シンチレータパネル、シンチレータパネルの製造方法および放射線検出器
【課題】 高い性能および信頼性が容易に確保されるシンチレータパネル、その製造方法および放射線検出器を提供する。
【解決手段】 シンチレータパネル10は、入射放射線Rを透過する支持基板11を有し、その一主面に、有機珪素化合物により形成された中間層12を介して、有機膜からなる第1の保護層12が形成される。そして、第1の保護層12上にシンチレータ層14が形成され、このシンチレータ層14および支持基板11の縁端部15上の第1の保護層12に積層して、第2の保護層16がシンチレータ層14を密閉して被覆する。これにより、シンチレータパネル10内を空気中の湿気から保護する第1の保護層12の支持基板11との強固な接合および接合耐久性が大きく向上し、空気中における高い耐湿性、長期信頼性が可能になる。
【解決手段】 シンチレータパネル10は、入射放射線Rを透過する支持基板11を有し、その一主面に、有機珪素化合物により形成された中間層12を介して、有機膜からなる第1の保護層12が形成される。そして、第1の保護層12上にシンチレータ層14が形成され、このシンチレータ層14および支持基板11の縁端部15上の第1の保護層12に積層して、第2の保護層16がシンチレータ層14を密閉して被覆する。これにより、シンチレータパネル10内を空気中の湿気から保護する第1の保護層12の支持基板11との強固な接合および接合耐久性が大きく向上し、空気中における高い耐湿性、長期信頼性が可能になる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線等を光に変換するシンチレータパネル、このシンチレータパネルの製造方法、および上記シンチレータパネルを用いた放射線検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用診断装置や工業用非破壊検査装置のように、X線、γ線、中性子線等の放射線からなる入力像を例えば可視光の光学像あるいは電気信号等に変換して出力する電子管タイプの撮像装置が長いあいだ実用に供されている。そして、近年では、例えば新世代のX線診断用画像検出器のような放射線検出器が、アクティブマトリクス基板や受光素子である半導体撮像素子(CCDやCMOS等)との組み合わせにより平面形になる撮像装置として注目されている。このような放射線検出器は、固体検出器であり、画質性能や安定性に優れ、更にリアルタイムのX線画像がデジタル信号として容易に出力できる。なお、この放射線検出器は二次元イメージセンサの一種になる。
【0003】
このような放射線検出器は平板型であり真空容器のような気密型容器を用いない。このため、放射線検出器に用いるシンチレータ層は大気の影響を受けやすい。すなわち、高輝度蛍光物質である例えばCsI等のハロゲン化合物からなるシンチレータ層では、その吸湿性のために空気中の湿気あるいは水分と反応して潮解したり、ハロゲン元素の反応性が高く、シンチレータ層に接する部材の陽極元素と反応する。このため放射線検出器の性能劣化、信頼性劣化が生じ易い。
【0004】
そこで、例えば、図15に示されるように放射線を透過する無機材質の支持基板上にシンチレータ層が形成され、これらが有機膜からなる保護層により被覆された、いわゆるシンチレータパネル100が上記放射線検出器に適用される。図15に概略的に示したシンチレータパネル100では、例えばアルミニウム(Al)製の支持基板101の一主面にシンチレータ層102が形成される。そして、これ等の支持基板101およびシンチレータ層102は例えばポリパラキシリレンのような有機膜からなる保護層103により一体に被覆されている。ここで、保護層103としては、絶縁性、防湿性、透光性、耐腐食性のある単層または多層の有機膜、あるいは無機膜と有機膜の積層する複合膜が用いられる。
【0005】
そして、上述した放射線検出器は、例えばシンチレータパネル100とアクティブマトリクス基板104が接合した状態にして形成される。ここで、アクティブマトリクス基板104は例えば液晶パネルにおけるアクティブマトリクス基板と略同様な構造になる。すなわち、マトリクス状に配列される各画素の領域上に、更にシンチレータ層102で入射放射線Rにより発生するシンチレーション光Sを光電変換する光電変換素子が形成された基板である。
【0006】
その他に、シンチレータパネル100とCCDやCMOS等の半導体撮像素子が離間して配置され、その間に上記シンチレーション光Sを整形する光学素子が介在する放射線検出器を構成することもできる。この場合、シンチレーション光Sを所要の光学素子によりコリメート、集光して半導体撮像素子に投射する。あるいは、シンチレーション光Sを反射するベントミラーを配置し、入射放射線Rの入射する方向から曲折する方向に配置した上記光学素子および半導体撮像素子においてシンチレーション光Sを受光する構造にしてもよい。この場合には、シンチレータパネル100を透過する入射放射線Rによる光学素子および半導体撮像素子の放射線損傷が大きく低減する。
【0007】
なお、上述したようなシンチレータパネルについては例えば特許文献1などに記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4099206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述したようなシンチレータパネルは、シンチレータ層が真空容器内に配置される電子管タイプの場合に較べて、その性能とその長期の信頼性が充分に確保できない虞がある。これは、例えばシンチレータパネルに外力や熱ストレスが加えられた場合に、支持基板と保護層、あるいは多層の保護層間における接合の強度、熱膨張率の相違により、それ等の界面における接合劣化の発生する可能性が高くなるからである。
【0010】
上記接合劣化等によりシンチレータパネルの防湿性が低下すると、例えば接合劣化した界面領域から浸透する空気中の湿気あるいは水分により、高輝度蛍光物質からなるシンチレータ層が劣化し易くなる。特に、シンチレータ層を構成する例えばCsI等のハロゲン化合物の短冊状の柱状結晶構造が変質し、放射線検出器における画像特性(解像度、コントラスト等)が低下する。更に、シンチレータ層が形成された支持基板の一主面が上記水分あるいは高輝度蛍光物質中のハロゲンにより腐食等の損傷を受け易くなる。通常、支持基板の主面は光学的に鏡面研磨され、あるいは光反射層が形成されている。しかし、このような損傷が生じてくると、シンチレーション光Sの散乱光等を撮像素子側に反射して集光させる機能が低下する。
【0011】
通常、放射線検出器の稼働寿命は、それ等を構成する部材の放射線耐性により決まるが、上記シンチレータパネルにおける接合劣化に起因した諸特性の低下によって更に短くなる虞がある。特に、このような寿命低下の虞はたとえば放射線検出器の小型化において高くなる。これは、小型化に対応するために支持基板主面におけるシンチレータ層の領域が広げられ支持基板の縁端まで形成されると、シンチレータパネル端部において、上述した支持基板と保護層の接合劣化が顕著になるからである。
【0012】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、シンチレータパネルの空気中における高い耐湿性と共にその長期信頼性を可能にする。そして、高性能および高信頼性が容易に確保できるシンチレータパネル、その製造方法および放射線検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明にかかるシンチレータパネルは、放射線あるいは電磁波を透過する支持基板と、前記支持基板の一主面に設けられ、前記放射線あるいは電磁波を光に変換するシンチレータ層と、前記支持基板の前記主面の少なくとも縁端部および前記シンチレータ層を被覆する有機膜からなる保護層と、を有し、前記保護層は、有機珪素化合物により形成された中間層を介して前記支持基板に被着している構成になっている。
【0014】
そして、本発明にかかるシンチレータパネルの製造方法は、放射線あるいは電磁波を透過する支持基板と、前記支持基板の一主面に設けられ、前記放射線あるいは電磁波を光に変換するシンチレータ層と、前記支持基板の前記主面の少なくとも縁端部および前記シンチレータ層を被覆する有機膜からなる保護層と、を有するシンチレータパネルの製造方法であって、前記支持基板の表面に前記有機珪素化合物からなる皮膜を形成する工程と、前記皮膜を水蒸気中で加熱し、前記支持基板と化学結合する中間層にする工程と、前記中間層を形成した後、前記中間層の形成された前記支持基板および前記シンチレータ層を被覆するように前記保護層を成膜する工程と、を有する構成になっている。
【0015】
また、本発明にかかる放射線検出器は、上述したシンチレータパネルと、入射放射線あるいは電磁波により前記シンチレータパネルのシンチレータ層で発生した光を電気信号に変換する受光素子と、を備える構成になっている。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、シンチレータパネルにおいてシンチレータ層を空気から保護する保護層の強固な接合および接合耐久性が大きく向上し、シンチレータパネルの空気中における高い耐湿性とその長期信頼性が可能になる。そして、高性能で信頼性の高いシンチレータパネル、その製造方法および放射線検出器を容易に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態にかかるシンチレータパネルの説明に供するための一例を示す断面図。
【図2】本発明の実施形態にかかるシンチレータパネルの他例を示す断面図。
【図3】本発明の実施形態にかかるシンチレータパネルの中間層の説明に供する概念図。
【図4】本発明の実施形態にかかるシンチレータパネルの製造方法の一例を示す製造工程別断面図。
【図5】本発明の実施形態にかかるシンチレータパネルの中間層の形成に用いる有機珪素化合物の化学的構造を示す説明図。
【図6】同上中間層の形成方法の一例を示す一形成工程の説明図。
【図7】図6の形成工程に続く工程の説明図。
【図8】同上中間層を形成する有機珪素化合物と支持基板の反応メカニズムを示す説明図。
【図9】本発明の実施形態にかかるその他のシンチレータパネルの説明に供する断面図。
【図10】本発明の実施形態にかかる放射線検出器の一例を示す一部拡大断面図。
【図11】同上放射検出器の等価回路図。
【図12】本発明の実施例におけるシンチレータパネルの信頼性評価の一結果を示した表。
【図13】本発明の実施例におけるシンチレータパネルの信頼性評価の他の結果を示した表。
【図14】本発明の実施例におけるシンチレータパネルの信頼性評価の更に他の結果を示した表。
【図15】従来技術におけるシンチレータパネルを用いた放射線検出器の一例を示す概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態にかかるシンチレータパネルおよびその製造方法について、図1ないし図9を参照して説明する。以下、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なる。また、図面においては、その要部に符号が付され、互いに同一または類似の部分には共通の符号を付して、重複説明は一部省略される。
【0019】
図1に示すシンチレータパネル10は、放射線を透過する支持基板11を有し、その一主面に、有機珪素化合物により形成された中間層12を介して、有機膜からなる第1の保護層13が形成されている。そして、第1の保護層13上にシンチレータ層14が形成され、このシンチレータ層14および支持基板11の縁端部15上の第1の保護層13に積層し、第2の保護層16がシンチレータ層14を密閉して被覆している。なお、上記シンチレータ層14では、図を簡明にするために一部に示す多数の柱状結晶構造体14aが束状に堆積し成膜されている。
【0020】
同様に、図2に示すシンチレータパネル20は、放射線を透過する支持基板11を有し、光を反射する反射層17が支持基板11主面の所定領域に形成されている。そして、反射層17の形成されていない支持基板11主面の縁端領域および反射層17に被着した有機珪素化合物からなる中間層12を介して、有機膜からなる第1の保護層13が形成されている。更に、第1の保護層13上にシンチレータ層14が形成され、このシンチレータ層14および支持基板11の縁端部15上の第1の保護層13に積層し、第2の保護層16がシンチレータ層14を密閉して被覆している。
【0021】
支持基板11は、例えば矩形板状、円板状であり、Al製、Al合金製、グラファイト(C)製、SiC製、Be製、アモルファスカーボン製、ガラス製、ファイバオプティカルプレート等からなる放射線を透過する板状の基板である。なお、図1に示す支持基板11では、その一主面は鏡面研磨され、光を反射できるようになっている。
【0022】
中間層12は、支持基板11あるいは反射層17と第1の保護層13との間に分子層レベルの厚さ(数nm以下)で介在し、それ等の間の接合を強固にする。図3に示すように、有機珪素化合物からなる中間層12は、その珪素成分が支持基板11あるいは反射層17との間で共有結合し、更に第1の保護層13の有機成分と化学結合する。ここで、上記共有結合としては、後述するようにSi−Oのシロキサン結合を介する化学結合が好適である。また、中間層12中の有機官能基がグラフト反応、共重合、相溶化などにより有機膜からなる第1の保護層13に強結合するようにするとよい。このようにして、支持基板11あるいは反射層17と第1の保護層13との間が上記化学結合を通して強く接合することになる。
【0023】
上記有機珪素化合物としては、例えばビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシランあるいはビニルトリイソプロポキシシランが好適である。更に、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。また、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等であってもよい。
【0024】
第1の保護層13および第2の保護層16には、高い非透湿性があり防湿性および耐湿性を有する例えばポリパラキシリレン膜が好適である。この他に、ポリフルオロパラキシリレン、ポリクロロパラキシリレン、ポリジメチルパラキシリレン、ポリジエチルパラキシリレン等のキシリレン系の有機膜が用いられる。ここで、第1の保護層13および第2の保護層16は、上記キシリレン系の有機膜からなる群より選択された単層有機膜又は多層有機膜として形成されるとよい。
【0025】
特に、第1の保護層13および第2の保護層16の両方ともポリパラキシリレン膜により形成するのが好ましい。この有機膜は、化学的気相成長(CVD)法により成膜できるために段差被覆性に優れ、後述するシンチレータ層を一様に被覆することができる。また、同一の有機膜を使用することによりシンチレータパネル製造における生産性が向上する。
【0026】
シンチレータ層14は、高輝度蛍光物質である例えばCsI等のハロゲン化合物からなる。特に短冊状の柱状結晶構造を有するCsI:Na、CsI:Tlが好適である。その他のハロゲン化合物としては、例えば種々の賦活物質を有するLiI、NaI、KIが挙げられる。あるいは、GOS(Gd2O2S)、GSO(Gd2SiO5)、ZnS、ZnSe、Ca2MgSi2O7、Ca(1−X)MgXSiO3、CaF2、BaF2、BGO(Bi4Ge3O12、Bi12GeO20)、YAP(YAlO3)、YAG(Y3Al5O12)、YSO(Y2SiO5)、LuAP(LuAlO3)、LSO(Lu2SiO5)、LSP(Lu2Si2O7)、LuYAP{Lu(1−X)YXAlO3}、LGSO{Lu(1−X)GdXSiO5}、LaCl3、CeCl3、RbGd2Br7、K2LaCl5、LiBaF3の少なくとも1つを含む蛍光体材料が用いられてもよい。
【0027】
図1,2に示すように、シンチレータ層14としては、多数の柱状結晶構造体14aが束状に堆積し成膜されているのが特に好ましい。これは、それぞれの柱状結晶構造体14aがその中で発生するシンチレーション光Sに対するライトガイド機能を有するようになるからである。このようなシンチレータ層14の短冊状の柱状結晶構造により、シンチレータ層14で発生した光の拡散が小さく、高い解像度が得られるようになる。そこで、上記蛍光体材料からなる蛍光体膜の成膜において柱状結晶構造にならない場合には、例えばダイサにより上記蛍光体膜を四角柱状にダイシングし柱状構造体にしてもよい。
【0028】
反射層17は、放射線透過性であり、所定波長の光を反射する金属薄膜からなる。例えばAl、Cu、Ni、Ti、Cr、Mg、Rh、Ag、Au、Pt等からなる群より選択された金属材料からなる。この反射層17は、後述されるがシンチレータ層14で発生するシンチレーション光を反射し効率的に利用できるようにする。
【0029】
次に、上記シンチレータパネルの動作について図1を参照して説明する。例えば医療用診断装置や工業用非破壊検査装置の場合のように、シンチレータパネル10において、例えば被検体を透過した放射線等は入力像の入射放射線Rとして支持基板11を透過する。そして、支持基板11上のシンチレータ層14がその指示基板を透過した放射線等からなる入力像をシンチレーション光Sからなる光学像に変換する。なお、この光学像を構成するシンチレーション光Sは、その波長がシンチレータ層14の種類に依存したものになる。
【0030】
ここで、シンチレータ層14中で発生する上記シンチレーション光Sは、シンチレータ層14を構成するそれぞれの柱状結晶構造体14aから、入射放射線Rと同じ方向に光学的に小さな拡散で出射する。これは、例えば、柱状結晶構造体14aがシンチレータ層14の膜厚である200μm〜400μm程度の長さで、1μm〜10μm程度の径の導波路のようになるためである。このような柱状結晶構造体14aのシンチレーション光Sのコリメートにより、シンチレーション光Sの光学像の例えば画像特性である解像度が向上する。
【0031】
また、シンチレーション光の発生において、入射放射線Rと逆向きのシンチレーション光も生じる。しかし、鏡面研磨されている支持基板11主面がそのような逆方向に進むシンチレーション光を入射放射線Rの方向に反射する。この支持基板11主面の光反射において、上述した中間層12は、その厚さが分子層レベルと極めて薄いために反射防止膜として作用しない。このため、支持基板11上の第1の保護層13との間の中間層12の介在によるシンチレーション光Sの反射効率の低下は生じない。そして、シンチレーション光Sの利用効率を高く維持することができる。このようなシンチレーション光Sの高い利用効率により、シンチレーション光Sの光学像の画像特性であるコントラストが向上する。
【0032】
なお、通常、有機膜からなる第1の保護層13の屈折率は1.6程度であり、シンチレータ層14の例えば2以上になる屈折率より小さくなる。このため、支持基板11主面において、第1の保護層13が無反射コーティング層として作用し易いが、第1の保護層13の膜厚を調節することによりその作用を抑制することが容易にできる。
【0033】
ここで、中間層12は、非透湿性を有し防湿能力の高い第1の保護層13が支持基板11と接合する強度およびその接合の耐久性を向上させる。また、放射線照射損傷の耐性が高く、さらに、例えば放射線照射に伴い生じる熱ストレスに対する耐性も高い。これ等のために、シンチレータ層14および支持基板11の鏡面は、第1の保護層13により空気中の湿気あるいは水分等から長期に亘り確実に保護される。そして、例えば潮解などによる柱状結晶構造体14aの変質、あるいは上記鏡面におけるシンチレーション光の反射性能の劣化が防止される。
【0034】
次に、シンチレータパネルの製造方法について図4乃至図8を参照して説明する。以下、図1に示したシンチレータパネル10の場合について述べる。はじめに、例えば0.5mm〜1mm程度の板厚であり、その一主面が鏡面に研磨され所要の大きさに加工されたAl製の支持基板11を用意する(図4(a))。そして、その一主面に分子層レベルの厚さの有機珪素化合物からなる中間層12を形成する(図4(b))。以下、この中間層12の形成方法について少し詳細に説明する。
【0035】
上記有機珪素化合物は、例えば図5に示すように、有機物のセグメントあるいはモノマーとの反応や相互作用を生じさせる有機官能基(A)、加水分解反応および縮合反応によって例えば無機物と共有結合を生じさせる加水分解基(OB)を有する化学構造をもつものがよい。ここで、好ましい有機官能基としては、アミノ基、エポキシ基、スルファド基、ビニル基、アリル基、メタクリル基、メルカプト基、ケチミノ基等が挙げられる。また、好適な加水分解基としては、メトキシ基、エトキシ基、アセトキシ基、イソプロポキシ基等が挙げられる。
【0036】
はじめに、支持基板11を化学薬液により洗浄処理しその表面の有機物あるいはパーティクル等を除去する。この洗浄処理では例えば紫外線UV照射とオゾンO3とを用いるいわゆるUV−O3洗浄が効果的である。
【0037】
その後、図6(a)に示すように、支持基板11主面以外を例えばフォトレジスト膜等の有機膜からなるマスクMAで被覆する。ここで、マスクMAはいわゆるフォトリソグラフィー技術を用いて容易に形成される。例えば、感光性有機膜になるフォトレジスト溶液中でのディッピング処理を通して支持基板11の全面にフォトレジスト膜を形成した後、その主面のフォトレジスト膜を露光・現像を通して選択的に除去することによりマスクMAを形成する。あるいは、スピン塗布したフォトレジスト膜を用いてもよい。
【0038】
次に、図6(b)に示すように、密閉型処理チャンバC1内において支持基板11に有機珪素化合物のベーパー処理を施す。このベーパー処理では、マスクMAが形成された支持基板11を密閉型処理チャンバC1内の支持治具J1に載置する。そして、密閉型処理チャンバC1内の底部に貯溜している有機珪素化合物溶液SLの蒸気SVに所定の時間のあいだ曝す。ここで、有機珪素化合物溶液SLは密閉型処理チャンバC1の下部から例えばヒーター熱HEにより所定温度に加熱され、所定の蒸気圧に保持される。このようなベーパー処理により、支持基板11主面に有機珪素化合物溶液の蒸気SVが付着して、所定の厚さの皮膜12aが形成される。
【0039】
その後、図7(a)に示すように、支持基板11のマスクMAを薬液等により除去する。なおマスクは,テ−プマスキング等を用いてはがすことによりマスクを除去することもできる。そして、図7(b)に示すように、密閉型処理チャンバC2内において、支持基板11主面に形成した皮膜12aを中間層12に変性する。この変性処理では、皮膜12aが形成された支持基板11を乾燥処理チャンバC2内の支持治具J2に載置する。そして、この乾燥処理チャンバC2内の水蒸気HVの雰囲気中で、ランプヒータLHからの赤外線IRにより、皮膜12aに対する乾燥処理を施す。皮膜12aはこの処理により極めて容易に中間層12に変性する。そして、例えば数nm以下の分子層レベルであり、高い均一性を有する中間層12が再現性よく支持基板11主面に形成される。
【0040】
上述したところの中間層12は、図8に示すような反応メカニズムにより形成される。すなわち、支持基板11主面の皮膜12aでは、水蒸気HVに曝され有機珪素化合物の加水分解基(OB)が加水分解してシラノール基が生成される。そして、そのシラノール基は、支持基板11主面に化学吸着する水酸基と水素結合を介して、支持基板11と化学結合する。その後、更に脱水縮合反応を経て酸素を介する強固な共有結合が生じ、中間層12が形成される。
【0041】
上記中間層12を形成した後、支持基板11主面に中間層12を介して第1の保護層13を成膜する(図4(c))。この成膜は、例えばジパラキシレンのような原液を気化しあるいはラジカル化し、それを原料ガスにしたCVD法により気相成長チャンバ内でなされるのが好ましい。このCVDにより、第1の保護層13は、その膜厚が例えば0.5μm〜10μm程度に中間層12上に堆積する。この有機膜のCVDは膜厚の均一性および皮膜の段差被覆性が極めて優れたものになる。
【0042】
上記CVDでは、支持基板11は加熱されて所定温度に制御されている。そして、第1の保護層13の有機膜のセグメントが中間層12の有機官能基(A)と化学結合する。このようにして、支持基板11主面との共有結合により強固に接合した中間層12は、上記官能基との化学結合により第1の保護層13とも強固に結合する。
【0043】
上記第1の保護層13を形成した後、支持基板11主面に中間層12を介してシンチレータ層14を形成する(図4(d))。シンチレータ層14は公知の真空蒸着法により蒸着チャンバ内で成膜される。ここで、例えばCsIの柱状結晶構造のシンチレータ層14の成膜では、支持基板11を加熱して所定温度に制御し、膜厚を例えば100μm〜400μm程度にし、その柱状結晶構造体14aの径を例えば5μm〜10μm程度にする。また、この真空蒸着においては、例えばシャドウマスクを用い支持基板11の縁端部15の第1の保護層13上にシンチレータ層14が形成されないようにする。
【0044】
そして、上記シンチレータ層14を形成した後、第1の保護層13の成膜の場合と同じCVD法により、シンチレータ層14および支持基板11の縁端部15の第1の保護層13を被覆する第2の保護層16を成膜する(図4(e))。このCVDでは、第2の保護層16は、その膜厚が例えば5μm〜20μm程度に堆積される。このようにして、シンチレータ層14は膜厚の均一性および段差被覆性に優れた第2の保護層16により密閉される。
【0045】
なお、シンチレータ層14を成膜する蒸着チャンバと第2の保護層16あるいは第1の保護層13を成膜する気相成長チャンバとの間において、被膜される支持基板11が低水蒸気分圧の雰囲気で搬送されるようになっていると好適である。このようにすると、成膜処理におけるシンチレータ層14、第1の保護層13あるいは第2の保護層16中の水分の含有を大きく低減させて制御することができる。
【0046】
以上に説明したような製造工程を通してシンチレータパネル10は作製される。上述したシンチレータパネル10の製造における中間層12の形成では、そのシロキサン結合の酸素を介する支持基板11主面との共有結合における結合角度が小さくそれ等の界面での残留応力が小さくなっている。このために、この支持基板11と中間層12の界面の放射線に対する耐性が高くなる。そして、上述したように、この中間層12は、放射線照射下にあっても、支持基板11に対する第1の保護層13の接合耐久性を向上させる。
【0047】
なお、シンチレータパネル20の製造は、反射層17の形成以外は上述したシンチレータパネル10の場合と同様に製造される。ここで、反射層17は、例えば、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の物理的気相成長(PVD)法により、支持基板11主面上に例えば200nm〜500nm程度の膜厚に形成される。
【0048】
上述したシンチレータパネルの製造方法において、有機珪素化合物からなる中間層12は、有機珪素化合物のベーパー処理の他に、有機珪素化合物溶液のスピン塗布、ディッピング処理等を用いて形成することができる。また、第1の保護層13あるいは第2の保護層16は、CVD法の他に、例えば樹脂フィルム、樹脂シート等の真空ラミネート法、樹脂塗液を用いたスピンコート法、印刷法、PVD法等により被着することができる。そして、シンチレータ層14は、真空蒸着法の他にスパッタリング法、CVD法等によっても形成することができる。
【0049】
次に、図9を参照して本実施形態にかかるシンチレータパネルのその外の例について説明を加える。以下、図1,2で説明したシンチレータパネルの場合の構造と異なるところを主に説明する。
【0050】
図9(a)に示すシンチレータパネルでは、支持基板11の一主面に中間層12が形成され、その縁端部15を除く領域の中間層12上にシンチレータ層14が形成される。そして、シンチレータ層14および支持基板11の縁端部15を被覆する第2の保護層16が形成されている。これに対して、図9(b)に示すシンチレータパネルでは、中間層12は支持基板11の全表面を覆うように形成される。そして、第2の保護層16は支持基板11の縁端部15、その端面および他主面を覆い、支持基板11およびシンチレータ層14を空気から遮断し密閉するように被覆している。
【0051】
また、図9(c)に示すシンチレータパネルでは、支持基板11の一主面に例えば素酸化膜、珪素窒化膜等からなる無機絶縁層18が形成され、その無機絶縁層18の表面に中間層12が形成されている。それ以外は図9(a)に示したシンチレータパネルと同様である。そして、図9(d)に示すシンチレータパネルでは、支持基板11の一主面に無機絶縁層18が形成され、その無機絶縁層18の表面に中間層12が形成されている。それ以外は図9(c)に示したシンチレータパネルと同様である。
【0052】
その外にも、シンチレータパネルの変形例が種々にある。例えば図9に示した各シンチレータパネルにおいて、図2で説明したような反射層17を支持基板11主面に形成するようにしてもよい。あるいは、中間層12は支持基板11の縁端部15における主面に形成し、第2の保護層16が縁端部15で支持基板11と強固に接合するようにしてもよい。
【0053】
次に、本実施形態にかかるシンチレータパネルを用いた放射線検出器の例について図10および図11を参照して説明する。二次元平面構造の放射線検出器30は、上記実施形態で説明したのと同様なシンチレータパネル31と、受光素子である光電変換素子を有する複数の画素を備えたアクティブマトリクス基板32が接合した状態に形成されている。この場合のシンチレータパネル31では、図2で説明したシンチレータパネル20の他主面側も被覆する第2の保護層16が形成されている。この他主面側の第2の保護層16は第1の保護層13により形成してもよい。なお、他主面側においても支持基板11との間に中間層が介在してもよい。
【0054】
そして、第2の保護層16上には、入射放射線Rの散乱成分を遮蔽しそのコリメート機能をもつ格子状の放射線遮蔽グリッド33が形成されている。この放射線遮蔽グリッド33は各画素の光電変換素子の間を遮蔽して、画像特性を向上させる。
【0055】
このアクティブマトリクス基板32は公知の構造に示してあり、以下はその概略について説明する。シンチレーション光Sを透過する例えばガラス板からなる透光性基板34上に、薄膜トランジスタからなるスイッチング素子35および電荷蓄積用キャパシタ36が形成されている。そして、これ等の上層に層間絶縁層37を介して、シンチレーション光Sを電子あるいは正孔の電荷に変換する受光素子である例えばフォトダイオードの光電変換素子38が形成されている。例えばフォトダイオードはアモルファスシリコン(a−Si)のpn接合ダイオード、pin接合ダイオードである。
【0056】
ここで、薄膜トランジスタからなるスイッチング素子35は、ゲート電極35a、2層の絶縁層からなるゲート絶縁膜35b、ソース電極35cおよびドレイン電極35dを有する。ゲート電極35aは図11に示す制御線(走査線)39としてマトリクスの行方向に配設されるものである。また、ソース電極35cは同様に図11に示す読み出し線(信号線)40としてマトリクスの列方向に配設されるものである。
【0057】
そして、薄膜トランジスタのドレイン電極35dは、光電変換素子38で生成した電荷を集める画素電極(集電電極)38aに電気接続している。ここで、画素電極38aはフォトダイオードの一電極であり、例えばITOのように光透過性をもつ透光性電極38bがその上部に形成されている。更に、ドレイン電極35dは電荷蓄積用キャパシタ36の一電極36aに接続している。なお、この電荷蓄積用キャパシタ36は、ゲート絶縁膜35bを構成する上記2層の絶縁層のうちの1層をキャパシタ絶縁膜とし、それを挟むように形成されている対向電極36bを有する。なお、この対向電極35bは接地配線として透光性基板34上に配設されるものである。
【0058】
上述したシンチレータパネル31とアクティブマトリクス基板32は、透光性の例えばホットメルト樹脂のような樹脂製の接合層41により接合される。この接合層41は、例えば樹脂フィルムをシンチレータパネル31の第2の保護層16上に真空ラミネートにより圧着あるいは熱圧着して形成したものでもよい。そして、このシンチレータパネル31の接合層41がアクティブマトリクス基板32の層間絶縁層37、透光性電極38b等に熱圧着される。
【0059】
この他に、接合層41の形成およびそのアクティブマトリクス基板32との接合には種々の方法がある。いずれの場合でも、この箇所での接合において、シンチレータパネルの支持基板11への保護層の被覆に用いたような中間層12を適用するようにしてもよい。すなわち、アクティブマトリクス基板32の層間絶縁層37、透光性電極38b等の表面に有機珪素化合物からなる中間層を形成した後に、シンチレータパネル31の第2の保護層16上に形成した有機膜材料からなる接合層41を接合させる。この場合の中間層の作用効果は上記中間層12と同様である。ここで、第2の保護層16の材質あるいは厚さを調整して、第2の保護層16がそのまま接合層41となるようにすることも可能である。
【0060】
上記放射線検出器30では、入射放射線Rはシンチレータパネル31のシンチレータ層14でシンチレーション光Sとなり、例えば放射線からなる入力像はシンチレーション光Sからなる光学像に変換される。そして、この光学像が上述したアクティブマトリクス基板32において撮像され、画質性能や安定性に優れ、しかもリアルタイムに出力されるデジタル画像として利用される。
【0061】
本実施形態では、シンチレータパネルは空気中において高い耐湿性を有し、その長期信頼性が大幅に向上する。また、このシンチレータパネルを用いた放射線による被検体からの画像特性およびその安定性と信頼性が大きく向上する。これは、シンチレータパネルにおいて、その支持基板およびシンチレータ層を被覆する有機膜からなる高い防湿性の保護層が、有機珪素化合物からなる中間層により支持基板と強固に接合し、しかもその接合耐久性が極めて高くなるからである。
【0062】
シンチレータパネルの高い耐湿性が確保できることから、例えばCsIのような吸湿性のある高輝度蛍光物質がシンチレータ層として高い信頼性のもとに使用できるようになる。また、シンチレータ層で発生したシンチレーション光の支持基板における反射性能が高く維持される。ここで、上記中間層はその厚さが分子層レベルと極薄にできるために上記反射性能の阻害要因にならない。
【0063】
上記有機珪素化合物からなる中間層は、支持基板の表面と共有結合のような化学結合し、その結合角が小さく、接合界面における残留応力を小さくすることができる。このことから中間層の放射線照射損傷の耐性が高い。さらに、例えば放射線照射に伴い生じる熱ストレスあるいは外力に対する耐性も高い。
【0064】
このような中間層を介する支持基板との上記保護層の強固な接合と高い接合耐久性により、保護層の被覆する支持基板の縁端部の領域面積を小さくすることができる。そして、支持基板上でシンチレータ層が形成される面積を拡大させることが容易になる。このようにして、シンチレータパネルおよび放射線検出器の小型化、高性能化が可能になる。また、シンチレータパネルおよび放射線検出器の生産性向上も容易になる。
【実施例】
【0065】
次に、実施例により本発明の効果について具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0066】
(実施例、比較例)
実施例および比較例のシンチレータパネルは、それぞれ図1に示した断面構造、図15で示した断面構造になっている。そして、これ等のシンチレータパネルの平面形状は同じ大きさの正方形になっている。その他のシンチレータパネルの主要な構成は以下の通りである。
【0067】
支持基板:全てアルミニウム板、厚さは0.5mm、平面寸法は20cm角
シンチレータ層:全て真空蒸着成膜のCsI:Tl、その膜厚は200μm
保護層:全てCVD成膜のポリパラキシリレン、膜厚は第1の保護層13が5μm、第2の保護層16が10μm、保護層103が10μm
中間層:有機珪素化合物はビニルトリメトキシシラン
なお、これ等のシンチレータパネルの作製方法は実施形態のシンチレータパネルの製造方法で説明したのと同様である。
【0068】
上記作製した実施例および比較例のシンチレータパネルの信頼性試験を行った。以下にそれ等の比較評価の結果について説明する。なお、シンチレータパネルの評価サンプル数はそれぞれ10枚ずつである。
(評価1)
この評価は、熱ストレス印加後の支持基板の一主面の腐食にかかり、その結果が図12にまとめて示される。ここで、信頼性評価の加速試験の概要は以下の通りである。下記の衝撃試験の後に50時間(H)、100Hの間の恒温恒湿試験を行った。
【0069】
熱衝撃試験:温度サイクル条件は、低温(−30℃、30min)と高温(70℃、30min)の10サイクル
恒温恒湿試験:温度条件は60℃、湿度条件は90%
腐食評価:光学顕微鏡観察
【0070】
図12に示すように、実施例のシンチレータパネルでは、全サンプルで支持基板主面の鏡面の腐食は観察されなかった。これに対して、比較例のシンチレータパネルでは、50Hの条件で腐食はないが、100Hでは全サンプルにおいて腐食が発生した。この結果から、本実施形態のシンチレータパネルは、熱ストレスに強く、支持基板主面でのシンチレーション光の反射性能が長期に亘り維持できることが確かめられた。
【0071】
(評価2)
この評価は、シンチレータパネル作製後の保護層の支持基板との接合強度に関し、その結果が図13にまとめて示される。この接合強度の評価はJIS K5600に準拠するクロスカット試験によっている。試験の概要は以下の通りである。
【0072】
試験部位:支持基板の縁端部の保護層
被膜の残留率:上記縁端部において保護層の剥がれない比率
試験条件:条件A…5N/25mmの粘着力のテープ使用、条件B…10N/25mmの粘着力のテープ使用
なお、シンチレータパネルの各サンプルにおける4辺の縁端部の所定箇所を条件Aおよび条件Bでそれぞれ試験した。
【0073】
図13に示すように、実施例のシンチレータパネルでは、上記試験条件AおよびBにおいて、全サンプルの保護層の残留比率は100%であった。これに対して、比較例のシンチレータパネルでは、試験条件Aにおいて保護層の残留比率は1/2程度であり、試験条件Bにおいてその残留比率は大きく低下した。
これ等の結果から、本実施形態のシンチレータパネルは、支持基板の縁端部において保護層の接合強度が大きく増加することが確かめられた。
【0074】
(評価3)
この評価は、支持基板と保護層の接合強度の熱ストレス耐性に関し、その結果が図14にまとめて示される。ここで、熱ストレス印加は以下の通りである。
【0075】
熱ストレス試験:温度サイクル条件は、低温(−30℃、30min)と高温(70℃、30min)とし、熱ストレスサイクルを50サイクルと100サイクルにした。
【0076】
剥離評価:支持基板と保護層における界面剥離の顕微鏡観察
【0077】
図14に示すように、実施例のシンチレータパネルでは、全サンプルで支持基板と保護層の界面剥離はみられない。これに対して、比較例のシンチレータパネルでは、熱ストレスサイクルが100サイクルにおいて全サンプルに界面剥離が観察された。但し、50サイクルでは生じなかった。この結果から、本実施形態のシンチレータパネルは、熱ストレスに強くなることが確かめられた。
【0078】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した実施形態は本発明を限定するものでない。当業者にあっては、具体的な実施態様において本発明の技術思想および技術範囲から逸脱せずに種々の変形・変更を加えることが可能である。
【0079】
例えば、中間層12は、加水分解基のない有機珪素化合物からなるカップリング剤により形成されてもよい。このような有機珪素化合物は架橋性シリル基を有し、例えばヘキサメチルシラザン(HMDS)、トリクロロメチルシラン(TCMS)等が挙げられる。但し、このようなシロキサン結合を持たない有機珪素化合物を用いる場合には、有機珪素化合物のベーパー処理において支持基板の主面に水分を存在させることが好ましい。
【0080】
また、シンチレータパネルに入射する放射線は、電荷物質の加速度運動から放射する電磁波(放射X線)の他に、特性X線のように原子状態の変化から発生する電磁波、あるいは紫外線のような電磁波であってもよい。
【0081】
また、シンチレータパネルの適用される放射線検出器は、画像形成の他に被検体を検出し同定するためのものであってもよい。また、この放射線検出器はいわゆる一次元イメージセンサのような構造になっても構わない。
【符号の説明】
【0082】
10,20,31…シンチレータパネル,11…支持基板,12…中間層,13…第1の保護層,14…シンチレータ層,14a…柱状結晶構造体,15…縁端部,16…第2の保護層,17…反射層,18…無機絶縁層,30…放射線検出器,32…アクティブマトリクス基板,33…放射線遮蔽グリッド,34…透光性基板,35…スイッチング素子,35a…ゲート電極,35b…ゲート絶縁膜,35c…ソース電極,35d…ドレイン電極,36…電荷蓄積用キャパシタ,36a…一電極,36b…対向電極,37…層間絶縁層,38…光電変換素子,38a…透光性電極,38b…画素電極,39…制御線,40…読み出し線,41…接合層
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線等を光に変換するシンチレータパネル、このシンチレータパネルの製造方法、および上記シンチレータパネルを用いた放射線検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用診断装置や工業用非破壊検査装置のように、X線、γ線、中性子線等の放射線からなる入力像を例えば可視光の光学像あるいは電気信号等に変換して出力する電子管タイプの撮像装置が長いあいだ実用に供されている。そして、近年では、例えば新世代のX線診断用画像検出器のような放射線検出器が、アクティブマトリクス基板や受光素子である半導体撮像素子(CCDやCMOS等)との組み合わせにより平面形になる撮像装置として注目されている。このような放射線検出器は、固体検出器であり、画質性能や安定性に優れ、更にリアルタイムのX線画像がデジタル信号として容易に出力できる。なお、この放射線検出器は二次元イメージセンサの一種になる。
【0003】
このような放射線検出器は平板型であり真空容器のような気密型容器を用いない。このため、放射線検出器に用いるシンチレータ層は大気の影響を受けやすい。すなわち、高輝度蛍光物質である例えばCsI等のハロゲン化合物からなるシンチレータ層では、その吸湿性のために空気中の湿気あるいは水分と反応して潮解したり、ハロゲン元素の反応性が高く、シンチレータ層に接する部材の陽極元素と反応する。このため放射線検出器の性能劣化、信頼性劣化が生じ易い。
【0004】
そこで、例えば、図15に示されるように放射線を透過する無機材質の支持基板上にシンチレータ層が形成され、これらが有機膜からなる保護層により被覆された、いわゆるシンチレータパネル100が上記放射線検出器に適用される。図15に概略的に示したシンチレータパネル100では、例えばアルミニウム(Al)製の支持基板101の一主面にシンチレータ層102が形成される。そして、これ等の支持基板101およびシンチレータ層102は例えばポリパラキシリレンのような有機膜からなる保護層103により一体に被覆されている。ここで、保護層103としては、絶縁性、防湿性、透光性、耐腐食性のある単層または多層の有機膜、あるいは無機膜と有機膜の積層する複合膜が用いられる。
【0005】
そして、上述した放射線検出器は、例えばシンチレータパネル100とアクティブマトリクス基板104が接合した状態にして形成される。ここで、アクティブマトリクス基板104は例えば液晶パネルにおけるアクティブマトリクス基板と略同様な構造になる。すなわち、マトリクス状に配列される各画素の領域上に、更にシンチレータ層102で入射放射線Rにより発生するシンチレーション光Sを光電変換する光電変換素子が形成された基板である。
【0006】
その他に、シンチレータパネル100とCCDやCMOS等の半導体撮像素子が離間して配置され、その間に上記シンチレーション光Sを整形する光学素子が介在する放射線検出器を構成することもできる。この場合、シンチレーション光Sを所要の光学素子によりコリメート、集光して半導体撮像素子に投射する。あるいは、シンチレーション光Sを反射するベントミラーを配置し、入射放射線Rの入射する方向から曲折する方向に配置した上記光学素子および半導体撮像素子においてシンチレーション光Sを受光する構造にしてもよい。この場合には、シンチレータパネル100を透過する入射放射線Rによる光学素子および半導体撮像素子の放射線損傷が大きく低減する。
【0007】
なお、上述したようなシンチレータパネルについては例えば特許文献1などに記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4099206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述したようなシンチレータパネルは、シンチレータ層が真空容器内に配置される電子管タイプの場合に較べて、その性能とその長期の信頼性が充分に確保できない虞がある。これは、例えばシンチレータパネルに外力や熱ストレスが加えられた場合に、支持基板と保護層、あるいは多層の保護層間における接合の強度、熱膨張率の相違により、それ等の界面における接合劣化の発生する可能性が高くなるからである。
【0010】
上記接合劣化等によりシンチレータパネルの防湿性が低下すると、例えば接合劣化した界面領域から浸透する空気中の湿気あるいは水分により、高輝度蛍光物質からなるシンチレータ層が劣化し易くなる。特に、シンチレータ層を構成する例えばCsI等のハロゲン化合物の短冊状の柱状結晶構造が変質し、放射線検出器における画像特性(解像度、コントラスト等)が低下する。更に、シンチレータ層が形成された支持基板の一主面が上記水分あるいは高輝度蛍光物質中のハロゲンにより腐食等の損傷を受け易くなる。通常、支持基板の主面は光学的に鏡面研磨され、あるいは光反射層が形成されている。しかし、このような損傷が生じてくると、シンチレーション光Sの散乱光等を撮像素子側に反射して集光させる機能が低下する。
【0011】
通常、放射線検出器の稼働寿命は、それ等を構成する部材の放射線耐性により決まるが、上記シンチレータパネルにおける接合劣化に起因した諸特性の低下によって更に短くなる虞がある。特に、このような寿命低下の虞はたとえば放射線検出器の小型化において高くなる。これは、小型化に対応するために支持基板主面におけるシンチレータ層の領域が広げられ支持基板の縁端まで形成されると、シンチレータパネル端部において、上述した支持基板と保護層の接合劣化が顕著になるからである。
【0012】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、シンチレータパネルの空気中における高い耐湿性と共にその長期信頼性を可能にする。そして、高性能および高信頼性が容易に確保できるシンチレータパネル、その製造方法および放射線検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明にかかるシンチレータパネルは、放射線あるいは電磁波を透過する支持基板と、前記支持基板の一主面に設けられ、前記放射線あるいは電磁波を光に変換するシンチレータ層と、前記支持基板の前記主面の少なくとも縁端部および前記シンチレータ層を被覆する有機膜からなる保護層と、を有し、前記保護層は、有機珪素化合物により形成された中間層を介して前記支持基板に被着している構成になっている。
【0014】
そして、本発明にかかるシンチレータパネルの製造方法は、放射線あるいは電磁波を透過する支持基板と、前記支持基板の一主面に設けられ、前記放射線あるいは電磁波を光に変換するシンチレータ層と、前記支持基板の前記主面の少なくとも縁端部および前記シンチレータ層を被覆する有機膜からなる保護層と、を有するシンチレータパネルの製造方法であって、前記支持基板の表面に前記有機珪素化合物からなる皮膜を形成する工程と、前記皮膜を水蒸気中で加熱し、前記支持基板と化学結合する中間層にする工程と、前記中間層を形成した後、前記中間層の形成された前記支持基板および前記シンチレータ層を被覆するように前記保護層を成膜する工程と、を有する構成になっている。
【0015】
また、本発明にかかる放射線検出器は、上述したシンチレータパネルと、入射放射線あるいは電磁波により前記シンチレータパネルのシンチレータ層で発生した光を電気信号に変換する受光素子と、を備える構成になっている。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、シンチレータパネルにおいてシンチレータ層を空気から保護する保護層の強固な接合および接合耐久性が大きく向上し、シンチレータパネルの空気中における高い耐湿性とその長期信頼性が可能になる。そして、高性能で信頼性の高いシンチレータパネル、その製造方法および放射線検出器を容易に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態にかかるシンチレータパネルの説明に供するための一例を示す断面図。
【図2】本発明の実施形態にかかるシンチレータパネルの他例を示す断面図。
【図3】本発明の実施形態にかかるシンチレータパネルの中間層の説明に供する概念図。
【図4】本発明の実施形態にかかるシンチレータパネルの製造方法の一例を示す製造工程別断面図。
【図5】本発明の実施形態にかかるシンチレータパネルの中間層の形成に用いる有機珪素化合物の化学的構造を示す説明図。
【図6】同上中間層の形成方法の一例を示す一形成工程の説明図。
【図7】図6の形成工程に続く工程の説明図。
【図8】同上中間層を形成する有機珪素化合物と支持基板の反応メカニズムを示す説明図。
【図9】本発明の実施形態にかかるその他のシンチレータパネルの説明に供する断面図。
【図10】本発明の実施形態にかかる放射線検出器の一例を示す一部拡大断面図。
【図11】同上放射検出器の等価回路図。
【図12】本発明の実施例におけるシンチレータパネルの信頼性評価の一結果を示した表。
【図13】本発明の実施例におけるシンチレータパネルの信頼性評価の他の結果を示した表。
【図14】本発明の実施例におけるシンチレータパネルの信頼性評価の更に他の結果を示した表。
【図15】従来技術におけるシンチレータパネルを用いた放射線検出器の一例を示す概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態にかかるシンチレータパネルおよびその製造方法について、図1ないし図9を参照して説明する。以下、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なる。また、図面においては、その要部に符号が付され、互いに同一または類似の部分には共通の符号を付して、重複説明は一部省略される。
【0019】
図1に示すシンチレータパネル10は、放射線を透過する支持基板11を有し、その一主面に、有機珪素化合物により形成された中間層12を介して、有機膜からなる第1の保護層13が形成されている。そして、第1の保護層13上にシンチレータ層14が形成され、このシンチレータ層14および支持基板11の縁端部15上の第1の保護層13に積層し、第2の保護層16がシンチレータ層14を密閉して被覆している。なお、上記シンチレータ層14では、図を簡明にするために一部に示す多数の柱状結晶構造体14aが束状に堆積し成膜されている。
【0020】
同様に、図2に示すシンチレータパネル20は、放射線を透過する支持基板11を有し、光を反射する反射層17が支持基板11主面の所定領域に形成されている。そして、反射層17の形成されていない支持基板11主面の縁端領域および反射層17に被着した有機珪素化合物からなる中間層12を介して、有機膜からなる第1の保護層13が形成されている。更に、第1の保護層13上にシンチレータ層14が形成され、このシンチレータ層14および支持基板11の縁端部15上の第1の保護層13に積層し、第2の保護層16がシンチレータ層14を密閉して被覆している。
【0021】
支持基板11は、例えば矩形板状、円板状であり、Al製、Al合金製、グラファイト(C)製、SiC製、Be製、アモルファスカーボン製、ガラス製、ファイバオプティカルプレート等からなる放射線を透過する板状の基板である。なお、図1に示す支持基板11では、その一主面は鏡面研磨され、光を反射できるようになっている。
【0022】
中間層12は、支持基板11あるいは反射層17と第1の保護層13との間に分子層レベルの厚さ(数nm以下)で介在し、それ等の間の接合を強固にする。図3に示すように、有機珪素化合物からなる中間層12は、その珪素成分が支持基板11あるいは反射層17との間で共有結合し、更に第1の保護層13の有機成分と化学結合する。ここで、上記共有結合としては、後述するようにSi−Oのシロキサン結合を介する化学結合が好適である。また、中間層12中の有機官能基がグラフト反応、共重合、相溶化などにより有機膜からなる第1の保護層13に強結合するようにするとよい。このようにして、支持基板11あるいは反射層17と第1の保護層13との間が上記化学結合を通して強く接合することになる。
【0023】
上記有機珪素化合物としては、例えばビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシランあるいはビニルトリイソプロポキシシランが好適である。更に、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。また、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等であってもよい。
【0024】
第1の保護層13および第2の保護層16には、高い非透湿性があり防湿性および耐湿性を有する例えばポリパラキシリレン膜が好適である。この他に、ポリフルオロパラキシリレン、ポリクロロパラキシリレン、ポリジメチルパラキシリレン、ポリジエチルパラキシリレン等のキシリレン系の有機膜が用いられる。ここで、第1の保護層13および第2の保護層16は、上記キシリレン系の有機膜からなる群より選択された単層有機膜又は多層有機膜として形成されるとよい。
【0025】
特に、第1の保護層13および第2の保護層16の両方ともポリパラキシリレン膜により形成するのが好ましい。この有機膜は、化学的気相成長(CVD)法により成膜できるために段差被覆性に優れ、後述するシンチレータ層を一様に被覆することができる。また、同一の有機膜を使用することによりシンチレータパネル製造における生産性が向上する。
【0026】
シンチレータ層14は、高輝度蛍光物質である例えばCsI等のハロゲン化合物からなる。特に短冊状の柱状結晶構造を有するCsI:Na、CsI:Tlが好適である。その他のハロゲン化合物としては、例えば種々の賦活物質を有するLiI、NaI、KIが挙げられる。あるいは、GOS(Gd2O2S)、GSO(Gd2SiO5)、ZnS、ZnSe、Ca2MgSi2O7、Ca(1−X)MgXSiO3、CaF2、BaF2、BGO(Bi4Ge3O12、Bi12GeO20)、YAP(YAlO3)、YAG(Y3Al5O12)、YSO(Y2SiO5)、LuAP(LuAlO3)、LSO(Lu2SiO5)、LSP(Lu2Si2O7)、LuYAP{Lu(1−X)YXAlO3}、LGSO{Lu(1−X)GdXSiO5}、LaCl3、CeCl3、RbGd2Br7、K2LaCl5、LiBaF3の少なくとも1つを含む蛍光体材料が用いられてもよい。
【0027】
図1,2に示すように、シンチレータ層14としては、多数の柱状結晶構造体14aが束状に堆積し成膜されているのが特に好ましい。これは、それぞれの柱状結晶構造体14aがその中で発生するシンチレーション光Sに対するライトガイド機能を有するようになるからである。このようなシンチレータ層14の短冊状の柱状結晶構造により、シンチレータ層14で発生した光の拡散が小さく、高い解像度が得られるようになる。そこで、上記蛍光体材料からなる蛍光体膜の成膜において柱状結晶構造にならない場合には、例えばダイサにより上記蛍光体膜を四角柱状にダイシングし柱状構造体にしてもよい。
【0028】
反射層17は、放射線透過性であり、所定波長の光を反射する金属薄膜からなる。例えばAl、Cu、Ni、Ti、Cr、Mg、Rh、Ag、Au、Pt等からなる群より選択された金属材料からなる。この反射層17は、後述されるがシンチレータ層14で発生するシンチレーション光を反射し効率的に利用できるようにする。
【0029】
次に、上記シンチレータパネルの動作について図1を参照して説明する。例えば医療用診断装置や工業用非破壊検査装置の場合のように、シンチレータパネル10において、例えば被検体を透過した放射線等は入力像の入射放射線Rとして支持基板11を透過する。そして、支持基板11上のシンチレータ層14がその指示基板を透過した放射線等からなる入力像をシンチレーション光Sからなる光学像に変換する。なお、この光学像を構成するシンチレーション光Sは、その波長がシンチレータ層14の種類に依存したものになる。
【0030】
ここで、シンチレータ層14中で発生する上記シンチレーション光Sは、シンチレータ層14を構成するそれぞれの柱状結晶構造体14aから、入射放射線Rと同じ方向に光学的に小さな拡散で出射する。これは、例えば、柱状結晶構造体14aがシンチレータ層14の膜厚である200μm〜400μm程度の長さで、1μm〜10μm程度の径の導波路のようになるためである。このような柱状結晶構造体14aのシンチレーション光Sのコリメートにより、シンチレーション光Sの光学像の例えば画像特性である解像度が向上する。
【0031】
また、シンチレーション光の発生において、入射放射線Rと逆向きのシンチレーション光も生じる。しかし、鏡面研磨されている支持基板11主面がそのような逆方向に進むシンチレーション光を入射放射線Rの方向に反射する。この支持基板11主面の光反射において、上述した中間層12は、その厚さが分子層レベルと極めて薄いために反射防止膜として作用しない。このため、支持基板11上の第1の保護層13との間の中間層12の介在によるシンチレーション光Sの反射効率の低下は生じない。そして、シンチレーション光Sの利用効率を高く維持することができる。このようなシンチレーション光Sの高い利用効率により、シンチレーション光Sの光学像の画像特性であるコントラストが向上する。
【0032】
なお、通常、有機膜からなる第1の保護層13の屈折率は1.6程度であり、シンチレータ層14の例えば2以上になる屈折率より小さくなる。このため、支持基板11主面において、第1の保護層13が無反射コーティング層として作用し易いが、第1の保護層13の膜厚を調節することによりその作用を抑制することが容易にできる。
【0033】
ここで、中間層12は、非透湿性を有し防湿能力の高い第1の保護層13が支持基板11と接合する強度およびその接合の耐久性を向上させる。また、放射線照射損傷の耐性が高く、さらに、例えば放射線照射に伴い生じる熱ストレスに対する耐性も高い。これ等のために、シンチレータ層14および支持基板11の鏡面は、第1の保護層13により空気中の湿気あるいは水分等から長期に亘り確実に保護される。そして、例えば潮解などによる柱状結晶構造体14aの変質、あるいは上記鏡面におけるシンチレーション光の反射性能の劣化が防止される。
【0034】
次に、シンチレータパネルの製造方法について図4乃至図8を参照して説明する。以下、図1に示したシンチレータパネル10の場合について述べる。はじめに、例えば0.5mm〜1mm程度の板厚であり、その一主面が鏡面に研磨され所要の大きさに加工されたAl製の支持基板11を用意する(図4(a))。そして、その一主面に分子層レベルの厚さの有機珪素化合物からなる中間層12を形成する(図4(b))。以下、この中間層12の形成方法について少し詳細に説明する。
【0035】
上記有機珪素化合物は、例えば図5に示すように、有機物のセグメントあるいはモノマーとの反応や相互作用を生じさせる有機官能基(A)、加水分解反応および縮合反応によって例えば無機物と共有結合を生じさせる加水分解基(OB)を有する化学構造をもつものがよい。ここで、好ましい有機官能基としては、アミノ基、エポキシ基、スルファド基、ビニル基、アリル基、メタクリル基、メルカプト基、ケチミノ基等が挙げられる。また、好適な加水分解基としては、メトキシ基、エトキシ基、アセトキシ基、イソプロポキシ基等が挙げられる。
【0036】
はじめに、支持基板11を化学薬液により洗浄処理しその表面の有機物あるいはパーティクル等を除去する。この洗浄処理では例えば紫外線UV照射とオゾンO3とを用いるいわゆるUV−O3洗浄が効果的である。
【0037】
その後、図6(a)に示すように、支持基板11主面以外を例えばフォトレジスト膜等の有機膜からなるマスクMAで被覆する。ここで、マスクMAはいわゆるフォトリソグラフィー技術を用いて容易に形成される。例えば、感光性有機膜になるフォトレジスト溶液中でのディッピング処理を通して支持基板11の全面にフォトレジスト膜を形成した後、その主面のフォトレジスト膜を露光・現像を通して選択的に除去することによりマスクMAを形成する。あるいは、スピン塗布したフォトレジスト膜を用いてもよい。
【0038】
次に、図6(b)に示すように、密閉型処理チャンバC1内において支持基板11に有機珪素化合物のベーパー処理を施す。このベーパー処理では、マスクMAが形成された支持基板11を密閉型処理チャンバC1内の支持治具J1に載置する。そして、密閉型処理チャンバC1内の底部に貯溜している有機珪素化合物溶液SLの蒸気SVに所定の時間のあいだ曝す。ここで、有機珪素化合物溶液SLは密閉型処理チャンバC1の下部から例えばヒーター熱HEにより所定温度に加熱され、所定の蒸気圧に保持される。このようなベーパー処理により、支持基板11主面に有機珪素化合物溶液の蒸気SVが付着して、所定の厚さの皮膜12aが形成される。
【0039】
その後、図7(a)に示すように、支持基板11のマスクMAを薬液等により除去する。なおマスクは,テ−プマスキング等を用いてはがすことによりマスクを除去することもできる。そして、図7(b)に示すように、密閉型処理チャンバC2内において、支持基板11主面に形成した皮膜12aを中間層12に変性する。この変性処理では、皮膜12aが形成された支持基板11を乾燥処理チャンバC2内の支持治具J2に載置する。そして、この乾燥処理チャンバC2内の水蒸気HVの雰囲気中で、ランプヒータLHからの赤外線IRにより、皮膜12aに対する乾燥処理を施す。皮膜12aはこの処理により極めて容易に中間層12に変性する。そして、例えば数nm以下の分子層レベルであり、高い均一性を有する中間層12が再現性よく支持基板11主面に形成される。
【0040】
上述したところの中間層12は、図8に示すような反応メカニズムにより形成される。すなわち、支持基板11主面の皮膜12aでは、水蒸気HVに曝され有機珪素化合物の加水分解基(OB)が加水分解してシラノール基が生成される。そして、そのシラノール基は、支持基板11主面に化学吸着する水酸基と水素結合を介して、支持基板11と化学結合する。その後、更に脱水縮合反応を経て酸素を介する強固な共有結合が生じ、中間層12が形成される。
【0041】
上記中間層12を形成した後、支持基板11主面に中間層12を介して第1の保護層13を成膜する(図4(c))。この成膜は、例えばジパラキシレンのような原液を気化しあるいはラジカル化し、それを原料ガスにしたCVD法により気相成長チャンバ内でなされるのが好ましい。このCVDにより、第1の保護層13は、その膜厚が例えば0.5μm〜10μm程度に中間層12上に堆積する。この有機膜のCVDは膜厚の均一性および皮膜の段差被覆性が極めて優れたものになる。
【0042】
上記CVDでは、支持基板11は加熱されて所定温度に制御されている。そして、第1の保護層13の有機膜のセグメントが中間層12の有機官能基(A)と化学結合する。このようにして、支持基板11主面との共有結合により強固に接合した中間層12は、上記官能基との化学結合により第1の保護層13とも強固に結合する。
【0043】
上記第1の保護層13を形成した後、支持基板11主面に中間層12を介してシンチレータ層14を形成する(図4(d))。シンチレータ層14は公知の真空蒸着法により蒸着チャンバ内で成膜される。ここで、例えばCsIの柱状結晶構造のシンチレータ層14の成膜では、支持基板11を加熱して所定温度に制御し、膜厚を例えば100μm〜400μm程度にし、その柱状結晶構造体14aの径を例えば5μm〜10μm程度にする。また、この真空蒸着においては、例えばシャドウマスクを用い支持基板11の縁端部15の第1の保護層13上にシンチレータ層14が形成されないようにする。
【0044】
そして、上記シンチレータ層14を形成した後、第1の保護層13の成膜の場合と同じCVD法により、シンチレータ層14および支持基板11の縁端部15の第1の保護層13を被覆する第2の保護層16を成膜する(図4(e))。このCVDでは、第2の保護層16は、その膜厚が例えば5μm〜20μm程度に堆積される。このようにして、シンチレータ層14は膜厚の均一性および段差被覆性に優れた第2の保護層16により密閉される。
【0045】
なお、シンチレータ層14を成膜する蒸着チャンバと第2の保護層16あるいは第1の保護層13を成膜する気相成長チャンバとの間において、被膜される支持基板11が低水蒸気分圧の雰囲気で搬送されるようになっていると好適である。このようにすると、成膜処理におけるシンチレータ層14、第1の保護層13あるいは第2の保護層16中の水分の含有を大きく低減させて制御することができる。
【0046】
以上に説明したような製造工程を通してシンチレータパネル10は作製される。上述したシンチレータパネル10の製造における中間層12の形成では、そのシロキサン結合の酸素を介する支持基板11主面との共有結合における結合角度が小さくそれ等の界面での残留応力が小さくなっている。このために、この支持基板11と中間層12の界面の放射線に対する耐性が高くなる。そして、上述したように、この中間層12は、放射線照射下にあっても、支持基板11に対する第1の保護層13の接合耐久性を向上させる。
【0047】
なお、シンチレータパネル20の製造は、反射層17の形成以外は上述したシンチレータパネル10の場合と同様に製造される。ここで、反射層17は、例えば、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の物理的気相成長(PVD)法により、支持基板11主面上に例えば200nm〜500nm程度の膜厚に形成される。
【0048】
上述したシンチレータパネルの製造方法において、有機珪素化合物からなる中間層12は、有機珪素化合物のベーパー処理の他に、有機珪素化合物溶液のスピン塗布、ディッピング処理等を用いて形成することができる。また、第1の保護層13あるいは第2の保護層16は、CVD法の他に、例えば樹脂フィルム、樹脂シート等の真空ラミネート法、樹脂塗液を用いたスピンコート法、印刷法、PVD法等により被着することができる。そして、シンチレータ層14は、真空蒸着法の他にスパッタリング法、CVD法等によっても形成することができる。
【0049】
次に、図9を参照して本実施形態にかかるシンチレータパネルのその外の例について説明を加える。以下、図1,2で説明したシンチレータパネルの場合の構造と異なるところを主に説明する。
【0050】
図9(a)に示すシンチレータパネルでは、支持基板11の一主面に中間層12が形成され、その縁端部15を除く領域の中間層12上にシンチレータ層14が形成される。そして、シンチレータ層14および支持基板11の縁端部15を被覆する第2の保護層16が形成されている。これに対して、図9(b)に示すシンチレータパネルでは、中間層12は支持基板11の全表面を覆うように形成される。そして、第2の保護層16は支持基板11の縁端部15、その端面および他主面を覆い、支持基板11およびシンチレータ層14を空気から遮断し密閉するように被覆している。
【0051】
また、図9(c)に示すシンチレータパネルでは、支持基板11の一主面に例えば素酸化膜、珪素窒化膜等からなる無機絶縁層18が形成され、その無機絶縁層18の表面に中間層12が形成されている。それ以外は図9(a)に示したシンチレータパネルと同様である。そして、図9(d)に示すシンチレータパネルでは、支持基板11の一主面に無機絶縁層18が形成され、その無機絶縁層18の表面に中間層12が形成されている。それ以外は図9(c)に示したシンチレータパネルと同様である。
【0052】
その外にも、シンチレータパネルの変形例が種々にある。例えば図9に示した各シンチレータパネルにおいて、図2で説明したような反射層17を支持基板11主面に形成するようにしてもよい。あるいは、中間層12は支持基板11の縁端部15における主面に形成し、第2の保護層16が縁端部15で支持基板11と強固に接合するようにしてもよい。
【0053】
次に、本実施形態にかかるシンチレータパネルを用いた放射線検出器の例について図10および図11を参照して説明する。二次元平面構造の放射線検出器30は、上記実施形態で説明したのと同様なシンチレータパネル31と、受光素子である光電変換素子を有する複数の画素を備えたアクティブマトリクス基板32が接合した状態に形成されている。この場合のシンチレータパネル31では、図2で説明したシンチレータパネル20の他主面側も被覆する第2の保護層16が形成されている。この他主面側の第2の保護層16は第1の保護層13により形成してもよい。なお、他主面側においても支持基板11との間に中間層が介在してもよい。
【0054】
そして、第2の保護層16上には、入射放射線Rの散乱成分を遮蔽しそのコリメート機能をもつ格子状の放射線遮蔽グリッド33が形成されている。この放射線遮蔽グリッド33は各画素の光電変換素子の間を遮蔽して、画像特性を向上させる。
【0055】
このアクティブマトリクス基板32は公知の構造に示してあり、以下はその概略について説明する。シンチレーション光Sを透過する例えばガラス板からなる透光性基板34上に、薄膜トランジスタからなるスイッチング素子35および電荷蓄積用キャパシタ36が形成されている。そして、これ等の上層に層間絶縁層37を介して、シンチレーション光Sを電子あるいは正孔の電荷に変換する受光素子である例えばフォトダイオードの光電変換素子38が形成されている。例えばフォトダイオードはアモルファスシリコン(a−Si)のpn接合ダイオード、pin接合ダイオードである。
【0056】
ここで、薄膜トランジスタからなるスイッチング素子35は、ゲート電極35a、2層の絶縁層からなるゲート絶縁膜35b、ソース電極35cおよびドレイン電極35dを有する。ゲート電極35aは図11に示す制御線(走査線)39としてマトリクスの行方向に配設されるものである。また、ソース電極35cは同様に図11に示す読み出し線(信号線)40としてマトリクスの列方向に配設されるものである。
【0057】
そして、薄膜トランジスタのドレイン電極35dは、光電変換素子38で生成した電荷を集める画素電極(集電電極)38aに電気接続している。ここで、画素電極38aはフォトダイオードの一電極であり、例えばITOのように光透過性をもつ透光性電極38bがその上部に形成されている。更に、ドレイン電極35dは電荷蓄積用キャパシタ36の一電極36aに接続している。なお、この電荷蓄積用キャパシタ36は、ゲート絶縁膜35bを構成する上記2層の絶縁層のうちの1層をキャパシタ絶縁膜とし、それを挟むように形成されている対向電極36bを有する。なお、この対向電極35bは接地配線として透光性基板34上に配設されるものである。
【0058】
上述したシンチレータパネル31とアクティブマトリクス基板32は、透光性の例えばホットメルト樹脂のような樹脂製の接合層41により接合される。この接合層41は、例えば樹脂フィルムをシンチレータパネル31の第2の保護層16上に真空ラミネートにより圧着あるいは熱圧着して形成したものでもよい。そして、このシンチレータパネル31の接合層41がアクティブマトリクス基板32の層間絶縁層37、透光性電極38b等に熱圧着される。
【0059】
この他に、接合層41の形成およびそのアクティブマトリクス基板32との接合には種々の方法がある。いずれの場合でも、この箇所での接合において、シンチレータパネルの支持基板11への保護層の被覆に用いたような中間層12を適用するようにしてもよい。すなわち、アクティブマトリクス基板32の層間絶縁層37、透光性電極38b等の表面に有機珪素化合物からなる中間層を形成した後に、シンチレータパネル31の第2の保護層16上に形成した有機膜材料からなる接合層41を接合させる。この場合の中間層の作用効果は上記中間層12と同様である。ここで、第2の保護層16の材質あるいは厚さを調整して、第2の保護層16がそのまま接合層41となるようにすることも可能である。
【0060】
上記放射線検出器30では、入射放射線Rはシンチレータパネル31のシンチレータ層14でシンチレーション光Sとなり、例えば放射線からなる入力像はシンチレーション光Sからなる光学像に変換される。そして、この光学像が上述したアクティブマトリクス基板32において撮像され、画質性能や安定性に優れ、しかもリアルタイムに出力されるデジタル画像として利用される。
【0061】
本実施形態では、シンチレータパネルは空気中において高い耐湿性を有し、その長期信頼性が大幅に向上する。また、このシンチレータパネルを用いた放射線による被検体からの画像特性およびその安定性と信頼性が大きく向上する。これは、シンチレータパネルにおいて、その支持基板およびシンチレータ層を被覆する有機膜からなる高い防湿性の保護層が、有機珪素化合物からなる中間層により支持基板と強固に接合し、しかもその接合耐久性が極めて高くなるからである。
【0062】
シンチレータパネルの高い耐湿性が確保できることから、例えばCsIのような吸湿性のある高輝度蛍光物質がシンチレータ層として高い信頼性のもとに使用できるようになる。また、シンチレータ層で発生したシンチレーション光の支持基板における反射性能が高く維持される。ここで、上記中間層はその厚さが分子層レベルと極薄にできるために上記反射性能の阻害要因にならない。
【0063】
上記有機珪素化合物からなる中間層は、支持基板の表面と共有結合のような化学結合し、その結合角が小さく、接合界面における残留応力を小さくすることができる。このことから中間層の放射線照射損傷の耐性が高い。さらに、例えば放射線照射に伴い生じる熱ストレスあるいは外力に対する耐性も高い。
【0064】
このような中間層を介する支持基板との上記保護層の強固な接合と高い接合耐久性により、保護層の被覆する支持基板の縁端部の領域面積を小さくすることができる。そして、支持基板上でシンチレータ層が形成される面積を拡大させることが容易になる。このようにして、シンチレータパネルおよび放射線検出器の小型化、高性能化が可能になる。また、シンチレータパネルおよび放射線検出器の生産性向上も容易になる。
【実施例】
【0065】
次に、実施例により本発明の効果について具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0066】
(実施例、比較例)
実施例および比較例のシンチレータパネルは、それぞれ図1に示した断面構造、図15で示した断面構造になっている。そして、これ等のシンチレータパネルの平面形状は同じ大きさの正方形になっている。その他のシンチレータパネルの主要な構成は以下の通りである。
【0067】
支持基板:全てアルミニウム板、厚さは0.5mm、平面寸法は20cm角
シンチレータ層:全て真空蒸着成膜のCsI:Tl、その膜厚は200μm
保護層:全てCVD成膜のポリパラキシリレン、膜厚は第1の保護層13が5μm、第2の保護層16が10μm、保護層103が10μm
中間層:有機珪素化合物はビニルトリメトキシシラン
なお、これ等のシンチレータパネルの作製方法は実施形態のシンチレータパネルの製造方法で説明したのと同様である。
【0068】
上記作製した実施例および比較例のシンチレータパネルの信頼性試験を行った。以下にそれ等の比較評価の結果について説明する。なお、シンチレータパネルの評価サンプル数はそれぞれ10枚ずつである。
(評価1)
この評価は、熱ストレス印加後の支持基板の一主面の腐食にかかり、その結果が図12にまとめて示される。ここで、信頼性評価の加速試験の概要は以下の通りである。下記の衝撃試験の後に50時間(H)、100Hの間の恒温恒湿試験を行った。
【0069】
熱衝撃試験:温度サイクル条件は、低温(−30℃、30min)と高温(70℃、30min)の10サイクル
恒温恒湿試験:温度条件は60℃、湿度条件は90%
腐食評価:光学顕微鏡観察
【0070】
図12に示すように、実施例のシンチレータパネルでは、全サンプルで支持基板主面の鏡面の腐食は観察されなかった。これに対して、比較例のシンチレータパネルでは、50Hの条件で腐食はないが、100Hでは全サンプルにおいて腐食が発生した。この結果から、本実施形態のシンチレータパネルは、熱ストレスに強く、支持基板主面でのシンチレーション光の反射性能が長期に亘り維持できることが確かめられた。
【0071】
(評価2)
この評価は、シンチレータパネル作製後の保護層の支持基板との接合強度に関し、その結果が図13にまとめて示される。この接合強度の評価はJIS K5600に準拠するクロスカット試験によっている。試験の概要は以下の通りである。
【0072】
試験部位:支持基板の縁端部の保護層
被膜の残留率:上記縁端部において保護層の剥がれない比率
試験条件:条件A…5N/25mmの粘着力のテープ使用、条件B…10N/25mmの粘着力のテープ使用
なお、シンチレータパネルの各サンプルにおける4辺の縁端部の所定箇所を条件Aおよび条件Bでそれぞれ試験した。
【0073】
図13に示すように、実施例のシンチレータパネルでは、上記試験条件AおよびBにおいて、全サンプルの保護層の残留比率は100%であった。これに対して、比較例のシンチレータパネルでは、試験条件Aにおいて保護層の残留比率は1/2程度であり、試験条件Bにおいてその残留比率は大きく低下した。
これ等の結果から、本実施形態のシンチレータパネルは、支持基板の縁端部において保護層の接合強度が大きく増加することが確かめられた。
【0074】
(評価3)
この評価は、支持基板と保護層の接合強度の熱ストレス耐性に関し、その結果が図14にまとめて示される。ここで、熱ストレス印加は以下の通りである。
【0075】
熱ストレス試験:温度サイクル条件は、低温(−30℃、30min)と高温(70℃、30min)とし、熱ストレスサイクルを50サイクルと100サイクルにした。
【0076】
剥離評価:支持基板と保護層における界面剥離の顕微鏡観察
【0077】
図14に示すように、実施例のシンチレータパネルでは、全サンプルで支持基板と保護層の界面剥離はみられない。これに対して、比較例のシンチレータパネルでは、熱ストレスサイクルが100サイクルにおいて全サンプルに界面剥離が観察された。但し、50サイクルでは生じなかった。この結果から、本実施形態のシンチレータパネルは、熱ストレスに強くなることが確かめられた。
【0078】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した実施形態は本発明を限定するものでない。当業者にあっては、具体的な実施態様において本発明の技術思想および技術範囲から逸脱せずに種々の変形・変更を加えることが可能である。
【0079】
例えば、中間層12は、加水分解基のない有機珪素化合物からなるカップリング剤により形成されてもよい。このような有機珪素化合物は架橋性シリル基を有し、例えばヘキサメチルシラザン(HMDS)、トリクロロメチルシラン(TCMS)等が挙げられる。但し、このようなシロキサン結合を持たない有機珪素化合物を用いる場合には、有機珪素化合物のベーパー処理において支持基板の主面に水分を存在させることが好ましい。
【0080】
また、シンチレータパネルに入射する放射線は、電荷物質の加速度運動から放射する電磁波(放射X線)の他に、特性X線のように原子状態の変化から発生する電磁波、あるいは紫外線のような電磁波であってもよい。
【0081】
また、シンチレータパネルの適用される放射線検出器は、画像形成の他に被検体を検出し同定するためのものであってもよい。また、この放射線検出器はいわゆる一次元イメージセンサのような構造になっても構わない。
【符号の説明】
【0082】
10,20,31…シンチレータパネル,11…支持基板,12…中間層,13…第1の保護層,14…シンチレータ層,14a…柱状結晶構造体,15…縁端部,16…第2の保護層,17…反射層,18…無機絶縁層,30…放射線検出器,32…アクティブマトリクス基板,33…放射線遮蔽グリッド,34…透光性基板,35…スイッチング素子,35a…ゲート電極,35b…ゲート絶縁膜,35c…ソース電極,35d…ドレイン電極,36…電荷蓄積用キャパシタ,36a…一電極,36b…対向電極,37…層間絶縁層,38…光電変換素子,38a…透光性電極,38b…画素電極,39…制御線,40…読み出し線,41…接合層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線あるいは電磁波を透過する支持基板と、
前記支持基板の一主面に設けられ、前記放射線あるいは電磁波を光に変換するシンチレータ層と、
前記支持基板の前記主面の少なくとも縁端部および前記シンチレータ層を被覆する有機膜からなる保護層と、を有し、
前記保護層は、有機珪素化合物により形成された中間層を介して前記支持基板に被着していることを特徴とするシンチレータパネル。
【請求項2】
前記保護層は、第1の保護層と第2の保護層からなり、前記第1の保護層が前記中間層を介して前記支持基板に被着し、前記第2の保護層が前記シンチレータ層および前記第1の保護層を包むように被覆していることを特徴とする請求項1に記載のシンチレータパネル。
【請求項3】
前記中間層を形成する有機珪素化合物は、少なくともアミノ基、エポキシ基、スルファド基、ビニル基、アリル基、メタクリル基、メルカプト基、ケチミノ基のいずれかの有機官能基と、メトキシ基、エトキシ基、アセトキシ基、イソプロポキシ基のいずれかの加水分解基とを有していることを特徴とする請求項1又は2に記載のシンチレータパネル。
【請求項4】
前記保護層は、絶縁性、防湿性、前記シンチレータ層で変換された光に対する透過性、前記シンチレータ層を構成する物質に対する耐腐食性を有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載のシンチレータパネル。
【請求項5】
前記保護層はポリパラキシリレンを主成分とする有機物から形成されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載のシンチレータパネル。
【請求項6】
前記シンチレータ層は、少なくともハロゲン化合物を含む高輝度蛍光物質により形成されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載のシンチレータパネル。
【請求項7】
放射線あるいは電磁波を透過する支持基板と、前記支持基板の一主面に設けられ、前記放射線あるいは電磁波を光に変換するシンチレータ層と、前記支持基板の前記主面の少なくとも縁端部および前記シンチレータ層を被覆する有機膜からなる保護層と、を有するシンチレータパネルの製造方法であって、
前記支持基板の表面に前記有機珪素化合物からなる皮膜を形成する工程と、
前記皮膜を水蒸気中で加熱し、前記支持基板と化学結合する中間層にする工程と、
前記中間層を形成した後、前記中間層の形成された前記支持基板および前記シンチレータ層を被覆するように前記保護層を成膜する工程と、を有することを特徴とするシンチレータパネルの製造方法。
【請求項8】
前記有機珪素化合物は、少なくともアミノ基、エポキシ基、スルファド基、ビニル基、アリル基、メタクリル基、メルカプト基、ケチミノ基のいずれかの有機官能基と、メトキシ基、エトキシ基、アセトキシ基、イソプロポキシ基のいずれかの加水分解基とを有し、
前記支持基板上に形成した前記皮膜は、加水分解反応および縮合反応により前記支持基板と酸素を介した共有結合をして前記中間層になることを特徴とする請求項7に記載のシンチレータパネルの製造方法。
【請求項9】
前記保護層は気相成長により成膜することを特徴とする請求項7又は8に記載のシンチレータパネルの製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし6のいずれか一項に記載のシンチレータパネルと、
入射放射線あるいは電磁波により前記シンチレータパネルのシンチレータ層で発生した光を電気信号に変換する受光素子と、を備えていることを特徴とする放射線検出器。
【請求項1】
放射線あるいは電磁波を透過する支持基板と、
前記支持基板の一主面に設けられ、前記放射線あるいは電磁波を光に変換するシンチレータ層と、
前記支持基板の前記主面の少なくとも縁端部および前記シンチレータ層を被覆する有機膜からなる保護層と、を有し、
前記保護層は、有機珪素化合物により形成された中間層を介して前記支持基板に被着していることを特徴とするシンチレータパネル。
【請求項2】
前記保護層は、第1の保護層と第2の保護層からなり、前記第1の保護層が前記中間層を介して前記支持基板に被着し、前記第2の保護層が前記シンチレータ層および前記第1の保護層を包むように被覆していることを特徴とする請求項1に記載のシンチレータパネル。
【請求項3】
前記中間層を形成する有機珪素化合物は、少なくともアミノ基、エポキシ基、スルファド基、ビニル基、アリル基、メタクリル基、メルカプト基、ケチミノ基のいずれかの有機官能基と、メトキシ基、エトキシ基、アセトキシ基、イソプロポキシ基のいずれかの加水分解基とを有していることを特徴とする請求項1又は2に記載のシンチレータパネル。
【請求項4】
前記保護層は、絶縁性、防湿性、前記シンチレータ層で変換された光に対する透過性、前記シンチレータ層を構成する物質に対する耐腐食性を有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載のシンチレータパネル。
【請求項5】
前記保護層はポリパラキシリレンを主成分とする有機物から形成されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載のシンチレータパネル。
【請求項6】
前記シンチレータ層は、少なくともハロゲン化合物を含む高輝度蛍光物質により形成されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載のシンチレータパネル。
【請求項7】
放射線あるいは電磁波を透過する支持基板と、前記支持基板の一主面に設けられ、前記放射線あるいは電磁波を光に変換するシンチレータ層と、前記支持基板の前記主面の少なくとも縁端部および前記シンチレータ層を被覆する有機膜からなる保護層と、を有するシンチレータパネルの製造方法であって、
前記支持基板の表面に前記有機珪素化合物からなる皮膜を形成する工程と、
前記皮膜を水蒸気中で加熱し、前記支持基板と化学結合する中間層にする工程と、
前記中間層を形成した後、前記中間層の形成された前記支持基板および前記シンチレータ層を被覆するように前記保護層を成膜する工程と、を有することを特徴とするシンチレータパネルの製造方法。
【請求項8】
前記有機珪素化合物は、少なくともアミノ基、エポキシ基、スルファド基、ビニル基、アリル基、メタクリル基、メルカプト基、ケチミノ基のいずれかの有機官能基と、メトキシ基、エトキシ基、アセトキシ基、イソプロポキシ基のいずれかの加水分解基とを有し、
前記支持基板上に形成した前記皮膜は、加水分解反応および縮合反応により前記支持基板と酸素を介した共有結合をして前記中間層になることを特徴とする請求項7に記載のシンチレータパネルの製造方法。
【請求項9】
前記保護層は気相成長により成膜することを特徴とする請求項7又は8に記載のシンチレータパネルの製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし6のいずれか一項に記載のシンチレータパネルと、
入射放射線あるいは電磁波により前記シンチレータパネルのシンチレータ層で発生した光を電気信号に変換する受光素子と、を備えていることを特徴とする放射線検出器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−220400(P2012−220400A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88087(P2011−88087)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(503382542)東芝電子管デバイス株式会社 (369)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(503382542)東芝電子管デバイス株式会社 (369)
【Fターム(参考)】
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