説明

シリコーンモノマー

【課題】シリコーン含量が大きく、(メタ)アクリル系モノマー等の重合性モノマーと共重合したとき、高い透明度及び酸素透過率が想定できる、眼に適用するのに好適なシリコーンモノマーを提供すること。
【解決手段】 式(1)で表されるシリコーンモノマー。
【化1】


(R1;H、CH3、R2;C1〜6の1価の炭化水素基、n=1〜7、X;-CH2-CH(OH)CH2-又は-CH(CH2OH)CH2-。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科デバイス、例えば、コンタクトレンズ、眼内レンズ、人工角膜を製造するために利用できる重合可能なシリコーンモノマーに関する。
【背景技術】
【0002】
生体用デバイスを含む種々の物品は、例えば、有機ケイ素化合物含有材料から形成されている。ソフトコンタクトレンズなどの生体用デバイスに有用な有機ケイ素化合物材料の一つに、ケイ素含有ヒドロゲル材料が挙げられる。一般に、ケイ素系の材料は、水よりも高い酸素透過性を有するので、より高い酸素透過性を有する物品が提供できる。
眼科デバイスに用いられる眼用のシリコーンモノマーとして、式(2)で示されるTRIS(3−[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルメタクリレート)が知られている(特許文献1)。
該TRISは、眼用レンズ素材として知られたモノマーであるが、疎水性であるためにHEMA(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)のような親水性モノマーとの相溶性に劣り、これらの親水性モノマーと共重合した場合、透明ポリマーが得られず、レンズ素材として使用できないという欠点がある。
【0003】
【化1】

【0004】
そこで、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用途に親水性モノマーとシリコーンマクロマーの相溶化を目的として、特許文献2および3において式(3)で表されるモノマーが提案されている。このモノマーは、水酸基を有していることから良好な親水性を発現することが知られている。
しかしながら、モノマー分子内のシロキサニル基は、トリシロキサン構造であり、式(1)で表されるモノマーのテトラシロキサン構造と比較して、シリコーン部が小さい。一般にシリコーンハイドロゲルレンズは、親水相とシリコーン相の共連続相を形成し、透明なゲルを形成するが、トリシロキサン構造では親水部との相溶性が高すぎるため安定な共連続相を形成することが困難である。このため、上記モノマーは、高価なシリコーンマクロマーと併用しなければ十分な酸素透過性を得ることが困難であった。
【0005】
【化2】

【0006】
特許文献4には、式(4)で表されるシリコーンモノマーが提案されている。該モノマーは、分子内に4級アンモニウム塩基を有しており、さらにテトラシロキサン構造を有することから、親水性モノマーとの相溶性を改善し、かつ式(1)のモノマーと同程度の酸素透過性を得ることが期待されるが、十分な酸素透過性を得るには至っていない。
【0007】
【化3】

【0008】
特許文献5には、コンタクトレンズの酸素透過性を向上させるために式(5)で表されるモノマーが提案されている。該モノマーは、シリコーン部がペンタシロキサン構造であり、十分な酸素透過性を得ることが期待される。一般に、オリゴエチレングリコールは、そのエーテル結合よりも両末端の水酸基により親水性を得ている。しかし、該モノマーの親水部であるジエチレングリコールの末端水酸基は、エステル結合またはエーテル結合を形成しており、水酸基を有していない。従って、遊離のオリゴエチレングリコールと比較して極性が低いことから十分に親水性を得ることが難しい。オリゴエチレングリコールにより親水性を得るためには、オリゴエチレングリコール構造の繰り返し単位を増加させる必要があるが、反面、モノマー中のシリコーン部の質量は下がる傾向にある。このため、十分な親水性モノマーとの相溶性とレンズの酸素透過性を両立させることが困難である。
【0009】
【化4】

【0010】
特許文献6には、式(6)で表されるシリコーンモノマーが提案されている。該モノマーは、ペンタシロキサン構造を有しているため、十分な酸素透過性が期待される。また分子内に水酸基を1つ有することにより、親水性を向上させているが、十分な親水性は得られていない。
【0011】
【化5】

【0012】
このような事情から、眼科デバイスに用いられる眼用のシリコーンモノマーの分野では、新たな分子構造を持つ親水性を有するシリコーンモノマーであって、製造が容易であり、一日使い捨てレンズのような安価な用途にも使用可能な、また、モノマー内のシロキサニル基が大きいシリコーンモノマーの開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第3808178号明細書
【特許文献2】特開昭54−061126号公報
【特許文献3】特開平11−310613号公報
【特許文献4】国際公開2007/075320号
【特許文献5】特開2008−202060号公報
【特許文献6】国際公開2008/147374号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、シリコーン含量が大きく、(メタ)アクリル系モノマー等の重合性モノマーと共重合したとき、高い透明度及び酸素透過率が想定できる、眼に適用するのに好適なシリコーンモノマーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、式(1)で表されるシリコーンモノマーが提供される。
【化6】

(式中、R1は水素原子又はメチル基を示す。R2は炭素数1〜6の1価の炭化水素基を示す。nは1〜7の整数を示す。Xは−CH2−CH(OH)CH2−又は−CH(CH2OH)CH2−を表す。)
【発明の効果】
【0016】
本発明のシリコーンモノマーは、式(1)に示されるとおり、シリコーン含量が高く、また分子内に水酸基と複数のエステル基を有するので、親水性が高く、(メタ)アクリル系モノマー等の重合性モノマーと共重合させた際に、レンズ表面の親水性と酸素透過性を同時に満足すると考えられ、眼科デバイスの原料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例で調製したモノマーの1H−NMRスペクトルを示すチャートである。
【図2】実施例で調製したモノマーのIRスペクトルを示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明のシリコーンモノマーは、上記式(1)で表されるように、1つの水酸基と、その近傍に3つの水酸基を有し、且つエステル結合を介して重合性官能基とシロキサニル基が結合している構造を有するので、これを用いた重合体は、高い親水性、透明度及び酸素透過性が期待できる。
式(1)において、R1は水素原子又はメチル基を示す。R2は炭素数1〜6の1価の炭化水素基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基を示す。nは1〜7の整数を示す。nの数字が大きい場合には親水性を得ることが困難となることから、好ましくはn=4である。Xは−CH2−CH(OH)CH2−又は−CH(CH2OH)CH2−を表す。
【0019】
本発明のシリコーンモノマーは、例えば、式(7)で表される、分子内に1つの水酸基及び1一つのアリル基を有する(メタ)アクリルエステルと、式(8)で表されるヒドロシリル基を有するシリコーン化合物とを、特開昭55−145693号公報等に記載された公知の方法により、白金触媒を用いて反応させることで得られる。
【0020】
【化7】

式(7)中、R1は水素原子又はメチル基を示す。式(8)中、R2は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の炭素数1〜6の炭化水素基を示す。nは1〜7を表す。
【0021】
上記反応は、式(7)で示される(メタ)アクリルエステル中に、式(8)で示されるシリコーン化合物を式(7)におけるカルボン酸に対して10〜100モル%滴下して、恒温槽中で50〜100℃の温度で行なうことが好ましい。この時、溶媒は使用しなくても良いが、トルエン、イソプロパノール等の有機溶媒を用いることが好ましい。
【0022】
式(7)で表される(メタ)アクリルエステルは公知の方法により得られる。具体的には、式(9)で表されるカルボン酸と、式(10)で表されるアリルグリシジルエーテルとを、塩基触媒存在下で反応させることにより得られる。尚、式(9)中のR1は水素原子又はメチル基を示す。
【0023】
【化8】

【0024】
式(8)で表されるシリコーン化合物は、得られる式(1)で表されるシリコーンモノマーの純度に影響するため、高純度品であることが望ましい。式(8)で表されるシリコーン化合物は、公知の技術により得ることができる。例えば、、活性炭を触媒として、ジメチルクロロシランによりヘキサメチルシクロトリシロキサンを開環させ、末端のクロロシランをシラノールと反応させる方法(特開平3−135985号公報)、リチウムシラノレートによりヘキサメチルシクロトリシロキサンを開環させ、ジメチルクロロシランで反応停止させる方法(特開2008−202060号公報)や、環状シロキサンオリゴマーの開環をルイス酸触媒で行なう方法(特開2008−538763号公報)により得られる。
【0025】
本発明のシリコーンモノマーは、眼科デバイスを形成するポリマーの原料として使用することができ、該シリコーンモノマーを用いて眼科デバイスを製造するには、例えば、本発明のシリコーンモノマーと共重合が可能な他のモノマーと混合し、重合させることにより得ることができる。
上記共重合が可能な他のモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリロイル基、スチリル基、アリル基、ビニル基などの炭素−炭素不飽和結合を有する公知のモノマーが好ましく挙げられる。重合物表面の十分な親水性を得るため、水酸基、アミド基、両性イオン等の親水基を有するモノマーの使用がより好ましい。具体的には、例えば、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、2−(メタクリロイルオキシエチル)−2−(トリメチルアンモニオエチル)ホスファートが挙げられる。
本発明のシリコーンモノマーの使用量は、得られる眼科デバイスの表面親水性の改善や、柔軟性をコントロールするために、原料モノマー中10〜80質量%が好ましい。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
尚、例中の各測定は以下の装置を用いて行った。
1)シリコーンモノマーの純度測定法(HPLC法)
高速液体クロマトグラフィーシステム:東ソー社製system LC−8020
カラム:C18(オクタデシル化シリカ)カラム(15mm×4.6mm)
カラム温度:40℃、検出:UV(検出波長260nm)、移動相:アセトニトリル/0.05M酢酸アンモニウム水溶液(90/10、体積/体積)、サンプル濃度: 0.5体積%、
注入量:100μl。
2)1H−NMR測定法
日本電子社製JNM−AL400
溶媒;CDCl3又はCD3OD (TMS基準)
3)赤外線吸収(IR)測定法
測定法:液膜法、積算回数:16回
4)質量測定法(LC−MS法)
LC部:Waters社 2695 Separations Module
MS部;Waters 2695 Q−micro
LC溶離液条件:アセトニトリル/50mM酢酸アンモニウム水溶液(9/1)
【0027】
合成例:式(12a)または式(12b)で表される中間体の合成
式(11)で表される2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸(商品名「ライトエステルHO−MS」、共栄社化学社製)362.52g(1.58モル)、アリルグリシジルエーテル120.0g、p−メトキシフェノール2.41g、及びトリエチルアミン11.15gを、1L四つ口フラスコへ量り取り、磁気攪拌器で内液を攪拌し、溶解した。その後、攪拌しながらオイルバスを使用して80℃で10時間反応を行なった。得られた反応液491.0gを酢酸エチル982.7gに溶解し、5%重曹水982.4gを加えて攪拌、分液を行い、未反応のカルボン酸を水相側へ除去した。その後、イオン交換水/メタノール(3/1、重量/重量)約982gでさらに酢酸エチル相を2回洗浄した後、硫酸マグネシウム100gで酢酸エチル相の脱水を行った。硫酸マグネシウムをろ過した後、溶媒を除去して黄色液体225.4gを得た。収率は63%であった。HPLCにより純度96%、また1H NMRにより、式(12a)及び式(12b)で表される中間体であることを確認した。
【0028】
【化9】

【0029】
実施例:式(14)で表されるシリコーンモノマーの合成
500ml四つ口フラスコに、合成例で調製した式(12a)及び式(12b)で表される中間体83.6g、トルエン83.6g、及び5%白金担持活性炭(和光純薬工業社製)0.385gを加えた後、フラスコ内を窒素置換した。オイルバスを使用して反応液を80℃へ加熱した。次いで、式(13)で表されるペンタシロキサン50.0gを滴下ロートにて30分で滴下した。滴下終了後、さらに2.5時間攪拌した後、冷却し、白金担持活性炭をろ別した。続いて、減圧してトルエンを除去して黄色透明液体を得た。この液体136.8g、ヘプタン273.6g、メタノール273.6g、及びイオン交換水69.9gを混合、攪拌し、分液した。さらにイオン交換水/メタノール混合液(1/4、重量/重量)341.9gで洗浄した。ヘプタン相にメタノール273.6gと硫酸ナトリウム23.4gとを加え、攪拌し静置して分液させた後、上相を廃棄した。硫酸ナトリウムをろ別した後、脱溶媒して淡黄色透明液体71.5gを得た。収率は78%であった。
【0030】
【化10】

【0031】
HPLCによる分析の結果、純度80%であり、1H NMRにより、式(14)で表されるシリコーンモノマーであることを確認した。LC−MSによる構造特定の結果、並びに1H NMR測定時の5.2ppm付近のピークから、分子量756の式(14a)で表される化合物と式(14b)で表される化合物が、約4:1の比で存在する混合物であることがわかった。1H−NMR測定結果を下記及び図1に、IR測定結果を下記及び図2に示す。
【0032】
1H−NMR測定結果
CH2=C−:7.26ppm(1H)、6.13ppm(1H)、−CH2−、−CH−:4.35ppm(4H)、4.23〜3.41ppm(7H)、2.66ppm(4H)、1.60ppm(2H)、1,30ppm(4H)、0.53ppm(4H)、−CH3:1.95ppm(3H)、0.88ppm(3H)、0.10ppm(30H)。
IR測定結果
3510cm-1、2960cm-1、2925cm-1、2875cm-1、1740cm-1、1640cm-1、1455cm-1、1410cm-1、1380cm-1、1260cm-1、1155cm-1、1040cm-1、840cm-1
【0033】
【化11】

【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のシリコーンモノマーは、コンタクトレンズ等の眼科デバイスの製造に好適に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるシリコーンモノマー。
【化1】

(式中、R1は水素原子又はメチル基を示す。R2は炭素数1〜6の1価の炭化水素基を示す。nは1〜7の整数を示す。Xは−CH2−CH(OH)CH2−又は−CH(CH2OH)CH2−を表す。)

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−168495(P2011−168495A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30826(P2010−30826)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】