説明

シリンジ

【課題】 安価で製造が容易であり且つ良好な摺動性を発揮するシリンジを提供することを目的とする。また、シリコーンオイルを用いて形成された被膜が薬液に接触することに起因する、被膜の薬液中への溶出又は剥がれた被膜の薬液への混入を防止することを目的とする。
【解決手段】 本発明のシリンジは、薬液を充填するためのシリンダと、前記シリンダの内面と接触し、前記シリンダ内において摺動可能なシール部材とを備え、前記シール部材の外面に被膜が形成されており、前記被膜は、複数の曲面を有する表面形状を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンジ、特にシール部材の摺動性を向上させる被膜が形成された薬液注入用のシリンジに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、薬液注入用のシリンジに用いられるシール部材として、特殊な被覆シート材を被覆したシール部材が知られている(特許文献1)。また、特許文献1の背景技術には、注射器のシール部材の表面にシリコーンオイルを塗布して摺動性を向上させる構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−287540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような被覆シート材は加工に困難性があり、シール部材の製造工程数が多い。さらに、多種類の材料が必要になるため、シリンジの生産コストが高くなるという問題もあった。また、シール部材の被覆シート材は弾性が乏しく、特に高い注入圧力が必要となる高粘度の薬液が充填されたシリンジに使用すると、加わる力が十分に吸収されない。その結果、高圧で薬液を注入する際にシリンダとシール部材との間に隙間が生じることがあった。そのため、バックフローによる薬液の急激な吹きこぼれが生じる可能性があった。
【0005】
一方、シリコーンオイルを使用する場合は、シール部材にシリコーンオイルをスプレー塗布して被膜を形成する。この場合、薬液に接触したシリコーンオイルが薬液中へ溶出する可能性が指摘されていた。さらに、形成された被膜が剥がれ、薬液中に混入する可能性も指摘されていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明のシリンジは、薬液を充填するためのシリンダと、前記シリンダの内面と接触し、前記シリンダ内において摺動可能なシール部材とを備え、前記シール部材の外面に被膜が形成されており、前記被膜は、複数の曲面を有する表面形状を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のシリンジによれば、安価で製造が容易であり且つ良好な摺動性を発揮するシリンジを提供することができる。また、シリコーンオイルを用いて形成された被膜が薬液に接触することに起因する、被膜の薬液中への溶出又は剥がれた被膜の薬液への混入を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係るシリンジの概略断面図である。
【図2】第1実施形態に係るシール部材の概略断面図である。
【図3】弾性リングを取り付けたプランジャ先端の概略断面図である。
【図4】本発明に係る被膜の表面拡大写真である。
【図5】本発明に係る被膜の表面拡大写真である。
【図6】シリコーンオイルを用いて形成された被膜の表面拡大写真である。
【図7】シリコーンオイルを用いて形成された被膜の表面拡大写真である。
【図8】実施例1及び2の摺動性を検証した結果を示す表である。
【図9】実施例3及び4の摺動性を検証した結果を示す表である。
【図10】第2実施形態に係るシール部材の概略断面図である。
【図11】第3実施形態に係るシール部材の概略断面図である。
【図12】第3実施形態に係るシール部材の概略外面図である。
【図13】第4実施形態に係るシール部材の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1に示された本発明のシリンジ1は、注入する薬液が充填されるシリンダ2と、該シリンダ2内において摺動可能なプランジャ3と、該プランジャ3の先端に設けられたシール部材4とを備える。シリンダ2及びプランジャ3は、硬質樹脂、軟質樹脂、エンジニアリングプラスチック又はガラス等の材料から形成することができる。なお、図1のシール部材4に代えて、弾性リングからなるシール部材4を採用することもできる。この場合、シール部材4は、シリンダ2内を摺動可能な先端部材30に嵌合される(図3)。この先端部材30は、プランジャ3によって押し込まれ又は引き出されることによってシリンダ2内を摺動可能となる。
【0010】
シリンダ2は中空の円筒状部分を有しており、シリンダ2の先端部21には不図示のチューブ等が装着される。そして、薬液充填時には、プランジャ3をシリンダ2の後端部22の方向に向かって引き出し、チューブ等を介してシリンダ2内に薬液を充填する。また、薬液注入時には、プランジャ3をシリンダ2の先端部21の方向に向かって押し込み、チューブ等を介して患者の体内に薬液を注入する。なお、シリンジ1に充填される薬液としては、例えば、造影剤、生理食塩水又は抗がん剤等が挙げられる。
【0011】
図2は、シール部材4の拡大断面図を示す。シール部材4の側面には、シリンダ2の内面と接触する突部41,42が設けられている。この突部41,42は、シール部材4の先端部43側に形成された第1の突部41と、後端部44側に形成された第2の突部42とを有する。第1及び第2の突部41,42はいずれもシール部材4の外形に沿って延在し、シール部材4の先端部43側から見て略環状の形状を有している。また、第1及び第2の突部41,42の間には、凹部45が形成されている。
【0012】
シール部材4の先端部43は略円錐状の形状を有し、シリンダ2内において充填された薬液と接触する。さらに、シール部材4の後端部44側にはプランジャ3の先端が挿入される凹部46が形成されている。この凹部46には螺旋状の溝(不図示)が形成されており、プランジャ3の先端をねじ込むことによりシール部材4を取り付けることができる。また、凹部46に係合用の溝を形成することにより、シール部材4とプランジャ3の先端とを係合させてもよい。この場合、プランジャ3の先端に形成された突部が、凹部46の係合用の溝に挿入される。なお、シール部材4は、塩素化ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム又はシリコーンゴム等の材料から形成できる。
【0013】
図3は、シール部材4として弾性リングを使用した場合の拡大断面図を示す。シール部材4は、プランジャ3と係合する先端部材30に取り付けられている。この先端部材30は、プランジャ3の先端と係合させるための係合部33を有している。そして、シール部材4は、O字状の断面形状を有するOリングからなる弾性リングである。また、先端部材30には、第1及び第2の突部31,32と、第1及び第2の突部31,32の間に形成された凹部35とが設けられている。凹部35はシール部材4の幅と略同じ幅の開口を有しており、シール部材4は該開口に嵌合されている。このような弾性リングは、塩素化ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム又はシリコーンゴム等の材料から形成できる。
【0014】
なお、シール部材4は、D字状の断面形状を有するDリングからなる弾性リングであってもよい。この場合、凹部35で切った先端部材30の断面の形状は、Dリングに対応するD字状の断面形状を有する。
【実施例】
【0015】
[第1実施形態]
図2及び図3において、シール部材4の外面には、後述する溶液を用いて形成された被膜6が設けられている。この被膜6は、例えば、シール部材4又はシール部材4に溶液を均一にスプレー塗布し又は溶液にディップした後に、乾燥及び加熱することによって形成することができる。このようにして形成された被膜6は、5〜40μmの厚さを有する。
【0016】
図4は、図2の被膜6の表面を、走査電子顕微鏡(日立走査電子顕微鏡S−3400N)を用いて100倍に拡大して撮影した写真(低真空二次/反射電子像)を示す。また、図5は、同様に図2の被膜6の表面を、1000倍に拡大して撮影した写真を示す。そして、図6は、従来使用されているシリコーンオイルを用いて形成された被膜の表面を、走査電子顕微鏡を用いて100倍に拡大して撮影した写真を示す。また、図7は、同様にシリコーンオイルを用いて形成された被膜の表面を、1000倍に拡大して撮影した写真を示す。なお、いずれの写真においても、シール部材4の先端部43の表面を撮影した。
【0017】
図4と図6との比較及び図5と図7との比較から明らかなように、本発明の被膜6は、丸みを帯びた複数の曲面を有する表面形状を備えている。このように、被膜6の表面が複数の微細な曲面を有しているため、被膜6の表面が滑らかな形状となり、良好な摺動性を発揮することができる。
【0018】
本実施形態では、被膜6を形成する溶液として、NuSil Technology社製のMED−6670を使用した。このような溶液としては、例えば、ポリオルガノシロキサン組成物を11重量%、エチルトリアセトキシシランを62重量%、及びキシレンを17重量%含む溶液と、ポリオルガノシロキサン組成物を30重量%、及びキシレンを70重量%含む溶液との混合液が考えられる。そして、該溶液をシール部材4又はシール部材4の表面に均一にスプレー塗布した後に、約30分間風燥させ、その後150度の温度で15分間加熱して被膜6を形成した。
【0019】
なお、本実施形態の被膜6は、予めシリンダ内に薬液が充填されたプレフィルドシリンジにも用いることができる。このようなプレフィルドシリンジは、予め薬液を充填したシリンダ2と、当該シリンダ2の内面と接触し、当該シリンダ2内において摺動可能なシール部材4とを備える。そして、このシール部材4の外面に、本実施形態の被膜6が形成される。また、シリンダ2の先端部21には、薬液が漏出しないようにシリンダ2を封止する封止部材が設けられる。充填された薬液は、この封止部材とシール部材4又は先端部材30とによってシリンダ2内に収容保持される。
また、本実施形態においては、シリンダ2の内面に被膜が形成されていない。ただし、本発明の被膜を、シリンダ2の内面にも設けることはできる。これにより、シリンダ2に設けられた被膜の溶出及び剥離を防止することが可能となる。もっとも、シリンダ2の内面には、シリコーンオイルを用いて形成された被膜を設けることもできる。この場合であっても、シール部材4に設けられた被膜の溶出及び剥離を防止することが可能である。
【0020】
[実施例1及び2]
図8は、図2に示す被膜6が設けられたシール部材4を備えるシリンジ1において、シール部材4の摺動性を検証した結果を示す表である。検証は、シリンジ1を測定台上に固定し、プランジャ3をシリンダ2内に押し込んだ後に引き出すことにより行った。プランジャの押し込み及び引き出しは測定台の載置面に対して水平に行い、押し込み時又は引き出し時にプランジャ3に加わる荷重を測定した。なお、荷重の測定には株式会社イマダ製のメカニカルフォースゲージ(プッシュプルスケール)を使用し、押し込み中又は引き出し中に荷重値(kgf)が変化しなくなる時点の値を測定した。
【0021】
図8中、実施例1は、本発明の被膜6が設けられたシール部材4と、被膜が設けられていないシリンダ2とを備えるシリンジ1の測定結果を示す。また、実施例2は、本発明の被膜6が設けられたシール部材4と、シリコーンオイルを用いて形成された被膜が設けられたシリンダ2とを備えるシリンジ1の測定結果を示す。いずれの測定においても同じ方法で製造した第1シリンジ及び第2シリンジを準備し、2つのシリンジに対してそれぞれ3回ずつ測定を行い、合計6回の測定の平均値を算出した。
【0022】
比較例1は、従来使用されているシリンジと同じ構成を備えるシリンジであって、シリコーンオイルを用いて形成された被膜が設けられたシール部材及びシリンダを備えるシリンジの測定結果を示す。比較例1の測定は、実施例1及び2と同じ方法で行った。なお、実施例2及び比較例1において、被膜6は上述した方法で形成し、シリコーンオイルを用いて形成された被膜は、シリコーンオイルをシール部材及びシリンダにスプレー塗布することによって形成した。
【0023】
実施例1において、押し込み時の荷重の平均値(以下、Push値という)は5.12kgfであり、引き出し時の荷重の平均値(以下、Pull値という)は5.45kgfであった。また、実施例2において、Push値は3.58kgfであり、Pull値は3.25kgfであった。一方、比較例1において、Push値は2.25kgfであり、Pull値は2.00kgfであった。このように、実施例1及び2と比較例1とのPush値及びPull値の差は、実用的に許容できる範囲内にある。すなわち、本発明に係る実施例1及び2のシリンジ1は、従来のシリンジと同程度の良好な摺動性を有するといえる。そのため、本発明に係るシリンジ1においても、従来と同程度の力でプランジャ3を押し込み又は引き出すことが可能である。
【0024】
なお、上記実施例1、実施例2及び比較例1で使用したいずれのシリンジも、同一の内径を有するシリンダと、同一の外径を有するシール部材とを備えている。
【0025】
[実施例3及び4]
図9は、図3に示す被膜6が設けられたシール部材4を備えるシリンジ1において、シール部材4の摺動性を検証した結果を示す表である。実施例3は、本発明の被膜6が設けられたシール部材4と、被膜が設けられていないシリンダ2とを備えるシリンジ1の測定結果を示す。また、実施例4は、本発明の被膜6が設けられたシール部材4と、シリコーンオイルを用いて形成された被膜が設けられたシリンダ2とを備えるシリンジ1の測定結果を示す。一方、比較例2は、従来使用されていたシリンジと同じ構成を備えるシリンジであって、シリコーンオイルを用いて形成された被膜が設けられた弾性リング及びシリンダを備えるシリンジの測定結果を示す。
【0026】
なお、実施例3,4及び比較例2の測定は、実施例1及び2と同じ方法で行った。また、実施例3,4及び比較例2において、本発明の被膜6及びシリコーンオイルを用いて形成された被膜は、実施例1及び2と同じ方法で形成した。
【0027】
実施例3において、Push値は4.65kgfであり、Pull値は4.42kgfであった。また、実施例4において、Push値は4.24kgfであり、Pull値は4.19kgfであった。一方、比較例2において、Push値は4.58kgfであり、Pull値は4.38kgfであった。このように、実施例3及び4と比較例2とのPush値及びPull値の差は、実用的に許容できる範囲内にある。すなわち、本発明に係る実施例3及び4のシリンジ1は、従来のシリンジと同程度の良好な摺動性を有するといえる。そのため、本発明に係るシリンジ1においても、従来と同程度の力でシール部材4を押し込み又は引き出すことが可能である。
【0028】
なお、上記実施例3、実施例4及び比較例2で使用したいずれのシリンジも、同一の内径を有するシリンダと、同一の外径を有するシール部材とを備えている。
【0029】
上記検証結果から、本発明の被膜6を有するシリンジ1は、良好な摺動性を有するといえる。そして、このような本発明によれば、安価で製造が容易であり且つ良好な摺動性を発揮するシリンジを提供することができる。また、シリコーンオイルを用いて形成された被膜が薬液に接触することに起因する、被膜の薬液中への溶出又は剥がれた被膜の薬液への混入を防止することができる。
【0030】
また、本発明の被膜6は、従来の被覆シート材と比較して優れた弾性を有するため、シリンダ2に対する高い密着性とシール性を備えている。これにより、シリンダ2の内側から加わる力によってシリンダ2が膨張した場合であっても、シリンダ2と被膜6との間に隙間が生じることを防止できる。なお、高粘度の薬液を注入する際は、膨張によるシリンダ2の破損を防止するために、シリンダ2の外側に破損防止の保護カバーを取り付ける場合がある。本発明のシリンジ1は、このような場合にも使用することができる。
【0031】
[第2実施形態]
図10は本発明の第2実施形態に係るシール部材4の概略断面図を示す。なお、図2に示す第1実施形態と同じ構成については同じ記号を用い、その説明を省略する。
【0032】
本実施形態のシール部材4の被膜6は、第1の突部41上の後端部44側において厚く形成されている。すなわち、シール部材4の先端部43側から見て略環状の形状を有する厚膜部61が形成されている。また、厚膜部61の膜厚は、先端部43側に近づくにつれて薄くなっている。つまり、厚膜部61は、先端部43側に向かって傾斜する斜面又は曲面を有している。
【0033】
本実施形態によれば、後端部44側の膜厚を厚く形成することにより、厚膜部61と接触する部分においてシリンダ2に加わる荷重が大きくなる。そのため、シール部材4がシリンダ2の内面に対してより強く密着することになる。その結果、シリンダ2内の薬液が第1の突部41を越えて漏れ出ること(バックフロー)を防止することができる。なお、本実施形態においては、厚膜部61を第2の突部42上の後端部44側にも形成することができる。
【0034】
このような厚膜部61は、線状の形状を有する吐出口を備えたノズル、又は線状に配置された複数のノズルを使用して溶液をスプレー塗布することにより形成できる。この吐出口の線状の形状は、厚膜部61を形成する領域に対応する。また、複数のノズルは、厚膜部61を形成する領域に対応して線状に配置される。なお、線状の形状を有する開口を備えたマスクを介して、溶液にシール部材4をディップすることによって厚膜部61を形成することもできる。この開口の線状の形状も、厚膜部61を形成する領域に対応する。
【0035】
[第3実施形態]
図11は本発明の第3実施形態に係るシール部材4の概略断面図を示す。また、図12は、本実施形態に係るシール部材4の第1及び第2の突部41,42を、外面側から見た様子を示す概略図である。なお、図2に示す第1実施形態と同じ構成については同じ記号を用い、その説明を省略する。
【0036】
本実施形態のシール部材4の被膜6は、第1及び第2の突部41,42上にのみ設けられている。すなわち、シール部材4の外面のうち、シリンダ2の内面と接触する領域にのみ第1及び第2の被膜62,63として被膜6が形成されている。そして、図12に示すように、第1及び第2の被膜62,63はそれぞれ線状の形で形成されており、シール部材4の先端部43側から見て略環状の形状を有している。
【0037】
本実施形態によれば、シール部材4の突部の一部にのみ被膜6を形成することにより、被膜6の形成に使用する溶液の量を削減することができる。その結果、より安価で製造可能なシール部材4及びシリンジ1を提供することができる。また、第1及び第2の突部41,42上において、第1の被膜62はシール部材4の先端部43側に形成されており、第2の被膜63はシール部材4の後端部44側に設けられている。そのため、第1及び第2の突部41,42の外面がシリンダ2の内面に対して傾いた状態で接触することを防止できる。これにより、被膜6が形成されていない領域とシリンジ1の内面とが接触することを防止できるので、シール部材4の摺動性の低下を防ぐことができる。
【0038】
これに対して、先端部43側又は後端部44側に偏った位置に被膜を配置した場合は、第1及び第2の突部41,42の外面が、シリンダ2の内面に対して傾いた状態で接触してしまう。そのため、被膜6が形成されていない領域がシリンジ1の内面に接触してしまい、シール部材4の摺動性が低下してしまう。
【0039】
また、第1実施形態のシール部材4を使用したシリンジ1においては、従来のシリンジ1よりもPush値及びPull値が若干大きくなる。この点、本実施形態のシリンジ1によれば、被膜6とシリンジ1の内面とが接触する領域の面積を小さくすることできる。これにより、従来のシリンジと同程度にまで、Push値及びPull値を小さくすることができる。すなわち、より摺動性に優れたシリンジ1を提供することができる。
【0040】
このような第1及び第2の被膜62,63は、線状の形状を有する吐出口を備えたノズル、又は線状に配置された複数のノズルを使用して溶液をスプレー塗布することにより形成できる。この吐出口の線状の形状は、第1及び第2の被膜62,63を形成する領域に対応する。また、複数のノズルは、第1及び第2の被膜62,63を形成する領域に対応して線状に配置される。なお、線状の形状を有する開口を備えたマスクを介して、溶液にシール部材4をディップすることによって第1及び第2の被膜62,63を形成することもできる。この開口の線状の形状も、第1及び第2の被膜62,63を形成する領域に対応する。
【0041】
なお、本実施形態においては、第1及び第2の突部41,42上の被膜6が形成されていない領域と、シリンジ1の内面との接触を防止できればよい。そのため、本実施形態は、2つの被膜を設ける構成には限定されない。例えば、第1の突部41又は第2の突部42上に、3つの被膜を設けることもできる。また、第1の突部41又は第2の突部42上に、所定の長さ以上の幅を備えた幅広の1つの被膜を設けてもよい。
【0042】
[第4実施形態]
図13は本発明の第4実施形態に係るシール部材4の概略断面図を示す。なお、図2に示す第1実施形態と同じ構成については同じ記号を用い、その説明を省略する。
【0043】
本実施形態のシール部材4の被膜6は、第1の突部41上に設けられており、第2の突部42上には、シリコーンオイルを用いて形成された被膜7が設けられている。より詳細には、被膜6が、先端部43及び第1の突部41上に設けられている。そして、シール部材4の外面の第1の突部41よりも後端部44側の領域には、シリコーンオイルを用いて形成された被膜7が設けられている。
【0044】
本実施形態においては、第1の突部41よりも後端部44側に位置する第2の突部42上及び凹部45上に、シリコーンオイルを用いて形成された被膜7が設けられている。これにより、前進する際の摺動性(前進摺動性)に優れたシリンジとなる。すなわち、シール部材4を押し込む際のPush値には、先端部43側に位置する第1の突部41とシリンダの内面との間の摩擦抵抗が大きく影響する。そして、本実施形態のシリンジ1によれば、Push値を小さくすることができ、相対的にPull値を大きくすることができるからである。
【0045】
本実施形態のシリンジ1は、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置を用いた撮影の際に使用される造影剤注入装置に好適に用いることができる。このような注入装置においては、手動でシリンジ1のシール部材4を前進させることも多く、前進させる場合は前進摺動性が良好であればよいからである。
【0046】
本実施形態のシリンジ1においては、薬液と接触する先端部43に、シリコーンオイルを用いて形成された被膜7が設けられていない。そのため、当該被膜7の薬液中への溶出や、剥がれた被膜7の薬液への混入を防止することができる。また、本実施形態によれば、溶液の使用量を削減できるので、より安価に製造可能なシール部材4及びシリンジ1を提供することができる。
【0047】
なお、上述した溶液を先端部43及び第1の突部41にスプレー塗布して被膜6を形成した後に、シリコーンオイルを第1の突部41よりも後端部44側の領域にスプレー塗布することにより被膜7を形成できる。また、先端部43及び第1の突部41に対応する開口を備えたマスクを使用して、上述した溶液にシール部材4をディップすることにより被膜6を形成し、その後に、第1の突部41よりも後端部44側の領域に対応する開口を備えたマスクを使用して、シリコーンオイルにシール部材4をディップすることにより被膜7を形成してもよい。
【0048】
以上、実施例を参照して本発明について説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではない。本発明に反しない範囲で変更された発明、及び本発明と均等な発明も本発明に含まれる。
【0049】
例えば、本発明の被膜6が設けられたシール部材4は、3つ以上の突起を有するように形成することができる。また、本発明は、突起の高さが高く且つ突起上の接触面が狭い構成にも用いることができる。これらのシール部材4は、従来の被覆シート材では良好に被覆することができない。すなわち、従来の被覆シート材では、高さが高い突起上に被覆するとシワが寄りやすく、剥がれやすくなってしまう。また、従来の被覆シート材は小さな凹凸があると被覆できないため、突起上の接触面を広くする必要がある。この点、本発明によれば、このようなシール部材4であっても、良好な弾性を有する柔軟な被膜6を形成することができる。すなわち、密着性が高く且つ剥がれにくい被膜6を形成することができる。そのため、本発明は、高さが高く且つ接触面が狭い突起を有する構成にも、好適に用いることができる。
【0050】
また、上述の各実施形態は、本発明に反しない範囲で適宜組み合わせることができる。例えば、第3実施形態と同様に、被膜6を、第2及び第4実施形態の第1の突部41上の一部又は第2の突部42上の一部のみに設けることもできる。
【符号の説明】
【0051】
1:シリンジ、2:シリンダ、4:シール部材、41:第1の突部、42:第2の突部、6:被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬液を充填するためのシリンダと、
前記シリンダの内面と接触し、前記シリンダ内において摺動可能なシール部材とを備え、
前記シール部材の外面に被膜が形成されており、
前記被膜は、複数の曲面を有する表面形状を備えることを特徴とするシリンジ。
【請求項2】
前記シール部材は、前記シリンダの内面と接触する突部を有することを特徴とする、請求項1に記載のシリンジ。
【請求項3】
前記突部上において、前記シール部材の後端部側における前記被膜の膜厚は、前記シール部材の先端部側における膜厚よりも厚いことを特徴とする請求項2に記載のシリンジ。
【請求項4】
前記被膜は、前記突部上の一部にのみ設けられていることを特徴とする請求項2又は3に記載のシリンジ。
【請求項5】
前記突部は、前記シール部材の先端部側に設けられた第1の突部と、前記シール部材の後端部側に設けられた第2の突部とを有し、
前記被膜は、前記第1の突部上に設けられており、
前記第2の突部上には、シリコーンオイルを用いて形成された被膜が設けられていることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載のシリンジ。
【請求項6】
前記シール部材は、弾性リングであることを特徴とする、請求項1に記載のシリンジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−75784(P2012−75784A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225831(P2010−225831)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(391039313)株式会社根本杏林堂 (80)
【Fターム(参考)】