説明

シルエット保持機能を備えた被服上衣

【課題】ダンス用燕尾服等の被服上衣では、例えばホールド姿勢において上腕部に対応する袖の上側に生じる皺によるシルエットの悪化は、従来、見過ごされて来て、それを防ぐための対策は全く採られて来なかった。
【解決手段】そこで本発明では、被服上衣1の上腕部2に対応する袖3の上側において、表生地と袖裏地間に剛性を有する帯状弾性薄板6を、袖の長手方向に沿って取り付けることにより、上腕部に対応する袖の上側に生じる皺を合理的に防止して、美しいシルエットを保持することができるようにしている。表生地側に帯状弾性薄板に沿って帯状毛芯9を積層することにより、帯状弾性薄板による表生地側の硬質感を防ぎ、風合を悪化させない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダンス用の燕尾服やタキシード、指揮者用の燕尾服、その他の礼服等の被服上衣に関するもので、特に、シルエット保持機能を備えた被服上衣に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ダンススポーツの競技は、リズム感、躍動感、表現力等と共に、踊る姿の美しいシルエットを競うものであり、服装のシルエットも大きな要素となる。
【0003】
服装のシルエットを保つための従来技術として、例えば特許文献1や特許文献2に記載されているように、被服上衣の肩部のシルエットを良好に保つために、図6に示すように肩パッドaを取り付けることが行われている。このようにパッドaによる被服上衣bのシルエットの保持は、肩部cのみに限られている。
【0004】
また、ダンス用燕尾服や指揮者用燕尾服では、腕を水平にする姿勢において肩部が盛り上がってしまうのを防ぐために、このような姿勢に対応して袖付けを行う等の工夫がされている。
【0005】
本発明者は、長年に渡ってダンス用の燕尾服を多数製作し、そして多数のダンススポーツの競技会等に立ち会ってきた経験から、ダンススポーツにおいて着用する燕尾服、タキシード等のダンス用被服上衣を、ダンスの動き、姿勢に対応して、さらに美しいシルエットを保つように工夫を行ってきた。
【0006】
そして、ダンススポーツの競技会等における踊り手の姿勢、そして被服上衣のシルエットを鋭意観察した結果、ダンスの基本姿勢であるホールド姿勢において、即ち、図5に示すように、上腕部dを水平にすると共に肘eを曲げて前腕部fを上に上げた姿勢において、被服上衣gの上腕部dに対応する袖hの上側に顕著に皺iが寄り、これが美しいシルエットを崩しているとの知見を得た。
【0007】
この皺は、燕尾服を着用している指揮者が上腕部を水平にし、そして肘を曲げた姿勢においても生じるし、同様に、一般の人がタキシードや礼服を着用していて同様な姿勢をとる際にも生じるので、シルエットを崩していると云えるが、従来は、この皺が見過ごされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−12830号公報
【特許文献2】特開2004−124350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、被服上衣のシルエットを保つために、従来から、肩パッドを取り付けたり、適切な袖付けを行う等の工夫がされているが、被服上衣の上腕部に対応する袖の上側に生じる皺は、見過ごされて来て、それを防ぐための対策は全く採られて来なかった。
【0010】
そこで本発明では、このような課題を解決し、上腕部に対応する袖の上側に生じる皺を合理的に防止して、美しいシルエットを保持することができる被服上衣を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、上記課題を解決するために、被服上衣の上腕部に対応する袖の上側において、表生地と袖裏地間に剛性を有する帯状弾性薄板を、袖の長手方向に沿って取り付けた被服上衣を提案する。
【0012】
また本発明では、上記の構成において、表生地側に帯状弾性薄板に沿って帯状毛芯を積層することを提案する。
【0013】
また本発明では、上記の構成において、帯状弾性薄板は、薄手生地で形成したポケット部に収容し、薄手生地を縫い付けることにより、表生地と袖裏地間に取り付けることを提案する。
【0014】
また本発明では、上記の構成において、帯状弾性薄板と帯状毛芯は、薄手生地で形成したポケット部に収容し、薄手生地を縫い付けることにより、表生地と袖裏地間に取り付けることを提案する。
【0015】
また本発明では、上記の構成において、帯状弾性薄板は、適宜の合成樹脂製の薄板により構成することを提案する。例えば、合成樹脂は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ乳酸、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリエステル、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリアセタール樹脂から選択することができる。
【発明の効果】
【0016】
通常の被服上衣を着用している人が腕を水平にし、肘を曲げると、被服上衣の上腕部に対応する袖の上側がだぶつくため皺が寄る。この皺は、上腕部を水平にすると共に、肘を曲げて前腕部を上げたダンスのホールド姿勢において顕著に生じるのであるが、本発明では、被服上衣の上腕部に対応する袖の上側において、表生地と袖裏地間に剛性を有する帯状弾性薄板を、袖の長手方向に沿って取り付けているため、上腕部の上側に皺は生じず、この部分のシルエットを崩さない。
【0017】
一方、被服上衣の肩部は従来の適宜の方法により、シルエットを保持する工夫がされているので、上述した袖のだぶつきは前腕部方向に解消されるため、他の部分のシルエットを崩す要因とはならない。
【0018】
表生地側に帯状弾性薄板に沿って帯状毛芯を積層することにより、帯状弾性薄板による表生地側の硬質感を防ぎ、風合を悪化させない。
【0019】
帯状弾性薄板及び/又は帯状毛芯は、薄手生地で形成したポケット部に収容し、薄手生地を縫い付けることにより、表生地と袖裏地間に取り付けるようにすれば、所定の縫製を容易に、且つ確実に行うことができる。
【0020】
帯状弾性薄板は、適度の剛性と弾性を有する材質であれば、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ乳酸、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリエステル、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリアセタール樹脂等の、適宜の合成樹脂を用いる他、軽金属や革等を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は本発明に係る被服上衣の実施の形態を示す要部斜視図である。
【図2】図2は、図1のA−A線の模式的断面図である。
【図3】図3は、図2に示された各要素を便宜的に離して示した模式的断面図である。
【図4】図4は、本発明に係る被服上衣を着用してダンスのホールド姿勢をとった場合の状態を示す説明的背面図である。
【図5】図5は、従来の被服上衣を着用してダンスのホールド姿勢をとった場合の状態を示す説明的背面図である。
【図6】図6は、被服上衣において肩部のシルエットを保持するための従来の方法を示す説明的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に本発明の被服上衣の実施の形態を図を参照して説明する。
まず図1は本発明に係る被服上衣1の一例である燕尾服の要部を示すものであり、上述したとおり、図2は図1のA−A線の模式的断面図、図3は図2に示された各要素を便宜的に離して示した模式的断面図である。
【0023】
上述したとおり本発明では、被服上衣1の上腕部2に対応する袖3の上側において、表生地4と袖裏地5間に剛性を有する帯状弾性薄板6を、袖3の長手方向に沿って取り付けた構成である。
【0024】
この実施の形態において、帯状弾性薄板6は、薄手生地7で形成したポケット部8に収容し、薄手生地7を縫い付けることにより、被服上衣1の上腕部2に対応する袖3の上側に、袖3の長手方向に沿って取り付けている。
【0025】
この際、この実施の形態においては、帯状弾性薄板6は表生地4側に帯状毛芯9を積層してポケット部8に収容している。
【0026】
以上の構成において、本発明の被服上衣1を着用している踊り手が、上腕部2を水平にすると共に、肘10を曲げて前腕部11を上げたダンスのホールド姿勢をとった際にも、上腕部2の上側に皺は生じず、この部分のシルエットを崩さない。
【0027】
図5に示すように、被服上衣の上腕部の上側に皺が形成される理由は、上腕部を水平とすると共に、肘を曲げた姿勢において、袖の上側がだぶつくためであるが、本発明では、袖3のだぶつきは前腕部11方向に解消されるため、上腕部2以外の部分のシルエットを崩すこともない。
【0028】
この実施の形態のように、帯状弾性薄板6に沿って被服上衣1の表生地4側に帯状毛芯9を積層することにより、帯状弾性薄板6による表生地4側の硬質感を防ぎ、風合を悪化させない。
【0029】
またこの実施の形態のように、帯状弾性薄板6及び/又は帯状毛芯9は、薄手生地7で形成したポケット部8に収容し、薄手生地7を縫い付けることにより、被服上衣1の表生地4と袖裏地5間に取り付けるようにすることにより、所定の縫製を容易に、且つ確実に行うことができる。
【0030】
上述した通り、帯状弾性薄板6は、適度の剛性と弾性を有する材質であれば、例えば、適宜の合成樹脂を用いる他、軽金属や革等を用いることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明における被服上衣は、例えばダンススポーツ用の燕尾服やタキシード等に適用することにより、ダンスの動き、姿勢に対応して、美しいシルエットを保持することができ、従ってダンスの美的要素を更に向上することができる。また、指揮者の燕尾服に適用した場合にも、指揮に伴う動きに対応した美しいシルエットの保持により、音楽と共に美的要素を向上させ、更に、一般人の礼服に適用した場合においても、礼服を着用する儀式における美しいシルエットの保持により、儀式における着用者の品格の向上にも資するものである。
【符号の説明】
【0032】
1 被服上衣(燕尾服)
2 上腕部
3 袖
4 表生地
5 袖裏地
6 帯状弾性薄板
7 薄手生地
8 ポケット部
9 帯状毛芯
10 肘
11 前腕部
a 肩パッド
b 被服上衣
c 肩部
d 上腕部
e 肘
f 前腕部
g 被服上衣
h 袖
i 皺

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被服上衣の上腕部に対応する袖の上側において、表生地と袖裏地間に剛性を有する帯状弾性薄板を、袖の長手方向に沿って取り付けたことを特徴とするシルエット保持機能を備えた被服上衣。
【請求項2】
表生地側に帯状弾性薄板に沿って帯状毛芯を積層したことを特徴とする請求項1に記載のシルエット保持機能を備えた被服上衣。
【請求項3】
帯状弾性薄板は、薄手生地で形成したポケット部に収容し、薄手生地を縫い付けることにより、表生地と袖裏地間に取り付けることを特徴とする請求項1に記載のシルエット保持機能を備えた被服上衣。
【請求項4】
帯状弾性薄板と帯状毛芯は、薄手生地で形成したポケット部に収容し、薄手生地を縫い付けることにより、表生地と袖裏地間に取り付けることを特徴とする請求項2に記載のシルエット保持機能を備えた被服上衣。
【請求項5】
帯状弾性薄板は、合成樹脂製薄板であることを特徴とする請求項1〜4までのいずれか1項に記載のシルエット保持機能を備えた被服上衣。
【請求項6】
合成樹脂は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ乳酸、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリエステル、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリアセタール樹脂から選択されることを特徴とする請求項1に記載のシルエット保持機能を備えた被服上衣。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−97378(P2012−97378A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247280(P2010−247280)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(504199910)
【Fターム(参考)】