シリーズスポット溶接方法及び被溶接材構造
【課題】溶接電流の密度を高めて溶接する態様において、品質の安定性、作業性等の向上、及び設計上、構造上の制約の低減、コスト低減を為し得るシリーズスポット溶接方法及び被溶接材構造を提供する。
【解決手段】重ね合わせた2枚の被溶接材21,22の一方の表面に、離間する一対の電極15,16を加圧接触させ、両電極15,16間に電流を流して2枚の被溶接材21,22を溶接するシリーズスポット溶接方法において、被溶接材21,22の少なくとも1枚に突起23を材間側へ設けて2枚の被溶接材21,22の間に隙間24を形成し、一対の電極15,16を加圧接触させる際には、一対の電極15,16を被溶接材21,22の面部から押し当てて隙間24を押し潰すように被溶接材21,22を変形させて溶接する。
【解決手段】重ね合わせた2枚の被溶接材21,22の一方の表面に、離間する一対の電極15,16を加圧接触させ、両電極15,16間に電流を流して2枚の被溶接材21,22を溶接するシリーズスポット溶接方法において、被溶接材21,22の少なくとも1枚に突起23を材間側へ設けて2枚の被溶接材21,22の間に隙間24を形成し、一対の電極15,16を加圧接触させる際には、一対の電極15,16を被溶接材21,22の面部から押し当てて隙間24を押し潰すように被溶接材21,22を変形させて溶接する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリーズスポット溶接方法及び被溶接材構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、車体のフレームを構成するメンバやパネル等を溶接する際には、ダイレクトスポット溶接やシリーズスポット溶接が行なわれている。
【0003】
ダイレクトスポット溶接は、図9に示す如く、重ね合わせた2枚の鋼板1,2を上下方向の電極3,4で挟み込み、加圧して溶接電流を流すことにより、鋼板1,2の抵抗発熱を利用してスポット状の溶接部5を形成するものである。
【0004】
シリーズスポット溶接は、図10に示す如く、重ね合わせた2枚の鋼板1,2の一方の表面に、離間する一対の電極6,7を加圧接触させ、両電極間に電流を流すことにより、鋼板1,2の抵抗発熱を利用して2点のスポット状の溶接部8を形成するものである。
【0005】
ここで、具体的なシリーズスポット溶接の一例には、電極6,7間に電流を流す際に問題となる鋼板1に沿って流れる無効電流を低減させるため、図11に示す如く、2枚の鋼板1,2の下側に、鋼板1,2間の加圧接触面を流れる電流を増加方向に制御するバック電極9を配置し、鋼板2のみならず電極9に沿って流れる電流が組み合わさることにより、2点のスポット状の溶接部(図示せず)を好適に形成するものがある。なお、バック電極9を配しない場合には、図12に示す如く、上板に流れる電流が大きくなる一方で下板に流れる電流は小さくなるため、溶接に寄与する有効電流が低減し、2枚の鋼板1、2の面精度によって接触面積が大きくなる場合は特に、期待した電流密度は得られず、溶接部(図示せず)を適切に形成することができない。
【0006】
具体的なシリーズスポット溶接の他例には、前記溶接の不良率の低下を目的とし、上下金属板の抵抗値比率と上下金属板間の接触抵抗で決まる下金属板側への電流絶対値を増加させるため、両電極6,7間の電流値を溶接初期工程だけ一時的に定常電流の1.5倍以上とし、上下金属板間の加圧接触面が溶けることで通電しやすくなった後には、電流を定常電流に戻し、相対的に電気が流れやすい上金属板の過電流による亀裂発生を食い止め、一定のナゲット径を得るものがある。又、このシリーズスポット溶接は、1.5倍以上の定常電流を流す際に、上下金属板間の接触抵抗を下げるように電極の金属板に対する加圧力を一時的に1.1倍以上にし、その後、定常電流を通常値に戻した際に、電極の金属板に対する加圧力を元に戻すものである(例えば、特許文献1参照)。ここで、このシリーズスポット溶接では、溶接初期工程で電極6,7間の電流値を増加させ、更に加圧力を上げることにより、一時的に上下金属板間の電流絶対値を増加させ、更に接触抵抗の低下及び接触面積の低下を促し、これらを組み合わせることで、電流密度を高め、不良率の低下を図っている。
【0007】
具体的なシリーズスポット溶接の別例には、バック電極なしに十分な強度を得ることを目的とし、図13に示す如く、上側の鋼板10に一段高い座面11を複数設け、2枚の鋼板10,12を溶接する際には、溶接装置の電極6,7で座面11を押し潰して2枚の鋼板10,12を点接触させ、スポット状の溶接部(図示せず)を好適に形成するものがある(例えば、特許文献2参照)。ここで、2枚の鋼板10,12が点接触した状態では、通電経路の絞りにより、電流密度を高めている。
【特許文献1】特開平11−333569号公報
【特許文献2】特開2002−239742号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ダイレクトスポット溶接では、ボックス断面形状の袋部位に対して溶接ができず、作業穴を設けて溶接を行なう必要があった。又、作業穴を設ける場合には、設計や構造上、制約があり、剛性や強度面が低下するという問題があった。更に、ダイレクトスポット溶接方法では、ダイレクトスポット溶接の装置が大型化すると共に1通電で1溶接部しかできないため、装置の出し入れ等に手間がかかり、コスト、生産性、作業性で劣るという問題があった。
【0009】
一方、シリーズスポット溶接の一例の如く、バック電極9を用いる場合には、バック電極9により設備費が増加すると共に、品質の安定性、作業性、保安性が悪いという問題があった。
【0010】
シリーズスポット溶接の他例の如く、初期電流を大きくする場合は、電力消費が大きくなると共に高い加圧力が必要であった。又、電流絶対値と加圧力を変更する必要があるため、品質が安定せず、作業性も悪化するという問題があった。更に、加圧力が高いため(250kgf)、ロボット等の使用が必要になると共に、溶接部位の変形を防止するワーク裏側の抑え部材が必要となり、設備費が増大するという問題があった。更に又、高い加圧力により溶接に適用できる部位が制限されると共に人力で作業することができないという問題があった。
【0011】
シリーズスポット溶接の別例の如く、座面11を設ける場合には、溶接装置の電極6,7で座面11を正確に押し潰すように電極6,7をセット位置へ正確に配置する必要があるため、電極6,7のセット態様によって溶接品質が大きく左右され、品質が安定せず、作業性も悪化するという問題があった。又、溶接の際には一定の荷重が必要になるため、下板側板圧アップ又は剛性を持たせた形状等が必要となると共に、大量生産で溶接タクトが短い場合には、座面11を正確に押し潰すロボット等の使用が必要になり、設備費が増大するという問題があった。更に、座面11は、電極6,7のセット位置を考慮した場合、溶接不良にならぬよう、ある程度の大きさが必要になると共に、座面11を設定するスペースや、溶接後に残る突起の外観形状から、溶接に適用できる部位が制限され、設計上、構造上の制約があった。更に又、座面11を押し潰す際には、一定の荷重(50kgf)が必要になると共に、適用できる部位を拡大し得るように座面11を小さくした場合には、更に荷重が大きくなることから、人力で作業することが困難であった。又、座面11をワークに設定する場合には、型に座面11を設けるための肉盛りが必要で、特に座面の精度修正等を行う場合には改造が大掛かりになるという問題があった。
【0012】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、溶接電流の密度を高めて溶接する態様において、品質の安定性、作業性等の向上、及び設計上、構造上の制約の低減、コスト低減を為し得るシリーズスポット溶接方法及び被溶接材構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、重ね合わせた2枚の被溶接材の一方の表面に、離間する一対の電極を加圧接触させ、両電極間に電流を流して2枚の被溶接材を溶接するシリーズスポット溶接方法において、被溶接材の少なくとも1枚に突起を材間側へ設けて2枚の被溶接材の間に隙間を形成し、一対の電極を加圧接触させる際には、一対の電極を被溶接材の面部から押し当てて隙間を押し潰すように被溶接材を変形させて溶接することを特徴とするシリーズスポット溶接方法、に係るものである。
【0014】
又、本発明において、複数の突起を備えた被溶接材の一方の表面へ一対の電極を押し当てる際には、突起の間の面部を押圧し溶接することが好ましい。
【0015】
本発明は、重ね合わせた2枚の被溶接材の一方の表面に、離間する一対の電極を加圧接触させ、両電極間に電流を流して溶接する被溶接材構造において、被溶接材の少なくとも1枚に突起を材間側へ設けて2枚の被溶接材の間に隙間を形成するように構成したことを特徴とする被溶接材構造、に係るものである。
【0016】
而して、このように本発明によれば、隙間を押し潰して2枚の被溶接材を点接触させるので、電流密度を高めて溶接することができる。同時に1通電で1溶接部しかできないダイレクトスポット溶接と異なり、1通電で2溶接部を形成するので、手間を低減し、コスト、生産性、作業性を向上することができる。又、被溶接材の一方の表面から溶接し得るので、袋部位等の溶接に際して作業穴を設けることを不要にし、設計や構造上の制約を少なくし、同時に剛性や強度面の低下を防止することができる。
【0017】
又、通常のシリーズスポット溶接に比べ、バック電極を不要にするので、設備費の増加を防止すると共に、電流密度を高める溶接において品質の安定性、作業性、保安性を向上すると共に、設計上、構造上の制約の低減を為し得ることができる。
【0018】
更に、初期電流を大きくするシリーズスポット溶接と異なり、電流絶対値と加圧力を変更する必要がないめ、品質の安定性、作業性を向上することができる。又、ワーク裏側の抑え部材を不要にして設備費の増加を防止することができる。更に、高い加圧力を不要にするので、溶接に適用できる部位の制限を緩和することができる。
【0019】
更に又、座面を設けるシリーズスポット溶接と異なり、電極で押し潰す部分を面部にするので、電極の目標とする部分を正確に狙う作業を不要にして被溶接材の押し潰しを容易にし、2枚の設計上、構造上の制約が少ない被溶接材を適切に溶接して品質の安定性、作業性を向上すること、及びコスト低減を図ることができる。又、ワーク裏側の抑え部材を不要にすると共に、人力での作業も可能となるため、設備費を必要最小限にすることができる。更に、座面のスペースを考慮する必要がなく、溶接後に残る突起の凹凸も小さいことから、溶接に適用できる部位の制限を緩和し、設計上、構造上の制約を少なくすることができる。更に又、座面を形成するように型を改造する場合に比べて、突起を形成するための型を改修する場合は簡単である。
【0020】
複数の突起を備えた被溶接材の一方の表面へ一対の電極を押し当てる際に、突起の間の面部を押圧し溶接すると、隙間を極めて容易に潰して2枚の被溶接材を好適に溶接し、品質の安定性、作業性を大幅に向上することができる。
【発明の効果】
【0021】
上記した本発明のシリーズスポット溶接方法及び被溶接材構造によれば、溶接電流の密度を高めて溶接する態様において、品質の安定性、作業性等の向上、及び設計上、構造上の制約の低減、コスト低減を行うことができる等種々の優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0023】
図1〜図6は本発明を実施する形態の一例を示すもので、本形態例のシリーズスポット溶接の装置13は、本体に加圧部14を介して離間する一対の電極15,16を備えると共に、電源から配線17を介して一対の電極15,16に電流を流すようコンタクタ18及び溶接変圧器19を備え、更にコンタクタ18には制御部20を備えて電流を制御するようにしている。ここで、シリーズスポット溶接の装置13は、作業ロボットに取り付ける取付タイプでも良いし、作業者が使用するポータブルタイプでも良い。又、離間する一対の電極15,16は、定位置式でも良いし、電極15,16間のピッチ(間隔)を変更、又は被溶接材21の加圧面に夫々の電極が略垂直に加圧可能な可変式でも良い。
【0024】
一方、シリーズスポット溶接に適用する2枚の被溶接材21,22は、少なくとも一枚の被溶接材21,22に複数の突起23を備えている。ここで、被溶接材21,22は、鋼板等の金属板が好ましいが、シリーズスポット溶接で溶接し得るものならば特に限定されるものではない。又、2枚の被溶接材21,22は、一方に突起23を設けて他方を平面板にしても良いし、両方に突起23を設けても良い。更に、突起23は、丸状、長丸状等、どのような形状でも良いし、裏面から加圧して形成されるものや、平面板に突起状の部材を取り付けるものでも良い。又、突起23の方向や間隔は特に限定されるものではないが、一対の電極15,16のピッチと略同じにすることが好ましい。
【0025】
又、2枚の被溶接材21,22を重ね合わせる際には、突起23を重ね合わせ面の内側へ向けるよう被溶接材21,22板を重ね合わせ、突起23により2枚の被溶接材21,22の間に隙間24を形成するようにしている。ここで、突起23はいずれか1枚の被溶接材21,22に設けても良いし、2枚の被溶接材21,22に夫々設けても良い。
【0026】
以下本発明の実施の形態のシリーズスポット溶接方法を説明する。
【0027】
2枚の被溶接材21,22(被溶接材)を溶接する際には、被溶接材21,22の少なくとも1枚に突起23を設けた後、突起23を重ね合わせ面(材間側)へ向けるよう被溶接材21,22を重ね合わせ、突起23により2枚の被溶接材21,22の間に隙間24を形成し、図1に示す如く、クランプ等の挟込手段25を用いて2枚の被溶接材21,22を固定する。次に、シリーズスポット溶接の装置13により一対の電極15,16を2枚の被溶接材21,22の上方に配置し、一対の電極15,16を被溶接材21,22の一方の表面から平面や曲面等の面部(非突起部)に押し当て、図3に示す如く、加圧力により突起23を支点とするように被溶接材21,22を変形させ、隙間24を押し潰す。続いて、図4に示す如く、加圧力の変形により上側の被溶接材21を下側の被溶接材22に板界面で点接触させ、通電を開始する。ここで点接触では、低加圧力により接触抵抗が大きく、電流密度が高い状態となっている。更に点接触の状態で、図5に示す如く、一対の電極15,16の間で所定の電流を一定のサイクルで通電し、2枚の被溶接材21,22に溶接部26を形成する。その後、通電を終了し、一対の電極15,16をそのままの状態にして2枚の被溶接材21,22を保持し、所定時間冷却する。次に、保持及び冷却が完了した後は、図6に示す如く、一対の電極15,16を被溶接材21,22から引き離して加工の開始位置まで戻し、全ての工程を完了する。
【0028】
ここで、図7に示す如く、上側の被溶接材21に突起23を備えた状態で一対の電極15,16を押し当てる際には、突起23を目印にして突起23の間の面部を押圧することも可能である。又、電極15,16を押し当てる位置は、隙間24を押し潰し得る面部ならば特に限定されるものではない。
【0029】
以下、実験例として、本発明の二つの例で施工したものと、他の比較例で施工したものとを引張せん断強度で夫々比較して図8に示す。
【0030】
本発明の一例は、上側の被溶接材を平面板にすると共に下側の被溶接材を突起付きの平面板にし、本発明の他例は、上側の被溶接材を突起付き平面板にすると共に下側の被溶接材を平面板にしている。一方、比較例のシリーズスポット溶接の例(図8はa)は、上側の被溶接材及び下側の被溶接材を平面板にし、比較例のダイレクトスポット溶接の例(図8のA)は、上記被溶接材でのチリ限界電流の条件での適用を示している。
【0031】
ここで、本発明の二つの例及び他の比較例に用いる被溶接材の平面板は、夫々上側の被溶接材を、板厚0.8mmの鋼板にすると共に、下側の被溶接材を、板厚1.6mmの鋼板にしている。
【0032】
又、本発明の二つの例及び他の比較例の引張せん断強度を、図8に示す。
【0033】
その結果、本発明の二つの例のシリーズスポット溶接は、比較例のダイレクトスポット溶接(A)に比べて約6分の1の低加圧力(30kgf)で溶接可能となり、引張せん断強度に関して、本発明の他例では、比較例のダイレクトスポット溶接(A)と略同じ値を示し、本発明の一例も含め、JIS規格B級:3.14KNの引張せん断強度を満足した。又、比較例のシリーズスポット溶接(a)に比べて、1.4倍以上の高い引張せん断強度が得られた。
【0034】
以上のことから、本発明の例は、一対の電極15,16によりダイレクトスポット溶接に比べて略同じ電流値で2倍の溶接を行なうことができると共に、加圧力を大幅に低減することが明らかである。又、シリーズスポット溶接においても、突起なしの平面板を2枚重ね合わせたものに比べて引張せん断強度が高く、2枚の溶接の状態が良好であることが明らかである。
【0035】
このように、本発明の実施例によれば、2枚の被溶接材21,22を溶接する際には、隙間24を押し潰して2枚の被溶接材21,22を点接触させるので、電流密度を高めて溶接することができる。1通電で1溶接部しかできないダイレクトスポット溶接と異なり、1通電で2溶接部を形成し得るので、手間を低減し、コスト、生産性、作業性を向上することができる。又、低加圧力で2枚の被溶接材21,22を溶接して品質の安定性、作業性を向上することができる。更に、被溶接材21,22の一方の表面から溶接し得るので、袋部位等の溶接に際して作業穴を設けることを不要にし、設計や構造上の制約を少なくし、同時に剛性や強度面の低下を防止することができる。
【0036】
又、通常のシリーズスポット溶接に比べ、バック電極を不要にするので、設備費の増加を防止すると共に、品質の安定性、作業性、保安性を向上すると共に、設計上、構造上の制約の低減を為し得ることができる。
【0037】
更に、初期電流を大きくするシリーズスポット溶接と異なり、電流絶対値と加圧力を変更する必要がないため、品質の安定性、作業性を向上することができる。又、ワーク裏側の抑え部材をほとんど不要にして設備費の増加を防止することができる。更に、高い加圧力を不要にするので、溶接に適用できる部位の制限を大幅に緩和することができる。
【0038】
更に又、座面を設けるシリーズスポット溶接と異なり、電極15,16で押し潰す部分を面部にするので、電極15,16の目標とする部分を正確に狙う作業を不要にして被溶接材21,22の押し潰しを容易にし、2枚の設計上、構造上の制約が少ない被溶接材21,22を適切に溶接して品質の安定性、作業性を向上すること、及びコスト低減を図ることができる。又、ワーク裏側の抑え部材をほとんど不要にすると共に、人力での作業も可能となるため、設備費を必要最小限にすることができる。更に、座面のスペースを考慮する必要がなく、溶接後に残る突起23の凹凸が小さいことから、溶接に適用できる部位の制限を緩和し、設計上、構造上の制約を少なくすることができる。更に又、座面を形成するような型とする場合に比べて、特に座面の精度修正等を行う場合は簡単である。
【0039】
複数の突起23を備えた被溶接材21,22の一方の表面へ一対の電極15,16を押し当てる際に、突起23を目印にして突起23の間の面部を押圧すると、隙間24を極めて容易に潰して2枚の被溶接材21,22を好適に溶接し、品質の安定性、作業性を大幅に向上することができる。ここで、突起23の配置は、特に限定されるものではないが、突起23を所定の間隔で複数形成した場合には、2枚の被溶接材21,22の隙間24を均一的に構成し、2枚の被溶接材21,22を好適に溶接し、品質の安定性、作業性を大幅に向上することができる。
【0040】
尚、本発明のシリーズスポット溶接方法及び被溶接材構造は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明を実施する形態の一例を示す概略図である。
【図2】図1のII−II矢視図である。
【図3】電極での加圧を開始した状態を示す概念図である。
【図4】通電を開始した状態を示す概念図である。
【図5】通電を完了した状態を示す概念図である。
【図6】溶接を完了した状態を示す概念図である。
【図7】上側の被溶接材に突起を備えた状態において電極での加圧を行い、通電を開始した状態を示す概念図である。
【図8】本発明と比較例を比較した表である。
【図9】一般のダイレクトスポット溶接を示す概略図である。
【図10】シリーズスポット溶接(バック電極なし)を示す概略図である。
【図11】従来のシリーズスポット溶接の一例を示す概略図である。
【図12】バック電極なしのシリーズスポット溶接において2枚の被溶接材を平面板にした場合を示す概略図である。
【図13】従来のシリーズスポット溶接(バック電極なし)の他例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0042】
15 電極
16 電極
21 被溶接材
22 被溶接材
23 突起
24 隙間
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリーズスポット溶接方法及び被溶接材構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、車体のフレームを構成するメンバやパネル等を溶接する際には、ダイレクトスポット溶接やシリーズスポット溶接が行なわれている。
【0003】
ダイレクトスポット溶接は、図9に示す如く、重ね合わせた2枚の鋼板1,2を上下方向の電極3,4で挟み込み、加圧して溶接電流を流すことにより、鋼板1,2の抵抗発熱を利用してスポット状の溶接部5を形成するものである。
【0004】
シリーズスポット溶接は、図10に示す如く、重ね合わせた2枚の鋼板1,2の一方の表面に、離間する一対の電極6,7を加圧接触させ、両電極間に電流を流すことにより、鋼板1,2の抵抗発熱を利用して2点のスポット状の溶接部8を形成するものである。
【0005】
ここで、具体的なシリーズスポット溶接の一例には、電極6,7間に電流を流す際に問題となる鋼板1に沿って流れる無効電流を低減させるため、図11に示す如く、2枚の鋼板1,2の下側に、鋼板1,2間の加圧接触面を流れる電流を増加方向に制御するバック電極9を配置し、鋼板2のみならず電極9に沿って流れる電流が組み合わさることにより、2点のスポット状の溶接部(図示せず)を好適に形成するものがある。なお、バック電極9を配しない場合には、図12に示す如く、上板に流れる電流が大きくなる一方で下板に流れる電流は小さくなるため、溶接に寄与する有効電流が低減し、2枚の鋼板1、2の面精度によって接触面積が大きくなる場合は特に、期待した電流密度は得られず、溶接部(図示せず)を適切に形成することができない。
【0006】
具体的なシリーズスポット溶接の他例には、前記溶接の不良率の低下を目的とし、上下金属板の抵抗値比率と上下金属板間の接触抵抗で決まる下金属板側への電流絶対値を増加させるため、両電極6,7間の電流値を溶接初期工程だけ一時的に定常電流の1.5倍以上とし、上下金属板間の加圧接触面が溶けることで通電しやすくなった後には、電流を定常電流に戻し、相対的に電気が流れやすい上金属板の過電流による亀裂発生を食い止め、一定のナゲット径を得るものがある。又、このシリーズスポット溶接は、1.5倍以上の定常電流を流す際に、上下金属板間の接触抵抗を下げるように電極の金属板に対する加圧力を一時的に1.1倍以上にし、その後、定常電流を通常値に戻した際に、電極の金属板に対する加圧力を元に戻すものである(例えば、特許文献1参照)。ここで、このシリーズスポット溶接では、溶接初期工程で電極6,7間の電流値を増加させ、更に加圧力を上げることにより、一時的に上下金属板間の電流絶対値を増加させ、更に接触抵抗の低下及び接触面積の低下を促し、これらを組み合わせることで、電流密度を高め、不良率の低下を図っている。
【0007】
具体的なシリーズスポット溶接の別例には、バック電極なしに十分な強度を得ることを目的とし、図13に示す如く、上側の鋼板10に一段高い座面11を複数設け、2枚の鋼板10,12を溶接する際には、溶接装置の電極6,7で座面11を押し潰して2枚の鋼板10,12を点接触させ、スポット状の溶接部(図示せず)を好適に形成するものがある(例えば、特許文献2参照)。ここで、2枚の鋼板10,12が点接触した状態では、通電経路の絞りにより、電流密度を高めている。
【特許文献1】特開平11−333569号公報
【特許文献2】特開2002−239742号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ダイレクトスポット溶接では、ボックス断面形状の袋部位に対して溶接ができず、作業穴を設けて溶接を行なう必要があった。又、作業穴を設ける場合には、設計や構造上、制約があり、剛性や強度面が低下するという問題があった。更に、ダイレクトスポット溶接方法では、ダイレクトスポット溶接の装置が大型化すると共に1通電で1溶接部しかできないため、装置の出し入れ等に手間がかかり、コスト、生産性、作業性で劣るという問題があった。
【0009】
一方、シリーズスポット溶接の一例の如く、バック電極9を用いる場合には、バック電極9により設備費が増加すると共に、品質の安定性、作業性、保安性が悪いという問題があった。
【0010】
シリーズスポット溶接の他例の如く、初期電流を大きくする場合は、電力消費が大きくなると共に高い加圧力が必要であった。又、電流絶対値と加圧力を変更する必要があるため、品質が安定せず、作業性も悪化するという問題があった。更に、加圧力が高いため(250kgf)、ロボット等の使用が必要になると共に、溶接部位の変形を防止するワーク裏側の抑え部材が必要となり、設備費が増大するという問題があった。更に又、高い加圧力により溶接に適用できる部位が制限されると共に人力で作業することができないという問題があった。
【0011】
シリーズスポット溶接の別例の如く、座面11を設ける場合には、溶接装置の電極6,7で座面11を正確に押し潰すように電極6,7をセット位置へ正確に配置する必要があるため、電極6,7のセット態様によって溶接品質が大きく左右され、品質が安定せず、作業性も悪化するという問題があった。又、溶接の際には一定の荷重が必要になるため、下板側板圧アップ又は剛性を持たせた形状等が必要となると共に、大量生産で溶接タクトが短い場合には、座面11を正確に押し潰すロボット等の使用が必要になり、設備費が増大するという問題があった。更に、座面11は、電極6,7のセット位置を考慮した場合、溶接不良にならぬよう、ある程度の大きさが必要になると共に、座面11を設定するスペースや、溶接後に残る突起の外観形状から、溶接に適用できる部位が制限され、設計上、構造上の制約があった。更に又、座面11を押し潰す際には、一定の荷重(50kgf)が必要になると共に、適用できる部位を拡大し得るように座面11を小さくした場合には、更に荷重が大きくなることから、人力で作業することが困難であった。又、座面11をワークに設定する場合には、型に座面11を設けるための肉盛りが必要で、特に座面の精度修正等を行う場合には改造が大掛かりになるという問題があった。
【0012】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、溶接電流の密度を高めて溶接する態様において、品質の安定性、作業性等の向上、及び設計上、構造上の制約の低減、コスト低減を為し得るシリーズスポット溶接方法及び被溶接材構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、重ね合わせた2枚の被溶接材の一方の表面に、離間する一対の電極を加圧接触させ、両電極間に電流を流して2枚の被溶接材を溶接するシリーズスポット溶接方法において、被溶接材の少なくとも1枚に突起を材間側へ設けて2枚の被溶接材の間に隙間を形成し、一対の電極を加圧接触させる際には、一対の電極を被溶接材の面部から押し当てて隙間を押し潰すように被溶接材を変形させて溶接することを特徴とするシリーズスポット溶接方法、に係るものである。
【0014】
又、本発明において、複数の突起を備えた被溶接材の一方の表面へ一対の電極を押し当てる際には、突起の間の面部を押圧し溶接することが好ましい。
【0015】
本発明は、重ね合わせた2枚の被溶接材の一方の表面に、離間する一対の電極を加圧接触させ、両電極間に電流を流して溶接する被溶接材構造において、被溶接材の少なくとも1枚に突起を材間側へ設けて2枚の被溶接材の間に隙間を形成するように構成したことを特徴とする被溶接材構造、に係るものである。
【0016】
而して、このように本発明によれば、隙間を押し潰して2枚の被溶接材を点接触させるので、電流密度を高めて溶接することができる。同時に1通電で1溶接部しかできないダイレクトスポット溶接と異なり、1通電で2溶接部を形成するので、手間を低減し、コスト、生産性、作業性を向上することができる。又、被溶接材の一方の表面から溶接し得るので、袋部位等の溶接に際して作業穴を設けることを不要にし、設計や構造上の制約を少なくし、同時に剛性や強度面の低下を防止することができる。
【0017】
又、通常のシリーズスポット溶接に比べ、バック電極を不要にするので、設備費の増加を防止すると共に、電流密度を高める溶接において品質の安定性、作業性、保安性を向上すると共に、設計上、構造上の制約の低減を為し得ることができる。
【0018】
更に、初期電流を大きくするシリーズスポット溶接と異なり、電流絶対値と加圧力を変更する必要がないめ、品質の安定性、作業性を向上することができる。又、ワーク裏側の抑え部材を不要にして設備費の増加を防止することができる。更に、高い加圧力を不要にするので、溶接に適用できる部位の制限を緩和することができる。
【0019】
更に又、座面を設けるシリーズスポット溶接と異なり、電極で押し潰す部分を面部にするので、電極の目標とする部分を正確に狙う作業を不要にして被溶接材の押し潰しを容易にし、2枚の設計上、構造上の制約が少ない被溶接材を適切に溶接して品質の安定性、作業性を向上すること、及びコスト低減を図ることができる。又、ワーク裏側の抑え部材を不要にすると共に、人力での作業も可能となるため、設備費を必要最小限にすることができる。更に、座面のスペースを考慮する必要がなく、溶接後に残る突起の凹凸も小さいことから、溶接に適用できる部位の制限を緩和し、設計上、構造上の制約を少なくすることができる。更に又、座面を形成するように型を改造する場合に比べて、突起を形成するための型を改修する場合は簡単である。
【0020】
複数の突起を備えた被溶接材の一方の表面へ一対の電極を押し当てる際に、突起の間の面部を押圧し溶接すると、隙間を極めて容易に潰して2枚の被溶接材を好適に溶接し、品質の安定性、作業性を大幅に向上することができる。
【発明の効果】
【0021】
上記した本発明のシリーズスポット溶接方法及び被溶接材構造によれば、溶接電流の密度を高めて溶接する態様において、品質の安定性、作業性等の向上、及び設計上、構造上の制約の低減、コスト低減を行うことができる等種々の優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0023】
図1〜図6は本発明を実施する形態の一例を示すもので、本形態例のシリーズスポット溶接の装置13は、本体に加圧部14を介して離間する一対の電極15,16を備えると共に、電源から配線17を介して一対の電極15,16に電流を流すようコンタクタ18及び溶接変圧器19を備え、更にコンタクタ18には制御部20を備えて電流を制御するようにしている。ここで、シリーズスポット溶接の装置13は、作業ロボットに取り付ける取付タイプでも良いし、作業者が使用するポータブルタイプでも良い。又、離間する一対の電極15,16は、定位置式でも良いし、電極15,16間のピッチ(間隔)を変更、又は被溶接材21の加圧面に夫々の電極が略垂直に加圧可能な可変式でも良い。
【0024】
一方、シリーズスポット溶接に適用する2枚の被溶接材21,22は、少なくとも一枚の被溶接材21,22に複数の突起23を備えている。ここで、被溶接材21,22は、鋼板等の金属板が好ましいが、シリーズスポット溶接で溶接し得るものならば特に限定されるものではない。又、2枚の被溶接材21,22は、一方に突起23を設けて他方を平面板にしても良いし、両方に突起23を設けても良い。更に、突起23は、丸状、長丸状等、どのような形状でも良いし、裏面から加圧して形成されるものや、平面板に突起状の部材を取り付けるものでも良い。又、突起23の方向や間隔は特に限定されるものではないが、一対の電極15,16のピッチと略同じにすることが好ましい。
【0025】
又、2枚の被溶接材21,22を重ね合わせる際には、突起23を重ね合わせ面の内側へ向けるよう被溶接材21,22板を重ね合わせ、突起23により2枚の被溶接材21,22の間に隙間24を形成するようにしている。ここで、突起23はいずれか1枚の被溶接材21,22に設けても良いし、2枚の被溶接材21,22に夫々設けても良い。
【0026】
以下本発明の実施の形態のシリーズスポット溶接方法を説明する。
【0027】
2枚の被溶接材21,22(被溶接材)を溶接する際には、被溶接材21,22の少なくとも1枚に突起23を設けた後、突起23を重ね合わせ面(材間側)へ向けるよう被溶接材21,22を重ね合わせ、突起23により2枚の被溶接材21,22の間に隙間24を形成し、図1に示す如く、クランプ等の挟込手段25を用いて2枚の被溶接材21,22を固定する。次に、シリーズスポット溶接の装置13により一対の電極15,16を2枚の被溶接材21,22の上方に配置し、一対の電極15,16を被溶接材21,22の一方の表面から平面や曲面等の面部(非突起部)に押し当て、図3に示す如く、加圧力により突起23を支点とするように被溶接材21,22を変形させ、隙間24を押し潰す。続いて、図4に示す如く、加圧力の変形により上側の被溶接材21を下側の被溶接材22に板界面で点接触させ、通電を開始する。ここで点接触では、低加圧力により接触抵抗が大きく、電流密度が高い状態となっている。更に点接触の状態で、図5に示す如く、一対の電極15,16の間で所定の電流を一定のサイクルで通電し、2枚の被溶接材21,22に溶接部26を形成する。その後、通電を終了し、一対の電極15,16をそのままの状態にして2枚の被溶接材21,22を保持し、所定時間冷却する。次に、保持及び冷却が完了した後は、図6に示す如く、一対の電極15,16を被溶接材21,22から引き離して加工の開始位置まで戻し、全ての工程を完了する。
【0028】
ここで、図7に示す如く、上側の被溶接材21に突起23を備えた状態で一対の電極15,16を押し当てる際には、突起23を目印にして突起23の間の面部を押圧することも可能である。又、電極15,16を押し当てる位置は、隙間24を押し潰し得る面部ならば特に限定されるものではない。
【0029】
以下、実験例として、本発明の二つの例で施工したものと、他の比較例で施工したものとを引張せん断強度で夫々比較して図8に示す。
【0030】
本発明の一例は、上側の被溶接材を平面板にすると共に下側の被溶接材を突起付きの平面板にし、本発明の他例は、上側の被溶接材を突起付き平面板にすると共に下側の被溶接材を平面板にしている。一方、比較例のシリーズスポット溶接の例(図8はa)は、上側の被溶接材及び下側の被溶接材を平面板にし、比較例のダイレクトスポット溶接の例(図8のA)は、上記被溶接材でのチリ限界電流の条件での適用を示している。
【0031】
ここで、本発明の二つの例及び他の比較例に用いる被溶接材の平面板は、夫々上側の被溶接材を、板厚0.8mmの鋼板にすると共に、下側の被溶接材を、板厚1.6mmの鋼板にしている。
【0032】
又、本発明の二つの例及び他の比較例の引張せん断強度を、図8に示す。
【0033】
その結果、本発明の二つの例のシリーズスポット溶接は、比較例のダイレクトスポット溶接(A)に比べて約6分の1の低加圧力(30kgf)で溶接可能となり、引張せん断強度に関して、本発明の他例では、比較例のダイレクトスポット溶接(A)と略同じ値を示し、本発明の一例も含め、JIS規格B級:3.14KNの引張せん断強度を満足した。又、比較例のシリーズスポット溶接(a)に比べて、1.4倍以上の高い引張せん断強度が得られた。
【0034】
以上のことから、本発明の例は、一対の電極15,16によりダイレクトスポット溶接に比べて略同じ電流値で2倍の溶接を行なうことができると共に、加圧力を大幅に低減することが明らかである。又、シリーズスポット溶接においても、突起なしの平面板を2枚重ね合わせたものに比べて引張せん断強度が高く、2枚の溶接の状態が良好であることが明らかである。
【0035】
このように、本発明の実施例によれば、2枚の被溶接材21,22を溶接する際には、隙間24を押し潰して2枚の被溶接材21,22を点接触させるので、電流密度を高めて溶接することができる。1通電で1溶接部しかできないダイレクトスポット溶接と異なり、1通電で2溶接部を形成し得るので、手間を低減し、コスト、生産性、作業性を向上することができる。又、低加圧力で2枚の被溶接材21,22を溶接して品質の安定性、作業性を向上することができる。更に、被溶接材21,22の一方の表面から溶接し得るので、袋部位等の溶接に際して作業穴を設けることを不要にし、設計や構造上の制約を少なくし、同時に剛性や強度面の低下を防止することができる。
【0036】
又、通常のシリーズスポット溶接に比べ、バック電極を不要にするので、設備費の増加を防止すると共に、品質の安定性、作業性、保安性を向上すると共に、設計上、構造上の制約の低減を為し得ることができる。
【0037】
更に、初期電流を大きくするシリーズスポット溶接と異なり、電流絶対値と加圧力を変更する必要がないため、品質の安定性、作業性を向上することができる。又、ワーク裏側の抑え部材をほとんど不要にして設備費の増加を防止することができる。更に、高い加圧力を不要にするので、溶接に適用できる部位の制限を大幅に緩和することができる。
【0038】
更に又、座面を設けるシリーズスポット溶接と異なり、電極15,16で押し潰す部分を面部にするので、電極15,16の目標とする部分を正確に狙う作業を不要にして被溶接材21,22の押し潰しを容易にし、2枚の設計上、構造上の制約が少ない被溶接材21,22を適切に溶接して品質の安定性、作業性を向上すること、及びコスト低減を図ることができる。又、ワーク裏側の抑え部材をほとんど不要にすると共に、人力での作業も可能となるため、設備費を必要最小限にすることができる。更に、座面のスペースを考慮する必要がなく、溶接後に残る突起23の凹凸が小さいことから、溶接に適用できる部位の制限を緩和し、設計上、構造上の制約を少なくすることができる。更に又、座面を形成するような型とする場合に比べて、特に座面の精度修正等を行う場合は簡単である。
【0039】
複数の突起23を備えた被溶接材21,22の一方の表面へ一対の電極15,16を押し当てる際に、突起23を目印にして突起23の間の面部を押圧すると、隙間24を極めて容易に潰して2枚の被溶接材21,22を好適に溶接し、品質の安定性、作業性を大幅に向上することができる。ここで、突起23の配置は、特に限定されるものではないが、突起23を所定の間隔で複数形成した場合には、2枚の被溶接材21,22の隙間24を均一的に構成し、2枚の被溶接材21,22を好適に溶接し、品質の安定性、作業性を大幅に向上することができる。
【0040】
尚、本発明のシリーズスポット溶接方法及び被溶接材構造は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明を実施する形態の一例を示す概略図である。
【図2】図1のII−II矢視図である。
【図3】電極での加圧を開始した状態を示す概念図である。
【図4】通電を開始した状態を示す概念図である。
【図5】通電を完了した状態を示す概念図である。
【図6】溶接を完了した状態を示す概念図である。
【図7】上側の被溶接材に突起を備えた状態において電極での加圧を行い、通電を開始した状態を示す概念図である。
【図8】本発明と比較例を比較した表である。
【図9】一般のダイレクトスポット溶接を示す概略図である。
【図10】シリーズスポット溶接(バック電極なし)を示す概略図である。
【図11】従来のシリーズスポット溶接の一例を示す概略図である。
【図12】バック電極なしのシリーズスポット溶接において2枚の被溶接材を平面板にした場合を示す概略図である。
【図13】従来のシリーズスポット溶接(バック電極なし)の他例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0042】
15 電極
16 電極
21 被溶接材
22 被溶接材
23 突起
24 隙間
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重ね合わせた2枚の被溶接材の一方の表面に、離間する一対の電極を加圧接触させ、両電極間に電流を流して2枚の被溶接材を溶接するシリーズスポット溶接方法において、被溶接材の少なくとも1枚に突起を材間側へ設けて2枚の被溶接材の間に隙間を形成し、一対の電極を加圧接触させる際には、一対の電極を被溶接材の面部から押し当てて隙間を押し潰すように被溶接材を変形させて溶接することを特徴とするシリーズスポット溶接方法。
【請求項2】
複数の突起を備えた被溶接材の一方の表面へ一対の電極を押し当てる際に、突起の間の面部を押圧し溶接することを特徴とする請求項1記載のシリーズスポット溶接方法。
【請求項3】
重ね合わせた2枚の被溶接材の一方の表面に、離間する一対の電極を加圧接触させ、両電極間に電流を流して溶接する被溶接材構造において、被溶接材の少なくとも1枚に突起を材間側へ設けて2枚の被溶接材の間に隙間を形成するように構成したことを特徴とする被溶接材構造。
【請求項1】
重ね合わせた2枚の被溶接材の一方の表面に、離間する一対の電極を加圧接触させ、両電極間に電流を流して2枚の被溶接材を溶接するシリーズスポット溶接方法において、被溶接材の少なくとも1枚に突起を材間側へ設けて2枚の被溶接材の間に隙間を形成し、一対の電極を加圧接触させる際には、一対の電極を被溶接材の面部から押し当てて隙間を押し潰すように被溶接材を変形させて溶接することを特徴とするシリーズスポット溶接方法。
【請求項2】
複数の突起を備えた被溶接材の一方の表面へ一対の電極を押し当てる際に、突起の間の面部を押圧し溶接することを特徴とする請求項1記載のシリーズスポット溶接方法。
【請求項3】
重ね合わせた2枚の被溶接材の一方の表面に、離間する一対の電極を加圧接触させ、両電極間に電流を流して溶接する被溶接材構造において、被溶接材の少なくとも1枚に突起を材間側へ設けて2枚の被溶接材の間に隙間を形成するように構成したことを特徴とする被溶接材構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2007−319889(P2007−319889A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−151747(P2006−151747)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】
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