノエチレンイミン、オリゴエチレンイミン、ポリエチレンイミン、または環状ポリホスファゼン前駆体を含んでいてよい、またはそれらから選択できる。例えば、シリコーンおよびポリホスファゼン表面の処理は、エチレンイミン−モノマー、−オリゴマー、もしくはポリマー中間体相(結合層)を含む表面接着促進剤を含むことができ、それらは任意の化学的もしくは物理的相互作用によって基質表面と反応させる、グラフト化させる、さもなければ両方の基質表面に結合させることができる。例えば、化学的相互作用は、シリコーンおよびポリホスファゼンの両方へ中間体(結合)層を永久的に結合させることのできる適切な架橋結合反応によって実行できる。
【0101】
(ポリ)エチレンイミン(PEI)結合層の架橋結合は、例えば下記などの少なくとも1つの試薬を使用して、結合層、シリコーンおよび/またはポリホスファゼン複合層の反応、またはそれらの組み合わせを含むがそれらに限定されない多数の方法を発生させることができる。考えられる架橋結合試薬には、(ジ)アルデヒド(例えば、テレフタルルデヒド)、アルキル(ジ)ハロゲン化物(例えば、二臭化エチレン)、イソシアネートおよび/またはチオイソシアネート(例えば、4−ニトロフェニルイソチオシアネート、4−ニトロフェニルイソシアネート)、活性化二重結合化合物(例えば、ビニル、アクリル、および/またはアクリロニトリル化合物)、エポキシ化合物(例、エピクロロヒドリン、もしくはオキシラン)、またはシアナミド、グアニジン、ウレア、もしくは関連化合物を用いた安定性アミドを形成する工程が含まれるが、それらに限定されない。
【0102】
さらに、架橋結合は、カルボン酸、カルボン酸塩化物、カルボン酸、カルボン酸無水物、または安定性カルボンサンアミドを形成するためのクロロ酢酸エチルなどの他の反応性カルボン酸誘導体を用いて凝縮生成物を形成する工程によって行うこともできる。
【0103】
結合層をシリコーン表面へ結合させるためのまた別の手段は、例えば、照射すると自然に架橋結合するアクリル、ビニル、ニトロ芳香族、フルオロフェニル、ベンゾフェノニル、および/またはアゾ化合物などの光化学的に活性な化合物の使用を含んでいる。
【0104】
これらの架橋剤のいずれかは、ポリホスファゼンポリマーとシリコーン含有基質との間に適正な接着を作り出すために、一次元、二次元、もしくは三次元ポリマー編目の形成を発生させるために1つ、2つ、3つ以上の活性化学基を含有していてよい。
【0105】
シリコーン基質の表面上にポリエチレンイミンフィルムを化学的に結合させる他の方法には、エチレンイミンモノマー(「アジリジン」)ガスと適正に活性化されたシリコーン表面との反応が含まれるがそれには限定されない。活性化された表面は、モノマーを結合させて、残りの単位の重合を開始する化学的反応性単位を提供する。この活性化は、通常は、表面シリコーンヒドロキシルを形成するために本明細書に記載した酸化前処理方法を含んでいる。
【0106】
本開示の1つの態様では、シリコーンを調製かつ活性化するために有用な1つの方法は、プラズマによるシリコーン表面の活性化、およびプラズマチャンバー内へのエチレンイミン(アジリジン)の供給である。この方法では、基質の表面上に均質もしくはほぼ均質のポリエチレンイミンの結合層が形成される。この方法の1つの利点は、基質への開環およびシリカ/シリコーン表面上に局在するヒドロキシル基の求核性攻撃を生じさせるC−Oエーテル結合を形成することによって生じるアジリジンの共有結合にある。残りのアミノ官能基は、その後その他のアジリジン分子と反応するために利用できる、または負に帯電したポリホスファゼンポリマーフィルムを物理的に攻撃する正に帯電したアミノ基の層を形成するために利用できる。
【0107】
(ポリ)エチレンイミンを組み込むためのシリコーン表面のその他の適切な化学的活性化法には、表面Si−OH(ヒドロキシル)基の、例えばチオニル塩化物、リン塩化物、リン酸塩化物、および/またはオキサリル二塩化物などの塩化剤の使用による、例えばハロゲン化物基(F、Cl、Br、もしくはI)、詳細には塩化物基のようなより反応性基への変換が含まれるがそれらに限定されない。水を含まない無水(ポリ)エチレンイミン(例えば、有機溶媒に溶解させた、またはエチレンイミンモノマーガスを使用する)とこのタイプの活性化(塩素化)シリコーン表面との反応は、均質もしくはほぼ均質の結合層をシリコーン表面上に生成できる。
【0108】
ポリエチレンイミン層は、さらにまたシリコーンと(ポリ)エチレンイミン(PEI)との間に中間体(3−アミノプロピル)トリメトキシシラン(APTMS)層を使用することによってシリコーンに結合させることもできる。その後の架橋結合は、そこでAPTMSのアミノ末端基と(ポリ)エチレンイミン(PEI)のアミノ基との間で発生させることができる。接着促進剤としてアルコキシシランを使用した例では、極めて有用な1つの精選溶媒は、シリコーン前駆体の加水分解の結果として生じる類似のアルコールであり、APTMSのためにはメタノールである。
【0109】
これらの記載した活性化方法のいずれかを使用することによって、(ポリ)エチレンイミンフィルムは、シリコーン表面もしくは層上の、続いてポリホスファゼン基質との十分な表面接着で溶着させることができる。
【0110】
本発明の1つの態様では、基質と結合層との間の物理的相互作用は、シロキサンとポリホスファゼンとを結合させるのに役立つように確立できる。用語「物理的相互作用」は、例えばポリエチレンイミンをカルボン酸化合物と反応させることによってアンモニウムカルボキシレートなどのイオン対を形成することによる静電相互作用単独、または2つの反対に帯電したポリマー表面の誘引のいずれかによる静電相互作用などの相互作用を含むことが意図されている。
【0111】
本開示のまた別の態様では、接着促進剤は、例えばアミノ末端シランなどの有機ケイ素化合物であってよい、またはアミノシラン、アミノ末端アルケン、ニトロ末端アルケン、およびシラン、もしくはアルキルホスホン酸をベースとしてよい。様々なシランをベースとする接着促進剤に関して、これらは、エポキシ樹脂、ビニル性およびアクリレートをベースとするゴムに結合させるために使用できるチオールもしくはアクロイル末端、または本明細書に開示した他の基質を結合させるために特に有用であるウレイドおよびグリシジル末端シランを含むことができる。フルオロエラストマーについては、アミンおよびパーフルオロをベースとするシランが一般に好ましい。シランをベースとする接着促進剤のその他の例には、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、ビス[(3−トリメトキシシリル)プロピル]−エチレンジアミン、およびその他の市販で入手できる官能性シラン試薬が含まれる。1つの態様では、特に有用なシランをベースとする接着促進剤は、(3−アミノプロピル)トリメトキシシラン(APTMS)である。
【0112】
典型的な化学蒸着法およびプラズマ重合法では、事前に洗浄かつ活性化されたポリマー基質は、さらにプラズマ条件下で基質上に高度に架橋結合したポリマーコーティングを形成する不飽和の架橋結合可能なモノマー鎖形成反応ガスと反応させることができる。例えば、適切なガスには、エチレンイミン、アリルアミン、シアノエチレン、アセチレン、またはその他の類似の化合物、特別には不飽和化合物が含まれる。そのようなプラズマ重合フィルムおよび改質された表面もしくは層は、ポリホスファゼンフィルムを含む他のポリマーフィルムの一層の結合のための接着促進性結合層として機能できる。
【0113】
さらにまた別の態様では、蒸着法および/またはプラズマ重合技術の代替工程もしくは追加工程として、活性化された表面には、さらに例えばモノマー、オリゴマーもしくはポリマーのアニオン性、非イオン性もしくはカチオン性界面活性剤などの界面活性剤の溶液、および一般には陽性、陰性、イオン性、もしくは任意の他の特に望ましい官能性を表面に付与する化合物を含む液体処理を受けさせることができる。これらの官能化および各々帯電した基質表面は、ポリホスファゼンフィルムを含む他のポリマーフィルムの一層の結合のための接着促進性結合層として機能できる。
【0114】
本開示のまた別の態様では、シリコーン基質とポリホスファゼンとの結合に役立てる基質の他の反応には、プラズマ活性化基質上に溶液からのモノマー、オリゴマー、もしくはポリマー部分をグラフト化させる工程を含むことができる。適切な化合物は、さらにまた非架橋結合、非重合化モノマー、オリゴマー、ポリマー溶液としてコーティングすることもできる。適切な化合物の例には、(オリゴ−、ポリ−)エチレンイミン、(オリゴ−、ポリ−)ジアリルジメチルアンモニウム塩化物、(オリゴ−、ポリ−)エチレンオキシド、(オリゴ−、ポリ−)アクリレート、および(オリゴ−、ポリ−)シランが含まれるがそれらに限定されず、それらは次に重合化させて基質へグラフト化させることができる。この重合−グラフト化プロセスは、コーティングされた基質に熱もしくは(陽/陰)イオン化、化学線、X線照射、紫外線を物理的に受けさせる工程、または熱もしくは光線硬化、遷移金属をベースとする過酸化物、アゾ、およびその他の当分野において公知の典型的な重合触媒を使用することにより化学的のいずれかで発生させることができる。
【0115】
さらにまた別の態様では、シリコーン含有基質に本発明のポリホスファゼンを加えるために上記に開示した活性化方法および他の工程と組み合わせて追加の工程を使用できる。例えば、基質は、洗浄剤、例えば化学洗浄剤を用いて処理できる、または基質は、また別の処理を受けさせることができ、それにより基質の表面もしくは層上の汚染物質が除去される。これらの方法は、例えば、おそらくはシリコーン含有基質をエッチングできる酸化剤、酸性溶液、アルカリ溶液、または還元剤などの化学物質で基質を洗浄する工程を含むことができる。別個の乾燥工程もまた任意で使用できる。
【0116】
さらにまた別の態様では、本開示は、本発明のポリホスファゼンと組み合わせてポリオルガノシロキサンを含む医療デバイスを製造するための方法を提供する。本開示は、例えば、細胞付着物を減少させる、血栓症の重症度を減少させる、または医療デバイスの抗拒絶反応特性を改善することによって、医療デバイスの特性の改善を付与する方法をさらに提供する。さらにまた本開示によって、ポリオルガノシロキサンを含有する医療デバイスに抗菌および/または抗血栓形成特性を付与する方法であって、本発明の少なくとも1つのポリホスファゼンをポリオルガノシロキサンへ加える工程、またはポリオルガノシロキサンと結合する工程を含む方法が提供される。
【0117】
図1〜3を参照すると、それにより本発明がデバイスにより生体適合性の特性を付与できる1つの方法を例示している、一連の走査型電子顕微鏡(SEM)画像が示されている。図1〜3は、大腸菌を含有する人工尿中での3日間の培養後に撮影されたSilastic(登録商標)フォーリーカテーテルの表面の画像である。図1(1,600倍)では、Silastic(登録商標)フォーリーカテーテルは本開示によってポリ[ビス(2,2,2−トリフルオロエトキシ)ホスファゼンを用いて処理され、その後に3日間の培養期間にかけられた。図2(550倍)および図3(1,600倍)では、Silastic(登録商標)フォーリーカテーテルはいずれのポリホスファゼンを用いても処理されず、その後3日間の培養期間にかけられた。これらのSEMデータが示すように、ポリホスファゼン処理Silastic(登録商標)カテーテルでは3日間の培養期間の終了時に有意な石灰化もしくは鉱質化は観察されなかったが(図1)、未処理Silastic(登録商標)カテーテルは3日間の培養期間後に有意な石灰化を示した(図2および3)。そこで、図2および3のサンプルは、より多くの結晶形成を明白に示しており、鉱物沈着物は針状材料として現れている。このためさらにまた別の態様では、本開示は、ポリオルガノシロキサンにポリホスファゼンを加える工程を含む、ヒトもしくは動物の身体もしくは器官の組織もしくは流体と接触するポリオルガノシロキサン含有デバイスの石灰化を減少させる方法をさらに提供する。本明細書に記載したように、本方法はさらに、ポリオルガノシロキサンおよびポリホスファゼン成分の正確な配置に関しては限定されておらず、例えば、ポリオルガノシロキサンは、任意の方法でコーティングする、ブレンドする、混合する、グラフト化させる、接着する、積層する、または結合することができる。
【0118】
これらをまとめると、本開示は、ポリホスファゼンの不在下にあるデバイスに比較して強化かつ優れた特性を備えるデバイスを提供するために、それによってポリホスファゼンがシリコーン含有デバイスに加えられる方法およびデバイスおよび関連発明を提供する。詳細には、シリコーン−ポリホスファゼンデバイスは、強化された抗菌特性、抗血栓形成特性、強化された流動特性、強化された潤滑性、強化された生体適合特性、強化された分解に対する耐性、および抗拒絶反応特性を有する。
【0119】
以下では、本発明を、決してその範囲に関する制限を課すとは見なすべきではない実施例によってさらに例示する。これとは反対に、当業者は、本明細書の記載を読んだ後には、本発明の精神または添付の特許請求項の範囲から逸脱せずに思いつくことのできる様々な他の態様、実施形態、変形およびそれらの同等物を使用できることを明確に理解されたい。
【0120】
本発明は、以下の実施例を含めて、本明細書に記載した本発明で使用かつ開示した特定のデバイス、基質、シリコーンのタイプ、ポリホスファゼン、またはその他の化合物に限定されないことを理解されたい。これらの各々は変動してよい。さらに、本明細書で使用した用語は特定の態様もしくは実施形態を記載するためであり、限定することは意図していないこともまた理解されたい。参照して組み込まれる任意の参考文献において使用された使用法もしくは用語が本開示において使用された使用法もしくは用語と矛盾する場合は、本開示の用法および用語が優先される。
【0121】
他に特に指示しない限り、部は重量部として報告されており、温度は摂氏温度で報告されており、そして他に特に指示しない限り、圧力は大気圧またはほぼ大気圧である。本発明のポリホスファゼンの調製の例は、その全体が参照して本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2003/0157142号明細書によって調製されるポリ[ビス(トリフルオロエトキシ)ホスファゼン](PzF)ポリマーの合成で提供される。
【0122】
同様に他に特に指示しない限り、ある範囲の任意のタイプ、例えばある範囲の分子量、層の厚さ、濃度、温度などが開示もしくは主張される場合は、そのような範囲は、その中に包含される任意の部分範囲を含めて合理的に包含すると考えられる各数を個別に開示もしくは主張することが意図されている。例えば、出願人が所定の数の原子、例えば炭素原子を有する化学部分を開示もしくは主張する場合は、出願人は、そのような範囲が、本明細書の開示と一致して包含すると考えられる各数を個別に開示もしくは主張することを意図している。そこで、アルキル置換基もしくは基が1〜20個の炭素原子を有していてよいという開示では、出願人らは、アルキル基が、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20個の炭素原子を有すると述べることを意図している。また別の例では、コーティングの厚さが1つの単層〜約1μmである、または約1つの単層〜約2μm、または約1つの単層〜約3μm、または1つの単層〜約4μm、または約1つの単層〜約5μm、または約1つの単層〜約10μmなどであるとの開示では、例えば厚さが約1μm〜約5μm、および厚さが約3μm〜約10μmなどの部分範囲をこの開示内に含めることが意図されている。したがって、出願人らは、例えば本出願の出願時に出願人らが気付いていない参考文献を説明するために、何らかの理由のために出願人らが開示の正確な量目未満を主張することを選択した場合には、ある範囲によって、または任意の類似の方法で主張できるグループ内に任意の部分範囲もしくは部分範囲の組み合わせを含めて、そのようなグループの任意の個別メンバーを排除もしくは除外する権利を留保する。
【0123】

以下の一般的情報は、本開示の分子量および分子量決定に関して提供される。本発明のデバイスおよび方法に使用した典型的なポリホスファゼンは、典型的には約10,000,000kg/mol〜約25,000,000kg/molの分子量範囲内にあり、これは約85,000〜約215,000のnの数値と同等であり、このとき重合度はポリマー内の繰り返しモノマー単位の数nによって与えられる。
【0124】
ポリホスファゼンの分子量測定値は、以下の方法の少なくとも1つによって決定した。
【0125】
a)粘度測定法。粘度測定値は、S.V.Vinogradova,D.R.Tur,V.A.Vasnev,「Open−chain poly(organophosphazenes).Synthesis and properties」,Russ.Chem.Rev.1998,67(6),515−534によってテトラヒドロフラン溶媒中で実施した。テトラヒドロフラン溶媒中のポリ[ビス(トリフルオロエトキシ)ホスファゼン]溶液の相対粘度は、希釈系列を用いて決定した。次に固有粘度は、減少した粘度をゼロ濃度へ外挿することによって計算した。次に分子量をマーク・フウィンク(Mark−Houwink)式を用いて決定した。
【0126】
b)ゲル透過クロマトグラフィー。サイズ排除クロマトグラフィーとも呼ばれるゲル透過クロマトグラフィー(GPC)は、T.H.Mourey,S.M.Miller,W.T.Ferrar,T.R.Molaire,Macromolecules 1989,22,4286−4291に提供された方法によってシクロヘキサノン中で実施した。
【0127】
粘度測定値およびGPC法のどちらも±2×10g/mol(分子量)の許容誤差内の極めて一致する結果を生じた。GPC分析は、約1.6未満の著しい多分散性指数を備えるオリゴマーの非存在を提供する単一モード分子量分布を示している。多分散性測定値は、典型的には約1.2〜約1.4の範囲内であった。
【0128】
例1 プラズマ洗浄および活性化のための一般的方法
基質の洗浄および接着促進剤分子のための反応性アンカー部位の作成は、70〜100/0〜30(容量/容量)%(窒素またはアルゴン)/酸素混合気を真空チャンバー内の反応ガス混合気として使用して、減圧(典型的には、0.01〜10mBar)下での1〜30分間のプラズマ処理によって達成される。窒素/酸素プラズマ自体は、最も好ましくは100〜300ワットの可変出力で13.56MHzのACフィールド周波数であるが、それには限定されない様々な規模のRF励起を通して作り出される。この反応は、室温で実施される。基質を過熱させることを回避するために、RFフィールドは、生成した熱を消散させるために定期的にパルス負荷させることができる。偏在する有機物質からの付随炭素、シリコーン油およびシリコーンエラストマー生成物を加工処理する工程から取り出されるその他の残留汚染物質は、これにより高度に反応性のプラズマとの反応によって基質表面から排除される。
【0129】
結果として生じる気体反応生成物は、チャンバーをパージする工程によって除去される。基質表面はプラズマ処理中にわずかに粗面化され、これにより増加した界面接触面積がもたらされる。反応性酸素プラズマは、特別にはモノマー、オリゴマーおよび/またはポリマーシラン、カチオン性に帯電した界面活性剤、多価電解質などに適する、ヒドロキシル基が富裕な負に帯電した基質表面を作り出す。減圧下でのプラズマ処理のまた別の利点は、得られた湿潤特性に基づいている。例えば、プラズマ洗浄および活性化した基質は、液体改質剤によって均質に湿潤させることができ、これは基質のより深部への浸透およびより効率的な表面改質をもたらすことができる。
【0130】
例2 シリコーン表面をプラズマ洗浄および活性化するためのプロセス
NuSilからのシリコーンRTV化合物を事前に洗浄したガラス棒(長さ60mm;直径1mm)上および光学顕微鏡スライドガラス上に厚さ1mmのフィルムとしてコーティングした。シリコーン化合物を室温および周囲湿度で24時間にわたり硬化させた。基質を次にIlmvac PlasmaClean−4プラズマチャンバーを使用して、20/80(容量/容量)%のO/N雰囲気下の≦5mBarで120秒間にわたるパルス式プラズマ処理にかけた。この処理は10秒間隔で規則的に中断したので、総プラズマ処理時間は、合計すると約1分間になった。この方法を数回繰り返し、各処理後には以下に記載するように水に対する動的接触角を決定した。この方法は、長時間のプラズマ曝露後にさえ接触角をそれ以上は改善できない時点によって測定される完全表面活性化が生じるまで繰り返した。結果として、完全表面活性化のためには、およそ2回の1分間(計120秒間)処理で十分であると決定された。プラズマチャンバーからデバイスの部品を取り出した後、全部品をDataphysics DCAT 1.2 Wilhelmyはかりを用いて接触角測定にかけた。Wilhelmyはかりは、最初に水に対してPt参照プレートを用いてキャリブレーションし、その後に各デバイス部品の湿潤長さをn−パーフルオロヘキサンで決定し、そしてこの数値を使用して水に対する動的接触角を測定した。この方法を各連続コーティング工程後に繰り返した。
【0131】
RTVシリコーン化合物は、自然状態において90°を越える、極めて高い水接触角を示した。プラズマ活性化処理はシリコーン基質上の接触角の大きな低下を引き起こしたが、これはシリコーン表面へのアミノシラン接着促進剤のより容易な接着およびポリホスファゼンコーティング液のより良好な拡散を示している。プラズマ処理後に、基質のいずれについても光学的悪化は観察されなかった。第2プラズマ処理は、接触角におけるそれ以上の低下を引き起こさなかった;このため、安定性の表面改質のためには、単一の120秒間の処理期間で十分であった。
【0132】
例3 任意の湿性洗浄および活性化のための一般的方法
プラズマ洗浄および活性化方法の拡大法もしくは独立選択肢として、シリコーンエラストマーおよび任意の他のポリマー基質は、表面上へのポリホスファゼン特異的接着促進剤の結合のために適するアンカー基の官能密度を強化するために、さらに湿性化学処理にかけることができる。この処理は、接着強度を増加させるために提供される。
【0133】
湿性化学処理は、基質を典型的には1〜10%、または1〜20%、または1〜30%、または1〜40%、または1〜50%、または1〜60%、または1〜70%、または1〜80%、または1〜90%以上の濃度のアルカリもしくはアルカリ土類含有水酸化物の溶液中に1〜30分間以上にわたり浸漬する工程を含んでいる。水酸化物溶液は、水酸化物溶液のポリマー基質内へのより深い浸透を達成するために、シリコーンエラストマー基質のための有機膨潤溶媒もしくは膨潤剤を含有していてよい。この態様では、例えば、膨潤溶媒は、アルコールもしくは有機アミンから選択できる。例えば、膨潤剤は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、エタノールアミン、エチレンジアミン、ジイソプロピルアミン、もしくは当分野において公知である他の典型的な膨潤試薬、またはそれらの任意の組み合わせから選択できる。そこで、これらの膨潤剤は、選択した水酸化物化合物の溶解度が許容する限り、任意の濃度で水酸化物水溶液中に存在していてよい。1つの実施形態では、7:3(容量/容量)イソプラパノール/水混合物中の5(重量/容量)%のKOH水溶液が使用される。
【0134】
湿性化学処理後には、基質はアルカリの全痕跡が除去されるまで、長時間にわたって脱イオン水ですすぎ洗いする。すすぎ洗い用媒質は、その後のプロセスを妨害する可能性がある金属イオンの中和および同時の錯形成のために適切な量でEDTAもしくは酢酸を任意で含有していてよい。高温もしくは真空下のいずれかでのサンプル基質の水を用いた最終的すすぎ洗いおよび乾燥もまた、この任意の洗浄および活性化方法を行って、または行わずに使用できる。
例4 湿性化学処理のためのプロセス
プラズマ洗浄および活性化の効果を評価するために、活性化された100%の全シリコーンカテーテル上の表面電荷およびヒドロキシル基密度は、正に耐電した蛍光色素Pyronin Gを用いて試験した。
【0135】
7:3(容量/容量)イソプラパノール/水混合物中の5(重量/容量)%のKOH水溶液を調製した。プラズマ処理した100%のシリコーンチューブ基質をこの溶液中に浸漬して15分間維持し、その後にチューブ基質を10mM HOAc溶液中に30分間沈めることによって中和した。中和工程後、サンプルを脱イオン水で3回すすぎ洗いした。これらのチューブサンプルを次に約1時間にわたり約60℃の対流式オーブン内で乾燥させた。
【0136】
湿性処理プロセス後、サンプルを0.1Mリン酸緩衝食塩液(PBS)中で調製した250mg/LのPyronin G溶液中に約120分間にわたり浸漬し、その後にサンプルを取り出し、脱イオン水で何度もすすぎ洗いし、風乾させた。次にサンプルは透過照明下で倍率0.65倍の光学顕微鏡を用いて評価した。
【0137】
この評価の結果は、シリコーンエラストマーの表面ヒドロキシル化については、プラズマ処理後のアルカリ性KOH溶液(KOH 5(重量/容量)%、3:7(容量/容量)イソプラパノール/水)中への浸漬がシラン接着促進剤の共有結合のために優れた負の表面電荷を生じさせることを証明している。
【0138】
例5 接着促進剤を用いてシリコーンエラストマーを表面改質するための一般的方法
基質へのポリホスファゼン界面活性剤の結合は、プラズマ活性化基質の存在下で、動的真空、および必要であれば熱を使用して反応チャンバー内で接着促進剤を蒸発させる工程によって強化できる。接着促進剤の溶着もまた、基質のプラズマ洗浄中もしくは直後のいずれかに、プラズマチャンバー内へ気体状接着促進剤を導入する工程によって、プラズマチャンバー内で実施することができる。接着促進剤の十分な蒸気圧を達成するためには、適切かつ正しい寸法の真空ポンプ、例えば回転式ポンプとターボ分子ポンプまたはその他の適切な真空源との組み合わせが必要とされる。
【0139】
/OまたはAr/O混合気以外の反応ガスの同時導入中にプラズマ放電を実施すると、さもなければ不活性の種から反応性部分を作り出すことができる。このため、接着促進分子の反応性の性質は、分子自体の上の追加のアンカー部位を作り出すことによって強化できる。例えば、フルオロポリマーフィルムは、基質の存在下では通常は不活性であるヘキサフルオロベンゼンもしくは他のフッ素含有無機もしくは有機化合物のプラズマ励起によって溶着させることができる。そのようなポリマーフィルムは、接着促進剤を必要とせずに、ポリホスファゼンの接着を改善するために、表面特性を改善できる。
【0140】
例6 シランをベースとする接着促進剤を溶着させるための一般的方法
シラン化プロトコールは、液相もしくは気相内で実施できる。さらに、液相方法は、典型的には水の存在および濃度が変動する有機溶媒を使用して、水性もしくは無水条件下で実行できる。例えば、シロキサン表面誘導体化のために一般に使用される方法は、無水有機溶媒中または水性有機溶媒中のいずれかで実施される。この場合には、痕跡量の水の存在さえ反応媒質流でのシロキサン化合物の自己触媒ヒドロキシル化およびその後の重合を、表面グラフト化反応と並行してもたらす可能性がある。このために水性条件はシロキサン多層溶着をもたらすことができるが、他方では、真のシロキサン単層形成のためには無水反応媒質がより好ましい。
【0141】
水性反応媒質中での反応は、周囲条件下でより容易に実施され、典型的には基質上のシロキサンポリマーのより完全な表面被覆を達成する。その後基質は熱処理され、これはポリマーと基質間の接着を強化するためのポリマー相の架橋結合を生じさせる。以下で参照する以前に使用されたStengerのシラン化プロセスに基づくと、フィルム厚について与えられた文献値は、通常は15分間の反応時間での約4Å〜約6Åの下限範囲から24〜72時間の反応時間での約50Å〜約100Åの範囲まで変動する。架橋結合前の接触角は約20°〜約30°の範囲内にあるが、架橋結合後には約45°〜約55°の範囲内に上昇する。Stengerら、J.Am.Chem.Soc.1992,114,8435−8442;Bascom,W.,Macromolecules 1972,5,792−798;Heineyら、Langmuir 2000,16,2651−2657;Charlesら、Langmuir 2003,19,1586−1591;およびWhiteら、Langmuir 2000,16,10471−10481を参照されたい。
【0142】
無水液体環境で実施された方法は、8.5Åの理論的に予測された単層厚さへ極めて近づく。還流条件下で実施する場合は、別個の架橋結合工程を省略することができ、結果として生じる接触角は、約45°〜約55°の範囲内にある。水性環境では遭遇する可能性があるポリマーシロキサン凝集体形成を防止するために、慎重かつ完全な微量水の除去を使用できる。Sligarら、Langmuir 1994,10,153−158;Vincentら、(Vandenberg method)Langmuir 1997,13,14−22を参照されたい。さらに、Langmuir 1996,72,4621−4624;Langmuir 1995,11,3061−3067;およびHaller and Ivan,J.Am.Chem.Soc.1978,100,8050−8055を参照されたい。
【0143】
シラン化は、さらにまた気相中でも実施される。この方法は、基質上でのポリマー凝集体の形成というリスクを伴わずに、無水液相溶着法と同一のフィルム品質を達成できる。本方法は、真空下または大気条件下のいずれで行っても、大きなポリマー凝集体には気相内で実施する方法に比して十分な蒸気圧が欠如している;このため、凝集体は基質上に沈着しない。さらに、物理吸着したシランを除去するプロセスは、架橋結合または水分への曝露の前に、シランが富裕な環境内で基質を培養した後にシラン化法と結合することができる。このプロセスは、動的真空下での未反応シランの除去によって遂行される。気相および液相溶着法の複合形は、別個の架橋結合工程を必要とせずに類似の結果を達成しながら、基質表面上にシランを溶着させるために溶媒を還流させながら使用する(J.Am.Chem.Soc.1996,118,2950−2953;J.Am.Chem.Soc.1978,100,8050−8055;Haller and Ivan,Langmuir 1993,9,2965−2973;Langmuir 1995,11,3061−3067を参照されたい)。
【0144】
そこで、本明細書に開示するように、シリコーンエラストマーの接着促進剤を用いた表面改質は、本発明の状況においてシリコーン含有基質上にシランを溶着させるための1つの好ましい方法である。しかし、当分野において公知である上述したシラン化法のいずれかによってポリホスファゼン特異的シラン接着促進剤を溶着させる工程は簡単である。
【0145】
例7 基質のシラン化のためのプロセス
上述したようなプラズマ活性化に続いて、様々なシリコーン基質を別個の乾燥器内に配置し、(3−アミノプロピル)トリエトキシシラン(APTES)の10μL、50μL、または200μLのサンプルを密閉したペトリ皿内の基質の下に配置した。乾燥器は1×10−1mBarの圧力に排気させ、その後静的真空を得るために真空ラインを閉鎖した。乾燥器内で30〜60分間にわたり培養した後、約1×10−2mBar未満の圧力で、動的真空下で物理吸着シランを除去するために真空弁を再び開放した。次にサンプルを約30分間〜60分間にわたり60℃で熱処理してアミノシラン層を架橋結合させた。本明細書に記載したポリホスファゼンコーティングを評価するために、8枚の同様に「アミノシラン化」したシリコンウエハーを参照基質として使用した。プラズマ活性化後、全基質は気相中でシラン化されたが、これは全基質について接触角を文献に報告された範囲である65〜75°へ上昇させた。
【0146】
その他の接着促進剤もまた試験したが、シリコーン含有基質とポリホスファゼンフィルム、特別にはポリ[ビス(2,2,2−トリフルオロエトキシ)ホスファゼン]との間の強力な接着を促進することに有効であることが証明された。試験した追加の接着促進剤は、N−メチル−アザ−2,2,4−トリメチルシラシクロペンタン;2,2−ジメトキシ−1,6−ジアザ−2−シラシクロオクタン;(3−トリメトキシ−シリルプロピル)ジエチレントリアミン;および、接触角が提示されている以下の各々であった。
【表3】

【0147】
例8 ポリホスファゼンブレンドをスプレーコーティングするための方法
A.基質の調製。1セットのシリコーン基質を2.0cm×3.6cmの細片に切断し、アセトンで湿らせた糸くずの出ない布で清潔に拭い、純粋アセトンですすぎ洗い、アルゴン気流で風乾させた。これらの前洗浄した基質をプラズマチャンバー内へ移し、約8分間にわたり0.1mBarでプラズマ処理した。チャンバーからサンプルを取り出した後、サンプルは、ポリ[ビス(2,2,2−トリフルオロエトキシ)ホスファゼン](PzF)を含有する様々な(3−アミノプロピル)トリメトキシシラン(APTMS)接着促進剤溶液でスプレーコーティングした。これらのAPTMS/PzFスプレーコーティング液は、以下に提供するように調製した。
【0148】
B.ポリホスファゼン(PzF)ストック液および希釈液の調製。酢酸エチル(EtOAc)−ポリ[ビス(2,2,2−トリフルオロエトキシ)ホスファゼン](PzF)ストック液は、以下のように調製した。PzFの20gのサンプルを898gのEtOAc、C=20.0mgのPzF/mL(ストック液)の濃度(C)については、21.8mgのPzF/g(ストック液)、または22.2mgのPzF/g(EtOAc)と結合した。このストック液を必要に応じてEtOAc/酢酸イソアミル(IAA)混合液を用いて希釈し、所望の重量/重量比のPzFスプレーコーティング液を用意した。このためには典型的には約1:1(重量/重量)のEtOAc:IAA重量比を備えるEtOAc/IAA混合物を使用した。例えば、PzFの濃度C(PzF)=0.82mgのPzF/g(スプレーコーティング液)を提供するために、150gのストック(PzF/EtOAc)液は、1,925gのEtOAcおよび1,925gのIAAを含有するEtOAc/IAA混合物と結合した。
【0149】
C.APTMS/PzFスプレーコーティング液の添加。EtOAc/IAA中の希釈PzF溶液を使用して、以下の(3−アミノプロピル)トリメトキシシラン(APTMS)スプレーコーティング液を調製した。APTMSの重量%数は、そのスプレーコーティング液中のPzFの重量に比較したAPTMSの重量%として報告されている。
【0150】
1.1%のAPTMS/PzF。スプレーコーティング液は、4,000gの希釈PzF溶液および33.4mg(32.9μL)のAPTMSを混合する工程によって調製した。4,000gの希釈PzF溶液は、上記に提供したように150gのストック(PzF/EtOAc)液、1,925gのEtOAc、1,925gのIAAから調製した。生じたAPTMSの濃度は、約8.2μL/kg(スプレーコーティング液)であった。生じたPzFに対する、すなわち調製したスプレーコーティング液中のPzFの質量に比較したAPTMSの濃度は、約1%であった。
【0151】
2.5%のAPTMS/PzF。スプレーコーティング液は、約41.1μL/kg(スプレーコーティング液)のAPTMSの濃度を有するスプレーコーティング液を提供するために、すぐ上で記載したように、4,000gの希釈PzF溶液および167mg(164.4μL)のAPTMSを混合する工程によって調製した。生じたPzFに対する、すなわち調製したスプレーコーティング液中のPzFの質量に比較したAPTMSの濃度は、約5%であった。
【0152】
3.10%のAPTMS/PzF。スプレーコーティング液は、約82.2μL/kg(スプレーコーティング液)のAPTMSの濃度を有するスプレーコーティング液を提供するために、上述したように4,000gの希釈PzF溶液および334.1mg(328.8μL)のAPTMSを混合する工程によって調製した。生じたPzFに対する、すなわち調製したスプレーコーティング液中のPzFの質量に比較したAPTMSの濃度は、約10%であった。
【0153】
D.スプレーコーティング法。各スプレー組成物のために、総量10mLのAPTMS/PzFスプレーコーティングブレンドを基質上にスプレーした。液体は、20mL/hの速度でシリンジポンプを用いて二重供給ノズルを通してポンプで送り出し、およそ4Barの加圧アルゴンによって噴霧化した。各基質とスプレーノズルとの間隔は、各サンプルについて20cmに調整した。APTMS/PzFスプレーコーティングの適用後、基質は、残留溶媒を除去し、APTMSを架橋結合させるために各々約30分間にわたり60℃の乾燥炉内に置いた。
【0154】
E.ASTM層間剥離試験。スプレーコーティングしたフィルムは、光学顕微鏡下に置き、各フィルムの形態を2.5倍、5倍、および10倍の倍率で評価した。摩耗実験を実施するために、サンプルフィルムの各々は、2cm×2cmの正方形パターンを得るためにASTM層間剥離試験キットからのスクライビングツールを用いて90°で2回切断した。使用した試験キットは、ASTM D−3359にしたがって実施するGardco、P−A−T型接着試験キットであった。使用した試験テープは、公知の仕様を備えるPermacel、P−99、ポリエステル/繊維包装用テープであった。供給された試験テープは、基質上でしっかりとけば立てた、調製したフィルム上に配置し、2分後にフィルム表面から剥がした。パターン化されたフィルムを試験テープの適用前後に評価した。この試験は、10%のAPTMS/PzFコーティング液がスプレーされたフィルムが接着の最大増加を示すことを証明した。元のフィルム表面のおよそ90%はテープの除去後に無傷であった。さらに、PzF溶液に濃度を増加させながらAPTMSを混合すると、PzF溶液の湿潤挙動が増加し、連続的により小さな顆粒構造を導いた。
【0155】
F.フィルムの層間剥離の傾向。PzFスプレーコーティング液中のAPTMS含量の段階的増加は、機械的ストレスを適用した場合にPzFフィルムの接着の改善の増加を引き起こした。最初の顕著な差は、5%(重量%)のAPTMS(スプレーコーティング液中のPzFの質量含量に関連して)を含有するPzF溶液について観察された。濃度10%では、接着はすばらしく、機械的ストレスの適用後にフィルム面積の90%は無傷のままであった。
【0156】
スプレーコーティング液中のAPTMSとPzFの組み合わせは、2つの有益な作用を有していた。第1に、それは基質上のPzF溶液の改善された湿潤能力および減少した有害なディウェッティング能力をもたらし、それによりPzFフィルムのしわが平滑にされた。結果として、より均質なコーティング形態が観察された。
【0157】
第2に、スプレーコーティング液中のAPTMSとPzFの組み合わせは、基質への溶着したPzFフィルムの接着を大きく増加させた。APTMS単層もしくは多重層基質へのPzFによるコーティングと比較して、アミノシロキサン形成ポリマーとPzFとの直接混合によって得られた界面の接着はより優れた接着を生じさせた。理論によって束縛することは意図していないが、2つの界面間の相互貫入編目の形成は、フィルムのためのより多くのアンカー部位を備えるはるかに広範囲の表面接触面積を作り出すと考えられる。
【0158】
APTMSの添加は、PzFフィルムの全接触角に有害な作用を及ぼさず、これらは全部が前記質について90°を越えたままであった。
【0159】
例9 シリコーン含有カテーテルのポリホスファゼンを用いたコーティング
様々な市販で入手できる泌尿器用カテーテルを2cmのセグメントに切断し、20mg/mLのPzF溶液でコーティングした。1セットのサンプルは受領したままで使用したが、もう1セットは接着促進剤で前処理した。サンプルは、光学顕微鏡および蛍光染色によって試験した。層間剥離試験は、コーティング後に実施した。使用した導尿カテーテル(サイズ14〜20FR、フォーリー型)は表4に表示した。
【表4】

【0160】
A.プラズマ処理。サンプルは、Diener Electronics Femtoプラズマチャンバー内で約120秒間にわたりプラズマ活性化を受けさせた。このシステムを5mBar未満の圧力へ排気させ、チャンバー内に作業ガスとして空気を導入し、その後プラズマプロセスを開始した。その後チャンバーを換気し、サンプルをアミノシラン化にかけた。
【0161】
B.アミノシラン化。プラズマ処理されていたサンプルは、10μLのAPTMSを含有するSchlenkチューブ内に挿入し、これを次に標準真空ラインに接続した。容器を排気させ、60分間にわたり1×10−1mBar未満の動的真空下で維持した。この後、サンプルは約60分間にわたり65℃の乾燥炉内に保管して、アミノシラン接着促進剤の架橋結合を得た。
【0162】
C.浸漬コーティング。アミノシラン化にかけられていたサンプルを次にPzF浸漬コーティング液中へ部分的に沈め、1分間の短い対流時間後に9mm/分の規定速度で抜去した。PzF溶液は、酢酸エチル中に溶解させたOF 282(11.4×10gmol−1)をベースとしていた。
【0163】
D.層間剥離試験。コーティングされたサンプルは、未被覆セグメントを固定することによって不動化し、コーティングされたチューブ区間をしっかりとつかんだ。コーティングされた区間は、圧力を適用したゾーンを通して数回(約4回)引張った。
【0164】
E.結果。プラズマ前処理は、試験した様々な材料に検出可能な不都合な光学的変化を引き起こさなかったが、表面エネルギーの所望の増加を付与したので、これによりPzF溶液がコーティング法中に基質表面を湿潤させる傾向が増加した。プラズマ前処理は、さらにまた取り扱う前の表面汚染を最小限に抑えるのに役立ち、アミノシラン化前の表面活性化を提供した。アミノシラン化基質とベアラテックス基質との間にはかろうじて検出できる差しかなかったが、Silastic(登録商標)シリコーンエラストマーおよびシリコーン材料はアミノシラン化法からより大きな利点を獲得した。
【0165】
さらに、酢酸エチル中で約5mg/mL未満のPzF濃度で基質をコーティングした場合には、処理された基質の疎水性の増加が大きくないことが観察された。およそ10mg/mL以上を含む約5mg/mLを超える濃度では、典型的なPzFの水に対する非湿潤挙動が観察された。
【0166】
基質を完全に乾燥させた後、すべての導尿カテーテルの感受性バルーン区間は中等度の圧力(0〜1.5Bar)で容易に膨張させることができ、バルーン破裂またはPzFフィルム層間剥離を伴わなかった。
【0167】
一般に、PzFフィルムの層間剥離は、天然基質とおよびコーティング基質の界面境界でしか、そして高負荷の機械的ストレス下でしか発生しなかった。いかなる状況下でも、PzF層がシリコーン、Silastic(登録商標)、またはラテックス基質のいずれからも完全に引き離されることは観察されなかった。
【0168】
本実施例は、シリコーンコーティングされたラテックス製カテーテルが、任意のディウェッティング作用またはPzF接着の欠如を伴わずに単純な方法でコーティングできることを証明している。コーティング作用は、水に対する接触角の上昇で即座に視認できる。機械的ストレス下でのPzFコーティングの接着は、接着促進剤としてのAPTMSを用いた前処理によって改善され、APTMS架橋結合のために必要とされた天然基質の熱安定性は使用した条件下では十分であった。さらにまた100%シリコーンから製造されたカテーテルはラテックス材料と類似方法でコーティングできるが、他方例えばC.R.Bard Silastic(登録商標)ブランドなどのシリコーンエラストマーをベースとするカテーテル材料は、湿潤傾向およびPzF接着に関してラテックスと純粋ケイ素化合物の中間位置を占めていることが観察された。
【0169】
このコーティング試験はさらに、最も一般的に入手できるカテーテル材料は、カテーテルの感受性部分への識別できる損傷を全く引き起こさずに、約10mg/mLを超える濃度で酢酸エチル中のPzF溶液により首尾良くコーティングできることを証明した。そこで、PzF接着はカテーテル上で与えられる条件下では十分であったが、この接着はカテーテルの屈曲および挿入もしくは抜去からの典型的な機械的ストレスに抵抗できなければならない。このため、シリコーンコーティングラテックス、Silastic(登録商標)、または100%シリコーンポリマーから製造されたカテーテルは、PzFフィルムを適用するために極めて適していた。カテーテルの内腔は、コーティング法中にドレナージ孔を開放したままにすることによって、外面と並行してコーティングすることができる。さらに、カテーテルのインフレーションポートは、このコーティング法による影響を受けない。
【0170】
例10 PzFコーティングカテーテルの特性
2つのタイプのシリコーンチューブ材料(16フレンチサイズ×長さ11cmまたは20cm)である、100%シリコーンから製造されたゴム材料、ならびにラテックスおよびシリコーンを含有する材料を摩擦およびコーティング耐久性について評価した。どちらのタイプのチューブも、上述した方法にしたがってPzFでコーティングした。PzFコーティングの潤滑特性は、試験サンプルをプログラム可能な力でクランプした2つのシリコーンゴムパッド間で引張る工程によって表面摩擦とコーティング耐久性の同時の測定を許容するFTS5000摩擦試験システム(Harland Medical Systems社)を用いて評価した。各試験サンプルには15回のサイクルタイムを適用し、本試験では300gのクランプ力を使用した。15サイクルランの平均引張力を記録した。
【0171】
結果は、シリコーンまたはシリコーン/ラテックスコーティングチューブサンプル上でPzf−層間剥離が全く観察されないことを証明した。平均引張力の予備試験結果は、以下の表5に要約した。この表は、コーティングされていないコントロールチューブに比較した、PzFコーティングの潤滑特性を示す。
【表5】

【0172】
これらの結果は、Pzfがコーティングされたシリコーンカテーテルおよびシリコーン/ラテックスカテーテルのどちらも有意に摩擦力を低下させ、このため有意に強化された潤滑性を有することを証明している。
【0173】
例10 PzFコーティングされたシリコーンチューブの生物学的評価:細菌付着およびバイオフィルムの形成
2つのタイプのシリコーンチューブ材料である、Silastic(登録商標)材料ならびにラテックスおよびシリコーンを含有する材料を評価した。およそ30cmおよび16フレンチサイズのどちらのタイプのチューブも、上述した方法にしたがってPzFでコーティングした。両方のサンプルは、大腸菌を含有する人工尿媒質を用いて細菌付着およびバイオフィルム形成について評価した。この評価には、2つの別個の試験方法を利用した。以下に記載するような、a)動的、連続流動法;およびb)静的方法、またはセグメント化試験。
【0174】
A.連続流動試験。PzFコーティングされた、またはコーティングされていないチューブの各サンプルは、4本の平行チャネル(チューブ1本に付き1チャネル)からなる試験システムの各チャネル内に据え付けた。システム全体を37℃のインキュベーター内に配置し、少なくとも30分間にわたり人工尿の連続流動と平衡するに任せ、その後に37℃の人工尿媒質中で事前に増殖させた大腸菌(ATCC 25922)を接種した。人工尿媒質の流動は、7日間までおよそ0.7mL/分の速度で維持した。チューブサンプルの下流末端からおよそ5.0cmのセグメントを、1、3、および7日間の指定時間間隔で切断した。5cmの細片を3つの部分に分割し、これをプレートの計数によって細菌付着について、SEMによってバイオフィルム形成について、そしてLIVE/DEAD(登録商標)Baclight(商標)細菌生存性試験キット(L7012、 Molecular Probes社、米国オレゴン州)を用いた細菌染色後に共焦点レーザー走査型顕微鏡(CSLM)によって生存細胞評価について分析した。下記の連続流動試験結果が得られた。
【0175】
流動試験プレート計数分析。プレート計数分析の結果は、以下の表6に要約した。PBSを用いるすすぎ洗い工程を第7日サンプルに適用し、付着していない細胞を除去し、その後プレート計数について分析した。これらの結果は、コーティングされたカテーテル上に形成されたバイオフィルムが、コーティングされていないカテーテル上に形成されたバイオフィルムとは対照的にカテーテルに付着しなかったことを示している。この表は、1cm×10当たりの生存細胞数を示す。
【表6】

【0176】
流動試験の共焦点顕微鏡およびSEM分析。コーティングされた、およびコーティングされていないサンプルの代表的な共焦点顕微鏡およびSEM画像は、上記で考察したコーティングされていないコントロールに比較してコーティングされたカテーテル上に存在するバイオフィルムがより少ないことを証明した。表6に記載のデータと一致して、コーティングされたカテーテル上に比較してコーティングされていないカテーテルの表面上には有意に多くの生存細胞が存在した。
【0177】
B.セグメント化した静的モード試験。本試験は3cmのチューブセグメントを利用した。コーティングされた、およびコーティングされていないSilastic(登録商標)サンプルだけを使用した。サンプルは、上述したように大腸菌を接種した人工尿を含有する試験管内に配置した。1セットの3つにセグメント化したサンプル(3×3cm)は、詳細には大腸菌を含有する37℃の尿媒質への曝露2時間後、24時間後、48時間後、および72時間後の4つの時点に除去した。サンプルは、プレート計数による細菌付着および共焦点レーザー走査型顕微鏡(CSLM)による生存細胞評価について試験した。静的試験プレート計数のために、各時点からの3つのコーティングされていない、および3つのコーティングされたセグメントを剥離し、生存(培養可能な)細胞数について3回ずつ拡散プレーティングした。静的試験CSLM分析のために、コーティングされていない、およびコーティングされたサンプルのセクションを製造業者(L7012、Molecular Probes社、米国オレゴン州)の取扱説明書にしたがってLIVE/DEAD(登録商標)Baclight(商標)細菌生存試験キットを用いて染色した。下記の静的モード試験結果が得られた。
【0178】
静的試験プレート計数および共焦点顕微鏡分析。表7に要約した結果は、対応するコーティングされていないサンプルに比較してPzFコーティングサンプルへの大腸菌結合の減少を示した。細胞数における劇的な減少は、細菌曝露の2時間後に観察された。これらの結果は、流動試験法と一致する所見を示している。さらに流動試験と一致して、コーティングされていないSilastic(登録商標)サンプル上には、コーティングされたSilasticサンプルより有意に多数の生存細胞が存在していた。この表は、PzFコーティングSilastic(登録商標)サンプルの生存細胞数/mを表す。
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオルガノシロキサンを次の式のポリホスファゼンと組み合わせて含む医療デバイスであって、
【化1】


nは、2〜∞であり、
〜Rは、アルキル、アミノアルキル、ハロアルキル、チオアルキル、チオアリール、アルコキシ、ハロアルコキシ、アリールオキシ、ハロアリールオキシ、アルキルチオレート、アリールチオレート、アルキルスルホニル、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、窒素、酸素、硫黄、リン、もしくはそれらの組み合わせから選択される1つまたは複数のヘテロ原子を含むヘテロシクロアルキル、または窒素、酸素、硫黄、リン、もしくはそれらの組み合わせから選択される1つまたは複数のヘテロ原子を含むヘテロアリールから各々独立して選択される、医療デバイス。
【請求項2】
〜Rのうちの少なくとも1つは、少なくとも1つのフッ素原子で置換されたアルコキシ基である、請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項3】
〜Rのうちの少なくとも1つは、OCH、OCF、OCHCH、OCHCF、OCHCHCH、OCHCHCF、OCHCFCF、OCH(CF、OCCH(CF、OCHCFCFCF、OCH(CFCF、OCH(CFCF、OCH(CFCF、OCH(CFCF、OCH(CFCF、OCHCFCHF、OCHCFCFCHF、OCH(CFCHF、OCH(CFCHF、OCH(CFCHF、OCH(CFCHF、もしくはOCH(CFCHFから選択される、請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項4】
前記ポリホスファゼンは、ポリ[ビス(2,2,2−トリフルオロエトキシ)]ホスファゼンである、請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項5】
前記ポリオルガノシロキサンは、前記ポリホスファゼンでコーティングおよび/または反応させられている中間層でコーティングされる、反応させられる、ブレンドされる、グラフト化される、結合される、架橋結合される、共重合される、またはコーティングおよび/または反応させられる、請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項6】
前記ポリオルガノシロキサンは、前記ポリホスファゼンでコーティングされており、前記ポリホスファゼンコーティングは約1つのポリマー単層〜約100μmの厚さを有する、請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項7】
前記ポリオルガノシロキサンと前記ポリホスファゼンとの間の結合層をさらに含む、請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項8】
前記ポリオルガノシロキサンは、前記ポリオルガノシロキサンを前記ポリホスファゼンと結合する工程の前に、N−メチル−アザ−2,2,4−トリメチルシラシクロペンタン;2,2−ジメトキシ−1,6−ジアザ−2−シラシクロオクタン;(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミン;(3−アミノプロピル)トリメトキシシラン(APTMS);N−(3−(トリメトキシシリル)プロピル)メタンジアミン;N,N−ビス(3−(トリメトキシシリル)プロピル)エタン−1,2−ジアミン;1,3,5−トリス(3−(トリメトキシシリル)プロピル)−1,3,5−トリアジナン−2−4−6−トリオン;またはそれらの任意の組み合わせから選択される接着促進剤と接触させられる、請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項9】
前記ポリオルガノシロキサンは、前記ポリホスファゼンと結合する工程の前に、ヒドロキシ、カルボキシ、カルボキシル、アルデヒド、ペルオキシ、アミノ、イミノ、ハロ、水素化物、ニトロ、アルコキシ、アルキルスルホニル、ジアルキルアミノ、アリールオキシ、Ν−ヘテロシクロアルキル、Ν−ヘテロアリール、モノエチレンイミン、オリゴエチレンイミン、ポリエチレンイミン、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、環状ポリホスファゼン、モノシラン、オリゴシラン、ポリシラン、アミノ末端シラン、アミノ末端アルケン、ニトロ末端アルケン、アルキルホスホン酸、ウレイド末端シラン、グリシジル末端シラン、チオール末端シラン、アクロイル末端シラン、パーフルオロシラン、またはそれらの組み合わせから選択される官能性部分を用いて官能化される、請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項10】
前記ポリオルガノシロキサンは、前記ポリホスファゼンと結合する工程の前に、接着促進剤、膨潤剤、架橋剤、酸、塩基、酸化剤、フッ素化剤、還元剤、X線源、光学線、電離放射線、電子線、コロナ放電、フレーム熱分解、プラズマ放電、またはそれらの任意の組み合わせと接触させられる、請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項11】
前記ポリホスファゼンは、少なくとも約70,000g/molの分子量を有する、請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項12】
前記ポリオルガノシロキサンは、ASTM D1418によって、分類MQ、VMQ、PMQ、PVMQ、またはFVMQから選択される、請求項1に記載の医療デバイス。
【請求項13】
医療デバイスを作製する方法であって、
a.ポリオルガノシロキサンを含む医療デバイスを提供する工程と;および
b.前記ポリオルガノシロキサンを次の式のポリホスファゼンと結合する工程と、を含み、
【化2】


nは、2〜∞であり、
〜Rは、アルキル、アミノアルキル、ハロアルキル、チオアルキル、チオアリール、アルコキシ、ハロアルコキシ、アリールオキシ、ハロアリールオキシ、アルキルチオレート、アリールチオレート、アルキルスルホニル、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、窒素、酸素、硫黄、リン、もしくはそれらの組み合わせから選択される1つまたは複数のヘテロ原子を含むヘテロシクロアルキル、または窒素、酸素、硫黄、リン、もしくはそれらの組み合わせから選択される1つまたは複数のヘテロ原子を含むヘテロアリールから各々独立して選択される、前記方法。
【請求項14】
〜Rのうちの少なくとも1つは、少なくとも1つのフッ素原子で置換されたアルコキシ基である、請求項13に記載の医療デバイスを作製する方法。
【請求項15】
〜Rのうちの少なくとも1つは、OCH、OCF、OCHCH、OCHCF、OCHCHCH、OCHCHCF、OCHCFCF、OCH(CF、OCCH(CF、OCHCFCFCF、OCH(CFCF、OCH(CFCF、OCH(CFCF、OCH(CFCF、OCH(CFCF、OCHCFCHF、OCHCFCFCHF、OCH(CFCHF、OCH(CFCHF、OCH(CFCHF、OCH(CFCHF、もしくはOCH(CFCHFから選択される、請求項13に記載の医療デバイスを作製する方法。
【請求項16】
前記ポリホスファゼンは、ポリ[ビス(2,2,2−トリフルオロエトキシ)]ホスファゼンである、請求項13に記載の医療デバイスを作製する方法。
【請求項17】
前記ポリオルガノシロキサンは、前記ポリホスファゼンでコーティングおよび/または反応させられている中間層でコーティングされる、反応させられる、ブレンドされる、グラフト化される、結合される、架橋結合される、共重合させられる、またはコーティングおよび/または反応させられる、請求項13に記載の医療デバイスを作製する方法。
【請求項18】
前記ポリオルガノシロキサンは、前記ポリホスファゼンでコーティングされており、前記ポリホスファゼンコーティングは約1つのポリマー単層〜約100μmの厚さを有する、請求項1に記載の医療デバイスを作製する方法。
【請求項19】
前記ポリオルガノシロキサンを前記ポリホスファゼンと結合する工程の前に、前記ポリオルガノシロキサンが、N−メチル−アザ−2,2,4−トリメチルシラシクロペンタン;2,2−ジメトキシ−1,6−ジアザ−2−シラシクロオクタン;(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミン;(3−アミノプロピル)トリメトキシシラン(APTMS);N−(3−(トリメトキシシリル)プロピル)メタンジアミン;N,N−ビス(3−(トリメトキシシリル)プロピル)エタン−1,2−ジアミン;1,3,5−トリス(3−(トリメトキシシリル)プロピル)−1,3,5−トリアジナン−2−4−6−トリオン;またはそれらの任意の組み合わせから選択される接着促進剤と接触させられる工程をさらに含む、請求項13に記載の医療デバイスを作製する方法。
【請求項20】
前記ポリオルガノシロキサンを前記ポリホスファゼンと結合する工程の前に、前記ポリオルガノシロキサンを、ヒドロキシ、カルボキシ、カルボキシル、アルデヒド、ペルオキシ、アミノ、イミノ、ハロ、水素化物、ニトロ、アルコキシ、アルキルスルホニル、ジアルキルアミノ、アリールオキシ、Ν−ヘテロシクロアルキル、Ν−ヘテロアリール、モノエチレンイミン、オリゴエチレンイミン、ポリエチレンイミン、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、環状ポリホスファゼン、モノシラン、オリゴシラン、ポリシラン、アミノ末端シラン、アミノ末端アルケン、ニトロ末端アルケン、アルキルホスホン酸、ウレイド末端シラン、グリシジル末端シラン、チオール末端シラン、アクロイル末端シラン、パーフルオロシラン、またはそれらの組み合わせから選択される官能性部分を用いて官能化する工程をさらに含む、請求項13に記載の医療デバイスを作製する方法。
【請求項21】
前記ポリオルガノシロキサンを前記ポリホスファゼンと結合する工程の前に、前記ポリオルガノシロキサンを接着促進剤、膨潤剤、架橋剤、酸、塩基、酸化剤、フッ素化剤、還元剤、X線源、光学線、電離放射線、電子線、コロナ放電、フレーム熱分解、プラズマ放電、またはそれらの任意の組み合わせと接触させる工程をさらに含む、請求項13に記載の医療デバイスを作製する方法。
【請求項22】
前記ポリホスファゼンは、少なくとも約70,000g/molの分子量を有する、請求項13に記載の医療デバイスを作製する方法。
【請求項23】
医療デバイスを作製する方法であって、
a.ポリオルガノシロキサンを含む医療デバイスを提供する工程と、
b.任意で、前記ポリオルガノシロキサンの表面を洗浄する工程と、
c.前記ポリオルガノシロキサンをN−メチル−アザ−2,2,4−トリメチルシラシクロペンタン;2,2−ジメトキシ−1,6−ジアザ−2−シラシクロオクタン;(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミン;(3−アミノプロピル)トリメトキシシラン(APTMS);N−(3−(トリメトキシシリル)プロピル)メタンジアミン;N,N−ビス(3−(トリメトキシシリル)プロピル)エタン−1,2−ジアミン;1,3,5−トリス(3−(トリメトキシシリル)プロピル)−1,3,5−トリアジナン−2−4−6−トリオン;またはそれらの任意の組み合わせから選択される接着促進剤と接触させる工程と、
d.前記ポリオルガノシロキサンが前記接着促進剤と接触させられるのと実質的に同時または後に、前記ポリオルガノシロキサンをポリ[ビス(2,2,2−トリフルオロエトキシ)]−ホスファゼンと接触させる工程と、を含む前記方法。
【請求項24】
前記ポリオルガノシロキサンの表面を洗浄する工程は、プラズマ活性化または前記ポリオルガノシロキサンを任意で膨潤剤を含む塩基性溶液と接触させる工程によって行われる、請求項23に記載の医療デバイスを作製する方法。
【請求項25】
哺乳動物の組織または流体と接触した場合の医療デバイスの生体適合性を改善する方法であって、
a.ポリオルガノシロキサンを含む医療デバイスを提供する工程と、
b.任意で、前記ポリオルガノシロキサンの表面を洗浄する工程と、
c.前記ポリオルガノシロキサンをN−メチル−アザ−2,2,4−トリメチルシラシクロペンタン;2,2−ジメトキシ−1,6−ジアザ−2−シラシクロオクタン;(3−トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミン;(3−アミノプロピル)トリメトキシシラン(APTMS);N−(3−(トリメトキシシリル)プロピル)メタンジアミン;N,N−ビス(3−(トリメトキシシリル)プロピル)エタン−1,2−ジアミン;1,3,5−トリス(3−(トリメトキシシリル)プロピル)−1,3,5−トリアジナン−2−4−6−トリオン;またはそれらの任意の組み合わせから選択される接着促進剤と接触させる工程と、
d.前記ポリオルガノシロキサンが前記接着促進剤と接触させられるのと実質的に同時または後に、前記ポリオルガノシロキサンをポリ[ビス(2,2,2−トリフルオロエトキシ)]−ホスファゼンと接触させる工程と、を含み、
前記哺乳動物の組織または流体と接触している前記医療デバイスの表面が前記ポリオルガノシロキサンを含む、前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−533505(P2010−533505A)
【公表日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−532559(P2009−532559)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【国際出願番号】PCT/US2007/080976
【国際公開番号】WO2008/045953
【国際公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(507202714)セロノバ バイオサイエンシーズ, インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】