説明

シリンダヘッドの洗浄方法

【課題】不良発生確率の増大やコスト増を招くことなく、ウォータージャケット内の清浄度が高い高品質のシリンダヘッドを容易に得ることができる洗浄方法を提供する。
【解決手段】内部にウォータージャケットWJを有し、ウォータージャケットWJに連通する孔部が多面に開口したシリンダヘッド1を洗浄するための方法であって、シリンダヘッド1のうちシリンダブロックとの衝合面2に開口した孔部を介して洗浄液12をウォータージャケットWJに流入させ、側面3,4等に開口した孔部から洗浄液12を排出することによってウォータージャケットWJを洗浄する。ウォータージャケットWJの洗浄時、洗浄液噴射部7の洗浄液噴射口8をシリンダヘッド1の衝合面2に対向配置すると共に、衝合面2、衝合面2の周縁部に立設した壁部10、及び洗浄液噴射部7の下面7aで密封空間11を画成し、この密封空間11に向けて洗浄液噴射口8から噴射した洗浄液12をウォータージャケットWJに流入させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水冷式エンジンを構成するシリンダヘッドの洗浄方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、水冷式エンジンを構成するシリンダヘッドの内部には冷却水の通路としてのウォータージャケットが設けられており、エンジンの駆動時(車両の走行時)には、ポンプから供給された冷却水がウォータージャケットを通過することによってシリンダヘッドの各部が冷却されるようになっている。
【0003】
通常、シリンダヘッドは、鋳造により粗成形された後、切削,穿孔等の機械加工を施すことによって最終形状に仕上げられ、最終形状に仕上げられた後には、外表面やウォータージャケットに付着・残留した金属片や切粉等の異物を取り除くための洗浄工程に供される。洗浄工程は、シリンダヘッドの表面を洗浄する表面洗浄工程と、シリンダヘッドの内部に設けられたウォータージャケットを洗浄するウォータージャケット洗浄工程とに大別され、このうちウォータージャケットを洗浄するための方法としては、例えば、ウォータージャケットに連通する(ウォータージャケットを構成する)複数の孔部のうち、シリンダヘッドの下面(シリンダブロックとの衝合面)に開口した一又は複数の孔部に向けて噴射した洗浄液をウォータージャケット内に流入させ、その後、残余の孔部(シリンダヘッドの側面等に開口した孔部)から洗浄液を排出させるという方法が広く採用されている。しかし、かかる態様で洗浄液を噴射したとしても、ノズルから噴射された洗浄液がウォータージャケットを画成する内壁面等に当たって跳ね返ることから、ウォータージャケット全域に適切な圧力・流量で洗浄液を行き渡らせることができず、ウォータージャケット内に残存する異物を十分に除去することができないという問題があった。
【0004】
このような問題を解消し得るウォータージャケットの洗浄方法として、例えば下記の特許文献1に記載されているものが公知である。詳しくは、ウォータージャケットに連通する複数の孔部が多面(同文献中、上面、下面及び側面等)に開口したシリンダヘッドのうち、選択した一面(例えば一側面)に開口した孔部を閉塞するように、シリンダヘッドに当接させたノズルから洗浄液を噴射するのと同時に、他面(例えば下面)に開口した孔部を介してウォータージャケット内に圧縮空気を供給し、ウォータージャケット内に流入した洗浄液をシリンダヘッドの上面等に開口した孔部から排出する、というものである。このような方法によれば、ウォータージャケット内に圧縮空気と洗浄液の混合流体による乱流が生じることから異物の除去効果を高めることができ、清浄度の高いシリンダヘッドを得られるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−153187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の方法では、以下に示すような問題がある。まず、シリンダヘッドにノズルを当接させるのに伴って、シリンダヘッドの表面に微小なキズ等が形成される可能性がある。シリンダヘッドは、その表面にミクロンオーダーの微小キズが形成されることも許容されず、キズが形成された場合には不良品として廃棄せざるを得ない。また、鋳造成形品では個体間で寸法精度等にある程度のバラツキが生じるのが避けられないことから、鋳造にて粗成形されるシリンダヘッドの所定部位に微小径のノズルを正確に当接させるのが困難である。そのため、自動駆動される洗浄装置を用いて所定圧力・流量の洗浄液をウォータージャケットに流入させるには、極めて高精度の動作制御等が必要となり、洗浄に要するコストが増大する。さらに、洗浄液噴射装置の他に、圧縮空気供給装置が必要であることから、洗浄装置の複雑・大型化が避けられず、この点からもコストの増大が生じ得る。
【0007】
このような実情に鑑み、本発明は、不良発生確率の増大やコスト増を招くことなく、ウォータージャケット内の清浄度が高い高品質のシリンダヘッドを容易に得ることができる洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために創案された本発明は、内部にウォータージャケットを有し、ウォータージャケットに連通する孔部が多面に開口したシリンダヘッドを洗浄するための方法であって、シリンダヘッドのうち任意に選択した一面に開口した孔部を介して洗浄液をウォータージャケットに流入させ、上記一面とは異なる面に開口した孔部から洗浄液を排出することでウォータージャケットを洗浄するウォータージャケット洗浄工程を含み、ウォータージャケット洗浄工程では、洗浄液噴射部に設けた洗浄液噴射口をシリンダヘッドの上記一面に対向配置すると共に、上記一面、上記一面の周縁部に沿って立設した壁部、及び洗浄液噴射部のうち上記一面との対向面で密封空間を画成し、この密封空間に向けて洗浄液噴射口から噴射した洗浄液をウォータージャケットに流入させることを特徴とする。
【0009】
上記の方法を採用した場合、ウォータージャケットの洗浄は次のようにして行われる。密封空間に向けて洗浄液噴射口から洗浄液を噴射すると、噴射開始直後の段階では、噴射された洗浄液の一部が孔部を介してウォータージャケットに流入する。また、噴射開始後、所定時間が経過した段階で、密封空間にある程度の洗浄液が貯留されると、洗浄液噴射口から次々に噴射される洗浄液の圧力や密封空間に貯留した洗浄液の自重により、密封空間に貯留された洗浄液が上記一面に開口した孔部を介してウォータージャケットに順次流入する。このように、密封空間に向けて噴射された洗浄液は、上記一面に開口した孔部を介してウォータージャケット内に流入し、上記一面とは異なる面に開口した孔部から排出される。そして、密封空間に噴射された洗浄液の全量がウォータージャケットに流入し、この流入した洗浄液が排出された後、密封空間を開放すれば、ウォータージャケットの洗浄が完了する。
【0010】
このように、本願発明に係る方法では、ウォータージャケットを洗浄する際、洗浄液を密封空間に向けて噴射することから、ノズル等の洗浄液噴射口をシリンダヘッドに当接させる必要性がない。そのため、洗浄液噴射口とシリンダヘッドの直接接触を回避することができ、シリンダヘッド表面にキズ等が形成されるのを可及的に防止することができる。これにより、シリンダヘッドの不良発生率を低減して製品歩留の向上を達成することができる。また、ウォータージャケットを洗浄する際、孔部に対する洗浄液噴射口の位置合わせを厳密に行う必要がないので、従来方法のような高精度の制御は不要となり、さらには、従来方法のように圧縮空気の供給装置を用いる必要もないので、洗浄装置(洗浄工程)の複雑・大型化を回避することができる。また、噴射される洗浄液の全量をウォータージャケットの洗浄に利用することができるので、洗浄液の有効利用が図られ、その使用量を減じることができる。
【0011】
上記の密封空間は、ウォータージャケットの洗浄時、すなわちシリンダヘッドと洗浄液噴射部とを相対的に接近移動させたときに画成されるようになっていれば良い。そのため、シリンダヘッドの上記一面に、その周縁部を囲繞するような無端の筒状部材を、あるいは、洗浄液噴射部の上記対向面に無端の筒状部材を設けておけば、シリンダヘッドと洗浄液噴射部とが相対的に接近移動したときに上記の密封空間を画成することができる。しかしながら、ウォータージャケットの洗浄を実行するときにはシリンダヘッドを固定的に支持する必要があり、これを考慮すると、シリンダヘッドの上記一面あるいは洗浄液噴射部の上記対向面に無端の筒状部材を設けた場合、シリンダヘッドを適切な態様で支持することが、ひいてはウォータージャケットの洗浄を適切に実行できなくなる可能性がある。
【0012】
このような懸念事項は、シリンダヘッドの上記一面に設けた周方向で有端の第1分割壁部と、洗浄液噴射部のうち上記一面との対向面に設けた周方向で有端の第2分割壁部とで構成することによって解消することができる。すなわち、シリンダヘッドの上記一面に周方向で有端の第1分割壁部を設けるようにすれば、この第1分割壁部を、シリンダヘッドを支持部に対して固定する際の固定部材として活用することができ、支持部に対するシリンダヘッドの固定を容易化することができるからである。
【0013】
この場合、第1分割壁部を洗浄液噴射部の上記対向面に当接させると共に、第2分割壁部をシリンダヘッドの上記一面に当接させる(厳密に言えば、さらに、第1分割壁部と第2分割壁部とを相互に密着させる)ことによって壁部を形成することができるが、第1分割壁部を上記対向面に当接させると共に、第2分割壁部を上記一面に当接させたとき、第1分割壁部と第2分割壁部とが部分的にテーパ嵌合するようになっているのが望ましい。このテーパ嵌合部にて、シリンダヘッドの寸法誤差や、第1及び第2治具分割壁部の何れか一方又は双方の取り付け誤差等を吸収することができるからである。また、例えば第1及び第2分割壁部の全体、あるいは当接側の一部をゴムや樹脂等の弾性材料で形成しておけば、壁部の形成時において、第1及び第2分割壁部をシリンダヘッド、洗浄液噴射部及び相手側の分割壁部に対して強固に密着させることができるので、密封空間からの洗浄液漏れを効果的に防止することができ、好ましい。
【0014】
なお、シリンダヘッドに第1分割壁部を取り付けるのに伴って、また第2分割壁部をシリンダヘッドに当接させるのに伴ってシリンダヘッドに微小キズが形成される可能性がある。このような問題は、上記のように、例えば第1及び第2治具として、その全体がゴム等の弾性材料で形成されたものを用いることで回避することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上に示すように、本発明に係るシリンダヘッドの洗浄方法によれば、不良発生確率の増大やコスト増を招くことなく、ウォータージャケット内の清浄度が高い高品質のシリンダヘッドを容易に得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】シリンダヘッドの洗浄装置の要部概略斜視図である。
【図2】図1に示す洗浄装置の稼働状態を模式的に示す部分断面図であって、シリンダヘッドの内部に設けられたウォータージャケットを洗浄している状態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図1及び図2に基づいて説明する。
【0018】
図1は、本発明に係るシリンダヘッドの洗浄方法を実行する際に用いる洗浄装置の要部概略斜視図を示しており、より詳しくは、シリンダヘッド1の内部に設けられた冷却水の通路としてのウォータージャケットWJ(図2を参照)を洗浄する際に用いる洗浄装置の要部概略斜視図である。この洗浄装置は、シリンダヘッド1を支持する支持部13と、支持部13の上方に配設された洗浄液噴射部7とを備え、支持部13と洗浄液噴射部7とは相対的に接近及び離反移動可能とされている。図2に示すように、洗浄液噴射部7の下面7aには複数の洗浄液噴射口8(以下、単に「噴射口8」という)が開口しており、ウォータージャケットWJの洗浄時には、図示外のポンプから供給された洗浄液12が噴射口8から噴射されるようになっている。
【0019】
ここで、シリンダヘッド1について述べておく。本実施形態において、シリンダヘッド1は、図示外のシリンダブロックと衝合する下面(以下「衝合面2」という)が洗浄液噴射部7の下面7aと対向するようにして支持部13上に配置されている。従って、ここでは衝合面2が本発明でいう「任意に選択した一面」に相当し、シリンダヘッド1の衝合面2に対向する洗浄液噴射部7の下面7aが本発明でいう「対向面」に相当する。衝合面2には、シリンダブロックとの衝合時に燃焼室を画成する3つの燃焼室形成孔や当該シリンダヘッド1をシリンダブロックにボルト止めするためのボルト孔の他、ウォータージャケットWJに連通する(ウォータージャケットWJを構成する)複数の孔部が開口している。また、シリンダヘッド1の側面3,4や上面(図示例では支持部13との当接面)にも、ウォータージャケットWJに連通する複数の孔部が開口している。
【0020】
このような構成を有するシリンダヘッド1は、鋳造により粗成形された後、切削、穿孔等の機械加工を施すことによって最終形状に仕上げられる。そして、最終形状に仕上げられたシリンダヘッド1は洗浄工程に移送され、洗浄工程にて、鋳造や機械加工に伴って表面やウォータージャケットWJに付着・残留した異物(金属粉や切粉等)が除去される。なお、洗浄工程は、シリンダヘッド1の表面に付着した異物を除去するための表面洗浄工程と、ウォータージャケットWJ内に付着・残留した異物を除去するためのウォータージャケット洗浄工程とに大別される。ちなみに、シリンダヘッド1の表面洗浄は、例えば、シリンダヘッド1を洗浄液中に浸漬させることにより、あるいはシリンダヘッド1に向けて圧縮空気を吹き付けることにより行われる。表面洗浄工程は、ウォータージャケット洗浄工程の前後何れかで行われる場合もあるし、ウォータージャケット洗浄工程の前後で行われる場合もある。
【0021】
洗浄装置は、図2に示すように、支持部13と洗浄液噴射部7とが相対的に接近移動してシリンダヘッド1のウォータージャケットWJを洗浄するとき、支持部13上に載置されたシリンダヘッド1の衝合面2の周縁部に沿って壁部10が立設されるように構成されている。壁部10は、シリンダヘッド1の衝合面2に設けた周方向で有端の第1分割壁部6と、洗浄液噴射部7の下面7aに設けた周方向で有端の第2分割壁部9とで形成される。
【0022】
本実施形態において、第1分割壁部6は、平面視で略L字状に形成されてシリンダヘッド1の衝合面2の周縁部に沿った二箇所(離隔した二箇所)に配置されており、各第1分割壁部6,6の(周方向の)一端及び他端には、水平面に対して所定の向きに傾斜したテーパ面T11、及び水平面に対してテーパ面T11とは異なる向きに傾斜したテーパ面T12が夫々形成されている。また、詳細な図示は省略しているが、第2分割壁部9は、洗浄液噴射部7の下面7aの周縁部に沿った二箇所に配置されており、支持部13と洗浄液噴射部7とが相対的に接近移動したとき、下面9aの少なくとも一部が、シリンダヘッド1の衝合面2のうち、2つの第1分割壁部6,6間領域に当接可能とされている。各第2分割壁部9には、第1分割壁部6のテーパ面T11と平行なテーパ面T21と、第1分割壁部6のテーパ面T12と平行なテーパ面T22とが形成されている。このような構成を有する第1分割壁部6及び第2分割壁部9の双方は、その全体が、例えばゴム等の弾性材料で形成されており、かつ肉厚も同一に形成されている。
【0023】
第1分割壁部6は、支持部13と協働してシリンダヘッド1を保持(クランプ)するクランプ機構の一構成部材として機能させることができる。すなわち、油圧シリンダ、弾性部材等の伸縮動作可能な部材の先端部に第1分割壁部6を取り付けることで、支持部13との協働でシリンダヘッド1をクランプするクランプ機構を構成することができる。この場合において、支持部13を、例えばチルト旋回機構等の旋回機構を介して支持しておけば、支持部13を旋回させてシリンダヘッド1を水平姿勢とした後、クランプ機構を操作することによってシリンダヘッド1を容易に挟持固定することができる。このようにすれば、支持部13に対するシリンダヘッド1、さらにはシリンダヘッド1に対する第1分割壁部6の位置決めが行われるのと同時に、支持部13からのシリンダヘッド1の脱落が防止される。従って、ウォータージャケットWJの洗浄を適切に実行することができる。
【0024】
なお、支持部13に対するシリンダヘッド1の固定(位置決め)を、別途のクランプ機構等を用いて行った後、シリンダヘッド1の所定位置に第1分割壁部6を固定するようにしても良い。この場合におけるシリンダヘッド1に対する第1分割壁部6の固定方法は、シリンダヘッド1のウォータージャケットWJ洗浄中に第1分割壁部6がシリンダヘッド1に対して相対変位せず、かつ、洗浄完了後に容易に取り外しを行い得る方法であれば特段限定されない。
【0025】
以上の構成を有する洗浄装置において、シリンダヘッド1の内部に設けられたウォータージャケットWJの洗浄は次のようにして行われる。
【0026】
まず、シリンダヘッド1を支持した支持部13と洗浄液噴射部7とを相対的に接近移動させ、シリンダヘッド1の衝合面2に設けた第1分割壁部6の上面6aを洗浄液噴射部7の下面7aに当接(密着)させると共に、洗浄液噴射部7に設けた第2分割壁部9の下面9aをシリンダヘッド1の衝合面2に当接(密着)させると、これと同時に、第1分割壁部6のテーパ面T11と第2分割壁部9のテーパ面T21とが嵌合(テーパ嵌合)し,第1分割壁部6のテーパ面T12と第2分割壁部9のテーパ面T22とがテーパ嵌合する。これにより、シリンダヘッド1の衝合面2の周縁部に壁部10が立設され、この壁部10と、シリンダヘッド1の衝合面2と、洗浄液噴射部7の下面7aとで密封空間11が画成される。
【0027】
そして、図示外のポンプから洗浄液噴射部7に向けて洗浄液12が供給されると、洗浄液噴射部7の下面7aに開口した噴射口8から密封空間11に向けて洗浄液12が噴射される。洗浄液12の噴射開始直後の段階では、噴射された洗浄液12の一部がシリンダヘッド1の衝合面2に開口した孔部を介してウォータージャケットWJに流入する。また、洗浄液12の噴射開始後、所定時間が経過した段階で、密封空間11にある程度洗浄液12が貯留されると、噴射口8から次々に噴射される洗浄液12の圧力や密封空間11に貯留された洗浄液12の自重により、密封空間11に貯留された洗浄液12が衝合面2に開口した孔部を介してウォータージャケットWJに順次流入する。このように、密封空間11に向けて噴射された洗浄液12は、衝合面2に開口した孔部を介してウォータージャケットWJ内に順次流入し、ウォータージャケットWJに流入した洗浄液12はシリンダヘッド1の側面3,4等に開口した孔部から順次排出される。そして、密封空間11に向けて噴射された洗浄液12の全量がウォータージャケットWJに流入し、この流入した洗浄液12が排出された後、支持部13と洗浄液噴射部7とを相対的に離反移動させれば、ウォータージャケットWJの洗浄が完了する。
【0028】
以上に示したシリンダヘッド1(ウォータージャケットWJ)の洗浄方法では、シリンダヘッド1の衝合面2と、この衝合面2の周縁部に立設した壁部10と、衝合面2に対向する洗浄液噴射部7の下面7aとで密封空間11を画成し、洗浄液噴射部7の下面7aに開口した噴射口8から密封空間11に向けて洗浄液12を噴射するようにしたことから、噴射口8とシリンダヘッド1とが直接接触するのを回避することができる。そのため、シリンダヘッド1の表面(ここでは衝合面2)に微小キズ等が形成されるのを可及的に防止することができ、シリンダヘッド1の不良発生率を低減することが(製品歩留向上を達成することが)できる。また、以上で示したウォータージャケットWJの洗浄方法では、シリンダヘッド1の衝合面2に開口した孔部に対する噴射口8の位置合わせを厳密に行う必要がないので、従来方法のような高精度の制御は不要となり、さらには、従来方法のように圧縮空気の供給装置を用いる必要もないので、洗浄装置(洗浄工程)の複雑・大型化を回避することができる。また、噴射される洗浄液12の全量をウォータージャケットWJの洗浄に利用することができるので、洗浄液WJの使用量を減じることができる。従って、不良発生確率の増大やコスト増を招くことなく、ウォータージャケットWJ内の清浄度が高い高品質のシリンダヘッド1を容易に得ることができる。
【0029】
また、壁部10を形成する第1分割壁部6と第2分割壁部9とに夫々テーパ面を設け、両者を部分的にテーパ嵌合させたことから、両者間に形成されるテーパ嵌合部にて、シリンダヘッド1の寸法誤差や、第1及び第2分割壁部6,9の何れか一方又は双方の取り付け誤差等を吸収することができる。特に、本実施形態では、L字状を呈する2つの第1分割壁部6の一端及び他端に傾斜方向の異なるテーパ面T11,T12を夫々形成すると共に、第2分割壁部9,9に、テーパ面T11,T12と夫々テーパ嵌合可能なテーパ面T21,T22を設けたことから、シリンダヘッド1の幅方向及び奥行き方向の寸法誤差を吸収することができる。これにより、密封空間11からの洗浄液12漏れを効果的に防止することが可能となり、ウォータージャケットWJの清浄度を高めることができる。
【0030】
また、第1分割壁部6及び第2分割壁部9の双方をゴム等の弾性材料で形成したことから、壁部10の形成時(ウォータージャケットWJの洗浄時)には、第1分割壁部6を、シリンダヘッド1、洗浄液噴射部7及び第2分割壁部9に対して強固に密着させることができ、また第2分割壁部9を、洗浄液噴射部7、シリンダヘッド1及び第1分割壁部6に対して強固に密着させることができる。これにより、密封空間11からの洗浄液12漏れを一層効果的に防止することができる。さらに、第1分割壁部6及び第2分割壁部9の双方を、ゴム等の弾性材料で形成しておけば、シリンダヘッド1に第1分割壁部6を取り付ける際、また第2分割壁部9をシリンダヘッド1に当接させる際にシリンダヘッド1の表面にキズが形成される可能性を効果的に減じることができるという利点もある。
【0031】
なお、密封空間11からの洗浄液12漏れの防止、及びシリンダヘッド1に対するキズ付き防止を図るためには、第1分割壁部6においては、その上面6a(洗浄液噴射部7との当接面)、下面(シリンダヘッド1に対する取り付け面)及びテーパ面T11,T12を、また第2分割壁部7においては、その上面(洗浄液噴射部7に対する取り付け面)、下面7a(シリンダヘッド1との当接面)及びテーパ面T21,T22をゴム等の弾性材料で形成しておけば足りる。もちろん、シリンダヘッド1や洗浄液噴射部7、さらには相手側の分割壁部との間に高い密着性を確保できるのであれば、第1分割壁部6及び第2分割壁部9の何れか一方又は双方は、その全体を高剛性の金属材料等で形成しても良い。
【0032】
以上に示した実施形態では、洗浄液噴射部7の下面7aに開口するように洗浄液12の噴射口8を設けたが、洗浄液噴射部7とシリンダブロック1(支持部13)とが相対的に接近移動して壁部10が形成されたときに、シリンダヘッド1の衝合面2に噴射口8が接触しないのであれば、噴射口8は洗浄液噴射部7の下面7aよりも下方に突設されていても構わない。すなわち、噴射口8は、壁部10の厚み(高さ)寸法を超えない範囲で、洗浄液噴射部7の下面7aよりも下方に突設させても良い。
【0033】
また、以上に示した実施形態では、シリンダヘッド1の衝合面2に設けた第1分割壁部6,6と、洗浄液噴射部7の下面7aに設けた第2分割壁部9,9とを組み合わせることで、シリンダヘッド1の衝合面2の周縁部に壁部10を立設するようにしたが、これはあくまでも一例に過ぎない。すなわち、壁部10と、シリンダヘッド1の衝合面2と、洗浄液噴射部7の下面7aとで密封空間11を画成することができるのであれば、壁部10を構成する第1及び第2分割壁部6,9の形状や組み合わせ態様は任意に設定することができる。また、ウォータージャケットWJの洗浄時に、シリンダヘッド1を適切な態様で支持(保持)できるのであれば、壁部10は、シリンダヘッド1の衝合面2、あるいはこれに対向する洗浄液噴射部7の下面7aの何れか一方に設けた無端状の筒状部材で構成することもできる。
【0034】
また、本発明に係るシリンダヘッド1の洗浄方法(ウォータージャケットWJの洗浄方法)は、シリンダヘッド1の衝合面2に開口した孔部を介してウォータージャケットWJ内に洗浄液12を流入させる場合のみならず、シリンダヘッド1の側面3,4や上面に開口した孔部を介してウォータージャケットWJ内に洗浄液12を流入させる場合にも好ましく適用することができる。
【0035】
なお、シリンダヘッド1に対する穿孔加工(機械加工)は、シリンダヘッド1の上面や側面3,4から衝合面2側に向かって施される場合が多く、また、ウォータージャケットWJは衝合面2付近に設けられる場合が多い。そのため、以上で示した場合のようにシリンダヘッド1の衝合面2に開口した孔部を介してウォータージャケットWJ内に洗浄液12を流入させ、この流入した洗浄液12を側面3,4や上面に開口した孔部から排出するようにすれば、切粉の除去効果が特に高まるという利点がある。
【符号の説明】
【0036】
1 シリンダヘッド
2 (シリンダブロックとの)衝合面
6 第1分割壁部
7 洗浄液噴射部
8 洗浄液噴射口
9 第2分割壁部
10 壁部
11 密封空間
12 洗浄液
13 支持部
T11,T12,T21,T22 テーパ面
WJ ウォータージャケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にウォータージャケットを有し、該ウォータージャケットに連通する孔部が多面に開口したシリンダヘッドを洗浄するための方法であって、
シリンダヘッドのうち任意に選択した一面に開口した孔部を介して洗浄液を前記ウォータージャケットに流入させ、前記一面とは異なる面に開口した孔部から洗浄液を排出することで前記ウォータージャケットを洗浄するウォータージャケット洗浄工程を含み、
前記ウォータージャケット洗浄工程では、洗浄液噴射部に設けた洗浄液噴射口をシリンダヘッドの前記一面に対向配置すると共に、前記一面、前記一面の周縁部に沿って立設した壁部、及び前記洗浄液噴射部のうち前記一面との対向面で密封空間を画成し、該密封空間に向けて前記洗浄液噴射口から噴射した洗浄液を前記ウォータージャケットに流入させることを特徴とするシリンダヘッドの洗浄方法。
【請求項2】
シリンダヘッドの前記一面に設けた周方向で有端の第1分割壁部と、前記洗浄液噴射部の前記対向面に設けた周方向で有端の第2分割壁部とで前記壁部が構成されるようになっている請求項1に記載のシリンダヘッドの洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−72726(P2012−72726A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219154(P2010−219154)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】