説明

シリコーンエマルジョン組成物で処理された改質木材

【解決手段】 木材に、下記(A)〜(E)成分を界面活性剤存在下に水中に乳化分散させたシリコーンエマルジョン組成物が塗布又は含浸処理されてなることを特徴とする改質木材。
(A)1分子中にケイ素原子に結合するヒドロキシル基を少なくとも2個含有するオルガノポリシロキサン 100質量部、
(B)アミノ基含有オルガノアルコキシシランと酸無水物との反応生成物 0.5〜20質量部、
(C)エポキシ基含有オルガノアルコキシシラン及び/又はその部分加水分解物 0〜20質量部、
(D)コロイダルシリカ及び/又はポリシルセスキオキサン 0〜50質量部、
(E)硬化触媒 0〜10質量部。
【効果】 本発明によれば、特定のシリコーンエマルジョン組成物で木材に処理することにより得られる改質木材は、吸水防止性、寸法安定性に優れ、木材内部に注入された薬剤の溶脱防止にも効果を発揮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋してゴム質の被膜を形成するシリコーンエマルジョン組成物を木材類に塗布、含浸処理することにより、木質感を損なうことなく、木材に良好な吸水防止性、寸法安定性、更には木材内部に注入した薬剤(難燃剤、抗菌剤、防黴剤、防白蟻剤等)の水による溶脱性を改良した改質木材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築材や工芸品等の材料として広く用いられている木材の耐水性、寸法安定性、耐汚染性、耐火性、耐腐朽性、耐ひび割れ性及び耐摩耗性等の諸性質を改良する目的で、木材に様々な高分子化合物や低分子化合物、薬剤、無機物質等の処理剤を塗布又は含浸させることが行われている。
【0003】
このうち、塗料や樹脂の改質剤として撥水性、耐汚染性に実績のあるシリコーンを木材に応用しようとする試みが数多くなされている。例えば、特許文献1(特開昭56−4408号公報)には、比較的高粘度のシリコーンジオール100質量部に0.1〜50質量部の架橋剤を加えたものを、木材の表面に塗布し硬化させる方法が開示されている。しかし、この方法は、木材表面の木質感が損なわれる上、木材が現実に様々な用途に使用される過程で、表面の塗膜に少しでも傷がつくと、木質内部を保護する効果は消失してしまうという塗料に共通した欠点を有している。また、例えば内部に難燃剤や防白蟻剤などに使用されるリン酸やホウ酸などの無機塩を注入した木材に上記処理を行っても、雨水などにより簡単にその無機塩が溶脱してしまうという欠点があった。
【0004】
これに対して、特許文献2(特開昭63−265601号公報)には、ケイ素アルコキシドを用いたゾル−ゲル法を木材に応用し、木材の細胞壁内部でシリコーンポリマーを生成させる改質木材の製造方法が開示されている。この方法では、木材中にシリコーンポリマーを生成させることができるので、表面の木質感が損なわれない上、木材表面に傷がついても効果が持続するという長所があるが、モノマーの反応性が低いため、塩酸や有機金属化合物等の触媒によって硬化促進させるという方法を採らざるを得ないもので、製造に手間やコストがかかり、触媒によって木材自体が劣化してしまうという問題点があった。
【0005】
また、この触媒反応によって生成するシリコーンポリマーは、木材の細胞内腔を充填する形で生成するため、吸水防止にはある程度効果が出ても、寸法安定性を向上させる効果は弱かった。
【0006】
また、シリコーン以外のものとしては、木材の干割れ防止処理剤として、SBRラテックスを木材表面に塗布する方法が特許文献3(特開昭54−110234号公報)に記載されているが、経時安定性が悪く、ラテックス被膜が屋外暴露の際、劣化を起こし、薬剤の溶脱防止効果が得られない。
【0007】
また、木材ひび割れ防止塗料として、SBRラテックスもしくはNBRラテックスとポリアルキレンオキサイド基を有する化合物とを含む塗料を、木材表面に塗布する方法が特許文献4(特開昭60−255866号公報)に記載されているが、ポリアルキレンオキサイド基を有する化合物は親水性化合物であり、長年風雨にさらされるとやはり溶脱し、良好な効果が得られない。
【0008】
更には、低揮発性オリゴマーと水とのエマルジョンによる木材処理剤が特許文献5(特開昭55−118044号公報)に、また、水溶性改質剤及びエマルジョンによる木材処理剤が特許文献6(特開平5−69412号公報)に記載されているが、低揮発性オリゴマー、水溶性改質剤は、いずれも親水性化合物であり、経時で溶脱し十分な効果が得られない。更には、木材内部に含浸してから硬化し、薬剤の溶脱を防止し、木の収縮を抑制する水溶性充填硬化剤からなる木材加工剤が特許文献7(特開平4−307204号公報)に記載されているが、水溶性充填硬化剤がユリヤ/ホルマリン等の揮発性原料であるため作業環境に考慮を払う必要があり、また水溶性のために溶脱防止効果も不十分である。
【0009】
上記とは別に、細胞膜中の結合水をポリエチレングリコールのような水溶性溶剤で置換することも行われている。しかし、この置換された溶剤は長時間たつと、水溶性溶剤のため溶脱が生じる。
【0010】
【特許文献1】特開昭56−4408号公報
【特許文献2】特開昭63−265601号公報
【特許文献3】特開昭54−110234号公報
【特許文献4】特開昭60−255866号公報
【特許文献5】特開昭55−118044号公報
【特許文献6】特開平5−69412号公報
【特許文献7】特開平4−307204号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、吸水防止性、寸法安定性、及び注入薬剤の溶脱防止等に優れた改質木材類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、下記(A)〜(E)成分を界面活性剤存在下に水中に乳化分散させてなる、架橋してゴム質の被膜を形成するシリコーンエマルジョン組成物を木材に塗布又は含浸処理することにより、吸水防止性、寸法安定性、及び注入薬剤の溶脱防止性に優れた改質木材を安価で簡便な方法で得ることができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0013】
即ち、本発明は下記改質木材を提供する。
[I]木材に、下記(A)〜(E)成分を界面活性剤存在下に水中に乳化分散させたシリコーンエマルジョン組成物が塗布又は含浸処理されてなることを特徴とする改質木材。
(A)1分子中にケイ素原子に結合するヒドロキシル基を少なくとも2個含有するオルガノポリシロキサン 100質量部、
(B)アミノ基含有オルガノアルコキシシランと酸無水物との反応生成物 0.5〜20質量部、
(C)エポキシ基含有オルガノアルコキシシラン及び/又はその部分加水分解物 0〜20質量部、
(D)コロイダルシリカ及び/又はポリシルセスキオキサン 0〜50質量部、
(E)硬化触媒 0〜10質量部。
[II]難燃剤、抗菌剤、防黴剤、防白蟻剤、撥水剤及び塗料のいずれか1種以上を内部又は表面に処理された木材に[I]記載のシリコーンエマルジョン組成物を処理したことを特徴とする[I]記載の改質木材。
[III]難燃剤、抗菌剤、防黴剤、防白蟻剤がホウ素化合物又はリン化合物のいずれか1種以上であることを特徴とする[II]記載の改質木材。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、特定のシリコーンエマルジョン組成物で木材に処理することにより得られる改質木材は、吸水防止性、寸法安定性に優れ、木材内部に注入された薬剤の溶脱防止にも効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】

本発明の改質木材は、木材を下記(A)〜(E)成分を界面活性剤存在下に水中に乳化分散させたシリコーンエマルジョン組成物で塗布又は含浸処理したものであり、以下に本発明で使用される(A)〜(E)の各成分について詳述する。
【0016】
(A)成分はオルガノポリシロキサンであり、このオルガノポリシロキサンは、1分子中にケイ素原子に結合するヒドロキシル基を少なくとも2個含有するものであり、特に下記一般式(1)で示されるものが好ましい。
【化1】

[式中、Rは同一又は異種の炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基、Xは同一又は異種の炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜20のアルコキシ基、又はヒドロキシル基、YはX又は−[O−Si(X)2c−Xで示される同一又は異種の基、aは0〜1,000の数、bは100〜10,000の正数、cは1〜1,000の正数であるが、少なくとも2個のケイ素原子結合ヒドロキシル基を有する。]
【0017】
ここで、式(1)のRは同一又は異種の炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基であり、具体的にはメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、フェニル、トリル、ナフチル基などが挙げられるが、好ましくはメチル基である。Xは同一又は異種の炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜20のアルコキシ基、又はヒドロキシル基であり、具体的にはヒドロキシル基以外にメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、フェニル、トリル、ナフチル、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシ、デシルオキシ、テトラデシルオキシ基などが挙げられる。両末端の3つのXのうちの1つがヒドロキシル基であるものが好ましい。YはX又は−[O−Si(X)2c−Xで示される同一又は異種の基であり、aは1,000より大きくなると得られる被膜の強度が不十分なものとなるので、0〜1,000の数、好ましくは0〜200の数とされ、bは100未満では被膜の柔軟性が乏しいものとなり、10,000より大きいとその引裂き強度が低下するので100〜10,000の正数、好ましくは1,000〜5,000の正数とされ、cは1〜1,000の正数とされる。また、架橋性の面から1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合ヒドロキシル基を有する必要がある。
【0018】
このようなオルガノポリシロキサンの具体例としては、下記のものなどが挙げられる。
【化2】

(a,b,cは上記の通り)
【0019】
このようなオルガノポリシロキサンは、公知の方法によって合成することができる。例えば、金属水酸化物のような触媒存在下にオクタメチルシクロテトラシロキサン等の環状シロキサンとα,ω−ジヒドロキシシロキサンオリゴマー等を平衡化反応させることにより得られる。また、この(A)成分はエマルジョンの形態で使用されることが好ましいので、このものは公知の乳化重合法でエマルジョンとすればよく、従ってこれはあらかじめ環状シロキサンあるいはα,ω−ジヒドロキシシロキサンオリゴマー、α,ω−ジアルコキシシロキサンオリゴマー、アルコキシシラン等をアニオン系界面活性剤あるいはカチオン系界面活性剤を用いて水中に乳化分散させた後、必要に応じて酸、アルカリ性物質等の触媒を添加して重合反応を行うことにより容易に合成することができる。
【0020】
(B)成分であるアミノ基含有オルガノアルコキシシランと酸無水物との反応生成物は、シリコーン被膜と基材である木材との密着性を向上させるための成分であり、アミノ基含有オルガノアルコキシシランとジカルボン酸無水物とを反応させたものである。原料であるアミノ基含有オルガノアルコキシシランは、下記一般式(2)
【化3】

[式中、Rは前記と同じ、Aは式−R1(NHR1hNHR2(R1は同一又は異種の炭素数1〜6のアルキレン基等の2価炭化水素基、R2はR又は水素原子、hは0〜6の整数)で表されるアミノ含有基、gは0,1又は2である。]
で表されるものであり、具体的には下記のものが挙げられる。
【0021】
(C25O)3SiC36NH2
(C25O)2(CH3)SiC36NH2
(CH3O)3SiC36NH2
(CH3O)2(CH3)SiC36NH2
(CH3O)3SiC36NHC24NH2
(CH3O)2(CH3)SiC36NHC24NH2
【0022】
上記アミノ基含有オルガノアルコキシシランと反応させるためのジカルボン酸無水物としては、例えばマレイン酸無水物、フタル酸無水物、コハク酸無水物、メチルコハク酸無水物、グルタル酸無水物、イタコン酸無水物等を挙げることができる。これらの中ではマレイン酸無水物が好ましい。アミノ基/酸無水物(モル比)が0.5〜2となるような上記両者の配合比により、必要に応じて親水性有機溶剤中で室温あるいは加温下に混合することで容易に実施することができる。この時の親水性有機溶剤としてはメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、アセトニトリル、テトラヒドロフランなどが例示される。
【0023】
(B)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.5〜20質量部であり、0.5質量部より少ない場合には木材との密着性効果が弱くなり、20質量部より多い場合には被膜が硬く脆いものとなる。より好ましくは1〜10質量部である。
【0024】
(C)成分であるエポキシ基含有オルガノアルコキシシラン及び/又はその部分加水分解物は、シリコーン被膜と基材との密着性を向上させるための成分であり、具体的にはγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルジメトキシメチルシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルジメトキシメチルシランなどやその部分加水分解物が挙げられる。
【0025】
(C)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0〜20質量部であり、20質量部より多い場合には被膜が硬く脆いものとなる。好ましくは0〜10質量部であり、配合する場合は、0.5質量部以上、特に1質量部以上であることが好ましい。
【0026】
(D)成分であるコロイダルシリカ及び/又はポリシルセスキオキサンは、被膜補強剤として添加するものであり、具体的にはコロイダルシリカ、トリメトキシメチルシランの加水分解縮合物であるポリメチルシルセスキオキサン等が挙げられる。
【0027】
コロイダルシリカとしては、市販のものを使用することも可能で、その種類に制限はないが、例えば粒径5〜50nmでナトリウム、アンモニウム、アルミニウムなどで安定化したものでよく、具体的にはスノーテックス(日産化学工業社製)、ルドックス(デュポン社製)、シリカドール(日本化学工業社製)、アデライトAT(旭電化工業社製)、カタロイドS(触媒化成工業社製)などが挙げられる。
【0028】
ポリメチルシルセスキオキサンは、界面活性剤水溶液に縮合触媒として硫酸などの酸又は水酸化カリウム等のアルカリ化合物を添加し、更にトリメトキシメチルシランを滴下、撹拌することでポリメチルシルセスキオキサンを含有した乳化物が得られる。この際、ポリシルセスキオキサンの架橋度を調整するためにアルコキシトリアルキルシラン、ジアルコキシジアルキルシラン、テトラアルコキシシランなどを添加することは差し支えない。また、ポリシルセスキオキサンの反応性を高めるためにビニルシラン、エポキシシラン、アクリルシラン、メタクリルシランなどを添加することも差し支えない。
【0029】
なお、(D)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0〜50質量部であり、50質量部より多い場合にはシリコーン被膜が硬くて脆いものとなる。好ましくは0〜30質量部であり、配合する場合は、1質量部以上、特に3質量部以上である。また、(D)成分の平均粒子径は2〜200nmが好適である。
【0030】
(E)成分である硬化触媒は、本発明の組成物の成分を縮合反応により素早く架橋硬化させるために配合するものであり、具体的にはジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクテート、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズジバーサテート、ジオクチルスズジアセテート、ジブチルスズビスオレイルマレート、オクチル酸スズ、ステアリン酸亜鉛、オクチル酸亜鉛、酢酸亜鉛、オクチル酸鉄等の有機酸金属塩、n−ヘキシルアミン、グアニジン等のアミン化合物などを挙げることができる。なお、これらの硬化触媒は水溶性である場合を除き、予め界面活性剤を用いて水中に乳化分散したエマルジョンの形態にしておくことが望ましい。
【0031】
(E)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0〜10質量部であり、10質量部を超えると不揮発分として被膜中に残存する触媒成分が被膜特性を阻害する。好ましい範囲は、0〜5質量部であり、配合する場合は、0.5質量部以上、特に1質量部以上であることが好ましい。
【0032】
上記のようにして得られるエマルジョン組成物のコーティング被膜の特性を更に向上させるために本発明を逸脱しない範囲でシランカップリング剤やシリコーン樹脂、シリコーンオイル、シリコーン樹脂パウダー等を添加配合することは任意である。
シランカップリング剤としては、アクリロキシ基、メタクリロキシ基、メルカプト基、カルボキシル基、シアノ基等を含有する各種のものが挙げられる。シリコーン樹脂としては、トリアルキルシロキシポリシリケートなどが挙げられ、シリコーンオイルとしては、α,ω−ジヒドロキシアルキルポリシロキサン、アルキルポリシロキサンなど、シリコーン樹脂パウダーとしては、シリコーンレジンパウダー、シリコーンゴムパウダーなどが挙げられる。
また、同様に各種の増粘剤、顔料、染料、浸透剤、帯電防止剤、消泡剤、防腐剤、難燃剤、抗菌剤、防白蟻剤、撥水剤などを適宜配合することも任意である。
【0033】
本発明のシリコーンエマルジョン組成物が処理可能な木材については、特に制限がなく、各種の木材類、例えば無垢材、合板、単板積層板、LVL、パーチクルボード材、また各種防腐剤、難燃剤、抗菌剤、防白蟻剤、撥水剤等のいずれか1種以上を注入したり、塗布処理した不燃木材や白蟻剤注入木材等のような処理木材にも使用可能である。特にホウ素化合物やリン化合物を注入したものが、好適である。
【0034】
ホウ素化合物としては、ホウ酸、硼砂、Tim−borと呼ばれるU.S.Borax社のホウ酸塩化合物(Na2813・4H2O)、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリプロピル、ホウ酸トリブチル等のホウ酸トリアルキルなどが、またリン化合物としては燐酸3アンモニウム、燐酸水素2アンモニウム、燐酸2水素1アンモニウム、ポリ燐酸アンモニウム、燐酸ナトリウム、燐酸水素2ナトリウム、燐酸2水素ナトリウム及びポリ燐酸ナトリウムなどの燐酸塩化合物、亜リン酸、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリプロピル、亜リン酸トリブチル等の亜リン酸トリアルキル、リン酸、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリブチル等のリン酸トリアルキルなどが挙げられる。
【0035】
更に、本発明のシリコーンエマルジョン組成物の被膜は、吸水防止性、ゴム質であるため基材への追随性が良好であるので、クラックなども起こりずらく、難燃剤や防白蟻処理剤を注入した処理木材に処理を行えば、雨水などの水による薬剤の溶脱防止効果を付与することが可能となる。
【0036】
また、このシリコーンエマルジョン組成物を塗工する方法についても、特に制限はなく、ロールコート、スプレー塗布、浸漬塗布等の公知の方法により行うことができる。その後、常温で乾燥させることにより硬化被膜が形成される。加熱することにより硬化が促進され、処理時間が短縮される。硬化被膜はゴム質を有するものである。
【0037】
なお、本発明に係るシリコーンエマルジョン組成物による木材の処理量も適宜選定されるが、エマルジョンの塗布量は固形分として、木材1m3に対して1〜100kg/m3、特に10〜30kg/m3の固形分塗布量となることが好ましい。また、使用性等の点から、シリコーンエマルジョン組成物の粘度は、回転式粘度計による測定で1〜1,000Pa・s、特に1〜100Pa・s(25℃)とすることが好ましい。なお、粘度は、必要により増粘剤を添加することにより調整することができる。
【実施例】
【0038】
以下、製造例及び実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、特にことわらない限り、%は質量%を示す。
【0039】
[製造例1]
オクタメチルシクロテトラシロキサン498g、トリエトキシフェニルシラン2g、10%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液50g及び10%ドデシルベンゼンスルホン酸水溶液50gを2リットルポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、水400gを徐々に加えて希釈し、圧力300kg/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを撹拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2リットルガラスフラスコに移し、50℃で24時間重合反応を行った後、10℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液12gでpH6.2に中和した。このエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分が45.4%で、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものであり、平均組成が[(CH32SiO2/2]/[(C65)SiO3/2]=100/0.1(モル比)で表される末端が水酸基封鎖されたものであった。このようにして(A)成分を44.4%含有するエマルジョン「A−1」を得た。
【0040】
[製造例2]
オクタメチルシクロテトラシロキサン500g、10%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液50g及び10%ドデシルベンゼンスルホン酸水溶液50gを2リットルポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、水400gを徐々に加えて希釈し、圧力300kg/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを撹拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2リットルガラスフラスコに移し、50℃で24時間重合反応を行った後、10℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液12gでpH6.2に中和した。このエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分が45.5%で、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンはHO−[(CH32SiO]n−Hで示され、粘度1,000Pa・s以上(25℃)の生ゴム状のものであった。このようにして(A)成分を44.5%含有するエマルジョン「A−2」を得た。
【0041】
[製造例3]
マレイン酸無水物154gをエタノール500gに溶解した後、3−アミノプロピルトリエトキシシラン346gを室温下1時間で滴下し、更に80℃でエタノール還流下24時間反応を行い、淡黄色透明な(B)成分を50%含有する溶液「B−1」を得た。この溶液は、105℃で3時間乾燥後の不揮発分が45.1%であり、溶液中の反応生成物は、IR、GC、NMR、GCMS等の機器分析を行ったところ、約60%が下記式で示されるものの混合物であり、残りの約40%がそれらから誘導されたオリゴマーであった。
(C25O)3SiC36−NHCO−CH=CHCOOH、(C25O)3SiC36NH3+-OCOCH=CHCOOC25
【0042】
[製造例4]
ジオクチルスズジラウレート300gとポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(EO10モル付加物)50gを2リットルポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に混合した後、水650gを徐々に加えて水中に乳化分散させ、次いで圧力300kg/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、(E)成分を30%含有するエマルジョン「E−1」を得た。
【0043】
表1に示す純分配合組成で(C)成分としてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン「C−1」、(D)成分としてコロイダルシリカ(日産化学工業社製スノーテックスC:有効成分20%)「D−1」を用いて各シリコーンエマルジョン組成物を得た。このシリコーンエマルジョン組成物500gに撹拌下でカルボキシメチルセルロース(第一工業製薬社製「セロゲンF−SA」)を4g添加し、25℃における粘度を15Pa・sとし、各種シリコーンエマルジョン組成物1〜7を得た。
【0044】
【表1】

【0045】
[実施例1]
シリコーンエマルジョン組成物1を水により有効成分20%に希釈したものを処理剤とした。
縦1.4cm×横3cm×長さ3cm(木口面が1.4cm×3cm)の杉辺材(気乾材)3個を常温常圧下で上記処理剤に10分間浸漬処理し、25℃で7日間乾燥させ、改質木材を得た。これら試験片を用いて下記の吸水試験を実施した。その結果を表2に示す。
【0046】
<吸水試験>
得られた試験片を水中に全面浸漬し、24時間後に取り出して下記計算式(I)で吸水率を測定し、3つの試験片の平均値をもって吸水率とした。
吸水率(%)=[(W−Wo)/Wo]×100 (I)
Wo:水浸漬前の試験片の質量(g)
W :水浸漬完了直後の試験片の質量(g)
【0047】
[実施例2〜7]
実施例1と同様に各種シリコーンエマルジョン組成物2〜7を使用して同様に吸水試験を行った。その結果を表2に示す。
【0048】
[比較例1]
実施例1と同様、同寸法の無処理の杉辺材3個を使用して吸水率試験を行った。その結果を表2に示す。
【0049】
[比較例2]
メチルトリメトキシシラン75g、テトラエトキシシラン20g、ジメチルジメトキシシラン5g、イソプロパノール100g及びジルコノセンジクロリド0.05gの混合液に、撹拌しながら0.1N塩酸2g及び水35gを加え、3時間撹拌後8時間放置した液をシラン処理剤1として実施例1と同じ方法で試験片を作製して吸水率試験を行った。その結果を表2に示す。
【0050】
[比較例3]
室温での粘度が50,000mPa・sのα,ω−ジヒドロキシポリ(ジメチルシロキサン)100gに、等容量のキシレンを加えて十分に溶解し、次いでメチルトリアセトキシシランの部分加水分解縮合反応物4g及びジブチルスズジラウレート0.01gを追加して、湿気を遮断した状態で十分混合した液をシラン処理剤2として実施例1と同じ方法で試験片を作製して吸水率試験を行った。その結果を表2に示す。
【0051】
[比較例4]
温度計、撹拌ペラ、還流冷却器及び滴下ロートを備えた反応容器に反応型乳化剤(アデカリアソープSE−10N、旭電化工業(株)製)2.0gと水342.1gを加え、温度を75℃に昇温した。一方、水244.5gに、反応型乳化剤(アデカリアソープSE−10N)2.0gを加えて溶解し、これにアクリル酸2−エチルヘキシル230g、スチレン230g、グリシジルメタクリレート19g及びメタクリル酸12.5gの不飽和モノマー混合物を添加撹拌し、よく乳化してからこれを滴下ロートに入れた。次に、このモノマー混合物の5%を反応容器に移し、重合開始剤として0.5gの過硫酸カリウムを加えて80℃に昇温してから10分保持した後、残りのモノマー混合物の乳化物と3%の過硫酸カリウム水溶液50.0gとを3時間かけて反応容器に均一滴下した。滴下終了後、80℃で1時間熟成反応を行い、次いで室温に冷却し、アンモニア水3.5gを加えて中和し、固形分濃度が45%のエマルジョン1を得た。これを水で希釈して固形分濃度20%にし、実施例1と同様に吸水試験を行った。その結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
[実施例8]
シリコーンエマルジョン組成物1を水により有効成分20%に希釈したものを処理剤とした。
木口面20mm×20mm、高さ10mm寸法の二方まさの杉辺材にNa2813・4H2Oで示されるホウ酸塩を5kg/m3の量で注入したホウ酸塩注入試験片9個を常温常圧下で上記処理剤に10分間浸漬処理し、25℃で7日間乾燥させ、改質木材を得た。
これら試験片を下記に示すJIS K1571と同様な溶脱試験を実施した。溶脱試験後の試験片中のB量を下記の方法で測定し、ホウ酸塩の残存量を測定した。その結果を表3に示す。
【0054】
<溶脱試験>
各試験片9個を1組として、500mlビーカーに入れ、試験体容積の10倍量の脱イオン水を加え、試験体を水面下に沈めた。マグネチックスターラーを用い、温度25℃で回転子を毎分400〜450回転させ、8時間撹拌し、溶脱した後、直ちに軽く試験体表面の水切りを行った。続いて温度60℃の循環式乾燥器中に16時間静置し、揮発分を揮発させた。以上の操作を交互に10回繰り返した。
【0055】
<試験片中のホウ酸塩残存量(B量)の測定方法>
木材試験片をテフロン(登録商標)ビーカーに入れ、3%硝酸水を50ml加えてホットプレート(200℃)で2時間加熱した。冷却後、水を加えて50mlに定容した。この操作を5回繰り返し、それぞれのB量をICP分析装置により測定し、その合計量を木材中のホウ酸塩残存量とした。残存量はサンプル9個の平均値をもって残存量とした。
【0056】
[実施例9〜14]
実施例8と同様に各種シリコーンエマルジョン組成物2〜7を使用して同様に溶脱試験及びホウ酸塩残存量の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0057】
[比較例5〜7]
実施例6と同様に、無処理のホウ酸塩注入木材及び各種シラン処理剤1,2及びエマルジョン1を使用して同様に溶脱試験及びホウ酸塩残存量の測定を行った。その結果を表3に示す。
【0058】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材に、下記(A)〜(E)成分を界面活性剤存在下に水中に乳化分散させたシリコーンエマルジョン組成物が塗布又は含浸処理されてなることを特徴とする改質木材。
(A)1分子中にケイ素原子に結合するヒドロキシル基を少なくとも2個含有するオルガノポリシロキサン 100質量部、
(B)アミノ基含有オルガノアルコキシシランと酸無水物との反応生成物 0.5〜20質量部、
(C)エポキシ基含有オルガノアルコキシシラン及び/又はその部分加水分解物 0〜20質量部、
(D)コロイダルシリカ及び/又はポリシルセスキオキサン 0〜50質量部、
(E)硬化触媒 0〜10質量部。
【請求項2】
難燃剤、抗菌剤、防黴剤、防白蟻剤、撥水剤及び塗料のいずれか1種以上を内部又は表面に処理された木材に請求項1記載のシリコーンエマルジョン組成物を処理したことを特徴とする請求項1記載の改質木材。
【請求項3】
難燃剤、抗菌剤、防黴剤、防白蟻剤がホウ素化合物又はリン化合物のいずれか1種以上であることを特徴とする請求項2記載の改質木材。