説明

シンチレータ材料、及びシンチレーション検出器

【課題】蛍光寿命の短いシンチレータ材料、及びこのシンチレータ材料からなるシンチレータを備えたシンチレーション検出器を提供する。
【解決手段】
C面を主面とする板状の酸化亜鉛の種結晶の+C面上又は−C面上に結晶成長した酸化亜鉛単結晶からなり、前記酸化亜鉛単結晶中にInとLiとを含有するものをシンチレータ材料とする。このシンチレータ材料は、放射線の入射により、蛍光寿命が20ps未満の蛍光を発する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線の入射により蛍光を発するシンチレータ材料、及びこのシンチレータ材料からなるシンチレータを備えたシンチレーション検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
シンチレーション検出器は、シンチレータに、X線、γ線、及びα線等の電離放射線を照射し、これにより、シンチレータが発した蛍光を、光電子倍増管で増幅して検出するものである。
【0003】
このようなシンチレーション検出器の応用の1つとして、陽電子が消滅するときに放出するγ線を検出するPET装置(Positron Emission Tomography)がある。PET装置では、比較的エネルギーの高いγ線を同時計数により検出するため、感度が高く、且つ応答速度の速いシンチレーション検出器が採用されている。
【0004】
また、近年、TOF(Time−Of−Flight)型等の次世代PET装置の開発
が試みられている。このような次世代型PET装置では、高い時間分解能が要求されるため、特に蛍光寿命の短いシンチレータを必要とする。
【0005】
このようなシンチレータの材料(シンチレータ材料)としては、現在、酸化亜鉛単結晶が使用されている。酸化亜鉛単結晶の蛍光寿命は、BaF2等からなる他のシンチレータ材料と比べ、蛍光寿命が短い。また、潮解性がなく、空気中で安定しているため、取り扱いが容易である上、水熱合成法により作製することで、大量生産が可能である。
【0006】
例えば、特許文献1には、Al、Ga、In等をドーピングした酸化亜鉛単結晶からなるシンチレータ材料が開示されている。この特許文献1に開示のシンチレータ材料は、放射線の入射により、蛍光寿命が約600psの蛍光を発する。
【0007】
また、特許文献2には、ドナー不純物としてのSb、Bi、In、又はGeと、アクセプター不純物としてのLiとをドーピングした酸化亜鉛単結晶からなるシンチレータ材料が開示されている。この特許文献2に開示のシンチレータ材料が放射線の入射により発する蛍光は、蛍光寿命が30〜60psと250〜800psの2つの成分からなる。1つの成分の蛍光寿命30〜60psは、特許文献1に開示のシンチレータ材料が発する蛍光の蛍光寿命600psと比べて、極めて短い。このため、特許文献2に開示のシンチレータ材料は、特許文献1に開示のシンチレータ材料と比べて、蛍光寿命が短く、高い時間分解能が要求される次世代型PET装置のシンチレータの材料に適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2005/11426号公報
【特許文献2】特開2009−285856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記したように、次世代型PET装置では、高い時間分解能が要求される。時間分解能は、シンチレータの蛍光寿命が短ければ短いほど向上するため、シンチレータ材料において、さらなる蛍光寿命の短寿命化が望まれている。具体的には、シンチレータ材料において、そのシンチレータ材料が放射線の入射により発する蛍光の蛍光寿命を20ps未満とすることが望まれている。
【0010】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであって、蛍光寿命の短いシンチレータ材料、及びこのシンチレータ材料からなるシンチレータを備えたシンチレーション検出器を提供することを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るシンチレータ材料は、放射線の入射により、蛍光を発するシンチレータ材料であって、C面を主面とする板状の酸化亜鉛の種結晶の+C面上又は−C面上に結晶成長した酸化亜鉛単結晶からなり、前記酸化亜鉛単結晶中にInとLiとを含有し、前記蛍光の蛍光寿命が20ps未満であることを特徴とする。なお、本願発明において、蛍光寿命とは、蛍光の発光強度が最大値に達してから、その発光強度が最大値の1/expに減衰するまでの時間をいうものとする。
【0012】
この本発明に係るシンチレータ材料では、放射線の入射により発せられる蛍光として、ドナーアクセプター対発光(DAP発光)が観察される。具体的には、シンチレータ材料に放射線が入射すると、価電子帯の電子が伝導帯に励起され、伝導体には自由電子が生成される一方、価電子帯には正孔が生成する。自由電子は、Inにより形成されたドナー準位にトラップされ、同時に正孔がLiにより形成されたアクセプター準位にトラップされる。その後、自由電子と正孔が再結合して発光する。この現象をDAP発光という。本発明のシンチレータ材料において、放射線の入射により観察されるDAP発光には、蛍光寿命が20ps未満の成分があり、この成分の蛍光寿命は、従来の酸化亜鉛単結晶からなるシンチレータ材料が放射線の入射により発する蛍光の1成分の蛍光寿命30〜60psと比べて低い。このため、本発明のシンチレータ材料は、蛍光寿命が30ps以上の複数の成分からなる蛍光を発する従来のシンチレータ材料と比べて、蛍光寿命が短いものとなっている。
【0013】
また、本発明に係るシンチレータ材料において、当該シンチレータ材料が放射線の入射により発する蛍光は、蛍光寿命が20ps未満の1つの成分のみからなることが好ましい。この場合には、シンチレータ材料が発する蛍光の蛍光寿命をより短くすることができる。
【0014】
また、本発明に係るシンチレータ材料において、前記酸化亜鉛単結晶中のLi濃度は、In濃度の0.15倍以上〜11倍以下であることが好ましく、0.15倍以上〜6.74倍以下であることが特に好ましい。Li濃度が、In濃度の0.15倍以上〜11倍以下の酸化亜鉛単結晶は、水熱合成法等により、結晶欠陥の少ない高品質な状態で製造され得る。
【0015】
また、本発明に係るシンチレーション検出器は、上記した本発明に係るシンチレータ材料からなるシンチレータを備えることを特徴とする。
【0016】
この本発明に係るシンチレーション検出器は、本発明に係るシンチレータ材料からなるシンチレータを備えるものであるから、高い時間分解能を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、蛍光寿命の短いシンチレータ材料、及びこのシンチレータ材料からなるシンチレータを備えたシンチレーション検出器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本実施の形態に係るシンチレータ材料の製造に使用する単結晶育成炉の内部構成を示す断面図である。
【図2】図2は、本実施の形態に係るシンチレータ材料のLi/In比に対する蛍光寿命を比較例と比較して示す図である。
【図3】図3は、本実施の形態に係るシンチレータ材料が放射線の入射により発した蛍光の発光強度の経時変化を説明するための図であり、図3(a)は、比較例5に係るシンチレータ材料が放射線の入射により発した蛍光の発光強度の経時変化を示す図であり、図3(b)は、実施例1に係るシンチレータ材料が放射線の入射により発した蛍光の発光強度の経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本実施の形態に係るシンチレータ材料は、InとLiとを含有する酸化亜鉛単結晶からなる。そこで、本発明に係るシンチレータ材料を構成する酸化亜鉛単結晶の製造方法について、以下に説明する。
【0020】
<シンチレータ材料の製造法>
−単結晶育成炉の構成説明−
先ず、単結晶育成用溶液(以下、単に育成用溶液と呼ぶ)を使用して水熱合成法により単結晶の育成を行うための単結晶育成炉(以下、単に育成炉と呼ぶ)の構成について説明する。
【0021】
図1に示すように、育成炉1は、炉本体2の外周囲に電気炉3が配設されている。この電気炉3によって炉本体2が加熱されるようになっている。上記炉本体2は、上部が開放された有底円筒状であり、上端開口21には、炉本体2の内部を密閉するための蓋体22が装着されている。この蓋体22には、炉本体2の内部圧力を計測するための圧力計22aが取り付けられている。更に、炉本体2の内部には、白金製の円筒状の育成容器24が収められている。この育成容器24の内部空間4は密閉されており、この内部空間4の上下方向中間位置には対流制御板23が配設されている。この対流制御板23によって、育成容器24の内部空間4は、下側の原料室41と上側の育成室42とに仕切られている。
【0022】
上記原料室41には、育成用原料である酸化亜鉛の単結晶原料5,5,…が収容されている。一方、育成室42には、単結晶育成棚61に支持された複数枚の種結晶6,6,…が収容されている。
【0023】
また、この育成容器24の内部空間4には、育成用溶液(アルカリ溶液)が充填されている。
【0024】
本実施の形態では、単結晶原料5に、直径1〜10μmの酸化亜鉛粉末と直径1〜25μmの酸化インジウム(In23)粉末の混合物を加圧プレス機によって成形し、1000〜1400℃の酸素雰囲気あるいは大気雰囲気で焼成した焼結体を使用した。
【0025】
また、種結晶6としては、六方晶のC面である(0001)面に平行に切断されたC面を主面とする板状の酸化亜鉛単結晶を使用した。
【0026】
また、育成用溶液としては、KOHの水溶液に、Liが添加されたものを使用した。なお、育成用溶液には、KOHに代えて、NaOH、Na2CO3、K2CO3等のアルカリの水溶液にLiを添加したものを使用することも可能である。
【0027】
−単結晶育成動作の説明−
上記の如く単結晶原料5及び種結晶6が収容され、且つ育成用溶液が充填された育成炉1による単結晶育成動作について以下に説明する。
【0028】
この育成動作では、上記電気炉3によって炉本体2を加熱する。この加熱状態としては、育成室42よりも原料室41が高温となるように設定し、この温度差によって、育成用溶液を高温高圧の元で原料室41と育成室42との間を自然対流させる。
【0029】
これにより、原料室41で単結晶原料5の溶解した育成用溶液が、育成室42に達する。この際、育成用溶液は、冷却されて過飽和状態となり、種結晶6上に析出成長する。この動作を所定期間連続して行うことにより、所定の大きさの酸化亜鉛単結晶が得られる。
【0030】
このようにして得られた酸化亜鉛単結晶を切断して、種結晶6の+C面である(0001)面又は−C面である(000−1)面上に成長した部分を取り出し、この部分の酸化亜鉛単結晶をシンチレータ材料とした。
【0031】
そして、このシンチレータ材料からなるシンチレータを、シンチレーション検出器に備えさせた。
【0032】
次に、本発明の実施の形態に係るシンチレータ材料を、実施例を挙げて具体的に説明する。
【実施例】
【0033】
上記した製造方法により製造された本実施の形態の実施例1〜6に係るシンチレータ材料の蛍光特性を、比較例1〜6に係る従来のシンチレータ材料との比較により、以下に示す。
【0034】
なお、比較例1〜6に係るシンチレータ材料は、M面を主面とする種結晶のM面上に成長した酸化亜鉛単結晶からなる。つまり、種結晶6として、六方晶のM面である(10−10)面に平行に切断されたM面を主面とする板状の酸化亜鉛単結晶を使用して、上記した製造方法により酸化亜鉛単結晶を得、得られた酸化亜鉛単結晶を切断して、M面上に成長した部分を取り出し、この部分の酸化亜鉛単結晶を比較例1〜6に係るシンチレータ材料とした。
【0035】
また、実施例1〜6に係るシンチレータ材料を構成する酸化亜鉛単結晶は、比較例1〜6に係るシンチレータ材料を構成する酸化亜鉛単結晶と比べて、いずれも結晶欠陥の少ない良質なものであった。これらの中でも、特に、実施例1〜5に係るシンチレータ材料を構成する酸化亜鉛単結晶は、結晶欠陥の極めて少ない良質なものであった。
【0036】
実施例1〜6及び比較例1〜6の各シンチレータ材料について、酸化亜鉛結晶中に含まれるLiとInの原子数比と、各シンチレータ材料が放射線の入射により発する蛍光の蛍光寿命を以下表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1に示すLi/In(原子数比)は、酸化亜鉛単結晶中のIn濃度(atoms/c
3)に対するLi濃度(atoms/cm3)の比率である。なお、酸化亜鉛単結晶中のIn濃度及びLi濃度は、二次イオン質量分析装置(CAMECA社製ims6F)を
用いた二次イオン質量分析法により分析した。また、実施例1〜6及び比較例1〜6の各シンチレータ材料が放射線の入射による発する蛍光の蛍光寿命は、ストリークカメラ(HAMAMATSU C1587)を用いて測定した。なお、蛍光が複数の成分からなる場合には、それら各成分の蛍光寿命と、それら各成分の割合を示している。
【0039】
また、図2にLi/In(原子数比)と蛍光寿命との関係を示す。なお、図2中、四角形状のプロットは、実施例1〜6のシンチレータ材料に係るものであり、丸形状のプロットは、比較例1〜6のシンチレータ材料に係るものである。また、複数の成分からなる蛍光を発するものについては、最も蛍光寿命が短い成分の蛍光寿命とLi/In(原子数比)との関係を示している。
【0040】
表1及び図2に示されるように、種結晶の+C面上又は−C面上に成長した酸化亜鉛単結晶からなる実施例1〜6のシンチレータ材料は、蛍光寿命が20ps未満の成分からなる蛍光を発し、この蛍光寿命が20ps未満の成分は、種結晶のM面上に成長した比較例1〜6のシンチレータ材料が発する蛍光のいずれの成分の蛍光寿命よりも短いことが認められた。
【0041】
また、酸化亜鉛単結晶中におけるLi/In(原子数比)が0.15〜11の範囲内で異なる実施例1〜6のシンチレータ材料は、そのLi/In(原子数比)に依存せず、いずれも、10.7ps〜17.2psの蛍光寿命の短い成分の蛍光を発することが認められた。
【0042】
さらに、実施例1〜6のシンチレータ材料が放射線の入射により発する蛍光は、1成分のみでなることが認められた。これに対し、比較例1〜6のシンチレータ材料が放射線の入射により発する蛍光には、2つの成分が存在することが認められた。以下に、蛍光の発光強度と、蛍光を構成する成分の蛍光寿命との関係について説明する。
【0043】
1つの成分(以下、成分1という)のみからなる蛍光の発光強度は、下記式1にて示される。なお、式1では、最大値を1とした場合の発光強度をI、成分1の蛍光寿命をτ1、発光強度が最大値に達してからの経過時間をtとしている。
【0044】
[式1]
I=exp*(−t/τ1
また、成分1と、この成分1よりも蛍光寿命の長い成分(以下、成分2という。)とからなる蛍光の発光強度は、下記式2にて示される。なお、式2では、最大値を1とした場合の発光強度をI、成分1の蛍光寿命をτ1、成分2の蛍光寿命をτ2、発光強度が最大値に達してからの経過時間をtとしている。また、成分1と成分2の合計に対する成分1の存在比をC1とし、成分1と成分2の合計に対する成分2の存在比をC2としている。ただし、C1+C2=1とする。
【0045】
[式2]
I=C1*exp(−t/τ1)+C2*exp(−t/τ2
例えば、比較例5のシンチレータ材料が放射線の入射により発する蛍光には、表1に示すように、蛍光寿命τ1が91.4psの成分1と、蛍光寿命τ2が403psの成分2とが50:50の割合(即ち、C1=0.5、C2=0.5)で存在する。この比較例5のシンチレータ材料が発する蛍光の発光強度は、図3(a)に示すように経時変化する。そして、上記式2によれば、成分1の蛍光が寿命に達した時(即ち、t=τ1=91.4の時)の発光強度は、成分2の蛍光の存在により、最大値の1/expよりも大きいと認められる。すなわち、成分1と成分2とからなる蛍光の蛍光寿命は、成分1の蛍光寿命よりも長いので、成分1と成分2からなる蛍光を発する比較例1〜5のシンチレータ材料の蛍光寿命は、成分1の蛍光寿命62.7ps〜122psよりも長いと認められる。
【0046】
これに対し、実施例1のシンチレータ材料が放射線の入射により発する蛍光は、表1に示すように、蛍光寿命τ1が17.2psの成分1のみからなる。この実施例1のシンチレータ材料が発する蛍光の発光強度は、図3(b)に示すように経時変化する。そして、上記式1によれば、成分1が寿命に達した時(即ち、t=τ1=17.2ps)に、発光強度が最大値の1/expとなると認められる。すなわち、成分1のみからなる蛍光の蛍光寿命は、成分1の蛍光寿命と同じであるので、成分1のみからなる蛍光を発する実施例1〜6のシンチレータ材料の蛍光寿命は、成分1の蛍光寿命と同じ20ps未満、具体的には、10.7ps〜17.2psであると認められる。
【0047】
つまり、図3(a)と(b)との比較により示されるように、実施例1〜6のシンチレータ材料が発する蛍光は、比較例1〜6のシンチレータ材料が発する蛍光と比べて、発光強度が減衰するスピードが速く、蛍光寿命が短いものであると認められる。
【0048】
また、成分1のみからなる蛍光では、成分1に、この成分1よりも蛍光寿命が長い成分2が組み合わさることがなく、蛍光寿命が成分1の蛍光寿命よりも長くなることがない。このため、成分1のみからなる蛍光を発する実施例1〜6のシンチレータ材料の蛍光寿命は、成分1と成分2とからなる蛍光を発する比較例1〜6のシンチレータ材料の蛍光寿命よりも極めて短いと認められる。
【0049】
上記した通り、実施例1〜6のシンチレータ材料が放射線の入射により発する蛍光の蛍光寿命は、20ps未満であり、実施例1〜6のシンチレータ材料は、蛍光寿命が30ps以上の複数成分からなる蛍光を発する比較例1〜6の従来のシンチレータ材料と比べて、蛍光寿命が短いものであると認められる。よって、この実施例1〜6に係るシンチレータ材料からなるシンチレータをシンチレーション検出器に備えさせることで、シンチレーション検出器の時間分解能を向上させることができる。
【0050】
ところで、以下に示す式3及び4より、シンチレータ材料を構成する酸化亜鉛単結晶の蛍光寿命は、価電子帯から伝導帯に励起した電子が発光を伴わずに価電子帯に戻るクエンチングの寿命と関係していると考えられる。
【0051】
価電子帯から伝導体に励起した電子が荷電子帯に戻る際に発せられる発光の寿命をτradとし、クエンチングの寿命をτdefとすると、酸化亜鉛単結晶の蛍光寿命τallは、以下の式3で示される。
【0052】
[式3]
1/τall=1/τrad+1/τdef
つまり、酸化亜鉛単結晶の蛍光寿命τallは、以下の式2で示される。
【0053】
[式4]
τall=τradτdef/(τrad+τdef)=τdef/(1+τdef/τrad
この式4によれば、クエンチングの寿命τdef が発光の寿命τradに比べて極めて短い場合、酸化亜鉛単結晶の蛍光寿命τallは、クエンチングの寿命τdefとほぼ等しくなると結論づけられる。すなわち、酸化亜鉛単結晶の蛍光寿命τallは、クエンチングの寿命τdefによって決定すると言える。
【0054】
よって、シンチレータ材料のクエンチングの寿命が短いから、実施例1〜6に係るシンチレータ材料の蛍光寿命は、10.7ps〜17.2psと短いと考えられる。
【0055】
なお、上記した本実施の形態に係るシンチレータ材料の製造方法においては、単結晶原料5に、酸化亜鉛粉末と酸化インジウム粉末の混合物からなる焼結体、即ち、ZnとInを含有する原料を使用し、育成用溶液に、KOHの水溶液にLiが添加されたものを使用したが、最終的に得られる酸化亜鉛単結晶の結晶性を良くするために、単結晶原料又は育成溶液には、Al、Fe、Ga、Ce、及びPrのうちの少なくとも1つを含有させてもよい。即ち、本発明のシンチレータ材料は、酸化亜鉛単結晶中に、Al、Fe、Ga、Ce、Prのうちの少なくとも1つを含有するものであってもよい。
【0056】
本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施例はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【符号の説明】
【0057】
1 育成炉
2 炉本体
21 上端開口
22 蓋体
22a 圧力計
23 対流制御板
24 育成容器
3 電気炉
4 内部空間
41 原料室
42 育成室
5 単結晶原料
6 種結晶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線の入射により、蛍光を発するシンチレータ材料であって、
C面を主面とする板状の酸化亜鉛の種結晶の+C面上又は−C面上に結晶成長した酸化亜鉛単結晶からなり、
前記酸化亜鉛単結晶中にInとLiとを含有し、
前記蛍光の蛍光寿命が20ps未満である
ことを特徴とするシンチレータ材料。
【請求項2】
請求項1に記載のシンチレータ材料であって、
前記蛍光が、蛍光寿命が20ps未満の1つの成分のみからなることを特徴とするシンチレータ材料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のシンチレータ材料であって、
前記酸化亜鉛単結晶中のLi濃度が、In濃度の0.15倍以上〜11倍以下であることを特徴とするシンチレータ材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載のシンチレータ材料からなるシンチレータを備えたことを特徴とするシンチレーション検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−12527(P2012−12527A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151330(P2010−151330)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(000149734)株式会社大真空 (312)
【Fターム(参考)】